(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記仕事率算出部は、前記対象物が前記距離導出部によって導出された前記最大距離だけフリーフォールした場合に達する降下速度である予測最大速度を算出するとともに、その算出した前記予測最大速度に前記対象物が達した場合の当該対象物の仕事率である予測最大仕事率を算出し、
前記制御部は、前記予測最大仕事率が前記基準電力以下である場合には、前記伝達装置に前記ウインチドラムの回転力を100%の伝達率で前記電動機側へ伝達させる、請求項3に記載の電動ウインチ装置。
前記伝達装置は、前記ウインチドラムと一体的に回転する第1回転部と、前記電動機の駆動軸と共に回転する第2回転部と、前記第1回転部と前記第2回転部との間の結合状態を変更する変更装置とを有し、
前記制御部は、前記仕事率算出部によって算出される前記仕事率が前記基準電力を超えている場合には、前記変更装置に前記第1回転部と前記第2回転部との間の結合状態を前記第1回転部が前記第2回転部に対して空転して前記第2回転部の回転速度が前記第1回転部の回転速度よりも低くなる結合状態に変更させることにより前記伝達装置の前記伝達率を低減させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電動ウインチ装置。
前記伝達装置は、前記ウインチドラムと一体的に回転する第1回転部と、前記電動機の駆動軸と共に回転する第2回転部と、前記第1回転部と前記第2回転部との間の結合と分離とを切り換える切換装置とを有し、
前記制御部は、前記仕事率算出部によって算出される前記仕事率が前記基準電力を超えている場合には、前記切換装置に前記第1回転部と前記第2回転部とを互いに分離させることにより前記伝達装置の前記伝達率を0%に低減させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電動ウインチ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、移動式クレーンでは、対象物を自由落下に近い状態で降下させる対象物のフリーフォールを実施可能な電動ウインチ装置が用いられる場合がある。このような電動ウインチ装置が上記のような回生機能を備えていると、対象物のフリーフォール時に電動機で回生電力が生成される。
【0006】
対象物のフリーフォール時の降下速度は、対象物の巻上時の速度に比べて大きくなるため、対象物のフリーフォール時に電動機で回生される回生電力は、対象物の巻上時に電動機に供給される力行電力よりも大きくなる。対象物の高さ位置が高いほど、その高さ位置からのフリーフォール時に電動機で回生される回生電力と、その高さ位置へ対象物を巻き上げるのに電動機が必要とする力行電力との差は、より大きくなる。
【0007】
以上のように対象物のフリーフォール時の回生電力が対象物の巻上時の力行電力よりも大きくなることから、電動機の定格電力や最大電力等の許容電力は対象物のフリーフォール時の回生電力の最大値に基づいて設定せざるを得ない。しかも、上記のように対象物のフリーフォール時の回生電力と対象物の巻上時の力行電力との差が拡大する場合、すなわち対象物のフリーフォール時の回生電力の最大値が増大する場合には、それに対応できるように電動機の許容電力として非常に大きな値が要求される。
【0008】
従って、フリーフォール機能を備えていない従来の電動ウインチ装置で用いられていた電動機では対応できず、フリーフォール時の回生電力に対応可能な大きな許容電力を有する電動機が必要になる。このような許容電力の大きい電動機は、大型で且つ高価である。また、許容電力の大きい電動機を制御するためには、インバータ等の制御用部品も大型で高価なものが必要となる。従って、電動ウインチ装置が大型化するとともにその製造コストが増大する。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、回生機能を備えるとともに対象物のフリーフォールを実施可能なクレーンの電動ウインチ装置について大型化及び製造コストの増大を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明による電動ウインチ装置は、クレーンに設けられて対象物の巻上及び巻下を行う電動ウインチ装置であって、前記対象物の巻上又は巻下のために回転するウインチドラムと、前記対象物の巻上時に前記ウインチドラムを巻上方向に回転させる一方、前記対象物のフリーフォール時の前記ウインチドラムの巻下方向への回転力が伝達されることにより回生電力を生成する電動機と、前記電動機と前記ウインチドラムとの間で回転力を伝達可能となるように設けられ、前記フリーフォール時における前記ウインチドラムの巻下方向への回転力の前記電動機側への伝達率を変更可能に構成された伝達装置と、前記対象物のフリーフォールによる仕事率を算出する仕事率算出部と、前記伝達装置の前記伝達率の変更のための動作を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記仕事率算出部によって算出される前記仕事率が前記電動機の許容電力に応じて設定された基準電力を超えている場合には、前記伝達装置に前記電動機側への前記ウインチドラムの回転力の伝達率を前記電動機が生成する回生電力が前記基準電力以下になるような伝達率に変更させる。
【0011】
この電動ウインチ装置では、対象物のフリーフォールによる仕事率が電動機の許容電力に応じて決まる基準電力を超えている場合には、伝達装置による電動機側へのウインチドラムの回転力の伝達率が、電動機が生成する回生電力が基準電力以下になるような伝達率に変更される。このため、許容電力の大きい大型の電動機を用いなくても、対象物のフリーフォール時に電動機で生成される回生電力が基準電力を超えることはない。このため、電動ウインチ装置の大型化及び製造コストの増大を防止できる。また、許容電力の大きい電動機を制御するための大型で高価な制御用部品も不要となるので、この点でも、電動ウインチ装置の大型化及び製造コストの増大を防止できる。
【0012】
上記電動ウインチ装置において、前記対象物のフリーフォールを停止させるために操作されるブレーキ操作部と、前記対象物の降下速度を遂次導出する速度導出部とをさらに備え、前記仕事率算出部は、前記対象物のフリーフォールを停止させるための前記ブレーキ操作部の操作が行われたタイミングで前記速度導出部によって導出された降下速度に基づいて、当該タイミングでの前記対象物の仕事率を前記対象物のフリーフォールによる仕事率として算出してもよい。
【0013】
この構成によれば、対象物のフリーフォールの停止操作時における対象物の正確な降下速度に応じた仕事率をウインチドラムの回転力の電動機側への伝達率の制御に反映できる。このため、フリーフォール中の対象物の実際の降下速度に応じた電動機側へのウインチドラムの回転力の伝達率の正確な制御を実施できる。
【0014】
上記電動ウインチ装置において、前記対象物のフリーフォールを停止させるために操作されるブレーキ操作部と、前記対象物のフリーフォールの開始時点で当該対象物のフリーフォールの最大距離を導出する距離導出部とをさらに備え、前記仕事率算出部は、前記距離導出部によって導出された前記最大距離に基づいて前記対象物のフリーフォール中の上限の仕事率を前記対象物のフリーフォールによる仕事率として算出し、前記制御部は、前記対象物のフリーフォールを停止させるための前記ブレーキ操作部の操作が行われた後、前記仕事率算出部によって算出された前記上限の仕事率が前記基準電力を超えている場合に、前記伝達装置に前記電動機側への前記ウインチドラムの回転力の伝達率を前記電動機が生成する回生電力が前記基準電力以下になるような伝達率に変更させてもよい。
【0015】
この構成によれば、例えば対象物の降下速度を示す速度指標値を計測してその計測した速度指標値に基づいて仕事率を算出する場合に比べて、ブレーキ操作部が操作されてから伝達装置による回転力の伝達率を変更する制御が実行されるまでの応答性を向上できる。具体的に、対象物の速度指標値を実際に計測する場合には、その計測に遅れが生じる場合があり、その結果、仕事率の算出が遅れて仕事率が基準電力を超えているか否かの判断が遅れる。このため、伝達装置に電動機側へのウインチドラムの回転力の伝達率を電動機による回生電力が基準電力以下になるような伝達率に変更させる制御が実行されるのが遅れる。これに対し、本構成では、対象物のフリーフォールの開始時点で導出されたフリーフォールの最大距離に基づいて算出される対象物のフリーフォール中の上限の仕事率が、ブレーキ操作部の操作が行われた後の伝達装置による電動機側への回転力の伝達率の変更制御を行うことを決定する基準として用いられるため、ブレーキ操作部が操作されてから伝達装置による回転力の伝達率を変更する制御が実行されるまでの遅れが大きくなるのを防止できる。このため、ブレーキ操作部が操作されてから伝達装置による回転力の伝達率を変更する制御が実行されるまでの応答性を向上できる。
【0016】
この場合において、前記仕事率算出部は、前記対象物が前記距離導出部によって導出された前記最大距離だけフリーフォールした場合に達する降下速度である予測最大速度を算出するとともに、その算出した前記予測最大速度に前記対象物が達した場合の当該対象物の仕事率である予測最大仕事率を算出し、前記制御部は、前記予測最大仕事率が前記基準電力以下である場合には、前記伝達装置に前記ウインチドラムの回転力を100%の伝達率で前記電動機側へ伝達させることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、対象物のフリーフォールの開始時点で予測最大仕事率に基づいて電動機が生成する回生電力が基準電力を超えないことを判断でき、伝達装置に100%の伝達率でウインチドラムの回転力を電動機側へ伝達させることができる。このため、対象物のフリーフォール中における制御部での複雑な判断処理が不要となり、制御部での処理を簡素化できる。
【0018】
上記電動ウインチ装置において、前記伝達装置は、前記ウインチドラムと一体的に回転する第1回転部と、前記電動機の駆動軸と共に回転する第2回転部と、前記第1回転部と前記第2回転部との間の結合状態を変更する変更装置とを有し、前記制御部は、前記仕事率算出部によって算出される前記仕事率が前記基準電力を超えている場合には、前記変更装置に前記第1回転部と前記第2回転部との間の結合状態を前記第1回転部が前記第2回転部に対して空転して前記第2回転部の回転速度が前記第1回転部の回転速度よりも低くなる結合状態に変更させることにより前記伝達装置の前記伝達率を低減させてもよい。
【0019】
この構成によれば、対象物のフリーフォールによる仕事率が電動機の基準電力を超えている場合に電動機側へのウインチドラムの回転力の伝達率を低減して電動機の過負荷を防止するための伝達装置及び制御部の具体的な構成を提供できる。
【0020】
上記電動ウインチ装置において、前記伝達装置は、前記ウインチドラムと一体的に回転する第1回転部と、前記電動機の駆動軸と共に回転する第2回転部と、前記第1回転部と前記第2回転部との間の結合と分離とを切り換える切換装置とを有し、前記制御部は、前記仕事率算出部によって算出される前記仕事率が前記基準電力を超えている場合には、前記切換装置に前記第1回転部と前記第2回転部とを互いに分離させることにより前記伝達装置の前記伝達率を0%に低減させてもよい。
【0021】
この構成によれば、対象物のフリーフォールによる仕事率が電動機の基準電力を超えている場合に電動機側へのウインチドラムの回転力の伝達率を低減して電動機の過負荷を防止するための伝達装置及び制御部の具体的な構成を提供できる。また、この構成では、伝達装置の切換装置に第1回転部と第2回転部とが互いに結合された状態からそれらを互いに分離させるだけで電動機側へのウインチドラムの回転力の伝達率を低減させるため、第1回転部と第2回転部との結合状態を徐々に微調節するような制御を行う場合に比べて簡便な制御で電動機の過負荷を防止できる。
【0022】
上記伝達装置が第1回転部と第2回転部と変更装置又は切換装置とを有する構成において、前記伝達装置は、湿式クラッチであってもよい。
【0023】
湿式クラッチは、乾式クラッチに比べて耐久性が高いため、この構成によれば、耐久性の高い伝達装置を得ることができる。その結果、電動ウインチ装置の耐久性を向上できる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、回生機能を備えるとともに対象物のフリーフォールを実施可能なクレーンの電動ウインチ装置の大型化及び製造コストの増大を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0027】
(第1実施形態)
まず、
図1及び
図2を参照して、本発明の第1実施形態による電動ウインチ装置の構成について説明する。
【0028】
この第1実施形態による電動ウインチ装置は、クレーンに設けられ、吊荷100(
図1参照)の巻上/巻下を行う吊荷用ウインチ装置として用いられるものである。電動ウインチ装置が設けられるクレーンは、図略のクレーン本体に起伏可能となるように設けられたブーム2(
図1参照)を備えている。ブーム2の先端からは、ワイヤロープである吊ロープ4を介してフック装置6が吊り下げられ、そのフック装置6によって吊荷100が吊られるようになっている。以下、フック装置6及びそれに吊られた吊荷100を一体として巻上/巻下の対象物102という。電動ウインチ装置は、図略のクレーン本体に搭載され、吊ロープ4を介して対象物102の巻上/巻下を行う。
【0029】
以下、第1実施形態による電動ウインチ装置の具体的な構成について説明する。
【0030】
第1実施形態の電動ウインチ装置は、対象物102のフリーフォールを実施可能に構成されているとともに、対象物102の降下による運動エネルギを電力に変換して回収する回生機能を備える。なお、対象物102のフリーフォールとは、対象物102を自由落下に近い状態で降下させることをいう。電動ウインチ装置は、
図1に示すように、ドラム12と、電動機14と、減速機16と、クラッチ17と、電源18と、インバータ20と、回生抵抗22と、操作レバー装置26と、ブレーキペダル装置28と、コントローラ30と、荷重計32と、ドラム回転計36と、ブーム角度計38とを備える。
【0031】
ドラム12(
図1参照)は、電動機14により駆動されてフック装置6の巻上/巻下のために回転するウインチドラムである。すなわち、ドラム12は、電動機14により駆動されて対象物102の巻上/巻下を行う。ドラム12は、一方の回転方向である巻上方向に回転することにより吊ロープ4を巻き取り、それによって対象物102を巻き上げる。また、ドラム12は、巻上方向と逆の回転方向である巻下方向に回転することにより吊ロープ4を繰り出し、それによって対象物102を巻き下げる。対象物102のフリーフォール時には、ドラム12は巻下方向に回転し、対象物102を降下させる。ドラム12には、第1回転軸12aが当該ドラム12と同軸となるように固定されている。第1回転軸12aは、ドラム12と一体的に回転する。また、第1回転軸12aのドラム12と反対側の端部は、クラッチ17に接続されている。
【0032】
電動機14(
図1参照)は、電力が供給されることによって作動し、対象物102の巻上時にはドラム12を巻上方向に回転させる。また、電動機14は、対象物102の巻下時にはドラム12を巻下方向に回転させる。また、電動機14は、対象物102のフリーフォール時には、ドラム12の巻下方向への回転力が伝達されることにより対象物102の巻上時とは逆回転で作動する。電動機14は、対象物102の巻下時及びフリーフォール時には、発電機として機能し、回生電力を生成する。電動機14の駆動軸14aは、減速機16に接続されている。
【0033】
減速機16(
図1参照)は、クラッチ17に接続された第2回転軸16aを備えている。減速機16は、電動機14の駆動軸14aの回転力を所定の減速比で減速して第2回転軸16aを介してクラッチ17及びドラム12側へ伝達する。
【0034】
クラッチ17(
図1参照)は、電動機14とドラム12との間、具体的には減速機16とドラム12との間で回転力を伝達可能となるように設けられている。クラッチ17は、対象物102のフリーフォール時のドラム12の巻下方向への回転力の電動機14側への伝達率を変更可能に構成されている。クラッチ17は、本発明の伝達装置の一例である。
【0035】
クラッチ17は、第1クラッチ板17aと、第2クラッチ板17bと、クラッチ駆動部17cとを有する。第1クラッチ板17aは、第1回転軸12aのドラム12と反対側の端部に固定されており、第1回転軸12a及びドラム12と一体的に回転する。第2クラッチ板17bは、第2回転軸16aの減速機16と反対側の端部に固定されており、第2回転軸16aと一体的に回転する。第2クラッチ板17bは、第2回転軸16aと一体的に回転することにより、減速機16を介して電動機14の駆動軸14aと共に回転する。第1クラッチ板17aは、本発明の第1回転部の一例であり、第2クラッチ板17bは、本発明の第2回転部の一例である。
【0036】
クラッチ駆動部17c(
図1参照)は、第1クラッチ板17aと第2クラッチ板17bとの間の結合状態を変更するためのものである。クラッチ駆動部17cは、本発明の変更装置の一例である。クラッチ駆動部17cが第1クラッチ板17aと第2クラッチ板17bとの間の結合状態を変更することにより、クラッチ17による電動機14側へのドラム12の回転力の伝達率を変更するようになっている。
【0037】
具体的に、クラッチ駆動部17cは、第1クラッチ板17aと第2クラッチ板17bを回転軸12a,16aの軸方向において互いに接離する方向に駆動可能に構成されている。クラッチ駆動部17cは、コントローラ30と電気的に接続されており、コントローラ30の制御部46からの制御信号に応じて第1クラッチ板17aと第2クラッチ板17bとを互いに接離する方向に駆動する。それによって、クラッチ板17a,17b同士の結合状態を変更する。
【0038】
対象物102の通常の巻上時及び巻下時には、クラッチ17は第1クラッチ板17aと第2クラッチ板17bが同じ回転速度で一体的に回転する直結状態にされる。一方、対象物102のフリーフォール時には、コントローラ30の制御部46からの制御信号に応じて第1クラッチ板17aと第2クラッチ板17bとの結合状態が調節される。
【0039】
電源18(
図1参照)は、インバータ20を介して電動機14に電気接続されており、インバータ20を介して電動機14へ電力を供給する。電源18としては、クレーンに搭載されたバッテリや、外部電源等が用いられる。
【0040】
インバータ20(
図1参照)は、コントローラ30からの指令に応じて電動機14の作動を制御する。具体的に、インバータ20は、コントローラ30からの指令に応じて電動機14に供給する電流の大きさを変更することにより、電動機14の回転速度及び回転量を制御し、それによって対象物102の巻上速度及び巻上量を制御する。
【0041】
回生抵抗22(
図1参照)は、インバータ20に電気接続されている。回生抵抗22は、対象物102の通常の巻下時及びフリーフォール時に電動機14により生成される回生電力のうち電源18で吸収しきれない電力を消費する。
【0042】
操作レバー装置26(
図1参照)は、電動ウインチ装置による対象物102の巻上/巻下の動作を操作者が指示するために用いるものである。操作レバー装置26は、ドラム12の巻上方向への回転、巻下方向への回転又は回転の停止を指示するために操作者により操作されるレバー26aを備える。レバー26aは、ドラム12の回転の停止を指示する中立位置から対象物102の巻上方向へのドラム12の回転を指示するための一方側である巻上側と、中立位置から対象物102の巻下方向へのドラム12の回転を指示するための他方側(巻上側と反対側)である巻下側とに操作可能となっている。操作レバー装置26は、レバー26aの操作方向と中立位置からの操作量とを示す情報をコントローラ30へ出力する。
【0043】
ブレーキペダル装置28(
図1参照)は、対象物102のフリーフォール時にその対象物102の降下を停止させるための指令をコントローラ30へ出力する装置である。ブレーキペダル装置28は、対象物102のフリーフォールを停止させるために操作者によって操作されるブレーキペダル28aを備える。ブレーキペダル28aは、本発明によるブレーキ操作部の一例である。以下、ブレーキペダル28aを単にペダル28aという。
【0044】
ブレーキペダル装置28は、ペダル28aの操作状態を示す信号をコントローラ30へ出力する。具体的に、ペダル28aは、操作者によって操作されていない状態、すなわち踏み込まれていない状態では最も浮き上がった基準位置に配置されている。この状態では、ブレーキペダル装置28は、ペダル28aの操作量が0であることを示す信号をコントローラ30へ出力する。そして、ペダル28aが操作者によって基準位置から操作される(踏み込まれる)と、ブレーキペダル装置28は、そのペダル28aの基準位置からの操作量(踏込量)を示す信号をコントローラ30へ出力する。ペダル28aが基準位置に配置された状態が対象物102のフリーフォールの停止を指示する状態であり、ペダル28aが踏み込まれた状態が対象物102のフリーフォールの実施を指示する状態である。
【0045】
電動ウインチ装置では、レバー26aの操作に応じて対象物102の巻上/巻下が行われる通常操作モードと、対象物102のフリーフォールを実施するためのフリーフォールモードとを選択可能になっている。ブレーキペダル装置28は、フリーフォールモードが選択されているときに用いられる。通常操作モードが選択されているときには、ペダル28aが操作されてもその操作は無効になる。
【0046】
コントローラ30(
図1参照)は、ドラム12がレバー26aの操作に応じた回転を行うように電動機14の動作を制御するとともに、ペダル28aの操作に応じたクラッチ17の動作制御を行う。具体的には、コントローラ30は、操作レバー装置26からレバー26aの操作方向及び操作量を示す情報が入力されることに応じて、インバータ20を制御することにより、電動機14が操作レバー装置26から入力された情報に応じた回転をドラム12に行わせるような電流をインバータ20から電動機14に供給させる。また、コントローラ30は、ブレーキペダル装置28から入力される信号に応じてクラッチ17における第1クラッチ板17aと第2クラッチ板17bとの間の結合状態を制御する。コントローラ30の詳細な内部構成については、後述する。
【0047】
荷重計32(
図1参照)は、吊ロープ4を介してドラム12に掛かる荷重を検出する。具体的には、荷重計32は、吊ロープ4の張力を検出する。荷重計32は、吊ロープ4の張力を逐次検出しており、その検出した張力のデータをコントローラ30へ逐次出力する。
【0048】
ドラム回転計36(
図1参照)は、ドラム12の単位時間当たりの回転数を検出するものである。ドラム回転計36は、ドラム12の回転数を逐次検出しており、その検出した回転数のデータをコントローラ30へ逐次出力する。
【0049】
図2には、コントローラ30の内部構成が示されている。次に、
図2を参照して、コントローラ30の内部構成について説明する。
【0050】
コントローラ30は、機能ブロックとしての仕事率算出部42、速度演算部44及び制御部46を有する。
【0051】
仕事率算出部42は、対象物102(
図1参照)のフリーフォールによる仕事率を算出する。この第1実施形態では、仕事率算出部42は、対象物102のフリーフォールを停止させるためのペダル28a(
図1参照)のブレーキオン操作が行われたタイミングで速度演算部44によって算出された降下速度に基づいてそのタイミングでの対象物102の仕事率を対象物102のフリーフォールによる仕事率として算出する。
【0052】
速度演算部44(
図2参照)は、ドラム回転計36によって検出されるドラム12(
図1参照)の単位時間当たりの回転数(回転速度)に基づいて対象物102の降下速度を遂次算出する。この速度演算部44とドラム回転計36によって、対象物102の降下速度を遂次導出する速度導出部48(
図2参照)が構成されている。
【0053】
制御部46(
図2参照)は、対象物102のフリーフォールを開始させるためのペダル28a(
図1参照)のブレーキオフ操作が行われたことによりブレーキペダル装置28からコントローラ30に入力される信号に応じて、クラッチ駆動部17cに第1クラッチ板17aと第2クラッチ板17bとを分離させる制御を行う。
【0054】
また、制御部46(
図2参照)は、対象物102のフリーフォールの停止時にはクラッチ17(
図1参照)の回転力の伝達率の変更のための動作を制御する。具体的には、制御部46(
図2参照)は、ペダル28aのブレーキオン操作が行われたタイミングで仕事率算出部42によって算出された仕事率が電動機14の許容電力に応じて設定された基準電力を超えている場合には、クラッチ17に電動機14側へのドラム12の回転力の伝達率を電動機14が生成する回生電力が基準電力以下になるような伝達率に低減させる。より具体的には、制御部46は、仕事率算出部42によって算出された仕事率が基準電力を超えている場合には、クラッチ駆動部17cに第1クラッチ板17aと第2クラッチ板17bとの結合状態を第1クラッチ板17aが第2クラッチ板17bに対して摺動しながら空転して第2クラッチ板17bの回転速度が第1クラッチ板17aの回転速度よりも低くなるような結合状態に調節させる。その結果、クラッチ17によるドラム12の巻下方向への回転力の電動機14側への伝達率が低減する。
【0055】
なお、電動機14の許容電力は、電動機14の定格電力又は最大電力である。また、電動機14の基準電力は、予め設定された設定値である。この基準電力は、電動機14の許容電力に等しい電力値に設定されるか、又は、電動機14の許容電力に1よりも小さい安全率を掛けて算出された電力値に設定される。
【0056】
また、制御部46は、ペダル28aのブレーキオン操作が行われたタイミングで仕事率算出部42によって算出された対象物102の仕事率が基準電力以下である場合には、クラッチ17にドラム12の回転力を100%の伝達率で電動機14側へ伝達させる。具体的には、制御部46は、仕事率算出部42によって算出された対象物102の仕事率が基準電力以下である場合には、クラッチ駆動部17cに第1クラッチ板17aと第2クラッチ板17bとが同じ速度で一体的に回転するように第1クラッチ板17aと第2クラッチ板17bとを密着させる。すなわち、クラッチ17が直結状態にされる。
【0057】
次に、
図3のフローチャートを参照して、第1実施形態による電動ウインチ装置の動作について説明する。具体的には、対象物102のフリーフォールを停止させるときの電動ウインチ装置の動作について説明する。
【0058】
まず、初期状態において、操作者によりブレーキペダル装置28のペダル28aが基準位置からほぼ最大に踏み込まれてクラッチ17の第1クラッチ板17aと第2クラッチ板17bが互いに分離し、その状態で対象物102がフリーフォールするとともにドラム12が巻下方向にフリーに回転している。この状態から、操作者により対象物102のフリーフォールを停止させるためのブレーキオン操作が行われる(ステップS1)。すなわち、操作者が踏み込んでいたペダル28aを基準位置へ戻す。
【0059】
このブレーキオン操作が行われたことに応じて、速度導出部48が対象物102の降下速度を導出する(ステップS2)。具体的には、ドラム回転計36により検出されたドラム12の単位時間当たりの回転数のデータ、換言すればドラム12からの吊ロープ4の繰り出し速度のデータに基づいて、速度演算部44が対象物102の降下速度を算出する。
【0060】
その後、仕事率算出部42は、次式(1)に基づいて、対象物102のフリーフォールによる仕事率P(t)を算出する(ステップS3)。
【0062】
この式(1)において、mは対象物102の質量であり、gは重力加速度である。また、v(t)は、対象物102のフリーフォール開始の時点から経過した時間tにおける対象物102の降下速度である。この降下速度v(t)として、上記ステップS2で導出された降下速度が用いられる。
【0063】
次に、制御部46は、仕事率算出部42により算出された仕事率P(t)が電動機14の許容電力に応じて予め設定された基準電力を超えているか否かを判断する(ステップS4)。
【0064】
制御部46は、仕事率P(t)が基準電力を超えていると判断した場合には、次に、電動機14側へのドラム12の回転力の伝達率を調節するためのクラッチ17の制御を行う(ステップS5)。具体的には、制御部46は、ドラム12の回転力が所定の小さい伝達率で電動機14側へ伝達されるようにクラッチ駆動部17cに第1クラッチ板17aと第2クラッチ板17bを相互にわずかに接触させる。これにより、ドラム12と一体的に回転する第1クラッチ板17aが第2クラッチ板17bに対して摺動しながら空転しつつ、第1クラッチ板17aの回転力が所定の小さい伝達率で第2クラッチ板17bに伝達される。
【0065】
第2クラッチ板17bに伝達された回転力は、第2回転軸16a、減速機16及び駆動軸14aを介して電動機14に伝達され、電動機14を発電機として作動させる。これにより、電動機14が前記仕事率P(t)に比べて非常に小さく且つ前記基準電力よりも小さい回生電力を生成する。この生成された回生電力は、電源18で吸収されたり、回生抵抗22で消費されたりし、その結果、電動機14で回生制動力が生じる。この回生制動力は、駆動軸14aから減速機16、第2回転軸16a、第2クラッチ板17b、第1クラッチ板17a及び第1回転軸12aを介してドラム12に作用する。このため、ドラム12の巻下方向への回転にわずかに制動が掛かり、ドラム12の回転速度がわずかに低下するとともに対象物102の降下速度がわずかに低下する。
【0066】
一方、制御部46は、上記ステップS4で仕事率P(t)が基準電力を超えていない、すなわち仕事率P(t)が基準電力以下であると判断した場合には、クラッチ17を直結状態にする(ステップS6)。すなわち、クラッチ17がドラム12の回転力を100%の伝達率で電動機14側へ伝達する状態にする。具体的には、制御部46は、クラッチ駆動部17cに第1クラッチ板17aと第2クラッチ板17bが同じ回転速度で一体的に回転するように両クラッチ板17a,17b同士を密着させる。この場合、電動機14側へ100%の伝達率で伝達された回転力により電動機14が発電機として作動して回生電力を生成する。しかし、上記ステップS3で算出された対象物102の仕事率P(t)が、理論上、生成可能な最大限の回生電力に相当するとともに、上記ステップS4で仕事率P(t)が基準電力を超えていないと判断されていることから、この場合に電動機14が生成する回生電力が基準電力を超えることはない。
【0067】
また、クラッチ17が直結状態になることにより、クラッチ17は、電動機14側からの回生制動力を100%の伝達率でドラム12側へ伝達する。その結果、ドラム12の巻下方向への回転速度及び対象物102の降下速度が急速に低下し、最終的に対象物102のフリーフォールが停止する。
【0068】
一方、上記ステップS5の後、ステップS2以降の処理が再度行われる。ステップS2〜S5のプロセスは、仕事率算出部42によって算出される対象物102の仕事率P(t)が基準電力以下になるまで繰り返し行われる。この繰り返し行われるプロセスの各ステップS5では、制御部46が、クラッチ17による回転力の伝達率が少しずつ大きくなるようにクラッチ駆動部17cに第1クラッチ板17aと第2クラッチ板17bとの密着度を徐々に強くさせる。これにより、電動機14が生成する回生電力が徐々に増加するが、ステップS5で制御部46がクラッチ駆動部17cにクラッチ板17a,17b同士を密着させる強さを少しずつ大きくさせることにより、電動機14が生成する回生電力のピークが基準電力を超えないようにする。
【0069】
また、クラッチ板17a,17b同士の密着度が徐々に強くなるにつれて、ドラム12に伝達される回生制動力が徐々に大きくなり、ドラム12の巻下方向への回転速度及び対象物102の降下速度が徐々に低下する。その結果、ステップS3で仕事率算出部42によって算出される仕事率P(t)が減少し、最終的にステップS4で仕事率P(t)が基準電力以下であると判断され、ステップS6でクラッチ17が直結状態にされる。従って、この場合も、電動機14が生成する回生電力が基準電力を超えることはなく、また、電動機14側からの回生制動力により、ドラム12の巻下方向への回転及び対象物102のフリーフォールが停止される。
【0070】
以上のようにして、対象物102のフリーフォールを停止させるときの電動ウインチ装置の動作が行われる。
【0071】
この第1実施形態では、対象物102のフリーフォールによる仕事率P(t)が電動機14の許容電力に応じて決まる基準電力を超えている場合には、クラッチ17が、ドラム12の回転力を電動機14が生成する回生電力が基準電力以下になるような伝達率で電動機14側へ伝達する。このため、電動機14として許容電力の大きい大型の電動機を用いなくても、対象物102のフリーフォール時に電動機14で生成される回生電力が電動機14の基準電力以下に低減される。このため、電動機14の大型化に伴う電動ウインチ装置の大型化及び製造コストの増大を防止できる。また、許容電力の大きい電動機を制御するための大型で高価な制御用部品も不要となるので、この点でも、電動ウインチ装置の大型化及び製造コストの増大を防止できる。
【0072】
また、この第1実施形態では、仕事率算出部42が対象物102のフリーフォールを停止させるためのペダル28aの操作が行われたタイミングで速度導出部48によって導出された降下速度での対象物102の仕事率P(t)を対象物102のフリーフォールによる仕事率として算出し、その算出された仕事率P(t)に基づいてクラッチ17の制御が行われる。このため、対象物102のフリーフォールの停止操作時における対象物102の正確な降下速度に応じた仕事率P(t)をクラッチ17によるドラム12の回転力の電動機14側への伝達率の制御に反映できる。その結果、フリーフォール中の対象物102の実際の降下速度に応じた電動機14側へのドラム12の回転力の伝達率の正確な制御を実施できる。
【0073】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態による電動ウインチ装置では、対象物102のフリーフォール開始時点における高さに基づいて、フリーフォール中の対象物102の上限の仕事率を演算によって求め、その求めた仕事率に基づいてクラッチ17による回転力の伝達率の変更制御を行うか否かを判断する。
【0074】
図4には、この第2実施形態による電動ウインチ装置の構成が部分的に示されており、
図5には、第2実施形態による電動ウインチ装置のコントローラ30に係る構成が示されている。以下、
図4及び
図5を参照して、第2実施形態による電動ウインチ装置の構成について説明する。
【0075】
第2実施形態による電動ウインチ装置は、
図4に示すように、ドラム12に制動力を付与するための補助ブレーキ52を備える。補助ブレーキ52としては、機械的な公知の各種ドラムブレーキが用いられる。補助ブレーキ52は、
図5に示すように、コントローラ30の制御部46と電気的に接続されており、制御部46からの制御信号に応じてドラム12に制動力を付与するオン状態とドラム12に対して制動力を付与しないオフ状態とに切り換わる。
【0076】
また、この第2実施形態では、コントローラ30は、距離算出部54(
図5参照)を有する。
【0077】
距離算出部54は、対象物102のフリーフォールの開始時点で対象物102のフリーフォールの最大距離を算出する。具体的には、距離算出部54は、対象物102のフリーフォールの開始時点での対象物102の高さ位置である初期高さ位置から対象物102が降下し得る最低の高さ位置である地面までの距離を、対象物102のフリーフォールの最大距離として算出する。より具体的には、距離算出部54は、ブーム角度計38によって検出されたブーム2の起伏角度のデータと、ドラム回転計36によって検出されたドラム12の回転量のデータと、その他の設定値とを用いて、初期高さ位置にある対象物102の下面の地面からの高さHをフリーフォールの最大距離として算出する。従って、この第2実施形態では、距離算出部54とブーム角度計38とドラム回転計36とによって、フリーフォールの開始時点で対象物102のフリーフォールの最大距離を導出する距離導出部55が構成されている。
【0078】
そして、この第2実施形態では、仕事率算出部42は、距離算出部54によって算出されたフリーフォールの最大距離に基づいて、対象物102のフリーフォール中の上限の仕事率P(h)を算出する。
【0079】
制御部46は、仕事率算出部42によって算出された上限の仕事率P(h)に基づいて、クラッチ17による電動機14側への回転力の伝達率を直結状態よりも低い伝達率に調節するクラッチ17の制御と補助ブレーキ52をオン状態に切り換える制御を行うか、又は、クラッチ17を直結状態にする制御を行うかを決定する。また、この第2実施形態では、制御部46は、対象物102の実際の降下速度に応じた仕事率P(t)に基づいてクラッチ17による回転力の伝達率を徐々に増加させる上記第1実施形態のクラッチ17の制御は行わない。この第2実施形態での制御部46によるクラッチ17の制御の詳細については後述する。
【0080】
この第2実施形態による電動ウインチ装置の上記以外の構成は、上記第1実施形態による電動ウインチ装置の構成と同様である。
【0081】
次に、
図6のフローチャートを参照して、第2実施形態による電動ウインチ装置の動作について説明する。
【0082】
まず、初期状態では、クラッチ17(
図4参照)が直結状態になっているとともに補助ブレーキ52がオン状態になっており、対象物102がブーム2の先端部から宙吊りの状態で停止している。その状態から、操作者により、対象物102のフリーフォールを開始させるためのブレーキオフ操作が行われる(ステップS11)。具体的には、操作者が基準位置にあるペダル28a(
図1参照)を踏み込む。これに応じて、制御部46(
図5参照)が、クラッチ駆動部17cにクラッチ板17a,17b(
図4参照)同士を分離させてクラッチ17を切断状態にするとともに、補助ブレーキ52をオフ状態にする。その結果、ドラム12が巻下方向に回転を開始するとともに対象物102のフリーフォールが開始される。
【0083】
ブレーキオフ操作が行われたことに応じて、コントローラ30の距離算出部54(
図5参照)は、対象物102のフリーフォールの最大距離を算出する(ステップS12)。具体的には、距離算出部54は、対象物102のフリーフォールの最大距離として、対象物102が宙吊りで停止していた初期状態におけるその対象物102の下面の地面からの高さH(
図4参照)を算出する。詳しくは、距離算出部54は、以下のようにして初期高さHを算出する。
【0084】
距離算出部54は、設定値であるブーム2の軸方向の長さ及びブーム2の基端部の地面からの高さと、ブーム角度計38(
図5参照)によって検出されたブーム2の起伏角度とに基づいてブーム2の先端部の地面からの高さを算出する。また、距離算出部54は、ドラム回転計36(
図5参照)によって検出されたドラム12の回転量のデータから吊ロープ4のドラム12からの繰り出し長さを算出し、その算出した繰り出し長さに基づいてブーム2の先端部から下方への対象物102の吊下距離を算出する。そして、距離算出部54は、ブーム2の先端部の高さから対象物102の吊下距離と設定値である対象物102の上下方向の寸法を減算することによって対象物102の初期高さHを算出する。
【0085】
次に、仕事率算出部42が、距離算出部54によって算出されたフリーフォールの最大距離としての対象物102の初期高さHに基づいて、対象物102のフリーフォール中の上限の仕事率P(h)を算出する(ステップS13)。
【0086】
具体的には、仕事率算出部42は、まず、フリーフォール中の対象物102の下面の地面からの高さをh(0≦h≦H)(
図4参照)として、対象物102がその高さhに達したときの上限の降下速度v(h)をエネルギ保存の法則から次式(2)のように求める。
【0088】
そして、仕事率算出部42は、算出した上限の降下速度v(h)に基づいて対象物102のフリーフォール中の上限の仕事率P(h)を算出する。具体的には、仕事率算出部42は、次式(3)により上限の仕事率P(h)を算出する。
【0090】
次に、操作者により対象物102のフリーフォールを停止させるためのペダル28aのブレーキオン操作が行われる(ステップS14)。すなわち、操作者が踏み込んでいたペダル28aを基準位置へ戻す。
【0091】
この後、制御部46が、上記ステップS13で仕事率算出部42により算出された上限の仕事率P(h)が電動機14の許容電力に応じて予め設定された基準電力を超えているか否かを判断する(ステップS15)。
【0092】
制御部46は、上限の仕事率P(h)が基準電力を超えていると判断した場合には、次に、電動機14側へのドラム12の回転力の伝達率を調節するためのクラッチ17の制御を行うとともに、補助ブレーキ52をオン状態に切り換える補助ブレーキ52の制御を行う(ステップS17)。
【0093】
具体的には、制御部46は、クラッチ17による電動機14側へのドラム12の回転力の伝達率が、その回転力が電動機14に伝達されることによって電動機14で生成される回生電力が基準電力以下になる伝達率となるようにクラッチ駆動部17cにクラッチ板17a,17b同士の結合状態を調節させる。すなわち、クラッチ板17a,17b同士の結合状態が、第2クラッチ板17bに対して第1クラッチ板17aが摺動しながら空転するとともに第1クラッチ板17aから第2クラッチ板17bへ回転力がある程度伝達される結合状態に調節される。電動機14側へのドラム12の回転力の伝達により電動機14は回生電力を生成する一方、電動機14側からドラム12側へ回生制動力が付与される。この場合、電動機14で生成される回生電力が基準電力を超えることはない。
【0094】
また、制御部46が補助ブレーキ52をオン状態に切り換えることにより、補助ブレーキ52からドラム12に制動力が付与される。この補助ブレーキ52からの制動力と回生制動力とによってドラム12の巻下方向への回転が制動され、その結果、ドラム12の回転速度が低下するとともに対象物102の降下速度が低下する。最終的にドラム12の巻下方向への回転及び対象物102のフリーフォールが停止される。
【0095】
一方、上記ステップS15において、制御部46が、上限の仕事率P(h)は基準電力を超えていない、すなわち上限の仕事率P(h)は基準電力以下であると判断した場合には、次に、クラッチ17を直結状態にする(ステップS16)。すなわち、クラッチ17がドラム12の回転力を100%の伝達率で電動機14側へ伝達する状態にする。このステップS16の処理は、上記第1実施形態におけるステップS6の処理と同様である。
【0096】
この場合、理論上、生成可能な最大の回生電力に相当する上限の仕事率P(h)が上記ステップS15で基準電力を超えていないと判断されていることから、電動機14が生成する回生電力が基準電力を超えることはない。また、この場合には、電動機14側からドラム12に付与される回生制動力のみによってドラム12の巻下方向への回転速度及び対象物102の降下速度が低下され、最終的にドラム12の巻下方向への回転及び対象物102のフリーフォールが停止される。
【0097】
この第2実施形態では、例えば対象物102の降下速度を示すドラム12の回転速度を計測してその計測したドラム12の回転速度に基づいて対象物102のフリーフォール中の仕事率を算出するような場合に比べて、ペダル28aのブレーキオン操作が行われてからクラッチ17による回転力の伝達率を変更する制御が実行されるまでの応答性を向上できる。
【0098】
具体的に、ドラム12の回転速度を実際に計測する場合には、その計測に遅延が生じる場合があり、その結果、仕事率の算出が遅れて当該仕事率が基準電力を超えているか否かの判断が遅れる。このため、クラッチ17に電動機14側へのドラム12の回転力の伝達率を電動機14による回生電力が基準電力以下になるような伝達率に変更させる制御が実行されるのが遅れる。これに対し、この第2実施形態では、対象物102のフリーフォールの開始時点で導出されたフリーフォールの最大距離に基づいて算出される対象物102のフリーフォール中の上限の仕事率P(h)が、フリーフォールを停止させるためのペダル28aのブレーキオン操作が行われた後のクラッチ17による電動機14側への回転力の伝達率の変更制御を行うか否かを判断する基準として用いられるため、上述のようなドラム12の回転速度の計測の遅延に起因する応答性の遅れの発生を防止できる。このため、ペダル28aのブレーキオン操作が行われてからクラッチ17による回転力の伝達率を変更する制御が実行されるまでの応答性を向上できる。
【0099】
この第2実施形態による上記以外の効果は、上記第1実施形態による効果と同様である。
【0100】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、また、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含む。
【0101】
例えば、上記第2実施形態におけるステップS17の処理の代わりに、上記第1実施形態のステップS2〜S5に相当する処理を行ってもよい。このような第2実施形態の第1変形例による制御プロセスが
図7に示されている。
【0102】
具体的に、
図7に示した当該第1変形例の制御プロセスにおけるステップS11〜S16は、
図6に示した上記第2実施形態の制御プロセスにおけるステップS11〜S16と同様である。そして、当該第1変形例では、制御部46が、ステップS15において仕事率P(h)は基準電力を超えていると判断した後、上記第1実施形態の制御プロセスにおけるステップS2〜S5に相当するステップS22〜S25の処理が行われる。
【0103】
また、上記第2実施形態の第2変形例として、対象物102のフリーフォールの開始後、フリーフォールを停止させるためのペダル28aのブレーキオン操作が行われる前に、仮に対象物102が最大距離だけフリーフォールした場合に得られる対象物102の予測最大仕事率P(0)を求め、その予測最大仕事率P(0)が基準電力以下である場合には、クラッチ17を直結状態にしてクラッチ17にドラム12の回転力を100%の伝達率で電動機14側へ伝達させてもよい。このような第2変形例による制御プロセスが
図8に示されている。
【0104】
この第2変形例による制御プロセスは、ステップS13とステップS14との間にステップS30の判断を行う点のみが上記第1変形例による制御プロセスと異なっている。
【0105】
具体的に、この第2変形例では、仕事率算出部42が、ステップS13でフリーフォール中の対象物102の上限の仕事率P(h)を算出した後、予測最大仕事率P(0)を算出するとともに、制御部46が、予測最大仕事率P(0)は基準電力を超えているか否かを判断する(ステップS30)。
【0106】
対象物102のフリーフォール時の降下速度は、理論上は、対象物102が最大距離だけフリーフォールしたとき、すなわち対象物102の下面の地面からの高さhが0になる瞬間に最大の降下速度になる。そして、その瞬間の仕事率が理論上は最大の仕事率となる。
【0107】
このため、仕事率算出部42は、対象物102が最大距離だけフリーフォールした場合に達する降下速度である予測最大速度v(0)を次式(4)で算出し、その算出した予測最大速度v(0)に対象物102が達した場合の仕事率を予測最大仕事率P(0)として次式(5)で算出する。
【0110】
なお、式(4)は、上記第2実施形態において対象物102のフリーフォール中の降下速度v(h)を求める式(2)にh=0を代入して得られる式である。
【0111】
そして、ステップS30において制御部46が予測最大仕事率P(0)は基準電力を超えていないと判断した場合には、ステップS16のクラッチ17を直結状態にする処理を行う。すなわち、予測最大仕事率P(0)が基準電力を超えていないということは、対象物102のフリーフォールによるドラム12の回転力が全て電動機14で回生電力に変換されたとしてもその回生電力が基準電力を超えることはないということである。このため、ペダル28aのブレーキオン操作にかかわらず、クラッチ17を直結状態にしてドラム12の回転力を100%の伝達率で電動機14側へ伝達させる。
【0112】
一方、ステップS30において制御部46が予測最大仕事率P(0)は基準電力を超えていると判断した場合には、その後、ペダル28aのブレーキオン操作が行われ(ステップS14)、それ以降の上記第1変形例と同様の処理が行われる。
【0113】
この第2変形例では、対象物102のフリーフォールの開始直後の時点で予測最大仕事率P(0)に基づいて電動機14が生成する回生電力が基準電力を超えないことを判断でき、クラッチ17に100%の伝達率でドラム12の回転力を電動機14側へ伝達させることができる。このため、対象物102のフリーフォール中における制御部46での複雑な判断処理が不要となり、制御部46での処理を簡素化できる。
【0114】
また、上記各実施形態及び上記変形例の制御プロセスにおいて、仕事率算出部42によって算出される仕事率P(t)又はP(h)が基準電力を超えている場合には、制御部46は、クラッチ駆動部17cに第1クラッチ板17aと第2クラッチ板17bとを互いに分離させ、それによって電動機14側への回転力の伝達率を0%に低減させてもよい。この場合には、クラッチ駆動部17cは、クラッチ板17a,17b同士を密着させて同じ回転速度で一体的に回転させる直結状態と、クラッチ板17a,17b同士を完全に分離させて相対的に回転自在とさせる切断状態とに切り換える機能しか有していなくてよい。この場合のクラッチ駆動部17cは、本発明の切換装置の一例である。
【0115】
具体的に、上記各制御プロセスのステップS5、S17、S25において、クラッチ駆動部17cがクラッチ板17a,17b同士の結合状態を微調節する代わりにクラッチ板17a,17b同士を完全に分離させて切断状態にする。これにより、ドラム12の回転力は電動機14側へ全く伝達されなくなる。このため、電動機14で回生電力は生成されないので、回生電力が基準電力を超えることもない。ただし、この場合には、回生制動力が得られないため、補助ブレーキ52(
図4参照)を設け、その補助ブレーキ52からドラム12に制動力を付与して対象物102のフリーフォールを停止させる。
【0116】
この変形例では、第1クラッチ板17aと第2クラッチ板17bとの結合状態を徐々に微調節するような制御を行う場合に比べて簡便なクラッチ駆動部17cの制御で電動機14の過負荷を防止できる。
【0117】
また、クラッチ17は、乾式クラッチに限定されず、湿式クラッチであってもよい。湿式クラッチは、クラッチ板及びクラッチ駆動部がカバーで覆われ、そのカバー内がオイルで満たされた構造を有する。また、湿式クラッチには、複数のクラッチ板を備えていて1枚のクラッチ板当たりに掛かる力を分散させるものが知られているが、このようなものをクラッチ17として適用してもよい。湿式クラッチは、耐久性、防塵性及び防水性などの面で乾式クラッチよりも優位であるため、移動式クレーンのように電動ウインチ装置のクラッチが頻繁に使用される用途においては、クラッチ17として湿式クラッチを用いることがメンテナンス性等の面から好適である。
【0118】
また、本発明におけるフリーフォールは、対象物に掛かる加速度が重力加速度gに一致する自由落下に必ずしも限定されるものではない。すなわち、本発明による対象物のフリーフォールは、対象物に重力加速度gと異なる値の下方への加速度が掛かる対象物の落下運動であってもよい。また、対象物に掛かる下方への加速度は、必ずしも一定でなくてもよく、落下の過程で経時変化してもよい。
【0119】
例えば、湿式クラッチを用いた場合には、クラッチが切断状態であっても、湿式クラッチのカバー内に満たされたオイルの粘性抵抗等により、対象物の落下は単純な自由落下とならない。本発明における対象物のフリーフォールは、このような形態での対象物の落下をも含む概念である。
【0120】
上記各制御プロセスにおいて、操作者がブレーキオン操作のときにペダル28aを基準位置まで戻さず、途中の位置まで戻してもよい。この場合には、ステップS6,S16において、制御部46がクラッチ17を直結状態にするのではなく、クラッチ17のクラッチ板17a,17b同士の結合状態をペダル28aの基準位置からの踏込量(操作量)に応じた結合状態にすればよい。ただし、この場合には、ドラム12に付与される回生制動力がクラッチ17が直結状態にされる場合よりも小さくなるので、操作者はそのことを考慮してペダル28aの踏込量(戻し量)を調節する。
【0121】
また、
図1に示した上記第1実施形態の電動ウインチ装置において、ドラム12に制動力を付与する上記第2実施形態の補助ブレーキ52を追加してもよい。
【0122】
例えば、巻上/巻下の対象物としては、上述のようなフック装置と吊荷を一体としたものに限定されない。例えば、クラムシェルのようなバケットが対象物であってもよい。そして、そのバケットをフリーフォールさせて掘削作業を行うようなクレーンの電動ウインチ装置に本発明が適用されてもよい。