特許第6204884号(P6204884)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204884
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】旋回式作業機の周囲表示装置
(51)【国際特許分類】
   H04N 7/18 20060101AFI20170914BHJP
   E02F 9/26 20060101ALI20170914BHJP
   B60R 1/00 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   H04N7/18 J
   E02F9/26 A
   B60R1/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-152068(P2014-152068)
(22)【出願日】2014年7月25日
(65)【公開番号】特開2016-30891(P2016-30891A)
(43)【公開日】2016年3月7日
【審査請求日】2016年4月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古渡 陽一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩二
(72)【発明者】
【氏名】稲野辺 慶仁
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕宣
(72)【発明者】
【氏名】草間 隆史
(72)【発明者】
【氏名】太田 守飛
(72)【発明者】
【氏名】石本 英史
【審査官】 秦野 孝一郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/038874(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/183536(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/172172(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/105597(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 7/18
E02F 9/26
B60R 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体に旋回装置を介して連結した上部旋回体からなる旋回式作業機に設けられ、この上部旋回体にそれぞれ異なる方向の斜め下方を撮影する複数の俯瞰画像形成用の第1カメラを設置し、これら第1カメラが撮影した画像データを、それぞれ上方から見下ろした俯瞰画像となるように視点変換して俯瞰画像となし、これら各俯瞰画像を合成した合成俯瞰画像としてディスプレイに表示する構成とした旋回式作業機の周囲監視装置において、
前記上部旋回体の下部位置であって、この上部旋回体の旋回に追従して回動するように、1または複数のスルー画像撮影用の第2カメラを設置し、
前記第2カメラは、前記上部旋回体の後端から側部へのコーナ部を視野範囲内に含むものであり、前記上部旋回体の下部位置の左右の両コーナ部に向けて、水平方向のレンズ光軸を有する2台のカメラで構成され、
前記ディスプレイには前記第2カメラで撮影した画像をスルー画像として表示可能な構成とした
ことを特徴とする旋回式作業機の周囲表示装置。
【請求項2】
前記ディスプレイには、前記合成俯瞰画像と、この合成俯瞰画像に重畳させて、前記両コーナ部に光軸を向けた右側及び左側の2つのコーナ部スルー画像と、前記合成俯瞰画像に重畳させて、いずれか一方のコーナ部スルー画像とを選択的に表示可能とする構成としたことを特徴とする請求項記載の旋回式作業機の周囲表示装置。
【請求項3】
前記上部旋回体の旋回操作時に、この旋回操作を行う左右いずれかの旋回操作手段が操作されたときに、旋回方向の前方側を視野とするコーナ部スルー画像が表示されるように連動して切り替わる構成としたことを特徴とする請求項記載の旋回式作業機の周囲表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等からなる旋回式作業機の周囲状況を画像表示する旋回式作業機の周囲表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
旋回式作業機の一例として油圧ショベルがある。一般に、油圧ショベルは、走行手段を有する下部走行体と、この下部走行体上に設置した上部旋回体とから構成され、下部走行体と上部旋回体との間は旋回装置により連結されており、上部旋回体はこの旋回装置により下部走行体に対して旋回する構成となっている。上部旋回体にはフロント作業手段が設けられる。フロント作業手段はブーム,アーム及びフロントアタッチメントとから構成される。
【0003】
作業機として、例えば土砂の掘削作業を行う油圧ショベルがある。油圧ショベルではフロントアタッチメントとしてバケットが装着され、バケットにより土砂等の掘削が実行される。この油圧ショベルの稼働中において、その周囲を監視するための周囲監視装置を備えたものは従来から広く知られている。周囲監視装置の具体的な構成としては、車体にカメラを装着し、また運転室にオペレータが着座する運転席の前方位置にディスプレイを設置する構成とするのが一般的である。カメラにより撮像した画像は動画状態の映像にしてディスプレイ画面に表示される。
【0004】
作業機の周囲における広い範囲の視野を得るために、車体に複数のカメラを装着する構成とし、ディスプレイ上には作業機のほぼ全周にわたって監視視野の死角をなくために、各カメラで撮像した周囲の監視画像を信号処理により視点変換し、ディスプレイ画面には平面的に投影した平面視画像である俯瞰画像として表示する構成としたものが特許文献1に開示されている。この特許文献1では、油圧ショベルの上部旋回体において、後部位置と左右の両側部位置との3箇所にカメラが設置されている。なお、油圧ショベルの前方はオペレータが直接視認できることから、特許文献1では前方を画像化していないが、この前部位置にもカメラを設置したものも知られている。
【0005】
前述した各カメラの撮像用レンズの光軸は斜め下方に向けられる。これら各カメラにより撮像された画像はスルー画像であり、これらのスルー画像から上方視点となるように視点変換処理されて、車両の上方から見下ろした画像が俯瞰画像である。
【0006】
俯瞰画像はディスプレイ画面に表示されるが、このときにディスプレイ画面には作業機をシンボル化したイラストレーション(油圧ショベルを示す平面画像)を車両アイコンとして表示し、各々のカメラで取得した俯瞰画像はこの車両アイコンの周囲に配置する構成としている。特許文献1では、車両アイコンをディスプレイ画面の中央位置に表示して、この車両アイコンの後方領域及び左右の側方領域に各上方視点画像を並べて、周囲監視用としての合成俯瞰画像が表示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−204821号公報
【0008】
前述したように、油圧ショベルは土砂等の掘削作業を行うものであるが、掘削物は例えばダンプトラックのベッセルに投入されることになる。このために、上部旋回体に設けたフロント作業手段は方向を変える必要があり、上部旋回体を旋回させることになる。つまり、掘削作業の実行時には、掘削位置でのフロント作業手段による掘削動作と、上部旋回体の旋回動作と、ダンプトラックへの掘削物の投入動作と、上部旋回体の旋回動作とが繰り返し行われることになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、フロント作業手段による掘削作業により地面には傾斜面乃至垂直面といった切羽が形成される。上部旋回体を旋回させたときに、この上部旋回体の後端部が切羽における切羽面に衝突すると、その衝撃により上部旋回体の安定性が失われることになり、また上部旋回体の構成各部や旋回装置にダメージが発生することになる。さらに、バケットに掘削物が収容されている場合には、衝撃により掘削物がバケットから外部に放出されてしまうこともある。従って、上部旋回体を旋回させる際には、この上部旋回体の後端部やその他の部位が切羽面等の障害物と干渉しないようにする必要がある。
【0010】
油圧ショベルを操作するオペレータは上部旋回体の後方における視野が十分に得られないことから、周囲監視装置が設けられており、オペレータはこの周囲監視装置を構成するディスプレイを視認することによって、後方確認を行うことができる。ただし、ディスプレイに表示されているのは俯瞰画像である。俯瞰画像は油圧ショベルの周囲に障害物等が存在するか否かの確認を行うのに都合が良いが、俯瞰画像は平面画像であることから、切羽は存在していることの確認は可能であるが、切羽面の傾斜角を認識するのは困難である。上部旋回体は地面から離間した高さ位置にあることから、切羽面の傾斜角度によっては、この切羽面と干渉することなく旋回できることもあり、旋回すると切羽面に衝突することもあるが、ディスプレイを見ただけでは、旋回時に上部旋回体が切羽面に衝突するか否かを正確に確認することができないといった問題点がある。また、油圧ショベルの後進時にも同様の問題点がある。
【0011】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、旋回式作業機における周囲監視装置を構成するディスプレイに、旋回操作時に上部旋回体が接触するおそれのある切羽等の障害物を、その高さ位置を含めて認識できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上の課題を解決するため、本発明は、下部走行体に旋回装置を介して連結した上部旋回体からなる旋回式作業機に設けられ、この上部旋回体にそれぞれ異なる方向の斜め下方を撮影する複数の俯瞰画像形成用の第1カメラを設置し、これら第1カメラが撮影した画像データを、それぞれ上方から見下ろした俯瞰画像となるように視点変換して俯瞰画像となし、これら各俯瞰画像を合成した合成俯瞰画像としてディスプレイに表示する構成とした旋回式作業機の周囲監視装置であって、前記上部旋回体の下部位置であって、この上部旋回体の旋回に追従して回動するように、1または複数のスルー画像撮影用の第2カメラを設置し、前記第2カメラは前記上部旋回体の後端から側部へのコーナ部を視野範囲内に含むものであり、前記ディスプレイには前記第2カメラで撮影した画像をスルー画像として表示可能な構成としたことをその特徴とするものである。
【0013】
作業機の周囲を監視するために、この作業機の全周または周囲の一部についての俯瞰画像となる画像データを取得して、俯瞰画像をディスプレイに表示する。このために設けられるのが第1カメラであり、第1カメラは複数設けられるものであり、全体として第1カメラ群として構成される。第1カメラ群を構成するカメラは少なくとも上部旋回体の後方を視野とするカメラを備えており、この後方カメラに加えて、左右いずれか一方または左右の両側方向を視野とするカメラも設けられる。さらに、上部旋回体の左右及び前後を視野とする4台乃至それ以上のカメラを設けることもできる。
【0014】
これら複数からなる第1カメラ群を構成するカメラのレンズ光軸は斜め下方向に向けるように設定される。これら第1カメラ群の各カメラにより撮影した画像データは画像処理により上方視点となるように視点変換して、俯瞰画像とする。各俯瞰画像はディスプレイの所定の領域に表示される。好ましくは、作業機の平面像若しくはそのイラストレーションからなる作業機アイコンをディスプレイの中央に配置し、この作業機アイコンの周囲に各々の位置に配置した第1カメラ群の各カメラで取得した俯瞰画像を並べて表示する。これを合成俯瞰画像という。
【0015】
合成俯瞰画像に基づいて、作業機の周囲に障害物等が存在しているか否か監視することができる。ここで、各俯瞰画像は上方から見下ろした画像であるために、障害物の有無と位置とを確認できるが、障害物の高さ寸法を正確には認識することはできない。
【0016】
そこで、俯瞰画像撮影用カメラに加えて、スルー画像撮影のための第2カメラを設ける。第2カメラにおけるカメラのレンズの光軸は概略水平方向に向けられており、カメラで撮影した画像は視点変換処理を行うことなく、そのままディスプレイに表示するものである。第2カメラは1または複数のカメラから構成され、複数のカメラから構成する場合には、第2カメラ群を構成する。
【0017】
第1カメラは上部旋回体の上部位置に設けられるが、第2カメラは上部旋回体の下部側の位置、具体的には上部旋回体の旋回フレームより下側の位置に配置される。例えば、旋回フレームの下面に装着するか、旋回装置を構成する旋回ドラムに取り付けられる。つまり、上部旋回体の旋回時には、第2カメラはこの上部旋回体に追従して回動するものである。ここで、第2カメラの配設位置は上部旋回体において、できるだけ奥まった位置に配置することによって、小石等の飛散物が衝突しないようになり、カメラの損傷のおそれがなくなり、その保護が図られる。
【0018】
第2カメラの視野は、上部旋回体の後端部から側部へ移行するコーナ部分を含むものとする。しかも、上部旋回体の下面、つまり旋回フレームが視野の一部となるように設定される。しかも、第2カメラのレンズ光軸はほぼ水平方向に向けるようされる。上部旋回体の後端側のコーナ部は左右両側に存在する。1台のカメラで左右の両コーナ部を視野に入れることもできるが、このためには広角レンズを用いる必要がある。従って、望ましくは、第2カメラは2台設けて、それぞれ各コーナ部に向くようにそれぞれ配置する。これにより、視野範囲の狭いレンズを用いることができ、歪みの少ない良質な画像を取得することができる。
【0019】
第2カメラは、作業機が旋回する際に、その上部旋回体、特に上部旋回体の後端コーナ部が切羽等における土壁面や突起部等、さらに車両や人を含む障害物と衝突する可能性があるか否かをオペレータに認識させるためのものである。従って、少なくとも旋回時にはこの第2カメラの画像が表示される。合成俯瞰画像が表示されているディスプレイとは異なるディスプレイに表示することも可能であるが、合成俯瞰画像が表示されているディスプレイに合成俯瞰画像の一部に重畳するように表示するのがオペレータによる視認性等の観点で望ましい。
【0020】
第2カメラの画像は上部旋回体の下部位置から、そのコーナ部の延長線方向に視野を向けたスルー画像である。スルー画像はカメラのレンズ光軸が概略水平方向に向いた画像であり、その視野範囲内の画像を視点変換することなくそのまま表示するものである。この画像には上部旋回体の後端側のコーナ部、つまりカウンタウエイトが部分的に含まれる。従って、第2カメラはコーナ部スルー画像の画像データを作成するものである。
【0021】
ディスプレイにおいては、コーナ部スルー画像は合成俯瞰画像における後方の俯瞰画像が表示されている部位に、この俯瞰画像に重畳するようにして表示することができる。ただし、画像表示領域はこれに限定されるものではなく、例えば前方の俯瞰画像が表示される領域等に表示しても良い。
【0022】
ここで、ディスプレイに表示されるコーナ部スルー画像は、上部旋回体を旋回させる際に、その進行方向における前方であり、しかも画像の一部にカウンタエイトの下面が含まれていることから、旋回方向の前方に障害物が位置していると、この障害物がカウンタウエイトと干渉する可能性がある高さであるか否かを認識できるようになる。従って、コーナ部スルー画像を表示する必要があるのは、上部旋回体を旋回させる際であり、旋回操作はオペレータが操作レバー等からなる旋回操作手段を用いて行うものであるから、操作レバーの操作に連動させて、ディスプレイの表示の切り替えを行う構成とすることができる。また、スイッチ操作によっても画像の切り換えを行うようにしても良い。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、旋回式作業機の周囲の状況を俯瞰画像としてディスプレイに表示したものであって、旋回時に上部旋回体の後端部が障害物に衝突若しくは接触する可能性の有無を正確に確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】油圧ショベルの一例を示す側面図である。
図2】第1カメラ群を構成する各カメラの上部旋回体への取付部を示す図である。
図3】油圧ショベルの周囲表示装置の構成を示すブロック図である。
図4】第1カメラ群が撮影した画像に基づいてディスプレイに表示される合成俯瞰画像を示す説明図である。
図5】第2カメラの取り付け位置を示す油圧ショベルの後部側を示す図である。
図6】油圧ショベルが稼動する現場であって、切羽が存在している状態を示す説明図である。
図7】第1カメラ群による合成俯瞰画像と、この合成俯瞰画像に重畳表示されるコーナ部スルー画像とを表示したディスプレイを示す説明図である。
図8】ディスプレイの表示態様の切り替え手順を示すフローチャート図である。
図9】第2カメラの図5とは異なる取付構造を示す図である。
図10図9とはさらに異なる第2カメラの取付構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。以下においては、旋回式作業機として油圧ショベルを例示して説明するが、旋回式作業機は油圧ショベルには限定されない。例えば、クレーン等の作業機も旋回式作業機であってもよい。要は、旋回を行って所定の作業を行う機械であれば、任意の機械を旋回式作業機として適用することができる。
【0026】
図1は、旋回式作業機としての油圧ショベル1を示している。油圧ショベル1は、下部走行体2と上部旋回体3と旋回装置4とを備えている。下部走行体2は油圧ショベル1の走行手段であり、ここではクローラ式の下部走行体2を例示している。下部走行体2と上部旋回体3とは旋回装置4により連結されており、旋回装置4が旋回することにより、上部旋回体3は下部走行体2に対して旋回することになる。これにより、油圧ショベル1は旋回式作業機を構成している。
【0027】
上部旋回体3は、旋回フレーム3a上に運転室5,フロント作業手段6及び建屋7等が装着されており、また後端部にはカウンタウエイト8が設けられている。運転室5には油圧ショベル1を操作する各種の操作手段が設けられており、オペレータは運転室5に搭乗して油圧ショベル1の操作を行う。旋回装置4を操作する操作レバーからなる操作手段も運転室5に設けられている。また、建屋7はエンジン等の機械を収容するものであり、運転室5の後方位置に配置されており、カウンタウエイト8はさらに建屋7の後方に設けられており、従ってカウンタウエイト8は上部旋回体3の後端部を構成している。
【0028】
フロント作業手段6は、上部旋回体3の前部に運転室5とほぼ並ぶようにして設けられており、ブーム10とアーム11とバケット12とを備えている。ブーム10は基端部が上部旋回体3を構成する旋回フレーム3aに連結ピンにより軸支されて俯抑動作可能となっている。ブーム10の先端にはアーム11が上下方向に回動可能に連結されており、アーム11の先端にはバケット12が上下方向に回動可能に連結されている。ブーム10の俯抑動作はブームシリンダ10aを駆動することにより行われる。アーム11はアームシリンダ11aにより、バケット12はバケットシリンダ12aにより駆動される。バケット12は交換可能なフロントアタッチメントであり、基本的には土砂を掘削するためのものである。
【0029】
油圧ショベル1の上部旋回体3には、図2に示したように、それぞれ異なる方向を撮影する複数のカメラ13が設置されている。ここでは、油圧ショベル1の後方を撮影する後方カメラ13B、左方を撮影する左方カメラ13L、右方を撮影する右方カメラ13R、前方を撮影する前方カメラ13Fが設置されている。これら各カメラ13は上部旋回体3の上方位置に設けられており、それらのレンズの光軸は地面に対して斜め下方を向けている。
【0030】
後方カメラ13Bは、例えばカウンタウエイト8の上部に設けられており、左方カメラ13Lは運転室5の上部に設けられ、右方カメラ13R及び左方カメラ13Lはそれぞれ上部旋回体3の側部に向けて張り出すように配設されている、さらに、前方カメラ13Fは運転室5の上部に設けられている。ただし、各カメラ13の設置位置はこれらに限定されるものではなく、上部旋回体3の構成に応じて任意の位置に配設することができる。ここで、各カメラ13のレンズ光軸は斜め下方に向けられており、その視野範囲の両側部が他のカメラ13の視野範囲とオーバーラップするように視野角や配設位置等が調整されている。例えば、後方カメラ13Bの視野範囲と左方カメラ13Lの視野範囲とは相互に部分的にオーバーラップしており、後方カメラ13Bの視野範囲と右方カメラ13Rの視野範囲とも部分的にオーバーラップしている。これにより、各カメラ13の視野範囲の間に死角を生じないようになる。
【0031】
運転室5には、図3に示したように、画像処理装置14及びこの画像処理装置14で信号処理が行われた画像を表示するディスプレイ15が設けられている、ここで、ディスプレイ15は油圧ショベル1の周囲を監視するための監視画像を表示するために設けられるものである、監視画像は、油圧ショベル1を操作するオペレータがこの油圧ショベル1の稼動時に周囲に障害物等が存在するか否かの確認を行うためのものである。
【0032】
ディスプレイ15の画面には、図4に示したように、概略中央位置に作業機アイコン20Sが表示され、その周囲に後方俯瞰画像20B,左右の側部俯瞰画像20L,20R及び前方俯瞰画像20Fからなる監視画像が表示される。ここで、作業機アイコン20Sは油圧ショベル1の平面画像またはそのイラストレーションからなるものであり、また各俯瞰画像20B,20L,20R,20Fは各カメラ13B,13L,13R及び13Fで撮影した油圧ショベル1の周囲の画像である。ここで、各カメラ13B,13L,13R,13Fの画像はいずれも平面画像であって、これによりディスプレイ15には油圧ショベル1とその周囲を俯瞰する合成俯瞰画像20が表示されることになる。ここで、合成俯瞰画像20は、上方視点から見た油圧ショベル1の周囲状況を平面視した、所謂バードアイビュー画像であり、この合成俯瞰画像を表示することによって、油圧ショベル1の周囲に、この油圧ショベル1の作動に対する障害となる障害物が存在するか否かを確認することができる。従って、カメラ13B,13L,13R,13Fは俯瞰画像を作成するための第1カメラ群を構成する。なお、図中において、上部旋回体3は走行手段である下部走行体2に対して旋回可能となっているので、旋回位置によっては、走行方向と上部旋回体3の運転室5の前方とが一致しない場合があるので、作業機アイコン20Sには走行方向を指示する方向指示マークDIが表示される。
【0033】
図3に示した画像処理装置14の構成について説明する。図中において、21は俯瞰画像化処理部であり、この俯瞰画像化処理部21では、カメラ13B,13L,13R,13Fで撮影したそれぞれの画像の視点が上方視点となるように視点変換が行われる。ここで、各カメラ13B,13L,13R,13Fで取得した画像は、それぞれ光軸方向の視野を有するスルー画像であり、これらのスルー画像は個別的に視点変換される。そして、俯瞰画像化処理部21での信号処理により各々個別俯瞰画像20B,20L,20R,20Fが形成される。なお、俯瞰画像化処理部21の具体的構成は従来から周知であるので、その詳細な説明は省略する。
【0034】
俯瞰画像化処理部21から出力される個別俯瞰画像20B,20L,20R,20Fに関するデータは画像切り出し部22に入力されて、この画像切り出し部22によりそれぞれ図4に示したディスプレイ15の各領域に表示するようにトリミングされる。また、アイコン画像作成部23には作業機アイコン20Sのデータが保有されている。そして、画像合成部24において、それぞれトリミングされた個別俯瞰画像20B,20L,20R,20Fと作業機アイコン20Sとが合成されることになり、表示画像生成部25を介して15の画面に合成俯瞰画像20が表示されることになる。ここで、ディスプレイ15に表示される合成俯瞰画像は動画状態である。
【0035】
このように、ディスプレイ15に作業機アイコン20Sの周囲の状況を表示することによって、油圧ショベル1による掘削作業等の作業の実行中、この油圧ショベル1の動作にとって障害となる物や人等の障害物が存在するか否か、存在する場合に、この障害物と接触する可能性があるか否かをオペレータが容易に認識できる。従って、障害物と接触乃至衝突する可能性がある場合には、この障害を回避する措置を採ることができ、作業を円滑に行うことができるようになる。
【0036】
ところで、油圧ショベル1の掘削により生じている地面の傾斜、例えば切羽が生じていることがある。図5に例示しように、油圧ショベル1の後方位置に掘削により発生する切羽面WFが存在していたとする。この切羽面WFをオペレータが直接視認できない後方側の位置にあるときには、ディスプレイ15により確認することになる。しかしながら、カメラ13Bの視野角と切羽面WFの角度との関係で、ディスプレイ15に表示されている後方俯瞰画像20Bとして切羽面WFの傾斜している部位のみが表示されている場合に、その高さを認識することは困難である。つまり、俯瞰画像は平面視の画像であるから、格別形状が変化している部位が存在しない限り、高さについての情報は俯瞰画像からは殆ど得られない。
【0037】
図示した油圧ショベル1にあっては、上部旋回体3は下部走行体2の上に設けられており、その底面、つまり旋回フレーム3aの下面は地面より高所に位置している。しかも、カウンタウエイト8の後端部は下部走行体2より後方に張り出している。従って、切羽面WFの形状によっては、上部旋回体2を旋回させたときに、この上部旋回体3を構成するカウンタウエイト8の後端部が切羽面WFと干渉するか否かの確認を行うことができない。つまり、後方の俯瞰画像20Bの表示からは油圧ショベル1の後方の地面が立ち上がる方向に傾斜しているか否か、また傾斜面となっていても、上部旋回体3を旋回させたときに、地面と接触するか否かを認識することはできないか、または認識することは困難である。従って、上部旋回体3の旋回方向の前方側にカウンタウエイト8と干渉するような切羽面WFが存在していると、上部旋回体3を旋回させたときには、カウンタウエイト8が切羽面WFに衝突することになる。
【0038】
以上の点を考慮して、図6に示したように、旋回装置4に左右一対のカメラ16R,16Lからなる第2カメラ群が設けられている。これら第2カメラ群を構成するカメラ16R,16Lは旋回装置4を構成する旋回ドラムの外周面に固定的に設けられており、上部旋回体3の旋回時には、カメラ16R,16Lもこれに追従して回動することになる。
【0039】
カメラ16Rの視野は右斜め後方に向けられており、上部旋回体3の下部であって、カウンタウエイト8の後端部から右側部に移行するコーナ部を中心として左右に所定角度分の視野を有するものである。そして、カウンタウエイト8の下面も視野範囲に入るように設定されている。また、カメラ16Lは左斜め後方に視野を有するものであり、カメラ16Rと同様、カウンタウエイト8の後端部から左側部に移行するコーナ部を中心としたカメラ16Rと同様の視野角を有するものであって、カウンタウエイト8の下面も視野内のものとしている。従って、これらカメラ16R,16Lを構成するレンズ光軸は、ほぼ水平方向であって、図2に16RA,16LAで示した方向に向けられている。
【0040】
ここで、第2カメラ群を構成するカメラ16R,16Lは、第1カメラ群を構成するカメラ13B,13L,13R,13Fとは異なる視野角を有するものであり、図4にも示されているように、カメラ16R,16Lからの画像は画像処理装置14に取り込まれるが、第1カメラ群とは異なり、視点変換をすることなく、スルー画像として表示されるものである。
【0041】
監視対象領域に障害物が存在する場合において、俯瞰画像からは油圧ショベル1からの距離を把握するのに有利であるが、障害物の大きさ、特に高さ寸法を認識する上でスルー画像を表示する方が俯瞰画像より有利である。ここで、油圧ショベル1を旋回させる際においては、障害物が上部旋回体3の高さ位置より低いものであれば、この上部旋回体3を旋回させても、障害物と衝突することはない。特に問題となるのは、カウンタウエイト8の高さ位置より高い場合である。このために、油圧ショベル1の旋回時には、その旋回方向の前方側の部位に存在する障害物の高さを認識することが必要となる。特に、障害物の高さ位置は上部旋回体3の底面、つまり旋回フレーム3aの下面との高さ位置関係を知ることは重要である。
【0042】
旋回装置4を構成する旋回ドラムの外側面には第2のカメラ群を構成するカメラ16R,16Lが装着されており、これらカメラ16R,14はカウンタウエイト8の後端側のコーナ部を視野に入れるようになっているので、旋回方向が左右いずれの方向であっても、その旋回方向の前方側の視野を取得することができる。ここで、油圧ショベル1の周囲の俯瞰画像は第1カメラ群を構成するカメラ13Bで取得されており、カメラ16R,16Lは、それらで取得した画像は視点変換することなく、スルー画像を表示するように設定されている、しかも、これらのカメラ16R,16Lの視野にはカウンタウエイト8の下面が含まれており、このために上部旋回体3の最後端部に位置するカウンタウエイト8の下面の高さ位置が認識できる画像となる。
【0043】
図7にカメラ16R,16Lの画像を表示したディスプレイ15の一例を示す。同図にあるように、ディスプレイ15には合成俯瞰画像が示されている。カメラ16R,16Lからのスルー画像は合成俯瞰画像において、後方の俯瞰画像20Bが表示されている領域に重畳させて表示されるものである。図7においては、カメラ16Rの右側のコーナ部スルー画像30Rはディスプレイ15の右下方の位置に表示され、またカメラ16Lの左側のコーナ部スルー画像30Lはディスプレイ15の左下方の位置に表示されることになる。ここで、これらスルー画像30R,30Lはできるだけ大きく表示する方が望ましいものである。従って、これらは俯瞰画像20Bの表示領域より多少広い範囲に表示するのが望ましい。
【0044】
ここで、右側及び左側のコーナ部スルー画像30R,30Lは概略水平方向の画像であり、その視野範囲にはカウンタウエイト8の左右の両コーナ部を含み、かつ旋回フレーム3aの後端部を含むスルー画像である。従って、コーナ部スルー画像30R,30Lは旋回方向の前方側の状況を確認でき、しかも障害物や傾斜面が存在する場合に、それがカウンタウエイト8の下面より低いか、または高いかの判定を容易かつ正確に行うことができるようになる。このために、図3に示したように、表示画像生成部25にはスルー画像合成部26が接続されており、スルー画像合成部26にはカメラ16R,16Lのコーナ部スルー画像30R,30Lが取り込まれるようになっている。
【0045】
以上によりディスプレイ15には、4つの態様の表示が行われる。第1の表示態様としては、図4に示した合成俯瞰画像20を表示する態様である。また、第2の表示態様としては、図7に示したように、後方俯瞰画像20Bの表示領域に右側及び左側のコーナ部スルー画像30R,30Lを同時に表示する態様である。さらに、これら右側及び左側のコーナ部スルー画像30R,30Lのうちの一方を重畳表示する態様である。
【0046】
油圧ショベル1が通常の作業を行う際には、この油圧ショベル1の周囲全体の状況を確認する必要があることから、ディスプレイ15には図4の合成俯瞰画像20が表示される。これによって、油圧ショベル1を操作するオペレータは、その周囲に障害物等が存在するか否かを確認することができ、操作を円滑に行うことができる。
【0047】
油圧ショベル1の上部旋回体3は地面から所定の高さ位置にあり、その間に人や物が介在している可能性がある。そこで、油圧ショベル1を後進させる際には、上部旋回体3の下部位置に何らかの障害物が位置している可能性がある。このために、ディスプレイ15を後進させる際において、上部旋回体3の下部における後部側の状況を確認するためには、図7に示したように、スルー画像30R,30Lの双方を俯瞰画像に重畳するように表示することができる。
【0048】
さらに、上部旋回体3を左右いずれかの方向に旋回させる際には、旋回方向の前方側のスルー画像30Rまたは30Lを表示する。旋回方向の後方側となるスルー画像を表示しても良いが、オペレータによる視認性を良好に保ち、また混乱が生じないようにするために、旋回方向前方のみのスルー画像を合成俯瞰画像に重畳表示することが望ましい。
【0049】
この表示により上部旋回体3の旋回方向の前方に障害物が存在するか否かを確認でき、しかも障害物の高さ位置を認識できるようになるので、上部旋回体3の下部位置に障害物が存在していても、この障害物が上部旋回体3の旋回動作時に干渉する可能性があるか否かも確認することができる。
【0050】
前述したディスプレイ15における表示画像はオペレータがスイッチ(図示せず)操作により選択することができる。前述した4態様の表示モードをオペレータによるスイッチ操作で行うこともできるが、モード設定手段を設けて、このモード設定手段により油圧ショベル1の操作状況に応じてディスプレイ15の画面が自動的に切り替わるTモードと、合成俯瞰画像20が表示されるT−1モードとに切り替え可能となるように設定される。このモード設定手段はディスプレイ15に設けるようにしても良く、またディスプレイ15以外のコントローラ(図示せず)に設けることもできる。
【0051】
従って、図8に示したように、Tモードを選択したときには、旋回操作が行われたときには、旋回方向に応じてコーナ部スルー画像30R,30Lのいずれかが合成俯瞰画像20の所定の位置に重畳表示される。即ち、旋回操作手段である操作レバーが右旋回操作されたときには、スルー画像30Rが合成俯瞰画像20に重畳表示され、左旋回操作が行われると、スルー画像30Lが合成俯瞰画像20に重畳表示される。一方、Tモードが選択されている状態で、旋回操作がなされていないときには、T=0となり、両スルー画像30R,30Lが合成俯瞰画像20に重畳表示されることになる。そして、T−1操作モードが選択されると、ディスプレイ15には合成俯瞰画像20のみが表示されることになる。ここで、旋回操作が停止したときに、コーナ部スルー画像30Rまたは30Lから他の画像に直ちに切り替わるのではなく、多少のタイムラグを持たせるのが望ましい。
【0052】
油圧ショベル1により掘削作業が行われる際には、上部旋回体3を掘削箇所に向けた状態で掘削を行い、バケット12に掘削物を収容した後には上部旋回体3を旋回させて、ダンプトラック等に投入する操作が繰り返し行われることになる。この掘削動作時には、切羽が発生することになり、切羽は掘削作業の進行に応じて形状変化することから、上部旋回体3の旋回操作がなされる毎にコーナ部のスルー画像30Rまたは30Lをディスプレイ15に表示することは、作業中には常に上部旋回体3が切羽面WFと干渉するか否かの確認を行うことができる。
【0053】
一方、Tモードが選択されている際において、旋回操作が行われていないときには、両コーナ部のスルー画像30R,30Lがディスプレイ15に表示されることから、オペレータは上部旋回体3の下方位置の状況を認識することができる。そして、油圧ショベル1の後方位置を含めた全体の俯瞰画像が必要な場合には、T−1モードを選択すれば良い。
【0054】
なお、コーナ部のスルー画像を取得するために、2台のカメラ16R,16Lを設ける構成としているが、コーナ部スルー画像を取得するためには、必ずしも2台のカメラを設ける必要はなく、図9に示したように、旋回フレーム3aの下面に1台のスルー画像用カメラ16を設けるようにすることもできる。この場合には、スルー画像用カメラ16の視野角はカウンタウエイト8の両コーナ部を含むものとする必要がある。また、このスルー画像用カメラ16は上部旋回体3の下面に設けられることから、作業中に他の物体と衝突するおそれがある。そこで、図10に示したように、旋回フレーム3aに凹部31を形成して、スルー画像用カメラ16をこの凹部31に収容させるようにすることもできる。
【符号の説明】
【0055】
1 油圧ショベル
2 下部走行体
3 上部旋回体
4 旋回装置
5 運転室
8 カウンタウエイト
13,13B,13R,13L,13F カメラ(第1カメラ群)
14 画像処理装置
15 ディスプレイ
16,16R,16L カメラ(第2カメラ群)
20 合成俯瞰画像
20B,20R,20L,20F 俯瞰画像
20S 作業機アイコン
21 俯瞰画像化処理部
22 画像切り出し部
23 アイコン画像作成部
24 画像合成部
25 表示徐画像生成部
26 スルー画像合成部
30R,30L コーナ部スルー画像
図1
図2
図3
図4
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図8
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図10