【実施例】
【0010】
図1は、本発明の実施例に係る乗客コンベア用移動手摺劣化診断装置が適用される乗客コンベアの汎用例であるエスカレータ100の要部を示した外観斜視図である。
【0011】
図1を参照すれば、このエスカレータ100は、互いに連結されて中途箇所が階段状を成して循環して乗降口間を移動すると共に、利用者(乗客)が踏み込んで乗る複数の踏段1と、踏段1の両側に踏段1の移動方向と平行に設けられた欄干3と、踏段1の両側に欄干3に沿って周回するように設けられると共に、踏段1と連動して循環して乗降口間を踏段1の進行方向と同方向に移動する一対の移動手摺2と、を備えている。
【0012】
このうち、移動手摺2は、欄干3の上方側では踏段1の進行方向と同方向に同期して移動し、欄干3の一端部に至ると円弧状に下方に移動して上下逆の状態でスカートガード等を備えたデッキ1aの内部に引き入れられ、更にデッキ1a内を通って欄干3の反対側の他端部に至ると上下逆の状態でデッキ1aから外部へ出て円弧状に上方に移動して欄干3の上方側に戻るという循環を行う。因みに、デッキ1a内にはよく知られているように移動手摺2を駆動する図示しない駆動装置等が設けられている。
【0013】
図2は、上述したエスカレータ100の移動手摺2を対象として劣化診断するための実施例に係る乗客コンベア用移動手摺劣化診断装置Sの全体的構成を示した外観斜視図である。
【0014】
図2を参照すれば、この移動手摺劣化診断装置Sは、放射線発生部を内部に持つ筐体と放射線受光部を覆う筐体とが組み合わされた開閉式の箱体
の構造を有し、筐体間でエスカレータ100に具備される移動手摺2を挟んで放射線発生部により発生したX線等の放射線を移動手摺2の挟み部に照射して透過させて放射線受光部で透過像を得る放射線装置4と、放射線発生部での放射線の照射量を制御する放射線制御装置5と、放射線制御装置5での照射量の制御に関する情報を操作指示して設定すると共に、放射線受光部で得られる透過像を表示するパーソナルコンピュータPCによる端末装置6と、放射線装置4に対して連結板8によって連結されると共に、移動手摺2の移動距離を測定する移動距離測定装置7と、を備えて構成される。
【0015】
このうち、放射線制御装置5は、放射線装置4での放射線発生部における放射線の照射量を制御し、非破壊検査を実行させる機能を持つ他、端末装置6と接続されて放射線装置4での放射線受光部で撮像された透過像の画像データを端末装置6へ送出してその表示部(ディスプレイ)に表示することができる。即ち、ここでの放射線装置4は、材料や部材を破壊することなく、内部の欠陥を検査できる非破壊検査法を適用したものであり、X線が物質を透過する性質を利用し、検査対象であるエスカレータ100の移動手摺2の局部にX線を照射して透過した透過像の画像データを取り込み、端末装置6の表示部に表示された画像の様子を観察し、例えば割れ目、空洞、異物等の有無や大きさを判別することができる。この際、画像の様子から欠陥部分の大きさや性状を判定するため、良質な画像データを撮像する必要がある。X線を用いた非破壊検査法を適用した検査自体は、端末装置6を用いて行う場合も含めてそのまま周知技術を適用できるので、詳細な説明については省略する。尚、検査自体は、端末装置6の表示部に検査画像を表示する判定に依存しなくても、熟練した検査員であれば探傷結果を判断することが可能である。
【0016】
図3は、上述した移動手摺劣化診断装置Sに備えられる要部の開閉式
の箱体
の構造の放射線装置4の外観を示した側面図である。
【0017】
図3を参照すれば、ここでの放射線装置4は、外観上、放射線発生部9を内部に持つ筐体と放射線受光部10を覆う筐体とが組み合わされた開閉式の箱体
の構造であり、可搬用の取っ手を有する他、放射線発生部9の筐体及び放射線受光部10の筐体に跨るように側面に対して、一対のパチン錠11a、11bを所定の間隔を空けて備え付け、箱体の閉状態でこれらのパチン錠11a、11bを施錠したときには放射線(X線)が漏れない構造となっている。
【0018】
図4は、放射線装置4の内部構造を透視して示した側面図である。
図4を参照すれば、放射線装置4の内部構造として、放射線発生部9の筐体は内部に放射線管12と、放射線管12からの放射線(X線)を細いビーム状に照射するためのスリット13と、を備えている。これに対し、放射線受光部10の筐体は内部に複数のセンサを列設したラインセンサ14を備えており、実施例の特徴として、ラインセンサ14における箱体の開状態で外方の開口側に位置される1つの開口側1センサ(後文で詳述する)について、他部センサに対して受光感度を変化させるように他部センサの周囲を上面に開口を有する筒状に形成した遮光部材となる鉛ゴム15で覆って分離している。尚、ここでのラインセンサ14における他部センサ、並びに鉛ゴム15は、取付部材16を用いて双方が放射線受光部10の筐体に対して固定されている。
【0019】
図5は、放射線装置4の箱体を開状態にしたときの放射線発生部9の露呈部分の様子を示した図である。
図5を参照すれば、放射線発生部9の筐体内のスリット13は、略中央部分に備え付けられている様子を示している。
【0020】
図6は、放射線装置4の箱体を開状態にしたときの放射線受光部10の露呈部分の様子を一部透視して示した図である。
図6を参照すれば、放射線装置4のラインセンサ14は、箱体の開状態で外方の開口側(パチン錠11a、11b)に位置される1つの開口側1センサ17を除く、他部センサの周囲が筒状の鉛ゴム15により覆われて分離され、開口側1センサが箱体の開状態での外光の検出用、他部センサが放射線の照射時の透過検出用として機能分けされている。
【0021】
図7は、放射線装置4の筐体間でエスカレータの移動手摺2を挟んだ状態を示した外観図である。
【0022】
図7を参照すれば、実施例に係る移動手摺劣化診断装置Sの放射線装置4は、欄干3に設置した移動手摺ガイド上から移動手摺2を取り外し、放射線装置4における放射線発生部9の筐体と放射線受光部10の筐体との間に移動手摺2の局部を挟み込んで放射線による検査を行うものである。この際、作業員は踏段1を上がり降りして放射線装置4を移動させる。
図2で説明した周知の機能構成のままであれば、各筐体を開状態とした場合に放射線発生部9からの放射線の不要な照射を防止するための安全対策が考慮されていないため、放射線照射時の安全対策が不十分となっている。
【0023】
そこで、実施例に係る移動手摺劣化診断装置Sでは、放射線装置4の放射線受光部10におけるラインセンサ14について、箱体の開状態で外方の開口側に位置される1つの開口側1センサ17を除く他部センサの周囲を筒状の遮光部材である鉛ゴム15で覆って分離したことにより、開口側1センサ17が箱体の開状態での外光の検出用とされ、他部センサが箱体の閉状態及びパチン錠11a、11bの施錠時での放射線の照射時の透過検出用として機能分けされたことを利用し、放射線制御装置5において、開口側1センサ17による箱体の開状態での外光検出時の検出レベルが所定の閾値を超過したとき(ラインセンサ14の他部センサよりも開口側1センサ17の出力輝度が高くなる)に放射線発生部9での放射線の照射を停止させる機能を持つ。これにより、箱体が開状態になって外光が入り込んだことを開口側1センサ17が検出し、放射線制御装置5によりその検出レベルが所定の閾値を超過したことを認識した際に自動的に放射線発生部9での放射線の照射が停止される機能が得られる。これにより、実施例に係る移動手摺劣化診断装置Sによれば、開閉式の箱体構造を採用しても開状態で適確に放射線の不要な照射を防止でき、安全対策が十分に施されるようになる。因みに、端末装置6は、操作指示により放射線制御装置5での照射量の制御に関する情報を設定可能である他、検出レベルに対する所定の閾値の設定値を変更することもできる。
【0024】
尚、上述した実施例に係る乗客コンベア用移動手摺劣化診断装置Sでは、乗客コンベアをエスカレータ100として移動手摺劣化診断装置Sを適用させる場合について説明したが、エスカレータ100の他に複数の踏段1の中途箇所が階段状を成さずに平坦状態が維持される構造の動く歩道にも同様に適用させることができる。このように、本発明の乗客コンベア用移動手摺劣化診断装置は、他の実施形態でも適用可能であるため、実施例で開示した形態に限定されない。