(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204905
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】心臓弁修復のための装置および方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20170914BHJP
A61B 17/04 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
A61F2/24
A61B17/04
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-503277(P2014-503277)
(86)(22)【出願日】2012年4月4日
(65)【公表番号】特表2014-523256(P2014-523256A)
(43)【公表日】2014年9月11日
(86)【国際出願番号】IL2012050126
(87)【国際公開番号】WO2012137208
(87)【国際公開日】20121011
【審査請求日】2015年2月16日
(31)【優先権主張番号】61/471,497
(32)【優先日】2011年4月4日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/473,873
(32)【優先日】2011年4月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511176137
【氏名又は名称】ザ メディカル リサーチ,インフラストラクチュア,アンド ヘルス サービシーズ ファンド オブ ザ テル アビブ メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】クドリク,ナチュマン
(72)【発明者】
【氏名】ペビネイ,デミトリー
【審査官】
川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−521225(JP,A)
【文献】
特表2004−531337(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0276038(US,A1)
【文献】
特表2007−526011(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0118151(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/24
A61B 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)弁尖内に形成された穴に差し込むように構成された中心ハブであって、前記中心ハブはその一端で閉じられている中心ハブと、前記中心ハブから延伸する第1の複数の閉ワイヤループおよび第2の複数の閉ワイヤループとを含む留め具部であって、拡張された展開構成および内径が小さい非展開構成を有し、心臓弁内で装置が展開されているときに、(i)前記中心ハブが前記穴内に配置されるように、(ii)前記第1の複数の閉ワイヤループが前記弁尖より上に配置されるように、(iii)前記第2の複数の閉ワイヤループが前記弁尖より下に配置されるように、拡張された展開構成内の弁尖上に、心臓弁を処置するための装置を留めるように構成された留め具部と、
(b)前記中心ハブにおいて、前記留め具部に取り付けられている1つ以上の縫合糸であって、前記縫合糸は、前記第1の複数の閉ワイヤループおよび前記第2の複数の閉ワイヤループから離れるように延伸し、心筋に固定されるときに、縫合糸を人工的腱索として機能させるのに十分な長さを有する縫合糸と、を含む、心臓弁を処置するための装置。
【請求項2】
前記第1の複数の閉ワイヤループおよび前記第2の複数の閉ワイヤループが、それぞれ二つ以上の閉ワイヤループを含む、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記展開構成における前記留め具部が、第一の平面上にある前記第1の複数の閉ワイヤループ、および前記第一の平面上にはない前記第2の複数の閉ワイヤループを含む、請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記第2の複数の閉ワイヤループが前記第一の平面に向かって湾曲している、請求項3記載の装置。
【請求項5】
前記内径が小さい非展開構成では、前記第1の複数の閉ワイヤループが縫合糸から離れるように折り畳まれており、前記第2の複数の閉ワイヤループが前記縫合糸に向かうように折り畳まれている、請求項3〜4のいずれか1項記載の装置。
【請求項6】
前記第1の複数の閉ワイヤループは2つの閉ワイヤループを含み、心臓弁内で装置が展開されているとき、前記弁尖の下に前記中心ハブから前記1つ以上の縫合糸が突出する、請求項1記載の装置。
【請求項7】
前記中心ハブは、閉チューブの形態のものである、請求項1ないし6のいずれか1項記載の装置。
【請求項8】
(a)心臓弁を処置するための装置を含み、前記装置が、
(1)弁尖内に形成された穴に差し込むように構成された中心ハブであって、前記中心ハブはその一端で閉じられている中心ハブと、前記中心ハブから延伸する第1の複数の閉ワイヤループおよび第2の複数の閉ワイヤループとを含む留め具部であって、拡張された展開構成および内径が小さい非展開構成を有し、心臓弁内で装置が展開されているときに、(i)前記中心ハブが前記穴内に配置されるように、(ii)前記第1の複数の閉ワイヤループが前記弁尖より上に配置されるように、(iii)前記第2の複数の閉ワイヤループが前記弁尖より下に配置されるように、拡張された展開構成内の弁尖上に、前記装置を留めるように構成された留め具部と、
(2)前記中心ハブにおいて、前記留め具部に取り付けられている1つ以上の縫合糸であって、前記縫合糸は、前記第1の複数の閉ワイヤループおよび前記第2の複数の閉ワイヤループから離れるように延伸し、心筋に固定されるときに、縫合糸を人工的腱索として機能させるのに十分な長さを有する縫合糸と、を含み、さらに、
(b)近位端および遠位端を有するカテーテル管腔を有する供給カテーテルと、
(c)前記カテーテル管腔内をスライド可能であり、前記内径が小さい構成における前記装置を受け入れる寸法に形成された管腔を有し、さらに鋭い先端を有する針と、を含む、心臓弁を処置するためのシステム。
【請求項9】
前記針管腔内の前記装置を前記カテーテルの遠心端に向けて押すように構成されているロッドをさらに含む、請求項8記載のシステム。
【請求項10】
前記カテーテルの遠心端に、スパイラルワイヤが備え付けられている、請求項8または9記載のシステム。
【請求項11】
前記カテーテルの遠心端に、心エコー検査によって見ることができるインフレータブルバルーンが備え付けられている、請求項8または9記載のシステム。
【請求項12】
前記第1の複数の閉ワイヤループは2つの閉ワイヤループを含み、心臓弁内で装置が展開されているとき、前記弁尖の下に前記中心ハブから前記1つ以上の縫合糸が突出する、請求項8記載のシステム。
【請求項13】
前記中心ハブは、閉チューブの形態のものである、請求項8ないし12のいずれか1項記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療装置に関するものであり、より具体的には、心臓弁を処置するためのそのような装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
心臓では、僧帽弁が左心房と左心室との間に位置し、一方、三尖弁が右心房と右心室との間に位置する。各弁は、薄い弁尖から成り、心房と心室との間に位置する。弁尖は、腱索と呼ばれるひと続きの繊維によって心室の内壁に取り付けられる。健康な心臓では、心臓収縮期において心室が収縮するときに弁尖が並べて置かれ、それ故に、心室から心房内への血液の逆流を防ぐことができる。心臓拡張中において心室が弛緩するときに弁が開くことによって、心房から心室内に血液を流すことができる。
【0003】
僧帽弁逸脱症では、心臓構造内のコラーゲンが異常に形成される粘液腫性変性に起因して腱索が伸長し、弁尖および腱索の肥厚化、拡大化および過剰化を招くことがある。加えて、この過程において腱索の破裂を招くことがある。このような状態では、弁尖が、心室が収縮するときの心臓収縮期に逸脱し(フラップが後方の左心房に落ち込む)、血液が弁を通り抜けて心室から心房内に逆流することがある。重度の症状では、僧帽弁閉鎖不全症によって心不全および心拍リズムの異常が引き起こされる。
【0004】
僧帽弁逸脱症は最も一般的な心臓弁の異常であり、世界人口の5〜10パーセントの人が冒されている。深刻(中度から重度)な僧帽弁閉鎖不全症はそれほど多くはない。例として、米国内の未治療の二百万人を対象にしたある調査では、人口のおよそ2〜3パーセントの人が中度または重度の僧帽弁閉鎖不全症を発症していることが見いだされた。
【0005】
重度の僧帽弁閉鎖不全症を発症している人は外科手術を行う必要がある。米国心臓協会および欧州心臓病学会によるガイドラインでは、心臓の心エコー図測定、心臓弁および血流に基づいて、重度慢性の僧帽弁閉鎖不全症に冒されている個人を定めている。僧帽弁外科手術は、生命の危険を伴う心臓切開、外科的処置である。手術の重要な局面中には心臓は停止状態にあり、一方、酸素化された血液が人工心肺装置によって身体の隅々までポンプされる。その後、心臓の小さな部分を開いて僧帽弁を露出する。
【0006】
僧帽弁逸脱症を修復するための非侵襲的または低侵襲的な方法が開発されてきた。
【0007】
心臓弁の逸脱を処置するための一方法は、クリップを用いて弁尖の自由縁に沿って2つの弁尖を結合することを伴う。弁尖を縫合するための方法およびシステムが、例として、Kimbladへの米国特許第8,062,313号に開示されている。弁尖を束ねるためのクリップが、例として、Goldfarbらへの米国特許第8,029,518号に開示されている。
【0008】
別の弁修復方法は、裂かれた脊索を取り換えるために、一つ以上の人工フィラメントを導き入れることを伴う。「新腱索」と呼ばれることもあるフィラメントが、その一端が弁尖に取り付けられ、他端が心臓組織に取り付けられる。この種類のシステムが、例として、Crabtreeへの米国特許第8,043,368号に開示されている。これらの方法では、導き入れられる新腱索の必要な長さについての信頼性のある決定が要求される。心臓の鼓動中にこの決定を得ることは困難な場合がある。この種類の大抵のシステムでは、展開後に新腱索の長さを調節することが困難である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様では、僧帽弁または三尖弁を処置するための装置を提供する。本発明の装置は、拡張構成および内径が小さい構成を有する留め具を含む。拡張構成では、留め具が処置される弁尖の逸脱範囲の片側または両側に展開され、内径が小さい構成では、留め具がその展開部位に供給される。一つ以上の縫合糸が留め具に取り付けられる。処置される弁尖への留め具の展開後、以下に説明するように、縫合糸が心室壁を通り、その後、心室壁の外側に縫い付けられ、人工的腱索として機能する。人工腱索の適切な長さは、心エコー検査に基づいて得ることができる。
【0010】
留め具は、弁尖の片面または両面に適用することが可能な任意の形状でもよい。
【0011】
本発明の第二の態様では、本発明の装置を人体内のその展開部位に供給するための供給システムを提供する。供給システムは針を含み、この針はその中に、その非展開構成における留め具を備えた本発明の装置を挿入することができる。供給システムは、以下に説明するように、針を受け入れる寸法に形成されたカテーテル、および装置を針の中を通って押すために用いられるプッシャーをさらに含む。
【0012】
使用中、非展開構成における本発明の装置は、針内に挿入され、この針はカテーテルまたはテッサロニケ内に挿入される。管のエコーガイドされる先端が処置される弁尖の逸脱範囲の直ぐ下に来るまで、胸部切開によって心尖を経て心室内に管が挿入される。その後、針の先端が処置される弁尖に穴を開けるまで、針内において装置を押す。その後、針から留め具を解放することによって、処置される弁尖の片側または両側にその展開構成を達成することができる。展開構成の達成により、(例として、留め具が可塑性弾性物質で作られている場合には)管からの留め具の解放が自然発生的に生じ得、または留め具が形状記憶合金、例えば、ニチノールから形成されている場合には、温度遷移によって留め具が解放される。留め具を、例として、心膜またはさまざまな薬剤、例えば、抗生物質で被覆してもよい。
【0013】
留め具の展開後、縫合糸を左心室壁の外側で結ぶことによって、縫合糸が人工的脊索として機能することができる。
【0014】
それ故に、本発明の一態様では、心臓弁を処置するための装置を提供し、この装置は、
(a)拡張された展開構成および内径が小さい非展開構成を有する留め具と、
(b)留め具に取り付けられている一つ以上の縫合糸と、を含む。
【0015】
本発明の装置では、留め具部は、そこから二つ以上のワイヤループが延伸する中心ハブを含んでもよい。
【0016】
展開構成における留め具は、第一の平面上にある第一の組の一つ以上のワイヤループ、および第一の平面上にはない第二の組の一つ以上のワイヤループを含んでもよい。第二の組のワイヤループは、第一の平面に向かって湾曲してもよい。
【0017】
内径が小さい非展開構成では、第一の組のループは、フィラメントから離れるように折り畳まれてもよいし、第二の組のループは、フィラメントに向かうように折り畳まれてもよい。
【0018】
留め具は、弾性フレキシブルワイヤリングを含んでもよい。留め具は、ワイヤリング内に一つ以上の交差要素をさらに含んでもよい。
【0019】
留め具はワイヤロッドを含んでもよく、縫合糸はワイヤロッドに取り付けられてもよい。
【0020】
本発明の別の態様では、心臓弁を処置するためのシステムを提供し、このシステムは、
(a)心臓弁を処置するための装置を含み、この装置は、
(i)拡張された展開構成および内径が小さい非展開構成を有する留め具と、
(ii)留め具に取り付けられている一つ以上の縫合糸と、を含み、システムはさらに、
(b)近位端および遠位端を有するカテーテル管腔を有する供給カテーテルと、
(c)カテーテル管腔内をスライド可能であり、内径が小さい構成における装置を受け入れる寸法に形成された管腔を有し、さらに鋭い先端を有する針と、を含む。
【0021】
本発明のシステムは、針管腔内の装置をカテーテルの遠心端に向けて押すように構成されているロッドを含んでもよい。カテーテルの遠心端には、スパイラルワイヤが備え付けられてもよい。
【0022】
カテーテルの遠心端には、心エコー検査によって見ることができるインフレータブルバルーンが備え付けられてもよい。
【0023】
本発明は、心臓弁を処置するための方法も提供し、この方法は、
(a)心臓弁を処置するためのシステムを提供することを含み、このシステムは、
i)心臓弁を処置するための装置を含み、この装置は、
拡張された展開構成および内径が小さい非展開構成を有する留め具、および留め具に取り付けられている一つ以上の縫合糸と、
ii)近位端および遠位端を有するカテーテル管腔を有する供給カテーテルと、
iii)カテーテル管腔内をスライド可能であり、内径が小さい構成における装置を受け入れる寸法に形成された管腔を有し、さらに鋭い先端を有する針と、
iv)針管腔内の装置をカテーテルの遠心端に向けて押すように構成されているロッドと、を含み、この方法はさらに、
(b)装置を供給システム内に挿入することと、
(c)カテーテル先端が弁尖の底面に並置されるまで、カテーテルの遠心端を心臓の心筋を貫いて挿入することと、
(d)針の鋭い先端によって弁尖に穴を開けることと、
(e)その非展開構成における留め具が針の先端を通り抜け、カテーテルから解放されるまで、ロッドを針の先端に向けて押すことと、
(f)留め具を弁尖の片面または両面においてその展開構成に至らせることと、を含む。
【0024】
開示を理解し、実際の実行方法を視認するために、以下の添付図面を参照し、単なる非限定例として実施態様をここに記述する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施態様に従う、心臓弁尖を処置するための装置を第一の観点から示す図である。
【
図3】非展開構成にある
図1の装置を示す図である。
【
図4】本発明の別の実施態様に従う、心臓弁尖を処置するためのワイヤループを有する装置を示す図である。
【
図5】非展開構成にある
図4の装置を示す図である。
【
図6】本発明の別の実施態様に従う、心臓弁尖を処置するためのロッド装置を示す図である。
【
図7】非展開構成にある
図6の装置を示す図である。
【
図8】本発明の装置を供給および展開するための供給システムを示す図である。
【
図9a】本発明の装置の心臓弁尖への供給を示す図である。
【
図9b】針によって穴が開けられた心臓弁尖を示す図である。
【
図9c】心臓弁における本発明の装置の展開の第一段階を示す図である。
【
図9d】心臓弁における本発明の装置の展開の第二段階を示す図である。
【
図9e】心臓弁内への展開、および供給装置の除去後の本発明の装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1〜
図3に、本発明の一実施態様に従う、心臓弁を処置するための装置50を示す。装置50の拡張構成を、
図1および
図2に異なる観点から示し、以下に説明するように、装置50は心腔内で展開される。装置50は、
図3に示す内径が小さい非展開構成も有し、心臓弁への装置2の供給期にはこの構成を利用する。
【0027】
装置50は留め具部51を有し、留め具部51が含む中心ハブ52から複数のループ54および56が延伸している。ハブ52は管であり、例として、管の遠位端を粘着性物質53に差し込むことによって、その遠位端が完全に閉じられている。
図1〜
図3の実施態様では、12個のループがある。これは単なる一例であり、装置50は、任意の用途に要求される任意の数のループを有してもよい。装置50は、同一平面上にある6個のループ54、およびループ54がある平面の下方に位置し、ループ54の平面に向かって上方に湾曲する別の6個のループ56を包含する。ループ54および56は単一ワイヤで作られてもよく、例として、直径がおよそ0.2mmであるニチノール(登録商標)ワイヤである。留め具は、弁尖内での留め具の一体化を強化するために、ウシ心膜で被覆してもよい。
【0028】
2本の縫合糸58および60の一端がハブ52に取り付けられており、それらの他端は留め具部から離れる方に延伸する。縫合糸58および60は、例として、ゴアテックスePTFE繊維でもよい。
【0029】
図3に示す圧縮構成では、平坦なループ54および56は、ハブ52ならびにフィラメント58および60から離れる上方に折り畳まれ、一方、湾曲ループ56は、ハブならびにフィラメント58および60に向かう下方に折り返される。これにより、装置50は、心腔内のその展開部位に供給するのに好適な小さな内径を達成する。
【0030】
図4および
図5に、本発明の別の実施態様に従う心臓弁を処置するための装置2を示す。装置2は留め具部4を有し、留め具部4は一つ以上の交差要素を備えた楕円形のワイヤリングを含む。
図4および
図5には2つの交差要素6および8を示す。これは単なる一例であり、留め具4は任意の数の交差要素を有してもよい。装置2の拡張構成を
図4に示し、この構成において装置2は心腔内において展開される。内径が小さい非展開構成を
図5に示し、心臓弁への装置2の供給期にこの構成が用いられる。一対の縫合糸12および14は、その一端が交差要素6および8に結ばれる。縫合糸12および14の他端は、以下に説明するように、心臓弁内に装置2を展開する前は繋がれていない。縫合糸は、例として、ゴアテックス縫合糸でもよい。
【0031】
留め具4は変形可能な物質から形成されており、これにより、展開構成(
図4)の留め具4を装置に供給する前に非展開構成(
図5)に折り畳み、その後、心臓内において適切に位置決めした後、展開構成に戻すことができる。留め具4のワイヤは、例として、生体適合性弾性またはバネ状物質、例えば、シリコーンゴム、ステンレス鋼またはニチノールで作ることができる。あるいは、留め具4のワイヤは、形状記憶合金(一方向または二方向)で作られてもよく、この場合では、留め具4は、当技術分野で周知のような形状記憶合金の適当な温度遷移によって、展開構成と非展開構成とを交互に替わることができる。留め具は、弁尖内での留め具の一体化を強化するために、ウシ心膜で被覆してもよい。
【0032】
図6および
図7に、本発明の別の実施態様に従う心臓弁を処置するための装置60を示す。装置60はワイヤロッド64を含む留め具部62を有する。ロッド64は、例として、生体適合性弾性またはバネ状物質、例えば、シリコーンゴム、ステンレス鋼またはニチノールで作ることができる。装置60の拡張構成を
図6に示し、この構成において装置60は心腔内において展開される。内径が小さい非展開構成を
図7に示し、心臓弁への装置60の供給期にこの構成が用いられる。一対の縫合糸64および66が、ロッド64の中心においてロッド64に結ばれる。縫合糸64および66の他端は、以下に説明するように、心臓弁内に装置60を展開する前は繋がれていない。縫合糸は、例として、ゴアテックス縫合糸でもよい。ロッド64は、弁尖内での留め具の一体化を強化するために、ウシ心膜で被覆してもよい。
【0033】
図8に、供給システム20内に挿入されている非展開構成の
図1および
図2の装置50を示す。供給システム20は、近位端21および遠位端29を有する供給カテーテル23を含み、これは心エコー検査によって見ることができる。供給システム20は、装置50がその非展開構成において挿入される針22も含む。針22は、その遠位端において鋭い先端24で終端をなし、この先端を用いて、装置2の展開期に、処置される弁尖に穴を開ける。供給システム20は、針22内部をスライド可能な寸法に形成された押圧ロッド26をさらに含む。ロッド26は針22よりも長く、これにより、装置50の供給期に、装置50は供給システム20の近位端に接近可能になる。ロッド26を用いて、装置50の展開期に針22の先端24まで装置50を押す。カテーテル23は、その遠位端において丸い先端25で終端をなす。以下に説明するように、丸い先端25にはスパイラルワイヤ27が取り付けられており、これは処置される弁尖の底面にねじ込むように構成されている。
【0034】
カテーテル23の遠心端には、心エコー検査によって見ることができるトロイダル状のバルーン28も取り付けられている。供給管には、液体、例えば、滅菌水または塩水を収容する注射器の取り付けに適したルアーが備え付けられる。供給管100を通じてバルーン28に液体が供給され、液体は一つ以上の開口102を通り抜けてバルーン28内に入る。バルーン28が液体で満たされると、バルーン内の残気または過剰な液体が、一つ以上の開口104の第二の組を通り抜けてバルーン28から外に押し出され、カテーテル23の近位端における戻り管106内に入る。供給管100および戻り管106は、互いに接続してもよい。これにより、バルーン28内のいかなる気体の完全な除去が可能になる。
【0035】
僧帽弁逸脱症の処置のための本発明の装置の展開を、
図1および
図2に示す装置50を参照してここに記述する。本発明の装置の他の実施態様を同様に展開可能なことが自明である。
【0036】
図9に、僧帽弁逸脱症の処置のための装置50を展開する方法を示す。
図9aに、後部僧帽弁尖32および前部僧帽弁尖34を包含する左心室30の断面図を示す。腱索35の伸長に起因する弁尖32および34の不正咬合は、弁尖間のスペース36によって明白となる。
図8に示すように、装置50の展開のために、装置50を供給システム20内に挿入する。カテーテル先端25が弁尖32の底面に並置されるまで、カテーテル23の先端25を、心筋38を貫いて挿入する。左心室内の供給システムの運動、および装置の展開は、バルーン23の心エコー検査によって監視することができる。巾着縫合によって出血を制御することができる。心臓がなおも鼓動しているか、脈拍が速い心臓ペーシングを用いている間に、カテーテル23を回転することによって、スパイラルワイヤ27を弁尖32の底面内にねじ込む。その後、
図9bに示すように、針22の鋭い先端24を利用して弁尖32を通る穴を開ける。
【0037】
ここで、
図9cに示すように、ロッド26を針の先端24に向けて押すことによって、非展開構成における留め具領域51に、針の先端24を通り抜けさせる。そして、これをカテーテル23から解放することによって、弁尖32上方の左心房に上部ループ54を位置決めし、弁尖32下方の心室に湾曲ループ56を位置決めする。この時点で、留め具51は、その展開構成(
図9d)を達成することができる。この構成は、(例として、留め具が可塑性弾性物質で作られている場合には)管22からの留め具の解放によって自然発生的に生じ得、または留め具が形状記憶合金、例えば、ニチノールから形成されている場合には温度遷移によって生じ得る。供給システム20を左心室から取り外したときに、縫合糸12および14を、心エコー検査によって監視することができる新腱索の適切な長さだけ下方に引く。弁尖が並べて置かれ、そしてスペース36が無くなる(
図9e)まで縫合糸を引き続けることによって、僧帽弁閉鎖不全症を治す。縫合糸の正確な長さを確定し、縫合糸を心筋38に固定する。これにより、縫合糸は人工的腱索として機能することができる。