(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204919
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】調節性過排卵誘起後の患者の子宮内膜受容性を評価するための方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20060101AFI20170914BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20170914BHJP
【FI】
C12Q1/68 A
!C12N15/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-536284(P2014-536284)
(86)(22)【出願日】2012年10月22日
(65)【公表番号】特表2014-530617(P2014-530617A)
(43)【公表日】2014年11月20日
(86)【国際出願番号】EP2012070892
(87)【国際公開番号】WO2013057316
(87)【国際公開日】20130425
【審査請求日】2015年6月25日
(31)【優先権主張番号】11306364.8
(32)【優先日】2011年10月21日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】513096967
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・ユニヴェルシテール・ドゥ・モンペリエ
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER UNIVERSITAIRE DE MONTPELLIER
(73)【特許権者】
【識別番号】515011944
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・ドゥ・モンペリエ
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ハママー,サミル
(72)【発明者】
【氏名】アウジ,デルフィーヌ
【審査官】
柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】
Hum. Reprod., (2009), 24, [6], p.1436-1445
【文献】
Biol. Reprod., (2010), 82, [4], p.679-686
【文献】
Hum. Reprod., (2011), 26, [6], p.1440-1449
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調節性過排卵誘起(COH)後の患者の子宮内膜受容性を評価することを支援するための方法であって、該方法は、(a)該患者から得られた子宮内膜生検試料における、FGFBP1、MUC20、TMPRSS3、PRUNE2、HES2、MGST1、ERRFI1、EDN1、SLC17A7、MET、CPT1B、DCDC2、LRRC39、IL18RAP、およびFOXP1の15の遺伝子の発現レベルの測定の工程を含む、方法。
【請求項2】
さらに、以下:
− (b1)子宮内膜生検試料における15の遺伝子のそれぞれのmRNAレベルを、COH後に妊娠しなかった患者から得られた子宮内膜生検試料からの該各遺伝子のコントロールのmRNAレベルと比較すること;及び少なくとも1つの遺伝子のmRNAレベルがコントロールと比べて下方制御されているとき、女性の子宮内膜を受容性であると評価することの工程、又は
− (b2)子宮内膜生検試料における15の遺伝子のそれぞれのmRNAレベルを、COH後に妊娠した患者から得られた子宮内膜生検試料からの該各遺伝子のコントロールのmRNAレベルと比較すること;及び15の遺伝子のmRNAレベルが該15遺伝子のコントロールmRNAレベルと比べて上方制御されていないとき、女性の子宮内膜を受容性であると評価することの工程
を含む請求項1に記載の子宮内膜受容性を評価することを支援するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、調節性過排卵誘起後の患者の子宮内膜受容性を評価するための方法およびキットに関する。
【0002】
発明の背景:
生殖補助医療(ART)における多くの進歩にもかかわらず、調節性過排卵誘起(COH)および体外受精(IVF)後の妊娠率はまだ低い。妊娠の成立および維持は、成功した着床、コンピテントな胚、受容性のある子宮内膜、および同期化された母体−胚クロストークなどのいくつかの要因に依存する複雑な過程である。妊娠結果に応じたバイオマーカーの同定は、IVF条件下での臨床結果を改善するための課題である。オミックスのような新しい技術の出現で、コンピテントな胚の選択、子宮内膜受容性の識別、および栄養外胚葉と子宮内膜細胞の間の同期化された対話のためにIVFに適用できる発見ツールとしてのバイオマーカーが同定された(Assou et al., 2008, 2010; Hamel et al., 2008, 2010; Carson et al., 2002; Diaz-Gimeno et al., 2011; Dominguez et al., 2009; Haouzi et al., 2009a; Li et al., 2006; Mirkin et al., 2005; Riesewijk et al., 2003; Talbi et al., 2006; Haouzi et al., 2011)。今のところ、卵丘細胞および顆粒膜細胞などの卵胞細胞の遺伝子発現プロファイルだけが妊娠結果と対比されている(Assou et al., 2008, 2010; Hamel et al., 2008, 2010; Gebhardt et al., 2011; Assidi et al., 2011)。着床の受容性および妊娠結果に関係する新しいバイオマーカーを同定するために、本発明者らは、調節性過排卵誘起下の正常若齢レスポンダー患者からの卵母細胞回収日のヒト子宮内膜の遺伝子発現プロファイルを行った。
【0003】
当技術分野において、調節性過排卵誘起下の患者における子宮内膜受容性のバイオマーカーは開示されていない。けれども、調節性過排卵誘起後の患者における子宮内膜受容性の結果を予測するための新しい方法を開発する必要がある。
【0004】
発明の概要:
本発明は、調節性過排卵誘起後の患者の子宮内膜受容性を評価するための方法であって、該患者から得られた子宮内膜生検試料中の、15個の遺伝子より選択される少なくとも1個の遺伝子の発現レベルを測定することから成る工程を含み、該遺伝子が、FGFBP1、MUC20、TMPRSS3、PRUNE2、HES2、MGST1、ERRFI1、EDN1、SLC17A7、MET、CPT1B、DCDC2、LRRC39、IL18RAP、およびFOXP1である方法に関する。
【0005】
発明の詳細な説明:
本発明者らは、調節性過排卵誘起下の卵母細胞回収日のヒト子宮内膜において発現される遺伝子であって、調節性過排卵誘起後に子宮内膜受容性のバイオマーカーとして使用できる遺伝子を同定することを目的とした。
【0006】
男性不妊のせいでIVFを受けるようにされた一連の若齢(<36歳)正常レスポンダー患者(n=32)は、調節性過排卵誘起下での卵母細胞回収日(hCG投与の36時間後、hCG+2)に子宮内膜生検を受けた。子宮内膜生検試料から抽出されたmRNAを、affymetrix HG-U133 plus 2.0 GeneChipオリゴヌクレオチドマイクロアレイで個別に分析した。継続中の妊娠結果に応じて差次的な遺伝子発現プロファイル(妊娠している患者10人に対して妊娠していない患者22人)をバイオインフォマティクス法で評価した(SAM(Significant Analysis of Microarrays);倍率変化>1.2およびFDR<5%)。遺伝子は、Ingenuity Pathway Analysis(IPA)ソフトウェア(Ingenuity Systems, Redwood City, CA)を使用して解析した。
【0007】
陽性の妊娠結果に関連する、卵母細胞回収日の子宮内膜における遺伝子インプリントを同定した。この分子署名は、陽性の妊娠結果群において全てダウンレギュレーションされた124個の遺伝子(137個のプローブセットに対応)を含んでいた。階層的クラスタリングから、この124個の遺伝子が実際に妊娠達成および妊娠未達成に関連する子宮内膜試料の100%をリストアップしていることが確認された(
図1)。
【0008】
発現低下が妊娠に関連する遺伝子の中で、最も大きな比率を占める生物学的経路は、HGFおよびFGFシグナリングであった。それらには、HGF(x-1.8、FDR<0.0001)、FGF18(x-1.8、FDR<0.0001)、FGFBP1(x-3.9、FDR<0.0001)、およびMET(x-2.1、FDR<0.0001)が含まれた。上から15位までの最もダウンレギュレーションされた遺伝子が選択され(FGFBP1、MUC20、TMPRSS3、PRUNE2、HES2、MGST1、ERRFI1、EDN1、SLC17A7、MET、CPT1B、DCDC2、LRRC39、IL18RAP、FOXP1)、調節性過排卵誘起後の子宮内膜受容性の予測値として提唱されている。子宮内膜生検は、調節性過排卵誘起下で卵母細胞回収日に行うことが容易な手順であるので、この方法は、着床不良の患者の着床および妊娠率を改善する新規な戦略を意味する。
【0009】
従って本発明は、調節性過排卵誘起後の患者の子宮内膜受容性を評価するための方法であって、該患者から得られた子宮内膜生検試料中の、15個の遺伝子より選択される少なくとも1個の遺伝子の発現レベルを測定することから成る工程を含み、該15個の遺伝子が、FGFBP1、MUC20、TMPRSS3、PRUNE2、HES2、MGST1、ERRFI1、EDN1、SLC17A7、MET、CPT1B、DCDC2、LRRC39、IL18RAP、およびFOXP1である方法に関する。
【0010】
本明細書に使用されるような用語「患者」は、本発明が適用されうる哺乳類のメスを表す。典型的には、該哺乳類はヒト(すなわち女性)であるが、霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ヒツジ、ウシなどの他の哺乳類に関係しうる。
【0011】
用語「調節性過排卵誘起」または「COH」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、患者が1個よりも多い卵母細胞を産生する刺激されたサイクルを誘導するための方法を表す。典型的には、COHは、GnRHアゴニストプロトコールまたはGnRHアンタゴニストプロトコールと、高精製ヒト閉経期ゴナドトロピン(hMG)またはリコンビナントFSHのいずれかとの組合せで行われる。
【0012】
本明細書に使用されるような用語「子宮内膜受容性」は、胚盤胞接着が可能になり、成功した妊娠に繋がる機能的状態を子宮内膜が獲得する期間である。
【0013】
特定の一実施態様では、生検は、刺激されたサイクル(COH後のサイクル)の間に、好ましくは卵母細胞回収日(hCG+2)に行われる。
【0014】
特定の一実施態様では、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個の遺伝子の発現レベルが測定される。好ましくは、15個の遺伝子の発現レベルが測定される。
【0015】
本発明に関係する全ての遺伝子は、本質的に公知であり、下表Aに挙げられている。
【0016】
【表1】
【0017】
上表Aに記載の遺伝子の発現レベルの決定は、多様な技法によって行うことができうる。一般に、決定されるような発現レベルは、相対発現レベルである。
【0018】
より好ましくは、その決定は、子宮内膜生検試料をプローブ、プライマーまたはリガンドなどの選択試薬と接触させることによって、もともと子宮内膜生検試料中にある関心が持たれるポリペプチドまたは核酸の存在を検出すること、またはその量を測定することを含む。接触は、プレート、マイクロタイターディッシュ、試験管、ウェル、グラス、カラムなどのような任意の適切な装置内で行うことができる。具体的な実施態様では、接触は、核酸アレイまたは特異的リガンドアレイなどの試薬で被覆された基材上で行われる。基材は、ガラス、プラスチック、ナイロン、紙、金属、ポリマーなどを含む任意の適切な支持体のような固体または半固体の基材でありうる。基材は、スライド、メンブラン、ビーズ、カラム、ゲルなどの多様な形状および大きさでありうる。接触は、試薬と、子宮内膜生検試料の核酸またはポリペプチドの間に形成されるべき核酸ハイブリッドまたは抗体−抗原複合体などの検出可能な複合体に適切な任意の条件下で行うことができる。
【0019】
好ましい一実施態様では、発現レベルは、mRNAの量を決定することによって決定することができる。
【0020】
mRNAの量を決定するための方法は、当技術分野において周知である。例えば、子宮内膜生検試料中に含有される核酸は、最初に標準法により、例えば溶解酵素もしくは化学溶液を使用して抽出されるか、または核酸結合樹脂により製造業者の説明書に従って抽出される。次に、抽出されたmRNAは、ハイブリダイゼーション(例えばノーザンブロット分析)および/または増幅(例えばRT−PCR)により検出される。好ましくは定量または半定量RT−PCRが好ましい。リアルタイム定量または半定量RT−PCRが特に有利である。
【0021】
他の増幅法には、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写介在増幅(transcription-mediated amplification)(TMA)、鎖置換増幅(strand displacement amplification)(SDA)および核酸配列ベース増幅(NASBA)が含まれる。
【0022】
少なくとも10個のヌクレオチドを有し、本明細書において関心が持たれるmRNAと配列相補性または相同性を示す核酸は、ハイブリダイゼーションプローブまたは増幅プライマーとしての有用性を見出す。そのような核酸は同一である必要はないが、典型的には匹敵するサイズの相同領域と少なくとも約80%同一であり、より好ましくは85%同一であり、いっそうより好ましくは90〜95%同一であることが理解されている。ある実施態様では、ハイブリダイゼーションを検出するために、検出可能なラベルなどの適切な手段と組み合わせて核酸を使用することが有利である。蛍光リガンド、放射性リガンド、酵素リガンドまたは他のリガンド(例えばアビジン/ビオチン)を含めた多種多様な適切な指示薬が、当技術分野において公知である。
【0023】
プローブは、典型的には10から1000の間、例えば10から800の間、より好ましくは15から700の間、典型的には20から500の間のヌクレオチド長の1本鎖核酸を含む。プライマーは、典型的には、増幅されることになっている関心が持たれる核酸と完全にまたはほぼ完全にマッチするように設計された、10から25の間のヌクレオチド長のより短い1本鎖核酸である。プローブおよびプライマーは、それらがハイブリダイゼーションする核酸に「特異的」であり、すなわちそれらは、好ましくは高ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件(最高融解温度Tmに対応する、例えば50%ホルムアミド、5×または6×SCC(SCCは0.15M NaCl、0.015Mクエン酸Naである))でハイブリダイゼーションする。
【0024】
上記増幅および検出法で使用される核酸プライマーまたはプローブをキットとしてまとめることができる。そのようなキットは、コンセンサスプライマーおよび分子プローブを含む。好ましいキットは、また、増幅が起こったかどうかを判定するために必要な構成要素を含む。キットは、また、例えばPCR緩衝液および酵素;陽性対照配列、反応対照プライマー;ならびに特異的配列を増幅および検出するための説明書を含みうる。
【0025】
特定の一実施態様では、本発明の方法は、子宮内膜生検試料から抽出された総RNAを提供し、より特定的には定量または半定量RT−PCRにより、該RNAを増幅および特異的プローブとのハイブリダイゼーションに供する工程、を含む。
【0026】
別の好ましい実施態様では、発現レベルはDNAチップ分析により決定される。そのようなDNAチップまたは核酸マイクロアレイは、マイクロチップ、ガラススライドまたは微小球サイズのビーズでありうる基材に化学的に付着された異なる核酸プローブから成る。マイクロチップは、ポリマー、プラスチック、樹脂、多糖、シリカもしくはシリカベースの材料、カーボン、金属、無機ガラス、またはニトロセルロースから構成されうる。プローブは、約10〜約60塩基対でありうるcDNAまたはオリゴヌクレオチドなどの核酸を含む。発現レベルを決定するために、場合により最初に逆転写に供された、被験患者からの子宮内膜生検試料がラベルされ、ハイブリダイゼーション条件でマイクロアレイと接触され、マイクロアレイ表面に付着されたプローブ配列に相補的なターゲット核酸との間で複合体の形成に至る。次に、ラベリングおよびハイブリダイゼーションされた複合体が検出され、それを定量または半定量することができる。ラベリングは、様々な方法によって、例えば放射性ラベリングまたは蛍光ラベリングを用いることによって達成することができる。マイクロアレイハイブリダイゼーション技法の多数の変形が、当業者に利用可能である(例えばHoheisel, Nature Reviews, Genetics, 2006, 7:200-210による総説を参照されたい)。
【0027】
これに関連して本発明は、さらに、表Aにリストされた遺伝子に特異的な核酸を担持する固体支持体を含むDNAチップを提供する。
【0028】
該遺伝子の発現レベルを決定するための他の方法には、該遺伝子によってコードされるタンパク質の量の決定が含まれる。
【0029】
そのような方法は、子宮内膜生検試料を、子宮内膜生検試料中に存在するマーカータンパク質と選択的に相互作用することができる結合パートナーと接触させることを含む。結合パートナーは、一般に、ポリクローナルまたはモノクローナル、好ましくはモノクローナルでありうる抗体である。
【0030】
タンパク質の存在は、標準的な電気泳動技法、および競合アッセイ、直接反応アッセイ、またはサンドイッチ型アッセイなどのイムノアッセイを含めた免疫診断技法を用いて検出することができる。そのようなアッセイには、非限定的にウエスタンブロット;凝集試験;ELISAなどの酵素ラベルおよび酵素介在性イムノアッセイ;ビオチン/アビジン型アッセイ;ラジオイムノアッセイ;免疫電気泳動;免疫沈降などが挙げられる。反応には、一般に蛍光ラベル、化学発光ラベル、放射性ラベル、酵素ラベルなどのラベルもしくは色素分子を顕示すること、または抗原と、それと反応した一つまたは複数の抗体との間の複合体の形成を検出するための他の方法が挙げられる。
【0031】
前述のアッセイは、液相中の未結合のタンパク質を、一般に抗原−抗体複合体が結合している固相支持体と分離することを含む。本発明の実施に使用することができる固体支持体には、ニトロセルロース(例えばメンブランまたはマイクロタイターウェルの形状);ポリ塩化ビニル(例えばシートまたはマイクロタイターウェル);ポリスチレンラテックス(例えばビーズまたはマイクロタイタープレート);ポリフッ化ビニリジン(polyvinylidine fluoride);ジアゾ化紙;ナイロンメンブラン;活性化ビーズ、磁気応答性ビーズなどの基材が挙げられる。
【0032】
より特定的には、マイクロタイタープレートのウェルが被験タンパク質に対する抗体で被覆されているELISA法を使用することができる。次に、マーカータンパク質を含有するまたは含有すると予測される子宮内膜生検試料を被覆後のウェルに添加する。抗体−抗原複合体の形成を可能にするために十分なインキュベーション時間の後に、プレート(一つまたは複数)を洗浄して未結合の部分を除去し、検出可能にラベルされた二次結合分子を添加することができる。その二次結合分子を、捕捉された任意の試料マーカータンパク質と反応させ、プレートを洗浄し、当技術分野において周知の方法を用いて二次結合分子の存在を検出する。
【0033】
または、免疫組織化学(IHC)法が好ましい場合がある。IHCは、特異的に、子宮内膜生検試料中のターゲットをin situ検出する方法を提供する。IHCでは子宮内膜生検試料の全体的な細胞完全性は維持され、それ故に関心が持たれるターゲットの存在と位置の両方の検出が可能になる。典型的には、子宮内膜生検試料をホルマリンで固定し、パラフィン中に包埋し、染色およびその後の光学顕微鏡による検査のために切断して切片にする。現行のIHC法は、直接ラベリングまたは二次抗体ベースもしくはハプテンベースのラベリングのいずれかを採用している。公知のIHCシステムの例には、例えばEnVision(商標)(DakoCytomation)、Powervision(登録商標)(Immunovision, Springdale, AZ)、NBA(商標)キット(Zymed Laboratories Inc., South San Francisco, CA)、HistoFine(登録商標)(Nichirei Corp, Tokyo, Japan)が挙げられる。
【0034】
特定の実施態様では、組織切片(すなわち子宮内膜生検試料)は、関心が持たれる遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体と共にインキュベーション後にスライドまたは他の支持体上にマウントすることができる。次に、適切な固体支持体上にマウントされた試料の顕微鏡検査を行うことができる。顕微鏡写真の生成のために、子宮内膜生検試料を含む切片をガラススライドまたは他の平面支持体上にマウントして、関心が持たれるタンパク質の存在を選択的に染色することによって強調することができる。
【0035】
従って、IHC子宮内膜生検試料は、例えば:(a)子宮内膜細胞を含む調製物、(b)固定および包埋された該細胞ならびに(c)該子宮内膜生検試料中の関心が持たれるタンパク質を検出することを含みうる。いくつかの実施態様では、IHC染色手順は、組織を切断および成形すること、固定、脱水、パラフィン浸潤、薄切片への切断、ガラススライド上へのマウント、焼成、脱パラフィン化、再水和、抗原賦活化、ブロッキング工程、一次抗体を適用すること、洗浄、二次抗体(場合により適切な検出可能なラベルと結合したもの)を提供すること、洗浄、対比染色、および顕微鏡観察などの工程を含みうる。
【0036】
本発明の方法は、さらに、子宮内膜生検試料中の遺伝子の発現レベルを対照試料と比較することから成る工程を含む場合があり、ここで、子宮内膜生検試料と対照試料の間の遺伝子発現レベルにおける差を検出することは、子宮内膜が受容性であるか否かを示す。典型的には、対照試料は、受容性の子宮内膜または非受容性の子宮内膜から得られた子宮内膜生検試料に、好ましくは非受容性の子宮内膜から得られた子宮内膜生検試料にありうる。典型的には、子宮内膜が受容性の患者における該遺伝子(一つまたは複数)の発現レベルは、非受容性の子宮内膜から得られた子宮内膜生検試料から成る対照試料よりも低いと見なされる(「発現低下」)。例えば、発現低下した遺伝子は、対照試料中の該遺伝子の発現レベルの少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも2.5倍、少なくとも5倍、少なくとも7.5倍または少なくとも10倍低い発現レベルを有する。
【0037】
一実施態様では、本発明の方法は、調節性過排卵誘起後の患者から得られた子宮内膜生検試料中の本発明の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個の遺伝子の発現レベルを測定する工程、スコアを計算する工程、および該スコアを参照値と比較する工程を含む。
【0038】
一実施態様では、該参照値は、陰性対照(非受容性の子宮内膜から得られた子宮内膜生検試料、非妊娠患者)または陽性対照(受容性の子宮内膜から得られた子宮内膜生検試料、妊娠患者)の子宮内膜生検試料で計算されたスコアでありうる。
【0039】
一実施態様では、本発明の少なくとも2個の遺伝子の発現レベルが測定された場合、スコアは、子宮内膜生検試料から測定された全ての遺伝子の発現レベルの平均(mean)または平均値(average)でありうる。
【0040】
このように本発明者らは、調節性過排卵誘起(COH)が子宮内膜受容性に影響しうることを実証した。従って本発明の方法は、ARTにおいて、特に多重着床障害を有する患者において新しい展望を開く。この場合、子宮内膜プロファイルの分析がCOHプロトコールの間に強く変化したプロファイルを明らかにし、IVF刺激プロトコールを適応させるか、またはその後の自然サイクルの間に胚移植を行うようにするかを臨床医に促す可能性がある。より詳細には、子宮内膜受容性がCOHプロトコールによって重大に損なわれている場合、新鮮胚移植を取りやめるべきであり、胚(または卵母細胞)を凍結し、融解胚移植を自然サイクル下で行うべきである。
【0041】
本発明は、また、上記方法を行うためのキットであって、表Aより選択される少なくとも1個の遺伝子の発現レベルを測定するための手段を含むキットに関する。
【0042】
本発明を、さらに、以下の図面および実施例により例証する。しかし、これらの実施例および図面は、決して本発明の範囲を限定するものとして解釈してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】「妊娠結果」の遺伝子リストが妊娠結果に応じて2群の子宮内膜試料を明確化することを示す図である。P
−、妊娠なし;P
+、妊娠陽性。
【
図2】調節性過排卵誘起後の患者の子宮内膜受容性を示す図である。子宮内膜生検試料は卵母細胞回収日に得た。本発明の遺伝子の発現低下は、子宮内膜が非受容性であることを示す。患者は、非受容性の子宮内膜および不都合な胚移植を示す。
【
図3】調節性過排卵誘起後の患者の子宮内膜受容性を示す図である。子宮内膜生検試料は卵母細胞回収日に得た。本発明の遺伝子の過剰発現は、子宮内膜が受容性であることを示す。患者は、受容性の子宮内膜および好都合な胚移植を示す。
【0044】
実施例:
実施例1:
材料および方法
患者の特徴および子宮内膜生検:このプロジェクトは、施設内審査委員会の承認を受けている。試験対象集団は、男性不妊のせいでIVFを受けるようにされた36歳未満の32人の正常レスポンダー患者(3日目に正常な血清FSH、LHおよびエストラジオール)を含んだ。患者は、GnRHアゴニストロングプロトコールまたはGnRHアンタゴニストプロトコールと、高精製ヒト閉経期ゴナドトロピンまたはリコンビナントFSHのいずれかとの組合せで調節卵巣刺激を受けていた。患者のインフォームドコンセントを集めた後に、1回の子宮内膜生検は、刺激サイクルの条件で、卵母細胞回収日(hCG+2)に実施された。各生検材料をRLT RNA抽出緩衝液(RNeasy Mini kit, Qiagen, Valencia, CA, USA)中に入れて−80℃で凍結した。
【0045】
相補的RNA(cRNA)の調製およびマイクロアレイのハイブリダイゼーション:総RNA(50から100ngの間)を使用して、Haouziら(2009)に記載されているようにHG-U133 plus 2.0アレイ(Affymetrix(商標))を用いてハイブリダイゼーション用に2回増幅およびラベルされたcRNAを調製した。各子宮内膜生検をDNAマイクロアレイチップ上に個別に加工した。
【0046】
データ処理:
スキャンされたGeneChip画像は、AGCC(Affymetrix GeneChip Command Console)ソフトウェアを用いて処理した。マイクロアレイのデータは、Affymetrix Expression Consoleソフトウェアを用いて解析し、正規化はMAS5アルゴリズムを用いて行って各プローブセットについて検出コールおよび強度値シグナルを得た。
【0047】
バイオインフォマティクスおよびin silico解析:
SAM(Significant Analysis of Microarrays, Stanford University, USA, Tusher et al. 2001)を使用して、二つのhCG+2試料群である妊娠群(n=10)と非妊娠群(n=22)の間で有意に発現が異なった遺伝子を同定した。SAMは、倍率変化値の平均(FC)または中央値およびデータ並べ替えに基づく偽発見率(FDR)の信頼パーセンテージを提供する。
【0048】
妊娠群および非妊娠群からのhCG+2子宮内膜試料(n=32)のプロファイル発現を比較するために、本発明者らは階層的クラスタリングで教師付き分類を行った。多様なプローブの発現レベルに基づく階層的クラスター分析は、CLUSTERおよびTREEVIEWソフトウェアパッケージを用いて行った。
【0049】
機能予測:
選択された遺伝子リストは、Ingenuity Pathway Analysis(IPA)ソフトウェア(Ingenuity Systems, Redwood City, CA)を用いて解析した。既知の遺伝子記号を有するそれらの遺伝子およびそれらに対応する発現値をソフトウェアにアップロードした。各遺伝子記号を、Ingenuity Pathways Knowledge Base内のそれに対応する遺伝子オブジェクトにマッピングした。これらの遺伝子のネットワークは、それらの接続性に基づきアルゴリズムにより発生させ、スコアを割り付けた。そのスコアは、入力データセット中の遺伝子にどれほど関連性があるかに応じてネットワークを順位付けするために使用される数値であって、ネットワークの質または重要性の指標ではない場合がある。そのスコアは、ネットワーク中のフォーカス遺伝子の数およびネットワークのサイズを考慮して、このネットワークがフォーカス遺伝子の本来のリストにどれほど関連性があるかを近似する。次に、同定されたネットワークを遺伝子/遺伝子産物間の分子関係性を示すグラフとして表す。遺伝子をノードとして表現し、2個のノードの間の生物学的関係をエッジ(線)として表現する。
【0050】
結果
妊娠患者と非妊娠患者の間の子宮内膜における異なるhCG+2遺伝子発現プロファイル
まず、妊娠患者のhCG+2子宮内膜試料と非妊娠患者のhCG+2子宮内膜試料の間で変動係数(≧40%)および不在/存在「検出コール」(少なくとも1個の試料中に存在)を用いた選択を行い、14,378個のプローブセットを描写した。次に、本発明者らは、2群間でSAM解析を行った。124個の遺伝子に対応する137個のプローブセットは、非妊娠群に比べて妊娠群で有意にダウンレギュレーションされていた。これら124個の遺伝子の教師付きクラスタリングは、二つの子宮内膜群をはっきりと分離した(
図1)。最もダウンレギュレーションされた15個の遺伝子を表Bに挙げる。
【0051】
二つの主要シグナリング経路は妊娠子宮内膜群と非妊娠子宮内膜群の間で異なる
発現低下が妊娠と関連している遺伝子のうち、最も大きな比率を占める生物学的経路はHGFおよびFGFシグナリングであった。それらには、HGF(x-1.8、FDR<0.0001)、FGF18(x-1.8、FDR<0.0001)、FGFBP1(x-3.9、FDR<0.0001)、およびMET(x-2.1、FDR<0.0001)が含まれていた。
【0052】
【表2】
【0053】
実施例2:
本発明者らは、調節性過排卵誘起後の患者の子宮内膜受容性を評価するために前向き研究を行って本発明による診断検査の関連性を検証した。
【0054】
試験対象集団には、IVF/ICSI手法を受けているCOS下の全ての患者を含めた。本発明による方法は、本発明者らが卵母細胞回収日に得られた子宮内膜生検試料での定量RT−PCRを用いて検証した。
【0055】
患者の子宮内膜生検試料中の本発明の15個の遺伝子の発現レベルを測定し、本発明の15個の遺伝子の発現レベルの平均を計算し、陰性対照(非妊娠患者)および陽性対照(妊娠患者)の子宮内膜生検試料中の該遺伝子の発現レベルと比較した。
【0056】
結果から、本発明の遺伝子の発現低下は子宮内膜が受容性であることを示し(
図2)、本発明の遺伝子の過剰発現は子宮内膜が非受容性であることを示す(
図3)ことが実証された。本発明の遺伝子は、調節性過排卵誘起後の子宮内膜受容性の予測値を示す。
【0057】
参考文献:
本出願を通じて、本発明が属する技術分野の現状を様々な参考文献が説明している。これらの参考文献の開示は、これによって参照により本開示に組み入れられる。
【0058】
【表3】