(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204921
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】シクロスポリンAの形態2およびその作製方法
(51)【国際特許分類】
C07K 7/64 20060101AFI20170914BHJP
A61K 38/13 20060101ALN20170914BHJP
A61P 27/02 20060101ALN20170914BHJP
A61P 37/08 20060101ALN20170914BHJP
【FI】
C07K7/64
!A61K38/13
!A61P27/02
!A61P37/08
【請求項の数】21
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-542396(P2014-542396)
(86)(22)【出願日】2012年11月14日
(65)【公表番号】特表2014-533300(P2014-533300A)
(43)【公表日】2014年12月11日
(86)【国際出願番号】US2012064985
(87)【国際公開番号】WO2013074608
(87)【国際公開日】20130523
【審査請求日】2015年11月11日
(31)【優先権主張番号】61/559,830
(32)【優先日】2011年11月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591018268
【氏名又は名称】アラーガン、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(72)【発明者】
【氏名】ウー・コー
(72)【発明者】
【氏名】スコット・ダブリュー・スミス
【審査官】
福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−211598(JP,A)
【文献】
特表2002−503703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶形態のシクロスポリンAを作製する方法であって:
a)水と、アセトニトリル、1,4−ジオキサンおよびエタノールからなる群から選択される成分とを含む溶媒中のシクロスポリンAの懸濁液を調製するステップ;
b)該懸濁液を5℃〜50℃の温度に加熱した後、1℃〜35℃の温度に冷却することを含む第1の加熱冷却サイクルのステップ;
c)該懸濁液を5℃〜50℃の温度に加熱した後、1℃〜35℃の温度に冷却することを含む第2の加熱冷却サイクルのステップ;および
d)該懸濁液を5℃〜50℃の温度に加熱した後、1℃〜35℃の温度に冷却することを含む第3の加熱冷却サイクルのステップ
を含む、方法。
【請求項2】
溶媒が水およびアセトニトリルを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
溶媒中の水のモル分率が0.8〜1.0である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
溶媒中の水のモル分率が0.87である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
溶媒が水および1,4−ジオキサンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
溶媒中の水のモル分率が0.8〜1.0である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
溶媒中の水のモル分率が0.90である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
溶媒が水およびエタノールを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
溶媒中の水のモル分率が0.8〜1.0である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
溶媒中の水のモル分率が0.89である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
第1、第2または第3の加熱冷却サイクルが、懸濁液を5℃〜50℃の温度に毎分0.05℃〜2℃の速度で加熱した後、1℃〜35℃の温度に毎分0.01℃〜1℃の速度で冷却することを含む、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
少なくとも二つの加熱冷却サイクルが、懸濁液を5℃〜50℃の温度に毎分0.05℃〜2℃の速度で加熱した後、1℃〜35℃の温度に毎分0.01℃〜1℃の速度で冷却することを含む、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
第1、第2および第3の加熱冷却サイクルが、懸濁液を5℃〜70℃の温度に毎分0.05℃〜2℃の速度で加熱した後、1℃〜35℃の温度に毎分0.05℃〜2℃の速度で冷却することを含む、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
第1、第2および第3の加熱冷却サイクルが、懸濁液を5℃〜50℃の温度に毎分0.1℃の速度で加熱した後、5℃の温度に毎分1℃の速度で冷却することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
結晶形態のシクロスポリンAを作製する方法であって:
a)溶媒中のシクロスポリンAの懸濁液を調製するステップ;
b)該懸濁液を加熱するステップ;
c)該懸濁液に結晶形態のシクロスポリンAを加えるステップ;
d)該懸濁液を攪拌するステップ;および
e)該懸濁液から結晶形態のシクロスポリンAを単離するステップ
を含む、方法。
【請求項16】
懸濁液を加熱するステップが、懸濁液を40℃〜70℃の温度で加熱することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
懸濁液を加熱するステップが、懸濁液を60℃〜65℃の温度で加熱することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
懸濁液を攪拌するステップが、懸濁液を20℃〜70℃の温度で攪拌することを含む、請求項15〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
懸濁液を攪拌するステップが、懸濁液を60℃〜65℃の温度で攪拌することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
懸濁液を攪拌するステップが、懸濁液を24時間〜72時間攪拌することを含む、請求項15〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
懸濁液を攪拌するステップが、懸濁液を22時間〜23時間攪拌することを含む、請求項15〜19のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明者 Ke Wu、およびScott W. Smith
関連出願の相互参照
本特許出願は、2011年11月15日に出願された米国特許仮出願第61/559,830の優先権を主張し、その内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
本明細書で開示するのは、クロスポリンAの新規結晶形態を作製する方法である。
【0003】
シクロスポリンA
シクロスポリンA(CsA)は、以下の化学構造:
【化1】
を有する環状ペプチドである。その化学名は、シクロ[[(E)−(2S,3R,4R)−3−ヒドロキシ−4−メチル−2−(メチルアミノ)−6−オクテノイル]−L−2−アミノブチリル−N−メチルグリシル−N−メチル−Lロイシル−L−バリル−N−メチル−L−ロイシル−L−アラニル−D−アラニル−N−メチル−L−ロイシル−N−メチル−L−ロイシル−Nメチル−L−バリル]である。それは、シクロスポリン(cyclosporine)、シクロスポリンA(cyclosporine A)、シクロスポリン(ciclosporin)、およびシクロスポリンA(ciclosporin A)の名でも知られている。それは、Restasis(登録商標)(アラガン社(Allergan, Inc.)、カリフォルニア州、アーバイン)、すなわち0.05%(w/v)のシクロスポリンを含むエマルジョンの活性成分である。Restasis(登録商標)は米国では、乾性角結膜炎に関連する眼の炎症に起因して涙液産生が減少すると考えられる患者の涙液産生を増加させることが認められている。
【0004】
シクロスポリンAは、非晶質形態、液晶形態、正方晶形態(形態1)、および斜方晶形態(形態3)で存在することが知られている。本発明者らは本明細書で、新規結晶形態、すなわちシクロスポリンAの形態2の作製方法を記載する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】新規結晶形態(本明細書では形態2と表示)、正方晶形態(本明細書では形態1と表示)、および斜方晶形態(本明細書では形態3と表示)をとるCsAの、特徴的なX線粉末回折(XRPD)パターンを示す。
【
図2】CsAの結晶形態2のXRPDディフラクトグラムを示す。
【
図3】CsA形態2の水収着/脱着プロファイルを示す。
【
図4】1%のPS80を有する0.04%の剤形から回収したCsA形態2のMDSC分析を示す。
【
図5】本発明の方法により生成するCsA形態2を生成するのに使用した加熱と冷却のサイクルを示す。
【
図6】非晶質シクロスポリンAを出発物質として用い、本発明の方法により得られたCsA形態2のX線回折パターン(XRPD)を示す。
【
図7】正方晶シクロスポリンAを出発物質として用い、本発明の方法により得られたCsA形態2のXRPDを示す。
【
図8】出発物質として斜方晶シクロスポリンAを用い、本発明の方法により得られたCsA形態2のXPRDを示す
【
図9】シクロスポリンAの形態のXRPDパターンをシミュレートしたものを示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
CsA形態2のXPRDパターンは、正方晶形態および斜方晶形態とは顕著に異なる(
図1)。CsA形態2についての主要な結晶ピークは、X線源としてCu Kα放射を用いたX線回折計によりスキャンする場合、λ=1.54Å、30kV/15mAで、(2θ)の位置に出現し:7.5、8.8、10.2、11.3、12.7、13.8、14.5、15.6および17.5(それぞれ、約11.8、10.0、8.7、7.8、7.0、6.4、6.1、5.6および5.1Åでの、結晶格子の面間隔、
図2)である。これらの主要ピークは、斜方晶、または正方晶の形態と比較した場合、形態2に特有のものであるとされ;それだけでなく、バックグラウンドよりも5倍より大きい強度を有するピークである。
【0007】
一実施形態では、CsAの新規結晶形態(形態2)は、シクロスポリンAの非化学量論的水和物である。別の実施形態では、結晶形態2は、式:
【化2】
で表され、式中、Xは水分子の数であり、0から3まで変化する。一実施形態では、上式のXは2である。
【0008】
形態2は、水性懸濁液中で動力学的に安定な、CsA形態であるように見える。形態2を含む懸濁液は、貯蔵する際にその他の既知の多形は不正形の形態に転換しないことを示している。形態1および非晶質形態は、水の存在下で形態2に転換することが見いだされている。
【0009】
CsA形態2の水和物形態の単結晶構造を決定しており、その結晶構造パラメータを表2に載せる。これらの結果は、形態2がシクロスポリンAの他の既知の結晶形と比較して特有なものであることを示している。
【0011】
このCsA形態2の非対称単位は、一つのシクロスポリンA分子と二つの水分子を含む。水に水素結合することのできるあらゆる小分子が空間フィラーの役割を果たす可能性があり、これにより、斜方晶系二水和物から、歪んだ単斜晶系二水和物に至るまで、多様な可能性をもつ構造が得られる可能性がある。単結晶構造から計算したXRPDパターンを
図9に示すが、これは、
図2に示す、実験で得られたパターンに一致する。一致するこれらのパターンは、形態2がシクロスポリンAの特有で純粋な結晶形であることをさらに裏付けるものである。
【0012】
理論に束縛されることを望むものではないが、KF滴定および蒸気収脱着分析(VSA)と組み合わせた熱重量分析から、CsA形態2が、CsAの非化学量論的水和物であることが示唆される。シクロスポリン形態2の蒸気収着分析は、この新規結晶形態の含水量が、
図3に示すとおり、相対湿度とともに可逆的に変化することを示している。正方晶形態と同様に、新規CsA形態は、変調示差熱量測定(MDSC)の分析(
図4)に示すとおり、融解する前に124.4℃で、液晶または非晶質の形態への相転移をする。
【0013】
CsA形態2に関するさらなる詳細は、米国特許出願第13/480,710号に見出だすことが可能であり、その全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0014】
シクロスポリンAの形態2を得る方法
ポリソルベート80からの沈殿によるもの
シクロスポリンAのForm2は、ポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタン−モノ−オレエート)を含む水中に、非晶質シクロスポリンAを懸濁させた後、溶液を約55℃〜約75℃の温度に加熱して、少なくとも約18時間〜約48時間、その温度で保存し、その後、沈殿物であるシクロスポリンAの形態2を除去することによって得てもよい。
【0015】
この方法では、シクロスポリンAを、約0.001%〜約10%の濃度で使用することができる。本明細書で使用するとおり、「約(about)」という用語は、値に関連して使用する場合には、言及した値に合理的に近接していることを意味する。
【0016】
従ってこの方法では、シクロスポリンAを、約0.001%(w/v)、約0.005%(w/v)、約0.01%(w/v)、約0.02%(w/v)、約0.03%(w/v)、約0.04%(w/v)、約0.05%(w/v)、約0.06%(w/v)、約0.07%(w/v)、約0.08%(w/v)、約0.09%(w/v)、約0.1%(w/v)、約0.2%(w/v)、約0.3%(w/v)、約0.4%(w/v)、約0.5%(w/v)、約0.6%(w/v)、約0.7%(w/v)、約0.8%(w/v)、約0.9%(w/v)、約1%(w/v)、約2%(w/v)、約3%(w/v)、約4%(w/v)、約5%(w/v)、約6%(w/v)、約7%(w/v)、約8%(w/v)、約9%(w/v)、または約10%(w/v)のシクロスポリンAの濃度で使用することができる。
【0017】
この方法では、ポリソルベート80を、約0.1%(w/v)、約0.2%(w/v)、約0.3%(w/v)、約0.4%(w/v)、約0.5%(w/v)、約0.6%(w/v)、約0.7%(w/v)、約0.8%(w/v)、約0.9%(w/v)、約1%(w/v)、約2%(w/v)、約3%(w/v)、約4%(w/v)、約5%(w/v)、約6%(w/v)、約7%(w/v)、約8%(w/v)、約9%(w/v)、または約10%(w/v)等の、約0.1%〜10%のポリソルベート80の濃度で使用することができる。
【0018】
シクロスポリンAをポリソルベート80中に懸濁させた後、溶液を、約55℃、約56℃、約57℃、約58℃、約59℃、約60℃、約61℃、約62℃、約63℃、約64℃、約65℃、約66℃、約66℃、約67℃、約68℃、約69℃、約70℃、約71℃、約72℃、約73℃、約74℃、または約75℃等、約55℃〜約75℃の温度に加熱することができる。
【0019】
加熱した溶液を、前述の温度の一つで、約18時間、約19時間、約20時間、約21時間、約22時間、約23時間、約24時間、約25時間、約26時間、約27時間、約28時間、約29時間、約30時間、約31時間、約32時間、約33時間、約34時間、約35時間、約36時間、約37時間、約38時間、約39時間、約40時間、約41時間、約42時間、約43時間、約44時間、約45時間、約46時間、約47時間、または約48時間等、約18時間〜約48時間、保存することができる。
【0020】
溶液を調製して加熱し、それを所望の温度に維持した後、結果として得られた沈殿固体を、真空ろ過等、いかなる標準的な方法で回収してもよい。回収の後、続いて沈殿物を洗浄し乾燥してもよい。例えば、それを水で洗浄した後、真空下、高温(例えば、約40℃)で、続いて室温で乾燥してもよい。その他の洗浄および乾燥の技術もまた使用してよい。
【0021】
シクロスポリンAの形態2を種結晶として使用
シクロスポリンAの形態2はまた、シクロスポリンAの形態2を種結晶として使用して形成してもよい。この方法では、非晶質シクロスポリンAをポリソルベート80の水溶液に懸濁させ、この溶液を、上述のとおりに加熱することができる。その後、溶液にシクロスポリンAの形態2を種として入れ、続いて溶液を上述の温度で上述の時間維持し、その間常に溶液を攪拌することができる。この工程の終わりに、さらに沈殿物を上述のとおりに回収することができる。
【0022】
この工程では、水1リットルあたり約0.01g〜約1gの種結晶を使用することができる。例えば、約0.01g/L、約0.02g/L、約0.03g/L、約0.04g/L、約0.05g/L、約0.06g/L、約0.07g/L、約0.08g/L、約0.09g/L、約0.1g/L、約0.2g/L、約0.3g/L、約0.4g/L、約0.5g/L、約0.6g/L、約0.7g/L、約0.8g/L、約0.9g/L、または水1リットルあたり約1gの種結晶を使用することができる。
【0023】
非晶質シクロスポリンAシクロスポリンA形態2の種結晶の懸濁液を、約45℃〜約65℃の温度に加熱してから、それを溶液に加えることができ、または、種結晶を室温放置してから、それを加えることができる。例えば、シクロスポリンAの形態2の種結晶を、約45℃、約46℃、約47℃、約48℃、約、約49℃、約50℃、約51℃、約52℃、約53℃、約54℃、約55℃、約56℃、約57℃、約58℃、約59℃、約60℃、約61℃、約62℃、約63℃、約64℃、または約65℃に加熱してから、それを溶液に加えることができる。
【0024】
例えば、約30gのシクロスポリンAを、1%(w/v)のポリソルベート80を含む水900mlに懸濁させてもよい。この溶液を65℃に加熱し、その後、溶液に0.2gのシクロスポリンAの形態2を、52℃の温度で、種として入れることができる。溶液を約22時間、約61℃〜65℃の温度で攪拌する。結果として得られた沈殿物を、上述のとおりに回収してもよい。
【0025】
特定の溶媒系での加熱と冷却によるもの
非常に一般的に述べれば、シクロスポリンAの形態2を、1)シクロスポリンAを、水中、または,水とアセトニトリル、1,4−ジオキサン、若しくはエタノールとの溶液中のどちらかに懸濁させること;2)懸濁液を特定の速度で加熱すること;3)懸濁液を特定の速度で冷却すること;4)この加熱と冷却のサイクルを反復すること;5)および結果として得られた沈殿物を回収することによって得てもよい。溶媒の選択が非常に重要であり:ある溶媒によってCsA形態2の形成が生じるかどうか、予測が得られる構造的特徴または他の性質を、本発明人らは見出だすことができなかった。
【0026】
本実施形態において、シクロスポリンAの液晶、立方晶、または斜方晶の形態を使用することができ、または非晶質の形態を使用することができる。出発物質の選択により、非常にわずかに異なる特性を有するCsA形態2が得られる(
図XおよびYを見られたい)が、重要な点は、異なる出発物質を用いることができ、それでもCsA形態2が得られることである。
【0027】
この方法の第1ステップでは、所望の出発物質(すなわち、液晶、立方晶、斜方晶の形態、または非晶質のシクロスポリンA)を水に懸濁させることにより、または、それぞれ水に溶解させたアセトニトリル、1,4−ジオキサンまたはエタノールに出発物質を懸濁させることにより溶液を調製する。このステップでは、水1Lあたり約0.01g〜約1gの出発物質を用いることができる。例えば、水1Lあたり約0.01g、約0.02g、約0.03g、約0.04g、約0.05g、約0.06g、約0.07g、約0.08g、約0.09g、約0.1g、約0.2g、約0.3g、約0.4g、約0.5g、約0.6g、約0.7g、約0.8g、約0.9g、または約1gの出発物質を用いることができる。所望の溶媒(アセトニトリル、1,4−ジオキサン、またはエタノール)を、約0.75〜1のモル比率の水を有する溶液となるその量で加える。例えば、溶媒を、約0.75、約0.76、約0.77、約0.78、約0.79、約0.80、約0.81、約0.82、約0.83、約0.84、約0.85、約0.86、約0.87、約0.88、約0.89、約0.90、約0.91、約0.92、約0.93、約0.94、約0.95、約0.96、約0.97、約0.98、約0.99、および約1のモル比率を有する溶液となる量で加える。
【0028】
この方法の第2のステップでは、続いて溶液を、約5℃〜50℃の温度に毎分約0.01℃〜約1℃の速度で加熱する。一実施形態では、溶液を、約5℃〜約10℃、約10℃〜約15℃、約15℃〜約20℃、約20℃〜約25℃、約25℃〜約30℃、約30℃〜約35℃、約35℃〜約40℃、約40℃〜約45℃、または約45℃〜約50℃の温度に加熱することができる。別の実施形態では、溶液を、約5℃〜約15℃、約15℃〜約25℃、約25℃〜約35℃、約35℃〜約45℃、または約40℃〜約50℃の温度に加熱することができる。例えば、溶液を、約1℃、約2℃、約3℃、約4℃、約5℃、約6℃、約7℃、約8℃、約9℃、約10℃、約11℃、約12℃、約13℃、約14℃、約15℃、約16℃、約17℃、約18℃、約19℃、約20℃、約21℃、約22℃、約23℃、約24℃、約25℃、約26℃、約27℃、約28℃、約29℃、約30℃、約31℃、約32℃、約33℃、約34℃、約35℃、約36℃、約37℃、約38℃、約39℃、約40℃、41℃、約42℃、約43℃、約44℃、約45℃、約46℃、約47℃、約48℃、約49℃、または約50℃の温度に加熱することができる。
【0029】
一実施形態では、溶液を、約0.01℃/分〜約0.05℃/分、約0.05℃/分〜0.1℃/分、約0.1℃/分〜約0.2℃/分、約0.2℃/分〜約0.3℃/分、約0.3℃/分〜約0.4℃/分、約0.4℃/分〜約0.5℃/分、約0.5℃/分〜約0.6℃/分、約0.6℃/分〜約0.7℃/分、約0.7℃/分〜約0.8℃/分、約0.8℃/分〜約0.9℃/分、または約0.9℃/分〜約1℃/分の速度で加熱する。例えば溶液を、約0.01℃/分、約0.02℃/分、約0.03℃/分、約0.04℃/分、約0.05℃/分、約0.06℃/分、約0.07℃/分、約0.08℃/分、約0.09℃/分、約0.1℃/分、約0.2℃/分、約0.3℃/分、約0.4℃/分、約0.5℃/分、約0.6℃/分、約0.7℃/分、約0.8℃/分、約0.9℃/分、または約1℃/分の速度で加熱することができる。
【0030】
この方法の第3のステップでは、続いて溶液を、約1℃〜約22℃の温度に冷却する。一実施形態では、溶液を、約1℃〜約5℃、約5℃〜約10℃、約10℃〜約15℃、約15℃〜約20℃、または約17℃〜約22℃の温度に冷却することができる。別の実施形態では、溶液を、約1℃〜約10℃、約5℃〜約15℃、約10℃〜約20℃、または約15℃〜約22℃の温度に冷却することができる。例えば、溶液を、約1℃、約2℃、約3℃、約4℃、約5℃、約6℃、約7℃、約8℃、約9℃、約10℃、約11℃、約12℃、約13℃、約14℃、約15℃、約16℃、約17℃、約18℃、約19℃、約20℃、約21℃、または約22℃の温度に冷却することができる。
【0031】
溶液を、それを加熱する際の速度と同一または異なる速度で冷却してもよい。一実施形態では、溶液を、約0.01℃/分〜約0.05℃/分、約0.05℃/分〜0.1℃/分、約0.1℃/分〜約0.2℃/分、約0.2℃/分〜約0.3℃/分、約0.3℃/分〜約0.4℃/分、約0.4℃/分〜約0.5℃/分、約0.5℃/分〜約0.6℃/分、約0.6℃/分〜約0.7℃/分、約0.7℃/分〜約0.8℃/分、約0.8℃/分〜約0.9℃/分、または約0.9℃/分〜約1℃/分の速度で冷却する。例えば、溶液を、約0.01℃/分、約0.02℃/分、約0.03℃/分、約0.04℃/分、約0.05℃/分、約0.06℃/分、約0.07℃/分、約0.08℃/分、約0.09℃/分、約0.1℃/分、約0.2℃/分、約0.3℃/分、約0.4℃/分、約0.5℃/分、約0.6℃/分、約0.7℃/分、約0.8℃/分、約0.9℃/分、または約1℃/分の速度で冷却することができる。
【0032】
その後、上述の方法を用いて、形成されたあらゆる沈殿物の回収に進むか、または、同一若しくは異なる温度、または同一若しくは異なる加熱冷却速度を用いて、加熱と冷却のステップを反復してもよい。一実施形態では、加熱と冷却のステップを一回繰り返す、すなわち、まず溶液を加熱した後、冷却し、その後再び、溶液を加熱し冷却する。別の実施形態では、冷却と加熱のステップを2回、繰り返す、すなわち、まず溶液を加熱した後、冷却し、その後、第2回目に溶液を加熱して冷却し、その後、第3回目に溶液を加熱して冷却する。別の実施形態では、加熱と冷却のステップを3回繰り返す、すなわち、まず溶液を加熱した後、冷却し、その後、第2回目に溶液を加熱して冷却し、その後、第3回目に溶液を加熱して冷却し、そしてその後、第4回目に溶液を加熱して冷却する。各加熱ステップの間、溶液を同一または異なる温度に、同一または異なる速度で加熱することができ;同様に、各冷却ステップの間、溶液を同一または異なる温度に、同一または異なる速度で加熱することができる。
【0033】
一実施形態では、溶液を所望の温度に加熱した直後に、溶液を冷却し始める。別の実施形態では、溶液を、加熱温度で約0時間〜約25時間、維持した後に、それを冷却し始める。例えば、溶液を加熱温度に、約0〜約5時間、約5〜約10時間、約10〜約15時間、約15〜約20時間、または約20〜25時間、維持することができる;別の実施形態では、溶液を加熱温度に、約0〜約10時間、約5〜約15時間、約10〜約20時間、または約15〜約25時間、維持することができる。例えば、溶液を加熱温度に、約0.5時間、約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、約10時間、約11時間、約12時間、約13時間、約14時間、約15時間、約16時間、約17時間、約18時間、約19時間、約20時間、約21時間、約22時間、約23時間、約24時間、または約25時間、維持することができる。
【0034】
もし、加熱冷却サイクルを反復するのであれば、溶液を、それを所望の温度に冷却した後、すぐに加熱することができるか、または、溶液を冷却温度に、約0〜約24時間、維持した後に、それを再び加熱し始めることができる。例えば、溶液を、約0〜約5時間、約5〜約10時間、約10〜約15時間、約15〜約20時間、または約20〜25時間、維持することができる;別の実施形態では、溶液を冷却温度に、約0〜約10時間、約5〜約15時間、約10〜約20時間、または約15〜約25時間、維持することができる。例えば、溶液を冷却温度に、約0.5時間、約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、約10時間、約11時間、約12時間、約13時間、約14時間、約15時間、約16時間、約17時間、約18時間、約19時間、約20時間、約21時間、約22時間、約23時間、約24時間、または約25時間、維持することができる。
【0035】
加熱と冷却のサイクルの終わりでは、溶液を最終の冷却温度に約0〜約24時間、保持した後、上述のとおりに沈殿物を回収することができる
【0036】
実施例
本発明をさらに、以下の実施例により例示する。
【実施例1】
【0037】
シクロスポリンA(CsA)の、非晶質、立方晶(F1)、または斜方晶の形態のいずれかを、水、アセトニトリル、ジオキサン、またはエタノールに、以下の表1に記載のとおりに懸濁させた:
【0038】
【表2】
【0039】
上の各溶液を50℃に、毎分0.1℃の速度で加熱し、その温度で600分、維持した;その後、溶液を20℃に、同一速度で冷却し、その温度で300分、維持した;この加熱と冷却のサイクルを、
図5に例示し表2に要約してあるとおり、さらに2回、繰り返した:
【0040】
【表3】
【0041】
非晶質シクロスポリンAを出発物質して用い、このようにして得られた、シクロスポリンAの形態2のX線粉末回折パターン(XRPD)を、
図6に例示する;正方晶シクロスポリンAを出発物質として用いて得られた、シクロスポリンAの形態2のXRPDを、
図7に例示する;斜方晶シクロスポリンAを出発物質として用いて得られた、シクロスポリンAの形態2のXRPDを
図8に例示する。CsA形態のXRPDパターンは、Rigaku MiniFlex X線回折計(λ=1.54Å、30kVおよび15mAでの、Cu K
α放射)を用いて得られた。この機器を、28.44°(2シータ)に基準ピークを持つシリコン標準試料を用いて較正した。X線回折実験は、3°〜45°(2シータ)で、毎分0.5°または1°(2シータ)のスキャン速度、0.05°(2シータ)のステップ幅で実行した。
【0042】
シクロスポリンAの形態2を生成しなかった実験条件を以下の表3に示す:
【0043】
【表4】
【0044】
治療の方法
本発明の方法により得られたCsA形態2を、シクロスポリンAによる(Restasis(登録商標)による等の)局所治療に適したどんな眼の状態の治療にも使用してよい。例えば、本発明の組成物を、数ある状態のうち、ドライアイを患う患者の治療、眼瞼炎および瞼板腺疾患の治療、眼の屈折矯正手術に起因して障害をうけた角膜知覚の回復、アレルギー性結膜炎、およびアトピー性角結膜炎および春季カタルの治療、および翼状片(ptyregia)の治療、結膜と角膜の炎症、角結膜炎、移植片対宿主病、移植後緑内障、角膜移植片、真菌性角膜炎、タイゲソン表層点状角膜炎、ぶどう膜炎、およびテオドール上輪部角結膜炎に使用してもよい。
【0045】
国際ドライアイ研究会(The International Dry Eye Workshop (DEWS))は、ドライアイを「不快な、視覚障害と、眼表面の潜在的損傷を伴う涙液膜不安定性との症状を生じる、眼表面と涙液との多要因の疾患であって、涙液膜のモル浸透圧濃度の増加と眼表面の炎症とを伴うもの」と定義している。その定義には、乾性角結膜炎等の、涙液の欠乏または涙液の過剰蒸発により生じるそれらの状態が含まれる。
【0046】
眼瞼炎は、眼瞼縁の前部および後部の炎症を産生する慢性障害であり、皮膚およびそれらの関連構造(毛および脂腺)、粘膜皮膚移行部、並びにマイボーム腺が関与する。それは、進行した段階において、結膜、涙液膜、および角膜表面を襲う可能性があり、ドライアイと関連することもある。眼瞼炎は一般に、前部および後部眼瞼炎に分類され、前部は、睫毛を支える瞼領域を襲い、後部は、瞼板腺開口部を主に襲う。
【0047】
マイボーム腺疾患は最も頻繁に、三つの形態で発生する:一次性マイボーム腺炎、二次性マイボーム腺炎、およびマイボーム腺脂漏症である。マイボーム腺脂漏症は、炎症の非存在下での、過剰なマイボーム腺分泌物が特徴である(過剰分泌性のマイボーム腺病患)。一次性マイボーム腺炎は対照的に、淀んで濃縮したマイボーム腺分泌物によって識別される(閉塞性の過剰分泌性マイボーム腺病患)。二次性マイボーム腺炎は局在化した炎症反応であり、前部眼瞼縁の眼瞼炎から、マイボーム腺に二次的な点状の炎症が生じる。
【0048】
角膜知覚障害はしばしば、光学的角膜切除手術、レーザーアシスト角膜上皮切除手術(LASEK)、EPI−LASEK、専用の経上皮非接触アブレーション、または角膜神経を切断するその他の手順等、屈折矯正手術の後に発生する。角膜知覚障害はまた、HSV−1、HSV−2、およびVZVウィルス等の、ウィルスに感染した後に発生することもある。角膜知覚障害を有する患者は、涙液の産生と蒸発が正常なことがあっても、しばしば、眼の乾燥を感じると訴えることから、そうした患者における「乾燥」が、実際に角膜ニューロパチーの一形態であって、角膜神経が、手術により切断される場合またはウィルス感染症の後に炎症を起こす場合に、そのニューロパチーが生じることが示唆される。
【0049】
アレルギー性結膜炎は、一つまたは複数の抗原に対する過敏性の結果生じる結膜炎症である。それは、急性、間欠性、または慢性であることがある。それは、季節的、すなわち1年の特定の時期に生じることがあり、または通年的に、すなわち、慢性的に1年を通じて生じることがある。季節性および通年性アレルギー性結膜炎の症状には、結膜の炎症に加えて、涙液分泌、流涙、結膜血管の拡張、かゆみ、乳頭増殖、結膜浮腫、眼瞼浮腫、および眼からの分泌物が挙げられる。分泌物は、夜間睡眠の後、眼を覆う痂皮を形成することがある。
【0050】
アトピー性角結膜炎は、アレルギー性結膜炎の慢性で重度の形態であり、しばしば視力障害を引き起こす。症状には、かゆみ、灼熱感、疼痛、赤み、異物感、光過敏症、および霧視が挙げられる。分泌物が、特に夜間睡眠の後の覚醒時に、しばしば見られる;分泌物は、糸を引くような(stringy)、粘着性、および粘液状であることもある。下結膜はしばしば、上結膜よりも圧倒的に襲われやすい。結膜は、蒼白、浮腫状で、特徴のないものから、進行した疾患の特徴を有するものまでにわたり、進行した疾患の特徴には、乳頭増殖、上皮下線維症、円蓋の縮小、睫毛乱生、眼瞼内反、および睫毛禿が挙げられる。一部の患者では、疾患は、斑点状の上皮びらん、角膜血管新生、および視力障害の可能性がある他の角膜症の特徴に進行する。典型的には、結膜での杯状細胞の増殖、上皮偽管形成、並びに上皮で脱顆粒する好酸球およびマスト細胞の数の増加が見られる。CD25+Tリンパ球、マクロファージ、および樹状細胞(HLA−DR.sup.+、HLA−CD1+)が、角膜固有質において有意に増加する。
【0051】
アトピー性角結膜炎と同様、春季カタルは、アレルギー性結膜炎の重度の形態であるが、しかし下結膜よりも上結膜を圧倒的に襲う傾向がある。それは、二つの形態で生じる。眼瞼型では、四角の、固い、平坦な、密接に詰まった乳頭が存在する;眼球(角膜縁)型では、角膜周囲の結膜が肥大し灰色を帯びるようになる。両形態ともしばしば、粘液状分泌物を伴っている。角膜中央のプラークおよびトランタス斑点と同様に、角膜上皮の喪失が、疼痛および羞明を伴って生じる可能性がある。