(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204931
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】紙製容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
B31B 50/59 20170101AFI20170914BHJP
B65D 1/26 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
B31B50/59
B65D1/26
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-19732(P2015-19732)
(22)【出願日】2015年2月3日
(65)【公開番号】特開2016-141080(P2016-141080A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2016年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】390028820
【氏名又は名称】蔵前産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592140621
【氏名又は名称】アイパックスイケタニ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081385
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 修治
(72)【発明者】
【氏名】大原 康弘
(72)【発明者】
【氏名】金指 恵司
【審査官】
植前 津子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−314246(JP,A)
【文献】
特開2004−154959(JP,A)
【文献】
特開昭61−118225(JP,A)
【文献】
特表昭59−500701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B31B 50/59
B65D 1/00−1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙製ブランクを一対の金型で絞り成形して紙製容器を製造する紙製容器の製造方法において、
紙製ブランクが、密度0.50g/cm3〜0.75g/cm3の低密度紙の一枚板、又は該低密度紙を複数枚重ねたものから形成され、
紙製容器の底部と、該底部からの立ち上がり壁部である胴部とからなる全体が、一対の金型を構成する雌型と雄型で絞り成形され、それらの雌型と雄型の絞り成形時のクリアランスが紙製ブランクの紙厚より小さく設定されることを特徴とする紙製容器の製造方法。
【請求項2】
前記紙製ブランクを形成する低密度紙の坪量が200g/m2〜700g/m2である請求項1に記載の紙製容器の製造方法。
【請求項3】
前記絞り成形の成形温度を100℃以上とする請求項1又は2に記載の紙製容器の製造方法。
【請求項4】
前記紙製容器の絞り深さを20mm以上とする請求項1〜3のいずれかに記載の紙製容器の製造方法。
【請求項5】
前記一対の金型を構成する雌型と雄型の絞り成形時のクリアランスが0.5mm〜0.8mmの範囲内にあるとき、容器本体の胴部に相当する部分のクリアランスである0.8mmを、容器本体の底部に相当する部分のクリアランスである0.5mmに比して大きくしてなる請求項1〜4のいずれかに記載の紙製容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紙製容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙製容器の製造方法として、特許文献1等に記載のものがある。
特許文献1に記載の紙製容器の製造方法は、坪量が100〜500g/m
2、密度が0.50〜0.70g/cm
3である3層以上の多層抄き板紙で、中層に機械パルプを主体とする層を、両外層に化学パルプを主体とする層を有し、該板紙の全パルプ量のうち30重量%以上が機械パルプからなるプレス成形用紙を加熱成形し、紙の破損を生じずに深絞り容器を製造可能にするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3997713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の紙製容器の製造方法は、3層以上の多層抄き板紙を用意する必要があり、生産性が悪い。
【0005】
また、特許文献1に記載の紙製容器の製造方法は、成形された容器が歪みの大きな曲面部を有する場合、この曲面における成形しわの軽減に限界がある。また、深絞りの深さが大きくなるにつれ、容器の全体に渡る強度、剛性が低下し、胴膨れや底膨れの発生を抑制することに困難がある。
【0006】
本発明の課題は、紙製容器の成形しわを軽減させるとともに、容器の全体に渡る強度、剛性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、紙製ブランクを一対の金型で絞り成形して紙製容器を製造する紙製容器の製造方法において、紙製ブランクが、密度0.50
g/cm3〜0.75
g/cm3の低密度紙の一枚板、又は該低密度紙を複数枚重ねたものから形成され、
紙製容器の底部と、該底部からの立ち上がり壁部である胴部とからなる全体が、一対の金型を構成する雌型と雄型で絞り成形され、それらの雌型と雄型の絞り成形時のクリアランスが紙製ブランクの紙厚より小さく設定されるようにしたものである。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、前記紙製ブランクを形成する低密度紙の坪量が200g/m
2〜700g/m
2であるようにしたものである。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において更に、前記絞り成形の成形温度を100℃以上とするようにしたものである。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに係る発明において更に、前記紙製容器の絞り深さを20mm以上とするようにしたものである。
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれかに係る発明において更に、前記一対の金型を構成する雌型と雄型の絞り成形時のクリアランスが0.5mm〜0.8mmの範囲内にあるとき、容器本体の胴部に相当する部分のクリアランスである0.8mmを、容器本体の底部に相当する部分のクリアランスである0.5mmに比して大きくしてなるようにしたものである。
【発明の効果】
【0011】
(請求項1
、5)
(a)低密度紙からなる紙製ブランクを、その紙厚より小さいクリアランスを備えた一対の金型(雌型と雄型)で絞り成形することにより、成形しわを軽減できる。容器の歪みの大きな曲面部でも、成形しわを目立たない程度に軽減できるし、その成形しわをかえって風合いとして活かす程度に生成できる。
【0012】
(b)低密度紙からなる紙製ブランクを、その紙厚より小さいクリアランスを備えた一対の金型(雌型と雄型)で絞り成形することにより、ふんわりした紙をプレス成形して硬くしめ、容器の全体に渡る強度、剛性を向上できる。容器の胴膨れや底膨れの発生を抑制できる。
【0013】
(c)密度が0.50
g/cm3未満だと容器に十分な強度、剛性を発現できない。密度が0.75
g/cm3をこえると成形しわを十分に軽減できない。
【0014】
ここで、紙製ブランクは、密度0.50
g/cm3〜0.75
g/cm3の低密度紙の一枚板、又は該低密度紙を複数枚重ねたものから形成される。複数枚の低密度紙を重ねて形成された紙製ブランクにあっては、複数枚の低密度紙の各個の厚みの合計値が当該紙製ブランクの紙厚になる。
【0015】
(請求項2)
(d)紙製ブランクを形成する低密度紙の坪量が200g/m
2〜700g/m
2であるものとする。坪量200g/m
2〜700g/m
2は、一般的な板紙の範囲内である。
【0016】
坪量200g/m
2の紙の場合、密度0.50
g/cm3〜0.75
g/cm3で紙厚は0.40mm〜0.27mmとなり、上述(a)〜(c)を実現できる。
【0017】
坪量700g/m
2の紙の場合、密度0.50
g/cm3〜0.75
g/cm3で紙厚は1.40mm〜0.93mmとなり、上述(a)〜(c)を実現できる。
【0018】
(請求項3)
(e)絞り成形の成形温度を100℃以上とする。
100℃以上とすることにより、紙製ブランクが加熱されて軟化状態となり、成形容易になるとともに、プレス成形前の形状に戻ることがなくなって、プレス成形された容器の保形性に優れる。100℃未満だと、成形された容器の保形成が悪く、それらの容器の積層保管性(各容器を互いに嵌合させて積み上げる)が悪くなり、積層作業に多くの時間を要し、生産性が落ちる。
【0019】
(請求項4)
(f)絞り深さ20mm以上の深絞り容器でも、上述(a)〜(e)を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】
図2は紙製容器の容器本体と蓋を分離して示す斜視図である。
【
図3】
図3は紙製容器に生じた成形しわを示す模式図である。
【
図4】
図4は金型による紙製容器の成形状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1、
図2に示した本発明の一実施例に係るまゆ玉型の紙製容器10は、容器本体11と蓋12とからなり、容器本体11の開口まわりの外周部に蓋12を着脱可能にしたものである。容器10(容器本体11及び蓋12)はまゆ玉型に限らず、立方体、直方体等のいかなる形態であっても良い。容器10は菓子類、弁当、食肉、鮮魚等の食品類の他、文房具類等、いかなる物品の包装にも利用できる。
【0022】
容器10の容器本体11(蓋12も同じ)は、
図4に示す如く、紙製ブランクPを一対の金型20(雌型21と雄型22)で絞り成形(プレス成形)して製造される。本実施例では、容器10の絞り深さ(容器本体11の絞り深さd1又は蓋12の絞り深さd2)(
図1)を20mm以上とするものである。
【0023】
一対の金型20による容器本体11(又は蓋12)の絞り成形は、以下の条件によりなされる。
【0024】
(条件1)
紙製ブランクPが密度0.50
g/cm3〜0.75
g/cm3の低密度紙から形成されるものとする。また、一対の金型20の絞り成形時のクリアランス(雌型21と雄型22の隙間C)を、紙製ブランクPの紙厚tより小さく設定される(C<t)(
図4)。
【0025】
条件1によって、低密度紙からなる紙製ブランクPがその紙厚より小さなクリアランスを備えた一対の金型20(雌型21、雄型22)で絞り成形されることから、成形された紙製容器10(容器本体11、蓋12)の各部の板厚は紙製ブランクPの紙厚より小さなものになる。
【0026】
上述の条件1により、下記(a)〜(c)の作用効果を奏する。
(a)プレス成形された紙製容器10(容器本体11と蓋12)に生じる成形しわを軽減できる。
図3(A)は本発明方法により製造された蓋12の成形しわを示し、
図3(B)は従来方法により製造された蓋12の成形しわを示しており、本発明方向によって成形しわを軽減できることが認められる(容器本体11の成形しわも実質的に同様になる)。容器10の歪みの大きな曲面部でも、成形しわを目立たない程度に軽減できるし、その成形しわをかえって風合いとして活かす程度に生成できる。
【0027】
(b)ふんわりした紙をプレス成形して硬くしめ、容器10の全体に渡る強度、剛性を向上できる。容器10の胴膨れや底膨れの発生を抑制できる。
【0028】
(c)密度が0.50
g/cm3未満だと容器10に十分な強度、剛性を発現できない。密度が0.75
g/cm3をこえると成形しわを十分に軽減できない。
【0029】
ここで、紙製ブランクPは、密度0.50
g/cm3〜0.75
g/cm3の低密度紙の一枚板、又は該低密度紙を複数枚重ねたものから形成される。複数枚の低密度紙を重ねて形成された紙製ブランクPにあっては、複数枚の低密度紙の各個の厚みの合計値が当該紙製ブランクPの紙厚Tになる。
【0030】
(条件2)
条件1の紙製ブランクPを形成する低密度紙として坪量が200g/m
2〜700g/m
2のものを採用する。坪量200g/m
2〜700g/m
2は、一般的な板紙の範囲内である。尚、「密度=坪量÷紙厚」である。
【0031】
上述の条件2により、下記(d)の作用効果を奏する。
(d)坪量200g/m
2の紙の場合、密度0.50
g/cm3〜0.75
g/cm3で紙厚は0.40mm〜0.27mmとなり、上述(a)〜(c)を実現できる。
【0032】
坪量700g/m
2の紙の場合、密度0.50
g/cm3〜0.75
g/cm3で紙厚は1.40mm〜0.93mmとなり、上述(a)〜(c)を実現できる。
【0033】
(条件3)
条件1、2による紙製ブランクPの絞り成形時に、成形温度を100℃以上とする。この成形温度は、加熱された金型20(雌型21と雄型22)において紙製ブランクPが接触する型表面の実測温度であり、紙製ブランクPを加熱しつつプレス成形するものである。
【0034】
上述の条件3により、下記(e)の作用効果を奏する。
(e)100℃以上とすることにより、紙製ブランクPが加熱されて軟化状態となり、成形容易になるとともに、プレス成形前の形状に戻ることがなくなって、プレス成形後の保形性に優れる。100℃未満だと、成形に時間がかかって生産性が落ちるし、成形された容器の保形性が悪くなるために積層保管作業性が悪くなって生産性が落ちる。
【0035】
(条件4)
容器10(容器本体11と蓋12)の絞り深さ(容器本体11の絞り深さd1又は蓋12の絞り深さd2)を20mm以上とする。これにより、絞り深さ20mm以上の深絞り容器10でも、上述(a)〜(e)を確保できる。
【0036】
尚、本発明の実施において、紙製ブランクPを形成する低密度紙は、機械パルプ、カールドファイバー、及びマーセル化パルプの少なくとも一つから選ばれるパルプを主体として構成される。
【0037】
また、紙製ブランクPを形成する低密度紙は、必要に応じて合成樹脂繊維を混合或いは貼り合わせることができる。パルプに混合されて低密度紙を構成する合成樹脂繊維としては、例えば、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維等を挙げることができる。低密度紙に貼り合わせる合成樹脂繊維としては、低密度紙にフィルムラミネート加工されるシート状のポリプロピレンフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム等、又は低密度紙に押出ラミネート加工されるポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート等を挙げることができる。
【0038】
また、紙製ブランクPを形成する低密度紙は、必要に応じてその片面、或いは両面に顔料と接着剤からなる塗工層を設けることができる。このような塗工層を設けることにより、成形加工原紙表面に良好な印刷適性を付与することができる。更に、染料インキ、顔料インキ等の任意のインキを用い、通常用いられる印刷機を使用して印刷層を設けることもできる。
【0039】
また、紙製ブランクPを形成する低密度紙は、必要に応じてその片面あるいは両面に、液体の浸み込みや液漏れを防止するために、耐水性被膜を設けることができる。この耐水性被膜は、原紙上に直接、もしくは前記顔料塗工層上、或いは印刷層上、任意の箇所に設けることができる。耐水性被膜は、耐水性塗料の塗工、合成樹脂のラミネート等により設けることができる。
【0040】
以下、本発明方法の実験結果(表1〜表5)について説明する。
実験1〜5は、成形機(プレス機)を用いて、クッション原紙からなる紙製ブランクPを一対の金型20(雌型21と雄型22)で絞り成形して紙製容器10の容器本体11を製造したものである。実験1〜5の成形結果を示す表1〜表5により、紙製ブランクPの密度、紙厚、坪量と成形結果(成形破れ、しわの程度、胴膨れの程度)の関係を示した。〇は「良い」、△は「ふつう(良いと悪いの間)」、×は「悪い」を表わす。
【0041】
ここで、一対の金型20のクリアランスは金型20の部分によって異なり、各部のクリアランスを0.5mm〜0.8mmの範囲内にあるいずれかの値に設定した(容器本体11の底部に相当する部分のクリアランスを0.5mm、容器本体11の胴部(底部からの立ち上がり壁部)に相当する部分のクリアラスを0.8mmとした)。
【0042】
尚、紙製容器10の蓋12についても同様の実験を行ない、同様の成形結果を得た。
【0043】
実験1〜5において、一対の金型(雌型21、雄型22)を加熱し、紙製ブランクPの成形温度を100℃以上にした。
【0044】
また、実験1〜5において、一対の金型20(雌型21、雄型22)が紙製ブランクPに及ぼす成形圧力は、金型20による紙製ブランクPの加圧面積(350mm×500mm)当たり15トンとした。このとき、本発明方法の実施において、紙製ブランクPに加える絞り成形の成形圧力はおよそ8.6kgf/cm
2前後とすることができる。但し、この成形圧力は可変であり、0kgf/cm
2程度にまで小さくすることもできる。
【0045】
また、実験1〜5において、紙製容器10における容器本体11の絞り深さd1を20mmとした。尚、金型20の変更によって容器本体11に及ぼし得る絞り深さd1の最大深さは、使用成形機の能力によって制限された70mmであった。金型20の変更によって絞り深さd1を20mm〜70mmの範囲で変化させても、実験1〜5と概ね同様の結果を確認できた。但し、本発明により製造され得る紙製容器10の最大絞り深さは、使用成形機の能力によって一層深くでき、70mmに限定されない。
【0046】
表1〜表5に示した実験1〜5の成形結果によれば、本発明方法に対応する実験例2-1、2-2、2-3、2-4、3-3、3-4、4-1、4-2において、紙製容器10(容器本体11と蓋12)の成形しわを軽減させるとともに、容器の全体に渡る強度及び剛性(成形破れ及び胴膨れ)を向上できることが認められる。
【0052】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、紙製容器の成形しわを軽減させるとともに、容器の全体に渡る強度、剛性を向上できる。
【符号の説明】
【0054】
10 紙製容器
20 金型
P 紙製ブランク
C クリアランス
t 紙厚
d1〜d2 絞り深さ