特許第6204932号(P6204932)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204932
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】液状製剤のぬるつきの評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/00 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
   G01N11/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-41026(P2015-41026)
(22)【出願日】2015年3月3日
(65)【公開番号】特開2016-161428(P2016-161428A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2016年7月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107205
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(74)【代理人】
【識別番号】100112818
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 昭久
(74)【代理人】
【識別番号】100155206
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 源一
(72)【発明者】
【氏名】金井 宏行
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−091499(JP,A)
【文献】 特開2010−122170(JP,A)
【文献】 米国特許第04294111(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を平行に配置して設けられた、駆動装置により回転する駆動ロールと、該駆動ロールと接触して回転する自由回転ロールとを含む評価装置を用いて、液状製剤のぬるつきの強弱を評価する評価方法であって、
前記駆動ロールを回転させつつ、前記駆動ロールと前記自由回転ロールとの間のニップ部の全体に液状製剤を供給した際の、前記自由回転ロールの回転速度の変化から、液状製剤のぬるつきの強弱を評価する液状製剤のぬるつきの評価方法。
【請求項2】
所定の種類の液状製剤について、前記駆動ロールを回転させつつ前記駆動ロールと前記自由回転ロールとの間のニップ部の全体に前記所定の種類の液状製剤を供給した際の前記自由回転ロールの回転速度の変化と、前記所定の種類の液状製剤のぬるつきの官能評価との相関関係を、予め求めておき、前記所定の種類の液状製剤を被評価物として前記駆動ロールと前記自由回転ロールとの間のニップ部の全体に供給して、その際の前記自由回転ロールの回転速度の変化から、前記相関関係に基づいて、前記被評価物のぬるつきの強弱を評価する請求項1記載の液状製剤のぬるつきの評価方法。
【請求項3】
前記自由回転ロールの回転速度が変化する際の、前記自由回転ロールの回転速度の減衰勾配から、液状製剤のぬるつきの強弱を評価する請求項1又は2記載の液状製剤のぬるつきの評価方法。
【請求項4】
前記所定の種類の液状製剤が、化粧水、乳液、クリーム、液状ファンデーション、UVケア剤、制汗用塗布液、ボディーローション、メイク落とし、身体洗浄料、整髪料、食器用洗浄料、住居用洗浄料、又は衣料用洗浄料である請求項2又は3記載の液状製剤のぬるつきの評価方法。
【請求項5】
回転軸を平行に配置して設けられた、駆動装置により回転する駆動ロールと、該駆動ロールと接触して回転する自由回転ロールとを含み、且つ該自由回転ロールの表面の面速度を非接触で検出する速度センサーを備えるぬるつきの評価装置であって、
前記駆動ロールの表面に供給された液状製剤を均等に薄く広げるための膜厚制御ロールを有しており、前記駆動ロール及び前記膜厚制御ロールの両端部分に、周方向に全周に亘って連続する凹溝が各々形成されており、両側の一対の凹溝によって挟まれるこれらの間の部分の領域が、各々液状製剤供給領域となっており、両端の一対の凹溝よりも外側の部分の領域が、各々駆動力伝達領域となっているぬるつきの評価装置
【請求項6】
前記速度センサーは、前記自由回転ロールの液状製剤供給領域の外側に設けられた、前記自由回転ロールの端部の縮径段部と離間して配置されて、該縮径段部の表面の面速度を計測する請求項5記載のぬるつきの評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状製剤のぬるつきの評価方法、及び該評価方法に用いるぬるつきの評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ぬるつきは、例えば化粧水、乳液、クリーム等の液状製剤の使用感及びその嗜好性に深く関わっている。しかし、従来のぬるつきの強弱の評価は、パネラーによる官能評価によるものとなっており、より客観的に評価することを可能にする評価方法の開発が求められていた。
【0003】
言うまでもなく、ぬるつきの強弱には滑りの要因が含まれる。滑りの程度については、摩擦係数の高低によってその評価が可能であり、摩擦係数は、通常の摩擦試験機を用いて計測することができる。しかし、例えば凍結した路面は滑りを感じるとしても、ぬるつきを感じることはない。これと同様に、例えば液体を塗布した表面の摩擦係数を、摩擦試験機を用いて計測して、摩擦係数の高低によって滑り易い液体を選別できたとしても、滑り易い液体の中からぬるつくものを選別することは困難であり、したがって液体の滑り易さの評価のみでは、液体のぬるつきの強弱を適正に判別することは困難である。
【0004】
また、滑り以外の物性に着目したぬるつきの評価方法として、硬さや粘弾性による物性パラメータを測定して評価する方法が提案されている(特許文献1、特許文献2)。特許文献1の評価方法では、増粘剤の流動特性から予め設定された複雑流体の硬さを評価する関数を用いることにより、増粘剤の塗布時の官能評価を定量化して、増粘剤に対する使用性として、例えばぬるつきの強弱を評価するようになっている。特許文献2の評価方法では、物の粘弾性の測定に用いられるレオメータを使用して、評価の対象とする化粧料について、損失正接tanδの角周波数依存性を測定し、所定の角周波数での損失正接tanδに基づいて、化粧料の肌への塗布時のぬるつきの程度を評価するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−122170号公報
【特許文献2】特開2012−47667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のぬるつきの評価方法では、ぬるつきの強弱の一面を評価しているものの、総合的かつ客観的な評価というには不充分なものであっため、液状製剤のぬるつきの強弱をより適切に評価することを可能にする、新たな技術の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、液状製剤のぬるつきの強弱を、総合的かつ客観的により適切に評価することのできる液状製剤のぬるつきの評価方法、及び該評価方法に用いるぬるつきの評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ぬるつきの成り立ちについて考察した結果、ぬるつきは単純な滑りとは異なる特質を持つことを見出した。すなわち、第一に、ぬるつきには滑りを伴うが、単に滑ることをぬるつくと感じるのではなく、接触の手掛かりを失わせる、若しくは被接触物を掴もうとしてもすり抜けさせる、といった被接触物への直接的な接触が妨げられる感覚を伴うとき、ぬるつくと感じると考えられる。第二に、これに関連して、ぬるつきには、被接触物へ接触しようとする手や指に纏わりつくような感覚(若しくは粘液のような粘着性のものが表面に介在する感覚)を伴うことになると考えられる。
【0009】
そこで、本発明者は、従来の摩擦試験のように、液状製剤を塗布した面の上にセンサーを摺動させる形でぬるつきの強弱を評価する方式ではなく、押さえつけた被塗布物がすり抜ける(摺動をはじめる)動作に着目した方式を用いることにより、滑り易さ(止まり難さ)と共に、その際の液の粘着的な性質の寄与を同時に検出する方法を検討し、本発明に想到したものである。
【0010】
本発明は、回転軸を平行に配置して設けられた、駆動装置により回転する駆動ロールと、該駆動ロールと接触して回転する自由回転ロールとを含む評価装置を用いて、液状製剤のぬるつきの強弱を評価する評価方法であって、前記駆動ロールを回転させつつ、前記駆動ロールと前記自由回転ロールとの間のニップ部の全体に液状製剤を供給した際の、前記自由回転ロールの回転速度の変化から、液状製剤のぬるつきの強弱を評価する液状製剤のぬるつきの評価方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、前記液状製剤のぬるつきの評価方法に用いるぬるつきの評価装置であって、回転軸を平行に配置して設けられた、駆動装置により回転する駆動ロールと、該駆動ロールと接触して回転する自由回転ロールとを含み、且つ該自由回転ロールの回転速度を検出する速度センサーを備えるぬるつきの評価装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の液状製剤のぬるつきの評価方法、又は該評価方法に用いるぬるつきの評価装置によれば、液状製剤のぬるつきの強弱を、総合的かつ客観的により適切に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1(a)、及び図1(b)は、本発明の好ましい一実施形態に係るぬるつきの評価方法に用いるぬるつきの評価装置の、概略構成を説明する略示斜視図である。
図2図2は、化粧水を被試験物としてニップ部に供給した際の、自由回転ロールの回転速度の変化を例示するチャートである。
図3図3は、被試験物として化粧水を用いて計測した自由回転ロールの回転速度の変化である減衰勾配と、化粧水のぬるつきのなさの官能評価との相関関係を例示するチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の液状製剤のぬるつきの評価方法、及びぬるつきの評価装置を、その好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明の好ましい一実施形態に係るぬるつきの評価方法は、例えば図1(a)に示すような、回転軸11a,12aを平行に配置して設けられた、駆動装置(図示せず)により回転する駆動ロール11と、駆動ロール11と接触して回転する自由回転ロール12とを含み、且つ自由回転ロール12の回転速度を検出する速度センサー13を備える、ぬるつきの評価装置10を用いて実施することができる。このようなぬるつきの評価装置10は、例えば印刷インキの粘着性の評価に用いる装置として公知の、インコメータに適宜改良を加えて使用することができる。
【0015】
そして、本実施形態の液状製剤のぬるつきの評価方法は、回転軸11a,12aを平行に配置して設けられた、駆動装置(図示せず)により回転する駆動ロール11と、駆動ロール11と接触して回転する自由回転ロール12とを含む評価装置10を用いて、液状製剤として例えば化粧水のぬるつきの強弱を評価する評価方法であって、駆動ロール11を回転させつつ、駆動ロール11と自由回転ロール12との間のニップ部14の全体に液状製剤を供給した際の、自由回転ロール12の回転速度の変化から、液状製剤のぬるつきの強弱を評価するようになっている。
【0016】
本実施形態のぬるつきの評価方法に用いる測定装置10においては、駆動ロール11と自由回転ロール12は、それぞれの軸部11a,12aがヒンジ又はアーム等を介して測定装置10の枠体(図示せず)に取り付けられている。駆動ロール11と自由回転ロール12とはその回転軸11a,12aが互いに平行に配されており、自由回転ロール12の荷重が、駆動ロール11と自由回転ロール12とが接触して被評価物である液状製剤を挟み込む部分である、ニップ部14に付加される構造となっている。自由回転ロール12は、ニップ部14において駆動ロール11と接触することによる摩擦力の作用によって、駆動ロール11の回転にともなって回転する。
【0017】
ここで、ニップ部14に付加される荷重は、例えば自由回転ロール12の軸部12aに荷重を加えることによって、自由回転ロール12の自重以上の荷重が付加されるように調整することもできる。また、例えばバネ等の発条部材による押し付け機構を用いることによって、横方向から荷重を付加することで、駆動ロール11と自由回転ロール12との位置関係を、例えばこれらの軸部11a,12aを含む平面が、水平となるよう配置することもできる。
【0018】
駆動ロール11には、金属製のロール部材を用い、他方、自由回転ロール12には、ゴム製のロール部材を用いることができる。また、駆動ロール11と自由回転ロール12との双方を、ゴム製のロール部材とすることもできる。或いは、駆動ロール11と自由回転ロール12は、例えばナイロンや、その他の各種の樹脂から幅広く材質を選択して、形成することも可能である。
【0019】
駆動ロール11は、例えば50〜120mm程度の直径を有していることが好ましく、50〜250mm程度の長さを有していることが好ましい。自由回転ロール12もまた、例えば50〜120mm程度の直径を有していることが好ましく、50〜250mm程度の長さを有していることが好ましい。自由回転ロール12は、駆動ロール11よりもその長さが短くなっていても良く、またその逆であっても良い。
【0020】
測定装置10は、図1(b)に示すように、第3のロールとして、駆動ロール11の表面に供給された被評価物である液状製剤を均等に薄く広げるための、膜厚制御ロール15を有していても良い。膜厚制御ロール15は、自由回転ロール12と同様に、好ましくはゴム製のロール部材として形成できる他、例えばナイロンや、その他の各種の樹脂から幅広く材質を選択して形成することができる。膜厚制御ロール15は、駆動ロール11の直径よりも小さな、例えば35〜80mm程度の直径を有していることが好ましい。
【0021】
第3のロールとして、膜厚制御ロール15を設ける場合には、インコメーターでは一般的なバイブレーション動作を省略し、膜厚制御ロール15の位置を固定することもできる。また、駆動ロール11及び位置を固定した膜厚制御ロール15の両端部分に、周方向に全周に亘って連続する凹溝11b,15bを各々形成して、両側の一対の凹溝11b,15bによって挟まれるこれらの間の部分の領域を、各々液状製剤供給領域11c,15cとし、両端の一対の凹溝11b,15bよりも外側の部分の領域を、各々駆動力伝達領域11d,15dとすることもできる。
【0022】
これによって、駆動ロール11の液状製剤供給領域11cに供給された液状製剤が、駆動ロール11の凹溝11bを超えて駆動力伝達領域11dにはみ出したり、膜厚制御ロール15の凹溝15bを超えて駆動力伝達領域15dにはみ出したりするのを、効果的に回避することが可能になる。またこれによって、例えば液状製剤が、駆動ロール11の液状製剤供給領域11cの全長に亘って供給されて、膜厚制御ロール15の液状製剤供給領域15cとの間で滑りが生じ易くなっても、駆動ロール11の駆動力伝達領域11dと、膜厚制御ロール15の駆動力伝達領域15dとの間で摩擦力を確保して、駆動ロール11から膜厚制御ロール15に回転駆動力を引き続き伝達できるようにすることが可能になる。
【0023】
また更に、凹溝の幅内で膜厚制御ロール15にバイブレーション動作を付加することも可能である。この場合、膜厚制御ロール15の液状製剤供給領域15cは、膜厚制御ロール15の振れ(バイブレーション)幅分だけ、軸方向へ長くすることが好ましい。
【0024】
本実施形態では、自由回転ロール12の回転速度を検出する速度センサー13として、公知の各種の速度センサー13を用いることができる。速度センサー13は、非接触で自由回転ロール12の回転速度を計測できるセンサーを用いることが好ましい。このような速度センサー13として、例えばレーザードップラー面速度計、レーザースペックル面速度計等を、自由回転ロール12の表面から離間して、非接触に配置して用いることが好ましい。自由回転ロール12の回転速度は、被評価物である液状製剤の種類によっては、ゼロ回転の状態(静止状態)に至るため、速度センサー13は、極めて低速の回転速度まで計測できるものを用いることが好ましい。なお、図1(a)及び図1(b)においては、速度センサー13は、より精度の高い回転速度の計測結果が得られるように、自由回転ロール12の液状製剤供給領域12cの外側に設けられた、自由回転ロール12の端部の縮径段部12bの上方に、これと離間して配置されて、縮径段部12bの面速度を計測するようになっているが、例えばレーザードップラー面速度計を用いる場合には、自由回転ロール12の液状製剤供給領域12cと離間して配置して、液状製剤供給領域12cの面速度を計測することもできる。
【0025】
本実施形態では、ぬるつきが評価される被評価物となる所定の種類の液状製剤として、日用品、化粧品等の、ぬるつきが使用感の課題となる種々の液状製剤を挙げることができる。具体的には、被評価物となる所定の種類の液状製剤として、化粧水、乳液、クリーム、液状ファンデーション、UVケア剤、制汗用塗布液、ボディーローション、メイク落とし、身体洗浄料、整髪料、食器用洗浄料、住居用洗浄料、衣料用洗浄料等を挙げることができる。
【0026】
本実施形態のぬるつきの評価方法では、上述の構成を備える評価装置10を用いて、駆動ロール11を回転させつつ、駆動ロール11と自由回転ロール12との間のニップ部14の全体、言い換えるとニップ部14の幅方向の全長にわたって液状製剤を供給した際の、自由回転ロール12の回転速度の変化から、液状製剤として例えば化粧水のぬるつきの強弱を評価する。
【0027】
本実施形態の評価方法では、被評価物である液状製剤を供給して、自由回転ロール12の回転速度の変化を測定する前の状態においては、自由回転ロール12(及び膜厚制御ロール15)は、駆動ロール11の回転駆動に伴って、所定の初期の回転速度で回転している。すなわち、駆動ロール11の軸部11aに取り付けられた例えばモータ(駆動装置)によって、駆動ロール11を回転駆動させると、駆動ロール11と接触している自由回転ロール12(及び膜厚制御ロール15)は、駆動ロール11との摩擦力の作用によって、駆動ロール11の回転にともなって回転する。
【0028】
しかる後に、ピペット(図示せず)等を用いて、例えばニップ部14に近接する部分の駆動ロール11や、或いは膜厚制御ロール15を用いる場合には、駆動ロール11と膜厚制御ロール15との間の部分に、被評価物である液状製剤を所定量供給する。供給された液状製剤は、駆動ロール11、自由回転ロール12、及び膜厚制御ロール15の回転にともなって、駆動ロール11と自由回転ロール12との間のニップ部14や、駆動ロール11と膜厚制御ロール15との間の部分を通過することで、駆動ロール11の周面に均等に薄く広がってゆき、自由回転ロール12の周面の幅方向の全長に相当する領域を覆うように供給されて塗布される。
【0029】
これによって、駆動ロール11と自由回転ロール12と間のニップ部14には、これの全体に亘って(幅方向の全長に亘って)、被評価物である液状製剤(化粧水)が供給されて介在することになるので、液状製剤の介在によって駆動ロール11と自由回転ロール12の間の摩擦力が低減する。これによって、両者は滑り易くなる。
【0030】
ところで、このとき駆動ロール11と自由回転ロール12とが接するニップ部14の回転方向の出口側においては、これらのロール面上にある被評価物である液状製剤には、2つのロール面の間で分離する方向の力が作用する。ここで被評価物である液状製剤の液性が粘着的である場合には、液状製剤は、ロール面の間で分離する力に対する抵抗力を発現する。この抵抗力は自由回転ロール12の回転を抑制する方向に作用するので、自由回転ロール12の回転速度は低下する。言い換えると、回転速度の低下は、被評価物である液状製剤の粘着力を強く反映したものとなる。
【0031】
すなわち、被評価物である液状製剤が、駆動ロール11と自由回転ロール12との間のニップ部14におけるロール面間の摩擦力を低下させて、これらのロール面間の結合を阻害し、かつその際に液性が粘着的で、自由回転ロール12の駆動ロール11の回転に伴う回転を阻害するものである場合には、ロール面が被評価物に覆われた時点から、速やかに自由回転ロール12は、回転速度を低下させ始めることになる。言い換えると、ロール面が被評価物である液状製剤に覆われた時点から、自由回転ロール12が速やかに回転速度を低下させ始めるのであれば、ロール面を覆った被評価物は、接触の手掛かりを失わせる、若しくは被接触物を掴もうとしてもすり抜けさせる、といった被接触物への直接的な接触が妨げられる感覚を伴いつつ滑るという、ぬるつきの第1の要件と、ぬるつきには、被接触物へ接触しようとする手や指に纏わりつくような感覚(若しくは粘液のような粘着的なものが表面に介在する感覚)を伴うことになるという、ぬるつきの第2の要件との、2つの要件を満たす、ぬるつく液状製剤であると考えられる。
【0032】
図2は、比較的ぬるつきの強い液状製剤である化粧水を被評価物として、図1(b)に示す上述の測定装置10を用いて、上述の方法によって、化粧水を(予め所定の速度で回転をさせている)駆動ロール11と膜厚制御ロール15との間の部分に所定量供給した際に、自由回転ロール12が全長に亘って被評価物によって被覆され、ニップ部14の全体に液状製剤が供給された直後から、自由回転ロール12の回転速度が変化して低下してゆく状況を、速度センサー13によって計測して、時間(秒)を横軸として表示したものである。図2では、自由回転ロール12の液状製剤供給領域12cにおける速度センサー13による面速度の計測値を、自由回転ロール12の回転速度に代えて用いている(自由回転ロール12の回転速度はこの面速度に比例する)。自由回転ロール12の面速度を計測している間、駆動ロール11は、400mm/sの一定の面速度で駆動させている。
【0033】
図2に示す自由回転ロール12の回転速度の変化によれば、自由回転ロール12は、被評価物である化粧水を供給するまでは、駆動ロール12と同じ面速度で回転しているが、被評価物である化粧水の供給により両ロール11,12間にすべりを生じ、更に、ニップ部14の出口側において、自由回転ロール12の回転を妨げるように粘着的な力を生じることによって、速やかに回転速度を低下させ、場合によってはこの例のように、ほぼ静止状態となる。本実施形態では、このような自由回転ロール12の回転速度が、低下しながら変化して行く際の減衰勾配(dV/dt)を、液状製剤のぬるつきを評価するための好ましい物性値として用いて、例えば後述する方法によって、液状製剤である化粧水のぬるつきの強弱を評価する。より具体的に述べると、減衰勾配(dV/dt)の値が大きいほどぬるつきが大きく、小さいほどぬるつきが小さいと感じられるので、減衰勾配(dV/dt)の値の大小に応じて、ぬるつきの大小を評価できることになる。
【0034】
ここで、自由回転ロール12の面速度を計測する際に回転させる駆動ロール11の回転速度は、速いほど、ニップ部14での自由回転ロール12と駆動ロール11との間の接触時間が短くなることから、ロール11,12間の結着には不利となる(すなわち、滑りやすくなる)。また、ニップ部14における、自由回転ロール12の自重や軸部12aに加えられる荷重による押し付け圧は、高いほど、ロール11,12間の結着に有利となる(すなわち、滑りにくくなる)。このような押し付け圧による作用は、特に供給される液状製剤が微細粒子を懸濁するものの場合などには顕著となる。さらに、自由回転ロール12や駆動ロール11の周面の表面粗度が高いほど(平滑性が低いほど)、強い結着点を形成し易くなるため、ロール11,12間の結着に有利となる。以上の条件は、上述のぬるつきの第一の要件に対しては、感度を低下させる。
【0035】
一方、自由回転ロール12の面速度を計測する際に、回転させる駆動ロール11の回転速度が速いほど、ニップ部14の出口側における液状製剤の粘着的な特性を強く生じさせることになるため、上述のぬるつきの第二の要件に対しては、上記とは逆に感度を増大させる。
【0036】
したがって、上記の二要件に対する感度を調整し、ぬるつきを適正に評価するために、種々の条件を考慮する必要があり、自由回転ロール12や駆動ロール11の材質、表面の状態、自由回転ロール12によるニップ部14における押し付け圧等については、例えばぬるつきの官能評価の結果と照合して、これらの条件を適切な範囲に設計する必要がある。
【0037】
そして、本実施形態の液状製剤のぬるつきの評価方法によれば、ぬるつきを評価するための物性値として、好ましくは、上述の自由回転ロール12の回転速度が、低下しながら変化して行く際の減衰勾配(dV/dt)を用いて、例えば以下のようにして、液状製剤のぬるつきの強弱を評価することができる。
【0038】
すなわち、所定の種類の液状製剤について、駆動ロール11を回転させつつ駆動ロール11と自由回転ロール12との間のニップ部14の全体(幅方向の全長)に所定の種類の液状製剤を供給した際の、自由回転ロール12の回転速度の変化である減衰勾配(dV/dt)と、所定の種類の液状製剤のぬるつきの官能評価との相関関係を、予め求めておく。そして、例えば当該所定の種類の液状製剤の一製品のぬるつきの強弱を評価するにあたり、この一製品の液状製剤を被評価物として、駆動ロール11と自由回転ロール12との間のニップ部14の全体に供給して、その際の自由回転ロール12の回転速度の変化である減衰勾配(dV/dt)を求める。求めた減衰勾配(dV/dt)の値から、予め求めておいた官能評価との相関関係に基づいて、被評価物である所定の種類の液状製剤の一製品のぬるつきの強弱を、客観的に評価することが可能になる。
【0039】
したがって、本実施形態の液状製剤のぬるつきの評価方法、又はぬるつきの評価装置10によれば、ぬるつきの程度を、減衰勾配という、客観的な計測が可能で、かつ大小の比較が容易な指標を用いて表すことができ、従来のぬるつきの評価方法と比較して、液状製剤の一製品のぬるつきの強弱を、総合的かつ客観的により適切に評価することができる。
【0040】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば液状製剤のぬるつきの強弱を評価するための、ニップ部の全体に液状製剤を供給した際の自由回転ロールの回転速度の変化は、自由回転ロールの回転速度の減衰勾配である必要は必ずしも無く、自由回転ロールの速度低下が終わって定常速度に至るまでに要した時間等の、回転速度の変化を反映する他の計測値から得られるものであっても良い。液状製剤のぬるつきの強弱を評価するための物性値となる減衰勾配(dV/dt)は、回転速度が一定の直線状の勾配に沿って低下せず、例えば曲線状の勾配に沿って低下している場合には、減衰勾配(dV/dt)は、その曲線における最も傾斜が急となる部分の勾配とすることもできる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により、本発明の液状製剤のぬるつきの評価方法をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
上記実施形態の評価装置10と同様の装置を用いて、上記実施形態の評価方法と同様のぬるつきの評価方法により、市販の化粧水10点について、駆動ロールと自由回転ロールとの間のニップ部の全体に液状製剤を供給した際の、自由回転ロールの回転速度の減衰勾配(dV/dt)を計測した。より具体的には、市販のインコメーター(デジタルインコメータD型、(株)東洋精機製作所製)のトップロール上に市販のレーザードップラ速度計を配置した装置を用いて計測を行った。また同様の市販の化粧水10点について、11名のパネラーによる「ぬるつきのなさ」に関する官能評価を行った。得られた減衰勾配(dV/dt)を計測値と、「ぬるつきのなさ」に関する官能評価の値(値が高いものほどぬるつかない)との関係を図3にプロットした。なお。駆動ロールの面速度は400mm/sとした。駆動ロールの材質は真鍮とし、自由回転ロールの材質はNBRとした。自由回転ロールの押し付け圧は約20gf/mmであった。自由回転ロールの面速度は、液状製剤供給領域における面速度の計測に依った。また、この計測においては、膜厚制御ロールは用いていない。
【0043】
図3に示す評価結果から、減衰勾配(dV/dt)の計測値と、「ぬるつきのなさ」に関する官能評価の値との間には、高い相関性が認められることから、本発明の液状製剤のぬるつきの評価方法は、液状製剤のぬるつきの強弱を、総合的かつ客観的により適切に評価するための方法として有効であることが判明する。
【符号の説明】
【0044】
10 ぬるつきの評価装置
11 駆動ロール
11a 回転軸
11b 凹溝
11c 液状製剤供給領域
11d 駆動力伝達領域
12 自由回転ロール
12a 回転軸
12b 縮径段部
12c 液状製剤供給領域
13 速度センサー
14 ニップ部
15 膜厚制御ロール
15a 回転軸
15b 凹溝
15c 液状製剤供給領域
15d 駆動力伝達領域
図1
図2
図3