特許第6204953号(P6204953)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6204953端子付き電線及びそれを用いたワイヤーハーネス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6204953
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】端子付き電線及びそれを用いたワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/03 20060101AFI20170914BHJP
   H01R 4/18 20060101ALI20170914BHJP
   H01R 4/62 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   H01R13/03 A
   H01R4/18 A
   H01R4/62 A
   H01R13/03 D
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-186019(P2015-186019)
(22)【出願日】2015年9月18日
(65)【公開番号】特開2017-59497(P2017-59497A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2016年11月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】加山 忍
(72)【発明者】
【氏名】田村 暢之
【審査官】 前田 仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−218866(JP,A)
【文献】 特開2015−53251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/03
H01R 4/18
H01R 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体及び前記導体を覆う電線被覆材を有する電線と、
前記電線の導体と電気的に接続される圧着端子本体と、この圧着端子本体の表面のうち少なくとも前記電線の導体と接触する部位に設けられた腐食防止めっき層と、を有する圧着端子と、
を備え、
前記導体は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、
前記腐食防止めっき層は、Zn含有量が69〜78質量%のNi−Zn合金からなることを特徴とする端子付き電線。
【請求項2】
前記圧着端子本体は、銅、銅合金、及びステンレスからなる群より選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1に記載の端子付き電線。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の端子付き電線を含むことを特徴とするワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子付き電線及びそれを用いたワイヤーハーネスに関する。さらに詳細には、本発明は、電線の導体と圧着端子との接続部に腐食防止めっき層を設けた端子付き電線及びそれを用いたワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の軽量化により燃費を向上させる観点から、ワイヤーハーネスを構成する被覆電線にアルミニウムを用いる例が増加している。一方、このような被覆電線に接続される端子金具としては、一般的に電気特性に優れた銅又は銅合金製の圧着端子が用いられている。
【0003】
しかし、被覆電線と圧着端子との接触部、すなわち圧着部位には、塩水等の電解液が付着すると、異種金属の接触による腐食、いわゆるガルバニック腐食が発生し、これにより被覆電線のアルミニウムが溶出しやすい。そして、このようにアルミニウムが溶出すると、被覆電線と圧着端子の圧着部位との間で接触抵抗の上昇や圧着強度の低下等が生じやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−105408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このため、従来は、被覆電線と圧着端子の圧着部位とを樹脂製からなる防食材で完全に被覆して、電解液と圧着部位とが接触しないようにすることで、圧着部位のガルバニック腐食の発生を防止していた。しかし、この防食材で完全に被覆する方法は、被覆電線や圧着端子と別部材である防食材で被覆するため、ワイヤーハーネス等の製造コストが高くなるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、被覆電線と圧着端子との圧着部位のガルバニック腐食の発生を抑制することができる端子付き電線を提供することにある。また、本発明の目的は、被覆電線と圧着端子との圧着部位のガルバニック腐食の発生を抑制することができるワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る端子付き電線は、導体及び導体を覆う電線被覆材を有する電線と、電線の導体と電気的に接続される圧着端子本体と、この圧着端子本体の表面のうち少なくとも電線の導体と接触する部位に設けられた腐食防止めっき層と、を有する圧着端子と、を備え、前記導体は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、前記腐食防止めっき層は、Zn含有量が69〜78質量%のNi−Zn合金からなる。
【0008】
本発明の第2の態様に係る端子付き電線は、前記圧着端子本体は、銅、銅合金、及びステンレスからなる群より選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする。
【0009】
本発明の第3の態様に係るワイヤーハーネスは、前記端子付き電線を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の端子付き電線によれば、被覆電線と圧着端子との圧着部位のガルバニック腐食の発生を抑制することができる。本発明のワイヤーハーネスによれば、端子付き電線における被覆電線と圧着端子との圧着部位のガルバニック腐食の発生を抑制することができるため、耐腐食性が高いワイヤーハーネスが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施形態に係る端子付き電線の斜視図である。
図2図2は、図1に示す端子付き電線の、電線と端子の圧着前の状態を示す斜視図である。
図3図3は、図1のA−A線断面図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係るワイヤーハーネスを示す斜視図である。
図5図5は、圧着端子の腐食防止めっき層の組成と、電線の材料であるAlの腐食速度との関係を示すグラフである。
図6図6は、実施例1の腐食防止めっき層の表面の光学顕微鏡写真の一例である。
図7図7は、参考例1の腐食防止めっき層の表面の光学顕微鏡写真の他の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明の実施形態に係る端子付き電線及びワイヤーハーネスについて詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0013】
[第1の実施形態]
(端子付き電線)
図1図3に示すように、本実施形態の端子付き電線1は、導電性の導体11及び導体11を覆う電線被覆材12を有する電線10と、電線10の導体11に接続される圧着端子20とを備える。
【0014】
<電線>
電線10は、導電性の導体11及び導体11を覆う電線被覆材12を有する。導体11の材料としては、導電性が高い金属、例えば、銅、銅合金、アルミニウム及びアルミニウム合金等を用いることができる。また、導体11の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム及びアルミニウム合金等の表面に錫をめっきしたものも用いることができる。なお、近年、ワイヤーハーネスの軽量化が求められている。このため、導体11が軽量なアルミニウム又はアルミニウム合金からなると、ワイヤーハーネスの軽量化を図れるため好ましい。
【0015】
導体11を覆う電線被覆材12の材料としては、電気絶縁性を確保できる樹脂、例えばオレフィン系の樹脂を用いることができる。具体的には、電線被覆材12の材料として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン共重合体及びプロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種を主成分とすることができる。また、電線被覆材12の材料として、ポリ塩化ビニル(PVC)を主成分とすることができる。この中、ポリプロピレン及びポリ塩化ビニルは、電気絶縁性が高いため好ましい。なお、ここでの主成分とは、電線被覆材全体の50重量%以上の成分をいう。
【0016】
<圧着端子>
圧着端子20はメス型の圧着端子であり、電線10の導体11と電気的に接続される圧着端子本体31と、この圧着端子本体の表面のうち少なくとも前記電線10の導体と接触する部位に設けられた腐食防止めっき層32と、を有する。ここで、圧着端子本体31とは、圧着端子20のうち、その表面に設けられた腐食防止めっき層32以外の部分を意味する。圧着端子20と電線10の導体11との電気的な接続は、例えば、圧着端子20で電線10を加締めることにより達成される。
【0017】
[圧着端子本体]
圧着端子20の圧着端子本体31は、図示しない相手方端子に対して接続される電気接続部21を有する。電気接続部21は、ボックス状の形体をしており、相手方端子に係合するバネ片を内蔵している。さらに、圧着端子20の圧着端子本体31のうち、電気接続部21と反対側には、電線10の端末部に対して加締めることにより接続される電線接続部22が設けられる。電気接続部21と電線接続部22とは繋ぎ部23を介して接続される。なお、電気接続部21、電線接続部22及び繋ぎ部23は、同一材料からなり一体となって圧着端子20を構成しているが、便宜的に部位ごとに名称を付与している。
【0018】
電線接続部22は、電線10の導体11を加締める導体圧着部24と、電線10の電線被覆材12を加締める被覆材加締部25とを備える。
【0019】
導体圧着部24は、電線10の端末部の電線被覆材12を除去して露出させた導体11と直接接触するものであり、底板部26と一対の導体加締片27とを有する。一対の導体加締片27は、底板部26の両側縁から上方に延設される。一対の導体加締片27は、電線10の導体11を包み込むように内側に曲げられることで、導体11を底板部26の上面に密着した状態となるように加締めることができるようになっている。導体圧着部24は、この底板部26と一対の導体加締片27とにより、断面視略U字状に形成されている。
【0020】
被覆材加締部25は、電線10の端末部の電線被覆材12と直接接触するものであり、底板部28と一対の被覆材加締片29とを有する。一対の被覆材加締片29は、底板部28の両側縁から上方に延設される。一対の被覆材加締片29は、電線被覆材12の付いた部分を包み込むように内側に曲げられることで、電線被覆材12を底板部28の上面に密着した状態で加締めることができるようになっている。被覆材加締部25は、この底板部28と一対の被覆材加締片29とにより、断面視略U字状に形成されている。なお、導体圧着部24の底板部26から被覆材加締部25の底板部28までは、共通の底板部として連続して形成されている。
【0021】
圧着端子20の圧着端子本体31は、上記のように、電気接続部21、電線接続部22、繋ぎ部23、導体圧着部24、被覆材加締部25、底板部26、導体加締片27、底板部28、被覆材加締片29等を備える。なお、圧着端子20の圧着端子本体31を構成するこれらの部材は、別部材からなっていてもよいが、通常は、同一材料からなり一体となっている。
【0022】
圧着端子20の圧着端子本体31の材料(端子材)としては、導電性が高い金属、例えば、銅、銅合金、及びステンレスからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。なお、圧着端子本体31が同一材料からなる場合は、圧着端子本体31の材質は、銅、銅合金、又はステンレスからなる。圧着端子本体31が2種以上の材料からなる場合は、銅、銅合金、及びステンレスからなる群より選ばれる2種以上を用いることができる。
【0023】
[腐食防止めっき層]
腐食防止めっき層32は、圧着端子本体31と電線10の導体11との接触部位(圧着部位)の、異種金属の接触による腐食、いわゆるガルバニック腐食、を抑制する層である。ガルバニック腐食は、異種金属が接触した状態で塩水等の電解液が付着することにより、一方の材料、例えば、導体11を構成する材料が溶出する現象である。例えば、導体11がアルミニウム又はアルミニウム合金からなり、圧着端子本体31が銅、銅合金、及びステンレスからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる場合、ガルバニック腐食が生じると、導体11からアルミニウムが溶出する。換言すれば、腐食防止めっき層32は、ガルバニック腐食による、導体11からのアルミニウムの溶出等を抑制する層である。
【0024】
なお、従来、導体11がアルミニウム又はアルミニウム合金からなり、圧着端子本体31が銅又は銅合金からなる場合、ガルバニック腐食を抑制するために、圧着端子本体31を構成する銅や銅合金の表面に錫(Sn)めっきを施していた。しかし、錫(Sn)めっきよりも優れたガルバニック腐食抑制効果を有する手段があれば産業上好ましい。本実施形態で用いられる腐食防止めっき層32はこのような要請に応えるものである。
【0025】
腐食防止めっき層32は、圧着端子本体31と導体11との異種金属接触による腐食を抑制する層であるため、圧着端子本体31の表面のうち少なくとも電線10の導体11と接触する部位に設けられる。
【0026】
図1図3に示すように、第1の実施形態では、腐食防止めっき層32は、電線接続部22、繋ぎ部23、導体圧着部24、被覆材加締部25、底板部26、導体加締片27、底板部28、及び被覆材加締片29のうち、電線10の導体11に相対する側の表面の全面に設けられる。しかし、腐食防止めっき層32は、圧着端子本体31と導体11との接触によるガルバニック腐食を抑制できればよいため、圧着端子本体31の表面のうち少なくとも電線10の導体11と接触する部位に設けられればよい。例えば、腐食防止めっき層32は、導体圧着部24及び底板部26のうちの電線10の導体11に接触する部分のみに設けられていてもよい。この場合は、腐食防止めっき層32の面積を小さくすることができるため、製造コストを低減することができる。なお、腐食防止めっき層32は、圧着端子本体31の表面全体に形成されていてもよい。この場合は、圧着端子本体31を単に浸漬めっきするだけで圧着端子本体31の表面に腐食防止めっき層32が形成されるため、腐食防止めっき層32が形成された圧着端子本体31、すなわち、圧着端子20の製造が容易である。
【0027】
腐食防止めっき層32は、Ni−Zn合金からなる。Ni−Zn合金は、Zn含有量が69〜78質量%である。これによりガルバニック腐食の抑制効果が従来の銅や銅合金の表面に錫(Sn)めっきをした場合よりも高いため好ましい。これは、Zn含有量が上記範囲内にあるNi−Zn合金は、結晶粒が微細化するために腐食が抑制されるためであると推測される。具体的には、結晶粒が微細化して粒界の面積が増えることにより粒界散乱が生じて電気抵抗が上昇するため、ガルバニック腐食電流が小さくなって腐食が抑制されるためであると推測される。
【0028】
一方、Zn含有量が69質量%未満であると、ガルバニック腐食の抑制効果が従来の銅や銅合金の表面に錫(Sn)めっきをした場合よりも低くなるおそれがある。また、Zn含有量が78質量%を超えると、Ni−Zn合金めっき自体の腐食が促進されるおそれがある。腐食防止めっき層32を構成するNi−Zn合金の組成は、例えば、SEM(走査型電子顕微鏡)−EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて腐食防止めっき層32を分析することにより、特定することができる。
【0029】
腐食防止めっき層32は、Ni−Zn合金の結晶粒が多数存在する多結晶体になっている。腐食防止めっき層32を構成する結晶粒は。平均結晶粒が、通常0,1〜0.7μm、好ましくは0,2〜0.5μmである。ここで平均結晶粒とは、腐食防止めっき層32の表面をSIM(走査イオン顕微鏡法)で撮影し、得られた結晶粒の面積から算出した直径の、結晶粒10個の平均値である。平均結晶粒が、0,1〜0.7μmにあると、ガルバニック腐食の抑制効果が高いため好ましい。
【0030】
<腐食防止めっき層の製造方法>
腐食防止めっき層32は、圧着端子本体31の表面のうち少なくとも電線10の導体11と接触する部位にNi−Zn合金めっきをすることにより、製造することができる。
【0031】
腐食防止めっき層32は、例えば、Niめっき浴として公知のワット浴に亜鉛を混合してNi−Zn合金めっき浴を調製し、このNi−Zn合金めっき浴に圧着端子本体31を浸漬してめっきすることで形成することができる。めっきは、定電流電解であると膜厚の制御が容易であるため好ましい
【0032】
<端子付き電線の製造方法>
圧着端子20は、例えば、以下のようにして製造することができる。はじめに、図2に示すように、電線10の端末部を圧着端子20の電線接続部22に挿入する。これにより、導体圧着部24の底板部26上に形成された腐食防止めっき層32の上面に電線10の導体11を載置すると共に、被覆材加締部25の底板部28に形成された腐食防止めっき層32の上面に電線10の電線被覆材12の付いた部分を載置する。次に、電線接続部22と電線10の端末部を押圧することにより、導体圧着部24及び被覆材加締部25を変形させる。具体的には、導体圧着部24の一対の導体加締片27を、導体11を包み込むように内側に曲げることで、導体11を腐食防止めっき層32を介して底板部26の上面に密着した状態となるように加締める。さらに、被覆材加締部25の一対の被覆材加締片29を、電線被覆材12の付いた部分を包み込むように内側に曲げることで、電線被覆材12を底板部28の上面に密着した状態となるように加締める。こうすることにより、圧着端子20と電線10とを圧着して接続することができる。
【0033】
<端子付き電線の効果>
本実施形態の端子付き電線によれば、被覆電線と圧着端子との圧着部位のガルバニック腐食の発生を抑制することができる。また、腐食防止めっき層32の形成を圧着端子本体31の表面のうち電線10の導体11と接触する部位のみにすることができるため、端子付き電線の製造コストを低減することができる。
【0034】
(ワイヤーハーネス)
本実施形態のワイヤーハーネスは、上述の端子付き電線を備える。具体的には、本実施形態のワイヤーハーネス2は、図4に示すように、コネクタ40と、上述の端子付き電線1とを備えるものである。
【0035】
図4においてコネクタ40の背面側には、図示しない相手方端子が装着される複数個の図示しない相手側端子装着部が設けられる。図4においてコネクタ40の正面側には、端子付き電線1の圧着端子20が装着される複数個のキャビティ41が設けられる。各キャビティ41には、端子付き電線1の圧着端子20が装着されるように、略矩形状の開口部が設けられる。さらに、各キャビティ41の開口部は、端子付き電線1の圧着端子20の断面よりも若干大きく形成される。コネクタ40のキャビティ41に端子付き電線1の圧着端子20が装着されると、電線1の図示しない電線は図4におけるコネクタ40の正面側より引き出される。
【0036】
<ワイヤーハーネスの効果>
本実施形態のワイヤーハーネスによれば、端子付き電線における被覆電線と圧着端子との圧着部位のガルバニック腐食の発生を抑制することができるため、耐腐食性が高いワイヤーハーネスが得られる。また、端子付き電線における腐食防止めっき層32の形成を圧着端子本体31の表面のうち電線10の導体11と接触する部位のみにすることができるため、ワイヤーハーネスの製造コストを低減することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例、比較例及び参考例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]
(圧着端子本体の用意)
図2に示す形状の純銅(C1020−H)製の圧着端子本体31を用意した。
(めっき浴の調製)
ワット浴に金属亜鉛を添加してめっき浴を調製した。具体的には、はじめに、硫酸ニッケル240g/l、塩化ニッケル45g/l、及びホウ酸30g/lのワット浴を調製した。次に、表1に示す量の金属亜鉛を10質量%HClに溶解した。さらに、ワット浴500mlに、得られた塩化亜鉛水溶液52mlを添加して亜鉛含有ワット浴を調製した。亜鉛含有ワット浴の亜鉛及びニッケルの含有量は、表1に示す電解条件で純銅製の圧着端子本体にめっきして腐食防止めっき層を形成したときに、得られる腐食防止めっき層を構成するZn−Niの質量比が表1の実施例1の欄に示す値(Ni22質量%−Zn78質量%)になるように決定したものである。表1にめっき浴の組成を示す。
【0039】
【表1】
【0040】
(腐食防止めっき層の形成)
次に、上記めっき浴中に圧着端子本体31を浸漬し、表1に示す条件で定電流電解することにより、圧着端子本体31に腐食防止めっき層を形成した。具体的なめっき手順は、以下のとおりである。
【0041】
はじめに、圧着端子本体31を浸漬可能な電解槽と、直流電源と、ポテンショ/ガルバノスタット(株式会社東陽テクニカ製Solartron1287)とを用意した。電解槽には、表1に示すめっき浴を満たした。
【0042】
次に、被めっき材である圧着端子本体31を、アルカリ脱脂で洗浄し、10%硫酸中に2分間浸漬する酸洗いを行い、水洗した。この圧着端子本体31を、導線を介して直流電源のマイナス極に接続した。一方、直流電源のプラス極には導線を介して2枚のニッケル板を接続した。ニッケル板は、めっき浴中のニッケル濃度を一定に保つために用いた。
【0043】
上記の圧着端子本体31及びニッケル板を電解槽中のめっき浴に浸漬した。めっき浴中において、圧着端子本体31は2枚のニッケル板の間に位置するように配置した。そして、ポテンショ/ガルバノスタットを用い、表1に示す条件で定電流電解した。電解終了後、めっき浴から圧着端子本体31を取り出し、水洗した。この結果、圧着端子本体31の表面全体に腐食防止めっき層32が形成された圧着端子20が得られた。腐食防止めっき層32の厚さは2μmであった。
【0044】
(腐食防止めっき層の評価)
<腐食防止めっき層の組成>
得られた腐食防止めっき層32についてSEM(走査型電子顕微鏡)−EDX(エネルギー分散型X線分光法)で元素の組成を分析した。この結果、腐食防止めっき層の材質は、Ni22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金であった。測定結果を表1に示す。
【0045】
(端子付き電線の形成)
上記腐食防止めっき層32が形成された圧着端子20と、導体がアルミニウム導線である電線10とを用い、端子付き電線1を作製した。具体的には、図2に示すように、上記圧着端子20の腐食防止めっき層32と電線10とが相対するように配置し、圧着端子20の一対の導体加締片27で電線10の導体11を加締めるとともに、圧着端子20の一対の被覆材加締片29で電線10の電線被覆材12を加締めて、図1に示す端子付き電線1を作製した。
【0046】
<端子付き電線のガルバニック腐食におけるアルミニウムの腐食速度>
端子付き電線1では、圧着端子20の表面のNi−Zn合金からなる腐食防止めっき層32と、電線10のアルミニウム製の導体11とが、接触しており、両者の間にガルバニック腐食が生じうる。そこで、腐食防止めっき層32の材質であるNi−Zn合金試片と、導体11の材質であるアルミニウムからなる純Al試片とを用いて、ガルバニック腐食におけるアルミニウムの腐食速度を算出した。
【0047】
[自然電位の測定]
具体的には、はじめに、電解液中で、純Al試片と、実施例1の腐食防止めっき層32の材質であるNi22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片との自然電位SPを測定した。具体的には、25℃の3質量%NaCl水溶液中で、銀−塩化銀電極を参照電極として自然電位を測定したところ、純Al試片の自然電位SPAlは−0.794[V vs.Ag−AgCl]、Ni22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片の自然電位SPNi22%−Zn78%は−0.672[V vs.Ag−AgCl]であった。
【0048】
[分極曲線の作成]
次に、電解液中で、純Al試片と、実施例1の腐食防止めっき層32の材質であるNi22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片との分極曲線PCを測定した。具体的には、25℃の3質量%NaC水溶液中で、純Al試片と、Ni22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片とについて、それぞれ、アノード分極曲線APC及びカソード分極曲線CPCを実験で求めた。
【0049】
アノード分極曲線APC及びカソード分極曲線CPCについて説明する。分極曲線には、測定試料を自然電位SPから高電位側に分極させたときに得られるアノード分極曲線APCと、測定試料をSPから低電位側に分極させたときに得られるカソード分極曲線CPCとがある。これらのアノード分極曲線及びカソード分極曲線は、共に、横軸を電位(V)、縦軸を電流密度(A/cm)としたグラフ(以下、「P−dグラフ」という。)に描くことができる。具体的には、物質Xのアノード分極曲線は、P−dグラフにおいて、電流密度がゼロであるP−dグラフの横軸上における物質Xの自然電位値SPを起点とし、このSPから高電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる物質Xのアノード分極曲線APCとして描かれる。また、物質Xのカソード分極曲線は、SPより低電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる物質Xのカソード分極曲線CPCとして描かれる。
【0050】
具体的に測定したところ、純Al試片のアノード分極曲線APCAlは、P−dグラフの横軸上における自然電位SPAl値である−0.794[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより高電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。また、純Al試片のカソード分極曲線CPCAlは、P−dグラフの横軸上における自然電位SPAl値である−0.794[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより低電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。
【0051】
同様に、Ni22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片のアノード分極曲線APCNi22%−Zn78%は、P−dグラフの横軸上における自然電位SPNi22%−Zn78%値である−0.672[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより高電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。また、カソード分極曲線CPCNi22%−Zn78%は、P−dグラフの横軸上における自然電位SPNi22%−Zn78%値である−0.672[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより低電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。
【0052】
[腐食電流密度及びアルミニウムの腐食速度の算出]
上記のように、純Al試片の自然電位SPAlである−0.794[V vs.Ag−AgCl]は、Ni22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片の自然電位SPNi22%−Zn78%である−0.672[V vs.Ag−AgCl]よりも、卑である。このため、P−dグラフ上において、横軸上の純Al試片の自然電位SPAlを起点として高電位方向に延びる純Al試片のアノード分極曲線APCAlと、横軸上のNi22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片の自然電位SPNi22%−Zn78%を起点として低電位方向に延びるNi−Zn合金試片のカソード分極曲線CPCNi22%−Zn78%とは、交わり、交点IPを有する。このAPCAlとCPCNi22%−Zn78%との交点IPにおける電流密度DIP[A/cm]は、純Al試片とNi22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片とがガルバニック腐食した場合の腐食電流密度となる。そして、この腐食電流密度から、アルミニウムの腐食に要する単位時間当たりの電荷量を算出し、この単位時間当たりの電荷量と、アルミニウムのアノード反応の半反応式Al→Al3++3eと、ファラデー定数と、アルミニウムの密度とを用いると、アルミニウムの腐食速度[μg/年]を算出することができる。
【0053】
このようにして、純Al試片と実施例1のNi22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片とがガルバニック腐食した場合の腐食電流密度及びアルミニウムの腐食速度[μg/年]を算出した。この結果、腐食電流密度は1.70×10−6[A/cm]、アルミニウムの腐食速度は3.12×10[μg/年]と算出された。アルミニウムの腐食速度を、図5に「実施例1」として示す。なお、図5の横軸のタイトルである「Zn含有量」は、Ni−Zn合金中のZn含有量を示す。例えば、図5でZn含有量が78質量%とは、Ni22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金を示す。
【0054】
実施例1の腐食防止めっき層32の表面をSIM(走査イオン顕微鏡法)で観察した。結果を図6に示す。図6より、腐食防止めっき層32を構成するNi22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金は、結晶粒が小さいことが分かった。図6より、実施例1の腐食防止めっき層32では、結晶粒が微細化して粒界の面積が増えることにより粒界散乱が生じて電気抵抗が上昇するため、ガルバニック腐食電流が小さくなって腐食が抑制されるものと推測される。
【0055】
[比較例1]
(圧着端子本体の用意)
実施例1と同じ純銅製の圧着端子本体31を用意した。
(めっき浴の調製)
めっき浴の組成を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして、めっき浴として亜鉛含有ワット浴を調製した。比較例1の亜鉛含有ワット浴は、表1に示す電解条件で純銅製の圧着端子本体にめっきして腐食防止めっき層を形成したときに、得られる腐食防止めっき層を構成するZn−Niの質量比が表1の比較例1の欄に示す値(Ni82質量%−Zn18質量%)になるように決定したものである。
【0056】
(腐食防止めっき層の形成)
電解条件を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして圧着端子本体31に腐食防止めっき層を形成し、圧着端子を得た。腐食防止めっき層の厚さは2μmであった。
【0057】
(腐食防止めっき層の評価)
<腐食防止めっき層の組成>
得られた腐食防止めっき層について実施例1と同様にして元素の組成を分析した。この結果、腐食防止めっき層の材質は、Ni82質量%−Zn18質量%のNi−Zn合金であった。測定結果を表1に示す。
【0058】
(端子付き電線の形成)
実施例1と同様にして図1に示す端子付き電線1を作製した。
【0059】
<端子付き電線のガルバニック腐食におけるアルミニウムの腐食速度>
実施例1のNi22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片に代えて、Ni82質量%−Zn18質量%のNi−Zn合金試片を用いた以外は、実施例1と同様にして、Ni82質量%−Zn18質量%のNi−Zn合金試片の自然電位SPNi82%−Zn18%を測定し、同試片のアノード分極曲線APCNi82%−Zn18%及びカソード分極曲線CPCNi82%−Zn18%を得た。
【0060】
[自然電位の測定]
Ni−Zn合金試片の自然電位SPNi82%−Zn18%は、−0.217[V vs.Ag−AgCl]であった。
【0061】
[分極曲線の作成]
Ni82質量%−Zn18質量%のNi−Zn合金試片のアノード分極曲線APCNi82%−Zn18%は、P−dグラフの横軸上における自然電位SPNi82%−Zn18%値である−0.217[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより高電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。また、カソード分極曲線CPCNi82%−Zn18%は、P−dグラフの横軸上における自然電位SPNi22%−Zn78%値である−0.217[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより低電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。
【0062】
[腐食電流密度及びアルミニウムの腐食速度の算出]
上記のように、純Al試片の自然電位SPAlである−0.794[V vs.Ag−AgCl]は、Ni82質量%−Zn18質量%のNi−Zn合金試片の自然電位SPNi82%−Zn18%である−0.217[V vs.Ag−AgCl]よりも、卑である。このため、P−dグラフ上において、横軸上の純Al試片の自然電位SPAlを起点として高電位方向に延びる純Al試片のアノード分極曲線APCAlと、横軸上のNi82質量%−Zn18質量%のNi−Zn合金試片の自然電位SPNi82%−Zn18%を起点として低電位方向に延びるNi−Zn合金試片のカソード分極曲線CPCNi82%−Zn18%とは、交わり、交点IPを有する。このAPCAlとCPCNi82%−Zn18%との交点IPにおける電流密度DIP[A/cm]は、純Al試片とNi82質量%−Zn18質量%のNi−Zn合金試片とがガルバニック腐食した場合の腐食電流密度となる。そして、この腐食電流密度から、実施例1と同様にして、アルミニウムの腐食速度[μg/年]を算出することができる。
【0063】
このようにして、純Al試片と比較例1のNi82質量%−Zn18質量%のNi−Zn合金試片とがガルバニック腐食した場合の腐食電流密度及びアルミニウムの腐食速度[μg/年]を算出した。この結果、腐食電流密度は2.01×10−5[A/cm]、アルミニウムの腐食速度は3.70×10[μg/年]と算出された。アルミニウムの腐食速度を、図5に「比較例1」として示す。
【0064】
[比較例2]
(圧着端子本体の用意)
実施例1と同じ純銅製の圧着端子本体31を用意した。
(めっき浴の調製)
めっき浴の組成を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして、めっき浴として亜鉛含有ワット浴を調製した。比較例2の亜鉛含有ワット浴は、表1に示す電解条件で純銅製の圧着端子本体にめっきして腐食防止めっき層を形成したときに、得られる腐食防止めっき層を構成するZn−Niの質量比が表1の比較例2の欄に示す値(Ni93質量%−Zn7質量%)になるように決定したものである。
【0065】
(腐食防止めっき層の形成)
電解条件を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして圧着端子本体31に腐食防止めっき層を形成し、圧着端子を得た。腐食防止めっき層の厚さは2μmであった。
【0066】
(腐食防止めっき層の評価)
<腐食防止めっき層の組成>
得られた腐食防止めっき層について実施例1と同様にして元素の組成を分析した。この結果、腐食防止めっき層の材質は、Ni93質量%−Zn7質量%のNi−Zn合金であった。測定結果を表1に示す。
【0067】
(端子付き電線の形成)
実施例1と同様にして図1に示す端子付き電線1を作製した。
【0068】
<端子付き電線のガルバニック腐食におけるアルミニウムの腐食速度>
実施例1のNi22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片に代えて、Ni93質量%−Zn7質量%のNi−Zn合金試片を用いた以外は、実施例1と同様にして、Ni93質量%−Zn7質量%のNi−Zn合金試片の自然電位SPNi93%−Zn7%を測定し、同試片のアノード分極曲線APCNi93%−Zn7%及びカソード分極曲線CPCNi93%−Zn7%を得た。
【0069】
[自然電位の測定]
Ni−Zn合金試片の自然電位SPNi93%−Zn7%は、−0.188[V vs.Ag−AgCl]であった。
【0070】
[分極曲線の作成]
Ni93質量%−Zn7質量%のNi−Zn合金試片のアノード分極曲線APCNi93%−Zn7%は、P−dグラフの横軸上における自然電位SPNi93%−Zn7%値である−0.188[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより高電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。また、カソード分極曲線CPCNi93%−Zn7%は、P−dグラフの横軸上における自然電位SPNi93%−Zn7%値である−0.188[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより低電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。
【0071】
[腐食電流密度及びアルミニウムの腐食速度の算出]
上記のように、純Al試片の自然電位SPAlである−0.794[V vs.Ag−AgCl]は、Ni93質量%−Zn7質量%のNi−Zn合金試片の自然電位SPNi93%−Zn7%である−0.188[V vs.Ag−AgCl]よりも、卑である。このため、P−dグラフ上において、横軸上の純Al試片の自然電位SPAlを起点として高電位方向に延びる純Al試片のアノード分極曲線APCAlと、横軸上のNi93質量%−Zn7質量%のNi−Zn合金試片の自然電位SPNi93%−Zn7%を起点として低電位方向に延びるNi−Zn合金試片のカソード分極曲線CPCNi93%−Zn7%とは、交わり、交点IPを有する。このAPCAlとCPCNi93%−Zn7%との交点IPにおける電流密度DIP[A/cm]は、純Al試片とNi93質量%−Zn7質量%のNi−Zn合金試片とがガルバニック腐食した場合の腐食電流密度となる。そして、この腐食電流密度から、実施例1と同様にして、アルミニウムの腐食速度[μg/年]を算出することができる。
【0072】
このようにして、純Al試片と比較例2のNi93質量%−Zn7質量%のNi−Zn合金試片とがガルバニック腐食した場合の腐食電流密度及びアルミニウムの腐食速度[μg/年]を算出した。この結果、腐食電流密度は2.11×10−5[A/cm]、アルミニウムの腐食速度は3.88×10[μg/年]と算出された。アルミニウムの腐食速度を、図5に「比較例2」として示す。
【0073】
[比較例3]
(圧着端子本体の用意)
実施例1と同じ純銅製の圧着端子本体31を用意した。
(めっき浴の調製)
めっき浴の組成を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして、金属亜鉛を添加しないワット浴を調製した。表1にめっき浴の組成を示す。
【0074】
(腐食防止めっき層の形成)
電解条件を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして圧着端子本体31に腐食防止めっき層を形成し、圧着端子を得た。腐食防止めっき層の厚さは2μmであった。
【0075】
(腐食防止めっき層の評価)
<腐食防止めっき層の組成>
得られた腐食防止めっき層について実施例1と同様にして元素の組成を分析した。この結果、腐食防止めっき層の材質は、Ni100質量%のNiであった。測定結果を表1に示す。
【0076】
(端子付き電線の形成)
実施例1と同様にして図1に示す端子付き電線1を作製した。
【0077】
<端子付き電線のガルバニック腐食におけるアルミニウムの腐食速度>
実施例1のNi22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片に代えて、Ni100質量%の純Ni試片を用いた以外は、実施例1と同様にして、Ni100質量%の純Ni試片の自然電位SPNiを測定し、同試片のアノード分極曲線APCNi及びカソード分極曲線CPCNiを得た。
【0078】
[自然電位の測定]
純Ni試片の自然電位SPNiは、−0.105[V vs.Ag−AgCl]であった。
【0079】
[分極曲線の作成]
Ni100質量%の純Ni試片のアノード分極曲線APCNiは、P−dグラフの横軸上における自然電位SPNi値である−0.105[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより高電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。また、カソード分極曲線CPCNiは、P−dグラフの横軸上における自然電位SPNi値である−0.105[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより低電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。
【0080】
[腐食電流密度及びアルミニウムの腐食速度の算出]
上記のように、純Al試片の自然電位SPAlである−0.794[V vs.Ag−AgCl]は、Ni100質量%の純Ni試片の自然電位SPNiである−0.105[V vs.Ag−AgCl]よりも、卑である。このため、P−dグラフ上において、横軸上の純Al試片の自然電位SPAlを起点として高電位方向に延びる純Al試片のアノード分極曲線APCAlと、横軸上のNi100質量%の純Ni試片の自然電位SPNiを起点として低電位方向に延びる純Ni試片のカソード分極曲線CPCNiとは、交わり、交点IPを有する。このAPCAlとCPCNiとの交点IPにおける電流密度DIP[A/cm]は、純Al試片と純Ni試片とがガルバニック腐食した場合の腐食電流密度となる。そして、この腐食電流密度から、実施例1と同様にして、アルミニウムの腐食速度[μg/年]を算出することができる。
【0081】
このようにして、純Al試片と比較例3のNi100質量%の純Ni試片とがガルバニック腐食した場合の腐食電流密度及びアルミニウムの腐食速度[μg/年]を算出した。この結果、腐食電流密度は1.07×10−5[A/cm]、アルミニウムの腐食速度は1.97×10[μg/年]と算出された。
【0082】
比較例3の腐食防止めっき層32の表面をSIM(走査イオン顕微鏡法)で観察した。結果を図7に示す。図7より、腐食防止めっき層32を構成するNi100質量%の純Niは、結晶粒が大きいことが分かった。
【0083】
[参考例1]
<スズめっき銅のガルバニック腐食におけるアルミニウムの腐食速度>
従来の、純銅製の圧着端子本体31の表面にスズめっきした圧着端子のガルバニック腐食を模して、純Sn試片を用いて自然電位を測定し、分極曲線を作成した。そして、純Sn試片の分極曲線と、実施例1の純Al試片の分極曲線と、を用いてガルバニック腐食におけるアルミニウムの腐食速度を算出した。具体的には、実施例1のNi22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片に代えて、Sn100質量%の純Sn試片を用いた以外は、実施例1と同様にして、Sn100質量%の純Sn試片の自然電位SPSnを測定し、アノード分極曲線APCSn、及びカソード分極曲線CPCSnを得た。
【0084】
[自然電位の測定]
純Sn試片の自然電位SPSnは、−0.35[V vs.Ag−AgCl]であった。
【0085】
[分極曲線の作成]
Sn100質量%の純Sn試片のアノード分極曲線APCSnは、P−dグラフの横軸上における自然電位SPSn値である−0.35[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより高電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。また、カソード分極曲線CPCSnは、P−dグラフの横軸上における自然電位SPSn値である−0.35[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより低電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。
【0086】
[腐食電流密度及びアルミニウムの腐食速度の算出]
上記のように、純Al試片の自然電位SPAlである−0.794[V vs.Ag−AgCl]は、Sn100質量%の純Sn試片の自然電位SPSn値である−0.35[V vs.Ag−AgCl]よりも、卑である。このため、P−dグラフ上において、横軸上の純Al試片の自然電位SPAlを起点として高電位方向に延びる純Al試片のアノード分極曲線APCAlと、横軸上のSn100質量%の純Sn試片の自然電位SPSnを起点として低電位方向に延びる純Sn試片のカソード分極曲線CPCSnとは、交わり、交点IPを有する。このAPCAlとCPCSnとの交点IPにおける電流密度DIP[A/cm]は、純Al試片と純Sn試片とがガルバニック腐食した場合の腐食電流密度となる。そして、この腐食電流密度から、実施例1と同様にして、アルミニウムの腐食速度[μg/年]を算出することができる。
【0087】
このようにして、純Al試片と参考例1のNi100質量%の純Sn試片とがガルバニック腐食した場合の腐食電流密度及びアルミニウムの腐食速度[μg/年]を算出した。この結果、腐食電流密度は4.53×10−6[A/cm]、アルミニウムの腐食速度は8.32×10[μg/年]と算出された。アルミニウムの腐食速度を、図5に「参考例1」として示す。
【0088】
上記のように、図5には、Ni−Zn合金の元素比率の異なる実施例1(Ni22質量%−Zn78質量%)、比較例1(Ni82質量%−Zn18質量%)、及び比較例2(Ni93質量%−Zn7質量%)におけるアルミニウムの腐食速度を1点ずつ、合計3点プロットしている。そこで、これらの3点を結ぶ近似曲線Cを作成した。この近似曲線Cは、図5の横軸のZn含有量をx[質量%]、縦軸のAlの腐食速度[μg/年]をyとしたときに、y=−5230.5x+442512と表された。近似曲線Cを図5に示す。
次に、近似曲線Cと、参考例1のアルミニウムの腐食速度8.32×10[μg/年]とを比較し、近似曲線Cのうちで、参考例1のアルミニウムの腐食速度よりも腐食速度が小さくなる範囲を算出した。この結果、近似曲線Cのうちxが69質量%〜78質量%となる範囲(図5中のA質量%−B質量%間の範囲R)のNi−Zn合金のアルミニウムの腐食速度が、参考例1のアルミニウムの腐食速度よりも小さくなることが分かった。これは、圧着端子本体の表面に、Ni31質量%−Zn69質量%〜Ni22質量%−Zn78質量%の組成範囲内のNi−Zn合金で腐食防止めっき層を形成した圧着端子は、従来の表面がスズめっきされた圧着端子に比較して、アルミニウムの腐食速度が小さいことを示す。
【0089】
以上、本発明を実施形態によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0090】
1 端子付き電線
2 ワイヤーハーネス
10 電線
11 導体
12 電線被覆材
20 圧着端子
21 電気接続部
22 電線接続部
23 繋ぎ部
24 導体圧着部
25 被覆材加締部
26 底板部
27 導体加締片
28 底板部
29 被覆材加締片
31 圧着端子本体
32 腐食防止めっき層
40 コネクタ
41 キャビティ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7