【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例、比較例及び参考例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]
(圧着端子本体の用意)
図2に示す形状の純銅(C1020−H)製の圧着端子本体31を用意した。
(めっき浴の調製)
ワット浴に金属亜鉛を添加してめっき浴を調製した。具体的には、はじめに、硫酸ニッケル240g/l、塩化ニッケル45g/l、及びホウ酸30g/lのワット浴を調製した。次に、表1に示す量の金属亜鉛を10質量%HClに溶解した。さらに、ワット浴500mlに、得られた塩化亜鉛水溶液52mlを添加して亜鉛含有ワット浴を調製した。亜鉛含有ワット浴の亜鉛及びニッケルの含有量は、表1に示す電解条件で純銅製の圧着端子本体にめっきして腐食防止めっき層を形成したときに、得られる腐食防止めっき層を構成するZn−Niの質量比が表1の実施例1の欄に示す値(Ni22質量%−Zn78質量%)になるように決定したものである。表1にめっき浴の組成を示す。
【0039】
【表1】
【0040】
(腐食防止めっき層の形成)
次に、上記めっき浴中に圧着端子本体31を浸漬し、表1に示す条件で定電流電解することにより、圧着端子本体31に腐食防止めっき層を形成した。具体的なめっき手順は、以下のとおりである。
【0041】
はじめに、圧着端子本体31を浸漬可能な電解槽と、直流電源と、ポテンショ/ガルバノスタット(株式会社東陽テクニカ製Solartron1287)とを用意した。電解槽には、表1に示すめっき浴を満たした。
【0042】
次に、被めっき材である圧着端子本体31を、アルカリ脱脂で洗浄し、10%硫酸中に2分間浸漬する酸洗いを行い、水洗した。この圧着端子本体31を、導線を介して直流電源のマイナス極に接続した。一方、直流電源のプラス極には導線を介して2枚のニッケル板を接続した。ニッケル板は、めっき浴中のニッケル濃度を一定に保つために用いた。
【0043】
上記の圧着端子本体31及びニッケル板を電解槽中のめっき浴に浸漬した。めっき浴中において、圧着端子本体31は2枚のニッケル板の間に位置するように配置した。そして、ポテンショ/ガルバノスタットを用い、表1に示す条件で定電流電解した。電解終了後、めっき浴から圧着端子本体31を取り出し、水洗した。この結果、圧着端子本体31の表面全体に腐食防止めっき層32が形成された圧着端子20が得られた。腐食防止めっき層32の厚さは2μmであった。
【0044】
(腐食防止めっき層の評価)
<腐食防止めっき層の組成>
得られた腐食防止めっき層32についてSEM(走査型電子顕微鏡)−EDX(エネルギー分散型X線分光法)で元素の組成を分析した。この結果、腐食防止めっき層の材質は、Ni22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金であった。測定結果を表1に示す。
【0045】
(端子付き電線の形成)
上記腐食防止めっき層32が形成された圧着端子20と、導体がアルミニウム導線である電線10とを用い、端子付き電線1を作製した。具体的には、
図2に示すように、上記圧着端子20の腐食防止めっき層32と電線10とが相対するように配置し、圧着端子20の一対の導体加締片27で電線10の導体11を加締めるとともに、圧着端子20の一対の被覆材加締片29で電線10の電線被覆材12を加締めて、
図1に示す端子付き電線1を作製した。
【0046】
<端子付き電線のガルバニック腐食におけるアルミニウムの腐食速度>
端子付き電線1では、圧着端子20の表面のNi−Zn合金からなる腐食防止めっき層32と、電線10のアルミニウム製の導体11とが、接触しており、両者の間にガルバニック腐食が生じうる。そこで、腐食防止めっき層32の材質であるNi−Zn合金試片と、導体11の材質であるアルミニウムからなる純Al試片とを用いて、ガルバニック腐食におけるアルミニウムの腐食速度を算出した。
【0047】
[自然電位の測定]
具体的には、はじめに、電解液中で、純Al試片と、実施例1の腐食防止めっき層32の材質であるNi22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片との自然電位SPを測定した。具体的には、25℃の3質量%NaCl水溶液中で、銀−塩化銀電極を参照電極として自然電位を測定したところ、純Al試片の自然電位SP
Alは−0.794[V vs.Ag−AgCl]、Ni22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片の自然電位SP
Ni22%−Zn78%は−0.672[V vs.Ag−AgCl]であった。
【0048】
[分極曲線の作成]
次に、電解液中で、純Al試片と、実施例1の腐食防止めっき層32の材質であるNi22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片との分極曲線PCを測定した。具体的には、25℃の3質量%NaC水溶液中で、純Al試片と、Ni22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片とについて、それぞれ、アノード分極曲線APC及びカソード分極曲線CPCを実験で求めた。
【0049】
アノード分極曲線APC及びカソード分極曲線CPCについて説明する。分極曲線には、測定試料を自然電位SPから高電位側に分極させたときに得られるアノード分極曲線APCと、測定試料をSPから低電位側に分極させたときに得られるカソード分極曲線CPCとがある。これらのアノード分極曲線及びカソード分極曲線は、共に、横軸を電位(V)、縦軸を電流密度(A/cm
2)としたグラフ(以下、「P−dグラフ」という。)に描くことができる。具体的には、物質Xのアノード分極曲線は、P−dグラフにおいて、電流密度がゼロであるP−dグラフの横軸上における物質Xの自然電位値SP
Xを起点とし、このSP
Xから高電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる物質Xのアノード分極曲線APC
Xとして描かれる。また、物質Xのカソード分極曲線は、SP
Xより低電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる物質Xのカソード分極曲線CPC
Xとして描かれる。
【0050】
具体的に測定したところ、純Al試片のアノード分極曲線APC
Alは、P−dグラフの横軸上における自然電位SP
Al値である−0.794[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより高電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。また、純Al試片のカソード分極曲線CPC
Alは、P−dグラフの横軸上における自然電位SP
Al値である−0.794[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより低電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。
【0051】
同様に、Ni22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片のアノード分極曲線APC
Ni22%−Zn78%は、P−dグラフの横軸上における自然電位SP
Ni22%−Zn78%値である−0.672[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより高電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。また、カソード分極曲線CPC
Ni22%−Zn78%は、P−dグラフの横軸上における自然電位SP
Ni22%−Zn78%値である−0.672[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより低電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。
【0052】
[腐食電流密度及びアルミニウムの腐食速度の算出]
上記のように、純Al試片の自然電位SP
Alである−0.794[V vs.Ag−AgCl]は、Ni22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片の自然電位SP
Ni22%−Zn78%である−0.672[V vs.Ag−AgCl]よりも、卑である。このため、P−dグラフ上において、横軸上の純Al試片の自然電位SP
Alを起点として高電位方向に延びる純Al試片のアノード分極曲線APC
Alと、横軸上のNi22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片の自然電位SP
Ni22%−Zn78%を起点として低電位方向に延びるNi−Zn合金試片のカソード分極曲線CPC
Ni22%−Zn78%とは、交わり、交点IPを有する。このAPC
AlとCPC
Ni22%−Zn78%との交点IPにおける電流密度D
IP[A/cm
2]は、純Al試片とNi22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片とがガルバニック腐食した場合の腐食電流密度となる。そして、この腐食電流密度から、アルミニウムの腐食に要する単位時間当たりの電荷量を算出し、この単位時間当たりの電荷量と、アルミニウムのアノード反応の半反応式Al→Al
3++3e
−と、ファラデー定数と、アルミニウムの密度とを用いると、アルミニウムの腐食速度[μg/年]を算出することができる。
【0053】
このようにして、純Al試片と実施例1のNi22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片とがガルバニック腐食した場合の腐食電流密度及びアルミニウムの腐食速度[μg/年]を算出した。この結果、腐食電流密度は1.70×10
−6[A/cm
2]、アルミニウムの腐食速度は3.12×10
4[μg/年]と算出された。アルミニウムの腐食速度を、
図5に「実施例1」として示す。なお、
図5の横軸のタイトルである「Zn含有量」は、Ni−Zn合金中のZn含有量を示す。例えば、
図5でZn含有量が78質量%とは、Ni22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金を示す。
【0054】
実施例1の腐食防止めっき層32の表面をSIM(走査イオン顕微鏡法)で観察した。結果を
図6に示す。
図6より、腐食防止めっき層32を構成するNi22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金は、結晶粒が小さいことが分かった。
図6より、実施例1の腐食防止めっき層32では、結晶粒が微細化して粒界の面積が増えることにより粒界散乱が生じて電気抵抗が上昇するため、ガルバニック腐食電流が小さくなって腐食が抑制されるものと推測される。
【0055】
[比較例1]
(圧着端子本体の用意)
実施例1と同じ純銅製の圧着端子本体31を用意した。
(めっき浴の調製)
めっき浴の組成を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして、めっき浴として亜鉛含有ワット浴を調製した。比較例1の亜鉛含有ワット浴は、表1に示す電解条件で純銅製の圧着端子本体にめっきして腐食防止めっき層を形成したときに、得られる腐食防止めっき層を構成するZn−Niの質量比が表1の比較例1の欄に示す値(Ni82質量%−Zn18質量%)になるように決定したものである。
【0056】
(腐食防止めっき層の形成)
電解条件を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして圧着端子本体31に腐食防止めっき層を形成し、圧着端子を得た。腐食防止めっき層の厚さは2μmであった。
【0057】
(腐食防止めっき層の評価)
<腐食防止めっき層の組成>
得られた腐食防止めっき層について実施例1と同様にして元素の組成を分析した。この結果、腐食防止めっき層の材質は、Ni82質量%−Zn18質量%のNi−Zn合金であった。測定結果を表1に示す。
【0058】
(端子付き電線の形成)
実施例1と同様にして
図1に示す端子付き電線1を作製した。
【0059】
<端子付き電線のガルバニック腐食におけるアルミニウムの腐食速度>
実施例1のNi22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片に代えて、Ni82質量%−Zn18質量%のNi−Zn合金試片を用いた以外は、実施例1と同様にして、Ni82質量%−Zn18質量%のNi−Zn合金試片の自然電位SP
Ni82%−Zn18%を測定し、同試片のアノード分極曲線APC
Ni82%−Zn18%及びカソード分極曲線CPC
Ni82%−Zn18%を得た。
【0060】
[自然電位の測定]
Ni−Zn合金試片の自然電位SP
Ni82%−Zn18%は、−0.217[V vs.Ag−AgCl]であった。
【0061】
[分極曲線の作成]
Ni82質量%−Zn18質量%のNi−Zn合金試片のアノード分極曲線APC
Ni82%−Zn18%は、P−dグラフの横軸上における自然電位SP
Ni82%−Zn18%値である−0.217[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより高電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。また、カソード分極曲線CPC
Ni82%−Zn18%は、P−dグラフの横軸上における自然電位SP
Ni22%−Zn78%値である−0.217[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより低電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。
【0062】
[腐食電流密度及びアルミニウムの腐食速度の算出]
上記のように、純Al試片の自然電位SP
Alである−0.794[V vs.Ag−AgCl]は、Ni82質量%−Zn18質量%のNi−Zn合金試片の自然電位SP
Ni82%−Zn18%である−0.217[V vs.Ag−AgCl]よりも、卑である。このため、P−dグラフ上において、横軸上の純Al試片の自然電位SP
Alを起点として高電位方向に延びる純Al試片のアノード分極曲線APC
Alと、横軸上のNi82質量%−Zn18質量%のNi−Zn合金試片の自然電位SP
Ni82%−Zn18%を起点として低電位方向に延びるNi−Zn合金試片のカソード分極曲線CPC
Ni82%−Zn18%とは、交わり、交点IPを有する。このAPC
AlとCPC
Ni82%−Zn18%との交点IPにおける電流密度D
IP[A/cm
2]は、純Al試片とNi82質量%−Zn18質量%のNi−Zn合金試片とがガルバニック腐食した場合の腐食電流密度となる。そして、この腐食電流密度から、実施例1と同様にして、アルミニウムの腐食速度[μg/年]を算出することができる。
【0063】
このようにして、純Al試片と比較例1のNi82質量%−Zn18質量%のNi−Zn合金試片とがガルバニック腐食した場合の腐食電流密度及びアルミニウムの腐食速度[μg/年]を算出した。この結果、腐食電流密度は2.01×10
−5[A/cm
2]、アルミニウムの腐食速度は3.70×10
5[μg/年]と算出された。アルミニウムの腐食速度を、
図5に「比較例1」として示す。
【0064】
[比較例2]
(圧着端子本体の用意)
実施例1と同じ純銅製の圧着端子本体31を用意した。
(めっき浴の調製)
めっき浴の組成を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして、めっき浴として亜鉛含有ワット浴を調製した。比較例2の亜鉛含有ワット浴は、表1に示す電解条件で純銅製の圧着端子本体にめっきして腐食防止めっき層を形成したときに、得られる腐食防止めっき層を構成するZn−Niの質量比が表1の比較例2の欄に示す値(Ni93質量%−Zn7質量%)になるように決定したものである。
【0065】
(腐食防止めっき層の形成)
電解条件を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして圧着端子本体31に腐食防止めっき層を形成し、圧着端子を得た。腐食防止めっき層の厚さは2μmであった。
【0066】
(腐食防止めっき層の評価)
<腐食防止めっき層の組成>
得られた腐食防止めっき層について実施例1と同様にして元素の組成を分析した。この結果、腐食防止めっき層の材質は、Ni93質量%−Zn7質量%のNi−Zn合金であった。測定結果を表1に示す。
【0067】
(端子付き電線の形成)
実施例1と同様にして
図1に示す端子付き電線1を作製した。
【0068】
<端子付き電線のガルバニック腐食におけるアルミニウムの腐食速度>
実施例1のNi22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片に代えて、Ni93質量%−Zn7質量%のNi−Zn合金試片を用いた以外は、実施例1と同様にして、Ni93質量%−Zn7質量%のNi−Zn合金試片の自然電位SP
Ni93%−Zn7%を測定し、同試片のアノード分極曲線APC
Ni93%−Zn7%及びカソード分極曲線CPC
Ni93%−Zn7%を得た。
【0069】
[自然電位の測定]
Ni−Zn合金試片の自然電位SP
Ni93%−Zn7%は、−0.188[V vs.Ag−AgCl]であった。
【0070】
[分極曲線の作成]
Ni93質量%−Zn7質量%のNi−Zn合金試片のアノード分極曲線APC
Ni93%−Zn7%は、P−dグラフの横軸上における自然電位SP
Ni93%−Zn7%値である−0.188[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより高電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。また、カソード分極曲線CPC
Ni93%−Zn7%は、P−dグラフの横軸上における自然電位SP
Ni93%−Zn7%値である−0.188[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより低電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。
【0071】
[腐食電流密度及びアルミニウムの腐食速度の算出]
上記のように、純Al試片の自然電位SP
Alである−0.794[V vs.Ag−AgCl]は、Ni93質量%−Zn7質量%のNi−Zn合金試片の自然電位SP
Ni93%−Zn7%である−0.188[V vs.Ag−AgCl]よりも、卑である。このため、P−dグラフ上において、横軸上の純Al試片の自然電位SP
Alを起点として高電位方向に延びる純Al試片のアノード分極曲線APC
Alと、横軸上のNi93質量%−Zn7質量%のNi−Zn合金試片の自然電位SP
Ni93%−Zn7%を起点として低電位方向に延びるNi−Zn合金試片のカソード分極曲線CPC
Ni93%−Zn7%とは、交わり、交点IPを有する。このAPC
AlとCPC
Ni93%−Zn7%との交点IPにおける電流密度D
IP[A/cm
2]は、純Al試片とNi93質量%−Zn7質量%のNi−Zn合金試片とがガルバニック腐食した場合の腐食電流密度となる。そして、この腐食電流密度から、実施例1と同様にして、アルミニウムの腐食速度[μg/年]を算出することができる。
【0072】
このようにして、純Al試片と比較例2のNi93質量%−Zn7質量%のNi−Zn合金試片とがガルバニック腐食した場合の腐食電流密度及びアルミニウムの腐食速度[μg/年]を算出した。この結果、腐食電流密度は2.11×10
−5[A/cm
2]、アルミニウムの腐食速度は3.88×10
5[μg/年]と算出された。アルミニウムの腐食速度を、
図5に「比較例2」として示す。
【0073】
[比較例3]
(圧着端子本体の用意)
実施例1と同じ純銅製の圧着端子本体31を用意した。
(めっき浴の調製)
めっき浴の組成を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして、金属亜鉛を添加しないワット浴を調製した。表1にめっき浴の組成を示す。
【0074】
(腐食防止めっき層の形成)
電解条件を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして圧着端子本体31に腐食防止めっき層を形成し、圧着端子を得た。腐食防止めっき層の厚さは2μmであった。
【0075】
(腐食防止めっき層の評価)
<腐食防止めっき層の組成>
得られた腐食防止めっき層について実施例1と同様にして元素の組成を分析した。この結果、腐食防止めっき層の材質は、Ni100質量%のNiであった。測定結果を表1に示す。
【0076】
(端子付き電線の形成)
実施例1と同様にして
図1に示す端子付き電線1を作製した。
【0077】
<端子付き電線のガルバニック腐食におけるアルミニウムの腐食速度>
実施例1のNi22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片に代えて、Ni100質量%の純Ni試片を用いた以外は、実施例1と同様にして、Ni100質量%の純Ni試片の自然電位SP
Niを測定し、同試片のアノード分極曲線APC
Ni及びカソード分極曲線CPC
Niを得た。
【0078】
[自然電位の測定]
純Ni試片の自然電位SP
Niは、−0.105[V vs.Ag−AgCl]であった。
【0079】
[分極曲線の作成]
Ni100質量%の純Ni試片のアノード分極曲線APC
Niは、P−dグラフの横軸上における自然電位SP
Ni値である−0.105[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより高電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。また、カソード分極曲線CPC
Niは、P−dグラフの横軸上における自然電位SP
Ni値である−0.105[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより低電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。
【0080】
[腐食電流密度及びアルミニウムの腐食速度の算出]
上記のように、純Al試片の自然電位SP
Alである−0.794[V vs.Ag−AgCl]は、Ni100質量%の純Ni試片の自然電位SP
Niである−0.105[V vs.Ag−AgCl]よりも、卑である。このため、P−dグラフ上において、横軸上の純Al試片の自然電位SP
Alを起点として高電位方向に延びる純Al試片のアノード分極曲線APC
Alと、横軸上のNi100質量%の純Ni試片の自然電位SP
Niを起点として低電位方向に延びる純Ni試片のカソード分極曲線CPC
Niとは、交わり、交点IPを有する。このAPC
AlとCPC
Niとの交点IPにおける電流密度D
IP[A/cm
2]は、純Al試片と純Ni試片とがガルバニック腐食した場合の腐食電流密度となる。そして、この腐食電流密度から、実施例1と同様にして、アルミニウムの腐食速度[μg/年]を算出することができる。
【0081】
このようにして、純Al試片と比較例3のNi100質量%の純Ni試片とがガルバニック腐食した場合の腐食電流密度及びアルミニウムの腐食速度[μg/年]を算出した。この結果、腐食電流密度は1.07×10
−5[A/cm
2]、アルミニウムの腐食速度は1.97×10
5[μg/年]と算出された。
【0082】
比較例3の腐食防止めっき層32の表面をSIM(走査イオン顕微鏡法)で観察した。結果を
図7に示す。
図7より、腐食防止めっき層32を構成するNi100質量%の純Niは、結晶粒が大きいことが分かった。
【0083】
[参考例1]
<スズめっき銅のガルバニック腐食におけるアルミニウムの腐食速度>
従来の、純銅製の圧着端子本体31の表面にスズめっきした圧着端子のガルバニック腐食を模して、純Sn試片を用いて自然電位を測定し、分極曲線を作成した。そして、純Sn試片の分極曲線と、実施例1の純Al試片の分極曲線と、を用いてガルバニック腐食におけるアルミニウムの腐食速度を算出した。具体的には、実施例1のNi22質量%−Zn78質量%のNi−Zn合金試片に代えて、Sn100質量%の純Sn試片を用いた以外は、実施例1と同様にして、Sn100質量%の純Sn試片の自然電位SP
Snを測定し、アノード分極曲線APC
Sn、及びカソード分極曲線CPC
Snを得た。
【0084】
[自然電位の測定]
純Sn試片の自然電位SP
Snは、−0.35[V vs.Ag−AgCl]であった。
【0085】
[分極曲線の作成]
Sn100質量%の純Sn試片のアノード分極曲線APC
Snは、P−dグラフの横軸上における自然電位SP
Sn値である−0.35[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより高電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。また、カソード分極曲線CPC
Snは、P−dグラフの横軸上における自然電位SP
Sn値である−0.35[V vs.Ag−AgCl]を起点としてこれより低電位方向かつ電流密度が上昇する方向に延びる曲線であった。
【0086】
[腐食電流密度及びアルミニウムの腐食速度の算出]
上記のように、純Al試片の自然電位SP
Alである−0.794[V vs.Ag−AgCl]は、Sn100質量%の純Sn試片の自然電位SP
Sn値である−0.35[V vs.Ag−AgCl]よりも、卑である。このため、P−dグラフ上において、横軸上の純Al試片の自然電位SP
Alを起点として高電位方向に延びる純Al試片のアノード分極曲線APC
Alと、横軸上のSn100質量%の純Sn試片の自然電位SP
Snを起点として低電位方向に延びる純Sn試片のカソード分極曲線CPC
Snとは、交わり、交点IPを有する。このAPC
AlとCPC
Snとの交点IPにおける電流密度D
IP[A/cm
2]は、純Al試片と純Sn試片とがガルバニック腐食した場合の腐食電流密度となる。そして、この腐食電流密度から、実施例1と同様にして、アルミニウムの腐食速度[μg/年]を算出することができる。
【0087】
このようにして、純Al試片と参考例1のNi100質量%の純Sn試片とがガルバニック腐食した場合の腐食電流密度及びアルミニウムの腐食速度[μg/年]を算出した。この結果、腐食電流密度は4.53×10
−6[A/cm
2]、アルミニウムの腐食速度は8.32×10
4[μg/年]と算出された。アルミニウムの腐食速度を、
図5に「参考例1」として示す。
【0088】
上記のように、
図5には、Ni−Zn合金の元素比率の異なる実施例1(Ni22質量%−Zn78質量%)、比較例1(Ni82質量%−Zn18質量%)、及び比較例2(Ni93質量%−Zn7質量%)におけるアルミニウムの腐食速度を1点ずつ、合計3点プロットしている。そこで、これらの3点を結ぶ近似曲線Cを作成した。この近似曲線Cは、
図5の横軸のZn含有量をx[質量%]、縦軸のAlの腐食速度[μg/年]をyとしたときに、y=−5230.5x+442512と表された。近似曲線Cを
図5に示す。
次に、近似曲線Cと、参考例1のアルミニウムの腐食速度8.32×10
4[μg/年]とを比較し、近似曲線Cのうちで、参考例1のアルミニウムの腐食速度よりも腐食速度が小さくなる範囲を算出した。この結果、近似曲線Cのうちxが69質量%〜78質量%となる範囲(
図5中のA質量%−B質量%間の範囲R)のNi−Zn合金のアルミニウムの腐食速度が、参考例1のアルミニウムの腐食速度よりも小さくなることが分かった。これは、圧着端子本体の表面に、Ni31質量%−Zn69質量%〜Ni22質量%−Zn78質量%の組成範囲内のNi−Zn合金で腐食防止めっき層を形成した圧着端子は、従来の表面がスズめっきされた圧着端子に比較して、アルミニウムの腐食速度が小さいことを示す。
【0089】
以上、本発明を実施形態によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。