【実施例1】
【0017】
図1ないし
図3を参照して、本発明の実施例1に係る摺動部品について説明する。
なお、以下の実施例においては、摺動部品の一例であるメカニカルシールを例にして説明する。また、メカニカルシールを構成する摺動部品の外周側を高圧流体側(被密封流体側)、内周側を低圧流体側(大気側)として説明するが、本発明はこれに限定されることなく、高圧流体側と低圧流体側とが逆の場合も適用可能である。
【0018】
図1は、メカニカルシールの一例を示す縦断面図であって、摺動面の外周から内周方向に向かって漏れようとする高圧流体側の被密封流体を密封する形式のインサイド形式のものであり、高圧流体側のポンプインペラ(図示省略)を駆動させる回転軸1側にスリーブ2を介してこの回転軸1と一体的に回転可能な状態に設けられた一方の摺動部品である円環状の回転環3と、ポンプのハウジング4に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられた他方の摺動部品である円環状の固定環5とが設けられ、固定環5を軸方向に付勢するコイルドウェーブスプリング6及びベローズ7によって、ラッピング等によって鏡面仕上げされた摺動面S同士で密接摺動するようになっている。すなわち、このメカニカルシールは、回転環3と固定環5との互いの摺動面Sにおいて、被密封流体が回転軸1の外周から大気側へ流出するのを防止するものである。
【0019】
図2は、本発明の実施例1に係る摺動部品の摺動面を示したものであって、ここでは、
図2の固定環5の摺動面に本発明が適用された場合を例にして説明する。
なお、回転環3の摺動面に本発明が適用された場合も基本的には同様であるが、その場合、半径方向溝は高圧流体側(被密封流体側)に連通すればよいため、摺動面の外周側まで設けられる必要はない。
【0020】
図2において、固定環5の摺動面の外周側が高圧流体側であり、また、内周側が低圧流体側、例えば大気側であり、相手摺動面は反時計方向に回転するものとして説明する。
【0021】
固定環5の摺動面Sの高圧側には正圧発生溝11を備えた正圧発生機構10が、低圧側には負圧発生溝13を備えた負圧発生機構12が設けられている。また、正圧発生溝11と負圧発生溝13との間に圧力開放溝14が設けられ、さらに、正圧発生溝11、圧力開放溝14及び負圧発生溝13を高圧流体側に連通する半径方向溝15が設けられている。正圧発生溝11、圧力開放溝14、負圧発生溝13及び半径方向溝15は低圧流体側とは低圧側シール面16により隔離されている。
【0022】
図2の例では、外周側の正圧発生機構10はレイリーステップ機構から形成され、また内周側の負圧発生機構12は逆レイリーステップ機構から形成されるとともに、圧力開放溝14が円周溝から形成され、レイリーステップ機構及び逆レイリーステップ機構は圧力開放溝14を挟んで円周方向に平行して対をなすように複数設けられている。
なお、レイリーステップ機構及び逆レイリーステップ機構については、後に、詳しく説明する。
【0023】
また、半径方向溝15は、正圧発生溝11の上流側及び圧力開放溝14を高圧流体側に連通する入口部15aと、負圧発生溝13の下流側及び圧力開放溝14を高圧流体側に連通する出口部15bとから構成され、入口部15a及び出口部15bは低圧側から高圧側に向かってそれぞれ開く方向に傾斜され、両者の摺動面端部における接線mとなす交角θが鈍角に設定されている。この入口部15a及び出口部15bの接線mに対する交角θは、摺動部品の径、摺動面幅、入口部15a及び出口部15bの数、被密封流体の種類、圧力及び温度などを考慮して、流体が入口部15aに進入しやすく、かつ、出口部15bから排出され易いように最適な値に設定される。
図2の場合、入口部15a及び出口部15bは対称に開かれ、それぞれの接線mとの交角θは約140°である。入口部15a及び出口部15bは非対称に開かれてもよい。また、開き角度θは、θ=150°±30°の範囲に設定されるのが好ましい。
また、入口部15a及び出口部15bは直線状に限らず、円弧状などの曲線状でもよく、また、直線状の場合、圧力開放溝14とのそれぞれの接続部は滑らかな円弧状に形成されてもよい。
【0024】
正圧発生機構10は、その上流側において半径方向溝15の入口部15aを介して高圧流体側から流体を吸い込み、正圧を発生し、発生した正圧により相対摺動する摺動面の間隔を広げ、該摺動面に液膜を形成し、潤滑性を向上させるものである。
【0025】
また、圧力開放溝14は、高圧側の正圧発生機構10、例えば、レイリーステップ機構で発生した動圧(正圧)を高圧側流体の圧力まで開放することで、流体が低圧側の負圧発生機構12、たとえば、逆レイリーステップ機構に流入し、負圧発生機構12の負圧発生能力が弱まることを防止するためのものであり、高圧側の正圧発生機構10で発生した圧力により低圧側に流入しようとする流体を圧力開放溝14に導き、半径方向溝15を介して高圧流体側に逃す役割を果たすものである。
【0026】
さらに、負圧発生機構12は、負圧を発生させる結果、キャビテーションが発生し、キャビテーション内部圧力は、大気圧より低く負圧となるため、低圧側端部において圧力勾配が負となり、摺動面の内周側において吸い込み(ポンピング)が発生し、低圧側流体圧力(大気圧)よりも、負圧発生機構12内部の圧力が低くなる結果、流体は低圧流体側から低圧側シール面16を介して、負圧発生機構12へ流入する結果、摺動面の内周側において吸い込みが発生し、高圧流体側から低圧流体側への漏れを防止するものである。そして負圧発生機構12に吸い込まれた流体はその下流側において高圧流体側に接続された半径方向溝15の出口部15bを介して高圧流体側に排出される。
【0027】
正圧発生溝11、負圧発生溝13、圧力開放溝14及び半径方向溝15の深さ及び幅は、摺動部品の径、摺動面幅及び相対移動速度、並びに、密封及び潤滑の条件等に応じて適宜決定される性質のものである。
一例として示すと、摺動部品の径が約20mm、摺動面幅が約2mmの場合、正圧発生溝11及び負圧発生溝13の幅は0.4〜0.6mm、深さは数μmであり、内周側のシール面16の幅は0.2〜0.4mmである。また、圧力開放溝14及び半径方向溝15の幅は高圧の流体を高圧流体側に逃がすために十分の幅であり、深さは数十μm〜数百μmである。
【0028】
上記したように、半径方向溝15の入口部15a及び出口部15bは低圧側から高圧側に向かってそれぞれ開く方向に傾斜され、両者の摺動面端部における接線mとなす交角θが鈍角に設定されていることにより、入口部15aには高圧流体側から流体が取り込まれ易く、また、出口部15bからは摺動面の流体が吐き出され易い。このため、矢印16で示すように、入口部15a、圧力開放溝14及び出口部15bから構成される通路における流体の流れが生じ、当該通路内部に異物や気泡が留まることが防止される。
【0029】
また、半径方向溝15の出口部15bの負圧発生溝13に連通される内周側部分15cは、傾斜された出口部15bがそのまま内周側に延長された形で形成されるため、負圧発生溝13に連通される内周側部分15cにおいても、矢印17で示すように、流体の流れが生じ、当該内周側部分15cに異物や気泡が留まることが防止される。
【0030】
図2の例では、上流側の出口部15bと隣接する下流側の入口部15aとの間にも正圧発生機構であるレイリーステップ機構10’が設けられている。また、隣接する出口部15b間にわたって負圧発生機構12である逆レイリーステップ機構が延設されている。
このため、摺動面Sの周方向において、外周側にはほぼ連続するように正圧が発生され、また、内周側にはほぼ連続するように負圧が発生され、潤滑及び漏れ防止の両立が一層図られることになる。
【0031】
以上説明したように、実施例1の構成によれば、半径方向溝15の入口部15a及び出口部15bは低圧側から高圧側に向かってそれぞれ開く方向に傾斜され、両者の摺動面端部における接線mとなす交角θが鈍角に設定されていることにより、入口部15aには高圧流体側から流体が取り込まれ易く、また、出口部15bからは摺動面の流体が吐き出され易い。このため、矢印17で示すように、入口部15a、圧力開放溝14及び出口部15bから構成される通路における流体の流れが生じ、当該通路内部に異物や気泡が留まることが防止される。
また、半径方向溝15出口部15bの負圧発生溝13に連通される内周側部分15cが、傾斜された出口部15bがそのまま内周側に延長された形で形成されるため、負圧発生溝13に連通される内周側部分15cにおいても、矢印18で示すように、流体の流れが生じ、当該内周側部分15cに異物や気泡が留まることが防止される。
さらに、上流側の出口部15bと隣接する下流側の入口部15aとの間にも正圧発生機構10であるレイリーステップ機構が設けられ、また、隣接する出口部15b間にわたって負圧発生機構12である逆レイリーステップ機構が延設されているため、摺動面S周方向において、外周側にはほぼ連続するように正圧が発生され、また、内周側にはほぼ連続するように負圧が発生され、潤滑及び漏れ防止の両立が一層図られることになる。
【0032】
ここで、
図3を参照しながら、レイリーステップ機構などからなる正圧発生機構及び逆レイリーステップ機構などからなる負圧発生機構を説明する。
図3(a)において、相対する摺動部品である回転環3、及び、固定環5が矢印で示すように相対摺動する。例えば、固定環5の摺動面には、相対的移動方向と垂直かつ上流側に面してレイリーステップ11aが形成され、該レイリーステップ11aの上流側には正圧発生溝であるグルーブ部11が形成されている。相対する回転環3及び固定環5の摺動面は平坦である。
回転環3及び固定環5が矢印で示す方向に相対移動すると、回転環3及び固定環5の摺動面間に介在する流体が、その粘性によって、回転環3または固定環5の移動方向に追随移動しようとするため、その際、レイリーステップ11aの存在によって破線で示すような正圧(動圧)を発生する。
なお、15a、15bは半径方向溝15の入口部、出口部を、また、Rはシール面Sを構成するランド部を示す。
【0033】
図3(b)においても、相対する摺動部品である回転環3、及び、固定環5が矢印で示すように相対摺動するが、回転環3及び固定環5の摺動面には、相対的移動方向と垂直かつ下流側に面して逆レイリーステップ13aが形成され、該逆レイリーステップ13aの下流側には負圧発生溝であるグルーブ部13が形成されている。相対する回転環3及び固定環5の摺動面は平坦である。
回転環3及び固定環5が矢印で示す方向に相対移動すると、回転環3及び固定環5の摺動面間に介在する流体が、その粘性によって、回転環3または固定環5の移動方向に追随移動しようとするため、その際、逆レイリーステップ13aの存在によって破線で示すような負圧(動圧)を発生する。
なお、15a、15bは半径方向溝15の入口部、出口部を、また、Rはシール面Sを構成するランド部を示す。
【実施例2】
【0034】
図4を参照しながら、本発明の実施例2に係る摺動部品について説明する。
なお、実施例1と同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0035】
図4において、半径方向溝15の出口部15bは、低圧側の圧力を降下させるため、低圧側(
図4では内周側)から高圧側(
図4では外周側)にかけてスパイラル状に形成される。
また、半径方向溝15の出口部15bの負圧発生溝に連通される部分15cは、正圧発生溝11又は負圧発生溝13の深さ以上であって半径方向溝15の他の部分の深さより浅く形成されている。好ましくは、負圧発生溝に連通される部分15cの深さは、正圧発生溝11又は負圧発生溝13の深さの1〜5倍の深さに形成される。
一例として、正圧発生溝11又は負圧発生溝13の深さが2μm、半径方向溝15の出口部15bの深さが100μmに対し、負圧発生溝に連通される部分15cの深さは2〜10μm程度とすることがで考えられる。
図4の場合、負圧発生溝に連通される部分15cは負圧発生溝13の深さと同じ深さに形成されている。
【0036】
半径方向溝15の出口部15bの負圧発生溝に連通される部分15cが負圧発生溝13の深さの1〜5倍の深さに形成されているため、該負圧発生溝に連通される部分15cが負圧発生機構として機能し、該負圧発生溝に連通される部分15cの内部圧力を低く保つことができる。その結果、出口部15bが低圧側から高圧側にかけてスパイラル状に形成されていることと併せて、従来技術に係る摺動部品よりも、より一層、密封可能な限界の圧力を高くすることができ、耐シール圧力性能を向上させることができる。
【0037】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0038】
例えば、前記実施例では、摺動部品をメカニカルシール装置における一対の回転用密封環及び固定用密封環のいずれかに用いる例について説明したが、円筒状摺動面の軸方向一方側に潤滑油を密封しながら回転軸と摺動する軸受の摺動部品として利用することも可能である。
【0039】
また、例えば、前記実施例では、外周側に高圧の被密封流体が存在する場合について説明したが、内周側が高圧流体の場合にも適用できる。
【0040】
また、例えば、前記実施例では、摺動部品を構成するメカニカルシールの固定環に正圧発生機構、負圧発生機構、圧力開放溝及び半径方向溝を設ける場合について説明したが、これとは逆に、回転環に設けてもよい。
また、例えば、一方の摺動環に正圧発生機構を、他方の摺動環に負圧発生機構を設け、圧力開放溝及び半径方向溝をいずれかの摺動環に設けるようにしてもよい。
【0041】
また、例えば、前記実施例では、半径方向溝の入口部及び出口部が各6個、この半径方向溝及び圧力開放溝で囲まれた部分に設けられて正圧発生機構であるレイリーステップが6枚設けられ、負圧発生機構である逆レイリースップが6枚設けられた例が説明されているが、これに限定されることなく、これより少ない例えば4枚でもよく、また、これより多い例えば8枚、12枚等でもよい。
【0042】
また、例えば、前記実施例では、正圧発生機構がレイリーステップ機構から構成される場合について説明したが、これに限定されることなく、例えば、スパイラルグルーブ又はディンプルで構成してもよく、要は、正圧を発生する機構であればよい。また、同様に、負圧発生機構が逆レイリーステップから構成される場合について説明したが、これに限定されることなく、例えば、逆スパイラルグルーブで構成してもよい。