(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
撮像素子に被写体像を結像させるときの対角画角が120度以上である撮像レンズ系であって、物体側から順に、負のパワーを有する像側に凹形状の第1レンズと、開口絞りと、正のパワーを有する像側に凸形状の第2レンズと、正のパワーを有する像側に凸形状の第3レンズとからなり、前記第1レンズの物体側レンズ面は、光軸の物体側から像側へ向かう方向を正とした場合、光軸近傍で物体側に凹形状の極大値となり、変曲点を経て物体側に凸形状の極小値をとる形状であり、前記第1レンズの像側レンズ面の接線角の最大値をαとしたときに、45°≦α≦70° …(1)
を満足する撮像レンズ系。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の段落0013には、特許文献1に記載の撮像レンズ系は像側のテレセントリック性に考慮している旨記載されている。しかし、対角画角の広い第1実施例(2ω=128度)と第6実施例(2ω=126度)のレンズデータを用いて計算してみたところ、対角像高における固体撮像素子への主光線の入射角は、それぞれ20.8度と、18.3度であった。よって、主光線入射角として更に小さな値を要求する固体撮像素子を用いる場合や、撮像レンズ系と固体撮像素子との間に、主光線入射角として小さな値を要求するフィルタ等を配置する場合には、特許文献1に記載された撮像レンズ系のテレセントリック性では不十分な場合がある。具体的には、固体撮像素子では、主光線入射角として、例えば、7度以下、9度以下、又は15度以下を要求しているものがある。
【0005】
また、特許文献1に記載の撮像レンズ系では、第2レンズと第3レンズとの間に開口絞りが位置する。そのため、第2レンズよりも物体側に開口絞りがある場合と比べると、射出瞳位置が像面に近くなるので、テレセントリック性が不十分になりやすい。
【0006】
さらにまた、特許文献1記載の撮像レンズ系では、全3枚中2枚に安価なプラスチックレンズが用いられている。しかし、温度変化時にピント位置の変化量を小さくして、解像性能を良好に保つことに関しては、考慮されていない。
【0007】
本発明は、上述の問題を解決するためなされたものであり、120度以上の広い画角を撮像可能で、テレセントリック性に優れ、かつ、良好な解像性能を有する、コンパクトかつ安価な撮像レンズ系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の撮像レンズ系は、撮像素子に被写体像を結像させるときの対角画角が120度以上である撮像レンズ系であって、物体側から順に、負のパワーを有する像側に凹形状の第1レンズと、開口絞りと、正のパワーを有する像側に凸形状の第2レンズと、正のパワーを有する像側に凸形状の第3レンズとからなり、前記第1レンズの物体側レンズ面は、光軸近傍で物体側に凹形状であり、かつ、変曲点を有し、前記第1レンズの像側レンズ面の接線角の最大値をαとしたときに、
45°≦α≦70° …(1)
を満足する。
【0009】
(1)式において、αが45度未満であると、広角に対応する高い像高に結像する光線の収差補正が困難になる。一方、70度を超えると、面形状の測定が困難となるので、製造上好ましくない。また、第1レンズがプラスチックレンズの場合には射出成形時に離型困難となり、ガラスモールドレンズの場合には成形時に材料が充填しにくくなり、ガラス研磨レンズの場合には研磨しにくくなるので、製造上好ましくない。
【0010】
本発明では、前記αが、
48°≦α≦70°…(2)
を満足することが好ましい。
(2)式において、αが48度以上であると、広角に対応する高い像高に結像する光線の収差補正がより容易となり、収差を小さくできてMTF特性が向上する。
【0011】
また、本発明では、前記αが、
52°≦α≦62°…(3)
を満足することが好ましい。
(3)式において、αが52度以上であると、広角に対応する高い像高に結像する光線の収差補正がさらに容易となり、収差を小さくできてMTF特性が向上する。更に、αが62度以下であると、更に製造容易となるので、更に望ましい。また、αが60度以上であると、更に収差を小さくできてMTF特性が良くなりやすいので、更に望ましい。
【0012】
本発明では、前記第2レンズの焦点距離をf2とし、レンズ系全体の焦点距離をfとしたときに、
1.5<f2/f<5 …(4)
を満足することが好ましい。
(4)式の上限値を超えると、第2レンズのパワー(焦点距離の逆数)が弱くなり、高い像高に結像する光線の第3レンズでの光線高さが高くなりすぎる。これにより、第3レンズが大きくなりすぎて、撮像レンズ系の小型化が困難になる。(2)式の下限値を超えると、第2レンズのパワーが強くなりすぎて、高い像高に結像する光線の第3レンズでの光線高さが低くなりすぎる。これにより、テレセントリック性の確保が困難になる。
【0013】
また、本発明では、前記第2レンズと前記第3レンズのうち、焦点距離の長い方のレンズがプラスチックレンズであり、焦点距離の短い方のレンズがガラスレンズであることが好ましい。これは、上記の構成とすることにより、レンズ系全体の正のパワーのうちなるべく多くをガラスレンズにより負担することになる。これにより、プラスチックレンズによる正のパワーの負担割合が少なくなるので、温度変化時のピント位置の移動やMTFの劣化が小さくなる。
【0014】
また、本発明では、前記第1レンズの物体側レンズ面は、光軸近傍で物体側に凹形状であり、かつ、変曲点を有することが好ましい。
【0015】
上記構成とすることにより、本発明の撮像レンズ系において第1レンズの物体側面の有効径端と前面カバーガラスとの距離を近づけることが可能になるので、前面カバーガラスの大きさを小さくできるという利点がある。なお、前述の前面カバーガラスは、レンズ保護やデザイン性を高めるためなどに設けられる場合がある。
【0016】
更に、本発明では、
−2.5<fp/f1<−1.5 …(5)
を満足することが好ましい。
但し、fpは前記第2レンズと前記第3レンズのうちプラスチックレンズである方のレンズの焦点距離であり、f1は前記第1レンズの焦点距離である。
【0017】
上述の構成とすることによって、撮像レンズ系全体で必要な正のパワーの大半をガラスレンズに負担させることにより、プラスチックレンズの正のパワーの負担量を少なくする。また、2枚のプラスチックレンズ双方の物体側レンズ面と像側レンズ面の合計4面を用いて、温度変化時のプラスチックレンズの屈折率や寸法が変化した際のピント移動量をキャンセルすることができる。これにより、温度変化時のレンズ系全体のピント移動量を減少させることが可能となる。また、安価なプラスチックレンズを2枚使用しても、温度変化による解像性能の劣化の少ない撮像レンズ系を得ることができる。
【0018】
なお、第1レンズもプラスチックレンズであるから、(5)式はプラスチックレンズ同士のパワー(焦点距離の逆数)の比と等価である。(5)式の上限を超えると、第1レンズの負のパワーが小さくなり、温度変化時のレンズ系全体のピント移動量が増大する。他方、(5)式の下限を下回ると、プラスチックレンズの正のパワーが小さくなり、温度変化時のレンズ系全体のピント移動量が増大する。
【0019】
本発明のレンズ構成では、負のパワーを有する第1レンズで光線が跳ね上げられるために、第2レンズや第3レンズでの光線高さが、第1レンズでの光線高さに比べて高くなる。このため、負のプラスチックレンズと正のプラスチックレンズとで互いに焦点距離の絶対値が等しくならないポイントである(5)式を満足することにより、温度変化時のピント移動量や解像特性劣化を小さく抑えることが可能となる。
【0020】
また、第3レンズの焦点距離を第2レンズの焦点距離よりも長くし、第2レンズをガラスレンズとし、更に第2レンズを両面共に球面としてもよい。
【0021】
本発明では、前記第1レンズ及び前記第3レンズがプラスチックレンズであり、前記第2レンズがガラスレンズであることが好ましい。
【0022】
さらに、本発明では、前記第2レンズの物体側レンズ面及び像側レンズ面が、両方とも球面であることが好ましい。
【0023】
また、本発明では、前記第1レンズ及び前記第2レンズがプラスチックレンズであり、前記第3レンズがガラスレンズであることが好ましい。
【0024】
上述の構成とすることにより、正のパワーの多くをガラスレンズに負担させることで(5)式を満足させやすくなる。また、第2レンズを非球面ガラスモールドレンズよりも安価な球面ガラス研磨レンズとすることができる。
【0025】
本発明では、像面へ入射する主光線と光軸とがなす角度が10度以下であることが好ましい。
【0026】
本発明では、像面へ入射する主光線と光軸とがなす角度が8度以下であることが好ましい。
【0027】
本発明では、近赤外光を選択して透過させるバンドパスフィルタを有することが好ましい。
【0028】
本発明の撮像装置は、前記撮像レンズ系の物体側に配置された平板状のカバーガラスと、前記撮像レンズ系の焦点に配置され、前記撮像レンズ系により結像された像を撮像する撮影素子と、を備える。
【0029】
本発明によれば、物体側に凸で、かつ、像側レンズ面の接線角度の最大値が45度以上の負レンズを第1レンズとして配置することにより、対角画角120度以上の広い画角とすることを可能とする。第1レンズと第2レンズとの間に開口絞りを配置することにより、像側テレセントリック性を確保できる。
【0030】
また、特に広角側において、第1レンズと第2レンズの間では主光線と光軸のなす角度は大きくなっている。本発明では、正のパワーを有する第2レンズ及び第3レンズは、像側に凸の形状となっている。これにより、主光線と光軸のなす角度を、像面に近づくにつれて徐々に小さくしているので、像面においては十分なテレセントリック性を実現できる。
【0031】
本発明によれば、前面カバーガラスの有効径を小さくし、撮像装置の小型化を図ることが可能である。光軸の物体側から像側へ向かう方向を正とした場合、第1レンズの物体側面は、光軸近傍で物体側に凹形状の極大値となり、変曲点を経て物体側に凸形状の極小値をとるような形状である。前面カバーガラスの光軸に垂直な方向の有効径の大きさを決定づける要因の1つとして、
図1に示す第1レンズの物体側面の有効径端におけるサグ量Bがある。サグ量Bの符号がプラスの場合には、サグ量Bは極力小さな値である方が、前面カバーガラスと第1レンズとの間の距離を小さくすることができるので、前面カバーガラスの有効径が小さくできて、撮像レンズ系を小型化できる。
【0032】
第1レンズがプラスチックレンズ、第2レンズがガラスレンズ、第3レンズがプラスチックレンズの構成の場合は、第1レンズの物体側面の有効径をR1として
0<B/R1<0.10 …(6)
であることが望ましい。
【0033】
さらに、第1レンズ物体側の極小値におけるサグ量(負の値)Cの絶対値とサグ量B(正の値)の合算値ΔTを小さくすることにより、前面カバーガラスは小径化できる。従って、
ΔT/R1<0.1 …(7)
であるのが好ましい。
さらに好ましくは、
ΔT/R1<0.05 …(8)
であるのが望ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、120度以上の広い画角を撮像可能で、テレセントリック性に優れ、かつ、良好な解像性能を有する、コンパクトかつ安価な撮像レンズ系を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に図面を参照しつつ、本発明の撮像レンズ系の実施の形態を説明する。
【0037】
[実施例1]
図1は、本発明を適用した撮像レンズ系の構成を示す図(光線図)である。レンズユニット1は、近赤外線を利用した撮像を行う撮像装置に搭載される広角レンズである。
図1に示すように、レンズユニット1は、物体側(被写体側)から順に、第1レンズ2と、開口絞り3と、第2レンズ4と、第3レンズ5と、を備えている。なお、レンズユニット1の物体側には、レンズユニット1の保護用に前面カバーガラス6が配置されている。レンズユニット1の像側には、近赤外域の特定波長帯域の光線を透過させるバンドパスフィルタ7と、センサの保護用にセンサカバーガラス8と、が配置されている。
【0038】
第1レンズ2と、開口絞り3と、第2レンズ4と、第3レンズ5と、が撮像レンズ系を構成する。撮像レンズ系は、前面カバーガラス6、バンドパスフィルタ7、センサカバーガラス8を含んでもよい。なお、固体撮像素子などのセンサは像面9上に配置されるが、
図1では省略されている。
【0039】
前面カバーガラス6は、レンズユニット1を保護するためのものであり、エンドユーザー等が第1レンズ2に直接触れてしまうことを防止する。
【0040】
バンドパスフィルタ7は、赤外線を透過可能な透明基板上に真空蒸着法、スパッタ法などにより高屈折率物質層と低屈折率物質層とを交互に積層して形成される干渉フィルタである。実施例1において、バンドパスフィルタ7は、近赤外線透過フィルタであり、820nm〜880nmの特定波長帯域(近赤外域)の光線を透過させる。バンドパスフィル7は、光軸Lに対して垂直に配置されている。センサカバーガラス8はセンサ保護のためのものであり、光軸Lに対して垂直に配置されている。
【0041】
レンズユニット1は、物体側から像側に向かって順番に、負のパワーを持つ光軸近傍において両凹形状の第1レンズ2と、開口絞り3と、正のパワーを持ち像側に凸形状の第2レンズ4と、正のパワーを持ち光軸近傍において両凸形状の第3レンズ5と、を備えている。本実施例では、第1レンズ2および第3レンズ5は、いずれもプラスチックレンズであり、第2レンズ4はガラスレンズである。
【0042】
次に、レンズユニット1、前面カバーガラス6、バンドパスフィルタ7、及びセンサカバーガラス8の各レンズ面のレンズデータを表1に示す。各レンズ面の非球面形状を規定するための非球面係数を表2に示す。表1では物体側から数えた順番で各面を特定している。第5面が絞り面である。第14面は像面である。本実施例において、第1レンズ2および第3レンズ5は、いずれも物体側および像側の双方のレンズ面が非球面であり、その他の面は、表2及び表3に示す非球面係数が0になっていることからもわかるように、球面または平面である。
【0043】
なお、レンズ面に採用する非球面形状は、Zをサグ量、Cを曲率(=曲率半径の逆数)、Kを円錐係数、hを光軸からの高さ、4次、6次、8次、10次、12次、14次、16次の非球面係数をそれぞれA4、A6、A8、A10、A12、A14、A16とすると、次式により表わされる。
【0044】
[数1]
Z=C×h^2/(1+√(1−(K+1)×C^2×h^2))
+A4×h^4+A6×h^6+A8×h^8+A10×h^10+
+A12×h^12+A14×h^14+A16×h^16
なお、上式において^はべき乗を表し、例えばh^10はhの10乗を表わす。なお上式は、実施例1のみならず本明細書に記載の全ての実施例に適用されるものである。
【0048】
実施例1のレンズユニット1の基本データは次の通りである。
【0049】
主波長 850nm
Fナンバー : 2.4
f(レンズ系全体の焦点距離)=1.885mm
対角画角(全画角) : 147°
対角像高 : 2.25mm
光学全長(波長850nm時) : 10.117mm
物体距離 : 500.3mm
f1= −3.018mm
f2=3.756mm
f3=5.118mm
第1レンズ2:プラスチックレンズ
第2レンズ4:ガラスレンズであり、両面共に球面
第3レンズ5:プラスチックレンズ
α=60.33度
f2/f=1.993
fp/f1=f3/f1=−1.696
射出瞳位置(波長850nm時):像面から−19.014mm(像面から物体側へ19.014mm)但し、fはレンズ系全体の焦点距離、f1は第1レンズ2の焦点距離、f2は第2レンズ4の焦点距離、f3は第3レンズ5の焦点距離である。第1レンズ2の物体側面の面頂点から像面までの距離を表すいわゆる光学全長は、0.3mm厚のバンドパスフィルタ7と0.4mm厚のセンサカバーガラス8が入っている状態で10.117mmである。バンドパスフィルタ7とセンサカバーガラス8の厚みを空気換算した場合の光学全長は9.880mmである。上記の物体距離とは、物体の光軸上の点から第1レンズ2の物体側面の面頂点までの距離であり、前面カバーガラス2の厚さも含む値である。前面カバーガラス2の光軸上の厚み1.1mmを空気換算した場合の物体距離は499.93mmである。なお、上記の対角画角は2ωで表される全画角であり、全画角の半分の半画角ωは73.5°である。
【0050】
図2は、第1レンズ2の形状を説明する図である。
図2に示すように、第1レンズ2の像側レンズ面では、有効径端においてその接線角度αは最大となる。なお、レンズ面の接線角度とは、レンズ面の有効径内において、レンズ面の接線と光軸の法線とが交差する角度である。本実施例において、接線角度αの最大値は、50°を超えて60.3°である。更に、第1レンズ2の両面共に非球面形状とすることにより、半画角ω=73.5°の広角な光線を通過可能とし、像面湾曲などの収差を抑制している。
【0051】
次に、
図1に示す第1レンズ2は、光軸近傍では両凹形状であるが、物体側面は光軸から離れたところで凸形状となるような変曲点を持つ面形状としている。これにより、像面湾曲などの収差の発生を抑制することができる。また、サグ量Bを極力小さくすることにより、前面カバーガラス6と第1レンズ2の物体側面との距離をできるだけ小さくして、前面カバーガラス6の有効半径Dを小さくしている。
【0052】
なお、
図1においてQ1、Q2、Q3は、それぞれ対角像高に向かう主光線、下光線(下部マージナル光線)、上光線(上部マージナル光線)を表わしている。前面カバーガラス6の有効半径Dは、下光線Q2の前面カバーガラス6を通過する位置によって決まる。このとき、
図1のAの距離が短いほどDの値が小さくなる。
図1のAは、第1レンズ2の物体側面の有効径端と前面カバーガラス6との距離である。特に広角レンズであるほどωの値が大きくなり、DはA×tanωに比例して大きくなる。
【0053】
実施例1では、ω=73.5度なので、tanω=tan(73.5°)=3.376である。寸法Aを0.1mm小さくすることができれば、半径Dを0.3376mm小さくでき、前面カバーガラス6の有効直径を更にその2倍の0.6752mm小さくすることができる。
【0054】
つまり寸法Aをいかに小さくするかは、半画角ωの値が小さい望遠レンズや標準レンズではその必要性は小さいが、広角レンズで前面カバーガラス6を必要とする場合にはその必要性は大となる。そして、第1レンズ2の物体側面では、有効径の約半分の高さから有効径端(100%の高さ)の間で、光軸からの高さが大きくなるほどサグ量Zが大きくなり、像面に近づいていくレンズ形状になっている。これにより、像面湾曲収差性能を良好に保てる。第1レンズの物体側面については、光軸近傍をできるだけ凹形状にして、有効径端に至る途中で変曲点を設け、変曲点から有効径端にかけてレンズ面を像側へ向かわせるので、有効径端のところでのサグ量Bを小さくできる。これにより、寸法Aが小さくなり、有効半径Dも小さくすることが可能となるので、撮像装置全体を小型化するのに都合良くなる。
【0055】
次に、第2レンズ4については、焦点距離f2=3.756mmであり、レンズ系全体の焦点距離f=1.885mmの1.993倍となっており、正のパワーを第3レンズ5と分担して負担するようにしている。また、第2レンズ4のパワー(パワー:焦点距離の逆数)を強くしすぎると、最大像高に向かう光線が第2レンズで光軸に近い方向に強く曲げられるようになり、第3レンズ5においてより光軸により近いところを通過してしまう。これにより第3レンズ5の像側面で光軸により近いところを通過することになるので、テレセントリック性が悪くなる。
【0056】
また、第3レンズ5において、レンズ面の光軸に近い部分では主に低い像高に結像する光線の収差補正を行い、レンズ面の光軸から離れた部分では主に高い像高に結像する光線の収差補正を行うことが、球面収差や像面湾曲などの収差補正を行うのに望ましい。第2レンズ4のパワーを上記の値にすることにより、高い像高に結像する光線が、第3レンズにおいて収差補正をするのに望ましい光軸から離れた高さを通過することができる。
【0057】
本実施例1のレンズユニット1は、
図1に示すように、第1レンズ2、開口絞り3、第2レンズ4、および第3レンズ5を備え、像側テレセントリックに近い主光線角度になり、レンズユニット1から出射される光線は光軸Lに対して平行又は平行に近いものとなる。この結果、レンズユニット1の像側に配置されたバンドパスフィルタ7への光線の入射角度が0°(垂直入射)或いは0°に近いものとなる。表4は、像高とバンドパスフィルタ(BPF)7への光線の入射角度との関係を示している。なお、バンドパスフィルタ7への光線の入射角度とは、バンドパスフィルタ7へ入射する光線とレンズユニット1の光軸が交差する角度である。
【0059】
表4のとおり、本実施例では、レンズユニット1を通過してバンドパスフィルタ7及びセンサへ入射する光線の入射角度は18°未満となる。主光線に限って言えば、表4では像高90%の5.76度が最大値であり、レンズユニット1を通過してバンドパスフィルタ7及びセンサへ入射する主光線の入射角度は6°未満であるといえる。
【0060】
従って、バンドパスフィルタ7において、光線入射角度が0度から大きくずれることによって発生する透過スペクトルのシフトが防止又は抑制される。よって、本実施例のレンズユニット1によれば、透過波長帯域としてバンドパスフィルタ7に予め設定されている800〜900nmの波長帯域の光線を正確に透過させることができる。また、レンズ3枚のみからなるレンズユニット1によって像側テレセントリックに近い状態を実現しているので、レンズユニット1の全長が長くなることを抑制できる。
【0061】
さらに、本実施例のレンズユニット1の撮像レンズ系によれば、
図3と
図4に示すように、球面収差、像面湾曲、および、歪曲収差が良好に補正される。
図3は、波長850nmの光線を用いて計算した実施例1の撮像レンズ系の縦収差図である。
図3では、横軸は光軸と光線の交わる位置を示し、縦軸は光線の開口絞り3に入射する高さを示している。
図4は、波長850nmの光線を用いて計算した実施例1の撮像レンズ系の像面湾曲図及び歪曲収差図である。
図4の左側図では、横軸は光軸方向の距離を示し、縦軸は像高を示している。また、Sはサジタル面における像面湾曲収差を示し、Tはタンジェンシャル面における像面湾曲収差を示している。
図4の右側図では、横軸は像の歪み量を示し、縦軸は像高を示している。また、
図4において、像の歪み量は光学表示の歪曲収差である。
【0062】
図5に本実施例に係る撮像レンズ系の横収差図を示す。ここで、IMA:0.0000mmは像高0mmを表わし、IMA:1.3500mmは像高1.35mmを表わし、IMA:1.8000mmは像高1.8mmを表わし、IMA:2.2500mmは像高2.25mmを表わす。
【0063】
図5中の各グラフの縦軸は横収差量(μm)を表わし、縦軸のスケールは±30μmである。IMA:0.0000mmは像高0mmを表わし、IMA:1.3500mmは像高1.35mmを表わし、IMA:1.8000mmは像高1.8mmを表わし、IMA:2.2500mmは像高2.25mmを表わす。
図5中の各グラフの横軸のうち、Pxは相対瞳X座標を表わし、Pyは相対瞳Y座標を表す。Px及びPyのスケールは±1.0である。
【0064】
なお、400nm〜700nmの可視光線を利用した撮像を行うための撮像レンズ系であれば、色収差の補正のために、分散の小さい材料(アッベ数の大きい材料)からなるレンズと、分散の大きい材料(アッベ数の小さい材料)からなるレンズとを組み合わせる必要がある。しかし、本実施例のレンズユニット1は、近赤外域における近赤外域の特定波長帯域の光線下において撮像を行うものなので、色収差の増大を考慮する必要がない。なお、本実施例では、レンズユニット1を構成する3枚のレンズのうち最も像側の第3レンズ5を、物体側レンズ面よりも像側レンズ面の曲率が大きいレンズとしている。これにより、バックフォーカスを確保し、像面9とレンズユニット1との間にバンドパスフィルタ7を配置する空間を確保している。さらに、本実施例の撮像レンズ系では、第2レンズ4よりも物体側に開口絞り3を配置している。これにより、射出瞳位置は像面から−19.014mmとなり、第1レンズ2から像面9までの距離(=光学全長)10.117mmの約1.9倍の比較的長い距離を確保し、像側テレセントリック性を確保しやすくしている。
【0065】
本実施例1では、表1および
図1において、カメラ装置や車などに取り付けるときのレンズ保護やデザイン上、好都合な場合として、前面カバーガラス6有りの状態を記載している。しかし、前面カバーガラス6を設けなくても、実施例1のレンズユニット1は撮像レンズ系として機能していることはいうまでもない。また、実施例1の撮像レンズ系では、バンドパスフィルタ7を設けている。しかし、バンドパスフィルタ7を設けずに、レンズ前面に別なフィルタを設けてもよいし、前面カバーガラス6に、例えば、可視光を透過しない又は可視光の透過率が低い素材を用いてもよい。
【0066】
また、可視光を透過するようにして、本実施例1のレンズを使用しても構わない。その際には透過させる波長域によっては、色収差によりMTF(Modulation Transfer Function)性能が劣化する場合もあるが、許容値内の劣化であれば使用可能である。また、可視光でも狭い帯域の波長のみを透過させるようにすれば、MTF性能の劣化を小さいレベルに抑えることもできる。
【0067】
図6に、実施例1に係る撮像レンズ系の赤外光の範囲でのMTFを示す。MTFは、計算に用いる赤外光の波長範囲を820〜880nmとし、波長820nm、850nm、及び880nmの光のカラーウエイトを0.25:0.50:0.25として計算した。
【0068】
また、
図10に、実施例1に係る撮像レンズ系の可視光の範囲でのMTFを示す。MTFは、計算に用いる可視光の波長範囲を575〜604nmとし、波長575nm、588nm、及び604nmの光のカラーウエイトを0.25:0.50:0.25として計算した。
図10に示すように、画面中央部の像高0mmにおけるMTF値は、空間周波数60本(cycles)/mmで88%と良好である。また、画面最周辺部の像高2.25mmでのタンジェンシャル方向のMTFは、30本/mmで70%であり、
図6に示す赤外光の場合の82%よりは若干劣化しているが、比較的良好な値をキープできている。
【0069】
なお、各レンズ面の接線角度の最大値は表5に示す値となっている。
【0071】
また、第2レンズ4をガラスレンズとし、第1レンズ2及び第3レンズ5をプラスチックレンズとして、表6に示すパワー配分とすることにより、温度変化した場合でも良好な解像性能及びMTF性能をキープできている。
【0073】
図6〜
図9に、実施例1に係る撮像レンズ系のMTFを、温度を変えて示す。
図6は常温の25℃のとき、
図7は−40℃のとき、
図8は105℃のとき、
図9は125℃のときのMTF値を示す。なお、
図7〜
図9においては、第1レンズ2、第2レンズ4、及び第3レンズ5の屈折率のみを、表1の屈折率の値から変化させている。これは、実際には膨張及び収縮によりレンズ形状及び面間隔が変化するのであるが、面間隔の変化量は鏡筒の材質によっても異なり、温度変化時においては屈折率の変化による性能変化が最も大きいので、ここでは屈折率のみ変化させた場合のMTF値を示している。
【0074】
なお、プラスチックレンズである第1レンズ2及び第3レンズ5の、主波長850nmに対する屈折率の値は、次の通りである。
25℃ 1.52718
−40℃ 1.53282
105℃ 1.51994
125℃ 1.51812
【0075】
ガラスレンズである第2レンズ4の、主波長850nmに対する屈折率は、次の通りである。
25℃ 1.79008
−40℃ 1.78983
105℃ 1.79042
125℃ 1.79050
【0076】
なお、上記の屈折率の値からわかるように、第1レンズ2及び第3レンズ5は温度が上昇すると屈折率が低くなり、第2レンズ4は温度が上昇すると屈折率が高くなっている。ガラスレンズで凸レンズである第2レンズ4は、プラスチックレンズである第1レンズ2及び第3レンズ5の約1/20程度の温度による屈折率変化量で逆方向に変化する。プラスチックレンズとは逆符号に屈折率が変化するガラスレンズを使用することにより、プラスチックレンズの温度変化時の屈折率変化を約1/20程度やわらげることができる。
【0077】
画面中央の像高0mmでは、
図6の常温のMTF値は60本/mmで82%である。
図7〜
図9と低温から高温に変化させると、MTF値は82%、80%、79%となり、3%以内の劣化にとどまっている。また、画面周辺の像高1.8mmにおけるタンジェンシャル方向のMTF値では、
図6の常温のMTF値は60本/mmで63%である。
図7〜
図9と低温から高温に変化させると、MTF値は62%、58%、56%となり、7%以内の劣化にとどまっている。すなわち、−40℃〜125℃と165℃ものワイドレンジの温度変化がおきてもMTF性能の変化が少ないレンズ系を、プラスチックレンズを2枚使用しても実現できている。
【0078】
この温度特性に関しては、表6に示すように、正のパワーを有する第2レンズ4及び第3レンズ5において、焦点距離の短い(パワーの大きい)第2レンズ4の方をガラスレンズとして大きい方のパワーをガラスレンズに負担させ、弱い方の正のパワーをプラスチックレンズが負担するようにしている。凹レンズである第1レンズ2及び凸レンズである第3レンズ5を両方ともプラスチックレンズにすることにより、温度変化した場合の負のパワーと正のパワーの変化量を互いに打ち消し合い、ピント位置移動を小さくする効果が生じる。
【0079】
なお、パワーとは、焦点距離の逆数である。更に詳述すると、画面中央に向かうマージナル光線(絞りの縁を通る光線)の各レンズにおける光線高さを考慮して、プラスチックレンズの凹面の負のパワーと凸面の正のパワーとをキャンセルしている。つまり、表7に示す、各レンズにおける物体側面及び像側面でのマージナル実光線高さの平均値が、第1レンズ2で0.404mm、第3レンズ5で0.676mmであり、第1レンズ2と第3レンズ5とで、1:1.673の比率となっている。
【0081】
よって、プラスチックレンズのパワーを、第1レンズ2と第3レンズ5とで−1.673:1のパワー比とすることにより、第1レンズ2と第3レンズ5とで「光線高さ×パワー」の絶対値が等しくなる。つまり、近軸理論での近軸光線追跡の公式 u’=u+(h×φ)のh×φの項に相当するところの絶対値が、第1レンズ2と第3レンズ5とで等しくなって、かつ、符号が逆になる。これにより、温度変化した際にプラスチックレンズ同士のパワーの変化がキャンセルし合って、レンズ系全体としてはピント位置、解像力、及びMTF性能の変化がおきにくくなると考えられる。
ここで、u’=u+(h×φ)は、ある屈折面に対して入射角uで光線が入射したときの光線の振る舞いを表し、uは当該屈折面入射時の近軸理論における光線角度、u’は当該屈折面通過後の近軸理論における光線角度、hは当該屈折面における近軸理論における光線高さ、φは当該屈折面のパワー(焦点距離の逆数)、である。
【0082】
そして、本実施例1では、第1レンズ2と第3レンズ5のパワー比は、焦点距離比の逆
数なので、
φ1/φ3=f3/f1=5.118/(−3.018)=−1.696
となっており、第1レンズ2と第3レンズ5の光線高さ比の逆数に−1を乗じたものにほぼ近い値となっている。
【0083】
更に、表7には、開口絞りの縁を通って画面中央の像高0mmに到達するマージナル光線の各レンズ面における光線高さを示している。各レンズについて、光線高さの物体側面及び像側面での平均値とレンズのパワー(焦点距離の逆数)とを乗じた値は、第1レンズ2で−0.134、第3レンズ5で+0.132であり、その絶対値は0.002しか違わない。この差分0.002は、第1レンズ2における値の絶対値0.134と比べて67分の1であり、第3レンズ5での値0.132と比べて66分の1であり、小さな値である。よって、プラスチックレンズの負のパワーと正のパワーとを、光線高さも加味してキャンセルできていると言える。
【0084】
そのため、温度変化した場合に、例えば高温に変化した場合には、第3レンズ5の正のパワーの絶対値が小さくなり、焦点距離は長くなるので、ピント位置はレンズ系から遠ざかると考えられる。一方、第1レンズ2については負のパワーの絶対値が小さくなり、光線を広げる作用は弱くなるので、ピント位置はレンズ系に近づく。高温に変化した場合に、第3レンズ5のピント位置を遠ざける作用と第1レンズ2のピント位置を近づける作用とが、打ち消し合ってキャンセルするため、ピント位置の変化量が微小となる。これにより、
図6〜
図9に示すように、温度変化時の変化の小さいMTF特性が得られるものである。
【0085】
なお、ガラスレンズである第2レンズ4の屈折率の変化量はプラスチックレンズに比べて微小であるため、設計においてはプラスチックレンズ同士のパワーがキャンセルするかどうかを考慮していればよい。上述した屈折率の温度による変化の度合いについて、本実施例の撮像レンズ系では、ガラスレンズの屈折率変化はプラスチックレンズの約1/20となっている。
【0086】
なお、
図6〜
図9において、MTFは、計算に用いる赤外光の波長範囲を820〜880nmとし、波長820nm、850nm、及び880nmの光のカラーウエイトを0.25:0.50:0.25として計算した。しかし、異なる波長及びカラーウエイトでも、所望の、またはカメラや撮像装置にとって必要な、MTF値を得られる場合は多々あり、そのような場合においても本発明は適用可能であることはいうまでもない。
【0087】
レンズユニット1を搭載する撮像モジュールの一例としては、レンズユニット1の像面(焦点位置)に撮像素子を備えるものである。撮像素子は、可視光域から1300nm程度の近赤外域までの光線を受光可能なCCDセンサ又はCMOSセンサ等である。本発明に係る撮像装置は、例えば、撮像モジュールと、バンドパスフィルタ7を透過する特定波長帯域を含む光線、すなわち、800nm〜900nmの波長帯域の近赤外線を含む光線を照射する赤外線照明装置を備えていてもよい。本実施例の撮像モジュールおよび撮像装置によれば、近赤外域の特定波長帯域の光線を利用して対象物を撮像できる。
【0088】
なお、本実施例1での第1レンズ2の物体側面の有効径は直径5.530mmであり、この有効径端における第1レンズ2の物体側面のサグ(
図1のBの値)は+0.239mmである。また、第1レンズ2の物体側面において、サグがマイナスでありサグの絶対値が最大となる光軸からの光線高さは1.224mmであり、そのときのサグは−0.054mmである。ここでサグとは、レンズ面がレンズ面頂点に対して光軸平行方向に変位している変位量のことを言い、レンズ面頂点よりも像側に変位している場合にはその符号はプラス、物体側に変位している場合にはマイナスである。
【0089】
本実施例において、(6)式の値は下記の通りである。
B/R1=0.0432
また、(7)式の値は下記の通りである。
ΔT/R1=0.0530
【0090】
[実施例2]
図11に、実施例2に係る撮像レンズ系の構成を示す図(光線図)を示す。実施例2の撮像レンズ系の収差図を
図12〜
図14に示す。
【0091】
実施例2の撮像レンズ系のレンズデータを表8に、各レンズ面の非球面形状を規定するための非球面係数を表9及び表10に示す。表8〜表10に記載されている項目は実施例1の表1〜表3と同様である。
【0095】
実施例2のレンズユニット1の基本データは次の通りである。
【0096】
主波長 850nm
Fナンバー : 2.4
f(レンズ系全体の焦点距離)=1.872mm
対角画角(全画角) : 147°
対角像高:2.25mm
光学全長:10.054mm
物体距離:500mm
f1=−2.972mm
f2=3.683mm
f3=5.350mm
第1レンズ2:プラスチックレンズであり、両面共に非球面
第2レンズ4:ガラスレンズであり、両面共に球面
第3レンズ5:プラスチックレンズであり、両面共に非球面
実施例2において、第1レンズ2、第2レンズ4、及び第3レンズ5は、それぞれ実施例1と同じ材質であり、温度変化時の屈折率の値も同じである。
【0097】
α=68.05度
f2/f=1.967
fp/f1=f3/f1=−1.800
但し、fはレンズ系全体での焦点距離、f1は第1レンズ2の焦点距離、f2は第2レンズ4の焦点距離、f3は第3レンズ5の焦点距離である。なお、実施例2においては実施例1で掲載した前面カバーガラス6については同様の内容になるため省略している。対角画角は、2ωで表される全画角であり、147度である。
【0098】
実施例2の撮像レンズ系では、第1レンズ2の像側面の接線角の最大値αが68.05度になっている。実施例2の撮像レンズ系では
図15に示すMTF特性が得られている。
図6に示す実施例1のMTF値と比較してみると、像高0mmにおける60本/mmのMTF値は実施例1の方が1%良いが、像高1.8mm及び像高2.25mmでは実施例2の方が1〜3%程度良い。これは、広画角のときの画面周辺部の解像性能の出しやすさが、第1レンズ2の像側面の接線角の最大値αによって決まっていることを示している。つまり、第1レンズ2の像側面の接線角の最大値αを大きくしていけば、画面周辺部の解像性能を確保しやすい、ということである。しかし当然ながら、接線角が大きいレンズ面及びレンズは、接線角の小さなレンズに比べると、金型製作や射出成形などのレンズ製造面での難易度は高くなる。しかし、実施例2の68度程度であれば、60度程度のレンズよりも製造難易度は増すが、レンズを製造することは可能である。
【0099】
実施例2においては、実施例1では掲載した前面カバーガラス6については省略している。しかし、第1レンズ2の物体側面の形状についての工夫は、実施例1と同じように施されている。第1レンズ2の物体側面は変曲点を持つ面形状となっており、光軸付近では凹形状であり、光軸から離れたところでは凸形状となっている。第1レンズ2の物体側面と前面カバーガラス6との距離をできるだけ小さくして、前面カバーガラス6装着時に前面カバーガラス6の有効径を小さくするようにしている。
【0100】
表8〜表14、
図11〜
図18についての説明および本発明による効果は、実施例1と同様であるのでここでは省略する。
図15〜
図18に、実施例2に係る撮像レンズ系のMTFを、温度を変えて示す。
【0101】
なお、プラスチックレンズである第1レンズ2及び第3レンズ5の、主波長850nmに対する屈折率の値は、次の通りである。
25℃ 1.52718
−40℃ 1.53282
105℃ 1.51994
125℃ 1.51812
【0102】
ガラスレンズである第2レンズ4の、主波長850nmに対する屈折率は、次の通りである。
25℃ 1.79008
−40℃ 1.78983
105℃ 1.79042
125℃ 1.79050
【0103】
なお、実施例2における第1レンズ2の物体側面の有効径は直径5.344mmであり、有効径端での第1レンズ2の物体側面のサグ量は+0.439mmである。また、第1レンズ2の物体側面において、サグ量がマイナスでその絶対値が最大となる光軸からの光線高さは0.826mmであり、そのときのサグは−0.016mmである。
【0104】
従って(6)式の値は、下記の通りである。
B/R1=0.0821
また、(7)式の値は下記の通りである。
ΔT/R1=0.0851
【0109】
[実施例3]
図19に、実施例3に係る撮像レンズ系の構成を示す図(光線図)を示す。実施例3の撮像レンズ系の収差図を
図20〜
図22に示す。
【0110】
また、実施例3の撮像レンズ系のレンズデータを表15に、各レンズ面の非球面形状を規定するための非球面係数を表16及び表17に示す。表15〜表17に記載されている項目は実施例1の表1〜表3と同様である。
【0114】
実施例3のレンズユニット1の基本データは次の通りである。
【0115】
主波長 850nm
Fナンバー : 2.4
f(レンズ系全体の焦点距離)=1.936mm
対角画角(全画角) : 147°
対角像高 : 2.25mm
光学全長 : 10.299mm
物体距離 : 500mm
f1= −3.147mm
f2=3.848mm
f3=5.207mm
第1レンズ2:プラスチックレンズであり、両面共に非球面
第2レンズ4:ガラスレンズであり、両面共に球面
第3レンズ5:プラスチックレンズであり、両面共に非球面
実施例3において、第1レンズ2、第2レンズ4、及び第3レンズ5は、それぞれ実施例1及び2と同じ材質であり、温度変化時の屈折率の値も同じである。
【0116】
α=52.94度
f2/f=1.988
fp/f1=f3/f1=−1.654
各記号の説明は実施例2と同じなのでここでは省略する。
【0117】
実施例3では、第1レンズ2の像側面の接線角の最大値αが52.94度になっている。そのため、実施例1及び実施例2に比べて、第1レンズ2の製造が容易である。
図22に示す横収差が特に画面最周辺の像高2.25mmにおいて、相対瞳y座標が1のときに−40μmを超えて大きくなっている。接線角の最大値αを小さくすることにより、第1レンズ2の製造は容易になったが、レンズ系全体の収差補正は難しくなっている。しかし、像高1.8mmより低い像高ではさほど目立った横収差の増大は見られない。また、
図23に示すMTF特性が得られている。像高2.25mmにおけるタンジェンシャル方向のMTFは、30〜60本/mmの範囲において、
図6に示す実施例1と比べても2〜3%の劣化にとどまっている。そのため、実施例3の撮像レンズ系は実用上十分な解像力を得ることができている。第1レンズ2の物体側面の形状についての工夫は、実施例1及び2と同じように施されている。第1レンズ2の物体側面は変曲点を持つ面形状となっており、光軸付近では凹形状であり、光軸から離れたところでは凸形状となっている。実施例1及び2と同様に、前面カバーガラス6との距離をできるだけ小さくして、前面カバーガラス6装着時には、その有効径を小さくするように考慮している。他の図と表についての説明は実施例2と同様であるのでここでは省略する。
【0118】
図23〜
図26に、実施例3に係る撮像レンズ系のMTFを、温度を変えて示す。なお、プラスチックレンズである第1レンズ2及び第3レンズ5の、主波長850nmに対する屈折率の値は、次の通りである。
25℃ 1.52718
−40℃ 1.53282
105℃ 1.51994
125℃ 1.51812
【0119】
ガラスレンズである第2レンズ4の、主波長850nmに対する屈折率の値は、次の通りである。
25℃ 1.79008
−40℃ 1.78983
105℃ 1.79042
125℃ 1.79050
【0120】
なお、実施例3において、第1レンズ2の物体側面の有効径は直径5.449mmであり、有効径端における第1レンズ2の物体側面のサグは+0.144mmである。また、第1レンズ2の物体側面においてサグがマイナスであり、サグの絶対値が最大となる光軸からの光線高さは1.318mmであり、そのときのサグは−0.066mmである。
【0121】
本実施例において、(6)式の値は、下記の通りである。
B/R1=0.0269
また、(7)式の値は下記の通りである。
ΔT/R1=0.0385
【0126】
[実施例4]
図27に実施例4の撮像レンズ系の構成を示す図(光線図)を示す。実施例4の撮像レンズ系の収差図を
図28〜
図30に示す。
【0127】
また、実施例4の撮像レンズ系のレンズデータを表22に、各レンズ面の非球面形状を規定するための非球面係数を表23及び表24に示す。表22〜表24に記載されている項目は実施例1の表1〜表3と同様である。
【0131】
本実施例4のレンズユニット1の基本データは次の通りである。
【0132】
主波長 850nm
Fナンバー : 2.4
f(レンズ系全体の焦点距離)=1.953mm
対角画角(全画角) : 147°
対角像高 : 2.25mm
光学全長 : 10.365mm
物体距離 : 500mm
f1= −3.190mm
f2=3.878mm
f3=5.233mm
第1レンズ2:プラスチックレンズであり、両面共に非球面
第2レンズ4:ガラスレンズであり、両面共に球面
第3レンズ5:プラスチックレンズであり、両面共に非球面
実施例4において、第1レンズ2、第2レンズ4、及び第3レンズ5は、それぞれ実施例1〜3と同じ材質であり、温度変化時の屈折率の値も同じである。
【0133】
α=48.97度
f2/f=1.985
fp/f1=f3/f1=−1.641
各記号の説明は実施例2及び3と同じなのでここでは省略する。
【0134】
実施例4の撮像レンズ系では、第1レンズ2の像側面の接線角の最大値αが48.97度になっている。実施例1〜3に比べて第1レンズ2を容易に製造できる。
図30に示すように、特に画面最周辺の像高2.25mmにおいて、横収差が実施例3の
図22に比べて更に大きくなっている。接線角の最大値αを小さくすることで製造は容易になったが、収差補正は難しくなっている。しかし、像高1.8mmより低い像高では、さほど目立った横収差の増大は見られない。また、
図31に示すMTF特性が得られている。像高2.25mmにおけるタンジェンシャル方向のMTFは、30〜60本/mmの範囲において、
図6に示す実施例1に比べて5〜7%の劣化にとどまっていて、60本/mmで52%のMTFを確保している。そのため、実施例4の撮像レンズ系は実用上十分な解像力を得ることができている。第1レンズ2の物体側面の形状についての工夫は、実施例1〜3と同じように施されている。
【0135】
他の図と表についての説明は実施例2及び3と同様であるのでここでは省略する。
図31〜
図34に、実施例4に係る撮像レンズ系のMTFを、温度を変えて示す。
【0136】
なお、プラスチックレンズである第1レンズ2及び第3レンズ5の、主波長の850nmに対する屈折率の値は、次の通りである。
25℃ 1.52718
−40℃ 1.53282
105℃ 1.51994
125℃ 1.51812
【0137】
ガラスレンズである第2レンズ4の、主波長の850nmに対する屈折率の値は、次の通りである。
25℃ 1.79008
−40℃ 1.78983
105℃ 1.79042
125℃ 1.79050
なお、実施例4での第1レンズ2の物体側面の有効径は直径5.382mmであり、有効径端における第1レンズ2の物体側面のサグは+0.111mmである。また、第1レンズ2の物体側面においてサグがマイナスであり、その絶対値が最大となる光軸からの光線高さは1.344mmであり、そのときのサグは−0.069mmである。
【0138】
本実施例において、(6)式の値は、下記の通りである。
B/R1=0.0206
また、(7)式の値は下記の通りである。
ΔT/R1=0.0334
【0143】
[実施例5]
図35に、実施例5に係る撮像レンズ系の構成を示す図(光線図)を示す。実施例5の撮像レンズ系の収差図を
図36〜
図38に示す。
【0144】
また、実施例5のレンズデータを表29に、各レンズ面の非球面形状を規定するための非球面係数を表30及び表31に示す。表29〜表31に記載されている項目は実施例1の表1〜表3と同様である。
【0148】
本実施例5のレンズユニット1の基本データは次の通りである。
【0149】
主波長 850nm
Fナンバー : 2.4
f(レンズ系全体の焦点距離)=1.939mm
対角画角(全画角) : 147°
対角像高 : 2.25mm
光学全長 : 10.338mm
物体距離 : 500mm
f1= −3.173mm
f2=3.857mm
f3=5.218mm
第1レンズ2:プラスチックレンズであり、両面共に非球面
第2レンズ4:ガラスレンズであり、両面共に球面
第3レンズ5:プラスチックレンズであり、両面共に非球面
実施例5において、第1レンズ2、第2レンズ4、及び第3レンズ5は、それぞれ実施例1〜4と同じ材質であり、温度変化時の屈折率の値も同じである。
【0150】
α=45.61度
f2/f=1.990
fp/f1=f3/f1=−1.644
各記号の説明は実施例2〜4と同じなのでここでは省略する。
【0151】
実施例5では、第1レンズ2の像側面における接線角の最大値αが45.61度になっている。実施例1〜4と比べて第1レンズ2を容易に製造することができる。
図38に示すように、特に画面最周辺の像高2.25mmにおいて横収差が実施例4の
図30に比べて更に大きくなっている。接線角の最大値αを小さくすることにより製造は容易になったが、収差補正は難しくなっている。また、
図39に示すMTF特性は得られている。像高2.25mmにおけるタンジェンシャル方向のMTFは、30〜60本/mmの範囲において、
図6に示す実施例1と比べて約10%劣化していて、30本/mmのMTF値は72%であり、60本/mmのMTF値は48%である。レンズ系の用途によっては、このMTFでも実用上十分である。第1レンズ2の物体側面の形状についての工夫は、実施例1〜4と同じように施されている。
【0152】
他の図と表についての説明は実施例2〜4と同様であるのでここでは省略する。
図39〜
図42に、実施例5に係る撮像レンズ系のMTFを、温度を変えて示す。
【0153】
なお、プラスチックレンズである第1レンズ2及び第3レンズ5の、主波長850nmに対する屈折率の値は、次の通りである。
25℃ 1.52718
−40℃ 1.53282
105℃ 1.51994
125℃ 1.51812
【0154】
ガラスレンズである第2レンズ4の、主波長850nmに対する屈折率の値は、次の通りである。
25℃ 1.79008
−40℃ 1.78983
105℃ 1.79042
125℃ 1.79050
【0155】
なお、実施例5での第1レンズ2の物体側面の有効径は直径5.420mmであり、有効径端における第1レンズ2物体側面のサグは+0.144mmである。また、第1レンズ2の物体側面においてサグがマイナスでその絶対値が最大となる光軸からの光線高さは1.318mmであり、そのときのサグは−0.066mmである。
【0156】
本実施例において、(6)式の値は、下記の通りである。
B/R1=0.0266
また、(7)式の値は下記の通りである。
ΔT/R1=0.0387
【0161】
[実施例6]
図43に、実施例6の撮像レンズ系の構成を示す図(光線図)を示す。実施例6の撮像レンズ系の収差図を
図44〜
図46に示す。
【0162】
また、実施例6のレンズデータを表36に、各レンズ面の非球面形状を規定するための非球面係数を表37及び表38に示す。表36〜表38に記載されている項目は実施例1の表1〜表3と同様である。
【0166】
実施例6のレンズユニット1の基本データは次の通りである。
【0167】
主波長 850nm
Fナンバー : 2.4
f(レンズ系全体の焦点距離)=1.837mm
対角画角(全画角) : 147°
対角像高 : 2.25mm
光学全長 : 9.402mm
物体距離 : 500mm
f1= −3.472mm
f2=7.711mm
f3=3.589mm
第1レンズ2:プラスチックレンズであり、両面共に非球面
第2レンズ4:プラスチックレンズであり、両面共に非球面
第3レンズ5:ガラスレンズであり、両面共に非球面
α=60.18度
f2/f=4.199
fp/f1=f2/f1=−2.221
各記号の説明は実施例2〜5と同じなのでここでは省略する。
【0168】
実施例6の撮像レンズ系では、実施例1〜5までとは異なり、第1レンズ2及び第2レンズ4をプラスチックレンズとし、第3レンズ5をガラスレンズとした構成になっている。第1レンズ2の像側面における接線角の最大値αは60.18度であり、実施例1とほぼ同じ値である。
図47に示すMTF特性が得られている。像高2.25mmにおけるタンジェンシャル方向のMTFは、60本/mmにおいて50%であり、実施例1には及ばないが、用途によっては十分使用可能である。
【0169】
第1レンズ2の物体側面の形状についての工夫は、実施例1〜5と同様に施されている。
図48〜
図50に実施例6のMTFの温度特性を示す。
図47は常温の25℃のとき、
図48は−40℃のとき、
図49は105℃のとき、
図50は125℃のときのMTF値を示す。なお、
図48〜
図50においては、第1レンズ2、第2レンズ4、第3レンズ5の屈折率のみを、表1の屈折率の値から変化させている。実際には膨張及び収縮によりレンズ形状及び面間隔が変化する。しかし、面間隔の変化量は、鏡筒の材質によって異なり、温度変化時には屈折率の変化による性能変化が最も大きいので、屈折率のみを変化させた場合のMTF値を
図48〜
図50に示している。
【0170】
なお、プラスチックレンズである第1レンズ2及び第2レンズ4の、主波長の850nmに対する屈折率の値は、次の通りである。
25℃ 1.52718
−40℃ 1.53282
105℃ 1.51994
125℃ 1.51812
【0171】
なお、ガラスレンズである第3レンズ5の、主波長の850nmに対する屈折率の値は、次の通りである。
25℃ 1.58097
−40℃ 1.58074
105℃ 1.58126
125℃ 1.58134
ここで、ガラスレンズである第3レンズ5の硝材として、プラスチックレンズとは逆符号に屈折率が変化するタイプのものを選んでいる。ガラスレンズは凸レンズなので、プラスチックレンズの正のパワーの温度特性変化をキャンセルする。他の図と表についての説明は実施例2〜5と同様であるのでここでは省略する。
【0172】
なお、実施例6での第1レンズ2の物体側面の有効径は、直径4.640mmであり、有効径端における第1レンズ2物体側面のサグは+0.496mmである。また、第1レンズ2の物体側面においてサグがマイナスであり、サグの絶対値が最大となる光軸からの光線高さは0.353mmであって、そのときのサグは−0.001mmである。
【0177】
実施例1〜6に係る撮像レンズ系の、第1レンズの像側面の接線角度α、f2/f、fp/f1、及び、像面への主光線入射角度の最大値CRAを、表43に示す。
【0179】
この出願は、2013年8月19日に出願された日本出願特願2013−169909を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。