(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、植物の光合成や呼吸等に不可欠な肥料要素として、二価鉄イオン(Fe
2+)が知られており、例えば、水の存在下で二価鉄イオンを溶出する鉄成分を含有する肥料が農地等に散布されてきた。
しかし、二価鉄イオンは、環境中の酸素と出会うと容易に酸化されて三価鉄イオン(Fe
3+)となり、さらに植物の根が吸収不能な酸化鉄(Fe
2O
3)へ変化してしまうため、鉄成分が散布された場合であっても、長期に亘って二価鉄イオンを持続的に植物へ供給することが困難であるという課題があった。そのため、植物が十分生育するまでに、基肥に加えて複数回の追肥を行う必要が生じ、作業面や費用面で負担になっているという課題もあった。
そこで、近年、陸上において、長期に持続して二価鉄イオンを植物へ供給するための技術が開発されており、それに関して既にいくつかの考案又は発明が開示されている。
【0003】
特許文献1には「長期持続有機化成団子肥料」という名称で、肥料効果が長期に持続する緩効果性肥料に関する考案が開示されている。
以下、特許文献1に開示された考案について説明する。特許文献1に開示された考案は、紙パルプ廃繊維、米糠または酸化第二鉄粉等と、化学肥料を混合し、難透水性の結着材で結着硬化成形してなることを特徴とする。
このような特徴を有する考案においては、まず表層から順次化学肥料が溶出するほか、紙パルプ廃繊維等の有機物が分解する。この分解により、土壌中の水分は、長期持続有機化成団子肥料に浸透し易くなることから、次の層の化学肥料が順次溶出し、有機物が分解する。その結果、長期に肥料効果を持続させることができる。特に、湛水により還元状態となった水田では、酸化第二鉄粉(三価鉄)が第一鉄(二価鉄)となって水に溶解するため、溶解した第一鉄を含む水が長期持続有機化成団子肥料に浸透し、第一鉄を化学肥料とともに長期に亘って植物へ供給することができる。
【0004】
次に、特許文献2には「金属要素肥料補給用ゼオライト組成物およびその製造方法」という名称で、金属要素肥料を徐々に放出するゼオライト組成物に関する発明が開示されている。
以下、特許文献2に開示された発明について説明する。特許文献2に開示された発明は、ゼオライトを保持担体として、植物の生育に必要な金属要素およびキレート剤をそれぞれ単独に、または金属キレートの形で保持させたことを特徴とする。 このような特徴を有する金属要素肥料補給用ゼオライト組成物においては、水との接触により、ゼオライトの相外への金属要素の溶出が長期間に亘って持続される。溶出した金属要素は、水溶性キレートとなっているため、植物への吸収が好ましい状態で効果的に行われる。
【0005】
さらに、特許文献3には「肥料」という名称で、肥料養分とキレート鉄を植物へ供給する肥料に関する発明が開示されている。
以下、特許文献3に開示された発明について説明する。特許文献3に開示された発明は、肥料養分となる成分を含み液体を吸着担持可能な、植物焼却灰や多孔質な植物炭等の基材にキレート鉄の液体を吸収担持させ、粘土系粉末、デンプン系粉末、石灰系粉末等の接合固形化材を混合し固め、あるいは、圧力をかけて粒状ペレットに造粒してなることを特徴とする。
このような特徴を有する肥料においては、肥料養分とキレート鉄が分離した構成であるため、肥料養分とキレート鉄を共に動植物に効率よく吸収させることができる。また、接合固形化材は、無害物質であり、土中で肥料養分等からゆっくり分離される。
【0006】
最後に、本願出願人によって出願された特許文献4には「水中用二価鉄イオン供給装置」という名称で、水中において、二価鉄イオンを植物へ供給するための二価鉄イオン供給装置に関する発明が開示されている。
以下、特許文献4に開示された発明について説明する。特許文献4に開示された発明は、水中に二価鉄イオンを供給する二価鉄イオン供給体と、二価鉄イオン供給体が詰め込まれる水透過性を有する第1の収容体と、第1の収容体が収容される生分解性を有する容器体と、を備え、二価鉄イオン供給体は、発酵したぬかと、鉄材と、が含有され、容器体は、小孔が穿通されることを特徴とする。 このような特徴を有する水中用二価鉄イオン供給装置においては、容器体が水に浸漬されるとき、小孔を介して第1の収容体が収容される容器体に水が浸入する。すると、第1の収容体に詰め込まれた二価鉄イオン供給体から供給された二価鉄イオン錯体が、小孔を介して容器体の周囲に存在する水へと徐々に拡散する。 また、容器体は第1の収容体の保護材としても作用し、その材質が例えば竹筒の場合には、少なくとも数年間は水中でその形状が維持されると考えられる。したがって、水中用二価鉄イオン供給装置によれば、容器体の上記作用と相まって、長期に継続して水中に二価鉄イオンを供給して植物の生長を促進させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された発明においては、廃繊維等を含有することから、これに土壌中の水分が浸透することによって、一気に崩壊するおそれがある。この場合、長期持続有機化成団子肥料1個当たりの第一鉄の生成速度が上昇し、緩効的効果が発揮されないものと考えられる。すなわち、第一鉄を長期に亘って植物へ供給可能か否か確実でないものと考えられる。
【0009】
次に、特許文献2に開示された発明においては、金属要素肥料補給用ゼオライト組成物は、原材料を長時間(具体的には3時間以上)湿式混和した後、球状成型品に成形し、さらにこの球状成型品を100℃での乾燥することで完成する。したがって、製造方法がやや煩雑であって、製造コストが嵩むおそれがある。
【0010】
さらに、特許文献3に開示された発明においても、粘土系粉末等の接合固形化材に土壌中の水分が浸透することによって、粒状ペレットが一気に崩壊するおそれがある。よって、特許文献1に開示された発明と同様に、第一鉄を長期に亘って植物へ供給可能か否か確実でないものと考えられる。
【0011】
さらに、特許文献4に開示された発明においては、容器体が備えられることで、長期に継続して二価鉄イオンを水中へ供給することができる。しかし、陸上においては、容器体によって二価鉄イオン供給体が水に接触することが阻害され、容器体の小孔を常時水が通過可能な状態になるとは限らないことから、容器体の外部へ二価鉄イオンを持続的に拡散することが困難である。したがって、特許文献4に開示された発明を、直ちに陸上用二価鉄イオン供給体として適用することはできない。
【0012】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、陸上で長期に持続して植物へ二価鉄イオンを供給し得る簡易な構成の陸上用二価鉄イオン供給体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、第1の発明は、陸上において、二価鉄イオンを供給して植物の生長を促進させる陸上用二価鉄イオン供給体であって、二価鉄イオンを供給する本体を備え、本体は、その形状を保持するための第1の形状保持材と、有機物と、鉄材と、塩と、この塩の存在下で有機物を分解して有機酸を生成する耐塩性細菌が含有されることを特徴とする。
【0014】
このような構成の発明において、有機物としては、例えば、ぬか、フスマ等の、細菌によって分解可能な植物性材料が使用される。また、鉄材は、二価鉄イオンの供給源であって、例えば、スケールスラッジ、切削鉄粉、薄板鉄片といったものが使用される。
また、塩は、土壌中細菌が本体に侵入した場合に、その生育を阻害する目的で加えられる、酸と塩基との中和反応によって生じる化合物であって、酸の陰性成分と塩基の陽性成分とからなるものをいう。そのため、本体に加えられる細菌は、塩の存在下で有機物を分解して有機酸を生成可能な耐塩性細菌であることが必要となる。
この耐塩性細菌は、例えば、条件的嫌気性発酵菌が使用される。これにより、本体に含まれるたんぱく質等の有機物が分解され、有機酸が生成される。なお、有機酸が生成されるにつれ有機物は徐々に低酸素状態となってくるが、このような状態でも条件的嫌気性発酵菌は有機酸の生成が可能なため、好適に使用できる。
これに対し、土壌中細菌は、そのほとんどの種類が好気性細菌であるから、本体内部における低酸素状態となったミクロ環境下では、生存できない。
そして、第1の形状保持材は、本体の形状を保持する目的で混合される。この第1の形状保持材としては、例えば、三次元立体構造をなす寒天やマンナンが考えられる。
【0015】
上記構成の発明においては、水の存在下で、鉄材から二価鉄イオンが溶出する。この二価鉄イオンは有機酸と結合し、二価鉄イオン錯体が生成される。また、この有機酸は耐塩性細菌の活動によって、持続的に生成されるため、二価鉄イオン錯体も持続的に生成される。また、有機物は、有機酸が生成されるにつれて低酸素状態となっていることから、二価鉄イオンの酸化が防止される。
このような二価鉄イオン錯体は、本体が水と接触していることにより、本体から溶出して水とともに土壌中に放出され、植物の根によって吸収される。
また、土壌中細菌が本体に侵入した場合であっても、本体に含有される塩によって土壌中細菌の生育が阻害されることから、有機物の分解が防止され、有機酸の生成が確保される。すなわち、耐塩性細菌等に基づく二価鉄イオン錯体の生成は、塩によっても維持される。
さらに、本体に混合された第1の形状保持材によって、本体の立体的形状を保持する作用が発揮されるため、本体の崩壊が防止される。すなわち、鉄材が有機物と分離し環境中の酸素と接触することが防止されるため、二価鉄イオン錯体の生成は、第1の形状保持材によっても維持される。
【0016】
次に、第2の発明は、第1の発明において、本体は、バインダーが混合されることを特徴とする。
このような構成の発明において、バインダーは、少なくとも有機物と鉄材を結着させるための結着材であって、例えば、リグニンスルフォン酸ナトリウムやベントナイト、ポリビニルアルコール、飛粉(コンニャク芋の外皮)等が考えられる。
上記構成の発明においては、第1の発明の作用に加えて、バインダーによって、少なくとも有機物と鉄材の結着性が向上し、本体の立体的形状を保持する作用が一層強化される。
【0017】
続いて、第3の発明は、第1又は第2の発明において、本体を被覆する被覆部を備え、この被覆部は、その形状を保持するための第2の形状保持材と、土壌中細菌の生育を阻害する菌抑制材と、この菌抑制材を保持する保持担体が含有されることを特徴とする。
このような構成の発明において、第2の形状保持材として、第1の形状保持材と同様の物質が使用される。また、菌抑制材と保持担体としては、例えば、それぞれ塩と寒天や吸水性ポリマーが考えられる。この他、菌抑制材としてヨーグルト等の乳製品中に含有される乳酸菌等の有機酸生成細菌、保持担体としてこの乳製品が考えられる。この場合、有機酸生成細菌は、乳製品中のたんぱく質や炭水化物を分解して乳酸等の有機酸を生成する。他にも、有機酸生成細菌として、本体に含有される耐塩性細菌と同様に、酪酸菌や酵母菌が使用されても良い。
【0018】
上記構成の発明においては、第1又は第2の発明の作用に加えて、土壌中細菌が、被覆部、本体の順で侵入しようとした場合に、まず被覆部の菌抑制材によって被覆部へ侵入した土壌中細菌の生育が阻害されるため、本体に土壌中細菌が侵入することが抑制される。よって、本体に含有される有機物の急速な分解が防止される。
また、菌抑制材が有機酸生成細菌である場合には、この有機酸生成細菌が生成する有機酸によって、被覆部に含有される有機物の急速な分解が防止されるとともに、本体の表面に分布する鉄材から溶出された二価鉄イオンが、二価鉄イオン錯体へとキレート化される。
さらに、第2の形状保持材によって、被覆部の立体的形状が保持されるので、前述の菌抑制等の作用が長期に亘って持続する。
【0019】
さらに、第4の発明は、第3の発明において、本体及び被覆部の少なくともいずれかは、被膜層で被膜され、この被膜層は、本体及び被覆部を透過させず、かつ水及び二価鉄イオン錯体を選択的に透過させる性質を有する半透膜材料で形成されることを特徴とする。
このような構成の発明において、半透膜材料として、例えば、ニトロセルロースをエチルアルコールとエチルエーテルに溶解させた溶解液(商品名コロジオン)、カルボキシメチルセルロース等が考えられる。また、このような材料は、乾燥状態で、圧力に対して一定の強度を有する被膜層を形成する。
上記構成の発明においては、第3の発明の作用に加えて、本体及び被覆部の少なくともいずれかは、被膜層で被膜されることから、物理的な圧力に対する耐性が付加される。よって、本体や被覆部がそれぞれ水分を吸収して膨潤した場合であっても、それらの崩壊が防止される。
また、被膜層が本体及び被覆部を透過させないことにより、本体に含有される有機物や保持担体に保持された菌抑制材が被膜層を透過し難く、有機酸の生成や土壌中細菌の菌抑制作用が持続する。
加えて、被膜層が水及び二価鉄イオン錯体を選択的に透過させる性質を有することにより、本体の内部へ水を浸入させ二価鉄イオンが溶出可能になるとともに、形成された二価鉄イオン錯体が土壌中に拡散可能となる。
【0020】
そして、第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、耐塩性細菌は、乳酸菌、酪酸菌及び酵母菌から選択される少なくとも一つであることを特徴とする。
このような構成の発明において、第1乃至第4のいずれかの発明の作用に加えて、乳酸菌、酪酸菌及び酵母菌から、それぞれ乳酸、酪酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸が生成される。有機酸は、二価鉄イオンとキレート結合して二価鉄イオン錯体を形成するほか、それ自体が土壌中細菌の生育を阻害するため、仮に本体へ土壌中細菌が侵入してきた場合に、これを減少または死滅させるという作用を有する。
【発明の効果】
【0021】
第1の発明によれば、本体に有機物と、鉄材と、耐塩性細菌が含有されることで、二価鉄イオン錯体を持続的に生成することができる。この持続的な生成は、塩が土壌中細菌の生育を阻害し、第1の形状保持材が本体の崩壊を防止するという二種類の作用によって、補強される。したがって、陸上において、二価鉄イオン錯体を長期に亘って安定的に土壌中に放出することができる。その結果、植物が十分生育するまでの施肥回数を従来よりも減少可能であり、作業面や費用面での負担を軽減できる。
また、第1の発明は、本体が有機物や鉄材等の安価な材料からなり、簡易な構成であるため、容易に製造することができる。
【0022】
第2の発明によれば、第1の発明の効果に加えて、バインダーによって、本体の立体的形状の保持作用が一層強化されるため、本体が崩壊することで二価鉄イオン錯体が生成されなくなる事態を確実に防止できる。
【0023】
第3の発明によれば、第1又は第2の発明の効果に加えて、被覆部の菌抑制材により、本体に含有される有機物の分解が防止されることから、本体において有機酸が生成される量を一定以上に確保することができる。また、菌抑制材が有機酸生成細菌である場合には、被覆部に含有される有機物の分解が防止されることに加えて、鉄材から溶出した二価鉄イオンを、効率的に二価鉄イオン錯体へキレート化することができる。すなわち、被覆部の菌抑制材は、本体による二価鉄イオン錯体の持続的生成を補強するという効果を有する。
さらに、第2の形状保持材により被覆部の立体的形状が保持されるので、第2の形状保持材も、上述の二価鉄イオン錯体の持続的生成の補強効果を発揮可能である。
【0024】
第4の発明によれば、第3の発明の効果に加えて、被膜層により、本体や被覆部の崩壊が防止されることや、水の浸入と二価鉄イオン錯体の拡散が選択的に可能となることから、本体が持続的に二価鉄イオンを生成可能とし、かつ植物へ安定的に二価鉄イオンを供給することができる。
【0025】
第5の発明によれば、第1乃至第4のいずれかの発明の効果に加えて、乳酸菌、酪酸菌及び酵母菌は、いずれも耐塩性を有するとともに効率的に有機酸を生成可能である。また、これらの細菌は、市場で容易に入手可能であり、かつ取り扱いも簡単であることから、耐塩性細菌として使用するのに好適である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0027】
本発明の第1の実施の形態に係る陸上用二価鉄イオン供給体について、
図1及び
図2を用いて詳細に説明する。
図1(a)は、実施例に係る陸上用二価鉄イオン供給体の縦断面図であり、
図1(b)は
図1(a)におけるA−A線矢視断面図である。
図1に示すように、実施例1に係る陸上用二価鉄イオン供給体1は、陸上において、二価鉄イオンを供給して植物の生長を促進させる陸上用二価鉄イオン供給体であって、二価鉄イオンを供給する本体2を備え、本体2は、その形状を保持するための第1の形状保持材と、有機物と、鉄材3と、塩と、この塩の存在下で有機物を分解して有機酸を生成する耐塩性細菌が含有される。この本体2は、鉄材3と、混合体4を混合したのち、ペレット状に成型して作成される。なお、混合体4とは、第1の形状保持材と、有機物と、塩と、耐塩性細菌を混合させたものである。
具体的には、鉄材3は切削鉄粉であり、第1の形状保持材は、三次元立体構造を有する寒天である。なお、この寒天は、水とともに熱処理をされることでゲル状となり、その後乾燥されることにより脱水され固化した後、再度水を吸収し得るという性質を有する。さらに、有機物は米ぬかに含まれるたんぱく質、澱粉等であり、塩は米ぬかに対する重量比で5〜8(%)の塩化ナトリウムである。そして、耐塩性細菌は、条件的嫌気性菌である乳酸菌、酪酸菌及び酵母菌から選択される少なくとも一つが考えられる。
【0028】
第1の形状保持材の寒天が乾燥した状態の本体2を土壌表面に散布した場合、本体2の周囲に水が存在しない場合には、鉄材3から二価鉄イオンは溶出しない。しかし、散水や降雨等で本体2の周囲に水が存在すると、寒天が水を吸収して再びゲル状に変化するとともに、米ぬかも水を吸収する。そのため、鉄材3が水に接触し、鉄材3から二価鉄イオンが溶出する。
一方、耐塩性細菌である乳酸菌、酪酸菌及び酵母菌(以下、乳酸菌等という。)は、米ぬかに含まれるたんぱく質等を分解して乳酸、酪酸及びコハク酸等(以下、乳酸等という。)を生成する。そのため、溶出した二価鉄イオンが乳酸等と結合し、二価鉄イオン錯体が生成される。乳酸等は、乳酸菌等による上記分解によって、持続的に生成されるため、二価鉄イオン錯体も持続的に生成される。
【0029】
この二価鉄イオン錯体は、本体2が水と接触していることにより、本体2から溶出して水とともに土壌中に放出され、植物の根によって吸収される。
また、本体2は塩を含有することから、土壌中細菌が本体2に侵入した場合であっても、この塩によって土壌中細菌の生育が阻害される。加えて、本体2には、乳酸等が生成されているので、この乳酸等によっても土壌中細菌の生育が阻害される。したがって、米ぬかの分解が強く防止され、乳酸等の生成が確保される。
【0030】
次に、実施例1に係る陸上用二価鉄イオン供給体1の効果を
図2を用いながら説明する。
図2は、実施例1に係る陸上用二価鉄イオン供給体の効果を表すための実験Aの結果を示す表である。
まず、この実験Aに使用した本体2は、有機物及び耐塩性細菌を含むぬか床50(g)と、鉄材3として切削鉄粉10(g)と、クエン酸2(g)と、第1の形状保持材として乾燥寒天2(g)と、水100(cc)を用いて製造される。なお、ぬか床は、米ぬかと、塩と、米ぬかの有機物を分解する植物由来の乳酸菌等と、乳酸菌等が生成した乳酸等を含有している。
また、本体2の製造方法は、水に乾燥寒天を投入したものを80(℃)に加熱し、乾燥寒天を完全に水に溶解させて液状の寒天とし、次いでこの液状の寒天を40〜45(℃)に冷却してゲル状とする。さらに、このゲル状の寒天に、ぬか床と、切削鉄粉と、クエン酸を混合して混合体を形成する。そして、この混合体に金属製円筒を刺してこの金属製円筒内に混合体を封じ込めた後、混合体を徐々に金属製円筒から押し出しながら、ペレット状になるよう切断して乾燥し、本体2を完成させる。
【0031】
実験Aの方法について説明する。完成した本体2は、その全体が覆われるように、水へ浸漬される。本体2が水へ浸漬されたことによって、前述したように、二価鉄イオン錯体が生成されて水の中へ拡散される。この拡散された二価鉄イオン錯体の濃度を時間を追って計測する。
より詳細には、水に浸漬された本体2を常温にて放置し、一定時間ごとに二価鉄イオン錯体が含まれる液体の溜まりを採取して、二価鉄イオン濃度(mg/L)を計測する。二価鉄イオン濃度の計測は、O−フェナントロリン比色法を原理とするパックテスト試験による。なお、二価鉄イオン濃度(mg/L)を計測後は、新しい水に入れ替えるものとする。
【0032】
図2に示すように、本体2から拡散した二価鉄イオン錯体の二価鉄イオン濃度(mg/L)は、本体2を水に浸漬させた日から1日後、6日後、35日後及び142日後において、それぞれ2、1、1、1となった。なお、1(mg/L)の二価鉄イオン濃度は、十分に植物の生長を促進させることが可能である。また、本体2は、その形状が崩壊することなくペレット状に維持されていた。
実験Aの結果から、寒天によって、本体2の形状保持がなされているものと考えられる。ぬか床及び切削鉄粉を混合してペレット化したペレット状体を水中に浸漬した場合、このペレット状体は直ちに分散すると推測されるからである。
そして、形状保持がなされることで、鉄材3から溶出した二価鉄イオンが水中に溶解した酸素によって酸化鉄へ変化することが防止されることにより、二価鉄イオン濃度(mg/L)が計測されたものと考えられる。その結果、本体2から、142日という長期に亘って二価鉄イオン錯体の水中への拡散が持続しているものと解釈できる。
【0033】
本実施例の陸上用二価鉄イオン供給体1を構成する本体2は、ぬか床、切削鉄粉、寒天等の入手容易な材料から混合や加熱といった簡単な工程によって製造することができる。なお、ぬか床は、家庭や漬物製造工場等で使用された後の廃棄されるもので足りる他、未発酵の米ぬかに植物由来の乳酸菌株等を投入することで製造されたものも利用可能である。また、一旦ゲル化した寒天は乾燥させると固化するため、輸送時や保管時の取り扱いも容易である。したがって、陸上用二価鉄イオン供給体1を安価かつ容易に導入し、使用することができる。
【0034】
さらに、陸上用二価鉄イオン供給体1は、実験Aの結果からわかるように、本体2を水に浸漬してから約5カ月もの長期に亘って、二価鉄イオンを生成可能である。この二価鉄イオンは、乳酸菌によって生成された乳酸等によって、二価鉄イオン錯体へキレート化されていると考えられることから、陸上用二価鉄イオン供給体1が土壌に散布された場合に、環境中の酸素によって酸化されることなく長期に亘って植物の根から吸収され得ることが期待できる。
【実施例2】
【0035】
本発明の第2の実施の形態に係る陸上用二価鉄イオン供給体について、
図3を用いて詳細に説明する。
図3は、実施例2に係る陸上用二価鉄イオン供給体の効果を表すための実験Bの結果を示す表である。
実験Bにおいては、試料B−1乃至B−4を使用する。この試料B−1乃至B−4は、それぞれ、有機物及び耐塩性細菌を含むぬか床10(g)と、鉄材3として切削鉄粉10(g)と、バインダーの混合体であって、いずれもペレット状に成型後、乾燥させたものである。このうち、試料B−1乃至B−4の各バインダーは、それぞれリグニンスルフォン酸ナトリウム(以下、リグニンという。)0.01(g)、リグニン0.1(g),ベントナイト0.1(g)、ベントナイト1(g)である。なお、寒天の影響を排除するため、試料B−1乃至B−4に寒天は混合されていない。
これらの試料を、それぞれ水に浸漬させた日から0日後、3日後、11日後及び28日後において、上述のパックテスト試験によって二価鉄イオン濃度(mg/L)を計測した。
図3に示すように、試料B−1乃至B−4から拡散した二価鉄イオン錯体の二価鉄イオン濃度(mg/L)は、これらを水に浸漬させた日から28日後において、それぞれ1、1、1、1となった。また、試料B−1乃至B−4は、その形状が崩壊することなくペレット状に維持されていた。
【0036】
実験Bの結果から、バインダーは、試料B−1乃至B−4の形状保持に有効であるものと解釈できる。
したがって、実施例1の本体2にバインダーを混合させると、より強固に本体2の形状保持が実現できるものと推測される。これ以外の、実施例1の本体2にバインダーを混合させる場合の作用及び効果は、実施例1に係る本体2と同様であると推測される。
【実施例3】
【0037】
本発明の第3の実施の形態に係る陸上用二価鉄イオン供給体について、
図4及び
図5を用いて詳細に説明する。
図4(a)は、実施例3に係る陸上用二価鉄イオン供給体の縦断面図であり、
図4(b)は
図4(a)におけるB−B線矢視断面図である。
図5(a)は、実施例3に係る陸上用二価鉄イオン供給体の効果を表すための実験C1の結果を示す表である。なお、
図1で説明した構成要素と同一の構成要素は、
図4においても同一の符号を付してその説明を省略する。
図4(a)及び
図4(b)に示すように、実施例3に係る陸上用二価鉄イオン供給体1aは、実施例1の本体2を被覆する被覆部5を備える。
この被覆部5は、その形状を保持するための第2の形状保持材である寒天が含有される。
【0038】
実験C1においては、陸上用二価鉄イオン供給体1aとして、試料C−1を使用する。この試料C−1は、有機物及び耐塩性細菌を含むぬか床6(g)と、鉄材3として切削鉄粉14(g)と、クエン酸2(g)と、第1の形状保持材として乾燥寒天2(g)と、水100(cc)を用いて、実施例1の本体2と同様の製造方法によって製造されたペレット状体Pc1を、2(重量%)の40〜45(℃)の寒天液に浸漬させた後、乾燥させたものである。この寒天液への浸漬及び乾燥により、寒天からなる被覆部Hc1が形成される。
試料C−1を、水に浸漬させた日から3日後乃至187日後において、上述のパックテスト試験によって二価鉄イオン濃度(mg/L)を計測した。
図5(a)に示すように、試料C−1から拡散した二価鉄イオン錯体の二価鉄イオン濃度(mg/L)は、試料C−1を水に浸漬させた日から187日後において、1となった。また、試料C−1は、その形状が崩壊することなくペレット状に維持されていた。
【0039】
実験C1の結果から、ペレット状体Pc1と、被覆部Hc1の組み合わせにより、試料C−1の形状保持がなされる。したがって、ペレット状体Pc1に寒天を混合し実施例1の本体2と同様の方法で製造したペレット状体Pc1−1を、被覆部Hc1で被覆することにより、より強固にペレット状体Pc1−1の形状保持が実現できるものと推測される。これ以外の、ペレット状体Pc1−1を被覆部Hc1で被覆した場合の作用及び効果は、実施例1に係る本体2と同様であると推測される。
【0040】
本発明の第3の実施の形態の第1の変形例に係る陸上用二価鉄イオン供給体について、
図5(b)を用いて詳細に説明する。
図5(b)は、実施例3の第1の変形例に係る陸上用二価鉄イオン供給体の効果を表すための実験C2の結果を示す表である。
実験C2においては、試料C−2−1乃至C−2−5を使用する。この試料C−2−1乃至C−2−5は、それぞれ、陸上用二価鉄イオン供給体1aと同様の形状をなし、有機物及び耐塩性細菌を含むぬか床5(g)と、鉄材3として切削鉄粉5(g)と、バインダーを混合させ、いずれもペレット状に成型したペレット状体Pc2−1乃至Pc2−5を、3(重量%)の40〜45(℃)の寒天液に浸漬させた後、乾燥させたものである。この寒天液への浸漬及び乾燥により、寒天からなる被覆部Hc2が形成される。試料C−2−1乃至C−2−5の各バインダーは、それぞれリグニン0.1(g),リグニン1(g),ベントナイト0.1(g),ベントナイト0.5(g),ベントナイト1(g)である。なお、寒天の影響を排除するため、ペレット状体Pc2−1乃至Pc2−5に寒天は混合されていない。
試料C−2−1乃至C−2−5を、水に浸漬させた日から5日後において、形状が保持されているか否かを観察した。
その結果、
図5(b)に示すように、試料C−2−1乃至C−2−5は、その形状が崩壊することなくペレット状に維持されていた。
【0041】
実験C2の結果から、ペレット状体Pc2−1乃至Pc2−5と、被覆部Hc2の各組み合わせにより、試料C−2−1乃至C−2−5の形状保持がなされる。したがって、ペレット状体Pc2−1乃至Pc2−5に寒天を付加したペレット状体Pc2−1´乃至Pc2−5´を、それぞれ被覆部Hc2で被覆することにより、より強固にペレット状体Pc2−1´乃至Pc2−5´の形状保持が実現できるものと推測される。これ以外の、ペレット状体Pc2−1´乃至Pc2−5´を被覆部Hc2でそれぞれ被覆した場合の作用及び効果は、実施例1に係る本体2と同様である。
【0042】
本発明の第3の実施の形態の第2の変形例に係る陸上用二価鉄イオン供給体について、
図5(c)を用いて詳細に説明する。
図5(c)は、実施例3の第2の変形例に係る陸上用二価鉄イオン供給体の効果を表すための実験C3の結果を示す表である。
実験C3においては、試料C−3−1乃至C−3−4を使用する。この試料C−3−1乃至C−3−4は、それぞれ、陸上用二価鉄イオン供給体1aと同様の形状をなし、有機物及び耐塩性細菌を含むぬか床5(g)と、鉄材3として切削鉄粉5(g)と、バインダーを混合させ、いずれもペレット状に成型したペレット状体Pc3−1乃至Pc3−4を、被覆部Hc3で被覆したものである。
ペレット状体Pc3−1乃至Pc3−4の各バインダーは、それぞれリグニン1.0(g),ベントナイト1.0(g),ポリビニルアルコール(市販のポバール2000)3.0(g),ポリビニルピロリドン(市販品)の原液1.0(g)である。なお、寒天の影響を排除するため、ペレット状体Pc3−1至Pc3−4に寒天は混合されていない。
【0043】
被覆部Hc3は、その形状を保持するための第2の形状保持材である寒天と、土壌中細菌の生育を阻害する菌抑制材と、この菌抑制材を保持する保持担体が含有される。より詳細には、被覆部Hc3は、乾燥寒天3(g)と、小麦粉2.5(g)と、砂糖0.5(g)と、動物由来の乳酸菌を含むヨーグルト5(g)と、水100(g)から作成される。
すなわち、菌抑制材とは、動物由来の乳酸菌である。さらに、この乳酸菌がヨーグルトのたんぱく質を分解して生成する乳酸も菌抑制材に含まれる。なお、砂糖は、乳酸菌の栄養分として添加される。また、保持担体とは、小麦粉、ヨーグルトをいう。
【0044】
また、被覆部Hc3は、ヨーグルト以外の材料を80(℃)で水に溶解させ40(℃)に冷却し、その後ヨーグルトを混合して作成される。試料C−3−1乃至C−3−4は、被覆部Hc3となる寒天液にそれぞれペレット状体Pc3−1乃至Pc3−4を浸漬させた後、乾燥させたものである。
試料C−3−1乃至C−3−4を、水に浸漬させた日から7日後、10日後及び32日後において、上述のパックテスト試験によって二価鉄イオン濃度(mg/L)を計測した。
図5(c)に示すように、試料C−3−1乃至C−3−4の二価鉄イオン濃度(mg/L)は、これらを水に浸漬させた日から32日後において、それぞれ5.4、3.7、3.7、8となった。また、試料C−3−1乃至C−3−4は、それぞれの形状が崩壊することなくペレット状に維持されていた。
【0045】
実験C3の結果から、ペレット状体Pc3−1乃至Pc3−4と、被覆部Hc3の各組み合わせにより、試料C−3−1乃至C−3−4の形状保持がなされる。したがって、ペレット状体Pc3−1乃至Pc3−4に寒天を付加したペレット状体Pc3−1´乃至Pc3−4´を、それぞれ被覆部Hc3で被覆することにより、より強固にペレット状体Pc3−1´乃至Pc3−4´の形状保持が実現できるものと推測される。
また、被覆部Hc3においては、乳酸が生成されるため、土壌中細菌の生育が阻害されて、土壌中細菌がペレット状体Pc3−1乃至Pc3−4にそれぞれ侵入することを抑制可能である。加えて、被覆部Hc3において、生成された乳酸は、ペレット状体Pc3−1乃至Pc3−4で生成された二価鉄イオンを二価鉄イオン錯体へとキレート化させるため、植物へより多くの二価鉄イオンを供給できることが期待できる。これ以外の、ペレット状体Pc3−1´乃至Pc3−4´を被覆部Hc3でそれぞれ被覆した場合の作用及び効果は、実施例1に係る本体2と同様であると推測される。
【実施例4】
【0046】
本発明の第4の実施の形態に係る陸上用二価鉄イオン供給体について、
図6を用いて詳細に説明する。
図6は、実施例4に係る陸上用二価鉄イオン供給体の効果を表すための実験Dの結果を示す表である。
実験Dにおいては、陸上用二価鉄イオン供給体として、試料D−1を使用する。 試料D−1は、実施例3におけるペレット状体Pc1が、被膜層Hdで被膜されたものである。この被膜層Hdは、ペレット状体Pc1及び被覆部Hc1乃至HC3を透過させず、かつ水及び二価鉄イオン錯体を選択的に透過させる性質を有する半透膜材料で形成される。具体的には、半透膜材料は、濃度が5(重量%)のニトロセルロースをエチルアルコールとエチルエーテルに溶解させた溶解液(商品名コロジオン)である。
この試料D−1は、実施例3におけるペレット状体Pc1をコロジオンに浸漬した後、乾燥させて作成される。
【0047】
試料D−1を、水に浸漬させた日から3日後乃至187日後において、上述のパックテスト試験によって二価鉄イオン濃度(mg/L)を計測した。
図6(a)に示すように、試料D−1から拡散した二価鉄イオン錯体の二価鉄イオン濃度(mg/L)は、試料D−1を水に浸漬させた日から187日後において、1となった。また、試料D−1は、その形状が崩壊することなくペレット状に維持されていた。
【0048】
実験Dの結果から、ペレット状体Pc1と、被膜層Hdの組み合わせにより、試料D−1の形状保持がなされる。また、実施例1の実験Aの結果から、寒天を含有するペレット状体Pc1は単独でも形状保持がなされると推測されるため、ペレット状体Pc1は被膜層Hdで被膜されることにより、その形状保持作用は一層強化されるものと推測される。また、被膜層Hdは、水及び二価鉄イオン錯体を選択的に透過させる性質を有するため、ペレット状体Pc1に水を供給して切削鉄粉から二価鉄イオンを溶出させることが可能であるとともに、ペレット状体Pc1で生成された二価鉄イオン錯体を透過させて、これを土壌中へ拡散させることも可能である。これ以外の、ペレット状体Pc1を被膜層Hdで被膜した場合の作用及び効果は、実施例1に係る本体2と同様であると推測される。
【0049】
本発明の第4の実施の形態の変形例に係る陸上用二価鉄イオン供給体について、
図7を用いて詳細に説明する。
図7は、実施例4の変形例に係る陸上用二価鉄イオン供給体の効果を表すための実験Eの結果を示す表である。
実験Eに使用した試料E−1乃至E−4は、それぞれ、有機物及び耐塩性細菌を含むぬか床5(g)と、鉄材3として切削鉄粉5(g)と、バインダーの混合体を、いずれもペレット状に成型後、乾燥させてペレット状体Pe1乃至Pe4を作成し、これをさらに実施例4における被膜層Hdで被膜したものである。
試料E−1乃至E−4の各バインダーは、それぞれリグニン1(g)、ベントナイト1(g)、ポリビニルアルコール1(g)、飛粉5(g)である。なお、寒天の影響を排除するため、ペレット状体Pe1乃至Pe4に寒天はいずれも混合されていない。
【0050】
試料E−1乃至E−4を、水に浸漬させた日から3日後乃至46日後において、上述のパックテスト試験によって二価鉄イオン濃度(mg/L)を計測した。
図7に示すように、試料E−1乃至E−4から拡散した二価鉄イオン錯体の二価鉄イオン濃度(mg/L)は、試料E−1乃至E−4を水に浸漬させた日から46日後において、いずれも1となった。また、試料E−1乃至E−4は、それぞれの形状が崩壊することなくそれぞれペレット状に維持されていた。
【0051】
実験Eの結果から、寒天を含有しないペレット状体Pe1乃至Pe4と、被膜層Hdの組み合わせにより、試料E−1乃至E−4の形状保持がなされる。これ以外の、ペレット状体Pe1乃至Pe4を被膜層Hdでそれぞれ被膜した場合の作用及び効果は、実施例4に係る試料D−1と同様であると推測される。
【実施例5】
【0052】
本発明の第5の実施の形態に係る陸上用二価鉄イオン供給体について、
図8を用いて詳細に説明する。
図8(a)乃至
図8(c)は、それぞれ実施例5に係る陸上用二価鉄イオン供給体の効果を表すための実験Fの結果を示す表である。
実験Fにおいては、陸上用二価鉄イオン供給体として、試料F−1,F−2を使用する。 試料F−1,F−2は、それぞれ、有機物及び耐塩性細菌を含むぬか床5(g)と、鉄材3として切削鉄粉5(g)と、バインダーと、第1の形状保持材として乾燥寒天2(g)と、水100(cc)を用いて、実施例1の本体2と同様の製造方法によって製造されたペレット状体Pf1,Pf2が、実施例3の第2の変形例における被覆部Hc3によって被覆され、かつ、この被覆部Hc3が実施例4における被膜層Hdで被膜されたものである。試料F−1,F−2の各バインダーは、それぞれリグニン1.0(g)、ベントナイト1.0(g)である。
【0053】
また、試料F−1,F−2の比較例として、試料F−3を作成した。この試料F−3は、乳酸菌等を含有しない米ぬか5(g)と、切削鉄粉5(g)が混合されて製造されたペレット状体Pf3が、実施例3の寒天からなる被覆部Hc1で被覆され、かつこの被覆部Hc1が実施例4における被膜層Hdで被膜されたものである。すなわち、試料F−3は、植物由来の乳酸菌等及び動物由来の乳酸菌を含有しないので、二価鉄イオンは生成されるものの、植物由来の乳酸菌等が生成する乳酸等や、動物由来の乳酸菌が生成する乳酸を配位子とする二価鉄イオン錯体は、生成されない。
【0054】
完成した試料F−1,F−2は、その全体が覆われるように、アルカリ性溶液へ浸漬される。このアルカリ性溶液は、土壌中に石灰分が過剰に存在した状態を想定したものである。具体的には、アルカリ性溶液は、水100(g)に水酸化カルシウム0.15(g)を溶解させ、pH(水素イオン指数)が8〜8.5となるように調整されたものである。
このうち、試料F−1においては、試料F−1がアルカリ性溶液へ浸漬されたことによって、ペレット状体Pf1と被覆部Hc3において生成された二価鉄イオン錯体が、被覆部Hc1を透過してアルカリ性溶液の中へ拡散される。しかし、この拡散された二価鉄イオン錯体は、その配位子である有機酸がアルカリ性溶液によって中和され、二価鉄イオンに戻ってしまう可能性がある。この場合、アルカリ性溶液中の二価鉄イオン濃度(mg/L)が検出限界以下になるものと予測される。試料F−2においてもこれと同様である。そこで、アルカリ性溶液中の二価鉄イオン濃度(mg/L)を時間を追って計測することで、試料F−1,F−2がアルカリ性溶液中において二価鉄イオン錯体を持続的に拡散可能であるか否かを調べることにする。
【0055】
実験Fにおいては、試料F−1,F−2を、アルカリ性溶液に浸漬させた日から1日後乃至5日後において、上述のパックテスト試験によって二価鉄イオン濃度(mg/L)をそれぞれ計測した。比較例の試料F−3についても、その全体が覆われるようにこれをアルカリ性溶液へ浸漬し、同様に二価鉄イオン濃度(mg/L)を時間を追って計測した。
図8(a)に示すように、試料F−1から拡散した二価鉄イオン錯体の二価鉄イオン濃度(mg/L)は、試料F−1をアルカリ性溶液に浸漬させた日から1日後、4日後、5日後において、それぞれ1.92、3.30、2.10となった。また、試料F−1は、その形状が崩壊することなくペレット状に維持されて、アルカリ性溶液の状態も「濁りなし」の結果となった。
図8(b)に示すように、試料F−2においても、二価鉄イオン濃度(mg/L)は、試料F−2をアルカリ性溶液に浸漬させた日から1日後、4日後、5日後において、それぞれ1.01、1.80、1.00となり、試料F−2の形状もペレット状に維持されて、アルカリ性溶液の状態も「濁りなし」の結果となった。
これに対し、試料F−3は、アルカリ性溶液に浸漬させた日から1日後に、その形状が崩壊しないにも関わらず、二価鉄イオン濃度(mg/L)は検出限界以下になった。
【0056】
また、pHの変化に注目すると、試料F−1のpHは、試料F−1をアルカリ性溶液に浸漬させた日から1日後、4日後、5日後において、それぞれ8.5、6.5、6.7となり、弱アルカリ性から中性へと変化した。また、試料F−2のpHは、試料F−2をアルカリ性溶液に浸漬させた日から1日後、4日後、5日後において、それぞれ8.5、7.0、7.0となり、弱アルカリ性から中性へと変化した。
これに対し、試料F−3は、アルカリ性溶液に浸漬させた日から1日後におけるpHは8.5であり、調整当初から変化せず弱アルカリ性が維持されていた。
上記のように、試料F−1,F−2では、二価鉄イオン濃度(mg/L)が増加すると同時に、pHも低下している。この結果は、乳酸菌等の活発な活動によって生成された乳酸等によって二価鉄イオン錯体の生成が進行する一方で、生成された二価鉄イオン錯体を構成する乳酸等の配位子とアルカリ性溶液の中和反応が進行しているという事実を示すものである。
特に、pHの低下は、陸上用二価鉄イオン供給体が有機物、鉄材及び乳酸菌等を含有する構成によって生じる結果である。このpHの低下という結果から、陸上用二価鉄イオン供給体が石灰分が過剰に含む土壌に散布された場合に、アルカリ性環境が中性環境へ変化するという従来技術が発揮する効果とは異質で優れた効果が発揮されることが期待できる。同時に、この効果は、本発明の陸上用二価鉄イオン供給体が、乳酸菌等を含有するという特異な構成の肥料であることを証明するものである。
これに対し、試料F−3では、二価鉄イオン錯体が生成されないため、当然のことながら上記の中和反応は起こっていない。
【0057】
実験Fの結果から、試料F−1,F−2では、それぞれの形状が維持され、アルカリ性溶液中においても二価鉄イオン錯体を持続的に拡散可能であることがわかる。これは、試料F−1,F−2では、ペレット状体Pf1,Pf2にそれぞれ含有される乳酸菌等と、被覆部Hc3に含有される乳酸菌は、pH8〜8.5のアルカリ環境下でも活動可能であるために、有機物を持続的に分解可能であることに起因すると考えられる。すなわち、二価鉄イオン錯体の配位子である有機酸が中和されて二価鉄イオンがFe
2O
3に変化し、二価鉄イオン濃度(mg/L)が減少したとしても、ペレット状体Pf1,Pf2及び被覆部Hc3において次々に二価鉄イオン錯体が生成されることにより、減少した二価鉄イオン濃度(mg/L)を補うことができるからと考えられる。
このことは、二価鉄イオン錯体が生成されない試料F−3において、二価鉄イオン濃度(mg/L)が検出限界以下になったことによって、強力に裏付けられている。
以上より、本発明の陸上用二価鉄イオン供給体によれば、土壌中のカルシウム過剰によるアルカリ環境下においても、長期に持続して植物へ二価鉄イオンを供給することができる。これ以外の、ペレット状体Pf1,Pf2を被覆層Hc3で被覆し、かつ、被覆層Hc3を被膜層Hdで被膜した場合の作用及び効果は、実施例1に係る本体2と同様であると推測される。
【0058】
なお、本発明の陸上用二価鉄イオン供給体は、実施例1乃至実施例5に示すものに限定されない。例えば、塩は、塩化ナトリウムのほか、塩化カリウムが使用されても良い。また、寒天の代わりに、マンナンやデンプンが使用されても良い。
また、半透膜材料からなる被膜層Hdは、実施例4におけるペレット状体の表面に設けられる代わりに、ペレット状体を実施例3の被覆部が被覆した場合の、被覆部の表面に設けられてもよい。
さらに、被覆部の菌抑制材と保持担体の組み合わせは、乳酸菌とヨーグルト等の代わりに、乳酸菌と落葉、残飯、飛粉、魚肉または畜肉や、塩と寒天や吸水性ポリマーが使用されても良い。この吸水性ポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウムが考えられる。
加えて、被膜層Hdとして、カルボキシメチルセルロースが用いられても良い。この他、鉄材として、スケールスラッジ、薄板鋼鈑のテープ状端材等が微細な大きさに粉砕されたものが使用されても良い。また、本体2を実施例3の被覆部で被覆し、かつ被膜部Hdが、本体2と被覆部の間又は被覆部の表面、あるいは本体2と被覆部の間及び被覆部の表面に備えられる等、本体2、被覆部、皮膜層Hdの配置の組み合わせは、実施例に示したもの以外の組み合わせであっても良い。
【解決手段】陸上用二価鉄イオン供給体1は、二価鉄イオンを供給する本体2を備え、本体2は、鉄材3と、本体2の形状を保持するための第1の形状保持材である寒天と、有機物と、塩である塩化ナトリウムと、この塩の存在下で有機物を分解して有機酸を生成する耐塩性細菌である乳酸菌等を混合させた混合体4が含有される。