(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2では温度変化に伴う歪や吸/放湿に伴う歪について制御することで改善検討がなされている一方で、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどのガラス転移温度の低いフィルムを用いる場合に考慮すべき、フィルムが元々持っている残留歪(熱収縮率)の影響を考慮したものではなかった。
【0006】
即ち、本発明が解決しようとする課題は、液晶表示装置内の偏光板/液晶セル/偏光板からなる積層体のカールを高度に制御可能な液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
液晶表示装置は、通常、液晶セルの一方の面に、偏光子の透過軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行となるよう偏光板が積層され、もう一方の面に、偏光子の吸収軸方向が液晶表示装置の長辺と平行となるよう偏光板が積層されている。市販の各種液晶表示装置を用いて鋭意検討を行った結果、収縮力の大きい偏光子吸収軸方向が長辺となる偏光板が収縮することでカールが発生しやすくなる形状因子の問題(カールは一般的に長辺方向に発生しやすい)や、液晶パネル内の上下の偏光板の非対称構成による影響により、液晶パネルは、クロスニコルに配置される上下偏光板の偏光子透過軸が長辺となる偏光板側に凸になることが問題の本質であることを本発明者らは見出した。
【0008】
更に、鋭意検討を行った結果、偏光子透過軸が長辺になる偏光板の長辺方向の収縮力は、保護フィルムの残留歪によって制御出来ることが明らかになり、この収縮力によって、液晶表示装置のカールを制御出来ることが分った。
【0009】
ここで、偏光板の収縮力の測定方法について記述する。一般的に、フィルムの収縮力はTMAなどを用いて、試験開始の低い温度状態で極小荷重で初期長を設定し、初期長の長さを保ったまま昇温中の収縮方向の力を計測する。しかしながら、昇温過程ではポリマーのコンフォメーション変化を伴う残留歪の回復による収縮(以下、単に熱収縮と記載する)と同時に、昇温によってポリマーの自由体積・占有体積が増加することによる熱膨張(以下、単に熱膨張と記載する)が発生する為、ポリエステルフィルムのガラス転移温度付近(例えば〜Tg+50℃程度)の温度域においては、しばしば熱収縮<熱膨張の関係となることからフィルム全体としては膨張し、収縮力は観測されない。
【0010】
検討の結果、TMA昇温過程で収縮力が発生しない場合であっても、TMA冷却過程で収縮力が発生することが明らかになった。これは、熱膨張による歪は可逆変化であるため昇温冷却後に元の状態に戻るが、昇温過程で収縮した熱収縮分だけ寸法が小さい状態で冷却されることから、冷却過程で熱応力が発生するためである。つまり、熱応力の歪をフィルムの熱収縮率に置き換えることができ、冷却後の収縮力は下記式で表現される。尚、本発明における熱収縮率とは、熱処理中の水分率変化を含んだものである。
収縮力(N/m)
=フィルム厚み(mm)×弾性率(N/mm
2)×熱収縮率(%)÷100×1000
【0011】
つまり、代表的な本発明は、以下の通りである。
項1.
液晶セル、液晶セルの一方の面に貼り合わされた偏光板A、液晶セルのもう一方の面に貼り合わされた偏光板Bを有する液晶表示装置において、
前記偏光板Aは、偏光子の透過軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行であり、偏光子の少なくとも片面にポリエステルフィルムが積層された構造であり、
前記偏光板Bは、偏光子の吸収軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行であり、偏光子の少なくとも片面に保護フィルムが積層された構造であり、
前記ポリエステルフィルムの液晶表示装置の長辺方向の収縮力F
fと、偏光板Bが有する偏光子の液晶表示装置の長辺方向の収縮力F
pが下記式(1)を満たすことを特徴とする液晶表示装置。
式(1) 0.1≦F
f/F
p≦2
(ただし、収縮力F
f(N/m)は、ポリエステルフィルムの厚み(mm)×弾性率(N/mm
2)×熱収縮率(%)÷100×1000であり、収縮力F
p(N/m)は、偏光板Bの偏光子の厚み(mm)×弾性率(N/mm
2)×熱収縮率(%)÷100×1000である。)
項2.
前記ポリエステルフィルムの液晶表示装置の長辺方向の弾性率が1000〜9000N/mm
2であることを特徴とする項1に記載の液晶表示装置。
項3.
前記ポリエステルフィルムの液晶表示装置の長辺方向の熱収縮率が0.1〜5%であることを特徴とする項1または2に記載の液晶表示装置。
項4.
前記ポリエステルフィルムの厚みが40〜200μmであることを特徴とする項1〜3のいずれかに記載の液晶表示装置。
項5.
液晶表示装置の長辺方向又は短辺方向に対する前記ポリエステルフィルムの配向主軸の傾きが15度以下であることを特徴とする項1〜4のいずれかに記載の液晶表示装置。
項6.
液晶表示装置の長辺方向又は短辺方向に対する前記ポリエステルフィルムの収縮主軸の傾きが15度以下であることを特徴とする項1〜5のいずれかに記載の液晶表示装置。
項7.
液晶セル、液晶セルの一方の面に貼り合わされた偏光板A、液晶セルのもう一方の面に貼り合わされた偏光板Bを有する液晶パネルにおいて、
前記偏光板Aは、偏光子の透過軸方向が偏光板Aの長辺方向と平行であり、偏光子の少なくとも片面にポリエステルフィルムが積層された構造であり、
前記偏光板Bは、偏光子の吸収軸方向が偏光板Bの長辺方向と平行であり、偏光子の少なくとも片面に保護フィルムが積層された構造であり、
前記ポリエステルフィルムの偏光板Aの長辺方向の収縮力F
fと、偏光板Bが有する偏光子の偏光板Bの長辺方向の収縮力F
pが下記式(1)を満たす液晶パネル。
式(1) 0.1≦F
f/F
p≦2
(ただし、収縮力F
f(N/m)は、ポリエステルフィルムの厚み(mm)×弾性率(N/mm
2)×熱収縮率(%)÷100×1000であり、収縮力F
p(N/m)は、偏光板Bの偏光子の厚み(mm)×弾性率(N/mm
2)×熱収縮率(%)÷100×1000である。)
項8.
前記ポリエステルフィルムの偏光板Aの長辺方向の弾性率が1000〜9000N/mm
2であることを特徴とする項7に記載の液晶パネル。
項9.
前記ポリエステルフィルムの偏光板Aの長辺方向の熱収縮率が0.1〜5%であることを特徴とする項7または8に記載の液晶パネル。
項10.
前記ポリエステルフィルムの厚みが40〜200μmであることを特徴とする項7〜9のいずれかに記載の液晶パネル。
項11.
液晶パネルの長辺方向又は短辺方向に対する前記ポリエステルフィルムの配向主軸の傾きが15度以下であることを特徴とする項7〜10のいずれかに記載の液晶パネル。
項12.
液晶パネルの長辺方向又は短辺方向に対する前記ポリエステルフィルムの収縮主軸の傾きが15度以下であることを特徴とする項1〜5のいずれかに記載の液晶パネル。
【発明の効果】
【0012】
高温又は高温高湿環境下で発生する偏光板/液晶セル/偏光板からなる積層体(液晶パネル)のカールを軽減した液晶表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
液晶表示装置の画面は通常、長方形であり、長辺と短辺を有する。本明細書において、「液晶表示装置の長辺方向」とは、液晶表示装置の長辺と平行な方向であり、「偏光板Aの長辺方向」、「偏光板Bの長辺方向」、「偏光板Bが有する偏光子の長辺方向」、「偏光板Aのポリエステルフィルムの長辺方向」と同一である。よって、本明細書において、「液晶表示装置の長辺方向」とは、「偏光板Aの長辺方向」、「偏光板Bの長辺方向」、「偏光板Bが有する偏光子の長辺方向」、「偏光板Aが有するポリエステルフィルムの長辺方向」と読み替えることができる。「液晶表示装置の短辺方向」とは、液晶表示装置の短辺と平行な方向であり、長辺方向と垂直な方向を意味する。
【0014】
本発明の液晶表示装置は、液晶セル、液晶セルの一方の面に貼り合わされた偏光板A、液晶セルのもう一方の面に貼り合わされた偏光板Bを少なくとも有する。液晶セルと偏光板とは、通常、粘着層を介して貼りあわせることができる。液晶表示装置には、液晶セル、偏光板A、偏光板Bの他に、バックライト等、通常、液晶表示装置に使用される構成部材を含むことができる。液晶セルは、液晶を2枚のガラス基板で挟んだ構造を有する。一実施形態において、液晶セルを構成するガラス基板の厚みは、0.7mm以下、0.6mm以下、0.5mm以下、0.4mm以下、0.3mm以下、又は0.25mm以下であることが好ましい。
【0015】
偏光板Aは、偏光子の透過軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行(即ち、偏光子の透過軸方向が偏光板Aの長辺方向と平行であることと同義)であり、偏光子の少なくとも片面にポリエステルフィルム(偏光子保護フィルムとして使用される)が積層された構造を有する。偏光子のポリエステルフィルムを積層した面とは反対側の面には、TACフィルム、環状オレフィンフィルム、アクリルフィルム等のリタデーションの低い保護フィルムや光学補償フィルムを積層することができる。ここで、リタデーションの低い保護フィルムとは、例えば、リタデーションが500nm以下、400nm以下、300nm以下、200nm以下、100nm以下、又は50nm以下の保護フィルムであり得る。また、偏光板Aは、偏光子の片面のみポリエステルフィルムが積層され、偏光子のもう一方の面には保護フィルムや光学補償フィルムが積層されない構造も好ましい形態の一つである。ポリエステルフィルムは、偏光子の液晶セル側、液晶セルとは遠位側(外側)のいずれか(又は両側)に配置することができるが、偏光子の液晶セルとは遠位側(外側)に配置することが好ましい。
【0016】
偏光子の透過軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行とは、完全に平行であることが最も望ましいが、若干のズレを許容する概念である。すなわち、偏光子の透過軸方向と、液晶表示装置の長辺方向とのなす角度は、7度以下が好ましく、5度以下が好ましく、3度以下が好ましく、2度以下が好ましく、1度以下が好ましく、最も好ましくは0度である。
【0017】
偏光板Bは、偏光子の吸収軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行(即ち、偏光子の吸収軸が偏光板Bの長辺方向と平行であることと同義)であり、偏光子の少なくとも片面に保護フィルムが積層された構造である。保護フィルムには、TACフィルム、環状オレフィンフィルム、アクリルフィルム等のリタデーションの低い保護フィルムや光学補償フィルムを積層することができる。ここで、リタデーションの低い保護フィルムとは、例えば、リタデーションが500nm以下、400nm以下、300nm以下、200nm以下、100nm以下、又は50nm以下の保護フィルムであり得る。また、保護フィルムとして、ポリエステルフィルムを偏光子に積層することもできる。ポリエステルフィルムを用いる場合は、偏光子の液晶セルとは遠位側に積層することが好ましい。
【0018】
偏光板Bは、偏光子の片面にポリエステルフィルムが積層され、もう一方の面に上述の保護フィルムや光学補償フィルムが積層された構造であってもよい。また、偏光版Bは、偏光子の片面のみポリエステルフィルムが積層され、偏光子のもう一方の面には保護フィルムや光学補償フィルムが積層されない構造も好ましい形態の一つである。
【0019】
偏光子の吸収軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行とは、完全に平行であることが最も望ましいが、若干のズレを許容する。すなわち、偏光子の吸収軸方向と、液晶表示装置の長辺方向とのなす角度は、7度以下が好ましく、5度以下が好ましく、3度以下が好ましく、2度以下が好ましく、1度以下が好ましく、最も好ましくは0度である。
【0020】
偏光板Aは、液晶セルより視認側の偏光板、バックライト側の偏光板のいずれに用いてもよいが、一般にはバックライト側の偏光板として配置することが好ましい。偏光板Bは、液晶セルよりも視認側の偏光板、バックライト側の偏光板のいずれに用いてもよいが、一般には視認側の偏光板として配置することが好ましい。すなわち、バックライト光源、偏光板A、液晶セル、偏光板Bをこの順に有する液晶表示装置が好ましい。なお、液晶表示装置は、これらの間に他の部材を含んでもよい。
【0021】
本発明の液晶表示装置では、0.1≦F
f/F
p≦2であることが望ましい。F
f/F
pの下限値は、0.2、又は0.3であることが好ましい。F
f/F
pの上限値は、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1.0、0.9、0.8又は0.7であることが好ましい。一実施形態において、0.1≦F
f/F
p≦1.0、0.1≦F
f/F
p<1.0、0.1≦F
f/F
p≦0.9、0.1≦F
f/F
p≦0.8、0.2≦F
f/F
p≦0.8、又は0.3≦F
f/F
p≦0.7であることが好ましい。
【0022】
ここで、F
fは偏光板Aのポリエステルフィルムの液晶表示装置の長辺方向の収縮力を指し、ポリエステルフィルム厚み(mm)×弾性率(N/mm
2)×熱収縮率(%)÷100×1000で定義される。F
pは偏光板Bの偏光子の液晶表示装置の長辺方向の収縮力を指し、偏光板Bの偏光子の厚み(mm)×弾性率(N/mm
2)×熱収縮率(%)÷100×1000で定義される。収縮力F
f及びF
pの式において、弾性率、及び熱収縮率は、いずれも液晶表示装置の長辺方向の値である。偏光板Bの収縮力は主に偏光子によって発現しており、偏光子の厚みや製膜条件によって収縮力は変化する。よって、それに応じて偏光板Aに使用するポリエステルフィルムの収縮力を調節することが望ましい。
【0023】
偏光板Aに使用するポリエステルフィルムは、液晶表示装置の長辺方向の弾性率が1000〜9000N/mm
2であることが好ましい。ポリエステルフィルムの収縮力は弾性率で制御可能ではあるが、液晶表示装置の長辺方向の弾性率を高めるためには、液晶表示装置の長辺方向に高度に配向させ、且つ、結晶化度を高くする必要がある。そのため、長辺方向の弾性率が9000N/mm
2を超える場合には、裂けやすくなるなどの問題が顕在化するため、上限は9000N/mm
2が好ましく、より好ましくは8000N/mm
2であり、更に好ましくは7000N/mm
2である。一方で、配向が低く、且つ、結晶化度が低い場合には、ロールに巻き取った際に厚み斑に起因するロール凹凸によってフィルムが変形し、平面性不良となって残る。よって、弾性率の下限は1000N/mm
2が好ましく、より好ましくは1500N/mm
2であり、更に好ましくは1800N/mm
2である。弾性率は、後述する実施例で採用した方法で測定できる。
【0024】
偏光板Aに使用するポリエステルフィルムは、100℃、30分熱処理時の液晶表示装置の長辺方向の熱収縮率が0.1〜5%であることが好ましい。熱収縮率の下限は、0.3%以上が好ましく、0.4%以上が好ましく、0.5%以上が好ましく、0.7%以上が好ましい。熱収縮率の上限は、4%以下が好ましく、3%以下が好ましく、2%以下が好ましい。熱収縮率が0.1%よりも低い場合、つまり0.01〜0.099%の範囲においては、熱収縮率をバラツキなく制御することが困難である。また、熱収縮率が5%よりも高めるには、後述するように結晶化度やガラス転移温度をより一層低下させる必要が有り、それによって平面性不良などの不具合が顕著になる。熱収縮率は、後述する実施例で採用した方法で測定できる。
【0025】
偏光板Aに使用するポリエステルフィルムは、厚みが40〜200μmであることが好ましい。ポリエステルフィルムの厚みが40μm未満である場合、割れ易く、また、剛性不足により平面性不良になりやすい。また、薄い場合にはそれに応じて長辺方向の弾性率または熱収縮率を高める必要があるが、前述のように夫々のパラメータにも上限があるため、実質的に40μmが下限である。また、フィルム厚みが200μmを超える場合には、それに応じて長辺方向の弾性率または熱収縮率のバラツキが大きくなり、その制御が困難であるばかりか、コストが上昇する。ポリエステルフィルムの厚みは、後述する実施例で採用した方法で測定できる。
【0026】
偏光板Aに使用するポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの配向主軸と液晶表示装置の長辺方向または短辺方向との傾きが15度以下であるであることが望ましい。延伸ポリエステルフィルムは通常、フィルム面内に弾性率の異方性があるが、延伸ポリエステルフィルムの弾性率の異方性と光学的異方性は一般的に一致する。そのため、光学的異方性から判断する配向主軸について、液晶表示装置の長辺方向または短辺方向との狭角を15度以下にすることにより、弾性率が高い方向が液晶表示装置の長辺方向または短辺方向に近づく為、本発明の目的である偏光板/液晶セル/偏光板からなる積層体のカールを抑制することに効果的である。配向主軸が液晶表示装置の長辺方向または短辺方向との狭角が15度を越える場合、斜め方向にカールが発生する傾向が顕著になる。当該傾きは、より好ましくは10度以下、9度以下、又は8度以下である。ポリエステルフィルムの配向主軸は、後述する実施例で採用した測定方法に従って測定できる。
【0027】
偏光板Aに使用するポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの収縮主軸について、液晶表示装置の長辺方向または短辺方向との狭角が15度以下であることが望ましい。延伸ポリエステルフィルムは通常、フィルム面内に熱収縮率の異方性があり、また、収縮主軸に傾きが存在する。収縮主軸と長辺方向または短辺方向との狭角が15度よりも大きい場合、斜め方向にカールが発生する傾向が顕著になり好ましくない。そのため、偏光板Aに使用するポリエステルフィルムの収縮主軸と液晶表示装置の長辺方向または短辺方向との狭角は15度以下が好ましく、10度以下、9度以下、又は8度以下がより好ましい。収縮主軸は、後述する実施例で採用した測定方法に従って測定することができる。
【0028】
偏光板Aに使用するポリエステルフィルムは、液晶表示装置の画面上に観察される虹斑を抑制する観点から、面内リタデーションが特定範囲にあることが好ましい。面内リタデーションの下限は、3000nm以上、5000nm以上、6000nm以上、7000nm以上、又は8000nm以上であることが好ましい。面内リタデーションの上限は、30000nm以下が好ましく、より好ましくは18000nm以下、さらに好ましくは15000nm以下である。なお、偏光板Bにも保護フィルムとしてポリエステルフィルムを用いる場合には、そのポリエステルフィルムも上記範囲の面内リタデーションを有することが好ましい。
【0029】
ポリエステルフィルムのリタデーションは、2軸方向の屈折率と厚みを測定して求めることもできるし、KOBRA−21ADH(王子計測機器株式会社)といった市販の自動複屈折測定装置を用いて求めることもできる。なお、屈折率は、アッベの屈折率計(測定波長589nm)によって求めることができる。
【0030】
偏光板Aに使用するポリエステルフィルムは、面内リタデーション(Re)と厚さ方向のリタデーション(Rth)との比(Re/Rth)が、好ましくは0.2以上、好ましくは0.3以上、好ましくは0.4以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.6以上である。上記面内リタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)が大きいほど、複屈折の作用は等方性を増し、観察角度による虹状の色斑の発生が生じ難くなる傾向にある。完全な1軸性(1軸対称)フィルムでは上記リタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)は2.0となることから、上記リタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)の上限は2.0が好ましい。好ましいRe/Rthの上限は、1.2以下である。なお、厚さ方向位相差は、フィルムを厚さ方向断面から見たときの2つの複屈折△Nxz、△Nyzにそれぞれフィルム厚さdを掛けて得られる位相差の平均を意味する。なお、偏光板Bにも保護フィルムとしてポリエステルフィルムを用いる場合には、そのポリエステルフィルムも面内リタデーション(Re)と厚さ方向のリタデーション(Rth)との比(Re/Rth)が上記範囲であることが好ましい。
【0031】
偏光板Aに使用するポリエステルフィルムは、より虹状の色斑を抑制する観点から、ポリエステルフィルムのNZ係数は2.5以下であることが好ましく、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.8以下、よりさらに好ましくは1.6以下である。そして、完全な一軸性(一軸対称)フィルムではNZ係数は1.0となるため、NZ係数の下限は1.0である。しかし、完全な一軸性(一軸対称)フィルムに近づくにつれ配向方向と直行する方向の機械的強度が著しく低下する傾向があるため留意する必用がある。なお、偏光板Bにも保護フィルムとしてポリエステルフィルムを用いる場合にはそのポリエステルフィルムもNZ係数が上記範囲内であることが好ましい。
【0032】
NZ係数は、|Ny−Nz|/|Ny−Nx|で表され、ここでNyはポリエステルフィルムの遅相軸方向の屈折率、Nxは遅相軸と直交する方向の屈折率(進相軸方向の屈折率)、Nzは厚み方向の屈折率を表す。分子配向計(王子計測器株式会社製、MOA−6004型分子配向計)を用いてフィルムの配向軸を求め、配向軸方向とこれに直交する方向の二軸の屈折率(Ny、Nx、但しNy>Nx)、及び厚み方向の屈折率(Nz)をアッベの屈折率計(アタゴ社製、NAR−4T、測定波長589nm)によって求める。こうして求めた値を、|Ny−Nz|/|Ny−Nx|に代入してNZ係数を求めることができる。
【0033】
また、偏光板Aに使用するポリエステルフィルムは、より虹状の色斑を抑制する観点から、ポリエステルフィルムのNy−Nxの値は、0.05以上が好ましく、より好ましくは0.07以上、さらに好ましくは0.08以上、よりさらに好ましくは0.09以上、最も好ましくは0.1以上である。上限は特に定めないが、ポリエチレンテレフタレート系フィルムの場合には上限は1.5程度が好ましい。偏光板Bにも保護フィルムとしてポリエステルフィルムを用いる場合には、そのポリエステルフィルムもNy−Nxの値が上記範囲内であることが好ましい。
【0034】
偏光板Aに使用するポリエステルフィルムは、任意のポリエステル樹脂から得ることができる。ポリエステル樹脂の種類は、特に制限されず、ジカルボン酸とジオールとを縮合させて得られる任意のポリエステル樹脂を使用することができる。なお、偏光板Bにも保護フィルムとしてポリエステルフィルムを用いる場合には、そのポリエステルフィルムも同様である。
【0035】
ポリエステル樹脂の製造に使用可能なジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルスルホンカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、3,3−ジエチルコハク酸、グルタル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、ダイマー酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカジカルボン酸等が挙げられる。
【0036】
ポリエステル樹脂の製造に使用可能なジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、デカメチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられる。
【0037】
ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸成分とジオール成分は、いずれも1種又は2種以上を用いることができる。ポリエステルフィルムを構成する好適なポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどが挙げられ、より好ましくはポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートを挙げることができるが、これらは更に他の共重合成分を含んでも良い。これらの樹脂は透明性に優れるとともに、熱的、機械的特性にも優れている。特に、ポリエチレンテレフタレートは高弾性率を達成可能であり、また、熱収縮率の制御も比較的容易であることから好適な素材である。
【0038】
ポリエステルフィルムの熱収縮率を高度に高める必要がある場合には、共重合成分を添加して結晶化度を適度に低くすることが望ましい。また、ガラス転移温度付近以下の変形に対しては弾性歪や永久歪の割合が高いため、熱収縮率を高度に高くすることは一般的に困難である。そのため、必要に応じてガラス転移温度の低い成分を導入することも好ましい実施形態である。具体的には、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオールなどである。
【0039】
(機能層の付与)
本発明の液晶表示装置に用いられる偏光板Aは、ポリエステルフィルムの熱収縮率が残っている状態で液晶セルのガラス板と一体化されることが望ましいため、易接着層、ハードコート層、防眩層、反射防止層、低反射層、低反射防止層、及び反射防止防眩層、帯電防止層、などの機能層を付与する場合には、乾燥温度を低く設定することや、UV照射や電子線照射などの熱履歴の小さい方法で行うことが望ましい実施形態である。また、これらの機能層をポリエステルフィルムの製膜工程中で付与することは、高めた熱収縮率を損なわずに偏光板Aを液晶セルのガラス板と一体化することが可能になるため、より望ましい実施形態である。
【0040】
(配向ポリエステルフィルムの製造方法)
本発明で使用するポリエステルフィルムは、一般的なポリエステルフィルムの製造方法に従って製造することができる。例えば、ポリエステル樹脂を溶融し、シート状に押出し成形された無配向ポリエステルをガラス転移温度以上の温度において、ロールの速度差を利用して縦方向に延伸した後、テンターにより横方向に延伸し、熱処理を施す方法が挙げられる。一軸延伸フィルムでも、二軸延伸フィルムであっても良い。なお、MDとはMachine Directionの略であり、本明細書中では、フィルム流れ方向、長手方向、縦方向と呼ぶことがある。また、TDとはTransverse Directionの略であり、本明細書中では、幅方向、横方向と呼ぶことがある。
【0041】
偏光板Aに偏光子保護フィルムとして使用するポリエステルフィルムは、0.1F
p≦F
f≦2F
pとなるように、収縮力F
fを調節することが好ましい。
【0042】
(ポリエステルフィルムの弾性率の調整方法)
偏光板Aに偏光子保護フィルムとして使用するポリエステルフィルムの弾性率は、偏光子透過軸方向(即ち、液晶表示装置の長辺方向)がポリエステルフィルムの製膜時のMDと一致する場合にはMDの弾性率を、ポリエステルフィルムの製膜時のTDと一致する場合にはTDの弾性率を、延伸ポリエステルフィルムの従来公知の方法で調整すればよい。
具体的には、該方向が延伸方向の場合には、延伸倍率を高く、該方向が延伸方向と直交方向の場合には延伸倍率を低く設定すればよい。
【0043】
(ポリエステルフィルムの熱収縮率の調整方法)
偏光板Aに偏光子保護フィルムとして使用するポリエステルフィルムの熱収縮率は、偏光子の透過軸方向(即ち、液晶表示装置の長辺方向)がポリエステルフィルムの製膜時のMDと一致する場合にはMDの熱収縮率を、ポリエステルフィルムの製膜時のTDと一致する場合にはTDの熱収縮率を、延伸ポリエステルフィルムの従来公知の方法で調整すればよい。
【0044】
ポリエステルフィルムのMDの熱収縮率を調整する場合は、例えば、延伸・熱固定後の冷却過程においてフィルム幅方向端部を把持しているクリップと隣接するクリップの間隔を拡大することでMDに延伸する方法や、クリップ間隔を縮小することによりMDに収縮させることにより調整することが出来る。また、延伸・熱固定後の冷却過程で、フィルム幅方向端部を把持するクリップからフィルムを切断もしくは分離する場合には、フィルムを引き取る力を調整することにより、フィルムをMDに延伸もしくは収縮させることによって調整することが可能である。また製膜後のオフライン工程で、機能層などを付与する目的で昇温する場合には、昇温冷却過程で熱収縮率が変化するため、フィルムを引き取る力を調整してMDに延伸もしくは収縮させることで調整することも可能である。
【0045】
ポリエステルフィルムのTDの熱収縮率を調整する場合は、例えば、延伸・熱固定後の冷却過程においてフィルム幅方向端部を把持しているクリップと幅方向の反対側に位置するクリップの間隔を拡大することでTDに延伸する方法や、縮小することによりTDに収縮させることにより調整することが出来る。
また、MDもしくはTDの何れの場合においても、本発明の目的とする温度域で熱収縮率の調整を実施することが望ましい。
【0046】
(ポリエステルフィルムの収縮主軸の傾きの調整方法)
偏光板Aの偏光子保護フィルムとして使用するポリエステルフィルムの収縮主軸の傾きは、PCT/JP2014/073451(WO2015/037527)で公開されているように、ポリエステルフィルムのテンターによる延伸・熱処理後の冷却過程または、製膜後のオフライン工程で調整することが可能である。具体的には、冷却工程では熱固定除去しきれなかった延伸に伴う収縮と冷却に伴う熱応力が発生しており、フィルム流れ方向における両者のバランス次第で上流側への引き込みもしくは下流側への引き込みが発生し、収縮主軸が傾く現象が発生する。収縮主軸の傾きを低減するためには、冷却工程でのフィルム流れ方向の収縮力(延伸に伴う収縮力と冷却に伴う収縮力の合計)が均一になるように調整することが必要である。均一にするためには、フィルム流れ方向で収縮力が高い温度域でフィルム流れ方向に収縮させるか、または、フィルム流れ方向で収縮力が低い温度域でフィルム流れ方向に延伸することが望ましい。収縮または延伸させる方法は従来公知の方法を用いれば良い。また、フィルム端部を切断または分離する場合には、切断・分離した温度域以下では幅方向に自由に収縮し、該温度域以下の熱収縮率が小さくなることから注意が必要である。
【0047】
(ポリエステルフィルムの配向主軸の傾きの調整方法)
偏光板Aに偏光子保護フィルムとして使用するポリエステルフィルムの配向主軸の傾きの調整は、特願2014−11438(特開2015−136922)、又は特願2012−552162(WO2013/031511)で公開されているように、延伸ポリエステルフィルムで従来公知の方法を用いればよい。配向主軸の傾きの調整には、延伸・熱固定区間におけるフィルム流れ方向の収縮力を均一にすることが好ましい。テンターによる延伸・熱固定区間では、MD延伸による残留応力、TD延伸のポアソン応力によって、フィルム流れ方向に収縮力の分布が存在し、上流側もしくは下流側への引き込みが発生することから配向主軸に傾きが発生する(所謂ボーイング現象)。フィルム流れ方向における収縮力を均一にするためには、従来公知の方法を用いれば良い。具体的には、延伸ポリエステル系偏光子保護フィルムに求められる光学特性を満足させるのに必要な延伸条件を満足した上で、MD及びTDの延伸倍率のバランス、テンターディメンションを考慮した昇温条件、延伸・熱固定中における隣接するクリップ間距離の低減による収縮によって達成可能である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を参照して本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0049】
(1)収縮力
偏光子及びポリエステルフィルムの収縮力は、以下の式から計算した。尚、フィルム厚み、弾性率、熱収縮率は、以下に説明される測定値である。
収縮力(N/m)
=フィルム厚み(mm)×弾性率(N/mm
2)×熱収縮率(%)÷100×1000
【0050】
(2)フィルム厚み
偏光子及びポリエステルフィルムの厚み(mm)は、25℃50RH%の環境で168時間静置後に電気マイクロメータ(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定し、単位をmmに換算した。
【0051】
(3)弾性率
偏光子及びポリエステルフィルムの弾性率は、25℃50RH%の環境で168時間静置後にJIS−K7244(DMS)にしたがって、セイコーインスツルメンツ社製の動的粘弾性測定装置(DMS6100)を用いて評価を行った。引張モード、駆動周波数は1Hz、チャック間距離は5mm、昇温速度は2℃/minの条件で25℃〜120℃の温度依存性を測定し、30℃〜100℃の貯蔵弾性率の平均を弾性率とした。なお、液晶表示装置の長辺方向と平行な方向の弾性率を測定した。
【0052】
(4)熱収縮率 および収縮主軸の傾き
偏光子及びポリエステルフィルムの熱収縮率及び収縮主軸の傾きは25℃50RH%の環境で168時間静置後に直径80mmの円を描き、円の直径を画像寸法測定器(KEYENCE社製イメージメジャーIM6500)を用いて、1°毎に測定し、処理前の長さとした。次に、100℃に設定したギアオーブンを用いて30分間の熱処理を行い、その後、室温25℃に設定された環境で10分間冷却した後に処理前と同様の方法で1°毎に評価を行い、処理後の長さとした。
【0053】
本発明における熱収縮率とは、以下計算式で計算される熱収縮率の中で、液晶表示装置の長辺方向と平行な方向の値で定義される。
熱収縮率=(処理前の長さー処理後の長さ)/処理前の長さ ×100
収縮主軸の傾きは、1°毎に測定された熱収縮率が最大となる角度であり、長辺方向または短辺方向からの狭角で定義される。つまり収縮主軸の傾きは0〜45°の範囲となる。
【0054】
(5)配向主軸の傾き
ポリエステルフィルムの配向主軸の傾きは、分子配向計(王子計測器株式会社製、MOA−6004型分子配向計)を用いて配向主軸を測定し、長辺方向または短辺方向からの狭角で定義した。つまり、配向主軸の傾きは0〜45°の範囲となる。
【0055】
(6)カール高さ
後述する各実施例で作成した液晶パネルの作成において、「厚さ0.4mmのガラス基板を用いた50インチサイズのIPS型液晶セル」を、「短辺方向の長さ125mm、長辺方向の長さ220mm、厚み0.4mmのガラス板」に代えた以外は同様にして、評価用液晶パネルを作成した。次に、評価用液晶パネルを、100℃に設定したギアオーブンを用いて30分間の熱処理を行い、その後、室温25℃50%RHに設定された環境で10分間冷却した後に、凸側を下にして水平面に置き、4隅の高さをメジャーで計測し、最大値をカール高さとした。また、最大カール高さが5mm以下を良好な範囲とした。カールは曲率で表現されるべき現象であるが、簡便のため、高さで評価を行っている。また、カール現象は、サンプルの剛性に対してサンプルサイズが大きくなるとお椀型となり、フィルム内で曲率が一定にならない現象が生じることがあるが、本実施例の結果は全て曲率が一定であることを確認している。
【0056】
(7)ポリエステルフィルムの屈折率
分子配向計(王子計測器株式会社製、MOA−6004型分子配向計)を用いて、フィルムの遅相軸方向を求め、遅相軸方向が測定用サンプル長辺と平行になるように、4cm×2cmの長方形を切り出し、測定用サンプルとした。このサンプルについて、直交する二軸の屈折率(遅相軸方向の屈折率:Ny、進相軸(遅相軸方向と直交する方向の屈折率):Nx)、及び厚さ方向の屈折率(Nz)をアッベ屈折率計(アタゴ社製、NAR−4T、測定波長589nm)によって求めた。これらの値を用いてNZ係数を求めた。
【0057】
(8)リタデーション(Re)
リタデーションとは、フィルム上の直交する二軸の屈折率の異方性(△Nxy=|Nx−Ny|)とフィルム厚みd(nm)との積(△Nxy×d)で定義されるパラメーターであり、光学的等方性、異方性を示す尺度である。二軸の屈折率の異方性(△Nxy)は、以下の方法により求めた。分子配向計(王子計測器株式会社製、MOA−6004型分子配向計)を用いて、フィルムの遅相軸方向を求め、遅相軸方向が測定用サンプル長辺と平行になるように、4cm×2cmの長方形を切り出し、測定用サンプルとした。このサンプルについて、直交する二軸の屈折率(遅相軸方向の屈折率:Ny,遅相軸方向と直交する方向の屈折率:Nx)、及び厚さ方向の屈折率(Nz)をアッベ屈折率計(アタゴ社製、NAR−4T、測定波長589nm)によって求め、前記二軸の屈折率差の絶対値(|Nx−Ny|)を屈折率の異方性(△Nxy)とした。フィルムの厚みd(nm)は電気マイクロメータ(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定し、単位をnmに換算した。屈折率の異方性(△Nxy)とフィルムの厚みd(nm)の積(△Nxy×d)より、リタデーション(Re)を求めた。
【0058】
(9)厚さ方向リタデーション(Rth)
厚さ方向リタデーションとは、フィルム厚さ方向断面から見たときの2つの複屈折△Nxz(=|Nx−Nz|)、△Nyz(=|Ny−Nz|)にそれぞれフィルム厚さdを掛けて得られるリタデーションの平均を示すパラメーターである。リタデーションの測定と同様の方法でNx、Ny、Nzとフィルム厚みd(nm)を求め、(△Nxz×d)と(△Nyz×d)との平均値を算出して厚さ方向リタデーション(Rth)を求めた。
【0059】
(製造例1−ポリエステルA)
エステル化反応缶を昇温し200℃に到達した時点で、テレフタル酸を86.4質量部及びエチレングリコール64.6質量部を仕込み、撹拌しながら触媒として三酸化アンチモンを0.017質量部、酢酸マグネシウム4水和物を0.064質量部、トリエチルアミン0.16質量部を仕込んだ。ついで、加圧昇温を行いゲージ圧0.34MPa、240℃の条件で加圧エステル化反応を行った後、エステル化反応缶を常圧に戻し、リン酸0.014質量部を添加した。さらに、15分かけて260℃に昇温し、リン酸トリメチル0.012質量部を添加した。次いで15分後に、高圧分散機で分散処理を行い、15分後、得られたエステル化反応生成物を重縮合反応缶に移送し、280℃で減圧下重縮合反応を行った。
【0060】
重縮合反応終了後、95%カット径が5μmのナスロン製フィルターで濾過処理を行い、ノズルからストランド状に押出し、予め濾過処理(孔径:1μm以下)を行った冷却水を用いて冷却、固化させ、ペレット状にカットした。得られたポリエチレンテレフタレート樹脂(A)の固有粘度は0.62dl/gであり、不活性粒子及び内部析出粒子は実質上含有していなかった。(以後、PET(A)と略す。)
【0061】
(製造例2−ポリエステルB)
乾燥させた紫外線吸収剤(2,2’−(1,4−フェニレン)ビス(4H−3,1−ベンズオキサジノン−4−オン)10質量部、粒子を含有しないPET(A)(固有粘度が0.62dl/g)90質量部を混合し、混練押出機を用い、紫外線吸収剤含有するポリエチレンテレフタレート樹脂(B)を得た。(以後、PET(B)と略す。)
【0062】
(製造例3−接着性改質塗布液の調整)
常法によりエステル交換反応及び重縮合反応を行って、ジカルボン酸成分として(ジカルボン酸成分全体に対して)テレフタル酸46モル%、イソフタル酸46モル%及び5−スルホナトイソフタル酸ナトリウム8モル%、グリコール成分として(グリコール成分全体に対して)エチレングリコール50モル%及びネオペンチルグリコール50モル%の組成の水分散性スルホン酸金属塩基含有共重合ポリエステル樹脂を調製した。次いで、水51.4質量部、イソプロピルアルコール38質量部、n−ブチルセルソルブ5質量部、ノニオン系界面活性剤0.06質量部を混合した後、加熱撹拌し、77℃に達したら、上記水分散性スルホン酸金属塩基含有共重合ポリエステル樹脂5質量部を加え、樹脂の固まりが無くなるまで撹拌し続けた後、樹脂水分散液を常温まで冷却して、固形分濃度5.0質量%の均一な水分散性共重合ポリエステル樹脂液を得た。さらに、凝集体シリカ粒子(富士シリシア(株)社製、サイリシア310)3質量部を水50質量部に分散させた後、上記水分散性共重合ポリエステル樹脂液99.46質量部にサイリシア310の水分散液0.54質量部を加えて、撹拌しながら水20質量部を加えて、接着性改質塗布液を得た。
【0063】
(実施例1)
基材フィルム中間層用原料として粒子を含有しないPET(A)樹脂ペレット90質量部と紫外線吸収剤を含有したPET(B)樹脂ペレット10質量部を135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機2(中間層II層用)に供給し、また、PET(A)を常法により乾燥して押出機1(外層I層及び外層III用)にそれぞれ供給し、285℃で溶解した。この2種のポリマーを、それぞれステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し、2種3層合流ブロックにて、積層し、口金よりシート状にして押し出した後、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作った。この時、I層、II層、III層の厚さの比は10:80:10となるように各押し出し機の吐出量を調整した。
【0064】
次いで、リバースロール法によりこの未延伸PETフィルムの両面に乾燥後の塗布量が0.08g/m
2になるように、上記接着性改質塗布液を塗布した後、80℃で20秒間乾燥した。
【0065】
この塗布層を形成した未延伸フィルムをテンター延伸機に導き、フィルムの端部をクリップで把持しながら、温度105℃の熱風ゾーンに導き、TDに4.0倍に延伸した。次に、温度180℃、30秒間で熱処理を行い、その後、100℃まで冷却したフィルムをMDに1%延伸し、その後、60℃まで冷却したフィルムの両端部を把持しているクリップを開放して350N/mの張力で引き取り、フィルム厚み約80μmの一軸配向PETフィルムからなるジャンボロールを採取し、得られたジャンボロール3等分して、3本のスリットロール(L(左側),C(中央),R(右側))を得た。Rに位置するスリットロールより偏光子保護フィルム1を得た(Rに位置するスリットロールの中央部を偏光子保護フィルム1として使用した)。
【0066】
PVAとヨウ素とホウ酸からなる偏光子(偏光子の吸収軸方向の収縮力が5100N/m)の片側に偏光子保護フィルム1を偏光子の透過軸とフィルムのMDが平行になるように貼り付けた。また、偏光子の反対の面にTACフィルム(富士フィルム(株)社製、厚み80μm)を貼り付けた。このようにして、長辺方向が偏光子の透過軸方向と一致する偏光板(偏光板A)と、長辺方向が偏光子の吸収軸方向と一致する偏光板(偏光板B)を作成した。厚さ0.4mmのガラス基板を用いた50インチサイズのIPS型液晶セルの視認側に偏光板Bを、光源側に偏光板Aを、それぞれ偏光子保護フィルム1が液晶セルとは遠位側(反対側)となるようにPSAを介して貼り合わせて液晶パネルを作成した。この液晶パネルを筐体に組み込んで液晶表示装置を作成した。
【0067】
(実施例2)
実施例1の偏光子保護フィルム1の製膜において、100℃まで冷却したフィルムを長手方向に2.5%延伸とした以外は偏光子保護フィルム1と同様にして偏光子保護フィルム2を得た。実施例1において、偏光子保護フィルム1を偏光子保護フィルム2に代えた以外は実施例1と同様にして液晶表示装置を作成した。
【0068】
(実施例3)
実施例1の偏光子保護フィルム1の製膜において、100℃まで冷却したフィルムを長手方向に4%延伸とした以外は偏光子保護フィルム1と同様にして偏光子保護フィルム3を得た。実施例1において、吸収軸方向の収縮力が5100N/mの偏光子から11200N/mの偏光子に代えたこと、偏光子保護フィルム1を偏光子保護フィルム3に代えたこと以外は実施例1と同様にして液晶表示装置を作成した。
【0069】
(実施例4)
I層、II層及びIII層の原料として、PET(A)90質量%とPBT10質量%のブレンド物を用いたこと、及び、100℃まで冷却したフィルムを長手方向に4%延伸としたこと以外は偏光子保護フィルム1と同様にして偏光子保護フィルム4を作成した。実施例1において、吸収軸方向の収縮力が5100N/mの偏光子から11200N/mの偏光子に代えたこと、偏光子保護フィルム1を偏光子保護フィルム4に代えたこと以外は実施例1と同様にして液晶表示装置を作成した。尚、PBTは三菱エンジニアリングプラスチック製NV5020(0.52dl/g)を使用した。
【0070】
(実施例5)
キャスティングロールの回転速度を調整することで延伸後のフィルム厚みを50μmとした以外は偏光子保護フィルム1と同様にして偏光子保護フィルム5を得た。実施例1において、偏光子保護フィルム1を偏光子保護フィルム5に代えたこと以外は実施例1と同様にして液晶表示装置を作成した。
【0071】
(実施例6)
100℃まで冷却したフィルムを長手方向に2.5%延伸とした以外は偏光子保護フィルム5と同様にして偏光子保護フィルム6を得た。実施例1において、偏光子保護フィルム1を偏光子保護フィルム6に代えたこと以外は実施例1と同様にして液晶表示装置を作成した。
【0072】
(実施例7)
100℃まで冷却したフィルムを長手方向に4%延伸とした以外は偏光子保護フィルム5と同様にして偏光子保護フィルム7を得た。
実施例1において、吸収軸方向の収縮力が5100N/mの偏光子から11200N/mの偏光子に代えたこと、偏光子保護フィルム1を偏光子保護フィルム7に代えたこと以外は実施例1と同様にして液晶表示装置を作成した。
【0073】
(実施例8)
キャスティングロールの回転速度を調整することで延伸後のフィルム厚みを160μmとした以外は偏光子保護フィルム1と同様にして偏光子保護フィルム8を得た。実施例1において、偏光子保護フィルム1を偏光子保護フィルム8に代えたこと以外は実施例1と同様にして液晶表示装置を作成した。
【0074】
(実施例9)
100℃まで冷却したフィルムを幅方向に2.5%延伸とした以外は偏光子保護フィルム8と同様にして偏光子保護フィルム9を得た。次に、吸収軸方向の収縮力が5100N/mの偏光子から11200N/mの偏光子に代えたこと、偏光子の透過軸と偏光子保護フィルムのTDが平行になるように貼り合わせて偏光板A及び偏光版Bを作成したこと、及び、偏光子保護フィルム1を偏光子保護フィルム9に代えたこと以外は、実施例1と同様にして液晶表示装置を得た。
【0075】
(実施例10)
MDに4.0倍、TDに1.0倍延伸した以外は偏光子保護フィルム1と同様にして偏光子保護フィルム10を得た。実施例1において、偏光子保護フィルム1を偏光子保護フィルム10に代えたこと以外は実施例1と同様にして液晶表示装置を作成した。
【0076】
(実施例11)
100℃まで冷却したフィルムをMDに1.5%延伸とした以外は偏光子保護フィルム10と同様にして偏光子保護フィルム11を得た。実施例1において、偏光子保護フィルム1を偏光子保護フィルム11に代えたこと以外は実施例1と同様にして液晶表示装置を
作成した。
【0077】
(実施例12)
100℃まで冷却したフィルムをMDに2.5%延伸とした以外は偏光子保護フィルム10と同様にして偏光子保護フィルム12を得た。
吸収軸方向の収縮力が5100N/mの偏光子から11200N/mの偏光子に代えたこと、及び、偏光子保護フィルム1を偏光子保護フィルム12に代えたこと以外は、実施例1と同様にして液晶表示装置を得た。
【0078】
(実施例13)
I層、II層及びIII層の原料として、PET(A)90質量%とPBT10質量%のブレンド物を用いたこと、及び、100℃まで冷却したフィルムをMDに3%延伸としたこと以外は偏光子保護フィルム10と同様にして偏光子保護フィルム13を得た。
吸収軸方向の収縮力が5100N/mの偏光子から11200N/mの偏光子に代えたこと、及び、偏光子保護フィルム1を偏光子保護フィルム13に代えたこと以外は、実施例1と同様にして液晶表示装置を得た。尚、PBTは三菱エンジニアリングプラスチック製NV5020(0.52dl/g)を使用した。
【0079】
(実施例14)
キャスティングロールの回転速度を調整することで延伸後のフィルム厚みを50μmとしたこと、100℃まで冷却したフィルムをMDに1.5%延伸とした以外は偏光子保護フィルム10と同様にして偏光子保護フィルム14を得た。偏光子保護フィルム1を偏光子保護フィルム14に代えたこと以外は、実施例1と同様にして液晶表示装置を得た。
【0080】
(実施例15)
100℃まで冷却したフィルムをMDに2%延伸としたこと以外は偏光子保護フィルム14と同様にして偏光子保護フィルム15を得た。偏光子保護フィルム1を偏光子保護フィルム15に代えたこと以外は、実施例1と同様にして液晶表示装置を得た。
【0081】
(実施例16)
100℃まで冷却したフィルムをTDに5%延伸とした以外は偏光子保護フィルム14と同様にして偏光子保護フィルム16を得た。次に、偏光子の透過軸と偏光子保護フィルムのTD方向が平行になるように貼り合わせて偏光板A及び偏光版Bを作成したこと、及び、偏光子保護フィルム1を偏光子保護フィルム16に代えたこと以外は、実施例1と同様にして液晶表示装置を得た。
【0082】
(実施例17)
100℃まで冷却したフィルムをMDに2%延伸とした以外は偏光子保護フィルム10と同様にして偏光子保護フィルム20を得た。実施例1において、偏光子保護フィルム1を偏光子保護フィルム20に代えたこと以外は実施例1と同様にして液晶表示装置を作成した。
【0083】
(実施例18)
100℃まで冷却したフィルムをMDに2.5%延伸とした以外は偏光子保護フィルム10と同様にして偏光子保護フィルム21を得た。実施例1において、偏光子保護フィルム1を偏光子保護フィルム21に代えたこと以外は実施例1と同様にして液晶表示装置を作成した。
【0084】
(比較例1)
延伸・熱固定後の冷却工程でフィルムの両端部を把持しているクリップを95℃で開放した以外は偏光子保護フィルム1と同様に偏光子保護フィルム17を得た。偏光子保護フィルム1を偏光子保護フィルム17に代えたこと、偏光子の透過軸と偏光子保護フィルムのTDが平行になるように貼り合わせて偏光板A及び偏光版Bを作成したこと以外は、実施例1と同様にして液晶表示装置を得た。
【0085】
(比較例2)
100℃まで冷却したフィルムを幅方向に0.8%延伸とした以外は偏光子保護フィルム14と同様にして偏光子保護フィルム18を得た。吸収軸方向の収縮力が5100N/mの偏光子から11200N/mの偏光子に代えたこと、及び、偏光子保護フィルム1を偏光子保護フィルム18に代えたこと、偏光子の透過軸と偏光子保護フィルムのTDが平行になるように貼り合わせて偏光板A及び偏光版Bを作成したこと以外は、実施例1と同様にして液晶表示装置を得た。
【0086】
(比較例3)
100℃まで冷却したフィルムを幅方向に0.3%延伸とした以外は偏光子保護フィルム8と同様にして偏光子保護フィルム19を得た。吸収軸方向の収縮力が5100N/mの偏光子から11200N/mの偏光子に代えたこと、及び、偏光子保護フィルム1を偏光子保護フィルム19に代えたこと、偏光子の透過軸と偏光子保護フィルムのTDが平行になるように貼り合わせて偏光板A及び偏光版Bを作成したこと以外は、実施例1と同様にして液晶表示装置を得た。
【0087】
実施例1〜18の液晶表示装置の液晶パネル、及び、比較例1〜3の液晶表示装置の液晶パネルを、100℃に設定したギアオーブンを用いて30分間の熱処理を行い、その後、室温25℃、50RH%に設定された環境で10分間冷却した後に、液晶パネルを観察したところ、実施例1〜16はカールは観察されなかったが、比較例1〜3のものはカールが観察された。
【0088】
各実施例の測定結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
液晶セル、液晶セルの一方の面に貼り合わされた偏光板A、液晶セルのもう一方の面に貼り合わされた偏光板Bを有する液晶表示装置において、前記偏光板Aは、偏光子の透過軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行であり、偏光子の少なくとも片面にポリエステルフィルムが積層された構造であり、前記偏光板Bは、偏光子の吸収軸方向が液晶表示装置の長辺方向と平行であり、偏光子の少なくとも片面に保護フィルムが積層された構造であり、前記ポリエステルフィルムの液晶表示装置の長辺方向の収縮力F