(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
粗トール油(CTO)を前処理するためのプロセスであって、CTO洗浄及び精製CTOと不純物を保有する水相とを含む第1の油相の分離を包含する、第1の前処理工程と、前記水相からの第2の油相の分離を包含する、第2工程と、を含むことを特徴とする、プロセス。
前記CTO内の金属イオンと結合させて水溶性金属錯体を形成させるため、前記第1の前処理工程において、少なくとも1つの添加物が添加される、請求項1又は2のいずれか一項に記載のプロセス。
前記CTO中に存在する170℃未満の沸点を有する揮発成分の分離をもたらして、揮発物を枯渇しているトール油流をもたらすプロセスシステムに、前記精製CTOが供給される、請求項1〜8のいずれか一項に記載のプロセス。
前記精製CTOが、精製CTOを減圧下で精製トールディーゼル(RTD)又はトール油脂肪酸(TOFA)の少なくとも1つの流れと、5体積%未満の脂肪酸を含む樹脂酸(RA)(1つ以上)の少なくとも1つの流れと、に分留することを含むプロセスで更に処理され、前記RTD又はTOFAは、2〜30体積%の樹脂酸と、20〜90体積%の脂肪酸とを含み、前記RTD又はTOFAの流れは、一連の工程において脱酸素化により炭化水素化合物を形成する、請求項1〜10のいずれか一項に記載のプロセス。
精製CTOが、トール油脂肪酸(TOFA)流と樹脂酸(RA)流(1つ以上)とを分離するための第1の分留工程に充填され、前記分離が、第2の分留工程と並行して又は連続して配置される1つ又はそれ以上の薄膜蒸留装置(TFE)において所望により実施され、大気圧下で170〜420℃の範囲の沸点を有する富RTD又はTOFA成分流が富RA流から分離され、かつ高減圧下で実施される第3の樹脂酸精製工程が更に続く、請求項11〜16のいずれか一項に記載のプロセス。
第3の分離工程においてRA(1つ以上)を更に加工することが、RA蒸留塔である精留塔で実施され、該精留塔では、170〜420℃の範囲の沸点を有する脂肪酸成分に富む1つの流れと、RA(1つ以上)に富む1つの流れとが得られる、請求項18又は19のいずれか一項に記載のプロセス。
不純物を除去するための粗トール油を前処理する工程から第1の精製CTO流が得られ、次に、該第1の精製CTO流は、揮発成分を除去するために蒸気ストリッパー又は薄膜蒸留装置で更に加工され、第2の精製及び実質的に揮発分を不含有であるCTO流を形成及び生成し、該第2の流れは、トール油ピッチ流れを分離及び除去するために薄膜蒸留装置で更に加工され、減圧下(0.1〜2.5kPa(1〜25mbar))で操作される精留塔に充填される第3の精製CTO流を形成及び生成する、請求項1〜21のいずれか一項に記載のプロセス。
前記精製CTOが、減圧下で前記精製CTOを精製トールディーゼル(RTD)の少なくとも1つの流れに分留することを含むプロセスで更に処理され、低密度を有する精製トールディーゼル(RTD)組成物を生産するために粗硫酸テルペンチン(1つ以上)(CST)が前記精製トールディーゼル(RTD)組成物に添加される、請求項11〜22のいずれか一項に記載のプロセス。
前記CSTが、粗トール油(CTO)又は精製CTO中の、120〜250℃の範囲の沸点を有する揮発成分の分離の間の、加工工程の早期に生産される、請求項23に記載のプロセス。
前記プロセスが、精製CTOを生産するためのCTO洗浄、及び不純物の分離、続いて揮発物の枯渇したトール油流を生産するための、前記精製CTO中の、120〜200℃の範囲の沸点を有する揮発成分の分離、続いて前記揮発物を枯渇しているトール油流を薄膜蒸留装置において更に加工することによる、更に精製されたトール油流の生成、並びに前記精製トール油流からのトール油ピッチ(TOP)の除去、を含む第1の前処理工程も包含する、請求項23〜26のいずれか一項に記載のプロセス。
前記更に精製されたトール油流が、減圧下で操作される精留塔に供給され、170〜410℃の範囲の沸点を有する成分に富む精製トールディーゼル(RTD)流の1つの流れと、樹脂酸(RA)に富む別の1つの流れとが得られ、前記RTDが前記精留塔から排出された後に、前記RTDに前記CSTが添加される、請求項27に記載のプロセス。
前記富RA流が、更なる1つの薄膜蒸留装置において更に加工され、更に精製された富RA流が生成され、TOPが除去され、その後、富脂肪酸材料の1つの流れ及び脂肪酸含有量4体積%未満の高純度のRAの1つの流れを分離する目的で、高真空(0.01〜0.1kPa(0.1〜1.0mbar))下で操作するRA蒸留塔である精留塔に前記精製富RA流を供給する、請求項28又は29のいずれか一項に記載のプロセス。
【背景技術】
【0002】
用語「粗トール油(以降、CTOとする)」は、クラフトパルプ化法において木材のパルプ化中に得られる副生成物流を指す。名称「トール油(TO)」は、言語的にスウェーデンの「tallolja」(「パインオイル」)を起源とする。TOは、酸性(−COOH官能基)を有する留分を、通常約75〜80重量%と、最大で25重量%の中性留分とを含む。後者の留分は、多くの場合不けん化留分と呼ばれる。不けん化留分は、例えば、炭化水素、脂肪族アルコール、フィトステロール型アルコール、アルデヒドなどの広範な成分に加え、酸性及び中性留分の成分間の反応に由来する高分子量成分を含む。他方、酸性成分から構成される留分は、更に2つの大きな留分、すなわち、(i)脂肪酸留分及び(ii)樹脂酸留分に分類でき、これらのそれぞれが数多くの個々の成分を含有する。
【0003】
トール油組成物についてのこのような記載から、CTOが再生可能なファインケミカルの魅力的なプールとなることは明らかである。現在、厳しい環境規制及び化石燃料の高騰の観点から、再生可能なファインケミカルには高い関心が寄せられている。
【0004】
現在、CTO分留は、典型的には減圧蒸留によりなされている。CTOを2つの留分、すなわち(i)75重量%までの酸性留分と、重要性に劣る(ii)トール油ピッチ(TOP)と呼ばれる留分とに分画するに当たっての課題は容易なものではない。酸性留分は、高温かつ比較的高減圧下で操作を行う一連の精留塔で更に加工され、脂肪酸及び樹脂酸を富化された流れが得られる。TOPは、典型的には内部燃料(internal fuel)としてパルプ工場に戻され、又は熱電プラントにおいてバイオ燃料として使用される。CTO精製プロセスにおいて生成されるTOP留分を最低限に抑えることは重要であり、本発明は、自動車用途に有用な化学物質及びバイオ燃料が高収率であるCTO精製プロセスを目的とする。
【0005】
CTOを有用なバイオ燃料へと精製するプロセスは、国際公開第2009/131510号に記載されている。国際公開第2009/131510号では、粗トール油を高品質ディーゼル燃料に変換する方法であって、(a)粗トール油中に存在する非油性夾雑物を除去し、粗トール油中に存在する有用な有機化合物を回収することにより精製トール油流を形成する工程と、(b)工程(a)由来の精製トール油流の揮発性留分を除去することにより、揮発物を含まず、大気圧下にて170℃以上の沸点を有する有機成分を含む油流を形成する工程と、(c)減圧精留塔において、揮発物を含まない工程(b)の油流を、2プロセス流又は相へと分離する工程であって、第1のプロセス流又は相が大気圧下にて170〜400℃の範囲の沸点を有する成分を実質的に含み、かつ第2のプロセス流又は相が大気圧下にて400℃超の沸点を有する成分を実質的に含む、分離する工程と、(d)脱炭酸及び/又は脱カルボニル化により、工程(c)由来の、170〜400℃の範囲の沸点を有する成分からなる流れの酸素含量を低減させる工程と、を含む、方法が開示される。
【0006】
本発明の1つの目的は、改良されたCTO精製法を提供することである。本発明による別の特有の目標は、改良されたCTO前処理プロセスを提供することである。本発明の更に別の対象は、CTOから樹脂酸及び精製トール油ディーゼル(以下、RTD)を生成するための改良プロセスを提供することである。同様に本発明のその他の目標も以下に定時される。
【0007】
本発明の第一の態様の背景
CTOの減圧蒸留により生成されたトール油ロジン(又は樹脂酸)は、接着剤、ゴム、インク、及び乳化剤の必須成分としての用途が見出されているのに対し、トール油脂肪酸(TOFA)は、石鹸及び潤滑剤の生産における用途が見出されている。
【0008】
しかしながら、クラフトパルプ化操作由来の残渣流である粗トール油は、数多くの不純物を含有する。典型的なCTO夾雑物としては、残留鉱酸、アルカリ塩及び/又は石鹸、アルカリ土類金属塩及び/又は石鹸、遷移金属、セルロース繊維及び1000ユニットの分子量を大幅に超える大型有機リグニン化合物が挙げられる。不純物は、通常、クラフトパルプ工場におけるCTO生産中に、塩分の強いブラインからトール油分離をする機能がないことにより存在することになる。CTOにより持ち込まれる少量のブラインが、上記不純物の大部分を包含している。
【0009】
不純物は、CTO加工中に問題を引き起こし、所望の留分の収率、すなわちRTD、TOFA及びトール油樹脂酸(RA)の収率に対し悪影響を及ぼす。したがって、異なる種類の塩及び/又は石鹸、セルロース繊維、及びリグニンが様々な加熱表面に堆積することで、流動に問題が生じ及び/又は伝熱が制限される。更に、塩は、薄膜蒸留装置ユニット(TFE)内で吹き上げられ、不揮発性成分が気相に飛散する機会をもたらしてしまう。残留鉱酸(典型的には、硫酸)、多様な塩、及び遷移金属は、CTO貯蔵及び加工中に触媒として作用する。H
2SO
4は、遊離脂肪酸(FFA)と、(−OH)官能基を保有する中性留分由来の多様な成分との間のエステル化反応において非常に有効な触媒である。得られるエステルは、典型的には高分子量を特徴とすることから、TOP留分の望ましさは低減されることになる。これらの高分子量エステルは、典型的にはCTOの貯蔵中に形成される。CTO加工中、硫酸がFFA内部の二重結合を攻撃することにより、同様にTOPにおいて最終的に生成される高分子量の重合産物がもたらされる。硫酸も、樹脂酸の脱炭酸化に関し活性な触媒であり、対応する炭化水素を生成し、ひいてはトール油樹脂酸の収率を大幅に減少させる。プロセスのレイアウト/装置に応じ、得られる炭化水素は、最終的にはRTD/TOFA又は樹脂酸留分のいずれかであり、いずれの場合も、それぞれの留分の品質低下を招く。多様な種類の塩及び特に遷移金属も、二重結合機能の活性化及び樹脂酸脱炭酸化に関し非常に活性な触媒である。
【0010】
分留前にCTO中の不純物を除去するための試行が数年来行われている。現在までに最も成功しているアプローチは、いわゆるCTO脱ピッチ化であり、脱ピッチ化では、取り込まれる油流をTFEユニットに通過させ、ユニットにおいては、迅速な加熱を行い、FFA及び樹脂酸のほとんどを蒸発させ、更に加工して、各TOFA及びトール油樹脂酸留分を得る。このアプローチにより、TOP流により持ち込まれる不純物の大部分がTEF缶出液に回収された。短時間の熱処理にも関わらず、CTO成分の大部分は、前述の不純物により促進される望ましくない反応を受けることになる。加えて、生成される蒸気にはいくつかの不純物が取り込まれている。
【0011】
本発明の第1の実施形態に記載されるCTO前処理は、典型的なCTO不純物の除去に貢献する。本発明の精製工程中にCTO不純物が非存在であることで、望ましいCTO成分の保存がもたらされ、したがって、RTD/TOFA及びRA生成物、更には良品質のTOPの収率が高くなる。更に、色味は不純物により悪影響を受け、一方、RA異性化は、CTO不純物と、分留に必要とされる高温とが組み合わせられることにより促進されることから、RA留分は色味及び/又は異性体分布の観点で高品質である。
【0012】
本発明の第2の態様に記載の技術的な解決法は、優れた品質のRTD留分及びRA留分の生産に有益な相乗効果に寄与する。この解決法により、従来技術と比較してエネルギー効率のよいプロセスが可能となる。本発明によりRTDを生産した場合、TOFAの精製の際に大きなエネルギーが消費されることはなくなる。更に、革新的な分留順序により、CTO分留プロセスにおいて一般に使用される消耗的(exhausting)及びエネルギー集約的蒸留工程と比較して、バイオ燃料(RTD)及びファインケミカル(RA)の効率的な分離が可能になる。
【0013】
本出願の第3の態様は、粗硫酸テルペンチン(CST)の使用に関し、粗硫酸テルペンチンは、RTD収率を更に最大化しようとするものであり、かつ(i)得られる組成物の密度を低減すること、及び(ii)沸点(BP)分布のバランスを改良すること、によりRTD組成物を改良する。したがって、CSTを不含有のRTDは、340〜400℃のかなり狭いBP分布を有する(約90重量%のRTDがこの範囲の沸点を有する)一方、CSTを含むRTD組成物は、140〜400℃のより広いBP分布を有する(CSTそのものが、最終的なRTD生成物の全BP範囲を満たすTOヘッド(揮発性FA C12〜C16と併せてセスキ及びジテルペン)と共に様々な成分を含む)。
【0014】
以下、本発明者らは、改良されたトール油精製、及び従来技術と比較して高収率かつ良好な品質での高価値留分への分留のためのプロセスを記載する。
【0015】
本発明の第一の態様の要約
上記の通り、本発明の第1の目的により、CTOから不純物を除去するための改良されたプロセスが提示される。
【0016】
この目的は、粗トール油(CTO)を前処理するためのプロセスにより得られ、当該プロセスは、CTO洗浄及び精製CTOと不純物を保有する水相とを含む第1の油相の分離を包含する、第1の前処理工程と、前出の水相からの第2の油相の分離を包含する、第2工程と、を含む。上記から理解される通り、本発明のこの態様は、残留鉱酸、アルカリ、アルカリ土類金属塩/石鹸、遷移金属、繊維/異物及びリグニン化合物などの典型的な粗トール油不純物を有効に除去して、精製トール油を生成することに関する。したがって、本発明によるCTOの前処理のためのプロセスの一実施形態によると、繊維、塩、残留無機酸及び/又はリグニンが不純物を構成する。残留無機酸は、トール油石鹸をトール油に変換するためにパルプ工場で利用される酸であり、多くの場合は硫酸である。
【0017】
本発明のその他の重要な態様は、例えば、精製トール油から揮発性留分を分離すること、及び揮発物を不含有のトール油を、a)ディーゼル域で沸騰する成分(RTD)、b)高品質樹脂酸(RA)、及びc)高品質であり、広範な工業用途においてエネルギー源として特に好適な重質留分(トール油ピッチ、TOP)から構成される流れへと分留することとすべきである。
【0018】
本発明の第1の態様の具体的な実施形態
本発明の第1の態様に従って、CTO流は、分留に先立ち夾雑物を除去するために前処理される。CTO前処理プロセスの一実施形態では、CTO洗浄工程においてCTOを水と接触させ、使用する水量は約5重量%未満とする(導入するCTOに基づく)。洗浄水には添加剤を含有させてもよい。本発明によると、CTOと洗浄液との間の接触は、動的ミキサーにより実施されてもよい。しかしながら、CTO及び水相間の十分な接触をもたらし得る装置であれば、どのような装置であっても本発明に従い好適であるとすべきである。洗浄水の量が少ないことから、効率的な混合を提供するための手段が必須である。洗浄水は、ある程度のCTO不純物(無機塩類及び残留酸(H2SO4))を除去することを目的とするのに対し、水添加剤は、遷移金属及び多様な石鹸などといったその他の不純物を除去することを目的とする。更に、添加物は、水相への選好性を増強させる目的で、金属イオンを改質する。そのため、温和な混合、例えば、静的ミキサーでは、本発明の前処理プロセスにより必要とされる接触は提供されない。したがって、特定の一実施形態に従って、CTO洗浄は、CTO及び水相間の十分な接触をもたらす混合手順により実施される。
【0019】
洗浄液とCTOとの間の十分な接触を促進するパラメーターは温度である。したがって、本発明の特定の一実施形態によると、接触は、90℃超の温度、好ましくは約95℃にて影響を受ける。
【0020】
本発明によると、洗浄工程内で多様な添加剤を添加でき、ひいてはCTO不純物の除去を補助することができる。このような添加剤の1機能は、CTO内の全ての金属イオンと結合し得るというものである。この結合は、典型的には、標的金属イオン及び添加材間の錯体形成によってなされる(多くの場合、配位子(1つ以上)と呼ばれる錯体形成法による)。配位子(1つ以上)は、イオン型のものから分子型のものまで様々であり得るため、錯体形成の経路は多様である。したがって、本発明により形成される錯体は水溶性である。本発明による添加剤として利用され得る配位子(1つ以上)は複数存在する。特定の一実施形態によると、少なくとも1つのキレート化剤が第1の前処理工程において添加される。本明細書において、用語「キレート化剤」は、錯体が形成される手法を指す。クエン酸及びエチレン−ジ−アミンテトラ−酢酸(EDTA)は、その他の用途においても一般に使用される好ましいキレート化剤であり、それらのキレート化剤は同様に様々な金属イオンを網羅し、すなわち、特定のイオンのみに特異的なものではない。
【0021】
上記から理解される通り、前処理プロセスに従って得られる油相は、更に加工されることが意図される。本発明の特定の一実施形態によると、回収された第2の油相は、精製CTOを含む第1の油相に供給される。このようにして、更なる加工の際の合計収率が向上される。別の選択肢としては、第2の油相を(未精製の)CTO貯蔵場所に戻して再利用するというものがある。第2の油相の第1の精製油相への回収及び/又は再利用は、前処理工程を上回る高CTO収率を達成することを目的とする。この前処理工程のCTO収率(導入するCTO/排出される精製CTOとして測定)は96重量%超であり、好ましくは98重量%超である。
【0022】
本発明に従う、異なる機械を用いるプロセスにより、第1及び第2前処理工程における相分離を実施することができる。特定の一実施形態に従うと、セパレーターユニットにおいて、第1の前処理工程における相分離が実施され、分離は遠心力により駆動される。その他の種類の分離装置を単独で、又は例えば、濾過及びデカンテーションの併用などのように組み合わせて使用することもできる。後者の場合、リグニン、繊維、及びその他の油以外の不純物は水相分離を妨げるおそれがあることから、濾過は、有益にデカンテーションの前に行われる。一方で、遠心力により分離を駆動する加工ユニットは、小型の単一の装置において、非常に短時間でトール油(TO)から水相及び固体不純物を効率的に分離することから、好ましい機械的プロセスである。本発明の更に別の特定の実施形態によると、第2工程における相の分離はデカンテーションにより実施される。この工程において意図される流れに関し、油−水の割合はより均一であり、この流れの流速は効率的にデカンテーションを行いやすくさせるのに十分に遅い。第1の洗浄工程中に利用される高温は第2の分離工程において分離を補助することから、この高温を維持することは好都合である。
【0023】
本明細書に上記される原理に従って夾雑物を除去した後、精製CTO流から揮発物を除去することにより、精製CTOを更に処理する。本発明の特定の実施形態によると、「揮発物の枯渇したトール油流」をもたらす目的で、前処理から得られた精製CTOを加工システムに供給して、170℃未満の沸点を有する揮発成分の分離をもたらす。精製CTO流から揮発物を除去する際に使用される加工システムは、フラッシュ容器−TFE(薄膜蒸留装置)又は、ストリッパー式蒸留塔(高表面充填材を取り付けた充填塔)などのユニットの組み合わせを含み得る。TFEは、本発明に従って精製CTO流から揮発物を除去する際に最も好ましい加工システムである。
【0024】
本工程において、様々な揮発性化合物が除去されることに留意されたい。揮発性化合物としては、水、水中に溶存している各種気体(水が存在する場合)、テルペン、及び各種硫黄化合物(例えば、メチルスルフィド及びメチルメルカプタン)などが挙げられる。
【0025】
精製CTO流から揮発物を除去した後、揮発物を実質的に含まない精製CTOは、1つ又はそれ以上の減圧分留装置を含む減圧蒸留プロセスシステムによりRTD/TOFA及びRAに分留される。この、精製CTOの、別個の高価値留分への更なる加工について、以下に更に詳細に記載する。
【0026】
本発明の第2の態様の背景
粗トール油は、テルペンチン、樹脂酸、ステロール(5〜10%)、脂肪酸(主にパルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸)、脂肪族アルコール、及びその他のアルキル炭化水素誘導体を含む、広範な有機化合物を含有する。CTOの分留により、トール油樹脂酸(RA)及びトール油脂肪酸(TOFA)を得ることができる。RAは、接着剤、ゴム、及びインクの成分としての使用、並びに乳化剤としての使用が見出されている。TOFAは、再生可能なディーゼル燃料、例えば、RTD(粗トールディーゼル)、燃料添加剤(セタン価向上剤)の生産のための供給原料として使用でき、あるいはファインケミカル(洗剤、塗料など)の生産においてベース剤として使用できる。
【0027】
CTOは、程度の差はあるが約500ppm〜最大で数千ppmの範囲で硫黄化合物を含有する。硫黄化合物は、多くの場合臭気が強く、硫黄塩、亜硫酸塩、多硫化物、硫黄元素、メルカプタン、有機硫化物及び有機スルホン及びスルホン酸塩を含む多様な有機及び無機硫黄化合物を含有する。硫黄化合物は、主に、粗トール油(テルペンチン)中に存在する低分子量成分と関連するものの、粗トール油の脂肪及びジテルペン部分の両方に存在し得る。多くの場合、パルプ工場は、パルプ収率を更に上げるための特別な化学物質を利用する。クラフト式プロセスにおいて利用される典型的な化学物質はアントラキノン(AQ)である。したがって、AQを利用するパルプ工場から持ち込まれるCTOは、最大で2000ppmまでのある程度の割合でAQを含有する。
【0028】
CTOは、多量の脂肪酸(同様に本明細書においてFAと略記する)を含有する。FAは、C12〜C26の範囲の成分を含み、C18脂肪酸異性体が主成分である。FAは、2種類の官能基、カルボキシル基及び二重結合を有する。FA成分は、飽和している成分から、最大で三重結合まで不飽和度が変化する(単離又はコンジュゲート型)成分まで様々である。
【0029】
粗トール油は、アビエチン酸、アレーン置換により形成される芳香族デヒドロアビエチン酸及びジテルペン酸のスルホン酸誘導体を含む、有用なC20ジテルペン酸(同様に本明細書においてRAと略記する)も豊富に含有する。ジテルペン酸は2つの官能基、カルボニル基及び二重結合を有する。ほとんど全てのジテルペン酸は同様の基本骨格、組成式C
19H
29COOHを備える3環縮合系を有する。
【0030】
ジテルペン酸は、松において、組成式C
19H
29COOHを有する数多くの異性体形態及びいくつかの関連する構造体として生じる。最も一般的なジテルペン酸は、アビエチン型の酸及びピマル型の酸である。
【0031】
アビエチン型の酸
アビエチン酸
アビエタ−7,13−ジエン−18−酸
13−イソプロピルポドカルパ−7,13−ジエン−15−酸
ネオアビエチン酸
デヒドロアビエチン酸
パルストリン酸
組成式C
20H
30O
2、又はC
19H
29COOHであり、
典型的にはトール油の大部分、85〜90%を構成する。
構造式としては、(CH
3)
4C
15H
17COOHと示され、
分子量は302である。
【0032】
ピマル型の酸
ピマル酸
ピマラ−8(14),15−ジエン−18−酸
レボピマル酸
イソピマル酸
組成式C
20H
35O
2又はC
19H
34COOHであり、
構造式としては、(CH
3)
3(CH
2)C
15H
23COOHと示され、
分子量は307である。
【0033】
クラフトの化学的な製紙プロセスを用い、木材パルプ等級の化学的セルロースを製造すると、使用済みの加工液(spent cooking liquor)中にこれらのジテルペン酸が放出される。
【0034】
粗クラフトテルペンチン(多くの場合、CST、すなわち、粗テルペンチン硫酸)は、クラフトパルプ化中に副産物として得られる有機液体である。高臭気性の粗クラフトテルペンチンは、多くの場合、閉鎖系で取り扱われ、ポンプミル部分で回収され、等級を上げるために燃料として蒸留され又は排出される。テルペンチンは、粗トール油の分留により、又は樹木、主に松の木から得られる樹脂の蒸留により得ることもできる。テルペンチン留分は、多くの場合テルペンと呼ばれる多様な有機化合物を含む。テルペンは、各成分を構成するのに必要とされるイソプレン単位C5H8数に関して分類され、したがって、ヘミ−(C5H8)、モノ−(C10H16)、及びセスキ−(C15H24)ジテルペン(C20H32)などに分類される。CTOからのテルペンチン留分は、典型的には、大気圧下、120〜180℃の範囲にて沸騰し、α−及びβ−ピネンなどのモノテルペンが主成分である。テルペンチンは0.7〜0.87kg/lの密度を有する。
【0035】
本発明の第2の態様の要約
本発明は、場合によりテルペンチン、脂肪酸及び樹脂酸(RA)留分を含むCTO(粗トール油)を、再生可能なディーゼル燃料(精製トールディーゼル(RTD))又はTOFA及び精製樹脂酸(RA)に変換することも目的とする。本発明の態様により、粗トール油(CTO)からのRTD/TOFA及びRAの複合生産プロセスが提供され、このプロセスはCTOを精製することを目的とし、プロセスは、減圧下での、精製CTOの、精製トールディーゼル(RTD)又はTOFAの少なくとも1つの流れへの分留を含み、RTD又はTOFAは2〜40体積%の樹脂酸と、20〜90体積%の脂肪酸を含み、少なくとも1つの樹脂酸(RA)(1つ以上)の流れは5体積%未満の脂肪酸を含み、RTD又はTOFAの流れは、場合により連続工程において脱酸素化されて、炭化水素化合物を形成する。
【0036】
残りのTOP(RTD/TOFA及びRAの回収後)留分は、分留段階で供給されるCTOの30重量%未満を構成する。
【0037】
本明細書において上記に議論された本発明の第1の態様により、CTOは分留の前に有益に前処理され、精製CTOへと変換される。第1の前処理工程では、CTOは、夾雑物を除去するための遠心分離及び/又は濾過後、水及び揮発物を除去することにより精製CTO流を形成する工程により処理される。第2の工程では、高沸点(分子量に由来し重い)成分は、減圧下で、主に脂肪酸及び樹脂酸から構成される気体流から液体流(トール油ピッチ、TOP)として分離される。
【0038】
減圧下で操作し、気体状脂肪酸及び樹脂酸を精留塔に取り込み、塔の上方から富脂肪酸RTD/TOFA留分を抜き出し、塔の下方から富RA留分を抜き出す。気体状の富脂肪酸RTD/TOFA流は、液体精製トールディーゼル「RTD」へと凝縮される。更に等級を上げるため、例えば、高級バイオ燃料成分にするために、このRTDを輸送することもできる。別の方法としては、RA含量を低減させるため、RTD/TOFA流は更に精製され又は精製はされず、ファインケミカル(石鹸、潤滑剤、接着剤及びワニス)の製造に使用するため輸送される。
【0039】
本発明の別の具体的な実施形態では、木材加工に由来しかつ沸点が120〜180℃の範囲の有機化合物(例えば、テルペンチンを含む)が重要であり、RTDに加えられる。本明細書の上記に従い、除去された揮発留分から有機化合物(テルペンチンを含む)を回収して、有益にRTDに加えることもできる。テルペンチン化合物(主要成分α及びβピネンを有する)はより低密度を有し、かつRTDに加えるとRTDの総密度を低減させる。このテルペンチンの添加、及び/又は木材加工に由来しかつ沸点が120〜170℃の範囲であるその他の有機化合物の添加は、本明細書において以下に詳述され、かつ本発明の第3の態様に関する。
【0040】
任意選択的な第4の工程では、150℃超の温度にて操作する少なくとも1つの反応器中の反応ゾーンにおいて、触媒条件下にて、テルペンチン化合物を添加された又は非添加のRTDが処理され、RTD中に存在する脂肪酸が脱カルボキシル基化及び/又は脱カルボニル化されて、再生可能なディーゼル域の燃料成分が形成される。
【0041】
CTO不純物が除去される、戦略的に配置されたTFE及びCTO前処理を使用し、望ましいRTD/TOFA及びRA成分の保存に向けて共に機能させることで、ひいては従来技術と比較してRTD/TOFA及びRA収率が増加する。更に、高減圧度で機能し、かつ圧力低下プロファイルが最低限であることを特徴とする精留塔を使用することで、分留中の操作温度が確実に低くなり、ひいては、従来技術と比較してCTO分留の際のエネルギー効率がよいプロセスがもたらされる。
【0042】
本発明の第2の態様の具体的な実施形態
以下、本発明によるCTOからのRTD/TOFA及びRAの複合生産プロセスに関する具体的な実施形態を記載する。
【0043】
本発明者らは、CTOは、一連の革新的な工程において、精製トールディーゼル(RTD)又はTOFA流、及び有用な樹脂酸、(RA)流へと変換され得ることを発見した。RTDは、主に脂肪酸、脂肪族アルコール及び樹脂酸を含む。RTDは、更にRTD中の有機化合物の沸点により特性評価される。RTD成分は、大気圧下で、120〜420℃の範囲、より好ましくは160〜400℃の範囲で沸騰し、典型的には、RTD混合物は0.88〜0.95kg/lの密度を有する。あるいは、富脂肪酸流を輸送して、ファインケミカルの製造においてTOFAとして使用することもできる。
【0044】
上記の通り、減圧下で精製CTOを実際に分留し、続いて富RTD/TOFA及びRA流を回収する前に、1工程以上のCTO前処理工程を存在させてもよい。
【0045】
CTOを、場合により本明細書に記載の手順により前処理した後、大気圧下にて沸点約200℃未満、より好ましくは約170℃未満の成分(以降、トール油揮発物とする)からなるトール油留分を除去する、少なくとも1つの分離処理を行う。
【0046】
CTO中に存在する揮発性留分は、典型的には、数十分の1重量%から最大2重量%の範囲であり、これに加えて、0.5〜3重量%の水がCTOに持ち込まれる。1つ目の留分は、分子量が主にC8〜C16で変化する炭素化合物(テルペンチン、炭化水素、硫黄、酸素、窒素などの不均質な原子を様々に含有する炭化水素)からなる成分を複数含む。
【0047】
大気圧下、約200℃未満かつ約120℃超にて沸騰する揮発性有機材料を粗トール油から除去する。揮発物(テルペンチンを含む)は、100〜220℃の範囲の温度、かつ30〜60kPaの範囲の低圧で動作する1つ又はそれ以上の薄膜蒸留装置又はストリッパー、及びこれらの組み合わせにおいて除去することができる。
【0048】
続くプロセス工程において、高沸点CTO成分又はトール油ピッチ、TOP(残灰、各成分の平均沸点が440℃をはるかに超える有機留分)が、RTD/TOFA成分及びCTO中に存在する樹脂酸から分離される。灰は別として、トール油ピッチは、典型的には(i)不けん化留分(>C28)を含む成分、(ii)ステリル及び/又はワックス型の高分子量(500〜600g mol
−1)エステル、及び(iii)ディールス・アルダー型分子間2量化反応生成物から構成される。CTO不鹸化物に該当する典型的な高沸点化合物は、カンペステロール(C28)、スティグマステロール及びシトステロール(C29)、スクアレン、ベツリノール、ルペオール(C30)、メチル−ベツリノール(C31)などである。
【0049】
本発明の一実施形態では、1つ又はそれ以上の薄膜蒸留装置(TFE)を利用して、並列式に又は連続式に250〜320℃かつ0.7〜1.5kPaの低圧にて、脂肪酸及び樹脂酸からTOPが分離される。蒸気又はホットオイルによりTFEに熱が供給される。TFEから排出される、揮発物が除去されたトール油(脂肪酸及び樹脂酸)の温度は、1つ又はそれ以上の規則充填材(1つ以上)を備える精留塔に充填する前に、200〜330℃の範囲、好ましくは200〜250℃であり得る。
【0050】
RTD/TOFA、及びRAの分離に使用される主精留塔は、減圧条件下(0.1〜2.5kPa(1〜25mbar)、好ましくは0.1〜1kPa(1〜10mbar))かつ150〜280℃の範囲の温度にて操作される。主精留塔及びその供給セクションの設計は、次の目的に沿って最適化される:(i)170〜420℃の温度範囲(大気条件下)にて沸騰する成分を含むRTD/TOFA留分の収率の最大化、(ii)約370〜420℃(大気条件下)での異なる留分の切り分け(fractionation cut)、(iii)塔の下方で高品質かつ高収率に樹脂を回収するのに望ましくない反応の最小化、及び(iv)精留塔の最下部における圧力及び温度の最低化(望ましい生成物成分の分解を最小限にする)。
【0051】
具体的な一実施形態に従い上記から理解することのできる通り、減圧下での分留は、少なくとも3工程で実施される(精製CTOからTOPを除去するためのTFE、精留塔でのRTD/TOFA及びRAの分離、並びに精留塔でのRAの精製)。
【0052】
本開示の特定の実施形態によると、上記CTO(本明細書に記載の手順により精製)は、CTOからトール油ピッチ(TOP)を分離するための第1の分留工程に充填され、次に、第2の分留工程に充填され(減圧精留塔)、大気圧下で170〜420℃の範囲の沸点を有する富RTD成分流が、大気圧下で約420℃超の沸点を有するRA成分流から分離される。第3の分留工程では、RAは、更に脂肪酸含量の低いRAへと精製される。
【0053】
CTOからトールピッチを除去する際にTFEユニットを利用することにより、トール油ピッチ中に残存する樹脂酸を5%未満の濃度とすることができる。TFEから取り出した気体状脂肪酸及び樹脂酸富流は、RTD成分及び樹脂酸の分離のために設計された主精留塔に排出される。代替的でかつ好ましい配置において、精製CTOは第1のTFEに充填され、揮発したTOFA及びRAは主蒸留塔に排出され、CTOから分留された富RA及びTOFAは第2のTFEに排出され、FA及びRAは主蒸留塔に排出され、尚もRAに富むRA流は第3のTFEに充填され、RAはRA精製工程に排出され(RA蒸留塔)、並びにTOPは輸送のためプラントから排出される。
【0054】
特定の一実施形態によると、精留塔の下方部分から回収された富RA流がRA精製工程(精留塔)に排出され、又はRA(1つ以上)から取り込まれたTOP成分を分離するため薄膜蒸留装置で更に加工され、RA(1つ以上)は、約4重量%未満で脂肪酸を含む高品質RA(1つ以上)を生成するため、減圧下にてRA精製工程(RA蒸留塔)で加工することにより更に精製される。
【0055】
充填精留塔は、典型的には、1つ又はそれ以上の規則充填材層、塔下方に配置された再沸器、及び好ましくは塔上方に配置された還流器から構成される。
【0056】
現代の規則充填材は、典型的には、薄型波形金属板又は適切な様式で配置された細目の金網から構成されており、それぞれの個々の設計は、蒸留塔に流体を送り込み、これらの予め設計された長い経路を通すことにより表面積を大きくし、ひいては流体と蒸気との接触を確実に最大にさせることを全体的な目的としている。棚板型蒸留塔と比較して優れているものの、充填層型蒸留塔もある程度の圧力低下を示す。特別に設計された規則充填材を使用することで、蒸留塔上部と蒸留塔下部の間の圧力低下が、確実に1.5kPa(15mbar)未満、好ましくは1kPa(10mbar)、及び最も好ましくは0.5kPa(5mbar)になる。
【0057】
本発明の好ましい実施形態によると、圧力低下が最小であることを特徴とする規則充填材(1つ以上)が使用される。
【0058】
規則充填材層の高さは所望される分留度、すなわち特定の程度の分留を達成するために必要とされる理論的な段階数に密接に関連する。上記から理解される通り、精留塔は1層又はそれ以上の規則充填材層から構成される。したがって、本発明に利用される主要な規則充填材/層の高さは、RTD/TOFAの高収率を達成するよう調整される。層の上方において回収されるRTD/TOFA材料は、20重量%、更には最大で30重量%もの樹脂酸を含み得るが、RTD/TOFAの樹脂酸含量は、RTD/TOFA化合物の1〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%の範囲であることが好ましい。RTD/TOFAは、ファインケミカル製造用の原料として使用する前に、燃料として、触媒層において部分的に若しくは完全に脱炭酸化して酸素を枯渇させた再生可能なディーゼル燃料成分を生成するための供給原料(feed)として使用するために、又は石油精製においてディーゼル域の再生可能燃料成分を更に処理するための輸送のために、蒸留、濾過、冷却などにより更に精製することもできる。本明細書において、「再生可能なディーゼル域の燃料成分」は、170〜400℃の範囲で沸騰する炭化水素であるものと理解されることは留意されたい。それにもかかわらず、この充填材の主要な機能は、塔頂流(top stream)から大部分のRTD/TOFAを分離し、富RA缶出液流を生成するというものである。
【0059】
本発明の好ましい一実施形態によると、TFEから排出される気体流からのRTD/TOFA及びジテルペン酸(樹脂酸)の分離は、TFEと接続させた減圧精留塔の充填材層において達成される。
【0060】
本発明の全ての実施形態において精留塔に接続しているTFEユニット内で、供給原料は薄層として蒸留(wiped)される。したがって、TFEにおける保持時間は非常に短く、かつ所望のRTD/TOFA及びRA成分を保存するよう考慮されることから、RTD/TOFA及びRA収率は高くなる。
【0061】
RTD/TOFA留分を更に規定するための典型的なアプローチは、蒸留塔頂部に、150〜220℃の温度範囲で動作する還流装置を取り付けるというものである。還流アプローチにより、典型的には生成物の大部分が蒸留塔頂部付近で蒸留塔内に回収される。一般的に、還流比が高くなるほど留分は鋭敏になる。有益なことに、取り込まれる還流流(incoming reflux stream)の直下に別の規則充填材が設置される。そのため、充填剤は、(i)相対的に温度の低い還流流を均一に再分布させ、(ii)表面積の大部分を確実に利用可能にし、ひいては還流効果を最大化させる。
【0062】
したがって、本発明の特定の一実施形態によると、精留塔には精留塔の塔頂付近に還流装置が取り付けられる。本発明の別の特定の実施形態によると、370〜420℃の沸点を有する成分から構成される高品質な流れは、適切な還流比の選択により、より区別して作製される。更に、本発明の更に別の特定の実施形態によると、蒸留塔に戻る還流流の均質性は、充填塔中の補助的な規則充填材により達成される。
【0063】
しかしながら、同様に、有効な分離を達成する目的で、蒸留塔全体にわたって流体流を確実に均質にしておくべきである。均質な流体流が実現されるとき、本発明の条件にて液体である成分は、好ましくは充填材表面上に微細な液滴として存在する一方、沸騰している成分は蒸気として移動する。蒸留塔内の均質な流れは、適切な分配器及び/又は規則充填材により達成される。
【0064】
典型的には、精留塔の底部に取り付けられた再沸器により熱及び対応する蒸気が充填層精留塔に供給される。上記から理解され得る通り、精留塔の最適化に関し、広域を過熱することによりもたらされる望ましくない反応を最小化することが目的の1つである。したがって、必要な熱及び蒸気は、好ましくは、精留塔に直接接続しているTFEによってのみ提供される。蒸留塔の液体容積は最小に保持される。例えば、TFEを支持する熱交換器もシステムに配置され得る。
【0065】
充填層精留塔を利用する主精留塔での蒸留後に得られる主要流は、RTD及び富RA流であり、これを更に、本発明により開示されるプロセスの目標生成物である高純度RAへと精製する。
【0066】
RAの更なる加工は、本発明により第2の精留塔(RA蒸留塔)で実施される。第2の精留塔では、170〜420℃の範囲の沸点を有する脂肪酸成分に富むRTD/TOFA流を1つ、高品質のRAの流れを1つ、及び場合により有色のボディとその他の望ましくない高沸点成分を含む1つのTOP流、が得られる。第2の精留塔の設計は、次の目的に沿って最適化される:(i)RA分留の収率最大化、(ii)RA分留のFFA含量の最小化、及び(iii)色等級の高い(明るい)RA分留。
【0067】
本発明に従うと、RA蒸留塔は、1層以上の規則層から構成される充填層精留塔である。蒸留塔は、0.01〜0.1kPa(0.1〜1.0mbar)の圧力をもたらす別個の減圧ラインで操作される。大量のRTD/TOFA留分が存在しないことで、低減圧度が容易になる。更には減圧度が低いことで、RA分留に使用されるものと本質的に同一の操作温度(150〜280℃)を利用できるようになるため、RAが高温に曝露されたときに典型的な分解反応のリスクは大幅に減少する。
【0068】
蒸留塔の中央部に取り付けられた精留塔を主に充填する(蒸留塔内部に取り付けられたその他の充填層と比較して中央)ことにより、RA蒸留塔におけるRA分留が達成される。充填デザインにより、RA分留由来の残存FFAの効率的な分離がもたらされる。再還流流を確実に均質性にする規則充填材と共に、蒸留塔頂部に取り付けた還流装置により、適切な還流比を選択し、分離に作用させることもできる。
【0069】
RTD/TOFA成分からなる回収流が、頂部充填材の下に取り付けられた「抜き出し棚板」から排出されるのに対し、RA流は、中間充填材の下に取り付けられた「抜き出し棚板」から排出される。
【0070】
必要とされる熱及び蒸気は、主蒸留塔から、及びRA蒸留塔前の1つ又はそれ以上のTFEユニットから排出される、富RA材料流から送達される。TFEからの蒸気は、低い位置に充填された層の下にあり全ての重質及び/又は着色成分を分離するよう最適化された蒸留塔に排出され、これが今度は蒸留塔の下部からTOP流としてTFEに排出される。このTFEユニットは、例えば、流下薄膜蒸発器(FFE)により補完される。
【0071】
したがって、本発明は、揮発物を不含有でありかつ精製されたCTO流を、3つの別個の流れ又は相に分離するプロセスを開示し、いずれも大気圧下において、1つの流れ又は相、RTD/TOFAは約170〜400℃の沸点を有する成分からなり、1つの流れ又は相、トール油ピッチ(TOP)は440℃超の沸点を有する成分からなり、第3の流れは沸点が約390〜440℃のジテルペン酸又は樹脂酸を含む。
【0072】
第一の精留塔からRTDを回収した後に、場合により、脱悪臭化され少なくとも部分的に脱硫化されたテルペンチン(αピネンを含む)の第4の流れをRTD流に加えることができ、当該テルペンチンは、大気圧下で120〜200℃の範囲にて沸騰する。RTDの密度を減少させ、RTD中の、沸点が約200℃未満の成分を増加させる目的で、テルペンチン及びその他の低沸点材料をRTD生成物に加える。したがって、テルペンチン及びその他の低沸点有機成分は、RTDにおいて、C8〜C12炭素分子部分を15重量%程度増加させるために加えられる。好ましくは、RTDは、約2〜15重量%のC8〜C12テルペンチン成分を含み、より好ましくはこのような成分を2〜8重量%含む。
【0073】
本発明の特定の一実施形態によると、精製CTO供給に基づくRTD/TOFAの総収率は50重量%超であり、例えば、55重量%超などであり、RAの総収率は15重量%超である。特定の一実施形態に従うと、CTO供給に基づくRTD/TOFAの総収率は、55〜70重量%の範囲であり、例えば、約60重量%であり、RAの総収率は、10〜25重量%の範囲であり、例えば、約15重量%などである。精留塔から最初に得られるRTD/TOFA相は、精製CTO供給の約60重量%を表し、RA蒸留塔からの第2のRTD相は、第1の精留塔に供給された精製CTOの約3重量%である。第1の精留塔を調節及び調整し、所望のRA含量(通常は2〜30%の範囲)のRTD/TOFAを達成することができる。本明細書において記載される通り、RTDの総収率は、テルペンチンを加えることで更に増加させることができる。
【0074】
本明細書に記載の、CTOからRTD/TOFA及びRAを回収する全ての実施形態において、最終的な高沸点残渣生成物TOPは、CTO分留に供給したCTOの10〜30、又は恐らくは最大で35重量%で生成される。更に、本発明のプロセスは、従来技術及び先行技術のCTO分留プロセスと比較して、比エネルギー原単位が低いことを特徴とする。CTOをRTD/TOFA及びRAへと分留する際の総エネルギー消費(ホットオイル及び/又は流式)は、精製CTOの供給に対し2160MJ/Mg(約600kWh/トン)低く、好ましくは約1800MJ/Mg(500kWh/トン)低い。現在のCTO分留プロセスがCTOを分留する際に利用する比エネルギーは3600MJ/Mg(1000kWh/トン)をはるかに上回る。
【0075】
本発明の第2の態様の一実施形態によると、CTOからRTD及びRAを複合生産するためのプロセスが提供され、精製CTOは、CTOの洗浄及び不純物の分離を包含する前処理工程において加工されたCTOから得られ、第1の精製CTO流は前処理工程から得られ、第1の精製CTO流は、次にCTOから揮発性成分を除去し第2の精製されかつ実質的に揮発物を不含有のCTO流を生成する目的で、更にフラッシング、水蒸気ストリッピング及び/又は薄膜蒸留装置における処理により加工され、第2のCTO流は、脂肪酸及び樹脂酸に富む第3の流れからTOPを分離及び除去する目的で薄膜蒸留装置で更に加工され、この第3の流れが、高収率でRTD/TOFA及びRAを回収するための第1の精留塔に充填される。
【0076】
RTD分留は、トール油分留プラントから除去されたテルペンチン又はパルプ工場から輸送されたテルペンチンを含む低沸点有機材料(大気圧下沸点120〜200℃)と組み合わせることもできる。好ましくは、この低密度有機材料(密度0.7〜0.87kg/l)は、粗トール油分留プラントにおいて回収された、脱硫化及び脱悪臭化テルペンチン及び/又はヘッド(tall oil heads)(C8〜C16炭素化合物)、又は輸送された粗テルペンチンである。
【0077】
本発明に従って生産されたRTDは、酸素化精製ディーゼル燃料として使用できるものの、RTDは、脱炭酸化及び/又は周知の石油化学的な脱酸素/水素化プロセスにより、有益に高級ディーゼル燃料へと等級を上げることができる。分留塔から回収されたRTD(テルペンチンを添加又は非添加)は、有益なことに、粗トール油分留プラントに隣接して位置する、又は遠隔的に位置する追加の加工段階に直接又は間接的に充填することもでき、RTDの酸素含有量は、触媒の存在下で、脱炭酸化及び/又は脱カルボニル化反応経路により少なくとも部分的に低減される。1層以上の触媒層を備える固定化層反応器(bed rector)において、150〜350℃の範囲の温度で脱炭酸化及び/又は脱カルボニル化反応を実施した。脱炭酸化及び脱カルボニル化反応は適切な触媒により促進される。典型的な脱炭酸化/脱カルボニル化触媒としては、活性化(酸性)アルミナ、ジルコニアなど、フラー土、炭酸塩系触媒及び遷移金属触媒が挙げられる。遷移金属触媒のなかでも、NiMo/Al2O3などの標準的な耐硫黄触媒は使用できる。
【0078】
脱炭酸化反応は吸熱的であり、場合により、脱炭酸化中に水素が注入され、発熱水素添加反応により熱がもたらされる。
【0079】
したがって、本発明の第2の態様は、粗トール油から樹脂酸及び粗トールディーゼルRTD又はTOFAを回収するためのプロセスを記載する。粗トールディーゼルRTDを、酸素を除去する触媒条件下で更に処理することにより、炭化水素系の再生可能ディーゼル化合物が形成される。
【0080】
本発明の第3の態様及びそれらの特定の実施形態の要約
本発明は、最適化されたRTD組成物、並びにこのような組成物の製造プロセスも目的とする。本発明に従う、最適化されたRTD組成物は、1〜30重量%樹脂酸(RA)(1つ以上)及び70〜95重量%脂肪酸(FA)(1つ以上)を含み、更には1〜10重量%粗硫酸テルペンチン(CST)(1つ以上)及び0〜1重量%アントラキノンを含む。
【0081】
本発明によるRTD組成物では、特に、生産される粗硫酸テルペンチン(CST)(1つ以上)及び場合によりアントラキノンの内容物が高収率成分として利用され、すなわち、プロセスにおけるRTDの総収率を増加させることによる利点が得られる。更に、CSTは、RTD混合物の密度を減少させ、木質系原材料からのRTD収率を増加させる。本明細書に記載のCTO生物精製において生産されるCST、並びに輸送されたCSTを、本発明に従って生産されたRTD組成物に加えることもできる。
【0082】
本発明の一実施形態により、最適化されたRTD組成物を生産するためのプロセスが提供される。このプロセスは、低密度精製トールディーゼル(RTD)組成物の生産にも関し、生産において、粗硫酸テルペンチン(CST)(1つ以上)が粗トールディーゼル(RTD)組成物に添加される。
【0083】
特定の一実施形態によると、CSTは、CTO又は精製CTOからの揮発成分(120〜250℃の範囲の沸点を有する)の分離中に生産される。上記の通り、CSTは、クラフトパルプ工場からも持ち込まれ、本発明によるRTD組成物に添加され得る。
【0084】
本発明のこのプロセス態様の特定の一実施形態により、揮発成分は200℃未満の沸点を有する。揮発成分の除去は、例えば、蒸気ストリッパー及び/又は薄膜蒸留装置から構成されるプロセスシステムで実施され得る。同様に、本プロセスは、本発明の他の態様と有益に統合され、すなわち、当該プロセスは、CTOの洗浄及び精製CTOを生産する際の不純物の分離、続く揮発物が枯渇したトール油流を生産するための、精製CTO中の、120〜200℃の範囲の沸点を有する揮発成分の分離、を含む、最初の前処理工程により補完される。揮発物が枯渇したトール油流を、続いてトール油ピッチ(TOP)を除去するために薄膜蒸留装置(TFE)で処理する。
【0085】
約300℃の温度にて、減圧下で、TFEにおいて加工を実施する(この温度での滞留時間は約2分)。TFEにおいて精製トール油流からTOPを除去することより、10〜30重量%の範囲でTOPが生成され、かつTFEに充填された精製トール油流の約70〜80重量%に相当する気体状脂肪酸及び樹脂酸流が生成される。本発明の第1及び第3の態様に関し、記載「TFE」は、通常、単一のTFEを指すものの、同様に、本発明の第2の態様に取り上げた通り複数のTFEをも指すことには留意されたい。
【0086】
本発明の更に別の特定の実施形態によると、実質的にTOPを不含有である更に精製されたトール油流が精留塔に供給され、精留塔では、170〜410℃の範囲の沸点を有する成分に富む精製トールディーゼル(RTD)の1つの流れへと分留され、かつ410〜440の範囲の沸点を有する樹脂酸の1つの流れが得られる。RTDを精留塔から排出させた後に、RTDの収率を更に改良し、かつRTDの密度を低減させるため、有益にCSTがRTDに添加される。
【0087】
更に別の実施形態によると、RTDの総収率は55重量%超であり、更には65重量%超であり、かつRAの総収率は、分留プラントに供給されたCTOに基づき15重量%超である。例の通り、精留塔から得られる最初のRTD相は約60重量%である。
【0088】
最終的なRA精溜蒸留塔において、RTDは上方で回収され、高品質RAは下方で回収される。蒸留塔において回収されたRTDは、実質的に総RTD収率の約1〜5%を占める脂肪酸を含む。RA蒸留塔の下方から回収された、サンプル1g当り160〜180mg KOHの酸価を有する高品質RAが、プラントから輸送される。RA及び/又はRTDの市場に応じ、精留塔から回収されるRTD流のRA含量は、2〜40%、例えば、2〜30%の範囲で調整され得る。ご理解の通り、第1及び第2のRTD流の両方を組み合わせ、プラントにおいて生産された又はプラントに輸送されたCSTを添加し又は非添加で、プラントから輸送する。
【0089】
本発明の更なる一実施形態によると、上記に示唆した通り、精留塔から回収された富RA流は、更にRA蒸留塔で精製され、RAは所望の純度(RA含量90重量%以上、FFA 4重量%未満、軟化点70℃超、かつガードナースケールで6〜7の色味)に精製される。