(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のコンフォーカル顕微鏡は、ピンホールを拡張したことで励起光の漏れ光や標本からの反射光などの遅れのない光がピンホールを通過してしまい、画質が劣化するという問題がある。また、特許文献1に記載のコンフォーカル顕微鏡を用いて往復スキャンしようとすると、スキャナの揺動動作の行きと帰りで検出光のずれの方向が反転するため、ピンホールを走査方向の両方に拡張する必要がある。そのため、本来必要な大きさの2倍の大きさにピンホールを拡大することになり、共焦点効果や光セクショニング能力の劣化を招くという問題がある。
【0005】
本発明は、高速走査時の画像劣化を防止して良好な画像を取得可能な走査型レーザ顕微鏡装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明
の第1態様は、所定の揺動軸回りに揺動可能な走査部材を有し、光源から発せられた励起光を該走査部材により偏向して標本上で走査させる
、走査速度を変更可能な走査部と、該走査部により走査された励起光を標本に照射する一方、標本からの戻り光を集光する対物レンズと、該対物レンズの焦点位置と共役な位置に配列されたON/OFFを個別に切り替え可能な複数の微小検出素子を有し、前記対物レンズによって集光され前記走査部によってデスキャンされた戻り光をON状態の前記微小検出素子により選択的に検出可能なアレイ型検出部と、前記走査部の走査速
度に基づいて、ONする前記微小検出素子の領域を前記戻り光の遅延に起因する前記走査部によるデスキャンの位置ずれ方向にずらしおよび/または拡張する制御部とを備える走査型レーザ顕微鏡装置
である。
本発明の第2態様は、所定の揺動軸回りに揺動可能な走査部材を有し、光源から発せられた励起光を該走査部材により偏向して標本上で走査させる走査部と、該走査部により走査された励起光を標本に照射する一方、標本からの戻り光を集光する対物レンズと、該対物レンズの焦点位置と共役な位置に配列されたON/OFFを個別に切り替え可能な複数の微小検出素子を有し、前記対物レンズによって集光され前記走査部によってデスキャンされた戻り光をON状態の前記微小検出素子により選択的に検出可能なアレイ型検出部と、前記走査部の走査方向の変化に応じて、ONする前記微小検出素子の領域を前記戻り光の遅延に起因する前記走査部によるデスキャンの位置ずれ方向にずらしおよび/または拡張する制御部とを備える走査型レーザ顕微鏡装置である。
【0007】
本発明によれば、光源から発せられた励起光が走査部により走査されて対物レンズにより標本に照射されると、標本において発生した蛍光や標本からの反射光のような戻り光が対物レンズにより集光され走査部によりデスキャンされてアレイ型検出部のON状態の微小検出素子により検出される。各微小検出素子は対物レンズの焦点位置と共役な位置に配列されているので、戻り光の集光位置に配置された微小検出素子のみをONすることにより標本上の対物レンズの焦点位置からの光のみを精度よく検出することができる。
【0008】
この場合において、走査部による励起光の走査速度を速くすると、標本上で励起光が走査されてから標本において蛍光が発生するまでの蛍光遅延や励起光の光路に対する反射光の光路の光路長差の影響等により蛍光や反射光に遅れが生じる。そのため、戻り光が戻ってくるまでに走査部の走査部材が揺動してしまい、戻り光をデスキャンする位置がずれて戻り光の共焦点位置にずれが生じることがある。
【0009】
これに対して、制御部により、走査部の走査速度および/または走査方向に基づいて、ONする微小検出素子の領域を戻り光の遅延に起因する走査部によるデスキャンの位置ずれ方向にずらしおよび/または拡張する制御を自由に行うことで、戻り光に遅れが生じても標本上の対物レンズの焦点位置からの光を精度よく検出することができる。これにより、高速走査時の画像劣化を防止し、良好な画像を取得することができる。
【0010】
上記
第2態様においては、前記制御部が、
前記走査部の走査方向の変化に応じて、ONする前記微小検出素子の領域を前記戻り光の遅延に起因する前記走査部によるデスキャンの位置ずれ方向にずらすとともに、前記走査部が前記走査部材の揺動動作の往復で励起光を走査させる場合に、該走査部材の揺動動作の行きと帰りとでONする前記微小検出素子の領域をずらす方
向を反転させることとしてもよい。
このように構成することで、走査部材の揺動動作の往復で励起光を走査した標本からの戻り光を所定の共焦点効果を維持して検出し、縞ノイズが発生するのを防止することができる。
上記態様においては、前記制御部が、さらに、前記走査部の走査方向の変化に応じて、ONする前記微小検出素子の領域を前記戻り光の遅延に起因する前記走査部によるデスキャンの位置ずれ方向に拡張するとともに、前記走査部が前記走査部材の揺動動作の往復で励起光を走査させる場合に、該走査部材の揺動動作の行きと帰りとでONする前記微小検出素子の領域を拡張する方向を反転させることとしてもよい。
上記第2態様においては、前記制御部が、前記走査部の走査方向の変化に応じて、ONする前記微小検出素子の領域を前記戻り光の遅延に起因する前記走査部によるデスキャンの位置ずれ方向に拡張するとともに、前記走査部が前記走査部材の揺動動作の往復で励起光を走査させる場合に、該走査部材の揺動動作の行きと帰りとでONする前記微小検出素子の領域を拡張する方向を反転させることとしてもよい。
上記第1態様においては、前記走査部の走査速度に基づいて、ONする前記微小検出素子の領域を前記戻り光の遅延に起因する前記走査部によるデスキャンの位置ずれ方向にずらすこととしてもよい。
【0011】
上記
第1態様および第2態様においては、前記走査部が
、正弦波駆動されて走査範囲の中央付近では走査速度が速く前記走査範囲の端付近では走査速度が遅くなるレゾナントスキャナであり、前記制御部が、さらに前記走査部材の揺動角度
に応じて変化する前記走査速度に基づいてONする前記微小検出素子の領域をずらしおよび/または拡張することとしてもよい。
レゾナントスキャナは、
正弦波駆動であり、走査範囲の中央付近は走査速度が速く、一方、走査範囲の端付近は走査速度が遅くな
る。したがって、このように構成することで、走査範囲の中央付近からの戻り光を検出する場合はONする微小検出素子の領域をずらす量および/または拡張する量を大きくする一方、走査範囲の端付近からの戻り光を検出する場合はONする微小検出素子の領域をずらす量および/または拡張する量を小さくすることにより、走査範囲の全域において良好な画像を得ることができる。
【0012】
上記
第1態様および第2態様においては、パルスレーザ光を発振する光源を備え、前記制御部が、さらに標本に付与する蛍光標識の特性に基づいてONする前記微小検出素子の領域をずらしおよび/または拡張することとしてもよい。
蛍光標識ごとに蛍光の遅延特性が異なる。したがって、このように構成することで、蛍光遅延が大きい蛍光標識からの蛍光を戻り光として検出する場合はONする微小検出素子の領域をずらす量および/または拡張する量を大きくする一方、蛍光遅延が小さい蛍光標識からの蛍光を戻り光として検出する場合はONする微小検出素子の領域をずらす量および/または拡張する量を小さくすることにより、使用する蛍光標識に応じて蛍光の遅延特性が変化しても良好な画像を取得し続けることができる。
【0013】
上記
第1態様においては、パルスレーザ光を発振する光源を備え、前記走査部が、レゾナントスキャナであり、印加する共振周波数に応じて走査速度を変更可能としてもよい。
レゾナントスキャナは、印加する共振周波数が高いときは走査速度が速く、一方、印加する共振周波数が低いときは走査速度が遅くなる傾向がある。したがって、このように構成することで、走査部に印加する共振周波数が高いときはONする前記微小検出素子の領域をずらす量および/または拡張する量を大きくし、走査部に印加する共振周波数が低いときはONする前記微小検出素子の領域をずらす量および/または拡張する量を小さくすることにより、走査部に印加する共振周波数を変更しても良好な画像を得ることができる。
【0014】
上記第1態様および第2態様においては、前記戻り光の共焦点位置および/または該共焦点位置での形状を検出する実測値検出部
を備え、前記制御部が、さらに、前記実測値検出部の検出結果に基づいて、ONする前記微小検出素子の領域を前記戻り光の遅延に起因する前記走査部によるデスキャンの位置ずれ方向にずらしおよび/または拡張する
こととしてもよい。
【0015】
本発明によれば、実測値検出部により検出される戻り光の共焦点位置および/または共焦点位置での形状の実測値に基づいて制御部によりONする微小検出素子の領域をずらしおよび/または拡張することで、戻り光に遅れが生じても標本上の対物レンズの焦点位置からの光をより精度よく検出することができる。
したがって、例えば、走査部としてレゾナントスキャナを採用した場合に印加する共振周波数が温度変化したり、標本に付与する蛍光標識ごとに蛍光の遅延特性が変化したりしても、常に良好な画像を取得することができる。
【0016】
本発明
の第3態様は、所定の揺動軸回りに揺動可能な走査部材を有し、光源から発せられた励起光を該走査部材により偏向して標本上で走査させる
、走査速度を変更可能な走査部と、該走査部により走査された励起光を標本に照射する一方、標本からの戻り光を集光する対物レンズと、該対物レンズの焦点位置と共役な位置に配置され、該対物レンズによって集光され前記走査部によってデスキャンされた戻り光を検出する光検出部と、前記対物レンズの焦点位置と共役な位置に配列されたON/OFFを個別に切り換え可能な複数の微小偏向素子を有し、ON状態の該微小偏向素子により戻り光を選択的に前記光検出部に向けて偏向可能な微小偏向素子アレイと、前記走査部の走査速
度に基づいて、ONする前記微小偏向素子の領域を前記戻り光の遅延に起因する前記走査部によるデスキャンの位置ずれ方向にずらしおよび/または拡張する制御部とを備える走査型レーザ顕微鏡装置
である。
本発明の第4態様は、所定の揺動軸回りに揺動可能な走査部材を有し、光源から発せられた励起光を該走査部材により偏向して標本上で走査させる走査部と、該走査部により走査された励起光を標本に照射する一方、標本からの戻り光を集光する対物レンズと、該対物レンズの焦点位置と共役な位置に配置され、該対物レンズによって集光され前記走査部によってデスキャンされた戻り光を検出する光検出部と、前記対物レンズの焦点位置と共役な位置に配列されたON/OFFを個別に切り換え可能な複数の微小偏向素子を有し、ON状態の該微小偏向素子により戻り光を選択的に前記光検出部に向けて偏向可能な微小偏向素子アレイと、前記走査部の走査方向の変化に応じて、ONする前記微小偏向素子の領域を前記戻り光の遅延に起因する前記走査部によるデスキャンの位置ずれ方向にずらしおよび/または拡張する制御部とを備える走査型レーザ顕微鏡装置である。
【0017】
本発明によれば、光源から発せられた励起光が走査部により走査されて対物レンズにより標本に照射されると、標本において発生した蛍光や標本からの反射光のような戻り光が対物レンズにより集光され走査部によりデスキャンされた後、微小偏向素子アレイのON状態の微小偏向素子により偏向されて光検出部により検出される。微小偏向素子および光検出部は対物レンズの焦点位置と共役な位置に配置されているので、戻り光の集光位置に配置された微小偏向素子のみをONすることにより標本上の対物レンズの焦点位置からの光のみを光検出部に精度よく入射させて検出することができる。
【0018】
この場合において、制御部により、走査部の走査速度および/または走査方向に基づいて、ONする微小偏向素子の領域を戻り光の遅延に起因する走査部によるデスキャンの位置ずれ方向にずらしおよび/または拡張することで、戻り光に遅れが生じても標本上の対物レンズの焦点位置からの戻り光のみを光検出部に精度よく入射させて検出することができる。これにより、高速走査時の画像劣化を防止し、良好な画像を取得することができる。
【0019】
上記
第4態様においては、前記制御部が、
前記走査部の走査方向の変化に応じて、ONする前記微小偏向素子の領域を前記戻り光の遅延に起因する前記走査部によるデスキャンの位置ずれ方向にずらすとともに、前記走査部が前記走査部材の揺動動作の往復で励起光を走査させる場合に、該走査部材の揺動動作の行きと帰りとでONする前記微小偏向素子の領域をずらす方
向を反転させることとしてもよい。
このように構成することで、走査部材の揺動動作の往復で励起光を走査した標本からの戻り光を所定の共焦点効果を維持して光検出部に入射させて検出することができる。したがって、縞ノイズが発生するのを防止することができる。
上記態様においては、前記制御部が、さらに、前記走査部の走査方向の変化に応じて、ONする前記微小偏向素子の領域を前記戻り光の遅延に起因する前記走査部によるデスキャンの位置ずれ方向に拡張するとともに、前記走査部が前記走査部材の揺動動作の往復で励起光を走査させる場合に、該走査部材の揺動動作の行きと帰りとでONする前記微小偏向素子の領域を拡張する方向を反転させることとしてもよい。
上記第4態様においては、前記制御部が、前記走査部の走査方向の変化に応じて、ONする前記微小偏向素子の領域を前記戻り光の遅延に起因する前記走査部によるデスキャンの位置ずれ方向に拡張するとともに、前記走査部が前記走査部材の揺動動作の往復で励起光を走査させる場合に、該走査部材の揺動動作の行きと帰りとでONする前記微小偏向素子の領域を拡張する方向を反転させることとしてもよい。
上記第3態様においては、前記制御部が、前記走査部の走査速度に基づいて、ONする前記微小偏向素子の領域を前記戻り光の遅延に起因する前記走査部によるデスキャンの位置ずれ方向にずらすこととしてもよい。
【0020】
上記
第3態様および第4態様においては、前記走査部が
、正弦波駆動されて走査範囲の中央付近では走査速度が速く前記走査範囲の端付近では走査速度が遅くなるレゾナントスキャナであり、前記制御部が、さらに前記走査部材の揺動角度
に応じて変化する前記走査速度に基づいてONする前記微小偏向素子の領域をずらしおよび/または拡張することとしてもよい。
このように構成することで、走査範囲の中央付近からの戻り光を検出する場合はONする微小偏向素子の領域をずらす量および/または拡張する量を大きくする一方、走査範囲の端付近からの戻り光を検出する場合はONする微小偏向素子の領域をずらす量および/または拡張する量を小さくすることにより、走査範囲の全域において良好な画像を得ることができる。
【0021】
上記
第3態様および第4態様においては、パルスレーザ光を発振する光源を備え、前記制御部が、さらに標本に付与する蛍光標識の特性に基づいてONする前記微小偏向素子の領域をずらしおよび/または拡張することとしてもよい。
このように構成することで、蛍光遅延が大きい蛍光標識からの蛍光を検出する場合はONする微小偏向素子の領域をずらす量および/または拡張する量を大きくする一方、蛍光遅延が小さい蛍光標識からの蛍光を検出する場合はONする微小偏向素子の領域をずらす量および/または拡張する量を小さくすることにより、使用する蛍光標識に応じて蛍光の遅延特性が変化しても良好な画像を取得し続けることができる。
【0022】
上記
第3態様においては、パルスレーザ光を発振する光源を備え、前記走査部が、レゾナントスキャナであり、印加する共振周波数に応じて走査速度を変更可能としてもよい。
このように構成することで、走査部に印加する共振周波数が高いときはONする微小偏向素子の領域をずらす量および/または拡張する量を大きくする一方、走査部に印加する共振周波数が低いときはONする微小偏向素子の領域をずらす量および/または拡張する量を小さくすることにより、走査部に印加する共振周波数を変更しても良好な画像を得ることができる。
【0023】
上記第3態様および第4態様においては、前記戻り光の共焦点位置および/または該共焦点位置での形状を検出する実測値検出部
を備え、前記制御部が、さらに、前記実測値検出部の検出結果に基づいて、ONする前記微小偏向素子の領域を前記戻り光の遅延に起因する前記走査部によるデスキャンの位置ずれ方向にずらしおよび/または拡張する
こととしてもよい。
【0024】
本発明によれば、実測値検出部により検出される戻り光の共焦点位置および/または共焦点位置での形状の実測値に基づいて制御部によりONする微小偏向素子の領域をずらしおよび/または拡張することで、戻り光に遅れが生じても標本上の対物レンズの焦点位置からの光を光検出部に精度よく入射させて検出することができる。これにより、常に良好な画像を取得することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、高速走査時の画像劣化を防止して良好な画像を取得可能にすることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態に係る走査型レーザ顕微鏡について図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る走査型レーザ顕微鏡100は、
図1に示すように、レーザ光(励起光)を発生するレーザユニット10と、レーザユニット10から発せられたレーザ光を導光するシングルモードファイバ11と、導光されたレーザ光を平行光に整形するコリメートレンズ13と、整形されたレーザ光を反射可能な3つの励起ダイクロイックミラー15A,15B,15Cと、励起ダイクロイックミラー15A,15B,15Cのいずれかにより反射されたレーザ光を標本S上で2次元的に走査させるガルバノスキャナ(走査部)17と、ガルバノスキャナ17からのレーザ光をリレーする瞳投影レンズ19と、リレーされたレーザ光を集光して像を結像させる結像レンズ23と、集光されたレーザ光を標本Sに照射する一方、標本Sにおいて発生する蛍光を集光する対物レンズ25とを備えている。符合21は瞳投影レンズ19によりリレーされたレーザ光を結像レンズ23に向けて反射する反射ミラーである。
【0028】
レーザユニット10は、蛍光色素で染色した標本Sに対してその励起波長の各レーザ光を出力することができるようになっている。このレーザユニット10は、例えば、励起波長488nmのレーザ光を発振するArレーザ装置(光源)1Aと、励起波長543nmのレーザを発振するHeNe−Gレーザ装置(光源)1Bと、励起波長633nmのレーザ光を発振するHeNe−Rレーザ装置(光源)1Cとを備えている。
【0029】
また、レーザユニット10には、Arレーザ装置1Aから発せられたレーザ光を反射する反射ミラー3と、波長488nmと波長543nmの2つの波長のレーザ光を合成するダイクロイックミラー5と、波長488nmと波長543nmと波長633nmの3つの波長のレーザ光を合成するダイクロイックミラー7と、各波長488nm、543nm、633nmのうち任意の波長のレーザ光を選択する音響光学素子(AOTF)9とが備えられている。
【0030】
3つの励起ダイクロイックミラー15A,15B,15Cは、コリメートレンズ13を透過したレーザ光の光路上に選択的に挿脱可能に配置されている。これらの励起ダイクロイックミラー15A,15B,15Cは、それぞれコリメートレンズ13からのレーザ光を反射する一方、標本Sからの蛍光を透過する特性を有している。
【0031】
具体的には、励起ダイクロイックミラー15Aは、各励起波長488nm,543nm,633nmのレーザ光を反射し、これらレーザ光により励起された標本Sからの蛍光を透過するようになっている。励起ダイクロイックミラー15Bは、励起波長488nmのレーザ光を反射し、励起波長488nmよりも長い波長の光を透過する特性を有している。励起ダイクロイックミラー15Cは、励起波長543nmのレーザ光を反射し、励起波長543nmよりも長い波長の光を透過する特性を有している。
【0032】
これらの励起ダイクロイックミラー15A,15B,15Cは、観察する標本Sの種類により使い分けられる。例えば、励起波長633nmのレーザ光のみを用いて蛍光観察するときや複数の励起波長を用いて多重蛍光観察するときは、励起ダイクロイックミラー15Aを使用する。また、励起波長488nmのレーザ光のみを用いて蛍光観察するときは、励起ダイクロイックミラー15Bを使用する。また、励起波長543nmのレーザ光のみを用いて蛍光観察するときは、励起ダイクロイックミラー15Cを使用する。これにより、蛍光の取り込み効率を高くすることができる。
【0033】
ガルバノスキャナ17は、互いに直交する揺動軸回りに揺動可能な一対のXガルバノミラー(走査部材)17AおよびYガルバノミラー(走査部材)17Bを備えている。Xガルバノミラー17Aはレーザ光を水平方向に走査し、Yガルバノミラー17Bはレーザ光を垂直方向に走査するようになっている。
【0034】
これらXYガルバノミラー17A,17Bは、励起ダイクロイックミラー15A,15B,15Cによるレーザ光の反射光路上に配置されており、励起波長488nm、543nm、633nmの各レーザ光を標本S上で2次元方向(XY方向)に走査することができるようになっている。
【0035】
対物レンズ25は、結像レンズ23を透過したレーザ光を標本Sに照射する一方、レーザ光が照射されることにより標本Sにおいて発生する蛍光を集光するようになっている。対物レンズ25により集光された蛍光は、結像レンズ23、反射ミラー21、瞳投影レンズ19を介してレーザ光の光路を戻り、ガルバノスキャナ17によりデスキャンされて光路上の励起ダイクロイックミラー15A,15B,15Cを透過するようになっている。
【0036】
また、走査型レーザ顕微鏡装置100には、励起ダイクロイックミラー15A,15B,15Cのいずれかを透過した蛍光を集光する共焦点レンズ27と、共焦点レンズ27によって集光された蛍光を検出するCMOSイメージセンサのようなアレイ型検出部30と、音響光学素子9、ガルバノスキャナ17およびアレイ型検出部30を制御する制御部31とが備えられている。
【0037】
アレイ型検出部30は、
図2に示すように、対物レンズ25の焦点位置と共役な位置に2次元的に配列された複数の微小検出素子29を有している。このアレイ型検出部30は、例えば、複数の微小検出素子29の略中心付近が通常の蛍光の共焦点位置(コンフォーカルスポット)に位置するように配置されている。
【0038】
また、アレイ型検出部30は、これら微小検出素子29のON/OFFを個々に切り替えて、共焦点レンズ27によって集光された標本Sからの蛍光をON状態の微小検出素子29により選択的に検出し、OFF状態の微小検出素子29では検出しないようになっている。
【0039】
制御部31は、レーザユニット10からArレーザ装置1A、HeNe−Gレーザ装置1BまたはHeNe−Rレーザ装置1Cを作動させ、音響光学素子9によりその波長のレーザ光を選択的に射出させるようになっている。また、制御部31は、XYガルバノミラー17A,17Bを走査駆動するようになっている。この制御部31は、例えば、ガルバノスキャナ17のXYガルバノミラー17A,17Bの行きの揺動動作中によりレーザ光を走査させるようになっている。
【0040】
この制御部31は、通常は、アレイ型検出部30の中心付近に配置されている微小検出素子29をONして蛍光を検出させるようになっている。また、制御部31は、ガルバノスキャナ17の走査速度および走査方向に基づいて、ONする微小検出素子29の領域を蛍光の遅延に起因するガルバノスキャナ17によるデスキャンの位置ずれ方向にずらしおよび/または拡張するようになっている。蛍光の遅延としては、ガルバノスキャナ17によるレーザ光の走査速度を速くした場合に、標本S上でレーザ光が走査されてから蛍光が発生するまでに掛かる時間の遅れが挙げられる。
【0041】
このように構成された走査型レーザ顕微鏡装置100の作用について説明する。
本実施形態に係る走査型レーザ顕微鏡装置100により標本Sを観察するには、標本Sに蛍光標識を付与し、制御部31によりAOTF9、ガルバノスキャナ17およびアレイ型検出部30を作動させる。
【0042】
例えば、制御部31により、レーザユニット10の音響光学素子9に対してArレーザ装置1Aの選択指令が発せられ、Arレーザ装置1Aから出力される励起波長488nmのレーザ光が音響光学素子9により選択されてレーザユニット10から射出される。
【0043】
レーザユニット10から射出された励起波長488nmのレーザ光は、シングルモードファイバ11を伝送してコリメートレンズ13に導光され、コリメートレンズ13により平行光に整形されて励起ダイクロイックミラー15により反射される。励起ダイクロイックミラー15により反射されたレーザ光は、ガルバノスキャナ17により偏向された後、瞳投影レンズ19を透過して反射ミラー21で反射され、結像レンズ23、対物レンズ25を介して標本S上に光スポットとして結像される。
【0044】
標本S上に結像される光スポットは、ガルバノスキャナ17のXガルバノミラー17Aにより水平方向に走査され、次にYガルバノミラー17Bにより垂直方向に1画素分走査され、再びXガルバノミラー17Aにより水平方向に走査されることが繰り返される。
【0045】
標本S上でレーザ光が走査されることにより例えば中心波長520nmの蛍光が発生すると、その蛍光は対物レンズ25により集光されて、結像レンズ23、反射ミラー21、瞳投影レンズ19、ガルバノスキャナ17A,17Bを介して励起ダイクロイックミラー15Aを透過し、共焦点レンズ27より集光される。
【0046】
共焦点レンズ27より集光された蛍光は、例えば、遅れがない蛍光であればコンフォーカルスポットの本来の位置である複数の微小検出素子29の略中心付近に入射される。各微小検出素子29は対物レンズ25の焦点位置と共役な位置に2次元的に配列されているので、蛍光の集光位置に配置された微小検出素子29のみをONしておくことにより、標本S上の対物レンズ25の焦点位置からの光のみを精度よく検出することができる。
【0047】
この場合において、ガルバノスキャナ17によるレーザ光の走査速度を速くすると、標本S上でレーザ光が走査されてから蛍光が発生するまでの遅延の影響により蛍光に遅れが生じる。そのため、蛍光が戻ってくるまでにガルバノスキャナ17のXYガルバノミラー17A,17Bが揺動してしまい、蛍光をデスキャンする位置がずれて蛍光の共焦点位置にずれが生じることがある。
【0048】
これに対して、本実施形態においては、制御部31により、ガルバノスキャナ17の走査速度および/または走査方向に基づいて、ONする微小検出素29の領域が中心付近から蛍光の遅延に起因するガルバノスキャナ18によるデスキャンの位置ずれ方向にずらされおよび/または拡張される。
【0049】
例えば、ガルバノスキャナ17による蛍光のデスキャンの位置が水平方向の一方にΔXだけずれた場合は、制御部31により、複数の微小検出素子29の略中心からデスキャンの位置ずれ方向にその位置ずれした分だけずれた領域の微小検出素子29がONされる。これにより、
図3(a)に示すように、アレイ型検出部30の中心からΔXだけずれた位置に円形状の検出領域Kが設定される。
【0050】
また、ガルバノスキャナ17による蛍光のデスキャンの位置が水平方向の一方にΔLだけずれた場合で、例えば、蛍光寿命により蛍光の位置ずれが尾を引くような場合は、制御部31により、複数の微小検出素子29の略中心からデスキャンの位置ずれ方向にその位置ずれした分だけ拡張した領域の微小検出素子29がONされる。これにより、
図3(b)に示すように、アレイ型検出部30の中心からΔLだけ延伸した長円形状の検出領域Kが設定される。
【0051】
さらに、ガルバノスキャナ17による蛍光のデスキャンの位置が水平方向の一方に大きくずれた場合で、例えば、蛍光寿命により蛍光の位置ずれが尾を引くような場合は、制御部31により、複数の微小検出素子29の略中心からデスキャンの位置ずれ方向にずらされる(例えばΔX)とともに拡張された(例えばΔL)領域の微小検出素子29がONされる。これにより、
図3(c)に示すように、アレイ型検出部30の中心からΔXだけずれてさらにΔLだけ延伸した長円形状の検出領域Kが設定される。
これにより、蛍光に遅れが生じても標本S上の対物レンズ25の焦点位置からの光を精度よく検出することができる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態に係る走査型レーザ顕微鏡装置100によれば、高速走査時に蛍光遅延によるガルバノスキャナ17のデスキャンに位置ずれが生じても、遅れた蛍光の共焦点位置にアレイ型検出部30の検出領域Kをずらしおよび/または拡張し、標本S上の対物レンズ25の焦点位置からの光を精度よく検出できる。したがって、高速走査時の画像劣化を防止して良好なコンフォーカル画像を取得することができる。
【0053】
本実施形態においては、微小検出素子29が2次元的に配置されていることとしたが、これに代えて、対物レンズ25の焦点位置と共役な位置に1次元的に微小検出素子29を配置することとしてもよい。
【0054】
また、本実施形態においては、XYガルバノミラー17A,17Bの行きの揺動動作中にレーザ光を走査させることとしたが、これに代えて、例えば、XYガルバノミラー17A,17Bの揺動動作の往復でレーザ光を走査させることとしてもよい。この場合、制御部31により、XYガルバノミラー17A,17Bの揺動動作の行きと帰りとでONする微小検出素子29の領域をずらす方向および/または拡張する方向が反転される。
【0055】
例えば、ガルバノスキャナ17による蛍光のデスキャンの位置が水平方向にΔXだけずれた場合は、制御部31により、XYガルバノミラー17A,17Bの揺動動作の行きの走査により発生した蛍光に対しては、
図4(a)に示すようにONする微小検出素子29の領域が略中心から一方向にずらされた円形状の検出領域Kが設定され、XYガルバノミラー17A,17Bの揺動動作の帰りの走査により発生した蛍光に対しては、
図4(b)に示すようにONする微小検出素子29の領域が略中心から一方向にずらされた円形状の検出領域Kが設定される。
【0056】
また、例えば、ガルバノスキャナ17による蛍光のデスキャンの位置が水平方向にΔLだけずれた場合で、蛍光寿命により蛍光の位置ずれが尾を引くような場合は、制御部31により、XYガルバノミラー17A,17Bの揺動動作の行きの走査により発生した蛍光に対しては、
図5(a)に示すようにONする微小検出素子29の領域が水平方向の一方に拡張した長円形状の検出領域Kが設定され、XYガルバノミラー17A,17Bの揺動動作の帰りの走査により発生した蛍光に対しては、
図5(b)に示すようにONする微小検出素子29の領域が水平方向の他方に拡張した長円形状の検出領域Kが設定される。
【0057】
また、例えば、ガルバノスキャナ17によるデスキャンの位置が水平方向の一方に大きくずれた場合で、蛍光寿命により蛍光の位置ずれが尾を引くような場合は、制御部31により、XYガルバノミラー17A,17Bの揺動動作の行きの走査により発生した蛍光に対しては、
図6(a)に示すようにONする微小検出素子29の領域が水平方向の一方に位置をずらしてさらに拡張した長円形状の検出領域Kが設定され、XYガルバノミラー17A,17Bの揺動動作の帰りの走査により発生した蛍光に対しては、
図6(b)に示すようにONする微小検出素子29の領域が水平方向の他方に位置をずらしてさらに拡張した長円形状の検出領域Kが設定される。
【0058】
このようにすることで、XYガルバノミラー17A,17Bの揺動動作の往復でレーザ光を走査した標本Sからの蛍光を所定の共焦点効果を維持して検出することができる。これにより、縞ノイズが発生するのを防ぐことができる。
【0059】
本実施形態は以下のように変形することができる。
本実施形態においては、走査部として、ガルバノスキャナ17を例示して説明したが、第1変形例としては、走査部として、レゾナントスキャナ(図示略)を採用することとしてもよい。
【0060】
この場合、制御部31が、レゾナントスキャナの走査速度、走査方向および揺動角度に基づいて、ONする微小検出素子29の領域をガルバノスキャナ17によるデスキャンの位置ずれ方向にずらしおよび/または拡張することが望ましい。このようにすることで、標本S上の走査範囲ごとに、レゾナントスキャナの走査速度分布に応じた検出領域を設定することができる。
【0061】
すなわち、レゾナントスキャナは、通常は正弦波駆動であり、走査範囲の中央付近は走査速度が速く、一方、走査範囲の端付近は走査速度が遅くなる傾向がある。したがって、本変形例によれば、例えば、
図7(a)に示すように、走査範囲の中央付近からの蛍光を検出する場合はONする微小検出素子29の領域をずらす量および/または拡張する量を大きくした検出領域Kを設定する。また、例えば、
図7(b)に示すように、走査範囲の端付近からの蛍光を検出する場合はONする微小検出素子29の領域をずらす量および/または拡張する量を小さくした検出領域Kを設定する。これにより、走査範囲の全域において良好なコンフォーカル画像を得ることができる。
図7(a)および
図7(b)において、Xn>X0、Ln>L0である。
図8(a)〜
図8(f)において同様である。
【0062】
また、本変形例において、レゾナントスキャナの揺動動作の往復でレーザ光を走査させる場合は、
図8(a)〜
図8(f)に示すように、揺動動作の行きと帰りとでONする微小検出素子29の領域をずらす方向および/または拡張する方向が反転した検出領域Kが設定される。
図8(a)〜
図8(c)は、揺動動作の行きの走査により発生した蛍光に対して設定される検出領域Kの変化を示し、
図8(d)〜
図8(f)は揺動動作の帰りの走査により発生した蛍光に対して設定される検出領域Kの変化を示している。
【0063】
第2変形例としては、Arレーザ装置1Aにより短時間パルスレーザ光(励起レーザパルス)を照射するか、Arレーザ装置1Aの代わりにパルスレーザ(図示略)を配置してパルスレーザ光(励起レーザパルス)を発振し、制御部31が、ガルバノスキャナ17の走査速度および走査方向と、標本Sに付与する蛍光標識の特性とに基づいてONする微小検出素子29の領域をずらしおよび/または拡張することとしてもよい。
【0064】
蛍光標識ごとに蛍光の遅延特性が異なる。本変形例によれば、例えば、蛍光遅延が大きい蛍光標識からの蛍光を検出する場合はONする微小検出素子29の領域をずらす量および/または拡張する量を大きくする一方、蛍光遅延が小さい蛍光標識からの蛍光を検出する場合はONする微小検出素子29の領域をずらす量および/または拡張する量を小さくする。これにより、使用する蛍光標識に応じて蛍光の遅延特性が変化しても、良好なコンフォーカル画像を取得し続けることができる。
【0065】
また、
図9に示すように、蛍光標識ごとに蛍光の遅延特性と共に蛍光の減衰時間も異なる。そのため、遅れがない蛍光はコンフォーカルスポットの本来の位置であるアレイ型検出部30の中心付近に入射するが、蛍光の遅延特性と減衰時間に応じて、コンフォーカルスポットが移動するとともに細長くなる傾向がある。
図9において、縦軸は蛍光強度(I)を示し、横軸は時間(t)を示している。
【0066】
本変形例によれば、蛍光標識の特性に基づいてONする微小検出素子29の領域をずらす量および/または拡張する量を変えることで、蛍光の遅延特性と減衰時間に応じて最適な検出領域を設定することができる。したがって、蛍光の光量を無駄なくとれるので明るさが向上し、画質の劣化を防ぐことができる。
【0067】
第3変形例としては、Arレーザ装置1Aにより短時間パルスレーザ光(励起レーザパルス)を照射するか、Arレーザ装置1Aの代わりにパルスレーザ(図示略)を配置してパルスレーザ光(励起レーザパルス)を発振し、走査部としてガルバノスキャナ17に代えてレゾナントスキャナ(図示略)を採用し、制御部31が、印加する共振周波数に応じてレゾナントスキャナの走査速度を変更することとしてもよい。
【0068】
レゾナントスキャナは、
図10に示すように、印加する共振周波数が高いときは走査速度が速く、一方、印加する共振周波数が低いときは走査速度が遅くなる傾向がある。
図10において、縦軸は蛍光強度(I)を示し、横軸はレゾナントスキャナによる蛍光のデスキャンの位置ずれ量(X)を示している。
【0069】
本変形例によれば、例えば、遅れがない蛍光は、コンフォーカルスポットの本来の位置であるアレイ型検出部30の中心付近に入射するので、中心付近の微小検出素子29がONされる。一方、レゾナントスキャナに印加する共振周波数が高いときはONする微小検出素子29の領域をずらす量および/または拡張する量が大きくする一方、レゾナントスキャナに印加する共振周波数が低いときはONする微小検出素子29の領域をずらす量および/または拡張する量を小さくする。したがって、レゾナントスキャナに印加する共振周波数(例えば、4kHz、8kHz、16kHz)を変更しても良好なコンフォーカル画像を得ることができる。
【0070】
また、本実施形態においては、制御部31が、ガルバノスキャナ17の走査速度および走査方向に基づいてONする微小検出素子29の領域をずらしおよび/または拡張することとしたが、第4変形例としては、例えば、
図11に示すように、走査型レーザ顕微鏡装置100が、蛍光の共焦点位置および共焦点位置での形状を検出する実測値検出部33を備え、制御部31が、実測値検出部33の検出結果に基づいて、ONする微小検出素子29の領域を蛍光の遅延に起因するガルバノスキャナ17によるデスキャンの位置ずれ方向にずらしおよび/または拡張することとしてもよい。
【0071】
この場合、実測値検出部33としては、PSD(Position Sensitive Detector)センサや1次元的または2次元的に配列された撮像素子を採用することとすればよい。また、実測値検出部33をアレイ型検出部30に置き換えて対物レンズ25の焦点位置と共役な位置に配置し、ガルバノスキャナ17の高速走査時のコンフォーカルスポットの位置および/または形状を実測値検出部33により検出することとすればよい。
【0072】
また、実測値検出部33による検出が終了したら、実測値検出部33に置き換えて対物レンズ25の焦点位置と共役な位置にアレイ型検出部30を配置し、制御部31により、実測値検出部33によって検出されたコンフォーカルスポットの位置および/または形状に対応する領域の微小検出素子29をONすることとすればよい。
【0073】
このようにすることで、遅れた蛍光をより精度よく検出することができる。したがって、例えば、走査部としてレゾナントスキャナを採用した場合に印加する共振周波数が温度変化したり、標本Sに付与する蛍光標識ごとに蛍光の遅延特性が変化したりしても、常に良好なコンフォーカル画像を取得することができる。
【0074】
本変形例においては、アレイ型検出部30と実測値検出部33とを置き換えることとしたが、例えば、
図12に示すように、共焦点ミラー27とアレイ型検出部30との間の光路上に光路を切り替え可能な光路切替ミラー35を配置し、光路切替ミラー35により切り替えられる新たな光路に共焦点レンズ37を配置して、対物レンズ25の焦点位置と共役な位置に実測値検出部33を配置することとしてもよい。
【0075】
このようにした場合も、ガルバノスキャナ17の高速走査時に光路切替ミラー35により切り替えられる新たな光路の光のコンフォーカルスポットの位置および/または形状を実測値検出部33により検出し、制御部31により、実測値検出部33によって検出されたコンフォーカルスポットの位置および/または形状に対応する領域の微小検出素子29をONして、光路切替ミラー35により切り替えられる元の光路の蛍光をアレイ型検出部30により検出することで、常に良好なコンフォーカル画像を取得することができる。
【0076】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る走査型レーザ顕微鏡装置200について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る走査型レーザ顕微鏡装置200は、
図13に示すように、アレイ型検出部30に代えて、微小偏向ミラーアレイ(微小偏向素子アレイ)121と、反射ミラー123と、分光ダイクロイックミラー125と、バリアフィルタ127A,127Bと、第1CH側光検出器(光検出部)129Aおよび第2CH側光検出器(光検出部)129Bとを備える点で第1実施形態と異なる。
以下、第1実施形態に係る走査型レーザ顕微鏡装置100と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0077】
微小偏向ミラーアレイ121は、共焦点レンズ27の結像位置、すなわち、共焦点レンズ27を介して標本Sと共役な位置に2次元的に配列された複数の微小偏向ミラー(微小偏向ミラー、図示略)を有し、これら微小偏向ミラーの角度をそれぞれ自在に変更することができるようになっている。微小偏向ミラーは、例えば10μm角に形成されている。
【0078】
この微小偏向ミラーアレイ121は、微小偏向ミラーをON状態の角度とOFF状態の角度に個別に切り替えて、ON状態の微小偏向ミラーにより蛍光を選択的に光検出器129A,129Bに向けて偏向し、OFF状態の微小偏向ミラーにより他の方向に変更することができるようになっている。
【0079】
反射ミラー123は、微小偏向ミラーアレイ121により光検出器129A,129Bに向けて偏向された蛍光を分光ダイクロイックミラー125に向けて反射するようになっている。
分光ダイクロイックミラー125は、例えば、入射した蛍光を波長に応じて透過または反射させて、波長570nmよりも短い波長の蛍光(励起波長488nmの励起で取得された蛍光)と、波長570nmよりも長い波長の蛍光(励起波長543nmまたは633nmの励起で取得された蛍光)とに分ける特性を有している。
【0080】
バリアフィルタ127A,127Bは、それぞれ分光ダイクロイックミラー125からの光の内、レーザ光の反射光をカットし蛍光のみを通過させるようになっている。
第1CH側光検出器129Aおよび第2CH側光検出器129Bは、それぞれ対物レンズ25の焦点位置と共役な位置に配置されている。これら光検出器129A,129Bは、検出した蛍光の強度に相当する光強度信号を制御部31に送るようになっている。
【0081】
制御部131は、響光学素子9、ガルバノスキャナ17および微小偏向ミラーアレイ121を制御するようになっている。この制御部131は、通常は、微小偏向ミラーアレイ121の中心付近に配置されている微小偏向ミラーをONして蛍光を選択的に光検出器129A,129Bに向けて偏向するようになっている。また、制御部131は、ガルバノスキャナ17の走査速度および走査方向に基づいて、ONする微小偏向ミラーの領域を蛍光の遅延に起因するガルバノスキャナ17によるデスキャンの位置ずれ方向にずらしおよび/または拡張するようになっている。
【0082】
また、制御部131は、光検出器129A,129Bから送られてくる光強度信号をガルバノスキャナ17のXYガルバノミラー17A,17Bの揺動角度に対応する画素ごとに積算して標本Sの画像を生成するようになっている。
【0083】
このように構成された走査型レーザ顕微鏡装置200の作用について説明する。
本実施形態に係る走査型レーザ顕微鏡装置200により標本Sを観察する場合は、標本Sにおいて発生してガルバノスキャナ17によりデスキャンされて共焦点レンズ27に入射した蛍光は、共焦点レンズ27により集光されて微小偏向ミラーアレイ121上に光スポットとして結像する。
【0084】
微小偏向ミラーアレイ121上に結像した蛍光は、例えば、遅れがない蛍光であればコンフォーカルスポットの本来の位置である複数の微小偏向ミラーの略中心付近に入射される。各微小偏向ミラーは対物レンズ25の焦点位置と共役な位置に2次元的に配列されているので、蛍光の集光位置に配置された微小偏向ミラーのみをONしておくことにより、標本S上の対物レンズ25の焦点位置からの光のみを光検出器129A,129Bに向けて偏向することができる。
【0085】
ON状態の微小偏向ミラーにより蛍光が選択的に光検出器129A,129Bに向けて偏向されると、その蛍光は反射ミラー123を介して分光ダイクロイックミラー125により波長に応じて分岐される。例えば、波長570nmよりも短い波長の蛍光は、バリアフィルタ127Aを通過して1CH側光検出器129Aにより検出され、波長570nmよりも長い波長の蛍光は、バリアフィルタ127Bを通過して2CH側光検出器129Bにより検出される。
【0086】
光検出器129A,129Bは、それぞれ対物レンズ25の焦点位置と共役な位置に配置されているので、ON状態の微小偏向ミラーアレイ121により選択的に偏向された標本S上の対物レンズ25の焦点位置からの光のみを検出することができる。
【0087】
光検出器129A,129Bにより蛍光が検出されると、その光強度信号が制御部31に送られる。制御部31においては、光検出器129A,129Bから送られてくる光強度信号がガルバノスキャナ17のXYガルバノミラー17A,17Bの揺動角度に対応する画素ごとに積算されて標本Sの画像が生成される。
【0088】
この場合において、制御部31により、ガルバノスキャナ17の走査速度および走査方向に基づいて、ONする微小偏向ミラーの領域を蛍光の遅延に起因するガルバノスキャナ17によるデスキャンの位置ずれ方向にずらしおよび/または拡張することで、蛍光に遅れが生じても標本S上の対物レンズ12の焦点位置からの蛍光のみを光検出器129A,129Bに精度よく入射させて検出することができる。したがって、本実施形態に係る走査型レーザ顕微鏡装置200によれば、高速走査時の画像劣化を防止し、良好なコンフォーカル画像を取得することができる。
【0089】
本実施形態においては、微小偏向ミラーが2次元的に配置されていることとしたが、これに代えて、対物レンズ25の焦点位置と共役な位置に1次元的に微小偏向ミラーを配置することとしてもよい。
【0090】
また、本実施形態においては、XYガルバノミラー17A,17Bの揺動動作の往復でレーザ光を走査させることとしてもよい。この場合、
図4(a),(b)、
図5(a),(b)、
図6(a),(b)の検出領域を形成するON状態の微小検出素子29の領域と同様に、偏向素子制御部131により、XYガルバノミラー17A,17Bの揺動動作の行きと帰りとでONする微小偏向ミラーの領域をずらす方向および/または拡張する方向が反転される。
【0091】
このようにすることで、XYガルバノミラー17A,17Bの揺動動作の往復でレーザ光を走査した標本Sからの蛍光を所定の共焦点効果を維持して光検出器129A,129Bに入射させて検出することができる。これにより、縞ノイズが発生するのを防ぐことができる。
【0092】
本実施形態は以下のように変形することができる。
本実施形態においては、走査部として、ガルバノスキャナ17を例示して説明したが、第1変形例としては、走査部として、レゾナントスキャナ(図示略)を採用することとしてもよい。
【0093】
この場合、
図7(a),(b)、
図8(a)〜(c)の検出領域を形成するON状態の微小検出素子29の領域と同様に、制御部131が、レゾナントスキャナの走査速度、走査方向および揺動角度に基づいて、ONする微小偏向ミラーの領域をガルバノスキャナ17によるデスキャンの位置ずれ方向にずらしおよび/または拡張することが望ましい。このようにすることで、標本S上の走査範囲ごとに、レゾナントスキャナの走査速度分布に応じて標本S上の対物レンズ12の焦点位置からの蛍光のみを光検出器129A,129Bに精度よく入射させることができる。
【0094】
本変形例によれば、レゾナントスキャナによる走査範囲の中央付近からの蛍光を検出する場合はONする微小偏向ミラーの領域をずらす量および/または拡張する量を大きくする一方、走査範囲の端付近からの蛍光を検出する場合はONする微小偏向ミラーの領域をずらす量および/または拡張する量を小さくすることにより、走査範囲の全域において良好なコンフォール画像を得ることができる。
【0095】
第2変形例としては、Arレーザ装置1Aにより短時間パルスレーザ光(励起レーザパルス)を照射するか、Arレーザ装置1Aの代わりにパルスレーザ(図示略)を配置してパルスレーザ光(励起レーザパルス)を発振し、制御部131が、ガルバノスキャナ17の走査速度および走査方向と、標本Sに付与する蛍光標識の特性とに基づいてONする微小偏向ミラーの領域をずらしおよび/または拡張することとしてもよい。
【0096】
本変形例によれば、蛍光遅延が大きい蛍光標識からの蛍光を検出する場合はONする微小偏向ミラーの領域をずらす量および/または拡張する量を大きくする一方、蛍光遅延が小さい蛍光標識からの蛍光を検出する場合はONする微小偏向ミラーの領域をずらす量および/または拡張する量を小さくすることにより、使用する蛍光標識に応じて蛍光の遅延特性が変化しても良好なコンフォール画像を取得し続けることができる。また、本変形例によれば、蛍光の遅延特性と減衰時間に応じて、標本S上の対物レンズ12の焦点位置からの蛍光のみを光検出器129A,129Bに精度よく入射させることができる。
【0097】
第3変形例としては、Arレーザ装置1Aにより短時間パルスレーザ光(励起レーザパルス)を照射するか、Arレーザ装置1Aの代わりにパルスレーザ(図示略)を配置してパルスレーザ光(励起レーザパルス)を発振し、走査部としてガルバノスキャナ17に代えてレゾナントスキャナ(図示略)を採用し、制御部131が、印加する共振周波数に応じてレゾナントスキャナの走査速度を変更することとしてもよい。
【0098】
本変形例によれば、レゾナントスキャナに印加する共振周波数が高いときはONする微小偏向アレイの領域をずらす量および/または拡張する量を大きくする一方、レゾナントスキャナに印加する共振周波数が低いときはONする微小偏向アレイの領域をずらす量および/または拡張する量を小さくする。したがって、レゾナントスキャナに印加する共振周波数(例えば、4kHz、8kHz、16kHz)を変更しても良好な画像を得ることができる。
【0099】
第4変形例としては、走査型レーザ顕微鏡装置200が、蛍光の共焦点位置および共焦点位置での形状を検出するPSDセンサや1次元的または2次元的に配列された撮像素子のような実測値検出部(図示略)を備え、制御部131が、実測値検出部の検出結果に基づいて、ONする微小偏向ミラーの領域を蛍光の遅延に起因するガルバノスキャナ17によるデスキャンの位置ずれ方向にずらしおよび/または拡張することとしてもよい。
【0100】
この場合、
図11のアレイ型検出部30と同様に、実測値検出部を微小偏向ミラーアレイ121に置き換えて実測値を検出することとしてもよい。また、
図12のアレイ型検出部30と同様にして、光路を切り替え可能な光路切替ミラー(図示略)を用いて微小偏向ミラーアレイ121は元の光路に残したまま、光路切替ミラーにより切り替えられる新たな光路上に共焦点レンズ(図示略)を配置するとともに、対物レンズ25の焦点位置と共役な位置に実測値検出部を配置して実測値を検出することとしてもよい。
このようにすることで、蛍光に遅れが生じても標本S上の対物レンズ25の焦点位置からの光を光検出器129A,129Bに精度よく入射させて検出することができ、これにより常に良好な画像を取得することができる。
【0101】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本発明を上記の各実施形態に適用したものに限定されることなく、これらの実施形態を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定されるものではない。
【0102】
また、上記実施形態においては、ガルバノスキャナ17やレゾナントスキャナの走査速度および走査方向に基づいてアレイ型検出部30の検出領域を変更することとしたが、これに代えて、ガルバノスキャナ17やレゾナントスキャナの走査速度または走査方向に基づいてアレイ型検出部30の検出領域を変更することとしてもよい。
【0103】
また、上記実施形態においては、戻り光として標本Sにおいて発生する蛍光を検出する場合を例示して説明したが、これに代えて、標本Sにおいて反射されるレーザ光の反射光を戻り光として検出することとしてもよい。反射光の遅延は、レーザ光の光路に対する反射光の光路の光路長差による影響が挙げられる。