(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205141
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】スポット溶接用の導電板
(51)【国際特許分類】
H01B 5/02 20060101AFI20170914BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20170914BHJP
H01M 2/20 20060101ALN20170914BHJP
【FI】
H01B5/02 Z
B23K11/11 510
!H01M2/20 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-41088(P2013-41088)
(22)【出願日】2013年3月1日
(65)【公開番号】特開2014-170645(P2014-170645A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2016年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(74)【代理人】
【識別番号】100177910
【弁理士】
【氏名又は名称】木津 正晴
(72)【発明者】
【氏名】向笠 博貴
(72)【発明者】
【氏名】酒井 太志
【審査官】
赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−253641(JP,A)
【文献】
実開昭60−096771(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0274963(US,A1)
【文献】
特開2014−056808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/00− 5/16
B23K 11/11
H01M 2/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合相手側部材に溶接される溶接板部を有し、前記接合相手側部材に前記溶接板部を重ね、該溶接板部の上からプラス電極とマイナス電極とを加圧力を付与しながら押し当て、その状態でプラス電極とマイナス電極の間に通電することにより、前記溶接板部を接合相手側部材にスポット溶接するスポット溶接用の導電板であって、
前記溶接板部は、前記導電板の本体の一端に形成された貫通孔の内部にて、前記本体からほぼ切り離された状態、且つ、前記本体とは前記貫通孔の縁部から細長状に延びるヒューズ部のみで繋がった状態で、島状に位置し、
前記溶接板部が、プラス電極が押し当てられる第1の溶接板部と、マイナス電極が押し当てられる第2の溶接板部と、これら第1および第2の溶接板部を分離するために前記第1および第2の溶接板部の間に形成されたスリットと、該スリットにより分離された前記第1および第2の溶接板部を連結する連結部と、を有し、
前記スリットが、前記第1および第2の溶接板部の電極押し当て位置を結ぶ線に交差する方向に沿って形成された主スリット部と、該主スリット部の端部に連続し、前記第1および第2の溶接板部の少なくともいずれか一方の溶接板部の電極押し当て位置の側方に回りこむように延設された補助スリット部とを有することを特徴とするスポット溶接用の導電板。
【請求項2】
前記第1および第2の溶接板部の電極押し当て位置に、前記接合相手側部材に対して前記第1および第2の溶接板部を押し当てる方向に突出した突起部が設けられていることを特徴とするスポット溶接用の導電板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合相手部材である主に電池に対してシリーズスポット溶接(片側スポット溶接)により接合される導電板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
集合電池を作る場合、単電池の電極同士をバスバー(導電板)で接続するが、その際、電池へのバスバーの接合にスポット溶接が利用されている(例えば、特許文献1参照)。電池にバスバーをスポット溶接する場合、重ねた電池側部材とバスバーとを上下から溶接電極で挟んでスポット溶接することができないので、バスバーの上から2つの電極を押し当てて直列に通電するシリーズスポット溶接が利用されている。
【0003】
シリーズスポット溶接は、重ね合わせた複数の金属板の一方の表面に一対の電極を当接させて通電し、この通電による抵抗発熱で金属板を加熱すると共に、電極の加圧力で金属板同士を押し付けることにより、金属板同士を接合するものである。
【0004】
ところで、バスバーの上からプラスの電極とマイナスの電極を押し当てて通電した場合、バスバー内部を直接流れる無効分流が発生する。その無効分流を少なくするため、2つのスポット溶接点の間にスリットを設けることが、特許文献2において提案されている。
【0005】
この技術では、
図4に示すように、電池240に接続されるリード端子210(バスバーに相当)の平板部211に、底に平坦面を有する凹状部220を形成し、凹状部220の平坦面にスリット225を設け、スリット225の両側の位置を、プラスとマイナスの電極を押し当てて溶接するスポット溶接点221としている。
【0006】
このリード端子210によれば、リード端子210の内部を通ってプラス電極からマイナス電極へ最短経路で流れる無効分流を遮断することができるので、本来溶接に使わなければならない電流エネルギーのロス分を軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−301982号公報
【特許文献2】特開平7−211307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、2つのスポット溶接点の間に直線的にスリットを設けるだけでは、スリットを迂回する経路を通して流れる無効分流を少なくできない。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、導電板の内部をプラス電極からマイナス電極に直接流れる無効分流をできるだけ生じさせないようにしたスポット溶接用の導電板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するために、本発明に係るスポット溶接用の導電板は、下記(1)および(2)を特徴としている。
(1) 接合相手側部材に溶接される溶接板部を有し、前記接合相手側部材に前記溶接板部を重ね、該溶接板部の上からプラス電極とマイナス電極とを加圧力を付与しながら押し当て、その状態でプラス電極とマイナス電極の間に通電することにより、前記溶接板部を接合相手側部材にスポット溶接するスポット溶接用の導電板であって、
前記溶接板部は、前記導電板の本体の一端に形成された貫通孔の内部にて、前記本体からほぼ切り離された状態、且つ、前記本体とは前記貫通孔の縁部から細長状に延びるヒューズ部のみで繋がった状態で、島状に位置し、
前記溶接板部が、プラス電極が押し当てられる第1の溶接板部と、マイナス電極が押し当てられる第2の溶接板部と、これら第1および第2の溶接板部を分離するために前記第1および第2の溶接板部の間に形成されたスリットと、該スリットにより分離された前記第1および第2の溶接板部を連結する連結部と、を有し、
前記スリットが、前記第1および第2の溶接板部の電極押し当て位置を結ぶ線に交差する方向に沿って形成された主スリット部と、該主スリット部の端部に連続し、前記第1および第2の溶接板部の少なくともいずれか一方の溶接板部の電極押し当て位置の側方に回りこむように延設された補助スリット部とを有すること。
(2) 上記(1)の構成において、
前記第1および第2の溶接板部の電極押し当て位置に、前記接合相手側部材に対して前記第1および第2の溶接板部を押し当てる方向に突出した突起部が設けられていること。
【0011】
上記(1)の構成スポット溶接用の導電板によれば、プラス電極が押し当てられる第1の溶接板部と、マイナス電極が押し当てられる第2の溶接板部とを分離する目的で第1の溶接板部と第2の溶接板部の間に形成されたスリットが、第1および第2の溶接板部の電極押し当て位置を結ぶ線に交差する方向に沿って形成された主スリット部と、溶接板部の電極押し当て位置の側方に回りこむように延設された補助スリット部とを有しているので、第1の溶接板部と第2の溶接板部とを繋ぐ連結部の長さ(迂回路)を補助スリット部を設けた分だけ長くすることができ、連結部の抵抗値を高めることができる。従って、連結部を通して流れる無効分流を少なくすることができ、本来溶接に供されるべき電流エネルギーのロスを小さくして、より効果的な溶接を行うことが可能になる。しかも、主スリット部に補助スリット部を延長するだけでよいので、連結部の板厚を薄く形成して連結部の抵抗値を増やすなどの面倒な対策を講じる必要がなく、プレス成形のみで作製することができる。
上記(2)の構成スポット溶接用の導電板によれば、第1および第2の溶接板部の溶接箇所にプロジェクション(突起部)を設けているので、この突起部に電流を集中して流すことができ、溶接効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プラス電極が押し当てられる第1の溶接板部と、マイナス電極が押し当てられる第2の溶接板部とを繋ぐ連結部を通して流れる無効分流を少なくすることができ、本来溶接に供されるべき電流エネルギーのロスを小さくすることができる。しかも、主スリット部に補助スリット部を延長するだけでよいので、連結部の板厚を薄く形成する等の面倒な対策を講じる必要がなく、プレス成形のみで簡単に作製することができる。
【0013】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1(a)及び
図1(b)は、本発明の実施形態のバスバーの構成図で、
図1(a)は部分斜視図、
図1(b)は要部の無効分流の流れる経路を示す平面図である。
【
図2】
図2は、前記バスバーの溶接板部を電池の電極板にシリーズスポット溶接している状態を示す要部側面図である。
【
図3】
図3(a)及び
図3(b)は、前記実施形態に対する比較例のバスバーの構成を示す図で、
図3(a)は部分斜視図、
図3(b)は要部の無効分流の流れる経路を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は実施形態のバスバーの構成図で、
図1(a)は部分斜視図、
図1(b)は要部の無効分流の流れる経路を示す平面図、
図2はバスバーの溶接板部を電池の電極板にシリーズスポット溶接している状態を示す要部側面図、
図3は実施形態に対する比較例のバスバーの構成を示す図で、
図3(a)は部分斜視図、
図3(b)は要部の無効分流の流れる経路を示す平面図である。
【0016】
図1(a)に示すように、この実施形態のバスバー(導電板)10は、平板状のバスバー本体10Aの一端11に開口12を有しており、その開口12の内部に島状の溶接板部20を有している。溶接板部20は、
図2に示すように、接合相手側部材である電池40の電極板41に重ねて溶接される部分であり、バスバー本体10Aからほぼ切り離された形とされて、バスバー本体10Aの板面より一段低い位置に配置され、断面積を小さくしたヒューズ部15でのみバスバー本体10Aにつながっている。
【0017】
この溶接板部20を溶接する場合は、
図2に示すように、電池40の電極板41に溶接板部20を重ね、溶接板部20の上からプラス電極31とマイナス電極32とを加圧力を付与しながら押し当て、その状態でプラス電極31とマイナス電極32の間に通電する。そうすると、プラス電極31からマイナス電極32に矢印Bで示すように電流が流れ、電極板41と溶接板部20とが接している部分の抵抗により当該部分が発熱して、接触点に2つのナゲットが形成され、この2つのナゲットにより電極板41と溶接板部20が溶接される。
【0018】
その際、溶接板部20の内部を通してプラス電極31からマイナス電極32に無効電流が流れる。そこで、その無効電流をできるだけ少なくするために、溶接板部20は、
図1(a)及び
図1(b)に示すように、プラス電極31が押し当てられる第1の溶接板部21と、マイナス電極32が押し当てられる第2の溶接板部22と、これら第1および第2の溶接板部21、22を分離するために第1および第2の溶接板部21、22の間に形成されたスリット25と、スリット25により分離された第1および第2の溶接板部21、22とを相互連結する連結部23と、を有する構成とされている。
【0019】
スリット25は、溶接板部20の一側縁から他側縁に向かって延びており、連結部23は、他側縁側にだけ残されている。また、ヒューズ部15は、第2の溶接板部22のスリット25と反対側の外側縁部の連結部23から遠い位置に接続されている。
【0020】
この場合、第1および第2の溶接板部21、22を分けるスリット25は、第1および第2の溶接板部21、22の電極押し当て位置21a、22aを結ぶ線Lに交差する方向に沿って形成された主スリット部26と、主スリット部26の連結部23側の端部に連続し、第2の溶接板部22の電極押し当て位置22aの側方に回りこむように延設された補助スリット部27と、を有した略L字形の経路で形成されている。
【0021】
また、第1および第2の溶接板部21、22の電極押し当て位置21a、22aの中心には、接合相手側部材である電池40に対して第1および第2の溶接板部21、22を押し当てる方向に突出した突起部(プロジェクション)21b、22bが設けられている。
【0022】
以上の構成のバスバー10に対して、
図3に示す比較例のバスバー110では、スリット25が主スリット部26に相当する分だけしか設けられていない。その点に違いがある。
【0023】
この比較例のバスバー110では、第1の溶接板部21と第2の溶接板部22とを繋ぐ連結部23の長さが、主スリット部26を迂回する分だけしか確保されない。従って、無効分流の流れる経路が短く、連結部23の抵抗値が高くならず、連結部23を通って流れる無効分流(矢印Cの経路で流れる電流)が大きくなる。これを防ぐための対策として、連結部23の板厚を薄くして連結部23の抵抗値を大きくすることが考えられるが、連結部23だけ板厚を薄くすることは加工に困難が伴う。
【0024】
これに対して、上記構成の本発明の実施形態のバスバー10は、スリット25が、第1および第2の溶接板部21、22の電極押し当て位置21a、22aを結ぶ線Lに交差する方向に沿って形成された主スリット部26と、第2の溶接板部22の電極押し当て位置22aの側方に回りこむように延設された補助スリット部27とを有した略L字形の経路で形成されているので、第1の溶接板部21と第2の溶接板部22とを繋ぐ連結部23の長さが、補助スリット部27を迂回する分だけ長くなる。従って、無効分流の流れる経路が長くなり、連結部23の抵抗値を高めることができ、連結部23を通って流れる無効分流(矢印Aの経路で流れる電流)を少なくすることができる。そのため、本来溶接に供されるべき電流エネルギーのロスを小さくして、より効果的な溶接を行うことが可能になる。
【0025】
しかも、主スリット部26に補助スリット部27を延長するだけでよいので、連結部23の板厚を薄く形成して連結部23の抵抗値を増やすなどの面倒な対策を講じる必要がなく、プレス成形のみで作製することができる。
【0026】
また、本実施形態のバスバー10によれば、第1および第2の溶接板部21、22の溶接箇所に突起部(プロジェクション)21b、22bを設けているので、これらの突起部21b、22bに電流を集中して流すことができ、溶接効果を高めることができる。
【0027】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0028】
例えば、上記実施形態では、第1の溶接板部21と第2の溶接板部22を繋ぐ連結部23を溶接板部20の片方の側縁にしか設けていないが、連結部23を溶接板部20の両方の側縁に設けて、スリット25を溶接板部20の両方の側縁の内側に形成するようにしてもよい。その場合、スリット25は、補助スリット部27が第1の溶接板部21の電極押し当て位置21aの両側方に回りこむようにコ字状に設けるか、補助スリット部27が第2の溶接板部22の電極押し当て位置22aの両側方に回りこむようにコ字状に設けるか、補助スリット部27が第1の溶接板部21の電極押し当て位置21aの両側方と第2の溶接板部22の電極押し当て位置22aの両側方とにそれぞれ回りこむようにH字状に設けるかするのがよい。
【符号の説明】
【0029】
10 バスバー
20 溶接板部
21 第1の溶接板部
21a 電極押し当て位置
21b 突起部
22 第2の溶接板部
22a 電極押し当て位置
22b 突起部
23 連結部
25 スリット
26 主スリット部
27 補助スリット部
31 プラス電極
32 マイナス電極
L 電極押し当て位置を結ぶ線