(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
積層インダクタを構成する磁性層と非磁性層は、それぞれ磁性材料からなるシート状のセラミックス(磁器組成物)と非磁性材料からなるシート状の磁器組成物である。そのため、磁性材料と非磁性材料の熱収縮特性が乖離していると焼成時に磁性層と非磁性層との界面にずれが生じ、焼結密度が低下する。もちろん電子部品としての寸法精度も劣化し製品としての品質の均一性を確保できない。
【0006】
そのため、磁性層を構成する磁性材料が基本的にスピネル型のフェライトであることから、非磁性層を構成する非磁性材料についても組成中のFe
2O
3の割合が50mol%程度のスピネル型のフェライトを用いて磁性材料の熱収縮特性と大きく乖離しないようにしている。また、積層インダクタでは、磁性層と非磁性層との層間に電極パターンを形成しているため、その電極パターンにおいて短絡が発生しないように非磁性材料には十分に高い絶縁特性も要求されている。そして上記特許文献2や3には、積層インダクタの用途に適した非磁性材料の組成について記載されていた。
【0007】
ところが、積層インダクタは、磁性層と非磁性層を含む積層体を磁器組成物として焼結させることで製造される電子部品であり、特許文献2や3に記載の非磁性材料を含め、従来の非磁性材料では、その焼成によって積層インダクタの直流重畳特性が劣化するという問題があることが判明した。具体的には、焼結時に磁性層に含まれるNiやCuなどの磁性体を含む物質が非磁性層のFe
2O
3内に拡散し、非磁性層の物理的な厚さが同じでも磁気ギャップとして機能する非磁性層の厚さが実質的に減少し、期待されたほどの直流重畳特性が得られないという問題がある。また、磁性体の拡散も一様でないため、磁気ギャップとして機能する厚さも不均一となる。それによって積層インダクタの直流重畳特性が劣化するとともに、積層インダクタの特性が固体間で不均一になる。
【0008】
そこで非磁性材料であるフェライトの組成において、Fe
2O
3以外の主要な成分であるZnの割合を増やすことが考えられるが、Znの割合を増やすと焼結温度が高くなり、焼結体として十分な密度を確保しようとすれば焼結温度が電極パターンを形成するAgの融点を超えてしまう。Agの融点以下で低温焼成すると十分な密度が維持できず、磁性層と非磁性層との界面で熱収縮特性の不一致に起因する「ずれ」が発生し、電子部品としての寸法精度が劣化する。
【0009】
本発明は以上のような問題に鑑みなされたもので、その主たる目的は、積層インダクタにおいて、磁性層からの磁性物質の拡散に起因する直流重畳特性の劣化を防止しつつ、低温焼成が可能な非磁性材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、積層インダクタにおいて磁気ギャップとして機能する非磁性層を構成する非磁性材料であって、
amol%のFe
2O
3とbmol%のZnOとcmol%のCuO
からなる非磁性フェライト材料に、dwt%のBi
2O
3を添加成分として含有し、
a+b+c=100、30≦a≦40、
5≦c≦10、0<d≦
1.5である、
ことを特徴とする非磁性材料として
いる。
【0011】
本発明は、非磁性磁器組成物の製造方法にも及んでおり、当該製造方法に係る発明は、
a+b+c=100、
30≦a≦40、
5≦c≦10として、
amol%のFe
2O
3とbmol%のZnOとcmol%のCuOを混合して得た混合物を900℃よりも低い温度で仮焼成するステップと、
前記仮焼成によって得た所定の粒度以下の粉末にさらに解砕するステップと、
0<d≦
1.5として、前記所定の粒度以下の粉末に対してdwt%のBi
2O
3を添加したものにバインダーを加えて造粒物を得るステップと、
前記造粒物を所定の形状の成形体に成形するステップと、
前記成形体を銀の融点以下の温度で焼成して焼結体を得るステップと、
を含むことを特徴と
する非磁性磁器組成物の製造方法としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の非磁性材料によれば、積層インダクタの非磁性層に適用した際に、低温焼成を可能としつつ、磁性層からの磁性体の拡散に起因する直流重畳特性の劣化を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
===本発明の技術思想===
上述したように、従来の積層インダクタの非磁性層に用いられている非磁性材料では、磁性層からのNiやCuなどの磁性体が拡散するという現象により、期待された直流重畳特性が得られず、特性も不均一になるという問題があった。しかしこの現象は、積層インダクタが磁性層と非磁性層からなる焼結体である以上原理的に抑制することは不可能である。そこで本発明者は、磁性体の拡散自体を抑制するのではなく、拡散できる磁性体の量を制限することで直流重畳特性の劣化を最小限に抑制するという発想の転換を試みた。
【0015】
概略的には、磁性材料も非磁性材料も主要な組成としてFe
2O
3を含んでおり、磁性層からの磁性体が非磁性層のFe
2O
3中に拡散することは不可避な現象であると判断し、その代わり、非磁性材料中のFe
2O
3の割合を少なくして拡散できる磁性体の量を制限するという技術思想に想到した。もちろん、Fe
2O
3の割合を単純に少なくしただけでは十分な密度が得られない可能性がある。焼結性を確保するために非磁性材料の組成を安易に変えれば絶縁抵抗が増大することも考えられる。焼結させるための焼成温度がAgの融点を超えてしまう場合もある。本発明は、上記技術思想を出発点としつつ、想定される様々な問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果なされたものである。
【0016】
そして本発明の実施例に係る非磁性材料では、焼結性を確保するための焼結助剤の種類や添加量が最適化されて、Agの融点以下である900℃での低温焼成でも従来と同等かそれ以上の密度が確保され、積層インダクタにおける非磁性層として十分に高い絶縁性能も有している。以下では、本発明の実施例に係る非磁性材料の組成について説明する。
【0017】
===非磁性材料の組成の最適化===
本発明の実施例に係る非磁性材料の組成を規定するために、組成が異なる各種非磁性材料からなる焼結体、磁性材料と組成が異なる各種磁性材料との混合材料の焼結体、あるいは積層インダクタと同様に磁性層と組成が異なる各種磁性材料からなる非磁性層との積層体を焼成した焼結体をサンプルとして作製し、各種サンプルについて種々の特性を評価した。
【0018】
<サンプルの製造方法>
本発明の実施例に係る非磁性材料の組成を規定するのにあたり、まずFe
2O
3の割合を少なくしつつ、焼結体として十分に高い密度と絶縁体として十分に高い抵抗値が得られる条件を求めた。
図1に当該条件を求めるためのサンプルの作製手順を示した。まず、Zn系フェライトの原料としてFe
2O
3とZnO、およびサンプルに応じて焼結助剤となるCuOを秤量した上で混合し(s1→s2→s4またはs1→s3→s4)、その混合物(以下、非磁性フェライト材料)を700〜850℃で仮焼成する(s5)。その仮焼成によって得られた粉体をボールミルにて20時間以上解砕し、最終的に1μm以下の粉体にする(s6)。ここでサンプルに応じて解砕後の粉末に焼結助剤であるBi
2O
3を混合する(s7→s8)。なお、Bi
2O
3はCuOよりも焼結性を高める効果が高いため、非磁性フェライト材料とともに添加して仮焼成すると、その仮焼成時の温度で焼結してしまう可能性がある。そこでBi
2O
3は仮焼成工程(s5)の後に添加している。
【0019】
そして解砕した粉体、あるいはその粉体と必要に応じて添加したBi
2O
3との混合物にバインダーとしてPVA水溶液を加えて混合し、適宜な大きさの粒子径となるように造粒する(s8→s9またはs6→s7→s9)。さらにその造粒物を目的とする形状に成形する(s10)。ここではリング状に成形した。そして、その成形体をAgの融点以下である900℃で焼成し、サンプルとなる焼結体を得た(s11)。
【0020】
<絶縁抵抗と密度>
以下の表1に、各サンプルの組成と絶縁抵抗と密度を示した。
【表1】
【0021】
表1に示したように、作製したサンプルは、Zn系フェライトの主要な組成であるFe
2O
3とZnOに焼結助剤としてCuOとBi
2O
3のいずれか、あるいは両方が添加されたものである。ここでは、組成が異なる9種類のサンプル(サンプル1〜9)を作製した。
【0022】
表1に示した各種サンプルにおいて、サンプル9は従来の非磁性材料に相当し、Fe
2O
3の割合が49mol%で、残りの51mol%が当該Fe
2O
3とともにZn系フェライトの主成分であるZnOと焼結助剤であるCuOである。そして、CuOの含有量は、焼結体として十分軟密度である5.0g/cm
2と1.0×10
10Ω(1.0×10
4MΩ)以上の絶縁抵抗が得られるように11mol%に調整されている。
【0023】
一方、本発明の実施例に係る非磁性材料は、積層インダクタにおいて磁性層から非磁性層に拡散してくる磁性体の量を制限することで直流重畳特性の劣化を抑制するという技術思想に基づく組成が条件となることから、従来の非磁性材料に相当するサンプル9(以下、比較例1とも言う)以外のサンプル1〜8は、比較例1におけるFe
2O
3の割合(49mol%)よりも20%程度低い40mol%以下に設定した。ZnOの割合については、ZnOが焼成温度の上昇、すなわち低温焼成では密度が低下する要因であることを鑑み、敢えて比較例1に対して相対的に故意に増加させて一律に60mol%に設定している。すなわち、ここでは不利な条件でも低温焼成によって十分に高い密度が得られる組成を見出すことを目的とした。CuOについては、Fe
2O
3の割合に応じてその割合を変えた。したがって、仮焼成の前に混合される原料であるFe
2O
3、ZnO、CuOについては、各原料の割合を合計すると100mol%となる。
【0024】
表1に示した結果より、比較例1の絶縁抵抗と密度を基準として、その基準と同等以上となる条件について検討した。その結果、サンプルCuOの割合が相対的に多かった4、5において絶縁抵抗が比較例1よりも2桁〜3桁程度低下した。また、サンプル2では、CuOの割合がサンプル9の11mol%よりも低い10mol%であったが、絶縁抵抗がサンプル9と同じであった。以上の結果から、CuOの割合が多いほどは絶縁抵抗が低下し、Fe
2O
3を40mol%以下とした場合ではCuOの割合を10mol%以下にすれば比較例1と同等以上の十分な絶縁抵抗が得られることが分かった。
【0025】
一方、密度については、Bi
2O
3が添加されていないサンプル4でのみがサンプル9の密度を下回った。またサンプル6〜8は、組成中にCuOが含まれていなかったが密度はサンプル9の特性を上回った。したがって、Fe
2O
3とZnOとCuOからなる組成を100mol%としたときにその組成中でCuOは10mol%以下であることが条件となり、Bi
2O
3の添加は必要であってもCuOは必要条件ではなく、Fe
2O
3とZnOとCuOからなる非磁性フェライト材料において0mol%以上10mol%以下が条件となる。
【0026】
<透磁率>
つぎに、積層インダクタにおける磁性層から非磁性層へのNiなどの磁性体の拡散にともなう直流重畳特性の劣化を抑制するための条件を求めるために、非磁性材料の原料と磁性材料の原料とを含む一体的な焼結体をサンプルとして作製し、各サンプルの透磁率を測定した。
図2はサンプルの作製手順を示す図であり、
図1に示したサンプルの作製手順を基本としつつ、
図1における非磁性フェライト材料を秤量する工程(s1)とその非磁性フェライト材料の原料を混合する工程(s4)が、非磁性フェライト材料とともにNi−Znフェライト磁性材料(以下、磁性材料)の原料を秤量する工程(s21)と非磁性フェライト材料と磁性材料のそれぞれの原料を混合する工程(s22)に置換されている。また、ここでは全てのサンプルにおいて非磁性フェライト材料中にCuOを含ませている。そして、
図1における仮焼成工程(s5)から焼成工程(s11)までは同じ手順(s23〜s29)となっている。なお、磁性材料の原料には「フェライト磁性粉末」などと呼ばれる市販品を用いることができる。
【0027】
表2に各サンプルの組成と透磁率との関係を示した。
【表2】
【0028】
表2において、サンプル16(以下、比較例2とも言う)は比較例1の組成に磁性材料の原料を加えて焼成したものであり、この比較例2の透磁率が表2に示した他のサンプル10〜15の透磁率を評価する上での基準となる。そして、磁性層から非磁性層への磁性体の拡散にともなう直流重畳特性の劣化が非磁性層におけるFe
2O
3の量に依存すると考えられることから、サンプル10〜15ではZnフェライトにおけるFe
2O
3の割合を変えている。またサンプル10〜15におけるZnフェライト中のCuOについては、表1に示した結果から10mol%以下としている。ここでは5mol%あるいは10mol%としている。なお、サンプル10〜15におけるBi
2O
3の添加量については、比較例2と同等の密度となるように調整した。磁性材料の原料の混合量については、比較例2における透磁率が65となるように調整し、他のサンプル10〜15もこの比較例2と同じ量を混合している。
【0029】
そして表2に示した各サンプルの透磁率から、ZnフェライトにおけるFe
2O
3の割合が40mol%より多いサンプル10、13、14では、透磁率が比較例と同等以上であった。したがって、ZnフェライトにおけるFe
2O
3の割合は40mol%以下であることが条件となる。そして、表1に示した結果からCuOの割合の上限が10mol%であったことから、このときのFe
2O
3の割合である30mol%をFe
2O
3の割合の上限として規定した。すなわち、仮焼成前の非磁性フェライト材料におけるFe
2O
3の割合を30mol%以上40mol%以下、CuOの割合を0mol%以上10mol%以下、残りをZnOとするとともに、仮焼成後にBi
2O
3を添加して焼成すれば、比較例1と同等以上の絶縁抵抗と密度が確保できる。そして、非磁性フェライト材料にさらに磁性材料を混合して焼成して得た焼結体では透磁率が比較例2よりも減少していることから、上記組成を有する非磁性材料を積層インダクタの非磁性層として採用すれば直流重畳特性の劣化を防止することができる。
【0030】
<Bi
2O
3の添加量>
表1の結果から、Bi
2O
3を添加することは必須の条件であった。すなわち、Znフェライトに対して0wt%よりも多い量を添加する必要があった。しかし、Bi
2O
3は焼結性の向上効果が極めて高いため添加量が多すぎると、積層インダクタにおける磁性層の結晶性を阻害する可能性もある。具体的には、積層インダクタはシート状の磁性材料と非磁性材料とを電極パターンとなる電極層を介して積層した積層体を焼結させることで製造されるため、非磁性材料に多量のBi
2O
3が添加されていると、磁性層や電極層に異常な粒成長が発生し、磁性層や電極層の強度や焼結性が変化してしまう可能性がある。Agの焼結性が損なわれれば電極層の配線に短絡が発生する場合もある。そこでBi
2O
3の最適添加量を求めるために、シート状の磁性材料とBi
2O
3の添加量が異なるシート状の各種非磁性材料を積層した上で焼成した焼結体をサンプルとして作製した。
図3に当該焼結体の製造方法を示した。基本的には
図1に示した製造手順と同じであるが、ここでは非磁性材料と磁性材料を個別にシート状に成形し(s31〜s38、s39〜s41)、それらのシートを積層した上で焼結体に焼成している(s42、s43)。そして、その焼結体をSEMなどを用いて観察し、磁性層における焼結性(結晶成長の状態)を評価した。
【0031】
表3に各サンプルの組成と磁性層の焼結性との関係を示した。
【表3】
【0032】
表3に示したように、作製したサンプルは、Bi
2O
3の添加量の影響のみを発現させるためにBi
2O
3以外の組成を全て同じにしている。またBi
2O
3と同じ焼結助剤であるCuOも含ませていない。そして表3に示したように、Bi
2O
3を2.0wt%および3.0wt%添加したサンプル17および18では磁性層の焼結性に異常が見られなかったが、4.0wt%添加したサンプル19で異常があることが観察された。したがってBi
2O
3の添加量の上限を3.0mol%以下と規定することができる。すなわち、本発明の実施例に係る非磁性材料におけるBi
2O
3の最適添加量は非磁性フェライト材料に対して0wt%より多く3.0wt%以下なる。
【0033】
<CuOとBi
2O
3>
以上より、本発明の実施例に係る非磁性材料は、Fe
2O
3とZnOを主成分としつつ必要に応じてCuOを含む非磁性フェライト材料にBi
2O
3が添加されたものである。そして非磁性フェライト材料の組成は、Fe
2O
3とZnOとCuOの割合の合計を100mol%として、Fe
2O
3が30mol%以上40mol%以下、CuOが0mol%以上10mol%以下で、残りがZnOであり、Bi
2O
3の添加量は非磁性フェライト材料に対して0wt%より多く3.0wt%以下である。
【0034】
ところで、Biは高価なレアメタルであるため、非磁性材料中のBi
2O
3の量は少ない方がより好ましい。そこで、焼結助剤であるBi
2O
3を減量するともに非磁性フェライト材料の組成において同じ焼結助剤であるCuOを可能な限り多くすることが考えられる。そして、表2のサンプル11、23,15の組成からCuOの割合を5mol%以上10mol%以下とすると、Bi
2O
3の添加量の上限を1.5wt%まで少なくできることがわかる。