(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205185
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】排ガス再循環式ガスタービン用の耐エロージョン・耐食性皮膜
(51)【国際特許分類】
C23C 30/00 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
C23C30/00 A
【請求項の数】13
【外国語出願】
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-128042(P2013-128042)
(22)【出願日】2013年6月19日
(65)【公開番号】特開2014-1454(P2014-1454A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2016年6月8日
(31)【優先権主張番号】13/528,149
(32)【優先日】2012年6月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390041542
【氏名又は名称】ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(74)【代理人】
【識別番号】100113974
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 拓人
(72)【発明者】
【氏名】クリッシュナマシー・アナンダ
(72)【発明者】
【氏名】ユック−チウ・ラウ
(72)【発明者】
【氏名】ポール・マシュー
(72)【発明者】
【氏名】スリダル・シン・パブラ
(72)【発明者】
【氏名】グルプラサド・スンダララジャン
(72)【発明者】
【氏名】モハンダス・ナイェク
【審査官】
坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−345805(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0297720(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/08,30/00
F01D 5/28
F01K 25/00
F04D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルテンサイト系ステンレス鋼基材と、
マルテンサイト系ステンレス鋼基材を被覆するコバルト基耐摩耗皮膜であって、タングステンカーバイドの析出物を含むコバルト基合金を含むコバルト基耐摩耗皮膜と
を含む耐摩耗部品であって、コバルト基耐摩耗皮膜が、コバルト基皮膜に分布したNiOを含む犠牲金属系材料の粒子をさらに含んでいて、犠牲金属系材料が、腐食性環境での基材の電解腐食を防ぐアノードとして機能する、耐摩耗部品。
【請求項2】
マルテンサイト系ステンレス鋼基材を被覆するコバルト基皮膜が、重量%で、0.9〜1.4%のC、28〜32%のCr、3.5〜5.5%のW、3%以下のNi、1.5%以下のMo、3.0%以下のFe、2%以下のMn及び残部のCoの公称組成を有する合金を含む、請求項1記載の耐摩耗部品。
【請求項3】
犠牲金属系材料が、さらに、酸化セリウム、Cr2O3、Al2O3及びこれらの組合せからなる群から選択される材料を含む、請求項1又は請求項2記載の耐摩耗部品。
【請求項4】
前記粒子の体積分率が15%以上である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の耐摩耗部品。
【請求項5】
前記粒子が100nm〜2000nmの粒度分布を有する、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の耐摩耗部品。
【請求項6】
マルテンサイト系ステンレス鋼製の耐摩耗部品が析出硬化型ステンレス鋼を含む、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の耐摩耗部品。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の耐摩耗部品を含む、ガスタービンエンジンの圧縮機セクションで使用される圧縮機ブレードであって、
前記基材が、ブレード部、ダブテール部及びブレード部とダブテール部との中間にあるプラットフォーム部を有し、ブレード部がダブテール部とは反対側の先端において終端するマルテンサイト系ステンレス鋼製圧縮機ブレードをなす、圧縮機ブレード。
【請求項8】
マルテンサイト系ステンレス鋼製の圧縮機ブレードが析出硬化型ステンレス鋼を含み、析出硬化型ステンレス鋼が、15.5%のCr、6.3%のNi、1.5%のCu、0.37%のNb、0.05%のC及び残部のFeをさらに含む公称組成を有する、請求項7記載の圧縮機ブレード。
【請求項9】
排ガス再循環システムであって、
燃料を燃焼させる燃焼器セクションと、
燃料を燃焼することによって生成される高温ガスからエネルギーを抽出する化学量論的排ガス再循環タービンセクションと、
タービンセクションから高温の燃焼ガスを受け取る排出部と、
排出部から高温燃焼ガスの少なくとも一部を受け取る熱回収装置と、
熱回収装置から熱を回収する蒸気発生器と、
熱回収装置からの排ガスをスクラビング処理してCO2ガスを他のガスから隔離するためのスクラビング処理システムと、
CO2回収システムと、
スクラビング処理した排ガスを大気に排出する排出ライン通路と、
排ガス再循環ラインを介して排出部と及び燃料を燃焼させるための燃焼器セクションに圧縮流体を提供するための固定空気入力と連通した軸流圧縮機と、
を備え、軸流圧縮機が、複数のマルテンサイト系ステンレス鋼圧縮機ブレードを含み、各圧縮機ブレードがさらに、
ブレード部、ダブテール部及びブレード部とダブテール部との中間にあるプラットフォーム部を備え、ブレード部がダブテール部とは反対側の先端において終端しており、
各圧縮機ブレードがさらに、
マルテンサイト系ステンレス鋼圧縮機ブレードの上にあり、タングステンカーバイドの析出物を含むコバルト系材料を含むコバルト基皮膜と、
コバルト基皮膜に分布したNiOを含む犠牲金属系材料の粒子と、
を含む、システム。
【請求項10】
水供給源をさらに備える、請求項9記載のシステム。
【請求項11】
燃焼器からの排ガスが、再循環ラインを通って再循環され、排ガスが、固定空気入力と共に圧縮される、請求項10載のシステム。
【請求項12】
再循環された排ガスが、5ppmのO2、15%以下のCO2、2%以下のAr、1%以下のCO、0.5%以下のH2、50ppmのNO、1ppmのCH4、微量の硫黄元素、残部のN2の公称組成を有する、請求項10又は請求項11記載のシステム。
【請求項13】
軸流圧縮機のマルテンサイト系ステンレス鋼製圧縮機ブレードが、重量%で、0.9〜1.4%のC、28〜32%のCr、3.5〜5.5%のW、3%以下のNi、1.5%以下のMo、3.0%以下のFe、2%以下のMn及び残部のCoの公称組成を有する合金をさらに備えたコバルト基皮膜を含む、請求項9乃至請求項12のいずれか1項記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、動翼用の皮膜に関し、具体的には、エロージョン、摩耗及び電解腐食を受ける圧縮機ブレード用の改良皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
軸流ガスタービンエンジンでは、空気は、エンジンの前方から吸い込まれ、シャフトに装着された圧縮機によって圧縮され、燃料と混合される。混合気が燃焼し、高温燃焼ガスが同じシャフト上に装着されたタービンを通過する。燃焼ガスの流れがタービンを回転させ、回転するタービンで、燃焼ガスの流れから電気エネルギーに変換できるエネルギーを抽出するとともに、シャフトを回転させて圧縮機に動力を供給する。膨張排出ガスは大気に排出することができる。
【0003】
陸用タービンのタービン用途に用いられる圧縮機ブレードは通常、400シリーズステンレス鋼から作られる。これらの鋼鉄は通常、その所期の目的には十分に強固であるが、大量の空気の圧縮を伴うこれらの本質的な作動によりエロージョン及び腐食機構に付され、空気は汚染物質を含有する場合がある。空気中の汚染物質としては、特に限定されないが、望ましくない酸化物、二酸化炭素、塩化物(塩)、SO
2、SO
3、硫酸系の塩、硫化物系ダート及び有機不純物がある。ダートには、砂、火山灰、飛灰、セメント、塵埃、さらには基材の不純物がある。
【0004】
圧縮機ブレードのエロージョン及び摩耗挙動を改善するため、圧縮すべき大量の空気に付されるブレードの翼形部に耐エロージョン又は耐摩耗皮膜が施工されることがある。これらの皮膜は翼形部前縁及び先端に限定されることが多い。皮膜は、皮膜のエロージョン・摩耗耐性を向上させるWC/Co粒子の形成を促進させるタングステン(W)及び炭素(C)を含むコバルト基合金であるのが普通である。
【0005】
耐摩耗コバルト基合金でコートされたステンレス鋼ブレードであっても、単に使用環境に起因する侵食を受けることがある。ブレードは、酸性環境で使用されると電解腐食を起こすおそれがある。これは、ガスタービンが海洋大気、或いは化学石油プラント又は精製所などの近隣の化学プラントに近接していることに起因することがある。こうした環境からの化学物質その他空気中に存在する汚染物質は、空気中の水分と結合して腐食性環境を生じるおそれがある。また、多くの最新式ガスタービンエンジンでは、ブレードの作動クリーニングのためのオンライン洗浄システム又は圧縮機効率を高めるためのフォグ及び/又はエバポレータシステムの使用によって、水分が導入されることがある。これらのシステムは、汚染物質及び環境化学物質と結合して腐食性環境を生じかねない。さらに、グリーンイニシアティブでは、CO
2排出削減のため排ガス回収システムで回収された排ガスの少なくとも一部の排ガス再循環を提案している。このような排ガス回収システムには、化学量論的冷却排ガス再循環つまりSEGRがある。排ガスを燃焼空気に導入する排ガス再循環は、化学物質の濃度を増大させて腐食性環境を生じ、そうした環境に圧縮機ブレードが暴露される。現行の皮膜及び材料の組合せは、SEGRガス経路がSO
2のような汚染物質を含んでいる場合に損傷を受け易いおそれがある。
【0006】
コバルト基耐摩耗合金でコートされたステンレス鋼製圧縮機ブレードは、良好な耐エロージョン及び耐摩耗性を示すが、GTD−450のようなマルテンサイト系ステンレス鋼からなり、STELLITE(登録商標)のようなコバルト基皮膜でコートされた圧縮機ブレードは腐食性環境で電解腐食を受け、SEGRモードではさらに深刻になる。かかる環境では、圧縮機ブレードは、隙間腐食又は孔食を受けることがある。コバルト基皮膜は、圧縮機ブレード基材に対してカソードになる傾向がある。そのため、腐食性媒質の存在下では、汚染物質の堆積物又は腐食生成物が入り込んで留まる隙間又は凹部で濃淡電池が形成されるので、電解腐食が起こる。こうした領域では隙間腐食が起こることがある。また、汚染物質の付着物が形成される皮膜にピット又は孔が形成されるので、孔食も起こる可能性がある。こうしたピットは、ガスタービンエンジンに吸い込まれた異物及び汚染物質との衝突で生じる可能性がある。こうした衝突は、皮膜を凹ませ、腐食性媒質を集める可能性がある。必要とされているのは、ステンレス鋼製圧縮機ブレード用の皮膜であって、耐エロージョン及び耐摩耗特性を維持し、エロージョンその他の損傷による皮膜の欠陥から腐食性化学種が進入したときの電解腐食又は異種金属腐食から基材を保護する皮膜である。
【発明の概要】
【0007】
マルテンサイト系ステンレス鋼基材と、マルテンサイト系ステンレス鋼基材を被覆するコバルト基耐摩耗皮膜とを備える耐摩耗部品。コバルト基耐摩耗皮膜は、タングステンカーバイドの析出物を含むコバルト基合金を含む。コバルト基耐摩耗皮膜はさらに、コバルト基皮膜に分布した犠牲金属系材料の粒子を含む。犠牲材料は、腐食性環境での基材の電解腐食を防ぐアノードとして機能する。
【0008】
コバルト基マトリックス皮膜の耐腐食性及び腐食性能は、ガスタービンの圧縮機ブレードに特に適しており、コバルト基材料に対するアノード又は犠牲材料となる金属系化合物及び酸化物材料の粒子の添加によって高まる。添加される反応性金属の粒子は、圧縮機ブレードを皮膜で被覆し腐食性環境に曝露したときにアノードとして機能する。
【0009】
ガスタービンエンジンの圧縮機セクションで使用される圧縮機ブレードは、マルテンサイト系ステンレス鋼製圧縮機ブレードを含む。圧縮機ブレードは、ブレード部と、ダブテール部と、それらの中間のプラットフォーム部とを含む。ブレード部は、ダブテール部と反対側の先端(チップ)を末端とする。コバルト基皮膜は、少なくともブレード部を被覆する。コバルト基皮膜は、タングステンカーバイドの析出物と、コバルト基皮膜に分布した、NiO及び/又はCr
2O
3などの犠牲化合物の粒子とを含む。ステンレス鋼マトリックスに対してアノードである電位にて酸化還元反応を生じる他の何れかの均一に分散された粒子もまた、この用途で使用するのに好適である。
【0010】
コバルト基皮膜に含まれる反応性金属は、圧縮機ブレードが腐食性大気に付されたときに、隙間腐食又は孔食などにより、圧縮機ブレードの電解腐食を防ぐためのアノードとして機能する。
【0011】
犠牲アノード材料として反応性金属を含む皮膜により、圧縮機ブレードは、海洋又は化学プラントに近接したような過酷な環境、或いは、排ガス再循環及びオンライン水洗浄又はフォグ及び/又は蒸発器冷却システムを含む設計のような、ガスタービンの設計によって生成される過酷な環境で腐食を生じることなく作動することが可能となる。
【0012】
圧縮機ブレードにこのような皮膜を施工する別の利点は、ガスタービンエンジンの負荷が増大するブレードを交換/再被覆する保守整備時間が短縮されることである。
【0013】
本発明の他の特徴及び利点は、例証として本発明の原理を示す添付図面を参照しながら、以下の好ましい実施形態のより詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】排ガスの一部を圧縮機に再循環する排ガス再循環システムの概略図。
【
図2】軸流ガスタービンユニットで使用される典型的な圧縮機ブレードの正面斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
陸用ガスタービンの圧縮機セクションで使用される圧縮機ブレードは通常、公知の400系マルテンサイト系ステンレス鋼のような耐腐食鋼を含む。圧縮機ブレードで使用するのに特に好適な1つのこのようなマルテンサイト鋼合金は、15.5%のCr、6.3%のNi、1.5%のCu、0.37%のNb、0.05%のC及び残部のFeの公称組成を有する、GTD−450、すなわち析出硬化鋼である。本明細書で使用される用語「残部のFe」又は「合金残部のFe」は、鉄に加えて、特性及び/又は量の点で合金の有利な態様に影響を及ぼすことのないマルテンサイト鋼合金に内在する少量の不純物及び他の不可避元素を含むのに使用される。別途指定のない限り、本明細書で開示される全ての合金組成は、重量%で与えられる。GTD−450のような圧縮機ブレードは、優れた強度をもたらすが、依然としてエロージョン及び摩耗を受ける。
【0016】
マルテンサイト鋼合金ブレードの腐食、エロージョン及び摩耗性能を改善するために、合金は、STELLITE(登録商標)などの耐摩耗性合金でコートされる。コバルト基合金STELLITE(登録商標)6の公称組成は、重量%で、0.9〜1.4%のC、28〜32%のCr、3.5〜5.5%のW、3%以下のNi、1.5%以下のMo、3.0%以下のFe、2%以下のMn
及び残部のCoである。本明細書で使用される用語「残部のコバルト」又は「合金の残部のコバルト」は、コバルトに加えて、特性及び/又は量の点で合金の有利な態様に影響を及ぼすことのないSTELLITE(登録商標)6に内在する少量の不純物及び他の不可避元素を含むのに使用される。他の皮膜材料は、Triballoy 400、28%のMn、9%のCr、2.6%のSi、0.04%のC及び残部のCoの公称組成を有するラーベス相強化Co基合金、並びに10%のCo及び4%のCrを有するWCのような改質タングステンカーバイド組成物を含むことができる。しかしながら、STELLITE(登録商標)6のようなコバルト基合金でコートされたマルテンサイトマトリックス合金中にCu析出物を形成するため析出硬化されるマルテンサイト鋼製圧縮機ブレード(GTD−450などの)は、優れた耐摩耗及び耐損耗性を有するが、長期間酸性環境に付されたときに電解腐食を受ける。
【0017】
陸用ガスタービンは、通常作動の結果としてこのような腐食性環境に付される可能性がある。例えば、オンライン水洗浄システムは、水滴エロージョン及び腐食孔食の影響を受けやすい条件を備える可能性がある。化学石油環境付近又は海岸線に近接した高度な腐食性環境における通常作動はまた、腐食の一因となる場合がある。最近、排ガス再循環は、CO
2、SO
2及びH
2Oのより高い濃度に対するタービンブレードの曝露をもたらした。このような排ガス再循環は、ガスタービンからのCO
2エミッションの低減の点では効果的であるが、圧縮機ブレードにおける電解腐食につながる。
図1には、排ガス再循環システム10を有するガスタービンが示されている。燃料は、燃焼器セクション20において圧縮空気と組み合わされ、ここで燃料の燃焼が起こる。燃焼器セクション20からの高温燃焼ガスの通過及びタービンセクション30を通る流れはまた、化学量論的冷却排ガス再循環(SEGR)ガスタービンセクションと呼ばれ、ここで電気の形態の出力が生成される。次いで、排ガスは、ガスタービンの排出部40を通過する。タービンセクション30(又はタービンセクション30及び排ガス部分40)からの排ガスの一部は、再循環ライン52に沿って軸流圧縮機60に再循環され、ここで排ガスは、固定空気入力58から入力される空気(又は他の酸化剤)と組み合わされる。圧縮機部分60は、再循環ライン52からの排ガスと固定空気入力58からの空気(又は他の酸化剤)とを組合せて圧縮し、この圧縮流体を燃焼器セクション20に送給し、上述のように燃焼を支援する。
【0018】
次に、残りの排ガスは、熱回収蒸気発生器(HRSG)45と共に使用するために熱回収装置42を通して送られ、ここで追加の熱が回収され、これを用いて熱回収蒸気発生器45において蒸気を生成する。次いで、排ガスは、スクラビングシステム50に送られ、ここで排ガスから汚染物質がスクラビング処理で除去される。CO
2排ガスは、CO
2回収システム55に送られ、ここでCO
2が回収されて貯蔵されるか、他の用途で使用され、残りのガスの一部は、排出ライン通路54を通って大気に排出される。
【0019】
圧縮器60は、再循環ライン52からの排ガスと固定空気入力58からの空気(又は他の酸化剤)とを組合せて圧縮し、この圧縮流体を燃焼器セクション20に送給し、上述のように燃焼を支援する。
【0020】
排出部分40から圧縮機60に戻された再循環排ガスは、約100〜120°Fの温度と、以下の表1に記載する体積分率の公称組成とを有する。
【0021】
【表1】
SEGR燃焼器セクション30に圧縮流体を提供する圧縮機60に戻される結果として得られる排ガスは、高濃度のCO
2を含むが、この高濃度のCO
2は、他の燃焼には影響を及ぼさない。燃焼器セクション20からSEGRタービンセクション30、さらに排気部分40に送られる結果として得られる燃焼流体は、高濃度のCO
2を含み、これは、捕捉及び隔離が容易であるので、環境には放出されない。
【0022】
上記で考察したように、圧縮機ブレードは、通常、公知の400系マルテンサイト系ステンレス鋼のような耐腐食鋼を含む。圧縮機ブレードに使用される1つのこのようなマルテンサイト鋼合金は、15.5%のCr、6.3%のNi、1.5%のCu、0.37%のNb、0.05%のC及び残部のFeの公称組成を有する、GTD−450、すなわち析出硬化鋼である。本明細書で使用される用語「残部のFe」又は「合金残部のFe」は、鉄に加えて、特性及び/又は量の点で合金の有利な態様に影響を及ぼすことのないマルテンサイト鋼合金に内在する少量の不純物及び他の不可避元素を含むのに使用される。別途指定のない限り、本明細書で開示される全ての合金組成は、重量%で与えられる。圧縮機ブレード用途に使用される他のステンレス鋼は、12%のCr、0.11%のC最大及び残部のFeの公称組成を有する403ステンレス、12%のCr、0.2%のNb(Cb)、0.15%のC及び残部のFeの公称組成を有する403Cbステンレス鋼、15%のCr、4.5%のNi、3.5%のCu、0.3%のNb、0.07%のC及び残部のFeの公称組成を有する15−5PH、並びに16.5%のCr、4.25%のNi、3.6%のCu、0.25%のNb、0.04%のC及び残部のFeの公称組成を有する17−4PHを含む。GTD−450のような圧縮機ブレードは、優れた強度をもたらすが、依然としてエロージョン及び摩耗を受ける。
【0023】
マルテンサイト鋼合金ブレードのエロージョン及び摩耗性能を改善するため、合金は、STELLITE(登録商標)6などの耐摩耗性合金でコートされる。ブレードは、塵埃、砂粒子、小石及び他の浮遊微粒子など、ステンレス鋼基材をも貫通して皮膜表面に損傷を与える空気中異物からの衝突に付される。コバルト基合金STELLITE(登録商標)6の公称組成は、重量%で、0.9〜1.4%のC、28〜32%のCr、3.5〜5.5%のW、3%以下のNi、1.5%以下のMo、3.0%以下のFe、2%以下のMn
及び残部のCoである。本明細書で使用される用語「残部のコバルト」又は「合金の残部のコバルト」は、コバルトに加えて、特性及び/又は量の点で合金の有利な態様に影響を及ぼすことのないSTELLITE(登録商標)6に内在する少量の不純物及び他の不可避元素を含むのに使用される。STELLITE(登録商標)6は、良好な耐摩耗性及び耐エロージョン性によって特徴付けられる。しかしながら、STELLITE(登録商標)6のようなコバルト基合金は、優れた耐摩耗及び耐損耗性を有するが、損傷に起因する皮膜の貫通領域その他皮膜と下層の基材との間の露出境界部で長期間酸性環境に付されたときに劣化を生じやすい。
【0024】
環境中の酸性又は腐食性化学物質は、ガスタービンが海洋又は化学石油プラントなどの化学プラントに近接していることに由来する可能性がある。さらに、ガスタービン設計は、オンライン洗浄システム、フォグ及び/又はエバポレータシステム及び排ガス再循環システムのうちの1以上を含む場合に、蒸気の形態で水又は水蒸気を提供することによって、圧縮機ブレードにおける腐食性環境の一因となる場合がある。水及び水蒸気は、利用可能な化学物質と結合し、電解腐食を促進する電解液を提供する。
【0025】
例えば、隙間腐食又は孔食などの電解腐食を回避することによりブレードの寿命が延在するガスタービン用圧縮機ブレードは、マルテンサイト系ステンレス鋼基材を含む。
図2に圧縮機ブレード100が示されている。圧縮機ブレード100は、ブレード部110、ダブテール部120、並びにブレード部110とダブテール部120との間に位置付けられたプラットフォーム部130を含む。先端部分140は、ブレード部110からダブテール部120と反対側に延在する。ブレード部110は、前縁150と後縁160とを有する。あらゆるマルテンサイト又は析出硬化ステレス鋼基材を圧縮機ブレード100に用いることができるが、好ましいマルテンサイト系ステンレス鋼材料は、FeCの析出物を含む。GTD−450ステンレスは、圧縮機ブレード100として使用するのに好ましいマルテンサイト系ステンレス鋼材料である。
【0026】
圧縮機ブレード基材のガルバニ電位を下げるために、改質耐エロージョン及び耐摩耗皮膜がブレードに施工される。この皮膜は、WCの析出物及び以下で犠牲粒子と呼ばれるより犠牲元素系粒子(NiO、Cr
2O
3及びAl
2O
3粒子など)とを有するコバルト基合金を含む。犠牲粒子は、皮膜を通して分散される。電解質環境では加えられた犠牲粒子の方がマルテンサイト系ステンレス鋼よりも反応性が高いので、NiO粒子のような犠牲粒子は、ガルバニックシステムにおいてアノードとして働き、犠牲となる。電子は、アノード材料から移動し、すなわち、電流はアノード材料から流れ、その結果、アノード材料は、システムにおける他の材料の犠牲となる。従って、マルテンサイト基材及びコバルト基皮膜を含むこの合金システムでは、NiOのような犠牲粒子はアノードであり、圧縮機ブレード基材(マルテンサイト系ステンレス鋼)がカソードとなる。皮膜又は皮膜の成分がアノードであることは、後で腐食性環境に付されたときにシステムにおいて犠牲材料となるので、望ましいことである。よって、水又は水蒸気が存在する排ガス再循環を利用するシステムにおいてSO
2及び他の汚染物質の濃度が増大することなどに起因して生じる腐食性環境では、マトリックス全体にわたり分散される犠牲粒子を有するコバルト基合金のような犠牲化合物を有する皮膜は、圧縮機ブレードに対する保護を提供し、圧縮機ブレードの早期電解腐食を防ぐ。電気化学REDOXポテンシャルがマルテンサイト基材GTD−450に対してアノードであるような金属系材料だけが、犠牲化合物として用いることができる。ニッケル酸化物NiOは、好ましい粒子酸化物である。他の有用な犠牲材料には、酸化セリウム、アルミナ(Al
2O
3)及び酸化クロム(Cr
2O
3)が含まれ、ここでは酸化セリウム、Al
2O
3及びCr
2O
3は、NiOと組合せて、或いはNiOの代わりとして皮膜に含まれる。
【0027】
アノード材料は、コバルト基皮膜粉体に粉体として添加されて、コバルト基皮膜粉体と完全に混合することができる。上述のように、WC/Coの析出物を形成するあらゆるコバルト基材料を用いることができるが、好ましいコバルト基材料には、STELLITE(登録商標)6及びTriballoy 400が挙げられる。犠牲粒子(好ましくはNiO)は、コバルト基材料の粉体と混合され、基材の電解腐食を防ぐが、コバルト基合金の生来の耐エロージョン性/耐摩耗性を損なう程ではないように犠牲粒子がアノード反応を持続するのに十分な体積分率を皮膜内に含むようにする。犠牲粒子又は粉体の約5〜35%の体積分率で材料の残部のコバルト基材料は、皮膜材料において耐エロージョン性とガルバニック防食との適切な平衡をもたらす。好ましい体積分率は、10〜30%犠牲粒子である。犠牲粒子は、約10nm〜2μmの粒度範囲で提供される。犠牲粒子は、コバルト基材料粉体全体に実質的に均一に分散されるように完全に混合される。犠牲粒子は、アノード性を提供するが、損耗保護を提供することであるSTELLITE(登録商標)などの皮膜の本源的機能を妨げるべきではない。上述の目的を達成するため、犠牲粒子の体積分率は、局所的なガルバニック防食を持続するガルバニ電流スループットを提供するのに十分なものでなければならない。犠牲粒子は、皮膜の耐損耗性を妨げないようなサイズにする必要がある。犠牲粒子が大きすぎる場合には、その壊れやすく脆弱な性質は、粒子が選択的に除去される結果となる。しかしながら、粒度が小さい場合には、粒子又は水滴の衝突によって損傷ゾーンが生じ、よって、材料反応は、個々の大きな犠牲粒子によるものよりも摩耗皮膜が支配的となる。犠牲粒子、粒子、又は粉体は、好ましくは、100nm〜2000nmの粒度分布を有する。犠牲粒子はさらに、皮膜の約15%以上の体積分率を含む。より好ましくは、犠牲粒子はさらに、皮膜の約15%〜約25%の体積分率を含む。
【0028】
粒子が完全に混合されて、コバルト基材料皮膜粉体中にアノード粒子の実質的に均一な分散をもたらした後では、あらゆる好適な方法によって、この粉体組成物をステンレス鋼製圧縮機ブレードに施工することができる。
【0029】
或いは、混合の後、粒子を粉砕してもよい。粉砕粒子は、噴霧乾燥して焼結させるか、又は単に焼結させ、5〜30μmのサイズを有する、アノード粉体とコバルト基粉体の粉体凝集体を生成することができる。凝集体は、必要に応じて、このようなサイズ分布又は他の何れかの望ましいサイズ分布を提供するようスクリーニングすることができる。再度、
図2を参照すると、この粉体組成物は、圧縮機ブレードの少なくとも前縁150に、好ましくは先端部140からプラットフォーム部130まで施工すべきである。より好ましくは、この粉体組成物は、前縁150、後縁160及び先端部140を含む、圧縮機ブレード100のブレード部110に施工すべきである。最も好ましくは、粉体組成物は、ブレード部110とプラットフォーム部130に施工すべきである。エロージョン性及び腐食性大気にはブレード100のダブテール部120は曝されず、プラットフォーム部130の上のブレード100の一部が曝されるので、ダブテール部120をSTELLITE(登録商標)6で皮膜する必要はない。
【0030】
アノード粉体材料とコバルト基粉体材料との組成物は、あらゆる公知の技法で施工することができる。基材上にスプレーすることによる粉体施工の公知の技法には、高速酸素燃料(HVOF)溶射法、高速空気燃料(HVAF)溶射法、コールドスプレー、デトネーション溶射、又はサスペンション溶射が挙げられる。STELLITE(登録商標)6を施工するのに使用した同じパラメータを用いて、上述のようにNiO粒子で改質したSTELLITE(登録商標)6を施工することができる。
【0031】
皮膜は、上述のように、圧縮機ブレードの影響を受ける領域に対して、耐用期間の間に基材をエロージョンから保護するのに十分な厚さ(通常は約0.2〜2ミル厚)に施工することができる。これらの厚さはまた、電解腐食からの保護を提供するのに好適である。堆積直後の皮膜は、実質的に均一に分散されたNiO粒子に加え、延性コバルトクロム合金中にタングステンカーバイドを含む複合耐損耗粒子を備える、従来のSTELLITE(登録商標)6微細構造を有する。必要に応じて、コートされた圧縮機ブレードの上にTiNの保護皮膜を公知の物理的気相成長(PVD)法で施工してもよい。
【0032】
好ましい実施形態を参照しながら本発明を説明してきたが、本発明の範囲から逸脱することなく種々の変更を行うことができ本発明の要素を均等物で置き換えることができる点は理解されるであろう。加えて、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況又は物的事項を本発明の教示に適合するように多くの修正を行うことができる。本発明は、本発明を実施するために企図される最良の形態として開示した特定の実施形態に限定されるものではなく、また本発明は、提出した請求項の技術的範囲内に属する全ての実施形態を包含するものとする。
【符号の説明】
【0033】
100 圧縮機ブレード
110 ブレード部
120 ダブテール部
130 プラットフォーム部
140 先端部分
150 前縁
160 後縁