(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0014】
本実施形態では、天然ゴムを酸化分解してカルボニル基を末端に持つポリマーを生成させた後、該ポリマーの末端のカルボニル基にアミノ酸のアミノ基を反応させて、末端にアミノ酸を導入する。このように本実施形態は、天然ゴムを変性対象とするものであり、重合段階で変性を行うことができない自然物の天然ゴムに対しても末端に官能基を導入することができる。
【0015】
酸化分解させる天然ゴムとしては、プロトン性溶媒である水中にミセル状になった水系エマルション、すなわち天然ゴムラテックスを用いることが好ましい。天然ゴムラテックスとしては、フィールドラテックス、アンモニア処理ラテックス、遠心分離濃縮ラテックス、界面活性剤や酵素で処理した脱蛋白ラテックス、又はこれらの組み合わせなどを用いることができ、特に限定されない。天然ゴムラテックスの濃度(ゴムポリマーの固形分濃度=DRC(Dry Rubber Content))としては、特に限定されず、例えば5〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜50質量%である。
【0016】
天然ゴムを酸化分解させるためには、酸化剤を用いることができ、例えば、天然ゴムラテックスに酸化剤を添加し攪拌することにより、ポリマー中の炭素−炭素二重結合を酸化開裂させることができる。酸化剤としては、例えば、過マンガン酸カリウム、酸化マンガンなどのマンガン化合物、クロム酸、三酸化クロムなどのクロム化合物、過酸化水素などの過酸化物、過ヨウ素酸などの過ハロゲン酸、又は、オゾン、酸素などの酸素類などが挙げられる。これらの中でも、過ヨウ素酸を用いることが好ましい。過ヨウ素酸であれば、反応系を制御しやすく、また、水溶性の塩が生成されるので、変性天然ゴムを凝固乾燥させる際に、水中にとどまらせることができ、変性天然ゴムへの残留が少ない。なお、酸化分解に際しては、コバルト、銅、鉄などの金属の、塩化物や有機化合物との塩や錯体などの、金属系酸化触媒を併用してもよく、例えば、該金属系酸化触媒の存在下で空気酸化してもよい。
【0017】
上記酸化開裂により天然ゴムが分解し、即ち分子鎖が切断されて、末端にケトン基(>C=O)及び/又はアルデヒド基(−CHO)からなるカルボニル基を持つポリマーが生成される。従って、切断後のポリマーは、下記式(3)で表される構造を末端に持つ。
【化2】
【0018】
式中、R
4は、水素原子又はメチル基である。すなわち、天然ゴムを構成するイソプレンユニットが開裂した場合、一方の開裂末端ではR
4がメチル基、他方の開裂末端ではR
4が水素原子となる。切断後のポリマーは、その分子鎖の少なくとも一方の末端に上記式(3)で表される構造を持ち、すなわち、下記式(4)及び(5)に示すように、天然ゴムポリマー鎖の一方の末端又は両末端に、式(3)で表される基が直接結合した構造を持つ。
【化3】
【0019】
式(4)及び(5)において、波線で表した部分が天然ゴムポリマー鎖、即ち、イソプレンユニットの繰り返し構造からなるポリイソプレン鎖である。
【0020】
このように酸化分解することで、末端のカルボニル基の含有量が増える一方で、ポリマーの分子量が低下する。分子量が低下しすぎてしまうと、粘着性が増大し、混練時の加工性が低下する。そのため、分解後のカルボニル基の含有量は、分解後のポリマーの分子量との関係を考慮しながら設定することが好ましい。分解後の末端カルボニル基の含有量は、特に限定するものではないが、0.1〜15モル%であることが好ましく、より好ましくは1〜10モル%であることが好ましい。ここで、末端カルボニル基の含有量は、分解後のポリマーを構成する全イソプレンユニットのモル数に対する末端カルボニル基(即ち、末端ケトン基と末端アルデヒド基)のモル数の比率である。また、分解後のポリマーの分子量は、特に限定するものではないが、重量平均分子量(Mw)が10万〜120万であることが好ましく、より好ましくは15万〜100万であり、特に好ましくは20万〜80万である。
【0021】
このように天然ゴムを酸化分解した後、得られたポリマーの末端のカルボニル基にアミノ酸のアミノ基を反応させて、ポリマーの末端にアミノ酸を導入する。アミノ酸としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、リシン、ヒドロキシリシン、アルギニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、プロリンなどが挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。好ましくは、天然ゴムとの組み合わせによる地球環境保護の点から天然のアミノ酸であり、より好ましくはα−アミノ酸である。また、上記ポリマーの末端カルボニル基との反応性の点からは、α−炭素に結合したアミノ基の他に追加のアミノ基を有する塩基性アミノ酸が好ましく、より好ましくはリシン及び/又はヒドロキシリシンを用いることである。リシンの持つ第2のアミノ基(ε−アミノ基)は、上記ポリマーの末端カルボニル基との反応性が高く、容易に上記ポリマーと反応する。
【0022】
上記分解後のポリマー末端のカルボニル基(ケトン基、アルデヒド基)は、アミノ酸のアミノ基と反応し、脱水縮合により、イミノ基を介してアミノ酸が結合した構造となる。そのため、これにより得られた変性天然ゴムは、分子鎖の末端に下記一般式(1)で表される基を有する。
【化4】
【0023】
式中、R
1は、水素原子又はメチル基であり、上記式(3)のR
4に対応する。R
2は、アミノ酸のアミノ基を除いた部分であり、カルボキシル基を含む。
【0024】
好ましい実施形態に係る変性天然ゴムは、分子鎖の末端に下記一般式(2)で表される基を有する。
【化5】
【0025】
式中、R
1は、水素原子又はメチル基である。R
3は、置換基としてヒドロキシル基を有しても有さなくてもよい炭素数2〜6(より好ましくは3〜5)のアルキレン基である。この場合、イミノ基を介して、末端にカルボキシル基とアミノ基が導入されるので、シリカ等のフィラーの官能基(例えばヒドロキシル基)との相互作用をより高めることができる。
【0026】
このような式(2)で表される基を有する変性天然ゴムは、アミノ酸としてリシン及び/又はヒドロキシリシンを用いて反応させることにより得ることができる。ここで、リシンの場合、R
3はテトラメチレン基であり、式(2)は下記式(2−1)となる。また、ヒドロキシリシンの場合、R
3は−CH
2−CH(OH)−CH
2−CH
2−である。
【化6】
【0027】
上記のアミノ酸を付加させる反応は、水中かつ常温で行うことができるため、ラテックスのようなプロトン性溶媒に分散した状態で行うことが好ましい。例えば、天然ゴムラテックスを用いて天然ゴムの酸化分解を行った後、分解後のラテックス(即ち、分解後のポリマーが分散したラテックス)にアミノ酸を添加してポリマーと反応させることが好ましい。このようにしてアミノ酸を反応させた後、得られた変性天然ゴムラテックスを凝固、乾燥させることによって、変性天然ゴムを得ることができる。
【0028】
上記アミノ酸は、ポリマーの末端カルボニル基の一部又は全部に対して導入されるため、得られた変性天然ゴムにおいて、アミノ酸による末端変性量は、上記分解後の末端カルボニル基の含有量に左右される。アミノ酸による末端変性量は、特に限定されないが、0.1〜10モル%であることが好ましく、より好ましくは1〜5モル%である。ここで、アミノ酸による末端変性量は、変性天然ゴムを構成する全イソプレンユニットのモル数に対する導入されたアミノ酸のモル数の比率である。
【0029】
変性天然ゴムは、末端カルボニル基を有してもよい。すなわち、分解後の末端カルボニル基の一部にアミノ酸が導入された場合、変性天然ゴムは末端カルボニル基を有する。末端カルボニル基の含有量は、特に限定されず、5モル%以下であることが好ましく、一実施形態として0.1〜3モル%であってもよい。なお、末端カルボニル基の含有量は、アミノ酸による末端変性量との合計で0.1〜15モル%であることが好ましく、より好ましくは1〜10モル%である。
【0030】
変性天然ゴムの分子量は、上記分解後のポリマーの分子量と同様であり、特に限定するものではないが、常温(23℃)で固形状であることが好ましいため、重量平均分子量(Mw)が10万〜120万であることが好ましく、より好ましくは15万〜100万であり、特に好ましくは20万〜80万である。
【0031】
本実施形態によれば、天然ゴムを酸化分解した後、その末端のカルボニル基にアミノ酸を反応させることにより、容易に天然ゴムを末端変性することができる。得られた変性天然ゴムは、分子鎖の末端にイミノ基を介してカルボキシル基等のアミノ酸の残基が導入されているので、シリカ等のフィラー、特にフィラー表面の水酸基(シリカの場合、シラノール基)と水素結合による親和性が向上し結合することで、ゴム組成物の粘弾性、特に低発熱性能の向上が可能である。詳細には、かかる親和力の増加が、天然ゴムポリマーにおける分子鎖末端の非拘束部分を排除ないし低減して、エネルギーロスを効果的に低減することができる。
【0032】
本実施形態に係る変性天然ゴムは、各種ゴム組成物におけるゴム成分として用いることができ、例えば、タイヤ用、防振ゴム用、コンベアベルト用などの各種ゴム部材に用いることができる。上記のように、該変性天然ゴムであると、そのポリマーとフィラーとの間での相互作用により、フィラーとの相溶性ないし分散性が向上するので、例えばタイヤ用ゴム組成物に用いた場合、転がり抵抗の低減による低燃費性の向上に寄与することができ、特にタイヤトレッド用配合に好適に使用することができる。
【0033】
実施形態に係るゴム組成物において、ゴム成分としては、上記変性天然ゴムの単独でもよく、変性天然ゴムと他のゴムとのブレンドでもよい。他のゴムとしては、特に限定されず、例えば、未変性の天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、又は、ハロゲン化ブチルゴム等の各種ジエン系ゴムが挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができ、好ましくは、SBR、BR、未変性NRの1種又は2種以上である。ゴム成分中に占める上記変性天然ゴムの含有量は、特に限定されないが、ゴム成分100質量部中、10質量部以上であることが好ましく、より好ましくは30質量部以上、更に好ましくは50質量部以上である。
【0034】
実施形態に係るゴム組成物にはフィラーを配合することができる。フィラーとしては、例えば、シリカ、カーボンブラック、酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、クレー、又は、タルクなどの各種無機充填剤を用いることができ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、シリカ及び/又はカーボンブラックが好ましく用いられ、特に好ましくはシリカを用いることである。
【0035】
シリカとしては、特に限定されず、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)等が挙げられるが、中でも湿式シリカが好ましい。シリカのコロイダル特性は特に限定しないが、BET法による窒素吸着比表面積(BET)150〜250m
2/gであるものが好ましく用いられ、より好ましくは180〜230m
2/gである。なお、シリカのBETはISO 5794に記載のBET法に準拠し測定される。
【0036】
カーボンブラックとしては、特に限定されず、ゴム用補強剤として用いられているSAF級、ISAF級、HAF級、又は、FEF級などの各種グレードのファーネスカーボンブラックをそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0037】
上記フィラーの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、5〜150質量部であり、好ましくは20〜120質量部、更に好ましくは30〜100質量部である。そのうち、シリカの配合量は、ゴム成分100質量部に対して5〜120質量部であることが好ましく、より好ましくは20〜80質量部である。
【0038】
フィラーとしてシリカを配合する場合、シリカの分散性を更に向上するために、ゴム組成物には、スルフィドシランやメルカプトシランなどのシランカップリング剤を配合してもよい。シランカップリング剤の配合量は、特に限定されないが、シリカ配合量に対して2〜20質量%であることが好ましい。
【0039】
ゴム組成物には、上記の各成分の他に、オイル、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。
【0040】
上記加硫剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄成分が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量は、ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チウラム系、チアゾール系、又は、グアニジン系などの各種加硫促進剤を用いることができ、いずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の配合量は、特に限定するものではないが、ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0041】
実施形態に係るゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、第一混合段階で、ゴム成分に対し、フィラーとともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合してゴム組成物を調製することができる。
【0042】
このようにして得られたゴム組成物は、乗用車用、トラックやバスの大型タイヤなど各種用途、サイズの空気入りタイヤのトレッド部、サイドウォール部、ビード部、タイヤコード被覆用ゴムなどタイヤの各部位に適用することができる。すなわち、該ゴム組成物は、常法に従い、例えば、押出加工によって所定の形状に成形され、他の部品と組み合わせた後、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、空気入りタイヤを製造することができる。これらの中でも、タイヤのトレッド用配合として用いることが特に好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例で用いた測定方法は、以下の通りである。
【0044】
[重量平均分子量(Mw)]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)での測定により、ポリスチレン換算のMwを求めた。詳細には、測定試料は0.2mgをTHF1mLに溶解させたものを用いた。(株)島津製作所製「LC−20DA」を使用し、試料をフィルター透過後、温度40℃、流量0.7mL/分でカラム(Polymer Laboratories社製「PL Gel3μm Guard×2」)を通し、Spectra System社製「RI Detector」で検出した。
【0045】
[末端カルボニル基の含有量、アミノ酸による末端変性量]
NMRにより、末端カルボニル基と末端変性量を測定した。NMRスペクトルは、BRUKER社製「400ULTRASHIELDTM PLUS」によりTMSを標準とし測定した。ポリマー1gを重クロロホルム5mLに溶解し、緩和試薬としてアセチルアセトンクロム塩87mgを加え、NMR10mm管にて測定した。
【0046】
末端カルボニル基については、
13C−NMRにおいてケトン基のカーボンのピークがR
4=プロトンの場合は202ppmにあり、R
4=メチル基の場合は207ppmにある。式(2)については、
13C−NMRにおいてイミノ基のカーボンのピークがR
1=プロトンの場合は164ppmにあり、R
1=メチル基の場合は167ppmにある。また式(3)のR
4がプロトンである場合と、式(2)のR
1がプロトンである場合については、
1H−NMRにおいてR
4プロトンのピークが9.7ppmにあり、R
1プロトンのピークが7.5ppmにある。そのため、これら各ピークについてベースポリマー成分との比により構造量(モル数)を決定した。
【0047】
なお、ベースポリマー成分における各ユニットのモル数については、イソプレンユニットでは、二重結合を挟んでメチル基と反対側の炭素及びそれに結合した水素(=CH−)のピーク、即ち
13C−NMRによる122ppm、
1H−NMRによる5.2ppmに基づいて算出した。
【0048】
[比較例1:変性天然ゴムAの合成]
変性対象の天然ゴムとして、天然ゴムラテックス(レヂテックス社製「HA−NR」、DRC=60質量%)を用いた。この天然ゴムラテックスに含まれる未変性の天然ゴムについて、分子量を測定したところ、重量平均分子量が202万であった。
【0049】
上記天然ゴムラテックスをDRC=10質量%に調製したものを500g用いて、これに過ヨウ素酸(H
5IO
6)1.0gを加え、23℃で24時間撹拌(100rpm)した。その後、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、常温で固形状の変性天然ゴムAを得た。
【0050】
得られた変性天然ゴムAは、上記式(3)で表される構造を末端に有し、末端カルボニル基の含有量は12モル%であり、Mwは15万であった。
【0051】
[比較例2:変性天然ゴムBの合成]
比較例1と同じ天然ゴムラテックスをDRC=10質量%に調製したものを500g用いて、これに過ヨウ素酸(H
5IO
6)0.5gを加え、23℃で24時間撹拌(100rpm)した。その後、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、常温で固形状の変性天然ゴムBを得た。
【0052】
得られた変性天然ゴムBは、上記式(3)で表される構造を末端に有し、末端カルボニル基の含有量は5モル%であり、Mwは42万であった。
【0053】
[実施例1:変性天然ゴムCの合成]
比較例1において過ヨウ素酸を加えて24時間撹拌して酸化分解させた後、得られたラテックスにリシンを3.2g(天然ゴムの全イソプレンユニットのモル数に対して3モル%)添加して、23℃で3時間撹拌(100rpm)して反応させた。その後、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、常温で固形状の変性天然ゴムCを得た。
【0054】
得られた変性天然ゴムCは、上記式(2−1)で表される構造を末端に有し、リシンによる末端変性量は3モル%であり、末端カルボニル基の含有量は9モル%であり、Mwは15万であった。
【0055】
[実施例2:変性天然ゴムDの合成]
比較例1において過ヨウ素酸を加えて24時間撹拌して酸化分解させた後、得られたラテックスにリシンを8.6g(天然ゴムの全イソプレンユニットのモル数に対して8モル%)添加して、23℃で3時間撹拌(100rpm)して反応させた。その後、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、常温で固形状の変性天然ゴムDを得た。
【0056】
得られた変性天然ゴムDは、上記式(2−1)で表される構造を末端に有し、リシンによる末端変性量は7モル%であり、末端カルボニル基の含有量は5モル%であり、Mwは15万であった。
【0057】
[実施例3:変性天然ゴムEの合成]
比較例1において過ヨウ素酸を加えて24時間撹拌して酸化分解させた後、得られたラテックスにリシンを10.7g(天然ゴムの全イソプレンユニットのモル数に対して10モル%)添加して、23℃で3時間撹拌(100rpm)して反応させた。その後、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、常温で固形状の変性天然ゴムEを得た。
【0058】
得られた変性天然ゴムEは、上記式(2−1)で表される構造を末端に有し、リシンによる末端変性量は10モル%であり、末端カルボニル基の含有量は2モル%であり、Mwは15万であった。
【0059】
[実施例4:変性天然ゴムFの合成]
比較例2において過ヨウ素酸を加えて24時間撹拌して酸化分解させた後、得られたラテックスにリシンを5.4g(天然ゴムの全イソプレンユニットのモル数に対して5モル%)添加して、23℃で3時間撹拌(100rpm)して反応させた。その後、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、常温で固形状の変性天然ゴムFを得た。
【0060】
得られた変性天然ゴムFは、上記式(2−1)で表される構造を末端に有し、リシンによる末端変性量は5モル%であり、末端カルボニル基の含有量は0モル%であり、Mwは42万であった。
【0061】
[ゴム組成物の調製及び評価]
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ゴム成分に対し硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練し、次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して、ゴム組成物を調製した。変性天然ゴムA〜Fを除く、表1中の各成分の詳細は、以下の通りである。
【0062】
・天然ゴム:比較例1で用いた天然ゴムラテックスをそのまま凝固乾燥させたもの
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」
・シランカップリング剤:ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニック・デグサ社製「Si69」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・プロセスオイル:株式会社ジャパンエナジー製「X−140」
・硫黄:細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
【0063】
得られた各ゴム組成物について、160℃×20分で加硫して所定形状の試験片を作製し、得られた試験片を用いて、動的粘弾性試験を行い、低発熱性能(tanδ(60℃))を評価した。評価方法は次の通りである。
【0064】
・低発熱性能(tanδ(60℃)):USM社製レオスペクトロメーターE4000を用いて、周波数50Hz、静歪み10%、動歪み2%、温度60℃の条件で損失係数tanδを測定し、その逆数について、比較例3の値を100とした指数で表示した。60℃でのtanδは、タイヤ用ゴム組成物において、低発熱性能の指標として一般に用いられているものであり、上記指数が大きいほどtanδが小さく、従って、発熱しにくく、タイヤとしての低燃費性能(転がり抵抗性能)に優れることを示す。
【0065】
【表1】
【0066】
結果は、表1に示す通りである。未変性の天然ゴム単独の比較例3に比べて、リシンで末端変性した変性天然ゴムを用いた実施例5〜12であると、低発熱性能が顕著に改善されていた。また、酸化分解しただけの変性天然ゴムAを用いた比較例4と、これにリシンを反応させた変性天然ゴムC〜Eを用いた実施例5〜7との対比でも、実施例5〜7によれば、リシンによる末端変性量の増加に伴って、低発熱性能の改善効果が大きくなっていた。この点、比較例5と実施例8〜10との対比でも同様である。また、酸化分解しただけの変性天然ゴムBを用いた比較例6と、これにリシンを反応させた変性天然ゴムFを用いた実施例11との対比でも、実施例11であると、低発熱性能の改善効果が見られた。この点、比較例7と比較例12との対比でも同様である。