特許第6205208号(P6205208)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ミクニの特許一覧

特許6205208過熱防止装置、過熱防止方法及び過熱防止プログラム
<>
  • 特許6205208-過熱防止装置、過熱防止方法及び過熱防止プログラム 図000002
  • 特許6205208-過熱防止装置、過熱防止方法及び過熱防止プログラム 図000003
  • 特許6205208-過熱防止装置、過熱防止方法及び過熱防止プログラム 図000004
  • 特許6205208-過熱防止装置、過熱防止方法及び過熱防止プログラム 図000005
  • 特許6205208-過熱防止装置、過熱防止方法及び過熱防止プログラム 図000006
  • 特許6205208-過熱防止装置、過熱防止方法及び過熱防止プログラム 図000007
  • 特許6205208-過熱防止装置、過熱防止方法及び過熱防止プログラム 図000008
  • 特許6205208-過熱防止装置、過熱防止方法及び過熱防止プログラム 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205208
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】過熱防止装置、過熱防止方法及び過熱防止プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/02 20160101AFI20170914BHJP
【FI】
   H02P29/02
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-175577(P2013-175577)
(22)【出願日】2013年8月27日
(65)【公開番号】特開2015-46967(P2015-46967A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年8月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(74)【代理人】
【識別番号】100182349
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 誠治
(72)【発明者】
【氏名】山崎 茂
【審査官】 森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−210036(JP,A)
【文献】 特開2008−054440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動装置の推定温度を高めるための補正値により補正された前記駆動装置の放熱係数に、前記駆動装置が備えるコイルの推定上昇温度に応じた補正係数を乗じ、該放熱係数に基づいて放熱エネルギーを算出すると共に、前記駆動装置を駆動させるための駆動デューティまたは駆動電流に基づいて前記駆動装置に投入される投入熱エネルギーを算出し、該放熱エネルギーと該投入熱エネルギーとに基づいて前記推定温度を算出する算出部と、
前記推定温度が予め設定された上限温度を超えるか否かを判定する判定部と、
前記推定温度が前記上限温度を超えると判定された場合、前記駆動装置をフェイル制御する制御部と
を備える過熱防止装置。
【請求項2】
前記放熱係数は、前記駆動装置における温度シミュレーション処理結果から求められる放熱係数を所定の割合低めた値である
請求項1記載の過熱防止装置。
【請求項3】
前記上限温度は、前記駆動装置が備えるコイルにおけるコイル抵抗の誤差に基づいて設定される
請求項1または請求項2記載の過熱防止装置。
【請求項4】
前記上限温度は、前記コイル抵抗の誤差から導かれる前記推定温度の誤差のうちの最大値を、前記駆動装置が備える部材であって、前記コイルより上限温度が低い部材の上限温度から差し引いた値である
請求項3記載の過熱防止装置。
【請求項5】
前記駆動装置の停止が指示された場合、前記推定温度を不揮発性の記憶装置に格納する格納部と、
前記駆動装置が停止し、始動した直後、前記記憶装置に記憶された推定温度を読み出し、該推定温度を低めるための補正値で補正する補正部と
を更に備え、
前記判定部は、該補正された推定温度が前記上限温度を超えるか否かを判定する
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の過熱防止装置。
【請求項6】
前記記憶部は、前記駆動装置の停止が指示された場合、前記駆動デューティ又は前記駆動電流に基づいて前記駆動装置を駆動制御するインテリジェントパワーデバイスの温度を前記記憶装置に格納し、
前記補正部は、前記駆動装置が停止し、始動した直後、前記インテリジェントパワーデバイスの現温度と、前記記憶装置に記憶された前記インテリジェントパワーデバイスの温度との差から低下温度を算出し、該低下温度に基づいて、前記推定温度を低めるための補正値を決定する
請求項5記載の過熱防止装置。
【請求項7】
前記所定の割合は、10%以上、20%以下である
請求項2記載の過熱防止装置。
【請求項8】
過熱防止装置が、
駆動装置の推定温度を高めるための補正値により補正された前記駆動装置の放熱係数に、前記駆動装置が備えるコイルの推定上昇温度に応じた補正係数を乗じ、該放熱係数に基づいて放熱エネルギーを算出すると共に、前記駆動装置を駆動させるための駆動デューティに基づいて前記駆動装置に投入される投入熱エネルギーを算出し、該放熱エネルギーと該投入熱エネルギーとに基づいて前記推定温度を算出し、
前記推定温度が予め設定された上限温度を超えるか否かを判定し、
前記推定温度が前記上限温度を超えると判定された場合、前記駆動装置をフェイル制御する
過熱防止方法。
【請求項9】
コンピュータを、
駆動装置の推定温度を高めるための補正値により補正された前記駆動装置の放熱係数に、前記駆動装置が備えるコイルの推定上昇温度に応じた補正係数を乗じ、該放熱係数に基づいて放熱エネルギーを算出すると共に、前記駆動装置を駆動させるための駆動デューティに基づいて前記駆動装置に投入される投入熱エネルギーを算出し、該放熱エネルギーと該投入熱エネルギーとに基づいて前記推定温度を算出する算出部と、
前記推定温度が予め設定された上限温度を超えるか否かを判定する判定部と、
前記推定温度が前記上限温度を超えると判定された場合、前記駆動装置をフェイル制御する制御部
として機能させるための過熱防止プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ等の駆動装置の過熱防止を行う過熱防止装置、過熱防止方法及び過熱防止プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータが過負荷等により過熱する可能性がある場合、モータに直接温度センサを取り付け、モータの温度を測定することにより、事前に過熱を防止する手法が知られている。しかしながら、このような手法では、温度センサ自体のコスト、配線コスト、モータを制御するコントローラの温度センサ入力回路のコスト等、大きなコストアップが生じてしまう。
【0003】
一方、ソフトウェア処理によりモータ過熱を防止することにより、コストを低減させる手法がある。例えば、ある一定デューティ(たとえば40%)以上になった状態がある一定時間(たとえば5秒程度)継続した場合、モータ駆動を停止するフェイル制御が行われる。しかしながら、このような手法では、ある一定デューティ以下のデューティではモータ過熱を検出できないという問題がある。また、前述した一定デューティを小さな値にすると、一定時間以上であればモータ温度の制限以下であるのにも係わらずフェイル制御を行う事になり、モータの性能を著しく低下させてしまう。
【0004】
上述した欠点を補うために、モータのデューティまたは電流値からモータの温度を推定する方法がある。例えば、モータの駆動デューティまたは駆動電流を積算してモータへ投入される熱エネルギーを計算し、モータの推定温度からモータからの放熱エネルギーを計算し、両者の差から温度上昇に係る投入エネルギーを計算する。このような手法により、温度センサ無しでもモータの温度を推定する事が可能になり、その推定温度を使ってモータの駆動を制御する事により上記欠点を補うことができる。
【0005】
関連する技術として、電子サーマル機能を有するモータ制御装置において、モータの過熱保護を確実に行いつつ、モータ停止後の迅速な再始動を可能とする技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4526418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、モータ過熱が検出され、フェイル制御がなされた後の、モータの駆動復帰のタイミングが早すぎる場合、即ち、冷却期間を経ずにモータが始動される場合、モータの温度は十分低下していない。このような場合が繰り返されると、モータの推定温度と実温度との差が増大し、モータの実温度が上昇し続けてしまい、予め設定されているモータの上限温度を超えてしまうという問題が生じる。モータの実温度がモータの上限温度を超えてしまうと、モータを構成するコイル、配線、ベアリング等の各種部品や、モータの周辺部材の故障を招きかねない。
【0008】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、駆動装置の駆動復帰のタイミングが早い場合であっても、駆動装置の過熱を防止できる過熱防止装置、過熱防止方法及び過熱防止プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様は、駆動装置の推定温度を高めるための補正値により補正された前記駆動装置の放熱係数に基づいて放熱エネルギーを算出すると共に、前記駆動装置を駆動させるための駆動デューティまたは駆動電流に基づいて前記駆動装置に投入される投入熱エネルギーを算出し、該放熱エネルギーと該投入熱エネルギーとに基づいて前記推定温度を算出する算出部と、前記推定温度が予め設定された上限温度を超えるか否かを判定する判定部と、前記推定温度が前記上限温度を超えると判定された場合、前記駆動装置をフェイル制御する制御部とを備えた。
【0010】
また、本発明の一態様は、過熱防止装置が、駆動装置の推定温度を高めるための補正値により補正された前記駆動装置の放熱係数に基づいて放熱エネルギーを算出すると共に、前記駆動装置を駆動させるための駆動デューティに基づいて前記駆動装置に投入される投入熱エネルギーを算出し、該放熱エネルギーと該投入熱エネルギーとに基づいて前記推定温度を算出し、前記推定温度が予め設定された上限温度を超えるか否かを判定し、前記推定温度が前記上限温度を超えると判定された場合、前記駆動装置をフェイル制御する。
【0011】
また、本発明の一態様は、コンピュータを、駆動装置の推定温度を高めるための補正値により補正された前記駆動装置の放熱係数に基づいて放熱エネルギーを算出すると共に、前記駆動装置を駆動させるための駆動デューティに基づいて前記駆動装置に投入される投入熱エネルギーを算出し、該放熱エネルギーと該投入熱エネルギーとに基づいて前記推定温度を算出する算出部と、前記推定温度が予め設定された上限温度を超えるか否かを判定する判定部と、前記推定温度が前記上限温度を超えると判定された場合、前記駆動装置をフェイル制御する制御部として機能させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、駆動装置の駆動復帰のタイミングが早い場合であっても、駆動装置の過熱を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施の形態に係るTVCと電子制御バルブのハードウェア構成とを示すブロック図である。
図2】コイル低下温度とIPD低下温度との関係を表すコイル温度補正テーブルを示す図である。
図3】コイル上昇温度と補正係数との関係を表す放熱係数補正テーブルを示す図である。
図4】TVCの機能構成を示す機能ブロック図である。
図5】モータ過熱判定処理を示すフローチャートである。
図6】駆動ON/OFFヒステリシス処理を示すフローチャートである。
図7】放熱エネルギー算出処理を示すフローチャートである。
図8】投入熱エネルギー算出処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本実施の形態においては、自動車等に用いられる電子制御バルブ(例えば排気バルブ)の駆動制御を行うTVC(Throttle Valve Controller)に本発明を適用した場合を例に取り説明を行う。なお、これに限定されるものではなく、モータ等の発熱を伴い過熱を防止する必要がある駆動装置を制御する装置であれば本発明を適用できる。
【0015】
まず、本実施の形態に係るTVCについて説明する。図1は、本実施の形態に係るTVCと電子制御バルブのハードウェア構成を示すブロック図である。図1に示されるように、本実施の形態に係るTVC1は、後述するモータ過熱判定処理を行うことにより、電子制御バルブ2の駆動制御を行うものであり、CPU(Central Processing Unit)101と、IPD(Intelligen Power Device))102とを備える。また、TVC1は、温度センサ103と、メモリ104と、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read−Only Memory)105と、電源制御回路106とを備える。また、TVC1は、電源回路107と、ウォッチドッグ回路108と、電源電圧検出回路109と、IGN(Ignition)電圧検出回路110と、CAN(Controller Area Network)インタフェース回路111とを備える。
【0016】
CPU101は、基準電圧として2.5Vの電圧が印加されており、TVC1全体の制御を行う。IPD102は、MOTOR BATT(モータバッテリ)から印加される電圧に基づいて、CPU101から得られるIPD駆動デューティからPWMパルス信号を得て、当該PWMパルス信号より得られるパルス電圧をコイル201に印加することにより、モータ20をPWM制御駆動する。温度センサ103は、IPD102の温度を検出し、その結果をCPU101へ出力する。メモリ104は、各種プログラムや一時的なデータが展開される揮発性の記憶装置であり、EEPROM105は後述する推定コイル温度等を記録する不揮発性の記憶装置である。
【0017】
電源制御回路106はIGN電圧とBATT(バッテリ)からの電源電圧とが印加されており、BATTからの電力を電源回路107へ供給し、電源回路107は安定した電力をCPU101へ供給する。電源制御回路106は、TVC1および電子制御バルブ2を含むシステムの電源がOFFとなった場合、即ちイグニッションキースイッチがOFF(Key Off)されIGNがOFFとなった場合でも、CPU101からの指示があるまでCPU101へ電力を供給するラッチ回路である。この電源制御回路106により、CPU101は電源がOFFされた後でも、EEPROM105へ推定コイル温度を書き出すまで電力の供給を受けることができる。なお、電源回路107はウォッチドッグ回路108により、正常に動作しているかが監視されている。
【0018】
電源電圧検出回路109は、電源回路107へ印加される電圧を検出し、その結果をCPU101へ出力する。IGN電圧検出回路110は、電源制御回路106へ印加されるIGN電圧を検出し、その結果をCPU101へ出力する。このIGN電圧検出回路110の検出結果により、CPU101は電源のON/OFFを判定する。
【0019】
CANインタフェース回路111は、図示しない上位装置とCPU101とを接続しており、CANインタフェース回路111を介してCPU101は、上位装置から制御駆動デューティや電源ON/OFF等を受け付け、適切な処理を実行する。例えば、CPU101は、CANインタフェース回路111を介して、ECM(Engine Control Module)と接続される。
【0020】
また、図1に示されるように、電子制御バルブ2は、モータ20を備え、モータ20が駆動することにより図示しない弁体を回転駆動させる所謂バタフライバルブである。モータ20は、コイル201及びTPS(Throttle Position Sensor)202を備える。モータ20は、IPD102により制御されたパルス電圧がコイル201に印加されることにより駆動するトルクモータである。TPS202は、前述した弁体の角度を検出し、その検出結果をCPU101へ出力する。なお、モータ20はコイル201を備える
【0021】
次に、本実施の形態の理解を容易にするため、前述したTVC1が行うモータ過熱判定処理の概要を説明する。モータ過熱判定処理は、モータ20の放熱エネルギーと、コイル201への投入熱エネルギーとから推定コイル温度を算出し、当該推定コイル温度に基づいてモータ20に対してフェイルをかけるか否かを判断する処理である。このモータ過熱判定処理において本実施の形態では、この放熱エネルギーの算出にあたって、モータ20の推定温度を高めるための補正値により補正された放熱係数が用いられる。換言すると、理想の値から低く設定した放熱係数が用いられる。ここでの理想の値とは、実機(電子制御バルブ2等)の温度シミュレーション処理結果から得られる値であり、低く設定するとは、理想の値を所定の割合低くすることである。例えば、放熱係数を10%低くした場合(−10%の場合)、320秒でコイル201の実温度は1.5℃上昇する。したがって、所定の割合としては、理想の値の10〜20%が好適である。以上のことから、前述した推定温度を高めるための補正値により補正することは、放熱係数の10〜20%を当該放熱係数から差し引くことにあたる。
【0022】
また、本実施の形態に係るモータ過熱判定処理では、推定コイル温度が上限温度を超えるか否かにより、フェイルをかけるか否かが判断される。この上限温度は、コイル201における誤差、即ちコイル抵抗の誤差に基づいて設定される。より具体的には、コイル201におけるコイル抵抗の誤差から導かれる推定コイル温度の誤差のうちの最大値を、モータ20が備える所定の部材であって、コイル201より上限温度が低い部材であるベアリングの上限温度から差し引いた値である
【0023】
コイル201を巻きつけているコイルボビン等は樹脂部材であるが耐熱温度がベアリングよりも高い。例えば、本実施の形態においては、コイル201の線材の耐熱温度は180℃であるが、ベアリングの耐熱温度は150℃である。この場合、モータ20の上限温度は150℃とすることが好ましい。ここで推定コイル温度においても誤差が生じることがあるが、その誤差は、主にコイル201のコイル抵抗の誤差が主要因である。したがって、コイル抵抗の誤差が推定コイル温度に与える影響を考慮することが好ましい。例えば、コイル抵抗=0.75Ω±0.075Ωである場合、このコイル抵抗の誤差による推定コイル温度の誤差は約±5℃となる。例えば、モータ20の環境温度の上限が108℃とすると、許容されるモータ20の温度上昇は150℃−108℃−5℃=37℃とすることが好ましい。
【0024】
また、本実施の形態に係るモータ過熱判定処理では、電源がOFFされた場合、現推定コイル温度をEEPROM105へ格納し、再び電源がONされた直後は、当該推定コイル温度を読み出して、当該推定コイル温度に基づいてモータ20に対してフェイルをかけるか否かが判断される。ここで、電源OFFから電源ONにかけてモータ20が低下する温度を考慮し、読み出された推定コイル温度を、当該推定コイル温度を低めるための補正値で補正することが好ましい。
【0025】
図2は、コイル低下温度とIPD低下温度との関係を表すコイル温度補正テーブルを示す図である。図2に示されるように、電源がOFFとされた場合、例えばIPD102が11℃低下すればコイル201は16℃低下し、IPD102が14℃低下すればコイル201は26℃低下する。このテーブルに基づいて、電源OFF前のIPD102の温度と電源ON後のIPD102の温度との差からIPD低下温度を算出すれば、コイル201の低下温度を求めることができる。本実施の形態に係るモータ過熱判定処理では、この求めた低下温度を前述した補正値として用いる。
【0026】
また、本実施の形態に係るモータ過熱判定処理では、コイル201の推定上昇温度に応じた補正係数を放熱係数に乗じ、該放熱係数に基づいて放熱エネルギーを算出する。図3は、コイル上昇温度と補正係数との関係を表す放熱係数補正テーブルを示す図である。図3に示されるように、コイル上昇温度が高くなるにつれ、補正係数は増大する。本実施の形態に係るモータ過熱判定処理では、このテーブルを用いて、コイル201の推定上昇温度に応じた補正係数を放熱係数に乗じる。なお、推定上昇温度は、直近の推定コイル温度と、その前の推定コイル温度との差で求められる。以上、説明したようなモータ過熱判定処理は、TVC1が備えるメモリ104等のハードウェア資源を協働して実現する各機能により実現される。
【0027】
次に、TVC1の機能構成について説明する。図4は、TVCの機能構成を示す機能ブロック図である。図4に示されるように、TVC1は、温度算出部301と、判定処理部302と、温度格納部303と、温度補正部304と、駆動制御部305とを機能として備える。なお、これらの機能は、上述したCPU101及びメモリ104等のTVC1が備えるハードウェア資源が協働することにより実現される。
【0028】
温度算出部301は、モータ20の推定温度を高めるための補正値により補正されたモータ20の放熱係数に基づいて放熱エネルギーを算出すると共に、モータ20を駆動させるための駆動デューティまたは駆動電流に基づいてコイル201に投入される投入熱エネルギーを算出し、該放熱エネルギーと該投入熱エネルギーとに基づいて推定コイル温度を算出する。また、温度算出部301は、直近の推定コイル温度と、その前の推定コイル温度との差から推定上昇温度を求め、推定上昇温度から放熱係数補正テーブルに基づいて補正係数を割り出し、放熱エネルギーを算出する。
【0029】
判定処理部302は、推定コイル温度が予め設定された上限温度を超えるか否かの判定等、モータ過熱判定処理における各種判定を行う。温度格納部303は、モータ20の停止が指示された場合、推定コイル温度とIPD102の温度とをEEPROM105に格納する。温度補正部304は、モータ20が停止し、始動した直後、EEPROM105に記憶された推定コイル温度を読み出し、該推定コイル温度を低めるための補正値で補正する。また、温度補正部304は、モータ20が停止し、始動した直後、IPD102の現温度と、EEPROM105に記憶されたIPDの温度との差から低下温度を算出し、コイル温度補正テーブルに基づいて該低下温度に対応する、推定コイル温度を低めるための補正値を算出する。駆動制御部305は、推定コイル温度が予め設定された上限温度を超えると判定された場合、モータ20をフェイル制御する等、駆動デューティや駆動電流に基づいたモータ20の各種駆動制御を行う。
【0030】
次に、TVC1によるモータ過熱判定処理の詳細を説明する。図5は、本実施の形態に係るモータ過熱判定処理を示すフローチャートである。なお、本実施の形態におけるモータ過熱判定処理は、サンプル毎(例えば5msec毎)に実行されるものであり、電源がOFFされるまで、継続して実行される。また、電源がONされたことをトリガとしてモータ過熱判定処理は実行される。
【0031】
先ず、図5に示されるように、温度補正部304は、電源OFF時に温度格納部303によりEEPROM105へ格納された推定コイル温度およびIPD102の温度を読み出し(S101)、推定コイル温度補正処理を行う(S102)。
【0032】
ここで、推定コイル温度補正処理を説明する。まず、温度補正部304は、現在のIPD102の温度を取得し、該温度を、EEPROM105に記憶されていたIPD102の温度から差し引く。温度補正部304は、この結果に対応するコイル低下温度を図2に示されるコイル温度補正テーブルから取得し、EEPROM105に記憶されていた推定コイル温度から差し引くことにより、実測値に近い推定コイル温度を得る。なお、この処理後に温度格納部303により推定コイル温度をEEPROM105に格納するようにしてもよい。
【0033】
推定コイル温度補正処理後、判定処理部302は、駆動ON/OFFヒステリシス処理を行う(S103)。ここで、図6を用いて駆動ON/OFFヒステリシス処理を説明する。図6は、駆動ON/OFFヒステリシス処理を示すフローチャートである。先ず、判定処理部302は、予め設定された上限温度(前述したコイル抵抗の誤差に基づく上限温度)を取得し(S201)、フェイルフラグがOFFであるか否かの判定を行う(S202)。フェイルフラグは、現在フェイル制御がなされているか否かを示す情報である。フェイルフラグがOFFである場合(S202,YES)、判定処理部302は、推定コイル温度が上限温度を超えるか否かを判定する(S203)。推定コイル温度が上限温度を超える場合(S203,YES)、判定処理部302は、フェイルフラグをONとし(S204)、駆動ON/OFFヒステリシス処理は終了となる。
【0034】
一方、推定コイル温度が上限温度を超えていない場合(S203,NO)、判定処理部302は、フェイルフラグOFFを維持し、駆動ON/OFFヒステリシス処理を終了する。また、ステップS202において、フェイルフラグがOFFでない場合(S202,NO)、判定処理部302は、推定コイル温度が復帰コイル温度以下であるか否かを判定する(S205)。推定コイル温度が復帰コイル温度以下である場合(S205,YES)、判定処理部302は、フェイルフラグをOFFとし(S206)、駆動ON/OFFヒステリシス処理を終了する。一方、推定コイル温度が復帰コイル温度以下でない場合(S205,YES)、判定処理部302は、フェイルフラグONを維持し、駆動ON/OFFヒステリシス処理は終了となる。
【0035】
図5に戻り、駆動ON/OFFヒステリシス処理後、判定処理部302は、フェイルフラグがOFFであるか否かを判定する(S104)。フェイルフラグがOFFである場合(S104,YES)、駆動制御部305は、上位装置からの制御駆動デューティをIPD駆動デューティとしてIPD102に与え(S105)、次サンプルへ移行する(S107)。一方、フェイルフラグがONである場合(S104,NO)、駆動制御部305は、コイル過熱フェイルを上位装置へ通知すると共にIPD駆動デューティを0(ゼロ)としてIPD102に与えることによりフェイル制御を行い(S106)、次サンプルへ移行する(S107)。
【0036】
次いで、温度算出部301は、放熱エネルギー算出処理(S108)および投入熱エネルギー算出処理(S109)を行い、算出された放熱エネルギーと投入熱エネルギーとを加算し、熱エネルギー積分処理を行うことにより、現サンプル時の推定コイル温度を算出する(S110)。算出後、ステップS103に戻って駆動ON/OFFヒステリシス処理が行われる。以下、図7及び図8を用いて放熱エネルギー算出処理および投入熱エネルギー算出処理を説明する。
【0037】
図7は、放熱エネルギー算出処理を示すフローチャートである。図7に示されるように、先ず、温度算出部301は、予め設定された放熱係数(前述した、理想の値から低く設定した放熱係数)と前サンプル時の推定コイル温度とを積算する(S301)。積算後、温度算出部301は、前サンプル時の推定コイル温度と前々サンプル時の推定コイル温度との差に対応する補正係数を、放熱係数補正テーブルから取得する(S302)。取得後、温度算出部301は、積算結果と補正係数とを再び積算し、放熱エネルギーを算出し(S303)、放熱エネルギー算出処理は終了となる。
【0038】
図8は、投入熱エネルギー算出処理を示すフローチャートである。図8に示されるように、温度算出部301は、所定の銅温度係数と前サンプル時の推定コイル温度とを積算し(S401)、該積算結果に1を加算し、基準となるコイル抵抗(例えば、25℃におけるコイル抵抗)を、その加算結果に乗じることにより推定コイル温度におけるコイル抵抗を算出する(S402)。算出後、温度算出部301は、前サンプル時のIPD駆動デューティを絶対値処理し、該結果と電源電圧とを積算することにより制御駆動電圧を算出する(S403)。算出後、温度算出部301は、推定コイル温度におけるコイル抵抗で制御駆動電圧を乗じて制御駆動電流を算出し、制御駆動電流と制御駆動電圧とを積算することにより投入電力を算出する(S404)。算出後、温度算出部301は、所定の温度上昇係数と投入電力とを積算し、投入熱エネルギーを算出し(S405)、投入熱エネルギー算出処理は終了となる。なお、ステップS401及びS402に先立ってステップS403を行うようにしてもよい。
【0039】
本実施の形態によれば、放熱エネルギーの算出にあたって、理想の値から低く設定した放熱係数を用いることにより、推定コイル温度を実際の温度から高く設定することができる。そのため、モータ20の過熱判定後(フェイル制御後)のモータ20の駆動復帰のタイミングが早い場合であっても、モータ20の実温度は低下傾向になる。したがって、モータ20の過熱判定後のモータ温度の変化は上昇せずに低下させることができ、モータ過熱を防止することができる。
【0040】
また、本実施の形態によれば、上限温度を、コイル201におけるコイル抵抗の誤差に基づいて設定することにより、モータ過熱をより精度よく防止することができる。また、電源OFF時の推定コイル温度とIPD102の温度とを記録し、電源OFFから電源ONにかけてモータ20が低下する温度を考慮し、推定コイル温度を、該推定コイル温度を低めるための補正値で補正している。このように補正することにより、電源OFF/ONが繰り返された場合であっても、推定コイル温度をより正確に算出することができると共に、モータ20の性能を低下させてしまうことを低減できる。また、コイル201の推定上昇温度に応じた補正係数を放熱係数に乗じ、該放熱係数に基づいて放熱エネルギーを算出することにより、推定コイル温度をより正確に算出することができる。
【0041】
本実施の形態では、理想の値から低く設定した放熱係数を用いたまま、各サンプルにおける推定コイル温度を算出すると説明したが、これに限定されるものではない。複数サンプル毎に、理想の値そのままの放熱係数を用いるようにしてもよい。このように交互に放熱係数を低めることにより、過度に実際のコイル温度を過度に低下させることを防止することができる。
【0042】
また、本実施の形態では、推定コイル温度を低めるための補正値をコイル温度補正テーブルに基づいて決定すると説明したが、これに限定されるものではなく、当該補正値を固定値としてもよい。
【0043】
また、本実施の形態では、電源OFF時に推定コイル温度やIPD102の温度をEEPROM105へ書き出すと説明したが、これに限定されるものではなく、電源OFF時以外にも、推定コイル温度算出後等に、適宜書き出すようにしてもよい。
【0044】
また、本実施の形態にて述べた各種ステップを、過熱防止プログラムとして、既存のTVCに組み込むことにより、前述した機能を当該TVCに実現させることができる。
【0045】
本発明は、その要旨または主要な特徴から逸脱することなく、他の様々な形で実施することができる。そのため、前述の実施の形態は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、何ら拘束されない。更に、特許請求の範囲の均等範囲に属する全ての変形、様々な改良、代替および改質は、全て本発明の範囲内のものである。
【0046】
なお、特許請求の範囲に記載の過熱防止装置は、例えば前述の実施の形態におけるTVC1に対応し、駆動装置は、例えばモータ20に対応する。また、算出部は、例えば温度算出部301に対応し、判定部は、例えば判定処理部302に対応する。制御部は、例えば駆動制御部305に対応する。格納部は、例えば温度格納部303に対応し、補正部は、例えば温度補正部304に対応する。推定温度は、例えば推定コイル温度に対応し、コイルは、例えばコイル201に対応する。記憶装置は、例えばEEPROM105に対応する。インテリジェントパワーデバイスは、例えばIPD102に対応し、モータが備える所定の部材は、例えばベアリングに対応する。
【符号の説明】
【0047】
1 TVC、2 電子制御バルブ、8 情報処理装置、9 記録媒体、20 モータ、101 CPU、102 IPD、103 温度センサ、104 メモリ、105 EEPROM、106 電源制御回路、107 電源回路、108 ウォッチドッグ回路、109 電源電圧検出回路、110 IGN電圧検出回路、111 CANインタフェース回路、301 温度算出部、302 判定処理部、303 温度格納部、304 温度補正部、305 駆動制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8