特許第6205214号(P6205214)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205214
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】自動車用電子制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 16/02 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
   B60R16/02 660N
   B60R16/02 660U
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-185117(P2013-185117)
(22)【出願日】2013年9月6日
(65)【公開番号】特開2015-51695(P2015-51695A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2016年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100078330
【弁理士】
【氏名又は名称】笹島 富二雄
(72)【発明者】
【氏名】大澤 文博
(72)【発明者】
【氏名】椎谷 崇
【審査官】 菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−063542(JP,A)
【文献】 特開2010−023556(JP,A)
【文献】 特開平05−032142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車に搭載された制御機器を制御する自動車用電子制御装置であって、
書き換え可能な不揮発性記憶部と、
前記不揮発性記憶部に書き込まれた情報に基づいて前記制御機器の制御処理を行う第1処理手段と、
前記第1処理手段の動作を監視する監視処理を行う第2処理手段と、
を含み、
前記第1処理手段は、前記不揮発性記憶部が書き換えられる場合、車載バッテリの端子電圧が第1所定電圧未満であるときに、前記第1処理手段への電力供給を維持しつつ、前記第2処理手段における電力消費を抑制する第1省電力モードを実施し、前記第1省電力モードの実施によっても前記端子電圧が前記第1所定電圧未満であるときに、前記第1省電力モードの実施に加えて、前記制御機器以外の他の制御機器を制御する他の自動車用電子制御装置における電力消費を抑制する第2省電力モードを実施することを特徴とする自動車用電子制御装置。
【請求項2】
前記第1処理手段は、前記第1省電力モードを実施する前に、前記端子電圧が前記第1所定電圧よりも低い第2所定電圧未満であるときに、前記不揮発性記憶部の書き換えをやり直させることを特徴とする請求項1に記載の自動車用電子制御装置。
【請求項3】
前記第1処理手段は、前記第1省電力モードを実施するとき、前記第1処理手段の動作に対する前記第2処理手段の監視処理を停止させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動車用電子制御装置。
【請求項4】
前記第1処理手段は、前記第1省電力モードを実施するとき、前記第2処理手段の動作を停止させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動車用電子制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に搭載された制御機器を制御する自動車用電子制御装置に関し、詳しくは、自動車用電子制御装置に実装された記憶装置にデータ等を書き込みする際の省電力技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に搭載された制御機器を制御する自動車用電子制御装置として、例えば、特許文献1に記載されているように、制御機器の制御処理を行う第1処理手段と、第1処理手段の動作を監視する監視処理を行う第2処理手段と、を備えたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−25570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述の自動車用電子制御装置は、第1処理手段による制御機器の制御処理を最適化するために、電気的に書換えが可能な不揮発性メモリが実装されることにより、製造後における任意のタイミングで、不揮発性メモリに書き込まれたソフトウェアや制御データの書換え(以下、「リプログラミング」という)が可能となるように構成されることがある。
【0005】
しかしながら、エンジン及び車両を停止させて車載バッテリから電力を供給して行うリプログラミング中には、第1処理手段の動作に対する第2処理手段の監視処理は不要となるため、第1処理手段に加えて第2処理手段にも電力が供給され続けると、電力の浪費となるだけでなく、車載バッテリの端子電圧が低下してリプログラミングが不完全となるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は以上の問題点に鑑み、リプログラミングに必要な電力供給の確実性や安定性が向上した自動車用電子制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、本発明に係る自動車用電子制御装置は、自動車に搭載された制御機器を制御するものであって、書き換え可能な不揮発性記憶部、第1処理手段、及び第2処理手段を備え、第1処理手段は、不揮発性記憶部に書き込まれた情報に基づいて制御機器の制御処理を行い、第2処理手段は、第1処理手段の動作を監視する監視処理を行うことを前提とする。そして、かかる自動車用電子制御装置において、第1処理手段は、その不揮発性記憶部が書き換えられる場合、車載バッテリの端子電圧が第1所定電圧未満であるときに、第1処理手段への電力供給を維持しつつ、第2処理手段における電力消費を抑制する第1省電力モードを実施し、第1省電力モードの実施によっても端子電圧が第1所定電圧未満であるときに、第1省電力モードの実施に加えて、第1処理手段が制御する制御機器以外の他の制御機器を制御する他の自動車用電子制御装置における電力消費を抑制する第2省電力モードを実施する
【発明の効果】
【0008】
本発明の自動車用電子制御装置によれば、リプログラミングに必要な電力供給の確実性や安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】データ書換えシステムの一例を概略的に示す構成図である。
図2】第1実施形態の自動車用電子制御装置の一例を示す内部構成図である。
図3】CPUに対する監視処理内容の一例を示す説明図である。
図4】自動車用電子制御装置の電力確保処理の一例を示すフローチャートである。
図5】第2実施形態の自動車用電子制御装置の一例を示す内部構成図である。
図6】第3実施形態の自動車用電子制御装置の一例を示す内部構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付された図面を参照し、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、自動車に搭載される自動車用電子制御装置(以下、「ECU(Electronic Control Unit)」という)のデータを書き換える、データ書換えシステムの一例を示す。
【0011】
データ書換え、すなわち、リプログラミングの対象となるECU10は、例えば、エンジンの燃料噴射装置、自動変速機、または各種ポンプなど、自動車12に搭載されたいずれかの制御機器14を制御する電子機器であって、マイクロコンピュータを内蔵している。
【0012】
ECU10は、他の制御機器を制御するECU10aとともに、例えば、CAN(Controller Area Network)、シリアル通信線、または、FlexRay(登録商標)などの車載ネットワーク16に接続され、他のECU10aとの間で各種データの転送が可能となるように構成されている。また、ECU10は、この車載ネットワーク16に設けられた外部コネクタ18を介して、非車載の診断テスター20(データ書換装置)に着脱可能に接続され、診断テスター20との間でも各種データ転送が可能に構成されている。作業者は、診断テスター20に対する入力操作によりECU10のデータ書換え作業を行う。なお、ECU10と診断テスター20とは、外部コネクタ18を介した有線接続に限らず、無線送受信機を使用した無線によって相互に接続されるようにしてもよい。
【0013】
診断テスター20は、作業者がECU10のリプログラミング作業を行う電子機器であって、例えば、パーソナルコンピュータなどのコンピュータから構成される。具体的には、診断テスター20は、図示省略するが、CPUなどのプロセッサ、車載ネットワーク16に接続するための通信回路、ハードディスク装置やSSD(Solid State Drive)などのストレージ、および、作業者へのインターフェースとなる入出力装置(例えば、ディスプレイや入力キー)などが通信線によって相互に通信可能に接続されて構成されている。
【0014】
図2は、第1実施形態に係るECU10の内部構成の一例を示す。
ECU10は、自動車12に搭載された制御機器14の制御処理を行う第1処理手段としての主マイクロコンピュータ(以下、「メインマイコン」という)22、および、メインマイコン22と協調してメインマイコン22の動作(演算機能)を監視する監視処理を行う第2処理手段としての副マイクロコンピュータ(以下、「サブマイコン」という)24を有している。
【0015】
また、ECU10は、自動車12のイグニッションスイッチ(IGNSW)またはアクセサリスイッチ(ACCSW)がONとなる(閉成される)ことにより、車載バッテリ26から電力の供給を受け、ECU10の各部に適した電圧に調整する電源回路28を介して、メインマイコン22およびサブマイコン24に電力を分配している。ここで、ECU10は、車載バッテリ26からメインマイコン22およびサブマイコン24に電力供給する電源ライン30のうち、内蔵する電源回路28とサブマイコン24との間を断接するスイッチング素子32を更に有し、このスイッチング素子32は、メインマイコン22からの電気信号に応じてON/OFFする、すなわち、電源回路28からサブマイコン24への電力を供給/遮断する、例えば、トランジスタやFETなどの半導体素子である。
【0016】
メインマイコン22は、揮発性のRAM(Random Access Memory)34、通信インターフェース(I/F)36、不揮発性のフラッシュメモリ(Flash EEPROM)38、入出力回路(I/O)40、および、CPU(Central Processing Unit)42を備え、それぞれが、内部バス44により互いにデータ送受信可能に接続されている。
【0017】
通信インターフェース36は、車載ネットワーク16と接続され、診断テスター20との間で、データの送受信や、通信エラー処理などを実行する。通信インターフェース36は、例えば、車載ネットワーク16としてCANが採用される場合、メインマイコン22にCANプロトコルの機能を実現するCANコントローラ(図示省略)を内蔵し、メインマイコン22の外部のECU10内に、CANバス(通信線)における送信電圧発生、動作電流の確保などを行うCANトランシーバ(図示省略)を有して構成され得る。
【0018】
フラッシュメモリ38は、電気的に記憶の書換えが可能で、かつ、不揮発性の記憶装置であり、一括またはブロック単位でデータを消去し、新たなデータをアドレス順に書き込むことができるようになっている。フラッシュメモリ38のリプログラミングは、作業者が車載ネットワーク16を介してECU10と診断テスター20とを通信可能に接続した後、診断テスター20において、作業者が書換えデータおよび被書換えデータを指定して、所定の入力操作を行ったときに実行される。
【0019】
入出力回路40は、D/A(Digital/Analog)変換器を備え、CPU42からのデジタル出力信号を内部バス44からD/A変換器を介してD/A変換し、アナログ信号として制御機器14(または、その駆動回路)およびスイッチング素子32に出力する。また、入出力回路40は、A/D(Analog/Digital)変換器を備え、電源ライン30の電圧のアナログ信号を入力してA/D変換器によりA/D変換し、内部バス44を介してデジタル信号としてCPU42へ転送する。
【0020】
CPU42は、フラッシュメモリ38およびRAM34に記憶された情報(制御データやソフトウェア)に基づいて、制御機器14の制御処理を行う演算処理ユニットである。また、メインマイコン22のCPU(以下、「メインCPU」という)42とサブマイコン24のCPU(以下、「サブCPU」という)46とは、例えば、SPI(Serial Peripheral Interface)通信など、双方向にデータ転送可能な通信線48で接続され、サブCPU46は、この通信線48を介して、メインCPU42と協調してメインCPU42の動作を監視する監視処理を行う。さらに、メインCPU42は、フラッシュメモリ38のリプログラミングが実施されているか否かに応じて、スイッチング素子32の制御処理を行う。
【0021】
図3は、メインCPU42とサブCPU46との協調により、メインCPU42の動作を監視する監視処理内容の一例を示す。
サブCPU46は、メインCPU42に例題を出題し、メインCPU42からの例題の回答に基づいてメインCPU42の演算機能を監視するユニットであり、サブCPU46は、例題送信部50、回答受信部52、診断部54、および例題&回答テーブル56を有する。
【0022】
例題&回答テーブル56は、メインCPU42に出題する例題と、当該例題の回答の期待値と、を対として記憶するものであり、例えば、サブCPU46が備えるマスクROMなどの書き換え不能の不揮発性記憶領域に格納されている。
例題送信部50は、例題&回答テーブル56から読み出した例題を、メインCPU42に送信する。
【0023】
回答受信部52は、例題送信部50からの例題出力に応じてメインCPU42が出力する回答データを受け取って診断部54に出力する。
診断部54は、メインCPU42に送信した例題の回答の期待値を例題&回答テーブル56から読み出し、この期待値とメインCPU42側から受け取った回答データ(演算結果)とを照合する。
【0024】
ここで、メインCPU42は、演算機能が正常であれば、例題に対して予め決められた演算処理を実施することで期待値に一致する回答データを出力し、メインCPU42の演算機能に何らかの異常が発生すると、例題&回答テーブル56から読み出した期待値と、メインCPU42側から受け取った回答データとが一致しないようになる。
そこで、診断部54は、例題&回答テーブル56から読み出した期待値と、メインCPU42側から受け取った回答データとを照合することで、メインCPU42の演算機能の監視を行っている。
【0025】
つまり、例題&回答テーブル56から読み出した期待値と、メインCPU42側から受け取った回答データとの照合結果(一致/不一致)は、メインCPU42の演算機能が正常であるか否かを示し、診断部54は、メインCPU42の演算機能が正常であるか異常であるかに応じてフェイルセーフ信号の出力を切り替える機能を有している。
【0026】
具体的には、診断部54は、例題&回答テーブル56から読み出した期待値と、メインCPU42側から受け取った回答データとが一致する場合、すなわち、メインCPU42の演算機能が正常である場合にはフェイルセーフ処理を行わず、両者が不一致である場合、すなわち、メインCPU42の演算機能が何らかの異常である場合には、メインCPU42によって制御機器14が異常に制御されることを抑制するためのフェイルセーフ処理を実施する。
【0027】
また、診断部54は、例題を出力してから所定時間内にメインCPU42からの回答データの送信がない場合、照合結果は不一致であると判定し、メインCPU42によって制御機器14が異常に制御されることを抑制するためのフェイルセーフ処理を実施する。
【0028】
フェイルセーフ処理として、診断部54は、例えば、メインCPU42がエンジンの電制スロットル弁を制御する機能を有する場合、電制スロットル弁を安全サイドに制御する。
電制スロットル弁は、例えば、リターンスプリングによって閉弁方向に付勢されるエンジンのスロットルバルブを、スロットルモータが発生するトルクによって開弁させるデバイスであり、メインCPU42は、スロットルモータへの通電を制御することで、スロットルバルブの開度を制御する。
【0029】
そして、サブマイコン24は、フェイルセーフ処理としてスロットルモータへの通電を遮断する(例えば、スロットルモータリレーをオフする)。
これにより、スロットルバルブは、リターンスプリングの付勢力によって全閉位置にまで閉じて全閉位置を保持するから、エンジンの発生トルク、つまり、自動車12の駆動トルクの増大が制限され、自動車12が安全サイドに導かれる。
【0030】
一方、メインCPU42は、送受信部58、および例題演算部60を有している。
送受信部58は、サブマイコン24の例題送信部50から出力された例題を受信する例題受信部58aと、サブマイコン24の回答受信部52に回答データを送信する回答送信部58bとを有している。
【0031】
例題演算部60は、CPUコア、演算装置ALUなどの処理装置であって、入力した例題を演算し、例題の演算結果としての回答データを出力する。ここで、例題演算部60は、例題受信部58aが受け取ったサブCPU46からの例題を入力し、入力した例題に基づき所定の演算を行った結果としての回答データを、回答受信部52を介してサブCPU46に出力する。
【0032】
次に、図4は、イグニッションスイッチまたはアクセサリスイッチがONになったことを契機として、メインCPU42において繰り返し実行されるECU10の電力確保処理内容を示す。ただし、リプログラミングはエンジン及び自動車12が停止した状態で行い、本電力確保処理と並行して実行されるものとする。
【0033】
ステップ1001(図では「S1001」と略記する。以下同様。)では、ECU10におけるフラッシュメモリ38のリプログラミングが実施されているか否かを判定する。具体的には、作業者が車載ネットワーク16を介してECU10と診断テスター20とを通信可能に接続した後、診断テスター20において、作業者が書換えデータおよび被書換えデータを指定して、所定の入力操作を行ったときに、診断テスター20からデータの転送が開始されているか否かを、内部バス44を通じてメインCPU42が検出することにより、リプログラミングが実施されているか否かを判定する。
【0034】
リプログラミングが実施されていると判定された場合には、ステップ1002へと進む(Yes)。一方、リプログラミングが実施されていないと判定された場合には、ステップ1008へと進む(No)。
【0035】
ステップ1002では、車載バッテリ26の端子電圧Vbatが所定電圧Vlimに所定値αを加えた加算値(Vlim+α)未満となっているか否かを判定する。
ここで、所定電圧Vlimは、メインマイコン22におけるリプログラミングに支障をきたさない電圧の下限値である。また、所定値αは、ノイズの影響などにより、車載バッテリ26の端子電圧Vbatが変動することを考慮して設けられる正の誤差である。
【0036】
車載バッテリ26の端子電圧Vbatが加算値(Vlim+α)未満であると判定された場合には、メインマイコン22におけるリプログラミングに必要な電力に余裕がないと推定されるため、車載バッテリ26から供給される電力の消費を抑制する省電力モードを実施すべきか否かを判定すべく、ステップ1003へ進む(Yes)。一方、車載バッテリ26の端子電圧Vbatが加算値(Vlim+α)以上であると判定された場合には、メインマイコン22におけるリプログラミングに必要な電力に余裕があると推定されるため、省電力モードを実施しないようにすべく、ステップ1008へ進む(No)。
【0037】
ステップ1003では、省電力モードを実施する前に、車載バッテリ26の端子電圧Vbatが所定電圧Vlim以上であるか否かを判定する。
これは、車載バッテリ26の端子電圧Vbatが所定電圧Vlim未満であるとリプログラミングが不完全となるおそれがあるため、車載バッテリ26の端子電圧Vbatが所定電圧Vlim以上であることを確認する必要があるからである。
【0038】
車載バッテリ26の端子電圧Vbatが所定電圧Vlim以上である場合には、本ステップまでに行われたリプログラミングが完全であると推定されるので、リプログラミングを継続すべく、ステップ1004へ進む(Yes)。一方、車載バッテリ26の端子電圧Vbatが所定電圧Vlim未満の場合には、本ステップまでに行われたリプログラミングが不完全であると推定されるので、ステップ1005へ進んでリプログラミングを最初からやり直し、ECU10の電力確保処理を終了する(No)。リプログラミングを最初からやり直すに際しては、メインCPU42から車載ネットワーク16を介して信号を送信することにより、車載バッテリ26の端子電圧Vbatがリプログラミングを実施するのに不十分な電圧であることを、診断テスター20のディスプレイに表示させてもよい。
【0039】
ステップ1004では、ECU10内における電力の消費を抑制する第1省電力モードを実施する。
具体的には、スイッチング素子32がONとなっている場合には、スイッチング素子32をOFFにして、電源回路28からサブマイコン24への電力供給を遮断する一方、スイッチング素子32がすでにOFFとなっている場合には、その状態を維持する。これにより、サブマイコン24で消費されていた電力を、リプログラミングを実施しているメインマイコン22に回すことができ、リプログラミングを安定して実施することができる。
【0040】
また、スイッチング素子32をOFFにする代わりに、スイッチング素子32はONにしたまま、少なくとも、サブCPU46において実施されるメインCPU42の動作を監視する監視処理を停止するだけでもよい。この場合、サブCPU46は、車載ネットワーク16あるいはメインマイコン22から、リプログラミングが開始されたことを検知して、自動的に監視処理を停止する。
【0041】
なお、メインCPU42は、リプログラミングの開始とともに、サブCPU46から出題される例題に応じて回答して回答データをサブCPU46へ送信するメインCPU42側の監視処理を停止するように構成されてもよい。この場合、メインCPU42の監視処理の停止は、サブCPU467において、メインCPU42に異常が発生していると誤検知されないように、少なくとも、サブマイコン24に電力が供給されなくなるまで、または、サブCPU46における監視処理を停止するまで制限される。
【0042】
ステップ1006では、車載バッテリ26の端子電圧Vbatが所定電圧Vlimに所定値αを加えた加算値(Vlim+α)未満となっているか否かを再度判定する。
【0043】
車載バッテリ26の端子電圧Vbatが加算値(Vlim+α)未満であると判定された場合には、ステップ1004における第1省電力モードの実施がリプログラミングを支障なく行うには不十分であったと推定されるため、さらに第2省電力モードを実施すべく、ステップ1007へ進む(Yes)。一方、車載バッテリ26の端子電圧Vbatが加算値(Vlim+α)以上であると判定された場合には、ステップ1004における第1省電力モードの実施により、車載バッテリ26の端子電圧Vbatが、リプログラミングを支障なく行うことができる電圧まで上昇したと推定され、さらに別の省電力モードを実施する必要はないので、ECU10の電力確保処理を終了する(No)。
【0044】
ステップ1007では、リプログラミングの対象であるECU10だけでなく、自動車12全体で電力の消費を抑制する第2省電力モードを実施する。
第2省電力モードは、車載バッテリ26の端子電圧Vbatを加算値(Vlim+α)以上とすべく、ステップ1004における第1省電力モードの実施に加えて、リプログラミングの対象であるECU10以外の他のECU10aのうち少なくとも1つの動作を停止させる。
【0045】
具体的には、メインCPU42が、他のECU10aのうち特定のものに対して動作を停止するように指示する信号を生成し、この信号が通信インターフェース36から車載ネットワーク16を介して前記特定のECU10aに転送される。また、メインCPU42は、前記特定のECU10aが、例えば、自動変速機のソレノイドへの通電、空調装置の作動、ナビゲーションシステムの作動、または、ライトの点灯などを禁止するように、車載ネットワーク16を介して、他のECU10aに指示する信号を出力してもよい。
【0046】
他のECU10aのうち動作を停止させるものの数は、車載バッテリ26の端子電圧Vbatが加算値(Vlim+α)に達するまで、徐々に増やしていってもよい。
なお、前記特定のECU10aの動作を停止させた場合には、ECU10、及び前記特定のECU10a以外のECU10aが前記特定のECU10aを異常として誤検知しないように、各種異常検知を停止してもよい。
【0047】
ステップ1008では、車載バッテリ26の端子電圧Vbatが所定電圧Vlimに所定値βを加えた加算値(Vlim+β)以上となっているか否かを判定する。
【0048】
ここで、所定値βは、所定値αよりも大きい値であり、所定電圧Vlimに所定値βを加えた加算値(Vlim+β)は、省電力モードを全て解除しても、車載バッテリ26の端子電圧Vbatが加算値(Vlim+α)未満とならない電圧である。したがって、省電力モードにより車載バッテリ26の端子電圧Vbatが加算値(Vlim+α)以上となった場合、直ちに次のステップ1009で非省電力モードを実施すると、車載バッテリ26の端子電圧Vbatが加算値(Vlim+α)未満となったときには省電力モードを再び実施することになるが、車載バッテリ26の端子電圧Vbatが所定電圧Vlimに所定値αよりも大きい所定値βを加えた加算値(Vlim+β)以上となっている場合に、非省電力モードを実施すれば、省電力モードと非省電力モードとの間におけるハンチングを低減することができる。
【0049】
車載バッテリ26の端子電圧Vbatが加算値(Vlim+β)以上であると判定された場合には、非省電力モードを実施すべく、ステップ1009へ進む(Yes)。一方、車載バッテリ26の端子電圧Vbatが加算値(Vlim+β)未満であると判定された場合には、ハンチングを抑制すべく、非省電力モードを実施することなくECU10の電力確保処理を終了する(No)。
【0050】
なお、本実施形態において、メインCPU42は、前述のように、図4の電力確保処理と、不揮発性メモリに書き込まれたソフトウェアや制御データを書き換えるリプログラミングシーケンスと、を並行して実行している。
しかし、メインCPU42が、リプログラミングシーケンスの前に1回だけ、図4の電力確保処理を実行するようにしてもよく、この場合、前述のようなハンチングは発生しないので、ステップ1001においてリプログラミングが実施されていないと判定されたとき、又は、ステップ1002において車載バッテリ26の端子電圧Vbatが加算値(Vlim+α)以上であると判定されたときには、本ステップ及び次のステップ1009を省略して、電力確保処理を終了する。
【0051】
また、図4の電力確保処理が、本実施形態のように、不揮発性メモリに書き込まれたソフトウェアや制御データを書き換えるリプログラミングシーケンスと並行して実施される場合でも、第1省電力モード、第2省電力モード、及び、非省電力モードに優先度を設定し、優先度の高いモードから低いモードへの移行を禁止するようにすることで、ハンチングの発生を抑制することができる。
例えば、非省電力モード、第1省電力モード、及び、第2省電力モードの各優先度が、この順番で高くなるように予め設定して記憶手段に記憶しておき、ステップ1001及びステップ1002において、非省電力モードに対して現在のモードの優先度が高いか否かの判定も追加して行う。つまり、ステップ1001又はステップ1002において条件を満たしていると判定される(Yesの方へ進む)ためには、現在のモードの優先度が非省電力モードよりも高いと判定されることが必要条件となる。換言すれば、ステップ1001又はステップ1002において条件を満たしていないと判定される(Noの方へ進む)ためには、現在のモードの優先度が非省電力モードと同じである、すなわち、現在のモードが非通電モードであると判定されることが必要条件となる。ステップ1001又はステップ1002において条件を満たしていないと判定された(Noの方へ進んだ)場合、ステップ1008を省略して、ステップ1009へ進む。このようにしても、前述のようなハンチングの発生を抑制することができる。
【0052】
ステップ1009では、第1省電力モード及び第2省電力モードを解除する非省電力モードを実施する。
具体的には、第1省電力モードにより、スイッチング素子32がOFFとなっている場合、スイッチング素子32をONにして、電源回路28からサブマイコン24への電力供給を再開する一方、スイッチング素子32がすでにONとなっている場合には、その状態を維持する。
【0053】
また、第1省電力モードにより、スイッチング素子32をONにしたまま、少なくとも、サブCPU46において実施されるメインCPU42の動作を監視する監視処理を停止している場合には、その監視処理を再開する一方、監視処理がすでに実施されている場合には、その処理を続行する。
【0054】
第2省電力モードを実施していた場合には、メインCPU42は、リプログラミングの対象であるECU10以外の他のECU10aのうち動作を停止させていたECU10aの動作を再開するように指示する信号を生成し、この信号を通信インターフェース36から車載ネットワーク16を介して動作を停止させていた特定のECU10aに転送する。一方、リプログラミングの対象であるECU10以外の他のECU10aの動作が制限されていない場合には、その状態を維持する。
【0055】
また、第2省電力モードにより、前記特定のECU10aが、例えば、自動変速機のソレノイドへの通電、空調装置の作動、ナビゲーションシステムの作動、または、ライトの点灯など、制御機器の動作を禁止するようにしている場合には、それらの制御機器の動作を可能にするようにしてもよい。一方、制御機器の動作が制限されていない場合には、その状態を維持する。
【0056】
このようなECU10によれば、メインマイコン22のフラッシュメモリ38に対してリプログラミングが実施されている間は、メインCPU42の動作を監視するサブCPU24に対する電力の供給を遮断する、あるいは、サブCPU24による監視処理を停止する第1省電力モードを実施するので、ECU10において消費される電力が低減し、車載バッテリ26における端子電圧Vbatの低下が抑制される。このため、リプログラミングに必要な電力が確保されるので、リプログラミングを安定的に実施することが可能となる。
【0057】
また、第1省電力モードは、車載バッテリ26の端子電圧Vbatが加算値(Vlim+α)未満となったときに実施され、リプログラミングに必要な電力に対して車載バッテリ26から供給される電力に余裕がある場合には実施されないので、サブマイコン24の機能を必要以上に制限することがない。
【0058】
さらに、第1省電力モードの実施のみではリプログラミングに必要な電力を確保できない場合、リプログラミングの対象であるECU10以外の他のECU10aの動作を停止させる第2省電力モードを実施するので、リプログラミングを更に安定的かつ確実に行うことが可能となる。
【0059】
なお、第1実施形態において、ECU10は、ステップ1004の第1省電力モードで、自動車12のアクセサリスイッチをONにしたとき、サブマイコン24には電力を供給せずメインマイコン22に対してのみ通電を開始し、イグニッションスイッチをONにしたとき、あるいは、スターターをONに(すなわち、エンジンを始動)したときにサブマイコン24にも通電を開始するように構成されてもよい。
【0060】
次に、本発明を実施するための第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一構成については、同一符号を付すことでその説明を省略または簡潔にする。
図5は、第2実施形態に係るECU100の内部構成の一例を示す。
【0061】
本実施形態に係るECU100は、1つのマイクロコンピュータ102が第1コア104a及び第2コア104bの2つのプロセッサコアを封入した1つのCPU104を有し、かつ、スイッチング素子32がない点で、構成上、第1実施形態に係るECU10と異なる。
【0062】
第1コア104aは、自動車12に搭載された制御機器14の制御処理を行う第1処理手段をなし、第2コア104bは、通信線106により接続された第1コア104aと協調して第1コア104aの動作(演算機能)を監視する監視処理を行う第2処理手段をなす。
【0063】
第1コア104aの動作を監視する監視処理については、第1コア104aは、図3におけるメインCPU42と同じ機能を有し、第2コア104bは、同様に、図3におけるサブCPU46と同じ機能を有する。
【0064】
リプログラミングにおけるECU100の電力確保処理は、図4のフローチャートと同様であるが、ECU100にスイッチング素子32がないため、ステップ1004の第1省電力モードは、第1コア104aからの指示信号に基づいて、第2コア104bが監視処理を行わないように設定される。
【0065】
このようなECU100であっても、リプログラミング時には、第1実施形態と同様に、車載バッテリ26における端子電圧Vbatの低下が抑制され、リプログラミングに必要な電力を確保して、リプログラミングを安定的に実施することが可能である。
なお、第2実施形態において、CPU104が封入するプロセッサコアは、説明の便宜上、第1コア104a及び第2コア104bの2つとしたが、これに限定されず、CPU104は、あらゆるコア数のマルチコアプロセッサであってもよい。
【0066】
次に、本発明を実施するための第3実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一構成については、同一符号を付すことでその説明を省略または簡潔にする。
図6は、第3実施形態に係るECU200の内部構成の一例を示す。
【0067】
本実施形態に係るECU200は、第2実施形態と同様に、1つのマイクロコンピュータ202が第1コア204a及び第2コア204bの2つのプロセッサコアを封入した1つのCPU204を有し、第1コア204a及び第2コア204bが、夫々、第2実施形態における第1コア104a及び第2コア104bに相当する。また、本実施形態に係るECU200に第1実施形態のスイッチング素子32がないことも、第2実施形態と同様である。
【0068】
本実施形態に係るECU200は、制御機器14の制御処理が、第1コア204aだけでなく、第2コア204bでも行われ、かつ、CPU204が、第1コア204aの制御処理による出力値と、第2コア204bの制御処理による出力値と、が一致しているか否かを判定する制御出力値一致判定部206を備えている点で、第2実施形態に係るECU100と異なる。制御出力値一致判定部206において、制御処理による出力値が一致しなければ、制御機器14へ制御信号は出力されない。
【0069】
このようなECU200であっても、リプログラミング時には、第1実施形態と同様に、車載バッテリ26における端子電圧Vbatの低下が抑制され、リプログラミングに必要な電力を確保して、リプログラミングを安定的に実施することが可能である。
【0070】
なお、前述の第1実施形態〜第3実施形態において、メインマイコン22のフラッシュメモリ38に対してリプログラミングが開始されたときには、車載バッテリ26の端子電圧Vbatを考慮せずに、直ちに第1省電力モードを実施するようにECU10を構成してもよい。
【0071】
また、前述の第1実施形態〜第3実施形態において、イグニッションスイッチのONによりリプログラミングの対象となるECU10と通信確立した後に、イグニッションスイッチをOFFにしてアクセサリスイッチをONにした場合には、イグニッションスイッチのONで通信確立したECU10のみに通電を継続させてもよい。
【0072】
以上、本発明者にとってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることはいうまでもない。
ここで、前記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
【0073】
(イ)第1処理手段は、そのフラッシュメモリ(不揮発性記憶部)がリプログラミングされる場合、第1処理手段及び第2処理手段に電力を供給する車載バッテリの端子電圧に応じて、第2処理手段における電力消費を抑制することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の自動車用電子制御装置。
【0074】
このようにすれば、第1省電力モードは、車載バッテリから供給される電力がリプログラミングに必要な電力に対して余裕がある場合には実施されないので、第2処理手段の機能を必要以上に制限することがない。
【0075】
(ロ)第1処理手段は、そのフラッシュメモリ(不揮発性記憶部)がリプログラミングされる場合、第1処理手段及び第2処理手段に電力を供給する車載バッテリの端子電圧が所定電圧を下回ったとき、第2処理手段における電力消費を抑制することを特徴とする請求項1〜請求項3又は(イ)のいずれか1つに記載の自動車用電子制御装置。
このようにすれば、第1省電力モードは、車載バッテリから供給される電力がリプログラミングに必要な電力に対して余裕がある場合には実施されないので、第2処理手段の機能を必要以上に制限することがない。
【0076】
(ハ)第1処理手段は、そのフラッシュメモリ(不揮発性記憶部)がリプログラミングされる場合、第2処理手段以外の他の自動車用電子制御装置(ECU)などにおける電力消費を更に抑制することを特徴とする請求項1〜請求項3又は(イ)若しくは(ロ)のいずれか1つに記載の自動車用電子制御装置。
このようにすれば、リプログラミングに必要な電力供給の確実性及び安定性を向上させることができる。
【0077】
(ニ)第1処理手段は、そのフラッシュメモリ(不揮発性記憶部)がリプログラミングされる場合、第2処理手段へ供給される電力を遮断して、第2処理手段の動作を停止させることを特徴とする請求項3に記載の自動車用電子制御装置。
このようにすれば、第2処理手段全体の電力消費を抑えることができるので、リプログラミングに必要な電力供給の確実性及び安定性を向上させることが可能となる。
【0078】
(ホ)第1処理手段及び第2処理手段に電力を供給する車載バッテリと第2処理手段との間にスイッチング素子を備え、第1処理手段は、スイッチング素子をOFFにすることで第2処理手段へ供給される電力を遮断することを特徴とする(ニ)に記載の自動車用電子制御装置。
このようにすれば、第2処理手段で消費される電力をほぼ0とすることができる。
【0079】
(ヘ)第1処理手段及び第2処理手段は、1つのCPUに封入された2つのプロセッサコアであることを特徴とする請求項1〜請求項3、または(イ)〜(ホ)のいずれか1つに記載の自動車用電子制御装置。
このようにすれば、マルチコアプロセッサについてもリプログラミングに必要な電力供給の確実性及び安定性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0080】
10,100,200…リプログラミング対象のECU、10a…他のECU、12…自動車、14…制御機器、16…車載ネットワーク、20…診断テスター、22…メインマイコン、24…サブマイコン、26…車載バッテリ、28…電源回路、30…電源ライン、32…スイッチング素子、36…通信インターフェース、38…フラッシュメモリ、40…入出力回路、42…メインCPU、44…内部バス、46…サブCPU、102,202…マイクロコンピュータ、104,204…CPU、104a,204a…第1コア、104b,204b…第2コア
図1
図2
図3
図4
図5
図6