特許第6205217号(P6205217)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6205217梁補強構造および方法、ならびに、補助梁用支持具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205217
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】梁補強構造および方法、ならびに、補助梁用支持具
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
   E04G23/02 F
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-186989(P2013-186989)
(22)【出願日】2013年9月10日
(65)【公開番号】特開2015-55034(P2015-55034A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】特許業務法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 雅也
【審査官】 津熊 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−026916(JP,A)
【文献】 特開2005−232678(JP,A)
【文献】 特開2011−052485(JP,A)
【文献】 特開2008−190169(JP,A)
【文献】 実開昭52−117809(JP,U)
【文献】 特開2005−139691(JP,A)
【文献】 特開2003−119890(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第02354267(GB,A)
【文献】 米国特許第05377472(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物における既存梁を補助梁によって補強するための梁補強構造であって、
前記既存梁に連結され、互いに離れて配置された一対の既存柱と、
前記補助梁の幅寸法以上の幅を有し、前記補助梁の両端部が仮置きされる仮置き位置と前記補助梁の両端部が本置きされる正規位置とを有する水平面を含み、前記一対の既存柱にそれぞれ固定される一対の支持具と、
前記補助梁の両端部が前記正規位置に配置された状態で、前記既存梁と前記補助梁とを一体的に連結するための連結部材とを備える、梁補強構造。
【請求項2】
前記支持具の前記仮置き位置は、前記正規位置の幅以上の幅を有している、請求項1に記載の梁補強構造。
【請求項3】
前記支持具は、前記正規位置が、前記既存梁の下面から前記補助梁端部の高さ寸法以上離れて配置されるように固定されている、請求項1に記載の梁補強構造。
【請求項4】
前記支持具の前記正規位置が、前記既存梁の側方に配置され、
前記支持具の水平面は、前記既存梁の下面に当接される当接位置をさらに有している、請求項1に記載の梁補強構造。
【請求項5】
前記支持具の水平面において、前記正規位置と前記仮置き位置とは、部分的に重なっている、請求項4に記載の梁補強構造。
【請求項6】
前記支持具は、前記水平面を含む第1の板状部と、前記第1の板状部に直交し、前記既存柱の側面に当接される第2の板状部とをさらに含む、請求項1に記載の梁補強構造。
【請求項7】
前記連結部材は、前記第1の板状部と前記補助梁とを固定するための接合具を含む、請求項6に記載の梁補強構造。
【請求項8】
前記支持具は、少なくとも前記第2の板状部に直交する補強部をさらに含む、請求項6に記載の梁補強構造。
【請求項9】
前記支持具の前記第1の板状部は、前記第2の板状部の下端に連結され、
前記支持具は、前記第2の板状部の上端に連結され、前記第1の板状部に対し略平行に設けられた第3の板状部をさらに含み、
前記第3の板状部の上面は、前記既存梁の下面に当接される当接位置を有している、請求項6に記載の梁補強構造。
【請求項10】
前記第3の板状部の長さの方が、前記第1の板状部よりも短い、請求項9に記載の梁補強構造。
【請求項11】
前記支持具は、前記水平面における前記仮置き位置の縁部に、上方に立ち上がる立上片をさらに含む、請求項1に記載の梁補強構造。
【請求項12】
建物における既存梁を補助梁によって補強する方法であって、
前記既存梁に連結され、互いに離れて配置された1対の既存柱に、前記補助梁の幅寸法以上の幅を有し、かつ、仮置き位置と正規位置とを有する水平面を含む一対の支持具を固定する工程と、
前記一対の支持具の前記仮置き位置に、前記補助梁の両端部をそれぞれ仮置きする工程と、
前記補助梁の両端部を、前記仮置き位置から前記正規位置にスライドさせることによって、前記補助梁を前記既存梁に隣接する位置に移動させる工程と、
前記補助梁の両端部が前記正規位置に配置された状態で、前記既存梁と前記補助梁とを一体的に連結する工程とを備える、梁補強方法。
【請求項13】
両端が一対の既存柱によって支持された既存梁を補強するために、前記既存梁に並行して補助梁を取付けるための支持具であって、
前記補助梁の幅寸法以上の幅を有し、前記補助梁の両端部が仮置きされる仮置き位置と前記補助梁の両端部が本置きされる正規位置とを有する水平面を含む第1の板状部と、
前記第1の板状部に直交し、前記既存柱の側面に当接される第2の板状部とを備え、
前記第1の板状部は、前記水平面における正規位置の部分に、前記補助梁への固定に用いられる梁用接合具が貫通される貫通穴を含み、
前記第2の板状部は、前記既存柱への固定に用いられる柱用接合具が貫通される貫通穴を含む、補助梁用支持具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梁補強構造および方法、ならびに、補助梁用支持具に関し、特に、建物における既存梁を補助梁によって補強するための梁補強構造および方法、ならびに、補助梁用支持具に関する。
【背景技術】
【0002】
既存住宅の間取りを変更する際に、既存柱を撤去することがある。このような場合、その既存柱が支えていた既存梁の下方または側方に補助梁を設置することで、既存梁の剛性を高める補強工事が行われる。
【0003】
たとえば特開2005−232678号公報(特許文献1)では、既存梁の下方に所定のクリアランスが形成されるように添梁を配置し、既存梁および添梁を両側方から挟み込むように一対の添板が接着されている。
【0004】
また、既存柱を撤去する際には、特開2005−240447号公報(特許文献2)に示されるように、既存梁を仮受けするための仮受け治具が用いられることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−232678号公報
【特許文献2】特開2005−240447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既存梁の下方または側方に補助梁を設置する場合、補助梁を既存梁の高さまで持ち上げる必要がある。しかし、補助梁は重量物であるため、大掛かりな仮受け治具を用いることなく安全に作業することは困難であった。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、補助梁を設置する際における安全性と施工容易性とを両立することのできる梁補強方法および補助梁用支持具を提供することである。
【0008】
また、簡易な構成で既存梁を補強することのできる梁補強構造を提供することも他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のある局面に従う梁補強構造は、建物における既存梁を補助梁によって補強するための梁補強構造であって、既存梁に連結され、互いに離れて配置された一対の既存柱と、一対の既存柱にそれぞれ固定される一対の支持具と、連結部材とを備える。一対の支持具は、補助梁の幅寸法以上の幅を有する水平面を含む。水平面は、補助梁の両端部が仮置きされる仮置き位置と補助梁の両端部が本置きされる正規位置とを有する。連結部材は、補助梁の両端部が正規位置に配置された状態で、既存梁と補助梁とを一体的に連結する。
【0010】
好ましくは、支持具の仮置き位置は、正規位置の幅以上の幅を有している。
【0011】
好ましくは、支持具は、正規位置が、既存梁の下面から補助梁端部の高さ寸法以上離れて配置されるように固定されている。
【0012】
また、支持具の正規位置が、既存梁の側方に配置され、支持具の水平面は、既存梁の下面に当接される当接位置をさらに有していてもよい。
【0013】
この場合、支持具の水平面において、正規位置と仮受け位置とは、部分的に重なっていてもよい。
【0014】
好ましくは、支持具は、水平面を含む第1の板状部と、第1の板状部に直交し、既存柱の側面に当接される第2の板状部とをさらに含む。
【0015】
連結部材は、前記第1の板状部と前記補助梁とを固定するための接合具を含んでいてもよい。
【0016】
また、支持具は、少なくとも第2の板状部に直交する補強部をさらに含んでいてもよい。
【0017】
また、支持具の第1の板状部は、第2の板状部の下端に連結され、支持具は、第2の板状部の上端に連結され、第1の板状部に対し略平行に設けられた第3の板状部をさらに含んでいてもよい。第3の板状部の上面は、既存梁の下面に当接される当接位置を有している。
【0018】
第3の板状部の長さの方が、第1の板状部よりも短くてもよい。
【0019】
支持具は、水平面における仮置き位置の縁部に、上方に立ち上がる立上片をさらに含むことが望ましい。
【0020】
この発明の他の局面に従う梁補強方法は、建物における既存梁を補助梁によって補強する方法である。梁補強方法は、既存梁に連結され、互いに離れて配置された1対の既存柱に、補助梁の幅寸法以上の幅を有し、かつ、仮置き位置と正規位置とを有する水平面を含む一対の支持具を固定する工程と、一対の支持具の仮置き位置に、補助梁の両端部をそれぞれ仮置きする工程と、補助梁の両端部を、仮置き位置から正規位置にスライドさせることによって、補助梁を既存梁に隣接する位置に移動させる工程と、補助梁の両端部が正規位置に配置された状態で、既存梁と補助梁とを一体的に連結する工程とを備える。
【0021】
この発明のさらに他の局面に従う補助梁用支持具は、両端が一対の既存柱によって支持された既存梁を補強するために、既存梁に並行して補助梁を取付けるための支持具である。補助梁用支持具は、補助梁の幅寸法以上の幅を有し、補助梁の両端部が仮置きされる仮置き位置と補助梁の両端部が本置きされる正規位置とを有する水平面を含む第1の板状部と、第1の板状部に直交し、既存柱の側面に当接される第2の板状部とを備える。第1の板状部は、水平面における正規位置の部分に、補助梁への固定に用いられる梁用接合具が貫通される貫通穴を含む。第2の板状部は、既存柱への固定に用いられる柱用接合具が貫通される貫通穴を含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明の梁補強方法および補助梁用支持具によれば、補助梁を設置する際における安全性と施工容易性とを両立することができる。
【0023】
また、このような支持具を用いた梁補強構造によれば、簡易な構成で既存梁を補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態1に係る梁補強構造を模式的に示す正面図である。
図2】本発明の実施の形態1における支持具が既存柱に固定された状態を示す斜視図である。
図3】本発明の実施の形態1における支持具の上面図である。
図4】本発明の実施の形態1における支持具の側面図である。
図5】本発明の実施の形態1に係る梁補強方法の工程順序を示すフローチャートである。
図6図5のフローチャートにおける工程P1の状態を模式的に示す部分正面図である。
図7図5のフローチャートにおける工程P1の状態を模式的に示す部分上面図である。
図8図5のフローチャートにおける工程P2の状態を模式的に示す部分正面図である。
図9図5のフローチャートにおける工程P2,P4の状態を模式的に示す部分上面図である。
図10図5のフローチャートにおける工程P5の状態を模式的に示す部分正面図である。
図11図5のフローチャートにおける工程P6の状態を模式的に示す部分正面図である。
図12図5のフローチャートにおける工程P7の状態を模式的に示す部分正面図である。
図13】本発明の実施の形態1に係る支持具の補強例を示す斜視図である。
図14】本発明の実施の形態1に係る支持具の他の補強例を示す斜視図である。
図15】本発明の実施の形態1の変形例に係る梁補強構造における支持具の取付け態様を示す斜視図である。
図16】本発明の実施の形態2に係る梁補強構造を模式的に示す正面図である。
図17】本発明の実施の形態2における支持具が既存柱に固定された状態を示す斜視図である。
図18】本発明の実施の形態2における支持具の上面図である。
図19】本発明の各実施の形態における支持具の他の構造例を示す斜視図である。
図20】本発明の実施の形態1における支持具のさらに他の構造例を示す斜視図である。
図21図20に示した支持具を用いた梁補強構造を部分的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0026】
<実施の形態1>
本実施の形態では、建物における既存梁の下面側に補助梁が取付けられることによって、既存梁が補強される。建物は、典型的には木造住宅である。
【0027】
(梁補強構造の概略について)
はじめに、本実施の形態に係る梁補強構造の概略について説明する。
【0028】
図1に示されるように、既存住宅には、既存の躯体部として、基礎(図示せず)上に設けられた土台11と、土台11上に設置された既存柱12,13,14と、これら既存柱12,13,14に支えられた既存梁15と、既存梁15に対して直交する既存梁16とが含まれているものとする。これらの構造躯体は、たとえば全て、四角柱形状である。
【0029】
既存梁15の一端側は、既存柱12によって間接的に支持され、その他端側は、既存柱13によって直接的に支持されている。より具体的には、既存梁15の一端側は、既存梁16に連結されており、その既存梁16が既存柱12によって支持されている。本実施の形態では、このように既存梁15を間接的に支持する既存柱12も、既存梁15に連結されているとみなす。つまり、本実施の形態において、一対の既存柱12,13は、既存梁15の両端部に連結され、既存梁15を支持している。
【0030】
本実施の形態に係る梁補強構造では、このような住宅において、一対の既存柱12,13間に位置する既存柱14(以下「中間柱14」という)が撤去されている。また、既存梁15の下方に、補助梁21が配置されている。補助梁21は、たとえば木材で形成されている。この補助梁21は、一対の既存柱12,13にそれぞれ固定された一対の支持具(補助梁用支持具)3によって、その両端が支持されている。支持具3は、補助梁21に対しても固定されている。
【0031】
なお、既存梁15と補助梁21とを確実に連結させるためには、既存梁15と補助梁21との間の位置を、両側面から挟み込む側板22(図12)がさらに設けられることが望ましい。
【0032】
(支持具の構造例および配置例について)
次に、図2図4を参照して、支持具3の構造例および配置例について説明する。図2には、支持具3が、一方の既存柱12に固定された状態が示されている。また、図3には、既存柱12側から支持具3の上面310を見た図が示され、図4には、既存柱12側から支持具3の側面(外側面)320を見た図が示されている。なお、図2では、既存梁15および補助梁21の延びる方向に直交する方向が、矢印A1で示されており、当該方向が、既存梁15、補助梁21および支持具3の幅方向であるものとする。また、水平面上において、支持具3の幅方向と直交する方向(つまり、既存梁15の延びる方向)を、支持具3の奥行方向という。
【0033】
図2を参照して、支持具3は、たとえば略L字形状を有しており、略水平に配置される板状部(以下「水平部」という)31と、水平部31に直交するように配置される板状部(以下「垂直部」という)32とを含む。取付け状態において、水平部31の奥行方向端部が、垂直部32の上端部に連結されている。支持具3は、剛性を有する材料、たとえば鋼板により形成されている。
【0034】
本実施の形態では、水平部31が、既存梁15の下面から補助梁21の高さ寸法L2以上離れて配置されている。なお、補助梁21の下面に段差がある場合など、補助梁21の端部と補助梁21の中央部との高さ寸法が異なる場合には、水平部31は、既存梁15の下面から補助梁21端部の高さ寸法以上離れて配置されていればよい。
【0035】
図2および図3を参照して、支持具3における水平部31の上面(すなわち水平面)310は、補助梁21の端部が本置きされる正規位置311と、補助梁21の端部が仮置きされる仮置き位置312とを有している。正規位置311は、補助梁21の幅寸法L1と同一幅である。仮置き位置312は、補助梁21の幅寸法L1以上の幅である。つまり、支持具3の上面310は、補助梁21の幅寸法L1の2倍以上の幅を有している。
【0036】
本実施の形態では、水平部31の正規位置311が、既存梁15の下面に対向するように配置され、仮置き位置312が、既存梁15よりも側方(図1においては正面側)に突出するように配置されている。水平部31における、仮置き位置312側の幅方向端縁には、仮置き位置312からの補助梁21の転倒を防止するために、上面310から立ち上がる立上片35が設けられていることが望ましい。
【0037】
図2および図4を参照して、支持具3の垂直部32における外側面320は、既存柱12の内側面120に当接される当接位置321と、既存柱12に当接されない非当接位置322とを有している。当接位置321と非当接位置322との間には、位置決めのための溝323などが設けられていてもよい。当接位置321は、既存柱12の内側面120と同一幅である。
【0038】
本実施の形態において、補助梁21の幅寸法L1は、既存柱12,13の内側面120の幅と略同一であってよい。その場合、水平部31の正規位置311の幅と垂直部32の当接位置321の幅とは、略同一である。補助梁21の幅寸法L1は、既存梁15の幅寸法L3とたとえば略同一であってよい。
【0039】
なお、支持具3の上面310が、補助梁21の高さ寸法L2よりも十分に離れて配置される場合には、支持具3の幅は、少なくとも補助梁21の幅寸法L1よりも大きければよい。つまり、既存梁15の下方に補助梁21を配置する場合においても、正規位置311と仮置き位置312とは幅方向において一部重なっていてもよい。
【0040】
図3および図4に示されるように、水平部31には、正規位置311側および仮置き位置312側の両方に、複数の貫通穴34が設けられている。垂直部32においても、当接位置321側および非当接位置322側の両方に、複数の貫通穴34が設けられている。なお、複数の貫通穴34は、水平部31においては正規位置311側、垂直部32においては当接位置321側にのみ設けられていればよい。また、貫通穴34の数および位置は、正規位置311および当接位置313の大きさ等に応じて定められればよい。
【0041】
(梁補強方法について)
ここで、上記のような支持具3を用いて既存梁15を補強する方法について、図5に示すフローチャート、および、図6図12に示す模式図を参照しながら説明する。図5に示す各工程は、たとえば1人の作業者によって実行可能である。なお、図6図12には、既存梁15を支持する一対の既存柱12,13のうち、一方の既存柱12側の部分のみが示されているが、他方の既存柱13側においても、同様の作業が行われるものとする。
【0042】
図5を参照して、はじめに、支持具3が、一対の既存柱12,13に対しそれぞれ固定される(工程P1)。本実施の形態では、図2および図6に示されるように、水平部31の上面310が、既存梁15の下面から、補助梁21の高さ寸法L2以上下方に配置される。支持具3は、たとえば、釘などの複数の接合具41が、垂直部32の内側面側から当接位置321の貫通穴34を貫通するように既存柱12に打ち込まれることによって固定される。このように固定されることで、図7に示されるように、支持具3の水平部31のうち仮置き位置312の部分のみが、既存梁15の側方側へ張出される。また、支持具3の垂直部32のうち非当接位置322の部分のみが、既存柱12から側方側へ張出される。
【0043】
次に、各支持具3の水平部31における仮置き位置312上に、補助梁21の端部が仮置きされる(工程P2)。具体的には、図8に示されるように、まず、補助梁21の一方側端部が、既存柱12に固定された支持具3の仮置き位置312に載置される。その後、補助梁21の他方側端部が、既存柱13に固定された支持具3の仮置き位置312に載置される。この状態では、補助梁21は、図9に示されるように既存梁15よりも側方側に位置している。
【0044】
本実施の形態では、たとえばこの段階で、中間柱14を取り外す(工程P3)。この場合、中間柱14は、支持具3の張り出し方向と反対側に倒れるように取り外される。なお、中間柱14を当該方向に倒せない場合には、補助梁21の仮置き工程(P2)の前に、中間柱14が撤去される。
【0045】
仮置きされた補助梁21は、図9に示されるように、正規位置311側に向けてスライド移動される(工程P4)。より特定的には、補助梁21の両端部を、仮置き位置312から正規位置311にスライドさせることによって、補助梁21を既存梁15に隣接する位置(すなわち、既存梁15の真下)に移動させる。
【0046】
この段階で、既存梁15が真直ぐでない場合など、既存梁15と補助梁21との間に隙間がある場合には、図10に示されるように、補助梁21を持ち上げて、補助梁21の下面と支持具3の上面310(正規位置311)との間に、合板等のパッキンが挿入される(工程P5)。
【0047】
既存梁15の下面に当接するように補助梁21が配置されると、補助梁21と支持具3とが固定される(工程P6)。より具体的には、釘などの複数の接合具42が、水平部31の下面側から正規位置311の貫通穴34を貫通するように、補助梁21の下面端部に打ち込まれる。これにより、補助梁21は、既存梁15の下面に当接した状態で支持具3に固定されるため、当該固定工程により、既存梁15と補助梁21とは一体的に連結される。したがって、接合具42は、既存梁15と補助梁21とを一体的に連結するための連結部材に含まれる。なお、図2等において、補助梁21は既存柱12から離れて固定されているが、既存柱12に接していてもよい。
【0048】
既存梁15の既存柱12側端部の側面に、既存の固定金物として、たとえば羽子板ボルト17が配置されており、かつ、その羽子板ボルト17が側板22に干渉する場合には、羽子板ボルト17を取り外す(工程P7)。その後、既存梁15および補助梁21を両側方から挟み込むように、既存梁15および補助梁21の両側面に側板22を取付ける(工程P8)。この側板22も、既存梁15と補助梁21とを一体的に連結するための連結部材に含まれる。側板22の梁15,21への取付けは、釘などの接合具により行われてもよいし、接着剤により行われてもよい。これにより、既存梁15と補助梁21とは、確実に一体化される。
【0049】
なお、本実施の形態では、既存梁15および補助梁21の両側面に側板22を取付けることとしたが、一方の側面にのみ側板22が取付けられてもよい。あるいは、側板22を用いることなく、既存梁15と補助梁21とを、単に接着剤やボルトで固定することにより両者を一体的に連結してもよい。
【0050】
上述のように、本実施の形態によると、上面310に仮置き位置312が存在するため、先に支持具3を既存柱12に固定しておくことで、補助梁21を取付け高さに仮置きすることができる。したがって、支持具3は、補助梁21用の仮受け治具としても機能するため、一人の作業者でも安全に補助梁21の設置を行うことができる。
【0051】
また、支持具3と補助梁21とが接合具42により固定されることで、既存梁15が補助梁21によって下部から支えられる。これにより、支持具3によって既存梁15を間接的に支持および補強することができる。また、支持具3に十分な強度がある場合には、側板22に干渉する羽子板ボルト17を取り除くこともできる。したがって、施工性を向上させることもできる。
【0052】
また、既存柱12,13と支持具3とが複数の接合具41によって強固に固定され、かつ、既存梁15に連結された補助梁21と支持具3とも、複数の接合具42によって強固に固定される。したがって、既存梁15を中間位置で支えていた既存柱14が撤去され、既存梁15の支持スパンが長くなり、負担する荷重が大きくなったとしても、一体化された梁の端部に作用する引張力やせん断力に抵抗することができる。つまり、本実施の形態によれば、梁の耐力性を向上させることができる。
【0053】
つまり、支持具3を用いた梁補強方法によれば、作業の安全性と施工容易性とを両立することができる。また、支持具3を用いた梁補強構造によれば、簡易な構成で既存梁を補強することができる。
【0054】
なお、支持具3の耐荷重性能を高めるためには、支持具3の形状は単純なL字状ではなく補強されていることが望ましい。支持具3の補強例を以下に示す。
【0055】
(支持具の補強例)
図13を参照して、支持具3Aは、幅方向両端に、それぞれ補強部36,37を有している。補強部36,37は、各々、水平部31と垂直部32との両方に直交するように、支持具3Aの幅方向一端および他端にそれぞれ設けられた板状部材である。
【0056】
なお、補強部36,37は、少なくとも1つ設けられていればよい。その場合、1つの補強部が幅方向中央位置に設けられていてもよい。また、図13では、補強部36,37の形状を三角形としたが、他の形状であってもよい。
【0057】
あるいは、図14に示されるように、支持具3Bは、垂直部32の下端側に連結され、水平部31と平行な補強部38を有していてもよい。この補強部38は、水平部31と略同じ大きさおよび形状であってもよい。つまり、支持具3Bは、U字(コの字)形状を有していてもよい。なお、支持具3BのようなU字形状の支持具は、図2等に示す位置と異なる位置に取付けることで、後述するように、他の梁補強構造を提供することもできる。
【0058】
また、本実施の形態では、支持具3の水平部31が、垂直部32の上端側に位置するように配置されたが、水平部31が、垂直部32の下端側に位置するように配置されてもよい。この場合の支持具3の取付け例を、梁補強構造の変形例として以下に説明する。
【0059】
(梁補強構造の変形例)
図15には、梁補強構造に変形例における支持具3Cの取付け態様が示されている。図15に示されるように、支持具3Cは、その水平部31が、垂直部32の下端部に連結されている。他は、図2に示した支持具3の構造と同様である。ただし、この場合、垂直部32の一部が、既存柱12上に位置する別の既存梁16に固定されていてもよい。
【0060】
なお、立上片35が水平部31における仮置き位置312側の幅方向端部に位置するように構成されていれば、L字形状の1つの支持具を、図2および図15に示す両方の向きで使用することができる。
【0061】
<実施の形態2>
本実施の形態では、建物における既存梁の側面側に補助梁が取付けられることによって、既存梁が補強される。以下に、上記実施の形態1と異なる部分のみ詳細に説明する。
【0062】
図16には、本発明の実施の形態2に係る梁補強構造が示されている。図17には、支持具3が、一方の既存柱12に固定された状態が示されている。図16を参照して、補助梁21は、既存梁15の側面に当接し、かつ、その下端位置が既存梁15の下端位置と一致するように配置されている。また、これらの既存梁15および補助梁21が、実施の形態1と同じ支持具3によって支持されている。つまり、本実施の形態では、支持具3の水平部31における上面310は、補助梁21の下面だけでなく、既存梁15の下面にも当接される。このことについては、図18に示す支持具3の上面図を参照しながら説明する。なお、本実施の形態では、補助梁21の幅寸法L1は、たとえば、既存梁15の幅寸法L3よりも短い。
【0063】
図18に示されるように、本実施の形態では、支持具3の水平部31における上面310は、正規位置311および仮置き位置312に加え、当接位置313をさらに含んでいる。当接位置313は、正規位置311に隣接し、既存梁15の下面に当接される。正規位置311は、既存梁15の側面に補助梁21を添わせた場合に、補助梁21の下面に当接される。仮置き位置312は、補助梁21が既存梁15の側面から離れている場合に、補助梁21の下面に当接される。本実施の形態では、正規位置311と仮置き位置312とが、図18に示されるように部分的に重なっていてもよい。
【0064】
このように、補助梁21が、既存梁15の側方に配置される場合でも、支持具3の上面310の幅を、既存梁15および補助梁21の合計幅よりも大きくしておくことで、補助梁21の設置を容易にすることができる。つまり、本実施の形態においても、補助梁21の両端部を支持具3の仮置き位置312に仮置きした後に、正規位置311にスライド移動させることができる。
【0065】
本実施の形態における梁補強方法も、基本的には図5に示した工程順に従い実行されるが、以下の点において実施の形態1と異なる。
【0066】
すなわち、実施の形態1では、補助梁21を正規位置に移動させた後に(図5の工程P4)、羽子板ボルト17を取り外した(図5の工程P7)。しかし、本実施の形態においても羽子板ボルト17の除去が必要である場合には、少なくとも補助梁21を正規位置に移動させる前に、羽子板ボルト17が取り外される。
【0067】
また、本実施の形態では、補助梁21は、既存梁15の側面に配置されるため、パッキンの挿入(図5の工程P5)は不要である。
【0068】
また、補助梁21と支持具3とを複数の接合具42によって固定する際に(図5の工程P6)、既存梁15と支持具3とも複数の接合具42によって固定される。具体的には、支持具3の水平部31の下面側から当接位置313の貫通穴34を貫通するように、既存梁15の下面端部に打ち込まれる。これにより、支持具3を介して既存梁15と補助梁21とが一体化されるため、実施の形態1における側板22取付け工程(図5の工程P8)は不要である。
【0069】
以上説明したように、本実施の形態では、支持具3によって、補助梁21と既存梁15との両方を直接的に支持および連結することができる。
【0070】
なお、実施の形態1と同じ構造および形状の支持具3を用いる場合、本実施の形態における支持具3は、水平部31の上面310に仮置き位置312を含まない構成も考えられる。つまり、実施の形態1における仮置き位置312の幅と補助梁21の幅とが同じである場合、実施の形態1における仮置き位置312が、本実施の形態における正規位置311であってもよい。本実施の形態のように、既存梁15の側面に補助梁21を設置する場合には、補助梁21の端部を直接、正規位置311に載置することもできるからである。
【0071】
以上説明した各実施の形態では、支持具3は、図13および図14に示した補強部36,37,38を除くと、略L字形状であることとした。しかしながら、少なくとも補助梁21を本置きおよび仮置き可能な水平面(上面310)と、既存柱12の側面に当接される当接面(外側面320)とを有していれば、他の形状であってもよい。
【0072】
(支持具の他の構造例)
図19には、上記支持具3とは異なる構造の支持具3Dの取付け態様が示されている。図19を参照して、支持具3Dは、図14に示した支持具3Bと同様にU字形状を有しており、互いに対向する2つの水平部31,33と、これらの奥行方向端部に連結された垂直部32とを含んでいる。下側の水平部33は、図14に示した支持具3Bの補強部38に代えて設けられている。支持具3Dにおける垂直部32の上下方向長さは、補助梁21の高さ寸法よりも長いものとする。
【0073】
図19に示されるように、支持具3Dは、上側の水平部31における上面310の一部が、既存梁15の下面に接するように、既存柱12に固定される。このように支持具3Dを固定した場合、支持具3Dの位置は同じままで、補助梁21を既存梁15の下方および側方の両方に設置することができる。つまり、既存梁15の下方に補助梁21を設置する場合、下側の水平部33上に補助梁21を載置し、既存梁15の側方に補助梁21を設置する場合には、上側の水平部31上に補助梁21を載置することができる。なお、「載置」には、仮置きおよび本置きの両方が含まれる。
【0074】
したがって、下側の水平部33においても、上側の水平部31と同様に、複数の貫通穴(図示せず)が設けられているものとする。なお、いずれの水平部31,33においても、少なくとも正規位置311,331の箇所に貫通穴が設けられていればよい。
【0075】
U字形状の支持具3Dを用いて、既存梁15の下方に補助梁21を設置した場合、上側の水平部31において既存梁15を支持することもできる。したがって、支持具3Dによれば、既存梁15の下方に補助梁21を並行させて既存梁15を補強する場合においても、支持具3Dによって、補助梁21および既存梁15の両方を直接支持することができる。
【0076】
ただし、図19に示すように、水平部31,33の(奥行方向における)長さが略同一である場合、補助梁21の端部を1つずつ、下側の水平部33上に仮置きすることは困難である。したがって、図20に示されるように、上側の水平部31の突出長さを、下側の水平部33よりも短くしてもよい。
【0077】
図20には、さらに異なる構造の支持具3Eが示されており、図21には、支持具3Eを用いた梁補強構造の一部が示されている。
【0078】
この場合、補助梁21の長手方向端面が、支持具3Eにおける上側の水平部31の端縁に突き当たるように配置される。したがって、支持具3Eの上側の水平部31における上面310は、既存梁15の下面に当接される当接位置313と、当接されない非当接位置314とを有する。また、支持具3Eの下側の水平部33における上面330は、正規位置331と仮置き位置332とを有する。
【0079】
このような支持具3Eによれば、既存梁15と補助梁21とを上下方向に密着した状態で補強することができる。そのため、既存梁15は、上側の水平部31によって直接的に支持され、かつ、下側の水平部33によって間接的にも支持される。
【0080】
なお、上記各実施の形態では、補助梁21は、木材で形成されていることとしたが、接合具41,42を適切に選定することで、鉄骨などの材料を用いてもよい。
【0081】
また、各実施の形態では、既存住宅のリフォームに伴い既存梁15を補強する例について説明した。しかしながら、各実施の形態の梁補強構造および方法を、既存住宅の耐震工事にも適用することができる。
【0082】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0083】
3,3A,3B,3C,3D,3E 支持具、11 土台、12,13,14, 既存柱、15,16 既存梁、17 羽子板ボルト、21 補助梁、22 側板、31,33 水平部、32 垂直部、34 貫通穴、35 立上片、36,37,38 補強部、41,42 接合具、311,331 正規位置、312,332 仮置き位置、313,321 当接位置、314,322 非当接位置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
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図21