特許第6205229号(P6205229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205229
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】免震建物の制振方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20170914BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   E04H9/02 341D
   E04H9/02 331A
   E04H9/02 341B
   F16F15/02 A
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-206223(P2013-206223)
(22)【出願日】2013年10月1日
(65)【公開番号】特開2015-68151(P2015-68151A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】509338994
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラシステム
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100087527
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 光雄
(72)【発明者】
【氏名】今関 正典
(72)【発明者】
【氏名】風間 睦広
(72)【発明者】
【氏名】志賀 裕二
【審査官】 佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−155899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震装置を設けた免震層を有する免震建物の上部に往復移動可能に設けた可動マスと、
該可動マスを往復動作させるためのアクチュエータと、
該アクチュエータに指令を与える制御装置を備え、
更に、前記制御装置は、
前記可動マスを変位制御して往復動作させる際に、前記アクチュエータへ与えるよう通常の変位制御で得られる指令値に、振幅制御ゲインを乗じることにより新たな指令値を算出し、前記可動マスを前記免震建物の固有振動数に応じた固有振動数で、且つ前記免震建物の揺れに対して或る位相遅れで前記可動マスを往復動作させるように前記アクチュエータに前記算出された新たな指令値を与える機能を有する第一制御部と、
前記可動マスを前記免震建物の固有振動数よりも小さい振動数で、且つ前記免震建物の揺れに対して或る位相遅れで前記可動マスを往復動作させるように前記アクチュエータに指令を与える機能を有する第二制御部と、
前記第一制御部で前記アクチュエータへの指令値を算出する際に用いられる振幅制御ゲインを監視して、該振幅制御ゲインの値が、予め設定される或る設定値まで低下すると、
前記免震建物に生じる揺れの振動数が前記免震装置に変形が生じることに伴って該免震建物の固有振動数よりも低下したと判断して、前記アクチュエータに前記第一制御部より指令を与える状態から、前記第二制御部より指令を与える状態に切り替える機能を有する振動数判定部とからなる構成を有すること
を特徴とする免震建物の制振装置。
【請求項2】
免震装置を設けた免震層を有する免震建物に生じる揺れに対し、該免震建物の上部に設けた可動マスをアクチュエータにより往復動作させて制振を図るときに、
前記免震建物に生じた揺れが前記免震装置に変形が生じない状態での揺れの場合は、前記可動マスを変位制御して往復動作させる際に、前記アクチュエータへ与えるよう通常の変位制御で得られる指令値に、振幅制御ゲインを乗じることにより新たな指令値を算出する制御装置の第一制御部から前記アクチュエータへの指令により前記可動マスを前記免震建物の固有振動数に応じた固有振動数で往復動作させるようにし、
前記免震建物に生じた揺れが前記免震装置の変形を伴う揺れの場合は、前記第一制御部で前記アクチュエータへの指令値を算出する際に用いられる振幅制御ゲインを監視して、該振幅制御ゲインの値が、予め設定される或る設定値まで低下すると、前記免震建物に生じる揺れの振動数が前記免震装置の変形に伴い該免震建物の固有振動数よりも低下したと判断する振動数判定部により、前記制御装置の第一制御部から前記アクチュエータへ指令を与える状態から、第二制御部から前記アクチュエータへ指令を与える状態に切り替えて、前記可動マスを前記免震建物の固有振動数よりも小さい振動数で往復動作させるようにすること
を特徴とする免震建物の制振方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震層を有する免震建物について、風荷重による揺れ、及び、地震時の揺れを制振するために用いる免震建物の制振方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、高さが百メートル以上となるような高層の建物は、風荷重による揺れ(風揺れ)の影響が問題となり易い。特に、高さが百メートル〜二百メートルの高層の建物では、該建物の固有周期が3秒から5秒(固有振動数が1/3Hzから1/5Hz)程度になるために、風揺れの影響が大きくなる。
【0003】
そのために、この種の高層の建物では、その上部に、風揺れ対策用の制振装置を設けることが広く行われるようになってきている。
【0004】
前記風揺れ対策用の制振装置の一つとしては、該建物の揺れの制振を望む方向に沿わせて移動可能に設けた可動マスに、該可動マスを往復動作させるためのアクチュエータを接続した構成のアクティブ式制振装置(アクティブマスダンパー)がある。
【0005】
前記アクティブ式制振装置では、制振対象となる建物に揺れが生じた場合、前記アクチュエータにより、前記可動マスを、前記建物の固有振動数と同期した固有振動数で、且つ該建物の揺れに対して或る位相遅れ、たとえば、90度位相遅れで往復動作(駆動)させることにより、前記建物の揺れのエネルギーを減衰させて、該建物の制振を図るようにしてある。
【0006】
ところで、前記アクティブ式制振装置では、前記可動マスの往復動作をガイドするリニアガイドやレール等のガイド部材の長さ寸法や、可動マスのサイズに応じて、該可動マスの許容ストロークには限界が存在する。
【0007】
そこで、前記アクティブ式制振装置の制御手法として、振幅制御法が従来提案されている。
【0008】
前記振幅制御法は、可動マスを変位制御で往復動作させるアクティブ式制振装置において、アクチュエータに対する指令値に振幅制御ゲインを乗じ、指令値を変化させることにより、可動マスの往復動作を許容ストロークの範囲内で効率よく制御する手法である。
【0009】
前記振幅制御ゲインは、最大値を1.0とし、これがノミナル値となるようにしてある。前記建物の揺れが大きくなって、可動マスの往復動作に対する指令値が大きくなる場合は、前記振幅制御ゲインを前記ノミナル値より小さくなるように変化させるようにしてある。これにより、変位制御を適用しているので、前記振幅制御ゲインが小さくなると、アクチュエータへ与える可動マスの変位指令は小さくなり、0になると装置は停止するようにしたものである(たとえば、特許文献1参照)。
【0010】
ところで、建物の一般的な地震対策としては、耐震、制振、免震の3つの手法が知られている。
【0011】
このうち、免震を実施するための構造(免震構造)は、積層ゴムに鉛を封入した構成や、滑り支承機構等を有する免震装置を用いて、建物の一階の床下と、地盤側の基礎との間や、一階床よりも上方の階同士の間に、前記免震装置を介在させてなる免震層を設けるようにしてある。これにより、地震発生時には、前記免震層よりも下方の層より前記免震装置上方へ伝えられる揺れを、該免震装置の変形により絶縁及び吸収させることで、前記免震層より上方の層(構造物)の揺れを抑制できるようにしてある。
【0012】
前記免震層を建物の一階の床下と、地盤側の基礎との間に設けたものは、基礎免震構造と云われ、一階床よりも上方に設けた場合は、中間層免震と云われる。
【0013】
なお、基礎免震構造を有する建物の上部に、可動マス(錘)をアクチュエータ(駆動装置)により揺動(往復動作)させる形式の制振装置を設ける構成は、従来提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【0014】
これは、前記基礎免震構造に、初期剛性が低く減衰が小さい小地震用免震装置と、初期剛性の高い大地震用免震装置とを上下に積層してなる構成の複合型免震装置を用いるようにしてある。又、前記制振装置は、小地震時に前記複合型免震装置における小地震用免震装置のみが弾性変形することに伴って生じる揺れの収まりにくい建物の揺れを、前記アクチュエータにより前記可動マスを前記建物の揺れに応じて往復動作させることで、建物の制振を図ることができるとされている。
【0015】
ところで、近年では、免震層を備えた建物の高層化が行われる傾向にあり、該免震層を備えた建物の高さが百メートル以上になると、前記した従来の高層の建物と同様に、風揺れの影響が大きくなる。
【0016】
そのために、免震層を有する高層の建物については、該建物の上部に、風揺れ対策のために、前記可動マスを備えて、該可動マスを建物の揺れの固有振動数に応じた振動数で、且つ或る位相遅れで往復動作させる形式の制振装置を備えることが考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許第5191945号公報
【特許文献2】特開平7−279479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
前記免震建物は、風揺れ時、及び、前記免震装置に変形が生じない程度の中小規模の地震時には、建物の揺れは、該建物の固有振動数に応じているために、風揺れ対策用の従来の制振装置による制振作用が有効に作用する。
【0019】
しかし、前記免震建物では、前記免震装置に変形が生じるような揺れを伴う大きな地震時には、該免震装置の変形に伴って、建物に生じる揺れの固有振動数に低下が生じる。しかも、前記積層ゴムに鉛を封入した構成や、滑り支承機構等を有する免震装置は、変形に関して非線形な履歴特性を有するために、免震層も含めた前記免震建物の振動特性が、免震装置が未変形の状態のときの振動特性より大幅に変化してしまう。
【0020】
そのために、前記免震建物に免震装置に変形が生じるような大きな地震による揺れが生じている場合には、前記建物の固有振動数に対応する振動数で可動マスを往復動作させるようにしてある従来の制振装置では、安定した制振効果を得ることが難しい。したがって、前記免震建物に前記従来の制振装置を設ける構成では、免震装置に変形が生じるような揺れが生じる大きな地震時には、前記制振装置にて可動マスの予期しない動作による制振効果の劣化が生じないように、可動マスを停止させるという運用しか行うことができない。
【0021】
したがって、免震層を備えた免震建物については、地震により免震装置に変形が生じるような振動が該免震建物に生じる場合であっても、制振を行うことが望まれているが、従来、そのような制振方法及び装置は特に提案されていないというのが実状である。
【0022】
なお、前記特許文献2に示された制振装置は、可動マスに復元用のばねと減衰装置が接続された構成であるため、該ばねの特性により前記可動マスの固有振動数が定められる。よって、該特許文献2に示された制振装置では、制振対象となる建物の振動数の変化を伴う振動特性の変化に対応することは困難である。
【0023】
そこで、本発明は、免震層を有する免震建物について、風揺れ及び地震による揺れを、前記免震層における免震装置の変形の有無にかかわらず、効率よく制振することができるようにするための免震建物の制振方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、免震装置を設けた免震層を有する免震建物の上部に往復移動可能に設けた可動マスと、該可動マスを往復動作させるためのアクチュエータと、該アクチュエータに指令を与える制御装置を備え、更に、前記制御装置は、前記可動マスを変位制御して往復動作させる際に、前記アクチュエータへ与えるよう通常の変位制御で得られる指令値に、振幅制御ゲインを乗じることにより新たな指令値を算出し、前記可動マスを前記免震建物の固有振動数に応じた固有振動数で、且つ前記免震建物の揺れに対して或る位相遅れで前記可動マスを往復動作させるように前記アクチュエータに前記算出された新たな指令値を与える機能を有する第一制御部と、前記可動マスを前記免震建物の固有振動数よりも小さい振動数で、且つ前記免震建物の揺れに対して或る位相遅れで前記可動マスを往復動作させるように前記アクチュエータに指令を与える機能を有する第二制御部と、前記第一制御部で前記アクチュエータへの指令値を算出する際に用いられる振幅制御ゲインを監視して、該振幅制御ゲインの値が、予め設定される或る設定値まで低下すると、前記免震建物に生じる揺れの振動数が前記免震装置に変形が生じることに伴って該免震建物の固有振動数よりも低下したと判断して、前記アクチュエータに前記第一制御部より指令を与える状態から、前記第二制御部より指令を与える状態に切り替える機能を有する振動数判定部とからなる構成を有する免震建物の制振装置とする。
【0026】
又、請求項に対応して、免震装置を設けた免震層を有する免震建物に生じる揺れに対し、該免震建物の上部に設けた可動マスをアクチュエータにより往復動作させて制振を図るときに、前記免震建物に生じた揺れが前記免震装置に変形が生じない状態での揺れの場合は、前記可動マスを変位制御して往復動作させる際に、前記アクチュエータへ与えるよう通常の変位制御で得られる指令値に、振幅制御ゲインを乗じることにより新たな指令値を算出する制御装置の第一制御部から前記アクチュエータへの指令により前記可動マスを前記免震建物の固有振動数に応じた固有振動数で往復動作させるようにし、前記免震建物に生じた揺れが前記免震装置の変形を伴う揺れの場合は、前記第一制御部で前記アクチュエータへの指令値を算出する際に用いられる振幅制御ゲインを監視して、該振幅制御ゲインの値が、予め設定される或る設定値まで低下すると、前記免震建物に生じる揺れの振動数が前記免震装置の変形に伴い該免震建物の固有振動数よりも低下したと判断する振動数判定部により、前記制御装置の第一制御部から前記アクチュエータへ指令を与える状態から、第二制御部から前記アクチュエータへ指令を与える状態に切り替えて、前記可動マスを前記免震建物の固有振動数よりも小さい振動数で往復動作させるようにする免震建物の制振方法とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)請求項1に示した構成を有する免震建物の制振装置によれば、免震層を有する免震建物について、風荷重によって生じる風揺れは、効率よく減衰させて制振することができる。又、前記免震建物に地震時に生じる揺れは、前記免震装置に変形を引き起こさない程度の中小規模の地震による揺れ、及び、前記免震装置に変形を引き起こすような大きな地震による揺れのいずれであっても、効率よく減衰させて制振することができる。
(2)請求項に示した構成を有する免震層を有する建物の制振方法によっても前記(1)と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の免震建物の制振方法及び装置の実施の一形態を示す概要図である。
図2】或る固有振動数の建物に対して制御系の安定性を確認するために、1次の固有振動数を変動させた場合の根の動きを示した図である。
図3】本発明の実施の他の形態を示す概要図である。
図4】本発明の実施の更に他の形態を示す概要図である。
図5】本発明の制振装置を備えた免震建物について、数値計算により制振効果を検証した結果を示すもので、(a)は建物加速度、(b)は可動マス変位、(c)は振幅制御ゲインの時刻歴応答波形をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0030】
図1及び図2は本発明の免震層を有する建物の制振装置の実施の一形態を示すものである。
【0031】
先ず、本発明の免震建物の制振方法の実施に用いる免震建物の制振装置(以下、単に制振装置と云う)の構成について説明する。
【0032】
免震建物1は、図1に示すように、該建物本体1aの一階の床下と、地盤側の基礎2との間に、免震装置4を介装させてなる基礎免震構造の免震層3を備えた構成としてある。
【0033】
なお、前記免震装置4は、前記免震建物1の建物本体1aに作用する風荷重では変形が生じないような剛性を有するものとする。したがって、前記風荷重と同程度の力しか作用しないような比較的小さい地震時には、前記免震装置4の変形は生じないようになっている。
【0034】
又、図1では、図示する便宜上、前記免震装置4の構成を省略して記載してあるが、該免震装置4は、積層ゴムに鉛を封入した構成や、滑り支承機構等、任意の構成を有する既存の免震装置4を採用してよいことは勿論である。更に、図1では、図示する便宜上、免震装置4の配置と設置数を省略して記載してあるが、該免震装置4の配置及び設置数は、前記免震建物1の重量を支持できるように、該免震建物1のサイズや形状、重量に応じて自在に設定してよいことは勿論である(後述する図4図5も同様)。
【0035】
前記免震建物1の上部には、該免震建物1にて制振が望まれる揺れの方向に沿って往復移動可能な可動マス6と、該可動マス6に往復動作を行わせるためのアクチュエータ7とを備えた本発明の制振装置5が設置されている。前記可動マス6は、前記所定の方向に延びるレールやリニアガイド等の図示しないガイド部材に移動方向がガイドされるようにしてある。
【0036】
前記アクチュエータ7は、前記可動マス6を、後述する制御装置10からの指令に応じて調整した速度とストロークで往復動作させることができるようにしてあれば、流体圧シリンダやボールねじ機構等、任意の形式のアクチュエータ7を採用してよい。
【0037】
本発明の制振装置5は、更に、前記免震建物1の揺れを検出するための建物用センサ8と、前記可動マス6の動き(変位及び速度)を検出するための可動マス用センサ9と、該各センサ8,9より入力される信号を基に、前記アクチュエータ7へ指令を与えるための制御装置10を備えている。
【0038】
前記建物用センサ8は、前記免震建物1の揺れを検出することができるようにしてあれば、前記免震建物1の上部に設置した加速度センサや、その他任意の個所に設置した任意の形式のセンサを使用してよい。
【0039】
又、前記可動マス用センサ9は、前記可動マス6の動きを検出することができるようにしてあれば、前記可動マス6自体に取り付けた加速度センサや、前記免震建物1の上部における前記可動マス6の設置個所の近傍に設けて該可動マス6の変位量を監視するセンサや、前記アクチュエータ7の作動量の検出を基に前記可動マス6の動きを検出するセンサ等、任意の形式のセンサを使用してよい。
【0040】
前記制御装置10は、第一制御部11と第二制御部12と振動数判定部13を備えた構成としてある。
【0041】
前記第一制御部11は、前記建物用センサ8からの入力を基に、前記免震建物1の揺れが検出されると、特許文献1に示されたと同様の振幅制御方法を実施するようにしてある。
【0042】
すなわち、前記第一制御部11では、前記建物用センサ8からの入力を基に、可動マス6を前記可動マス用センサ9から入力される該可動マス6の変位を変位制御して往復動作させる際に、前記アクチュエータ7へ与えるよう通常の変位制御で得らえる指令値に、振幅制御ゲインを乗じることにより新たな指令値を算出し、該算出された新たな指令値を、前記アクチュエータ7へ与えるようにしてある。この際、前記振幅制御ゲインは、最大値を1.0(ノミナル値)としてあり、前記免震建物1の揺れが大きくなるにしたがって、順次小さくなるように設定してある。これにより、前記可動マス6は、前記免震建物1の固有振動数と同期した振動数で、且つ該免震建物1の揺れに対して或る位相遅れ(たとえば、90度位相遅れ)で往復動作させられると共に、該往復動作が許容ストロークの範囲内で制御されるようにしてある。よって、前記免震建物1の固有振動数に応じた揺れは、効率よく減衰されるようにしてある。
【0043】
ところで、前記第一制御部11による振幅制御方法で用いる振幅制御ゲインは、前述したように、前記免震建物1の揺れが大きくなるにしたがって、ノミナル値である1.0より順次小さくなる値であるため、該振幅制御ゲインの大きさは、前記免震建物1に生じる揺れの大きさを反映したものとなる。そのため、前記振幅制御ゲインの強風時及び地震時のそれぞれに対する変動幅は、強風時が1.0〜0.8程度であるのに対して、地震時には、前記強風時に比して大きな揺れが免震建物1に生じることに伴い、1.0〜0.01まで変化する。よって、この変動領域の差から、前記振幅制御ゲインが0.8を大きく下回ることに基づいて、前記免震建物1に、前記免震装置4に変形が生じるような大きな地震による揺れが生じていることを判断(推定)できるようになる。
【0044】
ここで、図2は、固有振動数1/3Hz(固有周期3秒)の建物に対して、制御系の安定性を確認するために、1次の固有振動数を変動させた場合の根の動きを、振幅制御ゲインを1.0(ノミナル値)、0.5(ノミナル値の50%)、0.2(ノミナル値の20%)の3種に代えて示したものである。
【0045】
前記図2によれば、図の虚軸に対して、負の領域は制御が安定し、正の領域は制御が不安定になる。
【0046】
図2に○でプロットしたように、振幅制御ゲインが1.0の場合は、固有振動数の変動(低下)が35%以上になると、不安定になる。しかし、図2に△でプロットした振幅制御ゲインを0.5にする場合は、固有振動数の40%の変動(低下)までがほぼ安定限界になる。更に、図2に×でプロットした振幅制御ゲインを0.2にする場合は、固有振動数の40%までの変動(低下)に対しても安定になることが判明した。
【0047】
更に、前記固有振動数の変動(低下)が20%を超える条件では、振幅制御ゲインの大小による影響は小さくなる。
【0048】
そこで、前記振動数判定部13は、前記第一制御部11でアクチュエータ7への司令値を算出する際に用いられる振幅制御ゲインを監視して、該振幅制御ゲインの値が、予め設定される或る設定値、たとえば、0.5(ノミナル値の50%)まで低下すると、前記免震建物1に生じる揺れの振動数が、前記免震装置4の変形に起因して該免震建物1の固有振動数より変化したと判断する機能を備えるようにしてある。
【0049】
更に、前記振動数判定部13は、前記振幅制御ゲインの値に基づいて前記免震建物1の振動数の固有振動数からの変化が検出されると、前記アクチュエータ7へ指令を与える制御部を前記第一制御部11より第二制御部12へ切り替える機能を備えるようにしてある。
【0050】
前記第二制御部12は、前記可動マス6の往復動作についての基本的な制御パラメータとして、前記免震建物1の有する固有振動数よりも小さい振動数で往復動作させるという、前記第一制御部11とは異なる制御パラメータを有するものである。
【0051】
又、前記第二制御部12は、前記建物用センサ8より前記免震建物1に生じた揺れが入力されると、予め前記免震建物1の固有振動数よりも小さくなるように設定された振動数で、且つ前記可動マス用センサ9により検出される可動マス6の変位が、前記免震建物1の揺れに対して或る位相遅れ(たとえば、90度位相遅れ)で往復動作させるための指令を、前記アクチュエータ7へ与えるようにしてある。
【0052】
以上の構成としてある本発明の制振装置5により免震建物1の制振を図る場合は、図1に示したように、免震層3を備えた免震建物1の上部に、本発明の制振装置5における可動マス6とアクチュエータ7を設置するようにする。
【0053】
この状態で、免震建物1に風揺れが生じたり、あるいは、免震装置4に変形を生じさせない程度の中小規模の地震が生じたりする場合は、前記制御装置10に対する前記建物用センサ8からの入力を基に、前記第一制御部11による振幅制御方法に基づいた可動マス6の往復動作が開始されるようになる。これにより、前記免震装置4に変形が生じないために免震建物1本来の固有振動数で揺れる免震建物1の揺れが、前記可動マス6の往復動作により効率よく減衰させられて、該免震建物1の制振が行われるようになる。この際、前記第一制御部11では、振幅制御ゲインを変化させることで、可動マス6を許容ストロークの範囲内で確実にかつ効率よく往復動作させることができる。
【0054】
一方、前記免震建物1に、免震層3の免震装置4に変形が生じるような大きな地震が作用するときには、前記制御装置10にて、前記と同様にて、第一制御部11による振幅制御方法に基づいた可動マス6の往復動作が開始され、前記大きな地震による免震建物1の揺れに対応するために振幅制御ゲインが0.5まで低下した時点で、前記振動数判定装置により前記第一制御部11から第二制御部12への切り替えが行われるようになる。
【0055】
よって、該第二制御部12への切り替えが行われた以降は、前記免震装置4の変形に起因して固有振動数よりも低下した振動数で揺れる免震建物1の揺れに対し、前記第二制御部12からの指令に基づいて前記免震建物1の固有振動数よりも小さい振動数で実施される前記可動マス6の往復動作による減衰が効率よく生じるようになる。このため、この場合も、前記免震建物1の揺れが効率よく制振されるようになる。
【0056】
このように、本発明の免震建物の制振方法及び装置によれば、免震層3を有する免震建物1について、風荷重によって生じる風揺れは、効率よく減衰させて制振することができる。
【0057】
又、前記免震建物1に地震時に生じる揺れは、前記免震装置4に変形を引き起こさない程度の中小規模の地震による揺れ、及び、前記免震装置4に変形を引き起こすような大きな地震による揺れのいずれであっても、効率よく減衰させて制振することができる。
【0058】
更に、本発明の制振方法及び装置では、免震層3の免震装置4の変形の有無を、可動マス6の振幅制御方法を実施する際に免震建物1の揺れの大きさに応じて変化させる振幅制御ゲインの値を基に判断(推定)するようにしてあるために、前記免震装置4の変形を直接監視する必要はない。したがって、前記免震建物1の上部に設ける可動マス6及びアクチュエータ7の近くに前記制御装置10を設ける場合であっても、地下の免震層3より長いケーブルを引き回す必要がなくなるために、本発明の制振装置の装置構成を簡略化するのに有利なものとすることができる。
【0059】
次に図3は本発明の実施の他の形態として、図1及び図2の実施の形態の応用例を示すものである。
【0060】
すなわち、本実施の形態の免震装置4は、図1及び図2に示したと同様の構成において、制御装置10の振動数判定部13を、第一制御部11でアクチュエータ7への指令値を算出の際に用いられる振幅制御ゲインの値を基に前記免震建物1に生じる揺れの振動数を判断する機能を備える構成に代えて、振動数判定部13が、前記免震建物1の上部に設置してある建物用センサ8からの入力を基に、該免震建物1の揺れの振動数を直接判断する機能を有するようにしたものである。
【0061】
なお、この場合は、制御対象を免震建物1の1次モードの揺れとした場合、高次の複数モードから1次モードの波形のみをフィルタやその他の解析法で精度よく抽出し、抽出された波形をゼロアップクロス法やFFT処理によって抽出するようにすればよい。
【0062】
かかる構成によれば、前記振動数判定部13では、前記建物用センサ8からの入力に基づいて、前記免震建物1の揺れの振動数が、前記免震装置4の変形に起因して該免震建物1の固有振動数より変化したと判断することができる。よって、この判断に基づいて、前記振動数判定部13は、前記アクチュエータ7へ指令を与える制御部を前記第一制御部11より第二制御部12へ切り替える機能を備えるようにしてある。
【0063】
その他の構成は図1及び図2に示したものと同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0064】
本実施の形態によっても、図1及び図2の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0065】
次いで、図4は本発明の実施の更に他の形態として、図1及び図2の実施の形態の別の応用例を示すものである。
【0066】
すなわち、本実施の形態の免震装置4は、図1及び図2に示したと同様の構成において、制御装置10の振動数判定部13を、第一制御部11でアクチュエータ7への指令値を算出の際に用いられる振幅制御ゲインの値を基に前記免震建物1に生じる揺れの振動数を判断する機能を備える構成に代えて、振動数判定部13が、前記免震建物1の免震層3に設置して該免震層3の振幅等の運動を検出する免震層用センサ14からの入力を基に、該免震建物1の揺れの振動数を判断(推定)する機能を有するようにしたものである。
【0067】
この場合、前記免震層用センサ14は、免震層3の運動と、固有振動数との関係を予め調べておき、前記免震建物1の揺れの振動数が、前記免震装置4の変形に起因して該免震建物1の固有振動数より変化したと判断することができるようにしておけばよい。
【0068】
よって、この判断に基づいて、前記振動数判定部13は、前記アクチュエータ7へ指令を与える制御部を前記第一制御部11より第二制御部12へ切り替える機能を備えるようにしてある。
【0069】
その他の構成は図1及び図2に示したものと同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0070】
本実施の形態によっても、図1及び図2の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0071】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、各図に示した各機器のサイズや配置は図示するための便宜上のものであり、実際の各機器のサイズや配置を反映したものではない。
【0072】
又、本発明の免震建物の制振方法及び装置は、基礎免震構造のみならず、中間層免震構造を有する免震建物1に適用してもよい。
【0073】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【実施例】
【0074】
図1に示した構成の本発明の制振装置5を備えた免震建物1について、数値計算により制振効果を検証した。その結果を図5(a)(b)(c)に示す。
【0075】
具体的には、図1に示したと同様に基礎免震構造の免震層3を有する免震建物1を、バイリニア型のばね要素でモデル化し、八戸NS波をレベルII相当で入力した場合の時刻歴応答波形を求めた。図5(a)は建物加速度、(b)は可動マス変位、(c)は振幅制御ゲインをそれぞれ示している。又、図5(a)における破線で示したものは、比較として、免震及び制振を行わない場合を示している。
【0076】
図5(a)における実線と破線の比較の結果、本発明の免震建物の制振方法及び装置を適用した免震建物1では、免震化によって加速度応答は低減され、更に、制振装置5によって後揺れが低減(制振)されていることが判明した。
【0077】
なお、図5(c)より、振幅制御ゲインは、0.06(ノミナル値の約6%)まで低下していた。
【符号の説明】
【0078】
1 免震建物、3 免震層、4 免震装置、6 可動マス、7 アクチュエータ、10 制御装置、11 第一制御部、12 第二制御部、13 振動数判定部
図1
図2
図3
図4
図5