(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205243
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】臭気発生物質の臭気抑制方法及び臭気抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
C02F 11/00 20060101AFI20170914BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
C02F11/00 FZAB
A61L9/01 E
A61L9/01 H
【請求項の数】11
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-227841(P2013-227841)
(22)【出願日】2013年11月1日
(65)【公開番号】特開2015-85293(P2015-85293A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000156581
【氏名又は名称】日鉄住金環境株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100098213
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 武
(74)【代理人】
【識別番号】100175787
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 龍也
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】市川 康平
(72)【発明者】
【氏名】東 友子
【審査官】
富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−272621(JP,A)
【文献】
特開2002−045893(JP,A)
【文献】
特開2000−005774(JP,A)
【文献】
特開平10−216698(JP,A)
【文献】
特開2009−268986(JP,A)
【文献】
特開2006−061684(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0226891(US,A1)
【文献】
特開2013−086007(JP,A)
【文献】
特開2010−089023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00 − 11/20
A61L 9/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
臭気発生物質から発生する臭気を抑制する臭気発生物質の臭気抑制方法であって、
前記臭気発生物質に過酸化物を添加することなく、硝酸又はその塩(硝酸系物質)、並びにギ酸又はその塩(ギ酸系物質)を、前記臭気発生物質中における前記硝酸系物質の濃度が、硝酸イオン濃度として50〜1000mg/Lとなるように、また、前記臭気発生物質中における前記ギ酸系物質の濃度が、ギ酸イオン濃度として10〜500mg/Lとなるように、前記臭気発生物質中に添加することを特徴とする臭気発生物質の臭気抑制方法。
【請求項2】
前記臭気発生物質は、下水処理場における以下の(1)〜(4)のいずれかである請求項1に記載の臭気発生物質の臭気抑制方法。
(1)最初沈澱池で発生する汚泥及びその濃縮物
(2)最終沈澱池で発生する汚泥及びその濃縮物
(3)(1)及び(2)の混合物
(4)脱水ケーキ
【請求項3】
前記臭気発生物質から発生する臭気は、硫化水素又はメチルメルカプタン由来の臭気である請求項1又は2に記載の臭気発生物質の臭気抑制方法。
【請求項4】
前記硝酸系物質及び前記ギ酸系物質は、前記臭気発生物質中に、一括して同時に添加される請求項1〜3のいずれか1項に記載の臭気発生物質の臭気抑制方法。
【請求項5】
前記硝酸系物質と前記ギ酸系物質との混合水溶液を、前記臭気発生物質に添加する請求項1〜4のいずれか1項に記載の臭気発生物質の臭気抑制方法。
【請求項6】
前記ギ酸系物質は、ギ酸又はギ酸ナトリウムである請求項1〜5のいずれか1項に記載の臭気発生物質の臭気抑制方法。
【請求項7】
臭気発生物質中に添加されて、その臭気発生物質から発生する臭気を抑制する臭気抑制用組成物であって、
過酸化物を含有せず、硝酸又はその塩(硝酸系物質)、並びにギ酸又はその塩(ギ酸系物質)を含有し、
前記臭気発生物質中に過酸化物を含有させることなく、前記硝酸系物質及び前記ギ酸系物質を、前記臭気発生物質中における前記硝酸系物質の濃度が、硝酸イオン濃度として50〜1000mg/Lとなるように、また、前記臭気発生物質中における前記ギ酸系物質の濃度が、ギ酸イオン濃度として10〜500mg/Lとなるように、前記臭気発生物質中に含有させることを特徴とする臭気抑制用組成物。
【請求項8】
前記臭気発生物質は、下水処理場における以下の(1)〜(4)のいずれかである請求項7に記載の臭気抑制用組成物。
(1)最初沈澱池で発生する汚泥及びその濃縮物
(2)最終沈澱池で発生する汚泥及びその濃縮物
(3)(1)及び(2)の混合物
(4)脱水ケーキ
【請求項9】
前記臭気発生物質から発生する臭気は、硫化水素又はメチルメルカプタン由来の臭気である請求項7又は8に記載の臭気抑制用組成物。
【請求項10】
前記硝酸系物質と前記ギ酸系物質との混合水溶液である請求項7〜9のいずれか1項に記載の臭気抑制用組成物。
【請求項11】
前記ギ酸系物質は、ギ酸又はギ酸ナトリウムである請求項7〜10のいずれか1項に記載の臭気抑制用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭気発生物質の臭気抑制方法及び臭気抑制用組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、例えば、下水処理場の脱水ケーキ等から微生物の活動によって発生する硫化水素やメチルメルカプタン等に由来する臭気を長期間にわたって抑制することが可能で、比較的毒性が低く、かつ安価な臭気発生物質の臭気抑制方法及び臭気抑制用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水処理場においては、最初沈澱池から発生する汚泥や最終沈澱池から発生する汚泥や脱水ケーキ等においては、しばしば硫化水素やメチルメルカプタンに由来する臭気が発生する。脱水ケーキから発生するメチルメルカプタンは、主として含硫黄タンパク質の分解によって生じるものであることが開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、硫化水素は、有機体の硫黄の微生物分解や、硫酸イオンの生物的還元作用により生じると考えられる。
【0003】
また、下水処理場の排水中などから発生する硫化水素の発生は、排水中等に生息している硫酸還元菌が硫酸塩を還元して発生するものであることが開示されている(例えば、特許文献2参照)。一方、表1に示すように、発明者等の検討によると、下水処理場の最初沈殿池から発生する汚泥、最終沈澱池から発生する汚泥、脱水ケーキには、いずれも硫酸イオンが含まれていないにも関わらず、硫化水素が発生することが確認された。したがって、下水処理場の最初沈殿池から発生する汚泥、最終沈澱池から発生する汚泥、脱水ケーキから発生する硫化水素が、主として硫酸還元菌による硫酸イオンの還元に由来するとは考えがたく、この硫化水素の発生は、主として微生物による有機体硫黄(例えば、タンパク質中のシステイン残基等)の分解によって生じるものであると考えられる。
【0004】
さらに、下水処理場において、脱水ケーキ等から発生する硫化水素やメチルメルカプタン等に由来する臭気を抑制する方法として、下水処理場で発生した汚泥を濃縮したのち、この濃縮汚泥スラリーに過酸化物を除く酸化剤と、所定量の亜硝酸塩とを併用して添加し、さらに脱水機により脱水する脱臭(臭気の抑制)方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
【0006】
表1より、各処理場のそれぞれの汚泥中には、硫酸イオンがほとんど含まれていないにも関わらず、硫化水素の発生が認められる。したがって、硫化水素の発生は、主に硫酸還元菌によるものではないと考えられる。
【0007】
なお、各処理場から採取した汚泥中の硫酸イオン濃度の測定及び硫化水素発生能の評価は、以下のように行った。
【0008】
(硫酸イオン濃度の測定)
各処理場から採取した汚泥について、5Aろ紙を用いてろ過して得られたろ液について、検出器に電気伝導度検出器を用いたイオンクロマトグラフにより、硫酸イオン濃度を決定した。
【0009】
(硫化水素発生能の評価)
容量500mLの蓋つきのポリプロピレン製の容器に、採取した汚泥を200mL添加した後に、密封して20℃で24時間静置した。容器を開封して、直ちに、ガステック社製の検知管を用いて容器内の気相中の硫化水素濃度を測定した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3700550号公報
【特許文献2】特許第3951276号公報
【特許文献3】特許第3674939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の特許文献3に記載された脱水ケーキの脱臭方法は、開放系に保管される脱水ケーキを含めた下水処理工程全般における脱臭手段として、消臭能力の高い亜硝酸塩を有効に利用したもので、一定の脱臭効果を発揮するものであるが、亜硝酸塩が残留して環境問題となったり、発がん性物質の原因物質となる等、比較的毒性が高いという問題があった。
【0012】
本発明は、上述の問題に鑑みて、なされたもので、微生物の活動によって生成する硫化水素やメチルメルカプタン等に由来する臭気を長期間にわたって抑制することが可能で、比較的毒性が低く、かつ安価な臭気発生物質の臭気抑制方法及び臭気抑制用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記目的を達成するため、鋭意研究した結果、工業生産量が大きく安価に入手可能で、亜硝酸塩よりも環境毒性等の低い硝酸又は硝酸塩と、ギ酸又はギ酸塩とを、臭気発生物質に添加することによって、臭気発生物質から生成される硫化水素やメチルメルカプタン等に由来する臭気を長期間にわたって抑制することが可能なことを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明によれば、以下の臭気発生物質の臭気抑制方法及び臭気抑制用組成物が提供される。
【0014】
[1]臭気発生物質から発生する臭気を抑制する臭気発生物質の臭気抑制方法であって、臭気発生物質に、硝酸又はその塩(硝酸系物質)、並びにギ酸又はその塩(ギ酸系物質)を、前記臭気発生物質中における前記硝酸系物質の濃度が、硝酸イオン濃度として50〜1000mg/Lとなるように、また、前記臭気発生物質中における前記ギ酸系物質の濃度が、ギ酸イオン濃度として10〜500mg/Lとなるように、前記臭気発生物質中に添加することを特徴とする臭気発生物質の臭気抑制方法。
【0015】
[2]前記臭気発生物質は、下水処理場における以下の(1)〜(4)のいずれかである前記[1]に記載の臭気発生物質の臭気抑制方法。
(1)最初沈澱池で発生する汚泥及びその濃縮物
(2)最終沈澱池で発生する汚泥及びその濃縮物
(3)(1)及び(2)の混合物
(4)脱水ケーキ
【0016】
[3]前記臭気発生物質から発生する臭気は、硫化水素又はメチルメルカプタン由来の臭気である前記[1]又は[2]に記載の臭気発生物質の臭気抑制方法。
【0017】
[4]前記硝酸系物質及び前記ギ酸系物質は、前記臭気発生物質中に、一括して同時に添加される前記[1]〜[3]のいずれかに記載の臭気発生物質の臭気抑制方法。
【0018】
[5]臭気発生物質中に添加されて、その臭気発生物質から発生する臭気を抑制する臭気抑制用組成物であって、硝酸又はその塩(硝酸系物質)、並びにギ酸又はその塩(ギ酸系物質)を、前記臭気発生物質中における前記硝酸系物質の濃度が、硝酸イオン濃度として50〜1000mg/Lとなるように、また、前記臭気発生物質中における前記ギ酸系物質の濃度が、ギ酸イオン濃度として10〜500mg/Lとなるように、前記臭気発生物質中に含有させることを特徴とする臭気抑制用組成物。
【0019】
[6]前記臭気発生物質は、下水処理場における以下の(1)〜(4)のいずれかである前記[5]に記載の臭気抑制用組成物。
(1)最初沈澱池で発生する汚泥及びその濃縮物
(2)最終沈澱池で発生する汚泥及びその濃縮物
(3)(1)及び(2)の混合物
(4)脱水ケーキ
【0020】
[7]前記臭気発生物質から発生する臭気は、硫化水素又はメチルメルカプタン由来の臭気である前記[5]又は[6]に記載の臭気抑制用組成物。
【発明の効果】
【0021】
本発明によって、微生物の活動によって生成する硫化水素やメチルメルカプタン等に由来する臭気を長期間にわたって抑制することが可能で、比較的毒性が低く、かつ安価な臭気発生物質の臭気抑制方法及び臭気抑制用組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.臭気発生物質の臭気抑制方法
本実施の形態の臭気発生物質の臭気抑制方法は、臭気発生物質から発生する臭気を抑制する臭気発生物質の臭気抑制方法であって、臭気発生物質に、硝酸又はその塩(以下、硝酸系物質ということがある)、並びにギ酸又はその塩(以下、ギ酸系物質ということがある)を、臭気発生物質中における硝酸系物質の濃度が、硝酸イオン濃度として50〜1000mg/Lとなるように、また、臭気発生物質中におけるギ酸系物質の濃度が、ギ酸イオン濃度として10〜500mg/Lとなるように、臭気発生物質中に添加することを特徴とするものである。以下、構成要素ごとに説明する。
【0023】
(1−1:臭気発生物質)
以下に、本発明が適用される臭気発生物質について、下水処理の工程の一例を用いて説明する。処理すべき下水の原水は、最初沈殿池で初沈生汚泥として分離された後、汚泥濃縮槽で濃縮される(ここでの初沈生汚泥及び濃縮物が臭気発生物質となる)。最初沈殿池の上澄水は、必要に応じて凝集剤を添加したのち曝気槽へ送られ、活性汚泥法により微生物的処理が行われる。曝気槽の処理水は、必要に応じて凝集剤を添加した後、最終沈殿池で汚泥として分離された後、汚泥濃縮槽で濃縮される(ここでの汚泥及び濃縮物が臭気発生物質となる)。分離された汚泥及び汚泥濃縮槽で濃縮された汚泥は、最初沈澱池で発生するものと最終沈澱池で発生するものとを別個に(上述のように、最初沈澱池及び最終沈澱池での汚泥及び濃縮物が臭気発生物質となる)又はその混合物(この混合物が臭気発生物質となる)として、汚泥貯留槽に送られ、脱水機により脱水され、脱水ケーキ(この脱水ケーキが臭気発生物質となる)として搬出される。
【0024】
すなわち、本発明が適用される臭気発生物質としては、例えば、下水処理場の処理工程等において発生する以下の(1)〜(4)のいずれかを挙げることができる。
(1)最初沈澱池で発生する汚泥及びその濃縮物
(2)最終沈澱池で発生する汚泥及びその濃縮物
(3)(1)及び(2)の混合物
(4)脱水ケーキ
【0025】
(1−2:臭気)
上述の臭気発生物質から発生する臭気としては、例えば、微生物の活動によって生成する硫化水素又はメチルメルカプタン由来の臭気を挙げることができる。これらの臭気が、環境や人間生活に及ぼす影響が大きいため、臭気の抑制が必要となる。特に、脱水ケーキは、開放系で運搬、保管される場合が多いので、その臭気の抑制が重要となる。
【0026】
(1−3:添加物質)
本実施の形態の臭気発生物質の臭気抑制方法において、臭気発生物質から発生する臭気を抑制するために用いられる、臭気発生物質に添加される物質は、硝酸又はその塩(硝酸系物質)、並びにギ酸又はその塩(ギ酸系物質)である。
【0027】
このように、硝酸系物質とギ酸系物質との組み合わせが臭気発生物質から発生する臭気の抑制に効果的であるメカニズムについては、必ずしも定かではないが、臭気発生物質に添加された硝酸系物質が硝酸還元菌の「硝酸還元」作用によって、硝酸から亜硝酸に還元されて、その亜硝酸の臭気の抑制(脱臭)作用によって、例えば、硫化水素又はメチルメルカプタン由来の臭気の抑制が実現されるとともに、亜硝酸還元菌の「脱窒」作用の次段階への進行、すなわち亜硝酸から窒素への還元反応の進行がギ酸系物質によって適度に抑えられて、臭気の抑制が長時間維持されるものと推定される。
【0028】
(1−3−1:硝酸系物質)
硝酸系物質のうち、硝酸は、例えば、廃酸として安価に入手可能なものを好適に用いることができるが、特に制限はない。硝酸塩としては、例えば、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸アルミニウム、硝酸第1鉄、硝酸第2鉄、硝酸アンモニウム、硝酸亜鉛、硝酸グアニジニウムを挙げることができる。中でも、硝酸ナトリウム及び硝酸カルシウムが好ましい。
【0029】
添加時期としては、特に制限はなく、例えば、後述するギ酸系物質と一括して同時に添加してもよく、別々に添加してもよい。中でも、後述するギ酸系物質と一括して同時に添加することが添加のための労力の削減の面から好ましい。
【0030】
添加量は、臭気発生物質中における硝酸系物質の濃度が、通常、硝酸イオン濃度として50〜1000mg/Lとなるように、臭気発生物質中に添加され、硝酸イオン濃度として100〜500mg/Lとなるように添加されることが好ましい。1000mg/Lを超えると、費用が大になりすぎ、50mg/L未満であると、十分な臭気発生の抑制効果が得られない。
【0031】
添加方法としては、特に制限はないが、例えば、水溶液としてポンプを用いて添加することを挙げることができる。
【0032】
(1−3−2:ギ酸系物質)
ギ酸系物質は、例えば、ギ酸、ギ酸カルシウム、ギ酸アンモニウム、ギ酸ナトリウムを挙げることができる。中でも、ギ酸、ギ酸ナトリウム及びギ酸カルシウムが好ましい。
【0033】
添加時期としては、特に制限はなく、上述の硝酸系物質と一括して同時に添加してもよく、別々に添加してもよい。中でも、硝酸系物質との混合水溶液とすることが添加の容易さの面から好ましい。
【0034】
添加量は、臭気発生物質中におけるギ酸系物質の濃度が、通常、10〜500mg/Lとなるように、臭気発生物質中に添加され、25〜400mg/Lとなるように添加されることが好ましい。500mg/Lを超えると、費用が大になりすぎ、10mg/L未満であると、十分な臭気発生の抑制効果が得られない。
【0035】
添加方法としては、特に制限はないが、例えば、硝酸系物質との混合水溶液としてポンプを用いて添加することを挙げることができる。
【0036】
2.臭気抑制用組成物
本実施の形態の臭気抑制用組成物は、臭気発生物質中に添加されて、その臭気発生物質から発生する臭気を抑制する臭気抑制用組成物であって、硝酸又はその塩(以下、硝酸系物質ということがある)、並びにギ酸又はその塩(以下、ギ酸系物質ということがある)を、臭気発生物質中における前記硝酸系物質の濃度が、硝酸イオン濃度として50〜1000mg/Lとなるように、また、臭気発生物質中におけるギ酸系物質の濃度が、ギ酸イオン濃度として10〜500mg/Lとなるように、臭気発生物質中に含有させることを特徴とするものである。
【0037】
本実施の形態の臭気抑制用組成物で用いられる臭気発生物質及び臭気、並びに本実施の形態の臭気抑制用組成物を構成する硝酸系物質及びギ酸系物質としては、上述の臭気発生物質の臭気抑制方法で用いられるものと同様のものを用いることができる。
【0038】
ただし、硝酸系物質の含有量は、臭気発生物質中における硝酸系物質の濃度が、通常、硝酸イオン濃度として50〜1000mg/Lとなるように臭気発生物質中に含有され、硝酸イオン濃度として100〜500mg/Lとなるように含有されることが好ましい。1000mg/Lを超えると、費用が大になりすぎ、50mg/L未満であると、十分な臭気発生の抑制効果が得られない。
【0039】
また、ギ酸系物質の含有量は、臭気発生物質中におけるギ酸系物質の濃度が、通常、10〜500mg/Lとなるように、臭気発生物質中に含有され、25〜400mg/Lとなるように含有されることが好ましい。500mg/Lを超えると、費用が大になりすぎ、10mg/L未満であると、十分な臭気発生の抑制効果が得られない。
【0040】
含有させる方法としては、特に制限はないが、例えば、水溶液とすることを挙げることができる。
【0041】
本実施の形態の臭気抑制用組成物には、上述の硝酸系物質及びギ酸系物質に加えて、例えば、pH調整剤を含有させることができる。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の臭気発生物質の臭気抑制方法及び臭気抑制用組成物を、実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって、いかなる制限を受けるものではない。
【0043】
(実施例1)
容量500mLの蓋つきのポリプロピレン製の容器に、下水処理場より採取した最初沈澱池汚泥(SS濃度=14,000mg/L)と余剰汚泥(SS=13,000mg/L)とを等量混合した混合汚泥を200mL添加した後に、硝酸系物質として、硝酸ナトリウム(以下、硝酸Naということがある)を添加濃度が300mg/Lとなるように、また、ギ酸系物質として、ギ酸を添加濃度が100mg/Lとなるように、それぞれ一括して同時に添加し、密封して20℃で静置した。24時間又は48時間後、容器を開封して、直ちに、ガステック社製の検知管を用いて容器内の気相中の硫化水素濃度を測定した。その結果を表2に示す。
【0044】
【0045】
(実施例2〜4)
実施例1において、ギ酸系物質の種類及び濃度を表2に示すものに変えたこと以外は、実施例1と同様にした。硫化水素濃度を測定した結果を表2に示す。
【0046】
(比較例1〜6)
実施例1において、硝酸系物質及びギ酸系物質の種類と添加濃度を表2に示すものに変えたこと以外は、実施例1と同様にした。硫化水素濃度を測定した結果を表2に示す。
【0047】
表2に示す測定結果から、以下のことが分かる。すなわち、実施例1〜4(規定量の硝酸ナトリウム及び規定量のギ酸、ギ酸カルシウム又はギ酸ナトリウムを添加した場合)は、48時間以上の長期間にわたって硫化水素の発生がほぼ完全に抑えられたことが分かる。これに対して、比較例1(硝酸Na及びギ酸系物質のいずれをも含有しない場合)、比較例2、3(硝酸Naを含有せずにギ酸系物質だけを含有する場合)、比較例4(ギ酸系物質を含有せずに硝酸Naだけを含有する場合)、比較例5(規定量のギ酸系物質を含有するが硝酸系物質の濃度が規定量未満である場合)及び比較例6(規定量の硝酸系物質を含有するがギ酸系物質の含有量が規定量未満である場合)は、24時間という短期間のうちに硫化水素が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、下水処理場、し尿処理場や、食品工場、紙パルプ工場等の有機物を含有する産業排水の処理に、有効に利用される。