(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記安定性向上剤が、前記リチウムとニオブ錯体とを含む溶液に対し、0.01wt%以上、5wt%以下の範囲で含有されていることを特徴とする請求項1に記載のリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液。
前記安定性向上剤が、カルボキシル基、アルコール性ヒドロキシル基、フォスフィノ基、アミノ基から選択される基を分子構造中に複合的に有するものであることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液。
前記安定性向上剤が、カルボン酸、ジカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、フォスフォン酸から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液。
前記安定性向上剤が、ギ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、EDTMPA、EDTA・2Hから選択される1種以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液。
前記安定性向上剤が、前記ニオブ錯体中のニオブ原子と2座以上で結合するものであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液。
前記安定性向上剤が結合する前のニオブ錯体が、ニオブ酸のペルオキソ錯体であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液。
前記安定性向上剤を、前記リチウムとニオブ錯体とを含む溶液に対し、0.01wt%以上、5wt%以下の範囲で添加することを特徴とする請求項8に記載のリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液の製造方法。
前記安定性向上剤として、カルボン酸、ジカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、フォスフォン酸から選択される1種以上を用いることを特徴とする請求項8または9に記載のリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液の製造方法。
前記安定性向上剤として、ギ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、EDTMPA、EDTA・2Hから選択される1種以上を用いることを特徴とする請求項8から10のいずれかに記載のリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液の製造方法。
前記安定性向上剤が結合する前のニオブ錯体として、ニオブ酸のペルオキソ錯体を用いることを特徴とする請求項8から11のいずれかに記載のリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液の製造方法。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、高電圧での動作が可能という特徴がある。そこで、小型軽量化を図りやすい二次電池として携帯電話等の情報機器に使用されている。また、近年、ハイブリッド自動車用等の大型動力用の二次電池としての需要も高まりつつある。
【0003】
リチウムイオン電池では有機溶媒に塩を溶解させた非水溶媒電解質が、電解質として一般的に用いられている。ところが、当該非水溶媒電解質が可燃性のものであることから、リチウムイオン電池は安全性に対する問題を解決する必要がある。当該安全性を確保するために、例えば、リチウムイオン電池へ安全装置を組み込む等の対策が実施されている。また、より抜本的な解決法として、上述した電解質を不燃性の電解質とすること、即ちリチウムイオン伝導性の固体電解質とする方法が提案されている。
【0004】
一般的に電池の電極反応は、電極活物質と電解質との界面で生じる。ここで、当該電解質に液体電解質を用いた場合は、電極活物質を含有する電極を当該液体電解質に浸漬することで、当該液体電解質が活物質粒子間に浸透し反応界面が形成される。一方、当該電解質に固体電解質を用いた場合は、固体電解質にはこのような活物質粒子間への浸透機構がない為、あらかじめ電極活物質粒子を含む粉体と固体電解質の粉体とを混合する必要がある。この為、全固体リチウムイオン電池の正極は、通常、正極活物質の粉体と固体電解質との混合物となる。
【0005】
ところが、全固体リチウムイオン電池においては、正極活物質と固体電解質との界面をリチウムイオンが移動する際に発生する抵抗(以下、「界面抵抗」と記載する場合がある。)が増大し易い。当該界面抵抗が増大した場合、全固体リチウムイオン電池において電池容量等の性能が低下することになる。
【0006】
ここで、当該界面抵抗の増大は、正極活物質と固体電解質とが反応して正極活物質の表面に高抵抗部位が形成されることが原因である旨、の報告(非特許文献1)がある。
そして、非特許文献1には、正極活物質であるコバルト酸リチウムの表面をニオブ酸リチウムによって被覆することにより界面抵抗を低減させ、全固体リチウムイオン電池の性能向上を図る提案が開示されている。
【0007】
具体的には、コバルト酸リチウム等のリチウム−金属酸化物表面上へ、NbエトキシドやLiエトキシド等の金属アルコキシドが混合されたアルコール溶液を接触させた後、当該リチウム−金属酸化物を大気中で焼成して、表面にニオブ酸リチウムを被覆することが提案されている。
【0008】
一方、特許文献1にも、ニオブ酸リチウムで被覆されたコバルト酸リチウムの製造方法について提案されている。
具体的には、コバルト酸リチウムの表面に、NbエトキシドやLiエトキシド等の金属アルコキシドが混合されたアルコール溶液を接触させた後、当該コバルト酸リチウムを260℃〜300℃の比較的低温で焼成するものである。当該低温焼成によって、ニオブ酸リチウムで被覆されたコバルト酸リチウムの結晶化を抑制し、被覆層の界面抵抗を低減しようとする提案である。
【0009】
また、特許文献2には、リチウムおよびニオブ錯体を含有する溶液を用いて、ニオブ酸リチウムで被覆されたコバルト酸リチウムを製造する方法について提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献2に記載の、ニオブ酸リチウムで被覆されたコバルト酸リチウムを製造する方法は、高価なNbエトキシドやLiエトキシド等の金属アルコキシドを使用せず、炭素含有量が低いニオブ酸リチウムで被覆されたコバルト酸リチウムを製造することができる点で、工業的な価値は高いと考えられた。
そこで、本発明者らは、特許文献2の実施例に記載の方法で製造されたリチウムおよびニオブ錯体を含有する溶液について検討したところ、当該リチウムおよびニオブ錯体を含有する溶液を作製後4〜5時間静置しておくと沈殿物が生成するという課題を知見した。
【0013】
そして本発明者らは、リチウムとニオブ錯体とを含有する溶液を用いて、ニオブ酸リチウムで被覆されたコバルト酸リチウム等のリチウム−金属酸化物を製造する場合、沈殿物が生成したリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液を使用すると、ニオブ酸リチウムの被覆量が低下することや被覆量の制御が困難になること、更に、ニオブ酸リチウムで被覆されたコバルト酸リチウム等のリチウム−金属酸化物に前記沈殿物が混入する等の問題が生じる原因となりうるという課題を知見した。
さらに本発明者らは、リチウムとニオブ錯体とを含有する溶液を作製後4〜5時間静置しておくと沈殿物が生成する状況下では、リチウムとニオブ錯体とを含有する溶液を作製後、一定時間以内にコバルト酸リチウム等へニオブ酸リチウムを被覆する工程を開始する必要があり、生産効率を低下させる原因になるという課題を知見した。
【0014】
本発明は、上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、沈殿物を生成しにくい保存安定性に優れたリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液、およびその製造方法、並びにリチウムイオン電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、リチウムとニオブ錯体とを含有する溶液の保存安定性(沈殿物の生成しにくさ)について鋭意検討した。そして、ニオブ錯体は、当該溶液中に過酸化水素が潤沢に存在する間は安定に溶解した状態で存在している。しかし、当該溶液中の過酸化水素が分解し消失してしまうとニオブ錯体は不安定になり、水酸化ニオブの沈殿物が生成してしまうことを知見した。一方、当該リチウムとニオブ錯体とを含有する溶液を作製後に静置しておきながら、当該溶液中における過酸化水素の分解を抑止することは困難である。
【0016】
ここで、本発明者らは、当該リチウムとニオブ錯体とを含有する溶液へ、カルボン酸類、ジカルボン酸類、ヒドロキシカルボン酸類、EDTA、EDTMPAといったフォスフォン酸類を少量添加すると沈殿物の生成を抑止できるという画期的な知見を得て、本発明を完成した。
尚、本発明において、これらカルボン酸類、ジカルボン酸類、ヒドロキシカルボン酸類およびフォスフォン酸類を「安定性向上剤」と記載する場合がある。
【0017】
即ち、上述の課題を解決する為の第1の発明は、
リチウムと、ニオブ錯体と、安定性向上剤とを、含有し、
前記安定性向上剤は、カルボキシル基、アルコール性ヒドロキシル基、フォスフィノ基、アミノ基から選択される基を分子構造中に有するものであることを特徴とするリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液である。
第2の発明は、
前記安定性向上剤が、前記リチウムとニオブ錯体とを含む溶液に対し、0.01wt%以上、5wt%以下の範囲で含有されていることを特徴とする第1の発明に記載のリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液である。
第3の発明は、
前記安定性向上剤が、カルボキシル基、アルコール性ヒドロキシル基、フォスフィノ基、アミノ基から選択される基を分子構造中に複合的に有するものであることを特徴とする第1または第2の発明に記載のリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液である。
第4の発明は、
前記安定性向上剤が、カルボン酸、ジカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、フォスフォン酸から選択される1種以上であることを特徴とする第1から第3の発明のいずれかに記載のリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液である。
第5の発明は、
前記安定性向上剤が、ギ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、EDTMPA、EDTA・2Hから選択される1種以上であることを特徴とする第1から第4の発明のいずれかに記載のリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液である。
第6の発明は、
前記安定性向上剤が、前記ニオブ錯体中のニオブ原子と2座以上で結合するものであることを特徴とする第1から第5の発明のいずれかに記載のリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液である。
第7の発明は、
前記安定性向上剤が結合する前のニオブ錯体が、ニオブ酸のペルオキソ錯体であることを特徴とする第1から第6の発明のいずれかに記載のリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液である。
第8の発明は、
ニオブ錯体を含有する溶液と、
リチウム化合物と、
カルボキシル基、アルコール性ヒドロキシル基、フォスフィノ基、アミノ基から選択される基を分子構造中に有するものの1種以上である安定性向上剤とを、混合することにより、
リチウムとニオブ錯体とを含有する溶液を得ることを特徴とするリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液の製造方法である。
第9の発明は、
前記安定性向上剤を、前記リチウムとニオブ錯体とを含む溶液に対し、0.01wt%以上、5wt%以下の範囲で添加することを特徴とする第8の発明に記載のリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液の製造方法である。
第10の発明は、
前記安定性向上剤として、カルボン酸、ジカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、フォスフォン酸から選択される1種以上を用いることを特徴とする第8または第9の発明に記載のリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液である。
第11の発明は、
前記安定性向上剤として、ギ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、EDTMPA、EDTA・2Hから選択される1種以上を用いることを特徴とする第8から第10の発明のいずれかに記載のリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液の製造方法である。
第12の発明は、
前記安定性向上剤が結合する前のニオブ錯体として、ニオブ酸のペルオキソ錯体を用いることを特徴とする第8から第11の発明のいずれかに記載のリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液の製造方法である。
第13の発明は、
第1から第7の発明のいずれかに記載のリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液を、リチウムイオン電池用の活物質に被覆させる工程と、
前記リチウムとニオブ錯体とを含有する溶液が被覆されたリチウムイオン電池用の活物質を熱処理し、リチウムイオン電池用の正極活物質を得る工程とを、有することを特徴とする正極活物質の製造方法である。
第14の発明は、
第13の発明に記載のリチウムイオン電池用の正極活物質を正極材として用いて、リチウムイオン電池を製造する工程を、有することを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液は、保存安定性に優れ、ニオブ酸リチウムで被覆されたコバルト酸リチウム等のリチウム−金属酸化物を製造する際、ニオブ酸リチウムの被覆量を担保出来、制御が容易になった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について、リチウムとニオブ錯体とを含有する溶液、安定性向上剤、安定性向上剤を添加したリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液の保存安定性、安定性向上剤を添加したリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液により表面が被覆された後に焼成されたリチウム−金属酸化物、安定性向上剤による保存安定性向上のメカニズム、まとめ、の順に説明する。
【0021】
(リチウムとニオブ錯体とを含有する溶液)
本発明に係るリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液は、水溶性のニオブ錯体を含有する溶液と、リチウム塩等のリチウム化合物とを混合することにより得ることができる。
以下、ニオブ錯体およびリチウム化合物について説明する。
【0022】
〈ニオブ錯体〉
上述したニオブ錯体の配位子は、ニオブ錯体が水溶性となるものであれば良く、特に制限はない。尤も、当該ニオブ錯体として、ニオブ酸のペルオキソ錯体([Nb(O
2)
4]
3−)を好ましく使用することができる。ニオブ酸のペルオキソ錯体は、化学構造中に炭素を含有しないので、最終的に生成するニオブ酸リチウムの被覆膜に炭素が残留することがなく、特に好適である。
【0023】
当該ニオブ酸のペルオキソ錯体は、例えば下記の方法で得ることができる。
過酸化水素水へ、ニオブ酸(Nb
2O
5・nH
2O)を添加して混合する。ここで、当該混合の際、ニオブ酸1モルに対して、過酸化水素が8モル以上となるようにすることが好ましい。過酸化水素が反応中に分解する可能性があることを考慮すると、ニオブ酸1モルに対して、過酸化水素が10モル以上となるようにすることが更に好ましい。当該混合において、ニオブ酸は過酸化水素水に溶解しないが、乳白色の懸濁溶液を得ることが出来る。
【0024】
ニオブ酸のペルオキソ錯体の懸濁液へ、アンモニア水等のアルカリを添加し混合することにより透明なニオブ酸のペルオキソ錯体を得ることができる。
当該懸濁液へ、アルカリとしてアンモニア水を添加する場合ニオブ酸1モルに対して、アンモニアが1モル以上となるように添加することが好ましい。ここで、アンモニアが反応中に揮発することを考慮すると、ニオブ酸1モルに対して、アンモニアが2モル以上となるように添加することが、さらに好ましい。
さらに、当該アンモニア水に代えて、アルカリ性溶液を添加することもできる。この場合、アルカリ性溶液の添加量は、添加後の溶液のpH値が10以上、好ましくは、11以上となる量とする。当該アルカリ性溶液として、水酸化リチウム溶液を添加することもできる。
【0025】
〈リチウム化合物〉
上述の方法で得られたニオブ錯体を含有する水溶液に、リチウム化合物を添加することにより、リチウムとニオブ錯体とを含有する溶液を得ることができる。添加するリチウム化合物のリチウムのモル数は、前記水溶液中に含まれるニオブ錯体のニオブのモル数に対して、任意に設定することが出来る。しかし、ニオブの量に対してリチウムの量が過少であると、錯体から得られるニオブ酸リチウムのリチウム伝導性を低下させる場合がある。また、ニオブの量に対してリチウムの量が過剰であると、リチウム伝導性に関与しない余剰なリチウムが存在することとなり不経済である。そこで、ニオブ1モルに対してリチウムが1以上、1.3モル以下であることがより好ましい。添加するリチウム化合物の好適な例としては、水酸化リチウム(LiOH)、硝酸リチウム(LiNO
3)、硫酸リチウム(Li
2SO
4)等のリチウム塩が挙げられる。
【0026】
(安定性向上剤)
本発明に係る安定性向上剤とその構造、リチウムとニオブ錯体とを含有する溶液への安定性向上剤の添加方法について説明する。
【0027】
〈安定性向上剤とその構造〉
本発明に係る安定性向上剤として、カルボン酸類、ジカルボン酸類、ヒドロキシカルボン酸類、フォスフォン酸類、等が挙げられる。
カルボン酸は−COOH基を有し、ニオブ原子へ1座で結合することが考えられる。カルボン酸の好ましい例として、ギ酸、酢酸を挙げることが出来る。
ジカルボン酸は−COOH基を2つ、ヒドロキシカルボン酸は−OH基と−COOH基とを持っている。そして、これらの基によって、ニオブ原子へ1座または2座で結合することが考えられる。尚、ジカルボン酸としては、シュウ酸((COOH)
2)、ヒドロキシカルボン酸としては、ヒドロキシトリカルボン酸であるクエン酸(C
6H
8O
7、構造式を
図1に示す。)や、ヒドロキシジカルボン酸であるリンゴ酸(HOOC−CH(OH)−CH
2−COOH)を好ましい例として挙げることが出来る。
同様に、フォスフォン酸類のように、ニオブのペルオキソ錯体におけるペルオキソ基の代わりに、ニオブ原子へ結合できる基が2つ以上存在する化合物が有効である。フォスフォン酸類は、ニオブ原子へ結合できる基の数に応じて1座または2座以上でニオブ原子へ結合することが出来る。尚、フォスフォン酸としては、EDTA((HOOCCH
2)
2NCH
2CH
2N(CH
2COOH)
2)、EDTMPA(Ethylene Diamine Tetra(Methylene Phosphonic Acid)、
図6に構造式を示す。)を好ましい例として挙げることが出来る。
【0028】
本発明に係る安定性向上剤において、ニオブ原子へ結合する基は、カルボキシル基、アルコール性ヒドロキシル基、フォスフィノ基、アミノ基等がある。 尚、本発明に係る安定性向上剤において、ニオブ原子と結合するのはO(酸素)、N(窒素)、P(リン)である。そして、本発明に係る安定性向上剤は、ニオブ原子をとり囲んで配位し、ニオブ原子を安定化すると考えられる。
さらに、本発明に係る安定性向上剤が、これらの基を分子構造中に複合的に有するキレート化合物である場合は、ニオブ錯体中のニオブ原子と配位結合すると考えられ、安定性を向上させる効果が期待でき好ましい。
【0029】
〈リチウムとニオブ錯体とを含有する溶液への安定性向上剤の添加方法〉
リチウムとニオブ錯体とを含有する溶液への安定性向上剤の添加方法について、ヒドロキシトリカルボン酸であるクエン酸1水和物を例として説明する。
【0030】
上述したリチウムとニオブ錯体とを含む水溶液に対し、クエン酸1水和物(C
6H
8O
7・H
2O)を0.01wt%以上5wt%以下の範囲で添加すれば良い。
ここで、添加するクエン酸の形態としては、1水和物の他に、クエン酸無水物が使用できる。尤も、水に対する溶解性の観点から、溶解性が高いクエン酸1水和物を用いるのが好ましい。
添加量が0.01wt%以上であれば安定性向上の効果が得られる。添加量が5wt%以下であれば安定性向上の効果が飽和せず、且つ、後工程において不純物としてのC(炭素)分が増加することを抑制出来る。
【0031】
以上、ヒドロキシトリカルボン酸であるクエン酸1水和物を例として、リチウムとニオブ錯体とを含有する溶液への安定性向上剤の添加方法を説明した。そして安定性向上剤として、カルボン酸類、ジカルボン酸類、他のヒドロキシカルボン酸類、フォスフォン酸類を用いる場合も、クエン酸1水和物を用いる場合と同様である。
【0032】
(安定性向上剤を添加したリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液の保存安定性)
本発明に係る安定性向上剤を添加したリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液は、製造後12時間以上静置しても沈殿物を生成しないという、優れた保存安定性を有していた。その結果、当該溶液により被覆されたコバルト酸リチウム等のリチウム−金属酸化物を製造する際、ニオブ酸リチウムの被覆量を担保出来、制御が容易になった。そして、当該ニオブ酸リチウムで被覆されたコバルト酸リチウム等のリチウム−金属酸化物へ、前記沈殿物が混入する等の問題も回避することが出来た。更に、当該溶液を作製後、一定時間以内にコバルト酸リチウム等のリチウム−金属酸化物へ被覆する工程を開始する必要が緩和され、生産効率が向上した。
【0033】
(安定性向上剤を添加したリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液により表面が被覆された後に、焼成されたリチウム−金属酸化物)
クエン酸1水和物等を添加され安定化したリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液を、リチウムイオン電池用の活物質に被覆させた後、適切な熱処理をすることにより、添加剤中のC、N、S、P等の元素を含有する成分は分解して除去される。この結果、当該溶液を被覆されたリチウムイオン電池用の正極活物質を、リチウムイオン電池の正極材として使用した場合であっても、その電池特性に影響を与えることを回避することが出来る。
従って、本発明に係る安定性向上剤を添加したリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液により、表面が被覆された後に焼成されたリチウム−金属酸化物は、全固体リチウムイオン電池の正極活物質として好適であると考えられる。
【0034】
(安定性向上剤による保存安定性向上のメカニズム)
本発明者らは、クエン酸を初めとする安定性向上剤によるリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液の保存安定性向上のメカニズムについて、以下のように考察している。
まず、リチウムとニオブ錯体とを含む水溶液が不安定な理由は、ニオブ錯体のペルオキソ基が、加水分解によって分解され易いことにあると考えられる。具体的には、ニオブ錯体溶液中の過酸化水素濃度が高い場合は、加水分解によってペルオキソ基が外れたニオブの配位座へ、新たにペルオキソ基が補完されてニオブ錯体の安定性が維持される。しかし、過酸化水素の消耗に伴ってニオブ錯体の安定性が低下し、ニオブの水酸化物が生成することに想到したものである。
【0035】
ここで、
図2にニオブのペルオキソ錯体の模式的な構造式を示す。
そこで、当該水溶液へ、本発明に係る安定性向上剤を添加すると、安定性向上剤はニオブ原子へ1座もしくは2座以上で結合する。ここで、例えばニオブ原子にクエン酸が安定性向上剤として、1座で結合した場合の模式的な構造式を
図3に示し、ニオブ原子にクエン酸が安定性向上剤として、2座で結合した場合の模式的な構造式を
図4に示す。
この
図3、4に示すような、安定性向上剤が結合したニオブ原子を有するニオブ酸は安定化され、長期に安定化されるのであると考えられる。
【0036】
特に
図5に示すように、安定性向上剤がニオブ原子へ2座で結合した場合、何らかの原因で片方の結合原子が外れても、もう一方の結合が外れていないので完全な脱離はしない。そして、当該外れた結合が、再度結合し直すことが出来る。この結果、1座で結合する安定性向上剤より、2座で結合する安定性向上剤のほうが保存安定性向上効果は高いと考えられる。
安定性向上剤の配合量に最適域があるのは、過少量の場合はニオブ原子の配位数4に対して、結合する安定性向上剤が不足する為であり、過大量の場合は、安定性向上剤が1座で結合するニオブ原子の存在が、2座で結合するニオブ原子の存在より多くなる為であると考えられる。
さらに、安定性向上剤の添加により、同時にリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液のpH値が低下することも、当該溶液の保存安定性向上に影響していると考えられる。
【0037】
(まとめ)
以上、説明したように、本発明に係るリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液は、保存安定性に優れ、ニオブ酸リチウムで被覆されたコバルト酸リチウム等のリチウム−金属酸化物を製造する際、ニオブ酸リチウムの被覆量を担保出来、制御が容易になった。そして、リチウムイオン電池の製造において、本発明に係るリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液を用いることで、製造工程の安定化と生産性の向上とを図ることが可能となった。この結果、良好な特性を有するリチウムイオン電池を、高い生産性をもって製造することが可能になった。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を参照しながら、本発明に係るリチウムとニオブ錯体とを含有する溶液と、その製造方法について説明する。
【0039】
(実施例1)
純水33.5gに、濃度30質量%の過酸化水素水20.0gを添加した過酸化水素水溶液を準備した。この過酸化水素水溶液へ、ニオブ酸(Nb
2O
5・5.5H
2O(Nb
2O
5含有率72.6%))2.01gを添加した。ニオブ酸の添加後、ニオブ酸を添加した液を液温が20℃〜30℃の範囲内となるように温度調整した。このニオブ酸を添加した液に、濃度28質量%のアンモニア水3.3gを添加し、十分に攪拌して透明溶液を得た。
窒素ガス雰囲気中で、得られた透明溶液に水酸化リチウム・1水和物(LiOH・H
2O)0.46gを入れ、リチウムと、ニオブのペルオキソ錯体とを含有する透明な水溶液を得た。
得られたリチウムと、ニオブのペルオキソ錯体とを含有する水溶液を攪拌しながら、クエン酸1水和物を0.0059g(0.01wt%)添加した。
その後、クエン酸1水和物を添加したリチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液を25℃の温度で静置し、所定時間(6時間〜168時間)静置した後、沈殿物の生成有無を目視で確認した。沈殿物が生成している場合には沈殿物が分散する程度に液を攪拌した後、孔径0.5μmのメンブレンフィルターでろ過した。このメンブレンフィルターを純水洗浄した後、100℃で3時間乾燥し、質量を測定した。この質量を質量Aとし、ろ過前のメンブレンフィルターの質量を質量Bとして、下記(式1)により、生成した沈殿物の質量を算出した。
沈殿物の生成量=(質量A)−(質量B)・・・・・・・(式1)
沈殿物を生成が目視で確認された場合は、前記リチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液が白濁していた。なお、沈殿物の生成が目視で確認できない場合には、沈殿物の生成量は無し(−)とした。
当該測定結果を表1に示す。
【0040】
(実施例2)
得られたリチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液への、クエン酸1水和物添加量を0.47g(0.8wt%)とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。すると、72時間後に0.021gの沈殿物生成を測定した。
当該測定結果を表1に示す。
【0041】
(実施例3)
得られたリチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液への、クエン酸1水和物添加量を1.78g(3wt%)とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。すると、168時間後でも沈殿物の生成は見られなかった。
当該測定結果を表1に示す。
【0042】
(実施例4)
得られたリチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液への、クエン酸1水和物添加量を2.96g(5wt%)とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。すると、168時間後でも沈殿物の生成は見られなかった。
当該測定結果を表1に示す。
【0043】
(実施例5)
クエン酸1水和物をリンゴ酸へ代替し、得られたリチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液への添加量を1.78g(3wt%)とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。すると、72時間後に0.065gの沈殿物生成を測定した。
当該測定結果を表1に示す。
【0044】
(実施例6)
クエン酸1水和物をシュウ酸へ代替し、得られたリチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液への添加量を1.78g(3wt%)とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。すると、72時間後に0.125gの沈殿物生成を測定した。
当該測定結果を表1に示す。
【0045】
(実施例7)
クエン酸1水和物をEDTMPAへ代替し、得られたリチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液への添加量を1.78g(3wt%)とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。すると、168時間後でも沈殿物の生成は見られなかった。
当該測定結果を表1に示す。
【0046】
(実施例8)
クエン酸1水和物をEDTA・2Hへ代替し、得られたリチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液への添加量を1.78g(3wt%)とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。すると、168時間後に0.025gの沈殿物生成を測定した。
当該測定結果を表1に示す。
【0047】
(比較例1)
純水33.5gに、濃度30質量%の過酸化水素水20.0gを添加した過酸化水素水溶液を準備した。この過酸化水素水溶液へ、ニオブ酸(Nb
2O
5・5.5H
2O(Nb
2O
5含有率72.6%))2.01gを添加した。ニオブ酸の添加後、ニオブ酸を添加した液を液温が20℃〜30℃の範囲内となるように温度調整した。このニオブ酸を添加した液に、濃度28質量%のアンモニア水3.3gを添加し、十分に攪拌して透明溶液を得た。
得られた透明溶液へ、窒素ガス雰囲気中で水酸化リチウム・1水和物(LiOH・H
2O)0.46gを入れ、透明なリチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液を得た。
その後、当該リチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液を25℃の温度で静置し、所定時間(6時間〜168時間)における沈殿物の生成量を測定した。すると、12時間後に0.031gの沈殿物生成を測定した。
当該測定結果を表1に示す。
【0048】
(比較例2)
濃度30質量%の過酸化水素水44.4gへ、ニオブ酸(Nb
2O
5・5.5H
2O(Nb
2O
5含有率72.6%))2.01gと、濃度28質量%のアンモニア水4.5gとを添加した。得られた液を液温が30℃となるように液温調整し、ニオブ酸が溶解して液が透明になるまで液を攪拌した。
この攪拌操作中、液が発泡した際には液温を一旦20℃まで下げる操作をおこなった。
この攪拌操作後、得られた透明の溶液に水酸化リチウム・1水和物(LiOH・H
2O)0.525gを添加して溶解させることにより、透明なリチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液を得た。
その後、当該リチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液を25℃の温度で静置し、所定時間(6時間〜168時間)における沈殿物の生成量を測定した。すると、6時間後に0.022gの沈殿物生成を測定した。
当該測定結果を表1に示す。
【0049】
(比較例3)
最初に準備する純水の量を40gから30gに変更し、濃度30質量%の過酸化水素水の添加量を40gから45gに変更し、濃度28質量%のアンモニア水の添加量を1.13gから2.53gに変更した以外は、実施例1と同様にして、リチウムとニオブ錯体とを含有する透明溶液を得た。
得られたリチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液に安定性向上剤を添加することなく、25℃の温度で静置し、所定時間(6時間〜168時間)における沈殿物の生成量を測定した。すると、6時間後に0.002gの沈殿物生成を測定した。
当該測定結果を表1に示す。
【0050】
(比較例4)
最初に準備する純水の量を40gから33gに変更し、濃度30質量%の過酸化水素水の添加量を40gから35gに変更し、濃度28質量%のアンモニア水の添加量を1.13gから4.49gに変更した以外は、実施例1と同様にして、リチウムとニオブ錯体とを含有する透明溶液を得た。
得られたリチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液に安定性向上剤を添加することなく、25℃の温度で静置し、所定時間(6時間〜168時間)における沈殿物の生成量を測定した。すると、6時間後に0.050gの沈殿物生成を測定した。
当該測定結果を表1に示す。
【0051】
(実施例9)
クエン酸1水和物をギ酸へ代替し、得られたリチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液への添加量を1.78g(3wt%)とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。すると、12時間後に0.002gの沈殿物生成を測定した。
当該測定結果を表1に示す。
【0052】
(実施例10)
クエン酸1水和物を酢酸へ代替し、得られたリチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液への添加量を1.78g(3wt%)とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。すると、12時間後に0.008gの沈殿物生成を測定した。
当該測定結果を表1に示す。
【0053】
(保存安定性の評価)
表1の結果から、リチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液へ、ニオブ原子へ2座で結合する安定性向上剤を添加した実施例1〜8においては、最速でも24時間後に0.005gの沈殿物生成が測定されたのみで、168時間後において沈殿物生成が測定されないものもあった。
一方、リチウムとニオブ錯体とを含有する水溶液へ、ニオブ原子にへ1座で結合する安定性向上剤を添加した実施例9、10においては、最速でも12時間後において0.008gの沈殿物生成が測定された。
これに対し安定性向上剤を添加しない比較例1〜4においては、最速で6時間後に0.050gの沈殿物生成が測定され、12時間後においては全てで沈殿物生成が測定された。
【0054】
【表1】