(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【0004】
図20は、上記文献に記載された「後進用に1つの変速段を有する7速M/T」の一例である。
図20に示す7速M/Tでは、入力軸A1には、エンジンE/Gに近い側から順に、1速用の駆動ギヤG1i、3速用の駆動ギヤG3i、2速用の駆動ギヤG2i、「4速用及び5速用の駆動ギヤを兼用する第1兼用駆動ギヤG45i」、並びに、「6速用及び7速用の駆動ギヤを兼用する第2兼用駆動ギヤG67i」が相対回転不能に配置されている。第1中間軸A2には、E/Gに近い側から順に、第1最終駆動ギヤGfi1が相対回転不能に、「G1i、G2i、G45i、G67iとそれぞれ常時歯合する1速用、2速用、5速用、6速用の被動ギヤG1o、G2o、G5o、G6o」が相対回転可能に配置されている。第2中間軸A3には、E/Gに近い側から順に、第2最終駆動ギヤGfi2が相対回転不能に、「G3i、G45iとそれぞれ常時歯合する3速用、4速用の被動ギヤG3o、G4o」が相対回転可能に、後進用の第2被動ギヤGRo2が相対回転不能に、「G67iと常時歯合する7速用の被動ギヤG7o」が相対回転可能に配置されている。出力軸A4には、「Gfi1及びGfi2と常時歯合する最終被動ギヤGfo」が相対回転不能に配置されている。アイドル軸A5には、E/Gに近い側から順に、「G1iと常時歯合する後進用の駆動ギヤGRi」が相対回転不能に、「後進用の第2被動ギヤGRo2と常時歯合する後進用の第1被動ギヤGRo1」が相対回転可能に配置されている。
【0005】
図20に示す7速M/Tでは、「A2に相対回転不能且つ軸方向に移動可能に配置されたスリーブS1」をG1o(G2o)と係合させることによって、1速(2速)用の動力伝達系統(A1→G1i(G2i)→G1o(G2o)→S1→A2→Gfi1→Gfo→A4)が実現される。「A2に相対回転不能且つ軸方向に移動可能に配置されたスリーブS2」をG5o(G6o)と係合させることによって、5速(6速)用の動力伝達系統(A1→G45i(G67i)→G5o(G6o)→S2→A2→Gfi1→Gfo→A4)が実現される。「A3に相対回転不能且つ軸方向に移動可能に配置されたスリーブS3」をG3o(G4o)と係合させることによって、3速(4速)用の動力伝達系統(A1→G3i(G45i)→G3o(G4o)→S3→A3→Gfi2→Gfo→A4)が実現される。「A3に相対回転不能且つ軸方向に移動可能に配置されたスリーブS4」をG7oと係合させることによって、7速用の動力伝達系統(A1→G67i→G7o→S4→A3→Gfi2→Gfo→A4)が実現される。「A5に相対回転不能且つ軸方向に移動可能に配置されたスリーブS5」をGRo1と係合させることによって、後進用の動力伝達系統(A1→G1i→GRi→A5→S5→GRo1→GRo2→A3→Gfi2→Gfo→A4)が実現される。
【0006】
上述のように、
図20に示す7速M/Tでは、入力軸において、2つの「兼用駆動ギヤ」が設けられている。「兼用駆動ギヤ」とは、2つの変速段用の駆動ギヤを兼用する単一の駆動ギヤを指す。これにより、上述した「入力軸、第1、第2中間軸、出力軸、及び、アイドル軸を備えたタイプ」の「後進用に1つの変速段を有する7速M/T」のうちで軸方向の全長が短いものが得られる。
【0007】
一般に、エンジンが車両の前側に配置された前輪駆動車両(所謂、FF車両)では、通常、エンジン(の出力軸)が車両に対して横向きに配置される。M/Tの入力軸は、クラッチを介してエンジンの出力軸と同軸的に接続される。このため、M/Tは、M/Tの軸が車両に対して横向きになるようにクラッチを介してエンジンの横に配置される。即ち、エンジン・クラッチ・M/Tのアッセンブリは、車両のエンジンルーム内において比較的狭い左右のサイドフレーム間に横向きに配置される。従って、M/Tの軸方向の全長を短縮する要求度合いが非常に高い。以上より、
図20に示す7速M/Tは、FF車両に適しているといえる。
【0008】
ところで、
図20に示す7速M/Tでは、後進用の変速段を達成するため、アイドル軸を必須としている。これに対し、「後進用に1つの変速段を有する7速M/T」であって、アイドル軸なしで
図20に示す7速M/Tと同等程度に軸方向の全長が短いものを提供することが望まれているところである。更には、1速(最低速の変速段)の減速比と7速(最高速の変速段)の減速比との差(比)の増大化(所謂、減速比のワイドレンジ化)を達成することも望まれているところである。
【0009】
以上、本発明の目的は、上述したように入力軸、出力軸、及び第1、第2中間軸を備え且つアイドル軸を備えない「後進用に1つの変速段を有する7速M/T」であって、M/Tの全長が短く、且つ、減速比のワイドレンジ化を達成できるものを提供することにある。
【0010】
本発明に係る車両用手動変速機は、上述した入力軸、出力軸、及び第1、第2中間軸を備え且つアイドル軸を備えない「後進用に1つの変速段を有する7速M/T」である。本発明に係る車両用手動変速機の特徴は、
(1)「2速用及び3速用の駆動ギヤを兼用する駆動ギヤ」と、「5速用及び7速用の駆動ギヤを兼用する駆動ギヤ」の2つ「兼用駆動ギヤ」が入力軸に配置されている点、
(2−1)第1中間軸には、入力軸の軸線方向の一方側から順に、第1最終駆動ギヤ、1速用の被動ギヤ、2速用の被動ギヤ、2速用の被動ギヤと一体回転する後進用の駆動ギヤ、6速用の被動ギヤ、及び、5速用の被動ギヤが配置され、第2中間軸には、入力軸の軸線方向の一方側から順に、第2最終駆動ギヤ、4速用の被動ギヤ、3速用の被動ギヤ、後進用の被動ギヤ、及び、7速用の被動ギヤが配置されている点、或いは、
(2−2)第1中間軸には、入力軸の軸線方向の一方側から順に、第1最終駆動ギヤ、5速用の被動ギヤ、6速用の被動ギヤ、2速用の被動ギヤと一体回転する後進用の駆動ギヤ、2速用の被動ギヤ、及び、1速用の被動ギヤが配置され、第2中間軸には、入力軸の軸線方向の一方側から順に、第2最終駆動ギヤ、7速用の被動ギヤ、後進用の被動ギヤ、3速用の被動ギヤ、及び、4速用の被動ギヤが配置されている点、
にある。
【0011】
なお、駆動ギヤを兼用する2速及び3速、並びに、5速及び7速について、2速時の入力軸に対する出力軸の減速比を3速時のそれより大きくし、且つ、5速時の入力軸に対する出力軸の減速比を7速時のそれより大きくするための構成として、以下の3つのパターンが存在する。
(パターン1)
2速用の被動ギヤの歯数が3速用の被動ギヤの歯数より大きく、且つ、5速用の被動ギヤの歯数が7速用の被動ギヤの歯数より大きく、且つ、第1最終駆動ギヤの歯数が第2最終駆動ギヤの歯数と等しい。入力軸と第1中間軸との間の距離が入力軸と第2中間軸との間の距離より大きい。
(パターン2)
2速用の被動ギヤの歯数が3速用の被動ギヤの歯数と等しく、且つ、5速用の被動ギヤの歯数が7速用の被動ギヤの歯数と等しく、且つ、第1最終駆動ギヤの歯数が第2最終駆動ギヤの歯数より小さい。入力軸と第1中間軸との間の距離が入力軸と第2中間軸との間の距離と等しい。
(パターン3)
2速用の被動ギヤの歯数が3速用の被動ギヤの歯数より大きく、且つ、5速用の被動ギヤの歯数が7速用の被動ギヤの歯数より大きく、且つ、第1最終駆動ギヤの歯数が第2最終駆動ギヤの歯数より小さい。入力軸と第1中間軸との間の距離が入力軸と第2中間軸との間の距離より大きい。
【0012】
上記(1)、(2−1)の特徴、或いは、上記(1)、(2−2)の特徴を採用することによって、
図20に示す7速M/Tと比べて「入力軸に配置されたギヤの枚数」が同じになるように「後進用に1つの変速段を有する7速M/T」をアイドル軸なしで構成することができる(
図1等を参照。詳細は後述)。この結果、
図20に示す7速M/Tと同等の短い全長を有する「後進用に1つの変速段を有する7速M/T」が、アイドル軸なしで提供され得る。
【0013】
更には、全長の更なる短縮化等のため3つの「兼用駆動ギヤ」が入力軸に設けられる構成も考えられるところ、この構成と比べて、「減速比のワイドレンジ化」を達成することができる。これは、「兼用駆動ギヤ」を使用する枚数が多いほど、「1速〜7速の減速比に関する設計の自由度」が低下することに基づく。以上より、入力軸、出力軸、及び第1、第2中間軸を備え且つアイドル軸を備えない「後進用に1つの変速段を有する7速M/T」であって、M/Tの全長が短く、且つ、減速比のワイドレンジ化を達成できるものが提供され得る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る車両用手動変速機について図面を参照しつつ説明する。本発明の実施形態に係る手動変速機M/Tは、前進用に7つ変速段(1速〜7速)、後進用に1つの変速段(リバース)を備えていて、特に、エンジン(の出力軸)が車両に対して横向きに配置されたFF車両に適用される。
【0016】
(構成)
図1に示すように、本発明の実施形態に係るM/Tは、入力軸A1、第1中間軸A2、第2中間軸A3、及び、出力軸A4の4本の軸を備え、アイドル軸を備えない。これら4本の軸が、互いに偏心し且つ平行となるように、ハウジングに固設された複数のベアリング(或いは、ブッシュ)等により回転可能にそれぞれ支持されている。入力軸A1は、クラッチを介してエンジンE/Gの出力軸と接続されている。出力軸A4は、差動歯車機構(ディファレンシャル)D/F、及び、図示しない接続機構を介して駆動輪(前2輪)と接続されている。このM/Tは、M/Tの軸が車両に対して横向きになるようにクラッチを介してエンジンE/Gの横に配置される。
【0017】
入力軸A1には、エンジンE/G(クラッチ)に近い側から順に、1速の駆動ギヤG1i、4速の駆動ギヤG4i、2速及び3速の駆動ギヤを兼用する駆動ギヤG23i、6速の駆動ギヤG6i、5速及び7速の駆動ギヤを兼用する駆動ギヤG57iが同軸的且つ相対回転不能にそれぞれ固定されている。
【0018】
第1中間軸A2には、エンジンE/Gに近い側から順に、1速の被動ギヤG1o、2速の被動ギヤG2o、2速用の被動ギヤG2oと一体回転する後進用の駆動ギヤGRi、6速の被動ギヤG6o、及び5速の被動ギヤG5oが、同軸的且つ相対回転可能にそれぞれ配置されている。被動ギヤG1o、G2o、G6o、及びG5oはそれぞれ、駆動ギヤG1i、G23i、G6i、及びG57iと常時歯合している。また、第1中間軸A2には、G1oよりエンジンE/Gに近い側にて、第1最終駆動ギヤGfi1が同軸的且つ相対回転不能に固定されている。
【0019】
第2中間軸A3には、エンジンE/Gに近い側から順に、4速の被動ギヤG4o、3速の被動ギヤG3o、後進用の被動ギヤGRo、及び、7速の被動ギヤG7oが同軸的且つ相対回転可能にそれぞれ配置されている。被動ギヤG4o、G3o、GRo、及びG7oはそれぞれ、駆動ギヤG4i、G23i、GRi、及びG57iと常時歯合している。また、第2中間軸A3には、G4oよりエンジンE/Gに近い側にて、第2最終駆動ギヤGf21が同軸的且つ相対回転不能に固定されている。
【0020】
出力軸A4(本例では、D/Fのハウジング(筐体)と一体回転する軸)には、周知の構成を有するD/Fのハウジング(筺体)と一体化された最終被動ギヤGfoが同軸的に配置されている。Gfoは、Gfi1、Gfi2とそれぞれ常時歯合している。
【0021】
ここで、駆動ギヤを兼用する2速及び3速、並びに、5速及び7速について、2速時の「入力軸A1に対する出力軸A4の減速比」を3速時のそれより大きくし、且つ、5速時の「入力軸A1に対する出力軸A4の減速比」を7速時のそれより大きくするためには、以下の3つのパターンが存在する。
(パターン1)
被動ギヤG2oの歯数が被動ギヤG3oの歯数より大きく、且つ、被動ギヤG5oの歯数が被動ギヤG7oの歯数より大きく、且つ、第1最終駆動ギヤGfi1の歯数が第2最終駆動ギヤGfi2の歯数と等しい。入力軸A1と第1中間軸A2との間の距離が入力軸A1と第2中間軸A3との間の距離より大きい。
(パターン2)
被動ギヤG2oの歯数が被動ギヤG3oの歯数と等しく、且つ、被動ギヤG5oの歯数が被動ギヤG7oの歯数と等しく、且つ、第1最終駆動ギヤGfi1の歯数が第2最終駆動ギヤGfi2の歯数より小さい。入力軸A1と第1中間軸A2との間の距離が入力軸A1と第2中間軸A3との間の距離と等しい。
(パターン3)
被動ギヤG2oの歯数が被動ギヤG3oの歯数より大きく、且つ、被動ギヤG5oの歯数が被動ギヤG7oの歯数より大きく、且つ、第1最終駆動ギヤGfi1の歯数が第2最終駆動ギヤGfi2の歯数より小さい。入力軸A1と第1中間軸A2との間の距離が入力軸A1と第2中間軸A3との間の距離より大きい。
【0022】
また、
図1に示すように、M/Tは、第1〜第4切替機構M1〜M4を備えている。M/Tの変速段の切り替えは、第1〜第4切替機構M1〜M4が作動することで達成される。第1〜第4切替機構M1〜M4は、図示しないシフトレバーと第1〜第4切替機構M1〜M4とを繋ぐ図示しない複数のリンク機構を介して、シフトレバーの操作に応じて操作される。
図2は、このM/Tに対して使用されるシフトレバーのシフトパターンの一例(所謂「H型」)を示す。
【0023】
第1切替機構M1は、1速の被動ギヤG1oと2速の被動ギヤG2oとの間において、第1中間軸A2に対して配置されている。M1は、第1中間軸A2と同軸的に一体回転する連結ピース11と、被動ギヤG1oと同軸的に一体回転する連結ピース12と、被動ギヤG2oと同軸的に一体回転する連結ピース13と、第1中間軸A2の軸線方向に同軸的に移動可能に配設されたスリーブS1とを備える。スリーブS1は、上述したリンク機構を介してシフトレバーの操作に応じて操作される。
【0024】
スリーブS1は、連結ピース11、12、13とスプライン嵌合可能となっている。スリーブS1が連結ピース11のみとスプライン嵌合する非接続状態(
図1に示す位置)にある場合、被動ギヤG1o、G2oが共に第1中間軸A2と相対回転可能となる。スリーブS1が連結ピース11及び12とスプライン嵌合する1速状態(
図1に示す位置から右へ移動した位置)にある場合、被動ギヤG2oが第1中間軸A2と相対回転可能である一方、被動ギヤG1oが第1中間軸A2と相対回転不能となる。スリーブS1が連結ピース11及び13とスプライン嵌合する2速状態(
図1に示す位置から左へ移動した位置)にある場合、被動ギヤG1oが第1中間軸A2と相対回転可能である一方、被動ギヤG2oが第1中間軸A2と相対回転不能となる。以上、第1切替機構M1では、シフトレバー操作により操作されるスリーブS1の位置に応じて、非接続状態、1速状態、及び2速状態のうちの1つが選択的に採用される。
【0025】
第2〜第4切替機構M2,M3,M4は、第1切替機構M1と類似の構成を有するので、これらの詳細な説明を省略する。第2切替機構M2は、5速の被動ギヤG5oと6速の被動ギヤG6oとの間において、第1中間軸A2に対して配置されている。第2切替機構M2は、連結ピース21、22、23、及びスリーブS2を備えていて、シフトレバー操作により操作されるスリーブS2の位置に応じて、非接続状態、5速状態、及び6速状態のうちの1つが選択的に採用される。
【0026】
第3切替機構M3は、3速の被動ギヤG3oと4速の被動ギヤG4oとの間において、第2中間軸A3に対して配置されている。第3切替機構M3は、連結ピース31、32、33、及びスリーブS3を備えていて、シフトレバー操作により操作されるスリーブS3の位置に応じて、非接続状態、3速状態、及び4速状態のうちの1つが選択的に採用される。
【0027】
第4切替機構M4は、7速の被動ギヤG7oとリバースの被動ギヤGRoとの間において、第2中間軸A3に対して配置されている。第4切替機構M4は、連結ピース41、42、43、及びスリーブS4を備えていて、シフトレバー操作により操作されるスリーブS4の位置に応じて、非接続状態、7速状態、及び後進状態のうちの1つが選択的に採用される。
【0028】
(作動)
次に、上記のように構成されたM/Tの作動について説明する。以下、M/Tの各変速段について順に説明していく。以下、「(Gfoの歯数)/(Gfi1の歯数)」を「第1最終減速比GTf1」と呼び、「(Gfoの歯数)/(Gfi2の歯数)」を「第2最終減速比GTf2」と呼ぶ。
【0029】
<1速>
シフトレバーが1速に対応する位置に操作されると、
図3に示すように、スリーブS1のみが1速状態とされ、その他のスリーブS2〜S4は非接続状態とされる。これにより、
図3に実線で示すように、M/T内において、(A1→G1i→G1o→12→S1→11→A2→Gfi1→Gfo→A4)という動力伝達系統が形成される。この結果、車両前進時において、M/Tの減速比(=出力軸A4の回転速度に対する入力軸A1の回転速度の割合)が1速の減速比GT1に設定される。GT1は、((G1oの歯数)/(G1iの歯数))・(第1最終減速比GTf1)で表わされる。
【0030】
<2速>
シフトレバーが2速に対応する位置に操作されると、
図4に示すように、スリーブS1のみが2速状態とされ、その他のスリーブS2〜S4は非接続状態とされる。これにより、
図4に実線で示すように、M/T内において、(A1→G23i→G2o→13→S1→11→A2→Gfi1→Gfo→A4)という動力伝達系統が形成される。この結果、車両前進時において、M/Tの減速比が2速の減速比GT2に設定される。GT2は、((G2oの歯数)/(G23iの歯数))・(第1最終減速比GTf1)で表わされる。GT1>GT2の関係が成立する。
【0031】
<3速>
シフトレバーが3速に対応する位置に操作されると、
図5に示すように、スリーブS3のみが3速状態とされ、その他のスリーブS1、S2、S4は非接続状態とされる。これにより、
図5に実線で示すように、M/T内において、(A1→G23i→G3o→32→S3→31→A3→Gfi2→Gfo→A4)という動力伝達系統が形成される。この結果、車両前進時において、M/Tの減速比が3速の減速比GT3に設定される。GT3は、((G3oの歯数)/(G23iの歯数))・(第2最終減速比GTf2)で表わされる。GT2>GT3の関係が成立する。
【0032】
<4速>
シフトレバーが4速に対応する位置に操作されると、
図6に示すように、スリーブS3のみが4速状態とされ、その他のスリーブS1、S2、S4は非接続状態とされる。これにより、
図6に実線で示すように、M/T内において、(A1→G4i→G4o→33→S3→31→A3→Gfi2→Gfo→A4)という動力伝達系統が形成される。この結果、車両前進時において、M/Tの減速比が4速の減速比GT4に設定される。GT4は、((G4oの歯数)/(G4iの歯数))・(第2最終減速比GTf2)で表わされる。GT3>GT4の関係が成立する。
【0033】
<5速>
シフトレバーが5速に対応する位置に操作されると、
図7に示すように、スリーブS2のみが5速状態とされ、その他のスリーブS1、S3、S4は非接続状態とされる。これにより、
図7に実線で示すように、M/T内において、(A1→G57i→G5o→22→S2→21→A2→Gfi1→Gfo→A4)という動力伝達系統が形成される。この結果、車両前進時において、M/Tの減速比が5速の減速比GT5に設定される。GT5は、((G5oの歯数)/(G57iの歯数))・(第1最終減速比GTf1)で表わされる。GT4>GT5の関係が成立する。
【0034】
<6速>
シフトレバーが6速に対応する位置に操作されると、
図8に示すように、スリーブS2のみが6速状態とされ、その他のスリーブS1、S3、S4は非接続状態とされる。これにより、
図8に実線で示すように、M/T内において、(A1→G6i→G6o→23→S2→21→A2→Gfi1→Gfo→A4)という動力伝達系統が形成される。この結果、車両前進時において、M/Tの減速比が6速の減速比GT6に設定される。GT6は、((G6oの歯数)/(G6iの歯数))・(第1最終減速比GTf1)で表わされる。GT5>GT6の関係が成立する。
【0035】
<7速>
シフトレバーが7速に対応する位置に操作されると、
図9に示すように、スリーブS4のみが7速状態とされ、その他のスリーブS1〜S3は非接続状態とされる。これにより、
図9に実線で示すように、M/T内において、(A1→G57i→G7o→42→S4→41→A3→Gfi2→Gfo→A4)という動力伝達系統が形成される。この結果、車両前進時において、M/Tの減速比が7速の減速比GT7に設定される。GT7は、((G7oの歯数)/(G57iの歯数))・(第2最終減速比GTf2)で表わされる。GT6>GT7の関係が成立する。
【0036】
<リバース>
シフトレバーがリバースに対応する位置に操作されると、
図10に示すように、スリーブS4のみがリバース状態とされ、その他のスリーブS1〜S3は非接続状態とされる。これにより、
図10に実線で示すように、M/T内において、(A1→G23i→G2o→GRi→GRo→43→S4→41→A3→Gfi2→Gfo→A4)という動力伝達系統が形成される。この結果、車両後進時において、M/Tの減速比がリバースの減速比GTRに設定される。GTRは、((G2oの歯数)/(G23iの歯数))・((GRoの歯数)/(GRiの歯数))・(第2最終減速比GTf2)で表わされる。
【0037】
(作用・効果)
次に、上記のように構成された本発明の実施形態に係る「後進用に1つの変速段を有する7速M/T」の作用・効果について説明する。
【0038】
このM/T(
図1を参照)では、入力軸A1において、2つの「兼用駆動ギヤ」G23i、G57iが設けられている。これにより、
図20に示す従来の7速M/Tと比べて「入力軸に配置されたギヤの枚数」が同じ5枚になるように、7速M/Tを構成することができる。この結果、
図20に示す従来の7速M/Tと同等の短い全長を有する「後進用に1つの変速段を有する7速M/T」が、アイドル軸なしで提供され得る。
【0039】
また、入力軸A1において、3つの「兼用駆動ギヤ」が設けられた7速M/Tの構成も考えられ得る。この構成と比べて、上記実施形態では、「減速比のワイドレンジ化」、即ち、1速(最低速の変速段)の減速比と7速(最高速の変速段)の減速比との差(比)の増大化を達成することができる。これは、「兼用駆動ギヤ」を使用する枚数が多いほど、「1速〜7速の減速比に関する設計の自由度」が低下することに基づく。
【0040】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、
図1に示す上記実施形態の変形例として、
図11に示す構成も考えられる。以下、
図11に示す構成について簡単に説明する。
【0041】
図11に示す「後進用に1つの変速段を有する7速M/T」も、上記実施形態と同様、入力軸A1、第1中間軸A2、第2中間軸A3、及び、出力軸A4の4本の軸を備え、アイドル軸を備えない。
【0042】
入力軸A1には、エンジンE/G(クラッチ)に近い側から順に、5速及び7速の駆動ギヤを兼用する駆動ギヤG57i、6速の駆動ギヤG6i、2速及び3速の駆動ギヤを兼用する駆動ギヤG23i、4速の駆動ギヤG4i、1速の駆動ギヤG1i、が同軸的且つ相対回転不能にそれぞれ固定されている。
【0043】
第1中間軸A2には、エンジンE/Gに近い側から順に、5速の被動ギヤG5o、6速の被動ギヤG6o、2速用の被動ギヤG2oと一体回転する後進用の駆動ギヤGRi、2速の被動ギヤG2o、及び1速の被動ギヤG1oが、同軸的且つ相対回転可能にそれぞれ配置されている。被動ギヤG5o、G6o、G2o、及びG1oはそれぞれ、駆動ギヤG57i、G6i、G23i、及びG1iと常時歯合している。また、第1中間軸A2には、G5oよりエンジンE/Gに近い側にて、第1最終駆動ギヤGfi1が同軸的且つ相対回転不能に固定されている。
【0044】
第2中間軸A3には、エンジンE/Gに近い側から順に、7速の被動ギヤG7o、後進用の被動ギヤGRo、3速用の被動ギヤG3o、及び、4速の被動ギヤG4oが同軸的且つ相対回転可能にそれぞれ配置されている。被動ギヤG7o、GRo、G3o、及びG4oはそれぞれ、駆動ギヤG57i、GRi、G23i、及びG4iと常時歯合している。また、第2中間軸A3には、G7oよりエンジンE/Gに近い側にて、第2最終駆動ギヤGf21が同軸的且つ相対回転不能に固定されている。
【0045】
出力軸A4(本例では、D/Fのハウジング(筐体)と一体回転する軸)には、周知の構成を有するD/Fのハウジング(筺体)と一体化された最終被動ギヤGfoが同軸的に配置されている。Gfoは、Gfi1、Gfi2とそれぞれ常時歯合している。上記実施形態と同様、2速時の「入力軸A1に対する出力軸A4の減速比」を3速時のそれより大きくし、且つ、5速時の「入力軸A1に対する出力軸A4の減速比」を7速時のそれより大きくするために、上述と同じ3つのパターン(パターン1〜パターン3)が存在する。
【0046】
また、
図11に構成は、上記実施形態と同様、第1〜第4切替機構M1〜M4を備えている。これらの第1〜第4切替機構M1〜M4の構成、及び作動は、上記実施形態におけるものと同じであるので、ここでは、これらの詳細な説明は省略する。
【0047】
図11に示す構成においても、入力軸A1において、2つの「兼用駆動ギヤ」G23i、G57iが設けられている。この結果、上記実施形態と同様、
図20に示す従来の7速M/Tと同等の短い全長を有する「後進用に1つの変速段を有する7速M/T」が、アイドル軸なしで提供され得る。加えて、入力軸A1において3つの「兼用駆動ギヤ」が設けられた7速M/Tの構成と比べて、
図11に示す構成では、上記実施形態と同様、「減速比のワイドレンジ化」を達成することができる。
【0048】
なお、
図1に示した上記実施形態、及び、
図11に示した変形例では、出力軸A4に、ディファレンシャルD/Fのハウジング(筺体)と一体化された最終被動ギヤGfoが同軸的に配置されているが、出力軸A4に、ディファレンシャルD/Fのハウジング(筺体)と一体化されていない最終被動ギヤGfoそのものが同軸的に直接固定されていてもよい。