特許第6205263号(P6205263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205263
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】溶接電極管理装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20170914BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20170914BHJP
   B23K 9/167 20060101ALI20170914BHJP
   B23K 9/24 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   B23K31/00 N
   B23K9/12 331J
   B23K9/12 331S
   B23K9/167 A
   B23K9/24
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-264950(P2013-264950)
(22)【出願日】2013年12月24日
(65)【公開番号】特開2015-120181(P2015-120181A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100121223
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 悟道
(72)【発明者】
【氏名】吉武 和志
【審査官】 篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−172610(JP,A)
【文献】 特開2000−176641(JP,A)
【文献】 特開2014−113607(JP,A)
【文献】 特開2002−248574(JP,A)
【文献】 特開昭58−086976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00
B23K 9/12
B23K 9/167
B23K 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非消耗電極を複数の接触方法によって母材と接触させてリフトスタートを行う溶接ロボットにおいて、いずれの接触方法による接触が行われたかを判断する接触判断部と、
前記接触判断部による判断結果に応じて、接触方法に応じた接触回数を更新する接触回数更新部と、
非消耗電極の交換の判断のために用いられる閾値が記憶される閾値記憶部と、
前記接触回数更新部による更新結果を用いることによって、接触方法ごとに重み付けをして加算した接触回数である合計接触回数が前記閾値を超えている場合に、非消耗電極を交換すると判断する交換判断部と、
前記交換判断部が非消耗電極を交換すると判断した場合に、その旨を出力する出力部と、を備えた溶接電極管理装置。
【請求項2】
前記接触回数更新部は、前記接触判断部による判断結果に応じて前記合計接触回数を更新し、
前記交換判断部は、前記接触回数更新部によって更新された合計接触回数を用いて前記判断を行う、請求項1記載の溶接電極管理装置。
【請求項3】
前記接触回数更新部は、接触方法ごとに接触回数を更新し、
前記交換判断部は、前記接触回数更新部によって更新された接触方法ごとの接触回数を用いて前記合計接触回数を算出し、当該算出した合計接触回数を用いて前記判断を行う、請求項1記載の溶接電極管理装置。
【請求項4】
前記複数の接触方法は、非消耗電極を母材に面直な方向に接触させる方法、及び非消耗電極のテーパ部を母材に接触させる方法であり、
前記合計接触回数の算出において、非消耗電極を母材に面直な方向に接触させる方法の重みの方が、非消耗電極のテーパ部を母材に接触させる方法の重みよりも大きい、請求項1から請求項3のいずれか記載の溶接電極管理装置。
【請求項5】
前記接触判断部は、非消耗電極のテーパ部が母材に接触される場合に、当該テーパ部のいずれの領域による接触が行われたかをも判断し、
前記接触回数更新部は、前記テーパ部の領域ごとに、接触方法に応じた接触回数を更新し、
前記交換判断部は、前記テーパ部のいずれかの領域に対応する合計接触回数が前記閾値を超えている場合に、非消耗電極を交換すると判断する、請求項4記載の溶接電極管理装置。
【請求項6】
非消耗電極の母材への接触時の溶接に関するパラメータを取得する取得部をさらに備え、
前記接触回数更新部は、前記取得部によって取得されたパラメータに応じて、接触方法に応じた接触回数を更新する、請求項1から請求項5のいずれか記載の溶接電極管理装置。
【請求項7】
前記パラメータは、溶接電流、及び非消耗電極の母材に対する速度の少なくとも一方である、請求項6記載の溶接電極管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非消耗電極の交換に関する情報を出力する溶接電極管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接トーチをワーク(母材)にタッチさせ、引き離し時にアークを発生させるリフトスタート方式(タッチスタート方式)のTIG溶接において、非消耗電極の先端とワークとの間に微小電流を印加し、その電流によって電極先端がワークに接触したことを検出した後、通常電流で非消耗電極を引き離すことによってアーク起動を行う技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、アーク溶接時のアーク溶接時間、アークスタート回数、ワイヤ消費量を積算して、交換時期の目安となる基準量と比較し、積算値が基準量を超えた場合に給電チップ等のアーク溶接の消耗部品について交換時期を通知する技術も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−176641号公報
【特許文献2】特開2009−172610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法によって、スタート電流導通時の発熱による電極の変形を抑えることはできるが、タッチ時の接触による電極の変形を抑えることはできないため、定期的に非消耗電極を交換する必要がある。なお、その交換寿命を延ばすため、タッチ時の非消耗電極の消耗を低減する方法も考えられている。非消耗電極をワークに面直な方向に接触させる通常の方法では、非消耗電極の変形の程度が大きくなる。そこで、非消耗電極を傾け、テーパ部でワークにタッチすることによって、電極先端の変形を抑えることができるリフトスタート方式も考えられている。
【0006】
また、特許文献2に記載の方法と同様の方法を用いることによって、TIG溶接における非消耗電極の交換時期の通知も行うことができると考えられる。しかしながら、上述のように、非消耗電極をワークに面直な方向に接触させる方法や、非消耗電極のテーパ部をワークに接触させる方法の両方を用いた場合には、非消耗電極の適切な交換時期の通知が困難であるという問題があった。例えば、非消耗電極とワークとの接触回数を単にカウントし、基準量と比較するだけであれば、面直での接触が多かった場合には、交換基準を上回る変形が非消耗電極に生じているにも関わらず非消耗電極が交換されないことが起こり得る。また、テーパでの接触が多かった場合には、まだ使用できる非消耗電極を交換してしまうことが起こり得る。
一般的に言えば、非消耗電極を複数の接触方法によってワークと接触させてリフトスタートを行う溶接ロボットにおいて、その非消耗電極の適切な交換タイミングを通知できないという問題があった。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、非消耗電極を複数の接触方法によってワークと接触させてリフトスタートを行う溶接ロボットにおける非消耗電極の交換タイミングを適切に通知することができる溶接電極管理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明による溶接電極管理装置は、非消耗電極を複数の接触方法によって母材と接触させてリフトスタートを行う溶接ロボットにおいて、いずれの接触方法による接触が行われたかを判断する接触判断部と、接触判断部による判断結果に応じて、接触方法に応じた接触回数を更新する接触回数更新部と、非消耗電極の交換の判断のために用いられる閾値が記憶される閾値記憶部と、接触回数更新部による更新結果を用いることによって、接触方法ごとに重み付けをして加算した接触回数である合計接触回数が閾値を超えている場合に、非消耗電極を交換すると判断する交換判断部と、交換判断部が非消耗電極を交換すると判断した場合に、その旨を出力する出力部と、を備えたものである。
このような構成により、複数の接触方法による非消耗電極と母材との接触が行われる場合であっても、非消耗電極の消耗の程度を適切に把握することができ、非消耗電極の交換時期を適切に通知することができるようになる。
【0009】
また、本発明による溶接電極管理装置では、接触回数更新部は、接触判断部による判断結果に応じて合計接触回数を更新し、交換判断部は、接触回数更新部によって更新された合計接触回数を用いて判断を行ってもよい。
このような構成により、非消耗電極と母材との接触が行われるごとに、その接触方法に応じて合計接触回数が更新されるため、接触方法ごとの接触回数を必ずしも管理する必要がなく、記憶する情報量を低減させることができ得る。
【0010】
また、本発明による溶接電極管理装置では、接触回数更新部は、接触方法ごとに接触回数を更新し、交換判断部は、接触回数更新部によって更新された接触方法ごとの接触回数を用いて合計接触回数を算出し、算出した合計接触回数を用いて判断を行ってもよい。
このような構成により、接触方法ごとの接触回数も記憶されるため、例えば、各接触方法の接触回数も知ることができるようになる。
【0011】
また、本発明による溶接電極管理装置では、複数の接触方法は、非消耗電極を母材に面直な方向に接触させる方法、及び非消耗電極のテーパ部を母材に接触させる方法であり、合計接触回数の算出において、非消耗電極を母材に面直な方向に接触させる方法の重みの方が、非消耗電極のテーパ部を母材に接触させる方法の重みよりも大きくてもよい。
このような構成により、非消耗電極を母材に面直な方向に接触させる接触方法と、非消耗電極のテーパ部を母材に接触させる接触方法との両方を用いたリフトスタート方式の溶接において、非消耗電極の適切な交換時期を知ることができるようになる。
【0012】
また、本発明による溶接電極管理装置では、接触判断部は、非消耗電極のテーパ部が母材に接触される場合に、テーパ部のいずれの領域による接触が行われたかをも判断し、接触回数更新部は、テーパ部の領域ごとに、接触方法に応じた接触回数を更新し、交換判断部は、テーパ部のいずれかの領域に対応する合計接触回数が閾値を超えている場合に、非消耗電極を交換すると判断してもよい。
このような構成により、非消耗電極の交換タイミングをより厳密に判断することができるようになり、例えば、まだ使用できる非消耗電極を交換するような事態を回避することができる。
【0013】
また、本発明による溶接電極管理装置では、非消耗電極の母材への接触時の溶接に関するパラメータを取得する取得部をさらに備え、接触回数更新部は、取得部によって取得されたパラメータに応じて、接触方法に応じた接触回数を更新してもよい。
このような構成により、溶接に関するパラメータをも用いて、より厳密に合計接触回数を算出することができるようになる。
また、本発明による溶接電極管理装置では、パラメータは、溶接電流、及び非消耗電極の母材に対する速度の少なくとも一方であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明による溶接電極管理装置によれば、複数の接触方法による非消耗電極と母材との接触が行われる場合であっても、非消耗電極の交換時期を適切に通知することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態1による溶接電極管理装置を有する溶接ロボットシステムの構成を示す図
図2A】同実施の形態における母材に面直な方向での非消耗電極の接触について説明するための図
図2B】同実施の形態における非消耗電極のテーパ部の母材への接触について説明するための図
図3】同実施の形態による溶接電極管理装置を有する制御装置の動作を示すフローチャート
図4】同実施の形態における非消耗電極の複数の領域について説明するための図
図5】同実施の形態による溶接電極管理装置の構成の他の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明による溶接電極管理装置について、実施の形態を用いて説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素及びステップは同一または相当するものであり、再度の説明を省略することがある。
【0017】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1による溶接電極管理装置について、図面を参照しながら説明する。本実施の形態による溶接電極管理装置は、非消耗電極の適切な交換時期を通知することができるものである。
【0018】
図1は、本実施の形態による溶接ロボットシステムの構成を示すブロック図である。本実施の形態による溶接ロボットシステムは、非消耗電極を用いたリフトスタートを行う溶接ロボットシステムであって、制御装置1と、マニピュレータ3と、溶接電源装置4と、ティーチングペンダント5とを備える。なお、非消耗電極を用いたリフトスタートを行う溶接は、例えばTIG(Tungsten Inert Gas)溶接であってもよい。
【0019】
制御装置1は、通信部11と、教示情報記憶部12と、制御部13と、溶接電極管理装置2とを備える。
通信部11は、制御部13からの指示に応じて、溶接開始、溶接終了、フィラワイヤの送給開始、送給終了などの指示を溶接電源装置4に送信する。また、通信部11は、溶接ロボットにおいて取得されるデータを受信してもよい。その溶接ロボットにおいて取得されるデータは、例えば、溶接トーチ3aと母材8との間の電圧などであってもよい。なお、通信部11は、通信を行うための有線または無線の通信デバイス(例えば、モデムやネットワークカードなど)を含んでもよく、あるいは含まなくてもよい。
【0020】
教示情報記憶部12では、教示情報が記憶される。その教示情報は、例えば、マニピュレータ3の各駆動モータの位置を示す情報や、溶接の開始や終了、出力電圧、フィラワイヤの送給に関する情報などであってもよい。教示情報記憶部12は、所定の記録媒体(例えば、半導体メモリや磁気ディスク、光ディスクなど)によって実現されうる。
【0021】
制御部13は、教示情報記憶部12で記憶されている教示情報や、ティーチングペンダント5から入力される操作信号、マニピュレータ3のエンコーダから受け取る駆動モータの現在位置等に応じて、マニピュレータ3の各駆動モータの位置を制御する。その制御によって、溶接トーチ3aが所望の位置に移動されることになる。なお、その制御の際に、制御部13は、サーボコントローラを介してマニピュレータ3を制御してもよい。そのマニピュレータ3の制御は、位置指令値をサーボコントローラに出力することによって行われてもよい。また、制御部13は、教示情報記憶部12で記憶されている教示情報に応じて、通信部11を介して、溶接電源装置4による溶接の開始や終了、出力電圧、フィラワイヤの送給の開始や終了等を制御する。その溶接に関する制御は、溶接条件に応じた電流指令値等を溶接電源装置4に出力することによって行われてもよい。
【0022】
溶接電極管理装置2は、接触判断部21と、接触回数更新部22と、記憶部23と、閾値記憶部24と、交換判断部25と、出力部26とを備える。
接触判断部21は、非消耗電極を複数の接触方法によって母材8と接触させてリフトスタートを行う溶接ロボットにおいて、いずれの接触方法による接触が行われたかを判断する。その複数の接触方法は、非消耗電極を母材8に面直な方向に接触させる方法(以下、「面直接触方法」と呼ぶこともある)と、非消耗電極のテーパ部を母材8に接触させる方法(以下、「テーパ接触方法」と呼ぶこともある)とであってもよい。本実施の形態では、複数の接触方法がその2個の方法である場合について主に説明する。なお、非消耗電極のテーパ部とは、非消耗電極の先端付近における略円錐形状の部分である。
【0023】
図2A図2Bを用いて、接触判断部21が面直接触方法とテーパ接触方法とのいずれの接触が行われたのかを判断する方法について説明する。図2Aは、面直接触方法について説明するための図であり、図2Bは、テーパ接触方法について説明するための図である。図2Aで示されるように、面直接触方法では、非消耗電極3bの長さ方向(軸方向)は、母材8に面直な方向(母材8の表面に直交する方向)となっている。また、非消耗電極3bは、母材8に面直な方向に移動する。したがって、面直接触方法では、非消耗電極3bの先端3dが母材8に接触することになる。そのため、面直接触方法で非消耗電極3bを母材8に接触させる場合には、非消耗電極3bの移動方向は、その非消耗電極3bの長さ方向と略一致し、ツール座標系における移動方向は、Z軸方向と略一致する。なお、ツール座標系は、非消耗電極3bの長さ方向をZ軸方向とする3次元直交座標系である。一方、図2Bで示されるように、テーパ接触方法では、非消耗電極3bの長さ方向は、母材8に面直な方向ではないが、非消耗電極3bは、母材8に面直な方向に移動する。したがって、テーパ接触方法では、非消耗電極3bのテーパ部3cが母材8に接触することになる。テーパ接触方法で非消耗電極3bを母材8に接触させる場合には、非消耗電極3bの移動方向は、その非消耗電極3bの長さ方向と一致せず、ツール座標系における移動方向は、Z軸方向と一致しない。ここで、図2Bで示されるように、非消耗電極3bの長さ方向(ツール座標系におけるZ軸方向)と、移動方向とのなす角度をθtとすると、面直接触方法の場合には、θtが小さい値となり、テーパ接触方法の場合には、θtが大きい値となる。したがって、接触判断部21は、θt<θthの場合に、面直接触方法による接触であると判断し、θt>θthの場合に、テーパ接触方法による接触であると判断してもよい。なお、θt=θthの場合には、面直接触方法による接触であると判断してもよく、テーパ接触方法による接触であると判断してもよい。θthは、接触方法の判断のために用いられるあらかじめ決められた閾値である。なお、接触判断部21が接触方法を判断する方法は、実質的に上述した方法と同様であれば、上述のものに限定されないことは言うまでもない。例えば、ツール座標系を用いないで、ワールド座標系を用いて判断を行ってもよい。その場合には、接触判断部21は、例えば、ワールド座標系における非消耗電極3bの長さ方向と、非消耗電極3bの移動方向とのなす角度が閾値θthより大きいかどうかに応じて、面直接触方法による接触か、テーパ接触方法による接触かを判断してもよい。なお、その閾値θthは、図示しない記録媒体で記憶されていてもよい。
【0024】
接触回数更新部22は、接触判断部21による判断結果に応じて、接触方法に応じた接触回数を更新する。その更新結果は、記憶部23で記憶される。なお、接触回数更新部22は、接触判断部21による判断結果に応じて合計接触回数を更新してもよい。その合計接触回数は、接触方法ごとに重み付けをして加算した接触回数である。したがって、例えば、合計接触回数は、次のようであってもよい。
合計接触回数=面直接触回数×L+テーパ接触回数 ・・・(式1)
合計接触回数=面直接触回数+テーパ接触回数×K ・・・(式2)
合計接触回数=面直接触回数×M1+テーパ接触回数×M2 ・・・(式3)
【0025】
なお、面直接触回数は、面直接触方法による接触回数であり、テーパ接触回数は、テーパ接触方法による接触回数である。また、Lは1より大きい実数であり、Kは1より小さい正の実数であり、M1,M2は、M1>M2となる正の実数である。面直接触方法による接触の方が、テーパ接触方法による接触よりも非消耗電極3bに与える影響(ダメージ)が大きいため、式1〜3において、面直接触方法の重み(面直接触回数の重み)の方が、テーパ接触方法の重み(テーパ接触回数の重み)よりも大きい値に設定されている。なお、式1の合計接触回数は、テーパ接触方法に換算した接触回数となる。式2の合計接触回数は、面直接触回数に換算した接触回数となる。式3の合計接触回数は、面直接触回数のM1倍またはテーパ接触回数のM2倍に換算した接触回数となる。このように、合計接触回数は、厳密には接触回数ではなく、各接触方法による接触回数が多いほど値の大きくなるスコアのようなものである。
【0026】
したがって、合計接触回数が式3である場合には、接触回数更新部22は、面直接触方法による接触が行われたときに、合計接触回数をM1だけインクリメントし、テーパ接触方法による接触が行われたときに、合計接触回数をM2だけインクリメントする。合計接触回数が式1で算出される場合には、M1=Lとなり、M2=1となる。また、合計接触回数が式2で算出される場合には、M1=1となり、M2=Kとなる。
【0027】
また、合計接触回数は、非消耗電極3bが交換された際にリセットされる(通常は、0に設定される)ことが好適である。したがって、非消耗電極3bが交換された際に、接触回数更新部22は、記憶部23で記憶されている合計接触回数をリセットしてもよい。
【0028】
記憶部23では、接触回数更新部22によって更新された合計接触回数が記憶される。なお、記憶部23での記憶は、RAM等における一時的な記憶でもよく、または長期的な記憶でもよい。また、記憶部23は、所定の記録媒体(例えば、半導体メモリや磁気ディスク、光ディスクなど)によって実現されうる。なお、記憶部23で記憶される合計接触回数は、非消耗電極3bが交換されるまで保持される必要があるため、記憶部23は、長期的な記憶を行うことができる不揮発性の記録媒体によって実現されることが好適である。
【0029】
閾値記憶部24では、非消耗電極3bの交換の判断のために用いられる閾値が記憶される。この閾値は、後述するように、合計接触回数と比較される閾値である。この閾値は、例えば、式1を用いて合計接触回数を算出する場合には、面直接触方法による接触上限回数NthにLを掛けた値であってもよく、式2を用いて合計接触回数を算出する場合には、Nthであってもよく、式3を用いて合計接触回数を算出する場合には、NthにM1を掛けた値であってもよい。閾値記憶部24は通常、長期的な記憶を行うことができるものである。閾値記憶部24は、所定の記録媒体(例えば、半導体メモリや磁気ディスク、光ディスクなど)によって実現されうる。なお、閾値記憶部24は、長期的な記憶を行うことができる不揮発性の記録媒体によって実現されることが好適である。
【0030】
交換判断部25は、接触回数更新部22による更新結果を用いることによって、合計接触回数が閾値を超えている場合に、非消耗電極3bを交換すると判断する。具体的には、交換判断部25は、記憶部23で記憶されている合計接触回数、すなわち、接触回数更新部22によって更新された合計接触回数が閾値記憶部24で記憶されている閾値よりも大きい場合に、非消耗電極3bを交換すると判断することになる。なお、合計接触回数が閾値と等しい場合には、交換判断部25は、非消耗電極3bを交換すると判断してもよく、そうでなくてもよい。また、合計接触回数が閾値よりも大きい場合に、非消耗電極3bを交換すると判断することになるため、非消耗電極3bを交換するとの判断は、合計接触回数が閾値よりも大きいと判断することであると考えてもよい。
【0031】
出力部26は、交換判断部25が非消耗電極3bを交換すると判断した場合に、その旨を出力する。その出力がなされることによって、溶接ロボットシステムのユーザは、非消耗電極3bが交換時期となったことを知ることができる。なお、その出力は、溶接ロボットシステムのユーザに対して非消耗電極3bの交換を促すことができるのであれば、どのようなものであってもよい。ここで、この出力は、例えば、表示デバイス(例えば、液晶ディスプレイなど)への表示でもよく、所定の機器への通信回線を介した送信でもよく、プリンタによる印刷でもよく、スピーカによる音声出力でもよく、記録媒体への蓄積でもよく、他の構成要素への引き渡しでもよい。交換判断部25が非消耗電極3bを交換すると判断した場合に、出力部26は、例えば、非消耗電極3bの交換を知らせるためのランプを点灯してもよく、液晶等に「電極を交換して下さい」や「電極の交換時期になりました」という表示を行ってもよく、「電極を交換して下さい」等の音声出力を行ってもよく、非消耗電極3bの交換を促すその他の出力を行ってもよい。本実施の形態では、交換判断部25が非消耗電極3bを交換すると判断した場合に、出力部26が、非消耗電極3bの交換を促すための情報をティーチングペンダント5に渡し、ティーチングペンダント5において、その情報が出力されるものとする。そのティーチングペンダント5における出力は、例えば、表示であってもよい。なお、出力部26は、出力を行うデバイス(例えば、表示デバイスやプリンタなど)を含んでもよく、あるいは含まなくてもよい。また、出力部26は、ハードウェアによって実現されてもよく、あるいは、それらのデバイスを駆動するドライバ等のソフトウェアによって実現されてもよい。
【0032】
なお、記憶部23と、閾値記憶部24とは、同一の記録媒体によって実現されてもよく、または別々の記録媒体によって実現されてもよい。前者の場合には、更新された合計接触回数を記憶している領域が記憶部23となり、閾値を記憶している領域が閾値記憶部24となる。
【0033】
また、本実施の形態では、制御装置1が溶接電極管理装置2を有する場合について主に説明するが、そうでなくてもよい。例えば、制御装置1の外部に溶接電極管理装置2が存在してもよい。その場合には、例えば、溶接電極管理装置2の接触判断部21は、制御装置1の制御部13から、マニピュレータ3や溶接電源装置4に出力された指令等を受け付け、その受け付けた指令等を用いて接触方法に関する判断を行ってもよい。
【0034】
マニピュレータ3は、減速機を介して駆動モータにより駆動される関節によって連結された複数のアームを有している。その駆動モータは、エンコーダを有しており、そのエンコーダによって駆動モータの現在位置が検出されてもよい。また、そのマニピュレータ3の先端には、母材8に対してアーク溶接を行う溶接トーチ3aが取り付けられている。その溶接トーチ3aは非消耗電極3bを有している。そして、溶接電源装置4によって、溶接トーチ3aの非消耗電極3bと母材8との間に高電圧が印加されることによってアークが発生し、そのアークの熱で母材8が溶融されることにより、母材8に関する溶接が行われる。なお、マニピュレータ3の構成はすでに公知であり、その詳細な説明を省略する。また、また、TIG溶接では、発生したアークによって母材8が溶融している箇所にフィラワイヤを供給することが一般的であるが、そのフィラワイヤを供給する構成の説明は省略している。また、TIG溶接では、ヘリウムやアルゴン等の不活性ガスであるシールドガスを溶接トーチ3aから噴出することが一般的であるが、その不活性ガスを噴出する構成の説明は省略している。
【0035】
溶接電源装置4は、溶接で用いられる高電圧を溶接トーチ3aや母材8に供給する溶接電源や、制御装置1から送信される溶接条件に応じて、溶接電源を制御する溶接制御部等を備えている。また、溶接電源装置4は、フィラワイヤの送給を制御するワイヤ送給制御部を備えていてもよい。なお、溶接電源装置4の構成はすでに公知であり、その詳細な説明を省略する。
【0036】
ティーチングペンダント5は、溶接ロボットのティーチングに使用される端末であり、操作者の操作に応じた操作信号等を制御装置1に渡してもよい。また、制御装置1からの情報を受け付けてディスプレイ等に出力してもよい。その出力は、例えば、非消耗電極3bの交換を知らせるための出力であってもよい。なお、ティーチングペンダント5から制御装置1に入力された操作指示等は、図示しない経路を介して制御部13に渡されてもよい。また、ティーチングペンダント5から制御装置1に入力された操作指示に応じて教示情報記憶部12に教示情報が蓄積されてもよい。また、ティーチングペンダント5によって、閾値記憶部24で記憶されている閾値などの設定値が設定されてもよい。
【0037】
また、本実施の形態では、制御装置1が1個のマニピュレータ3と、1個の溶接電源装置4とを制御する場合について説明したが、そうでなくてもよい。制御装置1は、複数のマニピュレータ3及び複数の溶接電源装置4を制御してもよい。したがって、溶接電極管理装置2は、複数の溶接ロボットに関する非消耗電極3bの交換に関する判断を行ってもよい。そのような場合には、溶接電極管理装置2の各構成要素は、非消耗電極3bごとに判断処理や更新処理などの各処理を行うことが好適である。
【0038】
次に、制御装置1の動作について図3のフローチャートを用いて説明する。なお、このフローチャートでは、上述の式1による合計接触回数の算出が行われる場合について説明する。
【0039】
(ステップS101)制御部13は、教示情報記憶部12から教示情報を読み出し、その教示情報に応じた各教示ステップを制御部13が有する図示しないキューに蓄積する。その蓄積において、制御部13は、例えば、教示情報の解析を行い、溶接命令の場合には、電流指令等からなる溶接条件をキューに蓄積し、移動命令の場合には、マニピュレータ3の各軸角度や、ツール座標系での移動方向もキューに蓄積してもよい。
【0040】
(ステップS102)制御部13は、ポインタptrにキューの先頭の値を代入する。
【0041】
(ステップS103)制御部13は、キューからポインタptrの教示ステップを読み出す。
【0042】
(ステップS104)制御部13は、ステップS103において、キューからポインタptrの教示ステップを読み出したかどうか判断する。そして、読み出した場合には、ステップS105に進み、読み出さなかった場合(読み出した教示ステップがNullであった場合)には、キューに蓄積されたすべての教示ステップが実行されたことになるため、教示情報に応じた一連の処理は終了となる。
【0043】
(ステップS105)制御部13は、ステップS103で読み出した教示ステップが移動命令であるかどうか判断する。そして、移動命令である場合には、ステップS106に進み、そうでない場合には、ステップS117に進む。
【0044】
(ステップS106)制御部13は、ポインタptrを1だけデクリメントする。
【0045】
(ステップS107)制御部13は、ポインタptrの教示ステップがタッチ命令であるかどうか判断する。そして、タッチ命令であれば、ステップS108に進み、そうでなかれば、ステップS114に進む。なお、タッチ命令とは、非消耗電極3bが母材8に接触したかどうかを判断するために、非消耗電極3bと母材8との間に所定の電圧を印加することである。その電圧が0となると、両者が接触したと判断することができる。したがって、ステップS103で読み出した教示ステップである移動命令が、タッチ命令の次の移動命令である場合には、非消耗電極3bを母材8に接触させるための移動命令であることが分かる。
【0046】
(ステップS108)制御部13は、ステップS103で読み出した移動命令におけるツール座標系でのZ軸と移動方向とのなす角度θtを接触判断部21に渡す。
【0047】
(ステップS109)接触判断部21は、図示しない記録媒体からθthを読み出し、θtがθth以下であるかどうか判断する。そして、θtがθth以下である場合には、面直接触方法による接触が行われると判断してステップS110に進み、そうでない場合には、テーパ接触方法による接触が行われると判断してステップS111に進む。
【0048】
(ステップS110)接触回数更新部22は、記憶部23で記憶されている合計接触回数にLを加算する。すなわち、面直接触方法による接触に応じた合計接触回数の更新が行われる。
【0049】
(ステップS111)接触回数更新部22は、記憶部23で記憶されている合計接触回数に1を加算する。すなわち、テーパ接触方法による接触に応じた合計接触回数の更新が行われる。
【0050】
(ステップS112)交換判断部25は、更新された合計接触回数を記憶部23から読み出し、閾値を閾値記憶部24から読み出し、合計接触回数が閾値以上であるかどうか判断する。そして、閾値以上である場合には、その旨を出力部26に渡してステップS113に進み、そうでない場合には、ステップS114に進む。
【0051】
(ステップS113)出力部26は、非消耗電極3bを交換する旨を出力する。
【0052】
(ステップS114)制御部13は、ポインタptrを1だけインクリメントする。このインクリメントによって、ステップS106でデクリメントしたポインタptrが元に戻されたことになる。
【0053】
(ステップS115)制御部13は、移動命令をサーボコントローラに通知する。その結果、その移動命令に応じてマニピュレータ3が動作する。
【0054】
(ステップS116)制御部13は、ポインタptrを1だけインクリメントし、ステップS103に戻る。
【0055】
(ステップS117)制御部13は、溶接命令またはタッチ命令を溶接電源装置4に通知する。そして、ステップS116に進む。
【0056】
なお、図3のフローチャートにおける処理の順序は一例であり、同様の結果を得られるのであれば、各ステップの順序を変更してもよい。例えば、図3のフローチャートでは、接触方法の判断の処理等(ステップS106〜S114)を行った後に移動命令を通知する場合について説明したが、移動命令の通知はステップS105の処理と、ステップS106の処理との間で行われてもよい。また、結果として合計接触回数の更新や、その更新された合計接触回数を用いた非消耗電極3bの交換の通知等を行うことができるのであれば、制御装置1において図3のフローチャート以外の処理が行われてもよいことは言うまでもない。例えば、接触判断部21は、教示情報記憶部12で記憶されている教示情報、または制御部13がキューイングした教示ステップを参照し、各ステップが実行される前に、どの接触方法による接触が行われるのかを判断していてもよい。そして、実際にその接触方法による接触が行われた場合に、接触回数更新部22は、その事前に判断されている接触方法に応じた合計接触回数の更新を行ってもよい。また、閾値記憶部24で記憶されている閾値が変更された場合にも、ステップS112,S113の処理が行われてもよい。すなわち、その時点の合計接触回数が変更後の閾値よりも大きい場合には、非消耗電極3bを交換する旨が出力されてもよい。
【0057】
次に、本実施の形態による制御装置1の動作について、具体例を用いて説明する。この具体例においても、上述の式1による合計接触回数の算出が行われるものとする。
まず、制御部13は、教示情報記憶部12で記憶されている教示情報を読み出し、解析することによって各教示ステップを生成し、その教示ステップをキューイングする(ステップS101)。その後、1番目の教示ステップを読み出し、その教示ステップが移動命令かどうか判断する(ステップS102〜S105)。ここでは、その教示ステップが移動命令であったとする。すると、制御部13は、その教示ステップよりも1個前の教示ステップがタッチ命令であるかどうか判断する(ステップS106,S107)。ここでは、1個前の教示ステップは存在しないため、制御部13は、その移動命令をサーボコントローラに通知する(ステップS114,S115)。その結果、その移動命令に応じた移動をマニピュレータ3が行うことになる。
【0058】
次に、制御部13は、2番目の教示ステップを読み出し、その教示ステップが移動命令かどうか判断する(ステップS116,S103〜S105)。ここでは、その教示ステップがタッチ命令であったとする。すると、制御部13は、そのタッチ命令を溶接電源装置4に通知する(ステップS117)。その結果、そのタッチ命令に応じて、非消耗電極3bと、母材8との間にあらかじめ決められた電圧が印加されることになる。
【0059】
その後、制御部13は、3番目の教示ステップを読み出し、その教示ステップが移動命令かどうか判断する(ステップS116,S103〜S105)。ここでは、その教示ステップが移動命令であったとする。すると、制御部13は、その教示ステップよりも1個前の教示ステップがタッチ命令であるかどうか判断する(ステップS106,S107)。ここでは、1個前の教示ステップがタッチ命令であるため、制御部13は、その移動命令におけるツール座標系でのZ軸と、移動命令に応じた移動方向とのなす角度θtを接触判断部21に渡す(ステップS108)。その角度θtを受け取ると、接触判断部21は、その角度がθth以下であるかどうか判断する(ステップS109)。ここでは、その角度θtがθth以下であったとする。すると、接触判断部21は、面直接触方法による接触が行われた旨を接触回数更新部22に渡す。そして、接触回数更新部22は、記憶部23で記憶されている合計接触回数にLを加算することによって合計接触回数を更新する(ステップS110)。その更新が行われたことを検知すると、交換判断部25は、記憶部23から合計接触回数を読み出し、閾値記憶部24から閾値を読み出し、合計接触回数が閾値以上であるかどうか判断する(ステップS112)。ここでは、合計接触回数が閾値と等しかったとする。すると、交換判断部25は、交換の通知を行う旨を出力部26に渡す。交換判断部25から交換の通知を行う旨を受け取ると、出力部26は、ティーチングペンダント5に、非消耗電極3bを交換する旨の通知を出力する(ステップS113)。その出力に応じて、ティーチングペンダント5のディスプレイに、「非消耗電極の交換時期となりました」との表示が行われ、ティーチングペンダント5の操作者は、溶接ロボットの非消耗電極3bが交換時期となったことを知ることができる。なお、その場合に操作者は、溶接ロボットを一時停止させて、非消耗電極3bを交換してもよく、または区切りのよい時点まで、もしくは一連の処理が終了するまで待ってから、非消耗電極3bを交換してもよい。非消耗電極3bが交換された場合には、前述のように、記憶部23で記憶されている合計接触回数がリセットされるものとする。
【0060】
以上のように、本実施の形態による溶接電極管理装置2によれば、複数の接触方法による非消耗電極3bと母材8との接触が行われる場合であっても、非消耗電極3bの消耗の程度を的確に管理することができる。その結果、非消耗電極3bの交換時期を適切に知ることができるようになり、まだ使用できる非消耗電極3bを交換してしまったり、交換基準を上回る変形の生じている非消耗電極3bを継続して使用してしまったりすることを回避することができるようになる。そのため、コストの低減と、高品質の溶接とを両立させることができるようになる。
【0061】
なお、本実施の形態では、複数の接触方法が面直接触方法とテーパ接触方法とである場合について説明したが、複数の接触方法がそれら以外であってもよいことは言うまでもない。そのような場合であっても、各接触方法に応じた非消耗電極3bの消耗や変形の程度を考慮した合計接触回数の算出が行われることによって、非消耗電極3bの適切な交換時期を把握することができるようになる。
【0062】
また、本実施の形態では、接触回数更新部22が合計接触回数を算出する場合について説明したが、そうでなくてもよい。接触回数更新部22は、接触方法ごとに接触回数を更新してもよい。その場合には、記憶部23において、接触方法ごとの接触回数が記憶されることになる。すなわち、その場合には、接触方法に応じた接触回数の更新は、接触方法ごとの接触回数の更新となり、記憶部23で記憶されている更新結果は、接触方法ごとの接触回数となる。例えば、複数の接触方法が、面直接触方法とテーパ接触方法である場合には、記憶部23において、面直接触方法の接触回数と、テーパ接触方法の接触回数とが記憶されていてもよい。また、接触回数更新部22が接触方法ごとの接触回数を更新する場合には、交換判断部25は、接触回数更新部22によって更新された接触方法ごとの接触回数を用いて合計接触回数を算出してもよい。そして、交換判断部25は、その算出した合計接触回数を用いて、合計接触回数が閾値を超えているかどうかを判断してもよい。その合計接触回数の算出は、例えば、上述のように式1〜3のいずれかを用いて行われてもよい。すなわち、交換判断部25は、図示しない記録媒体で記憶されている合計接触回数の算出式を読み出し、記憶部23で記憶されている接触方法ごとの接触回数を読み出し、その接触回数を合計接触回数の式に代入することによって、合計接触回数を算出してもよい。また、この場合には、出力部26は、記憶部23で記憶されている接触方法ごとの接触回数を出力してもよい。例えば、その出力によって、溶接ロボットの操作者は、各接触方法による接触がどれぐらい行われたのかを知ることができるようになる。
【0063】
また、本実施の形態では、テーパ接触方法による接触が行われた場合に、その接触をテーパ部3cの1回の接触としてカウントする場合について説明したが、そうでなくてもよい。テーパ接触方法による接触が行われた場合に、その接触の行われたテーパ部3cの領域における1回の接触としてカウントし、各領域に応じた合計接触回数を閾値と比較することによって、非消耗電極3bの交換時期を判断するようにしてもよい。テーパ部3cのある領域での接触が、テーパ部3cの他の領域に与える影響は小さいと考えられるからである。したがって、非消耗電極3bのテーパ部3cが母材8に接触される場合に、接触判断部21は、テーパ部3cのいずれの領域による接触が行われたかをも判断してもよい。そして、接触回数更新部22は、テーパ部3cの領域ごとに、接触方法に応じた接触回数を更新してもよい。また、交換判断部25は、テーパ部3cのいずれかの領域に対応する合計接触回数が閾値を超えている場合に、非消耗電極3bを交換すると判断してもよい。このようにすることで、非消耗電極3bのより正確な交換時期の判断を行うことができることになる。
【0064】
そのテーパ部3cの領域の個数は特に限定されないが、例えば、2個、3個、4個、またはそれ以上であってもよい。なお、領域の個数が多い場合には、各領域が狭くなり、ある領域での接触が、隣接する領域に与える影響が大きくなる。したがって、その領域の個数は、あまり多くなりすぎないことが好適である。また、各領域の大きさは、均等であることが好適である。また、各領域は、例えば、図4で示されるように、非消耗電極3bの先端3dから、非消耗電極3bの側面に延びる線分によってテーパ部3cが分割された領域であってもよい。図4の場合には、テーパ部3cが4個の領域3c−1〜3c−4に分割されている。なお、図4は、非消耗電極3bを先端3dの方から見た図である。したがって、非消耗電極3bの長さ方向は、図4の紙面に垂直な方向となる。
【0065】
図4のようにテーパ部3cが分割される場合には、例えば、接触回数更新部22は、次の式を用いて各領域の合計接触回数を更新してもよい。なお、以下の式は上述の式3に対応するものであるが、M2=1とすることによって上述の式1に対応するものとなり、M1=1とすることによって上述の式2に対応するものとなる。
領域3c−1の合計接触回数
=面直接触回数×M1+領域3c−1のテーパ接触回数×M2
領域3c−2の合計接触回数
=面直接触回数×M1+領域3c−2のテーパ接触回数×M2
領域3c−3の合計接触回数
=面直接触回数×M1+領域3c−3のテーパ接触回数×M2
領域3c−4の合計接触回数
=面直接触回数×M1+領域3c−4のテーパ接触回数×M2
【0066】
したがって、例えば、領域3c−3におけるテーパ接触方法による接触が行われたと接触判断部21によって判断された場合には、接触回数更新部22は、領域3c−3の合計接触回数をM2だけインクリメントしてもよい。また、そのようにしてインクリメントされた結果である領域ごとの合計接触回数を用いて、前述のように、交換判断部25は、いずれかの領域に対応する合計接触回数が前記閾値を超えている場合に、非消耗電極3bを交換すると判断する。したがって、この場合には、非消耗電極3bのテーパ部3cの各領域の接触回数ができるだけ均等になるように教示情報を生成することによって、非消耗電極3bの寿命を延ばすことができ得る。
【0067】
なお、テーパ接触方法による接触が行われる場合に、接触判断部21は、移動命令を用いることによって、非消耗電極3bのどの位置が母材8と接触するのかを計算することができる。したがって、その位置を用いることによって、接触判断部21は、どの領域での接触が行われたのかを判断することができる。具体的には、例えば、その接触位置をツール座標系で表した場合に、その接触位置が、XY平面において、第N象限である場合に、接触判断部21は、領域3c−Nにおけるテーパ接触方法による接触が行われたと判断してもよい。なお、Nは1〜4の整数である。
【0068】
また、このようにテーパ部3cの領域ごとに判断等が行われる場合にも、接触回数更新部22は、合計接触回数を領域3c−1〜3c−4ごとに更新してもよく、面直接触回数と、領域3c−1〜3c−4ごとのテーパ接触回数とを更新してもよい。後者の場合には、領域3c−1〜3c−4ごとの合計接触回数は、交換判断部25によって算出されてもよい。
【0069】
また、本実施の形態では、溶接に関するパラメータに関係なく、接触回数更新部22による更新が行われる場合について説明したが、そうでなくてもよい。以下、図5を用いて、溶接に関するパラメータをも用いて接触回数更新部22による更新が行われる場合について説明する。図5において、溶接電極管理装置2は、接触判断部21と、接触回数更新部22と、記憶部23と、閾値記憶部24と、交換判断部25と、出力部26と、取得部27とを備える。取得部27以外の構成及び動作は、接触回数更新部22が取得部27によって取得された溶接に関するパラメータをも用いて更新を行う以外は、上述の説明の通りであり、その説明を省略する。
【0070】
取得部27は、非消耗電極3bの母材8への接触時の溶接に関するパラメータを取得する。そのパラメータは特に限定されないが、例えば、溶接電流、及び非消耗電極3bの母材8に対する速度の少なくとも一方であってもよい。取得部27は、例えば、溶接電流を教示情報から取得してもよく、または溶接電源装置4において測定された溶接電流を受け取ることによって取得してもよい。また、取得部27は、例えば、非消耗電極3bの母材8に対する速度を教示情報から取得してもよい。
【0071】
接触回数更新部22は、取得部27によって取得されたパラメータに応じて、接触方法に応じた接触回数を更新する。例えば、溶接電流が取得された場合には、接触回数更新部22は、その溶接電流が大きいほど、接触に応じたインクリメントの程度が大きくなるように更新を行う。また、速度が取得された場合には、接触回数更新部22は、その速度が大きいほど、接触に応じたインクリメントの程度が大きくなるように更新を行う。溶接電流が大きいほど接触時の非消耗電極3bへの影響が大きく、また速度が大きいほど接触時の非消耗電極3bへの影響が大きいからである。具体的には、接触回数更新部22は、取得部27が取得した溶接電流が、溶接電流の閾値よりも大きい場合には、合計接触回数や、接触方法ごとの接触回数をインクリメントする際に、インクリメント量(例えば、上述の式3のM1やM2など)をA1倍してインクリメントし、溶接電流が閾値よりも小さい場合には、通常通りにインクリメントしてもよい。また、例えば、接触回数更新部22は、取得部27が取得した速度が、速度の閾値よりも大きい場合には、合計接触回数や、接触方法ごとの接触回数をインクリメントする際に、インクリメント量をA2倍してインクリメントし、速度が閾値よりも小さい場合には、通常通りにインクリメントしてもよい。なお、A1やA2は通常、1より大きい実数である。なお、A1やA2は、インクリメント量を補正するためのものであるため、あまり大きすぎないことが好適である。例えば、A1やA2は、1.1や1.2、1.3等であってもよい。
【0072】
また、上記実施の形態において、各処理または各機能は、単一の装置または単一のシステムによって集中処理されることによって実現されてもよく、あるいは、複数の装置または複数のシステムによって分散処理されることによって実現されてもよい。
【0073】
また、上記実施の形態において、各構成要素間で行われる情報の受け渡しは、例えば、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に異なるものである場合には、一方の構成要素による情報の出力と、他方の構成要素による情報の受け付けとによって行われてもよく、あるいは、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に同じものである場合には、一方の構成要素に対応する処理のフェーズから、他方の構成要素に対応する処理のフェーズに移ることによって行われてもよい。
【0074】
また、上記実施の形態において、各構成要素が実行する処理に関係する情報、例えば、各構成要素が受け付けたり、取得したり、選択したり、生成したり、送信したり、受信したりした情報や、各構成要素が処理で用いる閾値や数式、アドレス等の情報等は、上記説明で明記していなくても、図示しない記録媒体において、一時的に、あるいは長期にわたって保持されていてもよい。また、その図示しない記録媒体への情報の蓄積を、各構成要素、あるいは、図示しない蓄積部が行ってもよい。また、その図示しない記録媒体からの情報の読み出しを、各構成要素、あるいは、図示しない読み出し部が行ってもよい。
【0075】
また、上記実施の形態において、各構成要素等で用いられる情報、例えば、各構成要素が処理で用いる閾値や数式、アドレス、各種の設定値等の情報がユーザによって変更されてもよい場合には、上記説明で明記していなくても、ユーザが適宜、それらの情報を変更できるようにしてもよく、あるいは、そうでなくてもよい。それらの情報をユーザが変更可能な場合には、その変更は、例えば、ユーザからの変更指示を受け付ける図示しない受付部と、その変更指示に応じて情報を変更する図示しない変更部とによって実現されてもよい。その図示しない受付部による変更指示の受け付けは、例えば、入力デバイスからの受け付けでもよく、通信回線を介して送信された情報の受信でもよく、所定の記録媒体から読み出された情報の受け付けでもよい。
【0076】
また、上記実施の形態において、溶接電極管理装置2に含まれる2以上の構成要素が通信デバイスや入力デバイス等を有する場合に、2以上の構成要素が物理的に単一のデバイスを有してもよく、あるいは、別々のデバイスを有してもよい。
【0077】
また、上記実施の形態において、各構成要素は専用のハードウェアにより構成されてもよく、あるいは、ソフトウェアにより実現可能な構成要素については、プログラムを実行することによって実現されてもよい。例えば、ハードディスクや半導体メモリ等の記録媒体に記録されたソフトウェア・プログラムをCPU等のプログラム実行部が読み出して実行することによって、各構成要素が実現され得る。その実行時に、プログラム実行部は、記憶部や記録媒体にアクセスしながらプログラムを実行してもよい。また、そのプログラムは、サーバなどからダウンロードされることによって実行されてもよく、所定の記録媒体(例えば、光ディスクや磁気ディスク、半導体メモリなど)に記録されたプログラムが読み出されることによって実行されてもよい。また、このプログラムは、プログラムプロダクトを構成するプログラムとして用いられてもよい。また、そのプログラムを実行するコンピュータは、単数であってもよく、複数であってもよい。すなわち、集中処理を行ってもよく、あるいは分散処理を行ってもよい。
【0078】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上より、本発明による溶接電極管理装置によれば、溶接ロボットにおける非消耗電極の交換時期を適切に通知できるという効果が得られ、例えば、溶接ロボットの制御装置に組み込まれる装置等として有用である。
【符号の説明】
【0080】
1 制御装置
2 溶接電極管理装置
3b 非消耗電極
3c テーパ部
4 溶接電源装置
8 母材
11 通信部
12 教示情報記憶部
13 制御部
21 接触判断部
22 接触回数更新部
23 記憶部
24 閾値記憶部
25 交換判断部
26 出力部
27 取得部
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5