特許第6205265号(P6205265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205265
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】無段変速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 37/02 20060101AFI20170914BHJP
   F16H 9/12 20060101ALI20170914BHJP
   F16H 57/035 20120101ALI20170914BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20170914BHJP
【FI】
   F16H37/02 P
   F16H9/12 B
   F16H57/035
   F16H57/04 J
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-267418(P2013-267418)
(22)【出願日】2013年12月25日
(65)【公開番号】特開2015-124782(P2015-124782A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087619
【弁理士】
【氏名又は名称】下市 努
(72)【発明者】
【氏名】松本 恭太
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−144894(JP,A)
【文献】 特開2011−80582(JP,A)
【文献】 特開昭59−175669(JP,A)
【文献】 特開平6−17920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 37/02
F16H 9/12
F16H 57/035
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、該入力軸の前進回転が前進用クラッチを介して伝達される駆動プーリを有する駆動プーリ軸と、該駆動プーリの回転が伝達される従動プーリを有する従動プーリ軸と、前記入力軸の前進回転を後進回転に変換して前記駆動プーリ軸に伝達するアイドラ軸とを備えた無段変速装置において、
前記アイドラ軸の、前記駆動プーリに対して前記前進用クラッチの反対側部分に後進用クラッチ及び後進用駆動ギヤを配設し、
前記駆動プーリ軸の、前記駆動プーリに対して前記前進用クラッチの反対側部分に後進用従動ギヤを配設し、
前記駆動プーリを前記後進用クラッチと前進用クラッチとの間に位置させた
ことを特徴とする無段変速装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無段変速装置において、
前記駆動プーリ軸の、前記駆動プーリより入力側部分に変速機能構成部品を配設した
ことを特徴とする無段変速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車に採用される無段変速装置に関し、具体的には、前後進切換機構の配置構造の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用無段変速装置における前後進切換機構は、前進用クラッチ,後進用クラッチ,アイドラ軸及び各種ギヤで構成されている。これらの構成部品の配置構造として、従来、例えば特許文献1に開示されたものがある。この従来構造では、前進用クラッチを入力軸の、駆動プーリより入力側に配置し、後進用クラッチを駆動プーリ軸の、駆動プーリと前進用クラッチとの間の部分に配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−80582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来装置では、前進用クラッチ及び後進用クラッチを共に駆動プーリより入力側に集約して配置しているので、無段変速装置全体で見たときの軸方向長さが長くなるという問題がある。また、後進用クラッチの切換用作動油及び潤滑油をトルクコンバータケース側から導く構成となっているため、油路構造が複雑になり、加工工数,部品点数が増大するという問題がある。
【0005】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、無段変速装置全体で見たときの軸長の増大を抑制しつつアイドラ軸と駆動プーリ軸との径方向間隔を短縮して装置をコンパクト化でき、また後進用クラッチの切換用作動油及び潤滑油の油路を簡素化できる無段変速装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、入力軸と、該入力軸の前進回転が前進用クラッチを介して伝達される駆動プーリを有する駆動プーリ軸と、該駆動プーリの回転が伝達される従動プーリを有する従動プーリ軸と、前記入力軸の前進回転を後進回転に変換して前記駆動プーリ軸に伝達するアイドラ軸とを備えた無段変速装置において、
前記アイドラ軸の、前記駆動プーリに対して前記前進用クラッチの反対側部分に後進用クラッチ及び後進用駆動ギヤを配設し、前記駆動プーリ軸の、前記駆動プーリに対して前記前進用クラッチの反対側部分に後進用従動ギヤを配設し、前記駆動プーリを前記後進用クラッチと前進用クラッチとの間に位置させたことを特徴としている。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の無段変速装置において、
前記駆動プーリ軸の、前記駆動プーリより入力側部分に変速機能構成部品を配設したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、アイドラ軸に後進用クラッチ及び後進用駆動ギヤを装着し、駆動プーリ軸の、駆動プーリに対して前進用クラッチの反対側部分に後進用従動ギヤを配置することで、前記駆動プーリを前記後進用クラッチと前進用クラッチの間に位置させたので、駆動プーリが後進用クラッチ等に干渉しにくくなり、その結果、アイドラ軸と駆動プーリ軸との径方向間隔を狭めることができ、装置をコンパクト化することができる。
【0009】
また、従来のアイドラ軸延長線上でかつ駆動プーリの径方向外方の従来デッドスペースであった領域に後進用クラッチを配設したので、駆動プーリの反入力側に後進用クラッチを配設しながら装置全体で見た場合の軸長の増大を抑制できる。
【0010】
またアイドラ軸に後進用クラッチを配設したので、該クラッチに作動油や潤滑油を供給する油路を、ミッションケースのアイドラ軸軸受を支持する支持壁部に形成することで、該油路を、前記アイドラ軸の軸芯に形成されたオイル孔と、作動油の流れをコントロールするバルブボディとを直接連通させるように形成でき、該油路の構造を簡素化でき、加工工数を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例1に係る無段変速装置のスケルトン構成図である。
図2】前記無段変速装置の断面展開図である。
図3】前記無段変速装置の入力側から見た軸配置図である。
図4】前記無段変速装置の油路構造を説明するための断面図(図3のIV-IV線断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を添付図面に沿って説明する。
【実施例1】
【0013】
図1図3は本発明の実施例1に係る無段変速装置を説明するための図である。
【0014】
図において、1は自動車用動力分割型無段変速装置であり、該無段変速装置1は、CVT(無段変速機)10と、遊星歯車機構13と、エンジン回転が入力されるトルクコンバータ2とで構成されている。該トルクコンバータ2はトルコンケース3内に収容されており、前記CVT10及び遊星歯車機構13はミッションケース4内に収容されている。また、4′は、ミッションケース4の後端開口を閉塞するケースカバーである。
【0015】
前記CVT10は、互いに平行に配置された入力軸5、駆動プーリ軸6、左部7′と右部7′′とを有する従動プーリ軸7及びアイドラ軸8を備えている。なお、前記従動プーリ軸7の出力ギヤ7bは、差動機構16の入力ギヤ16aに噛合している。
【0016】
前記トルクコンバータ2の、ドライブプレート2aにはエンジンのクランクシャフト2cが接続され、タービンランナ2bには前記入力軸5が接続されている。
【0017】
前記入力軸5には、前進駆動ユニット9が配設されている。この後進駆動ユニット9は前記入力軸5に回転可能に装着された前進用駆動ギヤ9aと、該前進用駆動ギヤ9aを入力軸5に対して結合又は分離する前進用クラッチ9bとで構成されている。
【0018】
前記駆動プーリ軸6の、入力側基端部6′には前記入力軸5の前進用駆動ギヤ9aが噛合する前進用入力ギヤ6aが固定され、出力側先端部6′′には駆動プーリ19が装着されており、該駆動プーリ19の反入力側には後進用従動ギヤ6cが固定されている。
【0019】
前記従動プーリ軸7には、前記駆動プーリ19が金属ベルト11を介して連結される従動プーリ20が装着されている。
【0020】
ここで前記駆動プーリ19は、前記駆動プーリ軸6の反入力側に一体形成された固定プーリ半体19aと、該駆動プーリ軸6の入力側に該プーリ軸6に対して軸方向移動可能にかつ回転力伝達可能に装着された可動プーリ半体19bと、該可動プーリ半体19bの入力側、つまり前進用クラッチユニット9側に形成された油室19cとを有する。該油室19cに油圧を供給することにより該可動プーリ半体19bが前進し、該駆動プーリ19は、有効巻き径が拡大し、高速側に変化する。
【0021】
また、前記従動プーリ20は、前記従動プーリ軸7の入力側に一体形成された固定プーリ半体20aと、該従動プーリ軸7の反入力側に該プーリ軸7に対して軸方向移動可能にかつ回転力伝達可能に装着された可動プーリ半体20bと、該可動プーリ半体20bの反入力側に形成された油室20cとを有する。該油室20cに油圧を供給することにより該可動プーリ半体20bが前進し、該従動プーリ20は、有効巻き径が拡大し、低速側に変化する。
【0022】
また、前記アイドラ軸8の、基端部8′には前記入力軸5の先端部5′に固定された後進入力ギヤ5aが噛合するアイドラギヤ8aが固定されており、また、アイドラ軸8の先端部8′′には後進駆動ユニット12が配設されている。
【0023】
前記後進駆動ユニット12はアイドラ軸8に回転可能に装着された後進用駆動ギヤ12aと、該駆動ギヤ12aをアイドラ軸8に対して回転力伝達可能に結合し、または相対回転可能に分離させる後進用クラッチ12bとで構成されている。
【0024】
前記後進用クラッチ12bは、具体的には、図4に示すように、前記アイドラ軸8に共に回転するよう結合されたクラッチドラム12cと、該クラッチドラム12c内に軸方向に摺動可能に配置されたピストン12dと、ドラム側に係止するディスク及びギヤ側に係止するディスクからなるディスク12eとを有する。前記クラッチドラム12cとピストン12dとで形成される油室12fに油圧を供給することにより前記ドラム側ディスクがギヤ側ディスクに圧接してアイドラ軸8の回転力が後進用駆動ギヤ12aに伝達される。
【0025】
ここで前記入力軸5の先端部5′、アイドラ軸8の基端部8′は、それぞれ軸受5b,8dを介して支持壁4aで支持されている。この支持壁4aは、前記ミッションケース4の内部に形成されている。
【0026】
また、前記アイドラ軸8の軸芯部には、前記後進用クラッチ12bの、作動油室12fに作動油を供給する作動油路8b及び被潤滑部12gに潤滑油を供給する潤滑油路8cが
軸芯と平行に形成されている。この作動油路8b及び潤滑油路8cは、前記支持壁4aに形成された作動油給油路4b,潤滑油給油路4cに貫通孔8d,8eを介して連通している。そして前記作動油給油路4b及び潤滑油給油路4cは、前記支持壁4a内をミッションケース4の底部まで延びており、該底部に配設され、各油路への作動油,潤滑油の供給を制御するバルブボディ18に接続されている。なお、19はミッションケース4の底部に装着されたオイルパンである。
【0027】
また、前記遊星歯車機構13は、前記駆動プーリ軸6の前記駆動プーリ19より入力側に配設された駆動側遊星歯車機構14と、前記従動プーリ軸7の前記従動プーリ20より入力側に配設された従動側遊星歯車機構15とで構成されており、該両機構14,15はチェーン17で連結されている。
【0028】
前記駆動側遊星歯車機構14は、駆動プーリ軸6にサンギヤ14aを回転自在に支持させ、駆動プーリ軸6に固定されたキャリア14bにより回転自在に支持されたピニオンギヤ14cを前記サンギヤ14aに噛合させ、該ピニオンギヤ14cにリングギヤ14eを相対回転自在に噛合させ、該リングギヤ14dに駆動スプロケット14eを形成し、さらに前記サンギヤ14aの回転をブレーキ14fにより阻止又は許容するように構成されている。
【0029】
前記従動側遊星歯車機構15は、従動プーリ軸7の左部7′サンギヤ15aを固定し、従動プーリ軸7の右部7′′に相対回転自在に支持されたキャリア15bに回転自在に支持され、前記サンギヤ15aに噛合するピニオンギヤ15cリングギヤ15dを相対回転自在に噛合させ、該リングギヤ15dをクラッチ15fにより従動プーリ軸7の左部7′に結合又は分離させる構造となっている。また前記キャリア15bに前記従動スプロケット15eが形成されており、該従動スプロケット15eは、前記駆動側遊星歯車機構14の駆動スプロット14eに前記チェーン17で連結されている。
【0030】
本実施例装置1では、エンジン回転数,車速等に応じてベルト駆動モード又は動力分割モ−ドが選択制御される。ベルト駆動モードでの前進走行時には、前進用クラッチ9bオン、後進用クラッチ12bオフ、ブレ−キ14fオフ、クラッチ15fオンとされ、これによりエンジン回転が入力軸5から前進用駆動ギヤ9a及び前進用入力ギヤ6aを介して駆動プーリ軸6に伝達され、CVT10で変速され、従動プーリ軸7,クラッチ15f及び差動機構16を介して駆動輪に伝達される。
【0031】
一方、後進走行時には、前進用クラッチ9bオフ、後進用クラッチ12bオン、ブレ−キ14fオフ、クラッチ15fオンとされ、これによりエンジン回転が入力軸5からアイドラ軸8で反転され、後進用駆動ギヤ12a,後進用従動ギヤ6cを介して駆動プーリ軸6に伝達され、CVT10,従動プーリ軸7,クラッチ15f及び差動機構16を介して駆動輪に伝達される。
【0032】
また、動力分割モ−ドでは、動力はCVT10と遊星歯車機構13とに分割して伝達される。具体的にはブレ−キ14fオン,クラッチ15fオフとされ、エンジン回転は駆動側遊星歯車機構14で変速されて従動側遊星歯車機構15に伝達され、ここでCVT10からの回転と合成されて差動機構16に出力される。
【0033】
本実施例によれば、アイドラ軸8に後進用クラッチ12b及び後進用駆動ギヤ12aからなる後進駆動ユニット12を装着し、駆動プーリ軸6の、駆動プーリ19に対して前進用クラッチ9b及び後進用入力ギヤ5a等の反対側部分に後進用従動ギヤ6cを配置することで、大径の前記駆動プーリ19を大径の前記後進用クラッチ12bと大径の前進用クラッチ9bとの間に位置させたので、駆動プーリ19が後進用クラッチ12b等に干渉しにくくなり、その結果、アイドラ軸8と駆動プーリ軸6との径方向間隔を狭めることができ、装置をコンパクト化することができる。
【0034】
また、アイドラ軸8の延長線上でかつ駆動プーリ19の径方向外方の従来デッドスペースであった領域Aに後進用クラッチ12bを配設したので、駆動プーリ19の反入力側に後進用クラッチ12bを配設しながら装置全体で見た場合の軸長の増大を抑制できる。
【0035】
またアイドラ軸8に後進用クラッチ12bを配設すると共に、該アイドラ軸8の軸芯に作動油路8b,潤滑油路8cを形成したので、該作動油路8b,潤滑油路8cに作動油,潤滑油を供給する作動油給油路4b,潤滑油給油路4cを、ミッションケース4のアイドラ軸軸受8d及び入力軸軸受5bを支持する支持壁4aに形成することができる。その結果、該両給油路4b,4cを、作動油の流れをコントロールするバルブボディ18に直接連通するように直線的に形成でき、該両給油路4b,4cの構造を簡素化でき、加工工数を削減できる。ちなみに、入力軸に後進用クラッチを配設した従来装置では、作動油給油路,潤滑油給油路をトルコンケースの壁部に形成していたため、ミッションケース側のバルブボディとの連通構造が必要となり、その分構造が複雑化し、加工工数が増大するといった問題があった。
【符号の説明】
【0036】
1 無段変速装置
5 入力軸
6 駆動プーリ軸
6c 後進用従動ギヤ
7 従動プーリ軸
8 アイドラ軸
9b 前進用クラッチ
12a 後進用駆動ギヤ
12b 後進用クラッチ
13 遊星歯車機構(変速機能構成部品)
19 駆動プーリ
20 従動プーリ
図1
図2
図3
図4