(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記特許文献1に開示されたノイズ低減用巻線素子では、コイルは、いわゆるパンケーキ巻きである。このコイルの帯状の導体を2枚重ねてパンケーキ巻きすると、2枚の導体を貫く磁束量が異なるために、2枚の導体それぞれで構成される2個のコイルのインダクタンス値に差異が生じる。このため、これがコモンモードチョークコイルに使用されると、前記2個のコイル間にインダクタンスのアンバランスが生じ、この結果、ノーマルモードチョークコイルとして作用してしまい、本来減衰を望まないノーマルモードの信号成分に影響を与えてしまう。
【0007】
また、前記特許文献1に開示されたノイズ低減用巻線素子では、コイルは、シングルパンケーキ巻きであり、コアは、このシングルパンケーキ巻きのコイルを包み込むポッド型構造となっている。このため、シングルパンケーキ巻きのコイルにおける最内周の帯状導体の端部からリード線をコアの外部へ、磁束線を乱さぬ程度の必要最小径の貫通孔径から口出しするために、帯状導体の端部分を直角に折り返して複数回折り畳むという、自動化し難い生産性の悪い工程が必要とされていた。
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、帯状の導体を2枚重ねてパンケーキ巻きしても、ノーマルモードの信号成分に与える影響を低減でき、生産性を改善できるノイズ低減用巻線素子を提供することである。そして、本発明は、このノイズ低減用巻線素子を備えるインバータ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかるノイズ低減用巻線素子は、高周波ノイズを低減するためのノイズ低減用巻線素子であって、コイルと、前記コイルによって生じた磁束を通すとともに、前記コイルを収納するコア部とを備え、前記コイルは、軸方向で互いに積層された第1および第2コイル部を備え、前記第1コイル部は、2つの帯状の第1および第2導体における長手方向の一方部分を、絶縁層を挟んで前記第1導体の厚さ方向の一方面側に前記第2導体が配置された状態でパンケーキ状に巻回成形することにより形成され、前記第2コイル部は、前記第1および第2導体における長手方向の残余部分を、絶縁層を挟んで前記第1導体の厚さ方向の他方面側に前記第2導体が配置された状態でパンケーキ状に巻回成形することにより形成され、前記第1および第2導体それぞれは、使用周波数に対応したスキンデプス以下の厚さであることを特徴とする。
【0010】
このようなノイズ低減用巻線素子は、第1導体と第2導体とを2枚重ねにすることで、例えば1つの導体を同じ径の1つのシングルパンケーキ巻に成形したコイルに比べて巻数が半減するが、第1コイル部と第2コイル部とを形成した、いわゆるダブルパンケーキ巻に形成することで2段の直列となって倍化して、コイル全体の巻数は、不変となる。一方、導体断面積も、上記の1つのシングルパンケーキ巻のコイルに比べてダブルパンケーキ巻に形成することによって半減するが、並列2枚重ねによって倍化して不変となる。したがって、同じ寸法形状という制約条件では、上記ノイズ低減用巻線素子は、第1および第2導体の2枚重ねのダブルパンケーキ巻とすることで、コイル全体の巻数および導体断面積を不変にしつつ、第1および第2導体における両端部分をダブルパンケーキ巻の最外周に位置させることができ、シングルパンケーキ巻に較べて口出しが簡単となる。このため、シングルパンケーキ巻では、帯状導体の端部分を直角に折り返して複数回折り畳むという、自動化し難い生産性の悪い前記工程が不要となり、上記ノイズ低減用巻線素子は、生産性を改善できる。そして、上記ノイズ低減用巻線素子は、ダブルパンケーキ巻としつつ、軸方向に積層された上下で第1および第2導体の厚み方向の配置を逆転させるので、上下で第1導体による前記コイルおよび第2導体による前記コイルそれぞれに生じる各誘導起電力が相殺することになり、渦電流を効果的に抑制でき、第1導体によるコイルおよび第2導体によるコイルの各インダクタンス値をバランスさせることができる。さらに、このようなノイズ低減用巻線素子は、第1および第2導体それぞれがスキンデプス以下の厚さであるので、第1および第2導体それぞれで生じる渦電流をさらに効果的に抑制できる。したがって、このようなノイズ低減用巻線素子は、帯状の導体を2枚重ねてパンケーキ巻きしても、ノーマルモードの信号成分に与える影響を低減でき、生産性を改善できる。
【0011】
また、他の一態様では、上述のノイズ低減用巻線素子において、前記第1コイル部と前記第2コイル部との間に、円板状の磁性部材を、さらに備えることを特徴とする。
【0012】
例えば導体の幅が拡大するとコイル内部で磁束線が軸方向に対して非平行となる歪を発生し易くなる。そこで、上記ノイズ低減用巻線素子は、第1コイル部と第2コイル部との間に配置された円板状の磁性部材をさらに備えることで、外径側の磁束線が軸方向への直進性を回復し、磁束線が軸方向に対して非平行となる歪の発生を抑制できる。これにより、例えばコイル径を拡大すると、全体径が大きくなって重量の大半を占めるコア部の径が大きくなる結果、軽量化を妨げることになるので、重量の増加し難い幅方向に導体を拡大することによって、上記ノイズ低減用巻線素子は、コイル断面積を増大でき、軽量化を図ることができる。
【0013】
また、他の一態様では、上述のノイズ低減用巻線素子において、前記磁性部材は、その厚さtと、前記磁性部材の外周端とコア部の内周面との間隙sとが、s≧tの条件を満たすように形成されていることを特徴とする。
【0014】
例えば、磁性部材の外周端とコア部の内周面が近づきすぎると、その近傍において、磁束線が軸方向に対して非平行となる歪を発生し易くなる。そこで、上記ノイズ低減用巻線素子は、前記磁性部材がs≧tの条件を満たすように形成されることで、磁束線に上記歪の発生を、より効果的に抑制できる。
【0015】
また、他の一態様では、これら上述のノイズ低減用巻線素子において、前記コア部および前記磁性部材は、絶縁膜被覆金属粉末であって強磁性の金属粉末を加圧して固めた圧粉体から成ることを特徴とする。
【0016】
このようなノイズ低減用巻線素子は、圧粉体が等方磁性かつ大きい比抵抗を持つため、コア部および磁性部材内に生じる渦電流損を抑制できる。
【0017】
また、他の一態様では、これら上述のノイズ低減用巻線素子において、前記磁性部材は、前記使用周波数に対応したスキンデプス以下の厚みの帯状の軟磁性体を、第2絶縁層を挟んでパンケーキ状に巻回成形された巻鉄心であることを特徴とする。
【0018】
このようなノイズ低減用巻線素子では、巻き鉄心に用いられる軟磁性体は、強磁性の金属であり、例えば、純鉄、鉄基合金およびアモルファスが挙げられるが、等方磁性の圧粉に比べ、導体の幅方向に異方性かつ透磁率が数十〜百倍大きいため、磁束線に上記歪の発生を、より一層抑制でき、薄く(軽量に)できる。また、このようなノイズ低減用巻線素子は、第2絶縁層を挟んで比抵抗が大きいため円盤内の渦電流損を最小にできる。
【0019】
また、他の一態様では、これら上述のノイズ低減用巻線素子において、前記コア部の略中心部に配設された円筒状のポールピースを、さらに、備え、前記コア部は、前記略中心部に、前記ポールピースを受容する孔を備え、前記ポールピースは、前記コア部における孔の内周と前記ポールピースの外周との間に間隙が形成できるように、前記孔内に配設されていることを特徴とする。
【0020】
磁気回路の空隙は、ポールピースを囲んだ円形になる。この場合、ポールピースの組立誤差によって、空隙が狭まる部分と広がる部分とが出来るが、上記ノイズ低減用巻線素子では、それらのインダクタンスへの寄与が相殺するため、インダクタンスのばらつきは、組立精度に対して甚だ寛容になる(組立誤差のバラツキに対し、インダクタンスの値が安定化する)。また、インダクタンスの変化は、そのまま磁気吸引力を引き起こすため、交流励磁による空隙変化に伴う振動も、上記ノイズ低減用巻線素子では、本質的に生じない。
【0021】
また、他の一態様では、上述のノイズ低減用巻線素子において、前記コア部および前記ポールピースは、絶縁膜被覆金属粉末であって強磁性の金属粉末を加圧して固めた圧粉体からなり、前記ポールピースの密度が前記コア部の密度よりも高いことを特徴とする。
【0022】
このようなノイズ低減用巻線素子は、コア部に比べて磁束線が集中し磁束密度が高くなるポールピースを、コア部によりも透磁率が大きい材質、すなわち密度が高い材質で形成することにより、コイルへの漏洩磁束線を少なくでき、コイルの第1および第2導体内の渦電流損を抑制できる。
【0023】
また、他の一態様では、これら上述のノイズ低減用巻線素子において、前記コア部は、周方向に分割された複数の分割コアから成ることを特徴とする。
【0024】
このようなノイズ低減用巻線素子では、分割コアにより、コア部へのコイル装着の組み立てが容易となり、しかも、外部へ直接コイル発熱を逃がすことができる。また、このようなノイズ低減用巻線素子では、組立後や稼動時のコイル異常が目視確認もできる。
【0025】
また、本発明の一態様にかかるインバータ装置は、直流電力を交流電力へ変換するインバータ部と、前記インバータ部における入力側および出力側の少なくとも一方に配置されるコモンモードチョークコイルとを備え、前記コモンモードチョークコイルは、これら上述のいずれかのノイズ低減用巻線素子であることを特徴とする。
【0026】
これによれば、コモンモードチョークコイルとしてこれら上述のいずれかのノイズ低減用巻線素子を用いたインバータ装置が提供できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明にかかるノイズ低減用巻線素子は、帯状の導体を2枚重ねてパンケーキ巻きしても、ノーマルモードの信号成分に与える影響を低減でき、生産性を改善できる。そして、本発明によれば、このようなノイズ低減用巻線素子を用いたインバータ装置が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。また、本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0030】
図1は、実施形態のノイズ低減用巻線素子およびインバータ装置を用いたパワーコンディショナ装置の電気的な構成を示す回路図である。本実施形態におけるパワーコンディショナ装置PCは、負荷装置LDに供給する電力を制御する装置である。パワーコンディショナ装置PCは、例えば、電源PVから供給された電力の電圧および周波数等を制御することによって負荷装置LDに供給する電力を制御するものである。このようなパワーコンディショナ装置PCは、例えば、
図1に示すように、コモンモードチョークコイルCL1、CL2と、コンデンサC1〜C3、C6〜C8と、コンバータ部CVと、インバータ部IVと、ノーマルモードチョークコイルCL3とを備える。
【0031】
電源PVは、商用電源、前記商用電源を直流化した電源、一次電池や二次電池等の電池、および、太陽電池等の種々の電源を用いることができる。
図1に示す例では、電源PVとして太陽電池が用いられている。
【0032】
コモンモードチョークコイルCL1、CL2は、それぞれ、コモンモードノイズを低減または除去するために用いられるチョークコイルである。コモンモードチョークコイルCL1は、当該パワーコンディショナ装置PCから電源PVへ向かうコモンモードノイズを低減等するために用いられ、当該パワーコンディショナ装置PCの入力側に配置される。
図1に示す例では、コモンモードチョークコイルCL1は、電源PVとコンバータ部CVとの間に介在するように配置され、コモンモードチョークコイルCL1の入力端は、当該パワーコンディショナ装置PCの入力端であり、プラスおよびマイナスの極性を合わせて電源PVに接続されている。コモンモードチョークコイルCL2は、当該パワーコンディショナ装置PCから負荷装置LDへ向かうコモンモードノイズを低減等するために用いられ、当該パワーコンディショナ装置PCの出力側に配置される。
図1に示す例では、コモンモードチョークコイルCL2は、インバータ部IVと負荷装置LDとの間に介在するように配置される。これらコモンモードチョークコイルCL1、CL2コイルは、それぞれ、2個のコイル部と、前記2個のコイル部によって生じた磁束を通すとともに、前記2個のコイルを収納するコア部とを備える。これらコモンモードチョークコイルCL1、CL2コイルそれぞれについては、後に、より具体的に説明する。
【0033】
コモンモードチョークコイルCL1の出力端は、コンデンサC1〜C3を介してコンバータ部CVに接続される。より具体的には、コモンモードチョークコイルCL1の出力端は、その両端間に、互いに直列に接続された2個のコンデンサC1、C2と、電解コンデンサから成るコンデンサC3とが接続され、そして、プラスおよびマイナスの極性を合わせてコンバータ部CVの入力端に接続されている。なお、2個のコンデンサC1、C2から成る直列回路とコンデンサC3とは、並列に接続されている。
【0034】
コンバータ部CVは、コモンモードチョークコイルCL1およびコンデンサC1〜C3を介して電源PVから供給された電力の電圧を昇圧または降圧する装置である。コンバータ部CVは、例えば、昇圧用リアクトル(巻線素子、コイル)Lと、スイッチング素子Tr1と、還流ダイオード(フリーホイールダイオード)D1と、ダイオードD6と、コンデンサC4、C5を備える、いわゆるチョッパ式のDC−DCコンバータ回路である。スイッチング素子Tr1は、例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT,Insulated Gate Bipolar Transistor)素子やパワーMOSFET素子等の電力用のトランジスタ素子である。ここでは、大電力用のIGBT素子がスイッチング素子Tr1として用いられている。
【0035】
コンバータ部CVの入力端におけるプラス端には、昇圧用リアクトルRLの一方端が接続され、昇圧用リアクトルの他方端は、ダイオードD6のアノード端子およびIGBT素子Tr1のコレクタ端子に接続される。そして、コンバータ部CVの入力端におけるマイナス端には、前記IGBT素子Tr1のコレクタ端子が接続される。IGBT素子Tr1のゲート端子は、IGBT素子Tr1にオンオフのタイミングを制御する図略のコンバータ制御回路に接続される。また、IGBT素子Tr1のコレクタ端子とエミッタ端子との間には、還流ダイオードD1が並列に接続される。すなわち、IGBT素子Tr1のコレクタ端子には、還流ダイオードD1のカソード端子が接続され、IGBT素子Tr1のエミッタ端子には、還流ダイオードD1のアノード端子が接続されている。このように還流ダイオードD1は、その向きがIGBT素子Tr1の入出力方向とは逆に接続されている。そして、このダイオードD6とスイッチング素子Tr1との直列接続回路が、互いに並列に接続されたコンデンサC4と電解コンデンサC5との並列接続回路の両端に、並列で接続されている。
【0036】
このようなコンバータ部CVでは、スイッチング素子Tr1がオンすると、電源PVからのエネルギーが昇圧用リアクトルRLに蓄積され、スイッチング素子Tr1がオフすると、昇圧用リアクトルRLに蓄積されたエネルギーが放出される。これにより電源PVの電圧に昇圧用リアクトルRLの電圧が加算されて電圧レベルが変換され、ダイオードD6を介して並列接続されたコンデンサC4および電解コンデンサC5で平滑されつつ出力される。コンデンサC4および電解コンデンサC5の並列接続回路における両端がコンバータ部CVの出力端となっている。
【0037】
インバータ部IVは、直流電力を交流電力へ変換する装置である。インバータ部IVの入力端は、コンバータ部CVの出力端、すなわち、コンデンサC4および電解コンデンサC5の並列接続回路における両端に接続される。インバータ部IVは、例えば、複数のスイッチング素子と、これら複数のスイッチング素子のそれぞれに接続される複数の還流ダイオードとを備える。
【0038】
本実施形態では、例えば負荷装置LDに1相の交流電力を給電するために、4個のスイッチング素子Tr2〜Tr5と、スイッチング素子Tr2〜Tr5と同数の4個の還流ダイオードD2〜D5とを備えている。より具体的には、スイッチング素子Tr2〜Tr5は、スイッチング素子Tr1と同様に、例えばIGBT素子やパワーMOSFET素子等の電力用のトランジスタ素子であり、ここでは、大電力用のIGBT素子がスイッチング素子Tr2〜Tr5として用いられている。
【0039】
IGBT素子Tr2とIGBT素子Tr3とは、IGBT素子Tr2のエミッタ端子がIGBT素子Tr3のコレクタ端子に接続されることによって、直列に接続されており、1対のスイッチング部を構成している。同様に、IGBT素子Tr4とIGBT素子Tr5とは、IGBT素子Tr4のエミッタ端子がIGBT素子Tr5のコレクタ端子に接続されることによって、直列に接続されており、1対のスイッチング部を構成しる。これらIGBT素子Tr2〜Tr5の各ゲート端子は、IGBT素子Tr2〜Tr5にオンオフのタイミングを制御する図略のインバータ制御回路に接続される。また、還流ダイオードD2〜D5は、それぞれ、そのアノード端子がエミッタ端子に接続されるともにそのカソード端子がコレクタ端子に接続されることによって、IGBT素子Tr2〜Tr6のそれぞれに並列に接続される。すなわち、これら還流ダイオードD2〜D5は、それぞれ、その向きがIGBT素子Tr2〜Tr5の入出力方向とは逆に接続されている。
【0040】
そして、これらIGBT素子Tr2およびIGBT素子Tr3の直列接続回路と、IGBT素子Tr4およびIGBT素子Tr5の直列接続回路とは、互いに並列に接続され、さらに、コンバータ部CVの出力端、すなわち、コンデンサC4および電解コンデンサC5の並列接続回路における両端に接続される。言い換えれば、コンデンサC4、C5の一方端には、IGBT素子Tr2およびIGBT素子Tr4の各コレクタ端子が接続され、コンデンサC4、C5の他方端には、IGBT素子Tr3およびIGBT素子Tr5の各エミッタ端子が接続されている。
【0041】
このような構成のインバータ部IVは、図略の前記インバータ制御回路の制御によって、これらIGBT素子Tr2〜Tr5を適宜なタイミングでオンオフすることによって、直流電力から交流電力へ変換する。そして、各直列接続回路の各接続点から、すなわち、IGBT素子Tr2とIGBT素子Tr3との接続点、および、IGBT素子Tr4とIGBT素子Tr5との接続点の各接続点から、インバータ部IVの交流電力が出力される。
【0042】
インバータ部IVの出力端は、ノーマルモードチョークコイルCL3、コンデンサC6、コモンモードチョークコイルCL2およびコンデンサC7、C8を介して負荷装置LDに接続される。より具体的には、インバータ部IVの出力端は、ノーマルモードチョークコイルCL3の入力端に接続され、ノーマルモードチョークコイルCL3の出力端は、コモンモードチョークコイルCL2の入力端に接続される。ノーマルモードチョークコイルCL3の出力端とコモンモードチョークコイルCL2の入力端の間には、並列に、コンデンサC6が接続されている。すなわち。コンデンサC6は、ノーマルモードチョークコイルCL3の入力端における両端間に接続されるとともに、コモンモードチョークコイルCL2の入力端における両端間に接続される。コモンモードチョークコイルCL2の出力端は、その両端間に、互いに直列に接続された2個のコンデンサC7、C8から成る直列回路が接続され、負荷装置LDに接続される。
【0043】
そして、太陽電池PVの接地線、パワーコンディショナ装置PCの接地線および負荷装置LDの接地線は、接地される。パワーコンディショナ装置PCの接地線は、互いに直列に接続されたコンデンサC1およびコンデンサC2の接続点(入力側接地点)と、互いに直列に接続されたコンデンサC7およびコンデンサC8の接続点(出力側接地点)とのそれぞれから引き出されている。
【0044】
次に、前記ノイズ低減用巻線素子について、以下に、より具体的に説明する。上述のパワーコンディショナ装置PCのコモンモードチョークコイルCL1、CL2として、次のような第1ないし第5態様のノイズ低減用巻線素子10A〜10Eが用いられる。以下、順に説明する。
【0045】
図2は、前記パワーコンディショナ装置に用いられる第1態様のノイズ低減用巻線素子の構成を示す断面図である。
図3は、前記第1態様のノイズ低減用巻線素子に用いられるコイルの模式図である。
図4は、各種金属材料のスキンデプス(表皮厚み)を周波数の関数として表したグラフである。
図4の横軸は、kHz単位で表す周波数であり、その縦軸は、mm単位で表すスキンデプス(表皮厚み)である。
図5は、前記第1態様のノイズ低減用巻線素子に用いられる第1導体と第2導体とを巻枠に巻回する前の説明図である。
図6は、前記第1態様のノイズ低減用巻線素子に用いられるコイルの製造方法における第1導体と第2導体とを巻枠に巻回し始めた状態の説明図である。
図7は、前記第1導体と前記第2導体とを巻枠に巻回している途中の状態の説明図である。
図8は、前記第1導体と前記第2導体とを巻枠に巻回成形し終えた状態の斜視図である。
図9は、前記第1および第2導体をダブルパンケーキ巻で形成したコイルをコア部に収納した状態の斜視図である。
【0046】
この第1態様のノイズ低減用巻線素子10Aは、
図2に示すように、コア部1と、コア部1に内包されたコイル2と、磁性部材3とを備える。
【0047】
コア部1は、コイル2に通電した場合にコイル2に生じる磁場の磁束を通し、コイル2を収納する部材である。このコア部1は、本実施形態では、
図2に示すように、コイル2を内包するいわゆるポット型であり、コア部1は、軸方向に対向する2個の第1および第2コア部材1a、1bとを備える。
【0048】
第1および第2コア部材1a、1bは、この実施形態では、生産性を向上させる観点から、同形とされており、第1および第2コア部材1a、1bは、それぞれ、コイル2の軸方向の端部を覆う円板形状の円板部11と、円板部11の外周縁から略垂直に延びる円筒部12とを備える。
【0049】
これら第1および第2コア部材1a、1bは、所定の磁気特性を有する材料で構成される。この実施形態では、第1および第2コア部材1a、1bは、絶縁膜被覆金属粉末を加圧して固めた圧粉体(圧粉コア)から成る。前記圧粉体に用いられる金属粉末は、軟磁性粉末であって、強磁性の金属粉末である。前記金属粉末は、例えば、純鉄粉、鉄基合金粉末(例えばFe−Al合金、Fe−Si合金、センダスト、パーマロイ等)、或いは、アモルファス粉末が挙げられる。さらに、上記軟磁性粉末の表面を覆う絶縁膜被覆として、酸化物等の無機材料による皮膜、シリコーン樹脂等の有機材料による皮膜、および、無機材料と有機材料との2層等の複合された皮膜等のうちのいずれかの皮膜が形成されている。
【0050】
なお、第1および第2コア部材1a、1bは、その粉末の粒度や粒度分布、および、成形体密度等により磁気特性を制御でき、例えば、成形体の密度を高くすることで透磁率を高く、粉末の粒度を小さくすることで渦電流損を抑制することが可能である。このため、ノイズ低減用巻線素子10Aに求められる電磁気特性を実現するために、圧粉体に用いる粉末の粒度や成形体の密度等が調節される。成形体の密度は、純鉄粉の場合、約3.0g/cc〜約5.0g/ccの範囲では非磁性粉末材料の添加量で調節でき、約5.0g/cc〜約7.7g/ccの範囲では成形時の加圧力で調節できる。
【0051】
そして、第1コア部材1aの円筒部12と第2コア部材1bの円筒部12とがそれら端面で互いに当接するように合わされ、これにより、内部にコイル収納部13を有するコア部1が形成される。
【0052】
第1コア部材1aの円筒部12と第2コア部材1bの円筒部12とに、それぞれ、円筒部12の端面から所定深さで、コイル収納部13から外部に貫通するように開けられた口出し孔14が設けられる。
【0053】
コイル2は、第1コイル部2aと、第1コイル部2aの軸方向の一方側(
図1の上側)に積層された第2コイル部2bとを備える。
【0054】
これら第1コイル部2aと第2コイル部2bとは、2つの、所定の幅で一方向に長尺な帯状(テープ状、リボン状)の第1導体21および第2導体22によって形成されている。
【0055】
第1導体21と第2導体22とは、この実施形態では、互いに同一構成を採っており、絶縁材で絶縁被覆された所定の厚さを有するアルミニウムからなる。第1導体21および第2導体22それぞれの厚さ(この例ではアルミニウムの厚さ)は、ノイズ低減用巻線素子10Aに給電される使用周波数(駆動周波数)に対するスキンデプス(表皮厚み)以下の厚さであり、これによってその渦電流損がより低減できる。一般に、コイルに流れる電流は、スキンデプスまでの範囲でしか流れず、導体断面全体に一様に電流が流れない。したがって、第1および第2導体21、22の厚みをスキンデプス以下に設定することで渦電流損が減少できる。スキンデプスδは、一般に、δ=(ρ/πfμ)
1/2である(ただし、f;周波数、μ;導体部材の透磁率、ρ;導体部材の電気伝導率)。なお、
図4には、各種金属材料のスキンデプスδが周波数の関数としてグラフで示されている。
【0056】
第1導体21と第2導体22とは、
図3に示すように、それぞれ、前記帯状の長手方向の一方部分を第1コイル形成部21a、22aとし、その長手方向の他方部分を第2コイル形成部21b、22bとし、それらの第1コイル形成部21a、22aと第2コイル形成部21b、22bとの間の部分を連結部21c、22cとしている。
【0057】
第1コイル形成部21a、22aは、パンケーキ状に巻回されて第1コイル部2aを形成する。第2コイル形成部21b、22bは、パンケーキ状に巻回されて第2コイル部2bを形成する。この第2コイル形成部21b、22bの幅および長さは、第1コイル形成部21a、22aと略同じである。
【0058】
連結部21c、22cは、第1コイル形成部21a、22aと第2コイル形成部21b、22bとを連結している。この実施形態では、連結部21c、22cは、第1コイル形成部21a、22aおよび第2コイル形成部21b、22bの長手方向(X−X方向)に対して所定の角度αをなすように幅方向(Y−Y方向)に屈曲されて第1コイル形成部21a、22aから第2コイル形成部21b、22bに延設されている。連結部21c、22cの幅は、第1コイル形成部21a、22aと同じ幅である。
【0059】
したがって、第1コイル形成部21a、22aと第2コイル形成部21b、22bとは、互いに幅方向(Y−Y方向)に所定の距離L2を隔てている。前記距離L2は、第1コイル形成部21a、22aおよび第2コイル形成部21b、22bの幅L1よりも大きい。
【0060】
そして、これら第1導体21と第2導体22とは、次のようにパンケーキ状に巻回成形されて第1コイル部2aと第2コイル部2bとを形成している。
【0061】
より具体的には、
図5に示すように、まず、予め、第1導体21および第2導体22それぞれの第1コイル形成部21a、22aおよび第2コイル形成部21b、22bは、仮巻き取りボビン51に巻き取られている。なお、第1コイル形成部21a、22aと第2コイル形成部21b、22bとの仮巻き取りボビン51への巻き方向は、互いに反対である。
【0062】
そして、第1導体21の連結部21cが、円筒状の巻枠52に背後からあてがわれるようにして固定され、一方、第2導体22の連結部22cが、巻枠52に前方側からあてがわれるようにして固定される。すなわち、第1導体21の連結部21cと第2導体22の連結部22cとは、巻枠52を介してクロス状で互いに対向して巻枠52に固定される。
【0063】
そして、
図6および
図7に示すように、絶縁被覆された第1導体21の第1コイル形成部21aにおける厚さ方向の一方面25aに、絶縁被覆された第2導体22の第1コイル形成部22aを径方向外側に重ね合わせるように配置した状態で、第1導体21の第1コイル形成部21aおよび第2導体22の第1コイル形成部22aそれぞれが、仮巻き取りボビン51から巻解かれながら巻枠52に、図の時計方向にパンケーキ状に巻き付けられて行く。これにより、2つの帯状の第1および第2導体21、22における長手方向の一方部分21a、22aを、絶縁層を挟んで第1導体21(21a)の厚さ方向の一方面側に第2導体22(22a)が配置された状態でパンケーキ状に巻回成形することにより形成された、パンケーキ状の第1コイル部2aが形成される。
【0064】
同様に、第2導体22の第2コイル形成部22bを第1導体21の第2コイル形成部21bの厚さ方向の他方面25b側に配置した状態で、第2導体22の第2コイル形成部22bおよび第1導体21の第2コイル形成部21aそれぞれが、仮巻き取りボビン51から巻解かれながら巻枠52に、図の反時計方向にパンケーキ状に巻き付けられて行く。これにより、第1および第2導体21、22における長手方向の残余部分21b、22bを、絶縁層を挟んで第1導体21(21b)の厚さ方向の他方面側に第2導体22(22b)が配置された状態でパンケーキ状に巻回成形することにより形成された、パンケーキ状の第2コイル部2bが形成される。
【0065】
この結果、
図8に示すように第1コイル部2aの軸方向の一方側(
図8の上側)に、パンケーキ状の第2コイル部2bが形成され、ダブルパンケーキ巻のコイル2が得られる。
【0066】
そして、第1コイル部2aを形成した第1コイル形成部21a、22aのエンド端は、径方向外側に折り曲げ成形されて第1コイル部用口出し部21d、22dを形成し、同様に、第2コイル部2bを形成した第2コイル形成部21b、22bのエンド端は、径方向外側に折り曲げ成形されて第2コイル部用口出し部21e、22eを形成する。
【0067】
これらの口出し部21d、22d;21e、22eは、エンド端を径方向外側に1回だけ、折り曲げるだけでよく、容易に製作できる。なお、折り曲げは、全量巻き終えた後に折り曲げてもよいが、例えば、上述の仮巻取り置きボビン51に、予め口出し部成形用スリットが設けられ、その口出し部成形用スリットに、第1コイル形成部21a、22aや第2コイル形成部21b、22bのエンド端が、挿入されて先に折り曲げ成形されてもよい。このようにすれば、口出し部の長さや折り曲げ量の精度が安定するので、より好ましい。
【0068】
このようにダブルパンケーキ巻に形成されたコイル2は、
図9に示すように、第1コア部材1aと第2コア部材1bとが合わされる際に、第1コア部材1aの口出し孔14に第2コイル部用口出し部21e、22eが、第2コア部材1bの口出し孔14に第1コイル部用口出し部21d、22dが、それぞれ、入れられるようにして、コイル収納部13に収納される。
【0069】
次に、
図2に戻って、磁性部材3について説明する。磁性部材3は、磁束線の軸方向に対して非平行となる歪を抑制するための部材であり、この実施形態の磁性部材3は、コア部1と同じ素材からなる円板状の磁性部材から構成されている。より具体的には、磁性部材3は、絶縁膜被覆金属粉末であって強磁性の金属粉末を加圧して固めた圧粉体からなる。
【0070】
この磁性部材3は、第1コイル部2aと第2コイル部2bとの間に配設されている。磁性部材3は、好ましくは、その厚さtが、磁性部材3の外周面(外周端)とコア部の内周面との間隙sと同じか、または、小さくなるように形成されている(s≧t)。
【0071】
このような構成の第1態様のノイズ低減用巻線素子10Aは、第1導体21と第2導体22とを2枚重ねにすることで、例えば1つの導体を同じ径の1つのシングルパンケーキ巻に成形したコイルに比べて巻数が半減するが、第1コイル部2aと第2コイル部2bとを形成した、いわゆるダブルパンケーキ巻に形成することで2段の直列となって倍化して、コイル2全体の巻数は、不変となる。一方、導体断面積も、上記の1つのシングルパンケーキ巻のコイルに比べてダブルパンケーキ巻に形成することによって半減するが、並列2枚重ねによって倍化して不変となる。したがって、同じ寸法形状という制約条件では、上記第1態様のノイズ低減用巻線素子10Aは、第1および第2導体21、22の2枚重ねのダブルパンケーキ巻とすることで、コイル2全体の巻数および導体断面積を不変にしつつ、第1および第2導体21、22における両端部分21d、21e;22d、22eをダブルパンケーキ巻の最外周に位置させることができ、シングルパンケーキ巻に較べて口出しが簡単となる。このため、シングルパンケーキ巻では、帯状導体の端部分を直角に折り返して複数回折り畳むという、自動化し難い生産性の悪い前記工程が不要となり、上記第1態様のノイズ低減用巻線素子10Aは、生産性を改善できる。しかも、第1態様のノイズ低減用巻線素子10Aでは、第1および第2導体21、22の両端部がコア部1の外周に集められることによって、第1および第2導体21、22とコア部1の内壁面の接合面とを単純化でき、より薄く密着性の良い熱接触が可能となり、放熱性が著しく改善される。
【0072】
図10は、前記ノイズ低減用巻線素子に用いられるコイルの等価回路を示す図である。
図11は、比較例のコイルの等価回路を示す図である。そして、例えば第1導体21の厚さ方向の一方面側に第2導体22が配置されて第1コイル部および第2コイル部が巻回成形されると、
図11に示すように第1導体21と第2導体22とによって形成される有限面積のエリア(
図11に斜線で示す部分)を貫通する交流漏れ磁束線q2が誘導起電力p3を発生してしまうおそれがある。
【0073】
一方、上記第1態様のノイズ低減用巻線素子10Aは、ダブルパンケーキ巻としつつ、軸方向に積層された上下で第1および第2導体21、22の厚み方向の配置を逆転させている。このため、
図10に示すように第1コイル部2aの第1導体21と第2導体22とに生じる誘導起電力p1と、第2コイル部2bの第1導体21と第2導体22とに生じる誘導起電力p2が相殺されて渦電流が効果的に抑制され、渦損を抑えることができ、第1導体21によるコイルおよび第2導体22によるコイルの各インダクタンス値をバランスさせることができる。
【0074】
さらに、上述したように、上記第1態様のノイズ低減用巻線素子10Aは、第1および第2導体21、22それぞれがスキンデプス以下の厚さであるので、第1および第2導体21、22それぞれで生じる渦電流をさらに効果的に抑制できる。
【0075】
また、上記第1態様のノイズ低減用巻線素子10Aは、一方の口出し部21d、22dから他方の口出し部21e、22eまでの間に、電気的な接続部分を有しないので、いわゆる常温超伝導材料で第1および第2導体21、22を形成する場合に、好適な構造である。
【0076】
以上より、上述のように構成された第1態様のノイズ低減用巻線素子10Aは、帯状の導体21、22を2枚重ねてパンケーキ巻きしても、ノーマルモードの信号成分に与える影響を低減でき、生産性を改善できる。そして、本実施形態は、このような第1態様のノイズ低減用巻線素子10Aを用いたインバータ部IVおよびパワーコンディショナ装置PCを提供できる。したがって、本実施形態におけるインバータ部IVおよびパワーコンディショナ装置PCは、上記第1態様のノイズ低減用巻線素子10Aを用いるので、ノーマルモードの信号成分に与える影響を低減でき、生産性を改善できる。
【0077】
図12は、前記第1態様のノイズ低減用巻線素子に用いられる磁性部材の磁束線図を表した前記第1態様のノイズ低減用巻線素子の要部拡大断面図である。例えば、導体の幅が拡大するとコイル内部で磁束線が軸方向に対して非平行となる歪を発生し易くなる。このため、第1態様のノイズ低減用巻線素子10Aは、第1コイル部2aと第2コイル部2bとの間に配置された円板状の磁性部材3を備えることで、外径側の磁束線が軸方向への直進性を回復し、磁束線が軸方向に対して非平行となる歪の発生を抑制できる。これにより、例えばコイル径を拡大すると、全体径が大きくなって重量の大半を占めるコア部の径が大きくなる結果、軽量化を妨げることになるので、重量の増加し難い幅方向に導体を拡大することによって、上記ノイズ低減用巻線素子は、コイル断面積を増大でき、軽量化を図ることができる。
【0078】
また、例えば、磁性部材の外周端とコア部の内周面が近づきすぎると、その近傍において、磁束線が軸方向に対して非平行となる歪を発生し易くなる。このため、第1態様のノイズ低減用巻線素子10Aは、上述のように、磁性部材3の厚さtが上記間隙sと同じかまたは小さくなるように形成されることによって、
図12に示すように磁性部材3によって、コイル2の外径側の磁束線qの軸方向への直進性を保つ効果が大きくなり、磁束線qの軸方向に対して非平行となる歪の発生をより効果的に抑制できる。
【0079】
また、上述の第1態様のノイズ低減用巻線素子10Aでは、コア部1および磁性部材3は、前記圧粉体から成っている。このため、第1態様のノイズ低減用巻線素子10Aは、圧粉体が等方磁性かつ大きい比抵抗を持つため、コア部および磁性部材内に生じる渦電流損を抑制できる。
【0080】
図13は、他の実施形態の磁性部材の磁束線図を表した前記第1態様のノイズ低減用巻線素子の要部拡大断面図である。
図14は、磁性部材を設けない場合の磁束線図を表した前記第1態様のノイズ低減用巻線素子の要部拡大断面図である。なお、上述では、磁性部材3は、その厚さtが、磁性部材3の外周面とコア部の内周面との間隙sと同じかまたは小さくなるように形成された(s≧t)が、この形態に限らず、適宜に変更できる。例えば、
図13に示すように磁性部材203は、その厚さtが、磁性部材203の外周面とコア部1の内周面との間隙sよりも大きく(s<t)なるように形成されてもよい。この場合は、上記実施形態のようにs≧tの条件の場合に比べて磁束線qが歪むが、磁性部材3を有しない
図14に示す場合よりも、コイル2の外径側の磁束線qの歪を抑えることができる。
【0081】
図15は、実施形態における第2態様のノイズ低減用巻線素子の断面図である。また、上記第1態様のノイズ低減用巻線素子10Aでは、磁性部材3が備えられたが、例えば、
図15に示すように、磁性部材3が備えられていなくてもよい(第2態様のノイズ低減用巻線素子10B)。この場合、例えば、コイル2を構成する第1導体121および第2導体122が銅製で形成されると、銅の比抵抗(1.68μΩcm)は、アルミニウムの比抵抗(2.65μΩcm)よりも小さいので、同一の直流抵抗の場合、第1導体121および第2導体122の幅L2は、上記アルミニウムで形成されるものの幅L1(
図1に図示)よりも狭くできる。したがって、磁性部材3を有しない場合でも、外径側の磁束線の歪を抑えることができる点で好ましい。
【0082】
ただし、第1導体121および第2導体122がアルミニウム製に代えて銅製であって同一の直流抵抗の場合、この第2態様のノイズ低減用巻線素子10Bは、アルミニウム製のものに比べて重量が大きくなってしまい、車載用途など軽量化の要求に応え難くなる。そのため、上述のように、第1態様のノイズ低減用巻線素子10Aは、コイル2をアルミニウム製の幅広い第1導体21および第2導体22で形成し、磁性部材3を有する構成とすることで、磁束線の歪を抑え得る軽量化したものとなり、好ましい。
【0083】
図16は、実施形態における第3態様のノイズ低減用巻線素子の断面図である。上記第1態様のノイズ低減用巻線素子10Aでは、磁性部材3は、圧粉体で構成されたが、この形態に限らず、適宜に変更できる。例えば、
図16に示すように磁性部材303は、使用周波数に対応したスキンデプス以下の厚みの帯状の軟磁性体303aを、第2絶縁層を挟んでパンケーキ状に巻回成形した巻鉄心から構成されてもよい(第3態様のノイズ低減用巻線素子10C)。巻鉄心に用いられる軟磁性体303aは、強磁性の金属であり、例えば、純鉄、鉄基合金、およびアモルファスが挙げられる。このような第3態様のノイズ低減用巻線素子10Cは、等方磁性の圧粉体に比べ、コイルの幅方向に異方性かつ透磁率が数十〜百倍大きいため、外径側の磁束線の歪を抑える効果が大きく、薄く(軽量に)できる。また、第3態様のノイズ低減用巻線素子10Cは、第2絶縁層を挟んで比抵抗が大きいため、円盤内の渦電流損を最小にできる。
【0084】
図17は、実施形態における第4態様のノイズ低減用巻線素子の断面図である。上記第1態様のノイズ低減用巻線素子10Aでは、コア部1は、中心部に孔を有しない円柱状の部材で構成されたが、この形態に限らず、適宜に変更し得る。例えば、
図17に示すように、コア部401は、その中心部に孔401aを有する円筒状の部材で構成され、その孔401aには、円柱状のポールピース406が配設されてもよい(第4態様のノイズ低減用巻線素子10D)。
【0085】
より具体的には、ポールピース406は、例えば、絶縁膜被覆金属粉末を加圧して固めた圧粉体(圧粉コア)から成る円筒体である。前記圧粉体に用いられる金属粉末は、軟磁性粉末であって、強磁性の金属粉末である。前記金属粉末は、例えば、上述したように、純鉄粉、鉄基合金粉末(例えばFe−Al合金、Fe−Si合金、センダスト、パーマロイ等)、或いは、アモルファス粉末が挙げられる。
【0086】
ポールピース406は、その外径がコア部401の孔401aの内径よりも小さく、ポールピース406の外周面とコア部401の孔401aの内周面との間に、空隙407ができるように形成されている。
【0087】
このようにコア部401の中心部にポールピース406が配設された同軸構造にすると、磁気回路の空隙407は、ポールピース406を囲んだ円形になる。この場合、ポールピース406の組立誤差によって、空隙407が狭まる部分と広がる部分が出来るが、上記第4態様のノイズ低減用巻線素子では、それらのインダクタンスへの寄与が相殺するため、インダクタンスのばらつきは、組立精度に対して甚だ寛容になる(組立誤差のバラツキに対し、インダクタンスの値が安定化する)。インダクタンスの変化は、そのまま磁気吸引力を引き起こすため、交流励磁による空隙変化に伴う振動も、本質的に生じない。
【0088】
また、その場合において、コア部401に比べて磁束線が集中し磁束密度が高くなるポールピース406は、コア部401によりも透磁率が大きい材質、すなわち密度が高い材質で形成されることが好ましい。これにより、コイル2への漏洩磁束線を少なくでき、コイル2の第1および第2導体21、22内の渦電流損を抑制できる。
【0089】
図18は、実施形態における第5態様のノイズ低減用巻線素子の断面図である。上記第1態様のノイズ低減用巻線素子10Aでは、コア部1は、円板部を有する第1および第2コア部材1a、1bで構成されたが、この形態に限らず、適宜に変更できる。例えば、
図18に示すように、コア部501は、周方向に分割された複数(
図18に示す例では2つに分割)の分割コア501aから構成されたものでもよい(第5態様のノイズ低減用巻線素子10E)。このように構成することによって、コア部501へのコイル2の組み立てがやり易く、しかも、コイル2の発熱を外部へ直接放熱できる。また、組立後や稼動時のコイル2の異常を目視で確認することも可能になる。
【0090】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。