【文献】
Nat Biotechnol,日本,2010年 6月,vol. 28, no. 6,p. 606-610
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の詳細な説明において、その一部を形成し、例として、デバイス、システムおよび方法のいくつかの特別な実施の形態が示されている、添付図面を参照する。他の実施の形態が考えられ、本開示の範囲または精神から逸脱せずに、作製されるであろうことが理解されよう。したがって、以下の詳細な説明は、制限を意味するものと解釈すべきではない。
【0013】
ここに使用した全ての科学用語と技術用語は、別記しない限り、当該技術分野に一般に使用されている意味を有する。ここに提供された定義は、ここに頻繁に使用される特定の用語の理解を容易にするものであり、本開示の範囲を制限することは意味しない。
【0014】
本明細書および付随の特許請求の範囲に使用されているように、単数形は、そうではないと明白に示されていない限り、複数の対象を有する実施の形態を包含する。本明細書および付随の特許請求の範囲に使用されているように、「または」という用語は、そうではないと明白に示されていない限り、「および/または」を含む意味で一般に使用される。
【0015】
ここに用いたように、「有する(have, having)」、「含む(include, including, comprise, comprising)」などの用語は、範囲を制限しない意味で使用されており、一般に、「含む(including)が、制限されない」ことを意味する。「から実質的になる」、「からなる」などの用語は、「含む(comprising)」などに包含されることが理解されよう。
【0016】
ここに用いたように、「コンジュゲートした(conjugated)」は、モノマーまたはポリマーおよびポリペプチドに関するように、ポリペプチドが、ポリマーまたはモノマーに直接的または間接的(例えば、スペーサを介して)に共有結合していることを意味する。
【0017】
ここに用いたように、「モノマー」は、別のモノマーと重合できる化合物を意味する(「モノマー」が、他のモノマーと同じまたは異なる化合物であるか否かにかかわらず)。
【0018】
ここに用いたように、「(メタ)アクリレートモノマー」は、メタクリレートモノマーまたはアクリレートモノマーを意味する。ここに用いたように、「(メタ)アクリルアミドモノマー」は、メタクリルアミドモノマーまたはアクリルアミドモノマーを意味する。(メタ)アクリレートモノマーおよび(メタ)アクリルアミドモノマーは、少なくとも1つのエチレン性不飽和部分を有する。「ポリ(メタ)アクリレート」は、ここに用いたように、少なくとも1つの(メタ)アクリレートモノマーを含む1種類以上のモノマーから形成されたポリマーを意味する。「ポリ(メタ)アクリルアミド」は、ここに用いたように、少なくとも1つの(メタ)アクリルアミドモノマーを含む1種類以上のモノマーから形成されたポリマーを意味する。
【0019】
ここに用いたように、ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーと「実質的に類似の」、コンジュゲートしたポリペプチドを含まないポリマーは、そのポリペプチドが含まれないことを除いて、ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーと同じ様式で形成されたポリマーである。例えば、ポリペプチドは、ポリマーが形成された後にグラフトによってポリマーにコンジュゲートされてもよい。そのような場合、ポリペプチドにコンジュゲートしていない実質的に類似のポリマーは、グラフトされていないポリマーである。さらに別の例として、モノマーをポリペプチドで誘導体化してもよく、ポリペプチドは、モノマーが重合または共重合されるときに、ポリマーに取り込まれてもよい。そのような場合、ポリペプチドにコンジュゲートしていない実質的に類似のポリマーは、モノマーがポリペプチドで誘導体化されていないことを除いて、ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーと同じ反応条件下で形成されたポリマーである。
【0020】
ポリペプチド配列は、ここでは、1文字のアミノ酸コードまたは3文字のアミノ酸コードにより称される。これらのコードは交換可能に使用してよい。
【0021】
ここに用いたように、「ペプチド」および「ポリペプチド」は、化学合成されても、または組換え由来であってもよいが、動物源から完全なタンパク質として単離されない、アミノ酸の配列を意味する。本開示の目的に関して、ペプチドおよびポリペプチドは総タンパク質ではない。ペプチドおよびポリペプチドは、タンパク質の断片であるアミノ酸配列を含んでよい。例えば、ペプチドおよびポリペプチドは、RGDなどの細胞接着配列として知られている配列を含んでもよい。ポリペプチドは、長さが3と30の間のアミノ酸などの、任意の適切な長さのものであってよい。ポリペプチドは、それらが、例えば、エクソペプチダーゼにより分解されるのを防ぐために、アセチル化(例えば、Ac−LysGlyGly)またはアミド化(例えば、SerLysSer−NH
2)されていてもよい。これらの修飾は、ある配列が開示された場合に考えられることが理解されよう。
【0022】
ここに用いたように、「既知組成培地」は、未知の組成の成分を含有しない細胞培養培地を意味する。既知組成培地は、様々な実施の形態において、タンパク質または加水分解物を含有しないであろう。
【0023】
実施の形態において、ここに記載されたポリマーおよびポリペプチドは「合成」のものである。すなわち、それらは、動物または動物抽出物に由来する成分を含まない。ポリマーまたはモノマーは、ポリペプチドにコンジュゲートされてよい(「ポリマー−ポリペプチド」または「モノマー−ポリペプチド」)。ポリペプチドは、合成しても、またはそれらを合成の非動物由来物質とする組換え技法により得てもよい。
【0024】
本開示は、特に、細胞を培養するための、または細胞培養物品を被覆するための組成物および方法を記載する。この組成物および方法は、コンジュゲートしたポリペプチドを有する合成ポリマーを含む。この合成ポリマー−ペプチドは、水溶性であるが、約37℃での培地中でのインキュベーションなどの、典型的な哺乳類細胞の培養条件下で細胞培養物品の表面に接着する。細胞培養条件は、バックグラウンドまたは周囲レベルより高いレベルでの紫外線照射などの照射線への曝露を含まないことが理解されよう。
【0025】
ポリマー−ペプチドは、接着補助物質として細胞培養培地に加えられても、またはその培地の一部であってもよい。細胞は、そのポリマー−ペプチドを含有する細胞培養培地に加えても、または細胞が播種された培地が、細胞培養物品上に配置されても、またはそれと接触させられてもよい。細胞培養条件下で、例えば、約37℃での培地中でのインキュベーションにより、ポリマー−ペプチドは、細胞培養物品の表面に接着し、細胞がそのポリマー−ペプチドのペプチドに接着する。それゆえ、細胞は、ポリマー−ペプチドを介して、細胞培養物品の表面に接着する。
【0026】
ここに記載された実施の形態において、細胞培養物品の表面への細胞の接着は、培地にポリマー−ペプチドを加え、未被覆の細胞培養物品に接触させることによって、ポリマー−ペプチドを含まない培地中の細胞をポリマー−ペプチドでプレコートされた物品に接触させることに対して向上している。
【0027】
合成ポリマー−ペプチド
典型的な細胞培養条件下で培地中においてインキュベーションされたときに、ポリマーが細胞培養物品の表面に接着するという前提で、細胞培養培地接着補助物質として、コンジュゲートしたポリペプチドを有するどのような適切な水溶性ポリマーを用いてもよい。実施の形態において、ここに記載された合成ポリマーおよびコンジュゲートしたポリペプチドは、低温(例えば、20℃未満)または室温(25℃)の水中に可溶性であるが、典型的な細胞培養条件下(例えば、約37℃)に曝されると、基体にしっかりと接着されるようになる。実施の形態において、合成ポリマーおよびコンジュゲートしたポリペプチドは、室温(例えば、約25℃)辺りの温度で基体にしっかりと接着されるようになる。合成ポリマーおよびコンジュゲートしたポリペプチドは、どのような所望の温度でも基体に接着するように修飾されてもよい。実施の形態において、このポリマーは、架橋剤を含まない、または架橋がないが、それらは、細胞培養培地などの水性培地中で細胞培養基体と接触したときに、その基体と接着する。ポリマー−ペプチドのその基体への接着は、典型的なバックグラウンドの照射レベルより高い照射レベル、例えば、紫外線照射に曝露されずに起こる。
【0028】
ここに記載されたポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーは、室温以下で水溶性であってよい。しかしながら、実施の形態において、ポリペプチドにコンジュゲートしていない実質的に類似のポリマーは、室温以下で水溶性ではない。そのような実施の形態において、ポリペプチドは、ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーを水溶性にする働きをする。実施の形態において、ポリペプチドにコンジュゲートしていない実質的に類似のポリマーは、典型的に37℃であるが、室温(25℃)のように低くてもよい、細胞培養温度で水溶性ではない。細胞培養のための適切な弾性率を提供するために、そのポリマーが、37℃または細胞培養に所望の温度で水中において膨潤性であることも望ましいであろう。
【0029】
ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーは、どのような適切なモノマーを使用してどのような適切なプロセスによって形成してもよい。実施の形態において、ポリマーを形成するために使用される1種類以上のモノマーおよびポリマーを形成するために使用される反応機構(例えば、逐次重合または縮重合、もしくは連鎖重合または付加重合)は、直鎖ポリマー主鎖を有するポリマーを形成するように選択される。実施の形態において、ポリマーを形成するために使用される1種類以上のモノマーおよびポリマーを形成するために使用される反応機構は、分岐鎖ポリマー主鎖を有するポリマーを形成するように選択される。分岐鎖ポリマーは、架橋がないであろう。実施の形態において、ポリマーを形成するために使用される1種類以上のモノマーおよびポリマーを形成するために使用される反応機構は、星形を形成するように選択される。分岐鎖または星形ポリマーを形成するために、単官能性モノマーと組み合わせて、多官能性モノマーを使用してよい。分岐鎖または樹状または星形ポリマーを形成するための適切な反応スキームが、例えば、Konkolewicz, et al., Dendritic and hyperbranched polymers from macromolecular units: Elegant Approaches to the Synthesis of Functional Polymers, Macromolecules, 2011, 44:7067-7087に論じられている。もちろん、どのような他の適切な技法を用いてもよい。
【0030】
多くの実施の形態において、ポリマーを形成するために使用されるモノマーは、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、マレイミド、フマレート(fumarate)、ビニルスルホンなどのエチレン性不飽和基を含有する。そのポリマーはホモポリマーまたはコポリマーであってよい。モノマーは、ポリマーが、37℃、25℃などで水中に不溶性であるまたはそれほど可溶性ではないが、ポリペプチドにコンジュゲートされたときに、4℃から25℃、4℃から15℃または20℃の範囲で水溶性であるように選択してよい。
【0031】
様々な実施の形態において、使用されるモノマーは、式(I):
【0033】
の(メタ)アクリレートモノマーであり、式中、AはHまたはメチルであり、BはH、C1〜C6直鎖または分岐鎖アルコールまたはエーテル、もしくはカルボキシル基(−COOH)で置換されたC1〜C6直鎖または分岐鎖アルキルである。いくつかの実施の形態において、Bは、C1〜C4直鎖または分岐鎖アルコールである。いくつかの実施の形態において、Bは、カルボキシル基で置換された直鎖または分岐鎖C1〜C3である。例として、2−カルボキシエチルメタクリレート、2−カルボキシエチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリセロールメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートなどを使用してよい。
【0034】
様々な実施の形態において、使用してよいモノマーは、式(II):
【0036】
の(メタ)アクリルアミドモノマーであり、式中、Aは水素またはメチルであり、BはH、C1〜C6直鎖または分岐鎖アルコールまたはエーテル、もしくはカルボキシル基(−COOH)で置換されたC1〜C6直鎖または分岐鎖アルキルである。いくつかの実施の形態において、Bはカルボキシル基で置換された直鎖または分岐鎖C1〜C3である。いくつかの実施の形態において、BはC1〜C4直鎖または分岐鎖アルコールである。例として、2−カルボキシエチルアクリルアミド、アクリルアミドグリコール酸、N−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アクリルアミド、3−アクリロイルアミノ−1−プロパノール、N−アクリルアミド−エトキシエタノール、N−ヒドロキシエチルアクリルアミドなどを使用してよい。
【0037】
ポリマーを形成するために使用される1種類以上のモノマーは、所望の特徴(例えば、弾性率、膨潤性、水溶性)を有するポリマーを得るように選択してよい。例えば、2種類以上のモノマーから形成されるコポリマーは、モノマーのいずれか1種類のみから形成されるホモポリマーよりも、膨潤性の程度が大きいであろう。一般に、より長い鎖長のアルキル基を有するモノマーが、ポリマーを、コンジュゲートしたポリペプチドがポリマー−ペプチドを適切な温度で水溶性にできないほど水不溶性にする傾向にある。その上、水素結合を好む、または選択されたpHレベルで帯電する部分を有するモノマーは、ポリマーをより水溶性にする傾向があるであろう。当業者には、所望の特徴を有するポリマーを調製するための適切なモノマーとモノマー比を選択することが容易にできるであろう。
【0038】
適切な量の適切なモノマーが一旦選択されたら、重合反応によりポリマーを形成してよい。ポリマーを形成するモノマーに加えて、組成物は、界面活性剤、湿潤剤、光開始剤、熱開始剤、触媒、および活性化剤などの1種類以上の追加の化合物を含んでもよい。
【0039】
どのような適切な重合開始剤を使用してもよい。当業者には、そのモノマーに使用するのに適した開始剤、例えば、ラジカル開始剤またはカチオン開始剤を選択することが容易にできるであろう。様々な実施の形態において、連鎖重合を開始するためのフリーラジカルモノマーを生成するために、UV光が使用される。重合開始剤の例としては、有機過酸化物、アゾ化合物、キノン、ニトロソ化合物、ハロゲン化アシル、ヒドラゾン、メルカプト化合物、ピリリウム化合物、イミダゾール、クロロトリアジン、ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル、ジケトン、フェノン、またはそれらの混合物が挙げられる。適切な市販の紫外線活性化光開始剤および可視光活性化光開始剤の例には、ニューヨーク州、タリタウン所在のCiba Specialty Chemicals社から市販されている、IRGACURE 651、IRGACURE 184、IRGACURE 369、IRGACURE 819、DAROCUR 4265およびDAROCUR 1173、並びにBASF社(ノースカロライナ州、シャーロット所在)から市販されているLUCIRIN TPO−Lなどの商標名がある。
【0040】
光増感剤が適切な開始剤系に含まれてもよい。代表的な光増感剤は、カルボニル基または第三級アミノ基もしくはその両方を有する。カルボニル基を有する光増感剤としては、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンジル、ベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、キサントン、チオキサントン、9,10−アントラキノン、および他の芳香族ケトンが挙げられる。第三級アミノ基を有する光増感剤としては、メチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、フェニルメチルエタノールアミン、および安息香酸ジメチルアミノエチルが挙げられる。市販の光増感剤としては、Biddle Sawyer Corp.からのQUANTICURE ITX、QUANTICURE QTX、QUANTICURE PTX、QUANTICURE EPDが挙げられる。
【0041】
概して、光増感剤系または光開始剤系の量は、約0.01から10質量%まで様々であってよい。
【0042】
使用してよいカチオン開始剤の例としては、アリールスルホニウム塩などのオニウムカチオンの塩、並びにイオンアレーン系などの有機金属塩が挙げられる。
【0043】
使用してよいフリーラジカル開始剤の例としては、2,2’−アゾビス(ジメチル−バレロニトリル)、アゾビス(イソブチロニトリル)、アゾビス(シクロヘキサン−ニトリル)、アゾビス(メチル−ブチロニトリル)などのアゾタイプの開始剤、並びにベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、イソプロピルペルオキシカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイル−ペルオキシ)ヘキサン、ジ−tert−ブチルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジクロロベンゾイルペルオキシド、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、重硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、重硫酸ナトリウムなどの組合せなどの過酸化物開始剤、およびそれらの混合物が挙げられる。もちろん、どのような他の適切なフリーラジカル開始剤を使用してもよい。開始剤の効果的な量は、一般に、反応混合物の0.1質量パーセントから約10質量パーセントまたは約0.1質量パーセントから約8質量パーセントなどの、反応混合物の約0.1質量パーセントから約15質量パーセントの範囲内にある。
【0044】
様々な実施の形態において、1種類以上のモノマーは、重合を行う前に、希釈される。
【0045】
重合反応から生じるポリマーは、どのような適切な分子量を有してもよい。様々な実施の形態において、そのポリマーは、10,000と250,000ダルトンの間などの、10,000と1,000,000ダルトンの間の平均分子量(Mw)を有する。当業者には、結果として生じるポリマーの分子量を調節するために、開始剤の量、反応時間、反応温度などを変えてもよいことが理解されよう。
【0046】
(メタ)アクリレートモノマー、(メタ)アクリルアミドモノマー、または他の適切なモノマーは、当該技術分野に公知のように合成しても、Polysciences, Inc.、Sigma Aldrich, Inc.、およびSartomer, Inc.などの製造供給元から得てもよい。
【0047】
このポリペプチドは、どのような適切な様式でポリマーにコンジュゲートしてもよい。いくつかの実施の形態において、モノマーは、ポリペプチドを含むように誘導体化されており、それゆえ、ポリペプチドは、ポリマーが形成されているときにポリマーに取り込まれる。いくつかの実施の形態において、ポリペプチドは、ポリマーが形成された後にポリマーにグラフトされる。
【0048】
ここで
図1〜2を参照すると、形成されているときにポリマーにポリペプチドを取り込むための反応スキームの例が示されている。
図1において、ビトロネクチンポリペプチド(VN)は、繰り返しのポリエチレングリコール(PEG
4)スペーサを介してメタクリレート(MAA)にコンジュゲートされている。ホモポリマーは、ポリペプチド(VN)にコンジュゲートされたモノマー(MMA)を適切な条件下で重合することによって生成される。図示された実施の形態において、エタノールは溶媒であり、2,2’−アゾジ(2−メチルブチロニトリル)(AMBN)は熱開始剤であり、反応温度は68℃であり、反応はアルゴン雰囲気下で行われる。
【0049】
ここに提示された実施例1に記載されたような、どのような適切なプロセスを使用して、モノマーを、ポリペプチドを含むように誘導体化してもよい。ポリペプチド−モノマーを調製するためのよく知られたプロセスが、発明者としてKizilel, S.等を挙げている、2007年8月16日に発行された米国特許出願公開第2007/0190036号明細書に記載されている。もちろん、モノマーをポリペプチドで誘導体化する他の方法を使用してもよい。
【0050】
図2に示された実施の形態において、コポリマーは、先の
図1に関して記載されたものと類似の反応条件下で、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)およびMMA−PEG
4−VNから形成される。ポリマーを生成するために多種類のモノマーを使用すると、ポリマーが形成されているときに、ポリペプチドがポリマー中に取り込まれるか否かにかかわらず、結果として得られるポリマーの性質を要望どおりにより容易に調整することができる。
【0051】
実施の形態において、ペプチドモノマーのペプチドが、式1:
式1: R
m−S
p−C
ap
により記載され、式中、Rは重合部分であり、「m」は1以上の整数であり、S
pは随意的なスペーサであり、C
apは細胞接着ポリペプチド(例えば、下記に記載されるような)である。Rは、外部エネルギー源の存在下で重合できる、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイミドまたはフマレートを含むα,β−不飽和基すなわちエチレン性不飽和基であってよい。実施の形態において、官能化ペプチドは、光重合性部分または熱重合性部分であってよい重合部分Rを有する。
【0052】
実施の形態において、S
pは、例えば、式(O−CH
2CHR’)
m2により表されるポリエチレングリコール(PEG)またはポリプロピレングリコール(PPG)(式中、R’はHまたはCH
3であり、m2は、0から100または0から20などの0から200までの整数である)を含むポリアルキレンオキシドであってよい。このスペーサは、親水性スペーサ、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)であってよい。実施の形態において、スペーサはPEO
4である。実施の形態において、比較的短い鎖のポリアルキレンオキシドが望ましい。例えば、実施の形態において、S
pは、PEG
2、PEG
4、PEG
6、PEG
8、PEG
10、PEG
12、またはPPG
2、PPG
4、PPG
6、PPG
8、PPG
10、PPG
12またはPPG
20であってよい。実施の形態において、スペーサは、20以下の反復単位(すなわち、PEG
4、PEG
6、PEG
8、PEG
10、PEG
12、PEG
14、PEG
16、PEG
18またはPEG
20)を有するポリエチレンオキシドである。実施の形態において、S
pは、官能基を有するPPGまたはPEGである。例えば、そのPEGまたはPPGスペーサは、マレイミド、チオール、アミン、シラン、アルデヒド、エポキシド、イソシアネート、アクリレートまたはカルボキシル基を有してよい。実施の形態において、PEGスペーサは、アミン官能基を有するPEGである、Jeffamine(登録商標)である。追加の実施の形態において、そのPEGまたはPPGスペーサは分岐していてよい。例えば、分岐PEGまたはPPOは、Y分岐または星形PEGまたはPPGであってよい。実施の形態において、これらの分岐PEGまたはPPOスペーサは、多数のペプチドを、1つの官能ペプチドを通じて基材にコンジュゲートさせられるであろう。
【0053】
細胞培養表面が一度形成されたら(以下により詳しく論じられている)、スペーサは、ペプチド(C
ap)を細胞培養表面から離して延ばし、そのペプチドを培養されている細胞に一層アクセス可能にし、細胞培養のための表面の効率を改善するように働くであろう。その上、親水性スペーサは、タンパク質を寄せ付けず、細胞またはタンパク質の官能化ペプチドへの非特異的吸収を防ぐように働くであろう。実施の形態において、細胞培養物品を調製する際のPEO(ポリエチレンオキシド)などのスペーサを有する細胞接着ペプチドを使用すると、全体的に低い濃度の接着ペプチドを使用して、そのような物品を調製することが可能になる。
【0054】
実施の形態において、S
pはアミノ酸Xaa
nであってよく、式中、Xaaは、独立して任意のアミノ酸であり、nは、0から30まで、0から10まで、0から6まで、または0から3までの整数である。例えば、実施の形態において、S
pはアミノ酸Xaa
nであってよく、式中、XaaはGであり、n=1から20であり、またはS
pはアミノ酸Xaa
nであってよく、式中、XaaはKであり、n=1から20であり、またはS
pはアミノ酸Xaa
nであってよく、式中、XaaはDであり、n=1から20であり、またはS
pはアミノ酸Xaa
nであってよく、式中、XaaはEであり、n=1から20である。実施の形態において、スペーサS
pは、LysGlyGlyまたはLysTyrGlyなどの3つのアミノ酸配列であってよい。実施の形態において、Xaa
nは、一連の同じアミノ酸である。実施の形態において、スペーサS
pは、Xaa
nとポリエチレンオキシドまたはポリプロピレンオキシドとの組合せであってよい。Xaa
nは、リシン、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、またはアルギニンアミノ酸などの親水性アミノ酸を含んでよい。実施の形態において、Xaa
nは末端リシンまたはアルギニンを有してもよい。もしくは、実施の形態において、スペーサS
pは、任意の組合せで、ポリエチレンオキシドスペーサとアミノ酸スペーサとを含んでもよい。実施の形態において、S
pは、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸またはヘキサエチレンジアミンなどの疎水性スペーサであってよい。実施の形態において、S
pはメタクリル酸カルボキシエチルであってよい。
【0055】
重合部分は、ポリエチレンオキシドを通じて、リシンなどのアミノ酸の側鎖を通じて、またはアミノ酸のN末端で、などのようにどのような適切な様式でスペーサS
pに結合してよい。アミノ酸Xaa
nは、それ自体を分解から保護するために、アセチル化および/またはアミド化されてもよい。しかしながら、Xaa
nがアセチル化されている場合、重合部分は、アミノ酸のN末端を通じてXaa
nに結合され得ない。例えば、メタクリル酸は、S
pがXaa
nであり、Xaaがリシンであり、n=1、およびR
mがメタクリル酸である場合、リシンアミノ酸の側鎖を通じて、リシンアミノ酸に結合されるであろう。
【0056】
実施の形態において、スペーサS
pはXaa
nであり、Xaaは末端のリシンを有する。実施の形態において、Xaa
nは重合部分R
mに結合されていてよい。例えば、Xaa
nは、(MAA)LysGlyGlyまたは(MAA)LysTyrGlyであってよく、式中、MAAは、末端のリシンアミノ酸の側鎖を通じてXaa
nに結合した重合部分であるメタクリル酸(MAA)である。追加の実施の形態において、重合部分は、N末端がアセチル化されていなければ、Xaa
nアミノ酸またはアミノ酸鎖のN末端に結合されていてよい。各官能化ペプチドは、少なくとも1つの重合部分を有し、複数有していてもよい。
【0057】
様々な実施の形態において、ポリペプチドは、既に形成されたポリマーにグラフトされる。ポリペプチドが、ポリマーのペンダント反応性基にコンジュゲートできるアミノ酸を含むことが好ましい。ポリマーがポリペプチドとの反応のために有することのある反応性基の例としては、マレイミド、グリシジル、イソシアネート、イソチオシアネート、活性化エステル、活性化カーボネート、無水物などが挙げられる。一例として、例えば、アミド結合の形成により、求核付加反応を可能にする官能基を有する任意の天然アミノ酸またはバイオミメティックアミノ酸が、適切な反応性基を有するポリペプチドにコンジュゲートする目的のために、ポリペプチドに含まれてもよい。リシン、ホモリシン、オルニチン、ジアミノプロピオン酸、およびジアミノブタン酸が、カルボキシル基などの、ポリマーの反応性基にコンジュゲーションするための適切な性質を有するアミノ酸の例である。その上、N末端アミンがキャッピングされていない場合、カルボキシル基にコンジュゲートするために、ポリペプチドのN末端アルファアミンを使用してもよい。様々な実施の形態において、前記ポリマーとコンジュゲートするポリペプチドのアミノ酸は、ポリペプチドのカルボキシル末端位置またはアミノ末端位置にある。
【0058】
ポリペプチドは、どのような適切な技法によりポリマーにコンジュゲートされてもよい。ポリペプチドは、アミノ末端のアミノ酸、カルボキシル末端のアミノ酸、または内部のアミノ酸によりポリマーにコンジュゲートされてもよい。適切な技法の1つには、当該技術分野に一般に知られているような、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(EDC)/N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)化学反応がある。EDCおよびNHSまたはN−ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ−NHS)が、ポリマーの自由なカルボキシル基と反応して、アミン反応性NHSエステルを生成できる。EDCはポリマーのカルボキシル基と反応して、加水分解を受けやすいアミン反応性O−アシルイソウレア中間体を生成する。NHSまたはスルホ−NHSの付加は、アミン反応性O−アシルイソウレア中間体をアミン反応性NHSまたはスルホ−NHSエステルに転化することによって、アミン反応性O−アシルイソウレア中間体を安定化させて、二段階工程を可能にする。ポリマーの活性化後、次いで、ポリペプチドが加えられ、ポリペプチドの末端アミンがアミン反応性エステルと反応して、安定したアミド結合を形成し、このように、ポリペプチドをポリマー層にコンジュゲートすることができる。ポリペプチドをポリマーにコンジュゲートするために、EDC/NHS化学反応が使用される場合、N末端アミノ酸は、リシン、オルニチン、ジアミノ酪酸、またはジアミノプロピオン酸などのアミン含有アミノ酸であることが好ましい。もちろん、ヒドロキシルアミン、ヒドラジン、ヒドロキシルなどの、許容されるどのような求核試薬を使用してもよい。
【0059】
EDC/NHS化学反応により、ポリマーへのポリペプチドのゼロ長架橋が生じる。末端アミンを有する、ポリ(エチレングリコール)リンカー(例えば、Quanta BioDesign, Ltd.から得られる)などのリンカーまたはスペーサをポリペプチドのN末端アミノ酸に加えてもよい。N末端アミノ酸にリンカーを加える場合、そのリンカーはN−PG−アミド−PEG
X−酸であることが好ましく、式中、PGは、Fmoc基、BOC基、CBZ基またはペプチド合成を受けやすい任意の他の基などの保護基であり、Xは、2、4、6、8、12、24または利用してよいいずれかの他の別個のPEGである。もちろん、ポリペプチドをポリマーにグラフトするためのどの他の適切な機構を使用してもよい。
【0060】
ポリペプチドがポリマーにどのようにコンジュゲートされているかにかかわらず、例えば、ポリペプチドにコンジュゲートした誘導体化されたモノマーの取り込みにより、またはグラフト反応により、ポリペプチドが結合していないまたは結合することになっていないモノマー(非ペプチド−モノマー)に対する、ポリペプチドが結合したまたは結合することになっているモノマー(ペプチド−モノマー)の比は、膨潤性、水溶性、弾性率などの所望の性質を達成するために変えてもよい。実施の形態において、ペプチドモノマー対非ペプチドモノマーのモル比は、約1:5から1:20、約1:10、約1:9などの約1:1から約1:50である。
【0061】
実施の形態において、ポリペプチドは、リンカーまたはスペーサを介してポリマーにコンジュゲートされる。ポリペプチドからポリマーの表面への距離を増加させるために、繰り返しポリ(エチレングリコール)リンカー、または任意の他の適切なリンカーなどのリンカーまたはスペーサを使用してもよい。そのリンカーはどのような適切な長さのものであってもよい。例えば、リンカーが繰り返しポリ(エチレングリコール)リンカーである場合、そのリンカーは、2と10の間の繰り返しエチレングリコール単位を含有してよい。いくつかの実施の形態において、リンカーは、約4の繰り返しエチレングリコール単位を有する繰り返しポリ(エチレングリコール)リンカーである。ポリペプチドの全て、いくつかがリンカーを介してポリマーにコンジュゲートしていても、全くしていなくてもよい。使用してよい他の可能性のあるリンカーとしては、ポリ(グリシン)やポリ(β−アラニン)などのポリペプチドリンカーが挙げられる。
【0062】
リンカーは、細胞培養に使用された場合、ポリペプチドの細胞へのより良好な近づきやすさを提供するように働くであろう。その上、ポリペプチドがモノマーにコンジュゲートされる実施の形態においてリンカーを使用すると、モノマーのホモポリマーまたはコポリマーへの重合の効率が増加するであろう。
【0063】
ポリペプチドは、環化されていても、環状部分を含んでもよい。環状ポリペプチドを形成するどのような適切な方法を使用してもよい。例えば、適切なアミノ酸側鎖の自由なアミノ基および適切なアミノ酸側鎖の自由なカルボキシル基を環化させることによって、アミド結合を形成してもよい。また、ペプチド配列における適切なアミノ酸側鎖の自由なスルフヒドリル基の間でジスルフィド結合を形成してもよい。環状ポリペプチド(またはその部分)を形成するために、どのような適切な技法を使用してもよい。一例として、例えば、国際公開第1989/005150号に記載されている方法を使用して、環状ポリペプチドを形成してもよい。ポリペプチドがカルボキシ末端とアミノ末端との間にアミド結合を有する、頭−尾結合環状ポリペプチドを使用してもよい。ジスルフィド結合の代わりは、例えば、Koide et al, 1993, Chem. Pharm. Bull. 41(3):502-6; Koide et al.,1993, Chem. Pharm. Bull. 41(9):1596-1600; またはBesse and Moroder, 1997, Journal of Peptide Science, vol. 3, 442-453に記載されているような、2つのセレノシステインを使用したジセレニド結合または混合セレニド/スルフィド結合であってもよい。
【0064】
ポリペプチドは、当該技術分野に公知のように合成しても(あるいは分子生物学技法により産生しても)、またはAmerican Peptide Company、CEM Corporation、またはGenScript Corporationなどの製造供給元から得てもよい。リンカーは、当該技術分野に公知のように合成しても、またはQuanta BioDesign, Ltd.から市販されている個別ポリエチレングリコール(dPEG(登録商標))リンカーなどのように、製造供給元から得てもよい。
【0065】
様々な実施の形態において、ポリペプチド、またはその一部は、細胞接着活性を有する、すなわち、ポリペプチドがポリマーにコンジュゲートされるときに、ポリペプチドにより、細胞がポリペプチド含有ポリマーの表面に接着することができる。一例として、ポリペプチドは、インテグリン群からのタンパク質により認識される、または細胞接着を維持できる細胞分子との相互作用をもたらすアミノ酸配列、またはその細胞接着部分を含んでもよい。例えば、ポリペプチドは、コラーゲン、ケラチン、ゼラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、骨シアロタンパク質(BSP)などに由来するアミノ酸配列、またはその一部を含んでよい。様々な実施の形態において、ポリペプチドは、ArgGlyAsp(RGD)のアミノ酸配列を含む。
【0066】
ここでの実施の形態に使用してよいペプチドの例が表1に列挙されている。
【0068】
ここに論じられたポリペプチドのいずれについても、具体的に特定されたアミノ酸または公知のアミノ酸を保存アミノ酸で置き換えてもよいことが理解されよう。「保存アミノ酸」は、ここに用いたように、第2のアミノ酸と機能的に類似のアミノ酸を称する。そのようなアミノ酸は、公知の技法により、ポリペプチドの構造または機能への妨害を最小にして、ポリペプチドにおいて互いに置き換えられてもよい。以下の5種類の基の各々は、互いに保存置換基であるアミノ酸を含有する:脂肪族:グリシン(G)、アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I);芳香族:フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);硫黄含有:メチオニン(M)、システイン(C);塩基性:アルギニン(R)、リシン(K)、ヒスチジン(H);酸性:アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)。
【0069】
ポリマーの形成中にグラフトされるかまたは取り込まれるか否かにかかわらず、1つ以上のポリペプチドをポリマーに任意の適切な量でコンジュゲートしてもよい。ポリペプチドの比率は、ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーを水溶性にするのに十分に高いことが好ましい。様々な実施の形態において、ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーに対するポリペプチドの質量百分率は、10%以上、20%以上、40%以上、60%以上などである。1500ダルトン以上の分子量を有するポリペプチドについて、良好な水溶性、固定化効率および許容される細胞接着を達成するための、そのような質量百分率が決定されてきた。
【0070】
ここに記載されたポリマーは、任意の適切な接着ポリペプチドまたはポリペプチドの組合せがコンジュゲートされ得る合成表面を提供し、未知の成分を有する生体基質または血清の代替物を提供する。現在の細胞培養の実施において、ある細胞のタイプは、細胞が培養表面に接着し、持続的に培養されるために、その表面上に生体ポリペプチドまたはペプチドの組合せを必要とすることが知られている。例えば、HepG2/C3A肝細胞は、血清の存在下でプラスチック製培養製品に接着できる。血清は、特定の細胞が付着できる表面を提供するために、プラスチック製培養製品に接着できるポリペプチドを提供できることも知られている。しかしながら、生物学的に誘導された基質および血清は、未知の成分を含有する。細胞接着を生じる血清または生物学的に誘導された基質の特定の成分または成分(ペプチド)の組合せが公知である細胞について、それらの公知のポリペプチドは、合成でき、ここに記載されたようなポリマーに施して、未知の起源または組成の成分がないか非常に少ない合成表面上で細胞を培養することができる。
【0071】
細胞培養培地組成物
ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーは、細胞培養物品の被覆または細胞の培養に使用するために、水溶液中に溶解されてもよい。実施の形態において、その水溶液は、有機溶媒を含まない、または実質的に含まない。例えば、重合後のポリマー中に残留するある程度の有機溶媒の結果として、その水溶液中に微量の有機溶媒が存在するかも知れないことが理解されよう。ここに用いたように、「実質的に含まない」とは、水溶液中の有機溶媒に関して、その水溶液が2質量%未満しか有機溶媒を含まないことを意味する。多くの実施の形態において、水溶液は、1%未満、0.5%未満、0.2%未満、または0.1%未満しか有機溶媒を含有しない。水溶液が含まない有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、オクタノール、ヘキサン、ヘプタン、アセトン、酢酸アセチル、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。
【0072】
ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーは、被覆または培養の目的のためにどのような適切な濃度で水溶液中に溶解されてもよい。例えば、その水溶液は、0.003mg/mlと0.05mg/mlの間のポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーなどの、0.001mg/mlと1mg/mlのポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーを含有してよい。
【0073】
実施の形態において、水溶液は細胞培養培地溶液であり、これは、その溶液が哺乳類細胞などの細胞の培養を支持するように構成されていることを意味する。実施の形態において、細胞は、ヒト胚性幹細胞またはヒト間葉系幹細胞などの幹細胞である。細胞培養培地溶液は、約7.2と7.5の間などの、約7と約8の間のpHを有してよく、このpHは、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液などのpH緩衝液によって緩衝されてもよい。この細胞培養培地溶液は、グルコース、アミノ酸、ビタミン類、無機塩などの、細胞培養に適切などのような成分を含んでもよい。細胞培養成分よび濃度は当該技術分野で公知である。例えば、Burgener A, Butler. “Medium Development”. In Cell Culture Technology For Pharmaceutical and Cell-Based Therapies. Edited by Ozturk SS and Hu WS. 2006を参照のこと。実施の形態において、細胞培養培地はd−グルコースを含む。
【0074】
細胞培養培地に含んでよい様々な成分および培地中のそれらの成分の濃度の例が以下に与えられている。一例として、細胞培養培地は、約2mMから約30mMのd−グルコースなどの、約1mMのd−グルコースから約50mMのd−グルコースを含んでよい。細胞培養培地に含んでもよいアミノ酸の例としては、1−アルギニン、1−システイン、1−ヒスチジン、1−イソロイシン、1−ロイシン、1−リシン、1−メチオニン、1−フェニルアラニン、1−スレオニン、1−トリプトファン、1−チロシン、1−バリンなどが挙げられる。アミノ酸は、約1×10
-3mMから約20mMなどの、どのような適切な濃度で存在してもよい。アミノ酸の濃度は、アミノ酸に応じて様々であってよいことが理解されよう。細胞培養培地中に、無機塩が適切な濃度で含まれてもよい。適切な無機塩の例としては、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸銅、硝酸第二鉄、硫酸第一鉄、塩化カリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0075】
実施の形態において、ポリマー−ポリペプチドは、GIBCO社から市販されているものなどのDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地);Invitrogen社から市販されている、ヒト胚性幹細胞(hESC)の増殖および展開のために特別に配合された、StemPro(登録商標)既知組成の無血清かつフィーダー細胞を含まない培地(SFM);StemCell Technologies, Inc.社から市販されている、ヒト胚性幹細胞のためのmTeSR(商標)1維持培地;StemCell Technologies, Inc.社から市販されている、ヒト間葉系幹細胞の培養のための標準化された異種由来成分を含まない無血清培地である、MesenCult(登録商標)−XF培地などの市販の細胞培養培地中に溶解される。
【0076】
実施の形態において、細胞培養培地は既知組成培地である。既知組成培地の全ての成分は、公知の化学構造を有するか、または公知の構造の成分(例えば、公知の構造のモノマーから形成された合成ポリマー)から形成されているので、培養条件における変動性およびそれゆえの細胞応答を減少させ、再現性を増加させることができる。その上、汚染の可能性が減少する。さらに、拡大する能力が、少なくとも一部には、先に論じられた要因のために、容易になる。既知組成培養培地は、ヒト胚性幹細胞(hESC)の増殖および展開のために特別に配合された、既知組成の無血清かつフィーダー細胞を含まない培地である「StemPro」としてInvitrogen社(郵便番号92008、カリフォルニア州、カールスバッド、1600ファラデーアヴェニュー、POボックス6482所在のInvitrogen Corporation)から、またヒト胚性幹細胞の「mTeSR」1維持培地としてStemCell Technologies, Inc.社から市販されている。「MesenCult」−XF培地は、StemCell Technologies, Inc.社から市販されている既知組成培地の別の例である。
【0077】
実施の形態において、細胞培養培地は、ポリマー−ポリペプチドが加えられるならし培地である。
【0078】
実施の形態において、細胞培養培地溶液などの水溶液は、架橋剤を含まないか、実質的に含まない。ここに用いたように、「架橋剤」は、ポリマー−ポリペプチドのポリマー部分における架橋を誘発できるまたはそれを架橋できる化学物質を称する。ここに用いたように、「実質的に含まない」とは、架橋剤に関するように、微量の架橋剤が存在した結果として、ポリマーにおいて知覚できる架橋が生じないことを意味する。ポリマー部分が実質的に含まない架橋剤の例としては、“Bioconjugate Techniques, Second Edition by Greg T. Hermanson”に記載されているものなどの、ホモ多官能性またはヘテロ多官能性架橋剤などのよく知られた架橋剤が挙げられる。実施の形態において、前記組成は、相互貫入網目構造または半相互貫入網目構造の形成をもたらし得る多官能性オリゴマーおよびポリマーも「実質的に含まない」。
【0079】
コンジュゲートしたポリペプチドを有するポリマーを含有する細胞培養培地は、どのような適切な様式で殺菌しても差し支えない。実施の形態において、ポリマー−ポリペプチドは、ガンマ線により殺菌され、例えば、乾燥粉末として、無菌法を使用して、殺菌済み細胞培養培地に加えられる。天然に生じるまたは動物由来の細胞外基質タンパク質に使用されるような濾過滅菌ではなく、ガンマ線または電子ビームが、ここに記載された合成ポリマー−ポリペプチドに有益に使用されるであろう。もちろん、所望であれば、濾過滅菌を利用してもよい。
【0080】
コンジュゲートしたポリペプチドを有するポリマーを含有する細胞培養培地は、溶液中にポリマー−ポリペプチドを維持するために、室温(25℃)以下で貯蔵してよい。一例として、その培地は、貯蔵のために冷蔵(約5℃)してもよい。冷蔵は、培地の貯蔵寿命を長くするように働くであろう。
【0081】
被覆プロセス
ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーは、どのような適切な様式で細胞培養物品上に被覆してもよい。一般に、先に記載したような、ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーを含有する、細胞培養培地などの水溶液が、細胞培養物品の表面上に配置される。次いで、ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーが細胞培養物品の表面に接着するまで、ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーは、37℃、25℃などの細胞培養条件下で水溶液中の細胞培養物品と共にインキュベーションされる。実施の形態において、接着プロセスは、数秒または数分以内に直ちに始まる。
【0082】
ポリマーはその物品の表面に共有結合することも可能であるが、そのポリマーは、典型的に、非共有相互作用によって、その物品に接着する。そのポリマーを基質に接着するであろう非共有相互作用の例としては、化学吸着、水素結合、表面相互貫入、イオン結合、ファンデルワールス力、疎水性相互作用、双極子間相互作用、機械的連結、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0083】
ポリマーが、37℃での細胞培養培地の存在下などの、細胞培養条件中に、物品の表面に結合し、被覆することが好ましい。ポリマー−ポリペプチドは、細胞培養培地中で安定であり、それと相溶性であるので、ポリマー−ポリペプチドのある程度が培地中に残っている、または結合したポリマー−ポリペプチドと未結合のポリマー−ポリペプチドとの間の平衡が存在することが容認できる。培地を補充した際、例えば、使用済み培地の除去および新たな培地(例えば、ポリマー−ポリペプチドを含まない)の取替えの際に、結合したポリマー−ポリペプチドが基体に結合したままであることが好ましい。実施の形態において、以前に結合したポリマー−ポリペプチドの95%以上または99%以上などの90%以上が、培地の取替え中に結合したままである。実施の形態において、取替え培地は、基体上に所望の平衡したポリマー−ポリペプチド被覆を維持するために、適切な濃度のポリマー−ポリペプチドを含んでよい。
【0084】
どの特定の理論にも拘束することを意図するものではないが、ポリマーに対するポリペプチドの高い比率は、水溶液からの適切な基体上のポリマーの意外な吸着および吸着後の非水溶性に役立つと考えられる。高いポリペプチド含有量は、ポリペプチド間の高密度の水素結合をもたらし、物理的架橋または凝集を誘発するかもしれず、これは、天然に生じるタンパク質と類似の挙動である。いくつかの特定のポリペプチドが、それらの転移温度未満で水溶液中に可溶性であるが、それらは、温度が転移温度より高く上昇したときに、疎水的に壊れ凝集する。そのような疎水的崩壊は、37℃などの細胞培養条件に曝されるポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーの吸着にある役割を果たすであろう。
【0085】
ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーで被覆される細胞培養物品の表面は、どのような適切な材料から形成されてもよい。例えば、細胞培養物品の表面は、セラミック物質、ガラス、プラスチック、ポリマーまたはコポリマー、それらの任意の組合せ、またはある材料の別の材料上の被覆から形成されてもよい。そのような基礎材料としては、ソーダ石灰ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、バイコール(登録商標)ガラス、石英ガラスなどのガラス材料;シリコン;ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(メタクリル酸メチル)、酢酸ビニル・無水マレイン酸の共重合体、ポリ(ジメチルシロキサン)モノメタクリレート、環状オレフィンポリマー、フルオロカーボンポリマー、ポリスチレン、ボルプロピレン、ポリエチレンイミンなどの樹枝状ポリマーを含むプラスチックまたはポリマー;酢酸ビニル・無水マレイン酸の共重合体、スチレン・無水マレイン酸の共重合体、エチレン・アクリル酸の共重合体、またはこれらの誘導体などのコポリマーが挙げられる。
【0086】
実施の形態において、ポリマー−ポリペプチドが接着する細胞培養物品の表面は、約0°から約50°、約0°から約30°、約12°から約85°、約25°から約70°、約30°から約60°などの約0°から約100°の水接触角(液滴測定)を有する。基体が、適切な接触角を示すように処理されてもよいことが理解されよう。例えば、基体は、コロナ処理またはプラズマ処理されてもよい。真空または大気圧プラズマの例としては、一次と二次の両方のRFおよびマイクロ波プラズマ、誘電体バリア放電、および空気、酸素、窒素、アルゴン、二酸化炭素、亜酸化窒素、または水蒸気を含む分子または混合ガス中に生成されるコロナ放電が挙げられる。一例として、TCTポリスチレンまたは「CellBIND」処理ポリスチレンなどのプラズマ処理ポリスチレンが、ポリマー−ポリペプチド付着ための良好な基体を提供する。天然に生じる動物由来の生物学的接着タンパク質も、そのような表面に対して良好な結合を示す。したがって、天然に生じるタンパク質が容易に付着する表面も、ポリマー−ポリペプチド付着のための良好な基体を提供するであろう。
【0087】
細胞培養物品
ここに記載されたポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーは、6,12,96,384および1536ウェルプレートなどのシングルおよびマルチウェルプレート、瓶、ペトリ皿、フラスコ、ビーカー、プレート、ガラスまたはポリマービーズなどのマイクロキャリア、ローラーボトル、区画および多区画培養スライドなどのスライド、試験管、カバースリップ、バッグ、膜、中空繊維、ビーズおよびマイクロキャリア、カップ、スピナーボトル、潅流チャンバ、バイオリアクタ、CellSTACK(登録商標)および発酵槽などの任意の適切な細胞培養物品の表面に結合させてもよい。
【0088】
図3Aを参照すると、細胞を培養するための物品100の側面図が示されている。物品100は、表面15を有する基礎材料基体10を備えている。ポリペプチド70にコンジュゲートしたポリマー20が、基礎材料基体10の表面15上に配置されている。図示したように、ポリペプチド70は、先に説明したように、直接的にまたはリンカー80を介して間接的に、ポリマー20にコンジュゲートまたは共有結合されてよい。図示されていないが、ポリペプチド70にコンジュゲートしたポリマー20は、基礎材料基体10の一部の上に配置されてもよい。その基礎材料は、先に記載されたものなどの、細胞を培養するのに適したどのような材料であってもよい。
【0089】
図3Bに示されるように、基礎材料基体10とポリペプチド70にコンジュゲートした被覆ポリマー20との間に中間層30が配置されてもよい。中間層30は、ポリペプチド70にコンジュゲートした被覆ポリマー20の基体10への結合を改善するように、ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーを含有する水溶液の拡散を促進するように、未被覆の表面15の部分を疎細胞性(cytophobic)にして被覆区域上での細胞の増殖を促進するように、例えば、パターン印刷などにより、所望であれば、地形的特徴を提供するように構成されてもよい。例えば、基体10がガラス基板である場合、ガラス基板の表面をエポキシ被覆またはシラン被覆で処理することが望ましいであろう。様々なポリマー基礎材料基体10について、ポリアミド、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、またはポリアクリレートの中間層30を提供することが望ましいであろう。図示されていないが、ポリペプチド70にコンジュゲートした被覆ポリマー20は、中間層30の一部に配置されてもよいことが理解されよう。中間層30は、基礎材料基体10の一部の上に配置されてもよいことがさらに理解されよう。
【0090】
物品100は、数多くの実施の形態において、ペトリ皿、マルチウェルプレート、フラスコ、ビーカーまたはウェルを有する他の容器などの、ウェルを有する細胞培養物品である。ここで
図4を参照すると、基礎材料10から形成された物品100は、1つ以上のウェル50を含んでよい。ウェル50は、側壁55および表面15を備えている。
【0091】
図4B〜Cを参照すると、ポリペプチド70にコンジュゲートしたポリマー20が表面15または側壁55(または、
図1に関して先に論じたように、表面15または側壁55とポリペプチド70にコンジュゲートした被覆ポリマー20との間に、1つ以上の中間層30が配置されてもよい)またはその一部に配置されてもよい。
図4Cに示されるように、側壁55が、ポリペプチド70にコンジュゲートしたポリマー20により被覆されてもよい。
【0092】
様々な実施の形態において、基礎材料10の表面15は、表面15に所望の性質または特徴を与えるために、物理的または化学的のいずれかで、処理されている。例えば、上述したように、表面15は、コロナ処理またはプラズマ処理されていてもよい。
【0093】
実施の形態において、ポリペプチド70にコンジュゲートした被覆ポリマー20は、中間層30または基礎材料10上に配置されているか否かにかかわらず、下の基体を均一に被覆することが好ましい。「均一に被覆された」は、所定の区域、例えば、培養プレートのウェルの表面の層20が、約5nm以上の厚さで、その区域を完全に被覆していることを意味する。均一に被覆された表面の厚さは、表面に亘り様々であってよいが、下の層(中間層30または基礎材料10のいずれか)が曝露される、均一に被覆された表面の区域はない。不均一な表面に亘る細胞応答は、均一な表面に亘る細胞応答よりもばらつきがある傾向にある。
【0094】
様々な実施の形態において、物品100は、約5mm
2超の面積を有する表面25を備えた均一に被覆された層20を含む。表面15の面積が小さすぎる場合、ヒト胚性幹細胞などのいくつかの細胞が、細胞のコロニーまたは群集(例えば、約0.5mmの直径を有する)として播種され、定量的な細胞応答を生成するのに十分な数のコロニーの結合を確実にするために適切な表面が望ましいので、信頼できる細胞応答が容易に観察できないであろう。数多くの実施の形態において、物品100は、均一に被覆された表面15を有するウェル50を有し、ここで、表面15は、約0.1cm
2超、約0.3cm
2超、約0.9cm
2超、または約1cm
2超の面積を有する。
【0095】
コンジュゲートしたポリペプチドを含有する合成ポリマー上の細胞のインキュベーション
上述したようなコンジュゲートしたポリペプチドを含有するポリマーを有する細胞培養物品に細胞を播種してよい。実施の形態において、細胞は、上述したようなポリマー−ポリペプチドを含む細胞培養培地中に導入される。細胞培養プロセス中、ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーは、細胞培養物品の表面を被覆する。
【0096】
理論により拘束することを意図するものではないが、細胞間相互作用は、細胞播種培地中にポリマー−ポリペプチドを含ませることによって、向上するであろうと考えられる。すなわち、細胞間相互作用は、培地中で生じるであろうし、ポリマー−ポリペプチドが細胞培養物品の表面に付着する前に、培地中のポリマー−ポリペプチドにより促進されるであろう。
【0097】
ここに提示された教示にしたがって、どのようなタイプの細胞を使用してもよい。例えば、細胞は、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、腸細胞、腎臓細胞、または他の臓器からの細胞、幹細胞、島細胞、血管細胞、白血球、癌細胞などの結合組織細胞であってよい。細胞は、哺乳類細胞、好ましくはヒト細胞であってよいが、細菌、酵母、または植物細胞などの非哺乳類細胞であってもよい。
【0098】
数多くの実施の形態において、細胞は、当該技術分野で一般に理解されているように、連続的に分裂する(自己再生)能力を有し、多種多様な特殊な細胞に分化できる細胞を称する幹細胞である。いくつかの実施の形態において、幹細胞は、検体の臓器または組織から単離される多能性(multipotent)、全能性、または多能性(pluripotent)幹細胞である。そのような細胞は、完全に分化したまたは成熟した細胞タイプを生じることができる。幹細胞は、自己またはそうではない骨髄由来幹細胞、神経幹細胞、または胚性幹細胞であってよい。幹細胞はネスチン陽性であってよい。幹細胞は造血幹細胞であってよい。幹細胞は、上皮組織、脂肪組織、臍帯血液、肝臓、脳または他の臓器に由来する多分化能細胞であってよい。様々な実施の形態において、幹細胞は、未分化胚性幹細胞などの未分化幹細胞である。
【0099】
細胞を播種する前に、細胞を収穫し、細胞を表面に一旦播種したらその中で培養すべき増殖培地などの、適切な培地中に懸濁させてよい。上述したように、培地は、細胞培養条件下で培地中の細胞培養表面上でインキュベーションされたときに、被覆を形成するポリマー−ポリペプチドを含んでもよい。例えば、細胞は、血清含有培地、ならし培地、または既知組成培地中に懸濁させ、培養してもよい。ここに用いたように、「既知組成培地」は、未知の組成の成分を含有しない細胞培養培地を意味する。既知組成培地は、様々な実施の形態において、未知の組成のタンパク質、加水分解物、またはペプチドを含有しない。いくつかの実施の形態において、ならし培地は、組換え成長ホルモンなどの、既知の組成のポリペプチドまたはタンパク質を含有する。既知組成培地の全成分は既知の化学構造を有するので、培養条件におけるばらつき、それゆえ、細胞応答を減少させ、再現性を増加させることができる。その上、汚染の可能性が減少する。
【0100】
その中で細胞がインキュベーションされる培地に、1種類以上の成長因子または他の因子を加えてもよい。これらの因子は、細胞増殖、接着、自己再生、分化などを促進させるものであってよい。培地に加えてよいまたは含ませてよい因子の例としては、筋肉形成因子(MMP)、血管内皮成長因子(VEGF)、インターロイキン、神経成長因子(NGF)、エリスロポエチン、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、アクチビンA(ACT)、造血成長因子、レチノイン酸(RA)、インターフェロン、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)などの線維芽細胞成長因子、骨形成タンパク質(BMP)、ペプチド成長因子、ヘパリン結合性増殖因子(HBGF)、肝細胞増殖因子、腫瘍壊死因子、インスリン様成長因子(IGF)IおよびII、形質転換成長因子−β1(TGFβ1)などの形質転換成長因子、およびコロニー刺激因子が挙げられる。
【0101】
細胞は、どのような適切な濃度で播種してもよい。典型的には、細胞は、基体1cm
2当たり約10,000細胞/cm
2から約500,000細胞/cm
2の濃度で播種される。例えば、細胞は、基体1cm
2当たり約50,000細胞/cm
2から約150,000細胞/cm
2の濃度で播種してよい。しかしながら、これよりも高濃度および低濃度で難なく使用できる。インキュベーションの時間および、温度、CO
2レベルとO
2レベル、成長培地などの条件は、培養されている細胞の性質に応じて決まり、容易に変更することができる。細胞を前記表面上でインキュベーションする期間は、所望の細胞応答に応じて変わりうる。
【0102】
培養される細胞は、(i)調査研究または治療用途の開発に使用するために、既知組成培地の合成表面上で培養される十分な量の未分化の幹細胞の入手、(ii)培養される細胞の調査研究、(iii)治療用途の開発、および(iv)治療目的を含む、どのような適切な目的に使用してもよい。
【0103】
態様
組成物、方法、および物品の多種多様な態様がここに記載されている。そのような組成物、方法、および物品のいくつかの選り抜きの実施例の纏めが、下記に提供されている。
【0104】
第1の態様において、水性細胞培養培地組成物は、(i)哺乳類細胞の培養を支持するように構成された細胞培養水溶液、および(ii)その細胞培養水溶液中に溶解したポリペプチドにコンジュゲートした合成ポリマーを含み、ここで、ポリペプチドにコンジュゲートした合成ポリマーは、細胞培養条件下で細胞培養物品の表面に接着するように構成されており、細胞培養条件下で細胞培養表面上において水性細胞培養培地組成物をインキュベーションすると、ポリペプチドにコンジュゲートした合成ポリマーが前記表面に接着する。
【0105】
第2の態様は、細胞培養培地組成物が既知組成の組成物である、第1の態様の組成物である。
【0106】
第3の態様は、細胞培養培地が動物由来の成分を含まない、第1または第2の態様の組成物である。
【0107】
第4の態様は、(i)哺乳類細胞の培養を支持するように構成された細胞培養水溶液、および(ii)その細胞培養水溶液中に溶解したポリペプチドにコンジュゲートした合成ポリマーを含む水性細胞培養培地組成物であって、そのポリマーが、直鎖の主鎖を有しかつ架橋を含まないポリマー、分岐鎖の主鎖を有しかつ架橋を含まないポリマー、および架橋を含まない星形ポリマーからなる群より選択され、ポリペプチドにコンジュゲートした合成ポリマーが20℃以下で水溶性であり、前記組成物が有機溶媒を実質的に含まず、細胞培養条件下で細胞培養表面上において水性細胞培養培地組成物をインキュベーションすると、ポリペプチドにコンジュゲートした合成ポリマーが前記表面に接着する、水性細胞培養培地組成物である。
【0108】
第5の態様は、ポリペプチドにコンジュゲートしていない実質的に類似のポリマーが、37℃で水に不溶性である、第4の態様の組成物である。
【0109】
第6の態様は、ポリマーが直鎖の主鎖を有し、架橋を含まない、第4または第5の態様の組成物である。
【0110】
第7の態様は、細胞培養培地が動物由来の成分を含まない、第4から第6の態様いずれかの組成物である。
【0111】
第8の態様は、細胞培養培地組成物が既知組成の組成物である、第4から第7の態様いずれかの組成物である。
【0112】
第9の態様は、ポリマーが、二官能性以上のモノマーから形成されない、第4から第8の態様いずれかの組成物である。
【0113】
第10の態様は、ポリマーが、コンジュゲートしたポリペプチドを含む少なくとも1種類のモノマーから形成された、第4から第9の態様いずれかの組成物である。
【0114】
第11の態様は、コンジュゲートしたポリペプチドを含む少なくとも1種類のモノマーがメタクリル酸である、第10の態様の組成物である。
【0115】
第12の態様は、ポリマーが、(i)ポリペプチドにコンジュゲートしたメタクリル酸および(ii)ヒドロキシエチルメタクリレートの重合から形成される、第4から第11の態様いずれかの組成物である。
【0116】
第13の態様は、ポリペプチドにコンジュゲートしたメタクリル酸対ヒドロキシエチルメタクリレートのモル比が、1対15と1対5の間である、第12の態様の組成物である。
【0117】
第14の態様は、ポリペプチドにコンジュゲートしたメタクリル酸対ヒドロキシエチルメタクリレートのモル比が、約1対9である、第12の態様の組成物である。
【0118】
第15の態様は、ポリマーが、ヒドロキシエチルメタクリレートおよびMAA−PEO
4−ポリペプチドの重合から形成され、ここで、MMAがメタクリル酸であり、PEOがポリエチレンオキシドである、第4から第14の態様いずれかの組成物である。
【0119】
第16の態様は、ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーに対するポリペプチドの質量百分率が10%超である、第4から第15の態様いずれかの組成物である。
【0120】
第17の態様は、ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーに対するポリペプチドの質量百分率が40%超である、第4から第15の態様いずれかの組成物である。
【0121】
第18の態様は、ポリペプチドが細胞接着ポリペプチドである、第4から第17の態様いずれかの組成物である。
【0122】
第19の態様は、ポリペプチドがRGD配列を含む、第4から第18の態様いずれかの組成物である。
【0123】
第20の態様は、ポリペプチドが、ビトロネクチンポリペプチド、コラーゲンポリペプチド、ラミニンポリペプチド、骨シアロタンパク質ポリペプチド、およびフィブロネクチンポリペプチドからなる群より選択される、第4から第19の態様いずれかの組成物である。
【0124】
第21の態様は、ポリペプチドがビトロネクチンポリペプチドである、第4から第20の態様いずれかの組成物である。
【0125】
第22の態様は、ポリペプチドが配列番号27のアミノ酸配列を含む、第4から第21の態様いずれかの組成物である。
【0126】
第23の態様は、ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーが、10キロダルトンと1000キロダルトンの間の分子量を有する、第4から第22の態様いずれかの組成物である。
【0127】
第24の態様は、7と8の間のpHを有し、グルコースおよび1種類以上のアミノ酸をさらに含む、第4から第23の態様いずれかの組成物である。
【0128】
第25の態様は、細胞をさらに含む、第4から第24の態様いずれかの組成物である。
【0129】
第26の態様は、細胞が幹細胞である、第25の態様の組成物である。
【0130】
第27の態様は、細胞がヒト胚性幹細胞またはヒト間葉系幹細胞である、第25の態様の組成物である。
【0131】
第28の態様は、マイクロキャリアを含まない、第4から第27の態様いずれかの組成物である。
【0132】
第29の態様は、細胞培養表面がマイクロキャリアの表面である、第4から第27の態様いずれかの組成物である。
【0133】
第30の態様は、細胞培養物品の表面を被覆する方法において、(i)共有結合したポリペプチドを有する合成ポリマーであって、ポリペプチドにコンジュゲートされており、細胞培養条件下で細胞培養物品の表面に接着するように構成された合成ポリマーを、水性細胞培養培地に導入して、ポリマー含有細胞培養培地を生成する工程;(ii)このポリマー含有細胞培養培地を細胞培養物品の表面に配置して、被覆物品を生成する工程;および(iii)この被覆物品を前記培地中において細胞培養条件下でインキュベーションして、ポリペプチドにコンジュゲートした合成ポリマーを細胞培養物品の表面に接着する工程を有してなる方法である。
【0134】
第31の態様は、細胞培養培地の組成物が既知組成の組成物である、第30の態様の方法である。
【0135】
第32の態様は、細胞培養培地が動物由来成分を含まない、第30または31の態様の方法である。
【0136】
第33の態様は、細胞培養物品の表面を被覆する方法において、(i)共有結合したポリペプチドを有するポリマーを水性細胞培養培地に導入して、ポリマー含有細胞培養培地を生成する工程であって、前記ポリマーが、直鎖の主鎖を有しかつ架橋を含まないポリマー、分岐鎖の主鎖を有しかつ架橋を含まないポリマー、および架橋を含まない星形ポリマーからなる群より選択され、共有結合したポリペプチドを有するポリマーが20℃以下で水溶性であり、水溶液が有機溶媒を実質的に含まない工程;(ii)このポリマー含有細胞培養培地を細胞培養物品の表面に配置して、被覆物品を生成する工程;および(iii)この被覆物品を前記培地中において細胞培養条件下でインキュベーションして、ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーを細胞培養物品の表面に接着する工程を有してなる方法である。
【0137】
第34の態様は、ポリマーが直鎖の主鎖を有する、第33の態様の方法である。
【0138】
第35の態様は、細胞培養培地が動物由来成分を含まない、第31または32の態様の方法である。
【0139】
第36の態様は、細胞培養培地の組成物が既知組成の組成物である、第33から第35の態様いずれかの方法である。
【0140】
第37の態様は、被覆物品を培地中において細胞培養条件下でインキュベーションする工程が、被覆物品を培地中において約37℃でインキュベーションする工程を含む、第33から第36の態様いずれかの方法である。
【0141】
第38の態様は、ポリペプチドにコンジュゲートしていない実質的に類似のポリマーが、25℃で水に不溶性である、第33から第34の態様いずれかの方法である。
【0142】
第39の態様は、ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーに対するポリペプチドの質量百分率が10%超である、第33から第38の態様いずれかの方法である。
【0143】
第40の態様は、ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーに対するポリペプチドの質量百分率が40%超である、第33から第38の態様いずれかの方法である。
【0144】
第41の態様は、ポリペプチドが細胞接着ポリペプチドである、第33から第40の態様いずれかの方法である。
【0145】
第42の態様は、ポリペプチドがRGD配列を含む、第33から第41の態様いずれかの方法である。
【0146】
第43の態様は、ポリペプチドが、ビトロネクチンポリペプチド、コラーゲンポリペプチド、ラミニンポリペプチド、骨シアロタンパク質ポリペプチド、およびフィブロネクチンポリペプチドからなる群より選択される、第33から第42の態様いずれかの方法である。
【0147】
第44の態様は、ポリペプチドがビトロネクチンポリペプチドである、第33から第43の態様いずれかの方法である。
【0148】
第45の態様は、ポリペプチドが配列番号27のアミノ酸配列を含む、第33から第44の態様いずれかの方法である。
【0149】
第46の態様は、ポリマーが、コンジュゲートしたポリペプチドを含む少なくとも1種類モノマーから形成される、第33から第45の態様いずれかの方法である。
【0150】
第47の態様は、コンジュゲートしたポリペプチドを含む少なくとも1種類モノマーがメタクリル酸である、第46の態様の方法である。
【0151】
第48の態様は、ポリマーが、(i)ポリペプチドにコンジュゲートしたメタクリル酸および(ii)ヒドロキシエチルメタクリレートの重合から形成される、第46の態様の方法である。
【0152】
第49の態様は、ポリマーが、(i)メタクリル酸官能基を含むモノマーおよび(ii)ヒドロキシエチルメタクリレートの重合から形成される、第33から第45の態様いずれかの方法である。
【0153】
第50の態様は、ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーが、10キロダルトンと1000キロダルトンの間の分子量を有する、第33から第49の態様いずれかの方法である。
【0154】
第51の態様は、細胞培養物品の表面が、0°と50°の間の水接触角を有する、第33から第50の態様いずれかの方法である。
【0155】
第52の態様は、細胞培養物品の表面が、0°と30°の間の水接触角を有する、第33から第50の態様いずれかの方法である。
【0156】
第53の態様は、細胞培養物品の表面が、プラズマ処理済みポリスチレン表面である、第33から第52の態様いずれかの方法である。
【0157】
第54の態様は、細胞を培養する方法において、(i)共有結合したポリペプチドを有する合成ポリマーであって、ポリペプチドにコンジュゲートされており、細胞培養条件下で細胞培養物品の表面に接着するように構成された合成ポリマーを含むポリマー含有細胞培養培地に細胞を導入する工程;(ii)このポリマー含有細胞培養培地および細胞を細胞培養物品の表面に接触させて、被覆物品を生成する工程;および(iii)この被覆物品上の細胞を培地中において細胞培養条件下でインキュベーションする工程であって、この被覆物品の培地中における細胞培養条件下でのインキュベーションにより、ポリペプチドにコンジュゲートした合成ポリマーが細胞培養物品の表面に接着される工程を有してなる方法である。
【0158】
第55の態様は、細胞培養培地が動物由来成分を含まない、第54の態様の方法である。
【0159】
第56の態様は、細胞培養培地の組成物が既知組成の組成物である、第54または55の態様の方法である。
【0160】
第57の態様は、細胞を培養する方法において、(i)共有結合したポリペプチドを有するポリマーを含むポリマー含有細胞培養培地に細胞を導入する工程であって、前記ポリマーが、直鎖の主鎖を有しかつ架橋を含まないポリマー、分岐鎖の主鎖を有しかつ架橋を含まないポリマー、および架橋を含まない星形ポリマーからなる群より選択され、共有結合したポリペプチドを有するポリマーが20℃以下で水溶性であり、水溶液が有機溶媒を実質的に含まない工程;(ii)このポリマー含有細胞培養培地および細胞を細胞培養物品の表面に接触させて、被覆物品を生成する工程;および(iii)この被覆物品上の細胞を培地中において細胞培養条件下でインキュベーションする工程であって、この被覆物品の培地中における細胞培養条件下でのインキュベーションにより、ポリペプチドにコンジュゲートした合成ポリマーが細胞培養物品の表面に接着される工程を有してなる方法である。
【0161】
第58の態様は、ポリマーが直鎖の主鎖を有する、第57の態様の方法である。
【0162】
第59の態様は、細胞培養培地が動物由来成分を含まない、第57または58の態様の方法である。
【0163】
第60の態様は、細胞培養培地の組成物が既知組成の組成物である、第57から第59の態様いずれかの方法である。
【0164】
第61の態様は、被覆物品を培地中において細胞培養条件下でインキュベーションする工程が、被覆物品を培地中において約37℃でインキュベーションする工程を含む、第57から第60の態様いずれかの方法である。
【0165】
第62の態様は、ポリペプチドにコンジュゲートしていない実質的に類似のポリマーが、25℃で水に不溶性である、第57から第61の態様いずれかの方法である。
【0166】
第63の態様は、ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーに対するポリペプチドの質量百分率が40%超である、第57から第62の態様いずれかの方法である。
【0167】
第64の態様は、ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーに対するポリペプチドの質量百分率が60%超である、第57から第63の態様いずれかの方法である。
【0168】
第65の態様は、ポリペプチドが細胞接着ポリペプチドである、第57から第64の態様いずれかの方法である。
【0169】
第66の態様は、ポリペプチドがRGD配列を含む、第57から第65の態様いずれかの方法である。
【0170】
第67の態様は、ポリペプチドが、ビトロネクチンポリペプチド、コラーゲンポリペプチド、ラミニンポリペプチド、骨シアロタンパク質ポリペプチド、およびフィブロネクチンポリペプチドからなる群より選択される、第57から第66の態様いずれかの方法である。
【0171】
第68の態様は、ポリペプチドがビトロネクチンポリペプチドである、第57から第67の態様いずれかの方法である。
【0172】
第69の態様は、ポリペプチドが配列番号27のアミノ酸配列を含む、第57から第68の態様いずれかの方法である。
【0173】
第70の態様は、ポリマーが、コンジュゲートしたポリペプチドを含む少なくとも1種類モノマーから形成される、第57から第69の態様いずれかの方法である。
【0174】
第71の態様は、コンジュゲートしたポリペプチドを含む少なくとも1種類モノマーがメタクリル酸である、第70の態様の方法である。
【0175】
第72の態様は、ポリマーが、(i)ポリペプチドにコンジュゲートしたメタクリル酸および(ii)ヒドロキシエチルメタクリレートの重合から形成される、第70の態様の方法である。
【0176】
第73の態様は、ポリマーが、(i)メタクリル酸官能基を含むモノマーおよび(ii)ヒドロキシエチルメタクリレートの重合から形成される、第57から第69の態様いずれかの方法である。
【0177】
第74の態様は、ポリペプチドにコンジュゲートしたポリマーが、10キロダルトンと1000キロダルトンの間の分子量を有する、第59から第73の態様いずれかの方法である。
【0178】
第75の態様は、細胞培養物品の表面が、0°と50°の間の水接触角を有する、第57から第74の態様いずれかの方法である。
【0179】
第76の態様は、細胞培養物品の表面が、0°と30°の間の水接触角を有する、第57から第75の態様いずれかの方法である。
【0180】
第77の態様は、細胞培養物品の表面が、プラズマ処理済みポリスチレン表面である、第57から第76の態様いずれかの方法である。
【0181】
第78の態様は、細胞が幹細胞である、第57から第77の態様いずれかの方法である。
【0182】
第79の態様は、細胞がヒト胚性幹細胞またはヒト間葉系幹細胞である、第78の態様の方法である。
【0183】
ここに記載された組成物、方法、および物品の非限定的実施例が、例示のために以下に提示される。
【実施例】
【0184】
実施例1:
培地中でのプレコートされた基体対ポリマー上の培養
「MesenCult」−XF Attachment Substrate(MC−ASB)(StemCell Technologies、カタログ番号0542)、ポリ(HEMA−co−MAA−PEO4−VN)(「polyHEMA−co−VN」)でプレコートされたか、もしくは未被覆のコーニング「CellBIND」プレート(コーニングカタログ番号3335)またはCostar(登録商標)TC−処理プレート(コーニングカタログ番号3516)のいずれかである6ウェルプレート内で細胞を培養した。手短に言えば、ペプチドモノマーMAA−PEG4−VN(メタクリル酸−[ポリエチレングリコール]
4−ビトロネクチン、ここで、ビトロネクチンは、配列番号27のアミノ酸配列を有する)をAmerican Peptide Company Inc.社から購入した。この会社では、固相ペプチド合成装置を使用してその分子を合成した。このモノマーは、フリーラジカル熱重合を使用して、エタノール中においてヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)と1:9のモル比を使用して共重合し、最終的なpolyHEMA−co−VNペプチドコポリマーを得た。
【0185】
未被覆のプレートについては、細胞培養培地にMC−ASBまたはpolyHEMA−co−VNを加えて、細胞と共に平板培養した。細胞培養培地は、「MesenCult」−XF完全培地(「MC−XF」)基礎培地(StemCell Technologies、カタログ番号054020)であり、これは、「MesenCult」−XF基礎培地(StemCell Technologies、カタログ番号05421)、「MesenCult」−XF Supplement(5X)(StemCell Technologies、カタログ番号05422)および2mMのL−グルタミン(StemCell Technologies、カタログ番号07100)を含んでいた。
【0186】
A.
プレコート容器の調製
i. 「
MesenCult」Attachment Substrate
MC−ASBを、製造業者の指示にしたがってプレコートした。手短に言えば、MC−ASBを、保存溶液として1mg/mlの濃度で水中に溶解させた。被覆のために、このMC−ASB保存溶液を、Ca++またはMg++を含まない無菌PBS(Life Technologiesカタログ番号14190)中で1:28に希釈し、TCTプレートにウェル当たり0.8mlを加えた。このプレートを、タンパク質吸着のために4℃で一晩、蓋をしたNalgene容器内で貯蔵した。細胞培養の前に、プレートを20〜30分間で室温まで暖まらせ、ウェルの縁に無菌細胞培養水をかけて洗浄した。この水を回しかけて、全表面を濯ぎ、次いで、吸引した。
【0187】
ii.
polyHEMA−co−VN
ガンマ線滅菌したpolyHEMA−co−VN粉末を無菌組織培養水中において2mg/mlの濃度に無菌で戻して、保存溶液を生成した。この保存溶液を前後に穏やかに揺り動かし、室温で5分間に亘り溶解させた。「CELLBind」6ウェルプレートにおいて、各ウェル内で25μlのポリマー保存溶液を1mlの無菌水で希釈し、1時間に亘り37℃でインキュベーションした。プレートの各ウェルの縁に無菌細胞培養水をかけてプレートを洗浄した。この水を回しかけて、全表面を濯ぎ、次いで、吸引した。
【0188】
iii.
Matrigel
Magrigel(登録商標)を1:30で希釈し、hESC播種とその後の培養のために対照表面としてのTCT 6ウェルプレート上に被覆した。
【0189】
B.
細胞培養
i.
hMSC
骨髄由来幹細胞供与者番号2637、p4細胞を、MC−XF中においてMC−ASBプレコート表面上で増殖させた。細胞が80%のコンフルエンシーに到達したときに、細胞を継代培養した。細胞をdPBS(Life Technologiesカタログ番号14190)で手短に濯ぎ、次いで、約2分間に亘り「MesenCult」−ACF Enzymatic Dissociation溶液(StemCell Techカタログ番号05427)と共にインキュベーションした。この細胞を表面から穏やかに採取し、ピペットで数回上下に吸い込んだり出したりし、次いで、15mlの遠心分離管に移した。次いで、フラスコを「MesenCult」−ACF Enzyme Inhibition溶液(StemCell Techカタログ番号05428)で濯ぎ、次いで、細胞を含有する管に加えた。細胞は6分間に亘り1200〜1500rpmで遠沈させた。細胞数と生存率は、Vi−Cell自動細胞生存分析器(Beckman-Coulter)から得た。プレコートしたMC−ASBプレート、「CellBIND」およびプレコートしたpolyHEMA−co−VNプレートに、3500細胞/cm
2の細胞密度でMC−XF中においてhMSC細胞を播種した。未被覆プレートについて、細胞懸濁液に、対応する保存溶液を使用して、0.05mg/ml、0.025mg/ml、0.012mg/mlおよび0.006mg/mlのpolyHEMA−co−VNまたは0.37mg/mlおよび0.0074mg/mlのMC−ASBを補給した。接着補助物質を含むものと含まない細胞混合物懸濁液4mlを各ウェルに加えた。培養中、2〜3日毎に培地を取り替えた。
【0190】
a.
細胞数および染色
各条件下で培養した細胞を、6ウェルプレートの4から5ウェルから収穫し、一緒に貯留し、1mlのウシ胎児血清(Life Technologiesカタログ番号16000)を含有する15mlの遠心分離管に移した。次いで、全てのウェルをdPBSで濯ぎ、15mlの試験管内の細胞懸濁液に加えた。細胞を5〜6分間に亘り1200〜1500rpmで遠沈し、次いで、3〜5mlのMC−XF中に再び懸濁させた。細胞数および生存率は、Vi−Cellから得た。細胞の被覆率の均一性を示すために、各プレート上の1つのウェルをクリスタルバイオレット染色溶液で染色した。
【0191】
ii.
hESC
ヒトESC−BGO1vをLife Technologies社から購入し、対照条件または実験条件における試験に使用した。既知組成培地の「mTeSR」1をStemCell Technology社から購入し、ここに報告した全てのhESC培養実験について標準培地として使用した。「Matrigel」はBD Scienences社から購入した。「CellBind」およびTCT 6ウェルプレートはCorning Life Sciences社から購入した。
【0192】
polyHEMA−co−VNを0.006mg/mlから0.025mg/mlの濃度で「mTeSR」1に加え、「CellBind」6ウェルプレート内での播種のためにBGO1v細胞と混合した。
【0193】
細胞は、ウェル当たり0.8×10
6で播種し、2日後から毎日補給した。再補給中に、培地にポリマーは添加しなかった。光学顕微鏡を使用して、細胞形態を毎日観察した。細胞数および生存率は、4日後にVi−Cellから得た。
【0194】
C.
結果および議論
i.
hMSC
図5は、6ウェルTCTプレートのウェル上で培養された細胞の画像を表しており、ここで、ウェルは、(a)MC−ASBでプレコートされており、(b)未被覆であるが、播種細胞培養培地は0.037mg/mlのMC−ASBを含有しており、(c)未被覆であるが、播種細胞培養培地は0.0074mg/mlのMC−ASBを含有していた。図から分かるように、プレコートされたMC−ASBは、hMSCの正常な接着と増殖を支持した(
図5(a))。対照的に、MC−ASBの細胞培養培地への添加および未被覆表面上への平板培養では、0.037mg/ml(
図5(b))または0.0074mg/ml(
図5(c))の試験濃度で、hMSCの同様の接着支持は提供しなかった。
【0195】
MC−ASBの濃度に0.037mg/mlおよび0.0074mg/mlを選択したのは、0.037mg/mlが、MC−ASBをプリコートする(細胞性能がうまくいった)のに使用したMC−ASB溶液の濃度であり、0.0074mg/mlでは、プレコートしたウェルにおける各ウェル内の材料と同じ量を提供したからである。プレコートプロセスに使用した0.8mlに対して、細胞培養に使用した培地の4mlのより大きい体積のために、5倍の希釈を適用した。
【0196】
MC−ASBとは対照的に、培地中に添加されたpolyHEMA−co−VNは、hMSCの成長を効果的に支持した。この成長は、polyHEMA−co−VNをプレコートした表面に匹敵した。polyHEMA−co−VNがなければ、培地のみでは、そのようにうまくいかなかった。
図6を参照すると、polyHEMA−co−VNを含む場合と含まない場合の「CellBind」表面上で培養したhMSCの画像が示されている。プレコートされたpolyHEMA−co−VN(
図6(a))、播種細胞培養培地にpolyHEMA−co−VNが加えられていない未被覆「CellBind」(
図6(b))、播種細胞培養培地に0.006mg/mlのpolyHEMA−co−VNが加えられた未被覆「CellBind」(
図6(c))、播種細胞培養培地に0.012mg/mlのpolyHEMA−co−VNが加えられた未被覆「CellBind」(
図6(d))、播種細胞培養培地に0.025mg/mlのpolyHEMA−co−VNが加えられた未被覆「CellBind」(
図6(e))、および播種細胞培養培地に0.050mg/mlのpolyHEMA−co−VNが加えられた未被覆「CellBind」(
図6(f))上で培養された細胞が示されている。
【0197】
ここで、
図7を参照すると、様々な表面で培養されたクリスタルバイオレット染色されたhMSCの画像が示されている。これらの画像は、(a)MC−ASBがプレコートされたTCT表面、(b)0.037mg/mlのMC−ASBが加えられた播種培地を有する非プレコートTCT表面、(c)0.0074mg/mlのMC−ASBが加えられた播種培地を有する非プレコートTCT表面、(d)polyHEMA−co−VNがプレコートされた「CellBind」表面、(e)非プレコート「CellBind」表面、(f)0.006mg/mlのpolyHEMA−co−VNが加えられた播種培地を有する非プレコート「CellBind」表面、(g)0.012mg/mlのpolyHEMA−co−VNが加えられた播種培地を有する非プレコート「CellBind」表面、(h)0.025mg/mlのpolyHEMA−co−VNが加えられた播種培地を有する非プレコート「CellBind」表面、(i)0.050mg/mlのpolyHEMA−co−VNが加えられた播種培地を有する非プレコート「CellBind」表面上で培養されたhMSCのものである。
【0198】
図7に示されるように、プレコートされたMC−ASBプレート(a)は、hMSC接着を支持するが、播種培地にMC−ASBが加えられた非プレコートプレートでは、接着を支持しなかった(b〜c)。対照的に、プレコートされたpolyHEMA−co−VNプレート(d)および播種細胞培養培地にpolyHEMA−co−VNが加えられた非プレコートpolyHEMA−co−VN(f〜g)は、hMSC接着を支持した。播種培地にpolyHEMA−co−VNが加えられなかった未被覆「CellBind」プレートは、hMSC接着にとって十分には機能しなかった(e)。
【0199】
ここで
図8を参照すると、polyHEMA−co−VNおよびMC−ASB表面の各々に観察された生存細胞の百分率を示すグラフが示されている。様々な表面に接着した細胞の数は様々であったが、接着した細胞の生存率は、試験した全ての表面について、100%に近かった。
【0200】
ここで
図9を参照すると、polyHEMA−co−VNおよびMC−ASB表面の各々に接着した細胞の数を示すグラフが示されている。これらの結果により、先に示され、
図7に関して論じられた結果が確認される。すなわち、プレコートされたMC−ASBは接着と成長を支持したが、MC−ASBが播種培地に加えられた非プレコートウェルは接着を支持しなかった。対照的に、polyHEMA−co−VNが播種培地に加えられた非プレコートウェルおよびプレコートされたpolyHEMA−co−VN表面の両方とも、hMSCの接着を支持した。
【0201】
これらの結果は、polyHEMA−co−VNは、培地から基体表面に効率的に吸着され、hMSCの接着と成長を迅速に提供できるが、MC−ASBはそうではないことを示唆している。polyHEMA−co−VNのポリマー濃度が増加すると、細胞形態および表面被覆率に影響せずに、細胞数が減少した。吸収後に溶液中に残された余分なポリマーが、細胞の接着を低減させるかもしれないが、その影響は最小であった。このことは、このポリマーには、培地中のhMSCに対する副作用はほとんどなく、細胞培養にとって安全であることを示唆している。
【0202】
結論として、polyHEMA−co−VNは、従来の細胞培養基体の直接上でhMSCの接着と成長を可能にする培地の補助物質として使用できる。このポリマーは、細胞治療用途にとって合成の既知組成培地を製造するための新たな方法を提供するであろう。
【0203】
ii.
hESC
hMSCに関するように、播種細胞培養培地へのpolyHEMA−co−VNの添加は、非プレコート表面上のhESCの接着と成長を支持した。
【0204】
ここで
図10を参照すると、「Matrigel」被覆TCTプレート(c)上および細胞播種培地に0.006mg/mlのpolyHEMA−co−VN(b)または0.025mg/mlのpolyHEMA−co−VN(a)が加えられた非プレコート「CellBind」プレート上の2日目のhESCの画像が示されている。図から分かるように、0.006mg/mlの濃度のpolyHEMA−co−VN中で、hESCは非常に良好に接着し、広がった。これは、
図10(b)および
図10(c)に示されるように、「Matrigel」表面に匹敵した。播種培地に0.025mg/mlが加えられた場合、細胞のより多くのクラスターが観察された。これは、
図10(a)に示されるように、細胞間により多くの相互作用があることを示唆している。
【0205】
ここで
図11を参照すると、「Matrigel」被覆TCTプレート(c)上および細胞播種培地に0.006mg/mlのpolyHEMA−co−VN(b)または0.025mg/mlのpolyHEMA−co−VN(a)が加えられた非プレコート「CellBind」プレート上の4日目のhESCの画像が示されている。播種培地を補給するために、より低い濃度のpolyHEMA−co−VNを使用した場合、細胞は、
図11(b)および
図11(c)に示されるように、「Matrigel」被覆表面に匹敵する良好な形態を維持し続けた。より高い濃度のpolyHEMA−co−VN(
図11(a))でも、継続した接着および成長が観察された。
【0206】
ここで
図12を参照すると、「Matrigel」上、播種培地に0.025mg/mlのpolyHEMA−co−VNが加えられた非プレコート表面、および播種培地に0.006mg/mlのpolyHEMA−co−VNが加えられた非プレコート表面上での培養の4日後の細胞数のグラフが示されている。
図12に示されるように、最終的な細胞数は、「Matrigel」対照と、補給されたpolyHEMA−co−VNとの間で匹敵する。
【0207】
全体として、より高濃度のpolyHEMA−co−VNにより、より多くの細胞のクラスター化およびより膿疱性の形態が生じた。しかしながら、細胞数は影響を受けなかった。これらの結果は、培地中のポリマーの濃度は、加えられたペプチドポリマーが細胞と細胞クラスターとどのように相互作用するかには影響しないであろうと示唆される。
【0208】
それゆえ、細胞培養のための合成接着培地の実施の形態が開示されている。ここに記載された組成物、被覆、物品、方法などは、開示された実施の形態以外の実施の形態により実施できることが、当業者により認識される。開示の実施の形態は、制限ではなく、説明の目的で提示される。