特許第6205392号(P6205392)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6205392ヒドロクロロフルオロオレフィン類の組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205392
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】ヒドロクロロフルオロオレフィン類の組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/04 20060101AFI20170914BHJP
   C11D 7/30 20060101ALN20170914BHJP
   C11D 7/50 20060101ALN20170914BHJP
   C11D 7/24 20060101ALN20170914BHJP
   C11D 7/26 20060101ALN20170914BHJP
【FI】
   C09K5/04 C
   !C11D7/30
   !C11D7/50
   !C11D7/24
   !C11D7/26
【請求項の数】6
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-149877(P2015-149877)
(22)【出願日】2015年7月29日
(62)【分割の表示】特願2011-509608(P2011-509608)の分割
【原出願日】2009年5月12日
(65)【公開番号】特開2015-187284(P2015-187284A)
(43)【公開日】2015年10月29日
【審査請求日】2015年8月28日
(31)【優先権主張番号】61/052,285
(32)【優先日】2008年5月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン・ビー・チェン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・ボネット
(72)【発明者】
【氏名】マハー・ワイ・エルシェイク
(72)【発明者】
【氏名】ブレット・エル・ヴァン・ホーン
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・アバ
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−087523(JP,A)
【文献】 国際公開第00/029361(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/002625(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/089511(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00− 5/20
C11D 1/00−19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロクロロフルオロオレフィン1233zdのトランス立体異性体70重量%以上とヒドロクロロフルオロオレフィン1233zdのシス立体異性体30重量%未満とからなる伝熱流体組成物。
【請求項2】
前記ヒドロクロロフルオロオレフィン1233zdが、90重量%以上の前記トランス立体異性体と10重量%未満の前記シス立体異性体とからなる請求項1に記載の伝熱流体組成物。
【請求項3】
前記ヒドロクロロフルオロオレフィン1233zdが、97重量%以上の前記トランス立体異性体と3重量%未満の前記シス立体異性体とからなる請求項1に記載の伝熱流体組成物。
【請求項4】
コンプレッサー内の冷媒を圧縮すること、および冷却する本体の近傍に前記冷媒を蒸発させることを含んでなり、前記冷媒が、ヒドロクロロフルオロオレフィン1233zdのトランス立体異性体を70重量%以上とヒドロクロロフルオロオレフィン1233zdのシス立体異性体30重量%未満とからなる、冷却を生じさせる方法。
【請求項5】
前記冷媒が、実質的に、前記トランス立体異性体90重量%以上と前記シス立体異性体10重量%未満からなる請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記冷媒が、実質的に、前記トランス立体異性体97重量%以上と前記シス立体異性体3重量%未満とからなる請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤/洗浄組成物、または伝熱液としての、少なくとも1種のヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)の使用に関する。溶剤/洗浄用途は、例えば、脱フラックス操作などにおいて電子回路板を洗浄する目的が考えられる。本発明のHCFOは、限定はしないが、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO−1233zd)などのHCFO−1233、好ましくは、HCFO−1233zdのトランス異性体単独、または組み合わされた前述トランス異性体である。本発明のHCFOは、ヒドロフルオロカーボン類(HFCs)、ヒドロフルオロオレフィン類(HFOs)、炭化水素類、ヒドロフルオロエーテル類(HFEs)などのエーテル類、エステル類、ケトン類、アルコール類、1,2−トランスジクロロエチレンおよびそれらの混合物などの共試剤と組み合わせて用いることができる。
【背景技術】
【0002】
1987年10月に署名承認されたオゾン層の保護に関するモントリオール議定書は、クロロフルオロカーボン類(CFCs)使用の段階的廃止を命じた。ヒドロフルオロカーボン類(HFCs)、例えば、HFC−134aなどのオゾン層により「優しい」物質が、クロロフルオロカーボン類に取って代わった。後者の化合物は地球を温暖化させる温室ガスであることが判明し、1998年に署名承認された気候変動に関する京都議定書によって規制された。地球の気候変動に対する懸念は続いており、オゾン破壊指数(ODP)が高く、地球温暖化指数(GWP)の高いものを他と取り替えるための技術開発への望みが高まっている。非オゾン破壊化合物であるヒドロフルオロカーボン類(HFCs)は、溶剤/洗浄剤、および伝熱液として、クロロフルオロカーボン類(CFCs)およびヒドロクロロフルオロカーボン類(HCFCs)の代替物に特定されているが、それらは依然としてかなりのGWPを有する傾向がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
ヒドロクロロフルオロオレフィンHCFO−1233、好ましくは、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO−1233zd)、より好ましくは、HCFO−1233zdのトランス異性体単独、または組み合わされた前述トランス異性体を含んでなる溶剤/洗浄および伝熱組成物が、有効な溶剤/洗浄および伝熱活性を提供する一方、無視し得るオゾン破壊指数(ODP)、低い地球温暖化指数(GWP)を有し、低毒性を示すことが分かった。
【発明を実施するための形態】
【0004】
本発明は、単独で、または追加の共試剤と組み合わせて用いられるヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)を含んでなる無視し得るオゾン破壊および低GWPを有する溶剤/洗浄剤および伝熱流体剤に関する。本発明の好ましい実施形態において、HCFOは、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO−1233zd)、好ましくは、そのトランス異性体単独、または1種以上の共試剤と組み合わされた前述トランス異性体である。HCFOと共に用いられる好ましい共試剤としては、(a)限定はしないが、ジフルオロメタン(HFC32);1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタン(HFC125);1,1,1−トリフルオロエタン(HFC143a);1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC134);1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC134a);1,1−ジフルオロエタン(HFC152a);1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFC227ea);1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC245fa);1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC365mfc)および1,1,1,2,2、3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(HFC4310mee)、1,1,1,2−テトラフルオロエタンなどのヒドロフルオロカーボン類;(b)限定はしないが、テトラフルオロプロぺン類(HFO1234)、トリフルオロプロぺン類(HFO1243)、全てのテトラフルオロブテン異性体(HFO1354)、全てのペンタフルオロブテン異性体(HFO1345)、全てのヘキサフルオロブテン異性体(HFO1336)、全てのヘプタフルオロブテン異性体(HFO1327)、全てのヘプタフルオロペンテン異性体(HFO1447)、全てのオクタフルオロペンテン異性体(HFO1438)、全てのノナフルオロペンテン異性体(HFO1429)、(シスおよび/またはトランス)−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye)などのヒドロフルオロオレフィン類、(c)限定はしないが、ペンタン異性体、ブタン異性体、およびヘキサン異性体などの炭化水素類、(d)メタノール、エタノール、およびイソプロパノールなどのC1からC5のアルコール類、C1からC4のアルデヒド類、C1からC4のケトン類、C1からC4のエーテル類およびジエーテル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、ギ酸エチル、酢酸エチルなどのエステル、1,2−トランスジクロロエチレンおよび二酸化炭素、(e)2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO−1233xf)およびジクロロトリフルオロプロペン(HCFO1223)などのHCFO類;ならびにそれらの混合物が挙げられる。共試剤は、約1%から約40%の本発明の組成物を含んでなり得る。共試剤としてアルコールが用いられる場合、それは約2%から約15%の当該組成物を含んでなることが好ましい。
【0005】
本発明のHCFO−1233zdは、主にHCFO−1233zdのトランス異性体であることが好ましい。トランス(E)異性体およびシス(Z)異性体は以下に示される:
【化1】
【0006】
本発明のHCFO−1233zdの大部分はトランス異性体である。AMES試験において、トランス異性体はシス異性体よりも有意に低い遺伝毒性を示すことが分かっている。トランスおよびシス異性体の好ましい比率は、シス異性体の組み合わせの約30重量%未満、好ましくは、シス異性体の約10%未満である。最も好ましい比率は、シス異性体の約3%未満である。さらに、トランス異性体は、溶剤として有効性を示すカウリブタノール価を有するが、HCFO−1233xdのカウリブタノール価は、ASTM D1133の「炭化水素のカウリブタノール価に関する標準的試験法(Standard Test Method for Kauri−Butanol Value of Hydrocarbons)」によっては測定できないことが分かった。本発明の組成物の好ましいカウリブタノール価は、15超、好ましくは20超である。
【0007】
本発明の組成物は、エアーコンディショニング、ヒートポンプ、および冷凍用途などのシステムにおいて、伝熱流体として用いることができる。蒸気圧縮サイクルは、冷凍システムにおける冷却または加熱を達成するための最も一般的に用いられるタイプの方法の一つである。蒸気圧縮サイクルは通常、比較的低圧での熱吸収による液相から蒸気相への冷媒の相変化、次いで比較的低圧かつ低温度での熱除去による蒸気相から液相への相変化、比較的高圧への蒸気圧縮、この比較的高圧かつ高温での熱除去による蒸気相から液相への凝縮、次いで圧を低下させてこのサイクルを再び開始することを含む。
【0008】
冷凍の主要な目的は、比較的低温で対象または他の流体の熱を除去することであるが、ヒートポンプの主要な目的は、環境よりも高い温度で熱を加えることである。
【0009】
冷媒の主要な目安のうちの2つは、容量と効率性である。容量は、所与の容量流動率で冷媒が生じ得る冷却量であり、他の事項の中でもとりわけ、冷凍装置の寸法選びにとって重要である。主にトランス異性体であるHCFO−1233zdは、HCFO−1233zdのシス異性体よりも大きな冷媒量を提供することが分かった。
【0010】
本発明の組成物はまた、本発明の組成物、すなわち、溶剤/洗浄用途およびシステムフラッシング用途の組成物を物品に適用することにより、製品、部品、構成要素、基体、もしくは他の任意の物品またはその一部からコンテインメントを除去する方法を提供する。便宜上、用語「物品」とは、本明細書において、このような全ての製品、部品、構成要素、基体などのことであり、さらに、それらの任意の表面または一部のことも意味する。さらに、用語「不純物」とは、その物品上に存在する任意の不要の材料または物質のことである(たとえこのような物質が意図的に物品上に置かれているとしても)。例えば、半導体デバイスの製造において、エッチング操作のためのマスクを形成するためにフォトレジスト材料を基体上に配置し、引き続いて基体からそのフォトレジスト材料を除去することが一般的である。本明細書で用いられる用語「不純物」は、このようなフォトレジスト材料を含み包含することを意図している。
【0011】
エアーコンディショニング剤および冷凍フラッシング剤は、コンデンサおよびエバポレータからのように、冷凍システムおよびエアーコンディショニングシステムから、油、デブリ、スラッジ、残渣などを除去するために用いられる。フラッシング剤は、良好な溶解特性を有すること、システム構成要素(O−リング、シールなど)と適合性であること、安全であること、非引火性であること、使用が容易であること、迅速に乾燥させることが必要であり、後に問題を起こし得る残渣を残してはならない。CFC−11およびHCFC−141bはフラッシング溶剤として用いられてきたが、それらのオゾン破壊性により段階的廃止の対象となっている。HFC−245faは、フラッシング剤として用いられているが、鉱油を用いる冷凍システムおよびエアーコンディショニングシステムなどいくつかの用途に関しては、有効なフラッシング剤となるべき溶解力が不足している。さらなる溶解性が必要とされる場合、HFC−245faとトランス−1,2−ジクロロエチレン(TDCE)の混合物が使用できるが、TDCEは引火性であり、いくつかのシステムの構成要素には適合性でないと考えられる。
【0012】
E−1233zdは、開ループシステムと閉ループシステム双方での広範囲のエアーコンディショニングおよび冷凍のフラッシングの需要において用いられるべく、また、鉱油、アルキルベンゼン油、ポリオールエステル油、ポリアルキレングリコール類、ポリビニールエーテル類、ポリアルファオレフィン類などの一般的に用いられる全ての冷凍潤滑剤と共に用いられるべく十分な溶解性を有する有効な非引火性で操作の安全なフラッシング剤である。E−1233zdは、フラッシング後、問題のある残渣を残さずに冷凍システムまたはACシステムから容易に除去することもできる。
【0013】
フラッシング剤として用いる場合、Z−1233zdでは、冷凍システムまたはエアーコンディショニングシステムからの除去がE−1233zdよりも難しく、システム内に過剰の残渣を残す危険性が大きく増加する。このことによって、操作時の冷凍システムまたはエアーコンディショニングシステムの性能が損なわれる可能性があり、Z−1233zdの毒性増加により安全性が低下する。Z−HCFO−1233zdもまた、操作者のフラッシング剤に対する曝露の危険性が特に高い開ループシステムにおけるフラッシング剤として、E−1233zdより望ましくない。
【0014】
本発明のフラッシング剤は、HCFO−1233zd、好ましくは主にE−1233zdのフラッシング剤である。
【0015】
本発明の好ましい溶解法/洗浄法は、本発明の組成物を、物品/システムに適用することを含んでなり、一定の用途、特に複雑な部品および汚れの除去が困難な用途では、蒸気脱脂法および溶剤洗浄法が特に好ましい。好ましい蒸気脱脂法および溶剤洗浄法は、物品を、好ましくは室温で沸騰溶剤の蒸気に曝露することからなる。対象上の蒸気凝縮は、油脂または他の汚染物を洗浄する比較的清浄な蒸留溶剤を提供する利点を有する。したがって、このような方法は、対象が単に液体溶剤によって洗浄される場合に比較して、本溶剤組成物の対象からの最終的蒸発によって残る残渣が相対的に少ない点で、さらなる利点を有する。
【0016】
除去することの困難な不純物を含む物品における用途では、本発明の方法が、溶剤/洗浄剤の洗浄作用を実質的に改善するために、本発明の溶剤/洗浄剤組成物の温度を周囲温度以上に、またはこのような用途において有効な他の温度まで上昇させることを含むことが好ましい。このような方法はまた、物品、特に金属の部品および組立て部品の洗浄を効率的に、迅速に行わなければならない大量組立てライン操作でも一般に好ましい。
【0017】
好ましい実施形態において、本発明の溶解法/洗浄法は、高温で、さらに好ましくは、溶剤のほぼ沸点で、洗浄する物品を液体の溶剤/洗浄剤に浸漬することを含んでなる。このような操作において、物品から、目標の不純物のかなりの量が、さらに好ましくは、大部分が、このステップによって除去されることが好ましい。次いでこのステップに引き続いて、先行の浸漬ステップにおける液体溶剤の温度以下で、好ましくは、周囲温度または室温で、溶剤/洗浄剤、好ましくは新鮮蒸留溶剤に、物品を浸漬することが好ましい。好ましい方法はまた、次いで、物品を、好ましくは、先に記載した浸漬ステップに関連した高温/沸騰溶剤/洗浄剤から上がる溶剤/洗浄剤の蒸気に曝露することにより、物品を本溶剤/洗浄剤組成物の比較的高温の蒸気に接触させるステップも含む。このことにより、物品上に溶剤/洗浄剤の蒸気の凝縮が生じることが好ましい。一定の好ましい実施形態において、最終のすすぎ前に、物品に蒸留溶剤/洗浄剤をスプレーすることができる。例としては、限定はしないが、酸素供給部品の洗浄などが挙げられる。
【0018】
好ましい実施形態において、本発明の溶解法/洗浄法は、ハードディスクドライブ産業における潤滑剤沈着、医薬産業におけるシリコーン/PTFEベースの潤滑剤沈着、および接着剤産業におけるスプレー接着剤担体溶剤などの用途における担体流体としてのE−1233zdの使用を含んでなる。
【0019】
本発明を、特定の実施形態を参照として本明細書に例示し説明しているが、添付の請求項を示された詳細へ限定することは意図しておらず、当業者により、これらの詳細に種々の改変がなされ得ることが考えられ、これらの改変もまた請求項の趣旨および範囲内にあり得、これらの請求項はそれに従って解釈されることが意図されている。本明細書におけるパーセンテージは全て別に規定しない限り重量パーセントである。
【実施例】
【0020】
決して限定的ではなく、例示を目的としている以下の実施例において、本発明をさらに説明する。
【0021】
実施例1−1233xfおよびE−1233zdの蒸気圧
全ての永久ガスを除去するために、認証された圧力計を備えた高圧セルを真空ポンプにより排気した。次いでこのセルに、14.21gの1233xfおよび9.17gのE−1233zdを個々にステンレス鋼製シリンジポンプにより装填した。この高圧セルを、温度が0.1℃の精度で制御された軌道周回シェーカ内に入れた。5℃、15℃、25℃、および35℃での圧力を測定した。平衡にするために、各温度における圧力を1時間後に測定した。圧力計の精度は、±0.1psia(ポンド/平方インチ(絶対圧力))であった。永久ガスが、圧力測定を妨害していなかったことを確認するために、1000/Tに対するln(自然対数)Pをプロットした。R2=0.9999と良好な線形適合が得られ、永久ガスの関与を示さなかった。測定された圧力は、表1に見ることができる。
【0022】
【表1】
【0023】
表1のデータは、1233xfが、15℃から25℃までの温度範囲内で(14.7psia)の大気圧よりも高い圧力を有していることを示し、1233xfが急速に蒸発することを示している。このことは、溶剤用途には望ましくない。E−1233zdは、5℃から15℃までの温度範囲内で大気圧よりも低い圧力を示す。
【0024】
実施例2 E−1233zdのカウリブタノール価
カウリブタノール(Kb)は、溶解力の指標として用いられている重要なパラメータの一つである。Kb価が高くなるほど、溶解力が強くなる。ASTM D1133の「炭化水素のカウリブタノール価に関する標準的試験法(Standard Test Method for Kauri−Butanol Value of Hydrocarbons)」に記述された手法に従った。比較として、他の一般的に用いられる溶剤、TDCE、トランス−1,2−ジクロロエチレン;F1411b、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン;CFC11、トリクロロフルオロメタン;HCHC225、およびジクロロペンタフルオロプロパンのKb価もまた測定した。
【0025】
【表2】
【0026】
Clの存在は、物質の溶解力の増加に寄与すると考えられた。表2では、塩素が1個しかない物質にしては、E−1233zdが、驚くほど高いカウリブタノール価を示すことが見られる。同様に塩素が1個しかない物質である1233xfのカウリブタノール価は測定することができなかったが、E−1233zdに関するカウリブタノール価は相対的に高いことはさらに驚くべきことである。
【0027】
実施例3 E−1233zdの引火性
溶剤の引火性は、その使用安全性に関連する。大抵の用途で、溶剤は出来るだけ引火性が低いことが望ましい。E−1233zdの引火性は、ASTM D3278−96に従って測定された引火点を特徴とした。TDCEおよびHCFC225の引火点を、比較例として用いた。これらの結果を表3に要約してある。
【0028】
【表3】
【0029】
塩素の存在は、分子の引火性を減少させ、一方、水素は引火性を増加させると考えられる。表3のデータにおいて、水素対塩素の比率が相対的に低いE−1233zdが、驚くべきことに引火点を示さない。
【0030】
実施例4 E−1233zdとエラストマーとの物質適合性
E−1233zdの沸点で72時間超線形膨潤を測定することによって、E−1233zdと種々のエラストマーとの適合性を測定した。これらの結果を表4に要約した。
【0031】
【表4】
【0032】
E−1233zdは、天然ゴムおよびEPDMとの適合性が、HCFC225およびCFC113と同等であることを示した。しかしながら、E−1233zdは、シリコーンゴムとの適合性がHCFC225およびCFC113よりもはるかに高かった。
【0033】
実施例5 E−1233zdを用いる潤滑油の脱脂
30×10mmの数枚のステンレス鋼プレートの表面に、少量の市販潤滑油を沈着させた。沈着の前後に、各プレートの質量を0.1mgの精度で測定した。これら2つの値の差異は、潤滑油の初期質量に相当する。
【0034】
初期質量が得られたら、各鋼プレートを、洗浄組成物で満たされたビーカー内に周囲温度で5分間浸漬する。その後、鋼プレートをビーカーから取り出し、外気中5分間乾燥した。その後、各プレートの質量を測定して、試験中に除去された潤滑油のパーセンテージを評価した。これらの結果を表5に要約してある。
【0035】
【表5】
【0036】
E−1233zdは、HCFC141bの結果と同等である。
【0037】
実施例6 シリコーン油の洗浄
シリコーン油を用いて実施例5と同様の手法に従った。これらの結果を表6に要約した。
【0038】
【表6】
【0039】
E−1233zdは、HCFC141bよりも良好な洗浄結果を示した。
【0040】
実施例7 1233zdおよびアルコール類の脱フラックス
30×10mmの数枚のステンレス鋼プレートの表面に、市販の少量のはんだ用フラックスを沈着させた。沈着前に、各プレートの質量を0.1mgの精度で測定したが、これは風袋質量に相当する。はんだ用フラックスに由来する金属が溶融するまで(1〜2分間)、これらのプレートを250℃に加熱した。次いでプレートから金属を容易に取り出すことができ、フラックスだけがプレート上に残存した。
【0041】
この方法で調製されたプレートを、外気中、周囲温度で16時間乾燥した。各乾燥プレートの質量を、沈着の前後に0.1mgの精度で測定した。これら2つの値の差異は、フラックスの初期質量に相当する。
【0042】
初期質量が得られたら、鋼プレートの半分を、洗浄組成物で満たされたビーカー内に周囲温度で30分間浸漬し、プレートの他の半分を、洗浄溶液で満たされたビーカー内に60分間浸漬する。浸漬後、ビーカーから鋼プレートを取り出し、外気中5分間乾燥した。その後、各プレートの質量を測定して、試験中に除去されたフラックスのパーセンテージを評価した。これらの結果を表7に要約してある。
【0043】
【表7】
【0044】
実施例8 1233zdおよびエステル類
市販の天然鉱油を用い高圧で実施例5と同様の手法に従った。これらの結果を表8に要約した。
【0045】
【表8】
【0046】
E−1233zdと1,2−トランスジクロロエチレンおよび酢酸メチルとの組成物は、各成分単独よりも予想外の良好な洗浄結果を示した。
【0047】
実施例9 エバポレータの洗浄
冷凍システムからのエバポレータには、既知量の300SUSの鉱油を含有する。エバポレータを、周囲温度で10分間、フラッシング剤でフラッシュすることができた。フラッシング時間後に、除去された油と残渣の量が測定されるであろう。このことは、フラッシングおよびフラッシング剤の排気後にエバポレータの重量を測定すること、ならびに/または除去した油および残渣からのフラッシング剤を取り除き、その重量を測定することにより実施できた。HFC−245faおよびトランス−HCFO−1233zdは、フラッシング剤として用いられるであろう。トランス−HCFO−1233zdは、フラッシングの間にHFC−245faよりも油と残渣をより大きなパーセンテージで除去し得ることが判明するであろう。
【0048】
実施例10 残渣
エアーコンディショニングからのエバポレータを洗浄するために、測定量のフラッシング液を加えて、開ループエバポレータのフラッシング手法後の条件をシミュレートすることが考えられる。エバポレータは、乾燥を補助するためエバポレータを通す緩流通気により25℃に維持されるであろう。このエバポレータを、例えば10分間乾燥してから、重量を測定して残存しているフラッシング剤の量が測定されるであろう。この手法は、トランス−HCFO−1233zdおよびシス−HCFO−1233zdを用いての実施が考えられるが、トランス−HCFO−1233zdよりもシス−HCFO−1233zdの方が、乾燥後の残存が多いことが予想される。
【0049】
蒸気脱脂装置の多数の種類とタイプが、本法と関連した使用に対して適応可能であることが考慮されている。当該溶解法/洗浄法はまた、汚染物品を、周囲温度もしくは室温条件下、本発明の流体組成物に浸すか、またはこのような条件下、溶剤/洗浄剤中に浸漬させたぼろきれまたは同様の対象物で拭き取る冷洗浄を含むことができる。
一側面において本発明は以下の発明を包含する。
(発明1)
ヒドロクロロフルオロオレフィン1233zdのトランス立体異性体を約70重量%以上含んでなる溶剤/洗浄剤組成物。
(発明2)
前記ヒドロクロロフルオロオレフィン1233zdが、約90重量%以上の前記トランス立体異性体を含んでなる発明1に記載の溶剤/洗浄剤組成物。
(発明3)
前記ヒドロクロロフルオロオレフィン1233zdが、約97重量%以上の前記トランス立体異性体を含んでなる発明1に記載の溶剤/洗浄剤組成物。
(発明4)
ヒドロフルオロカーボン類、ヒドロフルオロオレフィン類、炭化水素類、エーテル類、ヒドロフルオロエーテル類、エステル類、ケトン類、アルコール類、1,2−トランスジクロロエチレンおよびそれらの混合物をさらに含んでなる発明1に記載の溶剤/洗浄剤組成物。
(発明5)
前記アルコールが、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールからなる群から選択される発明4に記載の溶剤/洗浄剤組成物。
(発明6)
前記エステルが、ギ酸メチル、酢酸メチル、ギ酸エチルおよび酢酸エチルからなる群から選択される発明4に記載の溶剤/洗浄剤組成物。
(発明7)
約15超のカウリブタノール価を有する発明1に記載の溶剤/洗浄剤組成物。
(発明8)
約20超のカウリブタノール価を有する発明1に記載の溶剤/洗浄剤組成物。
(発明9)
前記ヒドロクロロフルオロオレフィン1233zdのトランス立体異性体を約70重量%以上含んでなる伝熱流体組成物。
(発明10)
前記ヒドロクロロフルオロオレフィン1233zdが、約90重量%以上の前記トランス立体異性体を含んでなる発明9に記載の伝熱流体組成物。
(発明11)
前記ヒドロクロロフルオロオレフィン1233zdが、約97重量%以上のトランス立体異性体を含んでなる発明9に記載の伝熱流体組成物。
(発明12)
ヒドロフルオロカーボン類、ヒドロフルオロオレフィン類、炭化水素類、エーテル類、ヒドロフルオロエーテル類、エステル類、ケトン類、アルコール類、1,2−トランスジクロロエチレンおよびそれらの混合物をさらに含んでなる発明9に記載の伝熱流体組成物。
(発明13)
前記アルコールが、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールからなる群から選択される発明12に記載の伝熱流体組成物。
(発明14)
前記エステルが、ギ酸メチル、酢酸メチル、ギ酸エチルおよび酢酸エチルからなる群から選択される発明12に記載の伝熱流体組成物。
(発明15)
前記ヒドロクロロフルオロオレフィン1233zdのトランス立体異性体を70重量%以上含んでなる液体および/または蒸気と表面との接触を含んでなる、前記表面から不純物を除去する方法。
(発明16)
前記液体および/または蒸気が、約90重量%以上の前記トランス立体異性体を含んでなる発明15に記載の方法。
(発明17)
前記液体および/または蒸気が、約97重量%以上の前記トランス立体異性体を含んでなる発明15に記載の方法。
(発明18)
前記液体および/または蒸気が、ヒドロフルオロカーボン類、ヒドロフルオロオレフィン類、炭化水素類、エーテル類、ヒドロフルオロエーテル類、エステル類、ケトン類、アルコール類およびそれらの混合物をさらに含んでなる発明15に記載の方法。
(発明19)
前記アルコールが、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールからなる群から選択される発明18に記載の方法。
(発明20)
前記エステルが、ギ酸メチル、酢酸メチル、ギ酸エチルおよび酢酸エチルからなる群から選択される発明18に記載の方法。
(発明21)
脱脂、精密洗浄、脱フラックス、脱水、脱酸素またはシリコン沈着の除去を含んでなる発明15に記載の方法。
(発明22)
脱脂を含んでなる発明15に記載の方法。
(発明23)
精密洗浄および脱フラックスを含んでなる発明15に記載の方法。
(発明24)
脱水を含んでなる発明15に記載の方法。
(発明25)
潤滑剤、およびスプレー接着剤のための担体流体適用を含んでなる発明15に記載の方法。
(発明26)
シリコン沈着の除去を含んでなる発明15に記載の方法。
(発明27)
前記液体および/または蒸気が、約15超のカウリブタノール価を有する発明15に記載の方法。
(発明28)
前記液体および/または蒸気が、約20超のカウリブタノール価を有する発明15に記載の方法。
(発明29)
コンプレッサー内の冷媒を圧縮すること、および冷却する本体の近傍に前記冷媒を蒸発させることを含んでなり、前記冷媒が、ヒドロクロロフルオロオレフィン1233zdのトランス立体異性体を約70重量%以上含んでなる、冷却を生じさせる方法。
(発明30)
前記冷媒が、実質的に、前記トランス立体異性体を約90重量%以上含んでなる発明29に記載の方法。
(発明31)
前記冷媒が、実質的に、前記トランス立体異性体を約97重量%以上含んでなる発明29に記載の方法。
(発明32)
前記冷媒が、ヒドロフルオロカーボン類、ヒドロフルオロオレフィン類、炭化水素類、エーテル類、ヒドロフルオロエーテル類、エステル類、ケトン類、アルコール類、1,2−トランスジクロロエチレンおよびそれらの混合物をさらに含んでなる発明29に記載の方法。
(発明33)
前記アルコールが、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールからなる群から選択される発明32に記載の方法。
(発明34)
前記エステルが、ギ酸メチル、酢酸メチル、ギ酸エチルおよび酢酸エチルからなる群から選択される発明32に記載の方法。