(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、阻害剤は、化学反応(特に、ラジカル開始剤の添加前の予熱器の壁における早期重合反応などの望ましくない重合反応)の速度を低減するか又は化学反応を妨げる物質である。
【0009】
好ましくは、当該方法は、少なくとも6個の炭素原子及び少なくとも2つの非共役二重結合を含み、前記非共役二重結合の少なくとも1つが末端である多価不飽和オレフィンでエチレンを重合する高圧エチレン重合法である。
【0010】
ファウリング、例えば、予熱器のファウリングは、使用された多価不飽和オレフィンの等級(グレード)に起因する、反応混合物中に含有される不純物のためであると考えられる。
【0011】
驚くことに、反応領域に反応混合物を供給する前に阻害剤を添加することにより、望ましくないファウリング(予熱器のファウリングなど)を回避し得るか又は少なくとも著しく低減し得ることを見出した。それにより、安定した反応条件を保持することができ、より均一な製品特性をもたらす。さらに、望まれる場所でラジカル開始剤が分解するので、安全性が改善される。なお、ラジカル開始剤(例えば、開始剤供給物)を添加する前の反応混合物の変動温度に依存するプロセスの間にプロセス条件を修正することは必要でない。
【0012】
さらに、通常、高圧エチレン重合プラントでは、異なる組成をもつ1種以上の製品が連続的な方法で製造される。出来るだけ僅かな製造時間が失われ、且つ第1製品又は第2製品のいずれかの仕様に合致しない中間生成物が出来るだけ少なく生成するように、1つの製品から他の製品への切換えを出来るだけ早く行い得ることが望ましい。
【0013】
1つの製品から他の製品へ切替える場合、予熱器のファウリング層に存在する残留物は、壁から分離し、得られる製品を汚染するかもしれない。したがって、プラントから得られるポリマーが第2製品の仕様に合致するまで、もっと多くの時間が必要になる。よって、予熱器のファウリングを低減又は更には回避することにより、切換え時間が削減される。切換え時間は、第1製品の仕様に従う最終ポリマー製品が得られてから、第2製品の仕様に従う第1ポリマーが得られるまでの時間と定義される。したがって、本発明の方法により、1つの製品から他の製品への切換えがより速くなる。
【0014】
本発明において、「重合方法」という用語は、2種以上の異なるモノマーがプロセス中で共重合されることを意味する。したがって、本発明の重合方法では、3種、4種又はそれ以上の異なるコモノマーが共重合されてもよい。
【0015】
それ故に、本発明の方法で製造されるポリエチレンは、2種以上の異なるコモノマーを含有してもよい。
【0016】
通常、本発明の重合方法において、5種以下のコモノマーが使用され、好ましくは4種以下の異なるコモノマー、最も好ましくは3種以下の異なるコモノマーが使用される。
【0017】
高圧でのフリーラジカル開始重合によるエチレン(コ)モノマーの重合(高圧ラジカル重合と称される)は、当該技術分野において公知となってから長い。一般に、重合は、1種以上のラジカル開始剤(例えば、過酸化物、ヒドロキシペルオキシド、及び酸素又はアゾ化合物;通常、酸素、過酸化物又はアゾ化合物が使用される)の作用の下、反応器内において約80〜350℃の温度及び100〜500MPaの圧力でモノマーを反応させることにより行われる。
【0018】
通常、重合は、オートクレーブ又は管型反応器のいずれかにおいて、一般に連続的な方法で行われる。
【0019】
オートクレーブ法は、例えば、攪拌されたオートクレーブ反応器において行うことができる。攪拌されたオートクレーブ反応器は、分離された領域に一般に分けられる。主流パターンは、上部領域(複数可)から下部領域(複数可)へのパターンであるが、逆混合を行うことができ、これが望ましいことがある。撹拌機は、当業者によって選択される適切な回転速度で効率的な混合及びフロー(流れ)パターンを生成するために好ましくはデザインされる。圧縮混合物は、一般に冷却され、1つ以上の反応器領域に供給される。ラジカル開始剤も反応器に沿った1つ以上の領域で注入され得る。ラジカル開始剤として、高温でラジカルを分解するあらゆる化合物又はその混合部を使用することができる。使用可能なラジカル開始剤は、市販されており、例えば、ジ−ターシャル−ブチルペルオキシドである。重合反応は発熱性であり、開始後(最初のラジカルを作るために、高温、例えば、80〜150℃で)、生じた発熱が反応を維持する。各領域での温度は、導入された冷却混合供給物、及び過酸化物の流れによって主に制御される。適切な温度は80〜300℃の範囲であり、適切な圧力は100〜300MPaである。圧力は、少なくとも圧縮段階、及びオートクレーブ反応器の後に測定することができる。温度は、オートクレーブ反応器の各領域のために一般に測定される。
【0020】
しかしながら、高圧ラジカルエチレン重合反応は、管型反応器内で好ましくは行われる。
【0021】
一般に、モノマー転化は、オートクレーブ反応器よりも管型反応器の方が高い。さらに、管型反応器内で重合させることにより、架橋に良く適した分岐構造をもつエチレン(コ)ポリマーを提供することができる。
【0022】
管型反応器は、分割供給(スプリットフィード)反応器を含む、単一供給(シングルフィード)又は多段供給(マルチフィード)反応器のいずれかであり得る。単一供給管型反応器(前方供給(フロントフィード)反応器とも称される)では、モノマー流れの全部が最初の反応領域の入口に供給される。多段供給管型反応器では、反応器に沿ったいくつかの位置でモノマーが反応器に供給される。分割供給反応器では、圧縮モノマー混合物が、2つの流れに分割され、その異なる位置で反応器に供給される。
【0023】
管型反応器は、1つ以上の反応領域を含む。反応は、ラジカル開始剤の注入によって各領域で開始する。最初の領域の前に、反応混合物が、通常、最初の領域の始動に適した温度に到達させるために予熱器に通される。ラジカル開始剤の注入の際、発熱重合によって最初の反応温度ピークが得られる。その後、モノマー及びポリマーの反応混合物が最初の反応領域に沿って流れつつ管壁によって冷却されることにより、反応混合物の温度が低下する。次の反応領域は、第2の反応温度ピーク、及び第2の反応領域に沿った反応混合物の温度の次の低下が得られる際のラジカル開始剤の注入によって再度定義される。したがって、開始剤注入ポイントの数は、反応領域の数を決定する。高圧ラジカル重合によるエチレンコポリマーの製造用の管型反応器は、通常、合計2〜5つの反応領域を含む。
【0024】
最後の反応領域の後、反応生成物を含む反応混合物の温度及び圧力は、典型的に高圧セパレータ及び低圧セパレータを用いる2つの工程で低下する。結果として得られるポリマー生成物は回収され、未反応のモノマーは、通常、反応器に戻してリサイクルされる。高圧ラジカル重合によるエチレン(コ)ポリマーの製造についての更なる詳細は、参照することにより本明細書に援用される「ポリマー科学及び工学の百科事典(Encyclopedia of Polymer Science and Engineering)」,第6版,1986年,383〜410頁で見つけることができる。
【0025】
本発明において、反応混合物は、エチレン、多価不飽和コモノマー、及び任意に1種以上の本明細書に記載される更なる化合物を含む。
【0026】
重合が管型反応器内で行われる場合、エチレンと、少なくとも6個の炭素原子及び少なくとも2つの非共役二重結合を含み、非共役二重結合の少なくとも1つが末端である多価不飽和オレフィンとを含む反応混合物は、通常、反応領域に入る前に予熱される。予熱は、通常、反応器の上流の予熱器によってもたらされる。
【0027】
分離した予熱器が使用されない場合(すなわち、予熱器内でのファウリングが起こり得ない場合)であっても、本発明の方法はまた、反応混合物にラジカル開始剤を供給する前の早期重合を回避でき、また、ラジカル開始剤が供給された後でさえ、望ましくない副反応を回避することができる。
【0028】
多価不飽和オレフィンは、好ましくは少なくとも7個の炭素原子、より好ましくは少なくとも8個の炭素原子を含む。多価不飽和オレフィンは、通常、30個以下の炭素原子を含む。
【0029】
多価不飽和オレフィンは、好ましくはC
6〜C
20オレフィンであり、より好ましくは多価不飽和オレフィンはC
6〜C
16オレフィンである。
【0030】
非共役とは、2個の異なる二重結合の原子間に存在する少なくとも1個の原子があることを意味する。好ましくは少なくとも2個、より好ましくは少なくとも3個、最も好ましくは少なくとも4個の原子が、2個の異なる二重結合の原子間に存在する。2個の異なる二重結合の炭素原子間に存在するこれらの原子は、好ましくは炭素原子である。
【0031】
好ましくは、多価不飽和オレフィンにおける全ての二重結合は、炭素−炭素二重結合である。
【0032】
多価不飽和オレフィンは、通常、4個以下の非共役二重結合、好ましくは3個以下の非共役二重結合、最も好ましくは2個の非共役二重結合(すなわち、ジエン)を含む。
【0033】
さらに、多価不飽和オレフィンは、直鎖炭素鎖を好ましくは有する。
【0034】
多価不飽和オレフィンは、好ましくはヘテロ原子がない。
【0035】
好ましくは、多価不飽和オレフィンにおける全ての二重結合は、末端二重結合である。
【0036】
最も好ましくは、多価不飽和オレフィンは、1,7−オクタジエン、1,9−デカジエン、1,11−ドデカジエン、1,13−テトラデカジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、9−メチル−1,8−デカジエン、又はそれらの混合物から選択され、より好ましくは1,7−オクタジエン、1,9−デカジエン、1,11−ドデカジエン、及び1,13−テトラデカジエンから選択される。
【0037】
非共役二重結合以外に、多価不飽和化合物は、共役二重結合を含んでもよいが、好ましくは共役二重結合を含まない。
【0038】
多価不飽和オレフィンの更なる好ましい実施形態は、国際公開第93/08222号に記載されている全てのものである。それらの化合物は、この文献を参照することにより本明細書中に援用される。
【0039】
特に好ましいものは、1,7−オクタジエンである。
【0040】
通常、高圧ラジカルエチレン重合方法では、製造されるポリマーの分子量を制御するために連鎖移動剤が用いられる。連鎖移動剤は、非極性化合物(例えば、プロピレンなどの、3〜6個の炭素原子をもつ直鎖若しくは分岐鎖アルファオレフィン)であってよく、又は極性化合物(例えば、N、S、Oなどのヘテロ原子をもつ基(例えば、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、アルコキシル基、アルデヒド基、エステル基、ニトリル基又はスルフィド基)を有する直鎖若しくは分岐鎖不飽和化合物)であってもよい。
【0041】
したがって、反応混合物は、連鎖移動剤を好ましくは含む。
【0042】
連鎖移動剤は、アルデヒド、ケトン、アルコール、飽和炭化水素、アルファオレフィン又はそれらの混合物から好ましくは選択され、より好ましくは、連鎖移動剤は、プロピオンアルデヒド、メチルエチルケトン、プロピレン、イソプロピルアルコール又はそれらの混合物から選択される。
【0043】
好ましくは、連鎖移動剤は、反応領域に供給される反応混合物中に、反応混合物の全重量を基準として、10重量%以下、より好ましくは7重量%以下、最も好ましくは5重量%以下の濃度で存在する。
【0044】
好ましくは、多価不飽和化合物は、反応領域に供給される反応混合物中に、反応混合物の全重量を基準として、少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.03重量%、さらにより好ましくは少なくとも0.06重量%の濃度で存在する。
【0045】
多価不飽和化合物は、反応領域に供給される反応混合物中に、反応混合物の全重量を基準として、好ましくは5.0重量%以下、より好ましくは3.0重量%以下、最も好ましくは2.0重量%以下の濃度で存在する。
【0046】
通常、エチレンは、反応領域に供給される反応混合物中に、85重量%以上の濃度で存在する。
【0047】
多価不飽和化合物として使用される多価不飽和のグレード(grade)が不純物(例えば、分離されなかった、製造プロセスからの副生成物)を含有する場合、多価不飽和化合物についての上記濃度範囲は、不純物を含むグレードを指す。このような不純物は、通常、製造工程に起因する。通常、不純物の含有量は、多価不飽和化合物のグレードを基準として、20重量%未満である。
【0048】
阻害剤は、反応領域に供給される反応混合物中に、反応混合物の全重量を基準として、好ましくは少なくとも0.00005重量%の量、より好ましくは少なくとも0.00010重量%の量、最も好ましくは少なくとも0.00025重量%の量で存在する。
【0049】
好ましくは、阻害剤は、反応領域に供給される反応混合物中に、反応混合物の全重量を基準として、0.020重量%以下の量、より好ましくは0.010重量%以下の量、最も好ましくは0.005重量%以下の量で存在する。
【0050】
阻害剤は、反応領域に供給される反応混合物中に、反応混合物中の多価不飽和オレフィン及び阻害剤の全重量を基準として、好ましくは少なくとも0.025重量%の量、より好ましくは少なくとも0.050重量%の量、最も好ましくは少なくとも0.10重量%の量で存在する。
【0051】
阻害剤は、反応領域に供給される反応混合物中に、反応混合物中の多価不飽和オレフィン及び阻害剤の全重量を基準として、好ましくは1.0重量%以下の量、より好ましくは0.8重量%以下の量、最も好ましくは0.6重量%以下の量で存在する。
【0052】
阻害剤は、フェノール基含有化合物、アミノ基含有化合物又はそれらの混合物から好ましくは選択され、より好ましくは2種以下の異なる阻害剤が使用され、最も好ましくはフェノール基含有化合物又はアミノ基含有化合物のいずれかが阻害剤として使用される。
【0053】
好ましくは、フェノール基含有化合物は、構造要素(I)を含む。
【0055】
式中、R
1〜R
5は独立して、H、ヘテロ原子を任意に含有するヒドロカルビル、又はOHであり、ただし、R
1〜R
5の少なくとも2つは独立して、ヘテロ原子を任意に含有するヒドロカルビル又はOHであり、それによりR
1〜R
5の2つ以上は互いに接続していてもよく;より好ましくは、R
1〜R
5の少なくとも1つは、3つよりも多い炭素原子をもつ、ヘテロ原子を任意に含有するヒドロカルビル、又はR
1〜R
5の少なくとも2つは互いに接続しており;それにより、R
1、R
2又はR
4がOHである場合、構造要素(I)はまたキノン形態で存在してもよく、したがって、構造要素(I)のOH基及びOH基であるR
1、R
2又はR
4がケトン基として存在する。
【0056】
通常、R
1〜R
5の1つ以上が、ヘテロ原子を任意に含有するヒドロカルビルである場合、R
1〜R
5のそれぞれは、30個を超える炭素原子を含有しない。
【0057】
ヘテロ原子がR
1〜R
5に存在する場合、これらのヘテロ原子は、N、P、S及びOから好ましくは選択され、より好ましくは酸素がR
1〜R
5に存在する唯一のヘテロ原子であり、さらにより好ましくは、存在するなら、ケト基、OH基、エーテル基又はエステル基として酸素がR
1〜R
5に唯一存在する。
【0058】
適切なフェノール基含有化合物は、DTBHQ(2,5−ジ−ターシャルブチルヒドロキノン、CAS番号88−58−4)、スミライザーGS(2(1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル)−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリル、CAS番号123968−93−7)、ビタミンE(CAS番号10191−41−0)、DTAHQ(2,5−ジ(ターシャル−アミル)ヒドロキノン、CAS番号79−74−3)、BHT(2,6−ジ−ターシャルブチル−4−メチルフェノール、CAS番号128−37−0)、及びTBC(ターシャルブチルカテコール、CAS番号98−29−3)であり、それらのうち、ビタミンE(CAS番号10191−41−0)、DTAHQ(2,5−ジ(ターシャル−アミル)ヒドロキノン、CAS番号79−74−3)、BHT(2,6−ジ−ターシャルブチル−4−メチルフェノール、CAS番号128−37−0)、及びTBC(ターシャルブチルカテコール、CAS番号98−29−3)が特に好ましい。
【0059】
好ましくは、アミノ基含有化合物中のアミノ基は第2級アミノ基であり、より好ましくはアミノ基含有化合物は構造要素(II)を含む。
【0061】
式中、R
12〜R
16は独立して、H、又はヘテロ原子を任意に含有するヒドロカルビルであり、それにより、R
12〜R
16の2つ以上が、互いに接続していてもよく;好ましくはR
12〜R
15は独立して、H又はヒドロカルビル、R
16はヒドロカルビルであり、それにより、R
16は、R
13又はR
15の少なくとも1つがヒドロカルビルである場合にR
13又はR
15と接続していてもよく;より好ましくはR
12〜R
15はH、R
16はヒドロカルビルであり;R
11は、ヘテロ原子を任意に含有するヒドロカルビル基であり、好ましくはR
11は6〜30個の炭素原子を含有する。
【0062】
R
11は、好ましくはヘテロ原子を含有しない。しかしながら、ヘテロ原子がR
11に存在する場合、ヘテロ原子は、好ましくは−N(H)−基又は−N(H)−S((O)
2)−基(より好ましくは−N(H)−基)として存在し、より好ましくはR
11はC
6〜C
30ヒドロカルビルであり、さらにより好ましくはR
11はC
6〜C
20ヒドロカルビルである。
【0063】
通常、R
12〜R
16の1つ以上がヒドロカルビルである場合、R
12〜R
16のそれぞれは、30個を超える炭素原子を含有せず、好ましくは20個を超える炭素原子を含有しない。
【0064】
適切なアミノ基含有化合物は、チヌビン770(ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−セバケート、CAS番号52829−07−9)、ナウガード445(4,4−ビス(1,1−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、CAS番号10081−67−1)、ナウガードSA(p−(p−トルエン−スルホニルアミド)−ジフェニルアミン、CAS番号100−93−6)、ナウガードJ(N,N’−ジフェニル−p−フェニレン−ジアミン、CAS番号74−31−7)、エイジライト・ホワイト(AgeRite White)(N,N’−ジナフチル−p−フェニレン−ジアミン、CAS番号93−46−9)、及びヴァノックス(Vanox)12(p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、CAS番号101−67−7)であり、それらのうち、ナウガード445(4,4−ビス(1,1−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、CAS番号10081−67−1)が特に好ましい。
【0065】
阻害剤は、23℃で多価不飽和オレフィンに好ましくは可溶性である。
【0066】
上記で既に述べたように、阻害剤は、反応混合物又はその成分のいずれかに添加される。したがって、阻害剤は、例えば、エチレン及び多価不飽和オレフィンの混合物に添加してもよい。或いは、阻害剤は、多価不飽和オレフィン、任意の更なる成分(例えば、溶媒)、及びエチレンに添加して得られた混合物と共に組み合わせ(例えば、混合)てもよい。また、阻害剤は、下記で更に説明する追加のコモノマー(複数可)と混合してもよい。
【0067】
したがって、阻害剤は、ラジカル開始剤が反応混合物に添加される前に反応混合物中に存在する。
【0068】
1つよりも多い反応領域が存在する場合、阻害剤は、通常、反応混合物が最初の反応領域に供給される前に、反応混合物又はその成分のいずれかに添加される。
【0069】
阻害剤は、多価不飽和コモノマーと共に反応混合物に好ましくは添加される。したがって、好ましくは、阻害剤は多価不飽和コモノマーと混合されるか、又は反応混合物が反応領域に供給される前に、阻害剤及び多価不飽和コモノマーを含有する溶液を調製して反応混合物に添加される。通常、反応領域(複数可)は、反応器内に位置する。したがって、阻害剤は、通常、反応混合物が反応器に供給される前に、反応混合物又はその成分のいずれかに添加される。
【0070】
好ましくは阻害剤は、予熱器(存在する場合)に添加され、より好ましくは阻害剤は、多価不飽和コモノマーと共に予熱器(存在する場合)に添加され、最も好ましくは阻害剤は、反応混合物が予熱器に供給される前に反応混合物中に既に存在する。
【0071】
反応混合物がファウリングを起こし易いかどうかを判断するために、ラジカル開始剤がない反応混合物を、予熱器に存在するような条件に晒し、転化(すなわち、重合/オリゴマー化)の度合いを決定する。混合物全体が試験されるので、どの条件下で、どの度合の転化が起こるのかを確実に決定することができ、したがって、阻害剤の適合性を少しの単純な実験で試験することができる。この方法は、「ゼロ転化試験」と表され、実験の部分において詳細に記載される。
【0072】
阻害剤は、ゼロ転化試験において、転化率を、好ましくは少なくとも0.9倍、より好ましくは少なくとも0.8倍、最も好ましくは少なくとも0.7倍低下させる。
【0073】
本発明では、ゼロ転化試験は、200MPa及び230℃で行われる。
【0074】
多価不飽和オレフィンのグレードの不純物に由来する望まれないラジカルは、ファウリングの主な原因になると考えられる。通常、このようなラジカルは、熱分解の際に生じる。
【0075】
化合物又は化合物の混合物の分解温度は、示差走査熱量測定(DSC)によって決定することができる。本発明において、分解温度は、DSCサーモグラムに従い、発熱反応が最大に達する温度を指す。不純物の種類は、このピークの形状に影響し、したがって、実際の分解は、より低い温度で始まるかもしれない。
【0076】
しかしながら、不純物は、より低い分解温度を有しているかもしれず、したがって、ラジカルを形成し、次にファウリングを引き起こすかもしれない。DSCにより測定した場合に少なくとも140℃の分解温度を有する多価不飽和オレフィンのグレードは、本発明による方法において特に有利であることが分かった。しかしながら、阻害剤を用いることにより、分解温度はさらに改善され得る。
【0077】
阻害剤は、好ましくは少なくとも5℃、より好ましくは少なくとも15℃、最も好ましくは少なくとも30℃、DSCによる多価不飽和オレフィンの分解温度を増大させる。
【0078】
予熱器が存在する場合、多価不飽和オレフィンの上述の含有量は、予熱器が存在する場合の含有量のことを好ましくは指す。予熱器が存在しない場合、多価不飽和オレフィン及びエチレンの上述の含有量は、ラジカル開始剤を添加したが反応が開始していない時点での反応混合物の含有量のことを好ましくは指す。
【0079】
1つ以上の反応領域が存在する場合、「反応領域」という用語は、ラジカル開始剤を添加する最初の反応領域のことを指す。通常、反応領域(複数可)は、反応器内に位置する。
【0080】
予熱器が使用される場合、反応混合物は、反応領域に入る前に、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、最も好ましくは140℃以上の温度に加熱される。通常、反応混合物は、200℃以下の温度に予熱される。予熱器内の圧力は、反応混合物が供給される反応領域内の圧力と類似している。この点において、「類似」とは、予熱器内の圧力が、反応混合物が供給される反応領域内の圧力の±10%であることを指す。通常、反応混合物が供給される反応領域は、オートクレーブ反応器又は管型反応器などの反応器内に位置する。
【0081】
重合は、2つのモノマーと共重合することが可能な1つ以上の他のコモノマーの存在下で行うことができる。このようなオレフィン性の、有利にビニル性の、不飽和コモノマーとしては、(a)酢酸ビニル及びピバール酸ビニルなどのビニルカルボキシレートエステル、(b)プロペン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン及び4−メチル−1−ペンテンなどのアルファオレフィン、(c)メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート及びブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート、(d)(メタ)アクリル酸、マレイン酸及びフマル酸などのオレフィン性不飽和カルボン酸、(e)(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリル酸誘導体、(f)ビニルメチルエーテル及びビニルフェニルエーテルなどのビニルエーテル、並びに(g)スチレン及びアルファメチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物が挙げられる。
【0082】
多価不飽和オレフィン以外の他のコモノマーとの重合は、結晶性が少ない架橋性ポリマー組成物、極性が高い架橋性ポリマー組成物、又は両方を作ることが望ましい場合に特に適用される。コモノマー(又はターモノマー)は、少なくとも1つの極性基(例えば、シロキサン、シラン、アミド、無水物、カルボン酸、カルボニル、アシル、ヒドロキシル又はエステル基)を含むべきである。
【0083】
このようなコモノマーの例としては、上述の群(a)、(c)、(d)、(e)及び(f)が挙げられる。
【0084】
これらのコモノマーのうち、1〜4個の炭素原子を有するモノカルボン酸のビニルエステル(例えば、酢酸ビニル)、1〜4個の炭素原子を有するアルコールの(メタ)アクリレート(例えば、メチル(メタ)アクリレート)が好ましい。特に好ましいコモノマーは、ブチルアクリレート、エチルアクリレート及びメチルアクリレートである。2種以上の当該オレフィン性不飽和化合物を組み合わせて使用してもよい。本明細書で使用される場合、「(メタ)アクリル酸」という用語は、アクリル酸及びメタアクリル酸を包含することを意味する。
【0085】
本発明は、エチレン単独重合又は共重合法におけるファウリングを低減するための阻害剤の使用にも更に向けられる。
【0086】
好ましくは、方法は、少なくとも6個の炭素原子及び少なくとも2つの非共役二重結合を含み、非共役二重結合の少なくとも1つが末端である多価不飽和オレフィンでエチレンを重合する高圧ラジカルエチレン重合法である。
【0087】
さらに、好ましくは、阻害剤は、予熱器のファウリングを低減するために使用される。
【0088】
さらに、本発明は、本発明の上記の実施形態の全てに従う方法で得られることが可能なエチレンホモポリマー又はコポリマーに向けられる。
【0089】
さらに、本発明は、本発明の上記の実施の形態の全てに従う方法で得られることが可能なエチレンホモポリマー又はコポリマーの架橋によって得られることが可能な組成物に向けられる。
【0090】
また、本発明は、本発明に従うエチレンホモポリマー若しくはコポリマー、及び/又は組成物を含むケーブルに向けられる。
【実施例】
【0091】
本発明は、下記に記載される実施例により更に説明されるであろう。
【0092】
[方法及び実施例]
<ゼロ転化試験>
多段圧縮機、連続攪拌槽反応器(CSTR)、及び圧力を制御するためのファインバルブ(fine valve)からなる装置を用いた。反応器の内容積は、下記の文献:
・Buback, M.; Busch, M.; Lovis, K.; Mahling, F-O.; Chemie Ingenieur Technik (67) no. 12 p. 1652-1655
・Buback, M.; Busch, M.; Lovis, K.; Mahling, F-O.; Chem.-Ing.-Tech. 66 (1994) no. 4, p 510-513
に記載されているように、約50mLである。
【0093】
両方の文献の内容は、参照することにより本明細書中に援用される。
【0094】
電気加熱コイルは、各実験の前に、所望の温度に反応器の壁を加熱することができ、したがって、プラントの予熱器に類似した条件を得ることができる。フリーラジカル開始剤(例えば、過酸化物、酸素など)は添加されない。転化率は、反応物の供給速度で割った、時間あたりに形成されたポリマーの平均重量として計算される。
【0095】
反応器を230℃の温度に予熱する。200MPaの圧力及び約225℃の平均反応器温度で安定した状態に達するまで、1時間当たり1000gのエチレン及び2.5gのプロピオンアルデヒドの流れを反応器に注入する。次に、4g/hの多価不飽和オレフィン(例えば、1,7−オクタジエン)及び4g/hのヘプタン(溶媒)を反応器に導入する。反応性に依存して、反応器内の温度が上昇するかもしれない。反応器において定常状態条件を得た後、転化を計算する。本発明では、温度が10分間にわたって±1.0℃を超えて変化しなかった場合に定常状態条件が得られる。
【0096】
エチレン(99.75%)及びプロピオンアルデヒド(0.25%)のみを供給した場合、典型的に約0.5〜1%のゼロ転化が得られることを見出した。ヘプタンもまた、同じ範囲のゼロ転化を示した。ここで、全てのゼロ転化を与える。
【0097】
<示差走査熱量測定(DSC)>
メトラーTA820示差走査熱量測定器を用いて分解温度を測定した。1,7−オクタジエンの試料を耐圧密封容器中に入れた。40℃の温度で測定を開始し、次に、200℃の温度に到達するまで5℃/分で昇温(温度傾斜)した。温度傾斜中の熱流(W/g)を測定した。
【0098】
分解温度は、発熱反応が、熱流として定義されるピーク値に到達する温度として定義される。
【0099】
<ガス純度は、重量%として与えられ、定義される>
ギャラクシーCDS(Galaxie CDS)及びカラムVF−1ms(60m×0.32mm×1.0μm)をもつFIDを有するバリアン450ガスクロマトグラフを用いて純度を決定した。1μmを注入し、多価不飽和化合物(例えば、1,7−オクタジエン)のGC%領域を純度として計算した。
インジェクタ―温度:150°
温度プロファイル:60℃で10分間、250℃まで1分あたり10℃昇温;250°で2分間=合計31分、He流量10mL/分
検出器温度:250℃
検出器範囲:×11
作成流量:29mL/分
水素流量:30mL/分
空気流量:300mL/分
【0100】
(実施例)
表1で与えられる組成を有する反応混合物について、上記したゼロ転化試験を行った。その結果を
図1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
<安定化されたオクタジエンのDSCデータ>
参考例7(RE7)において、クラレから得られた1,7−オクタジエン(97%)を試験した。本発明例8〜14(IE8〜IE14)において、クラレから得られた1,7−オクタジエン(97%)を、1,7−オクタジエン中に0.1モル%の阻害剤を含有する溶液が得られるように各阻害剤と混合した。本発明例16(IE15)において、前記1,7−オクタジエンをブチルアクリレートと1:1の重量比で混合した。
【0103】
【表2】
【0104】
参考例16(RE16)において、エボニックから得られた1,7−オクタジエン(97%)を試験した。本発明例17〜23(IE17〜23)において、エボニックから得られた1,7−オクタジエン(97%)を、1,7−オクタジエン中に0.1モル%の阻害剤を含有する溶液が得られるように各阻害剤と混合した。本発明例24(IE24)において、前記1,7−オクタジエンをブチルアクリレートと1:1の重量比で混合した。
【0105】
【表3】
【0106】
より高い分解温度は、ファウリングがより高い温度で始まるであろうことを示し、したがって、より高い予熱器の温度を許容する。これは、反応器のゾーン1で重合を効率的に開始するために重要である、より高い反応器の入口温度が達成されることを意味する。