(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の説明
植物油(VO)ベースの誘電性流体、例えば変圧器液は、環境への配慮、及び変圧器の動作安全性を向上させる高引火点により、鉱油(MO)ベースの誘電性流体に代わり発電産業において次第に使用されるようになっている。しかしながら、VOベースの誘電性流体は、MOベースの誘電性流体よりも顕著に高い粘度を有し、これによって、VOベースの誘電性流体を用いる伝熱動作は弱くなる。したがって、市場ニーズとして、トリグリセリドに低融点かつ少量の多価不飽和脂肪酸と組み合わせて高い引火点という利点を維持しつつ、変圧器の伝熱効率を向上させるように、粘度が低下したVOベースの誘電性流体が存在する。
【0003】
このような課題に対処する従来のアプローチのうちの一部とこれらに関連する欠点には、次に示すものが含まれる。
1.ポリα−オレフィン、合成ポリオールエステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルなどの低粘度流体とブレンドすることによって、VOベースの誘電性流体の粘度を低下させること。ただし、これらのアプローチによって、引火点を低下することができるか、又は非天然ベースの供給源に置換することができる。
2.VOベースの誘電性流体を、脂肪酸アルキルエステルなどの希釈剤と混合することであるが、これは、カノーラ油の粘度を33センチポアズ(cP)未満まで低下させるように、10重量%(wt%)を超える希釈剤を必要とする。ただし、これによっても、引火点が低下する。
3.VOベースの誘電性流体において不飽和を増加させることによって、流体の粘度が低下するだけでなく、流体の酸化安定性も低下する(米国特許第6,117,827号を参照)。
4.VOベースの誘電体において飽和C12−C16トリグリセリドの量を増加させることであるが、これによって、流体の融点も上昇する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
定義
別段明記されていないか、文脈から暗示されていないか、又は当該技術分野において慣例でない限り、すべての部及びパーセントは、重量を基準とし、すべての試験方法は、本開示の出願日時点で最新のものである。米国特許実務の目的上、いかなる参照特許、特許出願又は刊行物の内容も、特に、定義(本開示において具体的に規定されているいずれかの定義と矛盾しない範囲で)の開示、及び当該技術分野の一般知識に関して、参照によりこれらの全体において援用される(又は、その米国版は、そのように参照により援用される。)。
【0007】
本開示における数値範囲は概算であり、このため、特に断りのない限り、この数値範囲には範囲外の値が含まれ得る。数値範囲には、いずれかの低い値と高い値との間に少なくとも2単位の間隔があることを条件として、低い値から高い値までの低い値及び高い値を含むすべての値が1単位刻みで含まれる。一例として、組成特性、物理特性又は他の特性、例えば温度などが100〜1,000である場合、すべての個々の値、例えば100、101、102など、及び下位範囲、例えば100〜144、155〜170、197〜200などが明示的に列挙される。1未満の値を含むか、1を超える分数(例えば、1.1、1.5など)を含む範囲については、1単位は、0.0001、0.001、0.01又は0.1であると適宜みなされる。10未満の1桁の数字(例えば、1〜5)を含む範囲については、1単位は、通常、0.1であるとみなされる。これらは、具体的に意図されるものの例にすぎず、列挙されている最低値と最高値との間の数値のすべての可能な組合せが本開示において明示されているとみなす必要がある。とりわけ、粘度、温度、及び組成物中の個々の成分の相対量についての数値範囲が本開示中で規定されている。
【0008】
「含む(comprising)」、「含む(including)」、「有する(having)」という用語及びこれらに類似する用語は、組成物、過程などが、開示されている成分、工程などに限定されないが、開示されていない他の成分、工程などを含み得ることを意味する。一方、「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語は、組成物、過程などの性能、操作性などに必須でないものを除いて、組成物、過程などの範囲から、他の成分、工程などを排除する。「からなる(consisting of)」という用語は、組成物、過程などから、具体的に開示されていない成分、工程などを排除する。「又は(or)」という用語は、別段明記されていない限り、開示されているメンバーを個々にだけでなく、いずれかの組合せにより指す。
【0009】
「誘電性流体」という用語及びこれに類似する用語は、一般に、通常の状況下において非常に低いレベルの電流を伝導しないか又は伝導する流体を意味する。植物油は、本質的に良好な誘電特性を有する(米国特許出願公開第2006/0030499号)。多くの植物油において、誘電率は4.5未満である。
【0010】
「粘度」という用語及びこれに類似する用語は、剪断応力又は引張応力のいずれかによって変形する流体の抵抗性を意味する。本明細書の目的上、粘度は、ASTM D−445の方法によってブルックフィールド粘度計を用いて40℃及び10℃で測定される。
【0011】
「引火点」という用語及びこれに類似する用語は、揮発性の液体が気化して空気中に発火性の混合物を形成する場合があるが、(発火点とは対照的に)燃え続けない、最も低い温度を意味する。本明細書の目的上、引火点は、ASTM D−3278の方法によって測定される。
【0012】
「発火点」という用語及びこれに類似する用語は、揮発性の液体が気化して空気中に発火性の混合物を形成する場合があり、発火後燃え続ける、最も低い温度を意味する。液体の発火点を測定するための広く認められている1つの方法は、ASTM D−92−12である。液体の発火点は、通常、引火点よりも25〜30℃高い。
【0013】
「流動点」という用語及びこれに類似する用語は、液体が半固体になり、その流動特性を失う最も低い温度、又は、換言すると、液体が流れる最も低い温度を意味する。流動点は、典型的にはASTM D−97によって測定される。
【0014】
「融点」という用語及びこれに類似する用語は、物質の状態が固体から液体に変化する温度を意味する。本明細書の目的上、融点は、示差走査熱量計(DSC)及び次に示すプロトコルを用いて測定される。
1.90.00℃において平衡、
2.等温で10分間、
3ランプ2.00℃/分〜−90.00℃、
4.サイクル1の終了、
5.ランプ2.00℃/分〜90.00℃、
6.サイクル2の終了、
7.ランプ2.00℃/分〜−90.00℃、
8.サイクル3の終了、及び、
9.方法の終了。
サイクル2のピーク温度は、組成物の融点として記録される。融点は、流動点と適切に十分相関する。
【0015】
「トリグリセリド」という用語及びこれに類似する用語は、グリセロール及び3つの脂肪酸から誘導されるエステルを意味する。トリグリセリドを説明するのに本明細書において用いられる表記法は、脂肪酸を説明するのに以下において用いられるものと同じである。トリグリセリドは、グリセロールと、C18:1、C14:1、C16:1、多価不飽和及び飽和の脂肪酸のいずれかの組合せとを含み得る。脂肪酸は、いずれかの順序によりグリセロール分子に結合することができ、例えば、いずれかの脂肪酸は、エステル結合を形成するように、グリセロール分子のいずれかのヒドロキシル基と反応することができる。C18:1のトリグリセリドとは、単に、トリグリセリドの脂肪酸成分が、C18:1脂肪酸から誘導されるか又はこれに基づくものであることを意味する。すなわち、C18:1トリグリセリドは、グリセロールと、それぞれの脂肪酸に1つの二重結合がある18個の炭素原子の3つの脂肪酸とのエステルである。同様に、C14:1トリグリセリドは、グリセロールと、それぞれの脂肪酸が1つの二重結合を有する14個の炭素原子である3つの脂肪酸とのエステルである。さらに、C16:1トリグリセリドは、グリセロールと、それぞれの脂肪酸が1つの二重結合を有する16個の炭素原子である3つの脂肪酸とのエステルである。C14:1脂肪酸及び/又はC16:1脂肪酸を組み合わせたC18:1脂肪酸のトリグリセリドとは、(a)C18:1トリグリセリドが、C14:1トリグリセリド若しくはC16:1トリグリセリドと、又はその両方と混合されているか、又は、(b)トリグリセリドの脂肪酸成分のうちの少なくとも1つが、C18:1脂肪酸から誘導されるか若しくはこれに基づくものであるが、他の2つが、C14:1脂肪酸及びC16:1脂肪酸から誘導されるか若しくはこれらに基づくものであることを意味する。
【0016】
「脂肪酸」という用語及びこれに類似する用語は、飽和されているか又は飽和されていない長い脂肪族末端を有したカルボン酸を意味する。不飽和脂肪酸は、炭素原子間に1以上の二重結合を有する。飽和脂肪酸は、二重結合を含有しない。脂肪酸を説明するのに本明細書において用いられる表記法には、炭素原子の頭文字「C」、これに続いて、脂肪酸の炭素原子数を説明する数、これに続いて、コロン、及び脂肪酸の二重結合数の別の数が含まれる。例えば、C16:1は、1つの二重結合を有する16個の炭素原子の脂肪酸、例えばパルミトレイン酸を示す。この表記法によるコロンの後の数は、脂肪酸の二重結合の配置を示すものでも、二重結合の炭素原子に結合した水素原子が相互にシス型であるか否かを示すものでもない。この表記法による他の例としては、C18:0(ステアリン酸)、C18:1(オレイン酸)、C18:2(リノール酸)、C18:3(α−リノレン酸)、及びC20:4(アラキドン酸)が挙げられる。
【0017】
組成物
本発明によるトリグリセリド組成物の第1の脂肪酸成分は、C18:1であり、すなわち、これは、18個の炭素原子を含有し、1つの二重結合を有する。代表的なC18:1脂肪酸には、オレイン酸及びバクセン酸が含まれ、オレイン酸が好ましい。C18:1トリグリセリドは、グリセロールと、3つのC18:1脂肪酸、例えば、3つのオレイン酸、又は3つのバクセン酸、又は2つのオレイン酸とバクセン酸、又は1つのオレイン酸と2つのバクセン酸のいずれかの組合せとを含み得る。3つのC18:1脂肪酸は、いずれかの順序によりグリセロール分子に結合することができ、例えば、いずれかのC18:1脂肪酸は、グリセロール分子のいずれかのヒドロキシル基と反応して、エステル結合を形成することができる。通常、トリグリセリドのC18:1脂肪酸はオレイン酸である。C18:1トリグリセリドは、組成物の10〜65重量%、典型的には10〜60重量%、より典型的には10〜55重量%を含む。
【0018】
本発明によるトリグリセリド組成物の第2の脂肪酸成分は、C14:1又はC16:1のうちの少なくとも1つである。C14:1トリグリセリドは、グリセロールと、それぞれの脂肪酸が1つの二重結合を有する14個の炭素原子である3つの脂肪酸とのエステルである。代表的なC14:1脂肪酸は、ミリストレイン酸、フィセテリン酸(physeteric acid)、及びツズ酸である。C18:1トリグリセリドと同様に、C14:1トリグリセリドは、グリセロールと、3つのC14:1脂肪酸のいずれかの組合せとを含み、C14:1脂肪酸は、いずれかの順序によりグリセロール分子に結合することができる。通常、C14:1脂肪酸はミリストレイン酸である。
【0019】
C16:1トリグリセリドは、グリセロールと、それぞれの脂肪酸が1つの二重結合を有する16個の炭素原子である3つの脂肪酸とのエステルである。代表的なC16:1脂肪酸は、パルミトレイン酸である。C18:1トリグリセリドと同様に、C16:1トリグリセリドは、グリセロールと、3つのC16:1脂肪酸のいずれかの組合せとを含み、C16:1脂肪酸は、いずれかの順序によりグリセロール分子に結合することができる。通常、C16:1脂肪酸はパルミトレイン酸である。
【0020】
トリグリセリド組成物の第2の脂肪酸成分は、100%のC14:1若しくはC16:1、又はその2つの任意の組み合わせ、例えば1〜99重量%のC14:1と1〜99%重量%のC16:1との組み合わせを含み得る。第2の脂肪酸成分は、組成物の35〜90重量%、典型的には40〜90重量%、より典型的には50〜90重量%含む。
【0021】
本発明による組成物の第3の脂肪酸成分は、任意であるが、存在する場合、これは、通常、少なくとも12個の炭素原子であるそれぞれの長さであり、それぞれの脂肪酸が2以上の二重結合を有する、いずれかの炭素原子長多価不飽和油脂である。C18:1トリグリセリドと同様に、多価不飽和トリグリセリドは、グリセロールと、3つの多価不飽和脂肪酸のいずれかの組合せとを含み、多価不飽和脂肪酸は、いずれかの順序によりグリセロール分子に結合することができる。多価不飽和トリグリセリドが製造される、代表的な多価不飽和脂肪酸としては、リノール酸(C18:2)、α−リノレン酸(C18:3)、γ−リノレン酸(C18:3)、エイコサジエン酸(C20:2)、ジホモ−γ−リノレン酸(C20:3)、アラキドン酸(C22:4)、ドコサペンタエン酸(C22:5)、ヘキサデカトリエン酸(C16:3)、ヘンエイコサペンタエン酸(C21:5)、ルメン酸(C18:2)、α−カレンジン酸(C18:3)、β−カレンジン酸(C18:3)、α−パリナリン酸、β−パリナリン酸、ピノレン酸(C18:3)、ポドカルピン酸(C20:3)などが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、本発明による組成物は、一切の多価不飽和脂肪酸を含まないか、又は欠いている。一実施形態において、第3の脂肪酸成分は、典型的には組成物の12重量%を超えず、より典型的には11重量%を超えず、さらに、より典型的には10重量%を超えない。
【0022】
本発明による組成物の第4の脂肪酸成分は、任意であるが、存在する場合、これは、飽和であり、すなわち、グリセロールと、それぞれの脂肪酸に二重結合がない少なくとも8個の炭素原子の長さのそれぞれである、任意の炭素原子長さの3つの脂肪酸とのエステルである。C18:1トリグリセリドと同様に、飽和トリグリセリドは、グリセロールと、3つの飽和脂肪酸のいずれかの組合せとを含み、飽和脂肪酸は、いずれかの順序によりグリセロール分子に結合することができる。飽和トリグリセリドが製造される、代表的な飽和脂肪酸としては、ラウリン酸(C12:0)、ミリスチン酸(C14:0)、パルミチン酸(C16:0)及びステアリン酸(C18:0)が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、本発明の組成物は、いかなる飽和脂肪酸もないか又は欠いている。一実施形態において、本発明の組成物は飽和脂肪酸の、7重量%以下、典型的には5重量%以下、より典型的には3重量%以下を含有する。
【0023】
一実施形態において、本発明の組成物は、例えば、1以上の、酸化防止剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、UV安定剤、水捕捉剤、顔料、色素などの、1以上の添加剤を含み得る。誘電性流体の有用な添加剤は、当該技術分野において周知であり、これらの添加剤は、使用される場合、公知の方法及び公知の量により使用される。添加剤は総計で、典型的には組成物の3重量%を超えず、より典型的には2重量%を超えず、さらに、より典型的には、1重量%を超えない。
【0024】
一実施形態において、本発明は、
A.10〜65%のC18:1脂肪酸と、
B.35〜90%の、C14:1脂肪酸及びC16:1脂肪酸のうち少なくとも1つと、
C.12%以下の多価不飽和脂肪酸と、
D.7%以下の飽和脂肪酸と、から本質的になる、トリグリセリドの組成物である。
本実施形態は、1以上の添加剤、例えば、酸化防止剤、金属不活性化剤、顔料などを含有し得るが、具体的には、無視することができる量、例えば、組成物の重量を基準として10重量%未満で特定されるか又は存在するもの以外のいかなる脂肪酸も除外される。これらの「他の」脂肪酸は、存在する場合、通常、天然源の油、例えば、トウモロコシ油、大豆油などから、所望の脂肪酸、例えばC18:1が抽出された後に残存する、副産物又は汚染物質である。他の場合において、「他の」脂肪酸は、原料油中に自然に存在し得る。
【0025】
一実施形態において、本発明は、
A.組成物の重量を基準として10〜65重量%のC18:1脂肪酸と、
B.組成物の重量と基準として35〜90重量%の、C14:1脂肪酸及びC16:1脂肪酸と、から本質的になる、トリグリセリドの組成物である。
本実施形態は、1以上の添加剤、例えば、酸化防止剤、顔料などを含有し得るが、具体的には、無視することができる量、例えば、組成物の重量を基準として10重量%未満で特定されるか又は含まれるもの以外のいかなる脂肪酸も除外される。これらの「他の」脂肪酸は、存在する場合、通常、天然源の油、例えば、トウモロコシ油、大豆油などから、所望のトリグリセリド、例えばC18:1脂肪酸が抽出された後に残存する、副産物又は汚染物質である。他の場合において、「他の」脂肪酸は、原料油中に自然に存在し得る。
【0026】
本発明のトリグリセリドは、植物及び非植物源、例えば、好ましい天然源の油である植物油及び藻類油を伴う、藻類油、微生物油などから得ることができる。天然源油から得られるトリグリセリドの例として、国際公開公報第2011/090685号及びPCT出願第PCT/US2012/043973号に記載されているものが含まれるが、これらに限定されない。これらの油には、1以上の特定のトリグリセリドが多く含まれていてもよく、特定のトリグリセリドは、特定の植物油又は藻類油によって異なる。例えば、トウモロコシ油及び大豆油には、通常、脂肪酸成分がオレイン酸から誘導されるトリグリセリドが多く含まれている。本発明の実施において用いられるトリグリセリドは、多数の公知法、例えば、溶媒抽出、機械的抽出などのうちのいずれかの1つによって、植物又は他の天然源の油から抽出することができる。他の場合では、天然源の油(例えば、藻類油)は、その全体において、更なる単離又は抽出を必要とすることなく、本発明のトリグリセリドの組成物を含み得る。
【0027】
本発明の組成物は、種々の電気機器の誘電性流体として、例えば、変圧器の絶縁油として特に有用である。本発明の組成物は、環境に優しく、例えば、生分解性であり、特有のバランスの特性、具体的には、特有のバランスの、粘度、引火点及び融点を有する。
【実施例】
【0028】
純粋なトリグリセリドの動粘度も、次に示す因子に基づいて、数学モデルを用いて求めることができる。
1.トリグリセリド分子を構成する脂肪酸(FAME)のメチルエステルの動粘度。
2.FAMEの脂肪酸鎖の炭素原子数。
【0029】
【数1】
式中、
η
TAG=トリグリセリドの粘度cP
η
FAME1=末端1位のトリグリセリド中に存在するFAMEの粘度cP
η
FAME2=中心2位のトリグリセリド中に存在するFAMEの粘度cP
η
FAME3=末端3位のトリグリセリド中に存在するFAMEの粘度cP
nCF
1=末端1位におけるFAMEの脂肪酸鎖の炭素原子数
nCF
2=中心2位におけるFAMEの脂肪酸鎖の炭素原子数
nCF
3=末端3位におけるFAMEの脂肪酸鎖の炭素原子数
【0030】
トリグリセリド混合物の粘度は、次式のように推定することができる。
【数2】
η
mix=トリグリセリド混合物の粘度cP。
w
i=トリグリセリド混合物のトリグリセリド「i」の重量分率。
η
i=混合物のトリグリセリドiの粘度cP。
【0031】
また、純粋なトリグリセリドの融点も、次に示す因子に基づいて、数学モデルを用いて求めることができる。
1.トリグリセリド分子を構成するFAMEの融点。
2.FAMEの脂肪酸鎖の炭素原子数。
3.末端脂肪酸鎖間の類似性を説明する記述子(Terminal
Equal)。
【0032】
【数3】
式中、
MP
FAME1=末端1位のトリグリセリド中に存在するFAMEの融点K
MP
FAME2=中心2位のトリグリセリド中に存在するFAMEの融点K
MP
FAME3=末端3位のトリグリセリド中に存在するFAMEの融点K
nCF
1=末端1位におけるFAMEの脂肪酸鎖の炭素原子数
nCF
2=中心2位におけるFAMEの脂肪酸鎖の炭素原子数
nCF
3=末端3位におけるFAMEの脂肪酸鎖の炭素原子数。
Terminal
Equal=2つの末端脂肪酸断片が同じ場合は1であるか、又は、2つの末端脂肪酸断片が異なる場合は0である。
【0033】
トリグリセリド混合物の重量平均融点は、次式のように推定することができる。
【数4】
MP
mix=トリグリセリド混合物の融点K。
w
i=トリグリセリド混合物のトリグリセリド「i」の重量分率。
MP
i=トリグリセリド混合物のトリグリセリド「i」の融点K。
すべての場合において、推定(若しくは予測)重量平均融点は、DSC測定によって測定されたものと同じか、又はこれよりもわずか10℃高いにすぎない。
【0034】
平均融点モデルに対する更なる補正は、同型(ε)の程度を含めることによって行った。同型の程度は、融点低下を生じ得る、トリグリセリド混合物中に存在する構造非類似性を説明するものである。εの算出手順は、Wesdorp,L.H.Liquid−multiple solid−phase equilibria in fats.Ph.D.Thesis,University Delft,The Netherlands,1990に記載されている。シス型不飽和脂肪酸断片について、重なり容積(overlapping volume)を、直鎖飽和断片におけるシス型不飽和断片の突出長さによって決定した。
【0035】
異なるトリグリセリド対間のεを算出し、最低のε、min(ε)をモデル記述子として用いた。min(ε)は、トリグリセリド混合物中に存在する最大の非類似性の指標である。融点予測のためのイプシロンモデルは、次式のように示される。
MP
epsilon model=MP
mix+24.89*min(ε)−24.89 (0≦min(ε)≦1)
すべての場合において、推定(若しくは予測)イプシロン融点は、DSC測定によって測定されたものと同じか、又はこれよりもわずか10℃高いにすぎない。
【0036】
また、トリグリセリド又はトリグリセリド混合物の引火点もそれぞれ、純粋なトリグリセリド又はトリグリセリド混合物の気化熱に基づいて、数学モデルを用いて求めることができる。
【0037】
【数5】
式中、
Flash point=トリグリセリドの引火点K
ΔH
vap=純粋なトリグリセリド又はトリグリセリド混合物の気化熱kJ/mol。
純粋なトリグリセリドの気化熱を予測する代表的な方法のうちの1つは、Chen et.al.(2010),Fragment−Based Approach for Estimating Thermophysical Properties of Fats and Vegetable Oils for Modeling Biodiesel Production Pro cesses”,Ind.Eng.Chem.Res.Vol.49,Pg.876−886.中に示されている。
【0038】
トリグリセリド混合物の気化熱は、次に示す関係式を用いて決定することができる。
【数6】
式中、
ΔH
vapmix=トリグリセリド混合物の気化熱kJ/mol
N
i=トリグリセリド混合物のトリグリセリドiのモル分率。
ΔH
vap,
i=トリグリセリド「i」のi=気化熱kJ/mol
【0039】
実施例1〜13
表1に報告されている組成物は、トリグリセリド及びトリグリセリド混合物の特性、粘度、引火点及び融点を予測するために構築されたモデルに基づいている。すべての実施例は、所望のバランスの、40℃における33cP以下及び10℃における120cP以下の粘度、260℃以上の引火点、好ましくは270℃以上の引火点、並びに−7℃以下の融点を示す。予測融点範囲は、混合物の融点の上限及び下限を提供する。これは、組成物の個々の成分の最高及び最低予測融点に基づく。混合物の融点は、上述の方法によって決定される。トリグリセリド混合物は高度に相互作用しており、このため、重量平均は、組成物の融点の近似値である。実施例2のデータは、予測重量平均及びイプシロン融点が、DSCによって試験的に決定されたものに近いことを示している。
【0040】
【表1-1】
【0041】
【表1-2】
【0042】
比較例1〜12
表2において、比較試料(CS)1〜CS8は、HOCO(高オレイン酸カノーラ油)に添加された種々の量の希釈剤を含む、トリグリセリド組成物である。HOCOの組成は次のとおりである。
1.C18モノ不飽和脂肪酸を含有するトリグリセリド=74%
2.C18ジ不飽和脂肪酸を含有するトリグリセリド=14.5%
3.C18トリ不飽和脂肪酸を含有するトリグリセリド=4.5%
4.C18飽和脂肪酸を含有するトリグリセリド=4%
5.C16飽和脂肪酸を含有するトリグリセリド=3%
【0043】
表2は、HOCOと、種々の量の希釈剤とを含むトリグリセリド組成物であるCS1〜CS8について報告している。SE1185Dは、大豆脂肪酸メチルエステル(FAME)であり、NYCOBASE SEHは、セバシン酸ジオクチルであり、PAO2.5は、ポリα−オレフィンである。
【0044】
【表2-1】
【0045】
【表2-2】
【0046】
【表3】
【0047】
脂肪酸組成を有する比較試料は、所望の特性の組合せをもたらさなかった。特に、CS2(HOCO:70%を超えるC18:1を有するトリグリセリド、14%を超えるC18:2を有するトリグリセリド、3%未満のC18:3を有するトリグリセリド)は、40℃において33cPを超える粘度(とともに、300℃を超える引火点)である。CS3〜CS8は、所望の特性の組合せをもたらさない種々の希釈剤を有するHOCOの組成物を報告している。
【0048】
CS9〜CS12は、所望の特性の組み合わせをもたらさない、C18:1脂肪酸のトリグリセリド、並びにC22:1脂肪酸及び/又はC18:0脂肪酸の様々な割合におけるC16:1の混合を含む、トリグリセリド組成物の特性を報告している。特に、65%を超えるC18:1を伴うCS11及びCS12は、300℃を超える発火点伴う、40℃で33cPより高い粘度を有する。
【0049】
本発明を、好ましい実施形態についての前述の説明により、特定の詳細とともに説明してきたが、この詳細は、説明が主な目的である。次に示す特許請求の範囲に記載されている本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、当業者によって多くの変形及び変更をすることができる。