特許第6205441号(P6205441)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205441
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】アーク蒸発装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
   C23C14/24 F
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-12305(P2016-12305)
(22)【出願日】2016年1月26日
(65)【公開番号】特開2017-145428(P2017-145428A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2016年10月24日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 博文
(72)【発明者】
【氏名】亀澤 英明
(72)【発明者】
【氏名】谷藤 信一
(72)【発明者】
【氏名】白根 英樹
【審査官】 塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/140858(WO,A1)
【文献】 特開2007−070690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の一方の端面である先端面と、当該先端面の周縁に連続して前記軸方向に延びる側面とを有し、アーク放電によって前記先端面から溶解して蒸発する棒状のターゲットと、
前記ターゲットの前記先端面との間で放電するための電極と、
前記ターゲットと前記電極との間に電圧を印加することによって前記先端面と前記電極との間でアーク放電を発生させるアーク電源と、
前記ターゲットを前記先端面が前進する方向で前記軸方向に沿って移動させるターゲット送り部と、
前記ターゲットの送り方向における所定の位置において、前記ターゲットの前記側面に対して前記送り方向と交差する交差方向から接触可能な形状を有する接触部と、
前記接触部を前記側面から前記交差方向に離れた退避位置から前記交差方向に沿って前記ターゲットが送り込まれる領域へ進入するように移動させる接触部駆動部と、
前記接触部の移動中において、前記接触部が前記ターゲットの前記側面に接触したか、前記接触部が前記ターゲットの前記側面に接触することなく前記交差方向に沿って前記領域に進入したかを検出する検出部と、
を備えており、
前記接触部は、導電性を有する棒状の部材であって、
前記接触部は、前記ターゲットとの間に電圧が印加された状態で当該ターゲットの前記側面に接触することによって、前記先端面と前記電極との間のアーク放電を開始させ
前記接触部駆動部は、前記ターゲットの前記側面から前記交差方向に離間して配置され、前記軸方向と平行に延びる中心軸回りに回転する駆動軸を有し、当該駆動軸から前記軸方向と直交する方向に延びる前記接触部を旋回することにより、当該接触部を前記退避位置から前記交差方向に沿って前記領域へ進入するように回転移動させる構成を有するアーク蒸発装置。
【請求項2】
前記検出部は、
前記接触部の電位を測定する電位測定部と、
前記接触部の移動中において、前記電位測定部によって測定された前記接触部の電位によって、前記接触部が前記ターゲットの前記側面に接触したか、前記接触部が前記ターゲットの前記側面に接触することなく前記交差方向に沿って前記領域に進入したかを判断する判断部と、
を有している、
請求項1に記載のアーク蒸発装置。
【請求項3】
前記検出部は、
前記接触部が前記退避位置から前記領域へ移動中において、前記アーク電源の出力の変化に基づいて、前記接触部が前記ターゲットの前記側面に接触したか、前記接触部が前記ターゲットの前記側面に接触することなく前記交差方向に沿って前記領域に進入したかを判断する判断部と、
を有する、
請求項1に記載のアーク蒸発装置。
【請求項4】
前記接触部駆動部は、前記接触部が前記側面に接触したときに当該接触部が静止する程度の駆動力で前記接触部を回転移動させ、
前記検出部は、
前記接触部の旋回角度を検出する角度測定部と、
前記角度測定部によって測定された前記接触部の旋回角度が所定の角度以上であるか否かによって、前記接触部が前記ターゲットの前記側面に接触したか、前記接触部が前記ターゲットの前記側面に接触することなく前記交差方向に沿って前記領域に進入したかを判断する判断部と、
を有する
請求項に記載のアーク蒸発装置。
【請求項5】
前記検出部が前記接触部の前記退避位置から前記領域への移動中において前記接触部が前記ターゲットの前記側面に接触しなかったことを検出したときに、前記ターゲットを前記先端面が前進する方向で前記軸方向に沿って移動させるように前記ターゲット送り部を制御する制御部をさらに備えている
請求項1乃至4の何れか1項に記載のアーク蒸発装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク放電によって蒸発する棒状のターゲットを有するアーク蒸発装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、工具や機械部品などの基材の表面に耐摩耗性の向上等の目的のために被膜を形成する方法として、アーク放電を用いて基材の表面に被膜を形成する方法が種々提案されている。そのような被膜の材料としては、例えば、連続的な成膜を可能にするために棒状のターゲットが用いられる場合がある。
【0003】
特許文献1には、図9(a)に示されるような棒状のターゲットであるカソード31を有するアーク蒸発源が開示されている。このようなアーク蒸発源では、カソード31の先端面である蒸発面31aは、アーク放電によって加熱される。その加熱により溶融した材料が基材の表面に付着することにより、基材表面の成膜が行われる。このようにして成膜が行われている間、カソード31は、その先端の蒸発面31aから消耗するので、図示しない送出機構によって蒸発面31aの方(送出方向P)へ送り出される。
【0004】
特許文献1記載のアーク蒸発源では、カソード31の蒸発面31aの位置を適切に維持するために、アーク放電の点火用のトリガ32を用いて当該蒸発面31aの位置が測定される。トリガ32は、L状に曲がった本体と、この本体の先端からカソード31の軸方向に沿って当該カソード31の蒸発面31aに向かって突出する先端部32aとを有する。図9(b)に示されるように、トリガ32をカソード31の送出方向Pと反対方向へ移動させて、トリガ32の先端部32aをカソード31の蒸発面31aに当接させ、その当接時のトリガ32の移動量を測定することにより、蒸発面31aの位置が測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4827235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のアーク蒸発源では、トリガ32の先端部32aをカソード31の軸方向に沿ってカソード31の蒸発面31aに当接させることによって、蒸発面31aの位置が測定されるので、その測定の繰り返しに伴い、図9(c)に示されるように、トリガ32は蒸発面31aとの接触でカソード31から受ける反力によりカソード31の軸方向に変形し、それによって、トリガ32の先端部32aが軸方向に変位してしまう。この変位は、トリガ32の先端部32aとカソード31の蒸発面31aとの接触による当該蒸発面31aの位置の正確を阻害する。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、ターゲットが所定の位置に存在するか否かの検出を長期に亘って正確に行うことが可能なアーク蒸発装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアーク蒸発装置は、軸方向の一方の端面である先端面と、当該先端面の周縁に連続して前記軸方向に延びる側面とを有し、アーク放電によって前記先端面から溶解して蒸発する棒状のターゲットと、前記ターゲットの前記先端面との間で放電するための電極と、前記ターゲットと前記電極との間に電圧を印加することによって前記先端面と前記電極との間でアーク放電を発生させるアーク電源と、前記ターゲットを前記先端面が前進する方向で前記軸方向に沿って移動させるターゲット送り部と、前記ターゲットの送り方向における所定の位置において、前記ターゲットの前記側面に対して前記送り方向と交差する交差方向から接触可能な形状を有する接触部と、前記接触部を前記側面から前記交差方向に離れた退避位置から前記交差方向に沿って前記ターゲットが送り込まれる領域へ進入するように移動させる接触部駆動部と、前記接触部の移動中において、前記接触部が前記ターゲットの前記側面に接触したか、前記接触部が前記ターゲットの前記側面に接触することなく前記交差方向に沿って前記領域に進入したかを検出する検出部と、を備えており、前記接触部は、導電性を有する棒状の部材であって、前記接触部は、前記ターゲットとの間に電圧が印加された状態で当該ターゲットの前記側面に接触することによって、前記先端面と前記電極との間のアーク放電を開始させ、前記接触部駆動部は、前記ターゲットの前記側面から前記交差方向に離間して配置され、前記軸方向と平行に延びる中心軸回りに回転する駆動軸を有し、当該駆動軸から前記軸方向と直交する方向に延びる前記接触部を旋回することにより、当該接触部を前記退避位置から前記交差方向に沿って前記領域へ進入するように回転移動させる構成を有する。
【0010】
前記検出部は、前記接触部の電位を測定する電位測定部と、前記接触部の移動中において、前記電位測定部によって測定された前記接触部の電位が所定の電位によって、前記接触部が前記ターゲットの前記側面に接触したか否かを判断する判断部と、を有しているのが好ましい。
【0011】
前記検出部は、前記接触部が前記退避位置から前記領域へ移動中において、前記アーク電源の出力の変化に基づいて、前記接触部が前記ターゲットの前記側面に接触したか否かを判断する判断部と、を有してもよい。
【0013】
前記接触部駆動部は、前記接触部が前記側面に接触したときに当該接触部が静止する程度の駆動力で前記接触部を回転移動させ、前記検出部は、前記接触部の旋回角度を検出する角度測定部と、前記角度測定部によって測定された前記接触部の旋回角度が所定の角度以上であるか否かによって、前記接触部が前記ターゲットの前記側面に接触したか否かを判断する判断部と、を有してもよい。
【0014】
前記アーク蒸発装置は、前記検出部が前記接触部の前記退避位置から前記領域への移動中において前記接触部が前記ターゲットの前記側面に接触しなかったことを検出したときに、前記ターゲットを前記先端面が前進する方向で前記軸方向に沿って移動させるように前記ターゲット送り部を制御する制御部をさらに備えているのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明のアーク蒸発装置によれば、ターゲットが所定の位置に存在するか否かの検出を長期に亘って正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係るアーク蒸発装置の全体構成図である。
図2図1のターゲット周辺の部分の拡大斜視図である。
図3図1の点火ロッドがターゲットに接触した状態を説明する図であって、(a)はターゲット、点火ロッド、およびロータリアクチュエータの側面図、(b)は(a)のターゲットを軸方向から見た図であって点火ロッドが変形前の状態の図、(c)は(a)のターゲットを軸方向から見た図であって点火ロッドが当該軸方向に対して直交する方向へ曲げ変形した後の状態の図である。
図4】本発明の変形例として、ターゲット周辺にリング状磁石が配置された構成をターゲットの先端面から見た図である。
図5図4の磁石によって発生した磁場を示す図であって、ターゲット先端面と磁石との間の部分を拡大した図である。
図6】本発明の他の実施形態に係るアーク蒸発装置であって、点火ロッドの旋回角度から点火ロッドがターゲットの側面に接触したか否かを検知する形態の全体構成図である。
図7】本発明のさらに他の実施形態に係るアーク蒸発装置であって、アーク電源の出力電流または出力電圧から点火ロッドがターゲットの側面に接触したか否かを検知する形態の全体構成図である。
図8】本発明の他の変形例として図1のターゲットの先端面のみでアーク放電を発生させるためにターゲットの先端面に対向する位置にチャンバと絶縁したアノードを配置した例を示す説明図である。
図9】従来のアーク蒸発源においてL字状のトリガをカソード先端の蒸発面に接触させたときに当該トリガがカソードの軸方向に変形する様子を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明のアーク蒸発装置の実施形態についてさらに詳細に説明する。
【0018】
本実施形態のアーク蒸発装置1は、図1〜2に示されるように、チャンバ2内部において、棒状のターゲット3をアーク放電によって先端面3aから溶解して蒸発し、その蒸発によって発生した物質によってチャンバ2内部に収容された基材(図示せず)に対して成膜を行う構成、たとえばスパッタリングやAIPなどの成膜技術を行う構成を有する。具体的には、アーク蒸発装置1は、チャンバ2と、棒状のターゲット3と、ターゲット3を当該ターゲット3の軸方向Aに送り出すターゲット送り部4と、ターゲット3のアーク放電を開始させる点火機構5と、アーク電源8と、検出部9と、ターゲット送り部4などの制御を行う制御部13とを備えている。この点火機構5は、ターゲット3の側面3bに接触してターゲット3に対してアークの点火を行う点火ロッド6と、当該点火ロッド6を回転移動させるロータリアクチュエータ7とを有する。検出部9は、点火ロッド6がターゲット3の側面3bに接触したか否かを検出するものである。検出部9の具体的な構成については後段で詳細に説明される。
【0019】
また、図1〜2に示されるアーク蒸発装置1は、アーク放電がターゲット3の先端面3aのみで発生するように側面3bにおけるアーク放電の発生を阻止するために、チャンバ2の内部において、ターゲット3の先端面3a付近でターゲット3の周囲を覆うシールド板14をさらに備えている。
【0020】
チャンバ2は、導電性を有する材料で製造された密閉された筐体であり、ターゲット3の先端面3aとの間で放電するための電極として機能する。具体的には、チャンバ2は、垂直方向に立てられた主壁2aと、当該主壁2aから軸方向Aに離間した位置でターゲット3の先端面3aに対向する対向壁2bと、天板2cと、底板2dとを有する。これら主壁2a、対向壁2b、天板2cおよび底板2dによって、点火ロッド6およびターゲット3の先端面3aを含む部分を収容する空間部2eが形成される。空間部2eは、アーク放電の発生時(すなわち成膜時)には図示されない真空ポンプによって成膜時には真空またはそれに近い圧力まで減圧される。
【0021】
主壁2aは、貫通孔2fおよび貫通孔2gを有する。貫通孔2fは、ターゲット3が挿入可能な内径を有する。貫通孔2gは、点火機構5のロータリアクチュエータ7の駆動軸7aが挿入可能な内径を有する。
【0022】
ターゲット3は、軸方向Aに延びる棒状の形状、例えば、円柱形状状を有している。軸方向Aの一方の端面である円形の先端面3aと、当該先端面3aの周縁に連続して軸方向Aに延びる側面3bとを有する。棒状のターゲット3は、アーク放電によって先端面3aから溶解して蒸発する。
【0023】
ターゲット3の材料は、アーク放電によって蒸発して成膜用の材料として用いられるものであれば、本発明ではとくに限定されない。ターゲット3は、例えば、カーボン、タングステンカーバイド、タングステン、モリブデン、あるいは、ニオブなどの材料などで製造することが可能である。
【0024】
棒状のターゲット3の先端部は、主壁2aの貫通孔2fを通して当該主壁2aを貫通して、チャンバ2の空間部2eの内部に露出している。また、ターゲット3の先端部は、シールド板14を貫通して、シールド板14よりもターゲット3の送り方向Qについて前方に位置している。ターゲット3の先端面3aは、チャンバ2の対向壁2bに対向する。ターゲット3の残りの部分3cは、チャンバ2の外部において、主壁2aの背面側に設けられた筒部21内部に収容されている。
【0025】
ターゲット送り部4は、ターゲット3を先端面3aが前進する方向Qで当該ターゲット3の軸方向Aに沿って直線的に移動させる構成を有しており、例えば、ボールねじなどの機構によって構成される。本実施形態では、ターゲット3が水平方向に延びるように配置され、ターゲット送り部4は、ターゲット3を水平方向に送っているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ターゲット3が垂直方向に延びるように配置されている場合には、ターゲット送り部4は、ターゲット3をその軸方向に沿って垂直方向に送り出してもよい。
【0026】
上記の点火機構5の構成要素の1つである点火ロッド6は、本発明の接触部に対応するものであり、ターゲット3の送り方向Qにおける所定の位置において、ターゲット3の側面3bに対して送り方向Qと交差する交差方向として、本実施形態では当該送り方向Qと平行に延びる中心軸C回りに旋回する旋回方向Rから接触可能な形状を有する。具体的には、点火ロッド6は、導電性を有する。例えば、点火ロッド6は、導電性を有する金属材料からなる棒状の部材などによって構成される。
【0027】
点火ロッド6は、チャンバ2の空間部2eに収容され、主壁2aから離れた位置に配置されている。具体的には、点火ロッド6は、主壁2aからチャンバ2の内側に当該主壁2aとターゲット3の側面3bとの間でのアーク放電を阻止する程度の距離を隔てた位置で、点火ロッド6を側面3bから旋回方向Rに離れた退避位置S(図3(b)参照)から旋回方向Rに沿ってターゲット3が送り込まれる領域T(すなわち、図3(b)の側面3bで囲まれた領域T)へ進入することが可能な位置に配置されている。この構成では、点火ロッド6がチャンバ2の主壁2aから当該主壁2aとターゲット3の側面3bとの間でのアーク放電を阻止する程度の距離δを隔てた位置でターゲット3の側面3bに接触するので、ターゲット3の先端面3aとチャンバ2の主壁2a以外の部分(例えば、天板2cや底板2dなど)との間でアーク放電が生じている間においても、ターゲット3の側面3bと主壁2aとの間でアーク放電が生じるような異常放電を阻止することが可能である。なお、点火ロッド6と主壁2aとの距離を上記の距離δにすれば、異常放電を阻止できるので、シールド板14が点火ロッド6と主壁2aとの間に介在していなくてもよい。
【0028】
上記の点火機構5の他の構成要素であるロータリアクチュエータ7は、本発明の接触部駆動部に対応するものであり、点火ロッド6を上記の退避位置Sから旋回方向Rに沿って上記のターゲット3が送り込まれる領域Tへ進入するように移動させる構成を有する。
【0029】
具体的には、ロータリアクチュエータ7は、ターゲット3の側面3bから旋回方向Rに離間して軸方向Aと平行に延びる中心軸Cを回転中心として回転する駆動軸7aを有する。駆動軸7aは、チャンバ2の主壁2aの貫通孔2gを通してチャンバ2の空間部2aに出ている。駆動軸7aと貫通孔2gの内壁との間は回転軸用の既存のシール部材(図示せず)によって閉塞されている。棒状の点火ロッド6は、駆動軸7aの側面から当該駆動軸7aの軸方向に直交する方向に突出するように当該駆動軸7aに固定されている。
【0030】
ロータリアクチュエータ7は、点火ロッド6が側面3bに接触したときに当該点火ロッド6が静止する程度の駆動力で点火ロッド6を回転移動させる。ロータリアクチュエータ7は、例えば、空気圧によって駆動軸7aを回転させる機構を有する。ロータリアクチュエータ7は、ステップモータなどの他の機構によって駆動軸7aを回転して点火ロッド6を旋回させる構成でもよい。
【0031】
ロータリアクチュエータ7は、駆動軸7aの回転によって点火ロッド6を中心軸C回りに旋回させることにより、簡単な構成で当該点火ロッド6を退避位置Sから旋回方向Rに沿って領域Tへ進入するように回転移動させることが可能である。
【0032】
また、本実施形態では、ロータリアクチュエータ7の駆動軸7aは、チャンバ2の主壁2aの貫通孔2gを通して、チャンバ2の空間部2eに挿入され、空間部2e内部で点火ロッド6と結合している。駆動軸7aと貫通孔2gの内壁との隙間は、駆動軸7aが回転できるように、回転軸のシール用の既存のシール部材(図示せず)によって閉塞されている。この構成は、点火ロッド6の移動のために直線移動するロッドがチャンバ2の壁を貫通するとともにその貫通部分がパッキンなどのシール部材でシールされた構造と比べて、気密性がよい。
【0033】
ロータリアクチュエータ7は、例えば、点火ロッド6を領域Tへ進入する角度まで回転させた後に所定時間の経過後に退避位置Sまで点火ロッド6を戻すように逆方向に回転するように、制御部13などによって制御される。
【0034】
アーク電源8は、ターゲット3と当該ターゲット3に対向する電極となるチャンバ2との間に電圧を印加することによって、ターゲット3の先端面3aとチャンバ2との間でアーク放電を発生させる。アーク電源8の陰極は、ターゲット3に接続されている。アーク電極8の陽極は、チャンバ2に接続されるとともに、ロータリアクチュエータ7を介して点火ロッド6にそれぞれ接続されている。これにより、アーク電源8は、ターゲット3とチャンバ2との間に電圧を印加するとともにターゲット3と点火ロッド6との間に電圧を印加する。点火ロッド6とターゲット3との間に電圧が印加された状態で当該点火ロッド6がターゲットの側面3bに接触することによって、先端面3aとチャンバ2(例えば、天板2cおよび底板2dなど)との間でアーク放電を開始させることが可能である。
【0035】
検出部9は、点火ロッド6の移動中において、点火ロッド6がターゲット3の側面3bに接触したか否かを検出する。本実施形態の検出部9は、点火ロッド6の電位によりターゲット3の側面3bに接触したか否かを検知する構成を有する。具体的には、検出部9は、点火ロッド6の電位を測定する電位測定部10と、信号変換部11と、ターゲット接触判断部12とを有している。信号変換部11は、電位測定部10から得たアナログ信号をデジタル信号に変換(いわゆるA/D変換)する。
【0036】
ターゲット接触判断部12は、信号変換部11によって変換されたデジタル信号を用いて、点火ロッド6とターゲット3との接触の有無を判断する。具体的には、ターゲット接触判断部12は、点火ロッド6が旋回方向Rに沿って退避位置Sから領域Tへ進入する移動中において、電位測定部10によって測定された点火ロッド6の電位が所定の電位以下であるか否かによって、点火ロッド6がターゲット3の側面3bに接触したか否かを判断する。
【0037】
制御部13は、検出部9が点火ロッド6の退避位置Sから領域Tへの移動中において点火ロッド6がターゲット3の側面3bに接触しなかったことを検出したときに、ターゲット3を先端面3aが前進する方向で軸方向Aに沿って移動させるようにターゲット送り部4を制御する。また、制御部13は、ロータリアクチュエータ7などアーク蒸発装置1の他の構成要素についての制御も行う。
【0038】
シールド板14は、板状の部材であり、ターゲット3が挿入可能な貫通孔を有する。シールド板14は、チャンバ2から絶縁された状態でチャンバ2内部に配置されている。シールド板14は、ターゲット3の先端面3aの周囲を覆うことにより、アーク放電がターゲット3の先端面3aのみで発生するように側面3bにおけるアーク放電の発生を阻止することが可能である。
【0039】
また、本発明の変形例として、図4〜5に示されるように、アーク放電がターゲット3の先端面3aのみで発生するように側面3bにおけるアーク放電の発生を阻止するために、ターゲット3の周囲にリング状磁石15が配置されてもよい。リング状の磁石15は、磁場MF(図5参照)を発生させることによってアーク放電の起点となるアークスポットAS(図4参照)をターゲット3の先端面3aに閉じ込めるものである。リング状の磁石15は、その内周面および外周面においてそれぞれ異なる磁性の磁極15a、15bを有している。リング状の磁石15は、例えば、図1のチャンバ2の内部において、主壁2aから送り方向Qに離間した位置に配置される。具体的には、リング状の磁石15は、図4〜5に示されるように、ターゲット3の周囲を囲むように、ターゲット3の側面3bから当該ターゲット3の半径方向Bに離間した位置に配置されている。これらの磁極15a、15bは、当該ターゲット3の半径方向Bに並ぶ。リング状の磁石15は、図5に示されるように、ターゲット3の先端面3aから当該ターゲット3の軸方向Aにおける後方側であって、磁石15よりもターゲット3の先端面3aに近い領域においてターゲット3の側面3bに対して磁力線FLがなす角度θが鋭角(45度以下)になる磁場MFを発生するような位置に配置されている。ターゲット3の側面3bに対向する磁極15aは、N極であり、ターゲット3の半径方向Bの外側を向く磁極15bは、S極である。
【0040】
リング状の磁石15がターゲット3の周囲を取り囲むことより、ターゲット3の側面3bにおいて、当該リング状の磁石15によって発生する磁場MFをターゲット3の周方向において均一に分布させることが可能である。
【0041】
リング状の磁石15は、図1のシールド板14とチャンバ2の主壁2aの間に配置されることにより、シールド板14によってターゲット3の先端面3aで発生するアーク放電から保護される。
【0042】
リング状の磁石15は、強い磁力を発生する永久磁石からなり、例えば、ネオジムを含む合金(例えば、NdFeBなど)によって製造される。また、強い磁力を発生する永久磁石は、サマリウムおよびコバルトを含む合金(SmCo)によっても製造される。なお、磁石15は、電磁石でもよい。
【0043】
上記の磁石15によって発生する磁場MFの磁力線FLは、ターゲット3の側面3bに対向する磁極15aから出て、ターゲット3の側面3bにおける先端面3a付近の部分では、ターゲット3の側面3bに対して鋭角に延びる。そのため、ターゲット3の表面においてアーク放電が生じる点であるアークスポットAS(図4参照)は、ターゲット3の先端面3aの範囲から出ようとしても、ターゲット3の先端面3a付近の側面3bでは、当該側面3bにおける磁力線FL(図5参照)がアークスポットSを当該先端面3aの範囲内へ押し戻すように作用する。これによって、アークスポットASは、カーボン製のターゲット3の先端面3aの範囲内に維持され、アークスポットASがターゲット3の先端面3aの範囲外へ出ることが防止される。
【0044】
なお、磁石15は、互いに異なる磁性の磁極15a(例えばN極)および磁極15b(例えばS極)が当該ターゲット3の軸方向Aに並ぶように配置されたものでもよい。また、上記のように、磁石15は、上記のようなリング状の磁石に限定されない。複数の永久磁石がターゲット3の周囲においてターゲットの周方向に互いに離間して配置されてもよい。
【0045】
なお、磁石15は、本発明のアーク蒸発装置1において必須の構成要素ではない。
【0046】
上記のように構成されたアーク蒸発装置1では、ターゲット3の蒸発は、以下のようにして行われる。
【0047】
まず、アーク放電を行う前に、ターゲット送り部4は、ターゲット3を送り方向Qへ前進させ、その先端面3aが点火ロッド6よりも送り方向Qにおける前方に位置する位置まで、当該ターゲット3をチャンバ2の空間部2eへ送る。
【0048】
ついで、点火機構5の点火ロッド6がターゲット3から離れた退避位置S(図3(b)参照)にある状態において、アーク電源8は、ターゲット3とチャンバ2との間に電圧を印加するとともにターゲット3と点火ロッド6との間に電圧を印加する。
【0049】
その後、点火機構5のロータリアクチュエータ7が点火ロッド6を旋回方向R(図3(a)、(b)参照)に旋回させて、ターゲット3の領域T(図3(b)参照)へ進入する方向へ回転移動させる。点火ロッド6がターゲット3の側面3bに接触したとき、ターゲット3と点火ロッド6との間で電流が流れて、ターゲット3の表面にアークが点火し、それによって、ターゲット3の先端面3aとチャンバ2(例えば、天板2cおよび底板2dなど)との間でアーク放電が発生する。このように、アーク電源8がターゲット3とチャンバ2との間に電圧を印加した状態で、電圧を印加した点火ロッド6をターゲット3の側面3bに接触してターゲット3にアークを点火することにより、当該ターゲット3の先端面3aとチャンバ2との間でアーク放電を開始することが可能である。ロータリアクチュエータ7は、所定時間の経過後に、点火ロッド6を旋回方向Rと逆方向に旋回させて退避位置Sまで戻す。
【0050】
アーク放電が生じている間は、ターゲット3は、その先端面3aからアーク放電によって溶解されて蒸発される。
【0051】
ターゲット送り部4は、ターゲット3を送り方向Qへ定期的に所定の送り量で自動的に送り出し、これにより、ターゲット3の蒸発が連続的に行われる。
【0052】
ここで、ターゲット3の蒸発の条件(例えばターゲット3の材料の品質など)によって、ターゲット3の消耗量が想定された消耗量を上回る場合がある。そこで、上記のターゲット蒸発装置1では、ターゲット送り部4によるターゲット3の定期的な送り出しと併行して、ロータリアクチュエータ7が点火ロッド6を定期的にターゲット3へ向けて定期的に旋回させ、検出部9は、ターゲット3が所定の位置に有るか否かの検出を定期的に行う。
【0053】
具体的には、まず、ロータリアクチュエータ7は、駆動軸7aの回転により、点火ロッド6を定期的に中心軸C回りに旋回させることより、当該点火ロッド6を退避位置Sから旋回方向Rに沿ってターゲット3が送り込まれる領域T(図3(b)参照)へ進入するように回転移動させる。
【0054】
このとき、検出部9では、点火ロッド6の退避位置Sから領域Tへの移動中において、電位測定部10は点火ロッド6の電位を測定し、信号変換部11が電位測定部10から得たアナログ信号をデジタル信号に変換する。ターゲット接触判断部12は、変換されたデジタル信号を用いて、点火ロッド6が旋回方向Rに沿って退避位置Sから領域Tへ進入するように移動中において、電位測定部10によって測定された点火ロッド6の電位が所定の電位以下であるか否かを調べる。ターゲット接触判断部12は、この電位の変化によって、点火ロッド6がターゲット3の側面3bに接触したか否かを判断する。すなわち、ターゲット接触判断部12は、点火ロッド6の電位が所定の電位以下である場合には上記の接触が有ったと判断し、所定の電位より大きい場合には上記の接触が無かったと判断する。
【0055】
検出部9が点火ロッド6の退避位置Sから領域Tへの移動中において点火ロッド6がターゲット3の側面3bに接触しなかったことを検出したときには、検出部9から非接触の検出結果を受信した制御部13は、ターゲット3を送り方向Qに(すなわち、先端面3aが前進する方向で軸方向Aに沿って)あらかじめ決められた追加の送り量で移動させるようにターゲット送り部4を制御する。
【0056】
この構成では、点火ロッド6の退避位置Sから領域Tへの移動中において点火ロッド6がターゲット3の側面3bに接触しなかった場合には、制御部13は、ターゲット3を先端面3aが前進する方向で軸方向Aに沿って移動させるようにターゲット送り部4を制御するので、ターゲット3の送り出しを自動的に行うことが可能である。その結果、成膜作業中においてターゲット3が消耗してターゲット3の先端面3aが点火ロッド6よりも後退した位置になったときには、成膜作業を中断することなく、ターゲット3を自動的に送り出すことが可能である。
【0057】
なお、上記のターゲット送り部4は、ターゲット3の送り出しとして、2種類の送り出し、すなわち、定期的な所定の送り量の送り出しと、点火ロッド6がターゲット3の側面3bに接触しなかった場合の追加の送り出しとを両方行っているが、後者の送り出しのみを行うようにしてもよい。すなわち、ロータリアクチュエータ7による点火ロッド6の旋回の頻度を多くすれば、点火ロッド6がターゲット3の側面3bに接触しなかった場合におけるターゲット送り部4によるターゲット3の送り出しだけで、成膜作業を中断することなく、ターゲット3を自動的に送り出すことが可能である。
【0058】
以上のように、本実施形態のアーク蒸発装置1では、ターゲット3の存在を確認するために、点火ロッド6が退避位置Sからターゲット3が送り込まれる領域Tへ移動中において点火ロッド6がターゲット3の側面3bに接触したか否かを検出することが可能である。このような構成では、ターゲット3に接触して当該ターゲット3を検知するための点火ロッド6がターゲット3との接触を繰り返し行ったことにより、図3(c)に示されるようにターゲット3の送り方向Qと交差する旋回方向Rに変形しても、点火ロッド6が退避位置Sからターゲット3が送り込まれる領域Tへ向かって旋回方向Rに沿って移動する間において、ターゲット3の送り方向Qにおける所定の位置においてターゲット3の側面3bに接触したか否かを検出部9によって検出することが可能である。この検出結果を用いれば、ターゲット3がターゲット3の送り方向Qにおいて所定の位置に存在するか否か(すなわち、ターゲット3の先端が点火ロッド6よりも送り方向Qの前方へ突出しているか否か)を判断することが可能である。その結果、ターゲット3が所定の位置に存在するか否かの検出を長期に亘って正確に行うことが可能である。
【0059】
上記のようにターゲット3と点火ロッド6との間に電圧を印加した状態で、点火ロッド6をターゲット3の側面3bに接触してターゲット3にアークを点火するときには、点火ロッド6とターゲット3との間で電流が流れることにより、点火ロッド6の電位が低下する現象が生じる。そこで、上記の構成では、この電位差を利用して点火ロッド6が退避位置Sから領域Tへ移動中において、点火ロッド6がターゲット3の側面3bに接触することによる点火ロッド6の電位の変化に基づいて、点火ロッド6がターゲット3の側面3bに接触したか否かをターゲット接触判断部12によって判断することが可能である。
【0060】
また、上記のようにターゲット3の先端面3aにおけるアーク放電を維持して成膜を行っている間でも、点火ロッド6をターゲット3の送り方向Qと交差する旋回方向Rから退避位置Sから領域Tへ移動させることによって、ターゲット接触判断部12が当該点火ロッド6の電位に基づいて点火ロッド6がターゲット3の側面3bに接触したか否かを判断することによって、ターゲット3が所定の位置に存在しているか判断することが可能である。そのため、ターゲット3の存在確認のためにアーク放電を中断する必要がないので、アーク放電による成膜によって形成された膜の質や厚さなどの不連続性(不均一)を回避することが可能である。また、アーク放電がターゲット3の先端面3aとチャンバ2との間で発生している間は、ターゲット3の側面3bに点火ロッド6を接触させても、アーク放電が点火ロッド6に移行して当該点火ロッド6を損傷するおそれが低い。
【0061】
(変形例)
上記実施形態では、検出部9は、点火ロッド6の電位を測定する電位測定部10と、ターゲット接触判断部12とを有し、ターゲット接触判断部12が点火ロッド6の電位が所定の電位以下であるか否かによって、点火ロッド6がターゲット3の側面3bに接触したか否かを判断しているが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明では、接触部(点火ロッド6)の移動中において、当該接触部がターゲット3の側面3bに接触したか否かを検出することが可能な構成であれば、種々の形態の検出部を採用することが可能である。
【0062】
例えば、本発明の変形例として、図6に示されるアーク蒸発装置1のように、検出部9が、接触部である点火ロッド6の回転角度によりターゲット3の側面3bに接触したか否かを検出する構成を有してもよい。
【0063】
すなわち、図6に示される検出部9は、点火ロッド6の旋回角度を検出する角度測定部である回転角度変換部16と、当該旋回角度に基づいて点火ロッドがターゲット3の側面3bに接触したか否かを判断するターゲット接触判断部12とを有する。
【0064】
ロータリアクチュエータ7は、上記実施形態と同様に、点火ロッド6が側面3bに接触したときに当該点火ロッド6が静止する程度の駆動力で点火ロッド6を回転移動させる。この変形例におけるロータリアクチュエータ7は、駆動軸7aの回転角度に対応するパルス信号を発生させるパルス発生部、例えば、ロータリエンコーダなどを有する。
【0065】
回転角度変換部16は、ロータリアクチュエータ7から発生するパルス信号を回転角度の情報に変換することにより、点火ロッド6の旋回角度を検出する。
【0066】
ターゲット接触判断部12は、回転角度変換部16によって測定された点火ロッド6の旋回角度が所定の角度以上であるか否かによって、点火ロッド6がターゲット3の側面3bに接触したか否かを判断する。
【0067】
点火ロッド6がロータリアクチュエータ7によって退避位置Sから領域T(図3(b)参照)へ回転移動している間にターゲット3の側面3bに接触したときにはその位置で静止するが、当該側面3bに接触しない場合には、ターゲット3の側面3bがあるべき位置を過ぎて所定の角度以上旋回する。
【0068】
そこで、図6に示されるアーク蒸発装置1では、ターゲット接触判断部12は、この旋回角度の変化を利用して、点火ロッド6の旋回角度が所定の角度以上であるか否かによって、点火ロッド6がターゲット3の側面3bに接触したか否かを判断することが可能である。したがって、アーク放電していない場合やアーク電源8が動作していない場合でも、点火ロッド6の旋回角度に基づいてターゲット3の存在を判断することが可能である。
【0069】
図6に示される検出部9が点火ロッド6の退避位置Sから領域Tへの移動中において点火ロッド6がターゲット3の側面3bに接触しなかったことを検出したときには、上記実施形態と同様に、検出部9から非接触の検出結果を受信した制御部13は、ターゲット3を送り方向Qに移動させるようにターゲット送り部4を制御することが可能である。
【0070】
なお、上記の図6に示される変形例では、点火ロッド6の旋回角度を検出する角度測定部として、ロータリアクチュエータ7から発生するパルス信号を回転角度の情報に変換する回転角度変換部16が用いられているが、本発明はこれに限定されるものではない。角度測定部は、点火ロッド6などの接触部の旋回角度を検出することが可能であれば他の形態を有してもよい。
【0071】
また、本発明の他の変形例として、図7に示されるアーク蒸発装置1のように、検出部9が、アーク電源8の出力(例えば出力電流または出力電圧)に基づいてアーク放電の有無を調べることにより、ターゲット3の側面3bに接触したか否かを検出する構成を有してもよい。
【0072】
具体的には、検出部9は、アーク電源8の出力電流または出力電圧の信号をデジタル信号に変換する信号変換部11と、ターゲット接触判断部12とを有する。ターゲット接触判断部12は、点火ロッド6が退避位置Sから領域Tへ移動中において、アーク電源8の出力電流または出力電圧の変化に基づいて、点火ロッド6がターゲット3の側面3bに接触したか否かを判断する。
【0073】
この変形例におけるアーク電源8は、定期的にアーク放電を停止するように、ターゲット3とチャンバ2との間での電圧の印加を定期的に停止する構成を有している。
【0074】
この図7に示されるアーク蒸発装置1では、アーク電源8は、ターゲット3とチャンバ2との間での電圧の印加を定期的に停止してアーク放電を定期的に停止する。そして、アーク電源8がターゲット3とチャンバ2との間に電圧を印加するとともにターゲット3と点火ロッド6との間に電圧を印加した状態で、ロータリアクチュエータ7が点火ロッド6を退避位置Sから領域T(図3(b)参照)へ移動させることにより、ターゲット3にアークを再点火する動作が行われる。このとき、検出部9は、アーク放電が開始したか否かによって、ターゲット3の位置を判断する。具体的には、点火ロッド6が退避位置Sから領域Tへ移動してターゲット3の側面3bに接触してアーク放電が開始したときには、アーク電源8の出力電流または出力電圧は変動するので、ターゲット接触判断部12は、アーク電源8の出力電流または出力電圧の変化に基づいて、点火ロッド6がターゲット3の側面3bに接触したか否かを判断する。すなわち、ターゲット接触判断部12は、アーク電源8の出力電流または出力電圧の変化が所定の大きさ以上である場合には上記の接触が有ったと判断し、その変化が所定の大きさ未満の場合には上記の接触が無かったと判断する。
【0075】
これにより、ターゲット接触判断部12は、アーク放電が開始したか否かによってターゲット3位置を判断することが可能である。したがって、ターゲット3の位置を判断するために、アーク放電回路やアーク点火回路以外の付加的な回路や機器が不要になる。
【0076】
図7に示される検出部9が点火ロッド6の退避位置Sから領域Tへの移動中において点火ロッド6がターゲット3の側面3bに接触しなかったことを検出したときには、上記実施形態と同様に、検出部9から非接触の検出結果を受信した制御部13は、ターゲット3を送り方向Qに移動させるようにターゲット送り部4を制御することが可能である。
【0077】
上記実施形態では、本発明の接触部として点火機構5の点火ロッド6を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ターゲット3の側面3bに接触可能な形状を有するものであれば本発明の接触部として用いることが可能である。したがって、点火機構5の点火ロッド6とは別に、ターゲット3の側面3bに接触して当該ターゲット3を検知するための部材を、接触部として用いてもよい。
【0078】
また、接触部の形状については、本発明では棒状に限定されるものではなく、ターゲット3の側面3bに接触可能な形状であれば種々の形状が採用され得る。
【0079】
上記実施形態では、本発明の接触部駆動部として、点火ロッド6に回転駆動力を与えるロータリアクチュエータ7が用いられているが、本発明はこれに限定されるものではない。接触部(点火ロッド6)を送り方向Qと交差する方向に沿って退避位置からターゲット3が送り込まれる領域T(すなわち、図3(b)に進入するように接触部を移動させるものであれば、本発明の接触部駆動部として用いることが可能である。したがって、本発明の接触部駆動部としては、接触部を送り方向Qと交差する方向に沿って退避位置から領域Tへ直線移動させるものでもよい。例えば、棒状の接触部の場合には、当該棒状の接触部の側面がターゲット3の側面3bに接触することが可能な方向に当該接触部を直線移動させてもよいし、または、当該棒状の接触部の先端がターゲット3の側面3bに接触するように、接触部の軸方向に当該接触部を直線移動させてもよい。また、送り方向Qと交差する方向は、送り方向Qと直交する方向に限定されるものではなく、送り方向Qと90度以外の角度で交差する方向であってもよい。
【0080】
上記実施形態では、アーク放電がターゲット3の先端面3aのみで発生するように側面3bにおけるアーク放電の発生を阻止するために、シールド板14およびリング状の磁石15がチャンバ2内部に設けられているが、本発明はこれに限定されるものではない。ターゲット3の先端面3aでのみアーク放電を発生せるための本発明の変形例として、例えば、アーク蒸発装置は、ターゲット3の先端面3aに近い位置で当該ターゲット3の側面を覆う絶縁リングが設けられた形態を有してもよい。絶縁リングは、電気が通りにくい絶縁材料で製造されたリング状の部材である。この形態では、絶縁リングがターゲット3の側面をチャンバ2から絶縁することにより、当該側面におけるアーク放電の発生を阻止して先端面3aのみでアーク放電を発生させることが可能である。
【0081】
また、本発明のさらに他の変形例として、図8に示されるように、ターゲット3の先端面3aに対向する位置にチャンバ2から絶縁されたアノード19が配置され、アーク電源20の陽極がアノード19に接続されるとともに当該アーク電源20の陰極がターゲット3に接続される形態でもよい。この形態では、先端面3aとそれに対向するアノード19との間でのみでアーク放電が局所的に発生するので、ターゲット3の側面におけるアーク放電の発生を阻止することが可能である。
【0082】
なお、上述した具体的実施形態には以下の構成を有する発明が主に含まれている。
【0083】
本実施形態のアーク蒸発装置は、軸方向の一方の端面である先端面と、当該先端面の周縁に連続して前記軸方向に延びる側面とを有し、アーク放電によって前記先端面から溶解して蒸発する棒状のターゲットと、前記ターゲットの前記先端面との間で放電するための電極と、前記ターゲットと前記電極との間に電圧を印加することによって前記先端面と前記電極との間でアーク放電を発生させるアーク電源と、前記ターゲットを前記先端面が前進する方向で前記軸方向に沿って移動させるターゲット送り部と、前記ターゲットの送り方向における所定の位置において、前記ターゲットの前記側面に対して前記送り方向と交差する交差方向から接触可能な形状を有する接触部と、前記接触部を前記側面から前記交差方向に離れた退避位置から前記交差方向に沿って前記ターゲットが送り込まれる領域へ進入するように移動させる接触部駆動部と、前記接触部の移動中において、前記接触部が前記ターゲットの前記側面に接触したか否かを検出する検出部と、を備えており、前記接触部は、導電性を有し、前記接触部は、前記ターゲットとの間に電圧が印加された状態で当該ターゲットの前記側面に接触することによって、前記先端面と前記電極との間のアーク放電を開始させることを特徴とする。
【0084】
この構成では、アーク放電がターゲットの先端面のみで発生するアーク蒸発装置において、アーク放電によって先端面から蒸発するターゲットの存在を確認するために、接触部が退避位置から当該ターゲットが送り込まれる領域へ移動中において接触部がターゲットの側面に接触したか否かを検出することが可能である。このような構成では、ターゲットに接触して当該ターゲットを検知するための接触部がターゲットとの接触を繰り返し行ってターゲットの送り方向と交差する交差方向に変形しても、接触部が退避位置からターゲットが送り込まれる領域へ向かって交差方向に沿って移動する間において、ターゲットの送り方向における所定の位置においてターゲットの側面に接触したか否かを検出部によって検出することが可能である。この検出結果を用いれば、ターゲットがターゲットの送り方向において所定の位置に存在するか否か(すなわち、ターゲットの先端が接触部よりも送り方向の前方へ突出しているか否か)を判断することが可能である。その結果、ターゲットが所定の位置に存在するか否かの検出を長期に亘って正確に行うことが可能である。
【0086】
また、上記のアーク蒸発装置は、前記接触部は、導電性を有し、前記接触部は、前記ターゲットとの間に電圧が印加された状態で当該ターゲットの前記側面に接触することによって、前記先端面と前記電極との間のアーク放電を開始させる構成を有する。そのため、アーク電源がターゲットと電極との間に電圧を印加した状態で、接触部がターゲットとの間に電圧が印加された状態で当該ターゲットの側面に接触することによって、ターゲットにアークが点火して、当該ターゲットの先端面と電極との間でアーク放電を開始することが可能である。
【0087】
前記検出部は、前記接触部の電位を測定する電位測定部と、前記接触部の移動中において、前記電位測定部によって測定された前記接触部の電位が所定の電位によって、前記接触部が前記ターゲットの前記側面に接触したか否かを判断する判断部と、を有しているのが好ましい。
【0088】
ターゲットと接触部との間に電圧を印加した状態で、接触部をターゲットの側面に接触してターゲットにアークを点火するときには、接触部とターゲットとの間で電流が流れることにより、接触部の電位が低下する。そこで、上記の構成では、この電位差を利用して接触部が前記退避位置から前記領域へ移動中において、接触部がターゲットの側面に接触することによる接触部の電位の変化に基づいて、接触部がターゲットの側面に接触したか否かを判断部によって判断することが可能である。
【0089】
また、ターゲットの先端面におけるアーク放電を維持して成膜を行っている間でも、接触部をターゲットの送り方向と交差する交差方向から前記退避位置から前記領域へ移動させることによって、判断部が当該接触部の電位に基づいて接触部がターゲットの側面に接触したか否かを判断することによって、ターゲットが所定の位置に存在しているか判断することが可能である。そのため、ターゲットの存在確認のためにアーク放電を中断する必要がないので、アーク放電による成膜によって形成された膜の質や厚さなどの不連続性(不均一)を回避することが可能である。また、アーク放電がターゲットの先端面と電極との間で発生している間は、ターゲットの側面に接触部を接触させても、アーク放電が接触部に移行して当該接触部を損傷するおそれが低い。
【0090】
前記検出部は、前記接触部が前記退避位置から前記領域へ移動中において、前記アーク電源の出力の変化に基づいて、前記接触部が前記ターゲットの前記側面に接触したか否かを判断する判断部と、を有してもよい。
【0091】
この構成では、アーク電源は、ターゲットと電極との間での電圧の印加を定期的に停止してアーク放電を定期的に停止し、接触部を前記退避位置から前記領域へ移動してターゲットにアークを再点火する動作を行い、アーク放電が開始したか否かによって、ターゲット位置を判断することを可能にする。具体的には、接触部が前記退避位置から前記領域へ移動してターゲットの側面に接触してアーク放電が開始したときには、アーク電源の出力(電圧または電流など)は変動するので、判断部は、アーク電源の出力の変化に基づいて、接触部が前記ターゲットの側面に接触したか否かを判断する。言い換えれば、判断部は、アーク放電が開始したか否かによってターゲット位置を判断することが可能である。したがって、ターゲットの位置を判断するために、アーク放電回路やアーク点火回路以外の付加的な回路や機器が不要になる。
【0092】
前記アーク蒸発装置は、前記接触部および前記ターゲットの前記先端面を含む部分を収容するチャンバをさらに備えており、前記チャンバは、導電性を有することにより前記電極として機能し、前記チャンバは、前記ターゲットが挿入可能な貫通孔を有する主壁を有し、前記接触部は、前記主壁から前記チャンバの内側に当該主壁と前記ターゲットの前記側面との間でのアーク放電を阻止する程度の距離を隔てた位置で前記退避位置から前記交差方向に沿って前記領域へ進入するのが好ましい。
【0093】
この構成では、接触部がチャンバの主壁から当該主壁とターゲットの側面との間でのアーク放電を阻止する程度の距離を隔てた位置でターゲットの側面に接触するので、ターゲットの先端面とチャンバの主壁以外の部分(例えば天板や底板など)との間でアーク放電が生じている間においても、ターゲットの側面と主壁との間でアーク放電が生じるような異常放電を阻止することが可能である。
【0094】
前記接触部駆動部は、前記ターゲットの前記側面から前記交差方向に離間して前記軸方向と平行に延びる中心軸回りに前記接触部を旋回することにより、当該接触部を前記退避位置から前記交差方向に沿って前記領域へ進入するように回転移動させる構成を有するのが好ましい。
【0095】
この構成では、接触部駆動部は、接触部を旋回させることによって、簡単な構成で接触部を退避位置から前記交差方向に沿って前記領域へ進入するように移動させることが可能である。
【0096】
前記接触部駆動部は、前記接触部が前記側面に接触したときに当該接触部が静止する程度の駆動力で前記接触部を回転移動させ、前記検出部は、前記接触部の旋回角度を検出する角度測定部と、前記角度測定部によって測定された前記接触部の旋回角度が所定の角度以上であるか否かによって、前記接触部が前記ターゲットの前記側面に接触したか否かを判断する判断部と、を有してもよい。
【0097】
この構成では、接触部が接触部駆動部によって退避位置から前記領域へ回転移動している間にターゲットの側面に接触したときにはその位置で静止するが、当該側面に接触しない場合には、ターゲットの側面があるべき位置を過ぎて所定の角度以上旋回する。そこで、判断部は、この旋回角度の変化を利用して、接触部の旋回角度が所定の角度以上であるか否かによって、接触部がターゲットの前記側面に接触したか否かを判断することが可能である。したがって、この構成では、アーク放電していない場合やアーク電源が動作していない場合でも、接触部の旋回角度に基づいてターゲットの存在を判断することが可能である。
【0098】
前記アーク蒸発装置は、前記検出部が前記接触部の前記退避位置から前記領域への移動中において前記接触部が前記ターゲットの前記側面に接触しなかったことを検出したときに、前記ターゲットを前記先端面が前進する方向で前記軸方向に沿って移動させるように前記ターゲット送り部を制御する制御部をさらに備えているのが好ましい。
【0099】
この構成では、前記接触部の前記退避位置から前記領域への移動中において接触部がターゲットの側面に接触しなかった場合には、制御部は、ターゲットを先端面が前進する方向で前記軸方向に沿って移動させるようにターゲット送り部を制御するので、ターゲットの送り出しを自動的に行うことが可能である。その結果、成膜作業中においてターゲットが消耗してターゲットの先端面が接触部よりも後退した位置になったときには、成膜作業を中断することなく、ターゲットを自動的に送り出すことが可能である。
【符号の説明】
【0100】
1 アーク蒸発装置
2 チャンバ
2a 主壁
3 ターゲット
3a 先端面
3b 側面
4 ターゲット送り部
5 点火機構
6 点火ロッド(接触部)
7 ロータリアクチュエータ(接触部駆動部)
8 アーク電源
9 検出部
10 電位測定部
12 ターゲット接触判断部
13 制御部
16 回転角度変換部(角度測定部)
17 出力電流測定部
A 軸方向
Q 送り方向
R 旋回方向
T 領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9