特許第6205473号(P6205473)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6205473
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】柱と梁の接合部及びその設計方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/21 20060101AFI20170914BHJP
   E04B 1/22 20060101ALI20170914BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20170914BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20170914BHJP
   E04C 5/08 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   E04B1/21 B
   E04B1/22
   E04B1/58 508A
   E04H9/02 301
   E04C5/08
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-221764(P2016-221764)
(22)【出願日】2016年11月14日
【審査請求日】2017年1月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000170772
【氏名又は名称】黒沢建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108327
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 良和
(72)【発明者】
【氏名】黒沢 亮平
【審査官】 渋谷 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5612231(JP,B1)
【文献】 特開2002−004417(JP,A)
【文献】 特開2004−044204(JP,A)
【文献】 特開2010−196430(JP,A)
【文献】 特開2010−253363(JP,A)
【文献】 特開平04−047047(JP,A)
【文献】 特開平10−046663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/21−1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリート製の柱梁からなる建造物の接合部であって、柱には梁を載せるアゴが設けてあり、アゴの上に梁端が設置されると共に柱と梁端の間には構造目地部が形成してあり、柱梁接合部に設けた複数段のシースに接合鋼材が挿入してあって柱梁接合部を貫通させて対向する梁の端部または柱面に設けた定着具までアンボンド状態で配置して緊張定着してあって柱と梁が圧着接合で一体化してあり、
構造目地部においては、中地震時までは目地離間を許容せず、大地震時には目地離間を許容すると共に接合鋼材の伸びによって地震エネルギーを吸収し、接合鋼材に作用する張力が緊張定着力以上には実質的に増加することないように接合鋼材の緊張定着力の合力が以下の式(1)、(2)で求めたいずれの値より小さな値に設定してある柱と梁の接合部。
なお、各符号は以下の意味を有する。
P:接合鋼材の緊張導入力の合力(P+P)。
M(+):大地震時に接合部の構造目地部に作用する正のモーメント。
M(−):大地震時に接合部の構造目地部に作用する負のモーメント。
dp:合力Pの作用位置から梁の上端までの距離。
dp:合力Pの作用位置から梁の下端までの距離。
【請求項2】
請求項1において、接合鋼材はアンボンドPC鋼より線によってアンボンド状態としてある柱と梁の接合部。
【請求項3】
請求項1または2において、接合鋼材は防錆塗膜を有するPC鋼より線であって、鋼材とシースとの間にグラウトが充填されていない柱と梁の接合部。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、接合鋼材が1スパン以上に連続して複数の柱梁接合部を貫通して配置してある柱と梁の接合部。
【請求項5】
プレキャストコンクリート製の柱梁とからなる建造物の接合部の設計方法であって、柱には梁を載せるアゴが設けてあり、アゴの上に梁端が設置されると共に柱と梁端の間には構造目地部が形成してあり、柱梁接合部に設けた複数段のシースに接合鋼材が挿入してあって柱梁接合部を貫通させて対向する梁の端部または柱面に設けた定着具までアンボンド状態で配置して緊張定着してあって柱と梁が圧着接合で一体化してあり、
構造目地部においては、中地震時までは目地離間を許容せず、大地震時には目地離間を許容すると共に接合鋼材の伸びによって地震エネルギーを吸収し、接合鋼材に作用する張力が緊張定着力以上には実質的に増加することないように接合鋼材の緊張定着力の合力は以下の式(1)、(2)で求めたいずれの値より小さな値とする柱と梁の接合部の設計方法。
なお、各符号は以下の意味を有する。
P:接合鋼材の緊張導入力の合力(P+P)。
M(+):大地震時に接合部の構造目地部に作用する正のモーメント。
M(−):大地震時に接合部の構造目地部に作用する負のモーメント。
dp:合力Pの作用位置から梁の上端までの距離。
dp:合力Pの作用位置から梁の下端までの距離。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート製柱と梁の接合部及び接合部の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐震性能を高めたプレキャストコンクリート製柱と梁の接合方法及び設計方法としては本発明者が開発したPC圧着関節工法があり、下記の特許文献にある種々の工法及び設計方法を提案してきた。
【0003】
この種の従来技術として特許文献1(特許第3452554号公報)に開示された技術は、プレキャストコンクリート部材にPC鋼材用シースが埋設されたものであって、該PC鋼材用シースの接合部近傍を弾性変形可能であると共にコンクリートと付着しないアンボンド状態となる弾性材(合成樹脂)で形成し、PC鋼材用シースの残りの部分をコンクリートと付着するメタルとしてボンド状態とすることによって、柱と梁の接合部におけるPC鋼材用シースの接合部近傍を弾性変形可能とし、大地震による正負の繰り返し水平荷重を弾性変形によって吸収して柱梁の接合部における破壊を防ぐものである。
また、特許文献2(特許第3527718号公報)には、特許文献1に示す接合構造において、PC鋼材の緊張力をPC鋼材の降伏強度の30〜60%の有効緊張力で緊張することによってPC鋼材が降伏するのを抑えることが提案されている。(段落0010〜0011参照)
さらに、特許文献3(特許第5612231号公報)において、地震等による大きな水平力が作用したときに柱梁の圧着目地近傍において所要の長さ範囲内で、梁部材内のPC鋼材とグラウトとの付着が切れてアンボンド状態となるようにし、PC鋼材に作用する張力を増加させることなくPC鋼材の伸び量のみを増やして地震エネルギーを吸収する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3452554号公報
【特許文献2】特許第3527718号公報
【特許文献3】特許第5612231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1では、接合部近傍をアンボンド状態とした弾性材のシースのみの変形だけでは大地震による正負の繰り返し水平荷重を吸収するには十分とはいえず、水平荷重の吸収効果は限定的であり、水平荷重を吸収しきれない場合がある。そして、シース内部に配設されたPC鋼材が端部近傍の弾性材及びメタルシースとはグラウトによってボンド状態となっており、シースの弾性材の変形によってPC鋼材も伸びてエネルギーを吸収するが、PC鋼材に作用する張力も増加していくのでPC鋼材が降伏する恐れがある。
【0006】
この課題を解決するものとして特許文献2が提案された。しかしながらこの改良技術は、有効緊張力をPC鋼材が降伏しないように降伏強度まで余裕を持たせた低い緊張力とするものであり、また、PC鋼材の接合部近傍のみがコンクリートとはアンボンド状態であるので、十分な伸び量を得ることができず、地震エネルギーの吸収量が不足する場合が生じる。PC鋼材の弾性変形量が十分でないと地震荷重を吸収しきれず建造物が破壊に至ることになり、地震力を吸収して接合部の破壊を防止するという目的を達成することができない。
そこで、特許文献3に記載の技術が提案された。しかし、この方法は予め最大付着力の大きさを所定値で付着が切れるようにグラウトの強度とPC鋼材の周長(断面形状と本数に依存する)を適切に調整して設計することが要求され、設計手順(設計工数)が増加するので手間がかかると共に設計コストの増加に繋がる。
本発明は、以上の従来技術の課題を解決するものであって、簡易な設計手法によって水平力を吸収し、従来と同等の効果が得られる柱と梁の接合部及びその設計方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
プレキャストコンクリート製柱と梁とからなる建造物の接合部であって、柱には梁を載せるアゴが設けてあり、アゴの上に梁端が設置されると共に柱と梁端の間には構造目地部が形成してあり、柱梁接合部に設けた複数段のシースに接合鋼材が挿入してあって柱梁接合部を貫通させて対向する梁の端部、または、柱面に設けた定着具までアンボンド状態で配置してあると共に定着具に緊張定着して柱と梁が圧着接合で一体化してあり、構造目地部においては、中地震時までは目地離間を許容せず、大地震時には目地離間を許容すると共にアンボンド状態の接合鋼材の伸びによって地震等による水平力エネルギーを吸収し、接合鋼材に作用する張力が緊張定着力以上には実質的に増加することないように設定した接合鋼材の緊張定着力の合力が導入してある柱と梁の接合部である。
そして、接合鋼材の緊張定着力の合力は以下の式(1)、(2)で求めたいずれの値より小さな値に設定した柱と梁の接合部である。
なお、各符号は以下の意味を有する。
P:接合鋼材の緊張定着力の合力(P+P)。
M(+):大地震時に接合部の構造目地部に作用する正のモーメント。
M(−):大地震時に接合部の構造目地部に作用する負のモーメント。
dp:合力Pの作用位置から梁の上端までの距離。
dp:合力Pの作用位置から梁の下端までの距離。
【0008】
更に、プレキャストコンクリート製柱と梁とからなる建造物であって、柱には梁を載せるアゴが設けてあり、アゴの上に梁端が設置されると共に柱と梁端の間には構造目地部が形成してあり、柱梁接合部に設けた複数段のシースに接合鋼材が挿入してあって柱梁接合部を貫通させて対向する梁の端部または柱面に設けた定着具までアンボンド状態で配置してあると共に定着具に緊張定着して柱と梁が圧着接合で一体化してある構造目地部においては、中地震時までは目地離間を許容せず、大地震時には目地離間を許容すると共にアンボンド状態の接合鋼材の伸びによって地震等による水平力を吸収し、接合鋼材に作用する張力が緊張定着力以上には実質的に増加することないように接合鋼材の緊張定着力の合力を設定する柱と梁の接合部の設計方法であり、目地離間許容条件としては接合鋼材の緊張定着力の合力は以下の式(1)、(2)で求めたいずれの値より小さな値とする柱と梁の接合部の設計方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果を以下に示す。
(1)梁端の構造目地部において、中地震時(稀に起きる地震)までは目地が離間することなく、柱と梁が剛接合状態に維持され、柱と梁は共に弾性範囲にある。大地震時(極く稀に起きる地震)には、目地離間を許容してアンボンド状態に複数段で配置された接合鋼材の伸びで地震エネルギーを吸収し、接合鋼材に作用する張力が緊張定着力(緊張導入力)以上には殆んど増えることなく、目地が弾性状態で離間し梁部材が回転変形することによって梁の応力負担を軽減するので柱と梁を無損傷状態に保つことが可能となる。地震後、PC鋼材の弾性復元力により、離間した目地が閉じ、柱梁構造物全体が元の位置に復元し、残留変形が残ることがない。
(2)接合鋼材をアンボンド状態に配置すると共に、目地離間許容条件を満たすように接合鋼材の緊張定着力(緊張導入力)の合力を定めてあるので、所定の地震力が作用した時に、構造目地部(柱梁PC圧着接合部)では、目地を弾性離間させることができ、柱梁無損傷型構造物を提供することが実現できる。
(3)接合鋼材はアンボンドPC鋼より線を用いてアンボンド状態に配置することによって、接合鋼材の全長による伸びの量で地震エネルギーを吸収するので、充分な伸び量を確保することができる。
(4)接合鋼材として防請塗膜を有するPC鋼より線を用い、接合鋼材とシースとの間にグラウトを充填せずにアンボンド状態としてあるので地震エネルギーを吸収するための接合鋼材の伸び量が充分に得られると共に、通常必要とされているグラウト充填の施工手間を省略でき、コストを軽減することができる。
(5)接合鋼材を1スパン以上に連続して複数のパネルゾーン(柱梁接合部)に貫通して配置することによって、定着具の数量を削減することができると共に緊張工事を行う箇所を減らすことができ、施工手間及びコストを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の建造物の実施例1の骨組図。
図2】本発明の建造物の実施例2の骨組図。
図3】柱梁連結部の横断面図。(図1A−A断面)
図4】塗装接合鋼材の断面図。
図5】構造目地部の目地離間作用の説明図。
図6】接合鋼材の緊張定着力(緊張導入力)の合力を求める設計法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示すプレキャストコンクリート製柱と梁とからなるラーメン構造の建造物1に基づいて本発明の柱梁接合部について説明する。
建造物1は、基礎2上に設置されたプレキャストコンクリート製柱3と梁4とからなるラーメン構造であり、柱3の内部には複数のPC緊張材のPC鋼棒30がシース(図示省略)内に挿入されて上下方向に配設されており、柱3に配設されるPC鋼棒30の最下端部には定着体30aが設けてあって基礎2のフーチング22内部に固定してある。PC鋼棒30は、カプラー30bで上部に配置したPC鋼棒30と連結してあって上方に延びている。
【0012】
基礎2は、基礎杭21、その上部にはフーチング22が設けてあり、フーチング22は、基礎梁23で連結されて一体化されている。
フーチング22の上部に建込まれたプレキャストコンクリート製柱3は基礎2から1層1節として建込まれており、緊張定着用の各PC鋼棒30は、各節の上部で支圧板とナットなどからなる定着体30aで柱3の内部で固定されて柱の立設状態が維持されている。
なお、図面においては、本発明の本質部分を強調するため、本発明の要部以外の梁4の断面内の一次ケーブル51、52と柱3内部のPC鋼棒30を点線で示しており、シースとPC鋼より線等は図示せず省略してある。
【0013】
2節目の柱3は、1節目の柱3の上に建込みしてあり、1節目の柱3内に配設されたPC鋼棒30はカプラー30bで2節目のPC鋼棒30と連結され、1節目と同じように2節目の柱3の上部に定着具30aで同様に柱3内に固定してあり、順次、上層階に向かって同様にPC鋼棒30が連結されることによって柱3が最上階まで立設される。
柱3内に緊張定着されたPC鋼棒30とそれを収容するシースとの間の空間にはグラウトが充填されてボンドタイプとしてある。グラウトは、PC鋼棒30の腐食を防ぐ防錆作用も有するものである。
【0014】
柱3には梁4を載せるアゴ35が予め柱3と一体的に形成して設けてあり、柱梁接合部(パネルゾーン)としてある。柱梁接合部には、水平方向に接合鋼材5a、5bが上下二段に配置されており、緊張定着することによって柱梁を圧着接合するものである。この接合鋼材5a,5bを挿入するためのシース5sが設けてあり、梁4の端部から所定距離おいた位置の梁の上縁、及び柱面に接合鋼材5(5a、5b)を定着するための定着具5cが設けてある。
梁4は、プレキャストコンクリート製であり、一次ケーブルとしてプレテンショニング方式のPC鋼材51とポステンテンショニング方式のPC鋼より線52が梁4に配設されてプレストレスが導入されている。プレテンショニング方式は梁部材を製造する際に、ポストテンショニング方式は柱梁を組み立てた後にプレストレスが導入される。
【0015】
柱梁の接合部においては、梁4の端部が柱3のアゴ35に載せてあり、梁4の端面と柱面の間には所要の隙間が設けてあって、この隙間にはモルタル等が充填されて構造目地部6が形成されており、シース5sに接合鋼材5、例えば、PC鋼より線5a、5bを挿通してセットする。PC鋼より線5a、5bを定着具5cに緊張定着して柱3と梁4を圧着接合して一体化してある。PC鋼より線5a、5bの緊張は、目地モルタルが硬化した後に行う。
プレキャストコンクリート製梁4の上端にはトップコンクリートを打設して梁4と一体化されたスラブ7が形成してある。なお、トップコンクリートの鉄筋は、柱3とは連結しないのが原則である。
【0016】
図2に示す実施例2の建造物1においては、接合鋼材であるPC鋼より線5a、5bを1スパン以上に渡って連続して配設したものであり、複数(図示では2つ)のパネルゾーン(柱梁接合部)を貫通させて配置した例である。柱梁接合部近傍である図2の左側の柱近傍において、接合鋼材のPC鋼より線5aは上段に配置され、その下にPC鋼より線5bが配設されている。下段の接合鋼材のPC鋼より線5bは梁4の上縁に設けた定着具5cに向かって斜め上方に向けて配設され、上段の接合鋼材であるPC鋼より線5aは、梁4の中央部では下縁に配設されて1次ケーブル51、52に平行となり、図の右側の柱梁接合部に向かって斜めに配設され、柱3の近傍では上段に配設されて柱3を貫通し、隣のスパンの梁4の上縁の定着具5cに定着され、緊張力が導入されて柱3と梁4を圧着接合する。
【0017】
実施例2は、接合鋼材5(5a、5b)の配設レイアウトが実施例1とは異なるが、それ以外の構成は、実施例1と同じである。
接合鋼材5a、5bが複数のパネルゾーンに渡って連続配置してあり、定着具5cの個数を節約できると共に接合鋼材5a、5bの緊張定着箇所を減らすことができるので緊張定着作業に要する時間の短縮ができ、コストを削減することができる。更に、スパン中央の梁断面において、接合鋼材5a、5bが梁断面の下側にプレストレスを与えることになり、接合鋼材5aによって導入されるプレストレスの分を一次ケーブル51、52によるプレストレス導入量を減らすことができるので、一次ケーブルの数量及び緊張力を減少させることができる。
【0018】
柱3は、好ましくはプレキャストコンクリート製であって、建造物1を所謂プレキャストプレストレストコンクリート造とするのが好ましいが、この形態に限定されるものではなく、柱3を場所打ちプレストレストコンクリート造としてもよい。また、プレキャスト鉄筋コンクリート造、若しくは現場打ち鉄筋コンクリート造としてもよく、要するにプレキャストコンクリート製梁4を架設する前にコンクリート製柱3を構築しておくことが肝要である。
以上、本発明の基本構成を実施例に基づいて説明したが、基本構成以外の部分、例えば、基礎、柱、梁やトップコンクリート内の配筋等の詳細は省略してあり、図面に表していない。なお、トップコンクリート内の鉄筋は、柱3と連結しないのが原則である。
【0019】
図3(1)は、図1の柱梁接合部の梁4の端部の(A−A)断面を示し、梁4はプレキャストコンクリート製部分とトップコンクリートからなるスラブ7とが合成され一体化された合成梁であるので梁せいはスラブ7の天端までとなる。
一次ケーブルとしてプレテンショニング方式のPC鋼材51とポステンショニング方式のPC鋼より線52とが梁4の断面に配置されており、二次ケーブルとしてPC鋼より線の接合鋼材5a、5bが柱3及び梁4に設けてあるシース5sに挿入されて上下二段に配設され、後述の設計手順によって求めた緊張定着力(緊張導入力)の合力で緊張定着されている。
接合鋼材5a、5bは、図3(2)に一例を示すPE(ポリエチレン)被覆5e付きの7本よりPC鋼より線であるアンボンドPC鋼より線を使用している。一般的に、このアンボンドPC鋼より線を所要本数束ねたケーブルを接合鋼材5として使用する。この場合は、複数のアンボンドPC鋼より線で構成された接合鋼材5a、5bとシース5sとの間の空間にグラウトを充填してもしなくてもどちらでもよい。
【0020】
図4(1)、(2)に示す特許第2691113号公報または特許第164772号公報に開示されたエポキシ樹脂防錆塗膜5mを形成した塗装PC鋼より線5dを使用し、図4(3)に示すように複数の塗装PC鋼より線5dを束ねて形成したケーブルを接合鋼材5(5a、5b)とすることも可能である。この場合は、シース5sと接合鋼材5(5a、5b)との間にグラウトを充填しないことでアンボンド状態にすることができる。
【0021】
柱梁接合部の間に設けた構造目地部6の目地離間(目開き)を地震荷重の大小に応じて制御することによる作用・効果を図5に基づいて説明する。
大地震(極く稀に起きる地震)時に構造目地部6が目地離間しない場合は、地震による曲げモーメントを受けたプレキャスト製コンクリート梁4は、図5(1)に示すように、引張側の曲げ変形が大きなものとなり、コンクリートにひび割れ等が発生し、更には梁内の鋼材が降伏に至って塑性変形し、梁4が回復不能な大きな損傷を受けることになる。
しかし、作用する地震力の大小に応じて構造目地部(柱梁PC圧着接合部)の目地離間を制御することによって、プレキャストコンクリート製コンクリート梁の破損を防止することができる。
【0022】
すなわち、大地震時にはアンボンド状態で配設してある接合鋼材5a、5bが地震エネルギー吸収に必要な量だけ十分に伸びることができるようにして地震エネルギーを吸収するものであって、そのためには図5(2)に示すように構造目地部6の目地離間を許容することが必要である。アンボンド状態で配設した接合鋼材5a、5bの伸び量を大地震のエネルギーを吸収するに十分大きなものとすることによってプレキャストコンクリート製梁4の引張側に生ずる曲げ変形を抑制し、梁4に生ずる応力を大幅に軽減して梁4の損傷を防止すると共に、地震後には接合鋼材5a、5bに導入された緊張力によって開いた構造目地を元の状態に戻すものである。
なお、実際の目地離間は、僅かに開く程度で十分な効果が得られるものであるが、視覚的に本発明の効果の理解を容易にするために図5においては実際の目地離間よりも大きな離間が生じているように誇張して描いてある。
【0023】
図6は、柱梁接合部の拡大図であり、この図に基づいて、大地震時には構造目地部6の目地離間(目開き)を許容して柱梁の接合部の損傷を防止し、地震後には目開きを閉じて元に戻すようにするための接合鋼材5(5a、5b)に導入すべき緊張定着力(緊張導入力)の合力を求める手順を以下に説明する。
柱梁の接合部に配設された接合鋼材5(5a、5b)は、少なくともアゴ35の上下2段に配設し、各段に2本配設することにする。Pは上段接合鋼材5aの緊張定着力(緊張導入力)の合計を示し、Pは下段接合鋼材5bの緊張定着力(緊張導入力)の合計を示す。
なお、建造物の規模、荷重や梁のスパン等の条件によっては、接合鋼材5の配設を3段以上の複数段配置としてもよい。
【0024】
梁せいは、梁4の下端から上端までの高さであるが、プレキャストコンクリート製梁4の上にトップコンクリートを打設して床版7とプレキャストコンクリート製梁4の合成梁とした場合の梁せいは、図6(2)に示すように、トップコンクリート(床版7)の厚さ(t)とプレキャストコンクリート製梁4の高さ(h)を合計したものであり、梁せい(H)はh+tとなる。トップコンクリートを打設せず、床版7とプレキャストコンクリート製梁4が合成されていない場合は、プレキャストコンクリート製梁4の梁の高さhが梁せいとなる。
【0025】
構造目地部6の断面において、大地震時に構造目地部6に作用する正、負の曲げモーメントをそれぞれM(+)、M(−)とし、柱梁接合用の接合鋼材5a、5bの緊張定着力(緊張導入力)P、Pの合力をPとし、合力Pの作用する位置から梁の上端までの距離をdp、梁の下端までの距離をdpとすると、目地離間許容条件として合力Pは、下記式(1)、(2)によって求めた小さな値より小さな値を接合鋼材5(5a、5b)に付与する緊張力の合力Pとして採用する。
【0026】
【数1】
【0027】
実施設計においては、式(1)、(2)で求めた値より小な値を採用して安全側の値とする。実際に建造物に作用する地震力の大きさは、地震の発生場所、震源の震度および震源からの距離及び現場の地盤状況によってまちまちであり、作用する地震力は想定通りの大きさにならないため、安全側で目地離間を制御するように、前記の式(1)、(2)に基づいて求めた値Pより小さな値とするのが好ましい。
【0028】
接合鋼材5を複数段に配置する場合は、接合鋼材5の緊張定着力(緊張導入力)は各段それぞれ異なるものとしてもよく、各段の接合鋼材であるPCケーブルの本数と各ケーブルの緊張導入力の設定値によって調整することができる。
本発明では、接合鋼材5をアンボンド状態に配置するものであり、接合鋼材5の緊張定着力(緊張導入力)は、使用するPC鋼材の降伏荷重の50%〜80%の範囲内で設定するのが好ましい。
以上のように、本発明によれば発明の効果の欄に記載した効果が得られるものである。
【符号の説明】
【0029】
1 建造物
2 基礎
21 基礎杭
22 フーチング
23 基礎梁
3 柱
30 緊張材(PC鋼棒)
30a 定着体
30b カプラー
35 アゴ
4 梁(プレキャストコンクリート製梁)
5 接合鋼材
5a 上段接合鋼材
5b 下段接合鋼材
5c 定着具(接合鋼材)
5d 塗装PC鋼より線
5e ポリエチレン被覆シース
5m 防錆塗膜
5s シース
51 プレテンショニング緊張材
52 ポストテンショニング緊張材
6 構造目地部(モルタル充填)
7 床版
P 接合鋼材の合計導入緊張力(P+P
上段接合鋼材の導入緊張力
下段接合鋼材の導入緊張力
【要約】
【課題】大地震による正負の繰り返し水平荷重を吸収し、破壊を防止したプレキャストコンクリート柱梁の接合部を提供する。
【解決手段】プレキャストコンクリート製柱3と梁4の接合部であって、柱3には梁4を載せるアゴ35が設けてあり、アゴ35の上に梁4の梁端が設置されると共に柱3と梁4の梁端の間には構造目地部6が形成してあり、柱梁接合部に設けたシース5sに接合鋼材5が挿入され、柱梁接合部を貫通させて対向する梁の端部または柱面に設けた定着具5cまでアンボンド状態で配置してあると共に定着体30aに緊張定着して柱3と梁4が圧着接合で一体化してあり、構造目地部6においては、中地震時までは目地離間を許容せず、大地震時には目地離間を許容すると共にアンボンド状態の接合鋼材5の伸びによって水平力を吸収し、接合鋼材5に作用する張力が緊張定着力以上に増加しないように設定した接合鋼材5の緊張定着力の合力が導入してある柱3と梁4の接合部である。
【選択図】図1
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図5
図6