特許第6205508号(P6205508)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205508
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】滑り軸受および滑り軸受の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 9/02 20060101AFI20170914BHJP
   F16C 17/10 20060101ALI20170914BHJP
   F16C 33/14 20060101ALI20170914BHJP
   B21D 39/03 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   F16C9/02
   F16C17/10 Z
   F16C33/14 Z
   B21D39/03 Z
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-561405(P2016-561405)
(86)(22)【出願日】2016年5月24日
(86)【国際出願番号】JP2016065307
(87)【国際公開番号】WO2016203913
(87)【国際公開日】20161222
【審査請求日】2016年10月6日
(31)【優先権主張番号】特願2015-123786(P2015-123786)
(32)【優先日】2015年6月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】壷井 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】八田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】上山 敦史
【審査官】 星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−200381(JP,A)
【文献】 特開2015−110979(JP,A)
【文献】 特開2014−122660(JP,A)
【文献】 特表平7−502327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 9/02
F16C 17/10
F16C 33/14
B21D 39/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手軸と摺動する内周面、および当該相手軸の軸方向の第1端面に設けられた複数の凹部を有する半割軸受部材と、
前記第1端面に設けられた複数の凹部に対応する位置に設けられた複数の凸部を有する第1フランジ部材と、
前記第1フランジ部材を前記半割軸受部材に固定するため、前記第1端面において前記複数の凸部を前記複数の凹部に嵌め合わせた状態で各凹部をかしめた際に各凹部の周辺に形成された複数のかしめ痕と
を有し、
前記複数の凹部のうち少なくとも一の凹部の両側に形成されたかしめ痕について、前記相手軸の径方向から見たとき、周方向の外側に位置するかしめ痕における変形部分の体積が、内側に位置するかしめ痕における変形部分の体積よりも小さい
滑り軸受。
【請求項2】
前記複数の凹部のうち周方向の最外部に位置する2つの凹部の両側に形成されたかしめ痕について、前記径方向から見たとき、周方向の外側に位置するかしめ痕の角度が内側に位置するかしめ痕の角度よりも小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の滑り軸受。
【請求項3】
前記複数の凹部のうち周方向の最外部に位置する2つの凹部の両側に形成されたかしめ痕について、前記径方向から見たとき、周方向の外側に位置するかしめ痕と当該凹部との距離が、内側に位置するかしめ痕と当該凹部との距離よりも長い
ことを特徴とする請求項1に記載の滑り軸受。
【請求項4】
前記複数のかしめ痕について、前記軸方向から見た深さが等しい
ことを特徴とする請求項2または3に記載の滑り軸受。
【請求項5】
前記複数の凹部のうち周方向の最外部に位置する2つの凹部の両側に形成されたかしめ痕について、前記径方向から見たとき、周方向の外側に位置するかしめ痕の深さが、内側に位置するかしめ痕の深さよりも浅い
ことを特徴とする請求項1に記載の滑り軸受。
【請求項6】
前記複数のかしめ痕について、前記軸方向から見た角度が等しい
ことを特徴とする請求項5に記載の滑り軸受。
【請求項7】
前記半割軸受部材において前記軸方向の第2端面に設けられた複数の凹部と、
前記第2端面に設けられた複数の凹部に対応する位置に設けられた複数の凸部を有する第2フランジ部材と、
前記第2フランジ部材を前記半割軸受部材に固定するため、前記第2端面において前記複数の凸部を前記複数の凹部に嵌め合わせた状態で各凹部をかしめた際に各凹部の周辺に形成された複数のかしめ痕と
を有し、
前記第1端面および前記第2端面のそれぞれにおいて、前記複数の凹部のうち少なくとも一の凹部の両側に形成されたかしめ痕について、前記径方向から見たとき、周方向の外側に位置するかしめ痕における変形部分の体積が、内側に位置するかしめ痕における変形部分の体積よりも小さい
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の滑り軸受。
【請求項8】
相手軸と摺動する内周面、および当該相手軸の軸方向の第1端面に設けられた複数の凹部を有する半割軸受部材を準備する工程と、
前記第1端面に設けられた複数の凹部に対応する位置に設けられた複数の凸部を有する第1フランジ部材を準備する工程と、
前記凹部の幅よりも広い間隔で配置された2つのパンチを準備する工程と、
前記第1端面において前記複数の凸部を前記複数の凹部に嵌め合わせた状態で、前記複数の凹部のうち少なくとも一の凹部について、前記相手軸の周方向の外側に位置するかしめ痕における変形部分の体積が、内側に位置するかしめ痕における変形部分の体積よりも小さくなるようにかしめ、前記第1フランジ部材を前記半割軸受部材に固定する工程と
を有する滑り軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランジを有する軸受において組付け容易性と寸法精度とを両立させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンのクランクシャフト等においては、半割軸受およびフランジを有する滑り軸受が知られている。この構成において、半割軸受は相手軸の軸方向と垂直な方向の荷重を受け、フランジは軸方向の荷重を受ける。例えば特許文献1には、主軸受(半割軸受に相当)およびスラストワッシャ(フランジに相当)を有するスラスト軸受アセンブリが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−510107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術においては、組付け前には半割軸受とフランジとが固定されておらず、組付け作業時に不便であった。しかし、ただ単純に半割軸受とフランジとを接合しただけでは、半割軸受の張り等の寸法が設計値からずれてしまうおそれがあった。
【0005】
これに対し本発明は、フランジを有する軸受において組付け容易性と寸法精度とを両立させる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、相手軸と摺動する内周面、および当該相手軸の軸方向の第1端面に設けられた複数の凹部を有する半割軸受部材と、前記第1端面に設けられた複数の凹部に対応する位置に設けられた複数の凸部を有する第1フランジ部材と、前記第1フランジ部材を前記半割軸受部材に固定するため、前記第1端面において前記複数の凸部を前記複数の凹部に嵌め合わせた状態で各凹部をかしめた際に各凹部の周辺に形成された複数のかしめ痕とを有し、前記複数の凹部のうち少なくとも一の凹部の両側に形成されたかしめ痕について、前記相手軸の径方向から見たとき、周方向の外側に位置するかしめ痕における変形部分の体積が、内側に位置するかしめ痕における変形部分の体積よりも小さい滑り軸受を提供する。
【0007】
前記複数の凹部のうち周方向の最外部に位置する2つの凹部の両側に形成されたかしめ痕について、前記径方向から見たとき、周方向の外側に位置するかしめ痕の角度が内側に位置するかしめ痕の角度よりも小さくてもよい。
【0008】
前記複数の凹部のうち周方向の最外部に位置する2つの凹部の両側に形成されたかしめ痕について、前記径方向から見たとき、周方向の外側に位置するかしめ痕と当該凹部との距離が、内側に位置するかしめ痕と当該凹部との距離よりも長くてもよい。
【0009】
前記複数のかしめ痕について、前記軸方向から見た深さが等しくてもよい。
【0010】
前記複数の凹部のうち周方向の最外部に位置する2つの凹部の両側に形成されたかしめ痕について、前記径方向から見たとき、周方向の外側に位置するかしめ痕の深さが、内側に位置するかしめ痕の深さよりも浅くてもよい。
【0011】
前記複数のかしめ痕について、前記軸方向から見た角度が等しくてもよい。
【0012】
この滑り軸受は、前記半割軸受部材において前記軸方向の第2端面に設けられた複数の凹部と、前記第2端面に設けられた複数の凹部に対応する位置に設けられた複数の凸部を有する第2フランジ部材と、前記第2フランジ部材を前記半割軸受部材に固定するため、前記第2端面において前記複数の凸部を前記複数の凹部に嵌め合わせた状態で各凹部をかしめた際に各凹部の周辺に形成された複数のかしめ痕とを有し、前記第1端面および前記第2端面のそれぞれにおいて、前記複数の凹部のうち少なくとも一の凹部の両側に形成されたかしめ痕について、前記径方向から見たとき、周方向の外側に位置するかしめ痕における変形部分の体積が、内側に位置するかしめ痕における変形部分の体積よりも小さくてもよい。
【0013】
また、本発明は、相手軸と摺動する内周面、および当該相手軸の軸方向の第1端面に設けられた複数の凹部を有する半割軸受部材を準備する工程と、前記第1端面に設けられた複数の凹部に対応する位置に設けられた複数の凸部を有する第1フランジ部材を準備する工程と、前記凹部の幅よりも広い間隔で配置された2つのパンチを準備する工程と、前記第1端面において前記複数の凸部を前記複数の凹部に嵌め合わせた状態で、前記複数の凹部のうち少なくとも一の凹部について、前記相手軸の周方向の外側に位置するかしめ痕における変形部分の体積が、内側に位置するかしめ痕における変形部分の体積よりも小さくなるようにかしめ、前記第1フランジ部材を前記半割軸受部材に固定する工程とを有する滑り軸受の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フランジを有する軸受において組付け容易性と寸法精度とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態に係る軸受10を例示する図
図2】軸受10の一実施形態に係る製造方法を例示するフローチャート
図3】半割軸受部材11の外観を例示する図
図4】半割軸受部材11を軸方向から見た外観図
図5】フランジ部材12の外観を例示する図
図6】フランジ部材12を軸方向から見た外観図
図7】本実施形態において用いられるパンチを例示する図
図8】かしめに伴う半割軸受部材11の塑性変形の様子を模式的に示す図
図9】かしめ痕1111およびかしめ痕1112の拡大図
図10】軸受10におけるかしめ力の分布を示す図
図11】実験条件を示す図
図12】実験例1〜3による最外部の凹部におけるかしめ痕の外観を示す図
図13】実験例1〜3によるフランジ部間の内幅の測定結果を示す図
図14】かしめ方法の別の例を示す図
【符号の説明】
【0016】
10…軸受、11…半割軸受部材、12…フランジ部材、13…フランジ部材、21…パンチ、22…パンチ、23…パンチ、111…側面、112…凹部、113…側面、114…凹部、115…合せ面、116…合せ面、117…内周面、118…オーバレイ層、119…背面、121…内周面、122…凸部、123…合せ面、124…合せ面、125…スラスト面、126…油溝、211…パンチ部、212…パンチ部、213…梁部、221…パンチ部、222…パンチ部、231…パンチ部、232…パンチ部
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.構成
図1は、一実施形態に係る軸受10を例示する図である。軸受10は、例えば自動車のエンジンのシリンダブロックB(ハウジングの一例)においてクランクシャフトSを支持するフランジアッシ(滑り軸受の一例)である。クランクシャフトSは、円柱形状の軸であり、軸受10に対し相対的に回転する。クランクシャフトSは、軸受10に対する相手軸の一例である。
【0018】
軸受10は、半割軸受部材11、フランジ部材12(第1フランジ部材の一例)、およびフランジ部材13(第2フランジ部材の一例)を有する。半割軸受部材11は、円筒を軸方向に2分割した半円筒形状を有する。半割軸受部材11の内周面はクランクシャフトSの外周面と摺動し、軸方向に垂直な荷重を受ける主軸受である。フランジ部材12およびフランジ部材13は、半割軸受部材11の軸方向端部から、軸の径方向に延びている。フランジ部材12およびフランジ部材13は、シリンダブロックB(ハウジング)を介して軸方向の荷重(スラスト荷重)を受けるスラスト軸受(スラストワッシャ)である。
【0019】
軸受10は、クランクシャフトSの軸方向に垂直な断面において、外周の半分を支持する。すなわち、クランクシャフトSを全周に渡って支持するために、1箇所につき軸受10が2つ用いられる。図1の例では、軸受10aおよび軸受10bの2つの軸受が用いられる。なお、軸受10aおよび軸受10bは必ずしも2つセットで用いられる必要はなく、いずれか一方のみが用いられてもよい。また、2つセットで用いる場合には、軸受10aおよび軸受10bの両方が必ずしもフランジ部材を有さなくてもよく、いずれか一方の軸受のみ、もしくは双方の片側端部にのみフランジ部材を設けてもよい。さらに、後述のオーバレイ層を軸受10aおよび軸受10bの何れか一方のみ、もしくは双方に設けてもよい。
【0020】
以下、説明の便宜のため、座標系を定義する。この座標系において、相手軸の軸方向をz方向とし、軸の周方向および径方向の位置を極座標系(r,θ)で表す。θは基準面(例えば水平面)からの変位角を、rは基準点(例えば相手軸の中心)からの距離を表す。
【0021】
半割軸受部材11は、例えば、裏金、ライニング層、およびオーバレイ層(いずれも図示略)が、相手軸の径方向に積層された多層構造を有する。裏金は、半割軸受部材11に機械的強度を与える層である。裏金は、例えば鋼で形成される。ライニング層は、軸受としての特性、例えば、摩擦特性、耐焼付性、耐摩耗性、なじみ性、異物埋収性(異物ロバスト性)、および耐腐食性等の特性を改善するための層である。ライニング層は、軸受合金で形成される。軸との凝着を防ぐため、軸受合金は軸といわゆる「ともがね(ともざい)」となることを避け、軸とは別の材料系が用いられる。例えば、クランクシャフトSが鋼で形成されていた場合、軸受合金としてはアルミニウム合金等、鋼とは異なる合金が用いられる。なおアルミニウム合金以外にも、銅合金など、アルミニウム以外の金属をベースにした合金が用いられてもよい。オーバレイ層は、ライニング層の摩擦係数、なじみ性、耐腐食性、および異物埋収性(異物ロバスト性)等の特性を改善するためのコーティング層として樹脂系コーティングまたは金属めっきで形成される。
【0022】
フランジ部材12およびフランジ部材13は、半割軸受部材11と同様の材料で形成される。ただし、フランジ部材12およびフランジ部材13は半割軸受部材11とは別個に製造され、その後、半割軸受部材11に対して固定されるので、半割軸受部材11とは異なる材料で形成され、または異なる厚みで形成されていてもよい。
【0023】
半割軸受部材11とフランジ部材12との固定のため、半割軸受部材11の軸方向一端側の端面111には凹部112が形成され、フランジ部材12の径方向内側の内周面121には凸部122が形成されている。ここで、端面111(第1端面の一例)は、法線が+z軸方向を向いた面である。半割軸受部材11において端面111の反対側(図1においては隠れている部分)にも、端面(第2端面の一例)があり、この端面にも凹部が形成されている。この例では、凹部112および凸部122はそれぞれ3つずつ(凹部112a〜112cおよび凸部122a〜122c)形成されている。凹部112aおよび凸部122a、凹部112bおよび凸部122b、並びに凹部112cおよび凸部122cが、それぞれ嵌め合わせられている。なお、凹部112の幅は凸部122の幅よりも広く形成されている。
【0024】
凹部112および凸部122を嵌め合わせた状態で凹部112の近傍をかしめることにより、フランジ部材12は半割軸受部材11に対し固定されている。ここで、「かしめ」とは、対象となる部分を特定の部品で加圧することにより接合することをいう。こうして、シリンダブロックBへの組付け時には、半割軸受部材11およびフランジ部材12は固定されて一体となっている。半割軸受部材11とフランジ部材12とが固定されていない状態でシリンダブロックBに組付けを行う場合と比較して、本実施形態に係る軸受10によれば、シリンダブロックBへの組付けの工数を低減することができ、また、フランジ部材12の表裏の誤組付けの可能性も低減することができる。なお、フランジ部材13と半割軸受部材11との固定については説明を省略するが、フランジ部材12と半割軸受部材11との固定と同様である。
【0025】
なお、半割軸受部材11とフランジ部材12との固定は、少なくとも軸受10をシリンダブロックBに組付ける間だけ維持されていればよく、組付け後、エンジンを駆動したときに固定状態が維持されている必要は必ずしもない。フランジ部材12は、軸方向の荷重を受けてかしめが外れてもよい。この場合、エンジンの稼働時には負荷に応じてフランジ部材12が移動してシリンダブロックBと接して荷重を受ける。
【0026】
2.製造方法
図2は軸受10の一実施形態に係る製造方法を例示するフローチャートである。
ステップS1において、半割軸受部材11が準備される。
【0027】
図3は、半割軸受部材11の外観を例示する図である。半割軸受部材11の製造方法は、例えば以下のとおりである。まず、板状の裏金の上にライニング層となる軸受合金を例えば圧接してバイメタルを得る。この板状の基材が、半割軸受部材11に相当するサイズの短冊(小片)に切断され、半円筒形状に成形された後軸方向の両端側に相当する部分が一定の幅、切削される。その後、半割軸受部材11の表面から背面まで貫通する凹部が形成され、要求される特性に応じてバイメタルの上にオーバレイ層が形成される。この凹部形成部分は、半割軸受部材11の摺動面よりも低くなる。
【0028】
半割軸受部材11は、内周面117の一部に、オーバレイ層118を有する。オーバレイ層118は、相手軸の周方向に沿って延びている。オーバレイ層118の軸方向の両端は表面が切削されており、ライニング層または裏金が露出している。ライニング層または裏金が露出している部分には、凹部112および凹部114が形成されている。この例で、凹部112は、半割軸受部材11の軸方向の一方の端面である面111に形成されており、内周面117から外周面119まで貫通している。凹部114についても同様である。なお、凹部112および凹部114は、内周面117まで貫通していなくてもよい。
【0029】
図4は、半割軸受部材11を軸方向から見た外観図である。凹部112bは、半割軸受部材11の内周の中央部に形成されている。凹部112aは凹部112bから見て−θ側、凹部112cは凹部112bから見て+θ側に形成されている。凹部112bから見て、凹部112aまでの距離と凹部112cまでの距離は等しい。
【0030】
半割軸受部材11は、他の軸受10と接する合せ面115および合せ面116を有する。合せ面115および合せ面116を結ぶ線分の中点Cmを仮想的な中心点と考え、中点Cmから摺動面までの距離rmiを「内径」といい、外周面(背面)までの距離rmoを「外径」という。半割軸受部材11において、外径は厳密には一様ではなく、合せ面における外径dmoは、中央部における仮想的な外径2rmoよりも大きい。すなわち、半割軸受部材11の外周面は数学的に正確な円弧ではない。内径についても同様である。このとき、外径dmoを「張り」という。張りがある程度あると、半割軸受部材11の内から外に向かう張力がシリンダブロックBに働き、シリンダブロックBから軸受10が脱落するのを抑制する効果が得られる。張りの量は軸受の寸法に応じて設計される。
【0031】
再び図2を参照する。ステップS2において、フランジ部材12およびフランジ部材13が準備される。この例で、フランジ部材12およびフランジ部材13は同一の形状を有しているので、フランジ部材12についてのみ説明する。
【0032】
図5は、フランジ部材12の外観を例示する図である。フランジ部材12の製造方法は、例えば以下のとおりである。まず、板状のバイメタルを形成する点は半割軸受部材11と同様である。この板状の基材から、フランジ部材12に相当する形状が切り出される。さらに、要求される特性に応じ、必要があればオーバレイ層が形成される。
【0033】
フランジ部材12は、スラスト荷重を受けるスラスト面125、および半割軸受部材11と接する内周面121を有する。スラスト面125には、油溝126が形成されている。この例では、油溝126aおよび油溝126bの2つの油溝が形成されている。油溝126は、潤滑油を保持し、さらに半割軸受部材11からの潤滑油の給油を受ける給油経路となる溝である。内周面121には、凸部122が形成されている。
【0034】
図6は、フランジ部材12を軸方向から見た外観図である。凸部122bは、フランジ部材12の内周の中央部に形成されている。凸部122aは凸部122bから見て−θ側、凸部122cは凸部122bから見て+θ側に形成されている。凸部122bから見て、凸部122aまでの距離と凸部122cまでの距離は等しい。また、凸部122a〜122cは、半割軸受部材11の凹部112a〜112cと嵌め合う位置に形成されている。
【0035】
フランジ部材12は、半割軸受部材11の合せ面115および合せ面116に対応する合せ面123および合せ面124を有する。合せ面123および合せ面124を結ぶ線分の中点Cwを仮想的な中心点と考え、中点Cwから内周面までの距離rwiを「内径」といい、外周面までの距離rwoを「外径」という。フランジ部材12の内径は、半割軸受部材11の外径とほぼ等しい。
【0036】
再び図2を参照する。ステップS3において、かしめに用いられるパンチ(工具)が準備される。
【0037】
図7は、本実施形態において用いられるパンチを例示する図である。この例では、パンチ21、パンチ22、およびパンチ23の3つのパンチが用いられる。パンチ21は凹部112aおよび凸部122aのかしめに用いられ、パンチ22は凹部112bおよび凸部122bのかしめに用いられ、パンチ23は凹部112cおよび凸部122cのかしめに用いられる。図7は、これらのパンチを、使用時の径方向に相当する方向から見た図(正面図)および周方向から見た図(側面図)である。
【0038】
パンチ22は、パンチ部221およびパンチ部222を有する。パンチ部221およびパンチ部222は、対象物(半割軸受部材11の凹部112近傍)を塑性変形させるための加工具である。パンチ部221およびパンチ部222の先端は、径方向から(すなわち中点Cwまたは軸の中心から)見ると尖った形状を有する。使用時におけるパンチ部の移動方向(図では下向き)に対するパンチ部内面の角度は、パンチ部221およびパンチ部222のいずれに対してもθ1である。また、パンチ部の先端部分の角度は、パンチ部221およびパンチ部222のいずれにおいてもθ3であり共通である。また、パンチ部211の先端部とパンチ部212の先端部との距離W1は、凹部112の幅よりも広い。パンチ22を用いれば、凹部112の両側を同じ力でかしめることができる。
【0039】
パンチ21は、パンチ部211およびパンチ部212を有する。使用時におけるパンチ部の移動方向に対するパンチ部内面の角度は、パンチ部212に対してはθ1であり、パンチ部211に対してはθ2である(ここで、θ2<θ1)。また、パンチ部212の先端部分の角度はθ3であり、パンチ部221およびパンチ部222の先端部分の角度θ3と共通である。パンチ部211の先端部分の角度はθ4である(ここで、θ4<θ3)。パンチ22を用いれば、パンチ部211により塑性加工される部分の体積は、パンチ部212により塑性加工される部分の体積よりも小さくなる。すなわち、パンチ22を用いれば、凹部112の両側を異なる力でかしめることができる。
【0040】
パンチ23は、パンチ部231およびパンチ部232を有する。使用時におけるパンチ部の移動方向に対するパンチ部内面の角度は、パンチ部231に対してはθ1であり、パンチ部232に対してはθ2である。また、パンチ部231の先端部分の角度はθ3であり、パンチ部221およびパンチ部222の先端部分の角度θ3と共通である。パンチ部232の先端部分の角度はθ4であり、パンチ部211の先端部分の角度と共通である。パンチ23を用いれば、パンチ部232により塑性加工される部分の体積は、パンチ部231により塑性加工される部分の体積よりも小さくなる。すなわち、パンチ23を用いれば、凹部112の両側を異なる力でかしめることができる。
【0041】
再び図2を参照する。ステップS4において、半割軸受部材11の凹部112と、フランジ部材12の凸部122とが嵌め合わせられる。ステップS5において、半割軸受部材11の凹部112の近傍がかしめられる。
【0042】
図8は、かしめに伴う半割軸受部材11の塑性変形の様子を模式的に示す図である。ここでは、パンチ21を用いて凹部121aの周囲をかしめる例を用いて説明する。パンチ21は、相手軸の軸方向に沿って移動し、半割軸受部材11の一端側の面111から当てられる。このとき、凹部121aの周方向外側(合せ面に近い方)にパンチ部211が、周方向内側(中央部に近い方)にパンチ部212が当てられる。
【0043】
図8(A)は、パンチ21が面111に接した状態を示している。半割軸受部材11とフランジ部材12とが嵌め合わせられているので、凹部112a内に凸部122aが存在する。
【0044】
図8(A)の状態からパンチ21に軸方向の圧力が加えられると、半割軸受部材11が塑性変形し、パンチ21が内部にめり込んでいく。このとき、パンチ21の体積により、凹部112aの壁面が凹部内側に向かって押し出されていく(図8(B))。
【0045】
パンチ21が所定量押し込まれると、かしめは完了する(図8(C))。パンチ21は逆方向に移動して除去される。パンチ21が除去されると、凹部112aの両側にはかしめ痕1111およびかしめ痕1112が形成される。かしめ痕底部の角度は、パンチ21の形状に対応し、かしめ痕1111の方が小さく(θ4相当)、かしめ痕1112の方が広い(θ3相当)。
【0046】
ここで、パンチ部211を用いたかしめによる、凹部112aの壁面部の変形部分の体積(図の左壁面)は、パンチ部212を用いたかしめによる、凹部112aの壁面部の変形部分の体積(図の右壁面)よりも小さい。すなわち、変形した壁面が凸部122aを抑えつける力(かしめ力)は、相対的に周方向外側の方が弱く、周方向内側の方が強い。
【0047】
図9は、かしめ痕1111およびかしめ痕1112の拡大図である。ここでは、凸部122aは図示を省略している。ここで、凹部112aの壁面部の変形部分について説明する。変形部分は、例えば、凹部112aの底面の端部から軸方向に延びる仮想線(かしめ前の凹部112aの壁面に相当)よりも凹部112aの内側にある部分(図9においてハッチングされた部分)が、かしめによる変形部分であるといえる。
【0048】
凹部112bはパンチ22を用いて、凹部112cはパンチ23を用いて、それぞれかしめられる。このように、凹部112a〜112cをパンチ21〜23を用いてかしめることにより、3つの凹部における計6つのかしめ位置において、周方向の最外部の2つの位置のかしめを、他の位置よりも弱くすることができる。なお、凹部114のかしめについても同様である。なお、この例では単一の凹部112の両側に形成されるかしめ痕の深さはほぼ等しい。
【0049】
図10は、軸受10におけるかしめ力の分布を示す図である。本実施形態においては、既に説明したように、最外部の2点が他の4点よりもかしめ力が弱く、より中央部寄りの4点は相対的に強い力でかしめられている。仮に、この6点を同じ力でかしめた場合、特に最外部の2点のかしめにより、軸受10の径方向のF0、すなわち、半割軸受部材11の張りを減少させる力が働く。この力により、張りの寸法が設計値よりも小さくなってしまうおそれがある。しかし、本実施形態においては、最外部の2点を相対的に弱い力でかしめている。このため、力F0は6点を同じ力でかしめた場合よりも弱くなり、張りの減少を抑制することができる。
【0050】
なお、凹部112をかしめる位置は、径方向において半割軸受部材11の内周面からマージンΔmを空けた位置である。これは、かしめによる変形の影響を摺動面に及ぼさないためである。
【0051】
再び図2を参照する。ステップS6において、軸受10が完成する。本実施形態によれば、ハウジングへの組付け容易性と寸法精度とを両立させた軸受を得ることができる。
【0052】
3.実施例
本願の発明者らは、本願発明の効果を検証するための実験を行った。以下、その実験方法および実験結果を説明する。
【0053】
図11は、実験条件を示す図である。ここでは、実験例1〜3の2つの試料が実験に用いられた。試料としては、内径が64mm(実験例1〜例3)の軸受を用いた。実験に用いた軸受は、1つのフランジ部に対し3つの凹部を有する。すなわち、1つのフランジ部に対し6点でかしめが行われた。
【0054】
実験例1は、最外部の凹部のかしめに用いるパンチにおいて、先端までの距離に0.5mmのオフセットを設けることにより、最外部2点のかしめ力を他の4点よりも弱めたものである。パンチ部の角度はいずれも60°であった。実験例2は、6点を均等にかしめたものである。パンチ部の角度はいずれも60°であった。実験例3は、実施形態で説明した方法により最外部2点のかしめ力を他の4点よりも弱めたものである。パンチ部の角度はいずれも60°および45°であった。
【0055】
図12は、実験例1〜3による最外部の凹部におけるかしめ痕の外観を示す図である。図12は、かしめ痕を径方向から見た外観を模式的に示す図である。実験例1においては、合せ面側のかしめ痕においては凹部内壁の倒れ込み(変形)が、中央部側と比較して小さかった。中央部側においては凹部内壁が大きく倒れ込んで凸部122を固定しているのに対し、合せ面側においては、凹部内壁が凸部122に若干触れる程度に倒れ込んでいた。これに対し、実験例2および3においては、合せ面側および中央部側のいずれにおいても凹部内壁の倒れ込みが発生していた。すなわち、実験例1と比較すると、実験例2および3はフランジ部の保持力が向上していると考えられる。
【0056】
図13は、実験例1〜3によるフランジ部間の内幅の測定結果を示す図である。図13は、フランジ部間の内幅(実施形態の例でいうとフランジ部材12の裏面(スラスト面の裏面)からフランジ部材13の裏面までの距離)を、合せ面近傍、中央部、その間(50°付近)等、位置を変えて測定したものである。
【0057】
実験例1においては、合せ面近傍で内幅が中央部よりも広がっている傾向が見られた。実験例2においては、合せ面近傍で内幅が中央部よりも広がっている傾向がみられた。実験例3においては、実験例1および実験例2と比較すると、合せ面近傍でと中央部との内幅の差が縮小している傾向が見られた。
【0058】
なお、ここでは具体的に測定は行っていないが、張りの寸法変化を抑制するという観点では、実験例2と比較すると、実験例1および実験例3は、寸法変化を抑制する効果がある。
【0059】
図8では凸部122が凹部112の底面と接している例を示したが、凸部122と凹部112の底面との間には隙間が空いていてもよい。また、凸部122の断面形状は図8に例示した長方形のものに限定されない。長方形の角を面取りした形状やアーチ状の形状など、他の形状のものが用いられてもよい。
【0060】
4.変形例
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。以下、変形例をいくつか説明する。以下の変形例のうち2つ以上のものが組み合わせて用いられてもよい。
【0061】
図14は、かしめ方法の別の例を示す図である。凹部112をかしめる方法は、実施形態で説明したものに限定されない。図14(A)および(B)の例では、パンチ部の先端の角度がθ3で同一のパンチが用いられる。
【0062】
図14(A)の例では、凹部112aの端部からのオフセットが、外側(合せ面側)と内側(中央部側)とで異なっている。具体的には、外側の方が広く、内側の方が狭くなっている。オフセットが広い方は、凹部112aの壁面以外にも面111の塑性変形の影響があるが、凹部112aの壁面の変形量は他のかしめ方法よりも少なく、すなわちかしめ力は弱くなる。
【0063】
図14(B)は、上記の実験例1で用いたパンチの例である。この例では、パンチ使用時におけるパンチ部先端までの距離が、パンチ部211の方が短く、パンチ部212の方が長い(差がΔh)。このため、パンチを所定量押し込むと、パンチ部が侵入する深さは異なっており、外側が浅く内側が深い。侵入深さが浅い方が変形量は少なく、すなわちかしめ力は弱くなる。なお、Δhは、例えば0.5mm〜1.0mmの範囲で設定可能である。
【0064】
なお、図14(B)の例と比較すると、実施形態で説明した例および図11(A)の例は、変形部と凸部122の接触量が増えるのでフランジ部材12の固定位置の精度を向上させることができる。
【0065】
また、図14(A)および(B)の例において、パンチ部先端の角度を異ならせてもよい。
【0066】
半割軸受部材11における凹部の形状および数、並びにフランジ部材12における凸部の形状および数は、実施形態で説明したものに限定されない。さらに、凹部及び凸部の位置は等間隔で配置されなくてもよい。フランジ部材13についても同様である。
【0067】
軸受10の具体的形状は、実施形態で説明したものに限定されない。例えば、半割軸受部材11の内周面において、表面両側部が切削されておらず、全面に渡ってオーバレイ層118が形成されていてもよい。また、半割軸受部材11は、いずれか一方の合せ面の近傍に、位置決めのための爪を有していてもよい。さらに、フランジ部材12およびフランジ部材13は、シリンダブロックBに対する相対的な回転防止のため回り止めの凸部を外周面に有していてもよい。また、油溝126の形状および数も実施形態で説明したものに限定されない。
【0068】
軸受10においては軸方向の両端にフランジ部材(フランジ部材12およびフランジ部材13)が固定されていたが、いずれか片端にのみフランジ部材が固定されていてもよい。
【0069】
実施形態においては、相手軸の1箇所を支持するため同一の軸受10を2つ用いたが、ここで用いられる2つの軸受は、例えば内周面(摺動面)の形状が異なっていてもよい。例えば、上側および下側のいずれか一方の摺動面には油溝や油孔が設けられていてもよい。また、軸受10の用途はクランクシャフトSを支持するものに限定されない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14