(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
炭素繊維複合材料を加熱処理して、前記炭素繊維複合材料に含まれる樹脂成分の少なくとも一部又は全部を熱分解する工程、及び加熱処理した材料を陽極酸化して繊維状の炭素繊維を得る工程、を含む、ベーム法によって測定された炭素繊維表面の全酸性官能基量が0.3m mol/g以上であり、かつベーム法による炭素繊維表面のカルボキシル基量が、0.02m mol/g以上である炭素繊維の製造方法であって、
前記炭素繊維複合材料は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)であり、
前記加熱処理工程及び陽極酸化における樹脂成分の分解は、樹脂成分の85%以上が分解するまで行い、
前記陽極酸化は、印加電圧を6V以下、平均電流密度が0.5A/cm2以下で行って繊維状の炭素繊維を得る、前記方法。
A)炭素繊維がベーム法によって測定された炭素繊維表面の全酸性官能基量が0.3m mol/g以上であり、かつベーム法による炭素繊維表面のカルボキシル基量が、0.02m mol/g以上であるサイジング剤を含まない炭素繊維、(B)熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物であって、(A)炭素繊維と(B)熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂の合計量を100質量%として、(A)炭素繊維5〜95質量%、(B)熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂5〜95質量%からなる炭素繊維強化樹脂組成物。
熱可塑性樹脂がスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル樹脂及びポリオレフィン系樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一種である請求項3に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一種である請求項4に記載の炭素繊維強化樹脂組成物。
A)炭素繊維がベーム法によって測定された炭素繊維表面の全酸性官能基量が0.3m mol/g以上であり、かつベーム法による炭素繊維表面のカルボキシル基量が、0.02m mol/g以上であるサイジング剤を含まない炭素繊維、(B)熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物であって、(A)炭素繊維と(B)熱可塑性樹脂の合計量を100質量%として、(A)炭素繊維5〜95質量%、(B)熱可塑性樹脂5〜95質量%からなる炭素繊維強化樹脂組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献3に記載の方法によって得られた炭素繊維を使用したエポキシ樹脂組成物は、炭素繊維無添加のものと強度が変わらず、また、サイジング処理したサンプルより強度が劣る結果となった(特許文献3、表−15)。この原因について発明者らは炭素繊維とマトリックス樹脂との界面接着性の不足を指摘している。
【0008】
特許文献3は、炭素繊維複合材から炭素繊維を単離回収するすぐれたリサイクル法であるが、得られた炭素繊維は本来の強度を示さず、実用上不十分という問題点があった。
【0009】
要求される機械物性の不足に対しては、炭素繊維と母材エポキシ樹脂との界面接着性を向上させる目的で、炭素繊維に気相酸化や液相酸化等の酸化処理を施し、炭素繊維表面に酸素含有官能基を導入する方法が行われている。例として、特許文献4において、ポリエステルやピッチ系原料から製造された炭素繊維(ヴァージン炭素繊維)に電解処理を施すことにより界面接着性の指標である層間せん断強度を向上させる方法が提案されている。また、特許文献5によれば、このような酸化処理のみでは近年の複合材料の要求に応える界面接着性を得るのは不十分としており、特定のサイジング剤処理を提案している。
【0010】
特許文献4の電解処理法や特許文献5のサイジング材処理にしろ、どちらも別途製造されたヴァージン炭素繊維に処理を施してエポキシ樹脂との接着性を向上させるのを目的としているのに対し、本発明における電解処理法においては、炭素繊維複合材を出発原料とし、炭素繊維を単離回収しつつ回収された炭素繊維の特性を維持ないしは向上させることが必要である。特許文献3の例を見るまでも無く、リサイクル法において回収された炭素繊維は、リサイクルプロセス時に受けた処理により機械強度低下などを生じる可能性がある。回収率と繊維の性能の両方を満足させることを目的とする点において、特許文献4とは異なる発明が必要とされる。
【0011】
炭素繊維複合材からリサイクル法で回収された炭素繊維は、ヴァージン炭素繊維)よりも一般的に低コストで製造されるため、航空機用途などの高い強度を要求される分野以外の、民生用など各種用途への使用が期待されている。航空機、スポーツ用品、風車翼などの用途が主にエポキシ樹脂を母材とした熱硬化樹脂複合材料なのに対し、今後大きく成長する分野としては、成形サイクルが早く安価な熱可塑性樹脂を母材とした炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP)であると言われている。
【0012】
特許文献3は、製造コストの大部分を占めるエネルギーコストが、熱分解法などの他のリサイクル法に比べて1/6〜1/8と安価なため、この方法によって得られる回収炭素繊維の機械強度等をヴァージン炭素繊維と同等以上にすることが出来れば、安価で実用性能の高い炭素繊維強化熱可塑性樹脂を提供することが可能になる。
【0013】
そこで本発明の目的は、炭素繊維複合材料を陽極酸化して得られる回収炭素繊維のうち、熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂との界面接着性に優れ、力学特性に優れる炭素繊維とその製造方法、及びそれを用いてなる炭素繊維強化樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、種々検討し、炭素繊維複合材料に電気化学的処理(陽極酸化)を施して炭素繊維を得る際、特定の製造条件下、炭素繊維表面に特定量の官能基量を付与させることによって、回収した炭素繊維と熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂との界面接着性が高められ、力学特性に優れる炭素繊維、及び炭素繊維強化樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に至った。
【0015】
本発明は以下の通りである。
[1]炭素繊維が炭素繊維複合材料から陽極酸化法によって回収される炭素繊維であって、ベーム法によって測定された炭素繊維表面の全酸性官能基量が0.3m mol/g以上、またはベーム法による炭素繊維表面のカルボキシル基量が、0.02m mol/g以上である炭素繊維。
[2]炭素繊維複合材料を加熱処理して、前記炭素繊維複合材料に含まれる樹脂成分の少なくとも一部又は全部を熱分解する工程、及び加熱処理した材料を陽極酸化して繊維状の炭素繊維を得る工程、を含む炭素繊維の製造方法であって、
前記加熱処理工程及び陽極酸化における樹脂成分の分解は、樹脂成分の85%以上が分解するまで行い、
前記陽極酸化は、印加電圧を10V以下、平均電流密度が0.5A/cm
2以下で行って繊維状の炭素繊維を得る、前記方法。
[3]炭素繊維複合材料が炭素繊維強化プラスチック(CFRP)である請[2]に記載の炭素繊維の製造方法。
[4](A)炭素繊維が[1]に記載された炭素繊維、又は[2]若しくは[3]に記載の方法で製造された炭素繊維、(B)熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物であって、(A)炭素繊維と(B)熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂の合計量を100質量%として、(A)炭素繊維5〜95質量%、(B)熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂5〜95質量%からなる炭素繊維強化樹脂組成物。
[5]熱可塑性樹脂がスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル樹脂及びポリオレフィン系樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一種である[4]に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
[6]熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一種である[4]に記載の炭素繊維強化樹脂組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来にない新しい炭素繊維リサイクル法から回収した炭素繊維、及びそれを使用することにより、従来にないすぐれた機械物性をもつ樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、更に詳しく、本発明の炭素繊維、及び該炭素繊維を使用して得られる炭素繊維強化樹脂組成物を実施するための形態について説明する。
【0019】
<炭素繊維>
本発明の炭素繊維は、ベーム法によって測定された炭素繊維表面の全酸性官能基量が0.3m mol/g以上であるか、又はベーム法による炭素繊維表面のカルボキシル基量が、0.02m mol/g以上である炭素繊維である。本発明の炭素繊維は、前記炭素繊維表面の全酸性官能基量が、好ましくは0.3m mol/g以上、0.5m mol/g以下である。又、本発明の炭素繊維は、前記炭素繊維表面のカルボキシル基量が、好ましくは0.02m mol/g以上、1.10m mol/g以下である。さらに、本発明の炭素繊維は、より好ましくは前記炭素繊維表面の全酸性官能基量が、0.3m mol/g以上、0.5m mol/g以下であり,かつ前記炭素繊維表面のカルボキシル基量が、0.02m mol/g以上、1.10m mol/g以下である。ベーム法による炭素繊維表面の全酸性官能基量の測定方法及びベーム法による炭素繊維表面のカルボキシル基量は、実施例において説明する。ベーム法によって測定される炭素繊維表面の酸性官能基は、例えば、カルボキシル基、カルボニル基、及びフェノール性水酸基などである。
【0020】
本発明における炭素繊維とは、後述するように、炭素繊維複合材料を電解液中で陽極酸化することにより、炭素繊維複合材料に含まれる炭素繊維の少なくとも一部が繊維状に分解され、単離回収されたものである。以下に、本発明の炭素繊維の製造方法について説明する。
【0021】
<炭素繊維の製造方法>
本発明の炭素繊維の製造方法は、炭素繊維複合材料を加熱処理して、前記炭素繊維複合材料に含まれる樹脂成分の少なくとも一部又は全部を熱分解する工程、及び加熱処理した材料を陽極酸化して、繊維状の炭素繊維を得る工程、を含む炭素繊維の製造方法であって、前記加熱処理工程及び陽極酸化における樹脂成分の分解は、樹脂成分の85%以上が分解するまで行い、かつ前記陽極酸化は、印加電圧を10V以下、平均電流密度が0.5A/cm
2以下で行って繊維状の炭素繊維を得る、方法である。
【0022】
前記炭素繊維複合材料は特に制限はないが、炭素繊維と樹脂(熱硬化性樹脂が主)を複合したCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスチック)、とすることができる。本発明の方法は、CFRPからの炭素繊維の回収に適している。
【0023】
本発明では、炭素繊維複合材料としてCFRPを用いるので、陽極酸化に先だって、酸素含有雰囲気中でCFRPに加熱処理を施す。これにより、陽極酸化による繊維状への分解を促進する。この加熱処理を行うことによりマトリックス樹脂の一部または全部が炭化し、CFRPに導電性(通電性)が付与され、CFRPの電気分解が可能になる。加熱処理は回収炭素繊維の回収率、機械物性に影響を与える重要な工程である。この観点から、加熱処理工程における樹脂成分の熱分解は、樹脂成分の30%以上が熱分解するまで行う。好ましくは樹脂成分の50%以上が熱分解するまで行う。また、熱分解は85%以上又は90%以上まで行うこともできる。樹脂成分の熱分解率が高いほど、陽極酸化後の炭素繊維の回収率は高くなり、繊維表面に残る樹脂残渣も減少し,繊維の水中での分散性も向上するが,エネルギー効率等を考慮すると、熱分解温度が高くなりすぎたり、熱分解時間が長くなりすぎない方がよい。
【0024】
加熱処理条件は、
図1に示したCFRPの熱特性(熱重量減少―示差熱解析;TG−DTA)を参考に、加熱温度と加熱時間が決定される。
図1中のエポキシ樹脂のTG曲線より、エポキシ樹脂は300℃を越えた辺りの温度から重量減少(熱分解と推定)し始め、440℃付近で重量減少が終了するが、最も重量減少が急激に進み盛んになる温度は400℃を越えた温度である。また、
図1のCFRPのDTA曲線を見ると、640℃を越えたあたりに、炭素繊維の熱分解ピークが見られる。従って、加熱温度としては300〜700℃の範囲の温度、好ましくは350〜650℃の範囲の温度、更に好ましくは、400〜600℃の温度で実施することが出来る。300℃以下ではマトリックス樹脂を十分に炭化することが出来ないため、CFRPに十分に導電性を付与することが出来ず、回収率も不十分である。また、700℃以上では炭素繊維が分解すると共に損傷が発生し、性能の良い炭素繊維を回収することが出来ない。
【0025】
また、300〜400℃で加熱処理した場合、マトリックス樹脂のエポキシ樹脂の一部しか炭化することが出来ず、均一な導電性が得られない。このため、定電位直流電流では、6Vを越える高い印加電圧と0.5Aを越える高い直流電流にてCFRPを分解する必要があるが、これら高い印加電圧と電流量が炭素繊維にも与えられた場合、最終的に性能の良い炭素繊維が得られない可能性がある。このため、300〜400℃の加熱温度に対しては、加熱時間を長くしてエポキシ樹脂の炭化率(=熱分解率)を高める。
【0026】
加熱時間については、マトリックス樹脂であるエポキシ樹脂の熱導電性が得られる時間まで行うことが適当であり、10分〜10時間の間で実施されるが、好ましくは20分〜7時間、更に好ましくは0.5時間〜5時間で実施される。上記加熱温度のうち、300〜400℃においては、炭素繊維の回収率を上げ性能の良い炭素繊維を得るためには350℃で2時間、400℃では1.5時間以上の加熱時間が必要である。また、600℃を越える加熱温度では、加熱時間は1.0時間以下が好ましい。
【0027】
なお、加熱処理のみでは十分な含酸素官能基量を導入することはできない。十分な官能基量を得るには陽極酸化工程が必要である、陽極酸化工程では、母材のエポキシ樹脂が脆化し、同時に炭素繊維表面に官能基が導入される。陽極で発生した酸化力の高い原子状酸素が、マトリックス樹脂と炭素繊維の界面に局在化し、炭素繊維の表面を酸化して官能基を形成しつつ、両者を互いに剥離させると推定されるが、その際、原子状酸素は、同時に炭素繊維にもダメージを与える。従って前工程の加熱工程でCFRPに十分導電性を付与することにより陽極酸化工程の負担を軽減し、炭素繊維にダメージを与えないような陽極酸化工程の条件を得ることが必要である。
【0028】
炭素繊維複合材料は陽極酸化をして繊維状に分解する。陽極酸化は、印加電圧を10V以下とし、平均電流密度が0.5A/cm
2以下となる条件で行う。陽極酸化による分解は、加熱処理工程における分解との合計で、樹脂成分の85%以上、好ましくは90%以上まで行う。
【0029】
陽極酸化は、電解液として、例えば、酸性水溶液またはアルカリ性水溶液を用いることができる。酸性水溶液は、酸として無機酸、有機酸、またはそれらの混合物を用いることができ、無機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等を挙げることができ、硫酸であることが、炭素繊維複合材料における陽極酸化において発生するガスが酸素ガスであることから好ましい。有機酸としては、ギ酸、酢酸、クエン酸、蓚酸等を挙げることができる。アルカリ性水溶液はアルカリとして、例えば、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩など、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩など、アミン化合物などを挙げることができる。アルカリ金属として、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどを挙げることができる。アルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどを挙げることができる。アミン化合物としては、ジメチルアミン、ジエチルアミンなどを挙げることができる。入手の容易さ及び水への溶解性などを考慮すると、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを用いることが好ましい。
【0030】
電解液としての酸性水溶液中の酸の濃度は、酸の種類、炭素繊維複合材料の種類、電解液の温度、電解時間、さらには炭素繊維複合材料の陽極酸化による繊維状への分解の容易さ等を考慮して適宜決定でき、例えば、0.01〜10Mの範囲とすることができ、好ましくは0.1〜1Mの範囲である。 電解液としてのアルカリ性水溶液中のアルカリの濃度は、アルカリの種類、炭素繊維複合材料の種類、電解液の温度、さらには炭素繊維複合材料の陽極酸化による繊維状への分解の容易さ等を考慮して適宜決定でき、例えば、0.01〜10Mの範囲とすることができ、好ましくは0.1〜1Mの範囲である。
【0031】
電解液には、上記酸またはアルカリに加えて添加剤を加えることもできる。添加剤は、例えば、炭素繊維複合材料の陽極酸化による繊維状への分解促進効果を有するものであることができる。添加剤の例としては、アルコール類(モノアルコール、多価アルコール)、塩(例えば、金属塩化物など)などを挙げることができる。モノアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、ヘプタノール等を挙げることができる。多価アルコールとしては、グリコール化合物(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなど)、ジオール(例えば、1,3-プパンジオール、1,4-ブタンジオールなど)を挙げることができる。塩としては、アルカリ金属塩(例えば、KCl、NaClなど)を挙げることができる。特にKClが好ましい。例えば、電解液がアルカリ性水溶液の場合、上記多価アルコールまたは塩を添加することで、繊維状への分解速度が向上する。上記添加剤は2種以上を併用することもできる。添加剤の電解液への添加量は、添加剤の種類や電解質の種類、処理対象である炭素繊維複合材料の種類に応じて適宜決定することができ、例えば、例えば、0.01〜10Mの範囲とすることができ、好ましくは0.1〜1Mの範囲である。但し、この範囲に限定される意図ではなく、あくまでも目安である。
【0032】
陽極酸化は、上記電解液を保持する電解槽に分解対象である炭素繊維複合材料と対極を装備し、炭素繊維複合材料が陽極、対極が陰極となるように外部から電圧を印加することで行う。陰極となる対極は、陰極反応において不活性な材料からなるものであればよく、例えば、銅電極、チタン電極、白金電極等の他に、SUSを電極として用いることもできる。電圧の印加は、定電位または定電流で行うか、またはパルス電位などの周期的に電位または電流が変化する方法で行うこともできる。あるいはこれら異なる電解方式を組み合わせて用いることもできる。
【0033】
定電位定電流電解の場合、電位と電流の設定は、炭素繊維複合材料の種類や状態、電解液の種類等を考慮する必要があるが、CFRP中の炭素繊維の強度に悪影響を与えず、エポキシ樹脂のみを分解させる条件が好ましい。上記適切な加熱処理が得られれば、電圧は10V以下、好ましくは8V以下、より好ましくは6V以下で実施可能である。すなはち、十分な導電性(通電性)が得られたCFRPにおいては、10V以下、好ましくは8V以下、より好ましくは6V以下の電圧でエポキシ樹脂は十分に脆化し、後工程で炭素繊維のみを繊維状に高収率で単離回収できると共に、得られた炭素繊維は劣化することなく求める官能基量を有している。CFRPに対して10Vを越えた電圧を印加すると、回収炭素繊維の機械強度が低下する。この理由として、電気分解を過剰の条件で行うと有機物を酸化したり還元したりすることが一般的に知られているが、本発明においても炭素繊維の分子結合切断やそれに伴う結晶度低下などの影響を及ぼしていると考えられる。
【0034】
電流密度は、前記で説明した適切な加熱処理が得られることで、平均電流密度0.5A以下で実施可能である。すなはち、十分な導電性(通電性)が得られたCFRPにおいては、0.5A以下の平均電流密度でエポキシ樹脂は十分に脆化し、後工程で炭素繊維のみを繊維状に高収率で単離回収できると共に、得られた炭素繊維は劣化することなく求める官能基量を有している。電流においても、前述の電圧の例で述べた同様、CFRPに付加した過剰な電流量は炭素繊維に悪影響を及ぼし、物性低下を惹き起こす。
【0035】
陽極酸化時の電解液の温度は、特に限定はなく、例えば、常温(例えば、10〜30℃)で実施する事ができる。あるいは、電解により電解液の温度が上昇する場合には、冷却することもでき、あるいは反応速度向上を目的として電解液の温度を常温より高く設定(加熱)することもできる。
【0036】
陽極酸化は、炭素繊維複合材料の少なくとも一部が原糸の状態に近い繊維状の炭素繊維になるまで行うことができる。繊維状の程度は、回収される炭素繊維の用途等を考慮して適宜決定できる。
【0037】
陽極酸化後のCFRPは、加圧プレス、スクリュープレス、高速撹拌等にて解繊処理される。その際、マトリックス樹脂は解繊処理時のせん断力で容易に破壊され、その後の適当な分離処理により、炭素繊維のみを得ることが出来る。得られた炭素繊維は中和処理、洗浄、または乾燥することができる。中和処理をせず水洗及び乾燥のみでもよい。
【0038】
<炭素繊維強化樹脂組成物>
本発明の方法で製造した炭素繊維は、炭素繊維複合材料の原料として用いる場合、そのまま用いることもできるが、一般的には回収した炭素繊維は、解繊後乾燥すると嵩高く、集束性に乏しいため、使用目的によっては嵩高さを減らすために通常の炭素繊維の製造方法において常用される集束材(結束材ないしはサイジング材とも呼ばれる)を用いることができる。集束材としては、ポリウレタン系、エポキシ系、エポキシウレタン系、変性アクリル系、変性オレフィン系、フェノール系、特殊樹脂系などが、再生炭素繊維を混合するマトリックス樹脂の種類に応じて、使用される。
【0039】
本発明で得られた回収炭素繊維は、表面にカルボキシル基、水酸基などの親水性の官能基を有するが、発明者は、前述の本発明の製造方法によって、所定の表面官能基量を有する本発明の回収炭素繊維が得られることを見出し、さらに所定の表面官能基量を有する本発明の回収炭素繊維を使用して得られた、本発明の炭素繊維強化樹脂組成物は、実用上十分な機械強度を有し、すぐれた構造材になることを見出した。すなはち、本発明の回収炭素繊維と熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂を混合することによって、機械強度、実用特性にすぐれ、各種用途、構造材に好適な炭素繊維強化樹脂組成物(CFRTP)が得られること分かった。
【0040】
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物の好ましい態様は、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物であり、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、例えば、熱可塑性樹脂がスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル樹脂及びポリプロピレン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂であり、回収炭素繊維の炭素繊維表面の全酸性官能基量が0.3m mo/g以上、ないしは/及び、ベーム法による炭素繊維表面のカルボキシル基量が、0.02m mol/g以上である回収炭素繊維を含む炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物である。
【0041】
スチレン系樹脂としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン等の単独重合体又はこれらの共重合体、あるいはこれらと共重合可能な不飽和単量体との共重合体等が挙げられる。具体的には、一般用ポリスチレン(GPPS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、耐熱性ポリスチレン(例えば、α−メチルスチレン重合体あるいは共重合体等)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン−α−メチルスチレン共重合体(α−メチルスチレン系耐熱ABS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン−フェニルマレイミド共重合体(フェニルマレイミド系耐熱ABS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル−塩素化ポリスチレン−スチレン系共重合体(ACS)、アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン共重合体(AES)、アクリルゴム−アクリロニトリル−スチレン共重合体(AAS)あるいはシンディオタクティクポリスチン(SPS)等が挙げられる。また、スチレン系樹脂は、ポリマーブレンドしたものであっても良い。
【0042】
ポリアミド系樹脂としては、ポリマーの繰り返し構造中にアミド結合を有するものであれば、特に限定されるものではない。ポリアミド系樹脂としては、熱可塑性ポリアミド樹脂が好ましく、ラクタム、アミノカルボン酸及び/又はジアミンとジカルボン酸などのモノマーを重合して得られるホモポリアミドおよびコポリアミドそしてこれらの混合物が挙げられる。
【0043】
具体的な例として、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ナイロン11T(H))、ポリウンデカミド(ナイロン11)、ポリドデカミド(ナイロン12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロンTMDT)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)及びこれらの共重合物、混合物等が挙げられ、中でも、成形性および表面外観の観点から、ナイロン6、ナイロン66、ナイロンMXD6、ナイロン9T、ナイロン10Tおよびこれらの共重合ポリアミドが好ましく、ナイロン9T、ナイロン10T、ナイロンMXD6がより好ましく、ナイロン9Tが特に好ましい。さらにこれらの熱可塑性ポリアミド樹脂を、耐衝撃性、成形加工性などの必要特性に応じて混合物として用いることも実用上好適である。
【0044】
ポリカーボネート系樹脂としては、例えば4,4’−ジヒドロキシジアリールアルカン系ポリカーボネート等が挙げられる。具体例としては、ビスフェノールA系ポリカーボネート(PC)、変性ビスフェノールA系ポリカーボネート、難燃化ビスフェノールA系ポリカーボネート等を挙げることができる。
【0045】
ポリエステル系樹脂としては、例えば芳香族ジカルボン酸とエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のアルキレングリコールとを重縮合させたものが挙げられる。具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。
【0046】
ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)としては、例えばポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル等のホモポリマーが挙げられ、これをスチレン系樹脂で変性したものを用いることもできる。
【0047】
ポリフェニレンスルファイド(ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンサルファイド)樹脂は、ベンゼンと硫黄が交互に結合した構造を持つ高耐熱の結晶性ポリマーであり、単独で用いられるよりも、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ、タルクなどの充填剤(フィラー)を混合して使用される場合が多い。
【0048】
ポリ塩化ビニル系樹脂としては、例えば塩化ビニル単独重合体や塩化ビニルと共重合可能な不飽和単量体との共重合体が挙げられる。具体的には、塩化ビニル−アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル−メタクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−プロピレン共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体等が挙げられる。また、これらのポリ塩化ビニル系樹脂を塩素化して塩素含有量を高めたものも使用できる。
【0049】
ポリアセタール樹脂(POM)としては、例えば単独重合体ポリオキシメチレンあるいはトリオキサンとエチレンオキシドから得られるホルムアルデヒド−エチレンオキシド共重合体等が挙げられる。
【0050】
アクリル系樹脂としては、例えばメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル単独重合体又はこれらの共重合体、あるいはこれらと他の共重合可能な不飽和単量体との共重合体等が挙げられる。メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル単量体としては、メタクリル酸あるいはアクリル酸のメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、ブチルエステル等が挙げられる。代表的には、メタクリル樹脂(PMMA)が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いても良く、2種以上を用いても良い。
【0051】
ポリオレフィン系樹脂としては、代表的には、エチレン、プロピレン、ブテン−1、3−メチルブテン−1、3−メチルペンテン−1、4−メチルペンテン−1等のα−オレフィンの単独重合体又はこれらの共重合体、あるいはこれらとの共重合可能な不飽和単量体との共重合体等が挙げられる。代表例としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−オクテン−1共重合体等のメタロセン系エチレン−αオレフィン共重合体等のポリエチレン類、アタクチックポリプロピレン、シンディオタクチックポリプロピレン、アイソタクチックポリプロピレンあるいはプロピレン−エチレンブロック共重合体又はランダム共重合体等ポリプロピレン類、ポリメチルペンテン−1等を挙げることができる。
【0052】
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物の別の態様は、炭素繊維強化熱硬化性樹脂組成物であり、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一種を挙げることができる。本発明の炭素繊維は水に良く分散し、適当な濃度で抄紙(紙漉き)することにより、湿式不織布、具体的には薄い炭素繊維シートや炭素繊維ペーパーを得ることができる。得られた炭素繊維不織布を硬化前の熱硬化性樹脂と混合ないしは含侵させた後、熱などで硬化させることによって、従来にないすぐれた機械物性をもつ炭素繊維強化熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0053】
また、本発明の炭素繊維強化樹脂組成物には、使用目的に応じて、熱可塑性樹脂以外に、ガラス繊維、シリカ、タルクなどの充填材(フィラー)や、リン化合物、臭素化合物、アンチモン化合物、金属酸化物、窒素化合物などの各種難燃剤を添加することができる。また、これら添加物以外に、通常の熱可塑性樹脂組成物に添加されている溶融樹脂の流動性改良材、成形性向上材、ゴム系充填材や熱可塑性エラストマーなどの耐衝撃改良材、表面の艶消し効果を発現する艶消し材など各種添加材を適当量添加することができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0055】
実施例1
(I)CFRPの処理方法
長さ20〜40mm、太さ10mm前後のCFRPサンプルを用い、CFRPの分解を行った。
【0056】
(1)前処理;
前処理としてCFRPに対して表1−1、表1−2、表1−3(比較例)に記載された各条件にて、マッフル炉にて空気中加熱処理を行った。なお、表1−3に加熱処理を行なわないサンプルを比較に入れた。加熱処理後の各サンプルに対して、電解可否の指標である導電性(通電性)を直流電流テスターで確認した。
【0057】
(2)電気化学的処理;
加熱処理したCFRPは直径80mm、高さ100mmのプラスチック製のメッシュ籠に充填した後、陽極側に設置し、0.1M のNaOHまたは0.1MのKOH電解液に完全に浸した。陽極には炭素電極を使用し陰極には円筒状のCu電極を用いた。また、電解液として0.1M H2SO4を用いる場合には、陰極にはTi電極を使用した。加熱処理条件の異なる各サンプルに対して、表1−1〜表1−3に記載された各電解条件にて陽極酸化を行った。電極間距離は40 mmで行い、3V〜12Vの電圧を直流安定化電源にて印加した。
【0058】
陽極酸化後の電解液を撹拌羽根のついた槽に投入後高速撹拌を行い、脆化したエポキシ樹脂を細かく破砕した。得られたスラリーをステンレス製の粗いメッシュ籠で濾過し、水洗浄を繰り返すことによってエポキシ樹脂残渣を除去した。メッシュに残った回収炭素繊維を中和・洗浄した後、150℃、2時間乾燥した。乾燥した回収炭素繊維を0.1%のポリビニルアルコール水溶液で結束し、加圧プレス機で加熱積層後、細断し熱可塑性樹脂とのブレンドに供した。なお、結束剤として使用したポリビニルアルコールは、結束効果を与えることは出来るもの、界面接着性への寄与は無いことは確認済みである。
【0059】
陽極酸化後の各サンプルに対して下記の式に従って分解率を求め、また、結束する前の乾燥した各サンプルに対して後述するベーム法にて表面官能基量を測定した。なお、加熱処理したサンプルの一部に対して、陽極酸化を行わないサンプルを比較例に入れた。
分解率(%)=(未処理物の重量−処理後の重量)/(エポキシ樹脂の重量比率×未処理の物重量)
なお、分母にあるエポキシ樹脂の重量比率を0.40と置いた。
【0060】
また、炭素繊維表面の官能基量測定法であるベーム法について下記に記す。
<ベーム法の原理>
強塩基性溶液である水酸化ナトリウム(NaOH)は全ての酸性官能基と中和反応を起こす。炭素繊維との接触前後では、塩基性溶液間で濃度変化差が生じる。よって、中和滴定により接触前後の濃度変化を算出し、全酸性官能基量を定量することができる。
サンプルに水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムを個々に加え、「電位差自動滴定装置」により、塩酸溶液を用いた逆滴定を行う(不活性雰囲気下)。
(1)全酸性官能基量(全酸量):水酸化ナトリウム添加した条件下での塩酸溶液消費量
(2)強酸性官能基量(カルボキシル基量):炭酸水素ナトリウム添加条件下での塩酸溶液消費量
【0061】
(II)結果
表1−1に、450℃を除く加熱温度と電解液種を変えたサンプル(サンプルNo.1〜8)の分解率、表面官能基量の結果を示す。また、表1−2に加熱温度を450℃に固定し、電解時間及び電解液種を変えたサンプル(サンプルNo.13〜21)の分解率、表面官能基量の結果を示す。比較として、本発明の範囲外である各種条件での結果(サンプル31〜38)を表1−3(比較例)に示すと共に、東レ(株)社の未処理の炭素繊維グレードである、T300、T700を比較に入れた。
【0062】
【表1-1】
【0063】
【表1-2】
【0064】
【表1-3】
【0065】
表1−1、及び表1−2の全てのサンプルにおいて、本発明の請求項1に記載される表面官能基量を得ることができた。また88%以上の高い分解率(炭素繊維回収率)を得ることができた。
【0066】
表1−3(比較例)においては、サンプルNo32〜36は加熱処理温度、印加電圧及び平均電流が本発明の範囲外であり、表面官能基量が本発明の範囲外であった。また、No.31のサンプルは加熱処理が不十分であったことから陽極酸化に必要な導電性が得られず、炭素繊維サンプルを単離して回収することはできなかった。サンプルNo.37と38は加熱処理のみで電解処理を実施しなかったサンプルであるが、本発明の所定の範囲の表面官能基量を得ることができなかった。また、東レ(株)製T300とT700の表面官能基量は、本発明の所定の範囲よりも少なく、これについても実施例2の表2−2で力学物性の検証を行うこととした。
【0067】
実施例2
(I)熱可塑性樹脂組成物の作成
表1−1〜表1−3(比較例1)の各サンプルから、適当なサンプルを選び、熱可塑性樹脂との組成物を作成した。
【0068】
作成方法は、熱可塑性樹脂70〜90質量%に対し、集束した回収炭素繊維を10〜30質量%を別々に計量した後、独ベルストルフ社製二軸押出機ZE40Aで両材料を、熱可塑性樹脂の溶融温度の温度条件にて押出混練した。なお、炭素繊維の添加量の多いものは再生炭素繊維は押出機スクリューの途中からサイドフィードした。また、サンプルlについては、長さ1〜3cm程度の長さに結束されたサンプルを使用したが、他の炭素繊維サンプルについても、繊維長が1〜3cmにものを使用した。
【0069】
得られたペレットはロックナー社製F85射出成型機を使用して、各熱可塑性樹脂の最適成形条件にて射出成型を行い各種力学的測定の試験片を作成した。
各熱可塑性樹脂組成物の力学物性の結果を下記の表に示した。表2−1には、表1−1、表1−2の炭素繊維とABS樹脂、66ナイロン樹脂、PBT樹脂との熱可塑性樹脂組成物の力学物性を示す。表2−2には、ABS、66ナイロン、PBT以外の熱可塑性樹脂との組成物の力学物性結果を示す。なお、下記各表において左半分に使用した炭素繊維の製造条件を記載したが、導電性、電解液種、分解率の記載は省略した。
【0070】
【表2-1】
【0071】
【表2-2】
【0072】
本発明の請求項1に記載された特性を有する炭素繊維、または請求項2に記載の製造条件を満たす方法で製造した炭素繊維を使用した、表2−1中の各熱可塑性樹脂組成物は、比較例として挙げている表2−2の炭素繊維熱可塑性樹脂と比べて高い力学物性(引張り強度及び曲げ強度、曲げ弾性率)を示していると共に無添加の熱可塑性樹脂の力学強度を顕著に改善しており、炭素繊維としての補強効果を十分に発現している。
【0073】
また、ABS樹脂(サンプルNo 101〜104)、ナイロン66樹脂(サンプルNo 109〜112)、PBT樹脂(サンプルNo 117〜118)において、市販の東レ(株)社製のヴァージン炭素繊維を添加した各サンプル(ABS樹脂の場合サンプルNo.108、ナイロン66樹脂の場合サンプルNo114、116、PBT樹脂の場合サンプルNo210、212)に対し、対応する添加量の本発明の熱可塑性樹脂組成物は力学強度に優れており、本発明の炭素繊維はヴァージン炭素繊維より優れた補強効果を発現していると思われる。
【0074】
また、本発明の範囲外である炭素繊維を使用した、比較例の各熱可塑性樹脂組成物は、実施例の各サンプルより力学強度が大きく劣り、東レ(株)社製炭素繊維を使用したサンプルよりも顕著に力学強度が劣った。
【0075】
No.105〜107のサンプルは加熱温度条件、印加電圧及び平均電流が本発明の範囲外である結果、表面官能基量が本発明の範囲外であり、無添加のABS樹脂よりは力学強度を改良するものの、東レ製炭素繊維を使用したサンプル(No.108)より補強効果は顕著に劣っており、実用に供しえないと判断される。
【0076】
また、No.119及び121のサンプルは、加熱処理のみで陽極酸化を行わなかった炭素繊維を使用したサンプルであるが、表面官能基量は本発明の所定の範囲外であり、これも東レ社炭素繊維使用サンプル(No.120及び122)より力学強度が劣り、実用に供しえないと判断される。
【0077】
本発明の炭素繊維を使用した熱可塑性樹脂組成物がこのような高い力学強度を発現した理由として、本発明の炭素繊維がマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂への分散が良く、その結果、熱可塑性樹脂としての強度が向上したものと考えられる。
【0078】
一般的に、炭素繊維は表面官能基が少ないため、マトリックス樹脂への分散性、相溶性が悪く、分子構造中に官能基を持ち、かつ集束性を持つ化合物をサイジング材(集束材、結束材も言われる)と称し使用してきた。東レ(株)社のT300、T700というグレードにサイジング材が用いられているが、両グレードの表面官能基量は本発明の範囲外であり、その結果、本発明によって得られた熱可塑性樹脂組成物よりも各種力学強度が劣る結果となっている。一方、本発明によれば、CFRPを陽極酸化の前処理として炭化処理を行なった後、陽極酸化を施すことによって、公知のサイジング材を使用した以上の表面官能基量を有する再生炭素得ることが出来、それを使用することによって、従来の短繊維を使用した熱可塑性樹脂組成物よりも力学物性の優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることが出来た。
【0079】
実施例3
表1−1〜表1−3(比較例1)中のCFサンプルNo16及び34を選び、抄紙法にて不織布を作成したのち、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂との組成物を作成した。
【0080】
(I) 炭素繊維不織布の作製
表1−1にある本炭素繊維(平均繊維長10mm)を水中に分散し、固形分0.1〜3.0%からなる抄紙用スラリーを調整する。この後、分散剤としてアニオン系ポリアクリル酸ソーダ0.00002重量部を添加後、この炭素繊維分散液を、網目の隙間を0.3mmとする手漉き用抄紙機を用い、抄紙面に堆積してシート化し、抄紙シートとする。なお、得られた不織布と熱可塑性樹脂との組成物については、炭素繊維と同程度の繊維長を有する熱可塑性樹脂繊維を用い、本炭素繊維とあらかじめ適当な混合して抄紙化(混抄)した。
【0081】
(II)樹脂組成物(炭素繊維複合材シート)の作製
抄紙工程で製造された加湿状態の抄紙シートに対して、結着剤としてウレタンエマルジョン(第一工業製薬製E−2000)1重量部を添加後、加圧、加熱(圧熱)し、脱水して、繊維基材とした。
なお、熱可塑性樹脂繊維と混抄した不織布については結着剤を使用せず、5MPa、200℃で加圧、加熱(圧熱)のみで樹脂組成物シートを得た。熱硬化性樹脂との組成物シートについては、上記繊維基材に対して、液状ないしは、樹脂をメチルエチルケトンなどの溶剤に溶解させるなどして含侵可能にした熱硬化性樹脂を含侵させ、10枚重ねて5MPa、130℃で加圧、加熱して積層した樹脂組成物シートを得た。
【0082】
炭素繊維不織布を用いて得られた樹脂組成物についてJIS K7074に準じて曲げ強度(3点曲げ)の結果を表3−1(実施例)及び表3−2(比較例)に示した。表3−1により本発明の炭素繊維は、抄紙法で得られた炭素繊維シートとの複合材組成物においても良好な力学物性を示し、サンプルNo302においては熱硬化性樹脂組成物においても良好な力学物性を示した。一方、本発明の範囲外である炭素繊維を使用した、表3−2(比較例)の各樹脂組成物は、表3−1中の各サンプルより力学強度が劣った。
【0083】
【表3-1】
【0084】
【表3-2】
【0085】
本発明は、炭素繊維複合材料に関連する技術分野に有用である。