(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、前記ヘキサフルオロプロピレン単量体単位を、前記フッ化ビニリデン単量体単位と前記ヘキサフルオロプロピレン単量体単位との合計に対して、0.1モル%以上10モル%以下の範囲で有する、請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の非水系二次電池用セパレータとを備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、実施形態について説明する。なお、これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、実施形態の範囲を制限するものではない。
【0014】
本開示において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0015】
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0016】
本開示のセパレータに関し、「長手方向」とは、長尺状に製造される多孔質基材及びセパレータの長尺方向を意味し、「幅方向」とは、「長手方向」に直交する方向を意味する。「長手方向」を「MD方向」ともいい、「幅方向」を「TD方向」ともいう。
【0017】
本開示において、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の「単量体単位」とは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の構成単位であって、単量体が重合してなる構成単位を意味する。
【0018】
<非水系二次電池用セパレータ>
本開示の非水系二次電池用セパレータ(単に「セパレータ」ともいう。)は、多孔質基材と、多孔質基材の片面又は両面に設けられた接着性多孔質層とを備える。本開示のセパレータにおいて、接着性多孔質層は、フッ化ビニリデン単量体単位及びヘキサフルオロプロピレン単量体単位を有し酸価が3.0mgKOH/g〜20mgKOH/gであるポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有する。
【0019】
以下、フッ化ビニリデン単量体単位を「VDF単位」ともいい、ヘキサフルオロプロピレン単量体単位を「HFP単位」ともいい、VDF単位とHFP単位とを有するポリフッ化ビニリデン系樹脂(さらに他の単量体単位を有していてもよい。)を「VDF−HFP共重合体」ともいう。
【0020】
本開示において、接着性多孔質層に含まれるVDF−HFP共重合体の酸価は、接着性多孔質層に含まれるVDF−HFP共重合体を抽出し、その酸価を電位差滴定法(JIS K1557−5:2007)により測定して求める。または、接着性多孔質層に含まれるVDF−HFP共重合体の酸価は、接着性多孔質層の形成に用いられるVDF−HFP共重合体の酸価を電位差滴定法(JIS K1557−5:2007)により測定して求める。
【0021】
本開示のセパレータは、ウェットヒートプレス及びドライヒートプレスのいずれによっても電極との接着に優れる。その理由は、以下のように推測される。
【0022】
ヘキサフルオロプロピレンをフッ化ビニリデンと共重合することでポリフッ化ビニリデン系樹脂の結晶性と耐熱性が適度な範囲になるので、VDF−HFP共重合体を含有する接着性多孔質層は、電極との熱プレスの際に接着性多孔質層が適度に軟化し、電極との接着に優れると考えられる。したがって、本開示のセパレータは、接着性多孔質層がVDF−HFP共重合体を含有せずに他のポリフッ化ビニリデン系樹脂(即ち、HFP単位を有しないポリフッ化ビニリデン系樹脂)を含有する場合に比べて、ウェットヒートプレス及びドライヒートプレスのいずれによっても、電極との接着に優れると考えられる。
【0023】
ただし、VDF−HFP共重合体は電解液に膨潤するため、VDF−HFP共重合体を含有する接着性多孔質層は、ドライヒートプレスによって電極と接着しても、電解液を含浸すると接着が減弱しやすい。接着性多孔質層が酸価3.0mgKOH/g〜20mgKOH/gのVDF−HFP共重合体を含有することは、接着性多孔質層に酸性基(好ましくはカルボキシル基)がある程度以上含まれていることを意味し、酸性基(好ましくはカルボキシル基)が電極活物質と相互作用して接着性多孔質層と電極との接着性を高めると考えられる。つまり、VDF−HFP共重合体の酸価が3.0mgKOH/g以上であると、ドライヒートプレス後に電解液を含浸してもセパレータと電極との接着が維持されやすく、また、電解液の含浸後にさらにウェットヒートプレスを行いセパレータと電極との接着を回復することができると考えられる。この観点から、VDF−HFP共重合体の酸価は3.0mgKOH/g以上であり、5.0mgKOH/g以上がより好ましく、7.0mgKOH/g以上が更に好ましい。
電極に対する接着性多孔質層の接着性の観点からは、VDF−HFP共重合体の酸価は高い方が好ましいが、セパレータ及び電極の耐酸化性の観点からは、VDF−HFP共重合体の酸価は20mgKOH/g以下が好ましく、15mgKOH/g以下がより好ましい。
【0024】
本開示のセパレータは、ウェットヒートプレス及びドライヒートプレスのいずれによっても、溶剤系バインダ(具体的にはポリフッ化ビニリデン系樹脂)を用いた電極に対してのみならず、水系バインダ(具体的にはスチレン−ブタジエン共重合体)を用いた電極に対しても接着に優れる。
【0025】
電極との接着に優れる本開示のセパレータによれば、非水系二次電池を効率よく製造できる。また、電極との接着に優れる本開示のセパレータによれば、電池の充放電における電池内反応の均一性が高まり、非水系二次電池、特にソフトパック電池の電池性能を向上することができる。
【0026】
本開示のセパレータの一実施形態は、比較的低い圧力及び低い温度の熱プレスによっても、電極とよく接着する。熱プレス条件が高圧・高温であるほど接着性多孔質層の多孔質構造が潰れてしまうところ、本開示のセパレータの一実施形態によれば、熱プレス条件を比較的穏やかな条件にし得るので、接着後のセパレータのイオン透過性が保たれ、電池特性に優れる。また、本開示のセパレータの一実施形態によれば、ウェットヒートプレスを行う際の温度をより低温に設定できるので、電解液及び電解質の分解に起因するガス発生が抑制される。
【0027】
以下、本開示のセパレータの材料、組成、物性等について詳細に説明する。
【0028】
[多孔質基材]
本開示において多孔質基材とは、内部に空孔ないし空隙を有する基材を意味する。このような基材としては、微多孔膜;繊維状物からなる、不織布、紙等の多孔性シート;微多孔膜又は多孔性シートに他の多孔性の層を1層以上積層した複合多孔質シート;などが挙げられる。微多孔膜とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜を意味する。
【0029】
多孔質基材には、電気絶縁性を有する、有機材料及び/又は無機材料が含まれる。
【0030】
多孔質基材は、多孔質基材にシャットダウン機能を付与する観点から、熱可塑性樹脂を含有することが好ましい。シャットダウン機能とは、電池温度が高まった場合に、材料が溶解して多孔質基材の孔を閉塞することによりイオンの移動を遮断し、電池の熱暴走を防止する機能をいう。熱可塑性樹脂としては、融点200℃未満の熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;などが挙げられ、中でもポリオレフィンが好ましい。
【0031】
多孔質基材としては、ポリオレフィンを含有する微多孔膜(「ポリオレフィン微多孔膜」という。)が好ましい。ポリオレフィン微多孔膜としては、例えば、従来の非水系二次電池用セパレータに適用されているポリオレフィン微多孔膜が挙げられ、この中から十分な力学特性とイオン透過性を有するものを選択することが好ましい。
【0032】
ポリオレフィン微多孔膜は、シャットダウン機能を発現する観点から、ポリエチレンを含有することが好ましく、ポリエチレンの含有量としては、ポリオレフィン微多孔膜全体の質量の95質量%以上が好ましい。
【0033】
ポリオレフィン微多孔膜は、高温に曝されたときに容易に破膜しない程度の耐熱性を付与するという観点からは、ポリエチレンとポリプロピレンとを含有するポリオレフィン微多孔膜が好ましい。このようなポリオレフィン微多孔膜としては、ポリエチレンとポリプロピレンが1つの層において混在している微多孔膜が挙げられる。該微多孔膜においては、シャットダウン機能と耐熱性の両立という観点から、95質量%以上のポリエチレンと5質量%以下のポリプロピレンとを含有することが好ましい。また、シャットダウン機能と耐熱性の両立という観点からは、ポリオレフィン微多孔膜が2層以上の積層構造を備え、少なくとも1層はポリエチレンを含有し、少なくとも1層はポリプロピレンを含有するポリオレフィン微多孔膜も好ましい。
【0034】
ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィンとしては、重量平均分子量(Mw)が10万〜500万のポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィンのMwが10万以上であると、十分な力学特性を確保できる。一方、ポリオレフィンのMwが500万以下であると、シャットダウン特性が良好であるし、膜の成形がしやすい。
【0035】
ポリオレフィン微多孔膜は、例えば以下の方法で製造可能である。すなわち、溶融したポリオレフィン樹脂をT−ダイから押し出してシート化し、これを結晶化処理した後延伸し、さらに熱処理をして微多孔膜とする方法である。または、流動パラフィンなどの可塑剤と一緒に溶融したポリオレフィン樹脂をT−ダイから押し出し、これを冷却してシート化し、延伸した後、可塑剤を抽出し熱処理をして微多孔膜とする方法である。
【0036】
繊維状物からなる多孔性シートとしては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド等の耐熱性樹脂;などの繊維状物からなる、不織布、紙等が挙げられる。ここで耐熱性樹脂とは、融点が200℃以上のポリマー、又は、融点を有さず分解温度が200℃以上のポリマーをいう。
【0037】
複合多孔質シートとしては、微多孔膜又は多孔性シートに機能層を積層したシートが挙げられる。このような複合多孔質シートは、機能層によってさらなる機能付加が可能となる観点から好ましい。機能層としては、耐熱性を付与するという観点から、耐熱性樹脂を含有する多孔性の層、又は、耐熱性樹脂及び無機フィラーを含有する多孔性の層が好ましい。耐熱性樹脂としては、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド等が挙げられる。無機フィラーとしては、アルミナ等の金属酸化物、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物などが挙げられる。微多孔膜又は多孔性シートに機能層を設ける方法としては、微多孔膜又は多孔性シートに機能層を塗工する方法、微多孔膜又は多孔性シートと機能層とを接着剤で接合する方法、微多孔膜又は多孔性シートと機能層とを熱圧着する方法等が挙げられる。
【0038】
多孔質基材には、接着性多孔質層を形成するための塗工液との濡れ性を向上させる目的で、多孔質基材の性質を損なわない範囲で、各種の表面処理を施してもよい。表面処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、紫外線照射処理等が挙げられる。
【0039】
[多孔質基材の特性]
多孔質基材の厚さは、良好な力学特性と内部抵抗を得る観点から、3μm〜25μmが好ましく、5μm〜25μmがより好ましく、5μm〜20μmが更に好ましい。
【0040】
多孔質基材の空孔率は、適切な膜抵抗やシャットダウン機能を得る観点から、20%〜60%が好ましい。
【0041】
多孔質基材のガーレ値(JIS P8117:2009)は、電池の短絡防止や十分なイオン透過性を得る観点から、50秒/100cc〜800秒/100ccが好ましく、50秒/100cc〜400秒/100ccがより好ましい。
【0042】
多孔質基材の突刺強度は、製造歩留まりを向上させる観点から、200g以上が好ましく、300g以上がより好ましい。多孔質基材の突刺強度は、カトーテック社製KES−G5ハンディー圧縮試験器を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secの条件で突刺試験を行って測定する最大突刺荷重(g)を指す。
【0043】
多孔質基材の平均孔径は、20nm〜100nmが好ましい。多孔質基材の平均孔径が20nm以上であると、イオンが移動しやすく、良好な電池性能が得やすくなる。この観点からは、多孔質基材の平均孔径は、30nm以上がより好ましく、40nm以上が更に好ましい。一方、多孔質基材の平均孔径が100nm以下であると、多孔質基材と接着性多孔質層との間の剥離強度を向上でき、良好なシャットダウン機能も発現し得る。この観点からは、多孔質基材の平均孔径は、90nm以下がより好ましく、80nm以下が更に好ましい。多孔質基材の平均孔径は、パームポロメーターを用いて測定される値であり、例えば、ASTM E1294−89に準拠し、パームポロメーター(PMI社製CFP−1500−A)を用いて測定できる。
【0044】
[接着性多孔質層]
本開示において接着性多孔質層は、多孔質基材の片面又は両面に設けられた多孔質層であって、酸価が3.0mgKOH/g〜20mgKOH/gのVDF−HFP共重合体を含有する。
【0045】
接着性多孔質層は、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となっている。
【0046】
接着性多孔質層は、多孔質基材の片面又は両面にセパレータの最外層として設けられ、セパレータと電極とを重ねて熱プレスしたときに電極と接着し得る層である。
【0047】
接着性多孔質層は、多孔質基材の片面のみにあるよりも両面にある方が、電池のサイクル特性(容量維持率)に優れる観点から好ましい。接着性多孔質層が多孔質基材の両面にあると、セパレータの両面が接着性多孔質層を介して両電極とよく接着するからである。
【0048】
接着性多孔質層は、少なくとも、酸価が3.0mgKOH/g〜20mgKOH/gのVDF−HFP共重合体を含有する。接着性多孔質層は、さらに、VDF−HFP共重合体以外の他の樹脂やフィラー等を含有していてもよい。
【0049】
[VDF−HFP共重合体]
本開示においてVDF−HFP共重合体には、VDF単位とHFP単位のみを有する共重合体、及び、さらに他の単量体単位を有する共重合体のいずれも含まれる。他の単量体単位を形成する単量体としては、例えば、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、トリクロロエチレン等の含ハロゲン単量体;酸価を調整する目的で共重合させる、カルボキシル基を有する単量体(例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸エステル、及びこれらのフッ素置換体);などが挙げられ、これら単量体の1種又は2種以上に由来する単量体単位がVDF−HFP共重合体に含まれていてもよい。
【0050】
VDF−HFP共重合体は、含ハロゲン単量体単位としては、VDF単位とHFP単位とが主たる単量体単位であることが好ましい。具体的には、VDF−HFP共重合体が有するVDF単位とHFP単位との合計は、含ハロゲン単量体単位の合計に対して、80モル%以上が好ましく、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは100モル%である。VDF−HFP共重合体が有する単量体単位としては、酸価の調整を目的として含有されている単量体以外は、含ハロゲン単量体単位のみ(好ましくはVDF単位とHFP単位のみ)であることが好ましい。
【0051】
VDF−HFP共重合体の酸価は、例えば、VDF−HFP共重合体にカルボキシル基を導入することにより制御できる。VDF−HFP共重合体へのカルボキシル基の導入及び導入量は、VDF−HFP共重合体の重合成分としてカルボキシル基を有する単量体(例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸エステル、及びこれらのフッ素置換体)を用い、その重合比を調整することにより制御できる。
【0052】
VDF−HFP共重合体の酸価は、下限としては、3.0mgKOH/g以上が好ましく、5.0mgKOH/g以上がより好ましく、7.0mgKOH/g以上が更に好ましく、上限としては、20mgKOH/g以下が好ましく、15mgKOH/g以下がより好ましい。
【0053】
VDF−HFP共重合体は、HFP単位を、VDF単位とHFP単位との合計に対して、0.1モル%〜10モル%の割合で有することが好ましい。HFP単位の割合が0.1モル%以上であると、加熱した際のポリマー鎖の運動性が高いので、ドライヒートプレスによって接着性多孔質層が電極に対して接着しやすく、また、電解液に対して膨潤しやすいので、ウェットヒートプレスによって接着性多孔質層が電極に対して接着しやすい。この観点からは、HFP単位の割合は、0.5モル%以上がより好ましく、1.0モル%以上が更に好ましい。一方、HFP単位の割合が10モル%以下であると、VDF−HFP共重合体が電解液に対して溶解しにくい。この観点からは、HFP単位の割合は、8モル%以下がより好ましい。
【0054】
VDF−HFP共重合体は、重量平均分子量(Mw)が30万〜300万であることが好ましい。VDF−HFP共重合体のMwが30万以上であると、接着性多孔質層が電極との接着処理に耐え得る力学特性を確保でき、電極との接着により優れる。この観点からは、VDF−HFP共重合体のMwは、50万以上が好ましく、80万以上がより好ましく、100万以上が更に好ましい。一方、VDF−HFP共重合体のMwが300万以下であると、接着性多孔質層を塗工成形するための塗工液の粘度が高くなり過ぎず成形性及び結晶形成がよく、接着性多孔質層の多孔化が良好である。この観点からは、VDF−HFP共重合体のMwは、250万以下がより好ましく、200万以下が更に好ましい。
【0055】
VDF−HFP共重合体は、例えば、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、及び他の単量体を、乳化重合又は懸濁重合することにより得られる。
【0056】
[VDF−HFP共重合体以外の樹脂]
本開示において接着性多孔質層は、VDF−HFP共重合体以外のポリフッ化ビニリデン系樹脂、及び、ポリフッ化ビニリデン系樹脂以外の他の樹脂を含有していてもよい。
【0057】
VDF−HFP共重合体以外のポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデンの単独重合体(即ちポリフッ化ビニリデン);フッ化ビニリデンと、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、トリクロロエチレン等から選ばれる少なくとも1種との共重合体;が挙げられる。
【0058】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂以外の他の樹脂としては、フッ素系ゴム、アクリル系樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、ビニルニトリル化合物(アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)の単独重合体又は共重合体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル(ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等)などが挙げられる。
【0059】
接着性多孔質層に含まれるバインダ樹脂は、実質的に、酸価が3.0mgKOH/g〜20mgKOH/gのVDF−HFP共重合体のみであることが好ましい。接着性多孔質層の実施形態例においては、酸価が3.0mgKOH/g〜20mgKOH/gのVDF−HFP共重合体が、接着性多孔質層に含まれる全樹脂の総量の95質量%以上を占めることがあり、97質量%以上を占めることがあり、99質量%を占めることがあり、100質量%を占めることがある。
【0060】
[フィラー]
本開示において接着性多孔質層は、セパレータの滑り性や耐熱性を向上させる目的で、無機物又は有機物からなるフィラーを含有していてもよい。その場合、本開示の効果を妨げない程度の含有量や粒子サイズとすることが好ましい。
【0061】
一般的に、接着性多孔質層にフィラーが含まれると、接着性多孔質層と電極との接着性が低下する傾向にあるが、本開示のセパレータは、接着性多孔質層に含まれるVDF−HFP共重合体の酸価が3.0mgKOH/g〜20mgKOH/gであることにより、接着性多孔質層にフィラーが含まれる場合でも電極との接着性が良好である。
【0062】
接着性多孔質層に含まれるフィラーの含有量は、耐熱性を向上させる観点から、接着性多孔質層に含まれる全固形分量の30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましい。一方、電極との接着性を確保する観点からは、フィラーの含有量は、接着性多孔質層に含まれる全固形分量の80質量%以下が好ましく、80質量%未満がより好ましく、75質量%以下が更に好ましく、70質量%以下が更に好ましい。
【0063】
フィラーの平均粒子径は、0.01μm〜10μmが好ましい。その下限値としては0.1μm以上がより好ましく、上限値としては5μm以下がより好ましい。
【0064】
フィラーの粒度分布は、0.1μm<d90−d10<3μmであることが好ましい。ここで、d10は、小粒子側から起算した体積基準の粒度分布における累積10%の粒子径(μm)を表し、d90は、小粒子側から起算した体積基準の粒度分布における累積90%の粒子径(μm)を表す。粒度分布の測定は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えばシスメックス社製マスターサイザー2000)を用い、分散媒としては水を用い、分散剤として非イオン性界面活性剤Triton X-100を微量用いて行われる。
【0065】
[無機フィラー]
本開示における無機フィラーとしては、電解液に対して安定であり、且つ、電気化学的に安定な無機フィラーが好ましい。具体的には例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化クロム、水酸化ジルコニウム、水酸化セリウム、水酸化ニッケル、水酸化ホウ素等の金属水酸化物;アルミナ、チタニア、マグネシア、シリカ、ジルコニア、チタン酸バリウム等の金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩;ケイ酸カルシウム、タルク等の粘土鉱物;などが挙げられる。無機フィラーとしては、金属水酸化物及び金属酸化物の少なくとも1種を含むことが好ましく、難燃性付与や除電効果の観点から、金属水酸化物を含むことが好ましく、水酸化マグネシウムを含むことが更に好ましい。これらの無機フィラーは、1種を単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。無機フィラーは、シランカップリング剤等により表面修飾されたものでもよい。
【0066】
無機フィラーの粒子形状には制限はなく、球に近い形状でもよく、板状の形状でもよいが、電池の短絡抑制の観点からは、板状の粒子や、凝集していない一次粒子であることが好ましい。
【0067】
[有機フィラー]
本開示における有機フィラーとしては、例えば、架橋ポリメタクリル酸メチル等の架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレンなどが挙げられ、架橋ポリメタクリル酸メチルが好ましい。
【0068】
[その他添加剤]
本開示における接着性多孔質層は、界面活性剤等の分散剤、湿潤剤、消泡剤、pH調整剤などの添加剤を含有していてもよい。分散剤は、接着性多孔質層を形成するための塗工液に、分散性、塗工性及び保存安定性を向上させる目的で添加される。湿潤剤、消泡剤、pH調整剤は、接着性多孔質層を形成するための塗工液に、例えば、多孔質基材との馴染みをよくする目的、塗工液へのエア噛み込みを抑制する目的、又はpH調整の目的で添加される。
【0069】
[接着性多孔質層の特性]
接着性多孔質層の塗工量は、多孔質基材の片面において0.5g/m
2〜5.0g/m
2が好ましく、0.75g/m
2〜4.0g/m
2がより好ましい。片面の塗工量が0.5g/m
2以上であると、電極との接着性が良好であり、結果、電池のサイクル特性により優れる。一方、片面の塗工量が5.0g/m
2以下であると、イオン透過性が良好であり、結果、電池の負荷特性に優れる。
接着性多孔質層が多孔質基材の両面に設けられている場合、接着性多孔質層の塗工量は、両面の合計として1.0g/m
2〜10.0g/m
2が好ましく、1.5g/m
2〜8.0g/m
2がより好ましい。
【0070】
接着性多孔質層が多孔質基材の両面に設けられている場合、一方の面の塗工量と他方の面の塗工量との差は、両面合計の塗工量の20質量%以下が好ましい。20質量%以下であると、セパレータがカールしにくくハンドリング性がよく、また電池のサイクル特性が良好である。
【0071】
接着性多孔質層の厚さは、多孔質基材の片面において、0.5μm〜6μmが好ましい。前記厚さが0.5μm以上であると、電極との接着性が良好であり、結果、電池のサイクル特性が向上する。この観点からは、前記厚さは、1μm以上がより好ましい。一方、前記厚さが6μm以下であると、イオン透過性が良好であり、結果、電池の負荷特性が向上する。この観点からは、前記厚さは、5.5μm以下がより好ましく、5μm以下が更に好ましい。
【0072】
接着性多孔質層の空孔率は、30%〜80%が好ましく、30%〜60%がより好ましい。空孔率が80%以下(より好ましくは60%以下)であると、電極と接着させるプレス工程に耐え得る力学特性を確保でき、また表面開口率が高くなり過ぎず、接着力を確保するのに適している。一方、空孔率が30%以上であると、イオン透過性が良好になる観点から好ましい。
【0073】
接着性多孔質層の平均孔径は、10nm〜200nmが好ましく、20nm〜100nmがより好ましい。平均孔径が10nm以上(好ましくは20nm以上)であると、接着性多孔質層に電解液を含浸させたとき、接着性多孔質層に含まれる樹脂が膨潤しても孔の閉塞が起きにくい。一方、平均孔径が200nm以下(好ましくは100nm以下)であると、接着性多孔質層の表面において開孔の不均一性が抑えられ接着点が均等に散在し、電極に対する接着性により優れる。また、平均孔径が200nm以下(好ましくは100nm以下)であると、イオン移動の均一性が高く、電池のサイクル特性及び負荷特性により優れる。
【0074】
接着性多孔質層の平均孔径(nm)は、すべての孔が円柱状であると仮定し、以下の式によって算出する。
d=4V/S
式中、dは接着性多孔質層の平均孔径(直径)、Vは接着性多孔質層1m
2当たりの空孔体積、Sは接着性多孔質層1m
2当たりの空孔表面積を表す。
接着性多孔質層1m
2当たりの空孔体積Vは、接着性多孔質層の空孔率から算出する。
接着性多孔質層1m
2当たりの空孔表面積Sは、以下の方法で求める。
まず、多孔質基材の比表面積(m
2/g)とセパレータの比表面積(m
2/g)とを、窒素ガス吸着法にBET式を適用することにより、窒素ガス吸着量から算出する。これらの比表面積(m
2/g)にそれぞれの目付(g/m
2)を乗算して、それぞれの1m
2当たりの空孔表面積を算出する。そして、多孔質基材1m
2当たりの空孔表面積をセパレータ1m
2当たりの空孔表面積から減算して、接着性多孔質層1m
2当たりの空孔表面積Sを算出する。
【0075】
[非水系二次電池用セパレータの特性]
本開示のセパレータの厚さは、機械的強度、電池のエネルギー密度及び出力特性の観点から、5μm〜35μmが好ましく、5μm〜30μmがより好ましく、10μm〜25μmが更に好ましく、10μm〜20μmが更に好ましい。
【0076】
本開示のセパレータの空孔率は、機械的強度、電極との接着性、及びイオン透過性の観点から、30%〜60%が好ましい。
【0077】
本開示のセパレータのガーレ値(JIS P8117:2009)は、機械的強度と膜抵抗のバランスがよい観点から、50秒/100cc〜800秒/100ccが好ましく、50秒/100cc〜400秒/100ccがより好ましい。
【0078】
本開示のセパレータは、イオン透過性の観点から、セパレータ(多孔質基材上に接着性多孔質層を形成した状態)のガーレ値から多孔質基材のガーレ値を減算した値(以下「ガーレ値差」という。)が、300秒/100cc以下であることが好ましく、より好ましくは150秒/100cc以下、更に好ましくは100秒/100cc以下である。ガーレ値差が300秒/100cc以下であることで、接着性多孔質層が緻密になり過ぎずイオン透過性が良好に保たれ、優れた電池特性が得られる。一方、ガーレ値差は0秒/100cc以上が好ましく、接着性多孔質層と多孔質基材との接着力を高める観点からは、10秒/100cc以上が好ましい。
【0079】
本開示のセパレータの膜抵抗は、電池の負荷特性の観点から、1ohm・cm
2〜10ohm・cm
2が好ましい。ここで膜抵抗とは、セパレータに電解液を含浸させたときの抵抗値であり、交流法にて測定される。膜抵抗の値は電解液の種類、温度によって異なるところ、上記の値は電解液として1mol/L LiBF
4−プロピレンカーボネート:エチレンカーボネート(質量比1:1)の混合溶媒を用い、温度20℃下にて測定した値である。
【0080】
本開示のセパレータの突刺強度は、250g〜1000gが好ましく、300g〜600gがより好ましい。セパレータの突刺強度の測定方法は、多孔質基材の突刺強度の測定方法と同様である。
【0081】
本開示のセパレータの130℃における熱収縮率は、形状安定性とシャットダウン特性のバランスの観点から、MD方向、TD方向ともに、10%以下であることが好ましい。
【0082】
本開示のセパレータの曲路率は、イオン透過性の観点から、1.5〜2.5が好ましい。
【0083】
本開示のセパレータに含まれる水分量(質量基準)は、1000ppm以下が好ましい。セパレータの水分量が少ないほど、電池を構成した場合に電解液と水との反応を抑えることができ、電池内でのガス発生を抑えることができ、電池のサイクル特性が向上する。この観点から、本開示のセパレータに含まれる水分量は、800ppm以下がより好ましく、500ppm以下が更に好ましい。
【0084】
[非水系二次電池用セパレータの製造方法]
本開示のセパレータは、例えば、少なくともVDF−HFP共重合体を含有する塗工液を多孔質基材上に塗工し塗工層を形成し、次いで塗工層に含まれるVDF−HFP共重合体を固化させることで、接着性多孔質層を多孔質基材上に形成する方法で製造される。具体的には、接着性多孔質層は、例えば、以下の湿式塗工法によって形成することができる。
【0085】
湿式塗工法は、(i)VDF−HFP共重合体を溶媒に溶解又は分散させて塗工液を調製する塗工液調製工程、(ii)塗工液を多孔質基材上に塗工して塗工層を形成する塗工工程、(iii)塗工層を凝固液に接触させて、相分離を誘発しつつVDF−HFP共重合体を固化させ、多孔質基材上に接着性多孔質層を備えた複合膜を得る凝固工程、(iv)複合膜を水洗する水洗工程、及び(v)複合膜から水を除去する乾燥工程、を順次行う製膜法である。本開示のセパレータに好適な湿式塗工法の詳細は、以下のとおりである。
【0086】
塗工液の調製に用いる、VDF−HFP共重合体を溶解又は分散する溶媒(以下、「良溶媒」ともいう。)としては、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド等の極性アミド溶媒が好適に用いられる。
【0087】
良好な多孔構造を有する接着性多孔質層を形成する観点からは、相分離を誘発させる相分離剤を良溶媒に混合することが好ましい。相分離剤としては、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。相分離剤は、塗工に適切な粘度が確保できる範囲で良溶媒と混合することが好ましい。
【0088】
塗工液の調製に用いる溶媒としては、良好な多孔構造を有する接着性多孔質層を形成する観点から、良溶媒を60質量%以上、相分離剤を5質量%〜40質量%含有する混合溶媒が好ましい。
【0089】
塗工液における樹脂の濃度は、良好な多孔構造を有する接着性多孔質層を形成する観点から、塗工液の全質量の1質量%〜20質量%であることが好ましい。
【0090】
接着性多孔質層にフィラーや他の成分を含有させる場合は、塗工液中にフィラーや他の成分を溶解又は分散させればよい。
【0091】
塗工液は、界面活性剤等の分散剤、湿潤剤、消泡剤、pH調整剤等を含有していてもよい。これらの添加剤は、非水系二次電池の使用範囲において電気化学的に安定で電池内反応を阻害しないものであれば、接着性多孔質層に残存するものであってもよい。
【0092】
凝固液は、塗工液の調製に用いた良溶媒及び相分離剤と、水とから構成されるのが一般的である。良溶媒と相分離剤の混合比は、塗工液の調製に用いた混合溶媒の混合比に合わせるのが生産上好ましい。凝固液の水の含有量は40質量%〜90質量%であることが、多孔構造の形成及び生産性の観点から好ましい。水の含有量を制御することで相分離速度を調節することができ、接着性多孔質層におけるVDF−HFP共重合体の結晶構造を制御することができる。
【0093】
多孔質基材への塗工液の塗工は、マイヤーバー、ダイコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター等を用いた従来の塗工方式を適用してよい。接着性多孔質層を多孔質基材の両面に形成する場合、塗工液を両面同時に基材へ塗工することが生産性の観点から好ましい。
【0094】
接着性多孔質層は、上述した湿式塗工法以外にも、乾式塗工法でも製造し得る。乾式塗工法とは、VDF−HFP共重合体及び溶媒を含有する塗工液を多孔質基材に塗工し、この塗工層を乾燥させて溶媒を揮発除去することにより、接着性多孔層を得る方法である。ただし、乾式塗工法は湿式塗工法と比べて塗工層が緻密になりやすいので、良好な多孔質構造を得られる点で湿式塗工法の方が好ましい。
【0095】
本開示のセパレータは、接着性多孔質層を独立したシートとして作製し、この接着性多孔質層を多孔質基材に重ねて、熱圧着や接着剤によって複合化する方法によっても製造し得る。接着性多孔質層を独立したシートとして作製する方法としては、上述した湿式塗工法又は乾式塗工法を適用して、剥離シート上に接着性多孔質層を形成する方法が挙げられる。
【0096】
<非水系二次電池>
本開示の非水系二次電池は、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であり、正極と、負極と、本開示のセパレータとを備える。ドープとは、吸蔵、担持、吸着、又は挿入を意味し、正極等の電極の活物質にリチウムイオンが入る現象を意味する。
【0097】
本開示の非水系二次電池は、例えば、負極と正極とがセパレータを介して対向した電池素子が電解液と共に外装材内に封入された構造を有する。本開示の非水系二次電池は、特にリチウムイオン二次電池に好適である。
【0098】
本開示の非水系二次電池は、電極への接着に優れる本開示のセパレータを備えることにより、製造歩留まりが高い。
【0099】
以下、本開示の非水系二次電池が備える正極、負極、電解液、及び外装材の形態例を説明する。
【0100】
正極は、正極活物質及びバインダ樹脂を含有する活物質層が集電体上に成形された構造としてよい。活物質層は、さらに導電助剤を含有してもよい。正極活物質としては、例えばリチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられ、具体的にはLiCoO
2、LiNiO
2、LiMn
1/2Ni
1/2O
2、LiCo
1/3Mn
1/3Ni
1/3O
2、LiMn
2O
4、LiFePO
4、LiCo
1/2Ni
1/2O
2、LiAl
1/4Ni
3/4O
2等が挙げられる。バインダ樹脂としては、例えばポリフッ化ビニリデン系樹脂などが挙げられる。導電助剤としては、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛粉末等の炭素材料が挙げられる。集電体としては、例えば厚さ5μm〜20μmの、アルミ箔、チタン箔、ステンレス箔等が挙げられる。
【0101】
本開示のセパレータの一実施形態によれば、接着性多孔質層が耐酸化性に優れるため、接着性多孔質層を非水系二次電池の正極側に配置することで、正極活物質として、4.2V以上の高電圧で作動可能なLiMn
1/2Ni
1/2O
2、LiCo
1/3Mn
1/3Ni
1/3O
2等を適用しやすい。
【0102】
負極は、負極活物質及びバインダ樹脂を含有する活物質層が集電体上に成形された構造としてよい。活物質層は、さらに導電助剤を含有してもよい。負極活物質としては、リチウムを電気化学的に吸蔵し得る材料が挙げられ、具体的には例えば、炭素材料;ケイ素、スズ、アルミニウム等とリチウムとの合金;などが挙げられる。バインダ樹脂としては、例えばポリフッ化ビニリデン系樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体などが挙げられる。導電助剤としては、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛粉末等の炭素材料が挙げられる。集電体としては、例えば厚さ5μm〜20μmの、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔等が挙げられる。また、上記の負極に代えて、金属リチウム箔を負極として用いてもよい。
【0103】
本開示の非水系二次電池は、本開示のセパレータを適用することにより、溶剤系バインダ(具体的にはポリフッ化ビニリデン系樹脂)を用いた負極に対してのみならず、水系バインダ(具体的にはスチレン−ブタジエン共重合体)を用いた負極に対しても接着に優れる。
【0104】
電極は、セパレータとの接着性の観点からは、活物質層にバインダ樹脂が多く含まれていることが好ましい。一方、電池のエネルギー密度を高める観点からは、活物質層に活物質が多く含まれていることが好ましく、相対的にバインダ樹脂量は少ないことが好ましい。本開示のセパレータは電極との接着に優れるので、活物質層のバインダ樹脂量を減らして活物質量を増やすことを可能にし、よって、電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0105】
電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した溶液である。リチウム塩としては、例えばLiPF
6、LiBF
4、LiClO
4等が挙げられる。非水系溶媒としては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びそのフッ素置換体等の鎖状カーボネート;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル;などが挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。電解液としては、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを質量比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)20:80〜40:60で混合し、リチウム塩を0.5mol/L〜1.5mol/L溶解したものが好適である。
【0106】
外装材としては、金属缶やアルミラミネートフィルム製パック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型等があるが、本開示のセパレータはいずれの形状にも好適である。
【0107】
本開示の非水系二次電池においては、該電池を構成するセパレータの接着性多孔質層が電極との接着に優れることによって、充放電に伴う電極の膨張及び収縮や外部からの衝撃による電極とセパレータとの間の隙間形成が抑制される。したがって、本開示のセパレータは、アルミラミネートフィルム製パックを外装材とするソフトパック電池に好適であり、本開示のセパレータによれば、電池性能の高いソフトパック電池が提供される。
【0108】
本開示の非水系二次電池は、正極と負極との間に本開示のセパレータを配置した積層体を製造した後、この積層体を用いて、例えば下記の1)〜3)のいずれかにより製造できる。
【0109】
1)積層体に熱プレス(ドライヒートプレス)して電極とセパレータとを接着した後、外装材(例えばアルミラミネートフィルム製パック。以下同じ)に収容し、そこに電解液を注入し、外装材内を真空状態にした後、外装材の上からさらに積層体を熱プレス(ウェットヒートプレス)し、電極とセパレータとの接着と、外装材の封止とを行う。
【0110】
2)積層体を外装材に収容し、そこに電解液を注入し、外装材内を真空状態にした後、外装材の上から積層体を熱プレス(ウェットヒートプレス)し、電極とセパレータとの接着と、外装材の封止とを行う。
【0111】
3)積層体に熱プレス(ドライヒートプレス)して電極とセパレータとを接着した後、外装材に収容し、そこに電解液を注入し、外装材内を真空状態にした後、外装材の封止を行う。
【0112】
上記1)の製造方法によれば、積層体の外装材への収容に先立って電極とセパレータとが接着しているので、外装材に収容するための搬送時に起こる積層体の変形が抑制され、電池の製造歩留まりが高い。
また、上記1)の製造方法によれば、セパレータの接着性多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂が電解液に膨潤した状態でさらに積層体が熱プレスされるので、電極とセパレータの接着がより強固になり、電池の製造歩留まりが高い。
また、上記1)の製造方法におけるウェットヒートプレスは、電解液の含浸によっていくらか減弱した電極−セパレータ間の接着を回復させる程度の穏やかな条件でよく、つまりウェットヒートプレスの温度を比較的低温に設定できるので、電池製造時における電池内での電解液及び電解質の分解に起因するガス発生が抑制され、電池の製造歩留まりが高い。
【0113】
上記2)の製造方法によれば、セパレータの接着性多孔質層に含まれるポリフッ化ビニリデン系樹脂が電解液に膨潤した状態で積層体が熱プレスされるので、電極とセパレータがよく接着し、電池の製造歩留まりが高い。
【0114】
上記3)の製造方法によれば、積層体の外装材への収容に先立って電極とセパレータとが接着しているので、外装材に収容するための搬送時に起こる積層体の変形が抑制され、電池の製造歩留まりが高い。
また、上記3)の製造方法によれば、ウェットヒートプレスを行わないことにより、電池製造時における電池内での電解液及び電解質の分解に起因するガス発生が抑制され、電池の製造歩留まりが高い。
また、上記3)の製造方法によれば、ウェットヒートプレスを行わないことにより、セパレータと電極との接着性が電解液の種類の影響を受けない。
【0115】
本開示のセパレータは、ウェットヒートプレス及びドライヒートプレスのいずれによっても電極との接着に優れるので、本開示のセパレータを適用した非水系二次電池は、上記のように製造方法の選択肢が広い。電池の大面積化に対応して、積層体の変形を抑制する観点、及び、電極とセパレータの剥がれをより抑制する観点からは、上記1)の製造方法が好ましい。
【0116】
上記1)〜3)の製造方法における熱プレスの条件としては、ドライヒートプレス及びウェットヒートプレスそれぞれ、プレス圧は0.1MPa〜15.0MPaが好ましく、温度は60℃〜100℃が好ましい。
【0117】
本開示のセパレータは電極と重ねることによって接着し得る。したがって、電池製造においてプレスは必須の工程ではないが、電極とセパレータの接着をより強固にする観点から、プレスを行うことが好ましい。さらに電極とセパレータの接着をより強固にする観点から、プレスは加熱しながらのプレス(熱プレス)が好ましい。
【0118】
積層体を製造する際において、正極と負極との間にセパレータを配置する方式は、正極、セパレータ、負極をこの順に少なくとも1層ずつ積層する方式(所謂スタック方式)でもよく、正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に重ね、長さ方向に捲き回す方式でもよい。
【実施例】
【0119】
以下に実施例を挙げて、本開示のセパレータ及び非水系二次電池をさらに具体的に説明する。ただし、本開示のセパレータ及び非水系二次電池は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0120】
<測定方法、評価方法>
実施例及び比較例に適用した測定方法及び評価方法は、以下のとおりである。
【0121】
[ポリフッ化ビニリデン系樹脂の酸価]
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の酸価は、JIS K1557−5:2007(電位差滴定法)に基づき、電位差滴定装置AT−500N(京都電子工業社製)及び複合ガラス電極(京都電子工業社製)を使用して測定した。具体的な測定手順は以下の通りである。
【0122】
(i)100mLの三角フラスコにポリフッ化ビニリデン系樹脂0.4gとアセトン80mLを入れ、湯浴にて加熱し、ポリフッ化ビニリデン系樹脂をアセトンに溶解させて試料を作製した。
(ii)上記試料を、電位差滴定装置を用いて滴定し、得られた滴定曲線の変曲点を終点(本試験での滴定液量)とした。滴定液としては0.02mol/L KOHエタノール溶液を用いた。
(iii)同様の方法で、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含まないサンプルで空試験も行い、下記の式により酸価を算出した。
【0123】
酸価(mgKOH/g)=(V1−V0)×N×56.1×f÷S
V1:本試験での滴定液量(mL)
V0:空試験での滴定液量(mL)
N:滴定液の濃度(mol/L)
f:滴定液のファクター=0.958
S:ポリフッ化ビニリデン系樹脂の試料量(g)
【0124】
[ポリフッ化ビニリデン系樹脂のHFP単位の割合]
ポリフッ化ビニリデン系樹脂のHFP単位の割合はNMRスペクトルから求めた。具体的には、ポリフッ化ビニリデン系樹脂20mgを重ジメチルスルホキシド0.6mLに100℃にて溶解し、100℃で
19F−NMRスペクトルを測定した。
【0125】
[ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量]
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。GPCによる分子量測定は、日本分光社製のGPC装置「GPC−900」を用い、カラムに東ソー社製TSKgel SUPER AWM−Hを2本用い、溶媒にジメチルホルムアミドを使用し、温度40℃、流量10mL/分の条件で測定し、ポリスチレン換算の分子量を得た。
【0126】
[膜厚]
多孔質基材及びセパレータの膜厚は、接触式の厚み計(ミツトヨ社製LITEMATIC)を用いて測定した。測定端子は直径5mmの円柱状のものを用い、測定中には7gの荷重が印加されるように調整して行い、20点測定して、その平均値を算出した。
【0127】
[接着性多孔質層の塗工量]
セパレータを10cm×10cmに切り出し質量を測定し、この質量を面積で除することで、セパレータの目付を求めた。また、セパレータの作製に用いた多孔質基材を10cm×10cmに切り出し質量を測定し、この質量を面積で除することで、多孔質基材の目付を求めた。そして、セパレータの目付から多孔質基材の目付を減算することで、接着性多孔質層の両面の合計の塗工量を求めた。
【0128】
[空孔率]
多孔質基材及びセパレータの空孔率は、下記の算出方法に従って求めた。
構成材料がa、b、c、…、nであり、各構成材料の質量がWa、Wb、Wc、…、Wn(g/cm
2)であり、各構成材料の真密度がda、db、dc、…、dn(g/cm
3)であり、膜厚をt(cm)としたとき、空孔率ε(%)は以下の式より求められる。
ε={1−(Wa/da+Wb/db+Wc/dc+…+Wn/dn)/t}×100
【0129】
[ガーレ値]
多孔質基材及びセパレータのガーレ値は、JIS P8117:2009に従い、ガーレ式デンソメータ(東洋精機社製G−B2C)にて測定した。
【0130】
[負極とのドライ接着力]
負極活物質である人造黒鉛300g、バインダであるスチレン−ブタジエン共重合体の変性体を40質量%含有する水溶性分散液7.5g、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース3g、及び適量の水を双腕式混合機にて攪拌して混合し、負極用スラリーを作製した。この負極用スラリーを負極集電体である厚さ10μmの銅箔の片面に塗布し、乾燥後プレスして、負極活物質層を有する負極(片面塗工)を得た。
【0131】
上記で得た負極及びアルミ箔(厚さ20μm)をそれぞれ幅1.5cm長さ7cmにカットし、以下の実施例及び比較例で得た各セパレータを幅1.8cm長さ7.5cmにカットした。負極−セパレータ−アルミ箔の順に積層して積層体を作製し、積層体をアルミラミネートフィルム製パック中に収容した。次に、真空シーラーを用いてパック内を真空状態にし、熱プレス機を用いてパックごと積層体を熱プレスして、負極とセパレータを接着した。熱プレスの条件は、荷重1MPa、温度90℃、プレス時間30秒間とした。その後パックを開封し積層体を取り出し、積層体からアルミ箔を取り除いたものを測定試料とした。
【0132】
測定試料の負極の無塗工面を金属板に両面テープで固定し、金属板をテンシロン(エー・アンド・デイ製STB−1225S)の下部チャックに固定した。この際、測定試料の長さ方向が重力方向になるように、金属板をテンシロンに固定した。セパレータを下部の端から2cm程度負極から剥がして、その端部を上部チャックに固定し、引張角度(測定試料に対するセパレータの角度)が180°になるようにした。引張速度20mm/minでセパレータを引っ張り、負極からセパレータが剥離する際の荷重を測定した。測定開始10mmから40mmまでの荷重を0.4mm間隔で採取した。この測定を3回行い、平均を算出し、負極とのドライ接着力(N/15mm、ドライヒートプレスによる負極とセパレータの間の接着力)とした。
【0133】
[負極とのウェット接着力]
上記[負極とのドライ接着力]における負極作製と同様にして負極(片面塗工)を作製した。負極及びアルミ箔(厚さ20μm)をそれぞれ幅1.5cm長さ7cmにカットし、以下の実施例及び比較例で得た各セパレータを幅1.8cm長さ7.5cmにカットした。負極−セパレータ−アルミ箔の順に積層して積層体を作製し、積層体に電解液(1mol/L LiBF
4−エチレンカーボネート:プロピレンカーボネート[質量比1:1])を浸み込ませて、アルミラミネートフィルム製パック中に収容した。次に、真空シーラーを用いてパック内を真空状態にし、熱プレス機を用いてパックごと積層体を熱プレスして、負極とセパレータを接着した。熱プレスの条件は、荷重1MPa、温度90℃、プレス時間2分間とした。その後パックを開封し積層体を取り出し、積層体からアルミ箔を取り除いたものを測定試料とした。
この測定試料を用い、前述の負極とのドライ接着力の測定と同じ方法で、負極とのウェット接着力(N/15mm、ウェットヒートプレスによる負極とセパレータの間の接着力)を測定した。
【0134】
[電池の生産性]
−正極の作製−
正極活物質であるコバルト酸リチウム粉末91g、導電助剤であるアセチレンブラック3g、及びバインダであるポリフッ化ビニリデン3gを、ポリフッ化ビニリデンの濃度が5質量%となるようにN−メチル−ピロリドンに溶解し、双腕式混合機にて攪拌し、正極用スラリーを調製した。この正極用スラリーを厚さ20μmのアルミ箔の片面に塗布し、乾燥後プレスして、正極活物質層を有する正極(片面塗工)を得た。
【0135】
−負極の作製−
上記[負極とのドライ接着力]における負極作製と同様にして負極(片面塗工)を作製した。
【0136】
−電池製造の歩留まりの評価試験−
以下の実施例及び比較例で得た各セパレータ(幅108mm)を2枚用意して重ね、MD方向の一端をステンレス製の巻芯に巻きつけた。2枚のセパレータの間にリードタブを溶接した正極(幅106.5mm)をはさみ、一方のセパレータ上にリードタブを溶接した負極(幅107mm)を配置し、この積層体を巻回して、巻回電極体を連続的に60個作製した。得られた巻回電極体を、熱プレス機により熱プレス(ドライヒートプレス)し(荷重1MPa、温度90℃、プレス時間30秒間)、電池素子を得た。この電池素子をアルミラミネートフィルム製パック中に収容し電解液を浸み込ませ、真空シーラーを用いて封入した。電解液としては、1mol/L LiPF
6−エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート(質量比3:7)を用いた。その後、電池素子及び電解液を収容したアルミラミネートフィルム製パックに対して、熱プレス機により熱プレス(ウェットヒートプレス)を行い(荷重1MPa、温度90℃、プレス時間2分間)、試験用の二次電池60個を得た。
【0137】
試験用二次電池60個に100サイクルの充放電を行った。この試験において、充電は0.5C且つ4.2Vの定電流定電圧充電とし、放電は0.5C且つ2.75Vカットオフの定電流放電とした。サイクル試験前後において試験用二次電池の厚さを測定し、その変化が5%以下の場合を合格と判定し、これに該当しない場合は不合格と判定した。そして、合格した試験用二次電池の個数割合(%)を算出し、下記のとおり分類した。
A:合格した個数割合が100%である。
B:合格した個数割合が95%以上100%未満である。
C:合格した個数割合が95%未満である。
【0138】
[サイクル特性(容量維持率)]
上記のサイクル試験において放電容量を測定し、100サイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で除し、さらに60個の平均を算出し、容量維持率(%)とした。
【0139】
<セパレータの製造>
[実施例1]
VDF−HFP共重合体(重量平均分子量113万、HFP単位の割合(VDF単位とHFP単位との合計に対して。以下同じ)2.4モル%、酸価12.6mgKOH/g)を、溶媒(ジメチルアセトアミド:トリプロピレングリコール=80:20[質量比])に樹脂濃度が5質量%となるように溶解し、塗工液を作製した。該塗工液を多孔質基材であるポリエチレン微多孔膜(膜厚9μm、空孔率40%、ガーレ値152秒/100cc)の両面に塗工し、凝固液(ジメチルアセトアミド:トリプロピレングリコール:水=30:8:62[質量比]、温度40℃)に浸漬して固化させた。次いで、これを水洗し乾燥して、ポリエチレン微多孔膜の両面に接着性多孔質層が形成されたセパレータを得た。
【0140】
[実施例2]
前記塗工液にフィラーとして水酸化マグネシウム(協和化学工業社製キスマ5P、平均粒子径0.8μm、BET比表面積6.8m
2/g)をさらに添加し、均一になるまで攪拌し、樹脂と水酸化マグネシウムの質量比が30:70である塗工液を作製した以外は実施例1と同様にして、ポリエチレン微多孔膜の両面に接着性多孔質層が形成されたセパレータを作製した。
【0141】
[実施例3]
VDF−HFP共重合体を他のVDF−HFP共重合体(重量平均分子量108万、HFP単位の割合3.1モル%、酸価10.5mgKOH/g)に変更した以外は実施例2と同様にして、ポリエチレン微多孔膜の両面に接着性多孔質層が形成されたセパレータを作製した。
【0142】
[実施例4]
VDF−HFP共重合体を他のVDF−HFP共重合体(重量平均分子量100万、HFP単位の割合4.1モル%、酸価7.4mgKOH/g)に変更し、樹脂と水酸化マグネシウムの質量比を40:60に変更した以外は実施例2と同様にして塗工液を作製した。該塗工液を多孔質基材であるポリエチレン微多孔膜(膜厚6μm、空孔率35%、ガーレ値127秒/100cc)の両面に塗工し、凝固液(ジメチルアセトアミド:トリプロピレングリコール:水=30:8:62[質量比]、温度40℃)に浸漬して固化させた。次いで、これを水洗し乾燥して、ポリエチレン微多孔膜の両面に接着性多孔質層が形成されたセパレータを作製した。
【0143】
[実施例5]
VDF−HFP共重合体を他のVDF−HFP共重合体(重量平均分子量90万、HFP単位の割合5.2モル%、酸価3.7mgKOH/g)に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエチレン微多孔膜の両面に接着性多孔質層が形成されたセパレータを作製した。
【0144】
[実施例6]
VDF−HFP共重合体を他のVDF−HFP共重合体(重量平均分子量33万、HFP単位の割合4.8モル%、酸価19.0mgKOH/g)に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエチレン微多孔膜の両面に接着性多孔質層が形成されたセパレータを作製した。
【0145】
[実施例7]
VDF−HFP共重合体を他のVDF−HFP共重合体(重量平均分子量40万、HFP単位の割合2.4モル%、酸価12.6mgKOH/g)に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエチレン微多孔膜の両面に接着性多孔質層が形成されたセパレータを作製した。
【0146】
[実施例8]
VDF−HFP共重合体を他のVDF−HFP共重合体(重量平均分子量200万、HFP単位の割合2.4モル%、酸価12.6mgKOH/g)に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエチレン微多孔膜の両面に接着性多孔質層が形成されたセパレータを作製した。
【0147】
[実施例9]
VDF−HFP共重合体を他のVDF−HFP共重合体(重量平均分子量40万、HFP単位の割合0.1モル%、酸価12.6mgKOH/g)に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエチレン微多孔膜の両面に接着性多孔質層が形成されたセパレータを作製した。
【0148】
[実施例10]
VDF−HFP共重合体を他のVDF−HFP共重合体(重量平均分子量113万、HFP単位の割合10.0モル%、酸価12.6mgKOH/g)に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエチレン微多孔膜の両面に接着性多孔質層が形成されたセパレータを作製した。
【0149】
[比較例1]
VDF−HFP共重合体を他のポリフッ化ビニリデン系樹脂(重量平均分子量113万、HFP単位の割合0.0モル%、酸価9.7mgKOH/g)に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエチレン微多孔膜の両面に接着性多孔質層が形成されたセパレータを作製した。
【0150】
[比較例2]
VDF−HFP共重合体を他のVDF−HFP共重合体(重量平均分子量86万、HFP単位の割合5.7モル%、酸価2.1mgKOH/g)に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエチレン微多孔膜の両面に接着性多孔質層が形成されたセパレータを作製した。
【0151】
[比較例3]
VDF−HFP共重合体を他のVDF−HFP共重合体(重量平均分子量120万、HFP単位の割合3.0モル%、酸価2.0mgKOH/g)に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエチレン微多孔膜の両面に接着性多孔質層が形成されたセパレータを作製した。
【0152】
以上の実施例及び比較例において用いた各VDF−HFP共重合体は、VDF単位を主たる単量体単位とし、HFP単位の割合を上記の各割合とし、カルボキシル基を有する単量体を共重合させることにより酸価を調整した共重合体である。
【0153】
実施例1〜10及び比較例1〜3の各セパレータの物性及び評価結果を表1に示す。
【0154】
【表1】
【0155】
HFP単位を有しないポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いた比較例1は、負極とのドライ接着力及び負極とのウェット接着力のいずれも弱かった。
重量平均分子量及びHFP単位の割合が中程度で酸価が3.0未満であるVDF−HFP共重合体を用いた比較例2は、負極とのウェット接着力が弱かった。
酸価が3.0未満のVDF−HFP共重合体を用いた比較例3は、負極とのドライ接着力及び負極とのウェット接着力のいずれも弱かった。
【0156】
実施例1と実施例10との対比、実施例7と実施例9との対比、及び、実施例1と実施例7と実施例8との対比を総合すると(これら実施例はVDF−HFP共重合体の酸価が同じである。)、負極とのドライ接着力及び負極とのウェット接着力は、VDF−HFP共重合体の重量平均分子量やHFP単位の割合が変動しても大きく変わらず、VDF−HFP共重合体の酸価が重要な因子であることが分かる。
【0157】
2015年11月11日に出願された日本国出願番号第2015−221600号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。2015年11月11日に出願された日本国出願番号第2015−221601号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。2015年11月11日に出願された日本国出願番号第2015−221602号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。2015年12月1日に出願された日本国出願番号第2015−234796号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【0158】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
多孔質基材と、前記多孔質基材の片面又は両面に設けられ、フッ化ビニリデン単量体単位及びヘキサフルオロプロピレン単量体単位を有し酸価が3.0mgKOH/g以上20mgKOH/g以下であるポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有する接着性多孔質層と、を備える非水系二次電池用セパレータ。