(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1A〜
図1Cは、第1の実施例による表示素子(ECL表示素子)の製造方法を示す概略図である。
【0010】
図1Aに示すように、一対のITO膜52a、52b付ガラス基板(透明基板)51a、51bを準備する。
【0011】
図1Bを参照する。ITO膜52a、52bをフォトリソ工程にてパターニングし、ガラス基板51a、51b上に、それぞれITO(透明導電材)で形成される表示電極53a及び対向電極53bを形成する。
【0012】
たとえば後述するように引き回し線を太幅に形成することができるため、パターニングは、ITO膜52a、52bを多く残存させるようなパターンを形成して行うのが好ましい。また、基板間における引き回し線の重なり状態を考慮する必要はない。エッチングは、王水系混酸の水溶液を用いたウェットエッチにて実施した。たとえば第二酸化鉄を、エッチャントとして用いることもできる。レーザを使用し、ITO膜52a、52bをアブレーションして除去することで、パターニングを行ってもよい。パターニングにおいては、電極53a、53bの各々におけるITO間の距離を、おおむね数十μmから数百μmとする。実施例においては、最も狭い部分のITO間距離を100μmとした。
【0013】
なお実施例においては、透明基板51a、51b上に透明電極53a、53bを形成するが、基板51a、51bの一方は不透明基板でもよく、その上に形成される電極も不透明電極とすることができる。不透明電極を形成する材料として、銀合金、金、銅、アルミニウム、ニッケル、モリブデン等をあげることができる。また、ITO以外の透明導電性材料を使用して透明電極53a、53bを形成することも可能である。
【0014】
続いて、表示電極53a上の一部を含む領域に、絶縁膜(透明絶縁膜)として、厚さ3000Å〜4000ÅのSiO
2膜54aを形成する。SiO
2膜54aの成膜はマグネトロンスパッタで行い、リフトオフ法でパターン形成をした。膜厚はこれに限られない。表示電極53a上に形成する絶縁膜の厚さは、数百nm〜数μm、たとえば500nm〜4μmとすることができる。また、成膜方法もスパッタに限定されない。パターン形成は、簡易的には、所定形状の開口部を有するSUSマスクを用いて行ってもよい。フォトリソ工程にてパターニングを行うことも可能である。この場合は、ITO電極53aにダメージを与えないウェットエッチング条件、もしくはドライエッチング条件を用いる。
【0015】
SiO
2膜54aは、表示電極53aが形成されていないガラス基板51a上の領域、少なくとも製造後の表示素子のシールに囲まれた表示エリア内について、ガラス基板51a上の表示電極53a不形成領域全域にも形成されることが望ましい。なお、表示電極53aの取り出し端子部にはSiO
2膜54aが形成されないように、パターン形成を行った。
【0016】
このようにして、ガラス基板51a上に表示電極53aを備え、少なくとも表示電極53a上の一部を含む領域に、SiO
2膜54aが形成されている表示用基板50a、及び、ガラス基板51b上に対向電極53bを備える対向基板50bが作製される。
【0017】
図1Cを参照する。たとえば20μm〜数百μm径、実施例においては50μm径のギャップコントロール剤を、表示用基板50a、対向基板50bの一方上に、一例として、1個〜3個/mm
2となるように散布する。ギャップコントロール剤の径に応じ、表示に影響を与えにくい散布量とすることが望ましい。なお、ECL表示素子の場合、多少ギャップムラがあっても表示への影響は少ないため、ギャップコントロール剤の散布量の重要性は高くない。また実施例においては、ギャップコントロール剤を用いたギャップコントロールを行ったが、リブなどを用いてギャップコントロールを行うことも可能である。
【0018】
表示用基板50a、対向基板50bの他方上に、メインシールパターンを形成した。実施例では、紫外線+熱硬化タイプのシール材56を用いた。シール材として、光硬化タイプ、または熱硬化タイプを使用してもよい。ECL表示素子に用いる電解液に耐えるシール材料(腐食されないシール材料)が好ましい。なお、ギャップコントロール剤の散布とメインシールパターンの形成は同一基板側に行ってもよい。
【0019】
次に、ECL材料(発光材料)含む電解液を、両基板50a、50b間に封入した。
【0020】
実施例ではODF工程を用いた。ECL材料を含む電解液を、表示用基板50a、対向基板50bの片方基板上に適量滴下する。滴下方法として、ディスペンサやインクジェットを含む各種印刷方式が適用できる。ここではディスペンサを用いて、電解液を適量滴下した。
【0021】
真空中で両基板50a、50bの重ね合わせを行った。大気中、もしくは窒素雰囲気中で行ってもよい。
【0022】
紫外線を、たとえば21J/cm
2のエネルギ密度でシール材56に照射し、シール材56を硬化した。なお、紫外線がシール部のみに照射されるように、SUSマスクを使用した。
【0023】
ECL材料を含む電解液は、ECL材料、支持電解質、溶媒などにより構成される。
【0024】
ECL材料は、電圧の印加により、電極近傍で酸化されてカチオンラジカル(酸化種)、還元されてアニオンラジカル(還元種)となる。この両者が会合するとECL材料の励起状態が生成し、その失活過程において発光が起きる。
【0025】
使用するECL材料は、電気化学的な酸化還元反応によって発光する材料であれば、特段の制限はない。たとえば「ビピリジン誘導体やフェナントロリン誘導体等の配位子を有するルテニウム錯体及び希土類錯体(対イオンとしてヘキサフルオロリン酸、ハロゲン等を有する)」やPVB(ポリビニルブチラール)、DPA(9,10−ジフェニルアントラセン)、過塩素酸テトラ−n−ブチルアンモニウムのようなものを含むTBAP(過塩素酸テトラブチルアンモニウム)等を好適に用いることができる。
【0026】
支持電解質は、溶媒中でイオンを効率的に生成できるものであれば限定されない。たとえば、過塩素酸テトラ−n−ブチルアンモニウムのようなものを含む過塩素酸テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラ−n−アルキルアンモニウム、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、ヨウ化テトラ−n−アルキルアンモニウム、ハロゲン化テトラ−n−アルキルアンモニウム、及び、陽イオンがアルカリ金属イオン、アルキルアンモニウムイオンで、陰イオンがトリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオンからなる塩を用いることができる。支持電解質の濃度は、たとえば10mM以上1M以下であることが好ましいが、これも特に限定されるものではない。
【0027】
溶媒は、発光材料等を安定的に保持することができるものであれば限定されない。水や炭酸プロピレン等の極性溶媒、極性のない有機溶媒、更には、イオン性液体、イオン導電性高分子、高分子電解質等を使用することが可能である。具体的には、炭酸プロピレン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ポリビニル硫酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸等を用いることができる。
【0028】
図1Cは、第1の実施例による表示素子の概略的な断面図である。第1の実施例による表示素子は、略平行に離間して対向配置された表示用基板50a、対向基板50b、及び、両基板50a、50b間に配置された発光層55を含む。
【0029】
表示用基板50aは、ガラス基板51a、ガラス基板51a上に形成された表示電極53a、及び、少なくとも表示電極53a上の一部を含む領域に形成されたSiO
2膜(絶縁膜)54aを含む。第1の実施例においては、SiO
2膜54aは、シール材56に囲まれた領域内の、表示電極53aが形成されていないガラス基板51a上の全領域にも形成されている。
【0030】
対向基板50bは、ガラス基板51b、及びガラス基板51b上に形成された対向電極53bを含む。
【0031】
発光層55は、ECL材料を含む電解液で構成され、表示用基板50a、対向基板50b間の、シール材56に囲まれた領域内に画定される。
【0032】
図2Aは、表示電極53aの電極パターン、及び、表示電極53a上におけるSiO
2膜(絶縁膜)54a形成パターンを示す概略的な平面図である。本図においては、表示電極53a上のSiO
2膜54a形成範囲に斜線を付して示した。また、シール材56の形成位置を一点鎖線で表した。
【0033】
表示電極53aは、互いに電気的に独立(隔離)し、異なる取り出し端子部を備える複数の表示電極53a
1〜53a
15で構成される。表示電極53a
1〜53a
15上には、それぞれ表示部59a
1〜59a
15が画定される。表示部59a
1〜59a
15は、実際に行いたい表示の形状に対応する形状、実施例においては同形状に形成されている。表示電極53aは、表示部の形状が相互に異なる複数の表示電極を含む。
【0034】
各表示電極53a
1〜53a
15は、シール材56に囲まれた領域の外側に存在する取り出し端子部と、シール材56に囲まれた領域の内側に存在する電極部分とを有し、シール材56に囲まれた領域の内側に存在する電極部分は、表示部59a
1〜59a
15に対応する電極領域とそれ以外の引き回し線領域とからなる
表示電極53a
1〜53a
7上には、表示部59a
1〜59a
7が、7セグメント表示可能に画定されている。表示電極53a
8上には、「:」形状の表示部59a
8が画定される。また、表示電極53a
9〜53a
15上には、表示部59a
9〜59a
15が、7セグメント表示可能に画定されている。第1の実施例による表示素子においては、セグメント表示及びキャラクター表示が行われる。
【0035】
SiO
2膜54aは、取り出し端子部を除く、表示部59a
1〜59a
15以外の表示電極53a
1〜53a
15上に形成されている。すなわち、シール材56に囲まれた領域の内側に存在する表示電極53a
1〜53a
15上には、表示部59a
1〜59a
15を除いてSiO
2膜54aが形成されている。換言すれば、表示部59a
1〜59a
15は、シール材56に囲まれた領域の内部において、SiO
2膜54aの不形成領域として、表示電極53a
1〜53a
15上に規定されている。SiO
2膜54aが形成された領域が引き回し線領域である。
【0036】
図2Bは、対向電極53bの電極パターンを示す概略的な平面図である。対向電極53bは、シール材56に囲まれた領域の外側に存在する取り出し端子部を備えるベタ電極である。平面視上(表示用基板50a及び対向基板50bの法線方向から見たとき)、表示電極53a
1〜53a
15の表示部59a
1〜59a
15と対向する位置には、対向電極53bのベタ電極部分が存在する。対向電極53b上には、絶縁膜は形成されていない。
【0037】
なお、シール材56に囲まれた領域の内部において、対向電極53b上にもSiO
2膜等の絶縁膜を形成することができる。その場合、平面視上、表示電極53a
1〜53a
15の表示部59a
1〜59a
15と対向する位置には、絶縁膜を形成しない。したがって、一例として、シール材56に囲まれた領域内部において、表示部59a
1〜59a
15と対向する位置以外の対向電極53b上のすべての位置に絶縁膜を形成することが可能である。更に、絶縁膜は、シール材56に囲まれた領域内の、対向電極53bが形成されていないガラス基板51b上の領域に形成されてもよい。
【0038】
第1の実施例による表示素子においては、表示用基板50a、対向基板50b(表示電極53a、対向電極53b)間に交流電圧を印加し、発光層55で発光を生じさせて表示を行う。スタティック駆動により、表示部59a
1〜59a
15を独立に表示可能である。7セグメントによる数字、「:」、7セグメントによる数字からなる表示を行うことができる。表示は表示用基板50a側から観察される。発光は、たとえば電極53a、53b近傍で生じ、電極53a近傍で生じた発光が観察者に視認される。
【0039】
図3は、第1の実施例による表示素子の表示部分の外観写真である。表示電極53a
1〜53a
15と対向電極53bとの間に交流電圧を印加した。表示部59a
1〜59a
15(SiO
2膜54aが形成されていない、すなわち発光層55と直接接している、表示電極53a
1〜53a
15上の領域)で発光し、その他の領域(SiO
2膜54aが形成されている領域)では発光していない。引き回し線はまったく観察されない。また、発光部分の輝度は均一で、輝度ムラも認められない。
【0040】
第1の実施例による表示素子は、SiO
2膜(絶縁膜)54aの形成領域と不形成領域とに対応して、非表示部と表示部とが規定され、高品位の表示が可能な表示素子である。
【0041】
次に、第2の実施例による表示素子について説明する。第1の実施例においては絶縁膜としてSiO
2膜(無機系の絶縁膜)を使用したが、第2の実施例では有機系の絶縁膜(透明絶縁膜)を用いる。ここではアクリル系絶縁材料を使用して、絶縁膜を形成した。
【0042】
まず、2000rpm、30秒の条件でスピンコートを行うことにより、厚さ1.8μmの有機絶縁膜を形成し、その後ホットプレートでのプリベーク(100℃、120秒)、露光(照度5.79mW/cm
2で5秒。5.79×5=28.95mJ/cm
2)、現像(TMAH1%溶液にて60秒のシャワー現像)を行い、最後にポストベーク(220℃、30分)して絶縁膜パターンを得た。
【0043】
なお、第2の実施例においては、第1の実施例と異なり、「:」を表示する電極53a
8を形成しなかった。その点、及び、絶縁膜材料、絶縁膜形成工程以外は、第1の実施例と同様の方法で、第2の実施例による表示素子を作製した。表示電極53a
1〜53a
7、53a
9〜53a
15上における有機絶縁膜形成範囲は、第1の実施例におけるSiO
2膜54a形成範囲と等しい。
【0044】
図4は、第2の実施例による表示素子の表示部分の外観写真である。表示電極53a
1〜53a
7、53a
9〜53a
15と対向電極53bとの間に交流電圧を印加した。第1の実施例と同様に、表示部で発光し、有機絶縁膜が形成されている領域は発光していない。引き回し線や、輝度ムラも認められない。
【0045】
第2の実施例による表示素子は、有機絶縁膜の形成領域と不形成領域とに対応して、非表示部と表示部とが規定され、高品位の表示が可能な表示素子である。
【0046】
なお、第1の実施例のSiO
2膜も第2の実施例の有機絶縁膜も、メインシール56が形成される位置のガラス基板51a、51b上に存在していてもよい。密着性などに問題はみられなかった。
【0047】
実施例による表示素子によると、たとえば引き回し線部分の発光が抑制され、また発光部分の輝度ムラが低減された、高品位の発光表示を行うことができる。更に、たとえば表示電極の引き回し線上に絶縁膜を形成するので、引き回し線の幅に制限がなく、引き回し線を太幅に形成することができる。対向基板上の電極パターンに対する干渉(重なり合い)を考慮して大きく引き回したり、線幅を補足する必要がない。このため、たとえば取り出し端子部から離れた位置の画素(表示部)に対する場合であっても、十分な電流値を与えることができ、画素やラインごとの駆動電圧のムラ、発色濃度のムラを低減することができる。また、引き回し抵抗を低くすることができるため、大きな表示素子でなければ、表示電極、対向電極の双方をITO電極などの透明電極とすることが可能である。したがって透明ディスプレイを容易に実現することができる。
【0048】
以上、実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
たとえば、実施例においては、ECL材料(発光材料)を含む電解液で構成される発光層を有する表示素子としたが、更に、エレクトロクロミック(electrochromic ;EC)材料(発色材料)をも含む電解液で構成される発光・発色層を有する表示素子としてもよい。EC材料は、電圧が印加されると電気化学的な酸化または還元反応を起こし、それにより発色または消色等の変色を生じる材料である。交流駆動でECL材料の発光・消光を制御し、直流駆動でEC材料の発色・消色を制御する、いわゆるデュアルモードの表示素子とすることが可能である。
【0050】
デュアルモードの表示素子とする場合、電解液にEC材料を加える構成のほか、たとえばEC材料膜が表示電極53a上に形成される構成等、表示用基板50aと対向基板50bとの間の、シール材56に囲まれた領域内に配置される発光層55がEC材料を含む構成とすることができる。
【0051】
また、
図2A及び
図2Bに示す例は、スタティック駆動により、形状が異なる表示部を独立に表示可能に、表示電極53a、対向電極53b、及び絶縁膜54aが形成された表示素子であったが、デューティ駆動(単純マトリクス駆動)で、形状が異なる表示部を独立に表示可能とするように、表示電極53a、対向電極53b、及び絶縁膜54aが形成されていてもよい。
【0052】
なお、シール材56に囲まれた領域の内部において、表示部の面積は、シール材56に囲まれた領域の面積に対し、0%より大きく50%以下とすることができる。具体的には、たとえば表示部59a
1〜59a
15の面積の総和は、シール材56にて囲まれた領域内の面積に対して、30%〜40%とされる。セグメント表示、キャラクター表示等の非ドットマトリクス表示の電極パターンにおいて、絶縁膜が形成されない、表示を行う領域の面積の総和を、シール材56に囲まれた領域の面積に対し10%〜50%とすることで、非ドットマトリクス表示の表示パターンを良好なコントラストで表示し、表示品位を高めることができる。
【0053】
その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者には自明であろう。