(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205590
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】変速機のロックアップ制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/14 20060101AFI20170925BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
F16H61/14 601A
B60W10/06
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-239004(P2012-239004)
(22)【出願日】2012年10月30日
(65)【公開番号】特開2014-88909(P2014-88909A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115200
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修之
(72)【発明者】
【氏名】西野 治彦
(72)【発明者】
【氏名】岡野 宏
【審査官】
日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−295672(JP,A)
【文献】
特開平08−028688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/14,61/38−61/64
B60W 10/06
F16H 59/00−61/12,61/16−61/24
61/66−61/70,63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクコンバータとロックアップクラッチとを有し、減速時に所定以上のエンジン回転数のときにフューエルカットを行うロックアップクラッチ制御装置であって、
車両の減速時に、
トルクコンバータのタービン回転数が所定値r2以上の場合にはロックアップクラッチを解放し、
トルクコンバータのタービン回転数が所定値r2未満の場合にはロックアップクラッチを締結し、
その後、ロックアップクラッチの締結又は開放状態を維持しながらエンジン回転数がr2より小さい所定値r1未満になったときに、フューエルカットの終了およびロックアップクラッチが締結されている場合にロックアップクラッチの解放を行う、制御を行うロックアップクラッチ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速走行中に減速したときに燃費向上し得る自動変速機等のロックアップクラッチ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の減速時に燃費供給を止めるフューエルカットを行うことで燃費向上が図られている。このフューエルカットではエンジン回転数が所定回転以上のときに作動し、所定回転数を下回るときにはエンジン回転が復帰する。
【0003】
従来、トルクコンバータとロックアップクラッチとを有する自動変速機や無段変速機(以下、「自動変速機等」)において、さらなる燃費向上のために減速時にロックアップクラッチを係合させることでエンジン回転数を高めに保持し、より低い車速までエンジンのフューエルカットする時間を延長させる方法が存在する(例えば特許第4526379号公報参照)。
【0004】
しかしながら、減速時のロックアップでエンジンの回転数を高くするとエンジンのメカロスが増大し、車両の走行抵抗が増大するために、ロックアップなし時に比べて車両の減速度が大きくなる。したがって、必要以上に車速が低下し、車速を維持するためや所望位置に到達するために運転者が再度アクセル操作を行ってしまって、結果的に見ると減速時のロックアップをしている方が燃費を悪化させる場合もあり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4526379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み創作されたものであり、ロックアップによる過度の減速を防止しつつフューエルカット時間を長くとることができる自動変速機等のロックアップクラッチ制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、トルクコンバータとロックアップクラッチと有し、減速時に所定以上のエンジン回転数のときにフューエルカットを行う変速機の変速制御装置を提供する。この変速制御装置では車両の減速時に、トルクコンバータのタービン回転数が
所定値r2以上の場合にはロックアップクラッチを解放し、トルクコンバータのタービン回転数が
所定値r2未満の場合にはロックアップクラッチを締結し、
その後、ロックアップクラッチの締結又は開放状態を維持しながらエンジン回転数が
r2より小さい所定値r1未満になったときに、フューエルカットの終了およびロックアップクラッチが締結されている場合にロックアップクラッチの解放を行う。
【発明の効果】
【0008】
本発明のロックアップクラッチ制御装置では元来、減速時にはロックアップクラッチを締結し、さらに減速時にエンジンが所定回転数以上であることを条件にフューエルカットを実行する制御構成を有していたが、上述するようにロックアップにより過度に減速してしまい再度アクセル操作を行うことを防止する必要があった。このため本発明では、ある程度以上の高速域ではロックアップしなかった場合、エンジン回転数がフューエルカット復帰条件を下回るほどは降下せず、ロックアップさせないことによる燃費低下よりもフューエルカット条件を維持することによる燃費向上の利点が大きいことがわかった。そこで、本発明ではタービン回転数が高い高速域ではロックアップクラッチを解放しロックアップ非作動になる制御を行っている。
【0009】
一方、ある程度以下の低速域ではいずれにせよエンジン回転数がフューエルカット条件を下回ってエンジン回転が復帰するため従来通り、ロックアップによる燃費向上を優先することとしている。なお、ロックアップしなければエンジン回転数がフューエルカット条件を下回ってエンジン回転が復帰した場合、その状態で回転数減少中のタービンに同期しようとするとショックが大きいのでその点でもタービン回転数が低い低速域ではロックアップさせることが必要となる。
【0010】
このように本発明では、減速時にフューエルカットを行う車両の場合にタービン回転数に応じてロックアップ作動の有無を決定することで、ロックアップによる過度の減速を防止しつつフューエルカット時間を長くとることができる。その結果、燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】減速時にロックアップとフューエルカットとを実行した場合のタービン及びエンジン回転数の変化の時系列を示すグラフ図である。
【
図2】
図1の場合のエンジンおよびタービン回転の制御構成を示すフロー図である。
【
図3】減速時にロックアップを実行せず、フューエルカットを実行した場合のタービン及びエンジン回転数の変化の時系列を示すグラフ図である。
【
図4】本発明の場合のエンジンおよびタービン回転の制御構成を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る変速制御装置を説明する前提として減速時にロックアップとフューエルカットとを実行した場合のタービン及びエンジン回転数の変化と、そのときの従来のロックアップクラッチの制御方法について説明する。
【0013】
図1は減速時にロックアップとフューエルカットとを実行した場合のタービン及びエンジン回転数の変化の時系列を示すグラフ図である。タービン回転数は実線、エンジン回転数(E/G回転数)は点線で表されており、時間t1までは両者が重複している。車両がある程度の速度域で走行している場合、エンジン回転数とタービン回転数とは略同じ回転数である。一般に通常走行中は、ロックアップクラッチが係合しておりトルクコンバータのタービン及びポンプは直結状態になっている場合が多い。
【0014】
時間t0でアクセルOFFにより減速が開始
されると、これに応じてエンジン回転数とタービン回転数とが減少していく。減速を確認するとロックアップクラッチが作動する(元々、作動し係合している場合も同様)。ロックアップクラッチが解放された状態(ロックアップ非作動)の場合は後述の
図3で示すようにエンジン回転数が先行して減少し、タービン回転数がこれに追従して減少するのに対して、ロックアップクラッチが係合した状態(ロックアップ作動)の場合はエンジン回転数とタービン回転数とは同じ回転数を維持しながら減少していきタービン回転数の減少スピードが大きくなる。
【0015】
また、時間t0で減速が開始されるとフューエルカット(F/Cut)が実行される。フューエルカットとはエンジンブレーキ状態等において無駄な燃料消費を回避すべくエンジンへの燃料供給をカットする方法である。このフューエルカットは所定のエンジン回転数r1が上回っていることを条件に実行される(フューエルカット復帰の場合は後述)。エンジン回転数に下限を設けたのは所謂エンストを防止するためである。したがって、
図1のグラフ図は、時間t0でエンジン及びタービン回転数がr2であった状態で減速が開始し、両者同じ減少率で回転数が減少していきフューエルカット条件であるエンジン回転数r1まで到達する。フューエルカット条件であるエンジン回転数の下限値r1は1,000rpm前後である場合が多い。
【0016】
時間t1を経過すると、タービン回転数は引き続き減少する。一方、エンジン回転数は時間t1で前述のフューエルカット条件である下限値r1に到達するとフューエルカットが終了し再度、
燃料供給が行われる(F/Cut終了)。
図1では時間t1でエンジン回転数が一旦上昇している様子がわかる。
【0017】
図2では、
図1の場合のエンジンおよびタービン回転の制御構成を示すフロー図である。まず、減速開始判定としてアクセルOFFか否か判定する(STEP111)。これはスロットルON/OFF信号で判定される。アクセルOFFの場合にはロックアップ作動が実行されロックアップクラッチが係合する(STEP113)。
【0018】
次に、フューエルカット条件の判定が行われる(STEP115)。前述するようにフューエルカットはエンジン回転数が所定値r1を上回っていると実行され(F/Cut実行)、一旦所定値r1を下回ると終了し(F/Cut終了)、r3を超えると再び実行される(F/Cut復帰)ものである。例えばF/Cut終了するエンジン回転数r1は1,000rpm程度であり、再びF/Cut復帰するエンジン回転数r3は1,200rpm程度である。エンジン回転数がr1を上回る場合にはフューエルカットの実行がされる(STEP116)。一方、エンジン回転数がr1を下回るとフューエルカットが一旦終了し、エンジンへの
燃料供給が再開され(STEP117)、ロックアップクラッチが解放される(STEP118)。そして、エンジン回転数がr3を上回ると(STEP119)、再びフューエルカットが開始される(STEP120)。なお、
図1のグラフ図の例では
図2のSTEP120の
フューエルカット復帰はなされていない。
【0019】
以上、減速時にフューエルカットの実行およびロックアップ作動がなされる場合におけるエンジンおよびタービン回転数の変化と制御フローを説明してきたが、前述したように減速開始し、ロックアップ作動がなされた場合、エンジン回転数の減少に追従してタービン回転数が必要以上に減少してしまう場合がある。実際にはこのような場合、車両は運転者の予測よりも早く減速してしまったり、予想停止位置よりも手前で停止しそうになったりして、無駄に再度アクセルONする必要がある場合がある。
【0020】
このため本発明では高速域では減速時にロックアップ作動をさせないようにしている。
図3は減速時にロックアップを実行せず、フューエルカットを実行した場合のタービン及びエンジン回転数の変化の時系列を示すグラフ図である。
図3もタービン回転数は実線、エンジン回転数(E/G回転数)は点線で表されている。
【0021】
時間t0でアクセルOFFにより減速が開始すると、これに応じてエンジン回転数とタービン回転数とが減少していく。減速を確認しても
図1と異なりロックアップクラッチは作動させない(元々、作動し係合している場合は解放する)。ロックアップクラッチが解放された状態(ロックアップ非作動)の場合はエンジン回転数が先行して減少し、タービン回転数がこれに追従して減少する。
【0022】
また、時間t0で減速が開始されるとフューエルカット(F/Cut)が実行される。
図3のグラフ図は、時間t0でエンジン及びタービン回転数がr2であった状態で減速が開始し、エンジン回転数が先にフューエルカット条件であるエンジン回転数の下限値r1まで到達する。フューエルカット条件に到達する時間t2は遅くなる。したがって、ロックアップ作動させない場合の方が再度の燃料供給までの時間が遅く、高速域から減速する場合は通常、
フューエルカット終了まで到達することはなく常に
フューエルカット状態を維持できるため燃費性能が向上する。なお、フューエルカット条件であるエンジン回転数の下限値r1は
図1と同様、1,000rpm前後である場合が多い。
【0023】
一方、本発明ではフューエルカット終了に至る可能性のある低速域では
図1に示すように最初からロックアップ作動を実行する。低速域ではロックアップの有無にかかわらずエンジン回転数がフューエル条件を下回ってしまう結果になるので、ロックアップによる燃費向上を優先するためである。
【0024】
換言すれば、本発明では車両の高速域ではロックアップ作動させず
図3のようなエンジン・タービン回転数の変化をするように制御し、低速域ではロックアップ作動させて
図1のようなエンジン・タービン回転数の変化をするように制御している。
【0025】
図4では、本発明の場合のエンジンおよびタービン回転の制御構成を示すフロー図である。まず、減速開始判定としてアクセルOFFか否か判定する(STEP11)。これは
図2と同様にスロットルON/OFF信号で判定される。アクセルOFFの場合には車両が高速域を走行しているか低速域を走行しているかを判定する。具体的にはタービン回転数が所定値r2以上か否かを判定する(STEP12)。通常、r2は2,000〜2,500rpmである。
【0026】
タービン回転数がr2を上回っている場合は高速域としてロックアップ作動が実行されずロックアップクラッチが解放される(STEP13)。タービン回転数がr2を下回っている場合は低速域としてロックアップ作動が実行されロックアップクラッチが係合する(STEP14)。
【0027】
次に、フューエルカット条件の判定が行われる(STEP15)。前述するようにフューエルカットはエンジン回転数が所定値r1を上回っていると実行され(F/Cut実行)、一旦所定値r1を下回ると終了し(F/Cut終了)、r3を超えると再び実行される(F/Cut復帰)ものである。例えばF/Cut終了するエンジン回転数r1は1,000rpm程度であり、再びF/Cut復帰するエンジン回転数r3は1,200rpm程度である。エンジン回転数がr1を上回る場合にはフューエルカットの実行がされる(STEP16)。一方、エンジン回転数がr1を下回るとフューエルカットが一旦終了し、エンジンへの
燃料供給が再開され(STEP17)、ロックアップクラッチが解放される(STEP18)。そして、エンジン回転数がr3を上回ると(STEP19)、再びフューエルカットが開始される(STEP20)。
【0028】
以上、本発明のロックアップクラッチ制御装置では、減速時にフューエルカットを行う車両の場合にタービン回転数に応じてロックアップ作動の有無を決定することで、ロックアップによる過度の減速を防止しつつフューエルカット時間を長くとることができる。その結果、燃費を向上させることができる。
【0029】
以上、本発明のロックアップ制御装置についての実施形態およびその概念について説明してきたが本発明はこれに限定されるものではなく特許請求の範囲および明細書等に記載の精神や教示を逸脱しない範囲で他の変形例、改良例が得られることが当業者は理解できるであろう。