【発明が解決しようとする課題】
【0005】
筆者の解析によれば、平歯車においてピッチ誤差がある場合、歯形から歯形への接触点の移行がスムースにおこなわれず、摩耗や騒音等に対して悪影響を与えることがわかった。ここでは、この移行メカニズムをシミュレーションにより明らかにし、何が課題かについてその詳細を明らかにする。まず、移動メカニズムを解明するために開発した解析ソフトについて述べる。次に、移動メカニズムを明らかにし、摩耗や騒音等に対して悪影響を与える原因を明らかにする。具体的には、歯形と接触点の軌跡を明らかにし、各接触点での角速度比、すべり率、相対曲率等を求め特性を明らかにする。歯形誤差が無い場合は、インボリュート歯形のかみあい理論に基づき簡明に説明できる。接触点は、直線上で等角速度比を保ちながらリニア移動し、歯形から歯形への接触点の移行もスムースである。歯形誤差がある場合は、接触点は曲線上をノンリニアで移行、歯形から歯形への接触点の移行はスムースにおこなわれない。そして、歯形から歯形への接触点の移行する瞬間を除き、隣り合う歯形が同時に接触することはなく実質かみあい率1の状態となる。また、接触点軌跡領域は偏位し、歯先の角あたりが発生する。ここで重要なのは、角あたりを通してピッチ誤差の吸収がなされ、衝撃無く歯形から歯形への接触点の移行がおこなわれることである。しかしながら、角あたりはすべり率無限や相対曲率無限状態を示し摩耗、騒音を発生させる。次に、直線歯形修正がある場合の移動メカニズムを明らかにし、摩耗や騒音等が低減されるが、不充分であることを示す。
【0006】
まず、接触点の移行メカニズムを解明するために解析ソフトを開発した。その内容は、隣り合う歯形対に対する歯形と接触点の軌跡、接触点軌跡上の諸量の計算である。ピッチ誤差、歯形修正等が無い場合のインボリュート歯形の接触点は数式より求めることができる。しかしながら、ピッチ誤差、歯形修正等がある場合の接触点を接触点軌跡線の全領域に亘って数式より求めることは容易でなくここでは数値解析を用いた。
【0007】
図1は設計基準を示した説明図であり、101は歯車1、102は歯車2、103は歯車1軸、104は歯車2軸、105は設計基準面(XY平面)、106は設計基準点P、107は静止座標系(X、Y、Z)を表す。ここでは、主として設計基準面上で設計基準点を中心にかみあう歯形、接触点軌跡線そしてその線上の諸量を扱う。
【0008】
図2は一対2組(m,n)の隣り合う歯形の構成を示した説明図であり、201は歯形1m、202は歯形2m、203は歯形1n、204は歯形2n、205は歯形m対、206は歯形n対、207はピッチ誤差、208は歯底円1、209は歯先円1、210は歯底円2、211は歯先円2、212は回転、213は元歯形1mを表す。
図2に示すように一対2組(m、n)の隣り合う歯形を考え、m組205の歯形1m201にピツチ誤差207を与える。そして歯形2の組(歯形2m202,歯形2n204) を回転212させ歯形1に接触させる。この場合、一般にm、n組(歯形m対205、歯形n対206)のいずれかで歯面が接触する。回転と共に描く歯形と接触点の軌跡を求めれば、接触点の移行メカニズムが解明できる。諸量は評価値で、角速度比、すべり率1、2、相対曲率等である。接触点の移行時、すなわちn組(歯形n対206)の接触が終了してm組(歯形m対205)に移行するとき、衝撃的に移行するかどうかを含めそのメカニズムを直感的につかむことは難しい。後述するが、実際にはn組からm組に移行するとき、角あたりが発生しこれによりピッチ誤差等が吸収されて移行する。従って衝撃的に移行すると言うことではない。しかしながら、角あたりが発生するため、角速度比は移行するときに変化し、すべり率の一方は無限大になり、相対曲率も無限大となる。
【0009】
解析ソフトにおける接触点の解法を示す。歯形1G1および歯形2G2は歯形変数vと回転角φを変数として次の数式で表すことができる。また、歯形法線1n1、歯形法線2n2は次の数式で表すことができる。ここで,G1、G2、n1、n2はベクトルである。
(数1)
G1=G1(v1,φ1)
(数2)
G2=G2(v2,φ2)
(数3)
n1=n1(v1,φ1),
(数4)
n2=n2(v2,φ2)
接触点の条件式は次式で表せる。
(数5)
G1=G2
(数6)
n1=n2
以上の式では4変数に対して最終的にスカラーの3条件式が与えられる。従って、接触点の次式が求まる.接触点は計算上m,n組で求まるが、先に接触した方が実際の接触点となる。ここで,Qはベクトルである。
(数7)
Q=Q(φ1)
この式の解式を求めるのは難しいので、実際の解は数値計算で求める。数値計算では3次の計算が必要であるが、本ソフトでは2次の計算で収束させるアルゴリズムを開発した。これにより、大幅な時間短縮が計られた。
【0010】
角速度比は一般に一定であるが、接触点の移行時等は変化するので解式を求めておく必要がある。次に解析ソフトにおける角速度比の解法を示す。
図3は角速度比の一般解法を示す説明図であり、301は歯形法線、302は歯形法線2、303は交点P2、304は接触点Q、305は接触点Q2、306は距離はr1、307は距離 r2、308は半径 rg1、309は半径 rg2、310は角速度 ω1、311は角速度 ω2、312は歯車中心線を表す。角速度比は
図3を参照にして次式より求まる。これは接触点の位置と歯面法線N301方向により、最終的には歯面法線Nと歯車中心線O12(312)の交点の位置により決まることを示します。始めこの位置は設計基準点P106で一定であるが、接触点の移行時は接触点の位置と歯面法線方向が変化するため位置がP2(106)に変化し最終的に角速度比が変化する。ここで、片側が角あたりの場合の共通歯面法線は他方の歯面法線に従う。
(数8)
ω=ω1 / ω2=rg2 / rg1=r2 / r1
【0011】
歯形と接触点の軌跡のシミュレーション図は、回転と共に描く歯形と接触点の軌跡を示したものである。この図より接触点の移行メカニズムが解明できる。
図4はシミュレーション用歯面の図であり、401は歯面を表す。表1にシミュレーションに用いる歯車の基本的な諸元を示す。歯形は一般的なインボリュート歯形である。基準面の傾き(ねじれ角)が零になっているが、零でないヘリカルギヤの場合も同様な結論を得る。
【表1】
【0012】
図5はピッチ誤差無しの場合の歯形と接触点の軌跡のシミュレーション図であり、501は歯形1、502は歯形2、503は(順1)、504は(順2)、505は(順3)、506はピッチ、507は接触点軌跡線、508は回転を表す。ここで、(順1)は順番が1であることを表す。誤差無の場合はインボリュート歯形のかみあい理論に基づき簡明に説明できる。一対2組(m、n)の隣り合う歯形を回転させる。接触点はイニシャル時はn組の歯形が接し、回転と共に、図(順1)503〜(順3)505の順に移動する。ピツチ誤差が無い場合の特徴は、m、n組が同時に接触点を持つ区間(順2)504が存在することである。
【0013】
図6はピッチ誤差有りの場合の歯形と接触点の軌跡のシミュレーション図である。誤差有の場合、接触点の移行時の歯形と接触点の軌跡は、誤差無の場合に比べ大きく異なる。第1に、接触点の軌跡領域が歯先側に偏る。第2に接触点の軌跡線が途中で折曲がった形状を示す。第3に、ピツチ誤差が無い場合と異なり、移行時の瞬間を除き、m、n組に同時に接触点を持つことはない。すなわち、実質的なかみあい率は1であるとも言える。
図7は誤差符号が逆の場合の歯形と接触点の軌跡のシミュレーション図である。
図7に示すように、誤差符号が変化すると、接触点の軌跡領域の偏る方向が逆になる。また、折曲る方向も逆となり、設計基準点を中心に回転対称に似た形状を示す。
【0014】
図8は角あたりの説明図であり、801は角あたりを表す。ピッチ誤差有りの場合の大きな特徴は、接触点の移行時に角あたり801が発生し、これによりピッチ誤差が吸収されることである。また、
図9は2度接触の説明図であり、901は二度接触を表す。
図9に示すように、接触点の移行時に相手歯面の接触点では2度接触901する。以下の諸量計算は
図6の歯形の場合について計算したものである。
図10は角速度比の特性図である。
図10に示すように、接触点の移行時の角速度比は変化する。これによりトルク変動が発生する。
図11はすべり率の特性図である。
図11に示すように、接触点の移行時のすべり率は変化する。すべり率1が無限大、他方が1となる。これは、歯形上の歯先の角が継続して接触するため、歯車1速度方向と接触点軌跡線方向が一致し、すべり率1が無限大となるためである。
図12は相対曲率の特性図である。
図12に示すように、接触点の移行時の相対曲率は無限大となる。これは、歯形1上の角点の曲率が無限大となるため、相対曲率も無限大となるためである。
【0015】
前述のように角あたり領域では、角速度比は変化し、すべり率1は無限大となり、相対曲率は無限大となる。相対曲率が無限大と言うことは接触点での応力が無限大となることを意味する。実際には角部の変形を考慮した歯あたりによる応力で考えるが、それでも大きな値となる。角あたりの相手歯面は逆方向のすべりで2回接触する。これらは歯面に傷、摩耗、削り粉、グリース切れ等を発生させ大きな損傷を与える要因となると共に騒音の大きな要因となることを示す。なお、角あたり接触点のすべり方向により摩耗の程度に差があるように見えるが、すべり方向はピッチ誤差の符号や回転方向により異なる。
【0016】
次に、直線歯形修正が加えられている場合を考える。直線歯形修正は、騒音等を低減するため加えられる。
図13は直線歯形修正の歯形構成を示した説明図であり、1301は修正部、1302はカット領域、1303は歯形修正始点、1304は修正角を表す。修正歯形の修正始点を位置係数で示し、方向を修正角で示す。ここで、
(数9)
修正始点半径 = 歯先円半径−位置係数*歯直角モジュール
【0017】
図14は直線歯形修正の場合の歯形と接触点の軌跡のシミュレーション図であり、1401は(順4)を表す。
図14に示すように、直線歯形修正の場合も歯形修正がない場合の角あたりのような現象が見られる。歯形修正始点での両曲線の合わせ目でのあたりで、ここではこのあたりを頂角あたりとよぶ。図では、n組の通常の接触(順1)503から頂角あたり(順2)504、直線接触(順3)505の順を経てm組の接触(順4)1401への移行がおこなわれる。以下の諸量計算は
図14の歯形の場合について計算したものである。主としてこの頂角あたりによりピッチ誤差は吸収され接触点の移行がおこなわれる。接触線軌跡線は領域が偏り曲がりが生じる。この場合もn組の接触点からn組の接触点に接触点移行する瞬間を除き、m、n組で同時に接触点を持つことは無い。すなわち、実質的なかみあい率は1である。誤差符号が変化すると、接触点の軌跡領域の偏る方向が逆になる。また、折曲る方向も逆となり、設計基準点を中心に回転対称に似た形状を示す。
【0018】
図15は頂角あたり、直線接触、角あたの順を経て接触点の移行がおこなわれる場合のシミュレーション図であり、1501は(順5)を表す。頂角あたりによりピッチ誤差の吸収が足りない場合は、通常の接触から頂角あたり、直線接触、角あたの順を経て接触点の移行がおこなわれる。ここで、直線接触の区間は小さい。
図15は、修正角が小さい場合で、この現象が認められる。ここでは、通常の接触(順1)503から頂角あたり(順2)504、直線接触(順3)505、角あたり(順4)1401の順を経て接触点の移行がおこなわれる。
【0019】
図16は頂角あたりの説明図であり、1601は頂角あたりを表す。直線歯形修正の場合の大きな特徴は、
図16に示すように接触点の移行時に頂角あたり1601や角あたり等が発生し、これによりピッチ誤差が吸収されることである。また、接触点の移行時に相手歯面の接触点では2度接触する。
図17は角速度比の特性図である。
図17に示すように、接触点の移行時の角速度比は変化する。これによりトルク変動が発生する。
図18はすべり率の特性図である。
図18に示すように、接触点の移行時のすべり率は大きく変化する。すべり率1が無限大、すべり率2が1となる。これは、歯形上の角点が継続して接触するため、歯車速度1方向と接触点軌跡線方向が一致し、すべり率1が無限大となるためである。
図19は相対曲率の特性図である。
図19に示すように、接触点の移行時の相対曲率は無限大となる。これは、歯形上の角点の曲率が無限大となるため、相対曲率も無限大となるためである。
【0020】
前述のように頂角あたりや角あたり領域では、角速度比は変化し、すべり率1は無限大となり、相対曲率は無限大となる。相対曲率が無限大と言うことは接触点での応力が無限大となることを意味する。実際には角部の変形を考慮した歯あたりによる応力で考えるが、それでも大きな値となる。頂角あたりや角あたりの相手歯面は逆方向のすべりで2回接触する。これらは歯面に傷、摩耗、削り粉、グリース切れ等を発生させ大きな損傷を与える要因となると共に騒音の大きな要因となることを示す。
【0021】
以上のように、歯形修正無の場合は角あたりに起因する騒音や摩耗が発生する。歯先側に直線状に歯形修正されたインボリュート歯形の場合も、歯形修正無の場合に比べれば低騒音化や耐摩耗性に一定の効果があるが、類似の頂角や角あたりが発生し、低騒音化や耐摩耗性に対して不充分となる。
【0022】
この頂角や角あたりを回避し、騒音や摩耗性を良化させるのが、本発明が解決しようとする課題である。