特許第6205617号(P6205617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205617
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】自動変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/12 20100101AFI20170925BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   F16H61/12
   F02D29/02 311A
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-284207(P2012-284207)
(22)【出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2014-126157(P2014-126157A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115200
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修之
(72)【発明者】
【氏名】金中 克行
(72)【発明者】
【氏名】飯原 健司
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−340173(JP,A)
【文献】 特開2007−232069(JP,A)
【文献】 特開2012−31892(JP,A)
【文献】 特開2004−278718(JP,A)
【文献】 特開平3−96756(JP,A)
【文献】 実開平7−42415(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12,61/16−61/24,
61/66−61/70,63/40−63/50
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後進時に駆動輪にスリップとグリップとを繰り返す現象が発生しているか否かを判定する判定手段と、該手段により前記現象が発生していると判定した場合に、締結している摩擦要素を滑らせる手段と、を備え、
前記摩擦要素を滑らせる手段は、摩擦要素の締結油圧から低下させる油圧をエンジントルクが大きいほど小さくする制御であることを特徴とする自動変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される自動変速機の制御装置に関する。特に、後進時にスリップとグリップとを繰り返す現象が発生することによって駆動系部品に過大な負荷が掛かることを防止するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車体の重心が前方に位置する車両、例えば荷物を積載していない状態のFR駆動の軽トラックなどでは、アクセルペダルを踏み込んで後進しようとすると、路面と駆動輪との間の摩擦状態によっては駆動輪がスリップとグリップとを繰り返す現象が発生することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平7−42415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような現象が発生すると、デファレンシャルギヤ等の駆動系部品に大きな負荷が掛かるため、その分を見越して駆動系部品の強度を上げなければならない。その結果、重量やコストの増加を招いてしまう。
【0005】
特許文献1には、後進時の駆動力低減の制御方法が開示されているが、上記のように後進時に駆動輪がスリップとグリップとを繰り返す現象には対応できていない。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みて創案されたものであり、駆動系部品の重量やコストの増加を招くことなく、スリップとグリップとを繰り返す現象の発生により駆動系部品に過大な負荷が掛かることを抑制することができる自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の自動変速機の制御装置は、後進時に駆動輪にスリップとグリップとを繰り返す現象が発生しているか否かを判定する判定手段と、該手段により前記現象が発生していると判定した場合に、締結している摩擦要素を滑らせる手段と、を備え、前記摩擦要素を滑らせる手段は、摩擦要素の締結油圧から低下させる油圧をエンジントルクが大きいほど小さくする制御であることを特徴としている。
【0008】
かかる構成を備える自動変速機の制御装置によれば、車両が後進する際に、駆動輪がスリップとグリップとを繰り返す現象が発生すると、エンジントルクに応じて締結油圧を変化させて締結状態にある摩擦要素が滑らせるので、上記現象が速やかに収束する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、駆動系部品の重量やコストの増加を招くことなく、スリップとグリップとを繰り返す現象の発生により駆動系部品に過大な負荷が掛かることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態における自動変速機を搭載したFR駆動方式の車両の概略図である。
図2】本発明の実施の形態に係る自動変速機の制御装置の制御系を示す図である。
図3】R信号、駆動輪回転数およびアクセル開度を示すタイムチャートである。
図4】エンジントルクとブレーキ圧低下量との関係を設定したマップである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態に係る自動変速機の制御装置について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る自動変速機の制御装置を搭載したFR駆動方式の車両1を示している。図1において、2は内燃機関、3はオートマチックトランスミッション(以下「トランスミッション3」という。)、4はプロペラシャフト、5はデファレンシャルギヤ、6は駆動輪としての後輪、7はデファレンシャルギヤ5の出力を駆動輪6に伝達するドライブシャフト、8は従動輪としての前輪である。なお、図1に示さないが、駆動系全体の制御を司るECU(電子制御装置)も車両1に搭載されている。
【0012】
トランスミッション3としては、例えば、FR車用4速ATであって、図示しない遊星歯車と、クラッチおよびブレーキとの組み合わせで、前進4速、後退1速を実現する周知のものが適用される。
【0013】
図2は、本実施形態における制御系を示す図である。ECU11は、マイクロコンピュータを主体にして構成されたものであって、各種センサからの信号が入力され、それらの入力された信号および予め記憶している情報ならびにプログラムに基づいて演算を行い、その演算結果に応じて指令信号を各種のソレノイドバルブ等に出力するように構成されている。
【0014】
図2に示すように、ECU11には、トランスミッション3の回転数を検出する回転数検出センサ10の出力信号が入力される。ECU11は、この回転数検出センサ10の出力信号から駆動輪6の回転数を取得する。
【0015】
また、ECU11には、シフトレバーに設けられたシフト位置センサ12の出力信号が入力され、ECU11はこの出力信号から現在のシフトレンジを判定する。上記シフトレバーは、少なくとも車両を後進させるためのR(リバース)位置および車両を前進させるためのD(ドライブ)位置に移動できるようになっており、シフト位置センサ12は、シフトレバーがR位置にあるときECU11に「R信号」を出力し、シフトレバーがD位置にあるときECU11には「D信号」を出力する。
【0016】
図2において、16はエンジン2により駆動されるオイルポンプである。このオイルポンプ16から吐出供給される油圧は、レギュレータバルブ17にてライン圧に調圧され、ライン圧が切換バルブ、調圧バルブ、ソレノイドバルブ等の多数のバルブ類で構成されるトランスミッション3の油圧回路9に供給される。
【0017】
ECU11は、トランスミッション3の油圧回路9内のソレノイドバルブ等に指示電流を送信することで、各クラッチおよび各ブレーキに適宜の油圧を供給し、それぞれを個別に締結状態又は解放状態にすることで、要求される変速段を形成する。15はブレーキ(摩擦要素)であり、後進段形成時に油圧が供給されて締結される摩擦要素である。
【0018】
ECU11は、回転数検出センサ10の出力信号から得られる駆動輪6の回転数から後進時に当該駆動輪6にスリップとグリップとを繰り返す現象が発生しているか否かを判定する。すなわち、図3に示すように、時間t0において、運転者がシフトレバーをN、PレンジからRレンジに切換え、ECU11がシフト位置センサ12から「R信号」が出力されたことを検知すると、回転数検出センサ10の出力信号に基づき得られる駆動輪6の回転数変化に対してFFT(高速フーリエ変換)処理を行って、駆動輪6の回転数変化の周波数解析を行う。そして、あるレベル以上に得られた周波数が所定の周波数である場合は、駆動輪6がスリップとグリップを繰り返す現象が発生していると判定する。なお、上記所定の周波数は、車両によって最適値が異なるため、車両ごとに実験もしくはシミュレーションすることにより求められる。なお、後進時に駆動輪6にスリップとグリップとを繰り返す現象が発生している際に、駆動輪6の回転数の変動周波数が所定の周波数になることは周知の事実である。
【0019】
ECU11は、車両後進時に駆動輪6がスリップとグリップを繰り返す現象が発生していると判定すると、油圧回路9内のソレノイドバルブ等に指令信号を送信して、締結している摩擦要素であるブレーキ15を滑らせる(トルク伝達量を低下させる)制御を行う。このブレーキ15を滑らせる制御は、例えば、図4に示すようなマップに従って行われる。すなわち、エンジントルクに応じて低下させるべきブレーキ15の油圧Pdが決められ、ブレーキ15の締結油圧から油圧Pdだけ低下させる。ブレーキ15が滑り出すと、駆動輪6がスリップとグリップを繰り返す現象は速やかに収束する。なお、図4に示す例では、エンジントルクが大きいほど、低下させる油圧Pdは小さくなっている。
【0020】
このように、本発明の実施の形態に係る自動変速機の制御装置によれば、車両が後進する際に、駆動輪がスリップとグリップとを繰り返す現象を発生すると、ECU11がB2ブレーキ15を滑らせるので、当該現象は速やかに収束し、デファレンシャルギヤ5等の駆動系部品に過大な負荷が掛からなくなる。その結果、駆動系部品の強度を低めに設定することが可能となり、駆動系部品の重量やコストの低減が図られる。
【0021】
なお、駆動輪がスリップとグリップとを繰り返す現象は、エンジン2の出力をECUで強制的に低下させることで収束することが分かっているが、この技術は、車両に電子制御スロットルが採用されていることが前提となる。しかし、本発明の実施の形態に係る自動変速機の制御装置によれば、電子制御スロットルが採用されているか否かにかかわらず、駆動輪がスリップとグリップとを繰り返す現象を速やかに収束させることができる。
【0022】
既述の実施形態では、ブレーキ15を滑らせる制御は、図4に示すようなマップに従って低下させるべき油圧Pdが決められたが、ブレーキ15を滑らせる制御はこれに限定されず、種々の手法によって実現可能である。例えば、ECU11がトランスミッション3のブレーキ15の入力側と出力側との差回転に基づき適度な滑りが得られるような制御を実施するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、例えば、自動車に搭載される自動変速機の制御装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0024】
3 オートマチックトランスミッション(自動変速機)
5 デファレンシャルギヤ(駆動系部品)
6 駆動輪
9 油圧回路
10 回転数検出センサ
11 ECU
12 シフト位置センサ
15 ブレーキ(摩擦要素)
図1
図2
図3
図4