(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記インク室形成部材は、圧電素子からなる駆動壁と、隣接する一対の前記駆動壁間の空間によって形成されるインク室とが交互に配置されると共に、前記インク室内に臨む前記駆動壁の表面に駆動電極が形成され、該駆動電極に電圧を印加して前記駆動壁を変形させることによって、インクを吐出する前記インク室に吐出のための圧力を付与する構成であり、
前記個別電極は、前記開口部を介して前記駆動電極と電気的に接続されていることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッド。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
インク室形成部材の後端面に個別電極を形成する際、通常、蒸着法やスパッタンリング法によって個別電極のみをパターン形成する方法が採用される。このとき、インク室内の駆動電極と確実に電気的な接続ができるように、後端面に対して斜め方向から電極形成用金属の照射を行い、該金属をインク室内まで入り込ませることができるようにする必要がある。
【0010】
この場合、特許文献1記載のように、インク室形成部材の後端面に、各インク室から個別電極をそれぞれ反対方向に引き出すようにしたものでは、個別電極の引き出し方向毎に金属の照射方向を変えなくてはならない。このため、作業性の観点からすると、各個別電極は同一方向に引き出すように形成されることが望ましいといえる。しかし、個別電極を全て同一方向に引き出すと、非吐出インク室の個別電極のみを共通電極と電気的に接続させることが困難となる問題がある。
【0011】
また、インク室形成部材を作製する際、
図14に示すように、圧電素子を含む圧電基板101の上面からインク室となる溝102を研削加工し、この溝102の内面に駆動電極103を形成した後、溝102の上方をカバー基板104で塞ぐようにしたものがある。この場合、インク室102内の駆動電極103は、カバー基板104側の壁面には形成されないため、溝102の対向する両壁面102a、102aと、該壁面102a、102aに隣接する底面102bとに亘って繋がるような形状となる。
【0012】
このため、個別電極105は、
図15(a)に示すように、インク室102の底面102bのみと電気的に接続されるように引き出すか、(b)に示すように、駆動電極103の両壁面102a、102aの部分と底面102bの部分とに亘って電気的に接続できるように、インク室102の開口部周縁に沿って形成する必要がある。
【0013】
しかし、(a)に示すものでは、インク室の底面側からしか個別電極を引き出すことができない。このため、個別電極の引き出し方向は全て同一方向となり、特許文献1記載のように、吐出インク室と非吐出インク室とで引き出し方向が反対方向となるように個別電極を形成することができない問題がある。
【0014】
また、(b)に示すものでは、カバー基板側にも個別電極を引き出すことができるため、このような問題はないが、個別電極はインク室の開口部周縁を取り囲むように形成する必要があるため、必然的に電極幅は広くなる。このため、インク室が高密度になる程、隣接する個別電極間での短絡の危険性が増してしまう。また、短絡の危険を回避するために電極幅を細くすると、駆動電極との電気的接続の信頼性や電極幅が十分に確保できないことによる断線のおそれもある。従って、近年ますます要求されている高密度化には不向きであるという問題がある。
【0015】
そこで、本発明は、インク室形成部材の一面に配置される個別電極を、その引き出し方向と反対方向に電気的に引き出すことができる配線構造を持ったインクジェットヘッドを提供することを課題とする。
【0016】
また、本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
1.インク室の開口部と、該開口部から離れる方向に引き出された個別電極とが一面に配置されたインク室形成部材と、
前記インク室形成部材の前記一面に接合される基板とを備え、
前記基板は、前記インク室形成部材側の面に、前記個別電極と電気的に接続される第1の配線を有し、
前記第1の配線は、前記個別電極との接続部位から、該個別電極の引き出し方向と反対方向に延出していることを特徴とするインクジェットヘッド。
【0018】
2.前記インク室は、インクを吐出する吐出インク室と、インクを吐出しない非吐出インク室とが交互に配置されてインク室の列を形成してなり、
前記個別電極は、前記吐出インク室の前記開口部及び前記非吐出インク室の前記開口部からそれぞれ同一方向に引き出されており、
前記第1の配線は、前記非吐出インク室の前記個別電極と電気的に接続され、
前記基板は、前記吐出インク室に対応して該吐出インク室にインクを供給する貫通穴と、前記インク室形成部材側の面に、前記吐出インク室の前記個別電極と電気的に接続される第2の配線とを有し、前記非吐出インク室の前記開口部を塞いでおり、
前記第2の配線は、前記個別電極との接続部位から、前記第1の配線の延出方向と反対方向に延出していることを特徴とする前記1記載のインクジェットヘッド。
【0019】
3.前記インク室形成部材の前記一面及び前記基板の少なくともいずれかに、前記インク室の列方向に沿って延びる共通電極を有し、
前記第1の配線の他端側は、前記共通電極と電気的に接続されていることを特徴とする前記2記載のインクジェットヘッド。
【0020】
4.前記インク室形成部材は、圧電素子からなる駆動壁と、隣接する一対の前記駆動壁間の空間によって形成されるインク室とが交互に配置されると共に、前記インク室内に臨む前記駆動壁の表面に駆動電極が形成され、該駆動電極に電圧を印加して前記駆動壁を変形させることによって、インクを吐出する前記インク室に吐出のための圧力を付与する構成であり、
前記個別電極は、前記開口部を介して前記駆動電極と電気的に接続されていることを特徴とする前記1、2又は3記載のインクジェットヘッド。
【0021】
5.前記駆動電極は、一対の前記駆動壁の表面と前記インク室の底面とに亘って繋がるように形成され、
前記個別電極は、前記駆動電極の前記インク室の底面に形成された部位と電気的に接続されていることを特徴とする前記4記載のインクジェットヘッド。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、インク室形成部材の一面に配置される個別電極を、その引き出し方向と反対方向に電気的に引き出すことができる配線構造を持ったインクジェットヘッドを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0025】
(本発明の概要の説明)
本発明の具体的な実施形態の説明の前に、本発明の概要を説明する。
【0026】
図1は、本発明の概要を説明するインクジェットヘッドの一例を左右に分解して示す断面図である。
【0027】
図中、1はインク室形成部材、2は基板である。
【0028】
インク室形成部材1は、インクを吐出するインク室11を有している。ここでは、インク室形成部材1の前端面1a及び後端面1bに、それぞれインク室11の開口部11a、11bが配置されたものを例示している。
【0029】
インク室11の内部には駆動電極12が、例えば蒸着法、スパッタリング法又はめっき法等によって形成されている。ここでは、
図15(a)と同様に、インク室11の両壁面と底面とに亘って繋がるように形成された駆動電極12を示している。
【0030】
インク室形成部材1は後端面1bに個別電極13が、例えば蒸着法、スパッタリング法又はめっき法等によって形成されている。個別電極13は、駆動電極12のインク室11の底面部分に形成された部位と電気的に接続され、インク室11の開口部11bを通って後端面1bに引き出され、該開口部11bから離れる方向である図示下方に延びるように形成されている。従って、インク室形成部材1は、その一面である後端面1bに、開口部11bと個別電極12とが配置されている。
【0031】
基板2のインク室形成部材1側の面である表面2aには、配線21(第1の配線)が、例えば蒸着法、スパッタリング法又はめっき法等によって形成されている。基板2は、表面2aがインク室形成部材1の後端面1bに接着剤を介して接合されることにより、配線21の図示下側の端部を個別電極13と電気的に接続させている。そして、配線21は、個別電極13と電気的に接続される部位から、個別電極13の引き出し方向と反対方向である図示上方に向けて延出している。
【0032】
このように、本発明によれば、基板2の表面2aに形成される配線21によって、個別電極13を、その引き出し方向と反対方向である図示上方向に電気的に引き出すことができる。このため、インク室11内の駆動電極12をインク室形成部材1の外部に電気的に引き出す際の引き出し方向の自由度を向上させることができる。
【0033】
基板2に使用される材料は、配線の絶縁が可能であれば特に制限はないが、ガラス、シリコン、セラミックス、プラスチック等が挙げられる。中でも熱による寸法変化が少なく、比較的安価で、加工も容易である点でガラス製基板を用いることが好ましい。
【0034】
基板2は単層基板とするものに限らず、複数の層が積層されることによって形成されるものであってもよい。複数の各層は全て同材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。
【0035】
次に、本発明を適用した具体的なインクジェットヘッドの実施形態について説明する。なお、実施形態の理解を容易にするため、
図1に対応する構成の部位には、同一の符号を付してある。
【0036】
(第1の実施形態)
図2は、第1の実施形態に係るインクジェットヘッドの分解斜視図、
図3は、
図2に示すインクジェットヘッドの基板を表面側から見た図、
図4は、
図3中の(iv)−(iv)線に沿う断面を左右に分解して示す図、
図5は、
図3中の(v)−(v)線に沿う断面を左右に分解して示す図である。
【0037】
図中、H1はインクジェットヘッド、1はインク室形成部材、2はインク室形成部材1の後端面1bに接合される基板、3はインク室形成部材1の前端面1aに接合されるノズルプレート、4は基板2の背面側に接合され、基板2を介してインク室形成部材1に対して供給するインクを貯留するマニホールド部材、5は基板2に接続されるFPCである。FPC5は、外部配線部材の一例である。
【0038】
なお、
図1は、インク室形成部材1と基板2との間で左右に展開した状態を示している。
【0039】
インク室形成部材1は、圧電素子からなる複数の駆動壁14が並設されており、隣接する一対の駆動壁14、14間の空間によってインク室11を形成している。インク室11と駆動壁14とは交互となるように配置され、複数のインク室11が並設されることによって1列のインク室11の列を形成している。
【0040】
インク室11の列において、各インク室11は、インクを吐出する吐出インク室111と、インクを吐出しない非吐出インク室112によって構成されている。これら吐出インク室111と非吐出インク室112とは交互に並設されている。ノズルプレート3のノズル31は、吐出インク室111に対応する位置のみに形成されている。
【0041】
図4、
図5に示すように、インク室形成部材1の前端面1a及び後端面1bには、それぞれインク室11(吐出インク室111、非吐出インク室112)の各開口部11a、11bが配置されている。吐出インク室111において、一方の開口部11aはノズル31と連通するインクの出口側の開口部であり、他方の開口部11bは、インクが供給されるインク流入口である。各インク室11は、後端面1bに配置される開口部11bから、前端面1aに配置される出口側の開口部11aにかけてストレート状に形成されている。
【0042】
各インク室11内に臨む駆動壁14の表面には、Ni、Au、Cu、Al等の金属膜からなる駆動電極12が形成されている。駆動電極12は、インク室11内に臨む各駆動壁14、14の表面全面から、これら駆動壁14、14に隣接する底面(ここでは
図4、
図5中の下側の面)に亘って繋がるように形成されている。底面と対向する天面には駆動電極12は形成されていない。
【0043】
このインク室形成部材1は、六面体からなる所謂ハーモニカ型のインク室形成部材であり、駆動壁14を間に挟むように配置される各駆動電極12に、不図示の駆動信号発生回路(駆動IC)から所定電圧の駆動信号が印加されることによって駆動壁14が変形動作する。この駆動壁14の変形動作によってインク室11の容積が変化し、これにより吐出インク室111内に供給されたインクに吐出のための圧力変化が与えられ、ノズル31からインクが吐出される。
【0044】
ここで、このインク室形成部材1において、ノズルプレート3が接合される側の端面を「前端面」、それとは相反する端面を「後端面」と定義する。また、インク室形成部材1の前端面1a及び後端面1bと平行な方向であって該インク室形成部材1から離れる方向をインク室形成部材1の「側方」と定義する。
【0045】
インク室形成部材1の後端面1bには、各インク室11内の駆動電極12と電気的に接続された個別電極13が、各インク室11の開口部11bを通ってインク室11毎に個別に引き出されている。個別電極13の引き出し方向は全て同一方向であり、ここでは図示下方に向けて開口部11bから離れるように引き出されている。不図示の駆動信号発生回路(駆動IC)からの所定電圧の駆動信号は、個別電極13に対して印加され、該個別電極13を介して各駆動電極12に伝達される。
【0046】
インク室形成部材1の後端面1bには、共通電極15が形成されている。この共通電極15は、インク室11の列を挟んで、個別電極とは反対側となる図示上側に、該インク室11の列方向に沿って延びる直線状に形成されている。各個別電極13は、全て図示下方に引き出されているため、インク室形成部材1の後端面1b上で共通電極15とは非接触状態にある。
【0047】
基板2は、インク室形成部材1の後端面1bよりも大きな面積を持ち、インク室形成部材1の後端面1bに接着剤によって接合されている。基板2はインク室形成部材1よりも図示下側方に大きく張り出した張り出し部22によってFPC5との接続領域を形成している。
【0048】
基板2には、各吐出インク室111の開口部11bにそれぞれ対応する位置に、後述するマニホールド部材4の共通インク室41内のインクを、各吐出インク室111に供給するためのインク流路となる貫通穴23が、吐出インク室111の開口部11bと同一形状で、該吐出インク室111毎に個別に形成されている。この貫通穴23は、非吐出インク室112の開口部11bに対応する位置には形成されていない。従って、吐出インク室112の開口部11bは、基板2によって塞がれている。
【0049】
基板2の表面2aには、インク室形成部材1の各非吐出インク室112の個別電極13と電気的に接続される第1の配線21が、非吐出インク室112の配列ピッチと同一ピッチで形成されている。第1の配線21は、一端が非吐出インク室112の個別電極13と電気的に接続され、その他端側は該個別電極13の引き出し方向と反対方向に延出している。そして、当該非吐出インク室112の開口部11b上を通り、インク室11の列を跨いで、基板2の図示上方に延出している。
【0050】
また、同じく基板2の表面2aには、インク室形成部材1の各吐出インク室111の個別電極13と電気的に接続される第2の配線24が、吐出インク室111の配列ピッチと同一ピッチで形成されている。各第2の配線24の一端は、貫通穴23の近傍に配置され、吐出インク室111の個別電極13と電気的に接続されている。そして、その他端側は、個別電極13の引き出し方向と同一方向である基板2の図示下側の端部まで延び、FPC5との接続領域となる張り出し部22の表面2a側に配列されている。これにより、基板2の表面2aには、第1の配線21と第2の配線22とが、各個別電極13との電気的接続部位からの延出方向がそれぞれ反対方向となるように交互に配列されている。
【0051】
基板2の表面2aのインク室形成部材1との接合領域20a内には、インク室形成部材1の共通電極15に対応する位置に、基板2がインク室形成部材1の後端面1bに接合された際に、該共通電極15と電気的に接続される共通配線25が形成されている。共通配線25は、基板2の表面2a上をインク室11の列に沿って横方向に延び、一端が基板2の図示下側の張り出し部22に向けて屈曲し、該張り出し部22の表面2a側で、第2の配線22と配列されている。
【0052】
各第1の配線21の他端側は、基板2の表面2aにおいて、この共通配線25と電気的に接続されている。従って、各非吐出インク室112の駆動電極12は、インク室形成部材1の後端面1bに基板2が接合された際、個別電極13、第1の配線21及び共通配線25を介して、インク室形成部材1の後端面1b上の共通電極15と電気的に接続される。
【0053】
マニホールド部材4は、インク室形成部材1にインクを供給するインク供給手段の一例であり、基板2に対向する面がインク室形成部材1に形成された全ての吐出インク室111を取り囲む大きさで開口した箱型に形成され、該開口を取り囲む端面42によって基板2の背面2bに接着剤を介して接合されている。
【0054】
マニホールド部材4の内部は、インクが貯留される共通インク室41となっている。共通インク室41内のインクは、各貫通穴23を通って、対応する吐出インク室111内にそれぞれ供給される。
【0055】
FPC5は、基板2の表面2aの張り出し部22に異方性導電フィルム等によって接続され、不図示の駆動回路からの所定電圧の駆動信号を、該張り出し部22に配列された第2の配線24及び共通配線25にそれぞれ印加する。第2の配線24にそれぞれ印加された駆動信号は、インク室形成部材1の各吐出インク室111の個別電極13を介して各吐出インク室111内の駆動電極12に印加される。FPC5には駆動ICが実装されていてもよい。また、共通配線25は接地されていてもよい。
【0056】
以上のように構成されたインクジェットヘッドH1は、インク室形成部材1の後端面1bに配置される各個別電極13を、インク室11からの引き出し方向が全て図示下方向となるように形成したものであっても、基板2の表面2aに形成した第1の配線21を利用して、個別電極13の引き出し方向と反対方向に電気的に引き出すことができる。
【0057】
全ての個別電極13は、インク室11の矩形状の開口部11bの一辺のみから、該開口部11bから離れる同一方向に引き出し形成するだけでよい。このため、
図15(b)のように開口部11bの周縁を取り囲むように形成する必要がない。従って、隣接する個別電極13同士の短絡のおそれを低減できる。
【0058】
第1の配線21と第2の配線24は、個別電極13との接続部位から交互に反対方向となるように延出しているため、第1の配線21と第2の配線24同士の短絡のおそれも低減できる。このため、短絡回避のために配線幅を細くする等の必要がなく、断線の危険も低減できる。
【0059】
また、第1の配線21は、個別電極13との接続部位から、非吐出インク室112の開口部11b上を通って図示上方に延出しているため、隣接する吐出インク室111の開口部11bに露出する駆動電極12や個別電極13から十分離間させることができる。このため、短絡の危険を低減しつつ、インク室11の高密度化を図ることができる。
【0060】
(第2の実施形態)
図6は、第2の実施形態に係るインクジェットヘッドの分解斜視図、
図7は、
図6に示すインクジェットヘッドの基板を表面側から見た図、
図8は、
図7中の(viii)−(viii)線に沿う断面を左右に分解して示す図、
図9は、
図7中の(ix)−(ix)線に沿う断面を左右に分解して示す図である。
図2〜
図5に示した第1の実施形態に係るインクジェットヘッドH1と同一符号の部位は同一構成の部位を示しているため、ここでは相違する構成のみを説明し、その他の説明は第1の実施形態の説明を援用し、記載を省略する。
【0061】
このインクジェットヘッドH2では、各個別電極13が、各インク室11の開口部11bから、それぞれ同一方向である図示下側に向けて引き出されている点で、インクジェットヘッドH1と同一であるが、全てのインク室11が、インクを吐出する吐出インク室である点で、インクジェットヘッドH1と異なっている。
【0062】
基板2には、各インク室11の開口部11bに対応する位置に、それぞれ貫通穴23が個別に形成されている。各貫通穴23の開口面積は、各インク室11の開口部11bの開口面積よりも小さくなるように形成されている。このため、この貫通穴23は、インク流路を絞る絞り穴として機能している。
【0063】
第1の配線21と第2の配線24は、インク室11の列方向に沿って交互となるように配置され、且つ、その延出方向もそれぞれ反対方向となるように配列されている。
【0064】
すなわち、第2の配線24は、基板2の表面2aにおいて、この貫通穴23の近傍から基板2の図示下側の端部まで延び、基板2の張り出し部222の表面2a側に配列されている。
【0065】
一方、第1の配線21は、一端が、第2の配線24に対応するインク室11に隣接するインク室11の個別電極13と電気的に接続され、他端側は該個別電極13の引き出し方向と反対方向に引き出され、当該インク室11の開口部11bを跨いで、基板2の図示上方に延出している。
【0066】
基板2には、全てのインク室11に対応してそれぞれ貫通穴23が形成されているため、第1の配線21がインク室11の開口部11bを跨ぐ際、この貫通穴23の周囲を取り囲むように通過し、基板2の図示上側の張り出し部221の表面2a側に配列されている。すなわち、貫通穴23は、第1の配線21上に配置されている。
【0067】
FPCは、基板2の上側の張り出し部221に、第1の配線21と電気的に接続されるFPC51が接続され、基板2の下側の張り出し部222に、第2の配線24と電気的に接続されるFPC52が接続されている。
【0068】
以上のように構成されたインクジェットヘッドH2も、インクジェットヘッドH1と同様の効果を奏する。
【0069】
また、インク室11は全て吐出インク室であるが、第1の配線21と第2の配線24とは、隣接するインク室11で延出方向が反対方向となるように交互に引き出されているため、隣接するインク室11の各配線同士の短絡の危険を低減しつつ、インク室11の高密度化を図ることができる。
【0070】
(第3の実施形態)
図10は、第3の実施形態に係るインクジェットヘッドの分解斜視図、
図11は、
図10に示すインクジェットヘッドを基板の背面側から見た図、
図12は、
図11中の(xii)−(xii)線に沿う断面を左右に分解して示す図、
図13は、
図11中の(xiii)−(xiii)線に沿う断面を左右に分解して示す図である。
図2〜
図5に示した第1の実施形態に係るインクジェットヘッドH1と同一符号の部位は同一構成の部位を示しているため、ここでは相違する構成のみを説明し、その他の説明は第1の実施形態の説明を援用し、記載を省略する。
【0071】
このインクジェットヘッドH3は、インク室形成部材1の後端面1bにインク室11の開口部11bと個別電極13とが配置されている点で、インクジェットヘッドH1と同一であるが、複数のインク室11が配列されることによって構成されるインク室11の列が3列構造である点で相違している。すなわち、インク室形成部材1は、上から順にA列、B列及びC列のインク室11の列が平行に配置されている。
【0072】
A〜Cの各インク室11の列は、それぞれインクを吐出する吐出インク室111と、インクを吐出しない非吐出インク室112とが交互となるように並設されている。ノズルプレート3のノズル31は、各列の吐出インク室111に対応する位置のみに形成されている。
【0073】
インク室形成部材1の後端面1bには、各インク室11(吐出インク室111及び非吐出インク室112)内の駆動電極12と電気的に接続された個別電極13A〜13Cが、各インク室11の開口部11bを通ってインク室11毎に個別に引き出され、図示下方に延出している。A列の各個別電極13AはB列の手前で止まっている。B列の各個別電極13BはC列の手前で止まっている。
【0074】
各非吐出インク室112の駆動電極12と電気的に接続される共通電極15A〜15Cは、インク室11の列毎に、個別電極13A〜13Cとは反対側に、インク室11の列方向に沿って延びる直線状に形成されている。すなわち、A列の共通電極15Aは、A列の図示上側に形成され、B列の共通電極15Bは、A列とB列の間に形成され、C列の共通電極15Cは、B列とC列の間に形成されている。非吐出インク室112の各個別電極13A〜13Cは、各列の非吐出インク室112からそれぞれ図示下方に引き出されているため、インク室形成部材1の後端面1b上で共通電極15A〜15Cとは非接触状態にある。
【0075】
一方、基板2には、インクジェットヘッドH1と同様に、A〜C列の各吐出インク室111にそれぞれ対応する位置のみに、インク流路となる貫通穴23A〜23Cが個別に形成されている。従って、A〜C列の各非吐出インク室112の開口部11bは、基板2によって塞がれている。
【0076】
A〜C列の各非吐出インク室112の個別電極13A〜13Cと電気的に接続される第1の配線21A〜21Cは、該個別電極13A〜13Cとの接続部位から図示上方に延出し、共通電極15A〜15Cに対応する位置にそれぞれ形成された共通配線25A〜25Cと電気的に接続されている。
【0077】
また、A〜C列の各吐出インク室111の個別電極13A〜13Cと電気的に接続される第2の配線24A〜24Cは、該個別電極13A〜13Cとの接続部位から図示下方に延出し、基板2の図示下側の張り出し部22の表面2a側に配列されている。
【0078】
この第2の配線24A〜24Cの配線構造について更に詳細に説明する。
【0079】
A列の各吐出チャネル111の個別電極13Aと電気的に接続されるA列用の第2の配線24Aは、
図12に示すように、一端が貫通穴23Aの近傍に配置され、基板2の表面2aに第1の表面配線部24Aaを形成している。そして、その他端側は、該貫通穴23Aの内周面23Aaに沿って通過して、基板2の背面2bに引き出され、該背面2bに背面配線部24Abを形成している。
図12中の符号24Adは、貫通穴23A内を通り、第1の表面配線部24Aaと背面配線部24Abとを繋ぐ第1の貫通配線部である。
【0080】
基板2には、インク室形成部材1との接合領域20a内であって、基板2の張り出し部22に近接する部位に、新たな貫通穴26が貫通穴23Aと同一ピッチで配列されている。第2の配線24Aの背面配線部24Abは、貫通穴23Aから図示下方の貫通穴26に向けて延出し、基板2の背面2b上でB列及びC列を跨いでいる。そして、貫通穴26の内周面26aに沿って通過して、基板2の表面2aに再び引き戻され、該表面2aに第2の表面配線部24Acを形成している。
図12中の符号24Aeは、貫通穴26内を通り、背面配線部24Abと第2の表面配線部24Acとを繋ぐ第2の貫通配線部である。
【0081】
A列用の第2の配線24Aの第2の表面配線部24Acは、貫通穴26から図示下方に延出し、張り出し部22の表面2a側に配列されている。
【0082】
また、B列の各吐出チャネル111の個別電極13Bと電気的に接続されるB列用の第2の配線24Bは、
図13に示すように、一端が貫通穴23Bの近傍に配置され、基板2の表面2aに第1の表面配線部24Baを形成している。そして、その他端側は、該貫通穴23Bの内周面23Baに沿って通過して、基板2の背面2bに引き出され、該背面2bに背面配線部24Bbを形成している。
図13中の符号24Bdは、貫通穴26内を通り、第1の表面配線部24Baと背面配線部24Bbとを繋ぐ第1の貫通配線部である。
【0083】
基板2には、インク室形成部材1との接合領域20a外であって、基板2の下端部近傍の部位に、新たな貫通穴27が貫通穴23Bと同一ピッチで配列されている。第2の配線24Bの背面配線部24Bbは、貫通穴23Bから図示下方の貫通穴27に向けて延出し、基板2の背面2b上でC列を跨いでいる。そして、貫通穴27の内周面27aに沿って通過して、基板2の表面2aに再び引き戻され、該表面2aに第2の表面配線部24Bcを形成している。
図13中の符号24Beは、貫通穴27内を通り、背面配線部24Bbと第2の表面配線部24Bcとを繋ぐ第2の貫通配線部である。
【0084】
第2の配線24Bの第2の表面配線部24Bcは、貫通穴27から図示上方に向けて延出し、張り出し部22の表面2a側に配列されている。第2の表面配線部24Bcの他端は、インク室形成部材1との接合領域20aの手前で止まっている。
【0085】
C列の各吐出チャネル111の個別電極13Cと電気的に接続されるC列用の第2の配線24Cは、インクジェットヘッドH1と同様に、一端が貫通穴23Cの近傍に配置され、他端側が基板2の表面2a上を図示下方に向けて延出し、張り出し部22の表面2a側に配列されている。
【0086】
このインクジェットヘッドH3も、インクジェットヘッドH1と同様の効果を奏する。
【0087】
また、基板2にはインク流路とは異なる貫通穴26、27が形成されているが、貫通穴26は、インク室形成部材1の接合領域20a内に配置されているため、インク室形成部材1の後端面1bに基板2が接合される際、該後端面1bで塞がれ、インク室形成部材1と基板2との間に塗布された不図示の接着剤によって封止されるため、貫通穴26からマニホールド4内の共通インク室41のインクが漏れ出すことはない。このとき貫通穴26は、余剰の接着剤を流入させるいわゆるグルーガードとしても機能するため、余剰の接着剤がインク室11に侵入するおそれを低減することができる。
【0088】
一方、貫通穴27は、基板2の下端部近傍に配置されるため、この貫通穴27がマニホールド4の外部となるようにマニホールド4を形成すれば、同様に共通インク室41のインクが漏れ出すことはない。
【0089】
また、
図13に示すように、マニホールド4を基板2の大きさと同程度の大きさとなるように形成すれば、貫通穴27はマニホールド4の端面42で塞がれる。
図11において斜線で示す領域20bは、マニホールド4の端面42が接合される接合領域を示している。
【0090】
これによりマニホールド4の端面42に塗布された不図示の接着剤によって貫通穴27を封止することができる。従って、同様に貫通穴27から共通インク室41のインクが漏れ出すことはない。これによれば、マニホールド4をより大型化でき、それだけ共通インク室41の容量を増加させることができる。
【0091】
なお、このインクジェットヘッドH3では、A列の第2の配線24A及びB列用の第2の配線24Bを基板2の背面2bに引き出すために、インク流路を形成する貫通穴23A、23Bを兼用させている。これによれば、各第2の配線24A、24Bを基板2の背面2bに引き出すための専用の貫通穴を形成する態様に比べて、基板2の貫通穴の加工数を削減でき、それだけ基板2の強度低下を抑えることができるために好ましい態様である。
【0092】
貫通穴23A、23B内を通る各第2の配線24A、24Bは、該貫通穴23A、23Bの内周面23Aa、23Baに沿って通過しているため、貫通穴23A、23Bはほぼそのままの形状でインク流路として機能することができる。このため、インク流路としてのインクの流れを阻害することはない。
【0093】
しかも、貫通穴23A、23Bの内周面23Aa、23Baに沿う第1貫通配線部24Ad、24Bd、及び、貫通穴26、27の内周面26a、27aに沿う第2の貫通配線部24Ae、24Beは、基板2の表面2a及び背面2bに形成される第1の表面配線部24Aa、24Ba、背面配線部24Ab、24Bb及び第2の表面配線部24Ac、24Bcと同一材料で、なお且つ、ほぼ同等の厚みで形成することができるため、第1貫通配線部24Ad、24Bd及び第2の貫通配線部24Ae、24Beの部位で電気抵抗の増加を招くおそれもない。
【0094】
これら貫通穴23A、23Bの内周面23Aa、23Ba、及び、貫通穴26、27の内周面26a、27aに沿うように各配線を形成する場合、蒸着法、スパッタリング法又はめっき法を単独で使用することもできるが、蒸着法と電解めっき法との併用、又は、スパッタリング法と電解めっき法との併用によって形成することが好ましい。これら基板2を貫通する部位では、蒸着法、スパッタリング法又はめっき法単独では、貫通穴23A、23B、26、27の全長に亘って均一な金属膜を形成することが困難となる場合があるが、蒸着又はスパッタリング後に電解めっきすることで、貫通穴23A、23B、26、27の全長に亘って均一な金属膜を形成することができる。
【0095】
また、A〜Cの各列の吐出インク室111に対応する第2の配線24A〜24Cは、全て基板2の表面2a側に配列されるため、FPC5との電気的接続作業が容易である。
【0096】
更に、A列及びB列の各第2の配線24B、24Cは、基板2の背面2b側で他のインク室11の列を跨いでいるため、各インク室11の開口部11bから露出する駆動電極12や各個別電極13A〜13Cとの短絡のおそれがない。このため、短絡の危険を低減しつつ、インク室11の高密度化を図ることができる。
【0097】
なお、基板2の背面2bに引き出された各第2の配線24A、24Bは、マニホールド部材4の共通インク室41に臨んでいるため、直にインクと接触する。このため、インク室形成部材1に基板2を接合した後でマニホールド部材4を接合する前に、各第2の配線24A、24Bをインクに対して保護するための保護膜を形成しておくことが好ましい。
【0098】
保護膜としては、パラキシリレン及びその誘導体からなる被膜(パリレン膜という。)が好ましい。パリレン膜は、ポリパラキシリレン樹脂及び/又はその誘導体樹脂からなる樹脂被膜であり、固体のジパラキシリレンダイマー又はその誘導体を蒸着源とする気相合成法(Chemical Vaper Deposition:CVD法)により形成する。すなわち、ジパラキシリレンダイマーが気化、熱分解して発生したパラキシリレンラジカルが、インク室形成部材1の表面に吸着して重合反応し、被膜を形成する。
【0099】
パリレン膜には、種々のパリレン膜があり、必要な性能等に応じて、各種のパリレン膜やそれら種々のパリレン膜を複数積層したような多層構成のパリレン膜等を所望のパリレン膜として適用することもできる。
【0100】
パリレン膜は、インク室形成部材1と基板2とを接合した後であって、ノズルプレート3及びマニホールド部材4を接合する前に、これらインク室形成部材1と基板2に対して被覆形成することで、各インク室11内の駆動電極12はもちろんのこと、基板2上に露出している各配線をパリレン膜によってインクから保護することができる。
【0101】
このようなパリレン膜の膜厚は、1μm〜10μmとすることが好ましい。
【0102】
(その他の実施形態)
以上説明したインクジェットヘッドH3のインク室形成部材1は、3列のインク室11の列を有するインク室形成部材1を例示したが、インク室形成部材1が備えるインク室11の列数は2列であってもよい。この場合、A列とB列の2列を採用する態様、A列とC列の2列を採用する態様、B列とC列の2列を採用する態様とすることができる。
【0103】
また、インク室形成部材1のインク室11の列数は4列以上であってもよい。例えば、上述した2列のインク室11の列を、該インク室11の列と直交する上下方向に対称に形成することにより、4列のインク室11の列を有するインクジェットヘッドを容易に構成することができる。また、同様にして、インクジェットヘッドH3を、インク室11の列と直交する上下方向に対称に形成することにより、6列のインク室11の列を有するインクジェットヘッドを容易に構成することができる。
【0104】
インクジェットヘッドH2において、全ての配線を第1の配線21とし、全てを個別電極13の引き出し方向と反対方向に延出する態様であってもよい。この場合、FPC5は1枚で済む。
【0105】
インクジェットヘッドH1、H3では、インク室形成部材1の後端面1bに、共通電極15、15A〜15Cを形成し、基板2の表面2aに、この共通電極15、15A〜15Cと同様に直線状に延びる共通配線25、25A〜25Cを形成し、これらが重なり合うことで電気的に接続されるようにした。これによれば、複数の第1の配線21、21A〜21Cが電気的に接続される共通電極の電気抵抗を抑えることができるために好ましい態様である。しかし、この態様において、インク室形成部材1側の共通電極15、15A〜15C又は基板2側の共通配線25、25A〜25Cのいずれか一方のみを形成するだけでもよい。
【0106】
なお、以上の説明では、インク室形成部材1として、隣接するインク室11間の駆動壁14を圧電素子によって形成し、駆動壁14の変形によってインク室11に吐出のための圧力を付与するせん断モード型のインク室形成部材1を例示したが、本発明においてインクを吐出させるための具体的な構造は特に問わない。