特許第6205839号(P6205839)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6205839磁気冷凍装置用磁気作業物質および磁気冷凍装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205839
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】磁気冷凍装置用磁気作業物質および磁気冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   C22C 22/00 20060101AFI20170925BHJP
   F25B 21/00 20060101ALI20170925BHJP
   C22C 30/06 20060101ALI20170925BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20170925BHJP
   C22C 30/02 20060101ALI20170925BHJP
   C22C 30/04 20060101ALI20170925BHJP
   H01F 1/00 20060101ALI20170925BHJP
   B22F 1/00 20060101ALN20170925BHJP
   B22F 3/00 20060101ALN20170925BHJP
   B22F 3/10 20060101ALN20170925BHJP
【FI】
   C22C22/00
   F25B21/00 A
   C22C30/06
   C22C30/00
   C22C30/02
   C22C30/04
   H01F1/00
   !B22F1/00 R
   !B22F1/00 Y
   !B22F3/00 E
   !B22F3/10 F
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-106257(P2013-106257)
(22)【出願日】2013年5月20日
(65)【公開番号】特開2014-227558(P2014-227558A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山崎 久美子
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101974707(CN,A)
【文献】 織茂慎司、外3名,金属間化合物Sn1-xMxCMn3(M=Cr,Zn,Al)の超高圧力合成と磁気特性評価,日本セラミックス協会 2013年年会講演予稿集,日本,2013年 3月11日,1B24
【文献】 X.G.Zhao、外5名,Phase evolution and magnetocaloric effect of melt-spun Mn3Sn2-xMx(M=B,C;x=0-0.5) ribbons,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,米国,2012年 4月 1日,Vol.111 No.7,07A912-1-07A912-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00 − 49/14
F25B 21/00
H01F 1/00
B22F 1/00
B22F 3/00
B22F 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチペロブスカイト構造を有し、化学式Mn3+x1+y(ここで、Mは、Sn,Al,Ga,Zn,Cu,Ag,Niのグループ中から選択された1種または2種以上の元素である、−0.2≦x≦0.2、−0.2≦y≦0.2、0.5≦z≦1.5)であることを特徴とする磁気冷凍装置用磁気作業物質。
【請求項2】
前記Mに選択される2種の元素のうち少なくとも1種はSn,Al,Ga,Znの中から選択され、そのモル比はMの総量に対して75mol%以上であることを特徴とする請求項1に記載の磁気冷凍装置用磁気作業物質。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載の磁気冷凍装置用作業物質を用いたことを特徴とする磁気冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気冷凍装置用磁気作業物質、および磁気冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、使用環境が室温領域(本件では250Kから350Kの温度範囲とする)の冷凍技術、たとえば冷蔵庫、エアコン等において、冷媒による環境破壊が問題視されている。冷媒として広く使用されてきた特定フロンはオゾン層破壊の原因であるとして製造および輸入が禁止されている。オゾン層を破壊しにくい、あるいは破壊しないとして使用されてきた代替フロンにも地球への温暖化作用があり規制されつつある。そのような状況において、磁気冷凍の室温領域への応用が提案され技術検討されている。この技術は、磁気作業物質と呼ばれる磁性材料の磁気熱量効果を利用するためフロン類を使用することがない。さらにこの技術は、高効率で、小型、そして静音をも実現できる可能性があるとされ研究開発が続けられている。
【0003】
磁気冷凍装置の冷凍能力を向上するには、磁性材料の磁気熱量効果が大きいことが望まれる。磁気熱量効果は磁場の印加や除去による磁性材料内の磁気エントロピー変化によって生じる。磁場の変化による等温磁気エントロピー変化ΔSmは、磁化M、温度T、磁場Hを用いて、次のマクスウェルの式で求められる。
【0004】
【数1】
【0005】
すなわち、磁性材料の磁化−温度曲線の傾きの絶対値|ΔM/ΔT|が大きいほどその温度における発熱量や吸熱量が大きいといえる。磁性材料が強磁性体の場合キュリー点付近で大きな傾きが得られ、定性的には磁化が大きいほど傾きが大きくなると考えられる。大きな磁気熱量効果を示す磁性材料としてGd(ガドリニウム)が知られており、大きな磁化を有している。さらにGdはキュリー点が21℃であり室温領域にあるため、室温領域で大きな磁気熱量効果を示す。そのため室温磁気冷凍機の研究開発において磁気作業物質として広く使用されてきた。Gdのような一般的な磁性材料のほかに、キュリー点で不連続に磁化が変化する一次の磁気転移を示す特殊な磁性材料がある。このような磁性材料として、キュリー点における急激な磁化の変化により顕著な磁気エントロピー変化が得られる。このことから、磁気作業物質の磁性材料としてLa(Fe,Si)13系やLa(K,Na,Ca,Sr,Ba)MnOなどのメタ磁性体が注目されている。
【0006】
このような磁気作業物質は球形の粒または板などの形状にして、水などの熱交換液体とともに能動的磁気再生蓄熱器(Active Magnetic Regenerator:以下「AMR」という)を構成する場合が多い。AMRや熱スイッチ方式の磁気冷凍機において、磁気作業物質のキュリー点は、冷凍装置の動作に適した温度に合わせる必要がある。このため、磁気作業物質のキュリー点を制御できる材料系であることが重要である。たとえばGdはDyなどを添加することによりキュリー点を変化させられることが知られている。しかしながらGdもDyはいずれもレアアースでありコスト的に非常に高価な材料である。このため、実用化に向けてはGd系に替わる材料が望まれている。また、AMR方式においては、磁気作業物質は水などの液体に接触する。このため、上記のGd系やLa(Fe,Si)13系などの金属材料では防錆のためのめっきによる表面処理や水に触れない方法が検討されてきている。
【0007】
ただし、特許文献1に記載されるように、磁性材料の磁気熱量効果は磁気転移温度近傍でのみ大きな効果が得られるため、その温度から乖離する物質の作業効率が落ちるという問題がある。そこで、異なる磁気転移温度を有する2種類以上の磁性材料を混合することで広い動作温度範囲を確保する方法が特許文献1に開示されている。
【0008】
現在、磁気冷凍装置用磁気作業物質として最も有望とされているのはLa(Fe,Si)13系である。この系は特許文献2に記載されるように、キュリー点が室温付近にあり、且つ水素吸蔵量によりキュリー点を調節できるといった優れた特徴を有している。
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載のようなLa(Fe,Si)13系は、NaZn13型を形成するためにレアアースの1元素であるLaが必須である。Laは電子部品、磁性製品、エネルギーデバイス等に使用され、重要な役割を果たしている。Laを含む鉱石の産地は偏在することが分かってきており産出国に大きく依存するようになっている。
【0010】
レアアースを含まず、かつ室温領域にキュリー点を有するメタ磁性体はあまり多く確認されていない。その中で際立った磁気転移を示す物質として、MnMX(ここでMはSn,Al,Ga,Zn,Cu,Ag,Niである。XはC,Nである)の一連の化合物が挙げられる(非特許文献1)。この化合物の基本構造は立方晶(Pm3m)であり、磁気配列に応じて正方晶、三方晶などに変化する。Xに相当するCおよびNは、結晶中の体心位置に存在することが知られている。
【0011】
上述のMnMX系化合物の一例として特許文献3が挙げられる。特許文献3ではXに相当する元素としてNを必須として、磁性材料、すなわち磁気冷凍装置用磁気作業物質に応用できるとしている。特許文献3に記載されている材料系のキュリー点は−200℃程度と室温を大きく下回っており、低温領域で磁気冷凍用途に使用できる材料を示している。より具体的には、液体酸素や液体窒素、液体水素、液化天然ガスなどの製造・貯蔵に用いることができるとしている。
【0012】
一方、Xに相当する元素としてCを選択したMnSnCなどは室温領域にキュリー点を有するため、室温磁気冷凍用の磁気作業物質として期待されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−204234号公報
【特許文献2】特許4240380号公報
【特許文献3】特開2009−54776号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】安達健五著、「化合物磁性 遍歴電子系」、裳華房、p.284
【非特許文献2】Yongchun Wen、外5名、「Influence of carboncontent on lattice variation, magnetic and electronic transport properties inMn3SnCx」、AppliedPhysics Letters、(米国)、vol.96、041903、(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1に説明されるように、室温領域においてキュリー点の異なる複数の材料が求められるが、MnMX系においてその設計の幅は極めて限られていた。
【0016】
MnMX系の磁気冷凍装置用磁気作業物質への利用を提案している特許文献3ではNの一部置換物としてH,B,Cを挙げている。望ましい実施形態としては、H,B,Cの置換量はNに対して20%以下に抑えるのが良いとしている。Bを積極的に利用しようという技術ではなく、キュリー点も室温領域とはかけ離れた低温領域に存在している。
【0017】
本発明は、上記を鑑みてなられたものであり、主たる構成元素をMnにすることによって十分な磁気熱量効果が得られるとともに、レアアースを使用しないことによって、大幅に製造コストが低く、民生分野に広く適用出来る磁気冷凍装置用磁気作業物質および磁気冷凍装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の磁気冷凍装置用磁気作業物質は、化学式Mn3+x1+y(ここで、Mは、Sn,Al,Ga,Zn,Cu,Ag,Niのグループ中から選択された1種または2種以上の元素である、−0.2≦x≦0.2、−0.2≦y≦0.2、0.5≦z≦1.5)であることを特徴とする。このようにすることにより、室温領域(250Kから350Kとする)にキュリー点を有する磁気冷凍装置用磁気作業物質を得ることができる。
【0019】
また、本発明の磁気冷凍装置用磁気作業物質は、Mに選択される2種の元素のうち少なくとも1種はSn,Al,Ga,Znの中から選択され、そのモル比はMの総量に対して75mol%以上であることが好ましい。このようにすることにより、十分な磁気熱量効果が得られる。
【0020】
さらに、本発明の磁気冷凍装置は、上述するような磁気冷凍装置用磁気作業物質を用いることが好ましい。こうすることにより、主相組成の主たる構成元素がMnであるので、大幅に製造コストが低く、民生分野に広く適用出来る磁気冷凍装置を得ることが出来る。
【発明の効果】
【0021】
本発明の磁気冷凍装置用磁気作業物質は、主たる構成部材がMnであるので、レアアースを使用しない。このため、十分な磁気熱量効果が得られるとともに、従来の磁気冷凍装置用磁気作業物質と比べて大幅に製造コストが低く、民生分野に広く適用する磁気冷凍装置を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る磁気冷凍装置を示す模式図である。
図2】本発明の実施例2に係る磁場の強さと磁気エントロピー変化ΔSmとの関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに以下に記載した構成要素は、適宜組み合わせることができる。
【0024】
<実施形態1>
本実施形態の磁気冷凍装置用磁気作業物質は、化学式Mn3+x1+y(ここで、Mは、Sn,Al,Ga,Zn,Cu,Ag,Niのグループ中から選択された1種または2種以上の元素である、−0.2≦x≦0.2、−0.2≦y≦0.2、0.5≦z≦1.5)であることが好ましい。このようにすることにより、室温領域(250Kから350Kとする)にキュリー点を有する磁気冷凍装置用磁気作業物質を得ることができる。Mn量の化学量論関係からのずれを表す組成パラメータxは、−0.2から0.2の範囲内であることが好ましい。この組成パラメータxが、−0.2より小さい場合は磁化を担うスピンを形成するMnが少なくなるため、十分なΔSmが得られなくなる。またこの組成パラメータxが0.2より大きくなる場合、キュリー点が室温領域(ここでは250Kから350Kとする)を越えてしまい、実用上の利点が薄れることになる。M量の化学量論関係からのずれを表すパラメータyは、−0.2から0.2の範囲内であることが好ましい。この組成パラメータyが、−0.2より小さい場合キュリー点が室温領域(ここでは250Kから350Kとする)を越えてしまい、実用上の利点が薄れることになる。またこの組成パラメータyが0.2より大きくなる場合、余分なMにより偏析や意図しない化合物を生じやすくなり、十分なΔSmが得られなくなる。B量の化学量論量からのずれを表すパラメータzは、0.5から1.5の範囲内であることが望ましい。この組成パラメータzが、0.5より小さい場合は十分に安定したアンチペロブスカイト構造を形成することができず、小さなΔSmしか得られない。またこの組成パラメータzが1.5より大きくなる場合、余分なBにより意図しない化合物を生じやすくなり、十分なΔSmが得られなくなる。なお、ここで言う十分な磁気熱量効果とは、磁場を0から8.0×10 A/mまで変化させたときのΔSmが1.0J/kgK以上であることである。
【0025】
また、本実施形態の磁気冷凍装置用磁気作業物質は、化学式Mn3+x1+y(ここで、Mは、Sn,Al,Ga,Zn,Cu,Ag,Niのグループ中から選択された1種または2種以上の元素である、−0.2≦x≦0.2、−0.2≦y≦0.2、0.5≦z≦1.5)であって、Mに選択される2種の元素のうち少なくとも1種はSn、Al、Ga、Znの中から選択され、そのモル比はMの総量に対して75mol%以上であることが好ましい。このようにすることにより、1.0J/kgK以上のΔSmが得られるようになり、Gd以上の磁気エントロピー変化ΔSmを得ることができる。
【0026】
本実施形態の磁気冷凍装置用磁気作業物質は、AMR方式の磁気冷凍装置に用いることが好ましい。こうすることにより、主たる構成元素がMnであるので、十分な磁気熱量効果が得られるとともに、レアアースを使用せずに、大幅に製造コストが低く、民生分野に広く適用出来る磁気冷凍装置用磁気作業物質を用いた磁気冷凍装置を得ることが出来る。磁気作業物質を使用する際は、磁気作業物質に耐磨耗性や防錆性能を付与するために適切な樹脂等を混練して形成しても良い。
【0027】
本実施形態の磁気冷凍装置用磁気作業物質は、例えば、下記の方法によって製造することができる。
【0028】
まず、磁気冷凍装置用磁気作業物質となる磁性材料の原料を所定量秤量し、混合した後、700℃以上1000℃以下の温度にて焼成を行う。焼成は金属材料が酸化しないよう、酸素分圧が低い雰囲気が好ましい。例えば、Arガス,Nガス,Hガス等であって、材料が酸化しにくい雰囲気下であれば良い。各製造工程は、従来からの粉末冶金の製造方法を利用することができる。
【0029】
上記で得られた磁気作業物質となる磁性材料を、例えば球形の粒状または板状、あるいは、水などの熱交換液体の流路を備えた円筒状またはハニカム状に成形する。得られた成形体を、例えばAr雰囲気などOの少ない雰囲気下の条件で、焼成を行えばよい。また、磁気作業物質となる磁性材料に耐磨耗性や防錆性能を付与するために適切な樹脂等を混練して形成しても良い。あるいは、成形体(焼結体)にめっきによる表面処理も防錆に対し有効である。こうすることにより冷熱を運搬する熱交換流体との接触において十分安定に動作する磁気作業物質を作製することができる。
【0030】
<実施形態2>
本発明の別の実施形態の磁気冷凍装置についてその一例を説明する。磁気冷凍装置は、例えば、図1のような構成により実現できる。実施形態1で得られた略球状をした複数の磁気冷凍装置用磁気作業物質1を充填したAMRベッド5を用意し、その両端に熱交換ユニット4,4‘を設置する。その上で、まず、熱交換流体2がAMRベッド5の低温端熱交換ユニット4’にある間に、磁界を変化させるためのユニット、ここではマグネット3を用いて断熱的な磁場印加を行う。こうすることにより磁気冷凍装置用磁気作業物質1の温度を上昇させる。この状態で熱交換流体2を高温端熱交換ユニット4へ押し流すと、熱交換流体2が発熱した磁気冷凍装置用磁気作業物質1と熱の授受を行いながら移動する。こうすることで、AMRベッド5の両端に温度差を生じさせることができる。このとき高温端で得られる熱量を、高温放熱ユニット6を介して外部に放熱させ、熱交換流体2の温度を初期の状態まで下げる。続いて印加されていた磁場を除去すると、今度は逆に磁気冷凍装置用磁気作業物質1が熱交換流体2から熱を吸収するため熱交換流体2の温度が初期の状態よりさらに低下する。ここで得られる冷熱を、冷熱放熱ユニット7を介して対象(例えば冷却したい室温の空気)を熱交換させる。放熱後の熱交換流体2は初期の温度に戻る。このため、上記のサイクルを繰り返すことで連続した運転を行うことが出来る。
【実施例】
【0031】
<実施例1〜5および比較例1〜2>
実施例1〜5および比較例1〜2は、Mn3+x1+yにおいて、M元素としてSnを使用した。実施例1は、最終的に得られる組成比がx=0、y=0、z=0となるように原料粉末を調合し、焼成を行った。焼成は850℃において10時間の焼成を行って試料を得た。焼成はAr雰囲気中、大気圧下において行った。また、実施例2〜5は、表1に記載した組成比になるように原料粉末を調合した以外は、実施例1と同様に行った。さらに、比較例1及び2は、表1に記載した組成となるように原料粉末を調合した以外は、実施例1と同様に行った。
【0032】
<実施例6〜11および比較例3〜4>
実施例6〜9および比較例3〜4は、Mn3+x1+yにおいて、M元素としてSnを使用した。最終的に得られる組成がz=1となるように原料粉末を調合した上で、実施例6は、Mn量とM量の化学量論関係からのずれを表す組成パラメータxが、―0.2,yが0.2となるように材料を調合した。同様に実施例7は、x=−0.1,y=0.1、実施例8は、x=0.1,y=−0.1、実施例9は、x=0.2,y=−0.2となるように材料を調合した。また、比較例3並びに4は、Mn量とM量の化学量論関係からのずれを表す組成パラメータxが−0.3並びに0.3、yが0.3並びに−0.3となるように材料を調合した。さらに、実施例10はxが0.2、yが0.0、実施例11はxが0.0、yが0.2となるように材料を調合した。実施例6〜11および比較例3〜4は、原料粉末の調合以外は実施例3と同様に行った。
【0033】
<実施例12〜14>
実施例12〜14は、Mn3+x1+yにおいて、M元素をSnに代えてAl,Ga,Znを使用した。最終的に得られる組成がz=1となるように原料粉末を調合した上で、実施例12は、Mn量とM量の化学量論関係からのずれを表す組成パラメータxが、0.0,yが0.0となるように材料を調合した。同様に実施例13は、x=0.1,y=−0.1、実施例14は、x=0.0,y=0.0となるように材料を調合した。実施例12〜14は、原料粉末の調合以外は実施例3と同様に行った。
【0034】
<実施例15〜20>
実施例15〜20は、Mn3+x1+yにおいて、M元素としてSnとさらにAl,Ga,Zn,Ni,Cu,Agのうち1種以上を使用した。実施例15は、Sn0.9Al0.1、実施例16は、Sn0.9Ga0.1、実施例17は、Sn0.75Zn0.2Ni0.05、実施例18は、Sn0.9Ni0.1、実施例19は、Sn0.9Cu0.1、実施例20は、Sn0.9Ag0.1とした以外は、実施例3と同様に行った。
【0035】
<比較例5>
比較例5では、市販されている粒状の金属Gdを用意した。
【0036】
実施例ならびに比較例の各試料のキュリー点Tc、磁気エントロピー変化ΔSmは振動試料型磁力計(VSM)を用いて測定した。各試料を4.0×10A/m磁場中で液体窒素温度から昇温させて磁化−温度曲線を測定し、曲線の傾きからキュリー点Tcを算出した。次に、キュリー点Tcを中心とした11点の温度に対し、各温度に各試料を保持し、磁場を変えながら等温磁化測定を行い、マクスウェルの式から磁気エントロピー変化ΔSmを求めた。
【0037】
【数2】
【0038】
主生成物の同定は、株式会社リガク製X線回折装置(RINT−2500HK)を用いてCuKα1放射線(1.54056Åの波長)によりXRD回折パターンを測定することにより行った。X線回折による評価は15℃から30℃の温度範囲で行った。得られたXRD回折パターンにおいて、いずれの実施例も、得られた主生成物はアンチペロブスカイト構造であることが確認された。同時に副生成物として僅かにMn−M化合物、MnO、Mn−B化合物、M−B化合物を生成していることが確認された。この副生成物は何れも主相の10mol%以下であった。
【0039】
当初、Mn3+x1+yが磁気熱量効果を有する物質であり、なおかつ室温領域(ここでは250Kから350Kとする)にキュリー点を有することは予想に反することであった。なぜなら、Bは周期表ではCの隣に位置する元素であるが、特に磁気冷凍装置用磁気作業物質においてCとは一線を隔する元素であることが知られているからである。それは現在最も強力な磁石とされているNd−Fe−B系磁石の例を見ても明らかである。磁性発現の起源は電子スピンであり、電子状態は磁気冷凍装置用磁気作業物質を設計する上で最も重要なパラメータである。よって、周期表上で隣接するからといって置換した場合に、置換する前と近い磁気特性が得られるわけではない。しかしながら、MnMX系は特異的な系であり、例えばMnSnCにおいてCのスピンへの寄与は局所的であることが知られている。即ち、このMnSnC系ではMnやSnに比較して、CはMnスピンへの寄与度が低く、一方結晶格子サイズへの寄与が大きい。このため、電子状態は異なるもののサイズの近い他の元素、例えばBと置換することが出来るのではないかと考えられていた。これまでにMnMX系においてX=Bとした報告例はなく、本件が初の報告例となっている。
【0040】
表1に実施例1〜20および比較例1〜5の結果を纏めて示す。表中のx、y、zは化学式におけるMn量、M量、B量の化学量論関係からのずれを表す組成パラメータである。Tcはキュリー点である。ΔSmは磁気エントロピー変化である。ここで磁気エントロピー変化ΔSmは磁場を0から8.0×10A/mまで変化させたときの変化量である。なお、通常磁気エントロピー変化ΔSmは負の値で得られるのでマイナスをつけて示した。
【0041】
【表1】
【0042】
比較例1では、アンチペロブスカイト構造が形成されず、低い磁気エントロピー変化ΔSmしか得られなかった。比較例2では、余分なBにより意図しない化合物を生じやすくなり、十分な磁気エントロピー変化ΔSmが得られなかった。
【0043】
また、比較例1〜2および実施例1〜5において室温領域(ここでは250Kから350Kとする)にキュリー点Tcが存在することが確認された。
【0044】
比較例3ではMn量とM量の化学量論関係からのずれを表す組成パラメータx、yが好ましい範囲から外れ、このため比較例1と同様に十分な磁気エントロピー変化ΔSmが得られなかった。比較例4ではキュリー点Tcが室温領域より高くなり、実用上の利点が薄れてしまった。また、比較例5のGdは各実施例の評価基準として挙げた。Gdはキュリー点Tcが室温領域であり磁気エントロピー変化ΔSmが十分に高い特性を有するものの、レアアースであるため非常に高価であるため工業用に適さない。
【0045】
表1から分かるように、レアアースを用いることなくGdの2分の1程の磁気エントロピー変化ΔSmが得られている。なお、これらの実施例の磁気作業物質サンプルにさらに磁場を印加した際は、磁場に比例して磁気エントロピー変化ΔSmがさらに増大する様子が観察された。実施例2に磁場を印加して、磁場の強さと磁気エントロピー変化ΔSmとの関係を図2に示す。
【0046】
以上のように、本発明を用いたいずれの実施例でも、室温領域において大きなエントロピー変化が生じることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上のように、本発明に係る磁気冷凍装置用磁気作業物質および磁気冷凍装置は、レアアースおよびフロンや代替フロン等を使用しない冷凍技術に有用である。
【符号の説明】
【0048】
1・・・磁気冷凍装置用磁気作業物質、2・・・熱交換流体、3・・・マグネット、4・・・高温端熱交換ユニット、4‘・・・低温端熱交換ユニット、5・・・AMRベッド、6・・・高熱放熱ユニット、7・・・冷熱放熱ユニット
図1
図2