特許第6205851号(P6205851)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205851
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】車両電源装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 16/033 20060101AFI20170925BHJP
   B60R 16/03 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   B60R16/033 B
   B60R16/03 T
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-114941(P2013-114941)
(22)【出願日】2013年5月31日
(65)【公開番号】特開2014-234000(P2014-234000A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】谷内 博一
【審査官】 田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−101590(JP,A)
【文献】 特開2013−038849(JP,A)
【文献】 特開2014−015133(JP,A)
【文献】 特開2012−080676(JP,A)
【文献】 特開2011−162065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/033
B60R 16/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたエンジン始動用モータに電力を供給して作動させるとともに、前記エンジン始動用モータ以外の車載電装機器群に電力を供給するバッテリと、
前記バッテリから前記車載電装機器群へと供給される電流を昇圧する電力補助装置と、を備える車両電源装置であって、
前記車載電装機器群は、前記バッテリから常時電源およびアクセサリ電源の供給を受け、前記アクセサリ電源の入力により起動する第1電装機器と、前記バッテリから前記常時電源およびイグニション電源の供給を受け、前記イグニッション電源の入力により起動する第2電装機器とであり、
前記電力補助装置は、
前記車両のイグニション操作部の操作に連動して前記アクセサリ電源および前記イグニション電源が供給される入力部と、
前記バッテリの常時電源を用いて前記第1電装機器に供給する電流を昇圧する第1昇圧回路と、
前記バッテリの前記常時電源を用いて前記第2電装機器に供給する電流を昇圧する第2昇圧回路と、
前記バッテリと前記第1電装機器とに対して前記第1昇圧回路と並列に接続され、前記第1昇圧回路を経由して前記第1電装機器に電流を供給する第1昇圧経路と、前記第1昇圧回路を経由せずに前記第1電装機器に電流を供給する第1非昇圧経路とを切り替える第1リレーと、
前記バッテリと前記第2電装機器とに対して前記第2昇圧回路と並列に接続され、前記第2昇圧回路を経由して前記第2電装機器に電流を供給する第2昇圧経路と、前記第2昇圧回路を経由せずに前記第2電装機器に電流を供給する第2非昇圧経路とを切り替える第2リレーと、
前記第1昇圧回路と前記第1電装機器のアクセサリ電源用端子との間に設けられた第3リレーと、
前記第2昇圧回路と前記第2電装機器のイグニション電源用端子との間に設けられた第4リレーと、
前記車両の走行状態に基づいて前記第1リレーおよび前記第2リレーをオンオフするとともに、前記入力部への入力に基づいて前記第3リレーおよび前記第4リレーをオンオフする制御回路と、を備え
前記制御回路は、前記入力部に前記アクセサリ電源または前記イグニション電源の少なくともいずれかが供給開始された時点で前記電源補助装置を起動させる、
ことを特徴とする車両電源装置。
【請求項2】
前記制御回路は、前記エンジン始動用モータの稼働時は前記第1リレーおよび前記第2リレーをオフするとともに、前記アクセサリ電源の供給が開始されると前記第3リレーをオンにして前記第1昇圧回路で昇圧された前記電流を前記アクセサリ電源用端子に供給して前記第1電装機器を起動させ、前記イグニション電源が供給されると前記第4リレーをオンにして前記第2昇圧回路で昇圧された前記電流を前記イグニション電源用端子に供給して前記第2電装機器を起動させる、
ことを特徴とする請求項1記載の車両電源装置。
【請求項3】
前記車両はアイドリングストップ機能を有し、
前記制御回路は、前記アイドリングストップ後のエンジン再始動中における前記エンジン始動用モータの稼働時は前記第1リレーおよび前記第2リレーをオフ、前記第3リレーおよび前記第4リレーをオンにして前記第1昇圧経路および前記第2昇圧経路を介して前記第1電装機器および前記第2電装機器に電力を供給し、前記エンジン始動用モータの稼働時以外は前記第1リレー、前記第2リレー、前記第3リレーおよび前記第4リレーをオンにして前記第1非昇圧経路および前記第2非昇圧経路を介して前記第1電装機器および前記第2電装機器に電力を供給する、
ことを特徴とする請求項1または2記載の車両電源装置。
【請求項4】
前記第1電装機器は、エンターテイメント系電装機器であり、
前記第2電装機器は、前記車両の制御用電装機器である、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項記載の車両電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された車載電装機器に電力を供給する車両電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のエンジン始動時には、セルモータに大量の電流が流れるため、バッテリの出力電圧が急激に低下することが知られている。この時、バッテリに接続しているECU(Engine Control Unit)等の車載電装機器に十分な電力が供給されず、リセットによる再始動や制御の遅れが発生する。これにより、たとえば車載電装機器がカーナビゲーション装置やカーオーディオ装置の場合には、画面の再始動や音切れ等が発生し、ユーザに煩わしさを感じさせる原因となっている。
【0003】
特に、アイドリングストップ機能を有する車両(以下、アイドリングストップ車という)では、走行中もエンジンの停止および再始動が繰り返されるので、上記のような車載機器のリセットが頻繁に生じる。このため、アイドリングストップ車では、DC/DCコンバータ、キャパシタ、電池などによって構成される電源補助装置を用いて、エンジン再始動時の車載電装機器のリセット防止を図っている(たとえば、下記特許文献1参照)。
【0004】
ここで、通常のガソリン車では、カーオーディオ装置やカーナビゲーション装置などのエンターテイメント系電装機器を代表とする電装機器は、作業機会が多いと予想されるため、車両制御に関わる電装機器と電源系を分離して、作業時におけるトラブルを回避するようにしている。すなわち、エンターテイメント系電装機器はアクセサリ電源(ACC電源)、車両制御用電装機器はイグニション電源(IG電源)がそれぞれ供給される。
このような電源構成は、アイドリングストップ車でも踏襲されるため、電源補助装置もACC電源およびIG電源の2系統を分離できるように構成する必要がある。
【0005】
図5は、従来技術にかかる電源補助装置の構成の一例を示す説明図である。図5Aは、2個の電源補助装置を備え、それぞれの電源系統に対して電源補助装置を1つずつ設けるように構成されている。また、図5Bは、1個の電源補助装置内に2つの昇圧回路を設け、2つの電源系統を分離できるように構成されている。
【0006】
より詳細には、図5Aでは、バッテリ520とエンターテイメント系電装機器530Aとの間に電源補助装置である第1DC/DCコンバータ540Aが、バッテリ520と車両制御用電装機器530Bとの間に第2DC/DCコンバータ540Bが、それぞれ設けられている。エンターテイメント系電装機器530Aには、常時電源(+B)とACC電源が供給される。また、車両制御用電装機器530Bには、常時電源(+B)とIG電源が供給される。
【0007】
各DC/DCコンバータ540A,540Bは、昇圧回路5402、リレー5404A,5404B、制御回路5406によって構成されている。また、各DC/DCコンバータ540A,540Bの制御回路5406には、車両ECU550が接続されている。第1DC/DCコンバータ540Aの制御回路5406はACC電源が入力されると、リレー5404Bをオンしてエンターテイメント系電装機器530AへACC電源の供給を開始し、エンターテイメント系電装機器530Aを起動させる。また、第2DC/DCコンバータ540Bの制御回路5406はIG電源が入力されると、リレー5404Bをオンして車両制御用電装機器530BへIG電源の供給を開始し、車両制御用電装機器530Bを起動させる。
【0008】
また、図5Bでは、バッテリ520とエンターテイメント系電装機器530Aおよび車両制御用電装機器530Bとの間に1つのDC/DCコンバータ540が設けられている。DC/DCコンバータ540は、第1昇圧回路5402A、第2昇圧回路5402B、リレー5404A,5404B,5404C、制御回路5406によって構成されている。また、DC/DCコンバータ540の制御回路5406には、車両ECU550が接続されている。制御回路5406にはIG電源の入力端子が設けられ、IG電源の供給が開始されると、リレー5404Cをオンして車両制御用電装機器530BへのIG電源の供給を開始し、車両制御用電装機器530Bを起動させる。一方、ACC電源の供給経路はDC/DCコンバータ540の外側に配置され、昇圧がおこなわれずにエンターテイメント系電装機器530Aに供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−162065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図5Aに示したように、DC/DCコンバータを2つ設けてACC電源およびIG電源の2つの電源系統を分離する構成では、DC/DCコンバータ2つ分の回路素子やハーネス、ブラケットなどの部品が必要となり、コストが増大するという問題点がある。また、2つのDC/DCコンバータを設置するので、設置スペースが増大してしまうという問題点がある。
【0011】
また、図5Bに示したような構成では、ACC電源の配線をDC/DCコンバータの外側に配置する、すなわちACC電源からの電流は昇圧されないので、ACC電源を用いて稼働するエンターテイメント系電装機器は、エンジンの始動時にリセットが生じるという懸念がある。つまり、アイドリングストップからのエンジン再始動時においてもリセットが生じてしまう懸念があった。
【0012】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、ACC電源およびIG電源の2つの電源系統を分離しながらエンジン再始動時の電装機器のリセットを防止し、かつコストや設置スペースを増大させることのない車両電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した問題を解決し、目的を達成するため、請求項1の発明にかかる車両電源装置は、車両に搭載されたエンジン始動用モータに電力を供給して作動させるとともに、前記エンジン始動用モータ以外の車載電装機器群に電力を供給するバッテリと、前記バッテリから前記車載電装機器群へと供給される電流を昇圧する電力補助装置と、を備える車両電源装置であって、前記車載電装機器群は、前記バッテリから常時電源およびアクセサリ電源の供給を受け、前記アクセサリ電源の入力により起動する第1電装機器と、前記バッテリから前記常時電源およびイグニション電源の供給を受け、前記イグニッション電源の入力により起動する第2電装機器とであり、前記電力補助装置は、前記車両のイグニション操作部の操作に連動して前記アクセサリ電源および前記イグニション電源が供給される入力部と、前記バッテリの常時電源を用いて前記第1電装機器に供給する電流を昇圧する第1昇圧回路と、前記バッテリの前記常時電源を用いて前記第2電装機器に供給する電流を昇圧する第2昇圧回路と、前記バッテリと前記第1電装機器とに対して前記第1昇圧回路と並列に接続され、前記第1昇圧回路を経由して前記第1電装機器に電流を供給する第1昇圧経路と、前記第1昇圧回路を経由せずに前記第1電装機器に電流を供給する第1非昇圧経路とを切り替える第1リレーと、前記バッテリと前記第2電装機器とに対して前記第2昇圧回路と並列に接続され、前記第2昇圧回路を経由して前記第2電装機器に電流を供給する第2昇圧経路と、前記第2昇圧回路を経由せずに前記第2電装機器に電流を供給する第2非昇圧経路とを切り替える第2リレーと、前記第1昇圧回路と前記第1電装機器のアクセサリ電源用端子との間に設けられた第3リレーと、前記第2昇圧回路と前記第2電装機器のイグニション電源用端子との間に設けられた第4リレーと、前記車両の走行状態に基づいて前記第1リレーおよび前記第2リレーをオンオフするとともに、前記入力部への入力に基づいて前記第3リレーおよび前記第4リレーをオンオフする制御回路と、を備え、前記制御回路は、前記入力部に前記アクセサリ電源または前記イグニション電源の少なくともいずれかが供給開始された時点で前記電源補助装置を起動させる、ことを特徴とする。
請求項2の発明にかかる車両電源装置は、前記制御回路は、前記エンジン始動用モータの稼働時は前記第1リレーおよび前記第2リレーをオフするとともに、前記アクセサリ電源の供給が開始されると前記第3リレーをオンにして前記第1昇圧回路で昇圧された前記電流を前記アクセサリ電源用端子に供給して前記第1電装機器を起動させ、前記イグニション電源が供給されると前記第4リレーをオンにして前記第2昇圧回路で昇圧された前記電流を前記イグニション電源用端子に供給して前記第2電装機器を起動させる、ことを特徴とする。
請求項3の発明にかかる車両電源装置は、前記車両はアイドリングストップ機能を有し、前記制御回路は、前記アイドリングストップ後のエンジン再始動中における前記エンジン始動用モータの稼働時は前記第1リレーおよび前記第2リレーをオフ、前記第3リレーおよび前記第4リレーをオンにして前記第1昇圧経路および前記第2昇圧経路を介して前記第1電装機器および前記第2電装機器に電力を供給し、前記エンジン始動用モータの稼働時以外は前記第1リレー、前記第2リレー、前記第3リレーおよび前記第4リレーをオンにして前記第1非昇圧経路および前記第2非昇圧経路を介して前記第1電装機器および前記第2電装機器に電力を供給する、ことを特徴とする。
請求項の発明にかかる車両電源装置は、前記第1電装機器は、エンターテイメント系電装機器であり、前記第2電装機器は、前記車両の制御用電装機器である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
発明によれば、単一の筐体内に2つの昇圧回路および4つのリレーを設け、車両の走行状態に基づいて第1リレーおよび第2リレーをオンオフするとともに、アクセサリ電源およびイグニション電源の入力状態に基づいて第3リレーおよび第4リレーをオンオフすることにより、第1電装機器および第2電装機器に電力を供給する。これにより、アクセサリ電源およびイグニション電源の2つの電源系統を分離しながらエンジン再始動時の電装機器のリセットを防止することができる。また、電源補助装置を電源系統ごとに2つ設ける場合と比較して、コストや設置スペースを低減させることができる。
発明によれば、アクセサリ電源の供給が開始されると第3リレーをオンにして第1昇圧回路で昇圧された電力をアクセサリ電源用端子に供給して第1電装機器を起動させ、イグニション電源が供給されると第4リレーをオンにして第2昇圧回路で昇圧された電力をイグニション電源用端子に供給して第2電装機器を起動させる。これにより、イグニション操作部への操作に連動して第1電装機器および第2電装機器が起動されることになり、ユーザに違和感を覚えさせることなく電装機器を起動させることができる。
発明によれば、車両の走行中は非昇圧経路を介して第1電装機器および第2電装機器に電力を供給し、車両のアイドリングストップ後のエンジン再始動中は昇圧経路を介して第1電装機器および第2電装機器に電力を供給する。これにより、エンジン再始動時のバッテリの出力電圧低下による電装機器のリセットを防止することができる。
発明によれば、アクセサリ電源またはイグニション電源の供給が開始されたことを検知して電源補助装置を起動させるので、アクセサリ電源またはイグニション電源のいずれか一方のみを起動のトリガーとする場合と比較して、車両レイアウトの自由度を向上させることができる。
発明によれば、第1電装機器はエンターテイメント系電装機器であり、第2電装機器は車両の制御用電装機器であるので、作業機会が多いと予想されるエンターテイメント系電装機器と、配線や設定等を誤って変更するのを避けるべき車両制御に関わる電装との電源系統を分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態1にかかる車両電源装置10の構成を示す説明図である。
図2】制御回路406の機能的構成を示すブロック図である。
図3】DC/DCコンバータ40の起動ロジックを示す説明図である。
図4】車両電源装置10の各構成部の状態を示すタイムチャートである。
図5】従来技術にかかる電源補助装置の構成の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる車両電源装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
(実施の形態)
図1は、実施の形態にかかる車両電源装置10の構成を示す説明図である。車両電源装置10は、バッテリ20から車載電装機器群30へと電源を供給する装置であり、本実施の形態ではアイドリングストップ車(以下、単に「車両」という)に搭載されている。
【0018】
バッテリ20は、車両に搭載された12Vバッテリである。より詳細には、バッテリ20は、車両に搭載されたエンジン始動用モータ(セルモータ)50に電力を供給して作動させるとともに、セルモータ(エンジン始動用モータ)50以外の車載電装機器群30に電力を供給する。
バッテリ20には、ヒューズボックス22が接続されており、ヒューズボックス22からは、常時電源(+B)、アクセサリ電源(ACC電源)、イグニション電源(IG電源)などが取り出し可能である。ACC電源およびIG電源は、イグニション操作部54の操作状況に基づいてスイッチ56A,56Bをオンオフすることによって供給の有無が切り替えられる。
【0019】
セルモータ50はエンジン始動用のモータであり、ECU60の制御によって回転し、エンジン(図示なし)の初期的な回転を発生させ、その回転をもとに、エンジンが燃焼による自力での回転を開始する。より詳細には、ECU60がスイッチ52の開閉を制御することにより、セルモータ50への電力供給がオンオフされ、セルモータ50が回転および停止する。
【0020】
ここで、バッテリ20がセルモータ50に電力を供給する際、すなわち車両のエンジンを始動する際には、バッテリ20からセルモータ50に対して瞬間的に大量の電力が供給されて、バッテリ20の出力電圧が大幅に低下する。このため、セルモータ50以外の他の車載電装機器群30に対する電力供給量が不足し、車載電装機器群30のリセットや動作遅れ等が発生することになる。車両電源装置10が搭載された車両はアイドリングストップ車であるため、走行中もエンジンの再始動(セルモータ50の稼働)が頻繁におこなわれる。
そこで、本実施の形態では、車載電装機器群30である第1電装機器30Aおよび第2電装機器を、電力補助装置であるDC/DCコンバータ40を介してバッテリ20と接続し、エンジン始動時にリセット等が生じないようにしている。
【0021】
車載電装機器群30は、車両に搭載された車載電装装置である。車載電装機器群30は、主にカーオーディオ装置やカーナビゲーション装置などのエンターテイメント系電装機器である第1電装機器30Aと、車両の制御系電装機器である第2電装機器30Bとに分けられる。第2電装機器30Bは、車両の自動制動制御機能であるABSやASC、CVTなどに関する処理をおこなうマイコンや自動制動制御時に動作するアクチュエータ装置など、自動制動制御機能の動作に必要な電装機器を含む。なお、第1電装機器30Aおよび第2電装機器30Bに分類される電装機器は上記の分類に限らず、ACC電源が供給される電装機器を第1電装機器30A、IG電源が供給される電装機器を第2電装機器30Bとすればよい。
【0022】
第1電装機器30Aには、常時電源(+B)およびACC電源が供給される。すなわち、第1電装機器30Aには、常時電源(+B)が入力される+B端子302とACC電源が入力されるACC端子304とが設けられている。また、第2電装機器30Bには、常時電源(+B)およびIG電源が供給される。すなわち、第2電装機器30Bには、常時電源(+B)が入力される+B端子306とIG電源が入力されるIG端子308とが設けられている。
【0023】
各電装機器において、常時電源(+B)は電装機器の非稼働中も常時供給され、タイマーやメモリの保持等に用いられる。また、常時電源(+B)は電装機器の稼働中には主電源として用いられる。一方、ACC電源およびIG電源は、各電装機器30の起動用に用いられる。そして、第1電装機器30A、第2電装機器30Bは、それぞれACC電源、IG電源の入力により起動され、ACC電源、IG電源がオフされると作動が停止される。なお、第1電装機器30Aおよび第2電装機器30Bに、車両内のすべての電装機器が含まれている必要はなく、エンジン再始動時にリセット等が生じることが許容できる電装機器はDC/DCコンバータ40に接続しなくてもよい。
【0024】
電力補助装置であるDC/DCコンバータ40は、バッテリ20と電装機器群30との間に設けられ、バッテリ20から電装機器群30へと供給される電流を昇圧する。DC/DCコンバータ40は、第1昇圧回路4021と、第2昇圧回路4022と、バッテリ20と第1電装機器30Aとに対して第1昇圧回路4021と並列に接続された第1リレー4041と、バッテリ20と第2電装機器30Bとに対して第2昇圧回路4022と並列に接続された第2リレー4042と、第1昇圧回路4021と第1電装機器30Aとの間に設けられた第3リレー4043と、第2昇圧回路4022と第2電装機器30Bとの間に設けられた第4リレー4044と、制御回路406と、を備える。また、DC/DCコンバータ40には、車両のイグニション操作部(図示なし)の操作に連動してACC電源およびIG電源が供給される入力部42が設けられている。これらDC/DCコンバータ40の各構成部は単一の筐体(図示なし)に収容されている。
【0025】
各昇圧回路4021,4022は、たとえば周知の昇圧回路であり、コイル、ダイオード、トランジスタ、コンデンサからなり、入力された電流を所望の目標電圧(昇圧電圧)へと昇圧する。昇圧電圧は、通常、第1電装機器30Aと第2電装機器30Bを正常に作動させるために必要な作動電圧(または、第1電装機器30Aと第2電装機器30Bのリセット電圧)以上、ここでは、バッテリ20のバッテリ電圧(例えば、本実施の形態では12V)とする。
【0026】
第1昇圧回路4021より第1電装機器30A側の配線(第1昇圧回路4021で昇圧された電力の流路)は2つに分岐されており(配線311,312)、一方の配線311が第1電装機器30Aの+B端子302に、他方の配線312が第1電装機器30AのACC端子304に、それぞれ接続される。このうちACC端子304に接続される配線312上には、後述する第3リレー4043が設けられている。
【0027】
また、第2昇圧回路4022より第2電装機器30B側の配線(第2昇圧回路4022で昇圧された電力の流路)は2つに分岐されており(配線321,322)、一方の配線321が第2電装機器30Bの+B端子306に、他方の配線322が第2電装機器30BのIG端子308に、それぞれ接続される。このうちIG端子308に接続される配線322上には、後述する第4リレー4044が設けられている。
【0028】
第1リレー4041は、バッテリ20の常時電源(+B)と第1電装機器30Aとに対して第1昇圧回路4021と並列に接続され、第1昇圧回路4021を経由せずにバッテリ20から第1電装機器30Aへと電流を供給する第1非昇圧経路と、第1昇圧回路4021を経由してバッテリ20から第1電装機器30Aへと電流を供給する第1昇圧経路とを切り替える。
【0029】
第1リレー4041がオンにされると、バッテリ20から第1電装機器30Aへと第1昇圧回路4021を経由せずに電流が供給される。すなわち、車両が通常走行中であり、バッテリ20の出力電圧の低下が生じない間は第1リレー4041はオンにされ、そのときのバッテリ20の出力電圧と同電圧で電流が供給される。一方、第1リレー4041がオフにされると、バッテリ20から第1電装機器30Aへと第1昇圧回路4021を経由して電流が供給される。すなわち、アイドリングストップ中に車両のエンジンが再始動され、バッテリ20の出力電圧の低下が生じる間は第1リレー4041はオフにされ、一時的に低下したバッテリ20の出力電圧より高い電圧(バッテリ電圧と同電圧である12V)に昇圧された電流が供給される。
【0030】
第2リレー4042は、バッテリ20の常時電源(+B)と第2電装機器30Bとに対して第2昇圧回路4022と並列に接続され、第2昇圧回路4022を経由せずにバッテリ20から第2電装機器30Bへと電流を供給する第2非昇圧経路と、第2昇圧回路4022を経由してバッテリ20から第2電装機器30Bへと電流を供給する第2昇圧経路とを切り替える。
【0031】
第2リレー4042がオンにされると、バッテリ20から第2電装機器30Bへと第2昇圧回路4022を経由せずに電流が供給される。すなわち、車両が通常走行中であり、バッテリ20の出力電圧の低下が生じない間は第2リレー4042はオンにされ、バッテリ20の出力電圧と同電圧で電流が供給される。一方、第2リレー4042がオフにされると、バッテリ20から第2電装機器30Bへと第2昇圧回路4022を経由して電流が供給される。すなわち、アイドリングストップ中に車両のエンジンが再始動され、バッテリ20の出力電圧の低下が生じる間は第2リレー4042はオフにされ、一時的に低下したバッテリ20の出力電圧より高い電圧(バッテリ電圧と同電圧である12V)に昇圧された電流が供給される。
【0032】
第3リレー4043は、第1昇圧回路4021で昇圧された電流の流路のうち、第1電装機器30AのACC端子304に接続される配線312上に設けられている。第3リレー4043がオンにされることにより、第1電装機器30AにACC電源が供給される。また、第3リレー4043がオフされている間は、第1電装機器30AにACC電源が供給されない。
【0033】
第4リレー4044は、第2昇圧回路4022で昇圧された電流の流路のうち、第2電装機器30BのIG端子308に接続される配線322上に設けられている。第4リレー4044がオンにされることにより、第2電装機器30BにIG電源が供給される。また、第4リレー4044がオフされている間は、第2電装機器30BにIG電源が供給されない。
【0034】
なお、第1リレー4041および第2リレー4042がオンにされている間(車両の走行中など)も昇圧回路4021,4022側には電流が流れている。このため、車両の走行中も常時第3リレー4043および第4リレー4044をオンにすることによって、第1電装機器30AにACC電源が、第2電装機器30BにIG電源が、それぞれ供給される。
【0035】
制御回路406は、各リレー4041〜4044の接続状態の切り替えなどをおこなう。
図2は、制御回路406の機能的構成を示すブロック図である。制御回路406は、起動判定部406A、スイッチング制御部406B、走行状態取得部406C、リレー制御部406D、電圧測定部406Eによって構成される。
【0036】
起動判定部406Aは、入力部42に接続されたACC電源およびIG電源の供給状態に基づいて、DC/DCコンバータ40を起動させる。後述するリレー制御部406Dでは、ACC電源およびIG電源の供給状態に基づいてリレー4043および4044のオンオフを制御するが、このような制御をおこなうには、ACC電源またはIG電源のいずれかをDC/DCコンバータ40の起動信号として認識する必要がある。すなわち、第1昇圧回路4021または第2昇圧回路4022のいずれかを起動側とする必要がある。しかしながら、第1昇圧回路4021または第2昇圧回路4022のどちらに第1電装機器30Aまたは第2電装機器30Bが接続されるかは、車両配線によっても異なるため、設計段階で規定することは困難である。このため、本実施の形態では、図3に示すロジックによってDC/DCコンバータ40の起動をおこなっている。
【0037】
図3は、DC/DCコンバータ40の起動ロジックを示す説明図である。図3には、ACC電源およびIG電源がOR回路に入力されている。OR回路の出力は、DC/DCコンバータ40の起動信号である。すなわち、起動判定部406Aは、入力部42にACC電源またはIG電源の供給が開始されたことを検知してDC/DCコンバータ40を起動させる。
【0038】
スイッチング制御部406Bは、トランジスタのスイッチングタイミングを制御して、電流が所望の電圧に昇圧されるようにする。走行状態取得部406Cは、ECU60などから車両の走行状態(走行速度やアイドリングストップ後のエンジン再始動タイミング等)の情報を取得する。
【0039】
リレー制御部406Dは、第1リレー4041、第2リレー4042、第3リレー4043、第4リレー4044の接続状態を切り替える。まず、リレー制御部406Dは、走行状態取得部406Cによって取得された、車両の走行状態に基づいて第1リレー4041および第2リレー4042の接続状態を切り替える。すなわち、上述したように、車両が通常走行中であり、バッテリ20の出力電圧の低下が生じない間は第1リレー4041および第2リレー4042をオンにして、バッテリ20の出力電圧と同電圧で電流を供給する。一方、アイドリングストップ中に車両のエンジンが再始動される場合、または停車中にエンジンが始動され走行が開始される場合には、バッテリ20の出力電圧の低下が生じる間は第1リレー4041および第2リレー4042をオフにして第1昇圧回路4021および第2昇圧回路4022側を電流が通るようにして、各昇圧回路で昇圧された電流が供給されるようにする。
【0040】
また、リレー制御部406Dは、入力部42への入力に基づいて第3リレー4043および第4リレー4044をオンオフする。すなわち、リレー制御部406Dは、入力部42に対してACC電源の供給が開始されると第3リレー4043をオンにして第1昇圧回路4021で昇圧された電流をACC電源用端子(ACC端子304)に供給して第1電装機器30Aを起動させ、IG電源が供給されると第4リレー4044をオンにして第2昇圧回路4022で昇圧された電流をIG電源用端子(IG端子308)に供給して第2電装機器30Bを起動させる。
【0041】
これにより、第1電装機器30Aおよび第2電装機器30Bが直接ACC電源やIG電源に接続されていない場合でも、車両のイグニション操作部54への操作に連動して起動をおこなうことができる。
【0042】
電圧測定部406Eは、各昇圧回路4021,4022の上流に位置する点と各昇圧回路4021,4022の下流に位置する点PBとの間の電位差(電圧)を測定する。より詳細には、電圧測定部406Eは、各昇圧回路4021,4022よりバッテリ20側の任意の点における第1電位と、各昇圧回路4021,4022より電装機器30側の任意の点における第2電位との電位差を測定する。電圧測定部406Eによって測定された電位差は、DC/DCコンバータ40のフィードバック制御等に用いられる。
【0043】
図4は、車両電源装置10の各構成部の状態を示すタイムチャートである。図4には、第1リレー4041、第2リレー4042、第3リレー4043、第4リレー4044、ACC電源、IG電源、第1電装機器30Aおよび第2電装機器30Bのオンオフ状態が示されている。
【0044】
時刻T0〜T1は、車両が停車(エンジン停止、すべての電装機器がオフ)されている状態である。このとき、第1電装機器30Aおよび第2電装機器30Bはオフ、ACC電源およびIG電源もオフである。第1リレー4041および第2リレー4042はオンにされ、各電装機器30のECU等に常時電源からバックアップ用電源が供給されている。第3リレー4043および第4リレー4044はオフである。
【0045】
時刻T1は、ACC電源の供給が開始された時刻である。これは、ユーザがエンジンの始動を目的としてイグニション操作部54を操作して、イグニション操作部54の位置がACCとなったことを示す。ACC電源の供給が開始されたことを受けて(ACC電源を起動信号として)DC/DCコンバータ40が起動し、リレー制御部406Dは第1リレー4041および第2リレー4042をオフにするとともに、第3リレー4043をオンにする。これにより、第3リレー4043を経由して第1電装機器30AにACC電源が供給され、第1電装機器30Aが起動する。
【0046】
時刻T2は、IG電源の供給が開始された時刻である。これは、ユーザがイグニション操作部54の操作を継続して、イグニション操作部54の位置がIGとなったことを示す。IG電源の供給が開始されたことを受けて、リレー制御部406Dは第4リレー4044をオンにする。これにより、第4リレー4044を経由して第2電装機器30BにIG電源が供給され、第2電装機器30Bが起動する。
【0047】
時刻T3は、エンジンの始動が完了した時刻であり、リレー制御部406Dは第1リレー4041および第2リレー4042をオンにして、第1非昇圧経路および第2非昇圧経路を用いて第1電装機器30Aおよび第2電装機器30Bに電力を供給する。時刻T3〜T4は、車両の走行中およびアイドリングストップ中である。
【0048】
時刻T4は、アイドリングストップ後のエンジンの再始動が開始された時刻であり、リレー制御部406Dは第1リレー4041および第2リレー4042をオフにして、第1昇圧経路および第2昇圧経路を用いて第1電装機器30Aおよび第2電装機器30Bに電力を供給する。そして、時刻T5にエンジンの再始動が完了すると、リレー制御部406Dは第1リレー4041および第2リレー4042をオンにして、再度第1非昇圧経路および第2非昇圧経路を用いて第1電装機器30Aおよび第2電装機器30Bに電力を供給する。
【0049】
以上説明したように、実施の形態にかかる車両電源装置10は、単一の筐体内に2つの昇圧回路4021,4022および4つのリレー4041〜4044を設け、車両の走行状態に基づいて第1リレー4041および第2リレー4042をオンオフするとともに、ACC電源およびIG電源の入力状態に基づいて第3リレー4043および第4リレー4044をオンオフすることにより、第1電装機器30Aおよび第2電装機器30Bに電力を供給する。これにより、ACC電源およびIG電源の2つの電源系統を分離しながらエンジン再始動時の電装機器のリセットを防止することができる。また、電源補助装置を電源系統ごとに2つ設ける場合と比較して、コストや設置スペースを低減させることができる。
【0050】
また、車両電源装置10は、ACC電源の供給が開始されると第3リレー4043をオンにして第1昇圧回路4021で昇圧された電流をACC端子304に供給して第1電装機器30Aを起動させ、IG電源が供給されると第4リレー4044をオンにして第2昇圧回路4022で昇圧された電流をIG端子308に供給して第2電装機器30Bを起動させる。これにより、イグニション操作部54への操作に連動して第1電装機器30Aおよび第2電装機器30Bが起動されることになり、ユーザに違和感を覚えさせることなく電装機器を起動させることができる。
【0051】
また、車両電源装置10は、車両の走行中は非昇圧経路を介して第1電装機器30Aおよび第2電装機器30Bに電力を供給し、車両のアイドリングストップ後のエンジン再始動中は昇圧経路を介して第1電装機器30Aおよび第2電装機器30Bに電力を供給する。これにより、エンジン再始動時のバッテリ20の出力電圧低下による電装機器のリセットを防止することができる。
【0052】
また、車両電源装置10は、ACC電源またはIG電源の供給が開始されたことを検知して電源補助装置であるDC/DCコンバータ40を起動させるので、ACC電源またはIG電源のいずれか一方のみを起動のトリガーとする場合と比較して、車両レイアウトの自由度を向上させることができる。
【0053】
また、車両電源装置10は、第1電装機器30Aはエンターテイメント系電装機器であり、第2電装機器30Bは車両の制御用電装機器であるので、作業機会が多いと予想されるエンターテイメント系電装機器と、配線や設定等を誤って変更するのを避けるべき車両制御に関わる電装との電源系統を分離することができる。
【符号の説明】
【0054】
10……車両電源装置、20……バッテリ、22……ヒューズボックス、30……車載電装機器群、30A……第1電装機器、30B……第2電装機器、40……DC/DCコンバータ、42……入力部、50……セルモータ、52……スイッチ、54……イグニション操作部、56A,56B……スイッチ、302,306……+B端子、304……ACC端子、308……IG端子、311,312,321,322……配線、406……制御回路、406A……起動判定部、406B……スイッチング制御部、406C……走行状態取得部、406D……リレー制御部、406E……電圧測定部、4021……第1昇圧回路、4022……第2昇圧回路、4041……第1リレー、4042……第2リレー、4043……第3リレー、4044……第4リレー。
図1
図2
図3
図4
図5