特許第6205871号(P6205871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205871
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/65 20060101AFI20170925BHJP
   G11B 5/738 20060101ALI20170925BHJP
   G11B 5/64 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   G11B5/65
   G11B5/738
   G11B5/64
【請求項の数】18
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2013-119187(P2013-119187)
(22)【出願日】2013年6月5日
(65)【公開番号】特開2014-235771(P2014-235771A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 正知
(74)【代理人】
【識別番号】100123973
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 拓真
(72)【発明者】
【氏名】立花 淳一
(72)【発明者】
【氏名】関口 昇
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 知恵
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−015959(JP,A)
【文献】 特開2009−059431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/65
G11B 5/64
G11B 5/738
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の基体と、シード層と、下地層と、グラニュラ構造を有する垂直記録層とを備え、
(Msαδ1.5(1−Rs)0.33)、Ms、およびαが以下の関係を満たしている、軟磁性材料を含む裏打ち層を有さない磁気記録媒体。
(Msαδ1.5(1−Rs)0.33)≦0.1[μ・emu・(mm)-1.5
Ms≧450[emu/cc]
α≧1.2
(但し、Ms:飽和磁化量、α:抗磁力Hc近傍におけるM−Hループの傾き、δ:上記垂直記録層の厚さ、Rs:角型比である。)
【請求項2】
上記シード層は、アモルファス状態を有し、融点が2000℃以下である金属を含んでいる請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
上記シード層は、アモルファス状態を有し、TiおよびCrを含む合金を含んでいる請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
上記シード層は、上記基体に隣接して設けられている請求項1から3のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
上記シード層は、上記基体に隣接して設けられ、
上記下地層は、上記シード層に隣接して設けられ、
上記垂直記録層は、上記下地層に隣接して設けられ、
上記シード層は、アモルファス状態を有し、TiおよびCrを含む合金を含み、
上記下地層は、Ruを含む請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
上記シード層に含まれるTiおよびCrの総量に対するTiの割合は、30原子%以上100原子%未満である請求項3または5に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
上記シード層は、O(酸素)をさらに含んでいる請求項3、5、6のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
上記シード層に含まれるTi、CrおよびOの総量に対するOの割合は、15原子%以下である請求項7に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
(KuV/kBT)が以下の関係を満たしている請求項1からのいずれかに記載の磁気記録媒体。
(KuV/kBT)≧65
(但し、Ku:磁気異方性エネルギー、V:活性化体積、kB:ボルツマン定数、T:絶対温度である。)
【請求項10】
上記下地層は、Ruを含んでいる請求項1から4のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
上記垂直記録層は、単層構造の記録層である請求項1から10のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項12】
上記垂直記録層が、六方細密充填構造を有するCo系合金を含み、
上記下地層は、六方細密充填構造を有する材料を含み、上記六方細密充填構造のc軸が垂直方向に配向している請求項1から11のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項13】
上記垂直記録層は、Co、PtおよびCrを含む粒子が酸化物で分離されたグラニュラ構造を有する請求項1から12のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項14】
上記垂直記録層は、以下の式(1)に示す平均組成を有している請求項13に記載の磁気記録媒体。
(CoxPtyCr100-x-y100-z−(SiO2z ・・・(1)
(但し、式(1)中において、x、y、zはそれぞれ、69≦x≦72、12≦y≦16、9≦z≦12の範囲内の値である。)
【請求項15】
上記基体は、可撓性を有する非磁性基体である請求項1から14のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項16】
上記角形比Rsが、0.7以上である請求項1から15のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項17】
上記抗磁力Hcが、3500Oe以上4500Oe以下である請求項1から16のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項18】
リングタイプヘッドにて情報信号を記録可能な請求項1から17のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、磁気記録媒体に関する。詳しくは、シード層を備える磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、データストレージ用磁気記録媒体としては、磁性粉を非磁性支持体上に塗布した塗布型の磁気記録媒体が主流となっている。カートリッジ1巻当たりの記録容量を増やすためには、磁性粉を微粒子化して面記録密度を向上させる必要があるが、現在用いられている塗布法では、10nm以下の微粒子で薄膜を形成することは困難である。
【0003】
そこで、磁気異方性の高いCoCrPt系の金属材料をスパッタ法などの手法により、可撓性を有する基体上に成膜し、かつ、その材料を基体の表面に対して垂直方向に結晶配向させた磁気記録媒体が提案されている。この磁気記録媒体については、磁気記録層の配向性を改善し、磁気特性を向上することが望まれており、この要望に応えるための技術が、近年種々検討されている。例えば特許文献1では、その技術の一つとして、基体上に、少なくとも、アモルファス層、シード層、下地層、磁性層、および保護層が順次積層された磁気記録媒体が開示されている。また、シード層をTi、Cr、Mo、W、Zr、Ti合金、Cr合金、Zr合金のいずれかにより形成し、下地層をRuにより形成し、磁性層をグラニュラ構造とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−196885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本技術の目的は、良好なSNR(Signal-Noise Ratio)を有する磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するために、本技術は、
長尺状の基体と、シード層と、下地層と、グラニュラ構造を有する垂直記録層とを備え、
(Msαδ1.5(1−Rs)0.33)、Ms、およびαが以下の関係を満たしている、軟磁性材料を含む裏打ち層を有さない磁気記録媒体である。
(Msαδ1.5(1−Rs)0.33)≦0.1[μ・emu・(mm)-1.5
Ms≧450[emu/cc]
α≧1.2
(但し、Ms:飽和磁化量、α:抗磁力Hc近傍におけるM−Hループの傾き、δ:垂直記録層の厚さ、Rs:角型比である。)
【発明の効果】
【0007】
以上説明したように、本技術によれば、良好なSNRを有する磁気記録媒体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本技術の一実施形態に係る磁気記録媒体の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本技術の一実施形態に係る磁気記録媒体の製造に用いられるスパッタ装置の構成の一例を示す概略図である。
図3図3は、本技術の一実施形態に係る磁気記録媒体の構成の一変形例を模式的に示す断面図である。
図4図4Aは、関係式F(=Msαδ1.5(1−Rs)0.33)とSNRとの関係を示す図である。図4Bは、関係式f(=KuV/kBT)と出力減衰との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本技術において、シード層、下地層および記録層は、単層構造および多層構造のいずれであってもよい。磁気記録媒体の磁気特性および/または記録再生特性をさらに向上する観点からすると、多層構造を有するものを採用することが好ましい。製造効率を考慮すると、多層構造のうちでも2層構造を採用することが好ましい。
【0010】
また、本技術において用いる「含む(または含んでいる)」(comprising)という用語は、より制限的な用語である「から本質的になる」(consisting essentially of)および「からなる」(consisting of)を含んでいる。
【0011】
本技術の実施形態について以下の順序で説明する。
1 磁気記録媒体の構成
2 スパッタ装置の構成
3 磁気記録媒体の製造方法
4 効果
5 変形例
【0012】
[1 磁気記録媒体の構成]
図1は、本技術の一実施形態に係る磁気記録媒体の構成の一例を模式的に示す断面図である。本実施形態に係る磁気記録媒体は、いわゆる単層垂直磁気記録媒体であり、図1に示すように、基体11と、基体11の表面に設けられたシード層12と、シード層12の表面に設けられた下地層13と、下地層13の表面に設けられた磁気記録層14と、磁気記録層14の表面に設けられた保護層15と、保護層15の表面に設けられたトップコート層16とを備える。本実施形態に係る磁気記録媒体は、例えばリングタイプヘッドにて情報信号を記録可能な磁気記録媒体である。なお、本明細書では、軟磁性裏打ち層を持たない磁気記録媒体を「単層垂直磁気記録媒体」と称し、軟磁性裏打ち層を有する磁気記録媒体を「二層垂直磁気記録媒体」と称する。
【0013】
この磁気記録媒体は、今後ますます需要が高まることが期待されるデータアーカイブ用ストレージメディアとして用いて好適なものである。この磁気記録媒体は、例えば、現在のストレージ用塗布型磁気テープの10倍以上の面記録密度、すなわち50Gb/in2の面記録密度を実現することが可能である。このような面記録密度を有する磁気記録媒体を用いて、一般のリニア記録方式のデータカートリッジを構成した場合には、データカートリッジ1巻当たり50TB以上の大容量記録が可能になる。
【0014】
本技術では、以下の関係式F(Ms,α,δ,Rs)を定義する(参考文献:N.Honda et.al., J.Magn.soc.Japan, vol.21(S2),pp.505-508,1997)。
F(Ms,α,δ,Rs)=(Msαδ1.5(1−Rs)0.33)[μ・emu・(mm)-1.5
(但し、Ms:飽和磁化量、α:抗磁力Hc近傍におけるM−Hループの傾き、δ:磁気記録層14の厚さ、Rs:角型比である。)
【0015】
さらに、本技術では、以下の関係式f(Ku,V,T)を定義する。
f(Ku,V,T)=(KuV/kBT)
(但し、Ku:磁気異方性エネルギー、V:活性化体積、kB:ボルツマン定数、T:絶対温度である。)
【0016】
本実施形態に係る磁気記録媒体では、関係式F(Ms,α,δ,Rs)、飽和磁化量MsおよびHc近傍におけるM−Hループの傾きαが以下の関係を満たしている。この関係を満たすことで、良好なSNRを有する磁気記録媒体を実現できる。
F(Ms,α,δ,Rs)≦0.1[μ・emu・(mm)-1.5
Ms≧450[emu/cc]
α≧1.2
【0017】
以下に、F(Ms,α,δ,Rs)≦0.1[μ・emu・(mm)-1.5]としている理由について具体的に説明する。関係式Fの値は、主にノイズ出力と関係している。本実施形態で想定する記録密度領域(例えば50Gb/in2以上)では、信号出力は、主に低スペーシングおよび再生ヘッド感度に依存しており、媒体特性として求められるのは、低ノイズ特性である。したがって、本実施形態では、F(Ms,α,δ,Rs)≦0.1[μ・emu・(mm)-1.5]に設定して、磁気記録媒体の低ノイズを実現している。
【0018】
以下に、Ms≧450[emu/cc]としている理由について具体的に説明する。磁気記録媒体の特性としては、上述のように関係式Fの値を小さくして、低ノイズを実現することが望ましいが、飽和磁化量Msの値が小さくなり過ぎると、ノイズ出力の低下以上に、信号出力の低下が大きくなり、結果として、SNRも低下してしまう。そこで、本実施形態では、関係式FをF≦0.1[μ・emu・(mm)-1.5]に設定した上で、さらに飽和磁化量MsをMs≧450[emu/cc]に設定している。
【0019】
以下に、α≧1.2としている理由について具体的に説明する。抗磁力Hc近傍におけるM−Hループの傾きαは、磁化粒子間の交換相互作用と相関のあるパラメータであり、αが小さいほど交換相互作用が低くなり、結晶粒子が交換相互作用および磁気的相互作用により結合した状態である活性化体積が小さくなり、ノイズが低下する。しかしながら、αが小さくなり過ぎると、飽和記録のために大きなヘッド磁界が必要になるとともに、磁化反転が鈍くなり、信号出力が低下し、結果としてSNRが低下する。そこで、本実施形態では、αをα≧1.2に設定している。
【0020】
本実施形態に係る磁気記録媒体では、関係式F(Ms,α,δ,Rs)、飽和磁化量MsおよびHc近傍におけるM−Hループの傾きαが上述の関係を満たしつつ、f(Ku,V,T)がさらに以下の関係を満たしていることが好ましい。この関係を満たすことで、良好なSNRを有し、かつ、熱擾乱に対して高い安定性を有する磁気記録媒体を実現できる。
f(Ku,V,T)≧65
【0021】
以下に、f(Ku,V,T)≧65としている理由について具体的に説明する。低ノイズ化を実現するためには、磁性粒子のサイズを小さくすることが好ましいが、磁性粒子のサイズが小さくなると、熱擾乱の影響が大きくなり、磁化状態を保持できなくなる。熱擾乱の影響に対して十分に耐えるためには、一般的には、KuV/kBTがKuV/kBT≧60〜80であることが望ましい。本実施形態では、KuV/kBTがKuV/kBT≧65であることが望ましい。
【0022】
(基体)
支持体となる基体11は、例えば、長尺状のフィルムである。基体11としては、可撓性を有する非磁性基体を用いることが好ましい。非磁性基体の材料としては、例えば、通常の磁気記録媒体に用いられる可撓性の高分子樹脂材料を用いることができる。このような高分子樹脂材料の具体例としては、ポリエステル類、ポリオレフィン類、セルロース誘導体、ビニル系樹脂、ポリイミド類、ポリアミド類またはポリカーボネートなどが挙げられる。
【0023】
(シード層)
シード層12は、基体11と下地層13との間に設けられている。シード層12は、アモルファス状態を有し、融点が2000℃以下である金属を含んでいることが好ましい。シード層12が、融点2000℃以下の金属以外にO(酸素)をさらに含んでいてもよい。この酸素は、例えば、スパッタリング法などの成膜法でシード層12を成膜する際に、シード層12内に微量に含まれる不純物酸素である。ここで、「シード層」とは、下地層13に類似した結晶構造を有し、結晶成長を目的として設けられる中間層ではなく、当該シード層12の平坦性およびアモルファス状態によって下地層13の垂直配向性を向上する中間層のことを意味する。「合金」とは、TiおよびCrを含む固溶体、共晶体、および金属間化合物などの少なくとも一種を意味する。「アモルファス状態」とは、電子線回折法により、ハローが観測され、結晶構造を特定できないことを意味する。
【0024】
アモルファス状態を有し、融点が2000℃以下である金属を含んでいるシード層12には、基体11に吸着したO2ガスやH2Oの影響を抑制するとともに、基体11の表面に金属性の平滑面を形成して、下地層13の垂直配向性を向上する働きがある。なお、シード層12の状態を結晶状態にすると、結晶成長に伴うカラム形状が明瞭となり、基体11の表面の凹凸が強調され、下地層13の結晶配向が悪化する。
【0025】
融点が2000℃以下である金属は、金属単体および合金のいずれであってもよい。融点が2000℃以下である金属としては、例えば、Ti、Cr、Co、NiおよびAlなどからなる群より選ばれる1種以上の元素が挙げられる。より具体的には例えば、TiおよびCrを含む合金、NiおよびAlを含む合金、CoおよびCrを含む合金、Ti単体などが挙げられ、これらの材料うちTiおよびCrを含む合金が特に好ましい。
【0026】
上述したように、シード層12を設ける目的の一つは、基材表面における平滑性の実現である。良好な平滑面の形成は、シード層12の材料として融点の低い金属、具体的には融点2000℃以下の金属を用いることで可能になると推測される。材料の融点は拡散係数と相関があることが知られており、融点が低い材料ほど、拡散係数が大きくなる。材料の拡散係数は膜の成長メカニズムに大きく影響し、拡散係数が大きくなるほど、基材11の表面上でのマイグレーションが大きくなり、密度が高く、表面が平滑になると考えられる。
【0027】
シード層12がTi、CrおよびO(酸素)を含む場合、シード層12に含まれるTi、CrおよびOの総量に対するOの割合は、好ましくは15原子%(atomic%:at%)以下、より好ましくは10原子%以下である。酸素の割合が15原子%を超えると、TiO2結晶が生成することにより、シード層12の表面に形成される下地層13の結晶核形成に影響を与えるようになり、下地層13の配向性が大きく低下する。
【0028】
シード層12に含まれるTiおよびCrの総量に対するTiの割合は、好ましくは30原子%以上100原子%未満、より好ましくは50原子%以上100原子%未満の範囲内である。Tiの比率が30%未満であると、Crの体心立法格子(Body-Centered Cubic lattice:bcc)構造の(100)面が配向するようになり、シード層12の表面に形成される下地層13の配向性が低下する。
【0029】
なお、上記元素の割合は次のようにして求めることができる。磁気記録媒体のトップコート層16側からイオンビームによるエッチングを行い、エッチングされたシード層12の最表面についてオージェ電子分光法による解析を実施し、膜厚に対する平均の原子数比率をその元素の比率とする。具体的には、Ti、CrおよびOの3元素について解析を行い、その百分率比率による元素量を同定する。
【0030】
シード層12の材料としてTiおよびCrを含む合金を用いる場合、その合金が、TiおよびCr以外の金属元素を添加元素としてさらに含んでいてもよい。この添加元素としては、融点2000℃以下の金属元素が好ましく、例えばCo、NiおよびAlなどからなる群より選ばれる1種以上の元素が挙げられる。
【0031】
(下地層)
下地層13は、磁気記録層14と同様の結晶構造を有していることが好ましい。磁気記録層14がCo系合金を含んでいる場合には、下地層13は、Co系合金と同様の六方細密充填(hcp)構造を有する材料を含み、その構造のc軸が膜面に対して垂直方向(すなわち膜厚方向)に配向していることが好ましい。磁気記録層14の配向性を高め、かつ、下地層13と磁気記録層14との格子定数のマッチングを比較的良好にできるからである。六方細密充填(hcp)構造を有する材料としては、Ruを含む材料を用いることが好ましく、具体的にはRu単体またはRu合金が好ましい。Ru合金としては、例えば、Ru−SiO2、Ru−TiO2またはRu−ZrO2などのRu合金酸化物が挙げられる。
【0032】
(磁気記録層)
磁気記録層14は、記録密度を向上する観点から、Co系合金を含む、グラニュラ構造を有する垂直記録層であることが好ましい。このグラニュラ磁性層は、Co系合金を含む強磁性結晶粒子と、この強磁性結晶粒子を取り巻く非磁性粒界(非磁性体)とから構成されている。より具体的には、このグラニュラ磁性層は、Co系合金を含むカラム(柱状結晶)と、このカラムを取り囲み、それぞれのカラムを磁気的に分離する非磁性粒界(例えばSiO2などの酸化物)とから構成されている。この構造では、それぞれのカラムが磁気的に分離した構造を有する前記磁気記録層を構成することができる。
【0033】
Co系合金は、六方細密充填(hcp)構造を有し、そのc軸が膜面に対して垂直方向(膜厚方向)に配向している。Co系合金としては、少なくともCo、CrおよびPtを含有するCoCrPt系合金を用いることが好ましい。CoCrPt系合金は、特に限定されるものではなく、CoCrPt合金がさらに添加元素を含んでいてもよい。添加元素としては、例えば、NiおよびTaなどからなる群より選ばれる1種以上の元素が挙げられる。
【0034】
強磁性結晶粒子を取り巻く非磁性粒界は、非磁性金属材料を含んでいる。ここで、金属には半金属を含むものとする。非磁性金属材料としては、例えば、金属酸化物および金属窒化物のうちの少なくとも一方を用いることができ、グラニュラ構造をより安定に維持する観点からすると、金属酸化物を用いることが好ましい。金属酸化物としては、Si、Cr、Co、Al、Ti、Ta、Zr、Ce、YおよびHfなどからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む金属酸化物が挙げられ、少なくともSi酸化物(すなわちSiO2)を含んでいる金属酸化物が好ましい。その具体例としては、SiO2、Cr23、CoO、Al23、TiO2、Ta25、ZrO2またはHfO2などが挙げられる。金属窒化物としては、Si、Cr、Co、Al、Ti、Ta、Zr、Ce、YおよびHfなどからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む金属窒化物が挙げられる。その具体例としては、SiN、TiNまたはAlNなどが挙げられる。グラニュラ構造をより安定に維持するためには、非磁性粒界が金属窒化物および金属酸化物のうち金属酸化物を含んでいることが好ましい。
【0035】
SNRを更なる向上を実現する観点からすると、強磁性結晶粒子に含まれるCoCrPt系合金と、非磁性粒界に含まれるSi酸化物とが、以下の式(1)に示す平均組成を有していることが好ましい。反磁界の影響を抑え、かつ、十分な再生出力を確保できる飽和磁化量Msを実現でき、これにより、高いSNRを確保できるからである。
(CoxPtyCr100-x-y100-z−(SiO2z ・・・(1)
(但し、式(1)中において、x、y、zはそれぞれ、69≦X≦72、12≦y≦16、9≦Z≦12の範囲内の値である。)
【0036】
なお、上記組成は次のようにして求めることができる。磁気記録媒体のトップコート層16側からイオンビームによるエッチングを行い、エッチングされた磁気記録層12の最表面についてオージェ電子分光法による解析を実施し、膜厚に対する平均の原子数比率をその元素の比率とする。具体的には、Co、Pt、Cr、SiおよびOの5元素について解析を行い、その百分率比率による元素量を同定する。
【0037】
本実施形態に係る磁気記録媒体は、軟磁性材料を含む裏打ち層(軟磁性裏打ち層)を有さない単層磁気記録媒体であるが、この種の磁気記録媒体では、磁気記録層14に起因する垂直方向への反磁界の影響が大きいと、垂直方向への十分な記録が困難となる傾向がある。反磁界は、磁気記録層14の飽和磁化量Msに比例して大きくなるので、反磁界を抑えるためには飽和磁化量Msを小さくすることが望ましい。しかしながら、飽和磁化量Msが小さくなると、残留磁化量Mrが小さくなり、再生出力が低下する。したがって、磁気記録層14に含まれる材料は、反磁界の影響の抑制(すなわち飽和磁化量Msの低減)と、十分な再生出力を確保できる残留磁化量Mrとを両立する観点から選択することが好ましい。上記(1)の平均組成においては、これらの特性を両立し、高いSNRを確保できる。
【0038】
(保護層)
保護層15は、例えば、炭素材料または二酸化ケイ素(SiO2)を含み、保護層15の膜強度の観点からすると、炭素材料を含んでいることが好ましい。炭素材料としては、例えば、グラファイト、ダイヤモンド状炭素(Diamond-Like Carbon:DLC)またはダイヤモンドなどが挙げられる。
【0039】
(トップコート層)
トップコート層16は、例えば潤滑剤を含んでいる。潤滑剤としては、例えば、シリコーン系潤滑剤、炭化水素系潤滑剤またはフッ素化炭化水素系潤滑剤などを用いることができる。
【0040】
[2 スパッタ装置の構成]
図2は、本技術の一実施形態に係る磁気記録媒体の製造に用いられるスパッタ装置の構成の一例を示す概略図である。このスパッタ装置は、シード層12、下地層13および磁気記録層14の成膜に用いられる連続巻取式スパッタ装置であり、図2に示すように、成膜室21と、ドラム22と、カソード23a〜23cと、供給リール24と、巻き取りリール25とを備える。スパッタ装置は、例えばDC(直流)マグネトロンスパッタリング方式の装置であるが、スパッタリング方式はこの方式に限定されるものではない。
【0041】
成膜室21は、排気口26を介して図示しない真空ポンプに接続され、この真空ポンプにより成膜室21内の雰囲気が所定の真空度に設定される。成膜室21の内部には、回転可能な構成を有するドラム22、供給リール24および巻き取りリール25が配置されている。スパッタ時には、供給リール24から巻き出された基体11が、ドラム22を介して巻き取りリール25に巻き取られる。ドラム22には、図示しない冷却機構が設けられており、スパッタ時には、例えば−20℃程度に冷却される。成膜室21の内部には、ドラム22の円筒面に対向して複数のカソード23a〜23cが配置されている。これらのカソード23a〜23cにはそれぞれターゲットがセットされている。具体的には、カソード23a、23b、23cにはそれぞれ、シート層12、下地層13、磁気記録層14を成膜するためのターゲットがセットされている。これらのカソード23a〜23cにより複数の種類の膜、すなわちシート層12、下地層13および磁気記録層14が同時に成膜される。
【0042】
スパッタ時の成膜室21の雰囲気は、例えば、1×10-5Pa〜5×10-5Pa程度に設定される。シート層12、下地層13および磁気記録層14の膜厚および特性(例えば磁気特性)は、基体11を巻き取るテープライン速度、スパッタ時に導入するArガスの圧力(スパッタガス圧)、および投入電力などを調整することにより制御可能である。テープライン速度は、1m/min〜10m/min程度の範囲内であることが好ましい。スパッタガス圧は、0.1Pa〜5Pa程度の範囲内であることが好ましい。投入電力量は、30mW/cm2〜150mW/cm2程度の範囲内であることが好ましい。
【0043】
[3 磁気記録媒体の製造方法]
本技術の一実施形態に係る磁気記録媒体は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0044】
まず、図2に示したスパッタ装置を用いて、シード層12、下地層13および磁気記録層14を基体11の上に形成する。具体的には以下のようにして成膜する。まず、成膜室21を所定の圧力になるまで真空引きする。その後、成膜室21内にArガスなどのプロセスガスを導入しながら、カソード23a〜23cにセットされたターゲットをスパッタして、基体11の表面にシード層12、下地層13および磁気記録層14を順次成膜する。
【0045】
次に、磁気記録層14の表面に保護層15を形成する。保護層15の形成方法としては、例えば化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法または物理蒸着(physical vapor deposition:PVD)法を用いることができる。
【0046】
次に、例えば潤滑剤を保護層15の表面に塗布し、トップコート層16を形成する。潤滑剤の塗布方法はとしては、例えば、グラビアコーティング、ディップコーティングなどの各種塗布方法を用いることができる。
以上により、図1に示した磁気記録媒体が得られる。
【0047】
[4 効果]
一実施形態に係る磁気記録媒体は、基体11の表面に、シード層12、下地層13、グラニュラ構造を有する磁気記録層(垂直記録層)14をこの順序で積層した積層構造有している。そして、関係式F(Ms,α,δ,Rs)、飽和磁化量MsおよびHc近傍におけるM−Hループの傾きαが以下の関係を満たしている。したがって、良好なSNRを有する磁気記録媒体を実現できる。
F(Ms,α,δ,Rs)≦0.1[μ・emu・(mm)-1.5
Ms≧450[emu/cc]
α≧1.2
【0048】
関係式F(Ms,α,δ,Rs)、飽和磁化量MsおよびHc近傍におけるM−Hループの傾きαが上述の関係を満たしつつ、f(Ku,V,T)がさらに以下の関係を満たしている場合には、良好なSNRを有し、かつ熱擾乱に対して高い磁気安定性を有する磁気記録媒体を実現できる。
f(Ku,V,T)≧65
【0049】
基体11と下地層13との間に、アモルファス状態を有し、融点が2000℃以下である金属を含んでいるシード層12を設けた場合には、基体11に吸着したO2ガスやH2Oなどが下地層13に対して及ぼす影響を抑制するとともに、基体11の表面に金属性の平滑面を形成して、下地層13および磁気記録層14の配向性を改善し、優れた磁気特性を達成することができる。したがって、高出力化および低ノイズ化といった媒体性能の向上を実現できる。
【0050】
[5 変形例]
上述の一実施形態では、シード層12の構成を単層構造とする場合を例として説明したが、図3に示すように、シード層12の構成を第1のシード層(下側シード層)12aおよび第2のシード層(上側シード層)12bを備える2層構造としてもよい。この場合、第1のシード層12aが基体11の側に設けられ、第2のシード層12bが下地層13の側に設けられる。第1のシード層12aは、上述の一実施形態におけるシード層12と同様のものを用いることができる。第2のシード層12bは、例えば第1のシード層12aとは異なる組成の材料を含んでいる。この材料の具体例としては、NiWまたはTaなどが挙げられる。このようにシード層12が2層構造を有する場合には、下地層13および磁気記録層14の配向性をさらに改善し、磁気特性をさらに向上させることが可能となる。なお、シード層12の構成を3層以上の多層構造体としてもよい。
【0051】
また、上述の一実施形態では、下地層13の構成を単層構造とする場合を例として説明したが、図3に示すように、下地層13の構成を第1の下地層(下側下地層)13aおよび第2の下地層(上側下地層)13bを備える2層構造としてもよい。この場合、第1の下地層13aがシード層12の側に設けられ、第2の下地層13bが磁気記録層14の側に設けられる。第2の下地層13bの厚さは、第1の下地層13aの厚さよりも厚いことが好ましい。磁気記録媒体の特性を向上できるからである。なお、下地層13の構成を3層以上の多層構造体としてもよい。
【0052】
また、上述の磁気記録媒体では、関係式F(Ms,α,δ,Rs)、飽和磁化量MsおよびHc近傍におけるM−Hループの傾きαの3つの数値範囲を規定する場合を例として説明したが、関係式F(Ms,α,δ,Rs)の数値範囲のみを規定(F≦0.1[μ・emu・(mm)-1.5])するようにしてもよい。この場合にも、熱擾乱に対して高い磁気安定性を得る観点からすると、f(Ku,V,T)の数値範囲を規定(f≧65)することが好ましい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本技術を具体的に説明するが、本技術はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
(膜厚)
本実施例において、非磁性基体上に積層される各層の厚さは、以下のように測定した。まず、磁気テープをその主面に対して垂直に切り出し、その断面をTEM(Transmission Electron Microscope)により撮影した。次に、撮影したTEM写真から各層の厚さを求めた。
【0055】
(実施例1−1〜1−8、比較例1−1〜1−4)
(シード層の成膜工程)
まず、以下の成膜条件にて、非磁性基体としての高分子フィルム上にTiCrシード層を5nm成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:TiCrターゲット(但し、実施例1−2では、実施例1−1、1−3〜1−8、比較例1−1〜1−4とは異なる組成のTiCrターゲットを使用して、表1に示すようにTiCrシード層の組成を変更した。)
バックグラウンド圧:1.0×10-5Pa
ガス種:Ar
ガス圧:0.5Pa
本明細書において、バックグラウンド圧(BG圧)とは、スパッタリング開始直前の圧力のことをいう。
【0056】
(下地層の成膜工程)
次に、以下の成膜条件にて、TiCrシード層上にRu下地層を20nm成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:Ruターゲット
バックグラウンド圧:1.0×10-5Pa
ガス種:Ar
ガス圧:サンプルに応じて、以下のようにガス圧を変更した。
実施例1−1〜1−6、比較例1−1〜1−3:1.5Pa
比較例1−4:0.3Pa
実施例1−7:0.7Pa
実施例1−8:1.0Pa
【0057】
(磁気記録層の成膜工程)
次に、以下の成膜条件にて、Ru下地層上に(CoCrPt)−(SiO2)磁気記録層を20nm成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:(CoCrPt)−(SiO2)ターゲット(但し、表1に示す組成を有する磁気記録層が形成されるように、サンプルに応じて(CoCrPt)−(SiO2)ターゲットの組成を調製した。)
バックグラウンド圧:1.0×10-5Pa
ガス種:サンプルに応じて、以下のように導入ガス種を変更した。
実施例1−1〜1−5、1−7、1−8、比較例1−1〜1−4:Arガスのみ導入した。
実施例1−6:Arガス導入に加えて、ArとO2(3%)の混合ガスを同時に導入した。なお、混合ガスのガス流量は5sccmとした。
ガス圧:サンプルに応じて、以下のようにガス圧を変更
実施例1−1〜1−6、比較例1−1〜1−3:1.3Pa
実施例1−7、1−8、比較例1−4:1.5Pa
【0058】
(保護層の成膜工程)
次に、以下の成膜条件にて、(CoCrPt)−(SiO2)磁気記録層上にカーボンからなる保護層を5nm成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:カーボンターゲット
ガス種:Ar
ガス圧:1.0Pa
【0059】
(トップコート層の成膜工程)
次に、潤滑剤を保護層上に塗布し、保護層上にトップコート層を成膜した。
以上により、磁気テープを得た。
【0060】
(実施例2−1〜2−8)
シード層の成膜工程における成膜条件を以下のように変更した。また、磁気記録層の成膜条件におけるガス圧を1.5Paに変更した。これ以外のことは、実施例1−4と同様にして磁気テープを得た。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:表3に示す材料を含むシード層が形成されるように、実施例2−1〜2−3、比較例2−1〜2−5それぞれでターゲットの材料を変更した。
バックグラウンド圧:1.0×10-5Pa
ガス種:Ar
ガス圧:0.5Pa
【0061】
(実施例3−1〜3−5)
磁気記録層の成膜工程における成膜条件を以下のように変更する以外は、実施例1−1と同様にして磁気テープを得た。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:(CoCrPt)−(SiO2)ターゲットの組成(但し、表1に示す組成を有する磁気記録層が形成されるように、サンプルに応じて(CoCrPt)−(SiO2)ターゲットの組成を調製した。)
バックグラウンド圧:1.0×10-5Pa
ガス種:サンプルに応じて、以下のように導入ガス種を変更した。
実施例3−1〜3−3:Arガスのみ導入した。
実施例3−4、3−5:Arガス導入に加えて、ArとO2(3%)の混合ガスを同時に導入した。なお、実施例3−4では、混合ガスのガス流量を2.6sccmに設定し、実施例3−5では、混合ガスのガス流量を4.0sccmに設定した。
ガス圧:1.5Pa
【0062】
(実施例4)
(第1のシード層の成膜工程)
まず、以下の成膜条件にて、非磁性基体としての高分子フィルム上に第1のシード層としてのTiCrシード層を10nm成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:TiCrターゲット
バックグラウンド圧:1.0×10-5Pa
ガス種:Ar
ガス圧:0.5Pa
【0063】
(第2のシード層の成膜工程)
次に、以下の成膜条件にて、TiCrシード上に第2のシード層としてのNiWシード層を5nm成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:NiWターゲット
バックグラウンド圧:1.0×10-5Pa
ガス種:Ar
ガス圧:0.5Pa
【0064】
(第1の下地層の成膜工程)
次に、以下の成膜条件にて、NiWシード層上に第1の下地層としてのRu下地層を5nm成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:Ruターゲット
バックグラウンド圧:1.0×10-5Pa
ガス種:Ar
ガス圧:0.5Pa
【0065】
(第2の下地層の成膜工程)
次に、以下の成膜条件にて、第1の下地層としてのRu下地層上に第2の下地層としてのRu下地層を25nm成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:Ruターゲット
バックグラウンド圧:1.0×10-5Pa
ガス種:Ar
ガス圧:1.5Pa
なお、第1の下地層および第2の下地層はいずれもRuにより構成されるが、成膜条件(ガス圧)が異なるため、膜の性質が異なっている。
【0066】
(磁気記録層の成膜工程)
次に、以下の成膜条件にて、Ru下地層上に(CoCrPt)−(SiO2)磁気記録層を20nm成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:(CoCrPt)−(SiO2)ターゲット(但し、表8に示す組成を有する磁気記録層が形成されるように、(CoCrPt)−(SiO2)ターゲットの組成を調製した。)
バックグラウンド圧:1.0×10-5Pa
ガス種:Arガス導入に加えて、ArとO2(3%)の混合ガスを同時に導入した。なお、混合ガスのガス流量は2.6sccmとした。
ガス圧:1.5Pa
【0067】
(保護層およびトップコート層の成膜工程)
次に、実施例1−1と同様にして、(CoCrPt)−(SiO2)磁気記録層上に保護層およびトップコート層を順次成膜した。以上により、磁気テープを得た。
【0068】
(特性評価)
上述のようにして得られた実施例1−1〜1−8、2−1〜2−8、3−1〜3−5、4、比較例1−1〜1−4の磁気テープについて、以下の(a)〜(h)の評価を行った。
【0069】
(a)下地層の状態
X線回折装置により、θ/2θ特性を調査し、下地層の状態および結晶構造を解析した。
【0070】
(b)シード層の状態
電子線回折法により、シード層の状態および結晶構造を解析した。なお、電子線回折法では、シード層が結晶状態であれば電子線回折像としてドットが得られ、シード層が多結晶状態であれば電子線回折像としてリングが得られ、そして、シード層がアモルファス状態であれば電子線回折像としてハローが得られる。
【0071】
(c)シード層の組成
以下のようにしてシード層の組成を分析した。サンプルの表層からイオンビームによるエッチングを行い、エッチングされた最表面についてオージェ電子分光法による解析を実施し、膜厚に対する平均の原子数比率をその元素の比率とした。具体的には、Ti、CrおよびOの3元素について解析を行い、その百分率比率による元素量を同定した。
【0072】
以下に、オージェ電子分光法について説明する。オージェ電子分光法は、細く絞った電子線を固体表面に照射し、発生するオージェ電子のエネルギーと数を測定することで、固体表面に存在する元素の種類と量を同定する分析方法である。この放出されるオージェ電子のエネルギーは、表面に照射された電子線により作られた空準位へ外殻準位から電子が落ちる際に放出されるエネルギーに依存し、元素によって決まった値をとるため、サンプル表面の元素を特定することができる。
【0073】
(d)磁気記録層の組成
以下のようにして磁気記録層の組成を分析した。上記「(c)シード層の組成」におけるのと同様にして、オージェ電子分光法による解析を実施し、膜厚に対する平均の原子数比率をその元素の比率とした。具体的には、Co、Pt、Cr、SiおよびOの5元素について解析を行い、その百分率比率による元素量を同定した。
【0074】
(e)磁気記録層の磁気特性
以下のようにして磁気記録層の磁気特性を評価した。まず、振動試料磁力計(Vibrating Sample Magnetometer:VSM)を用いて、磁気記録層のM−Hループを得た。次に、得られたM−Hループから、飽和磁化量Ms、角型比Rs、抗磁力Hcおよび抗磁力Hc近傍におけるM−Hループの傾きαを求めた。なお、測定は、試料面に対して垂直方向に対して行い、かつ、所謂、試料形状に対する4πMsによる反磁界補正は実施しなかった。次に、このようにして求めた飽和磁化量Ms、傾きαおよび角型比Rsと、別途求めた磁気記録層の厚さδとを用いて、関係式F(Ms,α,δ,Rs)(=(Msαδ1.5(1−Rs)0.33))の値を求めた。
【0075】
(f)熱安定性
以下のようにして磁気テープの熱安定性を評価した。まず、磁気異方性エネルギーKu、活性化体積Vおよび絶対温度Tを以下のようにして求めた。
・磁気異方性エネルギーKu
トルク磁力計を用いてKu1およびKu2を求めたのち、これらの値を用いてKu(=Ku1+Ku2)を得た。
・活性化体積V
平面内TEM像よりカラムの平均粒直径Dを求め、カラムを円柱と近似して、活性化体積V=π(D/2)2tを求めた。但し、tは磁気記録層の膜厚である。
なお、CoCr系スパッタ膜の活性化体積は、カラム1つの体積に近いことが明らかにされている(参考文献:島津武仁、上住洋之、村岡裕明、中村慶久:日本応用磁気学会誌,26,3(2002))
・絶対温度T
絶対温度T=293K(室温20℃環境)とした。
次に、上述のようにして得られた磁気異方性エネルギーKu、活性化体積Vおよび絶対温度Tを用いて、関係式f(Ku,V,kB)(=(KuV/kBT))の値を求めた。
【0076】
(g)記録再生特性
以下のようにして記録再生特性を評価した。まず、リング型の記録ヘッドと巨大磁気抵抗効果(Giant Magnetoresistive:GMR)型の再生ヘッドを用い、ピエゾステージによりこのヘッドを往復振動させることにより記録再生を行う、所謂、ドラッグテスタにて測定を行った。ここで、再生ヘッドのリードトラック幅は120nmとした。次に、記録波長を250kFCI(kilo Flux Changes per Inch)とし、SNRを、再生波形のピーク・トゥ・ピーク電圧と、ノイズスペクトラムを0kFCI〜500kFCIの帯域で積分した値から求めた電圧との比により計算して求めた。
【0077】
一般に、記録再生システムを成立させるのに最低必要となるSNRは、波形等化やエラー補正を処理した後のSNR(所謂ディジタルSNR)において、16dB程度といわれている。ディジタルSNRは本測定方法(上記記録再生特性の評価に用いた測定方法)によるSNRに対して4dBほど低くなるので、16dBのディジタルSNRを確保するためには、本測定方法によるSNRは20dBほど必要となる。したがって、本測定方法によるSNRは最低20dB必要と判断している。更に、磁気テープと磁気ヘッドの摺動にて発生する出力低下や、磁気テープの変形などの実用上の特性低下を考慮した場合、更にSNRマージンを設定することが望ましい。このマージンを考慮すると、SNRは23dB以上であることが好ましいと考えられる。
【0078】
なお、本実施例の磁気テープでは、線記録密度が500kBPI(Bit Per Inch)であり、トラックピットを再生ヘッドのトラック幅の2倍として、トラック密度が106kTPI(Tracks Per Inch)であると考えると、500kBPI×106kTPI=53Gb/in2の面記録密度を実現できることになる。
【0079】
(h)出力減衰
以下のようにして出力減衰を評価した。まず、上述の「(f)記録再生特性」と同様にして、初期特性としての磁気テープのSNRを求めた。次に、SNRを求めた磁気テープを室温にて100時間保持したのち、磁気テープのSNRを改めて求めた。次に、以下の式から、磁気テープの出力減衰を求めた。
(出力減衰)=(初期のSNR)−(100時間経過後のSNR)
【0080】
(評価結果)
表1は、実施例1−1〜1−8、比較例1−1〜1−4の磁気テープの成膜条件および層構成を示す。
【表1】
【0081】
表2は、実施例1−1〜1−8、比較例1−1〜1−4の磁気テープの評価結果を示す。
【表2】
【0082】
表3は、実施例2−1〜2−8の磁気テープの成膜条件および層構成を示す。
【表3】
【0083】
表4は、実施例2−1〜2−8の磁気テープの評価結果を示す。
【表4】
【0084】
表5は、実施例3−1〜3−5の磁気テープの成膜条件および層構成を示す。
【表5】
【0085】
表6は、実施例3−1〜3−5の磁気テープの評価結果を示す。
【表6】
【0086】
表7、表8は、実施例4の磁気テープの成膜条件および層構成を示す。
【表7】
【0087】
【表8】
【0088】
表9は、実施例4の磁気テープの評価結果を示す。
【表9】
【0089】
表1〜表9および図4A図4Bから以下のことがわかる。
関係式F(Ms,α,δ,Rs)、飽和磁化量MsおよびHc近傍におけるM−Hループの傾きαが、F(Ms,α,δ,Rs)≦0.1[μ・emu・(mm)-1.5]、Ms≧450[emu/cc]、α≧1.2の関係満たすことで、SNRを20dB以上にすることができる。
関係式F(Ms,α,δ,Rs)、飽和磁化量MsおよびHc近傍におけるM−Hループの傾きαが上述の関係を満たし、かつ、関係式f(Ku,V,kB)がf(Ku,V,kB)≧65の関係をさらに満たすことで、出力減衰を1.0dB以下にすることができる。
上述の効果の発現は、シード層の材料としてTiCr合金を用いた場合に限定されるものではなく、シード層の材料として融点2000℃以下の金属を用いる場合には、F、Ms、α、またはF、Ms、α、fが上述の関係を満たせば、同様の効果が発現するものと考えられる。融点2000℃以下の金属としては、TiCr合金以外にTi単体、NiAl合金、CoCr合金などを用いることができる。
シード層および下地層の構造が積層構造を有し、かつF、Ms、α、またはF、Ms、α、fが上述の関係を満たすことで、より優れた効果が発現する。
【0090】
比較例1−3と実施例1−5の評価結果を比較すると(表2参照)、目標とするSNR(≧20[dB])を実現するためには、関係式FをF≦0.1[μ・emu・(mm)-1.5]に設定し、さらに飽和磁化量MsをMs≧450[emu/cc]に設定する必要があることがわかる。
比較例1−4と実施例1−7の評価結果を比較すると(表2参照)、目標とするSNR(≧20[dB])を実現するためには、上述したように、関係式F(≦0.1[μ・emu・(mm)-1.5])および飽和磁化量Ms(≧450[emu/cc])を設定し、さらに傾きα≧1.2に設定する必要があることがわかる。
実施例1−2〜1−4の出力減衰の評価結果から、熱擾乱の影響に対して十分に耐えるためには、KuV/kBT≧65であることが好ましいことがわかる。
表4の評価結果(Rsの評価結果)より、シード層の材料として融点2000℃以下の金属を用いると、下地層および磁気記録層の垂直配向が高くなることがわかる。なお、高いSNRを実現するためには、Rsは、0.7(70%)以上であることが好ましい。
【0091】
以上、本技術の実施形態について具体的に説明したが、本技術は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本技術の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0092】
例えば、上述の実施形態において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値などを用いてもよい。
【0093】
また、上述の実施形態の構成、方法、工程、形状、材料および数値などは、本技術の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0094】
また、本技術は以下の構成を採用することもできる。
(1)
基体と、シード層と、下地層と、グラニュラ構造を有する垂直記録層とを備え、
(Msαδ1.5(1−Rs)0.33)、Ms、およびαが以下の関係を満たしている磁気記録媒体。
(Msαδ1.5(1−Rs)0.33)≦0.1[μ・emu・(mm)-1.5
Ms≧450[emu/cc]
α≧1.2
(但し、Ms:飽和磁化量、α:抗磁力Hc近傍におけるM−Hループの傾き、δ:上記垂直記録層の厚さ、Rs:角型比である。)
(2)
上記シード層は、アモルファス状態を有し、融点が2000℃以下である金属を含んでいる(1)に記載の磁気記録媒体。
(3)
上記シード層は、アモルファス状態を有し、TiおよびCrを含む合金を含んでいる(1)または(2)に記載の磁気記録媒体。
(4)
(KuV/kBT)が以下の関係を満たしている請求項1に記載の磁気記録媒体。
(KuV/kBT)≧65
(但し、Ku:磁気異方性エネルギー、V:活性化体積、kB:ボルツマン定数、T:絶対温度である。)
(5)
上記下地層は、Ruを含んでいる(1)から(4)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(6)
上記垂直記録層は、Co、PtおよびCrを含む粒子が酸化物で分離されたグラニュラ構造を有する(1)から(5)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(7)
上記垂直記録層は、以下の式(1)に示す平均組成を有している(6)に記載の磁気記録媒体。
(CoxPtyCr100-x-y100-z−(SiO2z ・・・(1)
(但し、式(1)中において、x、y、zはそれぞれ、69≦x≦72、12≦y≦16、9≦z≦12の範囲内の値である。)
(8)
上記基体は、可撓性を有する非磁性基体である(1)から(7)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【符号の説明】
【0095】
11 非磁性基体
12 シード層
13 下地層
14 磁気記録層
15 保護膜
16 トップコート層
21 成膜室
22 ドラム
23a、23b、23c カソード
24 供給リール
25 巻き取りリール
図1
図2
図3
図4