特許第6205872号(P6205872)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205872
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】印刷用塗工紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/38 20060101AFI20170925BHJP
   D21H 19/48 20060101ALI20170925BHJP
   D21H 19/54 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   D21H19/38
   D21H19/48
   D21H19/54
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-119330(P2013-119330)
(22)【出願日】2013年6月5日
(65)【公開番号】特開2014-237897(P2014-237897A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2015年6月9日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】浅野 晋一
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 茂
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 由紀子
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−126854(JP,A)
【文献】 特開2008−049541(JP,A)
【文献】 特表2012−512969(JP,A)
【文献】 特開2009−233925(JP,A)
【文献】 特開2002−096458(JP,A)
【文献】 特開2007−197635(JP,A)
【文献】 特開2005−280335(JP,A)
【文献】 特開2005−074938(JP,A)
【文献】 特開2005−343108(JP,A)
【文献】 特開2005−262871(JP,A)
【文献】 特開2001−039010(JP,A)
【文献】 特開2000−007330(JP,A)
【文献】 特開2006−200109(JP,A)
【文献】 特開2007−146340(JP,A)
【文献】 特開2011−132646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00〜D21J7/00
B41M5/00
B41J2/01
2/165〜2/20
2/21 〜2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙上の少なくとも一方の面に塗工層を設けた印刷用塗工紙であって、印刷用塗工紙の王研式透気度が、100sec以上8000sec以下であリ、塗工層が、25℃における純水を用い、吸収時間5msec1/2の吸液量が7ml/m以上、30ml/m以下であり、且つ、30重量%のエタノール水溶液を用い、エタノール水溶液が塗工層に接触してから0.1sec後の接触角が22°以上28°以下であり、塗工層に軽質炭酸カルシウムと接着剤としてスチレン−ブタジエン共重合体、または、スチレン−ブタジエン共重合体と酸化澱粉を含有し、前記軽質炭酸カルシウム100質量部に対して前記接着剤を4質量部以上15質量部以下含有する(ただし、塗工層の顔料100質量部中カオリンを50質量部以上含有する場合を除き、軽質炭酸カルシウムを除く顔料としてカオリンまたは重質炭酸カルシウムのいずれか一方だけを使用する場合を除く)ことを特徴とする印刷用塗工紙。
【請求項2】
前記接触角が24°以上28°以下である請求項1記載の印刷用塗工紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用塗工紙に関するものであり、詳しくは、インクジェット印刷適性を有する印刷用塗工紙に関するものであり、更に詳しくは、高速・連続印刷するインクジェット商業印刷適性を有するグロスタイプの印刷用塗工紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式を用いて印刷するインクジェット印刷の用途は、フォトプリント、端末PC用プリンター、ファックスまたは複写機に留まらず、多品種小ロット印刷、可変情報印刷を可能とする、いわゆるオンデマンド印刷分野でも実用化が進んでいる。近年、印刷速度および画質の向上が図られるようになり、印刷ロットあたりの印刷部数が5000部以下となるオフセット印刷にも広がりを見せている。このほか、従来グラビア印刷で印刷されていた領域についても、インクジェット商業印刷の適応が検討されている。
【0003】
インクジェット方式は、各種の方法により射出させたインクの微小液滴を、紙などの用紙に付着させて画像や文字を形成させる方式である。この方式は、高速化、フルカラー化が容易である上、出力時の騒音が低く、装置が低価格であるため、多方面で利用されている。特に、インクジェット商業印刷においては、高速、連続印刷を行なう必要があるため、インクジェットインクを射出するインクジェットヘッドにラインヘッド方式が採用され、広がっている。
【0004】
末端PC用プリンター等において用いられることが多いシリアル型ヘッドは、用紙の搬送を止め印刷を行なう必要があるため、用紙を連続的に搬送することができない。これに対し、ラインヘッドは、用紙を連続的に搬送させながら印刷を行えるため、輪転方式のインクジェット商業印刷に適している。最近のインクジェット商業印刷市場では、60m/min以上、更に高速では200m/minを超えるインクジェット商業印刷機が登場している。
【0005】
このインクジェット商業印刷機は、インクジェットヘッドからインク液滴を用紙表面に射出し、画像を形成させた後、乾燥装置により印刷物を乾燥させる。この乾燥装置としては、いろいろな種類の乾燥方式が採用されているが、UVランプ、ハロゲンランプ、LEDランプ、熱風乾燥装置の他、表面を熱した搬送ロール(ヒートロール)に用紙を搬送させ乾燥させるものがある。乾燥の際の温度は、印刷スピード、印刷されるインク量によって最適な温度に調整される。
【0006】
このように高速化が進むインクジェット印刷機用の印刷用塗工紙としては、高いインク吸収性が求められるが、このインク吸収性が不十分であるとすると、印刷面に吸収ムラや、異なる色の境界線ににじみが発生し、印刷品質の低下が発生する。また、印刷用塗工紙表面へのインクの定着が進まず、印刷直後に印刷面を擦るとインクの脱落が発生したりもする。
【0007】
また、無版印刷方式でもあるインクジェット印刷機は、可変情報を取り扱えるため、顧客情報を取り扱うドキュメントプロセッシングサービス(DPS)やダイレクトメール(DM)に広く広がっている。この用途では、可変情報の他、インク打ち込み量が多くなる写真画像や図柄の印刷も実施される。また、得られる印刷物に高い宣伝効果を求められるため、印刷会社では、グロスタイプの印刷用塗工紙への印刷を行ないたい状況となっている。しかしながら、現状グロスタイプの印刷用塗工紙は、非塗工の印刷用紙よりもインクジェットインクのインク吸収性が劣るため、印刷会社では、高い印刷効果は得られないもののインク吸収性が高い、非塗工タイプの印刷用紙を用いてインクジェット印刷を行ったり、高い印刷効果を重視しグロスタイプの印刷用塗工紙を選択し、インク打ち込み量の多い写真や図柄をオフセット印刷機で印刷した後、可変情報のみをインクジェット印刷機で印刷する、所謂、コンポジット印刷を行なったり、インクジェット印刷機のみで超低速印刷を行ったりして、生産性を落として使いこなしているのが現状である。
【0008】
従来のフォトプリント用、端末PC用プリンター向けようのインクジェット専用用紙では、多孔質顔料を用いたインク受容層を採用しているため、高いインク吸収性を有している。しかし、多孔質顔料を用いたために白紙光沢が低く所謂マット調となってしまい、高い印刷効果が得られない。多孔質顔料を塗布した後に、クロムメッキ加工をした金属ロールに密着させる所謂キャスト加工した光沢インクジェット記録専用紙や、原紙表面にポリエチレン樹脂を塗工した上に、多孔質顔料を塗布して光沢性を発現させた所謂RCベースの光沢インクジェット記録専用紙等があるが、どちらも加工費用が高く、現状の生産性をおとしながら使用されているグロスタイプ印刷用塗工紙の代替品とならない。
【0009】
これまで、インクジェット印刷適性を有する印刷用塗工紙としては、様々な研究がなされている。例えば、特許文献1では、オフセット印刷用紙であって、高速・連続印刷するインクジェット印刷適性を併せ持つ印刷用塗工紙において、支持体に隣接する塗工層の接着剤の重量比率とスムースター透気度の範囲を規定している。この発明では、インクジェット適性のインク吸収性は向上し、主に文字情報である可変情報のインクジェット印刷機での印刷は可能となるものの、インク打ち込み量が多い写真画像や図柄の印刷が可能となるようなインク吸収性レベルを満足できるには至らない。
【0010】
特許文献2では、原紙の少なくとも一方の面に顔料とバインダーを主成分とする塗工層を設けた印刷用塗工紙において、その塗工層に塩化カルシウムすることを提案しているが、印刷部のムラや定着性は改善傾向にあるものの、インク吸収性が十分でないため、使用に耐えるレベルとならないと考えられる。
【0011】
特許文献3では、表層の塗工層と基材(原紙)に炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物を含有することならびにカルシウム化合物の含有量を規定しているが、印刷部ムラおよびインク定着性の向上傾向は認められるもののインクジェット商業印刷に求められるインク吸収性レベルとならないため、結果として使用に耐える印刷物が得られない。
【0012】
特許文献4では、顔料とバインダーを主成分とする塗工層を設けた印刷用塗工紙において、原紙にカルシウム化合物を含有することならびにそのカルシウム化合物の含有量を規定しているが、インクジェット印刷時の印刷部ムラおよびインク定着性の向上傾向は認められるもののインクジェット商業印刷に求められるインク吸収性レベルとならないため、結果として使用に耐える印刷物が得られない。
【0013】
特許文献5では、塗工層に用いる顔料種として炭酸カルシウムを規定し、その比率、および最適米坪量および表面電気抵抗値範囲を規定することにより、オフセット印刷、電子写真印刷、インクジェット印刷、いずれの印刷方式でも良好な印刷物が得られるとしているが、高速インクジェット商業印刷において、高いインク吸収性が求める写真画像印刷において、十分とならない。
【0014】
特許文献6では、インクジェット記録方式及び電子写真記録方式共用の用紙において、カルボン酸の含有させることを規定しているが、印字ムラやニジミを改善するものの、インク吸収性が十分なレベルでないと考える。
【0015】
特許文献7では、平均2次粒子径を規定した凝集軽質炭酸カルシウムを含有させ、その最適添加量を規定したものであるが、高速印刷対応する以前の端末PC用プリンターでのインク吸収性レベルは満たすものの、ラインヘッドを搭載されたインクジェット商業印刷機に求められるインク吸収性レベルには不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2011−246838号公報
【特許文献2】特開2012−77395号公報
【特許文献3】特開2012−77393号公報
【特許文献4】特開2012−77392号公報
【特許文献5】特開2008−297679号公報
【特許文献6】特開2005−8993号公報
【特許文献7】特開2005−8992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、高速・連続印刷するインクジェット商業印刷機の印刷適性を有するグロスタイプの印刷用塗工紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者等は、表面光沢が高く、従来からのオフセット印刷で用いられているグロスタイプ印刷用塗工紙並みの表面性と印刷効果を持ち、インク吸収性、インク定着性といったインクジェット印刷適性に優れる顔料塗工紙を提供すべく、顔料塗工層の組成について研究を重ねた。その結果、基紙上の少なくとも一方の面に、少なくとも1層の塗工層を設けた印刷用塗工紙の塗工層が特定の吸液量と特定の接触角度を有することにより良好なインクジェット商業印刷適性を有する印刷用塗工紙となることを見出した。
【0019】
本発明は、以下の発明を含む。
[1]基紙上の少なくとも一方の面に塗工層を設けた印刷用塗工紙であって、塗工層が、25℃における純水を用い、吸収時間5msec1/2の吸液量が7ml/m以上、30ml/m以下であり、且つ、30重量%のエタノール水溶液を用い、エタノール水溶液が塗工層に接触してから0.1sec後の接触角が22°以上30°以下であることを特徴とする印刷用塗工紙。
〔2〕接触角が24°以上28°以下である〔1〕記載の印刷用塗被紙。
〔3〕印刷用塗工紙の王研式透気度が、100sec以上8000sec以下である〔1〕又は〔2〕記載の印刷用塗工紙。
〔4〕塗工層に軽質炭酸カルシウムを含有する〔1〕〜〔3〕のいずれか1に記載の印刷用塗工紙。
【発明の効果】
【0020】
本発明の印刷用塗工紙は、オフセット印刷用グロスタイプ塗工紙に匹敵する高い表面光沢を有し、インクジェット商業印刷機でのインク吸収性やインク定着性といったインクジェット印刷適性に優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
インクジェット商業印刷に適した印刷用塗工紙に必要な物性値について、発明者らが鋭意検討した結果、インクジェット適性は、塗工層中のインクの広がり度合いと、インクが塗工紙表面に接触した際のドット形状が重要であることを見出した。更に研究を重ねたところ、塗工層中のインクの広がりは、ブリストー法で得られる吸液量と高い相関を持ち、且つ、塗工紙表面のインクのドット形状やその大きさについては、塗工紙表面に液的が接触した際の接触角値と高い相関があることを突き止めた。
【0022】
〔吸液量〕
インクジェット商業印刷においては、印刷用塗工紙の表面にインクが接触した後、直ぐに乾燥装置でインクが乾燥、定着させられるので、極短い時間での、インク挙動が重要となっている。
このため、インクジェット商業印刷のインク吸収性を、従来から行なわれてきた吸収・吸油速度測定法を用いて、その優劣を見極めることは非常に難しい。
ちなみに従来用いられてきた吸収・吸油速度測定法とは、ステキヒド法(JIS P 8122)やコッブ法(JIS P 8140)などのサイズ度測定法やクレム法(JIS P 8141)等の用紙に接触してらの時間が比較的長いところの吸収性についての測定法を指している。
ステキヒド法は、水が表面から裏面に透過(正確には両面から同時に浸透し紙層内部で接触する)するまでの時間を測定しており、コッブ法は液体との接触時間数秒から5分程度の間に吸収する液体量を測定する。クレム法では、5分間での毛管吸収による吸上げ高さを測定している。これらは液的と用紙の接触する時間が数秒程度以上の場合を想定した吸水速度及び吸液量を測定する方法であるので、インクジェット商業印刷機における吸液時間である数msecから1sec程度の範囲よりはるかに長い時間を対象としている。
【0023】
発明者らが鋭意検討した結果、印刷用塗工紙のインク吸収性として、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 NO.51(2000)で規定されたブリストー法(純水使用)に沿って得られた吸収曲線において、その曲線の、吸収時間が5ms1/2の吸液量(転移量)(ml/m)の値がインクジェット商業印刷適性にとって重要であることを見出した。なお、測定の際の温度は、25℃である。
また、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 NO.51(2000)の簡略化、省力化として提唱されている動的走査吸液計(dynamic scanning absorptometer ; DSA)(参考資料:空閑重則、片岡裕史、江前敏晴、尾鍋史彦,「動的走査吸液計の開発と応用」,紙パ技協誌48、730−734(1994))を用いて得られる吸収曲線から得られる吸収時間5msec1/2の吸液量(転移量)(ml/m)を代替法として用いても問題無い。
本発明は、この吸液量が7ml/m以上、30ml/m以下である必要がある。7ml/m以上とすることによりインクの吸収性を十分に得ることが出来る。30ml/m以下とすることにより、適度なドットの広がりを得ることができる。
【0024】
〔接触角〕
インクジェット印刷を施した場合、その印刷画質はインクのドット形状が左右する。真円状のドットであれば良好な画質となるが、真円状に歪が生じたり、ドットが小さかったりすると、画質が損なわれることになる。発明者らはドット形状を決める重要な物性値について鋭意検討した結果、印刷用塗工紙に接触した際の接触角度が、インクのドット形状やその大きさに深く関わっており、インクジェット商業印刷の印刷適性に重要であることを見出した。接触角度の最適化により、良好なドット形状が得られる理由については定かではないが、必要以上に接触角度が大きくなると印刷用塗工紙の表面でインクが広がらず、ドットが必要な大きさの形状にならず印刷用塗工紙の下地部が出て来て、白スジ状のムラを発生させる。また、必要以上に接触角度が小さいと近くの異なるドットとくっついたりし、ドットの形状が歪になったり、異なる色が混ざる結果となる。
印刷用塗工紙の表面のインクの広がりの指標として、印刷用塗工紙に一定量の液を垂らした際の接触角とインクジェット商業印刷の関係について、鋭意検討した結果、最適な画像を得るための接触角度として、22°以上30°以下、更に24°以上28°以下にすることにより、より良好な結果が得られることがわかった。
接触角は、30重量%のエタノール水溶液により、株式会社マツボー製動的接触角測定装置DAT 1100を用いて測定した。また、インクジェット商業印刷で得られる画質との相関について鋭意検討した結果、エタノール水溶液が印刷用塗工紙に接触してから、0.1sec後の接触角が、インクジェット商業印刷の品質と相関が高いことを見出したため、0.1sec後の接触角度にて規定している。
接触後0.1秒後の接触角が、インクジェット商業印刷の画質変化と相関が高い理由については明らかではないが、高速化されたインクジェット商業印刷機は、印刷用塗工紙へのインク液滴の着弾から乾燥まで、非常に短い時間でインク定着を行なっているために、0.1秒後の接触角度の値がインクジェット適性を考えるにあたり重要なファクターとなったのだと推定している。
【0025】
[王研式透気度]
本発明は、更に、印刷用塗工紙の王研式透気度(JISP8117)が100sec以上8000sec以下であることが好ましい。100sec未満の場合、インク記録適性は優れるものの、印刷用塗工紙の風合いが損なわれるものであり、特に光沢性が低く、オフセット印刷用グロスタイプ塗工紙に匹敵するものとは言いがたくなる。一方、8000secを越えると、印刷用塗工紙の風合いは優れるものの、インクジェットインクの吸収性が損なわれるなど、インクジェット印刷適性を得ることが出来ない。王研式透気度の下限は、120sec以上が好ましく、140sec以上がより好ましい。王研式透気度の上限は、5000sec以下が好ましく、3000sec以下がより好ましく、2000sec以下が更に好ましい。
【0026】
[塗工層]
本発明の印刷用塗工紙は、従来のグラビア印刷やオフセット印刷等に使用される印刷用塗工紙と同様、基紙の少なくとも一方の面に塗工層を有する。塗工層は、顔料と接着剤を含有し、更に助剤を含んでいても構わない。塗工層は少なくとも1層、もしくはそれ以上の多層でも良く、また基紙の片面のみに存在しても良いし、両面に存在しても良い。しかし、従来の印刷用塗工紙は、上記吸液量と接触角を両方とも満足するものはなく、本発明は両物性を満足する必要がある。
【0027】
[顔料]
本発明の塗工層に使用する顔料としては、上記で規定する物性値を発現する塗工層が得られるものであれば特に特定することはなく、カオリン、重質炭酸カルシウム、凝集炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、無定形シリカ、微粒子シリカ、コロイダルシリカ、アルミノ珪酸マグネシウム、微粒子状珪酸カルシウム、微粒子状炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、サチンホワイト、ベントナイト、ゼオライト、セリサイト、スメクタイト等の無機顔料や、ポリスチレン樹脂、スチレン・アクリル共重合樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、並びにこれらの微小中空粒子や貫通孔型の有機材料からなる有機顔料粒子等が挙げられる。これらの中で、炭酸カルシウム、タルク、カオリンを用いると、従来の印刷用塗工紙の風合いが近いので好ましい。また、カオリン、重質炭酸カルシウム等を用いると、接触角を高めに調節することができ、無定形シリカ、微粒子シリカ、アルミナ等の嵩比重の小さな顔料を用いると、吸液量を高めに、接触角を低くめに調節することができる。カオリン、有機顔料粒子を用いると白紙光沢性を向上する。塗工層に用いる顔料は、これらの顔料の中から、適宜選択して使用することができる。中でも、軽質炭酸カルシウムは、インク吸収性やインク定着性と白紙光沢性の両方の品質に優れるので好ましく、特に軽質炭酸カルシウムの中でも、顔料の形状が針状であることが好ましい。なお、無定形シリカ、微粒子シリカ、アルミナ等の嵩比重の小さな顔料は、インクジェット記録専用紙としてよく使用される材料でもあり、これらを単独で顔料として用いた塗工層は、吸液量が30mlを超える高い層となってしまい易いため、他の顔料と併用する必要がある。
【0028】
[接着剤]
塗工層に使用する接着剤としては、上記で規定する物性値を発現する塗工層が得られるものであれば特に特定することはなく、ラテックスバインダー、デンプン、カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白等の蛋白系接着剤、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系接着剤、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールの合成物、酢酸ビニル系共重合体、アクリル系共重合体等のビニルポリマー系接着剤等が使用可能である。これらの接着剤の中でラテックスバインダー、デンプン、ポリビニルアルコールは、インク吸収性と塗工層強度ともに良好で、特に好ましい。
ラテックスバインダーとしてはスチレン・ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート・ブタジエン共重合体等の合成ゴム系のラテックスバインダーが好ましい接着剤として例示できる。また、デンプンとしては、酸化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン化澱粉、リン酸エステル化澱粉、デキストリン等の澱粉系接着剤が例示できる。ポリビニルアルコールの中では、鹸化度が80%以上のものがより好ましい接着剤である。ラテックスバインダーを多く配合すると、接触角の値が大きくなる傾向にあるが、デンプン(やポリビニルアルコール)を併用すると、接触角の値を低く調節することもできる。
【0029】
これらの接着剤は、上記に述べたものの中から1種類又は2種類以上を適宜選択して使用することができる。接着剤添加量としては、顔料100質量部に対して3重量部以上25質量%以下を処方することが目安となるが、上記吸液量および接触角となるように、調節する必要がある。3重量部未満となるとインク吸収性やインク定着性は向上するものの、塗工層強度が低下し、ギロチン断裁時の紙粉発生にともなう各種加工適性低下を招く。また、25重量部を超えるとなるとインク吸収性、インク定着性が著しく低下する。接着剤は、ラテックスバインダーと、デンプンやポリビニルアルコールを併用することが、上記吸液量および接触角を満足しやすくなるので好ましい。
【0030】
[インク定着剤]
インクジェット商業印刷機用インクは、水性顔料インクや水性染料インクが使われるが、これらの水性インクでの印刷物のインク定着性や発色性を向上させる目的で、塗工層や基紙に、インク定着剤を含有させることができる。
【0031】
インク定着剤も、本発明で規定する物性値を発現するものであれば特に特定することはなく、下記にあげた物質の有機系と無機系のインク定着剤の使用が可能である。
有機系インク定着剤としては、例えば、水溶性或いは水性エマルジョンタイプなどが使用される。例えば、ポリアルキレンポリアミン系樹脂、またはその誘導体、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル樹脂、ポリエチレンイミン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドエピクロルヒドリン系樹脂、ポリジアリルアミン系樹脂、ポリアミン系樹脂、ジシアンジアミド縮合物等のカチオン樹脂が挙げられ、具体的には、ポリエチレンアミン、ポリプロピレンポリアミン、カチオン性ポリビニルピロリドン、ポリ−トリメチルアンモニウムメタクリレート、ビニルイミダゾリウムメタクロライド−ビニルピロリドン共重合体、ジアリルジメチル4級アンモニウム塩酸塩、ジシアンジアミド−ポリエチレンポリアミン、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド共重合体、ポリアルコキシジアルキル第4級アンモニウム塩、モノアリルアミン−ジアルルアミン塩酸塩共重合体、ポリアリルアミン塩酸塩、ジシアンジアミド−ホルマリン重縮合体、エピクロルヒドリン−ジメチルアミン付加重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド・SO共重合体、ジアリルアミン塩・SO共重合体、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、アリルアミン塩の重合物、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩重合物、アクリルアミド−ジアリルアミン塩共重合体等が挙げられ、1種あるいは2種以上を併用しても良い。これらカチオン性樹脂の分子量は、特に限定するものではないが、高分子量となるとインク吸収性が低下するため、分子量30,000以下のものの使用が望ましい。
【0032】
無機系インク定着剤としては、例えば、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ストロンチウム、イットニウム、ジルコニウム、モリブデン、インジウム、バリウム、ランタン、セリウム、プラセオジミウム、ネオジミウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、ジスロプロシウム、エルビウム、イッテルビウム、ハフニウム、タングステン、ビスマスから選択される金属塩または錯体が挙げられる。
【0033】
このインク定着剤の使用量は、基紙に内添する場合、使用するパルプ100重量%に対して、0.1重量%以上1重量%以下、もしくは基紙の表面に塗工するのであれば付着量が0.02〜5.0g/mであることが望ましい。どちらの場合も下限値を下回ると、所望する効果が小さくなる。また、最適な上限値を超えると、インク定着剤の基紙表面のプロファイルムラが起因するインク吸収ムラを発生させる可能性がある。
【0034】
また、塗工層に含有させるのであれば、顔料100重量部に対して1重量部以上15重量部以下の範囲で処方することが好ましい。1重量部以上とすることにより、得られる効果を確実にすることができる。一方、15重量部以下とすることにより、吸液量の低下を防ぎ、優れた印字品質を得ることができる。
【0035】
[助剤]
本発明に使用する助剤としては、ポリエチレンエマルジョン、脂肪酸の塩類やその誘導体、マイクロクリスタリンワックス等の離型剤、界面活性剤などの濡れ剤、分散剤、消泡剤、防腐剤、粘性改良剤、着色剤、潤滑剤、耐水化剤等の中から、1種類又は2種類以上を適宜選択して使用することができる。離型剤や濡れ剤は、吸液量や接触角の調節のために用いることができるが、助剤のみで調節することは困難であるため、顔料や接着剤の処方で調節し、助剤は微調節程度に留めることが好ましい。
【0036】
[基紙]
本発明に使用する基紙としては、シート状のものであればよく、例えば通常のインクジェット記録用紙、印刷用塗工紙、板紙に用いられる米坪30〜500g/m程度の紙支持体を基紙として好適に使用することができる。基紙として使用する紙支持体のパルプ原料も特に限定されるものではなく、脱墨パルプ、機械パルプ、化学パルプ等、通常の製紙方法で製造される紙のパルプ原料として一般的に用いられるパルプ原料の中から、1種類又は2種類以上を適宜選択して使用することができる。前記基紙を得る抄紙機についても特に限定されるものではなく、長網式抄紙機、短網式抄紙機、円網式抄紙機、オントップフォーマー抄紙機、ギャップフォーマー抄紙機、ヤンキー抄紙機等の従来公知の抄紙機で適宜抄紙することができる。紙層は、1層抄きでも多層抄きでも構わない。
【0037】
但し、基紙のコップ吸水度(JIS P 8140 Cobb30)を50cc/m以上に調整すると、吸液量や接触角の調節がしやすくなるので好ましい。
【0038】
さらに、使用する紙支持体には、必要に応じてクリア塗工層を施して表面処理することもできる。前記紙支持体にクリア塗工層を施す場合、塗被装置としてはロッドメタリングサイズプレスコーター、ゲートロールコーター、インクラインドサイズプレスコーター等の従来公知の装置を適宜使用することができる。
【0039】
このクリア塗工層は接着剤を主成分とするが、接着剤として、酸化澱粉、酵素変性澱粉、リン酸エステル化澱粉、カチオン化澱粉等の澱粉系、カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白等の蛋白系、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系、ポリビニルアルコール等の合成物、スチレン・ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート・ブタジエン共重合体等の合成ゴム系、酢酸ビニル系共重合体、アクリル系共重合体等のビニルポリマー系の中から、1種類又は2種類以上を適宜選択して使用することができる。
【0040】
また、基紙として使用する紙支持体は、塗工液を塗工する前に、予めカレンダー処理を施して紙支持体の表面を平滑化しておくこともできる。
【0041】
本発明で規定する物性値を発現するものであれば、塗工紙の塗工層の構成等を特に規定するものではないが、2層以上の層を有していても問題ない。
【0042】
[塗工および仕上]
塗工液は、一般的に固形分濃度を10〜65質量%程度に調製し、基紙上に乾燥重量で3〜40g/m、より好ましくは5〜20g/mになるように塗工、乾燥する。塗工層の組成にもよるが、塗工量が多くなると、吸液量が高く調節することが可能である。しかし、塗工量が多くなりすぎると、塗工層の強度が低下する傾向にあるため、接着剤を増量するなどの調節が必要となる。なお、接着剤の増量は吸液量が低く調整されることになる。同じ塗工層の組成を複数層に分けて設けと塗工層の強度低下は低減できるが、一度に塗工層を設けた場合に比べ、吸液量の増加量は少なくなる。
塗工層を形成する装置としては、ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、ロッドコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、バーコーター、グラビアコーター、ゲートロールコーター、ダイコーター等の従来公知の塗工装置の中から適宜選択して使用することができる。基紙上の湿潤塗工層を乾燥させる方法としては、熱風乾燥、蒸気乾燥、ガスヒーター乾燥、電気ヒーター乾燥、赤外線ヒーター乾燥等の従来公知の乾燥方法の中から適宜選択して使用することができる。また、塗工層をカレンダー処理により、平滑化しても良い。カレンダー処理装置としては、グロスカレンダー、スーパーカレンダー、ソフトカレンダーなどが挙げられ、熱を加えながら平滑化処理する熱カレンダーを用いることもできる。なお、カレンダー処理を行うと、塗工層の吸液量を下げる方向に調節することができる。
【0043】
本発明の印刷用塗工紙は、従来よりも高速の商業用インクジェットプリンターに対応可能で、インク量が多い写真や図柄などの画像である固定情報と可変情報の両方を、インクジェット印刷機で一度に印刷することも可能となる。もちろん固定情報をオフセット印刷し、可変情報をインクジェット印刷機で分けて印刷する方法にも利用できる。また、パッケージ分野や物流分野における箱や封筒等のインクジェット商業印刷にも適合できる。更に、印刷後表面に接着剤層を設けるダイレクト葉書(4面や6面等)用として使用することもできるし、裏面に各種の粘着剤層を設けたり、擬似接着層を設けたり、接着剤などにより別のシートとの張り合わせ積層体を形成したりすることなど、公知の加工を適宜行なうことができる。
【実施例】
【0044】
以下に、具体例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらによって制約を受けるものではない。なお、製造例、実施例、比較例において%および部とあるものはすべて質量%および質量部を示す。
【0045】
実施例1
「基紙の作成」
LBKP(CSF470ml)100%からなるパルプスラリーに、填料としてタルクを支持体灰分が4%となるように添加した後、パルプ固形分に対して硫酸アルミニウム0.88%、カチオン澱粉0.35%、アルキルケテンダイマーサイズ剤(商品名:サイズパインK−287、荒川化学社製)0.3%、ポリアクリルアミド(商品名:リアライザーR−300、ソーマル社製)0.04%を順次添加し、紙料を調製した。得られた紙料をオントップツインワイヤー抄紙機で抄紙し、さらにゲートロールサイズプレス装置で酸化澱粉(商品名:エースC、王子コーンスターチ社製)を両面で1.8g/m(固形分)塗布・乾燥し、マシンカレンダーで平滑化処理を施して坪量90g/mの基紙を得た。
【0046】
「塗工液の調製」
市販の針状軽質炭酸カルシウム(商品名:TP123CS、奥多摩工業社製)100部(固形分換算)に、接着剤として酸化澱粉(商品名:エースA、王子コンスターチ社製)3部(固形分)およびスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:OJ3000H、JSR社製)4部(固形分)を加え、固形分濃度が50%の塗工液を調製した。
【0047】
「印刷用塗工紙の作製」
前記基紙上にブレードコーターを用いて、片面の乾燥重量で10g/mになるように前記塗工液を両面に塗工、乾燥した。この後、スーパーカレンダーを用いて、線圧60kg/cm、2ニップの条件で平滑化処理を施して、坪量110g/mの印刷用塗工紙を得た。
【0048】
実施例2
実施例1の塗工液の調製に用いる顔料に代えて、市販の軽質炭酸カルシウム(商品名:TP221F、奥多摩工業社製)を用いる以外は、実施例1と同様にして印刷用塗工紙を得た。
実施例3
実施例1の塗工液の調製に用いる顔料に代えて、市販の軽質炭酸カルシウム(商品名:ブリリアントS−15、白石カルシウム工業社製)を用いる以外は、実施例1と同様にして印刷用塗工紙を得た。
【0049】
実施例4
実施例1の塗工液の調製に用いる顔料に代えて、市販のカオリン(商品名:アマゾンプラス、CADEM社製)を用いる以外は、実施例1と同様にして印刷用塗工紙を得た。
実施例5
実施例1の塗工液の調製に用いる顔料に代えて、市販の重質炭酸カルシウム(商品名:セタカーブHG、備北粉化工業社製)を用いる以外は、実施例1と同様にして印刷用塗工紙を得た。
【0050】
実施例6
実施例1の塗工液に調製で使用した接着剤の酸化澱粉の配合量を0部(配合しない)とする以外は実施例1と同様にして印刷用塗工紙を得た。
実施例7
実施例1の印刷用塗工紙の作製の際に、片面の乾燥重量を15g/mとする以外は実施例1と同様にして、米坪120g/mの印刷用塗工紙を得た。
【0051】
実施例8
実施例1の印刷用塗工紙の作製において、支持体上にロッドブレードコーターを用いて、片面の乾燥重量で10g/mになるように前記塗工液を両面に塗工、乾燥した後、更に、ロッドブレードコーターにて、乾燥重量で5g/mになるように上塗り層を両面に塗工、乾燥した後、スーパーカレンダーを用いて、線圧60kg/cm、2ニップの条件で平滑化処理を施して、坪量120g/mの印刷用塗工紙を得た
【0052】
比較例1
実施例1の塗工液の調製において、接着剤としてスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスの配合部数を1部とする以外は、実施例1と同様にして印刷用塗工紙を得た。
比較例2
実施例1の塗工液の調製において、接着剤としてスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスの配合部数を10部とする以外は、実施例1と同様にして印刷用塗工紙を得た。
【0053】
比較例3
比較例2の塗工液の調製において、接着剤の酸化澱粉の配合部数を5部とする以外は、比較例2と同様にして印刷用塗工紙を得た。
比較例4
比較例3の印刷用塗工紙の作製の際に、片面の乾燥重量で5g/mになるように塗工液を両面に塗工する以外は、比較例3と同様にして印刷用塗工紙を得た。
【0054】
比較例5
実施例8の印刷用塗工紙の作製において、片面の乾燥重量で10g/mになるように前記塗工液を両面に塗工、乾燥した後、更に、ロッドブレードコーターにて、乾燥重量で5g/m塗工するところを2g/m塗工する以外は、実施例8と同様に印刷用塗工紙を得た
【0055】
比較例6
比較例5の印刷用塗工紙の作製において、用いる塗工液として下記の下塗用塗工液と上塗り用塗工液を用い、実施例1支持体上にロッドブレードコーターを用いて、片面の乾燥重量で14g/mになるように下記下塗用塗工液を両面に塗工、乾燥した後、更に、ロッドブレードコーターにて、乾燥重量で8g/mになるように下記上塗用塗工液を両面に塗工、乾燥した後、スーパーカレンダーを用いて、線圧60kg/cm、2ニップの条件で平滑化処理を施して、坪量134g/mの印刷用塗工紙を得た
「下塗用塗工液の調製」
市販のカオリン(商品名:アマゾンプラス、CADEM社製)30部(固形分換算)と市販の重質炭酸カルシウム(商品名:セタカーブHG、備北粉化工業社製)40部(固形分換算)そして市販の軽質炭酸カルシウム軽質炭酸カルシウム(商品名:TP221F、奥多摩工業社製)30部(固形分換算)に、接着剤として酸化澱粉(商品名:エースB、王子コンスターチ社製)3部(固形分)およびスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:OJ3000H、JSR社製)10部(固形分)を加え、固形分濃度が53%の下塗り塗工液を調製した。
「上塗用塗工液の調製」
市販の重質炭酸カルシウム(商品名:セタカーブHG、備北粉化工業社製)100部(固形分換算)に、接着剤として酸化澱粉(商品名:エースB、王子コンスターチ社製)3部(固形分)およびスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:OJ3000H、JSR社製)10部(固形分)を加え、固形分濃度が53%の下塗り塗工液を調製した。
【0056】
比較例7
「基紙の作成」
LBKP(CSF470ml)100%からなるパルプスラリーに、填料としてタルクを支持体灰分が4%となるように添加した後、パルプ固形分に対して硫酸アルミニウム0.88%、カチオン澱粉0.35%、アルキルケテンダイマーサイズ剤(商品名:サイズパインK−287、荒川化学社製)0.3%、ポリアクリルアミド(商品名:リアライザーR−300、ソーマル社製)0.04%を順次添加し、紙料を調製した。得られた紙料をオントップツインワイヤー抄紙機で抄紙し、さらにゲートロールサイズプレス装置で酸化澱粉(商品名:エースC、王子コーンスターチ社製)を両面で1.8g/m(固形分)塗布・乾燥し、マシンカレンダーで平滑化処理を施して坪量90g/mの基紙を得た。
【0057】
「塗工液の調製」
市販の無定形シリカ(商品名:ファインシールX−45、(株)トクヤマ製)100部(固形分換算)に、接着剤として酸化澱粉(商品名:エースA、王子コンスターチ社製)3部(固形分)およびスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:OJ3000H、JSR社製)5部(固形分)、シリル変性ポリビニルアルコール(商品名:Rポリマー1130、クラレ社製)を加え、固形分濃度が15%の塗工液を調製した。
【0058】
「印刷用塗工紙の作製)
前記基紙上にエアーナイフコーターを用いて、片面の乾燥重量で20g/mになるように前記塗工液を両面に塗工、乾燥した。この後、マシンカレンダーを用いて、線圧20kg/cm、2ニップの条件で平滑化処理を施して、坪量130g/mの印刷用塗工紙を得た。
【0059】
実施例、比較例で得られた印刷用塗工紙について、下記の評価を行い、その結果を表1に示した。
【0060】
「吸収量」
JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 NO.51(2000)で規定されたブリストー法に沿って得られた吸収曲線において、その曲線の、吸収時間が5ms1/2の吸液量(転移量)(ml/m)の値である。測定には純水を使用し、測定の際の温度は、25℃である。
【0061】
「接触角」
30重量%のエタノール水溶液を用い、株式会社マツボー製動的接触角測定装置DAT 1100を用い、エタノール水溶液が印刷用塗工紙に接触してから、0.1sec後の接触角を測定した。
【0062】
「白紙光沢度」
JIS P8142に準拠して、75度における白紙面の光沢度を測定した。
「王研透気度」
JIS P 8117に準拠して、王研式透気度を測定した。
【0063】
「インクジェット印刷適性」
「インク吸収性の評価」
得られた印刷用塗工紙をラインヘッド搭載カラーラベルプリンター(LX−P5500顔料インクモデル、Canon製)でブラックベタ印刷と文字印刷を行ない。その印刷部分を目視評価した。
◎:ベタ印刷部分にムラなし。文字と白紙部にニジミなし。良好。
○:ベタ印刷部分にムラ、文字部から白紙部にインクのニジミが若干みられるが、
使用上問題のないレベル。
△:ベタ印刷部分にムラ、文字部から白紙部にインクのニジミが見られるレベル。
×:ベタ印刷部分全面にムラ、文字そのものが潰れ文字の形状が判別できないレベル。
【0064】
「インクジェットドット形状の評価」
インク吸収性の評価で得られた印刷物から、1ドットの形状を光学顕微鏡で20倍拡大し観察した。
◎:無作為に抽出した10個のドット全て奇麗な真円状。ドット内にも白抜けがない。
ベタ印刷部において、隣のドットの間に白抜けなし。
○:無作為に抽出した10個のドットうち1〜2個においてドットの真円性が歪となる。
ドット内には、白抜けがない。ベタ印刷部において、隣のドットの間に白抜けなし。
△:無作為に抽出した10個のドットうち3〜4個においてドットの真円性が歪となる。
ドット内に、若干白抜けが見られ、ベタ印刷部において、隣のドットの間に白抜けが若干見れ
れるが、問題ないレベル。
×:無作為に抽出した10個のドットうち8個以上にドットの真円性が歪となる。
ドット内に、白抜けが見られ、ベタ印刷部において、隣のドットの間に白抜けがみられ、1つ
のドットとして認識できてしまうレベル。
【0065】
(インク定着性の評価)
上記インク吸収性の評価と同様にして、ラインヘッド搭載カラーラベルプリンター(LX−P5500顔料インクモデル、Canon製)でブラックベタ印刷と文字印刷を行ない。印刷終了後、1分後に、1×5ccmサイズのゼロックス用紙を人差し指に巻きつけ、一定の力で、印刷面を擦り取った。
◎:擦りとった印刷部のインク剥がれが、まったく見られないレベル。良好。
○:擦りとった印刷部のインク剥がれが、少量見られるものの極僅かで、使用上問題のないレベル。
△:擦りとった印刷部のインク剥がれがあるが、下地の白紙部が露出するまでには至らないレベル。
(評価には乾燥機を有さないプリンターで評価しているが、印刷後に乾燥機を有する状態で使用す
る場合、乾燥の条件を調節すれば使用可能なレベル)。
×:擦りとった印刷部のインクが殆ど剥がれ取られ、下地の白紙部が露出しているレベル。
【0066】
(塗工層強度)
得られた印刷用塗工紙を用いて、RI印刷試験機(明製作所製)で、印刷インキ(商品名:FusionG EZ 墨 N、DIC Corporation社製)を、1ml使用して印刷を行い、印刷面のピッキングの程度を目視評価した。
◎:ピッキングが全く発生せず、良好。
○:ピッキングが少し発生するが、実用上問題ないレベル。
△:ピッキングが発生し、実用上、かなりの制限が必要なレベル。
×:ピッキングが多く発生し、実用上は許容できない
【0067】
【表1】

【0068】
表1から明らかなように、本発明により、白紙光沢に優れ、インクジェット印刷適性に優れる印刷用塗工紙を得ることができた。