(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池としては、3,4−ジクロロエチレンカーボネートとジメチルカーボネート(DMC)とを体積比で等量混合した有機溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)を1mol/L溶解した非水系電解液を用い、正極活物質をLiCoO
2とし、負極活物質を黒鉛としたものが提案されている(例えば、特許文献1)。この電池では、常温では固体であるエチレンカーボネートに比して、凝固点が低く、常温で液体であるエチレンカーボネート誘導体を用いることにより、低温特性に優れるものとしている。また、リチウム二次電池としては、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(ジフルオロエチレンカーボネート)とジメチルカーボネート(DMC)とを体積比で等量混合した有機溶媒にLiPF
6を1mol/L溶解した非水系電解液を用い、正極活物質をLiCoO
2とし、負極活物質を黒鉛としたものが提案されている(例えば、特許文献2)。この電池では、常温で液体であるエチレンカーボネート誘導体を用いることにより、低温特性に優れるものとしている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のリチウム二次電池は、正極と、負極と、リチウムイオンを伝導する非水系電解液とを備えている。このリチウム二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極と、リチウムイオンを吸蔵・放出しうる負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体としての非水系電解液と、を備えるものとしてもよい。
【0012】
本発明のリチウム二次電池の正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS
2、TiS
3、MoS
3、FeS
2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi
(1-x)MnO
2(0<x<1など、以下同じ)やLi
(1-x)Mn
2O
4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi
(1-x)CoO
2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi
(1-x)NiO
2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLiV
2O
3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV
2O
5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiV
2O
3などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0013】
本発明のリチウム二次電池の負極は、例えば、負極活物質と集電体とを密着させて形成してもよいし、負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり支持塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時おける不可逆容量を少なくできるため、好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。負極活物質としては、このうち、炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0014】
本発明のリチウム二次電池の非水系電解液は、エチレンカーボネートと鎖状カーボネートと次式(1)、(2)のうち少なくとも1以上のエチレンカーボネート誘導体とを含み、このエチレンカーボネート誘導体を0.5質量%以上20質量%以下の範囲で含むものである。このエチレンカーボネート誘導体は、エチレンカーボネート骨格の炭素に少なくともフッ素と水素とが結合したCHF構造を有するものである。このCHF構造を有すると、初期充放電時にこの構造から還元されて生成した分解生成物が負極上を覆うことで、充放電サイクル特性が向上するものと考えられる。なお、エチレンカーボネート誘導体として、エチレンカーボネート骨格の炭素にCHF構造を有さないもの、例えば、次式(3)の誘導体やフッ素の代わりに塩素を含むものなどは好ましくない。充放電サイクル特性が向上しないためである。エチレンカーボネート誘導体は、非水系電解液に対して20質量%以下の範囲で含まれるものであるが、10質量%以下の範囲であることが好ましく、5質量%以下の範囲であることがより好ましい。20質量%以下では、エチレンカーボネート誘導体の影響(例えば、電池抵抗の増加など)をより抑制することができ、好ましい。また、エチレンカーボネート誘導体は、非水系電解液に対して0.5質量%以上の範囲で含まれるものであるが、1質量%以上の範囲であることが好ましく、2質量%以上の範囲であることがより好ましい。0.5質量%以上では、エチレンカーボネート誘導体の添加効果を十分に発揮することができる。なお、例示したエチレンカーボネート誘導体の含有量は、充放電後に分解することもあることから、充放電前の含有量をいうものとする。
【0017】
非水系電解液に含まれるエチレンカーボネートは、例えば、エチレンカーボネート誘導体を除く非水系電解液に対して30体積%以上50体積%以下の範囲で含まれるものとしてもよい。鎖状カーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル−n−ブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジ−i−プロピルカーボネート、t−ブチル−i−プロピルカーボネートなどが挙げられ、これらを1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。このうち、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートのうち1以上が好ましい。この鎖状カーボネートは、エチレンカーボネート誘導体を除く非水系電解液において、少なくともエチレンカーボネートを溶解することが可能な範囲で含有することが好ましく、例えば、非水系電解液に対して50体積%以上70体積%以下の範囲とすることが好ましい。なお、エチレンカーボネートは電解液の誘電率を高めていると考えられ、鎖状カーボネート類は電解液の粘度を抑えていると考えられ、エチレンカーボネート誘導体は電極上により好ましい保護被膜を形成するものと考えられる。
【0018】
本発明のリチウム二次電池の非水系電解液は、容量比パラメータCap
(3-1)/Cap
(1-0)が、Cap
(3-1)/Cap
(1-0)>1.5を満たすことが好ましい。この容量比パラメータは、以下に説明する方法で求めるものとする。作用極にNi金属電極、参照極および対極にLi金属を用いた三極式の電気化学セルを構成し、これに非水系電解液を充填する。次に、Li金属電極基準で3.0Vから0.0Vへ掃引速度10mV/sで掃引させた際に生じる電気化学応答を測定する。この電気化学応答の還元電流の積算において、3.0Vから1.0Vの範囲の電極単位面積あたりの容量をCap
(3-1)[mAh/cm
2]とし、1.0Vから0.0Vの範囲の電極単位面積あたりの容量をCap
(1-0)[mAh/cm
2]として求める。この容量比パラメータは、Li金属基準で0〜1Vでの容量に対する1〜3Vでの容量を表し、0〜1Vでの電解液成分の分解に対する1〜3Vでの電解液成分の分解を示している。例えば、0〜1Vでの分解生成物に比して1〜3Vでの分解生成物が活物質に対して良好な保護被膜を形成するものと推察されることから、容量比パラメータは、より安定な保護被膜の生成の指標として用いることができる。この容量比パラメータは、1.6以上であることが好ましく、1.8以上であることがより好ましく、2.0以上であることが更に好ましい。また、この容量比パラメータは、充放電サイクル特性の低下を考慮すると、2.4以下であることがより好ましい。
【0019】
この非水系電解液には、他の溶媒が含まれているものとしてもよい。他の溶媒としては、例えば、有機溶媒やイオン液体などが挙げられる。有機溶媒としては、γ−ブチルラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類などが挙げられる。また、例えば、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3−ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。また、イオン液体としては、例えば、ピリジニウム系カチオン、イミダゾリウム系カチオン、アンモニウム系カチオン、ピロリジニウム系カチオン、ピペリジニウム系カチオン、ホスホニウム系カチオンなどを含むものが挙げられる。またアニオンとして、例えば、N(CF
3SO
2)
2-(TFSA)、BF
4-、PF
6-、B(CN)
4-、[(C
2F
5)
3PF
3]
-、[(CN)
2N]
-、CF
3SO
3-、CF
3CO
2-、N(FSO
2)
2-を含むイオン液体などが挙げられ、特にイミダゾリウムTFSA系、イミダゾリウムPF
6系、イミダゾリウムBF
4系などが挙げられる。この他の溶媒の含有量は、例えば、エチレンカーボネート誘導体を除く非水系電解液に対して30体積%以下としてもよい。
【0020】
また、この非水系電解液は、支持塩が含まれているものとしてもよい。支持塩としては、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、LiSbF
6、LiSiF
6、LiAlF
4、LiSCN、LiClO
4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl
4などが挙げられる。このうち、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiClO
4などの無機塩、及びLiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水系電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩の濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水系電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0021】
本発明のリチウム二次電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0022】
本発明のリチウム二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
図1は、本発明のリチウム二次電池10の一例を示す模式図である。このリチウム二次電池10は、集電体11に正極活物質12を形成した正極シート13と、集電体14の表面に負極活物質17を形成した負極シート18と、正極シート13と負極シート18との間に設けられたセパレータ19と、正極シート13と負極シート18の間を満たす非水系電解液20と、を備えたものである。このリチウム二次電池10では、正極シート13と負極シート18との間にセパレータ19を挟み、これらを捲回して円筒ケース22に挿入し、正極シート13に接続された正極端子24と負極シートに接続された負極端子26とを配設して形成されている。このリチウム二次電池10では、エチレンカーボネートと鎖状カーボネートと式(1)、(2)のうち少なくとも1以上のエチレンカーボネート誘導体とを含み、このエチレンカーボネート誘導体を0.5質量%以上20質量%以下の範囲で含む非水系電解液20を備えている。
【0023】
以上詳述した本発明のリチウム二次電池では、充放電サイクル特性をより高めることができる。例えば、非水系電解液に添加したエチレンカーボネート誘導体が初期充電時に還元され、更に還元物質同士が化学反応によりフッ素系の安定保護被膜を形成し、この保護被膜が負極上を覆うことで、更なる電解液の分解などを抑制することが予測される。また、鎖状カーボネートの存在によりエチレンカーボネートを十分に溶解することができ、エチレンカーボネートの一部としてエチレンカーボネート誘導体が含まれるため、エチレンカーボネート誘導体による影響(例えば電池抵抗の増大など)をより低減することができる。これにより、例えば2Cレートなどの高負荷充放電サイクルなど、充放電のサイクル特性をより高めることができるものと推察される。
【0024】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0025】
以下には、本発明のリチウム二次電池を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0026】
[実施例1]
(塗工電極の作製)
黒鉛負極として、d
002=0.388nm以下の黒鉛に40質量%のd
002=0.34nm以上の易黒鉛化炭素を混合し、バインダにポリフッ化ビニリデン(クレハ製KFポリマ)を用い、負極活物質とバインダとをそれぞれ95/5質量%で混合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)で分散させた負極合材のペーストを厚さ10μmの銅箔の両面に塗工乾燥させ、その後、塗布シートを加圧プレス処理した。なお、負極シート電極は56mm×500mmとした。正極活物質としてLiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2(戸田工業製)、導電材として炭素、結着材としてポリフッ化ビニリデン(クレハ製KFポリマ)を用い、正極活物質/導電材/結着材を質量比で85:10:5の割合で混合した正極合材を作製した。上記正極合材をNMPで分散させたペーストを、厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に塗工乾燥させた。その後、塗布シートを加圧プレス処理した。なお、正極シート電極は54mm×450mmとした。
【0027】
(電解液の調整)
エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比で30:40:30の割合となるように混合した非水溶媒に、六フッ化リン酸リチウムを1mol/Lになるように加えた。その後、エチレンカーボネート誘導体として、5質量%の1,2−ジフルオロエチレンカーボネート(式(1))を含有させて、非水系電解液を作製した。
【0028】
(二極式評価セルの作製)
電池の作製は、上記の正・負極シート電極をセパレータ(東燃タルピス製、PE製25μm厚、幅58mm)を介してロール状に捲回し、18650電池缶に挿入し、上記の電解液を注入した後に、トップキャップをかしめて密閉した。
【0029】
[実施例2]
エチレンカーボネート誘導体として2質量%の1,2−ジフルオロフルオロエチレンカーボネート(式(1))を含有させた非水系電解液を用いた以外は実施例1と同様に作製したセルを実施例2とした。
【0030】
[実施例3]
エチレンカーボネート誘導体として5質量のモノフルオロエチレンカーボネート(式(2))を含有させた非水系電解液を用いた以外は実施例1と同様に作製したセルを実施例3とした。
【0031】
[比較例1]
エチレンカーボネート誘導体を含まない非水系電解液を用いた以外は実施例1と同様に作製したセルを比較例1とした。
【0032】
[比較例2]
5質量%のジフルオロブチレンカーボネート(式(3))を含有させた非水系電解液を用いた以外は実施例1と同様に作製したセルを比較例2とした。
【0033】
[比較例3]
モノフルオロエチレンカーボネートとトリフルオロエチルメチルカーボネートとを体積比で50:50の割合となるように混合した非水系電解液に六フッ化リン酸リチウムを1mol/Lになるように加えた電解液を用いた以外は実施例1と同様に作製したセルを比較例3とした。
【0034】
(60℃サイクル耐久試験)
上記作製した二極式評価セルを用い、60℃の温度環境下、2Cレートの電流密度で電圧範囲3.0Vから4.2Vで充放電を300サイクル行った。1サイクル目の酸化容量をQ
(1st)とし、300サイクル目の放電容量をQ
(300th)として、容量維持率を、容量維持率(%)=(Q
(300th)/Q
(1st))×100により求めた。
【0035】
(電解液の電気化学測定)
作用極にNi金属電極、参照極および対極にLi金属を用いた三極式の電気化学セルを用い、上記調整した非水系電解液をこのセルに充填し、Li金属電極基準で3.0Vから0.0Vへ、掃引速度10mV/sで掃引させた。その際に生じる還元電流値において、3.0Vから1.0Vの範囲の電極単位面積あたりの容量をCap
(3-1)[mAh/cm
2]とし、1.0Vから0.0Vの範囲の電極単位面積あたりの容量をCap
(1-0)[mAh/cm
2]としたときに、Cap
(3-1)/Cap
(1-0)を容量比パラメータと定義した。各セルの容量比パラメータCap
(3-1)/Cap
(1-0)を求めた。
【0036】
(電解液の導電率測定)
実施例1〜3及び比較例3の電解液の導電率を測定した。
【0037】
(結果と考察)
表1に、添加化合物の種類、添加量(質量%)、初期容量(mAh/g)と60℃でのサイクル耐久試験後の容量(mAh/g)、容量維持率(%)および容量比パラメータ(−)を示す。
図2は、各セルの充放電サイクル数に対する放電容量の関係図である。
図3は、各セルの電解液を3Vから0Vへ掃引させたときの電気化学測定結果である。
図4は、容量比パラメータに対する容量維持率の関係図である。
図5は、実施例1〜3及び比較例3の電解液における温度に対する導電率の関係図である。表1、
図2に示すように、比較例1および比較例2に比べて、実施例1〜3は、充放電サイクルに伴う容量維持率が高い結果であった。即ち、実施例1〜3のようなエチレンカーボネート誘導体が含まれる非水系電解液ほど優れた60℃サイクル耐久性能を示すことが分かった。
【0038】
図3に示すように、電気化学応答結果では、3.0Vから1.0Vまでの範囲と、1.0Vから0.0Vまでの範囲にピークが確認できた。例えば、3.0Vから1.0Vまでの範囲の容量Cap
(3-1)は、添加化合物が還元分解して有機及びフッ素系の混合被膜成分を与えるものと推測される。また、1.0Vから0.0Vまでの範囲の容量Cap
(1-0)は、支持塩であるLiPF
6が分解して無機成分を与えるものと推測される。容量Cap
(3-1)で与えられる成分は、活物質の保護被膜として働くと考えられるが、容量Cap
(1-0)で与えられる成分は、上記保護被膜を分解し、活物質表面を露出させ、更に、充放電サイクルにおいては更なる分解が継続して起こることが考えられる。したがって、容量比パラメータでは、保護被膜として働く容量Cap
(3-1)が大きいほど、充放電サイクル時の保護被膜の分解をより抑制し、充放電サイクル特性をより向上するものと推察された。表1に示すように、容量比パラメータが1.5よりも大きいと、優れた60℃サイクル耐久性を示すことが明らかとなった。また、
図4に示すように、実施例1〜3及び比較例1において、容量比パラメータと60℃サイクル耐久試験における容量維持率の間には直線的な関係があり、容量比パラメータが大きいほど、60℃サイクル耐久試験における容量維持率が大きいことが分かった。また、比較例2のように、Fを含むがHを含まない(CHF構造を含まない)エチレンカーボネート誘導体では、容量維持率が低い結果となった。例えば、比較例1では充電時に負極上で電解液成分が継続的に電気化学的に分解されてしまい、電池容量が低下してしまうことが予想された。実施例1〜3では、添加したエチレンカーボネート誘導体が初期充電時に還元されて生成した分解生成物が負極上を覆うことで、更なる電解液分解を抑制する保護被膜を形成するものと予想された。また、比較例2のように、Fを含むがHを含まないエチレンカーボネート誘導体の場合、実施例1〜3で得られるような保護被膜を形成しないことが予想された。また、エチレンカーボネート誘導体をより多く含む比較例3では、50サイクルで容量維持率がほぼ0となった。これは、保護被膜が形成するものの、膜の抵抗が大きくなりすぎるため、セルのサイクル寿命が低下したものと推察された。あるいは、エチレンカーボネートを含まないことによる弊害とも考えられた。また、比較例3の結果より、容量比パラメータは、2.4以下であることが好ましいと推察された。
【0039】
図5に示すように、比較例3の電解液に比して、実施例1〜3の電解液は、1桁以上、導電率が高いことがわかった。電解液の導電率は電池抵抗に影響を及ぼすことから、比較例3に比して、実施例1〜3では、電池抵抗が低いことが予想された。
【0040】
このように、エチレンカーボネートと、鎖状カーボネートとを含み、上記式(1)、(2)のエチレンカーボネート誘導体を0.5質量%以上20質量%以下、更に好ましくは5質量%以下の範囲で含む非水系電解液を備えると、優れた充放電サイクル特性を示すことが明らかとなった。また、容量比パラメータが1.5よりも大きいことを満たすと優れた充放電サイクル特性を示すことが明らかとなった。
【0041】
【表1】