特許第6205981号(P6205981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6205981リチウム二次電池の電極形成用組成物、電極及びリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205981
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池の電極形成用組成物、電極及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20170925BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170925BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20170925BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20170925BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170925BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 C
   H01M4/36 D
   H01M4/139
   H01M10/0566
   H01M10/052
【請求項の数】11
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2013-172832(P2013-172832)
(22)【出願日】2013年8月23日
(65)【公開番号】特開2015-41556(P2015-41556A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2016年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】榊 淳子
(72)【発明者】
【氏名】八手又 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 崇倫
(72)【発明者】
【氏名】諸石 順幸
(72)【発明者】
【氏名】尾内 良行
【審査官】 正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−048053(JP,A)
【文献】 特許第5273274(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の活物質粒子と、第二の活物質粒子と、分散剤と、バインダーと、溶媒とを含むリチウム二次電池電極形成用組成物の製造方法であって、
前記第一の活物質粒子が、下記一般式(1)で示されるリチウムリン酸金属複合粒子の一次粒子の表面を導電性炭素で被覆した、被覆一次粒子から形成される、焼成後の粉砕工程を経ずに得られた二次粒子であり、前記被覆一次粒子の平均粒子径が50〜300nmであり、前記二次粒子の平均粒子径が300nm〜5μmであり、
前記第二の活物質粒子が、下記(1)〜(3)のいずれかの方法により製造される、下記一般式(1)で示されるリチウムリン酸金属複合粒子の一次粒子の表面を導電性炭素で被覆し造粒粒子であり、前記被覆一次粒子の平均粒子径が50〜300nmであり、前記造粒粒子の平均粒子径が5〜30μmであることを特徴とする、リチウム二次電池電極形成用組成物の製造方法
一般式(1):LiFe1-xxPO4(0≦x≦1)
(式中、Mは、Mn、Co、Ni及びVからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を示す。
(1)一般式(1)で示されるリチウムリン酸金属複合粒子を、導電性炭素の前駆体となる有機物とともに造粒し、さらに焼成する方法。
(2)一般式(1)で示されるリチウムリン酸金属複合粒子を、導電性炭素材料とともに造粒する方法。
(3)含リチウム化合物と、Fe、Mn、Co、Ni及びVから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む化合物と、含リン化合物と、導電性炭素材料または導電性炭素の前駆体となる有機物とを造粒し、さらに焼成する方法。
【請求項2】
第二の活物質粒子が、前記リチウムリン酸金属複合粒子を、導電性炭素の前駆体となる有機物とともに溶媒中に分散させてスラリーとし、該スラリーから溶媒を除去して造粒し、さらに焼成した粒子であることを特徴とする、請求項1記載のリチウム二次電池電極形成用組成物の製造方法
【請求項3】
第二の活物質粒子が、前記リチウムリン酸金属複合粒子を、導電性炭素材料とともに溶媒中に分散させてスラリーとし、該スラリーから溶媒を除去して造粒した粒子であることを特徴とする、請求項1記載のリチウム二次電池電極形成用組成物の製造方法
【請求項4】
第二の活物質粒子が、含リチウム化合物と、Fe、Mn、Co、Ni及びVから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む化合物と、含リン化合物と、炭素または導電性炭素の前駆体となる有機物を、溶媒中にて混合・分散させてスラリーとし、該スラリーから溶媒を除去して造粒し、さらに焼成した粒子であることを特徴とする、請求項1記載のリチウム二次電池電極形成用組成物の製造方法
【請求項5】
前記分散剤が、酸性官能基、塩基性官能基および水酸基からなる群から選ばれる1種以上の官能基を有することを特徴とする、請求項1〜4いずれか記載のリチウム二次電池電極形成用組成物の製造方法
【請求項6】
第一の活物質粒子と第二の活物質粒子の合計量に対する、第一の活物質粒子の含有量が10〜90重量%である、請求項1〜5いずれか記載のリチウム二次電池電極形成用組成物の製造方法
【請求項7】
さらに、導電助剤として導電性炭素材料を含有してなる請求項1〜6いずれか記載のリチウム二次電池電極形成用組成物の製造方法
【請求項8】
導電性炭素材料が、カーボンブラック、黒鉛、繊維状炭素およびグラフェンからなる群から選ばれる1種以上の導電性炭素材料である、請求項1〜7いずれか記載のリチウム二次電池電極形成用組成物の製造方法
【請求項9】
集電体と、該集電体上に、請求項1〜8いずれか記載の方法により製造されたリチウム二次電池電極形成用組成物が塗布、乾燥されてなる合材層とを備えたリチウム二次電池電極の製造方法
【請求項10】
前記合材層の乾燥膜厚が90μm以上であることを特徴とする請求項9に記載のリチウム二次電池電極の製造方法
【請求項11】
正極と負極と電解液とを備えた二次電池の製造方法であって、前記正極が、請求項10記載の方法により製造されたリチウム二次電池電極である、二次電池の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池電極形成用組成物、前記組成物を用いた電極、及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラや携帯電話のような、小型携帯型の電子機器が広く用いられるようになってきている。これらの電子機器に搭載される電池は、小型で、軽量であり、かつ大容量の電池性能を有する必要がある。そのような電池として、リチウム二次電池が注目されている。一方、定置で使用される大型の二次電池の分野においても、従来の鉛蓄電池に代えて、大型の非水電解質の二次電池が望まれている。また、近年、資源枯渇や環境問題の観点から、ハイブリッド自動車や電気自動車などに見られるように、二次電池を動力源として使用することも検討されている。
【0003】
上述の要求に応えるために、リチウム二次電池の開発が活発に行われている。例えば、リチウム二次電池の電極は、金属箔の集電体表面に正極合材層を備えた正極と、金属箔の集電体表面に負極合材層を備えた負極とから構成することができる。上記正極合材層は、例えば、リチウムイオンを含む正極活物質、導電助剤、及びバインダー樹脂を含む電極形成用組成物から形成することができる。一方、上記負極合材層は、例えば、リチウムイオンの脱挿入可能な負極活物質、導電助剤、及びバインダー樹脂を含む電極形成用組成物から形成することができる。
【0004】
上記電極は、合材層中の各成分の分布状態が重要である。その理由は、分散状態は、電極物性に影響するだけでなく、電池性能にも影響するからである。そのため、これまでに、活物質を含む各成分の分布状態を制御する、様々な方法が検討されている。
【0005】
例えば、平均粒子径の異なる複数の活物質粒子を併用し、合材層中に高充填に活物質を配置する様々な方法が報告されている(特許文献1〜4)。これらの方法は、電池容量を向上させる方法として有効である。特許文献1及び2は、異なる平均粒子径を有する活物質として、一次粒子径の異なる活物質粒子を使用する方法を開示している。しかし、上記方法によれば、粒子径の違いで、充放電速度が変わるため、小粒子径の活物質に負荷がかかりやすく、サイクル特性の劣化につながり易い傾向がある。また、イオン拡散性や電子伝導性の低い活物質は、一次粒子径が大きくなると、性能が悪化する。
【0006】
また、特許文献3及び4は、異なる平均粒子径の活物質を得るために、粒子の粉砕を行う方法を開示している。しかし、活物質粒子に大きなシェアを与えて粉砕することは、活物質が本来有する性能を損なう結果につながりやすい。特に、オリビン構造を有するリチウムリン酸金属複合粒子は、粒子の表面が導電性炭素で被覆されている。そのため、それらを活物質として使用し、上記方法を適用した場合、上記粒子を粉砕し、小粒子径の活物質を得る過程で、非被覆面が多く露出されることとなり、電池性能が大幅に低下する傾向がある。
【0007】
その他、電極形成用組成物の作製時に、従来の材料に加えて分散剤を用いる方法も報告されている(特許文献5)。分散剤を使用することによって、各成分を均一に合材層中に配置することが可能となる。しかし、それら分散剤を使用した場合であっても、合材層の強度や厚膜化、合材層と集電体との密着性、高速充放電特性などの観点では、未だ改善が望まれている。このように、所望とする電極および二次電池の特性を実現するために、さらなる改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−310311号公報
【特許文献2】特開2009−146788号公報
【特許文献3】特開2009−283354号公報
【特許文献4】特開2003−109592号公報
【特許文献5】特許3213944号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、合材層中で、活物質を高充填に配置させることができ、又、リチウムイオン拡散性や電子伝導性に劣るオリビン構造を有する正極材料を用いる場合にも、非常に優れた充放電容量を有するリチウム二次電池の電極形成用組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、集電体と合材層とを有する電極の作製において、集電体上に十分な膜厚が得られるように組成物を厚膜に塗布した場合であっても、塗膜のひび割れが少なく、集電体との密着性に優れ、耐久性にも優れた合材層を形成することができる、リチウム二次電池電極形成用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記従来技術における課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、一次粒子径は共に微細であり、かつ二次粒子径が互いに異なる二種の活物質と、分散剤とを用いたリチウム二次電池電極形成用組成物を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下に記載の実施形態に関する。
【0011】
<1>第一の活物質粒子と、第二の活物質粒子と、分散剤と、バインダーと、溶媒とを含むリチウム二次電池電極形成用組成物の製造方法であって、
前記第一の活物質粒子が、下記一般式(1)で示されるリチウムリン酸金属複合粒子の一次粒子の表面を導電性炭素で被覆した、被覆一次粒子から形成される、焼成後の粉砕工程を経ずに得られた二次粒子であり、前記被覆一次粒子の平均粒子径が50〜300nmであり、前記二次粒子の平均粒子径が300nm〜5μmであり、
前記第二の活物質粒子が、下記(1)〜(3)のいずれかの方法により製造される、下記一般式(1)で示されるリチウムリン酸金属複合粒子の一次粒子の表面を導電性炭素で被覆し造粒粒子であり、前記被覆一次粒子の平均粒子径が50〜300nmであり、前記造粒粒子の平均粒子径が5〜30μmであることを特徴とする、リチウム二次電池電極形成用組成物の製造方法
【0012】
一般式(1): LiFe1-xxPO4 (0≦x≦1)
(式中、Mは、Mn、Co、Ni及びVからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を示す。
(1)一般式(1)で示されるリチウムリン酸金属複合粒子を、導電性炭素の前駆体となる有機物とともに造粒し、さらに焼成する方法。
(2)一般式(1)で示されるリチウムリン酸金属複合粒子を、導電性炭素材料とともに造粒する方法。
(3)含リチウム化合物と、Fe、Mn、Co、Ni及びVから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む化合物と、含リン化合物と、導電性炭素材料または導電性炭素の前駆体となる有機物とを造粒し、さらに焼成する方法。
<2>上記第二の活物質粒子が、前記リチウムリン酸金属複合粒子を、導電性炭素の前駆体となる有機物とともに溶媒中に分散させてスラリーとし、該スラリーから溶媒を除去して造粒し、さらに焼成した粒子であることを特徴とする、上記<1>記載のリチウム二次電池電極形成用組成物の製造方法
【0013】
<3>第二の活物質粒子が、前記リチウムリン酸金属複合粒子を、導電性炭素材料とともに溶媒中に分散させてスラリーとし、該スラリーから溶媒を除去して造粒した粒子であることを特徴とする、上記<1>記載のリチウム二次電池電極形成用組成物の製造方法
【0014】
<4>上記第二の活物質粒子が、含リチウム化合物と、Fe、Mn、Co、Ni及びVから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む化合物と、含リン化合物と、炭素または導電性炭素の前駆体となる有機物を、溶媒中にて混合・分散させてスラリーとし、該スラリーから溶媒を除去して造粒し、さらに焼成した粒子であることを特徴とする、上記<1>記載のリチウム二次電池電極形成用組成物の製造方法
【0015】
<5>前記分散剤が、酸性官能基、塩基性官能基および水酸基からなる群から選ばれる1種以上の官能基を有することを特徴とする、上記<1>〜<4>いずれか記載のリチウム二次電池電極形成用組成物の製造方法
【0016】
<6>第一の活物質粒子と第二の活物質粒子の合計量に対する、第一の活物質粒子の含有量が10〜90重量%である、上記<1>〜<5>いずれか記載のリチウム二次電池電極形成用組成物の製造方法
【0017】
<7>さらに、導電助剤として導電性炭素材料を含有してなる上記<1>〜<6>いずれか記載のリチウム二次電池電極形成用組成物の製造方法
【0018】
<8>導電性炭素材料が、カーボンブラック、黒鉛、繊維状炭素およびグラフェンからなる群から選ばれる1種以上の導電性炭素材料である、上記<1>〜<7>いずれか記載のリチウム二次電池電極形成用組成物の製造方法
【0019】
<9>集電体と、該集電体上に、上記<1>〜<8>いずれか記載の方法により製造されたリチウム二次電池電極形成用組成物が塗布、乾燥されてなる合材層とを備えたリチウム二次電池電極の製造方法
【0020】
<10>前記合材層の乾燥膜厚が90μm以上であることを特徴とする上記<9>に記載のリチウム二次電池電極の製造方法
【0021】
<11>正極と負極と電解液とを備えた二次電池の製造方法であって、前記正極が、上記<10>に記載の方法により製造されたリチウム二次電池電極である、二次電池の製造方法
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、合材層中で活物質を高充填に配置させることができ、集電体上に十分な膜厚が得られるよう塗布しても、塗膜のひび割れが少ないリチウム二次電池電極形成用組成物を提供することができる。また、本発明のリチウム二次電池電極形成用組成物によれば、集電体との密着性に優れた合材層を形成でき、耐久性および充放電容量にも優れる二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
<I>リチウム二次電池電極形成用の組成物
本発明の第1の態様は、リチウム二次電池電極形成用の組成物に関する。上記組成物は、第一及び第二の活物質と、分散剤と、バインダーと、溶媒とを含む。以下、各構成成分について具体的に説明する。
<第一及び第二の活物質>
本発明の組成物では、活物質として、下記一般式(1)で示されるリチウムリン酸金属複合粒子を使用する。
【0024】
一般式(1): LiFe1-xxPO4 (0≦x≦1)
(式中、Mは、Mn、Co、Ni及びVからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を示す。)
上記一般式(1)で示されるリチウムリン酸金属複合粒子の具体例として、LiFePO4、LiMnPO4、LiFe0.5Mn0.5PO4が挙げられる。しかし、本発明の組成物における活物質は、上記具体例に限定されることなく、上記一般式(1)で示される、いかなる化合物であってもよい。
【0025】
本発明の組成物では、上記化合物から形成される、平均粒子径が異なる2種の粒子を活物質として使用することを特徴とする。すなわち、本発明は、以下に記載する第一の活物質と第二の活物質との組み合わせを必須とする。
【0026】
上記第一の活物質は、上記一般式(1)で示されるリチウムリン酸金属複合粒子の一次粒子の表面を導電性炭素で被覆した、被覆一次粒子から形成される、焼成後の粉砕工程を経ずに得られた二次粒子である。上記被覆一次粒子の平均粒子径は、50〜300nmであり、好ましくは60〜250nmである。また、上記二次粒子の平均粒子径は、300nm〜5μmであり、好ましくは400nm〜3μmである。
【0027】
本発明において、上記第一の活物質は、リチウムリン酸金属複合粒子の通常の合成過程で得られる、一次粒子の凝集によって形成される二次粒子である。ここで、上記二次粒子を構成する上記一次粒子は、各々、表面に導電性炭素の被覆層を有する。すなわち、本明細書で記載する「二次粒子」は、意図的な凝集工程又は造粒工程を経由することなく得られる、被覆一次粒子の凝集体そのもの(本質的に未処理の状態)を意味する。
【0028】
また、本発明では、上記二次粒子は粉砕工程を経ずに得られるものである。ここで、粉砕工程とは、粒子に過大なせん断力が加わり、D50が半分以下になるような工程を意味する。しかし、例えば、通常の合成過程において得られる、リチウムリン酸金属複合粒子の一次粒子の凝集体(二次粒子)が、粗大粒子である場合には、上記粗大粒子を解砕する工程を経由して得た二次粒子であってもよい。上記凝集体の解砕は、粒子に過大なせん断力が加わり、D50が半分以下になるような粉砕工程とは異なるものである。なお、本明細書では、上記二次粒子を第一の活物質粒子と称することもある。
【0029】
一方、上記第二の活物質は、上記一般式(1)で示されるリチウムリン酸金属複合粒子の一次粒子の表面を導電性炭素で被覆した、被覆一次粒子から形成される造粒粒子である。上記被覆一次粒子の平均粒子径は50〜300nmであり、好ましくは60〜250nmである。上記造粒粒子の平均粒子径は5〜30μmであり、好ましくは8〜20μmである。
【0030】
本発明において、上記第二の活物質は、上記一般式(1)で示されるリチウムリン酸金属複合粒子の一次粒子を用いて形成される造粒粒子である。ここで、上記造粒粒子を構成する上記一次粒子は、各々、表面に導電性炭素の被覆層を有する。すなわち、本明細書で記載する「造粒粒子」は、造粒工程、または造粒後の焼成工程でリチウムリン酸金属複合粒子の表面を導電性炭素材料で被覆することを意味する。なお、本明細書では、上記造粒粒子を第二の活物質粒子と称することもある。
【0031】
上述のように、本発明の組成物で使用する上記第一及び第二の活物質は、それぞれ、平均粒子径が50〜300nmである、微細な被覆一次粒子から構成される。そのため、本発明の組成物をリチウム二次電池の電極材料として使用した場合、上記各粒子の中心部から電解液までの距離が近く、リチウムイオンの拡散性を改善することが容易となる。
【0032】
上記第一及び第二の活物質を構成する被覆一次粒子の平均粒子径は、上記範囲内であれば特に限定されない。上記各々の活物質における被覆一次粒子の平均粒子径は、同じであっても、異なっていても良い。本発明の一実施形態では、上記第一の活物質と上記第二の活物質の各被覆一次粒子の平均粒子径の差は、100nm以下であることが好ましい。上記被覆一次粒子の平均粒子径の差を上記範囲内にすることによって、一部の活物質に負荷が偏り、耐久性が悪化するなどの不具合を容易に回避することができる。
【0033】
本発明において活物質として使用する上記化合物の合成方法は、特に限定されない。例えば、一般式(1)で示されるリチウムリン酸金属複合粒子を合成するためには、固相法、水熱法、共沈法、噴霧熱分解法などの公知の方法を適用することができる。
【0034】
上記金属複合粒子の表面を導電性炭素で被覆する方法は、特に限定されない。例えば、導電性炭素の前駆体となる有機物を金属複合粒子と共に、不活性雰囲気下で焼成する方法を適用することができる。また、導電性炭素材料を、乾式、または湿式法を用い、上記金属複合粒子表面に担持させる方法を適用することもできる。後者の方法を用いた場合、さらに、不活性雰囲気下で上記炭素材料を焼成する工程を追加することによって、より強固な被覆を形成することができる。
【0035】
上記金属複合粒子の表面が導電性炭素で被覆されているか否かは、透過電子顕微鏡を用いた上記粒子の断面の観察や、ラマン分光法による上記粒子表面のラマンバンドの解析によって確認することができる。
【0036】
本発明で使用する第一の活物質は、上述の工程によって得られる被覆一次粒子が凝集することによって形成される二次粒子である。しかし、上述の工程に従い活物質を合成した後、得られた二次粒子の粒径を小さくする工程を経て作製しても構わない。但し、被覆一次粒子表面の被覆炭素を傷つけないことを前提とする。
【0037】
本発明で使用する第二の活物質は、上記公知の方法で得られるリチウムリン酸金属複合粒子と、導電性炭素の前駆体となる有機物とを共に造粒し、その後、焼成を行うことによって作製することができる。また、上記第二の活物質は、上記リチウムリン酸金属複合粒子と、導電性炭素材料を共に造粒して作製したものであってもよい。この場合、さらに、不活性雰囲気下で焼成する工程を追加することによって、より強固な被覆を形成することができる。
【0038】
一方、本発明で使用する第二の活物質は、含リチウム化合物と、Fe、Mn、Co、Ni及びVから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む化合物と、含リン化合物と、炭素または導電性炭素の前駆体となる有機物とを共に造粒し、その後、焼成を行うことによって作製することもできる。
【0039】
本発明における製造方法において用いられる含リチウム化合物としては、リチウムを含有するものであればいずれの化合物でも使用可能である。しかし、保存安定性や取扱い易さ等の観点から、酸化物、水酸化物、塩化物、炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩などの有機酸塩などが好ましい。
【0040】
本発明における製造方法において用いられる遷移金属化合物としては、遷移金属であるFe、Mn、Co、NiまたはVなどを含有するものであればいずれの化合物でも使用可能である。しかし、保存安定性や取扱い易さ等の観点から、酸化物、水酸化物、塩化物、炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩などの有機酸塩などが好ましい。
【0041】
本発明における製造方法において用いられるリン化合物としては、保存安定性や取扱い易さの観点から、リン酸塩が好ましく、具体的には、リン酸、リン酸鉄、リン酸リチウム、リン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸エステル化合物などが挙げられる。
【0042】
本発明における製造方法において用いられる導電性炭素の前駆体となる有機物としては、ビチューメン類、糖類、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、脂肪族系炭化水素、脂肪族系アルコール、脂肪族系カルボン酸、脂環式炭化水素、脂環式アルコール、脂環式カルボン酸、天然材料である天然ワックス、天然樹脂、及び植物油等が挙げられるが、これらに特に限定されるものではない。
【0043】
ビチューメン類としては、天然アスファルト、原油の精製過程で得られる石油アスファルト、石炭の精製過程で得られるコールタール等が挙げられる。さらに、これらから得られるピッチ類及びレジン類等も含まれる。天然アスファルトとしては、レーキアスファルト、ロックアスファルト、サンドアスファルト、ギルソナイト、グランスピッチ、グラハマイト等が挙げられる。石油アスファルトとしては、ストレートアスファルト、ブローンアスファルト、セミブローンアスファルト、溶剤脱歴アスファルト等が挙げられる。
【0044】
糖類としては、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖が挙げられる。単糖としては、グリセルアルデヒド、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等が挙げられる。二糖としては、マルトース、スクロース、ラクトース、トレハロース等が挙げられる。オリゴ糖としては、フルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖等が挙げられる。多糖としては、セルロース、デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、ペクチン、グルコマンナン等が挙げられる。
【0045】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル樹脂類、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリカーボネート類、ポリエーテル類、アセチルセルロース等のセルロース樹脂、スチレン−ブタジエンゴム等の合成ゴム等が挙げられる。又、これらの樹脂の変性体、混合物、又は共重合体でも良い。具体的には、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、ビニルアルコール、ポリエチレングルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、及びビニルピロリドン等を構成単位として含む共重合体が挙げられる。
【0046】
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド等が挙げられる。
【0047】
脂肪族系炭化水素及び脂環式炭化水素としては、特に限定するものではなく常温・常圧下で液体または固体であれば用いることができるが、炭素含有率及び取扱い易さ等の観点から炭素数10以上の炭化水素が好ましい。飽和炭化水素、不飽和炭化水素のいずれも使用できる。さらに、パラフィン、流動パラフィン、石油ワックス等の混合物も使用できる。
【0048】
脂肪族系アルコール及び脂環式アルコールとしては、特に限定するものではなく常温・常圧下で液体または固体であれば用いることができるが、炭素含有率及び取扱い易さ等の観点から炭素数3以上、または2価以上のアルコールが好ましい。
【0049】
脂肪族系カルボン酸及び脂環式カルボン酸としては、特に限定するものではなく常温・常圧下で液体または固体であれば用いることができるが、炭素含有率及び取扱い易さ等の観点から炭素数5以上のカルボン酸が好ましい。
【0050】
天然ワックスとしては、植物系ワックスと鉱物系ワックスが挙げられる。植物系ワックスとしては、原料の植物の違いによって、カルナバワックス、ライスワックス、キャデリラワックス、ジャパンワックス等が挙げられる。一方、鉱物系ワックスとしては、褐炭より溶剤抽出して作られるモンタンワックス等があるが、主に変性して使われる。
【0051】
変性された天然ワックスとしては、モンタンワックスの酸化またはエステル化変性物が挙げられる。
【0052】
市販の植物系天然ワックスとしては、例えば、カルナバ1号、カルナバ2号、カルナバ3号、及びキャンデリラワックス等の東洋アドレ社製天然ワックス;ライスワックス脱色品、精製ライスワックス、ジャパンワックス等の東亜化成社製天然ワックス;ビーズワックス等の三木化学工業社製天然ワックス、雪ロウ等のセラリカNODA社製天然ワックスが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
市販の変性天然ワックスとしては、例えば、モンタンワックスEP、モンタンワックスOP、モンタンワックスNA等の東洋アドレ社製変性天然ワックス;LUWAX−S、LUWAX−E、LUWAX−OP、LUWAX−LEG等のBASF社製変性天然ワックス;リコワックスE、リコルブWE4、リコルブWE40、リコモントET141、リコモントET132等のクラリアント社製の変性天然ワックス等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
天然樹脂としては、樹皮より分泌される樹液に含まれる不揮発性の固体または半固形体
の物質や、樹木に寄生するラックカイガラムシが分泌する樹脂状物質が挙げられる。具体
的な天然樹脂としては、ロジン、ダンマル、コパール、シェラック等が挙げられる。
【0055】
市販の天然樹脂としては、例えば、トールロジンR−X、トールロジンR−WW等のハリマ化成社製の天然樹脂;ガムロジンの荒川化学社製の天然樹脂;中国ガムロジンXグレード、中国ガムロジンWWグレード、ダンマル樹脂Aグレード、コパール樹脂Aグレード、コパール樹脂Bグレード、コパール樹脂Cグレード等の安土産業社製の天然樹脂;GSN、GSNハルス、2GSN、3GSN、GSFN、GS、GS−3、GST、BH、GSA、GSオレンジ−1、GSオレンジ−8、GSL、PEARL−N811、GBN−D、GBN−DB、GBN−D−6、S−GB−D、F−GB−D等の岐阜セラツク製造所社製の天然樹脂が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
変性天然樹脂としては、ロジン、テルペン等の変性樹脂が挙げられる。
【0057】
市販の変性された天然樹脂としては、例えば、変性ロジンとして、重合ロジン、ハイベ
ールCH、スーパーエステルL、スーパーエステルA−18、スーパーエステルA−75、スーパーエステルA−100、スーパーエステルA−115、スーパーエステルA−125、スーパーエステルT−125、ペンセルA、ペンセルAZ、ペンセルC、ペンセルD−125、ペンセルD−135、ペンセル160、ペンセルKK、エステルガムAAG、エステルガムAAL、エステルガムA、エステルガムAAV、エステルガム105、エステルガムAT、エステルガムH、エステルガムHP、エステルガムHD、パインクリスタルKR−85、パインクリスタルKR−612、パインクリスタルKR−614、パイ
ンクリスタルKE−100、パインクリスタルKE−311、パインクリスタルKE−359、パインクリスタルKE−604、パインクリスタルD−6011、パインクリスタルKE−615−3、パインクリスタルD−6250、パインクリスタルKM−1500、パインクリスタルKR−50M、スーパーエステルE−720、スーパーエステルE−730−55、スーパーエステルE−650、スーパーエステルE−865、マルキードNo1、マルキードNo2、マルキードNo5、マルキードNo6、マルキードNo8、マルキードNo31、マルキードNo32、マルキードNo33、マルキードNo34、マルキード32−30WS、マルキード3002、タマノル135、タマノル340、タマノル350、タマノル352、タマノル354、タマノル361、タマノル366、タマノル380、タマノル386、タマノル392、タマノル396、タマノル406、タマノル409、タマノル410、タマノル412、タマノル414、タマノル417、タマノル418、タマノル420、タマノル423、タマノルE−100、タマノルE−200NT、タマノル803L、タマノル901等の荒川化学社製の変性天然樹脂;ハリマックM−130A、ハリマック135GN、ハリマック145P、ハリマックR−120AH、ハリマックAS−5、ハリマックR−80、ハリマックT−80、ハリマックR−100、ハリマックM−453、ハリフェノール512、ハリフェノール532、ハリフェノール561、ハリフェノール573、ハリフェノール582、ハリフェノー
ル504、ハリフェノール565、ハリフェノールP−102U、ハリフェノールP−130、ハリフェノールP−160、ハリフェノールP−292、ハリフェノールPN−717、ハリフェノールS−420、ハリフェノールP−600、ハリフェノールT3120、ハリフェノールP−216、ハリフェノールP−637、ハリフェノールP−222、ハリフェノールP−622、ハリエスターNL、ハリエスターP、ハリエスターKT−2、ハリエスターKW、ハリエスターTF、ハリエスターS、ハリエスターC、ハリエスターDS−70L、ハリエスターDS−90、ハリエスターDS−130、ハリエスターAD−130、ハリエスターMSR−4、ハリエスターDS−70E、ハリエスターSK−70D、ハリエスターSK−90D−55、ハリエスターSK−508H、ハリエスターSK−816E、ハリエスターSK−822E、ハリエスターSK−218NS、ハリエスターSK−323NS、ハリエスターSK−370N、ハリエスターSK−501NS、ハリエスターSK−385NS、ネオトールG2、ネオトール101N、ネオトールNT−15、ネオトール125HK、バンビームUV−22A、バンビームUV−22C、ハリタックF−75、ハリタックFG−90、ハリタックAQ−90A、ハーサイズNES−500、ハーサイズNES−680、ハーサイズNES−745、ハーサイズNE
S−748、ニューサイズ738、REO−15、REO−30、バンディスT−100H、G−100F、DG−100等のハリマ化成社製の変性天然樹脂が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
変性テルペンとしては、YSレジンPX1250、YSレジンPX1150、YSレジンPX1000、YSレジンPXN1150N、YSポリスターU130、YSポリスターU115、YSポリスターT160、YSポリスターT145、YSポリスターT130、YSポリスターT115、YSポリスターT100、YSポリスターS145、マイティエースG150、マイティエースG125、マイティエースK140、マイティエースK125、YSレジンTO125、YSレジンTO115、YSレジンTO105、YSレジンTR105、クリアロンP150、クリアロンP135、クリアロンP125、クリアロンP115、クリアロンP105、クリアロンM115、クリアロンM105、クリアロンK110、クリアロンK100、クリアロン4100、クリアロン4090等のヤスハラケミカル社製の変性天然樹脂が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
植物油としては、大豆油、アマニ油、ひまし油、ヤシ油、桐油、米糠油、パーム油、ココナッツ油、コーン油、オリーブ油、菜種油、ヒマワリ油等、トール油、テレビン油等が
挙げられる。
【0060】
市販の植物油としては、例えば、大豆油KT等の丸正社製植物油;大豆白絞油、亜麻仁油等の日清オイリオ社製植物油;コメサラダ油等のボーソー油脂製植物油;TEXAPRINTSDCE等のコグニスジャパン社製植物油;リモネン油、ユーカリオイル、桐油等の安土産業社製植物油;ハートールSR−20、ハートールSR−30、ハートールR−30等のハリマ化成社製植物油;α−ピネン、東洋松印、ヂペンテン等の荒川化学社製のテレビン油が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
変性植物油としては、大豆油、アマニ油、ひまし油、ヤシ油、桐油、ヒマワリ油、トール油等の変性物が挙げられる。
【0062】
市販の変性植物油としては、例えば、アラキードIA−120−60L、アラキード1782−60、アラキード3101X−60、アラキード8042−80、アラキード5301X−50、アラキード8012、アラキード5350、アラキード1465−60、アラキード3145−80、アラキード310、アラキード5001、アラキード251、アラキード6300、アラキードS−5021、アラキードM−302、アラキード7502X、アラキード7506、アラキード1232−60、アラキード7100X−50、アラキード7104、アラキード7107、アラキード7108、アラキード7109、アラキード7110等の荒川化学社製の変性植物油;ハリフタール732−60、ハリフタールCOG40−50T、ハリフタールSB−3600、ハリフタールSB−7150X、ハリフタールSB−7540、ハリフタール3011、ハリフタール3100、ハリフタール3150、ハリフタール3271、ハリフタール3371、ハリフタールSC−3059TX、ハリフタール764、ハリフタール816、ハリフタールSL−3500、ハリフタール193HV、ハリフタール3011PN、ハリフタール3254PN、ハリフタール3256P、ハリフタール3200PN、ハリフタール3258P−N150、ハリフタール3530P、ハリフタール3004、ハリフタール3005、ハリフタール601、ハリフタール640、ハリフタール1155、ハリフタール2184、ハリフタールSL−280、ハリポールF−6、ハリポールF−8、ハリポールF−16、ハリダイマー200、ハリダイマー250、ハリダイマー270S、DIACID−1550、ハートールQ−1、ハートールQ−2、ハートールQFA−2、ハートールFE−500、ハートールM−33、ハリコンSK−613、バンディスM−550L等のハリマ化成社製の変性植物油;ダイマロン、YSオイルDA等のヤスハラケミカル社製の変性植物油;脱水ひまし油、脱水ひまし油脂肪酸、高共役脱水ひまし油脂肪酸、ひまし硬化油等の小倉合成工業社製変性植物油等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
これらの天然材料は、非常に安価な炭素含有化合物であり、化合物中の炭素含有量も高
く、不活性ガス雰囲気下、または還元性ガス雰囲気下での加熱分解により残存する元素が
ほとんど炭素のみであり、効率的に電子伝導性をもった炭素を生成しやすい特性を持つ。
また、他の化合物と変性させることで、融点、軟化点、分解温度などの物理的性質を容易
に変えることができるため、加熱分解により導電性炭素を生成する炭素含有物質としてよ
り好ましい化合物に改良することもできる。
【0064】
加熱分解により導電性炭素を生成する炭素含有物質としては、特に、取扱い易さ、コス
ト、焼成工程後の炭素残存率、炭素被覆性等の観点から、ビチューメン類、天然ワックス
、天然樹脂、付加重合により合成される熱可塑性樹脂、炭素数10以上のアルコール及びカルボン酸、炭素数15以上の炭化水素等が好ましい。
【0065】
本発明における製造方法において用いられる導電性炭素材料としては、導電性を有する炭素材料であれば特に限定されるものではない。例えば、グラファイト、カーボンブラック、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、フラーレン等を単独で、又は2種類以上併せて使用することができる。
【0066】
上記第二の活物質を形成するための造粒方法は、特に限定されない。例えば、溶媒中に活物質粒子を分散させたスラリーを作製し、次いで、そのスラリーから溶媒を除去する方法を適用することができる。必要に応じて、上記スラリー中に、結着剤又は消泡剤などの添加剤を加えてもよい。その他、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、又はカーボンナノチューブなどの導電性炭素材料を添加してもよい。本発明において、上記添加剤の種類及びその添加量は、特に限定されない。
【0067】
本発明において、上記第二の活物質となる造粒粒子は、所定の平均粒子径を有するものであれば、いかなる製法によって作製されたものでもよい。製法を限定するものではないが、好ましい一実施形態として、例えば、活物質と、分散剤と、溶媒とを混合したスラリーを得る工程(A)と、上記スラリーから溶媒を除去する工程(B)とを含む方法が挙げられる。
【0068】
上記スラリーを得る工程(A)では、溶媒中に活物質を分散させた状態にする方法を適用する。例えば、分散剤を含む溶液中に、活物質を添加して、これらを混合攪拌する方法が挙げられる。使用する分散及び混合装置の例として、超音波型分散機、攪拌型分散機、高速回転せん断型分散機、ミル型分散機、高圧噴射型分散機などが挙げられる。ここで、本明細書に記載の上記「活物質が分散した状態」とは、スラリーをサンプリングして所定濃度に希釈し、グラインドゲージによる粒度(JISK5101)を測定した時に、その粒度が15μm未満となる状態を意味する。
【0069】
上記溶媒を除去する工程(B)では、スラリーから溶媒を除去し、造粒粒子を得る方法を適用する。例えば、高速攪拌機による加熱乾燥、又は噴霧乾燥など、造粒方法として公知の方法を適用することができる。上記噴霧乾燥は、活物質を分散剤とともに溶媒中に分散させ、次いで高温雰囲気下に噴霧する方法であり、瞬時に溶媒を飛ばして分散剤で結着された活物質の造粒粒子を形成することができる。
【0070】
造粒粒子の製造時に調製するスラリーは、溶媒中に活物質粒子がよく分散している状態であることが好ましい。また、造粒時に、例えば、酸性基と塩基性基との相互作用を利用して、粒子が密に結合した造粒粒子を作製することが好ましい。そのような造粒粒子は、活物質粒子を酸性分散剤で分散させたスラリーと、塩基性分散剤で分散させたスラリーとを混合し、その混合スラリーを乾燥造粒することによって得ることができる。
【0071】
上記工程(B)において、溶媒を除去する方法は、特に限定されない。例えば、噴霧乾燥、攪拌乾燥、静置乾燥等の中から選択することができる。中でも、粒子を充填しやすい球状に造粒できることから、スプレードライヤーを好適に用いることができる。
【0072】
また、造粒後に、焼成などの工程を追加することも可能である。添加剤として結着剤等の有機物を上記スラリーに加えた場合、得られた造粒粒子を不活性雰囲気下で焼成することで有機物は炭化する。よって、電池性能に悪影響を与えないため、好適に用いることができる。
【0073】
上記不活性雰囲気としては、例えば、窒素、又はアルゴンで満たされた雰囲気であってよい。別の例として、真空雰囲気であってもよい。
【0074】
本発明で記載する、被覆一次粒子の平均粒子径とは、上記被覆一次粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)の拡大画像(1000倍〜50000倍)により観察し、無作為に抽出した100個について、上記粒子の長軸を測定し、得られた100個の測定値を平均した値である。また、二次粒子である第一の活物質、および造粒粒子である第二の活物質の平均粒子径とは、上記二次粒子および造粒粒子を走査型電子顕微鏡により観察し、無作為に抽出した100個について、上記二次粒子および造粒粒子の長軸を測定し、得られた100個の測定値を平均した値である。
【0075】
本発明の組成物において、上記第一の活物質粒子と上記第二の活物質粒子の合計重量に対し、上記第一の活物質粒子の含有量は10〜90重量%の範囲が好ましい。上記第一の活物質粒子の含有量は、より好ましくは20〜90重量%の範囲である。上記第一の活物質粒子の含有量が50重量%より少ないと、第二の活物質粒子の割合が大きくなり、第二の活物質粒子のみを使用した結果に近くなる。具体的には、密着性、高密度時の電池特性が低下しやすい傾向がある。一方、上記第一の活物質粒子の含有量が80重量%よりも多いと、第二の活物質粒子との併用効果が薄れ、厚膜化が困難になる傾向がある。このような観点から、本発明の一実施形態において、上記第一の活物質粒子の含有量は、50〜80重量%の範囲がさらに好ましい。上記第一の活物質粒子の含有量を上記範囲内にすることで、合材層中に活物質を容易に高充填でき、また上記第一及び第二の活物質の併用によって各種特性をバランスよく改善することが容易となる。
【0076】
本発明の組成物において、上記第二の活物質粒子の圧縮破壊強度(MPa)は、特に限定されない。例えば、本発明では、一次粒子径の小さな活物質を造粒し作製していることから、0.2〜20MPaの範囲に設定することが可能である。上記範囲であることが、一次粒子径の小さな活物質を造粒している証拠となる。
【0077】
上記圧縮破壊強度(MPa)は、微小圧縮試験機(商品名:MCT−W501、(株)島津製作所)を用いて測定することができる。
<分散剤>
本発明の組成物における分散剤は、分散溶媒中で活物質を良好に分散できるものであれば特に限定されない。しかし、本発明では、適切な分散剤を使用して、上記第一の活物質粒子および上記第二の活物質粒子を分散することによって、粒子径の異なる活物質を良好に分散した組成物を容易に得ることができる。さらに、そのような組成物を使用することによって、活物質が高充填され、密着性、柔軟性、電池特性に優れる合材層を提供することが可能となる。
【0078】
本発明の一実施形態として、上記分散剤は、酸性官能基、塩基性官能基および水酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する。より具体的には、上記官能基を有する、樹脂型分散剤、または有機色素誘導体、アントラキノン誘導体、アクリドン誘導体、及びトリアジン誘導体といった各種誘導体であることが好ましい。これら分散剤は、1種類を用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。以下、本発明で使用可能な分散剤について具体的に説明する。
(樹脂型分散剤)
本発明の組成物において、分散剤の好ましい一実施形態は、樹脂型分散剤である。上記樹脂型分散剤の具体例として、アニオン性分散剤、カチオン性分散剤、両性分散剤、水酸基を有する分散剤などを挙げることができる。これら樹脂型分散剤は、酸性官能基、塩基性官能基および水酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する重合体、または上記重合体の中和物の形態であってよい。
【0079】
上記樹脂型分散剤は、組成物の溶媒として水系溶媒を用いる実施形態において、より好適に使用できる。理論によって拘束するものではないが、水性液状媒体中で、樹脂型分散剤の疎水性部位は、活物質への主たる吸着部位となり得る。その一方で、酸性官能基、塩基性官能基および水酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を含む親水性部位は、重合体の中和物を水性液状媒体に溶解又は分散させる機能を有する。その結果、親水性部位に誘起される電荷反発によって、水性液状媒体中における活物質の分散状態を安定に保つことが可能になったと考察される。以下、本発明で使用可能な樹脂型分散剤について、より具体的に説明する。
(両性分散剤)
上記両性分散剤の一例として、芳香環を有するエチレン性不飽和単量体(a1)と、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体(a2)と、アミノ基を有するエチレン性不飽和単量体(a3)と、(a1)及び(a2)及び(a3)以外のエチレン性不飽和単量体(a4)との共重合体、および上記共重合体の中和物が挙げられる。両性分散剤中の共重合体を構成する単量体の比率は、単量体(a1)〜(a4)の合計重量を基準として、(a1)が5〜70重量%、(a2)が15〜60重量%、(a3)が1〜80重量%、(a4)が0〜79重量%である。好ましくは、(a1):20〜70重量%、(a2):15〜45重量%、(a3):1〜70重量%、(a4):0〜50重量%である。より好ましくは、(a1):30〜70重量%、(a2):15〜35重量%、(a3):1〜40重量%、(a4):0〜40重量%である。
【0080】
ここで、分散剤を構成する上記単量体(a1)〜(a4)の具体例は、以下のとおりである。
(a1)芳香環を有するエチレン性不飽和単量体:
上記(a1)は、芳香環を有するエチレン性不飽和単量体であれば、特に限定されない。例えば、スチレン、α−メチルスチレン、及びベンジル(メタ)アクリレートが挙げられる。
(a2)カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体:
上記(a2)は、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体であれば、特に限定されない。例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、及びシトラコン酸;これらのアルキル又はアルケニルモノエステル、フタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、イソフタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、テレフタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、及びコハク酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、及びけい皮酸が挙げられる。特に、メタクリル酸、アクリル酸が好ましい。
(a3)アミノ基を有するエチレン性不飽和単量体:
上記(a3)は、脂肪族アミノ基又は芳香族アミノ基を有するエチレン性不飽和単量体であれば、特に限定されない。脂肪族アミノ基を有する単量体に関し、1分子中に1つのエチレン性不飽和基を有する単量体の一例として、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、及びアリルアミンが挙げられる。また、1分子中に2つのエチレン性不飽和基を有する上記単量体の一例として、ジアリルアミン、及びジアリルメチルアミンが挙げられる。芳香族アミノ基を有する単量体の一例として、アミノスチレン、ジメチルアミノスチレン、及びジエチルアミノスチレンが挙げられる。
(a4)上記(a1)〜(a3)以外のエチレン性不飽和単量体:
上記(a4)の一例として、(メタ)アクリレート系化合物が挙げられる。より具体的な例として、アルキル系(メタ)アクリレート、アルキレングリコール系(メタ)アクリレートが挙げられる。
(アニオン性分散剤)
上記アニオン性分散剤の一例として、アニオン性部位として、カルボン酸及びスルホン酸の少なくとも一方の官能基を有する樹脂が挙げられる。上記アニオン性分散剤は、酸価が100〜600mgKOH/gであり、水酸基価が0〜400mgKOH/gであり、重量平均分子量が5000以上であることが好ましい。
【0081】
スルホン酸を有するアニオン性分散剤としては、スルホン酸を有する樹脂であれば特に限定されない。例えば、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物を用いることができる。芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物は、例えば、ベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸(又はそれらのアルカリ金属塩)をホルマリンで縮合して得られる。
【0082】
カルボン酸を有するアニオン性分散剤としては、カルボキシル基を有する樹脂であれば特に限定されない。例えば、本発明の好ましい一実施形態として、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基を有する不飽和単量体の重合体が挙げられる。その他、カルボキシル基を有する不飽和単量体と他の重合性化合物との共重合体であってもよい。より具体的には、芳香環を有するエチレン性不飽和単量体(a1)と、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体(a2)と、上記エチレン性不飽和単量体(a4)とを共重合して得られる共重合体および上記共重合体の中和物が挙げられる。上記単量体(a1)、(a2)及び(a4)の詳細は、先に説明した通りである。また、上記分散剤において上記単量体(a1)および(a4)は任意成分である。
【0083】
アニオン性分散剤中の共重合体を構成するエチレン性不飽和単量体の比率は、単量体(a1)〜(a4)の合計重量を基準として、(a1)が10〜80重量%、(a2)が20〜75重量%、(a4)が0〜70重量%であることが好ましい。より好ましくは(a1)が10〜60重量%、(a2)が40〜75重量%、(a4)が0〜50重量%である。
【0084】
アニオン性分散剤は、カルボキシル基又はスルホン酸基を有する単量体を、重合又は縮合することによって製造することができる。上記アニオン性分散剤の酸価は、100mgKOH/g以上600mgKOH/g以下の範囲であることが好ましく、300mgKOH/g以上600mgKOH/g以下の範囲であることがより好ましい。アニオン性分散剤の酸価が、上記範囲内になるように、上記分散剤を構成する全単量体に対するアニオン性官能基を有する単量体の構成比率を調整することが好ましい。
【0085】
上記アニオン性分散剤の酸価が上記範囲よりも低いと、分散体の分散安定性が低下し、粘度が増加する傾向がある。また、酸価が上記範囲より高いと、顔料表面に対するアニオン性分散剤の付着力が低下し、分散体の保存安定性が低下する傾向がある。なお、酸価は、JISK0070の電位差滴定法に準拠して測定した酸価(mgKOH/g)を固形分換算した値である。
(カチオン性分散剤)
カチオン性分散剤の一例として、カチオン性部位としてアミノ基を有する樹脂が挙げられる。上記樹脂は、アミン価が110〜1000mgKOH/gであり、水酸基価が0〜400mgKOH/gであり、重量平均分子量が5000以上である、ことが好ましい。上記アミノ基は、脂肪族アミン又は芳香族アミンであってもよい。
【0086】
上記脂肪族アミン又は芳香族アミンを有するカチオン性分散剤としては、脂肪族アミン又は芳香族アミンを有する樹脂であればよく、特に限定されない。例えば、脂肪族アミノ基又は芳香族アミノ基を有する単量体を、重合又は縮合して得られる樹脂である。好ましくは、先に(a3)として例示した、脂肪族アミノ基又は芳香族アミノ基を有するエチレン性不飽和単量体を重合して得られる樹脂である。上記単量体としては、1種類を用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
また、本発明におけるカチオン性分散剤は、上記脂肪族アミノ基又は芳香族アミノ基を有するエチレン性不飽和単量体と、その他の重合性化合物との共重合体であってもよい。例えば、芳香環を有するエチレン性不飽和単量体(a1)と、脂肪族アミノ基又は芳香族アミノ基を有するエチレン性不飽和単量体(a3)と、上記エチレン性不飽和単量体(a4)とを共重合して得られる共重合体および上記共重合体の中和物が挙げられる。上記単量体(a1)、(a3)及び(a4)の詳細は、先に説明した通りである。また、上記分散剤の実施形態において、上記単量体(a1)又は(a4)は任意成分である。
【0088】
カチオン性分散剤中の共重合体を構成するエチレン性不飽和単量体の比率は、単量体(a1)〜(a4)の合計重量を基準として、(a1)が0〜30重量%、(a3)が30〜80重量%、(a4)が0〜70重量%であることが好ましい。より好ましくは(a1)が0〜30重量%、(a3)が50〜80重量%、(a4)が0〜50重量%である。
【0089】
カチオン性分散剤は、アミノ基を有する単量体を重合又は縮合することによって製造することができる。上記カチオン性分散剤のアミン価は、110mgKOH/g以上1000mgKOH/g未満の範囲であることが好ましく、250mgKOH/g以上1000mgKOH/g未満の範囲であることがより好ましい。上記カチオン性分散剤のアミン価が上記範囲内になるように、上記分散剤を構成する全単量体に対するカチオン性官能基を有する単量体の構成比率を調整することが好ましい。
【0090】
上記カチオン性分散剤のアミン価が上記範囲よりも低いと、分散体の分散安定性が低下し、粘度が増加する傾向がある。また、アミン価が上記範囲より高いと、顔料表面に対するカチオン性分散剤の付着力が低下し、分散体の保存安定性が低下する傾向がある。なお、アミン価は、試料1g中に含まれる全塩基性窒素を中和するのに要する過塩素酸と当量の水酸化カリウムのmg数で表したものである。測定方法は、JISK7237(1995)に記載されている電位差滴定法により求めたものを固形分換算した値である。
(水酸基を有する分散剤)
上記水酸基を有する分散剤は、水酸基を有するエチレン性不飽和単量体を、重合又は縮合することによって製造することができる。また、ビニルアルコールの誘導体であるビニルエステルを共重合し、得られた共重合体を鹸化することによっても製造することもできる。水酸基を有する分散剤の一例として、水酸基を含むエチレン性不飽和単量体と、その他のエチレン性不飽和単量体とを共重合して得られる共重合体が挙げられる。上記共重合体を構成する上記その他のエチレン性不飽和単量体は任意成分であり、分散剤は共重合体に限らず、単重合体であってもよい。
【0091】
上記水酸基を含む単量体としては、水酸基を含むエチレン性不飽和単量体であれば、特に限定されない。例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシスチレン、ビニルアルコール、アリルアルコール等が挙げられる。また、上記ビニルアルコールの誘導体の一例はビニルエステルであってよい。より具体的な化合物としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、及びバーサチック酸ビニル等が挙げられる。本発明の一実施形態において、ポリビニルアルコールやポリビニルアセタール等を分散剤として使用することができる。
【0092】
上記水酸基を有する樹脂型分散剤の水酸基価は、0mgKOH/g以上400mgKOH/g以下であることが望ましく、更には、0mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが好ましい。水酸基価が400mgKOH/g未満の分散剤を使用した場合、水媒体中での分子間の相互作用の影響を受け難く、分散剤溶液の粘度上昇、活物質の分散性の低下といった不具合を抑制することが容易となる。
【0093】
本発明で使用する樹脂型分散剤は、上述の各種単量体の任意の組合せから構成される樹脂であってよい。分散剤の調製は、当技術分野で周知の方法を適用することによって実施することができる。必要に応じて、重合開始剤等の添加剤を使用してもよい。本発明で使用できる開始剤は、特に限定されるものではないが、例えば、和光純薬工業(株)製の「V−601」等のアゾ系開始剤を使用することができる。重合開始剤を使用する場合、その添加量は、全単量体の合計重量を基準として、1〜10重量%の範囲とすることが好ましい。
【0094】
本発明で使用する樹脂分散剤の重量平均分子量は、4000以上が好ましく、より好ましくは6000以上である。また、その上限値は、取り扱い性の観点から、100000以下が好ましく、50000以下がさらに好ましい。重量平均分子量を4000以上とすることで、電極活物質又は導電助剤である炭素材料の良好な分散を達成することが容易となる。また、上記分散剤の重量平均分子量を6000以上とすることによって、電解液に分散剤が溶出し難くなり、電池性能の向上が容易に達成できるようになる。
【0095】
本発明の一実施形態では、上記樹脂型分散剤の調製時に中和剤を添加し、中和物(塩)を形成してもよい。得られた酸性官能基および塩基性官能基の塩は、水媒体中で解離しやすくなり、より電荷を帯びやすくなる。そのため、中和した樹脂型分散剤が吸着した導電性炭素表面、正負極活物質表面は電荷を帯び、その反発によってさらに分散性が向上することになる。
(各種誘導体)
本発明の組成物において、分散剤の好ましい別の実施形態は、有機色素誘導体、アントラキノン誘導体、アクリドン誘導体、又はトリアジン誘導体(以下、各種誘導体と略記することがある)である。上記各種誘導体は、酸性官能基、塩基性官能基および水酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物である。上記各種誘導体は、特開2010−061934号公報及び特開2010−061934号公報にも記載されている。特に、酸性官能基を有する誘導体の合成法については、例えば、特公昭39−28884号公報、特公昭45−11026号公報、特公昭45−29755号公報、特公昭64−5070号公報、特開2004−217842号公報を参照することができる。また、塩基性官能基を有する各種誘導体の合成法については、例えば、特開昭54−62227号公報、特開昭56−118462号公報、特開昭56−166266号公報、特開昭60−88185号公報、特開昭63−305173号公報、特開平3−2676号公報、特開平11−199796号公報を参照することができる。本発明では、それらを参照することによって、本明細書の一部として組み込むものとする。
【0096】
上記各種誘導体は、組成物の溶媒として非水系溶媒を用いる実施形態において、より好適に使用できる。理論によって拘束するものではないが、上記各種誘導体を分散剤として使用した時、有機色素部位、あるいはアントラキノン、アクリドン、またはトリアジン部位が、それぞれ、活物質の表面に作用(例えば吸着)することによって、分散効果を発揮すると考えられる。そして、活物質材料の表面に作用した各種誘導体における酸性官能基、塩基性官能基、又は水酸基といった官能基が分極又は解離することによって、電気的な相互作用(反発作用)が誘起される。その結果、活物質の非水性液状媒体中における活物質の分散状態を安定に保つことが可能になったと考察される。以下、本発明で分散剤として使用可能な各種誘導体について、より具体的に説明する。
(酸性官能基を有する各種誘導体)
本発明で使用できる酸性官能基を有する各種誘導体の好ましい一例として、下記一般式(11)で示されるトリアジン誘導体、または一般式(14)で示される有機色素誘導体が挙げられる。
一般式(11)
【0097】
【化1】

【0098】
上記式中、
1は、−NH−、−O−、−CONH−、−SO2NH−、−CH2NH−、−CH2NHCOCH2NH−または−X3−Y−X4−を表す。X2及びX4は、それぞれ独立に−NH−または−O−を表す。X3は、−CONH−、−SO2NH−、−CH2NH−、−NHCO−または−NHSO2−を表す。
Yは、炭素数1〜20で構成される、アルキレン基、アルケニレン基、またはアリーレン基を表し、それらは、各々置換基を有してもよい。
Zは、−SO3Mまたは−COOM、または−P(O)(−OM)2を表す。
Mは、1〜3価のカチオンの一当量を表す。
1は、有機色素残基、置換基を有していてもよい複素環残基、置換基を有していてもよい芳香族環残基、または下記一般式(12)で表される基を表す。
Qは、−O−R2、−NH−R2、ハロゲン基、−X1−R1または−X2−Y−Zを表す。R2は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、または置換基を有してもよいアルケニル基を表す。
nは、1〜4の整数を表す。
一般式(12)
【0099】
【化2】

【0100】
上記式中、
5は、−NH−または−O−を表す。X6及びX7は、それぞれ独立に、−NH−、−O−、−CONH−、−SO2NH−、−CH2NH−または−CH2NHCOCH2NH−を表す。
3及びR4は、それぞれ独立に、有機色素残基、置換基を有していてもよい複素環残基、置換基を有していてもよい芳香族環残基、または−Y−Zを表す。Y及びZは、一般式(11)と同義である。
【0101】
一般式(11)のR1及び一般式(12)のR3、R4で表される有機色素残基として、例えば、以下が挙げられる:ジケトピロロピロール系色素;アゾ、ジスアゾ、ポリアゾ等のアゾ系色素;、フタロシアニン系色素;ジアミノジアントラキノン、アントラピリミジン、フラバントロン、アントアントロン、インダントロン、ピラントロン、ビオラントロン等のアントラキノン系色素;キナクリドン系色素;ジオキサジン系色素;ペリノン系色素;ペリレン系色素;チオインジゴ系色素;イソインドリン系色素;イソインドリノン系色素;キノフタロン系色素;スレン系色素;金属錯体系色素等。とりわけ、金属による電池の短絡を抑制する効果を高めるためには、金属錯体系色素ではない有機色素残基の使用が好ましい。中でも、アゾ系色素、ジケトピロロピロール系色素、無金属フタロシアニン系色素、キナクリドン系色素、ジオキサジン系色素が好ましい。これらを分散剤として使用した時、優れた分散性を得ることが容易である。
【0102】
一般式(11)のR1及び一般式(12)のR3、R4で表される複素環残基および芳香族環残基としては、例えば、チオフェン、フラン、ピリジン、ピラゾール、ピロール、イミダゾール、イソインドリン、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、ベンズチアゾール、ベンズトリアゾール、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン、ベンゼン、ナフタリン、アントラセン、フルオレン、フェナントレン、アントラキノン等が挙げられる。とりわけ、少なくともS、N、Oのヘテロ原子のいずれかを含む複素環残基が好ましい。これらを使用した時、優れた分散性を得ることが容易である。
【0103】
一般式(11)及び一般式(12)のYは、炭素数20以下から構成される、アルキレン基、アルケニレン基またはアリーレン基を表し、それらは、各々置換基を有してもよい。好ましい具体例として、各々置換されていてもよい、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基であるか、または炭素数が10以下の側鎖を有していてもよいアルキレン基が挙げられる。
【0104】
一般式(11)のQ中に含まれるR2で表される、置換基を有してもよい、アルキル基、及びアルケニル基は、好ましくは、炭素数20以下から構成される。更に好ましくは、R2は、炭素数が10以下の側鎖を有していてもよいアルキル基が挙げられる。置換基を有しているアルキル基またはアルケニル基とは、アルキル基またはアルケニル基の水素原子が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン基、水酸基、メルカプト基等に置換されたものである。
【0105】
一般式(11)の式中、Mは、1〜3価のカチオンの一当量を表す。例えば、水素原子(プロトン)、金属カチオン、4級アンモニウムカチオンのいずれかを表す。また、分散剤構造中にMを2つ以上有する場合、Mはプロトン、金属カチオン、4級アンモニウムカチオンのいずれかひとつのみでも良いし、これらの組み合わせでも良い。金属の一例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、ニッケル、コバルト等が挙げられる。
【0106】
上記4級アンモニウムカチオンとしては、一般式(13)で示される構造を有する単一化合物または、混合物である。
一般式(13)
【0107】
【化3】

【0108】
上記式中、
5、R6、R7、R8は、水素であるか、各々置換基を有してもよい、アルキル基、アルケニル基、またはアリール基のいずれかを表す。
【0109】
一般式(13)のR5、R6、R7、R8は、それぞれ同一でもよいし、異なっていてもよい。また、R5、R6、R7、R8が炭素原子を有する場合、炭素数は1〜40、好ましくは1〜30、更に好ましくは1〜20である。炭素数が40を超えると電極の導電性が低下する場合がある。
一般式(14)
【0110】
【化4】
【0111】
上記式中、
8は、直接結合、−NH−、−O−、−CONH−、−SO2NH−、−CH2NH−、−CH2NHCOCH2NH−または−X9−Y−または−X9−Y−X10−を表す。
9は、−CONH−、−SO2NH−、−CH2NH−、−NHCO−または−NHSO2−を表す。X10は、−NH−または−O−を表す。Yは、炭素数1〜20で構成される、アルキレン基、アルケニレン基またはアリーレン基を表し、それらは各々置換基を有してもよい。
Zは、−SO3Mまたは−COOM、または−P(O)(−OM)2を表す。Mは1〜3価のカチオンの一当量を表す。
9は、有機色素残基を表し、nは1〜4の整数を表す。
【0112】
一般式(14)のR9で表される有機色素残基としては、例えば、ジケトピロロピロール系色素;アゾ、ジスアゾ、ポリアゾ等のアゾ系色素;フタロシアニン系色素;ジアミノジアントラキノン;アントラピリミジン;フラバントロン、アントアントロン、インダントロン、ピラントロン、ビオラントロン等のアントラキノン系色素;キナクリドン系色素;ジオキサジン系色素;ペリノン系色素;ペリレン系色素;チオインジゴ系色素;イソインドリン系色素;イソインドリノン系色素;キノフタロン系色素;スレン系色素;金属錯体系色素等が挙げられる。R9で表される有機色素残基には、一般的には色素と呼ばれていない淡黄色のアントラキノン残基を含む。とりわけ、金属による電池の短絡を抑制する効果を高めるためには、金属錯体系色素ではない有機色素残基の使用が好ましい。中でもアゾ系色素、ジケトピロロピロール系色素、無金属フタロシアニン系色素、キナクリドン系色素、ジオキサジン系色素が好ましい。それらを分散剤として使用した時、優れた分散性を得ることが容易である。
【0113】
一般式(14)の式中のMは、1〜3価のカチオンの一当量を表す。例えば、水素原子(プロトン)、金属カチオン、4級アンモニウムカチオンのいずれかを表す。また、分散剤構造中にMを2つ以上有する場合、Mはプロトン、金属カチオン、4級アンモニウムカチオンのいずれかひとつのみでも良いし、これらの組み合わせでも良い。金属の一例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、ニッケル、コバルト等が挙げられる。
(塩基性官能基を有する各種誘導体)
塩基性官能基を有する各種誘導体としては、下記一般式(21)で示されるトリアジン誘導体、または一般式(26)で示される有機色素誘導体の使用が好ましい。
一般式(21)
【0114】
【化5】

【0115】
上記式中、
1は、−NH−、−O−、−CONH−、−SO2NH−、−CH2NH−、−CH2NHCOCH2NH−または−X2−Y−X3−を表す。X2は、−NH−、−O−、−CONH−、−SO2NH−、−CH2NH−、−NHCO−または−NHSO2−を表す。X3は、それぞれ独立に−NH−または、−O−を表す。Yは炭素数1〜20で構成される、アルキレン基、アルケニレン基または、アリーレン基を表し、それらは各々置換基を有してもよい。
Pは、一般式(22)、(23)または、一般式(24)のいずれかで示される置換基を表す。
Qは、−O−R2、−NH−R2、ハロゲン基、−X1−R1または、一般式(22)、(23)、又は(24)のいずれかで示される置換基を表す。
2は、水素原子であるか、アルキル基、アルケニル基、又はアリール基を表し、それらは各々置換基を有してもよい。
一般式(22)
【0116】
【化6】

【0117】
一般式(23)
【0118】
【化7】

【0119】
一般式(24)
【0120】
【化8】
【0121】
上記式(22)〜(24)において、
4は、直接結合、−SO2−、−CO−、−CH2NHCOCH2−、−CH2NHCONHCH2−、−CH2−または、−X5−Y−X6−を表す。
5は、−NH−または、−O−を表し、X6は、直接結合、−SO2−、−CO−、−CH2NHCOCH2−、−CH2NHCONHCH2−または、−CH2−を表す。
Yは炭素数1〜20で構成された、置換基を有してもよいアルキレン基、置換基を有してもよいアルケニレン基または、置換基を有してもよいアリーレン基を表す。
vは、1〜10の整数を表す。
3、R4はそれぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基、置換されていてもよいアリール基、またはR3、R4とで一体となって更なる窒素、酸素または硫黄原子を含む置換されていてもよい複素環残基を表す。とりわけ、水素原子であることが、電池内での金属析出を抑える効果が高いと思われ好ましい。
5、R6、R7、R8は、それぞれ独立に、水素原子であるか、アルキル基、アルケニル基またはアリール基を表し、それらは各々置換されていてもよい。
9は、アルキル基、アルケニル基またはアリール基を表し、それらは各々置換されていてもよい。
nは、1〜4の整数を表す。
1は有機色素残基、置換基を有していてもよい複素環残基、置換基を有していてもよい芳香族環残基または下記一般式(25)で示される基を表す。
一般式(25)
【0122】
【化9】
【0123】
上記式中、
Tは、−X8−R10または、W1を表し、Uは、−X9−R11または、W2を表す。
1およびW2は、それぞれ独立に−O−R2、−NH−R2、ハロゲン基または、一般式(22)、(23)、又は(24)のいずれかで示される置換基を表す。
2は、水素原子であるか、アルキル基、アルケニル基、又はアリール基を表し、それらは各々置換基を有してもよい。
7は、−NH−または−O−を表し、X8およびX9は、それぞれ独立に−NH−、−O−、−CONH−、−SO2NH−、−CH2NH−または−CH2NHCOCH2NH−を表す。
Yは、炭素数1〜20で構成される、アルキレン基、アルケニレン基、又はアリーレン基を表し、それらは各々置換基を有してもよい。
10およびR11は、それぞれ独立に、有機色素残基、置換基を有していてもよい複素環残基、置換基を有していてもよい芳香族環残基を表す。
【0124】
一般式(21)のR1および、一般式(25)のR10、R11で表される有機色素残基としては、例えば、ジケトピロロピロール系色素;アゾ、ジスアゾ、ポリアゾ等のアゾ系色素;フタロシアニン系色素;ジアミノジアントラキノン、アントラピリミジン、フラバントロン、アントアントロン、インダントロン、ピラントロン、ビオラントロン等のアントラキノン系色素;キナクリドン系色素;ジオキサジン系色素;ペリノン系色素;ペリレン系色素;チオインジゴ系色素;イソインドリン系色素;イソインドリノン系色素;キノフタロン系色素;スレン系色素;金属錯体系色素等が挙げられる。とりわけ、金属による電池の短絡を抑制する効果を高めるためには、金属錯体系色素ではない有機色素残基の使用が好ましい。
【0125】
一般式(21)のR1および、一般式(25)のR10、R11で表される複素環残基および芳香族環残基としては、例えば、以下に挙げる置換基を有していてもよい:チオフェン、フラン、ピリジン、ピラジン、トリアジン、ピラゾール、ピロール、イミダゾール、イソインドリン、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、ベンズチアゾール、ベンズトリアゾール、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン、ベンゼン、ナフタリン、アントラセン、フルオレン、フェナントレン、アントラキノン、アクリドン等が挙げられる。これらの複素環残基および芳香族環残基は、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、ブチル基等)、アミノ基、アルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジブチルアミノ基等)、ニトロ基、水酸基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等)、ハロゲン(例えば、塩素、臭素、フッ素等)、フェニル基(例えば、アルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ニトロ基、水酸基、又はアルコキシ基であり、それらは各々ハロゲン等で置換されていてもよい)、およびフェニルアミノ基(アルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ニトロ基、水酸基、又はアルコキシ基であり、それらは各々ハロゲン等で置換されていてもよい)等。
【0126】
一般式(21)、一般式(25)のYは、炭素数20以下から構成される、各々置換基を有していてもよい、アルキレン基、アルケニレン基またはアリーレン基を表す。好ましい具体例として、各々置換されていてもよい、フェニレン基、ビフェニレン基、又はナフチレン基であるか、炭素数が10以下の側鎖を有していてもよいアルキレン基が挙げられる。
一般式(26)
【0127】
【化10】
【0128】
上記式中、Zは、下記一般式(27)、(28)または、一般式(29)で示される群から選ばれる少なくとも1つである。nは、1〜4の整数を表す。
一般式(27)
【0129】
【化11】
【0130】
一般式(28)
【0131】
【化12】
【0132】
一般式(29)
【0133】
【化13】


【0134】
上記式(27)〜(29)において、
4は、直接結合、−SO2−、−CO−、−CH2NHCOCH2−、−CH2NHCONHCH2−、−CH2−または、−X5−Y−X6−を表す。X5は、−NH−または、−O−を表し、X6は、直接結合、−SO2−、−CO−、−CH2NHCOCH2−、−CH2NHCONHCH2−または、−CH2−を表す。Yは、炭素数1〜20で構成された、アルキレン基、アルケニレン基、またはアリーレン基を表し、それらは各々置換基を有してもよい。
vは、1〜10の整数を表す。
3、R4は、それぞれ独立に、水素原子であるか、アルキル基、アルケニル基、又はフェニル基を表し、それらは各々置換されていてもよい。または、R3、R4とで一体となって更なる窒素、酸素または硫黄原子を含む置換されていてもよい複素環残基を表す。とりわけ、水素原子であることが、電池内での金属析出を抑える効果が高いと思われ好ましい。
5、R6、R7、R8は、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基または置換されていてもよいアリール基を表す。
9は、アルキル基、アルケニル基、又はアリール基を表し、それらは各々置換されていてもよい。
12は有機色素残基、置換基を有していてもよい複素環残基、置換基を有していてもよい芳香族環残基を表す。
【0135】
12で表される有機色素残基としては、例えば、ジケトピロロピロール系色素;アゾ、ジスアゾ、ポリアゾ等のアゾ系色素;フタロシアニン系色素;ジアミノジアントラキノン、アントラピリミジン、フラバントロン、アントアントロン、インダントロン、ピラントロン、ビオラントロン等のアントラキノン系色素;キナクリドン系色素;ジオキサジン系色素;ペリノン系色素;ペリレン系色素;チオインジゴ系色素;イソインドリン系色素;イソインドリノン系色素;キノフタロン系色素、スレン系色素;金属錯体系色素等が挙げられる。とりわけ、金属による電池の短絡を抑制する効果を高めるためには、金属錯体系色素ではない有機色素残基の使用が好ましい。
【0136】
また、R12で表される複素環残基および芳香族環残基としては、例えば、チオフェン、フラン、ピリジン、ピラゾール、ピロール、イミダゾール、イソインドリン、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、ベンズチアゾール、ベンズトリアゾール、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン、ベンゼン、ナフタリン、アントラセン、フルオレン、フェナントレン、アントラキノン、アクリドン等が挙げられる。これらの複素環残基および芳香族環残基は、アルキル基(メチル基、エチル基、ブチル基等)、アミノ基、アルキルアミノ基(ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジブチルアミノ基等)、ニトロ基、水酸基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等)、ハロゲン(塩素、臭素、フッ素等)、フェニル基(アルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ニトロ基、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン等で置換されていてもよい)、およびフェニルアミノ基(アルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ニトロ基、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン等で置換されていてもよい)等の置換基を有していてもよい。
【0137】
本発明の組成物の一実施形態において、分散剤の含有量は、第一の活物質と第二の活物質との合計重量を基準として、0.05〜10重量%の範囲が好ましく、0.1〜5重量%の範囲がより好ましい。
<バインダー>
本発明の組成物におけるバインダーは、後述する導電性炭素材料や、活物質などのその他の粒子を結着させるために使用される。通常、バインダーによる溶媒中への粒子の分散効果は小さい。上記バインダーは、特に限定されず、当技術分野で周知の様々な樹脂を使用することができる。例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、カルボキシメチルセルロース等のセルロース樹脂が挙げられる。その他、スチレン−ブタジエンゴムやフッ素ゴム等の合成ゴム、ポリアニリンやポリアセチレン等の導電性樹脂等、及びポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、及びテトラフルオロエチレン等のフッ素原子を含む高分子化合物が挙げられる。又、バインダーは、上述の樹脂の変性物、混合物、又は共重合体であっても良い。上記バインダーは、1種または複数を組み合わせて使用することも出来る。
<溶媒>
本発明の組成物における溶媒について説明する。本発明で使用できる溶媒としては、特に限定されない。例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミドなどのアミド類;N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアミンなどのアミン類;メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;アルコール類;グリコール類;セロソルブ類;アミノアルコール類;スルホキシド類;カルボン酸エステル類;リン酸エステル類;エーテル類;ニトリル類;水等が挙げられる。
【0138】
本発明の組成物は、先に説明した各種成分から構成される様々な実施形態を含む。特に限定するものではないが、本発明の組成物の好ましい一実施形態では、第一及び第二の活物質と、分散剤として、有機色素誘導体、アントラキノン誘導体、アクリドン誘導体及びトリアジン誘導体から選択される少なくとも1種と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデンと、溶媒としてNMPとを含む。また、本発明の組成物の好ましい別の実施形態では、第一及び第二の活物質と、分散剤として樹脂型分散剤と、バインダーとして、アクリル樹脂、セルロース樹脂、スチレン−ブタジエンゴム、及びポリテトラフルオロエチレンからなる群から選択される少なくとも1種と、溶媒として水を含む。
<導電性炭素材料>
本発明の組成物の好ましい一実施形態として、組成物は上記構成成分に、さらに導電性炭素材料を含んでもよい。上記導電性炭素材料は、導電助剤として機能する(以下、導電助剤と略記する場合がある)。本発明における導電性炭素材料としては、導電性を有する炭素材料であれば特に限定されるものではない。例えば、グラファイト、カーボンブラック、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、フラーレン等を単独で、又は2種類以上併せて使用することができる。導電性、入手の容易さ、およびコスト面から、カーボンブラックが好ましい。
【0139】
本発明で使用できるカーボンブラックの一例として、気体、又は液体の原料を反応炉中で連続的に熱分解することで製造することができる、ファーネスブラックが挙げられる。具体例として、エチレン重油を原料としたケッチェンブラック;原料ガスを燃焼させて、その炎をチャンネル鋼底面にあて急冷し析出させたチャンネルブラックが挙げられる。また、ガスを原料として燃焼と熱分解を周期的に繰り返すことにより得られるサーマルブラック、特にアセチレンガスを原料とするアセチレンブラックなどが挙げられる。本発明では、各種化合物を単独で、又は2種類以上併せて使用することができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボン等も使用できる。
【0140】
カーボンの酸化処理は、カーボンを空気中で高温処理するか、硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理することによって実施される。例えば、フェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基といった酸素含有極性官能基をカーボン表面に直接導入(共有結合)する処理する。このような処理は、カーボンの分散性を向上させるために一般的に行われている。しかしながら、一般的に、官能基の導入量が多くなる程、カーボンの導電性が低下する傾向にある。そのため、酸化処理をしていないカーボンを使用することが好ましい。
【0141】
カーボンブラックの比表面積は、その値が大きいほど、カーボンブラック粒子どうしの接触点が増えるため、電極の内部抵抗を下げるのに有利となる。そのため、本発明の一実施形態では、窒素の吸着量から求められる比表面積(BET)で、20m2/g以上、1500m2/g以下、好ましくは50m2/g以上、1500m2/g以下、更に好ましくは100m2/g以上、1500m2/g以下のカーボンブラックを使用することが望ましい。比表面積が20m2/g以上のカーボンブラックを使用することによって、十分な導電性を得ることが容易となる。一方、比表面積が1500m2/gを超えるカーボンブラックは、市販材料での入手が困難となる場合がある。
【0142】
また、用いるカーボンブラックの粒径は、平均一次粒子径で0.005〜1μmの範囲であることが好ましく、特に、0.01〜0.2μmの範囲が好ましい。ただし、ここでいう平均一次粒子径とは、活物質粒子の測定方法と同様にして得た値を示す。
【0143】
導電性炭素材料は、リチウム二次電池電極形成用組成物中の分散粒径が、0.03μm以上、5μm以下、好ましくは2μm以下となるように微細化されることが望ましい。導電助剤としての炭素材料の分散粒径が0.03μm未満の組成物は、その作製が難しい場合がある。又、導電助剤としての炭素材料の分散粒径が2μm以下となる組成物を用いた場合には、合材塗膜の材料分布のバラつき、電極の抵抗分布のバラつき等の不具合の発生を抑制することが容易である。
【0144】
ここでいう分散粒径とは、体積粒度分布において、粒子径の小さい順にその粒子の体積割合を積算していったときに、50%となるところの粒子径(D50)を意味する。分散粒径は、一般的な粒度分布計、例えば、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製の「マイクロトラックUPA」)等を使用して測定することができる。
【0145】
市販として入手可能なカーボンブラックは、例えば、トーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500等(東海カーボン社製、ファーネスブラック);プリンテックスL等(デグサ社製、ファーネスブラック);Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA等、ConductexSCULTRA、Conductex975ULTRA等、PUERBLACK100、115、205等(コロンビヤン社製、ファーネスブラック)が挙げられる。また、#2350、#2400B、#2600B、#30050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B等(三菱化学社製、ファーネスブラック);MONARCH1400、1300、900、VulcanXC−72R、BlackPearls2000等(キャボット社製、ファーネスブラック);Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP−Li(TIMCAL社製);ケッチェンブラックEC−300J、EC−600JD(アクゾ社製);デンカブラック、デンカブラックHS−100、FX−35(電気化学工業社製、アセチレンブラック)等が挙げられる。また、本発明で使用できるグラファイトの具体例として、人造黒鉛や燐片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛などの天然黒鉛が挙げられる。しかし、これらに限定されるものではなく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0146】
上記導電性炭素繊維としては、石油由来の原料から焼成して得られるものが良いが、植物由来の原料からも焼成して得られるものも用いることができる。例えば、市販品として、石油由来の原料で製造される昭和電工社製の「VGCF」などを挙げることができる。
<添加剤>
本発明の一実施形態において、リチウム二次電池電極形成用の組成物は、上述の構成成分に加えて、必要に応じて、さらに、成膜助剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤、粘性調整剤といった各種添加剤を含んでもよい。本発明の組成物の好ましい実施形態において、組成物は、セルロース系等の増粘剤を含む。セルロース系増粘剤としては、特に限定はされないが、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、エチルヒドロキシエチルセルロース(EHEC)、ヒドロキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシアルキルメチルセルロース等が挙げられる。
【0147】
本発明の組成物は、リチウム二次電池電極を形成する材料として好適に使用することができる。より具体的には、上記電極は、集電体と、該集電体の表面に形成された合材層とを有し、本発明の一実施形態では、上記集電体の表面に上記組成物を塗布し、乾燥させることによって合材層を形成することができる。すなわち、本発明のリチウム二次電池電極形成用組成物は、合材インキとして調製してもよい。
【0148】
上記合材層を形成する合材インキとして本発明の組成物を調製する場合、塗工方法にもよるが、固形分が30〜90重量%の範囲となるように各構成成分を組合せることが好ましい。特に、優れた電極特性を得るためには、塗工可能な粘度範囲内において、活物質の含有量をできるだけ多くすることが好ましい。例えば、組成物(以下、合材インキとも称す)の固形分に占める活物質の割合は、80重量%以上、99重量%以下とすることが好ましい。なお、以下、本発明において「活物質」と記載した場合、第一の活物質粒子と第二の活物質粒子との組み合わせを意味する。また、合材インキの粘度は、100mPa・s以上、30,000mPa・s以下に調整することが好ましい。また、合材インキの固形分に占める分散剤の割合は、0.05〜15重量%の範囲であることが好ましい。また、上記合材インキの構成成分として導電助剤を使用する場合、合材インキ固形分に占める導電助剤の割合は、0.1〜15重量%の範囲であることが好ましい。さらに、上記合材インキがバインダーを含む場合、合材インキ固形分に占めるバインダーの割合は、0.1〜15重量%の範囲であることが好ましい。
【0149】
上記合材インキは、種々の方法で得ることができる。例えば、活物質と導電助剤と分散剤とバインダーと溶媒とを含有する、合材インキを調製する場合、例えば、以下のような方法を適用することができる。
(1)活物質と分散剤と溶媒とを含有する活物質分散体を調製し、次いで、該分散体に導電助剤とバインダーとを加えることによって、合材インキを得ることができる。導電助剤とバインダーは、同時に加えることもできるし、導電助剤を加えた後、バインダーを加えてもよいし、その逆であってもよい。
(2)導電助剤と分散剤と溶媒とを含有する導電助剤分散体を調製し、次いで該分散体に活物質とバインダーとを加えることによって、合材インキを得ることができる。活物質とバインダーは、同時に加えることもできるし、活物質を加えた後、バインダーを加えてもよいし、その逆であってもよい。
(3)活物質と分散剤とバインダーと溶媒とを含有する活物質分散体を調製し、次いで、該分散体に導電助剤を加えることによって、合材インキを得ることができる。
(4)導電助剤と分散剤とバインダーと溶媒とを含有する導電助剤分散体を調製し、次いで、該分散体に活物質を加えることによって、合材インキを得ることができる。
(5)活物質と導電助剤と分散剤とバインダーと溶媒とをほとんど同時に混合することによって、合材インキを得ることができる。
【0150】
上記合材インキを調製するために使用する装置は、顔料分散等に通常用いられている分散機、混合機であってよい。例えば、ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社「フィルミックス」等のホモジナイザー類;ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS−5」、若しくは奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機;または、その他ロールミル等が挙げられる。しかし、これらに限定されるものではない。また、分散機としては、分散機からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい。
【0151】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、または、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。また、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。また、強い衝撃で粒子が割れたり、潰れたりしやすい正または負極活物質の場合は、メディア型分散機よりは、ロールミルやホモジナイザー等のメディアレス分散機が好ましい。
<II>リチウム二次電池用の電極
本発明の第2の態様は、リチウム二次電池の電極に関する。上記電極は、集電体と、該集電体の表面に形成された合材層とを有し、上記合材層が、本発明の第1の態様の組成物を用いて形成された乾燥塗膜であることを特徴とする。本発明によれば、集電体の表面に上記組成物を塗布し、乾燥させることによって、活物質が高充填され、厚い塗膜を形成した場合であっても、ひび割れのない合材層を形成することができる。
【0152】
本発明で使用できる集電体について説明する。本発明に使用する集電体の材質や形状は特に限定されず、各種二次電池に適合できるものを適宜選択することができる。例えば、集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、又はステンレス等の金属や合金が挙げられる。リチウムイオン電池の場合、特に正極材料としてはアルミニウムが好ましい。また、負極材料としては銅が好ましい。又、集電体の形状としては、一般的には平板状の金属箔が用いられる。しかし、表面を粗面化した金属箔、穴あきの金属箔、及びメッシュ状の金属箔のいずれかを集電体として使用してもよい。
【0153】
集電体上に合材インキを塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等を挙げる事ができる。乾燥方法としては、放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などを使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。又、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行っても良い。
【0154】
本発明における乾燥塗膜の膜厚について説明する。本発明において、乾燥塗膜の膜厚とは、上記方法に従って、集電体上に合材インキを塗布し、乾燥させた後の塗膜の膜さであり、合材層の厚みを意味する。一般的に、合材層の厚みは、1μm以上、500μm以下であり、好ましくは10μm以上、より好ましくは膜厚を90μm以上、300μm以下であることが好ましい。膜厚は、例えば、株式会社ニコンインステック社製のデジマイクロシリーズの装置を用いることによって測定することができる。
【0155】
一般に、合材層の膜厚を厚くし、かつ電池性能を維持することは、技術的に大変難しい。合材層の膜厚を厚くすると、集電体から距離が離れる活物質粒子が存在することとなり、合材層全体で高い導電性が要求される。また、膜厚を厚くすると、ひび割れが起きやすくなるため、合材層全体の柔軟性も要求される。これに対して、本発明のリチウム二次電池電極形成用組成物によれば、これらの要求を満たす合材層を提供することが可能である。本発明によれば、上記合材層を構成する乾燥塗膜を90μm以上に厚膜化した場合であっても、電池性能を良好に維持することが可能である。
<III>リチウム二次電池
本発明の第3の態様は、正極と負極と電解液とを有するリチウム二次電池に関し、上記正極が、本発明の第2の態様の電極から構成されることを特徴とする。すなわち、本発明の一実施形態では、本発明の組成物を正極の合材層を形成するために使用することが好ましい。
【0156】
本発明のリチウム二次電池について説明する。本発明の組成物を用いたリチウム二次電池の構造については特に限定されない。代表的に、リチウム二次電池は、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレーター、電解液とから構成することができる。それら電池の形状は、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【0157】
リチウムイオン二次電池の場合を例にとって説明する。電解液としては、リチウムを含んだ電解質を非水系の溶剤に溶解したものを用いる。電解質としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、Li(CF3SO22N、LiC49SO3、Li(CF3SO23C、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF2、LiSCN、又はLiBPh4等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0158】
上記非水系の溶剤としては、特に限定はされない。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、及びγ−オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,2−メトキシエタン、1,2−エトキシエタン、及び1,2−ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、及びメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。又これらの溶剤は、それぞれ単独で使用しても良いが、2種以上を混合して使用しても良い。
【0159】
さらに上記電解液を、ポリマーマトリクスに保持しゲル状とした高分子電解質とすることもできる。ポリマーマトリクスとしては、ポリアルキレンオキシドセグメントを有するアクリレート系樹脂、ポリアルキレンオキシドセグメントを有するポリホスファゼン系樹脂、及びポリアルキレンオキシドセグメントを有するポリシロキサン等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0160】
上記セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布及びそれらに親水性処理を施したものが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0161】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。しかし、本発明の権利範囲は以下の実施形態に制限されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。なお、以降に記載する「部」は、全て「重量部」を意味する。
<分散剤の合成>
実施例及び比較例で使用する分散剤(1)〜(21)は、以下のようにして調製した。
(合成例1)分散剤(1)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、n−ブタノール200.0部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱し、次いでスチレン100.0部、アクリル酸60.0部、ジメチルアミノエチルメタクリレート40.0部、および重合開始剤としてV−601(和光純薬工業社製)12.0部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに110℃で3時間反応させた後、V−601(和光純薬工業社製)0.6部を添加した。上記添加後、さらに110℃で1時間反応を続けて、共重合体(1)の溶液を得た。共重合体(1)の酸価は219.1(mgKOH/g)であった。また、共重合体(1)の重量平均分子量(Mw)は、6800であった。上記分子量は、乾燥させたサンプルをテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、装置としてHLC−8320GPC(東ソー社製)、カラムとしてTSKgel G−2000(東ソー社製)、溶離液としてTHFを用いて測定したポリスチレン換算値である。
【0162】
得られた共重合体(1)の溶液を室温まで冷却した後、上記溶液に中和剤としてジメチルアミノエタノール74.2部を添加し、中和した。上記メチルアミノエタノールの添加量は、中和率100%達成する量に相当する。さらに、中和処理後の溶液に水を400部添加して水性化した後、100℃まで加熱し、ブタノールを水と共沸させて、ブタノールを留去した。得られた残留物を水で希釈することによって、不揮発分20%の分散剤(1)の水溶液を水性分散体(分散剤(1))として得た。
(合成例2〜21)分散剤(2)〜(21)
表1に示す単量体と配合組成に変更した以外は、合成例1と同様の方法に従い、各々の分散剤を得た。合成例2〜21のそれぞれに対応して、得られた分散剤を分散剤(2)〜(21)とした。
【0163】
【表1】
【0164】
表1に記載された略記の詳細は以下のとおりである。
St:スチレン
BzMA:ベンジルメタクリレート
AA:アクリル酸
MAA:メタクリル酸
DM:ジメチルアミノエチルメタクリレート
BMA:ブチルメタクリレート
HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート
DMAE:ジメチルアミノエタノール
(*):使用した重合開始剤は、全て和光純薬工業社製の「V−601」である。表1に記載した開始剤の量は、単量体の合計重量を基準とした重量%である。
また、実施例及び比較例において使用する分散剤(22)〜(26)は、以下のとおりである。
分散剤(22):エポミンP−1000(日本触媒社製、ポリエチレンイミン化合物)
分散剤(23):ゴーセノールNL-05(日本合成化学社製、ポリビニルアルコール化合物)
分散剤(24):特許4240157号公報の表1の分散剤Aとして記載の酸性官能基を有する下記トリアジン誘導体
【0165】
【化14】
【0166】
分散剤(25):特許4420123号公報の表3の分散剤Jとして記載の塩基性官能基を有する下記トリアジン誘導体
【0167】
【化15】
【0168】
分散剤(26):K-15(DSP五協フード&ケミカル社製、ポリビニルピロリドン)

<活物質の調製>
実施例及び比較例で使用する活物質は、以下のようにして調製した。なお、以降の記載では、特に言及しない限り、「平均一次粒子径」とは、被覆一次粒子の平均粒子径を意味するものとする。
【0169】
被覆一次粒子の平均粒子径とは、上記被覆一次粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)の拡大画像(1000倍〜50000倍)により観察し、無作為に抽出した100個について、上記粒子の長軸を測定し、得られた100個の測定値を平均した値である。また、二次粒子である第一の活物質、および造粒粒子である第二の活物質の平均粒子径とは、上記二次粒子および造粒粒子を走査型電子顕微鏡により観察し、無作為に抽出した100個について、上記二次粒子および造粒粒子の長軸を測定し、得られた100個の測定値を平均した値である。
(調製例1)第一の活物質粒子(A−1)の作製
水熱処理法によって合成したLiFePO4の乾燥粉末に、導電性炭素の前駆体となる有機物として1重量%のポリエチレングリコール水溶液を添加し、次いでそれらを混合し、70℃にて真空乾燥することにより、生成物を得た。上記ポリエチレングリコール水溶液の添加量は、焼成後の炭素量が2重量%となるように調製した。上記生成物を乳鉢で解砕した後、窒素雰囲気下、700℃で5時間焼成した。解砕後の生成物を室温まで冷却した後、スクリーンを用いて凝集物の除去を行い、炭素前駆体の炭化によって一次粒子の表層が導電性炭素層で被覆されたLiFePO4微粒子(ニ次粒子)を得た。上記微粒子の平均一次粒子径は200nmであり、平均二次粒子径は2μmであった。
(調製例2)第一の活物質粒子(A−2)の作製
含リチウム化合物としてLi2CO3、Fe含有リン化合物としてα-FePO4とを、リチウムと鉄の元素比率(モル比)が1:1となるように秤量し、導電性炭素の前駆体となる有機物として1重量%のポリエチレングリコール水溶液を添加し、乾式ボールミルによってそれぞれ粉砕及び混合し、次いで窒素雰囲気下、700℃で8時間焼成することによって生成物を得た。上記ポリエチレングリコール水溶液の添加量は、焼成後の炭素量が2重量%となるように調製した。得られた生成物を室温まで冷却した後、スクリーンを用いて凝集物の除去を行い、一次粒子の表層が導電性炭素層で被覆されたLiFePO4の微粒子(ニ次粒子)を得た。得られた上記微粒子の平均一次粒子径は90nmであり、平均二次粒子径は1μmであった。
(調製例3)第二の活物質粒子(B−1)の作製
水熱処理法によって合成したLiFePO4の乾燥粉末に、導電性炭素の前駆体となる有機物として5重量%のスクロース水溶液を添加し、さらに固形分20重量%となるまで水で希釈し、これらをディスパーで予備混合することにより混合物を得た。上記スクロース水溶液の添加量は、焼成後の炭素量が5重量%となるように調製した。次いで、上記混合物を、ギンセン社の超音波分散機GSD300RCVPを使用し、滞留時間10分で分散処理することによってスラリーを得た。続いて、日本ビュッヒ社の噴霧乾燥器ミニスプレードライヤーB−290を使用し、上記スラリーを125℃で噴霧乾燥し、溶媒を除去して造粒粒子の粉末を得た。その後、得られた粉末を、窒素雰囲気下、700℃で5時間焼成することによって、一次粒子の表層が導電性炭素層で被覆された、LiFePO4微粒子の造粒粒子を得た。上記造粒粒子は、平均一次粒子径200nmの一次粒子から形成され、平均二次粒子径が15μmであった。
(調製例4)第一の活物質粒子(A−3)の作製
上記調製例3で得た第二の活物質粒子(B−1)を、直径5mmのジルコニアボールを用い、乾式ボールミルにて5時間粉砕処理を行った。このようにして得たLiFePO4微粒子は、平均一次粒子径が200nmであり、平均二次粒子径が2μmであった。
(調製例5)第一の活物質粒子(A−4)の作製
水熱処理法によって合成したLiFePO4の乾燥粉末に、導電性炭素の前駆体となる有機物として1重量%のポリエチレングリコール水溶液を添加し、次いでそれらを混合し、70℃にて真空乾燥することにより、生成物を得た。上記ポリエチレングリコール水溶液の添加量は、焼成後の炭素量が2重量%となるように調製した。上記生成物を乳鉢で解砕した後、窒素雰囲気下、700℃で10時間焼成した。解砕後の生成物を室温まで冷却した後、炭素前駆体の炭化によって一次粒子の表層が導電性炭素層で被覆されたLiFePO4微粒子(ニ次粒子)を得た。上記微粒子の平均一次粒子径は500nmであり、平均二次粒子径は10μmであった。
(調製例6)第一の活物質粒子(A−5)の作製
水熱処理法によって合成したLiFe0.5Mn0.54の乾燥粉末に、導電性炭素の前駆体となる有機物として1重量%のポリエチレングリコール水溶液を添加し、次いでそれらを混合し、70℃にて真空乾燥することにより、生成物を得た。上記ポリエチレングリコール水溶液の添加量は、焼成後の炭素量が2重量%となるように調製した。上記生成物を乳鉢で解砕した後、窒素雰囲気下、700℃で5時間焼成した。解砕後の生成物を室温まで冷却した後、スクリーンを用いて凝集物の除去を行い、炭素前駆体の炭化によって一次粒子の表層が導電性炭素層で被覆されたLiFePO4微粒子(ニ次粒子)を得た。上記微粒子の平均一次粒子径は200nmであり、平均二次粒子径は2μmであった。
(調製例7)第二の活物質粒子(B−2)の作製
含リチウム化合物としてLi2CO3、Fe含有リン化合物としてα-FePO4とを、リチウムと鉄の元素比率(モル比)が1:1となるように秤量し、導電性炭素の前駆体となる有機物として5重量%のスクロース水溶液を添加し、固形分20重量%となるまで水で希釈した後、直径1.25mmのジルコニアボールを用い、ボールミルによって分散処理し、スラリーを得た。続いて、日本ビュッヒ社の噴霧乾燥器ミニスプレードライヤーB−290を使用し、上記スラリーを125℃で噴霧乾燥し、溶媒を除去して造粒粒子の粉末を得た。上記スクロース水溶液の添加量は、焼成後の炭素量が5重量%となるように調製した。その後、得られた粉末を、窒素雰囲気下、700℃で5時間焼成することによって、一次粒子の表層が導電性炭素層で被覆された、LiFePO4微粒子の造粒粒子を得た。上記造粒粒子は、平均一次粒子径が200nmの一次粒子から形成され、平均二次粒子径が15μmであった。
(調製例8)第二の活物質粒子(B−3)の作製
水熱処理法によって合成したLiFePO4の乾燥粉末に、LiFePO4に対して導電性炭素材料として2重量%のアセチレンブラックと、水を添加し、固形分20重量%となるよう調製した。次いで直径1.25mmのジルコニアボールを用い、ボールミルによって分散処理し、スラリーを得た。続いて、日本ビュッヒ社の噴霧乾燥器ミニスプレードライヤーB−290を使用し、上記スラリーを125℃で噴霧乾燥し、一次粒子の表層が導電性炭素層で被覆された、LiFePO4微粒子の造粒粒子を得た。上記造粒粒子は、平均一次粒子径が300nmの一次粒子から形成され、平均二次粒子径が15μmであった。
(調製例9)第二の活物質粒子(B−4)の作製
水熱処理法によって合成したLiFePO4の乾燥粉末に、導電性炭素の前駆体となる有機物として5重量%のスクロース水溶液を添加し、さらに固形分20重量%となるまで水で希釈し、これらをディスパーで予備混合することにより混合物を得た。上記スクロース水溶液の添加量は、焼成後の炭素量が5重量%となるように調製した。次いで、上記混合物を、ギンセン社の超音波分散機GSD300RCVPを使用し、滞留時間10分で分散処理することによってスラリーを得た。続いて、日本ビュッヒ社の噴霧乾燥器ミニスプレードライヤーB−290を使用し、上記スラリーを125℃で噴霧乾燥し、溶媒を除去して造粒粒子の粉末を得た。その後、得られた粉末を、窒素雰囲気下、800℃で10時間焼成することによって、一次粒子の表層が導電性炭素層で被覆された、LiFePO4微粒子の造粒粒子を得た。上記造粒粒子は、平均一次粒子径500nmの一次粒子から形成され、平均二次粒子径が50μmであった。
(調製例10)第二の活物質粒子(B−5)の作製
水熱処理法によって合成したLiFe0.5Mn0.54の乾燥粉末に、導電性炭素の前駆体となる有機物として5重量%のスクロース水溶液を添加し、さらに固形分20重量%となるまで水で希釈し、これらをディスパーで予備混合することにより混合物を得た。上記スクロース水溶液の添加量は、焼成後の炭素量が5重量%となるように調製した。次いで、上記混合物を、ギンセン社の超音波分散機GSD300RCVPを使用し、滞留時間10分で分散処理することによってスラリーを得た。続いて、日本ビュッヒ社の噴霧乾燥器ミニスプレードライヤーB−290を使用し、上記スラリーを125℃で噴霧乾燥し、溶媒を除去して造粒粒子の粉末を得た。その後、得られた粉末を、窒素雰囲気下、700℃で5時間焼成することによって、一次粒子の表層が導電性炭素層で被覆された、LiFePO4微粒子の造粒粒子を得た。上記造粒粒子は、平均一次粒子径200nmの一次粒子から形成され、平均二次粒子径が15μmであった。
【0170】
実施例および比較例で使用した導電性炭素材料、バインダー、増粘剤を以下に示す。
<導電性炭素材料>
・デンカブラックHS−100(電気化学工業社製、アセチレンブラック、以下「HS−100」と略記する。)
<バインダー>
・KFポリマーW#7200(クレハ社製、フッ化ビニリデン単独重合体、以下「W#7200」と略記する。)
・ファインパウダー30−J(三井・デュポンフロロケミカル社製、ポリテトラフルオロエチレン60%水系分散体、以下「30−J」と略記する。)
<増粘剤>
・#1120(ダイセルファインケム社製、カルボキシメチルセルロース、以下「CMC」と略記する。)
<リチウム二次電池電極形成用組成物、電極及びリチウム二次電池>
(実施例1)
1.リチウム二次電池電極形成用組成物の調製
導電性炭素材料としてHS−100を5.6部と、合成例(1)で得た分散剤10部(固形分換算で2部)と、溶媒として水85部とをミキサーに入れて混合した。その混合物に、第一の活物質粒子(A−1)50部と、第二の活物質粒子(B−1)50部と、バインダーとして、30−J6部とを加え、それらを混合することによって、リチウム二次電池電極形成用組成物を調製した。なお、上記組成物において、上記第一の活物質粒子(A−1)は、平均一次粒子径が200nmであり、平均二次粒子径が2μmのLiFePO4である。また、上記第二の活物質粒子(B−1)は、平均一次粒子径が200nmであり、平均二次粒子径が15μmの造粒されたLiFePO4である。
2.リチウム二次電池の電極の作製
上述のようにして得たリチウム二次電池電極形成用組成物を、集電体の上にドクターブレードを用いて塗布し、塗膜を形成した。上記集電体は厚さ20μmのアルミ箔とした。その後、上記塗膜を減圧加熱乾燥して、乾燥塗膜からなる合材層を形成することにより、電極サンプルを作製した。上記組成物の塗布量は、膜厚計(Nikon社製DIGMICROMH−15M)を用いて合材層の厚みが60μmとなるように調整した。
二次電池電極形成用組成物の塗布量を変えた以外は、上記方法と同様にして、合材層の厚みが90μmおよび120μmの電極サンプルをそれぞれ作製した。さらに、各電極サンプルについて、ロールプレスによる圧延処理を行い、合材層の密度が2.0g/ccとなるように調整した。
3.リチウム二次電池の作製
上述のようにして作製した電極を、直径16mmに打ち抜き作用極として使用し、コイン型電池を作製した。具体的には、上記作用極と、金属リチウム箔の対極と、上記作用極及び対極の間に挿入されるセパレーター(多孔質ポリプロピレンフィルム)と、電解液とからなるコイン型電池を作製した。上記電解液としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1:1(体積比)の割合で混合した混合溶媒にLiPF6を1Mの濃度で溶解させた非水系電解液を使用した。上述のコイン型電池の作製は、アルゴンガスで置換したグロ−ブボックス内で行った。
(実施例2)
1.リチウム二次電池電極形成用組成物の調製
導電性炭素材料としてHS−100を5.6部と、合成例(1)で得た分散剤5部(固形分換算で1部)と、溶媒として水55.7部とをミキサーに入れて混合した。一方、#1120をディスパーを用いて水に溶かし、CMC3重量%水溶液を作製した。そして、上記混合溶液に、第一の活物質粒子(A−1)50部と、第二の活物質粒子(B−1)50部と、増粘剤としてCMC水溶液(固形分換算で1部)33.3部と、バインダーとして、30−J6部とを加え、それらを混合することによって、リチウム二次電池電極形成用組成物を調製した。なお、上記組成物において、第一の活物質粒子(A−1)は、平均一次粒子径が200nmであり、平均二次粒子径が2μmのLiFePO4である。また、上記第二の活物質粒子(B−1)は、平均一次粒子径が200nmであり、平均二次粒子径が15μmの造粒されたLiFePO4である。また、上述のようにして得た組成物を使用し、実施例1と同様にして、電極サンプルと、コイン型電池を作製した。
(実施例3〜41、比較例1〜9)
表2−1〜表2−3に示す材料および条件を適用したこと以外、全て実施例1と同様にしてリチウム二次電池電極形成用組成物を調製した。また、それぞれ調製した組成物を使用し、実施例1と同様にして、電極サンプルと、コイン型電池を作製した。
【0171】
【表2】
【0172】
【表3】
【0173】
【表4】
【0174】
(*)表に記載した分散剤及び増粘剤の量は、組成物中の活物質の全重量を基準とした重量%である。
比較例8及び9における第一の活物質(A−3*)は、粉砕工程を経て調製された粒子である。
<各種評価>
上述の実施例及び比較例で作製した組成物、電極、コイン型電池について、以下に記載する方法に従い、各特性を評価した。それぞれの評価結果を表3−1及び表3−2に示す。
(組成物の安定性)
上記実施例及び比較例で調製した各リチウム二次電池電極形成用組成物を40℃で保管し、固形物の凝集、沈降、及び溶媒との分離といった現象について観察した。判定は、目視によって行い、以下の基準に従い、評価した。通常、C以上の評価であれば、実用上問題のないレベルである。
(評価基準)
A:三週間以上、固形物の凝集、沈降、及び溶媒との分離といった現象が見られなかった。
B:二週間から三週間の間に、固形物の凝集、沈降、及び溶媒との分離といった現象が見られた。
C:一週間から二週間の間に、固形物の凝集、沈降、及び溶媒との分離といった現象が見られた。
D:一週間以内で固形物の凝集、沈降、及び溶媒との分離といった現象が見られた。
(電極の柔軟性)
上記実施例及び比較例で作製した各電極サンプルを短冊状にして集電体側を直径2mmの金属棒に接するように巻きつけた。巻きつけ時に起こる電極表面のひび割れの状態について、目視観察によって判定した。ひび割れが起こらないものほど、柔軟性が良いことを意味する。評価基準は以下のとおりである。通常、C以上の評価であれば、実用上問題のないレベルである。
(評価基準)
A:ひび割れなし。
B:極一部ひび割れが見られる。
C:部分的にひび割れが見られる。
D:全体的にひび割れが見られる。
(剥離強度、密着性)
上記実施例及び比較例で作製した、合材層の膜厚が90μmの電極サンプルに対して、ナイフを用いて電極表面から集電体に達する深さまでの切込みを入れた。上記切込みは、1mm間隔で縦横それぞれ10本形成し、これらによって碁盤目の切込みが形成された。この切込みに対して粘着テープを貼り付けて直ちに引き剥がし、活物質の脱落の程度を目視判定によって評価した。評価基準は以下のとおりである。通常、C以上の評価であれば、実用上問題のないレベルである。
(評価基準)
A:剥離なし。
B:極一部剥離が見られる。
C:部分的に剥離が見られる。
D:半分以上の部分で剥離が見られる。
(電池特性)
上記実施例及び比較例で作製した各コイン型電池について、充放電装置(北斗電工社製SM−8)を用い、充放電測定を行った。使用する活物質がLiFePO4の場合は、充電電流1.2mAにて充電終止電圧4.2Vまで定電流充電を続けた。電池の電圧が4.2Vに達した後、放電電流1.2mAで放電終止電圧2.0Vに達するまで定電流放電を行った。これらの充電・放電サイクルを1サイクルとして5サイクルの充電・放電を繰り返し、5サイクル目の放電容量を初回放電容量とした。
【0175】
次に、5サイクル目までと同様に充電を行った後、60℃恒温槽にて120時間保存後に、放電電流1.2mAで放電終止電圧2.0Vに達するまで定電流放電を行い、初回放電容量に対する保存後の放電容量の変化率(%)を算出した。数値が100%に近いほど電池特性が良好であることを示す。表3−1及び表3−2に示した結果は、以下の基準に従って評価した結果である。
(評価基準)
A:変化率が95%以上。特に優れている。
B:変化率が90%以上、95%未満である。実用上問題のないレベルである。
C:変化率が80%以上、90%未満である。使用可能なレベルである。
D:変化率が80%未満である。実用上問題あり、使用不可なレベルである。
【0176】
【表5】
【0177】
【表6】