(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基体の前記反射板が配置されている面からの前記反射板の高さTと、前記基体の前記金属膜に対向する面から前記反射板が配置されている面までの厚みdとの関係は、d≦T≦10dを満たす、請求項1〜6のいずれか一項に記載の分析チップ。
前記基体の前記金属膜に対向する面から前記反射板が配置されている面までの厚みは、0.1〜10.0mmの範囲内である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の分析チップ。
【背景技術】
【0002】
臨床検査などにおいて、タンパク質やDNAなどの微量の被検出物質を高感度かつ定量的に検出することができれば、患者の状態を迅速に把握して治療を行うことが可能となる。このため、微量の被検出物質を高感度かつ定量的に検出できる分析装置が求められている。
【0003】
被検出物質を高感度に検出できる装置として、表面プラズモン励起増強蛍光分光法(Surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy)を利用する表面プラズモン励起増強蛍光分析装置(以下「SPFS装置」ともいう)が知られている。
【0004】
SPFS装置では、プリズムなどからなる誘電体と、誘導体上に形成された金属膜と、金属膜上に形成された反応部(例えば被検物質を捕捉する抗体などの捕捉体、すなわちリガンドを含む層)とを有する分析チップを使用する。例えば、金属膜上に被検出物質を含む検体を提供して、被検出物質を反応部で捕捉させ(1次反応)、捕捉された被検出物質をさらに蛍光物質で標識させる(2次反応)。この状態で、金属膜で全反射するように誘電体を介して金属膜に励起光を照射すると、エバネッセント波および金属膜からの表面プラズモンの共鳴によって増強された電場が発生し、それによって、被検出物質を標識する蛍光物質が効率よく励起される。したがって、金属膜上に被検出物質が存在する場合は、蛍光物質から放出された蛍光が光センサーで検出される。このように、SPFS装置は、蛍光を検出して、被検出物質の存在またはその量を検出する。
【0005】
通常、SPFS装置では、蛍光の検出感度を向上させるために、分析チップと光センサーとの間に集光レンズが配置される。しかしながら、集光レンズは高価であるため、集光レンズを使用すると、SPFS装置の製造コストが増大してしまう。また、集光レンズを使用すると、蛍光検出時の焦点位置の調整が煩雑になるという問題もある。さらに、集光効率を向上させる観点からは集光レンズを分析チップにできるだけ近接させることが好ましいが、集光レンズと分析チップを接触させることはできないため、集光効率を十分に向上させることができないおそれもある。
【0006】
このような問題点を解消できるSPFS装置用の分析チップとして、集光機能を有する分析チップが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の分析チップでは、反応部の上に配置された基体の上面(光センサー側の面)に、蛍光を反射させるための溝が形成されている。この分析チップは、集光機能を有しており、反応部から放出された蛍光の一部を光センサーに向けて溝の内面で反射させることができる。したがって、特許文献1に記載の分析チップを使用することで、集光レンズを有しないSPFS装置であっても効率よく蛍光を検出することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の分析チップには、製造コストが大きいという問題がある。すなわち、特許文献1に記載の分析チップでは、蛍光を反射させるための溝を形成するために基体の厚みを厚くする必要がある(例えば数mm程度)。基体の厚みを厚くすると、基体の製造に必要な材料(樹脂)の量が多くなる。また、基体の厚みを厚くすると、溶融樹脂が固化するまでの時間が長くなるとともに、溶融樹脂が固化する時に生じるヒケ量の制御が困難になる。これらの理由により、特許文献1に記載の分析チップでは、製造コストが増大してしまう。
【0009】
また、特許文献1に記載の分析チップでは、反射面が溝の内面のみであり、内面で反射できずに透過した光が散乱してしまうため、検出光の強度をより高めるという目的に照らし合わせてみても、集光機能として未だ効率的とはいえない場合があった。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、SPFS装置用の分析チップであって、集光機能を有し、かつ製造コストを低減することができる分析チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、分析チップの基体の厚みを薄くするとともに、基体の上面に蛍光を反射させるための反射板を配置することで、上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の分析チップに関する。
【0013】
[1]表面プラズモン励起増強蛍光分析装置に用いられる分析チップであって、一方の面に励起光が照射されることにより電場を増強するための金属膜と、前記金属膜の他方の面上に配置され、増強された電場により蛍光物質を励起して蛍光を放出させるための反応部と、前記金属膜の他方の面上に配置され、前記金属膜と共に流路を形成し、蛍光物質から放出された蛍光を透過可能な材料で形成された基体と、を有し、前記反応部は、前記流路内に配置されており、前記基体の前記金属膜に対向する面の反対側の面には、前記反応部から放出されて前記基体を透過した蛍光の一部を反射させる反射板が、前記反応部の中心を通り、かつ前記金属膜に対して垂直な直線の周囲に、前記金属膜に対して垂直方向に突出して配置されている、分析チップ。
[2]前記反射板の前記反応部の中心を通り、かつ前記金属膜に対して垂直な直線側の内面および前記内面の反対側の外面の表面粗さRaは、0.1〜500nmの範囲内である、[1]に記載の分析チップ。
[3]前記内面は、凹面である、[1]または[2]に記載の分析チップ。
[4]前記内面は、前記金属膜から離れるに従って前記反応部の中心を通り、かつ前記金属膜に対して垂直な直線から離れるように、前記直線に対し傾斜しており、前記直線を含む断面における前記直線と前記内面とのなす角度は、0.5〜10°の範囲内である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の分析チップ。
[5]前記反射板を構成する前記材料の屈折率は、1.4〜1.8の範囲内である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の分析チップ。
[6]前記外面上には、反射膜が配置されている、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の分析チップ。
[7]前記基体の前記反射板が配置されている面からの前記反射板の高さTと、前記基体の前記金属膜に対向する面から前記反射板が配置されている面までの厚みdとの関係は、d≦T≦10dを満たす、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の分析チップ。
[8]前記基体の前記金属膜に対向する面から前記反射板が配置されている面までの厚みは、0.1〜10.0mmの範囲内である、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の分析チップ。
[9]前記反射板の厚みは、0.1〜5.0mmの範囲内である、[1]〜[8]のいずれか一項に記載の分析チップ。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、集光機能を有し、かつ製造コストを低減することができる、SPFS装置用の分析チップを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
本発明に係る分析チップは、金属膜を有し、SPFS装置に装着された状態で使用される。SPFS装置に装着された分析チップの金属膜上に、例えば、被検出物質を含む検体を提供すると、被検出物質が金属膜上に捕捉され、その後被検出物質を標識化する蛍光物質を提供すると、捕捉された被検出物質は蛍光物質で標識される。あるいは、被検出物質を含む検体に予め被検出物質を標識化するための蛍光物質を提供し、蛍光物質で標識化された被検出物質を含む検体を金属膜上に提供すると、蛍光物質で標識化された被検出物質が金属膜上に捕捉される。この状態で、金属膜で全反射するように反対側から金属膜に励起光を照射すると、エバネッセント波と表面プラズモンとの共鳴により、増強された電場が発生する。この電場によって、被検出物質を標識した蛍光物質が励起される。したがって、金属膜上に被検出物質が存在する場合は、蛍光物質から放出された蛍光が観察される。SPFS装置は、蛍光を検出して、被検出物質の存在またはその量を検出する。
【0018】
上述したように、分析チップは、SPFS装置に装着された状態で使用される。そこで、SPFS装置について先に説明し、その後に本発明の一実施の形態に係る分析チップについて説明する。
【0019】
(SPFS装置の構成)
図1は、SPFS装置の一例の構成を示す模式図である。
図1に示されるように、SPFS装置100は、光源110、第1光センサー120、フィルター160および第2光センサー170を有する。SPFS装置100には、本発明の一実施の形態に係る分析チップ130が装着されている。
【0020】
光源110は、励起光b1を分析チップ130の金属膜132に向かって照射する。励起光b1は、金属膜132で全反射されて反射光b2となる。光源110は、分析チップ130内の所定の点を中心に回動可能であり、金属膜132に対する励起光b1の入射角θ1を変えることができる。光源110の種類は、特に限定されない。光源110の例には、ガスレーザー、固体レーザーおよび半導体レーザーが含まれる。たとえば、励起光b1は、波長200〜1000nmのガスレーザー光または固体レーザー光、あるいは波長385〜800nmの半導体レーザー光である。
【0021】
第1光センサー120は、分析チップ130を挟んで光源110の反対側に配置されており、反射光b2を検出する。第1光センサー120は、反射光b2を受光するために、励起光b1の入射角θ1に応じて、分析チップ130内の所定の点を中心に回動可能である。
【0022】
フィルター160は、分析チップ130と第2光センサー170との間に配置されている。フィルター160は、第2光センサー170による蛍光検出の精度および感度の向上に寄与する。フィルター160は、例えば、光学フィルターやカットフィルターなどである。光学フィルターの例には、減光(ND)フィルターやダイアフラムレンズなどが含まれる。カットフィルターは、外光(装置外の照明光)や励起光b1の透過成分、迷光(励起光b1の散乱成分)、プラズモン散乱光(励起光b1を起源とし、分析チップ130表面の付着物などの影響で発生する散乱光)、各部材の自家蛍光などのノイズ成分を除去する。カットフィルターの例には、干渉フィルターや色フィルターなどが含まれる。
【0023】
第2光センサー170は、分析チップ130から放出され、フィルター160を透過した蛍光b3を検出する。第2光センサー170は、例えば、超高感度の光電子増倍管や、多点計測が可能なCCDイメージセンサなどである。
【0024】
(分析チップの構成)
次いで、本発明の一実施の形態に係る分析チップ130について説明する。本実施の形態では、分析チップ130は、プリズム131を有している。
【0025】
図2および
図3は、本発明の一実施の形態に係る分析チップ130の構成を示す図である。
図2Aは、分析チップ130の斜視図であり、
図2Bは、長軸方向に沿った分析チップ130の断面図である。
図3は、短軸方向に沿った分析チップ130の断面図である。
【0026】
図1および
図2A,Bに示されるように、分析チップ130は、プリズム131、金属膜132、反応部133および基体134を有する。
【0027】
プリズム131は、励起光b1に対して透明な誘電体からなる。プリズム131は、入射面135、反射面136および出射面137を有する。入射面135は、光源110から出射された励起光b1をプリズム131の内部に入射させる。反射面136は、プリズム131の内部に入射した励起光b1を反射させる。反射面136で反射した励起光b1は、反射光b2となる。この後説明するように、反射面136には、金属膜132が形成されている。出射面137は、反射光b2をプリズム131の外部に出射させる。プリズム131の形状は、特に限定されない。本実施の形態では、プリズム131の形状は、台形を底面とする柱体である。この場合、台形の一方の底辺に対応する面が反射面136であり、一方の脚に対応する面が入射面135であり、他方の脚に対応する面が出射面137である。プリズム131の材料の例には、樹脂およびガラスが含まれる。プリズム131の材料は、屈折率が1.4〜1.6の範囲内であり、かつ複屈折が小さい樹脂であることが好ましい。
【0028】
金属膜132は、プリズム131の反射面136上に形成されている。金属膜132に所定の入射角度で励起光b1を照射することにより、表面プラズモン(粗密波)およびエバネッセント波の共鳴によって電場が増強される。金属膜132の材料は、表面プラズモン共鳴を生じさることができれば特に限定されない。金属膜132の材料の例には、金、銀、アルミニウム、銅、および白金からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と、これらの金属の合金とが含まれる。特に、金は、酸化されにくく、かつ表面プラズモンによる電場増強が大きくなることから、金属膜132の材料に適している。
【0029】
金属膜132の厚さは、特に限定されず、電場増強効果の観点から材料に応じて適宜設定すればよい。たとえば、材料として金、銀、銅または白金を使用した場合には、金属膜132の厚さは、5〜500nmの範囲内が好ましく、20〜70nmの範囲内がより好ましい。また、材料としてアルミニウムを使用した場合には、金属膜132の厚さは、5〜500nmの範囲内が好ましく、10〜50nmの範囲内がより好ましい。また、材料として上記金属の合金を使用した場合には、金属膜132の厚さは、5〜500nmの範囲内が好ましく、10〜70nmの範囲内がより好ましい。金属膜132の厚さが上記範囲内であれば、表面プラズモンが発生しやすい。なお、金属膜132の大きさ(縦×横)は、特に限定されない。
【0030】
金属膜132の形成方法は、特に限定されない。金属膜132の形成方法の例には、スパッタリング法、蒸着法(抵抗加熱蒸着法、電子線蒸着法など)、電解メッキ法、無電解メッキ法などが含まれる。薄膜形成条件の調整の観点からは、スパッタリング法および蒸着法が好ましい。
【0031】
反応部133は、金属膜132の2つの面のうち、プリズム131が配置されていない面(金属膜132の他方の面:表面)上に配置されている。反応部133は、被検出物質を捕捉するための1次抗体を含み、被検出物質を捕捉する。1次抗体に捕捉された被検出物質は、蛍光物質で標識された2次抗体により蛍光標識される。このような状況において、反応部133は、金属膜132に励起光b1が照射されることにより生じる増強された電場により蛍光物質を励起して、蛍光b3を放出させる。
【0032】
たとえば、反応部133は、1次抗体を結合させたSAM膜(Self-Assembled Monolayer:「自己組織化単分子膜」ともいう)または高分子材料膜である。これらの膜の一方の面には、1次抗体が結合されている。また、これらの膜の他方の面は、直接または間接に金属膜132の表面に固定されている。SAM膜の例には、HOOC−(CH
2)
11−SHなどの置換脂肪族チオールで形成された膜が含まれる。また、高分子材料の例には、ポリエチレングリコールやMPCポリマーなどが含まれる。
【0033】
基体134は、金属膜132の2つの面のうち、プリズム131が配置されていない面(金属膜132の他方の面;表面)上に、反応部133を覆うように配置された略板状の透明部材である。基体134の金属膜132に対向する面(裏面)には、流路溝138が形成されている。基体134は、例えば、接着剤による接着や、レーザー溶着、超音波溶着、クランプ部材を用いた圧着などにより金属膜132またはプリズム131に接合される。本実施の形態では、基体134は、金属膜132に接合されることにより、金属膜132と共に流路を形成する。基体134の金属膜132に対向する面から反射部133が配置されている面までの厚みは、例えば0.1〜10.0mm程度である。
【0034】
基体134は、流路溝138に加えて、流路溝138の一端に形成された円柱状の第1貫通孔140と、流路溝138の他端に形成された円柱状の第2貫通孔141とを有する。流路溝138は、開口部が金属膜132により閉塞されることで流路となる。また、第1貫通孔140および第2貫通孔141は、それぞれ、流路への注入口143および流路と液溜部147との連通口144となる。注入口143の内面には、弾性体材料で形成された接続部145(シール部材)が配置されている。接続部145には、ポンプ148に繋がったピペット146を接続することができる。また、連通口144の開口部の周囲には、上面に微細な空気孔を有する液溜部147が配置されている。液溜部147は、基体134に対して着脱可能である。
【0035】
ピペット146は、ポンプ148の駆動による内圧の変化に対して変形しない程度の剛性を有していればよい。本実施の形態では、ピペット146の材料は、ポリプロピレンである。また、ポンプ148は、所定量の液体を吐出または吸引することができる。本実施の形態では、ポンプ148は、シリンジポンプである。ポンプ148は、ピペット146の内部に貯留した被検出物質を含む検体や洗浄液などを含む各種試薬液を流路内に送液する。
【0036】
検体の種類は、特に限定されない。検体の例には、血液や血清、血漿、尿、鼻孔液、唾液、便、体腔液(髄液、腹水、胸水)、これらの希釈液などが含まれる。また、検体に含まれる被検出物質の例には、核酸(一本鎖もしくは二本鎖のDNA、RNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、PNA(ペプチド核酸)、ヌクレオシド、ヌクレオチドまたはそれらの修飾分子)、タンパク質(ポリペプチドまたはオリゴペプチド)、アミノ酸(修飾アミノ酸を含む)、糖質(オリゴ糖、多糖類または糖鎖)、脂質、またはこれらの修飾分子、複合体などが含まれる。被検出物質は、具体的には、AFP(αフェトプロテイン)などのがん胎児性抗原や、腫瘍マーカー、シグナル伝達物質、ホルモンなどである。
【0037】
基体134の材料には、成形性(転写性、離型性)が良いこと、透明性が高いこと、紫外線および可視光に対する自家蛍光性が低いこと、などが要求される。このため、基体134の材料は、透明樹脂が好ましい。基体13442の材料として使用される樹脂の例には、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン66、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリイソプレン、ポリエチレン、ポリジメチルシロキサンおよび環状ポリオレフィンが含まれる。高屈折率の観点からは、ポリカーボネートが好ましい。また、基体134の製造方法は、特に限定されないが、製造コストの観点からは金型を用いた射出成形が好ましい。
【0038】
本実施の形態の分析チップ130は、基体134の表面(上面)に反射板149を有することを一つの特徴とする。反射板149は、基体134の金属膜132に対向する面の反対側の面(表面)に、金属膜132に対して略垂直方向に突出するように配置されている。また、反射板149は、反応部133の中心を通り、かつ金属膜132に対して垂直な直線L(
図3参照)の周囲に配置されている。なお、反射板149は、直線Lを取り囲むように配置されていてもよいし、直線Lの周囲の一部のみに配置されていてもよい。本実施の形態では、直線Lを挟んで対向するように、一対の平板状の反射板149が配置されている。反射板149は、反応部133から放出され、基体134を透過した蛍光b3の一部を第2光センサー170(直線L側)に向けて反射させることができる。
【0039】
反射板149の材料は、特に限定されず、基体134の材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。反射板149の材料の例は、基体134の材料と同じである。空気と反射板149との屈折率差を大きくして蛍光b3の反射効率を向上させる観点からは、反射板149を構成する材料の屈折率は、1.4〜1.8の範囲内が好ましい。なお、本実施の形態では、反射板149は、基体134と同じ材料で基体134と一体として形成されている。反射板149および基体134の形成方法は、特に限定されないが、樹脂の射出成形による一体成形により形成することが好ましい。
【0040】
前述のとおり、本実施の形態では、一対の反射板149の形状は、いずれも平板上である。したがって、反射板149の内面150(直線L側の面)および外面151(内面150の反対側の面)は、いずれも平面である。内面150および外面151の表面粗さRaは、特に限定されないが、蛍光b3の反射効率を向上させる観点からは0.1〜500nmの範囲内が好ましい。
【0041】
反射板149の内面150および外面151は、基体134の表面に対して垂直であってもよいし、傾斜していてもよい。本実施の形態では、反射板149の内面150は、金属膜123(基体134の上面)から離れるにつれて、直線Lから離れるように傾斜している。直線Lを含む断面における直線Lと内面150とのなす角度は、0.5〜10°の範囲内である。このようにすることで、蛍光b3を第2光センサー170に向けて効率よく反射させることができ、結果として蛍光b3の集光効率を高めることができる。
【0042】
反射板149の外面151には、蛍光b3を反射するための反射膜が形成されていてもよい。この場合、反射膜は、外面151の一部にのみ形成されていてもよいが、通常は外面151の全面に形成される。反射膜は、例えば金属膜である。金属膜の材料の例には、Al、Cr、Agなどが含まれる。これらの金属は、高い反射率を得ることができるため好ましい。反射膜の形成方法は、特に限定されないが、例えば蒸着法である。
【0043】
反射板149の基体134の表面からの高さ(基体134の反射板149が配置されている面からの反射板149の高さ)Tと、基体134の一方の面(流路溝138の部分を除いた裏面)から他方の面(表面)までの厚み(基体134の金属膜132に対向する面から反射板149が配置されている面までの厚み)dとの関係は、d≦T≦10dを満たすことが好ましい。すなわち、反射板149の高さTは、基体134の厚みdの1〜10倍であることが好ましい。このようにすることで、基体134の厚みを薄くすることができ、基体134の蛍光b3が透過する面(表面および裏面)を精度良く形成することができる。なお、反射板149の高さTが高すぎると、反射板149が他の光学素子(フィルター160など)に接触してしまうおそれがあるため、好ましくない。
【0044】
一方、反射板149の厚みをむやみに厚くすると、反射板149内に透過してきた蛍光の吸収や散乱などによる消衰を招くことになるため好ましくない。反射板149の高さTと反射板149の厚みd2との関係は、d2≦Tを満たすことが好ましい。また、反射板149の厚みは、製造上や取り扱い上で破損を生じない程度に薄くすることが好ましく、具体的には0.1〜5.0mmの範囲内であることが好ましい。特に、反射板149の厚みが上記の範囲内であれば、反射板149による蛍光の吸収や散乱による蛍光の損失を極力抑えることができる、これにより、反射膜を内面150に形成しない場合であっても、反射板149の内面150による反射機能に加えて、外面151を反射面として利用することができる。結果的に、第2光センサー170の集光効率を向上させることができる。さらに、外面151に反射膜を形成すれば、非常に簡易な構成であるにも関わらず、発生した蛍光をほとんど散逸することなく第2光センサー170に集光させることが可能となる。
【0045】
前述のとおり、本発明に係る分析チップ134は、SPFS装置100に装着されて使用される。本実施の形態のSPFS装置100を用いた分析では、まず、流路に被検出物質を含む可能性がある検体と、蛍光物質で標識された2次抗体を含む試薬液とを順番に送液する。液体の送液は、ポンプ148を駆動して行う。反応部133に固定されている捕捉体(1次抗体)に被検出物質を確実に結合させるため、また捕捉体に捕捉された被検出物質に2次抗体を確実に結合させるため、ポンプ148を駆動して、検体および試薬液をそれぞれ流路内で往復させる。検体および試薬液は、ピペット146、流路(流路溝138)および液溜部147を往復する。なお、検体および試薬液を事前に混合して、被検出物質と2次抗体を予め結合させた状態で、液体を流路に送液してもよい。これにより、被検出物質が蛍光物質で標識される。
【0046】
次いで、励起光b1が金属膜132に対して特定の入射角θ1(
図1参照)で入射するように、光源110から分析チップ130に励起光b1を照射する。これにより、金属膜132内に粗密波(表面プラズモン)が生じる。表面プラズモンとエバネッセントが共鳴すると、反射光b2の光量が減少する。よって、第1光センサー120において反射光b2を検出することで共鳴角を知ることができる。
【0047】
そして、この共鳴により増強された電場により、反応部133上に捕捉された被検出物質を標識する蛍光物質が効率良く励起され、蛍光b3が放出される。
【0048】
図3は、分析チップ130の短軸方向の断面における蛍光b3の光路図である。なお、
図3では、蛍光b3の光路を示すためにハッチングを省略している。
【0049】
図3に示されるように、蛍光b3は、反応部133から各方向に放出され、基体134を透過する。金属膜132に対して垂直な直線Lに対する角度が小さい光線(蛍光b3)は、フィルター160を介して第2光センサー170に到達する。一方、直線Lに対する角度が大きい光線(蛍光b3)は、このままでは第2光センサー170に到達することはできない。しかしながら、本実施の形態の分析チップ130では、直線Lに対する角度が大きい光線(蛍光b3)は、反射板149の内面150または外面151で反射され、フィルター160を介して第2光センサー170に到達することができる。したがって、SPFS装置100が集光レンズを有していない場合であっても、効率よく蛍光b3を検出することができる。
【0050】
以上のように、本実施の形態の分析チップ130によれば、反応部133から放出された蛍光b3を効率よく検出することができるので、極微量の被検出物質を高感度かつ高精度に検出することができる。また、基体134を薄く成形することができるため、分析チップ130を高精度かつ低コストで製造することができる。
【0051】
なお、上記実施の形態では、基体134に流路溝138が形成された分析チップ130について説明したが、分析チップ130の構成は特に限定されない。特に図示しないが、基体は、スペーサーおよび基体本体を有していてもよい。この場合、スペーサーは、金属膜132の面上に配置され、流路形状の貫通孔を有する。また、基体本体は、スペーサーの金属膜132に対向する面の反対側の面上に配置され、第1貫通孔140および第2貫通孔141を有し、流路溝138を有していない。金属膜132、スペーサーおよび基体本体は、これらを順番に積層することで、流路を形成する。
【0052】
また、上記実施の形態では、板状の反射板149を有する分析チップ130について説明したが、反射板149の形状は特に限定されない。たとえば、
図4A,Bに示されるように、反射板149の内面150は、直線Lに対する凹面であってもよい。この場合、反射板149の外面151は、直線Lに対する凹面であってもよいし(
図4A参照)、平面であってもよい(
図4B参照)。このように、反射板149の内面150を直線Lに対する凹面(湾曲面)とすることで、蛍光b3の集光効率をさらに高めることができる。
【0053】
さらに、
図4C,Dに示されるように、反射板149は、平面視したときに、反応部133を囲むように配置されていてもよい。この場合、反射板149の平面視形状は、円形であってもよし(
図4C参照)、矩形であってもよい(
図4D参照)。このように、反射板149の平面視形状が反応部133を囲むように配置されている場合、
図4A,Bに示したように反射板149が分割して配置されている場合と比較して、蛍光b3の集光効率をさらに高めることができる。